2017.02.20  急がれる核兵器禁止条約、核兵器の近代化進める米ロ

隅井孝雄(ジャーナリスト)


核兵器廃絶に向けて、新たな動きプラス、マイナス
 3.1ビキニデーが目前。1954年3月1日、福竜丸など日本の漁船が、太平洋ビキニ環礁近辺で、原爆実験によって被災して63年になる。今年は世界の多くの国が核廃絶のために行動するという特別な年だ。だが同時に米ロが新たな核近代化競争を始めるという状況も生まれた。特にアメリカがオバマ政権からトランプ政権に代わり、終末時計の針も2分30秒前に迫った。
 国連の動きは心強い。昨年12月23日、国連総会の全体会合で、核兵器禁止条約についての会議を17年3月に開始することを決議、113ヵ国が賛成票を投じた。核保有国のうち、米、英、仏、ロは反対したが、中国、インド、パキスタンは棄権に回った。残念ながら日本は反対票を投じたが、賛成はこれまでの核関連決議で最多だ。
 決議では「核兵器を禁止し、廃絶につながるよう法的拘束力のある国際条約の成立」を目指している。ニューヨーク国連本部で3月27日~31、6月15日~7月7日国際機関、市民組織の代表も参加して開催される。大いなる成果を期待したい。

核兵器近代化すすめるアメリカ
 ところで、米露仏英など核保有大国は、核兵器の近代化を進めている。昨年12月10日に放送された「核なき世界の行方、核兵器の近代化とアメリカ」(制作NHK、放送NHKBS1 ) は大いに触発される番組であった。
 アメリカは現在核兵器開発を凍結しているのだが、旧型の性能を向上させる近代化を進めている。60年代に開発された小型核兵器B61近代化をはかり、850億ドルの予算措置も講じている。
 B61タイプ12は戦闘機や爆撃機の機体に搭載する300 Kgの誘導弾。尾翼を遠隔操作して、目標の30メートル以内に落とせる。地中を貫通して地下爆発も可能だ。現在ネバダ砂漠で投下実験中。爆発も最大50キロトンから4段階、最小0.3キロトンに抑えられる(広島のリトルボーイは爆発力12キロトンだった)
 旧型はNATOに配備されて、180発がオランダ、ベルギー、ドイツ、イタリア、トルコにある。これが小型化されれば、被害を敵だけに抑えられる、という口実になる。

アメリカ4賢人による核廃絶提案 
 2001年以降、テロリストが核兵器を手にする可能性があると、アメリカでも廃絶の動きが進んだ。ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、サム・ナン、ウイリアム・ペイリーが「核兵器なき世界」という論文で核兵器廃絶を提案、彼らは4賢人と呼ばれるようになった。
 提案は次の4項目からなっている。1.核戦力の大幅縮小、2. 米の包括的核実験禁止条約批准、3.核分裂物質の生産の禁止、4.同盟国への戦術核の全廃。
 これに賛同して大統領に当選したのがバラク・オバマだった。ペイリーは小型だからと一国が使用すれば、たちまち全面核戦争が起き、人類は破滅すると、危機感を抱く。
 しかしヨーロッパではロシアが国境沿いに戦術核を展開し、アメリカもB61-12の配備を急いでいる。
1702 終末時計IMG_3169

アメリカ新大統領、核兵器近代化進める
 アメリカの新大統領ドナルド・トランプは就任前の12月22日、「世界が核について良識を取り戻すまで、米国は核兵器を強化すべきだ」とツイッターで語った。同じ日プーチンも戦術的核戦力の軍事能力を強化する必要があると発言、ウクライナ紛争で、核使用も検討したと述べている。トランプ大統領は就任後「米軍再建」の大統領令に署名(1/27)し、核兵器の近代化を含めた装備強化をはかるよう指示した。
 国連による、核兵器禁止条約の成立は、人類にとって喫緊の課題であるといえよう。
2017.02.19  「本日休載」

  今日02月19日(日)は休載します。
  リベラル21編集委員会

2017.02.18 ■短信■
  奪われた野にも春は来るか―フクシマを考える  
 
鄭周河写真展

 「奪われた野にも春は来るか―フクシマを考える 鄭周河写真展」と題する写真展が4月30日(日)まで、東京・新宿の高麗博物館で開かれている。3月11日で東京電力福島第1原発の事故から6年になることから、同博物館が企画したものだ。
 
