2021.01.26  「東京五輪、中止を」    

 アスリートの緊急提案    

伊藤三郎 (ジャーナリスト)

  
 「2021 迎春」という大きな活字のわきに縦書きで「アスリートとして不本意ですが……」――元日届いた賀状の一枚にハッとした。その下には横書きで「奈落に潰(つい)える前に五輪再考」「選手村はコロナ対策基地に」と。
 
 差出人は私の古巣「朝日新聞」同期の記者仲間、馬上康成氏(82歳)。というよりも、五輪競技、ボートの世界では知る人ぞ知る元東大ボート部の有力選手で、シングル・スカル(一人漕ぎボート)部門で「全日本2位」(1960年)という堂々たる戦績を持つ一流アスリートである。
 その馬上氏が、いまコロナ禍が深刻化する中、予定通りこの7月に開催するのかどうか、政局をも左右する微妙な問題に「再考」を求めた裏には、それなりの葛藤があったことを「アスリートとして不本意ですが」という一言に感じた。
 かく言う筆者も大学時代にテニスの「全日本学生」に出場した「インカレ選手」。おなじアスリートの一人として「不本意ながら」も五輪中止を主張せざるを得ない馬上氏の切なさを受け止め、私を含めて少なからぬスポーツ愛好者たちも賛同する、と直感した。そこで早速、「五輪再考」提案の心を馬上氏にあらためてmail で質問したところ、「コロナ禍がここまで拡がってきた以上、東京五輪開催は潔く断念すべきでしょう」という明快な言葉に続けて、以下のような懇切な返答があった。

 「選手村など五輪施設をコロナ対策に振り向ければ医療危機の急場を救うことにもなります。これは新型コロナウイルスが日本に上陸した時点でやっておくべきでした。そもそも五輪招致を汚い手(IOC=国際五輪委員会=委員の買収)で勝ち取ったという疑惑は色濃く残り、初めから真の祝福に値しない宴でもありました」
 馬上氏はさらに、コロナ禍が始まった2020年初め以来、安倍、菅両政権通じてコロナ対策のイロハを忘れてきたことを指摘し、「疫病退治」に辣腕を振った後藤新平・元東京市長を引き合いに出してこう続ける。
「後藤が瀬戸内海の小島を検疫所とすることによってコレラなどの厄介な疫病を封じ込めるのに成功した故事は広く知られています。同じ手法でこんどの新型コロナの感染爆発を抑え込むことができたはずです。幸か不幸か、高層マンション型の東京五輪選手村は新型コロナ感染者を隔離するにはうってつけの海辺に既に完成しています。その活用を阻み続け、五輪にあやかることを企んだ為政者たち、“五輪族”の罪は計り知れないものがあります」
 
 後藤は、ブログ情報などによると、東京市長や内務大臣なども歴任した明治・大正時代の伝説的政治家で、著名な社会学者・鶴見和子、哲学者・鶴見俊輔姉弟(ともに故人)の祖父に当たる。その後藤がまだ内務省衛生局に務めた若い官僚時代、20万人に余る日清戦争の帰還兵たちに蔓延したコレラ、腸チフス、赤痢菌の国内持ち込みを防ぐため、瀬戸内の広島県似島(にのしま)に2ヶ月の突貫工事で検疫所を完成させて国内への2次感染を抑えた。その英断が国際的な評価を得たと言う。
 
 そう言えば、冒頭に紹介した馬上氏の賀状には「コロナ対策基地……」の下に「検疫・隔離、病棟、研究本部、医療スタッフ養成センター」の具体案を示すメモも。ここまで読めば賢明な読者はすでにお気付きだろう。「早く感染者を見つけて隔離するというウィルス感染予防の常識をなぜ厚労省はやらないのか」というノーベル生理学・医学賞受賞者(2018年)、本庶佑(ほんじょたすく)・京大特別教授の怒りの発言(「テレビ朝日」1月18日)と馬上氏の提案はここで軌を一にする。たかが年賀状というなかれ、この葉書1枚には馬上氏の長年の研究と熟慮の成果が集約されていたのだ。
 
 ところで馬上氏は、2年前の「全日本マスターズ・シングルスカル(80歳以上の部)」で金メダルを獲得するなど、いまもれっきとした現役アスリート。余技としてテニスも愛好し、私事だが数年前まではシニア大会ダブルス戦で私のパートナーをお願いしたこともあった。そんな関係で、馬上氏の『五輪中止』提案を私のテニス仲間たちにもmail で知らせたところ、「一刻も早く(菅首相に)五輪辞退宣言をさせるよう馬上氏にエールを」(男性、80歳)など、馬上提言への賛成の声が続々と。

 そう言えば東京五輪組織委員会の森喜朗会長が先週12日の会見で五輪準備について「淡々と予定通り進めていく」と語る一方で「3月にかけて難しい判断が求められる」(朝日新聞)と微妙な表情も見せた。政界では森会長の言う「難しい判断」が、もし「中止」となれば政局激動が、いまや政界の常識とか。これは東京五輪が政権維持の思惑がらみのイベントであることの何よりの証だろう。
 菅首相を昔の大政治家と比較すべくもないが、コロナ危機がここまで深まった今となっては、「東京大会に限らず次回のパリ大会(2024年予定)も含めて、全世界でコロナ禍が収まるまで五輪を凍結、その間に今の五輪のあり様を根本から考え直す機会に」という馬上氏の直言を即刻受け入れてはどうか。コロナ対策で何を言っても「国民に届かない」と批判され、支持率急落の菅首相には、もうそれしか道がないのでは。

2021.01.25 菅首相と二階幹事長は〝刎頸の交わり〟

       権力の座はともに去らなければならない
   
広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 衆参両院本会議での質疑応答が終わった。野党各党代表はそれぞれ鋭い質問を浴びせたが、菅首相の答弁はほぼ「ゼロ回答」に近かった。既定方針を柔軟に修正するだけの余裕がないのか、それとも絶対多数の与党勢力に胡坐(あぐら)をかいているのか、とかく強行姿勢だけが突出した答弁だった。首相には想定問答集にない(臨機応変の)答弁をする能力がないことはもはや周知の事実だが、原稿を棒読みするだけでは国民にアピールすることは到底できない。官房長官時代の記者会見と同様に、菅氏には目前の相手しか眼中になく、その背後に国民の目や耳があることに考えが及ばないのだろう。

 その中で異彩を放ったのが、二階自民党幹事長の代表質問だった。政党代表として討論会(例えば、NHK日曜討論)などには滅多に姿を見せない二階幹事長が1月20日の衆院本会議の代表質問に立ち、使い古された「庶民政治家」「地方の代表」などの言葉を駆使して、てらいもなく菅首相を(天まで)持ち上げたのだ。もはや「自助・共助・公助、そして絆」といった持論を語れなくなった菅首相に対して、二階氏は「地方の実情を理解している政治家の代表。地方に対する哲学、思いを」と促し、わざわざ〝政治哲学〟という言葉まで使って、「哲学」を語る宰相のイメージを演出しようとしたのである。

 しかし、対する首相答弁は、「現場の声に幅広く耳を傾け、国民目線で政策を進めてきました。まずは(コロナ)感染を収束させ、にぎわいのあるまちを取り戻すべく全力を尽くします」という決意表明程度のものだった。問う方も答える方も凡そ〝政治哲学〟には程遠い人物だから、「哲学問答」などできるはずがない。なのに、無理な演出をしようとするので、こんなお粗末な茶番劇が繰り返されることになる。安倍長期政権以降、日本の保守政治家の資質が劣化に劣化を重ねていることを象徴するような最低のやりとりだった。

 私がもうひとつ注目したのは、第3次補正予算に関するやり取りだ。菅政権は、緊急事態宣言再発令の前に補正予算案を決定しており、その中には感染拡大防止対策の予算が十分に計上されていない。その代り、感染収束後の景気対策として「GoToトラベル事業」の延長に約1兆円、「国土強靭化計画」などに約3兆円の(不要不急とも言える)巨額の予算が盛り込まれているのである。両事業は、菅首相と二階幹事長の〝刎頸の交わり〟を象徴する肝いりの事業だ。二階幹事長は両事業を予算化することの見返りに菅首相の実現に注力し、菅氏はそれに応えることで権力の座を得たからである。

 野党の枝野氏(立民)や小池氏(共産)は、両事業の予算を感染拡大防止対策に振り替えるよう要求したが、菅首相は頑として応じなかった。菅・二階両氏の権力基盤(利権同盟)の要である両事業の予算を削ることは、菅政権の不安定化につながるおそれがあり、首相は両事業予算を死守するしかなかったからだろう。権力(利権)掌握のためには変幻自在の行動をとる二階氏にとって、両事業の予算削減に易々と応じるような菅首相は「御用済み」となりかねないからである。

