2022.07.30 「水がきれい、空気がおいしい、大好き桂林」(Suketchi in Guilin )

 
出町 千鶴子 (画家)


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 「山は水を得て活き、水は山を得て媚(うつく)しく」互いに傍(より)添う。
 天と地の間の地球から生まれたたくさんの命が呼応する。共に守り守られ喜びを分かち合っているのだ。千万の緑の峰々を映してくねくねと曲がって流れる漓江「桂林の山水」の中に潜む此処は、桂林の友人たちが「清の時代の村」と呼んでいるところのスケッチである。ちょっと急ぎ足で、ニコニコ、家族のために隣家のおばあちゃんの分も水汲みをしていた少年の頼もしさを皆で嬉しいと喜んだ。懐かしい風景である。
 桂林市は、墨で絵を描く楽しみを教えて下さった大恩の地である。「ありがとう!桂林」



2022.07.21 アベノミクスの亡霊に支配される日本
                           
盛田常夫 (在ブダペスト、経済学者)

政治的暗殺か、それとも怨恨殺人か
 安倍晋三元首相の殺害は政治的暗殺ではなく、怨恨殺人である。しかし、「民主主義 への挑戦」とか「余人をもって代えがたい政治家の抹殺」というような、あたかも「政 治的テロ」であるかのような論調が目立つ。日本では死屍にむち打つことは社会的規範 に外れているとされ、故人を称えるのがふつうだが、政治家であればその主張や政策が 及ぼした功績や弊害を整理して評価するべきではないか。
 近年の日本で怨恨殺人が頻発している。京都アニメーション放火事件や大阪北区のク リニック放火事件では、犯人とは縁もゆかりもない多くの人々の命が失われた。自分勝手に恨みを募らせた、きわめて理不尽な殺人事件である。この事件に遭遇した本人やその家族の無念は量り知れない。こういう怨恨殺人事件が起きる日本社会の病理をしっかりと分析し、可能な対策を講じる必要がある。
 他方、今次の安倍元首相殺人には何か吹っ切れないものを感じるのは私だけだろうか。 安倍首相誕生は多くの右翼・極右翼勢力の活性化を促した。日本の右派勢力に充満していた閉塞感の打破が現実のものになったからである。事実、単細胞思考の政治家安倍晋三は猪突猛進で、日本の右派勢力が達成しきれなかった日米集団自衛権行使に舵を切り 憲法改正への期待を膨らませた。
 いつの時代にも、単純なスローガンを掲げ、一方的な 主張を強引に押す政治家は、デッドロックを打破するために必要とされる。そういうチ ャンスはめったにないが、忸怩たる思いを抱いてきた日本の右派勢力にとって、思慮に欠けるが無謀なほどに自己主張を通してくれる政治家の出現は千載一遇のチャンスであった。安倍晋三自身もまた、積極的に多くの右派組織との連携を図り、自らの勢力拡大 を目指した。旧統一教会へのリップサーヴィスもこうした動きの一環である。
 橋下徹氏は、「統一教会は安倍首相が関わっていた数多くある組織の一つにすぎない」と言っているが、政治家・安倍晋三は自らの思想に近いと考える団体や個人を積極的に取り込んできた。近寄ってくる組織や個人には、その素性にかかわらず、積極的に便宜を図り、影響力の拡大に最大限利用した。森友学園もその一つである。
 忘れてならないことは、安倍官邸が便宜を図ったために、人ひとりの命が失われている。この種の問題が指摘される度に、安倍首相は「自らが直接かかわったことはない」と主張して、責任回避に終始するのが常で、政治家としての潔(いさぎよ)さはみじんもなかった。
 他方、政治家に言い寄り、献金する組織や個人にはそれなりの打算や魂胆がある。とりわけ、反共を掲げて、悪徳商法を展開するようなブラック組織にとって、政治家のバックアップを得ることは、司直の介入を避けるために重要なことだ。ブラック組織が政治家のタニマチになり、政治家はブラック組織から政治献金を得るという「持ちつ持たれつ」の関係が出来上がっている。
 ただ、この関係は常に離反と恨みを買う関係に転化 する。ブラック組織が社会問題化すると、政治家はすぐに身の潔白を主張し、勝手に名前が利用されたと弁明するのが常である。こうした政治家の言動は怨恨と復讐を惹き起こす原因になる。今次の事件でも、旧統一教会との関係を取り沙汰されている政治家は、 皆、逃げの一手である。自らの不明を恥じることがない。まことに潔くない。

アベノミクスという経済犯罪
 もう一つ違和感がある論調は、経済政策イデオロギーに過ぎないリフレ政策=アベノ ミクスの無条件賛美である。 大幅な金融緩和と円安誘導で日本経済は復活しただろうか。長期にわたった金融緩和によって、日銀の国債保有残高は GDP1年分に匹敵するほど膨れ上がった。先進経済国の中で、これほど政府債務を引き受けている中央銀行はない。他方で、政府累積債務はGDPの2.5 倍に達している。事実上、日銀は財政金融を行っている。
 このことが今後の日本経済に重大で危機的な影響を及ぼす可能性は首都圏直下型地震と同じほど蓋然 性が高い。最終的な危機を迎えるまでもなく、世界経済の危機が生じるごとに、その脆弱性を露呈することになる。今次の全般的物価上昇はその現象の一つである。
 すでに日銀は金融政策手段を失っている。他の先進諸国は政策金利の引き上げによって物価上昇に対処しているが、日銀は金融緩和政策を転換することができない。政策金利の引上げは国家財政の国債金利負担を高めるだけでなく、日銀の財務バランスの悪化を惹き起こし、場合によっては債務超過をもたらす。
 さらに、金融緩和政策の転換は金融市場に流れ込んでいる資金の引揚げを帰結し、株式市場の崩壊を帰結する。10年もの長期間にわたって続けられた緩和政策によって、金融機関だけでなく、製造業や商社でも余剰資金や借入資金を金融投資で運用している。緩和資金の多くは実物経済の拡大ではなく、金融投資に回っている。金融緩和政策は実物経済を活性化するより、金融投資を活性化させている。金融投資できる余裕を持つ大企業や富裕な投資家が アベノミクスの最大の受益者である。
 もしここで金融引き締め政策に転換すれば、金融投資に深入りした企業の業績が悪化する。さらに、もっぱら輸入に頼る企業は輸入物価の高騰で苦しむが、海外子会社の収益を連結決済できる大企業には、持続的な円安が濡れ手に粟の為替差益をもたらしている。だから、金融引き締めで円高誘導ができない。 景気の腰折れを惹き起こすからというのが、岸田内閣の言い訳である。
 他方、このまま金融緩和政策を続け、さらに国債発行による財政出動に支えられた景気浮揚政策を実行すればどうなるのだろうか。日本経済はますます「債務の罠」から抜け出すことができなくなり、いずれ超円安とハイパーインフレによって、日本経済は沈没していくだろう。
 要するに、現在の日本は金融緩和政策を続けても、緊縮政策に転換しても、大きな打 撃なしに切り抜けることができなくなっている。「進むも地獄、退くも地獄」が待ち受 けている。こういう状況をもたらしたのが、いわゆるアベノミクスと呼ばれる思慮なき経済政策が、10 年もの長期にわたって続けられてきたからである。
 この段になっても、現在の日本では、いまだにアベノミクスを唱え、赤字国債発行による財政出動で景気回復を主張する政治勢力が多数を占めている。無策の野党もまた、与党の主張に同調するか、「れいわ新選組」のように与党以上の思慮なき政策を主張するのみである。
 プーチンのウクライナ侵略が戦争犯罪だとしたら、アベノミクスは日本経済に重大な禍根を残す経済犯罪である。にもかかわらず、当該社会の多数は、それぞれの政治指導者を礼賛するだけだ。これをファシズムと言わずして、なんと言おうか。
 ロシアと日本は、戦時と平時の違いはあっても、社会の多数がもろ手を挙げて、誤った政策を展開する政治指導者を賛美する点で同質である。ロシア社会を批判する前に、自 らの社会の異常さに気づくべきだ。