 「鄭周河(チョン ジュ ハ)さんは韓国の大学で教鞭を執るかたわら韓国内の原発とその周辺に暮らす人々の日常を撮り続け、2008年に『不安、火-中』というタイトルで発表しました。東日本大震災に端を発する原発事故後は福島にも足を運び、その情景を写した作品をソウルで展示しました。そして日本でも2013~2014年に、南相馬市立中央図書館をかわきりに全国6か所で写真館が開催されてきました。
 高麗博物館は『奪われた野にも春は来るか』展を開催します。このタイトルは日本が朝鮮を植民地にしていた時代の1926年、詩人李相和がつづった詩の題名です。
 原発事故後も多くの人が避難生活を強いられ、放射能汚染の問題も未だ解決されていません。『野』には人影もなく、それでも巡りくる四季の風景は美しい。植民地朝鮮の土地を奪われてしまった人々と、放射能の汚染により、豊かな日々が奪われてしまった福島の人々を重ね合わせ、その怒り、痛み、苦しみを共有したいと思います」(写真展のチラシから)

 会期中、講演会がある。入場料1000円。要予約
★2月18日(土)14:00~16:30 鄭周河「フクシマの日常を撮る」
★4月8日(土)14:00~16:30 作家・東京経済大学教授、徐京植「フクシマ以後の生とは?」 

 高麗博物館はJR山手線新大久保駅下車、徒歩12分。第二韓国広場ビル7F
 ℡03-5272-3510
 休館日/月曜・火曜。開館時間/12:00~17:00               (岩)

2017.02.17 日本の核兵器廃絶運動のあり方を批判
     「ラロック証言」の元米海軍提督が死去

岩垂 弘 (ジャーナリスト)


 1月11日付の「しんぶん赤旗」に載った訃報が目を引いた。そこには、元米海軍提督で、ミサイル巡洋艦プロビデンスの艦長を務めたジーン・ラロック氏が昨年10月31日に98歳で死去したとあった。「米艦船は日本に核兵器を持ち込んでいる」というラロック氏の証言は日本の各界に衝撃を与えたが、私はこのこととは別のことでも同氏に関心を持ち続けてきた。というのは、同氏が日本の核兵器廃絶運動のあり方に対し一つの疑問を呈していたからである。

 ラロック氏の証言とは、1974年9月10日、米国議会の上下両院合同原子力委員会軍事利用小委員会が開いた、核拡散の危険をめぐる公聴会で述べたものである。ラロック氏は当時、元海軍少将で、国防問題に関するシンクタンク「国防情報センター」の所長を務めていた。当時、共同通信ワシントン支局にいた佐藤信行氏によれば、証言の内容は次のようなものだったという(2009年8月の日本記者クラブ会報に掲載された「ラロック証言のいま―『核なき世界』へ」による)。

 「私の経験によれば、核兵器を積み込める艦船はいずれも核兵器を積み込んでいる。これらの艦船は日本や他の国々の港に入るに当たって、核兵器を降ろすことはない。核兵器を積み込める場合には、艦船がオーバーホールないし大規模な修理を受けるための寄港の場合を除いて、通常はいつでもこれらの核兵器を艦船内に積み込んだままである。これらの核兵器の一つをうっかり使ってしまうかもしれないという現実の危険性がある」

 この発言は日本国内に大きな反響を巻き起こしたが、日本政府は「米国がいかなる形にせよ、日本に核を持ち込む場合は日本政府との事前協議の対象になる」として、米艦船による日本への核兵器持ち込みを否定し続けた。しかし、いまでは、日米安保条約の改定時に日米両国政府間で「核持ち込みの密約」があったことが明らかになっている。

 ラロック氏の訃報に接した瞬間、私の脳裏に甦ってきたことがあった。平和運動家であった故熊倉啓安氏(1927~1995年)から聞いたエピソードだ。
 熊倉氏は日本平和委員会の専従活動家で、事務局長、副理事長、代表理事、顧問を歴任した。この間、原水爆禁止運動、基地反対闘争、日中・日ソ国交回復運動、日韓条約反対運動、反安保闘争、ベトナム人民支援運動、沖縄返還運動などに関わった。

 1978年5月には、米国に渡航した。この時期、ニューヨークの国連本部で第1回国連軍縮特別総会(SSDⅠ)が開かれたためだ。
 SSDⅠに対し、日本の原水禁運動団体、労働団体、市民団体、宗教団体は「国連に核兵器完全禁止を要請する署名運動推進連絡会議」を結成し、全国で署名運動を展開、署名は1869万筆に達した。この署名簿をたずさえた「国連に核兵器完全禁止を要請する日本国民(NGO)代表団」の502人がニューヨークに向かい、署名簿を国連事務次長に手渡した。熊倉氏もこの代表団に加わった。
 その後、代表団は12の班に分かれて各国政府や軍縮関係機関を訪れ、核兵器完全禁止に向けての努力を要請した。