 巷間、二階幹事長は「利権政治の手練れ」として名を馳せてきた。これまで自民党内の政権抗争の隙間を縫って幹事長ポストを確保し、「水面下のキングメーカー」として暗躍してきたからだ。だから、今回も「別れたら次の人」といった噂が広まるのだろうが、新型コロナウイルスの感染拡大は並大抵の惨事ではない。100年に1度と言われるような究極の危機であり、国内政治はおろか国際政治の枠組みまでが根元から変革を迫られるような大惨事なのだ。利権政治の手練れ如きが対処できる局面ではないのである。

 コロナ対策よりも利権政治を優先する菅首相と二階幹事長は、国民不在の政策の誤りによって政権の座をともに去らなければならない。〝刎頸の交わり〟の刎頸とは、文字通り「ともに首を刎ねられる」ことを意味する。二階氏は、菅首相を引きずり降ろして自分だけが生き残ろうとすることなど到底許されない政治情勢だと知るべきだ。すでに、世論は菅政権を完全に見放している。最近の世論調査の中から、1月8~11日実施の時事通信調査の結果を見よう。

 時事通信調査は、大手メディアでは珍しく全国18歳以上の男女を「個別面接方式」で実施している。今回調査の対象者数は1953人、有効回収率は62.0%だった。コンピューターが無差別で発生させた番号に電話をかける「RRD方式」が一般的になった現在、個別面接方式調査は貴重な存在であり、とりわけ政党支持率に大きな違いが出ることが特徴となっている。例えば、1月9、10両日にRRD方式で行われた共同通信調査では、自民党支持率が41.2%(前回41.5%)となっているのに対して、その前後の時事通信調査では23.7%(前回24.7%)と倍近い差が出ている。私は自分の調査経験からも、個別面接調査の方がより本音に近い意見が聞けると思っているので、かねがね時事通信調査に注目してきた。結果は以下の通りだ。

〇菅内閣を「支持する」34.2%(前回43.1%、以下同じ)、「支持しない」39.7%(26.6%)
〇内閣を支持する理由(複数回答)、「他に適当な人がいない」16.4%、「首相を信頼する」8.0%、「印象が良い」6.4%
〇支持しない理由(同)、「期待が持てない」23.5%、「リーダーシップがない」22.6%、「首相を信頼できない」15.4%
〇新型コロナウイルス感染拡大をめぐる政府対応について、「評価する」18.5%、「評価しない」61.4%
〇全国で一時停止している政府の観光支援策「GoToトラベル」について、「継続すべきだ」29.1%、「中止すべきだ」54.9%
〇政党支持、自民党23.7%(24.7%)、公明党3.9%(3.3%)、立憲民主党3.1%(4.1%)、共産党1.7%(1.5%)、日本維新の会1.6%(1.8%)、社民党0.8%(0.4%)、国民民主党0.5%(0.9%)、れいわ新選組0.2%(0.6%)、NHKから自国民を守る党0.1%(0.2%)、「支持政党なし」62.8%(60.3%)

 時事通信調査結果の特徴は、(1)内閣支持率と不支持率が大きく逆転したこと、(2)内閣を支持する理由が「他に適当な人がいない」といった消極的理由が最大なのに対して、支持しない理由には「期待が持てない」「リーダーシップがない」「首相を信頼できない」などの明確な理由が並んでいること、(3)菅政権のコロナ対策とGoTo事業に対して明確な「No」が突き付けられていること、(4)「保守岩盤層」といわれる自民党支持層がそれほど多くないこと――などである。

 それからもうひとつ付け加えるとすれば、志位共産党委員長が半年後に迫った東京五輪開催の中止を迫ったのに対して、菅首相は「コロナワクチンの接種を前提としない万全の感染拡大防止対策を講じており、中止や延期の意向は全くない」と断言したことだ。だがその後、事態は急展開している。共同通信は1月16日、米有力紙ニューヨーク・タイムズ(1月15日電子版)が、新型コロナウイルスの影響で今夏の東京五輪の開催見通しが日々厳しさを増しており、第2次大戦後、初の五輪開催中止に追い込まれる可能性があると伝えた。同紙は日本と米国、欧州主要国で感染拡大が続き、国際オリンピック委員会(IOC)らの間で安全な五輪開催は不可能との声が出始めたと指摘。ディック・パウンドIOC委員(カナダ)が開催に「確信が持てない」と述べたことなどを挙げた。

 衝撃だったのは、1月22日のロイター通信で、英タイムズ紙が与党幹部の話として、日本政府は新型コロナウイルス感染症流行のため東京五輪を中止せざるを得ないと非公式に結論付けた――との報道が明らかになったことだ。日本は他の先進国ほど新型コロナの打撃が深刻ではなかったが、このところの感染者急増を受け、政府は外国人の入国を原則禁止し、東京など主要都市に緊急事態宣言を再び発令している。また、最近の世論調査では、選手団の入国による感染拡大への懸念などから国民の約8割が今夏の五輪開催を望んでいないとの結果が示された。タイムズ紙は、こうした世論を背景に、日本政府は将来的な東京五輪開催の可能性を残した上で、今夏の五輪中止を発表することで面目を保つ道を模索していると伝えたのである。

 この報道に対して1月22日、日本政府は「東京大会に係る本日の報道について」と題したコメントを発表し、東京五輪の開催について「本日、日本政府が東京大会の中止を非公式に結論付けたとの旨の報道がございましたが、そのような事実は全くございません」と真っ向から否定した。いずれが本当か知らないが、事態は間もなく明らかになる。泣いても笑ってもこの3月には東京五輪開催あるいは中止の判断に迫られるからである。だが、情勢は限りなく暗くて絶望的だ。菅首相と二階幹事長の〝刎頸の交わり〟は遠からず終止符を打たれるに違いない。
2021.01.23 <米国;トランプからバイデンへ>(下)

選挙完勝のバイデン政権発足 「議事堂占拠」事件が追い風に
―「トランプ党」は追いつめられ動揺

           
金子敦郎(国際ジャーナリスト、元共同通信ワシントン支局長)

 
 民主党バイデン政権が20日発足した。勝った選挙を盗まれたという虚偽主張を続けるトランプ氏は議事堂の就任式に姿を見せず、終日、大統領の引き継ぎはなかった。トランプ支持派の議事堂襲撃事件を受けて新たなデモ厳戒態勢がとられ新大統領を祝う観衆もなし。異例の就任式となった。民主党は大統領、上院、下院の3大選挙を制したがいずれも大接戦。トランプ・共和党は強固な支持基盤を守ったが、長い選挙戦の締めくくりになった議事堂襲撃で世論の厳しい批判を浴びている。新政権には追い風だ。

 虚偽発言と事実
 4年前のトランプ大統領就任式に集まった観衆は、前任オバマ大統領の時の180万人の3分の1 (30〜40万人)だったと2枚の空中写真付きで報じられた。トランプ氏は激怒し150万人はいたと主張して絶対に譲らなかった。ホワイトハウスはこれを「もう一つの真実」と説明した。トランプ政権はこの虚偽発言で始まり、選挙に勝ったのは自分だとする史上最大ともいうべき虚偽発言が引き起こした混乱の中で任期を終えた。
 「トランプの4年」で痛めつけられた民主主義の回復に取り掛かるバイデン民主党のテーマは「トランプの真実」に対して「普通の事実」を対置することになるだろう。しかし、米メディの報道によると、「トランプ党」と化していた共和党にとっても「トランプの事実」が重い荷物になってきた。上下両院合同会議でバイデン当選に反対した同党議員(上院7人、下院147人)に対して党内からの批判が高まり、一部の議員は出身州から謝罪や辞職を求められている。
 ワシントン・ポスト紙電子版やニューヨーク・タイムズ紙、AP、ロイターなどの通信社報道によれば、経済界からはこれらの議員への政治献金を停止する有力企業が出ている。ワシントン・ポスト紙が30社に取材したところ、20 社がすでに停止、10社が検討中。この30社が2015 〜20 年に拠出した政治献金の合計は3700万ドル(約40億円)に上っていた。
 民主党多数の下院は、議事堂襲撃事件を扇動した責任を追及するためトランプ弾劾訴追を決め、近く上院で審議が始まる。共和党からも10人が賛成した。トランプ氏は1 年前にウクライナ疑惑で弾劾訴追を受けていて、2回弾劾訴追を受ける大統領は史上初めてだ。
 残り200人余りの中には、責任追及には賛成でもいろんな理由で弾劾に反対した議員もいる。上院での弾劾成立には3分の2 の賛成が必要。民主党50人全員が賛成として、同じ50人の共和党から17人が賛成しないと弾劾は成立しないので、これは難しいとの見方が一般的だ。  
 だが、共和党上院のトップ、マコネル院内総務は19日、公式スピーチの中で、トランプ氏が議事堂襲撃を扇動したと発言、同党議員の中には過去のトランプべったり発言の「真意説明」につとめる例も出ている。企業の献金停止は上院の弾劾審議にジワリと影響が及んでいるようだ。
 トランプ氏の「バイデン不正投票」の証拠としてもっともらしく伝えられているのが、多くの州で導入された投票の自動集計システムの話。これを開発したドミニオン社というIT企業が反米左翼政権の続くベネズエラというのがミソで、トランプ票が自動的にバイデン票に振り替えられたとされる。ネタ元はトランプ陣営の数人の法律顧問で、いずれも名うての陰謀論者。
 選挙実務に当たった州当局者や同システムを開発したIT企業は、はっきり否定してきた。最近、ドミニオン社は情報源とされる法律顧問の一人に1300万ドル(約 1365億円)の賠償金支払い求める訴訟を起こした。うわさを記事として事実のごとく報道してきたFOXニューなどのトランプ応援メデイアは慌てて訂正報道や謝罪を流している。