経済学という似非科学
 それにしても、浜田宏一イェール大学名誉教授の言には驚かされた。経済学を勉強し たこともない「安倍首相から学んだことが多かった」(「朝日デジタル」7 月 22 日) という。この言動ほど、現代経済学の無力さを教えてくれるものはない。経済学を勉強してもしなくても経済政策を語ることができるのなら、経済学にどんな存在価値があるのだろうか。
 もともと、浜田氏のように、きわめて限定された抽象的問題を数理モデルで議論している「経済学者」には、自らの議論がどれほど現実世界を捉えているかという問題意識 はない。抽象思考の結論が現実世界の理解に資するという錯倒した観念論に捉われている。これは抽象的な数字や論理だけで議論している「現代経済学」に共通している致命的な欠陥である。これではいくらノーベル賞学者が輩出されても、現実世界の解明に役 立つことはない。
 もっとも、会社を経営したこともなく、もっぱら研究室で思索している学者だけがこのような錯覚に陥るのではない。自分の財布で航空券を買ったことがなく、ホテル代を払ったこともない黒田日銀総裁のような高級官僚や政治家も、円安や消費者物価上昇を実感 することはない。しかし、現実を知らなくても、2%の物価上昇目標や円安誘導政策を 唱えることができる。これが現代経済学と経済政策の実態である。
 物価が下がり続けているというデフレ認識も奇妙だ。物価が上がりはしなかったが、 「下がり続けている」という事実はない。ここ10 年、明らかに下がり続けているのは円為替である。日常の買い物をしたことがなく、航空券もホテル代も所属組織に払ってもらえば、現実の消費経済を知ることができない。そういう人々が国の経済政策を決めている。これが正常な国家的意思決定だろうか。
 また、GDP に占める消費が7割を占めるから、消費を拡大させることが景気回復の 道だと、物知り顔に主張する御仁や政治家もいる。この主張は生産概念である GDPを支出構成という現象(結果)から見たものだが、これは現象のみを見て本質を判断する 間違いである。7割という数字だけを取り出して、この部分を増やせば GDPが増えると考えるのは単純なトートロジーで、間違った算術計算である。
 GDP はたんなる算術計算ではない。GDPの大きさを決めるのは労働力の質と量である。成熟した経済では 新規の労働力が増えず、逆に労働力は減少に転じている。技術革新による生産性の向上も限られる。人口が減少し、労働力が減少していく経済では、GDP そのものが長期的に縮小していく。それでもなお、社会的に安定した持続的可能な経済社会を構築していくことが、これからの日本社会の目標であるはずだ。
 GDP という抽象的で無機質な数値を延ばすことが社会の目標であるはずがない。日本の高度経済成長時代はとっくに終わっている。その認識を前提に、社会経済政策を組み立てる必要がある。経済学の議論が無機質の数字や数理にもとづくモデルに劣化していることが、経済学の議論の質を低下させている。
 だから、首相を引退した故安倍晋三氏が、「日銀は政府の子会社だから、紙幣をどんどん刷れば良いのです」と主張しても、「経済学者」からはまっとうな批判がない。浜田宏一氏はこの荒唐無稽の主張を判断する能力もないのだろうか。まことに奇妙な社会現象だと言わざるを得ない。
 政府は「政府と日銀は親会社と子会社の関係にない」と答弁しているが、アベノヨイショの三文学者以外の経済学者はどのように考えているのだろうか。いわゆるマクロ経済学者から明確な批判がなされていない。批判がないことは、容認していると思われても仕方がない。それほどまでに、現代経済学は無力なのだろうか。
 GDP の 2 倍以上に膨れ上がった政府の累積債務はおよそ 25 年分の税収に匹敵する。 問題は簡単である。この累積債務は返済する必要がなくいずれ「チャラ」にできるのだろうか、それとも日本の将来世代が長期にわたって背負っていかなければならない負債 なのだろうか。
 「親会社と子会社の債権-債務は相殺されるから、日本の債務問題はない」と考えるのが、アベノヨイショとそれに乗っかる故安倍晋三氏である。このデマゴ ギーを流布し、公的債務の積上げを誘導するのは霊感商法と同じ経済詐欺で、明らかな 国家的経済犯罪である。
 「政府と日銀は親会社と子会社だから、債務は消えてなくなる」と主張するのは、頭の中の架空問答だ。頭の中では消えても、現実には政府債務と日銀債権は相殺できない。 実際に日銀が相殺を公言すれば、日銀は一挙に膨大な債務超過に陥り、日本の国家信用は崩壊し、円の大暴落が生じる。頭の中で相殺している限りは信用崩壊が起きないというだけのことである。
 こういう自明の理も、数理モデルを展開している経済学の大家とされる先生方には理 解し難しいようだ。それとも、政府財政や日銀政策は経済学者が考える問題ではなく、 政府や日銀の官僚が考える問題だと考えているのだろうか。「なぜ浜田氏がアベノミクスのお目付け役に」と疑問に思った学者関係者は多いが、経済政策に無縁の「大家」が 安倍元首相に媚び売り、学歴コンプレックスのある政治家安倍晋三が「イェール大学教授で経済学の大家が賛同」という箔付けを得る「持ちつ持たれつ」の関係ができただけ のことだ。学者の晩年を汚すのではと心配した人もいたが、政治の表舞台で脚光を浴びる機会がなかった学者が、晩年になって世俗的な名誉に目が眩む事例は少なくない。それにしても、現代経済学の無力さを実感するのみである
 安倍元首相にはアベノミクスの行く末を見届けてもらいたかった。アベノミクス 10 年で積み上がった公的債務が、どのように日本の経済と社会に災禍をもたらしたかを。 もっとも、原発は 100%安全と謳ってきた自民党は原発事故の責任を一切とっていない。 東電もしかりである。潔くない政治家安晋三が生きていたとしても、将来の災禍がアベ ノミクスによってもたらされたとはけっして認めないだろう。所詮、政治家とはその程 度のものだ。むなしさだけが残る怨恨殺人である
2022.07.04  習近平とNATOの「体制上の挑戦」
      「体制上の挑戦者」と言われた習近平の胸中は
            ―驚き?怒り?冷笑?無視?

                             
田畑光永 (ジャーナリスト)