 熊倉氏は第3班に加わり、ワシントンの「国防情報センター」にいたラロック氏を訪ねた。熊倉氏によると、班のメンバーの要請に「きみたちは来るところを間違えた。核兵器反対を言うなら、むしろ日本政府に向かって言うべきだ」と述べたという。「米国の『核の傘』のもとに安住していて反核を叫ぶことの矛盾を見事に突かれた思いでした。ショックでした」。帰国後、同氏が私にもらした述懐である。

 核兵器の拡散を恐れるラロック氏としては、核兵器の拡散を防ぐためには、まず各国の国民がそれぞれの国の政府に核兵器の製造や持ち込みをやめるよう働きかけるべきだ、と考えていたのだろう。が、それまでの日本の核兵器廃絶運動は、専ら、核兵器の禁止を国際社会に訴えるもので、米国の「核の傘」に頼って日本の安全保障を図ろうという歴代の自民党政権に対して「それを止めよ」と要求する運動は弱かった。それだけに、熊倉氏にとっては虚を突かれた思いだったのだろう。

 熊倉氏が、その後、ラロック氏の指摘を日本の運動にどのように活かしたらいいのかと考えていたのかどうかは私は知らない。が、同氏を通じて知ったラロック氏の指摘は、私にとって日本の核兵器廃絶運動を考える上で重要な視点となった。だから、日本の核兵器廃絶運動のあり方について意見を求められれば、ラロック氏の指摘を頭の隅に置きながら、意見を述べてきた。

 例えば、「週刊金曜日」1998年8月4日号に発表した『米国の「核の傘」の下で反核を叫ぶ矛盾』である。
 私はそこで、日本で開かれた反核集会に参加した海外代表が「米国の『核の傘』から抜け出さないと、日本は核軍縮で指導的役割は果たせない」「米国の『核の傘』の下にいることが日本の外交政策を制約している。日本は、米国の『核の傘』から脱却を」などと発言していることを紹介しながら、「日本の運動がこれまで掲げてきた最大にして最優先の課題は一貫して『核兵器完全禁止』または『核兵器廃絶』だった。ほとんどこれ一本やりだったといってよく、一部の団体はともかく、『米国の核の傘からの脱却』を運動の全面に明確に掲げたことは、運動全体としてはなかった」と書いた。   

 ところで、日本の原水禁運動団体、消費者団体、青年団体、婦人団体、宗教団体などは今、3月から国連で始まる、核兵器禁止条約締結に向けた会議に向けて、被爆者の団体である日本原水爆被害者団体協議会提唱の「ヒバクシャ国際署名」に取り組んでいる。「核兵器を禁止し廃絶する条約を結ぶようすべての国に求める」署名だ。
 ところが、日本政府はこの条約の締結に反対している。としたら、日本の運動としてはこぞって「被爆国の政府が核兵器禁止条約に反対するのはおかしい」と、日本政府に迫る運動も起こしてもらいたい。そう思わずにはいられない。一部の運動団体は「日本政府は核兵器禁止条約へ行動を」とのスローガンを掲げて活動しているが、まだ運動全体のものとなっていない。

2017.02.16  「本日休載」

  今日02月16日(木)は休載します。

  リベラル21編集委員会


2017.02.15  アメリカ社会とトランプ政権の移民政策
          映画『ブルックリン』から考える

小川 洋 (大学非常勤教師)

 選挙中に違法移民の排除を掲げていたトランプ政権だが、政権発足後にさっそく大統領令を出し、いくつかのアラブ諸国からの入国禁止、メキシコとの国境の壁建設を指示するなど、実行に乗り出した。しかし入国禁止については、司法側から直後に無効判断が出されるなど、現場では混乱が続いている。
 ネットではツイッターで、アメリカ先住民がトランプ氏に向かって「マジかよ。で、お前はいつ出ていくんだ!」と叫んでいる画像が投稿されていたりして、笑わせてくれるのだが、正当なビザやグリーンカードをもっている人物までが、現実に空港で拘束される事態が発生すると笑いごとでは済まなくなる。

 トランプ氏も当然、移民の子孫である。祖父がドイツから渡米した。その際に、苗字のDrumpfをTrumpにしたと言われる。母親はスコットランド最北のルイス島出身である。トランプ氏の顔は角ばっていて、どちらかと言えばゲルマン系というよりはケルト系の特徴が強くみられるから、母親似なのかもしれない。