 議事堂デモ、賛否分かれ目は暴力  
 ワシントン・ポスト紙電子版によると、白人人至上主義や極右の組織のメンバーではない普通の市民も多数、議事堂乱入に参加している。彼らはトランプ大統領がそうしろと言ったので議事堂デモに加わったとか、大統領に招待されたのできた、などと発言をしている。トランプ氏の「バイデン当選を阻止するために議事堂へ」という呼びかけが大きな影響力(扇動力)を持っていることが改めて分かる。彼らのこうした発言を含めて、トランプ氏が議事堂占拠を直接指示したのかどうか、の判断にはなお捜査が必要という。
 世論調査は議事堂攻撃の暴力を80%が非難しているが、トランプ氏に責任ありとみる数は減って、全体では約60 %、トランプ氏支持者になると約30 %になる。この80 %、60%、30 %という数字の間に、トランプ支持勢力が今後どこへ行くのかをうかがうカギが潜んでいるのではないか。バイデン不正投票を信じて議事堂デモに参加しても、暴力による議事堂占拠には反対という人が少なからずいるはずだ。こういう人たちがFOXニュースのトランプ発言訂正ニュースを見れば大きな衝撃を受けるだろう。
 大統領は訴訟に対する免責を含めて大きな特権に守られている。トランプ大統領はこの特権を有効に使い、敵を作り出しては激しい攻撃を加え、一方で自分の成果を誇大に宣伝する虚偽発言を駆使して支持固めをしてきた。選挙戦ではSNS を通したその種の発言がフェイスブック、ツイッターなどプラットフォーム側から、誤解を広める、混乱を助長するなどの警告を受けたり、削除されたりの厳しい規制を受けるようになった。
 SNS 規制がどう展開していくかはこれからの大きな問題だが、大統領特権を失ったトランプ氏の「虚偽発言」パワーがこれによって大きく制約を受けることは間違いない。

 支持伸ばす民、停滞のトランプ
 トランプ氏は大統領選挙でバイデン候補に敗れたとはいえ、一般得票で4年前を大きく超える7400万票を獲得、依然として強固な支持基盤に支えられていることを実証した。バイデン当選は認めないという異常なキャンペーンを最後まで貫いたのは、この政治基盤に自信を持ち、それを維持して4 年後の大統領選挙に再挑戦するためとの見方が有力だ。十分にあり得るシナリオではある。しかし、こうした見方には「トランプ・トラウマ」からくるトランプ過剰評価が潜んでいるように思える。
 2016年にはトランプ当選を予想できた人はほとんどいなかった。大統領になってからも世論調査の支持率が5割を超えたことはなかった。だが、同時にその大統領としての特異な言動にもかかわらず、支持率はじわじわと上がって3 割ラインを超え、概ね4割半ばを上下した。大統領選では勝敗を決定付けた中西部と南部の6ないし7 州のバイデン、トランプ両候補の競り合いはきわどい戦いだった。しかし、その数字を多角的に読むと、民主党クリントン=バイデン対トランプの実質的な得票および支持率の差は2016 年と比べると、じわじわと広がってきたことがわかる。それを示す数字を拾ってみる。
 今回選挙の特徴は、両候補の争いが極度に先鋭化したことに加えて、コロナ禍の下の投票となり、感染防止のために郵便投票の比率が高まった。これによって総投票数および投票率が飛躍的に高まった。投票率は2016 年の59.2 %から2020年66.7%に。66.7%は近代に入っての最高記録。これに人口の自然増も加わり、トランンプ候補以上にバイデン候補の得票数もこれまでの大統領選挙の最多記録である。

▽2016年
得票数  クリントン65,844,610  トランプ62,979,636    票差 2,864,974
得票率(%)        48.1%          46.0%     得票率差 2.1ポイント

▽2020年
得票数   バイデン81,283,098     トランプ74,222,958     票差  7,060,140
得票率         51.3%               46.8%         得票率差 4.5ポイント

▽2016年比増加票数  15,438,464           11,243,323

▽共和党は少数党
21世紀に入って以来6回の米大統領選挙の両党候補の得票率とその差
          民主党               共和党
 2000年     ●ゴア   48.4        ◯ブッシュ  47.9 -0.5 (ポイント)
  04年     ●ケリー  48.3         ◯ブッシュ  50.7       2.4
  O8年       ◯オバマ  52.9        ●マケイン  45.7       7.2
 12 年     ◯ オバマ  51.1              ●ロムニー   47.2       3.9
     16年     ●クリントン48.1           ◯トランプ    46.0  - 2.1
  20 年         ◯バイデン  51.3              ●トランプ    46.8  4.5

▽注目点
➀ 得票率の差が2016年(民主党はクリントン)の2.1から4.5に広がった。
➁ 総得票数も287万から700万へと、バイデン候補が差を広げている。
➂ 投票率の高まりと2016-2020年の人口増(推定で1,000万人)により、両候補を合わせて2,700万票近く得票を伸ばしたが,ここでもバイデン候補の伸び率がやや高い。
④ トランプ氏と民主党候補(クリントンとバイデン)との差、つまり米国民の支持は民主党の方が着実に増やしている。
➄ 21世紀に入ってからの6回の大統領選挙の勝敗は3-3とタイ。しかし、共和党の3回の勝利のうち2回は一般投票で敗れている。大統領選挙人による投票で最終決定するという民主主義時代に沿わない時代遅れの制度のいたずらによる。特に2016年のトランプ勝利はその感が強い。
➅ オバマ氏の高い人気が目立つ。
➆ バイデンの勝利はオバマに次ぐ圧勝だった。

トランプの政治生命
 今回まで6回の大統領選挙の結果は,民主、共和両党はともに46%前後の固定的な支持層を持っていて、残る10 %足らずの中間層の奪い合いの結果で勝敗が決まることを示している。
 こうした政治構造から判断すると、トランプ氏が4年後に強力な大統領候補としてカムバックする可能性は否定できない。だが、バイデン当選をあくまで拒絶し、議事堂襲撃・占拠への非難を浴びながらの退場、そして年齢-米国民主主義が米国の運命のかかる強大な権力をトランプ氏に再び託すことがあるとは思えない。 (1月20日記)


 




























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2021.01.22 日本政府は核禁条約への対応を転換せよ
  
  世界平和七人委がアピール
                  
岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 核兵器を全面的に禁止する核兵器禁止条約が1月22日に発効したが、それに先立つ同20日、世界平和アピール七人委員会が「核兵器禁止条約への日本政府の対応の根本的転換を求める」と題するアピールを発表した。

 アピールはまず、日本政府がこの条約に参加していないばかりか、日本が毎年、国連総会に提出している核兵器廃絶に向けた決議案でもこの条約に言及せず、しかも、その決議案への賛成国が年々減っている事実を指摘し、今や、日本政府の「核兵器に対する方針の根本的見直しが不可欠である」としている。

 アピールは、さらに、日本政府が、菅首相とバイデン米大統領との初の日米首脳会談の共同声明に、米国が核兵器で日本の防衛に当たることを明記するよう米側に求めているとの報道を引いて、「これでは、菅首相が言う『立場の異なる国々の橋渡し』との整合性がとれず、世界の潮流に完全に背をむけることになる」としている。

 こうした主張を踏まえて、アピールは「私たちは、核兵器をいかなる条件のもとでも明白に否定する日本国民の大多数の考えに沿うよう、日本政府が締結国会議へのオブザーバー参加をおこない、核兵器禁止条約の署名・批准に向けて核政策を根本から転換することを求める」と述べている。

 世界平和アピール七人委は、1955年、ノーベル賞を受賞した物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器禁止、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発してきた。今回のアピールは144回目。
 現在の委員は武者小路公秀(国際政治学者)、大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者)、池内了(宇宙物理学者)、池辺晋一郎(作曲家)、髙村薫(作家)、島薗進(上智大学教授・宗教学)の7氏。

アピールの全文は次の通り 
核兵器禁止条約への日本政府の対応の根本的転換を求める
 
 核兵器禁止条約は51ヵ国の批准を得て1月22日に発効する。日本では、この条約成立のために、被爆者を中心にして多くの国民が、各国のNGOや核実験被曝者と力を合わせて努力を重ねてきた。それにもかかわらず、日本政府は不参加を表明している。
国連総会への日本政府提出の核兵器廃絶に向けた決議案を見れば、2017年の条約採択後になっても決議案に核兵器禁止条約について記述することがなく、共同提案国数は年々減少し、2020年12月7日の採決を見れば、共同提案国は前年の半減以下となり、可決されたとはいえ、賛成国が10か国減少という結果になっている(1)。核兵器に対する方針の根本的見直しが不可欠である。
 さらに、菅義偉首相と就任後のバイデン新大統領との初の首脳会談で、日本政府が両首脳の共同声明に米国の核兵器で日本の防衛に当たることを明記するよう求める方向で調整に入ったことが1月3日に分かったと報じられている(2)。これでは、菅首相が言う「立場の異なる国々の橋渡し」との整合性がとれず、世界の潮流に完全に背をむけることになる。