 6月29日の本ブログで、私は今年の中国共産党の創立記念日、7月1日がどんな行事になるか、習近平がどんな振る舞いに出るかを注目している、と書いた。ロシアのウクライナ侵攻の肩をもったばかりに、世界の世論の少数派に回ってしまったことを彼自身はどう思っているのか、自らこの記念日に明らかにするのが自然だと考えたからである。
 7月1日は香港が中国に返還されて25周年の記念日でもあり、習自身が香港へ赴くという見方もあった一方で、いやそちらは今流行りのオンラインですませて、やはり北京で本人から一言あるのでは、という予測もあった。
 私の見方は後者だった。というのは、プーチンのウクライナへの武力侵攻という、どう見ても理不尽な行為を非難どころか批判もできないところに身を置いた習近平の判断に、いくら総書記だからと言って異論、批判がないはずはないからである。
 たとえば、外交部筆頭副部長(次官)の楽玉成という、ロシア語組の筆頭格で、2月4日の習近平・プーチン会談の後、「中ロの友好に上限はない!」と記者団に言い放って注目された人物が、突如、国家ラジオ・テレビ局の副局長に異動になったとか、あるいは首相の李克強が5月25日にオンラインで開催した経済政策についての講演会に全国の各級幹部が10万人も参加したとか、どことなく曰くがありそうな出来事もあった。だから習近平はおそらく北京でなにか一言あるだろうと思ったのだ。
 結果は、というと、7月1日、習近平は香港へ行って、返還25周年の記念式典に参加し、また新しく就任する李家超行政長官の就任宣誓式にも出席した。勿論、それぞれの場面で発言はしたのだが、ウクライナに触れるような言葉はなかった。
*****
 なぜそんなことを考えていたかというと、6月30日に北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が採択した今後約10年の指針「戦略懸念」が、ロシアを「欧州・大西洋地域の平和と安定に対するもっとも重大で直接的な脅威」と位置づけたのは当然んとしても、加えて初めて中国を取り上げ「体制上の挑戦をもたらす国」と警戒対象に名指ししたからである。
 この言い方はロシアのような直接的な脅威ということでなく、中国の「強権体質」が他国へも影響することを問題にしているのであろうから、NATO加盟諸国がそれに「懸念」を持ったとしてもそう驚くほどの話ではないかもしれない。
 それにしてもこういうふうに煽られると、冷戦後忘れていた主要国が連合して本格的に戦火を交える「大戦」の時代が再来するような恐怖を覚える。わが国では確かにウクライナ以後、にわかに敵基地攻撃能力だの、防衛費2倍増だの、核共有論だのという言葉が、待ってましたとばかりに政治家の口からポンポン飛び出すようになった。
 一方では平和憲法、非核三原則、専守防衛といった言葉がなにか時代遅れの死語のように影がうすくなり、今、戦いの地であるヨーロッパでのNATOの会議にアジアの日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳までが参加したとなると、なんだか「世界戦争迫る!」と煽られているようで腰が落ち着かなくなる。
*****
 しかし、ちょっと待ってほしい。こんなことを言っては、たくさんの死者と膨大な被害を蒙っているウクライナの人たちに申し訳ないのだが、今、プーチンがしていることは世界をどうのこうのというような大それた話ではない。彼はウクライナのゼレンスキー大統領をひと睨みして、あるいは頭にごつんと一発くらわして、「お見それしました。子分にしてください」と言わせるのが目的だったはずだ。
 なんのためにそんなことをするかと言えば、国民に「やっぱりプーチンはたいしたもんだ」と思わせたいからだ。2014年にウクライナ領のクリミア半島を強引に併合して、大喝采を浴びたあの経験が忘れられないのだろう。そして2024年の大統領選挙に文句なしの大勝をおさめたいのだ。
 なにしろプーチンは今世紀に入った2000年に大統領に就任して以来、2008~2012年の4年間、憲法の3選禁止規定のためにメドベージェフに席を譲っただけで、12年にあらためて大統領に就いたから、2024年の次回選挙時にはすでに合計20年間も大統領職にあったことになる。さらにそれから6年ないし12年も続けようというのだから、なまじのことでは安泰とはいえないのだろう。
 習近平も状況は似ている。2012年、当時の中国共産党の内規(といえるだろう)に従って、胡錦涛が2期10年で共産党総書記を退き、それを受けて具体的にどういう談合が行われたかはまだ明るみにでていないが、後任に習が選ばれた。そして2017年に無事再選され、2022年、今秋の党大会でハッピー・リタイアメントというのが常識というか決まりというか、になっていた。
 しかし、習はやめたくない。2017年に再選され、残り5年となってから、辞めたくない、辞められないという彼の思いが外からでも見えるほどになった。その理由は推測するしかないのだが、就任1期目に彼が強力に推し進めた「反腐敗」政策の反動におびえているというのが、私の見方だ。
 どういうことか。中國共産党に腐敗が多いのは常識だ。「不反腐亡党(腐敗をなくさなければ中國共産党は滅びる)」という言葉があるが、これには「反腐亡国(腐敗をなくすと、国もなくなる)」という下の句がついて、人口に膾炙していた。「腐敗をなくせば、国中から役人がいなくなる」という意味だ。
 その腐敗に習は立ち向かった。直前まで党政治局常務委員という最高幹部を務めた大物から、中央軍事委員会副主席という軍の制服組のトップを2人までも、さらに前政権の党弁公庁主任という中枢幹部も、という最高級から一般幹部まで無慮数万人から10数万人が失脚した、といわれるくらいの反腐敗旋風を習は巻き起こした。「習近平はなかなかやるじゃないか」、という声がひろがった。しかし、それは盾の一面であった。
 摘発された大小の幹部たちはみな悪いことをしていただろう。が、悪いことをしていた人間はほかにもたくさんいるはずだ。しかし、それを全部摘発することは不可能だ。なにしろ「反腐亡国」なのだから。
 となると、摘発された側は「不公平だ!という憤懣」から逃れられない。オレがやられて、なんでアイツはやられないのだ、と。その「不公平」の被害者の決定に習およびその周辺の権力がまったく無関係だったとも言えないはずだ。
 それを一番よく知っているのは習近平自身だ。だから彼は今の地位を離れるのが恐ろしくてたまらないのだ。習の「反腐敗」で摘発の陣頭指揮を執ったのは王岐山(習の第1期政権で党政治局常務委員)だが、2017年秋の党大会でいったん党の役職から離れ、引退したかに見せかけて、翌年春の全国人民代表大会で国家副主席に復活した。高級幹部の退職年齢の68歳はとうに過ぎていたが、「反腐敗」の執行人をボディガードのいない(か手薄い)ただの引退幹部にするのは危険すぎるための措置と私はにらんでいる。
 ともかくこのところ習近平が打ち出す「政策」は、すべて自分の「三選」に役立てようとするものに見える。「共同富裕」を掲げて、庶民に希望を持たせ、一方では巨利を上げているネット産業には脱税などを理由に巨額の罰金を科す、金持ちの子供が有利となる高額予備校など受験産業をなくす、子供が勉強しないと頭を抱えている親たちのために、子供のネット・ゲームを規制する、はては芸能人のファン・クラブが募金競争を展開して、人気の度合いを競うのをやめさせる・・・など。
 なかにはどういう効果があるのかさっぱり分からない「政策」もあったが(たとえばテレビ・ショッピングの人気プレゼンターの脱税摘発など)、ともかく手を変え品を変えて、習を「庶民の味方」「やり手」というこれまでの中国の指導者にはなかった側面を表に出したりもした。
 しかし、それで習近平人気が高まったか、というと、そう効果的であったようには見えない。その手詰まり感の中で行われたのが、2月の北京冬季五輪であり、その直前のプーチンとの首脳会談であった。
 そして、その場でプーチンはウクライナ侵攻計画を習に明かしたと私は見ている。それを聞いて習は、文字通り耳よりの話と受け取ったはずだ。もし事態がプーチンの計画どおり、ロシア軍の電光石火の「特別軍事行動」でウクライナをロシアの一部に再び取り込むのに成功し、それに対して国際社会もこれといった実力行動に出ることなく、結果を追認するとなれば、手詰まりの台湾海峡にも明るい光が差し込んでくる・・・。
 しかし、その後の経過は見ての通り。まだ最終結果は出ていないが、すくなくともウクライナという独立国を再びロシアが懐に抱え込んでプーチンが21世紀のピョートル大帝を気取るという夢は実現しそうにない。
*****
 さてそこで、6月30日のNATOの「戦略懸念」である。ロシアを支持した中国を「体制上の挑戦をもたらす国」と位置付けた。これは習にとってははなはだ迷惑千万な話であろう。プーチンがうまくやったら、こっちにもチャンスが回って来るかも、という期待で、プーチンを支持しただけなのに、これではまるで共犯者ではないか、と。
 そこで習近平が見せる可能性のある態度を「驚き」「怒り」「冷笑」「無視」の4タイプのどれかと想像してみたのだが、これもまだ結論がでていない。
 私はプーチンや習近平のために弁解するつもりは毛頭ない。しかし、彼らが「世界」を支配しようと野心を燃え上がらせているとは思えない。プーチンにしても例えばウクライナの次はバルト3国を狙おうとか、習近平も台湾を統一した後、どこか他国の領土を「征服」しようとしているとは思えない。
 彼らが望んでいるのは、国内での自分の地位と権威をできるだけ(できれば終身)長続きさせることだけのはずだ。大雑把な話になるが、この百年ほどの間、中国もロシアも政治が安定していた時期はそう長くない。トップの座をめぐる争いが表面で噴火したことも多いし、表向きは一見平穏に見えても深部では激しい争いが通奏低音のごとく流れているのは常態といってもいいだろう。
 結論を急げば、ウクライナも台湾もプーチンと習近平の自己保身の勲章候補と見られているだけなのだ。中國が台湾は中国の国内問題だから、他国は干渉しないでくれと言い続けるのは本音である。
 それにしては中国は世界のあちこちに手を伸ばして、勢力圏を広げようとしているではないか、と言われるかもしれない。自然資源を手に入れよう、中国の物を買わせようという欲は当然あるだろうが、だからと言って、昔の東西対立の再現のように他国の体制を自分に似たものに変えよう、つまり民主国家を強権主義国に変色させようなどという「野心」はない。せいぜいが援助と引き換えに「習近平礼賛音頭」の一節でも歌ってもらいたいというにすぎない、と私は見ている。
 したがって、実際にミサイルをウクライナに打ち込んだプーチンと、台湾を手に入れるのに力を使っていいものかどうか、逡巡している段階の習近平を一緒にすることはよくない。その意味で今回のNATO首脳会議に日本をはじめアジアの主要国が参加し、「懸念対象」とはいえロシアと中国を並列したのはよくなかった。
 まして日本がその尻馬に乗って、防衛費倍増だの核共有論だのと騒ぐのは、この時期、習近平を喜ばせるだけの愚行である。それは中国を警戒させ、とくに習近平が国民の警戒心をあおり、国内を反民主陣営に結集するのを助けるだけだからである。
 今、必要なのはロシアでも中国でも、その国民が自分の国のトップの行動をこれでいいのかと考え直してくれるように仕向けることである。それにはどんな方法がいいのか、いやそもそも方法は存在するのか、私にはいい答えがないのが残念だが、ともかくプーチンや習近平が「西側がわれわれに攻めかかってくる」と自国民を欺く逆宣伝をするのに都合のいいような材料を与えることは避けてもらいたいものだ。
 