 アメリカのケルト系としてはアイルランド移民が典型だが、最近もアイルランド移民をテーマとする映画作品があった。2015年に公開された映画『ブルックリン』は1952年の舞台設定で、アイルランドの若い女性が単身で、第二次大戦後の好況に沸くニューヨークに移り住む話である。ヒロインのエイリシュ・レイシーを演じたアイルランド系アメリカ女優のシアーシャ・ローナンはアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ、映画も全編にわたって無駄な映像の一つもない名作である。アメリカに移住した人々がどのような経験をしながらアメリカ人となったのかを振り返るため、しばらく映画のストーリーを紹介しよう。

 それぞれの場面の映像はじつに多弁である。例えば、彼女がエリス島(54年まで使われていた)の移民局の入国審査の列に緊張して並んでいると、審査官のデスクの向こう側を家族連れのシルエットが横切る。入国を拒否されて送還される人々である。彼女は無事に入国を許可され、担当官に「青いドアから出るように」と言われる。彼女がドアを開けると眩いばかりの光に包まれ、彼女が祝福を受けているような印象を与える。

 しかし実際に生活が始まれば、孤独感や民族的差別のなかで強烈なホームシックに襲われる。昼食をとったカフェでもアイルランド訛りを指摘され、嫌な思いをさせられる。高級デパートの店員としての仕事を始めても、接客はぎこちない。上司の注意に対して「努力します」と答えると、上司は「下着を着ける時に努力する?同じように意識しなくてもできなければ。」と冷たく言い放つ。

 優秀な成績で中等教育を修了したエイリシュはアイルランドの田舎町では能力に相応しい仕事もなく、病弱な姉と母親の生活を支えるために性格の悪い女主人の経営する雑貨屋の店員をしている。その姉がカトリックの司祭に頼んで妹のためにアメリカへの移住と就職の機会を作った。ブルックリン地区の司祭は彼女に会計士の資格取得を勧める。学費は教会の寄付金である。向上心の強い彼女は、手始めに夜間の簿記クラスの履修を始める。

 と前後して、アイルランド系移民の集まる教会で週末に開かれるダンスパーティに出たエイリシュは、アイルランド女性が好みだというイタリア系男性(トニー)とめぐり会う。彼女は、堅実な働き者でありエイリシュに敬意にも似た姿勢で接するトニーと付き合いを深めていく。徐々にホームシックを克服しながら明るく振る舞うようになったエイリシュに対し、それまで彼女に冷笑的ともいえる態度をとっていた同じアイルランド系の先輩女性たちは、惜しみなく応援するようになる。交際相手がイタリア系と聞くと、「彼の話は、どうせ野球と母親のことばかりでしょ」と冷ややかに言う(当時のイタリア系男性のステレオタイプであった)。ところがトニーは聞き上手でもあり、自分がドジャースのファンであることも母親のことも話をしたことがなかった。エイリシュが否定すると、“Keep it”(日本語の字幕では「それは当たりよ」と訳されている)と、交際を深めるようにアドバイスされる。さらに、エイリシュがトニーの家に食事に招かれたと聞くと、スパゲッティの食べ方を指導してくれる(イタリア料理がアメリカで市民権を得るようになったのは、この時期のことだという)。また、当時ニューヨーク市民の手近なリゾートとなっていたコニーアイランドに二人で出かけると聞くと、水着の選び方からムダ毛の処理の仕方まで丁寧に教えてくれる。なお、ここで選ばれる水着の淡いグリーンはアイルランドのシンボルカラーでもある。

 多くのアメリカ移民は、このエイリシュと同じように、孤独と差別に苦しみながらも、同じ民族系の仲間たちの善意に支えられ、多様な民族と交流しながらアメリカ社会の中で、新しい生活を築いてきた。映画は、姉の急死の報に接して故郷に戻ったエイリシュのアメリカとアイルランドのいずれを選ぶか迷う様子を描きながら、結局はアメリカに戻る場面で終わる。

 アメリカへの帰途の船中でエイリシュは、アメリカに初めて向かう若い女性に先輩として様々なアドバイスをする側になる。「ブルックリンはアイルランド人が多く、故郷のようなところだ」と安心させる。また入国審査の際には「靴を磨いておく、目を見張ってアメリカ人のように自信ある態度でいる、そして絶対に咳をしてはならない(結核患者は強制送還)」などである。さらにエイリシュは続けるが、それはいつの間にか、自分自身に言い聞かせるモノローグになっている。「孤独に苦しむだろうが、ホームシックで死ぬことはない。それまで知ることのなかった人との出会いがあり、そこに生活の足場ができる。」と続ける。最後は再会したトニーと抱き合う場面で終わり、二人で家庭を築いていく未来が示されるのである。