 米国のバイデン新大統領は、オバマ政権の副大統領退任直前の2017年1月11日に「米国は核兵器のない世界を目指し核兵器の役割を減らす必要がある」と8年間の核政策を総括しているのである(3)。これでは日本政府が米国の新政権の足かせになる可能性を否定できない。
 ベルギーは北大西洋条約機構NATOのメンバーであり、国内に米国の核兵器が配備されているが、2020年10月1日に発足した7党連立政権が政策協定の中で、核兵器不拡散体制の強化方法と核兵器禁止条約が多国間核軍縮に如何なる新たな推進力を与える方法を調査することを決め、核・非核軍縮に努力することを確認した(4,5)。核の傘のもとにある国の核政策にも変化の兆しが表れ始めている。
 1月12日にノルウェー・ピープルズ・エイドが発表した『核兵器禁止モニター2020』には、世界各国の核兵器禁止条約との関係が列記されている(5)。日本については、第1条1e項(禁止活動を援助し、奨励し、又は勧誘すること)に違反しているとしているが、今のままでの締結国会議へのオブザーバー参加は国際的な立場から見ても可能であることが明記されている。
 私たちは、核兵器をいかなる条件のもとでも明白に否定する日本国民の大多数の考えに沿うよう、日本政府が締結国会議へのオブザーバー参加をおこない、核兵器禁止条約の署名・批准に向けて核政策を根本から転換することを求める。

註 
(1) 東京新聞 2020年12月8日 国連総会 日本提出核廃絶決議
https://www.tokyo-np.co.jp/article/73177 
(2) 産経新聞 2021年1月3日 《独自》「核の傘」日米共同声明に明記へ 首脳会談に向け、政府調整 - 産経ニュース (sankei.com)
(3)  中国新聞 2021年1月8日 核なき世界追求 バイデン氏言及 副大統領時の演説 新政権控え注目 | ヒロシマ平和メディアセンター (hiroshimapeacemedia.jp)
U.S. Vice President Joe Biden on Nuclear Security - Carnegie Endowment for International Peace 2017年1月11日
(4)ベルギー連立政権 連立協定「繁栄し、連帯し、持続可能であるベルギーのために」 2020年9月30日 「III 安全な国家」の「2 防衛」の中で、核兵器禁止条約を評価。協定全文 Pour une Belgique prospere, solidaire et durableは以下の報告書にある。
20200930 Rapport des formateurs def (bx1.be)
(5)  Nuclear Weapon Ban Monitor 2020 2021年1月12日
Nuclear Ban Monitor | Nuclear Weapons Ban Monitor

2021.01.21 主体性なきアメリカ依存では
――八ヶ岳山麓から(328)――

阿部治平 (もと高校教師)


 日本政府は、菅義偉首相と次期米大統領バイデン氏との初の首脳会談で、共同声明に「米国の核兵器で日本の防衛に当たること」を明記するよう求める方向で調整に入ったという(産経2021・1・4)。
 アメリカが核兵器を先制使用しないといえば、中国や北朝鮮がアメリカの核攻撃を警戒せず通常兵器で周辺国を攻撃できる、という安倍前首相の思い込みを、菅首相は引継いでいるようだ。

 正月3日の信濃毎日新聞「ジョセフ・ナイのワールド・インサイド」欄で、ナイ氏は「中国が増大する経済、外交、軍事力などを用いて、現状を変えようとする地政学的目標へつき進んでいる」「米国はかつて、中国が我々と同じように『責任ある利害関係国』となることを望んでいた。だが、習近平国家主席は、中国をより対立的な方向へと導いている」と中国を非難したのち、昨2020年12月7日にアーミテージ氏と共同で発表した第5次アーミテージ・ナイ報告書「2020年の日米同盟-グローバルな課題とともにある対等な同盟」に触れ、次のように述べている(信濃毎日2021・1・3)。
 「われわれの主張は、日本は日米同盟の中で指導的役割を果たしている、というものである。トランプ政権下で米国の外交方針が定まっていない間、日本は地域的な目標を設定し、自由貿易協定や多国間協力を擁護し、地域の秩序を形成するために新たな戦略を実行してきた。これらの業績の多くは、安倍晋三首相によるものである。彼は、憲法第9条の再解釈を主導し、国連憲章の下での日本の集団的自衛権の行使を可能とした。そして米国を除く11ヶ国による環太平洋連携協定(TPP)を実現させた」
 「幸い安倍政権下で内閣官房長官を務めた菅義偉首相の下でも、この地域的リーダーシップの政策は続くであろう」
 ナイ氏は知日派として知られ、アーミテージ氏とともにカーター、クリントン両民主党政権の防衛・外交分野で重要な役割を果たした人物である。

 安倍政権は、アメリカの対中国政策に対応して、「日米共同の抑止力」を提唱し、強引に解釈改憲をすすめて自衛隊の海外派遣を「合法化」し、防衛対象を世界的課題や宇宙、サイバー空間に拡大した。たしかにこれはアメリカにほめてもらえる実績である。
 安倍氏はそのほかにも「戦後外交の総決算」をうたって北方領土問題や拉致問題の解決に意欲を示したが、領土問題ではロシアのプーチン大統領とは26回も会談したのに歯が立たず、拉致問題では北朝鮮の金正恩委員長には全く手が出なかった。安倍氏はナイ氏のいう「地域的リーダーシップ」を取ろうとしてASEAN諸国に対中国包囲網の構築を働きかけたが、失敗した。けれども、ナイ氏はこれを無視して彼を褒め、菅内閣に安倍路線を継承するよう求めているのである。

 私の印象をいうと、アメリカはニクソン・ショックとベトナム戦争敗北以後、緩やかに衰弱しだした。その後東欧・ソ連の社会主義体制が崩壊して、一人勝ち、「唯一の超大国」といわれた。愛国主義的アメリカ人の得意の絶頂期だった。湾岸戦争をやり、9・11の同時多発テロ事件ののちアフガニスタンにも攻め込んで、アメリカが世界にとって必要不可欠な存在であると示したかったのだが、結局中東に混乱と殺戮、破壊をもたらしただけだった。
 中国に対しては、ナイ氏も触れているが、アメリカが誘導すれば中国は民主主義国家になると夢見て「関与政策」を遂行した。これが誤りだったと気づいたのは、ようやく21世紀も数年すぎてからのことである。
 片や中国は、アメリカをはじめ先進諸国に大量の留学生を送り込み、先端技術を獲得させ、ついには軍事力・技術力分野でアメリカに迫るところまで来た。間もなくGDP ではアメリカを追い抜くだろう。これに対してアメリカ人の間には、中国を実体より過大に見て、中国に首位の座を奪われることを恐れる傾向が生まれている。第5次アーミテージ・ナイ報告書が日本を「対等な同盟国」と持ち上げた背景はここにあると言っていい。

 では、日本の事情はどのようなものか。
 日本は敗戦後75年間アメリカに追随してきたから、日本人はこれが当たり前だと思っており、どうしてもアメリカ依存から抜け出すことができない。ならば、アメリカに頼り切って、中国と全面的にあらそうかといえば、そんな度胸はない。貿易額ひとつとっても日本は、中国貿易が全体の20数%を占める。これにアジア諸国をくわえると50%をはるかに上回るのに対して、アメリカは10数%に過ぎないのである。

 米中対立、北朝鮮の核ミサイル装備、日韓関係の深刻化などアジア圏内に多くの不安材料を抱える中、現在の日本にとって最大の安全保障上の問題は米中の「軍事対立」である。それも尖閣海域ではない、台湾である。なぜなら台湾統一こそ、中共で最大の国家的課題だからである。
 いまのところ中国は台湾海峡の中間線を越えて戦闘機を飛ばしたり、東沙諸島に圧力を加えたりしているものの、台湾軍との武力衝突は避けている。だが、何らかの事情で大漢民族主義が高揚したり、深刻な国内矛盾が生じたりすれば、そのとき、台湾への武力侵攻が生まれる(たとえば1979年のベトナム侵攻)。もちろんアメリカは台湾を見捨てることはできない。このときアメリカは確実に日本の参戦を促すだろう。在日米軍基地は中国のミサイルの的となる。