 

2022.06.27  あの時は仕方なかった
        韓国通信NO.699

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 「どうして戦争したの」
 「戦争に反対できなかったの」
  こんな質問をして大人たちを困らせた記憶。無謀な戦争をして負けた。上野駅の戦災孤児と新宿駅ガード下の白衣の傷痍軍人から敗戦のみじめさが伝わってきた。負ける戦争なら、しなければよかったのにと子ども心に思った。
  大人たちは「負けるとは思わなかった」「あの時は仕方なかった」と言い訳したが、そんな情けない言い訳を子どもたちにしたくないと切に思う。
 
<高校の同窓会誌>
 最近送られてきた高校の同窓会誌のある記事が目にとまった。タイトルは「東京電力福島第一原発事故対応の『生き証人』として」。ある卒業生の近況報告だ。
 1972年卒。私の11年後輩である。様々な部門を担当して福島第二原発の所長として3年勤務。本社に転勤した翌年に東日本大震災が発生した。
 「安全神話」で福島県民に嘘をついた後悔の念を拭い去ることができず、「残りの人生は福島に捧げる」決意をした。東電を退職後、償いのために福島に移住、福島復興のために奔走する毎日が続く。原発事故直後、東電の職場は大混乱、多くの社員が将来を悲観して退職していった。高校の一年先輩である広瀬直己社長から優秀な社員の退職を慰留するよう頼まれた。その社員も同じ高校の卒業生である。だが、後輩には東電のために働く意思はない。意気投合して一緒に福島の復興に取り組むことになった。原発事故の事故対応の生き証人として、被害者に寄り添う覚悟が力強く語られている。

 原発事故直後、電力会社への風当たりは強く東電の解体が俎上に上るほどだった。10年以上たった今では国の後押しで「完全復活」の勢いだ。
あの時は仕方なかった

 職場を失いたくない社員の気持ちもわからないではない。だがあれほどの事故を起こした会社の社員が何を感じ、何を考えているのか皆目不明。彼らはかん口令が敷かれたように沈黙を続けた。同窓会誌の小さな記事から人間の苦悩が垣間見えた気がした。
 記事には福島で活躍する二人と広瀬社長が登場するが、実は業務上過失致死傷罪で強制起訴された勝俣恒久元東電会長も同窓である。また勝俣氏と同学年には原発をテーマした朗読劇『線量計が鳴る』の公演を続けている俳優中村敦夫氏がいる。私より3年先輩だ。
 三年ほど前に東京の笹塚で朗読劇を見た。体力的な限界がささやかれていた先輩を応援しにでかけた。福島生まれ福島育ちの中村敦夫が政治家として、俳優として行き着いた朗読劇は木枯し紋次郎のセリフ「あっしには 関わりねえ事で ござんす」の真逆、原発の非人間性、原発に潜む不正を暴き世に問うことだった。全国各地で上演を続け、コロナ休演を挟んで100回の公演を目指している。
  「再稼働しねえと飯が食えねえと言い張る人がまだいる。んだら、聞くがね、あんたさえ飯が食えれば、周囲の人間や子孫がどんな目にあっても いいのげ?」― 朗読劇から
 朗読劇のDVD発売中 定価1650円 ネットから購入可
 さらに同窓には原発に厳しい発言を続けている音楽家の坂本龍一がいる。偶然ではあるが母校が「原発銀座」みたいに見えなくもない。坂本は「生き証人として」活動を続けている元東電社員と同学年である。演劇や音楽の世界は眩しいばかりだが、私個人としては東電の中から聞こえてきた声に強く惹かれる。

 <管理社会のなかで>
 子どもから年寄りまで生きづらさを感じる社会。思考を停止すればそのまま流されそうな気配も濃厚だ。会社勤めで経験した緊張と不安とどこか似ている。限りない競争と出口の見えない不安な職場は憲法や労働基準法とは無縁で黙って働くだけの社畜の世界だった。 
 職場の様子は送られてくる社内報以外に手掛かりはない。カタカナ言葉で溢れ、「コンプライアンス」(法律順守)、SDGs(持続可能な開発目標)」を看板に掲げる一方で「もうかる銀行」への執念が伝わる。ものわかりの良さそうな役員と明るい表情の社員たちから職場の実態は見えない。時間外労働は多いのか、手当はきちんと払われているのか、休暇は取れるのか、コース別選択による男女差別賃金は改善されたのか。不都合な真実が隠されていないか、人生を楽しんでいるのか。
 東電に話をもどそう。
 原発事故の被害を一番わかっているはずの東電の社員が沈黙を続け原発にしがみつく姿は不気味だ。進んで企業責任を認め、自然エネルギーへの転換を主張してもよさそうだがそんな話はない。彼らは自分の頭で考えない管理された優秀なロボットに過ぎない。
 1970年代、東京電力で思想信条の自由をめぐる事件が法廷で争われたことがある。社員の思想傾向を嗅ぎ当てた東京電力は165人の社員を差別した。和解によって決着したが、かつての東京電力が行った自由にモノが言えない、言わない社会が日本中に広がっているように見える。生きづらい社会の到来である。
 ウクライナ戦争を奇貨として原発の稼働、軍備増強、核保有と先制攻撃、改憲が世論となった。だが目を凝らし、耳を澄ませば、流されず発言し行動する人たちの存在が見えだしたのも事実だ。同窓会誌で発見した元東電社員もその一例と言える。安倍、菅に比べると岸田首相のほうが「まし」という理由で支持する人が結構いるらしい。この人たちには棄権してもらいたい(そんな発言をした首相がいた)。争点なき参院選挙などと言い出したマスコミはどこに目を付けているのか。「お前の目は節穴か」が口癖だった亡父の叱責を思い出す。
2022.06.03  ロシア産原油輸入禁止制裁とハンガリーの状況