 アメリカは嫌いだがアメリカ人は好きだという日本人は多い。日本人だけではないだろう。この映画が描いたように、次々と移住してくる様々な民族が、助け合い、また混じり合いながら社会が形成されてきた特有な社会形成の過程が、多くのアメリカ人の性格を形作っているからだと思う。しかしトランプ大統領は、難民や移住希望者たちに対して、高くて厚い壁を築こうとしている。移民の流入を停止することは、このようなアメリカ社会の成り立ちそのものを否定することである。アメリカ社会は外から新しい人々を受け入れることで活力を維持してきた。トランプ氏による移民の拒否はアメリカ社会の衰退を意味するはずだ。

 なおまたエイリッシュを援助したカトリック教会は、近年のアメリカでは、セックス・スキャンダルなどで社会的信頼を著しく損なっている。国家・政府の手の届かない福祉や教育などの面で重要な役割を果たしてきた教会そのものも、社会的地位を低下させている。ハイウエイなどのインフラの劣化が問題となっているが、アメリカ社会を支えていた目に見えないインフラも衰えつつある。アメリカは自ら確実に、その活力を喪失する過程に入っているように見える。
なお残念ながら、この映画はカナダ、フランス、アイルランドの合作であり、アメリカ映画ではない。
2017.02.14  日米同盟は戦争へ向かうのか
          ―共同声明に「安保第五条」を入れる愚行―

半澤健市 (元金融機関勤務)

 2017年2月10日に行われた安倍首相・トランプ米大統領会談について、すかさず多くの同人が、適切な論評を続けている。
私も、念のため、日米合意にある「尖閣条項」の読み方をファクトに基づき書いておく。結論から言うと、共同声明に「尖閣列島は安保第五条の対象」と書くのは、愚かしく、日米同盟の不安定化の表現だということである。

《二つの重要なファクト》
 主な事実として次の二つを読んでほしい。
■日米安保条約の第五条
各条約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処することを宣言する。(以下略)
■日米防衛協力のためのガイドライン(2015年4月日米で合意)の一節
 ・陸上攻撃に対処するための作戦
自衛隊及び米軍は、日本に対する陸上攻撃に対処するため、陸、海、空又は水陸両用部隊を用いて、共同作戦を実施する。
自衛隊は、島嶼に対するものを含む陸上攻撃を阻止し、排除するための作戦を主体的に実施する。必要が生じた場合、自衛隊は島嶼を奪回するための作戦を実施する。(中略)
米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する。

《この文章を読み解くと》
 二つの小難しい文章を読み解こう。
「安保第五条」は、米軍が当然に日本を守るとは書いてない。「自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処する」と書いてある。米国では、戦争を始めるには連邦議会の議決が必要だ。日中両国が、無人の岩石「尖閣諸島」を巡って戦闘を開始したとしよう。米国が、自国の若者の命を犠牲にする参戦をするだろうか。しない。議会は否決するだろう。

 「ガイドライン」には、自衛隊と米軍は「共同作戦を実施する」と書いてあるが、同時に「自衛隊は作戦を主体的に実施する」、「米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する」と書いてあるのだ。
「主体的」部分の英文は、The Self-Defense Forces will have primary responsibility for conducting operations to prevent and repel ground attacks, including those against islands.である。
primary responsibility は、主語「自衛隊」の動詞は「作戦を主体的に実施する」のではない。「第一の責任を有する」のである。「自衛隊が全部やるべし」と訳してもいいくらいだ。米軍の役目は自衛隊への「支援と補完」に過ぎない。

《専門家が批判してきたテキスト誤読》
 この読み解きは私のものではない。専門家の解釈である。
「第五条」については元外交官の孫崎享氏(まごさき・うける)が、「ガイドライン」については軍事評論家の田岡俊次氏(たおか・しゅんじ)が、繰り返し主張していることである。しかしこれらの辛口コメントは、大手メディアに載ることが少なく、人々の共通認識になっていない。

 日米首脳会談を報ずる政府もメディアも、共同声明を「大成功」いっている。五条確認を共同宣言に載せるのが何が成功なのか。成功どころではない。日米同盟関係は、戦争への道に向かって、大きく揺らいでいる証拠である。一市井人のこの結論は、ファクトと専門家の説得力から、導き出したものである。(2017/02/12)
2017.02.13  本番はゴルフ会談か
          異常なワンマン政権、したたかな「狂人戦略」

金子敦郎(国際ジャーナリスト、元共同通信ワシントン支局長)          