 台湾危機を避けるために日本は今から何をしなければならないか。
それは日米同盟の強化でも、中国への接近でもない。わたしは、中国を加えた東アジア・東南アジアの経済、政治上の多国間協調を構築することだと考える。もちろん日本は対米従属外交を多少とも修正しなければならないが、そうすることによって危機が迫るまえに、アジア諸国とともに米中間の有効な調停工作を行うことが可能になる。
 菅政権は、日本人の嫌中感情を利用して、安倍政権よろしく「自由で開かれたインド太平洋」構想という「中国包囲網」の構築を試みるかもしれない。だがアジア諸国は、すでにかなり中国に絡み取られていて、日本のいうことなど簡単には聞かない。中国は、2020年末に日本など15カ国で構成する「地域的な包括的経済連携(RCEP)に参加し、さらに環太平洋連携協定(TPP)への参加に強い意欲を示している。情勢を見越して、中国包囲網を突破しようとする戦略なのである。

 いまわが日本の国会で多数を占めるのは、対米依存にかたくなにしがみつく主体性なき党派である。アジアの多国間協調など夢のまた夢か―。(2021・1・15)
2021.01.20 <米国:トランプからバイデンへ>(上)
分断・混迷の中、バイデン政権スタート
「トランプとの戦い」新局面に


金子敦郎(国際ジャーナリスト、元共同通信ワシントン支局長)

 トランプ支持勢力の極右や白人至上主義グループによる米議会議事堂占拠事件の捜査が進むにつれて、選挙戦の敗北を受け入れずに政権移行を拒絶するトランプ勢力のクーデター未遂の様相が浮かび上がっている。だが、バイデン新政権阻止が可能だったとは思えず、追い込まれたトランプ氏の自爆行為だったと言えそうだ。トランプ氏の本質か改めて浮き彫りになり、得をしたのはバイデン氏と民主党である。20日には治安当局と州兵(米軍予備役)の厳重な警戒の中でバイデン政権がスタートする。トランプ政権の4 年で米国政治・社会の分断状況はとことん深まっている。米国はどこへ行くのだろう。米民主主義の「トランプとの戦い」は新局面に入る。

主役は極右・白人至上主義グループ
 1年にもおよぶ選挙戦を振り返ると、議事堂乱入・占拠事件はたまたま起こったのではない。選挙で負けても「不正選挙」と騒ぎ立て、バイデン当選を無効にして政権に居座るというトランプ「再選戦略」が行きつくところに行きついたものとみて間違いない。ワシントン・ポスト紙電子版などの報道によると、ワシントンD.C.検事局、連邦捜査局(FBI)を中心に捜査が行われていて、すでに約百人が訴追され、いずれ数百人にのぼる見通し。
 彼らの調べから分かったのは、議事堂乱入の主役は極右および白人至上主義の組織、トランプ氏を救世主に担ぐQAnonと名乗る陰謀論カルト集団だった。彼らは連邦捜査局(FBI)や治安・情報機関がテロ組織に指定している。トランプ氏は神の啓示を受けた大統領と信じるキリスト教徒グループもいた。父親や母親が逮捕されてびっくりする家族の話も多数報道されている。注目されたのは議事堂警察やニューヨーク警察州などの非番警官が数十人参加していたこと。白人警官の黒人を死にいたらせる暴力的取り調べが問題になっているが、その背景の一端だろう。

副大統領危うく逃れる
 トランプ氏は昨年末から6日のワシントン・デモは「荒っぽい」ものになると予告し、当日午前には支持者の集会で「盗まれた選挙」を取り戻す戦いために議事堂へ行進しようと呼びかけている。デモの参加者は議事堂への行進の目的が上下両院合同会議でバイデン当選が承認されるのを防ぐことであると知っていた。トランプ氏が事件を扇動したことは全体的な状況証拠としては明らかだ。しかし、個々の暴力行為にまでトランプ氏の責任が及ぶのか。これが捜査の焦点である。
 その両院合同会議は既に開会していた。デモ隊乱入で急遽中断、議員は避難用の部屋に退避したが、デモ隊はすぐ近くまで迫っていた。議会警察官の一人が乱入グループと睨み合いながら、避難場所からデモ隊を遠ざけるよう誘導しで助かったという。
 合同会議の議長は上院議長を兼ねるペンス副大統領で、トランプ氏は忠節に励んでいたペンス氏がバイデン当選を承認しないように議事を運ぶと思っていた。だが、ペンス氏はこの日の朝、憲法上それはできないとトランプ氏に伝えていた。デモ隊はペンス氏を拉致し、場合によっては殺害する積りだった。
 乱入者の一部が複雑な議事堂内の案内地図を持っていたとか、議会警察の警察官数人がデモ隊を握手で迎えて「ここ(議事堂)は今は君たちのものだ」と言ったなどの情報が流れている。複数の民主党議員は前日、何人もの人物が共和党議員やスタッフに案内されてコロナ禍で厳しく出入りが制限されている議事堂を訪問したのを目撃、事前の下見ではなかったかと捜査を要請している。
 米国では(民兵が)武器を持って自衛する権利が憲法で保障されていて、デモ参加の極右や白人至上主義の多くはライフル銃などで武装、弾薬類も相当量を市内に持ち込んでいた。
 首都ワシントンD.C.は特別に武器持ち込みを規制しているが、この日の抗議デモへ向けてSNSには「D.C.にいかにして武器を持ち込むか」という情報が飛び交っていた。その脅威はあっただろうが、黒人取り締まりには暴力的な警察が議事堂のバリケードをなぜ簡単に突破されたのかという声も上がっている。

州兵出動に5 時間
 最大の疑問は州兵(ワシントンD.C.予備役)の応援出動が大幅に遅れたことだ。議会警察の警察官は1400人。議会警察、D.C.警察、州兵を指揮する陸軍などの関係部局が数日前には応援体制の打ち合わせをしていた。当日の午後1時過ぎ、サンド議会警察署長はまずD.C.警察に応援要請、100人がすぐ駆け付けた。2時すぎに同署長は両院警備部長に州兵出動要請をするよう連絡。
 この州兵出動要請が両院事務局から始まり、D.C市、州兵司令部、陸海空海兵各軍、統合参謀本部、国防総省、ホワイトハウスなど指揮命令系統につながる各省庁の制服、私服の責任者のすべて(別室避難中のマコネル共和党上院院内総務とペロシ下院議長も含めて)のOKを取り終えて、応援州兵部隊が議会に到着するまでに5 時間を費やしたという。この間に乱入者たちは議事堂を占拠し続けた。
 州兵出動の大幅遅れの背後には縦割り官僚主義があるが、ホワイトハウスの混乱も大きな原因になった。デモ隊の議事堂への乱入で、ホワイトハウスのスタッフは慌てた。すぐに止めさせなければいけない。だが、トランプ氏はペンス副大統領から合同会議がバイデン当選を承認するといわれて怒り狂い、手が付けられない状態だった。
 ワシントン・ポスト紙電子版によると、補佐官たちが懸命にトランプ説得を続けて午後2時過ぎようやく、取り急ぎ大統領名のツイッターで「平穏な行動」を求めることを認めさせ、さらにトランプ氏自身が直接呼びかけるビデオの制作を急いだ。午後4時すぎビデオが流れた。トランプ氏はまず、議事堂を占拠しているデモ隊に「われわれは君たちを愛している、君たちは特別だ」と呼びかけてから、「家に帰ろう」と撤収を求めた。だが、すぐに自分のツイートで「圧倒的勝利が無礼かつ悪意を持って奪い取られた」なかでこの事態が起きていると彼らの行動を擁護。ツイート社はすぐこれを削除した。
 州兵部隊の出動を得て乱入デモをようやく排除するまでおよそ6時間、再開された両院合同会議がバイデン当選を承認したのは翌7日午前4時に近かった。これで20日には民主党のバイデン大統領就任が決まった。トランプ氏はこれは認めて、政権移行に協力する意向を表明した。しかし、バイデン氏を「国家の恥」といい、新大統領就任式には出席しないと明言した。トランプ氏は「癒しと和解の時がきた」とも述べたが、空々しい虚偽発言というほかないだろう。