盛田常夫 (経済学者・在ハンガリー)
 
                
対ロシア原油制裁措置
 5月30日~31日の2日間にわたって開催された対ロシア原油輸入制裁をめぐるEU首脳会議は、海上輸送分の原油輸入の原則禁止を決定した。ロシアとの「友好パイプライン」を経由する原油輸入については、このパイプラインに大きく依存するハンガリー、チェコ、スロヴァキアが当面の制裁対象から外された。このパイプラインからドイツやポーランドに流れる分については、当該国が輸入を止めることを明らかにしている。ともに海上輸入への代替が可能だからである。
 EUの対ロシア制裁は全加盟国の一致が原則であり、港をもたないこれらの諸国は全面禁輸に難色を示していた。とくにハンガリーは強硬姿勢を崩さず、とりあえず海上輸送分とパイプライン輸送分を分けるという妥協を図って、EU首脳会議は全会一致の制裁を決定した。
 他方、ウクライナ政府はハンガリー政府への批判を強めており、ウクライナ領土を経由するパイプラインについて、「何が起きても不思議ではない」と、原油輸送の妨害あるいは抜き取りを示唆しており、「友好パイプライン」を経由する原油輸送自体も大きな不確実性を抱えている。
 もっとも、これは両刃の刃で、ハンガリーに流れる原油輸送を妨害すれば、ロシアがウクライナ領を経由するパイプラインを止めてしまう可能性があり、それではウクライナ自身が原油の調達が不可能になる。黒海の港を抑えられている状況では、簡単に海上輸送に切り替えることができないからである。なお、ウクライナ側が「友好パイプライン」を損傷させる、あるいは原油を抜き取るという懸念について、オルバン首相はフォンデアライエンEU委員長と協議した模様で、パイプライン輸送が止まった場合の対応策について原則的な協議が行われた模様である。
 いずれにせよ、海上輸送分についてもパイプライン輸送分についても、EU加盟各国はその代替策実行に、様々な事情や困難を抱えており、詳細な具体的対応策はこれから策定される。
 とりあえず、EUとして対ロシア原油制裁が決定されたことは重要である。確かにハンガリー政府は当面の要求を貫いたが、エネルギーシステムの改編に必要なEU補助金については何も決定されていない。「パイプライン経由の輸入を継続するなら、そこから得られる利益でエネルギーシステムの再編を実行すべし」というのが、EU首脳の立場であると思われる。パイプラインの禁輸に強硬に反対したハンガリーが、将来的に、EUから巨額の補助金でエネルギーシステムの改編を行える可能性は小さくなったと言える。その意味で、ハンガリー政府は当座の「勝利」を喜んでばかりはいられない。
 オルバン政権は国内向けの主張とEU向けの主張を使い分けている。EU向けにはエネルギーシステムの改編にお金と時間がかかるからと釈明しながら、国内向けには電気・ガスの公共料金割引政策維持のためにロシア原油が必要だと説明している。これは有権者へのポピュリスト政策としては有効だが、国際的にはまったく通用しない噴飯ものの論理である。権力維持のための論理の使い分けは、EU内では通用しない。対ロ制裁への消極的姿勢はいずれ高い代価の支払いを伴うことになろう。

ハンガリーに滞在する難民の状況
 5月27日の時点でハンガリー政府が公表したデータによると、ロシアのウクライナ侵略が始まって以降、ハンガリーに入国したウクライナ人は728,000名で、そのうち難民に認定された数は23,148名、短期滞在資格を取得した数は120,000名となっている。
ハンガリーに滞在するウクライナ人は、ブダペストとウクライナ国境に近い町に滞在しており、ウクライナ領とを往来する人も多いという。侵略初期にハンガリーに避難したウクライナ人のほとんどは、以前から西欧への移住を検討していた人が多く、10人のうち9人までがハンガリーを経由して西欧諸国へ散らばって行った。それが難民認定者の数に現れている。
 現在時点で流入する避難民の多くは西側への移住を考えていなかった人々が多く、そのため10人のうち2、3人はハンガリーに留まっていると言われる。したがって、今後、ハンガリーで滞在資格を得るウクライナ人は増えると予想されている。

ハンガリー盛田稿03
     東駅から西側諸国へ移動するウクライナの人々(index.hu)

 ロシアの侵略が長期化すれば、さらに数百万の難民が発生する可能性がある。そうなれば、ハンガリーに比べはるかに多数の避難民を受け入れている西側諸国のさらなる受入れは次第に難しくなると予想される。西側諸国にとっても、ロシア侵略を長期化させないことが重要である。そのために、制裁措置を厳しく実行することが不可欠である。
 ハンガリー政府はそのような視点から議論を組立てることはせず、もっぱら「ハンガリー国民が戦争の代価を払うことはない」という視点から、自国利益優先主義をとっている。そうである限り、終戦後にEU内での立場や隣国との関係が良好になることは期待できない。そういう覚悟があって、自国優先主義を貫こうとしているのかどうか。短期の利益を得ようとするあまり、長期の利益を捨ててしまうことにならないか。
 ハンガリーの前途はけっして明るいとは言えない。

2022.03.28  何べんでも「戦争でウクライナのこどもをころすな」と言う
 
米田佐代子 (女性史研究者)

 19日の土曜日、吉祥寺の駅前で「ロシアのウクライナ侵攻に抗議しよう」というアピールをしている人たちに会いました。ちいさなチラシを配っていたので「ご苦労様」と挨拶して、もらいました。ロシア大使館の住所やメールアドレスが記されていて、「ここへ意思表示を」とあります。意見をつたえようと思いながら、もう一人の自分が「今のロシアは、何を言っても聞く耳を持たないよ」とささやいています。ウクライナのニュースを見るたびに絶望的な気分になるのは、「一人でも多くの人間が声を挙げなければならない」と思いながら、「子どもたち」と地面に書いてあった避難施設の劇場まで爆撃され、子どもたちが殺されたと報道されることにいたたまれない気分になるからです.