「にこやかなトランプ」
 世界に広がったトランプ・パニックの中で最も慌てたのが安倍首相。当選直後の次期大統領への「面通し」にトランプ・タワーに一番乗り。就任後のホワイトハウス詣でも「特別な関係」のメイ英国首相を別格とすれば、ここでも一番乗り。それが報われた。安倍首相を迎えたのは「こわもて」ではなく「にこやか」なトランプ大統領だった。中国にらみの安保問題では、安倍首相が欲しかったものをそのまま出してくれた。だが、経済・貿易問題はさらりと流したという感じだ。大統領職と不動産ビジネスを一緒くたにする「トランプ不動産」のフロリダのリゾートで、両首脳は夫人も連れてゴルフを楽しみながら2泊の「プライベート」の時間を過ごした。ここで何が話し合われたのだろうか。
 外交と内政は絡み合っている。保守派の「フェイク・キャンペーン」に乗せられて「EU離脱」を選び、孤立の道にはまり込んでしまった英国。欧州と米国の橋渡し役という「存在意義」を果たせなくなるとすれば、メイ英首相は真っ先に駆け付けて支持を訴えなければならなかった。アベノミクスの「偽装」が剥げ落ち、もたもたの閣僚たちが取り巻きの人材不足を露呈しているとき、長期政権・憲法改正の野心を抱く安倍首相にとって「外交の基軸」とする米新政権の後ろ盾が不可欠の条件だ。「ご祝儀抜き」の暗いスタートを切ったトランプ大統領も何か得点が欲しいところだった。
 新政権の就任時の支持率と不支持率はともに史上最悪、就任式に集まった観客は25∼50万人と、オバマ政権発足のときの180万人に比べるとあまりにもさびしい数字。翌日には女性・人種差別に抗議する50万人ものデモがワシントンを埋め、全米各地や世界各地に広がった連帯デモは80カ国、670 カ所、470万人におよんだ(主催団体)。そしてテロ対策を理由にイスラム諸国からの入国を一時禁止した大統領令に内外から猛反対を受けて、裁判闘争でも完敗した。「虚偽発言」の数々をいくら批判されても絶対に頭を下げなかったトランプ氏も、さすがにこたえていたのかもしれない。

「ドナルド・シンゾウ」関係
 安倍首相は常々、外交では相手国の首脳との間に信頼関係を築くことが重要と言ってきた。トランプ大統領が安倍首相を抱きかかえるようにして迎えた映像は、世界に繰り返し流されている。ホワイトハウスが明らかにした会談後の共同記者会見のやり取りの記録では、安倍首相は3回「ドナルド」と大統領のファーストネームを口にした。トランプ大統領の「シンゾウ」という発言はなかったが、これは大したことではあるまい。安倍首相はプーチン・ロシア大統領と親密な関係を築いたことが自慢だった。だが、故郷・山口県の温泉に招待して北方領土返還の突破口を開こうとしたが、進展は得られなかった。外交の上で首脳同士の信頼関係を構築することは悪いことではないが、難問がそれで解決できるわけではない。
 トランプ大統領と信頼関係ができたといって帰国したメイ英首相を迎えた英国世論は冷ややかだった。メイ首相の招待でトランプ大統領は英国を訪問することになったが、これに反対する署名運動が起こり、たちまち20万件を超して増え続けている。下院のバーカウ下院議長は公に、トランプ大統領が下院で演説することに反対を表明した。メイ首相もイスラム諸国からの入国禁止の大統領令に反対を言わざるを得なくなった。ドイツ、フランスなど主要な国の首脳も反対を隠してはいない。安倍首相は口を閉ざしている。安倍首相とホワイトハウス詣での先を争っているという話は伝ってこない。

「硬も軟も」
 不動産ビジネスで産をなしたトランプ氏は、「大きく吹っかける」交渉術が成功のカギだと著書で自讃している。その成功の傍らでこれまでに3,000件もの訴訟を起こされ、今も2,000件を抱えている。「危うい成功」のように思える。大統領選挙戦で世界中にあからさまになった暴言、虚偽発言、非難中傷などの言動をみれば、大抵の国は超大国の大統領に座ったトランプ氏には「何をされるかわからない」という恐れを抱くだろう。
 冷戦のさなかに世界を振り回したニクソン米大統領は、自分の外交戦略を「ニクソンは狂人だから何をされるかわからない」と怖がらせる「狂人」戦略と側近に語っている。トランプ大統領をニクソンに例える報道も出ている。
 トランプ大統領は台湾の蔡総統に電話して、中国の「一つの中国」にはとらわれないと述べて中国の姿勢を硬化させた。習近平中国主席からの大統領就任の祝電に対する返礼も遅らせてきたが、ホワイトハウスは8日、「相互利益になる建設的関係を発展させるために主席との協力を楽しみにしている」とする返礼の親書を送ったと発表。続いて9日にトランプ大統領は習近平主席に電話し、一転して「『一つの中国』政策に同意する」と伝えた。日本の新聞は11日朝刊でこの電話会談を大きく報道、同じ紙面には安倍首相がワシントン入りするという記事が並んでいた。トランプ大統領が中国を怒らせたうえで、さっと政策転換を図ったこの動きは、安倍首相が時間をかけて対応できないよう、日米首脳会談にタイミングを合わせたことは明らかだろう。「大きく吹っかけ」て脅しをかけるだけではない。
 さっと身をかわす。したかである。「友人」も安心してはいけない。
 トランプ氏は、選挙戦で対立候補も世論も振り回された「ツイート攻撃」を大統領になっても続けている。側近の中から「無用の混乱」を引き起こしているとして、止めるよう忠告も出たといわれるが、受け入れる気配はない。中東からの入国禁止令もそのひとつだった。

