2021.04.19 新型コロナのワクチン、私は「絶対に打たない!」これだけの理由(その1)
~新型コロナはワクチンが必要なほど危険な感染症ではない~

岡田幹治(フリーライター)

 新型コロナワクチンの接種が4月12日から65歳以上の高齢者向けに始まったが、後期高齢者である私は「絶対に打たない!」と決めている。その主な理由を挙げれば――。
 1 日本人にとって新型コロナウイルス感染症は、多数の国民の生命を脅かすような危険な病気ではない。日本人にワクチンを接種した場合、高齢者・若者いずれでも利益より害が上回るという報告が公表されている。
2 日本で接種される3種類のワクチンは、臨床試験(治験)の期間が短く、免疫の持続性や長期的な安全性は評価できていない。75歳以上は対象者が十分でなく、有効性も安全性も評価されていない、
3 日本で接種される「遺伝子ワクチン」は、安全性が保証されたものではないと、内外の何人もの医師や研究者が指摘している、
4 日本を含めて接種が始まった国々では、深刻な有害事象(健康被害)が多数報告されており、その多くは接種が原因だと考えられる。
5 ワクチン接種はウイルスの変異を促進するので、次々に発生する変異株に対応するワクチンの開発が必要になり、変異とワクチン開発のイタチごっこが続く。ワクチンは新型コロナ対策の「決め手」にはならない――などだ。
 第一の論点から説明しよう。

◆変異株への感染が拡大中
 本題に入る前に、最近の新規感染者の増加傾向について解説しておこう。3月以降、各地で感染者が増加しているのは、冬の流行(第3波といわれているもの)のリバウンド(再拡大)ではなく、複数の変異株(英国株、ブラジル株、南アフリカ株など)の登場によるものだと、川村孝・京都大学名誉教授(疫学)はみている。
 これらの変異株に対して感染しやすい人(何らかの理由で免疫力が弱い人や、新型コロナに感染して免疫を得たものの時間が経って免疫力が弱くなった人など)に感染が広がっているが、気温が上がればウイルスの活力が衰えるので、流行の規模(感染者の総数)は冬の流行時ほどにはならず、流行期間も比較的短期間で済むだろうと同名誉教授は予測している。
 ウイルスの世界では絶え間なく変異株が生まれて競い合い、姿をくらましやすく、感染力が強いものが生き残る。その場合、ウイルスは宿主が死んでしまえば存在できないものなので、生き残るのは弱毒化するのが一般的な傾向だ。
 国内では昨年の春から夏にかけて、中国で発見された株(武漢型と呼ばれる)から欧州で発見された株(欧州型と呼ばれる)へ主役が交代した。現在も同じような主役交代劇が進行中と考えられる。
 いま感染者が増えている変異株がどのような特徴をもつか完全には判明していないため十分な警戒が必要だが、感染予防対策としてはこれまでと同じことを続けるしかない。

◆100万人あたりの死者、日本は米国の20分の1以下
 現状をそのように認識したうえで、本題に入ろう。
 新型コロナワクチンについて政府は国民に努力義務を課したうえで、個々人が接種のメリットとリスクを考えて判断するよう求めている。私は情報を集めて検討し、リスクの方がはるかに大きいと判断した。
 その第一の理由は、日本人にとって新型コロナウイルス感染症は多数の国民の生命を脅かすような感染症ではないということだ。
 感染者数(PCR検査の陽性者数)が世界最大の米国と日本を比べてみよう。米国は昨年1月以来約1年3カ月間の累計感染者が約3100万人(総人口の9.4%)、死亡者は約56万人(同0.17%)だ。これに対して日本は累計感染者が約50万人(同0。4%)、死亡者は約9300人(同0.007%)にすぎない(いずれも4月9日現在)。
 言い換えると、米国人にとって新型コロナはおよそ10人に1人が感染し、1000人に1~2人が死亡するきわめて深刻な感染症だが、日本人にとっては200~300人に1人が感染し、死亡するのは1万人に1人にも満たない感染症だ。
 この対比は人口100万人あたりの死亡者数でも確認できる。米国が1702人なのに対し日本は73.3人で、米国の20分の1以下だ。
 ちなみに100万人あたりの死亡者数で日本は世界で96位だ。日本より多いのは、英国1913人,イタリア1865人、ブラジル1651人、フランス1486人など欧米や中東・南アジアの国々であり、日本より少ないのは韓国33.8人、中国3.4人など東アジア・東南アジア・オセアニア・アフリカの国々だ(2月24日時点)。
 新聞やテレビでは欧米諸国の状況が連日伝えられ、多くの人は同じようなことが日本でも起きるように錯覚しているが、実は欧米と日本では事情は全く異なるのだ。このことはワクチンについても言える。