「郵便投票は不正招く」➡「再選戦略」
 トランプ氏が民主党は大統領選挙を不正投票で勝とうとしていると言い出したのは昨年5月だった。コロナ禍の中での選挙となることが避けられなくなり、郵便投票が広く取り入れられる見込みになると、トランプ氏はすぐに「郵便投票は不正投票」に使われるといって反対を始めた。郵便投票は広大な国土の米国では多くの州で期日前投票に取り入れられて実績を積んでいる、直接投票と比べて郵便投票で不正投票が増えるというデータはない―などと経験を語る州の選挙実務者や政治学者の意見が広く報じられた。
 コロナ禍のもとでは民主党か共和党かの党派を問わず、安全で便利な郵便投票が増えることは予測できた。黒人やヒスパニックなど少数派は白人より投票率が低いので郵便投票は民主党を有利にする、いや白人高齢者の多い共和党にも同じ効果があるなど、様々な意見が交わされた。
 トランプ氏はこうした論争には見向きもせず、根拠を示すこともなく、郵便投票と(民主党の)不正投票を結びつける「虚偽発言」を繰り返すようになった。だが、トランプ氏はなぜか、共和党員にはなるべく直接投票するよう呼び掛けている。今思うとトランプ氏は、郵便投票は不正投票の民主党、直接投票は不正のない共和党-という色分けをしたのだと思われる(結果的には大統領選での郵便投票は民主党票の7割超、共和党票では2 割超と見事に分かれた)。
 トランプ氏が郵便投票と民主党の不正を結びつけるツイートを最初に流したのが20年5 月26日。ニューヨーク・タイムズ紙は同じ日、トランプ氏は大統領選挙で負けても不正選挙と主張して騒乱状態を引き起こし、戒厳令を発令するなどして選挙の無効化、あるいは再選挙に持ち込もうとしているとの記事を掲載した。
 こうした経緯をたどりながら、トランプ氏が虚偽発言を事実と思わせる異常な能力の持ち主であることと、トランプ氏と周辺の陰謀論者たちの存在を考えると、トランプ氏が次のような再選戦略(陰謀)を描いたとみてもおかしくない。
選挙に敗れる可能性に備えて、いや世論調査では終始バイデン氏にリードを許してきたことから多分、選挙では再選は難しいと覚悟して、早くから郵便投票、不正選挙、民主党を結びつけ、不正選挙の結果は受け入れないと宣言して「クーデターまがい」の強硬手段で政権を握りしめる。世論がそれを受け入れやすくするため虚偽発言を繰り返して地ならしを続ける。それから現在までの大統領選挙の経過はこの通りの展開になっている(『Watchdog21』2020年6月3 日、同19日、10月10日、11月2日拙稿で取り上げ)。

根拠なしの「不正選挙」
 11月3日大統領選挙の決戦場は「ラストベルト」。4年前はトランプが勝ったが、こんどはバイデン氏が取り返した。バイデン氏は7日勝利宣言、トランプ氏は大規模な不正投票があったとして、接戦州裁判所および最高裁を含む連邦裁判所にバイデン候補の得票無効を求める訴訟を起こした。しかし、州・郡・市政府の選挙担当および共和、民主両党代表が加わる選挙監視機関は、何回も再集計を行ったうえで選挙は適切に実施されたと確認、50件を超えた訴訟もすべて証拠が示されていないと却下された。
 米大統領選挙の投票結果をもとに当落を決定する各州代表の大統領選挙人による12月14日の投票でも、一般投票通りにバイデン氏当選が支持された。トランプ氏の訴訟の行方を待っていたマコネル共和党上院院内総務ら同党上院幹部もこれでバイデン当選を事実上受け入れた。トランプ氏はマコネル氏らに「裏切者」と怒りを投げつけ「不正投票」を正す戦いを続けると宣言した。
 1月20日の大統領就任式が迫ってきた。追いつめられたトランプ氏が最後の抵抗戦の舞台に選んだのが1月6日の上下両院の新議会合同会議だった。同会議には大統領選挙人が投じた投票用紙が密閉されて集められ、正式に開票・集計したうえで、その結果を新議会が承認する。これが米大統領選出の長い手続きの最後の日程で、通常なら新議会による新大統領お披露目の儀式である。

世論は分断のまま
 議事堂乱入・占拠事件の後の最初の世論調査がいくつか出ている。それによると、議事堂乱入について反対か支持か、またバイデン当選は不正によるのか否か、という重大な争点について、米国世論は依然、二つに割れたままである。
 米公共放送(PBS)の世論調査によると、「議事堂暴動」について88%が乱入者を非難、81%が今の分断状況を国の将来を不安にさせているとみているが、「暴動」についてトランプ非難は63%、トランプに責任なしが35%。大統領選挙でバイデン候補は正当に当選が64%、不正で当選が35 %。米国の民主主義は生き延びるが72%、生き延びられないが21%(10日発表)。
 ABC放送∕ワシントン・ポスト紙共同調査では、大統領選挙の後のトランプ氏の言動は無責任とみるのが66%、そう思わないが29%。バイデン氏当選は不正によるとのトランプ氏の主張について、はっきりした証拠はない62 %、証拠はある31%。これを共和党支持者だけみると、証拠あり65%、なし25 %となる。
 議事堂襲撃では、トランプ氏に大きな、あるいは相当な責任があるとみるのが全体では57%だが、共和党支持者の56%は全く責任なし、27 %はほんの少しの責任。選挙結果を覆そうとするトランプ氏を、共和党は支持し過ぎているとみるのが全体では52%だが、共和党支持者では54%がもっと支援すべきと答え、支持し過ぎは16 %にとどまった。
 大統領選挙で大量の不正投票が行われるという想定自体に現実味がないと思うが、いまだにトランプ支持者のほぼ8割がそれを信じている現実にも現実味がない。しかし、これが今の米国の現実のようだ(程度には違いはあっても、同じような状況が世界に広がっている)。
 選挙で勝ったのは自分だ。バイデン氏はそれを盗んだ。選挙を実施した人たち、捜査機関、司法関係者がそんな不正はなかったといっても私は受け入れない。バイデン大統領は認めない―トランプ氏をここまで駆り立てているものは何だろうか。トランプ氏は大統領には全権が与えられていると思っていたように見える。そうではないことを4年間で理解したようでもない。トランプ氏のような人物が最高権力を握ったとき、その乱用を効果的に防ぐ手立てが見つからない。民主主義はいかに脆弱かを学んだ。しかし、トランプ氏にストップをかけるのは民主主義しかないのだろう。トランプ政権が終わり、米民主主義の「トランプとの戦い」は新しい局面に入る。(1月18日記)

2021.01.19 菅政権が〝末期症状〟を呈している

強権・恫喝政治の行きつく先は懲役・罰金行政でしかない

広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 菅政権が〝末期症状〟を呈している。学術会議会員候補者6人の任命拒否に端を発した菅政権の強権・恫喝政治は、新型コロナ対策が悉く後手に回る中で、遂に懲役・罰金行政に行きついた。厚生労働省は1月15日、感染症の専門部会を開き、新型コロナウイルス対策として入院勧告を拒否した感染者に対して罰則を設ける案を示し、おおむね了承されたという。
 政府が与野党に示した感染症法改正案では、入院勧告に反した場合には「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」、保健所の調査を拒否したり、虚偽の申告を行ったりした場合には「50万円以下の罰金」などが想定されている(各紙、1月16日)。

 これに対し、医療系の136学会でつくる日本医学会連合はその前日1月14日、「新型コロナの感染者への偏見を防ぐ対策を講じず、罰則を設けることは倫理的に受け入れ難い」「個人が罰則を恐れて検査を受けなかったり検査結果を隠したりする恐れがあり、感染抑止がかえって困難になる」との緊急反対声明を出した。日本公衆衛生学会と日本疫学会も同日、罰則は適切でないとする声明を出した。学術会議会員候補者(人文社会系)の任命拒否問題ではなかなか動かなかった医学会も、菅政権の強権政治が自らの領域に及んでくるに至って、遂に立ち上がらざるを得なかったのだろう(同上、1月15日)。

 それにしても、菅首相の最近の失態(醜態)ぶりは目に余る。新型コロナの感染拡大で緊急事態宣言の対象区域を広げる1月13日の記者会見では、首相は肝心の県名を「福岡県を静岡県」と言い間違えたばかりか、会見の終わりまで言い間違えたこと自体に気づかなかった。麻生元首相の漢字の読み間違えは、国民の失笑(嘲笑)を買って早期退陣の引き金になったが、こちらの方はまだ実害が少なかった。それに比べて菅首相の言い間違えは深刻だ。緊急事態宣言の発令区域が該当する県から関係のない県になれば、当該区域住民の命と健康は守れない。首相がその政治責任を自覚していないとすれば、これはもう「付ける薬がない」ということになる。

 かくなる失態を曝しても平然としている(振りをしている)菅首相とは、いったいどういう人物なのか。最近、神戸の友人から送られてきた中野晃一上智大教授(政治学)の安倍・菅分析が面白かった(全国新聞ネット、2020年9月17日、12月22日)。少し長くなるが、さわりだけでも紹介しよう。

 「安倍は、2012年12月に民主党政権とともに二大政党制が崩壊した際に政権復帰を果たし、官邸支配と呼ばれる強権的な仕方で不都合な公文書の隠蔽、改ざん、廃棄までも自ら犯すほどに官僚制を掌握、操縦した(略)。森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題、検察幹部定年延長問題、カジノ汚職事件、河井夫妻による買収事件など枚挙にいとまがない数々のスキャンダルについて、法の支配をゆがめ、説明責任の放棄を繰り返しても、菅官房長官が『全く問題ない』『適切に対応している』『その指摘は当たらない』と言えば済んでしまう、新しい政治体制(レジーム)――言うなれば2012年体制――を築いてきたのである」
 「菅が安倍や二階によって後継首相に選ばれたのは、安倍内閣が倒れても安倍政権を存続させ、その取り組んできた体制変革を定着させるのに最適な人物だからにほかならない。安倍政権とそのミッションを引き継ぐ以外に当面存在基盤がない以上、まずは菅内閣が安倍内閣にとって代わっただけで、実態としては安倍政権がそっくりそのまま続くと言って差し支えない」
 「しかし実態は、老獪な二階が安倍や麻生らの一瞬の隙を突き、『菅総裁誕生』の流れを作ったに過ぎない。菅は、来年9月の任期切れで用済みとなる可能性が高いと見るべきである。なぜか。自民党の世襲政治である。1991年に就任した宮沢喜一以降、自民党総裁・総理はことごとく世襲議員であり、小渕首相が倒れたさなかに密室の談合で選ばれた森喜朗だけが例外である。2006年に安倍が小泉の後を継いで以降、自民党は単なる世襲ではなく、元首相の子か孫でなければ首相に就けないと思えるほどの『スーパー世襲政党』と化しているのである」