「主要省庁の幹部は空席」
 トランプ氏は極端な自信家、すさまじい自己顕示欲の持ち主、そして癇癪持ちである。不動産ビジネスも大統領職も「オレ流」でやれると自負しているようにみえる。毎日早朝から新聞やテレビのニュースを細かくチェックして、さっと反応して「ツイート」する。それがトランプ政権の政策になる。異常なワンマン大統領である。
 新政権は白人至上主義者も含めた極右グループが中枢に座り、選挙戦で散々罵倒したウォールストリートの巨額資産を持つ金融マン、軍部のエリートからは外れた元将軍、共和党の一部の極右勢力をかき集めてやっとできた。しかし数千人にも上る各省庁の実務を率いる副長官、次官、次官補といった幹部のポストの多くは政権が任命する。これがほとんど埋まっていない。国務省など一部の省庁ではキャリアの有力幹部がトランプ政権のもとで働くのは「潔よしとせず」と退官している。
 通常の民主、共和両党の政権交代であれば、それぞれの党の系列下に多くのシンクタンク研究員、大学の教員・研究者などが「出番」を待っているから、こんな事態は起こらない。トランプ政権が普通の政権の形を整えられるのか疑問がある。西欧諸国など多くの国は当分、模様見を続けるのではないかと思う。
2017.02.12  日米首脳会談、世界に見せた大統領と安倍首相との“いちゃつき”

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 トランプ大統領と安倍首相の日米首脳会談が終わった。会談は約1時間、半分は通訳が約30分だから、二人の実質的な会談は約30分。会談後、二人の記者会見とおそらく日本側の高官たちの説明によると、実質的な合意内容は(1)安全保障関係では、双方が同盟関係の強化に努力。尖閣諸島は安保条約第5条の適用範囲と確認。沖縄普天間基地の辺野古へ移転を確認(2)自動車や為替など経済関係はすべてペンス副大統領と麻生副総理の会談で協議するーなどだった。

 閣については、オバマ前政権下でも「日本の施政権下のすべての場所に」安保条約は適用されるという表現だったから、実質的には同じことだが、今回、日本側は「尖閣」の固有名詞を入れることに強くこだわり、「尖閣に安保」を会談前から会談後の共同声明にいたるまで、繰り返し記者団に強調した。いうまでもなく、日本国民へのPRだ。
 国家間の首脳会談は短時間で、実質的な重要協議は、政府間の事前事後の協議で、同行する大臣や局長間で行われることに不思議はない。しかし、今回のように、難しい外交、経済問題が山積しており、日本国内では政府側の発言やリーク(意図的な情報漏出)でメディアの報道がやかましかったのに、首脳会談が短時間で終わった例は少ないかもしれない。そして、会談、記者会見の後、すぐ両首脳は大統領専用機でフロリダのトランプの別荘に飛び、夕食2回とゴルフを楽しみながら、親しく話し合うと首相は誇った。

 もかく、今回の日米首脳会談が全く異例だったのは、二人が恥ずかしげもなく見せた、ベタベタとしか言いようのない親しさだ。見せたというより、本心からと言うべきかもしれない。トランプは、中東・アフリカ七か国のパスポート保持者入国拒否(一時的停止というが実際には無期限)の大統領令を出し、即時実施した。しかし世界各国からも、米国民からも強く反対され、州政府から人種差別を禁止した憲法違反として提訴された。裁判は地裁が違憲として大統領令の執行停止を命令、7か国パスポート保持者の入国が再開。控訴裁でも政権側が敗訴した。米国でも前例が稀な事例。それ以外でも、米日主導で実施寸前だったTPPから脱退し、TPP交渉そのものが崩壊。総工費総額216億ドルと推計されるメキシコ国境の壁を大統領令で建設しようとして、メキシコ大統領から費用分担を拒絶され、首脳会談そのものがつぶれた。最初の首脳会談となった英国のメイ首相も、会談そのものは友好的におわったが、メイ首相は帰国後、トランプ政権の7か国民入国拒否を差別として厳しく批判する始末だった。