何べんでも「戦争でウクライナのこどもをころすな」と言う

 数日前には同じ駅前で「ウクライナに人道支援を」と募金していた日赤奉仕団の方たちがいました。バス待ちしながら見ていたのですが、みていた数分の間にカンパをする人が誰もいなかったのに心がいたみました。しない人を責めているわけではありません。他でカンパしているかもしれないし。わたしも日赤ではなく「現地に直接出て行って支援活動している」という団体に「ウクライナの子どもたちのために」と添え書きしていささかの寄付を送ったばかりです。でも、通り過ぎていく人があまりにも多いので気が気ではなくなり、「ちょっぴりでごめん」といいながら今夜のおかずを買おうと思っていた分を募金箱に入れてしまった。帰りに、スーパーには珍しく一切れだけパックになっていた魚の切り身(割引で200円)を買って夕飯を済ませた次第です
 国内で「ウクライナは核放棄したから攻撃されている」と日本の核武装論や「核共有論」まで取りざたされています。岸田首相は「憲法改正」を主張しました。「火事場泥棒」みたい。しかし、以前から「憲法九条は守りたいけれど、北朝鮮が怖い」という友人もいて、今は現実に戦争を始めたプーチン大統領が核攻撃をちらつかせるのですから、こんなに怖いことはない。ウクライナではロシアが「極超音速ミサイル」なるものを初めて発射したのではないかと伝えられ、これは時速1万キロを超える超音速で飛ぶため「迎撃困難」でしかも核弾頭搭載可能だそうな。こんな「最新兵器」に、日本の自衛隊がどうやって対抗できるのか。「日本国憲法九条」はもはや無力になったのだろうか。
 しかし、前広島市長の秋葉忠利さんが呼び掛けた「プーチン大統領は核兵器を使用しないと約束せよ」という署名は、1週間たたないうちに10万近く集まりました。著書『市民とジェンダーの核軍縮』以来ファンになった川田忠明さんは、ヨーロッパではNATOという軍事同盟が大きな位置を占めているが、東南アジアではASEAN(東南アジア諸国連合)を中心にした「平和の枠組み」があると指摘、中国の南シナ海進出で緊張が高まって1988年に中国とベトナムの海戦が起こったが、それ以後この地域で戦争は起きていない(この間ヨーロッパでは戦争が繰り返された)と言っています。武力行使を禁じ、紛争の平和解決を原則とした「東南アジア友好協力条約」(1976)があるからだ、と(全国商工新聞2022年3月21日付)。
 なるほど。わたしたちも日中韓三国の歴史研究者や市民活動家たちと協同してまったく自主的な民間の「歴史認識と東アジアの平和」フォーラムという集会を毎年持ち回りで開いてきました。「東北アジア」と言っていいかもしれませんが,この地域は、核保有国中国や、北朝鮮を含むから「平和構築」構想は複雑です。それでもコロナで対面集会が困難になった昨年もオンラインを活用して三国の参加者と交流してきました。わたしもずっと参加してきましたが、コロナ以降は参加していません。実行委員会も降りることにしました。しかし、世界が核戦争で破滅するかもしれない危機をはらんでいる今、たとえ中国からの参加者が核兵器禁止条約にきっぱり「賛成」と言えない事情があるにしても、毎年会う参加者とあいさつをかわし、話しあい、リアル集会の時は最後に肩を組んで歌い、つないできた親近感は何物にも代えがたかった。今年は日本で開会しますが、やはり海外からの参加は難しいそうです。オンラインの普及は、わたしのようなITオンチでも遠地の会議に参加できる利点をもたらしたが、やはり顔を見合って話せる機会も必要だと思う。ロシアの侵略と核恫喝は批判しなくてはならないが、「だから日本も核武装を」といった発想を乗り越えるために。「武力に拠らない平和」は今無力に見えるかもしれないが「武力による平和」はそもそもあり得ないと思うから、ころされたたくさんの子どもたちがウクライナから訴えていると思う。あの原爆をうたい続けた詩人峠三吉の詩「墓標」にある済美国民学校の子どもたちのように。原爆で殺された子どもたちに呼びかける1節を。
 君たちよ
もういい だまっているのはいい
戦争をおこそうとするおとなたちと
世界中でたたかうために
そのつぶらな瞳を輝かせ
その澄みとおる声で
ワッ! と叫んでとび出してこい
そして その
誰の胸へも抱きつかれる腕をひろげ
たれの心へも正しい涙を呼び返す頬をおしつけ
ぼくたちはひろしまの
ひろしまの子だ と
みんなのからだへ
とびついて来い!
(峠三吉『原爆詩集』より)
2022.03.25 地震・戦争・核
        韓国通信NO692
           
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)


 16日の深夜、福島、宮城県を震度6強の地震が襲った。千葉もひどい揺れで、11年前の東日本大震災を思い出させるほどだった。深夜、94才で一人暮らしをしている仙台の叔母に電話をしたが、幸い大きな被害がなかったようで安心した。

<身を守る行動を…>
 原発の「大規模停電による冷却ポンプの停止」が伝えられるなか、岸田首相はテレビで「異常なし」と国民に向かって「地震から身を守る行動」を呼びかけた。異常があったらどうする! 原発に依存し続ける国の首相のいけしゃあしゃあとした話ぶりに呆れた。
「原発情報」は地震のたびに永遠に繰り返される。100年後には首相も私たちもこの世にいない。テレビの画面を見ながら未来の人たちに対する申しわけない気持ちで一杯だ。
 人類史上こんな無責任なことはない。その日はなかなか寝付けなかった。

 ロシアによるウクライナ攻撃が始まってから3週間たった。激化する戦闘に心を痛め、チェルノヴィリ原発<下写真>への攻撃、プーチンの核兵器使用の示唆に不安が広がる。
地震・戦争・核写真(1)

<原発事故に懲りない日本とウクライナ>
 原発事故にもかかわらずウクライナに15基も原発があるのを知って驚いた人も多い。日本と同じく、愚かにもウクライナは事故から何も学ばなかったようだ。
 福島原発事故の4年前に発表された『原発を並べて自衛戦争はできない』(山田太郎)は、日本海側にズラリと並べた原発が「敵国」によるミサイル攻撃によって原爆投下と同じ被害をもたらすことに警鐘を鳴らし、敵国を作らないことが国の安全に不可欠と説いた。北朝鮮との関係が緊張を高めていた時期だった。

 原発を抱えるウクライナは絶対に戦争をしてはいけない国だった。<写真/シェルターで覆われただけのチェルノヴィリ原発>
 映像に心を痛めながら台湾をめぐる米中対立にわが国が巻き込まれるのではないかという不安。ミサイル発射を続ける北朝鮮も不安材料だ。ウクライナは「他人事」ではないと多くの人が感じている。
 絶対に戦争をしないこと。戦争の不安に乗じて「やられる前にやってしまえ」という敵基地攻撃、核の共有論が浮上している。日米同盟と軍事力の強化、平和憲法をぶっ潰す絶好の機会到来と張り切る人たち。自称愛国者たちの、誰でもわかる乱暴で論外の理屈だが、笑って見過ごすわけには行かない。

<戦争になる前に>
 ゼレンスキー・ウクライナ大統領は国民に銃を取って祖国を守れと命令した。祖国と自由を守るウクライナの人たちを見て、「お前ならどうするか」と問われそうである。
 一旦戦争が起きたら勝者も敗者もない。戦争になれば日本列島は一瞬のうちに廃墟となる。原発を並べておいて戦争になれば「最終戦争」になることは火を見るより明らかだ。銃を持って参加することは考えられない。

<戦争を起こさない努力>
 ウクライナに対する同情はもちろんある。自国の都合で侵略するロシアは非難してもしきれないが、茶の間でどれほど心配しても、またロシア・プーチンに対する憎悪を掻き立てても、事態が好転するとは思えないもどかしさがある。

 批判を覚悟のうえでウクライナの問題について若干指摘をして置きたい。
 かなり煮詰まったといわれる停戦条件が「ウクライナの中立化」「NATOへの不参加」「ロシア語の公用語化」と聞いて耳を疑った。その程度なら話し合いで解決できたのではないかと思った。国土が破壊され数百万の国民が避難を余儀なくされ、無辜の命が失われる事態は防げたのではないかという素朴な疑問である。
 心臓を差し出すことを迫る高利貸シャイロックは、血を出さない条件を付けられ裁判で負けた。血を出さずに済んだはずのウクライナの悲劇が『ベニスの商人』では喜劇として語られた。国民の血を流させないことが政治指導者の責任である。ウクライナは戦争を回避するために最善を尽くすべきではなかったか。
 原発と核兵器を生んだ世界。さらに温室ガスによる気候変動によって人類は絶望の崖っ縁に立たされている。希望は核の全廃と金儲け至上の社会の仕組みを根本から変えること。ウクライナ戦争は逆説的にそれを明らかにした。(3月20日)

2022.03.24 オペラハウス支配人がハンガリー首相へ引退勧告
       ここにも1人、プーチンに頭の上がらない首脳
                 
盛田常夫 (在ブダペスト、経済学者)