 「目下、東京地検特捜部の取り調べでけん制されている安倍にとって、菅は急場しのぎで留守を預からせただけで、使用人として見下しきっているのが実態だろう。事実、辞意表明直後に敵基地攻撃能力に関して談話を発表し、後任首相の手を縛ろうとした。このことだけでも常軌を逸しているが、辞任からわずか2カ月後の11月に衆院解散・総選挙について『もし私が首相だったら非常に強い誘惑に駆られる』とわざわざ言って注目を浴びた。永田町の常識で言えば、菅をよほどばかにしていなければ到底できることではない」
 「同じく元首相の孫で自身も元首相にて今や8年の長きにわたって副総理兼財務相として居座る安倍の盟友・麻生は、党内第2派閥を率いる(略)。80歳でもなおキングメーカーとして影響を保持しようと目論み、傲岸不遜で知られる麻生が、『たたき上げ』の菅を対等の人間として見ているとは到底考えられない」

 中野教授は、「菅は来年9月の任期切れで用済みとなる可能性が高い」と言っているが、菅退陣の時期はもっと早いのではないか。なぜなら、菅首相が政権維持(浮揚)のカギと見ている東京五輪開催が、新型コロナの感染拡大で急速にリアリティ(実現可能性)を失いつつあるからだ。すでに国民の大多数(7~8割)が東京五輪開催の「中止」「再延期」が妥当と判断しており、予定通り「実施すべき」とする世論は2割にも満たない。世論はすでに東京五輪から遠く離れており、国民の関心は新型コロナをいかに収束させるかに移っているのである。

 毎日新聞東京経済デスクの三沢耕平氏は、1月15日の「オピニオン・記者の目」で、コロナ禍の日本経済を立て直すには、「全てのGoToを即廃止し、給付金の支給による事業者支援に切り替えるべきだ。また、一部のアスリートから再延期を求める声が出始めた東京オリンピックについても今年の開催を返上し、医療崩壊を防ぐために奔走する関係機関への五輪予算の振り向けを真剣に検討する時期だ」と提言している。

 また、朝日新聞投書欄(1月15日)には、「五輪中止へ、都知事が先導して」と題する次のような都民の声が掲載されている。
 「小池さん、今こそ『都民ファースト』を掲げたリーダーの出番です。国際オリンピック委員会(IOC)などに働きかけてください。あなたの行動を多くの人が待っています。新型コロナウイルスの感染者が爆発的に急増し、まさにオーバーシュートの中、五輪は不要不急の最たるものとお思いになりませんか」
 「膨大な予算や人的資源は、医療の整備や困窮者のために使って下さい。その日の食べ物にも困り、寝る場所も確保できない人々の映像が毎日のように流れているのはご存じでしょう。皆が幸せにならなければ、世界的なスポーツの祭典を心から楽しむことはできないのです」

 安倍前首相の「使用人」にすぎない菅首相、そしてその後釜を狙う(と囁かれている)小池都知事にとっては、東京五輪の返上などは思いもよらないことだろうし、またそんなことを決断できるだけの器でもない。要するに、成り行き任せで小出しのコロナ対策を繰り返しながら、支持率低下とともに自滅していく道を歩いているだけだ。だが、国民にとって不幸なのは、菅政権の次が見えないことだ。菅政権の失策を批判するだけで、それに代わる政権構想を示すことができない野党は、誰も信用しない。口先だけの批判を並べることはもう止めて、今こそ「ポスト自民」の本格的な政権構想を示すべきときなのである。

2021.01.18 柳宗悦 (やなぎむねよし)に学ぶ
 韓国通信NO658
             
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 平和を愛する者は たえず微笑むだろう 
 怒号が何時何処で平和を齎(もたら)した場合があろうか

             柳宗悦『朝鮮とその芸術』-朝鮮人を想う より 

 3.1朝鮮独立運動直後の1919年5月、読売新聞で発表された「朝鮮人を想う」は、日韓併合に対する異議と独立運動への同情心にあふれている。当時の文化人としては異例と思える時局に対する抗議の一文である。憎悪と武力に酔いしれた日本が破綻したのはそれから25年後、柳宗悦が隣国への愛を訴えてから102年になる。

<韓国の裁判所の判決は非常識か>
 1月8日、韓国ソウルの地方裁判所は日本政府に対して元従軍慰安婦たちの賠償請求を認める判決を下した。コロナ、日本学術会議、桜を見る会の問題では寡黙な菅首相が素早い反応を見せた。首相は怒りをあらわに韓国政府に判決の却下を求め、徴用工問題と同様に「完全かつ最終的に解決済み」と従来の主張を繰り返した。
 両国関係は泥沼状態に陥ったとする見方が広がった。
 日本政府の対決姿勢に世論も呼応して、「またもや、韓国が無理難題を吹っかけてきた」「解決済みの話を蒸し返した」とあきれ顔の人が多い。
 最近、大切な隣国に対する感情的な反発がとみに増えたような気がする。日韓問題の底に一体何があるのか考え込んでしまう。

 1965年の「日韓条約」締結に至る過程で問題となった歴史認識の違いがいまだに尾を引いている。最近は「反韓」「嫌韓」「ヘイト」が幅を利かせる日本社会である。首相や閣僚たちの判を押したような「悪いのは韓国、正しいのは日本」発言。これではヘイトという火に油を注ぐようなもの。政治家たちの韓国・朝鮮に対する軽視が日韓関係をますますこじらせる。植民地支配を正当化する彼らの頭では徴用工たち、慰安婦たちの苦しみは理解できない。韓国から加害者が被害者のように振る舞うと批判されても返す言葉がない。

 ◇昨年10月、ベルリンの公園にある従軍慰安婦を象徴する「平和の像」の撤去を日本が求めた事件については本通信651号でとりあげた。ドイツまで巻き込み、日韓条約ですべて解決済みと被害者顔をしたが認められず、わが国は赤恥をかいた。
 ◇日米開戦とともに日系アメリカ人12万人余りが敵性市民として強制収容所に送られた。被害者たちの粘り強い訴えに、46年後の1988年にアメリカ政府は全員に公式謝罪とともに2万ドルの補償金を支払った。アメリカは腐っても民主主義国家である。「過ちては 改むるに 憚ること勿れ」を実践して見せた。

<実効性のない判決>
 日本政府に対して原告一人当たり1憶ウォンの支払いを命じた判決の実現性は極めて少ない。被告(日本政府)が裁判そのものを認めず、他国からの損害賠償に応ずる必要はない「主権免除」という国際法の常識を主張している。支払いに応ずれば解決するが、日本政府に支払う意思はない。だが判決は「主権免除」の概念を一蹴して従軍慰安婦たちの性奴隷にされた苦しみに対する償いを認め、初めて日本政府の責任を明らかにした画期的判決と原告側の代理人は評価する。

 裁判が韓国で行われたことに疑問を感じる人もいる。日本では日韓条約が壁になって、ことごとく敗訴したためやむなく韓国で提訴したという経緯がある。日韓条約で個人請求権が消滅したという主張は間違いだ。個人の損害賠償を認めていた締結当時の日本政府の見解を適用したなら日本で解決は可能だった。徴用工裁判でも同じことが言える。
 どのような解決が考えられるのか。政治と外交に疎い私の手に負える問題ではないが、私たちには性奴隷にさせられた人たちとどう向き合うか、改めて問われたのが今回の判決だった。何もなかったように傲慢に振る舞い、責任を問われると「すべて解決済み」一辺倒で逃れる政府に拍手喝采でもあるまい。

 奴隷制にまで遡り、非人道的な黒人差別解消を目指す「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動が世界に拡がりを見せている。世界各地で植民地の搾取と収奪、権利侵害を明らかにし、改善を求める動きも活発になっている。格差と貧困のルーツの根源を明らかにして全世界が公平に共に生きる道を模索する動きに注目したい。現代に暗い影を残す歴史の検証に時効はない。日本だけが過去から逃れ、かつての「帝国」を夢見る時代ではない。
 戦争志向の為政者は、怒号と武力で他国、他民族をないがしろにすると柳宗悦は述べる。個々人の多様性を認め、敬意を払うことが平和をもたらすとも。柳は単なる美術評論家、哲学者、骨董の収集家ではない。心の美を探求し続けた平和の主張は私の心を惹きつけてやまない。
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<写真左から河井寛次郎、柳、濱田庄司 1937/5光州>
 