 のように、新任大統領として最悪の醜態を米国民と世界に見せ続けた時点での、日米首脳会談だった。各国首脳のなかで、就任前に渡米して、“ごますり”に精を出した安倍首相にトランプは、異常ともいえる親近感を見せたのだろう。首相の方も、都知事選での敗北、TPPの破たん、国会での大臣たちの答弁ミスが重なるなど、過半数与党らしくないごたごたが続いていたなかでの訪米だった。こちらも、大げさな、おそらく本心からの親近感を見せた。双方とも満面に笑顔で、肩を抱き合い、手をにぎり続け、「気が合う」とメディアに漏らした。
 だが、大統領にも、首相にも見逃してはならない事態が起こっている。米下院でジェロルド・ネイドラー議員(民主党)が、トランプ大統領の利権関係の憲法違反すべてにわたり、関係当局に捜査を求める決議案を提出したのだ。下院ですぐ決議案が可決されることはないだろうが、アメリカの信頼できる電子ニュース「Common Dreams」は10日の報道で「弾劾へのステップ・ワンか?」の見出しで報じている。
 トランプ弾劾の可能性については、来年の上下両院選挙の前にすべきだという主張、動きがすでに始まっている。議会への決議案はこのネイドラー決議案が初めてだ。(了)
2017.02.11  ■短信■
        ドキュメンタリー映画2本をお勧めします
          「抗い」と「まなぶ」

 優れたドキュメンタリー映画2本の鑑賞をお勧めします。

★『抗い――記録作家 林えいだい』(100分)
 「福岡県筑豊には炭鉱のいろんな傷跡が今も残っている。ボタ山、炭住、坑口、アリラン峠、朝鮮人墓地・・・・・・その歴史の闇から時代を探り当てようと、もがき苦しみ続けた一人の記録作家がいる。林えいだい。82歳。カメラを抱えペンを握って、戦争、エネルギー資源、高度成長に翻弄される『民』を記録し続けた。そして、戦争危機を再び迎えたいま、彼は警告する。
 記録されなかったことは、なかったことにされてしまう。国家権力の前に沈黙せざるを得なかった民衆の声は、いま忘却の彼方に追いやられようとしているのだ。重い病と闘いながら、作家人生の集大成として取り組むのは旧日本軍の特攻作戦。若い兵士に死を強要した権力への抗(あらが)いは、今も続いている」(映画のチラシから)
 林えいだいさんは、その執筆活動により、2007年に第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞を受賞している。

監督:西嶋真司
出演:林えいだい
朗読:田中泯
制作・配給:グループ現代
製作・著作:RKB毎日放送
上映館:シアター・イメージフォーラム(東京・渋谷駅から徒歩5分。03-5766-0114)
上映時間:2月11日(土)より、1日1回(午前11時~)連日上映(3週間予定)
地方上映予定:名古屋 シネマスコーレ(2月25日~3月10日)、大阪 第七藝術劇場(今春公開予定)、福岡 KBCシネマ(3月4日~5日)
お問い合わせ:グループ現代(03-3341-2863 )

 ★『まなぶ 通信制中学 60年の空白を越えて』(92分)
「東京都千代田区立神田一橋中学校通信教育課程。大都会の片隅に戦中・戦後の混乱期、義務教育を受けられなかった高齢者たちが、青春を取り戻しにくる学び舎がある。人生の終盤を迎えてもなお、人はなぜ学ぼうとするのか。その意味を探して、5年の歳月を追った」(映画のチラシから)。この作品については、2016年11月23日付の当ブログで詳しく紹介されている。

撮影・監督・語り:太田直子
 太田さんは、2010年に発表した、埼玉県立浦和商業高校定時制の授業と生徒たちを記録した『月あかりの下で~ある定時制高校の記憶』で文化庁文化記録映画優秀賞、平和・協同ジャーナリスト基金賞荒井なみ子賞などを受賞している。
製作・著作:グループ現代
上映館:新宿K’s cinema(JR新宿駅東南口下車、03-3352-2471)
上映日と時間:3月25日(土)から連日10時30分モーニングロードショー
お問い合わせ:グループ現代(03-3341-2863 )
(岩)