 3月12日に、ブダペストでオペラハウスの改装記念ガラコンサートが開かれました。アーデル大統領、オルバン首相、ノヴァーク次期大統領が列席する中、オペラハウス支配人のオーコオヴァチ・スィルヴェスターが発した挨拶話題になっています。
 「閣下、私がオペラハウスにかかわって12年になりました。これだけの長い時間、職に携わってきた後は、皆、職を離れるべきです」と切り出したのです。オルバン首相の連続任期はこの4月の総選挙で12年になることを意識したものです。これまで、首相からの熱い信任を受けて、2期(2期5年の支配人とそれ以前の役職を含めて)にわたってオペラハウスの支配人を務めたオーコヴァチが、首相に引退をほのめかすような発言を行ったのです。
 TV画面はすぐにバルコニー席のオルバン首相夫妻を映し出し、夫人がオルバン首相に顔を向ける仕草が写っています。しかし、この画面はすでに国営TVのHPから削除されています。まるでロシアや中国のようなメディア規制です。
 この出来事の直後の3月16日、EUの非公式代表として、ポーランド、チェコ、スロヴェニアの首脳がキエフを列車で訪問し、ウクライナへの連帯を伝ました。これはEU大統領とEU委員長からの要請で実現したもので、当初はフランス、ドイツのほかにハンガリーにも打診があったようですが、この3ヵ国は種々の理由で断ったと報道されています。
 オルバン首相はウクライナのハンガリー人少数民族を危険に晒したくないという理由で断ったようです。3月15日のハンガリー革命記念日に、4月の総選挙に向けた「平和大行進」が予定されていたことや、2月にプーチンを訪問して間もないことから、ロシアに忖度した結果だと考えられています。
 この時期、「ロシアの侵略反対」を叫ばない平和大行進は、ただの政権政党支援のためのデモンストレーションでしかありません。オルバン首相は、「我々の戦い、反対派への戦いの手を緩めてはならない」と野党結集への敵意をむき出しにしながら、ロシアの侵略は批判していません。地方からバスを仕立ててまで集めた示威的な「平和大行進」は、公金を使った政府支援のデモンストレーションでした。
 戦う相手を間違っていると言われても仕方がありません。総選挙活動を差し置きキエフに出向いていたなら、EU内での政治家としての評価を高めたでしょう。しかし、プーチンに忖度し、国内野党との「戦争」を選ぶオルバン首相には、破綻した東方外交の失点をなんとしても取り返したいという権力への執着心が見え隠れします。
2022.03.10 今、日本に到着すると・・・
        空港での水際コロナ対策緩和措置の現状
          
盛田常夫 (在ハンガリー、経済学者)


 3月1日より、日本でも水際対策の緩和が実行された。強制隔離対象国が大幅に減らされ、自主隔離期間も一律に短縮された。また、3回のワクチン接種が済んでいる場合には、自主隔離そのものを求めない措置も導入された。この緩和が実施されたのに伴い、筆者はすでに予約済の3月3日ヘルシンキ発のJAL便で、3月4日羽田空港に到着した。
 以下はその体験記です。なお、日本はまだロシアの航空機の発着を禁止しておらず、筆者が搭乗したJAL便はロシア領空を飛行して、羽田に到着しました。しかし、帰路はロシア上空を避けて、アラスカ経由になるような状況です。

ファーストラック(Fast Track)の導入
 これまで関西空港到着に限って導入されていたインターネットを使用した事前書類審査が、成田・羽田到着にも導入されました。入国者健康居場所確認アプリ(my SOS)に、事前書類審査アイコン(検疫手続事前登録)が追加され、これにそって規定書類を日本到着16時間前までに受付が完了(審査終了)すれば、到着後の書類確認作業をパスできるようになりました。
 事前手続きで提出しなければならない書類は以下の通りです。
1. 質問票(WEB上で回答)
2. 誓約書(WEB上で回答)
3. ワクチン接種証明書(画像を送信)
4. 出国前72時間以内の検査証明書(画像を送信)
 上記の4つの書類のうち、上から3つは簡単に済ますことができます。ただし、接種済ワクチンの種類が日本で受容されているもので、接種証明書には氏名、生年月日、ワクチン種類、ワクチン接種日、接種回数が明記された正式な証明書でなければなりません。EU諸国で公的機関が発行している証明書はそのままプリントアウトして、これをカメラで撮影して、その画像を送れば問題ありません。
 やや面倒なのは、4番目のPCR検査陰性証明書です。検査機関が英文で、氏名、住所、生年月日、パスポート番号、性別を明記し、かつ検査の日時(日・時刻)、検査方法、検査時刻を明記しているものでなければなりません。たんに氏名と陰性証明だけでは受け付けられません。したがって、英文検査証を発行できるクリニックか、分析機関でなければなりません。英文を出せない場合には、検査機関が労働厚生省指定の書式に必須事項を記入し、クリニックの印章とサインが必要です。この場合、一つの事項でも未記入だと受け付けられず、再送付の連絡がきます。
 私は労働厚生省指定の書式をクリニックに渡し、翌日に受け取りましたが、検査時刻が未記入だったことに気づかず、そのまま送付しました。長時間の審査の後に、欠陥書類として再送付の指示が来ました。検査時刻を書き入れ再送しましたが、なぜか「不完全」とまた再送付の指示が来ました。仕方なく、手元にあった分析機関の英文分析書を送りましたが、今度は画像不鮮明のため、未受理という返答が来ました。このため、写真を撮り直し、厚生省指定の書式と分析機関の検査書の2つの書類を送り、数時間経過して審査終了の返答がきました。最初に送付してから10数時間経過して、ようやく審査が完了しました。
 この事前審査が完了しない場合は、終わっていない書類の審査は到着後に行われることになります。完了している場合には、携帯電話の終了審査表示を見せるだけで、この書類審査ポイントを通過できるという仕組みになっています。

空港内を長距離移動
 機体が着陸しても、国土交通省の指示を受けるまで、機体から降りることはできません。混雑度を見ながら、指示が出るようです。幸い、私の到着時点の混雑度が低かったことから、5分程度の待機の後に、機体から外に出ることができました。
 問題はその後です。機体を降りてから最初のチェックポイントまでの距離がとても長いのです。私の感覚では1.5㎞程度だったと思います。距離を長くとっているのは、行列による混雑を緩和させるだけでなく、空港内には一定スペースを確保できる場所が限られているからです。しかも、「動く歩道」とは逆方向に向かうので、この長い行程のほとんどの部分は「動く歩道」を使えません。手荷物が多いと、この行程はかなりきついものです。
 この最初のチェックポイントで書類が確認されます。事前審査が終わっていれば、ここを簡単にパスできます。事前の審査が終了していない場合には、書類記入や提示書類の確認のために一定時間の拘束を受けます。このチェックが済むと、次はPCR検査を受けることになるのですが、隣接する部屋で行われるわけではなく、再び500mほどの距離を、階段を昇り降りしながら検査場まで歩きます。検査場に着くころには、汗をかき、喉がからからになります。しかし、検査場に入る入り口には、水を飲まないように指示書きがあります。唾液に水が混じると、検査にならないことは理解できますが、喉が渇いた状態で唾液を出すのは簡単ではありません。試験管に2㎝ほどの唾液が必要です。皆さん、かなり苦戦していました。
 係員に「これだけ喉が渇いていると、とても無理です」というと、それならテントの中で鼻咽頭ぬぐい液をとる検査がありますという。「こちらの方は検査に時間がかかるのですか」と聞くと、「唾液検査と変わりません」というので、お願いしました。
 検査が終わると、今度は検査結果待機場へ移動することになります。階段を昇降して、500mほど歩いたところに待機場がありました。ここにたどり着くまで、機体を降りてから少なくとも2㎞は歩いたでしょう。ここで、結果がでるまでほぼ30-40分待機します。
 検査終了番号がモニター表示されると、待機フロアのデスクで陰性(陽性)証明が得られます。陰性の場合は、そこから入国審査(パスポートコントロール)に向かい、それを終えてトランクを引き取るためにターンテイブルに向かいます。この距離もそれなりにあり、3-400mの距離を移動する必要があります。空港内の建物をぐるぐる回って、およそ2.5-3㎞の距離を歩いたことになります。
 私の場合、機体を降りてからここにたどり着くまで、およそ1時間半でした。すでにトランクはターンテイブルの横に並べられており、それをピックアップして税関コントロールを通過し、ようやく外に出ることができます。機体到着から1時間50分でした。