 混迷を深める日韓関係を解く鍵は、柳の精神―歴史に対する謙虚さと人間に対する敬意―にあると言っても過言ではない。 
 柳宗悦が新婚生活を始めた千葉県我孫子の自宅を訪れた浅川伯教(のりたか)が持ち込んだ染付秋草文面取壺との出合いが決定的だった。その美しさに魅せられ、1916年の初訪朝以降、1940年まで柳の訪朝は実に21回に及んだ。今日では飛行機で日本各地から2時間程の距離だが、当時は下関から連絡船、釜山からソウルまで汽車に乗り継ぎ48時間を要する長旅だった。回数と時間に費やした情熱の源は、「涙ぐむ」程に不当な植民地朝鮮への愛だった。朝鮮には妻の兼子をはじめ陶芸家の濱田庄司、河井寛次郎、富本憲吉らが同行し、彼らによる朝鮮文化の発見はわが国の民芸運動の先駆けとなった。朝鮮人の心を映す陶芸作品などを通して、日本と朝鮮の心の交流を次の世代に託した。柳は常に虐げられた少数の人たちと心をともにした。
2021.01.16 キューバが米国政府を糾弾する声明を発表 

  米国によるテロ国家再指定に対抗して

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 キューバ外務省は1月11日、「キューバをテロ支援国家として不正に指定、これに対する断固たる全面的な糾弾」と題する声明を発表した。

 メディアによると、ポンペオ米国務長官は11日、キューバをテロ支援国家に再指定すると発表した。
 米国のオバマ前政権は2015年に、1982年から続くキューバに対するテロ支援国家指定を解除し、1961年に断絶したキューバとの国交を回復した。だが、その直後に登場したトランプ政権はキューバへの渡航、送金を制限するなど、同国への制裁を強めてきた。ポンペオ長官は声明の中で、今回の再指定の理由として、キューバが、米国が敵対するベネズエラのマドゥロ政権を支援していること、コロンビアの左翼ゲリラ幹部の引き渡しを拒否していることなどを挙げている。
 今回のポンペオ長官の声明については、日本のメディアでは「今月20日に発足するバイデン米次期政権が、オバマ前政権が進めた対キューバ融和路線に戻るのを妨害する狙いがあるとみられる」(1月12日付朝日新聞夕刊)といった見方が圧倒的だ。

 駐日キューバ大使館によると、外務省の声明は次の通り。

 キューバ外務省は、米国政府がキューバをテロ支援国家として不正に指定したことを 受けて、これを皮肉で偽善的な行為として、最も強く絶対的な言葉で糾弾するもので ある。
 数カ月前から、キューバを米国務省の一方的なリストに追加する可能性が検討されてきた。テロとその影響に係る同リストには、いかなる権限も合法性もなく、正当な動機に欠けている。また同リストは中傷的な手段として、アメリカ帝国主義の気まぐれに屈服しようとしない国々に対して、強圧的な経済的措置を適用するために使われている。今回のポンペオ国務長官の声明が表すところは、面目を失い、不誠実で道義的に破綻している政府の傲岸な行為である。その真の動機が、キューバと米国の二国間関係における回復の見通しを追加的に阻害することにあるのは疑う余地がない。
 キューバはテロ支援国家ではない、それは万人が認める真実である。我が国のよく知られた国策と非の打ちどころのない行動は、いかなる形のテロ行為にも反対する立場を取っている。特に国家テロについては、誰が誰を狙って、どこで行われようとも、これを強く非難している。キューバはテロの犠牲国家であり、我が国民はそれを実際に体験した。その被害は死者3478 人と重傷者 2099 人に及び、原因は米国政府が犯した行為、または政府機関の 容認の下で同国から支援、実施した行為によるものだった。
 キューバ国民は、政治的 ご都合主義という下劣な目的のために、このように慎重に扱うべきテーマを操作しようとするあらゆる策略に対し、これを軽蔑とともに強く非難するものである。

2021.01.15 やっと武漢へ、注目されるWHOコロナ調査団の結論

  ―あらためて考える中国(3)
                            
田畑光永 (ジャーナリスト)

 すでに世界をまる1年、「コロナ・パンデミック」に陥れた、その新型ウイルスのモトを突きとめる使命を担ったWHO(世界保健機関)の調査団が14日、いよいよ中国、そして武漢へ入ることになった。ぜひともこれまでのもやもやを晴らしてほしい。
 今度のコロナ騒ぎが中国から始まったことは疑いのない事実である。その起源について当初からよく言われたのは、武漢市の海鮮食品市場で蝙蝠由来のウイルスがヒトへ感染したのではないか、ということであった。また、それとは別に武漢にある科学院のウイルス研究所で何らかのミスがあり、そこから外部に洩れたのではないか、さらにそれに尾ひれがついて、その研究所では新型細菌兵器の研究が行われていて、その研究材料が洩れたのだといった、ためにするような議論までおこなわれた。
 武漢が発祥地であることははっきりしているのだから、本来なら中国政府はすすんで国際的に信用される調査団を受け入れて、事実を究明すべきであったのだが、さまざま言を左右にして、それを受け入れようとしなかった。
 それどころか、中国外交部の報道官という立場の人間が、記者会見で確たる根拠も示さずに、「ウイルスは米国兵が持ち込んだもの」などと口走り、怒ったトランプ大統領が最後まで「チャイナ・ウイルス」、ポンペオ国務長官は「ウハン(武漢)・ウイルス」と言い続けることにもなった。
 中国政府はまた「国際的な調査団を受け入れるべきだ」と提案したオーストラリアに対して、同国からの食品(肉類、ワインなど)その他の輸入品に高関税をかけたり、手続きにかこつけて通関を遅らせたりと、さまざまな報復行為に出て、世界を驚かせた。
 こういう中国の態度をどう見たらいいのか。勿論、それを正面から解き明かす説明は中国側からなされてはいない。しかし、コロナをめぐる中国のさまざまな動きと照らし合わせて考えればおよその見当はつく。
 昨年来、中国におけるコロナ関連の報道を思い返してみると、悪いニュースよりいいニュースとして扱われたほうが圧倒的に多い。もともと感染症が発生し、被害が出ているのだから、基本的にいいニュースであるはずはないのだ。ところが、報道ではコロナへの共産党や政府の取り組み、なかんずく習近平総書記の陣頭指揮がいかに素晴らしかったか、そのおかげで感染を武漢だけに封じ込めて被害の拡大を抑え、コロナとの闘いで中国は貴重な実績を積み上げた、と話はどんどんいいほうへ進んで、真っ先にコロナと戦って大きな成果を上げた中国に全世界は感謝すべきだという方向へ展開してきた。
 そしてこの物語に実態を盛り込むべく、昨年の後半から中国はいわゆる「コロナ外交」を広範囲に展開した。不自由している国々へマスクをはじめ医療品を送り、さらには医療奉仕団を多くの国へ派遣した。それ自体は文句のつけようのない善行である。しかし、一方で各国からの習近平総書記に対する感謝状が毎日のように報道を飾るとなると、第三者としてはなんとなく鼻白む思いにとらわれる。
 昨年、本ブログでも紹介したが、ピュー・リサーチ・センターという米の世論調査機関が先進12か国を対象に中國に対する見方の最近1年間の変化を調べた結果を発表した(10月6日)。その結果は、2019年と20年を比較して、12か国すべてで中国に対して否定的な見方をする人の割合が増えた。そのうち80%以上が否定的な見方をしている国が日本、豪、スウェーデンの3か国、70%以上が米、英、仏、独、加、韓、オランダの7か国、60%以上がスペイン、イタリアの2か国であった。ちなみに否定的な見方をする人が一番多かったのは日本の86%である。
 中国の「コロナ外交」の相手は主としてアジア、アフリカ、中東、中南米などの諸国だったから、この調査の対象には入っていない。それらの国で調査をすれば、勿論、ちがった結果が出るであろうが。
 そこで話はWHOの調査団に戻るのだが、どうしても中国が発表する見解や報道記事には政治宣伝臭がつきまとうので、われわれはなかなか素直に受け取れない。これには我々と中国の双方に責任があるはずだが、かみ合う議論が交わされるためには双方が信頼できる形での調査が行われなければならない。その点でWHOの調査団には期待が持てるはずだ。
 と思って、期待していたら、今回も調査団が手続きの遅れとかで、入国が延びたと伝えられたので、ああやっぱりだめか、とあきらめかけたところ、中国もやっぱりまずいと思ったか、14日に訪中と決まったそうである。中国と関係のいいWHOのテドロス事務局長も訪中延期となったところで、さすがに「失望した」と感想を述べた(1月5日)のが利いたのかもしれない。
 調査団員の構成は日本、カタール、米、独、ベトナム、オーストラリア、オランダ、英、デンマーク、ロシアなど、となっている。WHOのミシエル・ライアン緊急事態主任は「調査は科学のためであって、政治のためではない。動物と人類の間の仲介者を探し当てることが重要で、かならず目的を達成したい」と述べているそうだが、まさに誰もが知りたい「コロナはいつ、どこで発生したのか」を科学的につきとめてほしいものだ。それがどういう結論になったにせよ、中国もそのまま受け入れてほしい。