何を改善すべきか
 2月末まで維持された強制隔離措置を含む検疫体制は、カオスのような状況を生み出しました。機体を降りてから隔離指定宿泊所へ移動まで少なくとも7-8時間を要したと報告されています。しかも、どこへ連れていかれるのかは最後の瞬間まで分からないというのがほとんどだったようです。すべての入国者を強制隔離しようとすれば、宿泊施設を確保するのは至難の業です。初めから無理のある態勢でした。入国者を事前に分類して、接種回数と事前のPCR検査陰性を基準にして、強制隔離者を減らす必要がありました。
 3月1日から実施された緩和措置では強制隔離のほとんどが解除されて自主隔離に移り、3回接種者の自主隔離免除も初めて導入されました。これで入国者の身体的な負担が大きく減じられました。しかし、まだ、この態勢では一般旅行者を受け入れることはできません。そのネックになっているのが、空港でのPCR検査です。空港でPCR検査を実施する限り、1日に検査できる数に限りがありますから、多数の一般旅行者を受け入れることはできないでしょう。
 ヘルシンキ空港も羽田空港(国際線ターミナル)も、お土産屋さんはほとんどがシャッターを下ろしています。開いているのは飲食店だけで、しかも通常の半分程度のお店しか開けていません。旅行客が少なくて、店を開けても赤字が増えるだけだからでしょう。

PCR検査体制の変更が必要
 現在、接種証明があれば、欧州への入国は問題ありません。事前のPCR検査も空港でのPCR検査も必要ありません。ところが、日本への入国には接種証明だけでなく、出発72時間前のPCR検査陰性証明に加え、到着時のPCR検査の陰性証明が必須となっています。このうち、入国者受け入れの最大のネックになっているのが、空港でのPCR検査です。これを維持している限り、一定数以上の入国者を受け入れることができません。
 出発72時間以内のPCR検査陰性を求めているなら、少なくともワクチン2回接種者の空港でのPCR検査は不要とすべきでしょう。そうすれば、コロナ以前の状況に近い入国者を受け入れることは可能です。空港での検査は接種回数が1回、あるいは2回目の接種から半年以上経過している入国者(さらにサーマルカメラで発熱が確認できる入国者)に限定して、PCR検査対象者を限定することが必要です。そうすれば、混雑度を緩和できるし、ワクチン接種者の多くを検査なしでパスさせることできます。
 事前のPCR検査結果を前提にするなら、基本的に空港での検査数を限定しても問題ないはずです。こうやって入国条件の自由度を高めないと、国際旅行にかかわる事業者の存続が不可能になります。規制することを自己目的にするのではなく、より多くの入国者を受け入れても問題ない態勢を構築することが必要です。その最大のネックは空港でのPCR検査態勢です。この態勢を緩和しない限り、1日に入国できる人数を制限せざるをえません。いっそうの緩和が必要です。

2022.03.09 ウクライナに軍事侵攻したロシアへの抗議の声高まる
        広範な諸団体が声明や談話を発表

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する抗議の声は世界的な規模に広がりつつあるが、日本でも日ごとにそうした声が広がり、高まりつつある。そうした動きを端的に示しているのが全国各地で始まった集会やデモ行進で、それらは新聞・テレビで報道されているが、その一方で、連日、多くの団体から発せられている抗議の声はマスメディアではほとんど報じられていない。そこで、ロシア軍による侵攻が始まった2月24日以降、抗議の声を発した団体名を紹介する。もちろん、声を挙げた団体すべてでなく、私の目に触れたものだけに過ぎない。それも、中央レベル中心のリストアップであって、地方レベルの団体はごく一部しか含まれていない。

 「抗議の声」は声明、談話、メッセージなどといった形態をとって発せられたものが大部分で、おおまかに言って団体名で発表したものと、団体の代表、あるいは責任者の名で発表したものに分かれる。
 団体名を見て分かるように、ロシア軍の軍事侵攻に真っ先に反応したのは平和団体、被爆者団体、労働団体、宗教団体で、それらを追いかけるように消費者団体、文化団体、学術団体、大学などが続いた。

 声明、談話、メッセージの内容は、それぞれ表現は違うが、ロシア政府に「即時停戦」「軍隊の撤退」を求める点では一致している。いずれにせよ、これだけ広範な各界の諸団体が「反戦平和」で一斉に声を挙げたのは日本では初めてのことで、今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻とその後の展開が、日本国民にとっていかに衝撃的なものであったかがうかがわれる。

 ロシア政府に対して抗議を表明した団体は次の通り。(3月7日現在)

2月24日
 日本平和委員会
 日本労働組合総連合会(清水秀行事務局長)
 全国商工団体連合会(岡崎民人事務局長)
 日本宗教者平和協議会

2月25日
 広島の被爆者7団体
 戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
 日本原水爆被害者団体協議会(木戸季市事務局長)
 原水爆禁止日本協議会
 非核の政府を求める会
 全国労働組合総連合(黒澤幸一事務局長)
 日本キリスト教協議会
 日本カトリック正義と平和協議会
 日本バプテスト連盟理事会
 日本ペンクラブ(各国のペンセンターと連名で)
 文化団体連絡会議幹事会
 NPO法人原子力資料情報室
 東京大学(藤井輝夫総長)
 広島大学(越智光夫学長)
 全国知事会(平井伸治会長=鳥取県知事)

2月26日
 声なき声の会
 日本子どもを守る会
 全国空襲被害者連絡協議会(吉田由美子共同代表・黒岩哲彦運営委員長)
 美術家平和会議
 新潟県立大学(若杉隆平学長)

2月27日
 日本キリスト教会
 日本パグウォッシュ会議
 日本中国友好協会

2月28日
 長崎の被爆者5団体
 世界平和アピール七人委員会
 原水爆禁止日本国民会議
 主婦連合会
 国際婦人年連絡会
 日本消費者連盟
 全国保険医団体連合会
 日本障害者協議会(藤井克德代表)
 全日本仏教会(戸松義晴理事長)
 日本YWCA(藤谷佐斗子会長・尾崎裕美子総幹事)
 日本学術会議(梶田隆章会長)
 日本平和学会理事会有志
 日本漫画家協会
 日本ロシア文学会(中村唯史理事会会長)
 国際基督教大学(岩切正一郎学長)
 北海道大学(宝金凊博学長)
 立命館大学(仲谷善雄総長)

3月1日
 核兵器廃絶・平和建設国民会議(岩附安幸事務局長)
 平和を願い戦争に反対する戦没者遺族の会(平和遺族会)
 日本出版労働組合連合会中央執行委員会
 日本生活協同組合連合会(嶋田裕之代表理事統括専務)
 日本医療福祉生活協同組合連合会(高橋淳会長)
 真宗大谷派(東本願寺・木越渉宗務総長)
 臨済宗妙心寺派(野口善敬宗務総長)
 日本同盟基督教団
 日本バブテスト教会連合
 創価学会青年部
 安全保障関連法に反対する学者の会呼びかけ人一同

3月2日
 日本遺族会
 日本私立大学教職員組合連合中央執行委員会
 東京基督教大学(山口陽一学長)
 長崎大学(河野茂学長)
 明治大学(大六野耕作学長)
 立教大学(西原廉太総長)

3月3日
 日本私立大学連盟
 九州大学(石橋達朗総長)

3月4日
 日本弁護士連合会(荒中会長)
 国立大学協会

3月7日
 日本ジャーナリスト会議