◆40歳代以下では「ただの風邪」
 国内の状況を詳しくみてみよう。新型コロナの人口死亡率(該当する年代の人口に占める死亡者の割合)を年代別にみると、10歳未満~60歳代は0.00%、70歳代が0.01%で、80歳以上でも0.04%だ。つまり新型コロナで死亡するのは70歳代で1万人に1人、80歳以上でも1万人に4人である。
 新型コロナは、40歳代以下ではほぼ重症化さえしない「ただの風邪」であり、ごく少数の感染者で免疫の暴走(サイトカイン・ストーム)が起きて血栓症や間質性肺炎などを起こす病気なのだ。
 重症化して死亡するのは、何らかの事情で免疫力が弱い人たちだ。有名人でいえば、志村けんさんは昼夜不規則な生活を続けていたこと、岡江久美子さんは抗がん剤の治療を受けていたことが伝えられている。また若くして死亡した関取の勝武士は糖尿病を患っていたという。ストレスと睡眠不足も、抗がん剤も、糖尿病も免疫力を低下させる。
 季節性インフルエンザと新型コロナはともに、弱毒性のウイルスを病原体とする呼吸器系疾患の感染症だ。二つを比べると、インフルエンザは年に1000万人ほどが感染し、直接死が約3000人、関連死を合わせると1万人前後が死亡していた。
 これに対して新型コロナは、重症者・重篤者の入院が長期間になる特性があり、致死率(感染者に占める死亡者の割合)がインフルエンザより高いものの、感染者はきわめて少ないので、「年間の国民の生命への影響はインフルエンザとほぼ同等」と川村名誉教授は言う。
 インフルエンザは流行の最盛期には1日に60万人もの新規感染者が出るが、そういう時期でも緊急事態宣言が発令されたり、外出自粛や飲食店の営業時間短縮が要請されたりすることはなかった。感染者が集中した学校などで学級閉鎖などが実施される程度だった。
 新型コロナも、重症者を治療できるように医療体制を整えておけば、緊急事態宣言などを発出する必要のない感染症なのだ。

◆日本におけるワクチン接種の利益と害を試算
 累計感染者が国民の1%に満たない日本で、新型コロナのワクチンを接種する必要があるのだろうか。そうした問題意識から、NPO法人医薬ビジランスセンター(NPOJIP、浜六郎理事長)は、日本で新型コロナワクチンを接種したときの効果と害(副作用)について調べた。このNPOは製薬企業の影響を受けない中立的立場で医薬品についての情報を提供している。
 調査をまとめた「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)用ワクチン:日本では有用か?」(2月9日公表)によれば、若者はもちろん80歳以上の高齢者でさえ、ワクチンによって減らせる死亡者数よりワクチン接種による死亡者数の方が多くなるという。
次のような内容だ――。
 ファイザー・ビオンテック社製とモデルナ社製ワクチンの公表データによると、二つのワクチンは2回目接種から1.5~2か月間で「症状のある感染者(PCR検査の陽性者)」を予防する割合(顕性感染防止率)は95%と高かったが、「症状の出ない感染者」を予防する効果(不顕性感染防止率)は不明だった(死亡への影響も不明)。
 これに対しアストラゼネカ社製のワクチンは、顕性感染防止率が60%と2社より劣り、不顕性感染防止の効果はゼロだった。そのうえ自己免疫性の精神疾患の発症が自然発生の10~80倍もあった。
 一方、ファイザーワクチンの接種が始まったノルウェーでは、短期間の間に75歳以上の高齢接種者が1300人に1人の割合で死亡している。これらは発熱や吐き気などありふれた症状がきっかけになった死亡で、ワクチンとの関連が指摘されている。

◆高齢者でも若者でも害が利益を上回る
 ワクチンが有用かどうかの計算は次のように行なった。
1 ワクチンによる感染防止率95%が1年間持続し、それが死亡予防効果にも適用できると仮定する、2 日本の新型コロナの死亡者が今後も増加してこれまでの2倍に増えると推定する。3 ワクチンの影響による短期間の死亡者はノルウェーと同程度と仮定する、4 以上を前提に日本で新型コロナによる死者を1人減らすには何人に接種する必要があるかを年代別に計算する。
 その結果、80歳以上は1700人の接種、70歳代は6400人の接種、60歳代では2万人接種が必要であり、30歳未満では600万人に接種してはじめて新型コロナによる死者を1人減らことができるという結果になった。
 高齢者の場合、接種した1300人に1人の割合で死亡者が出るのだから、1700人に接種すれば1人以上の死亡者が出る計算になる。つまり日本では80歳以上でさえワクチン接種による効果より害の方が大きいわけだ。
 まして30歳未満の人たちは1人の死亡を減らすには600万人の接種が必要になるが、600万人に接種したとき、いったい何人にアナフィラキシー(重いアレルギー症状)や自己免疫疾患、睡眠中の突然死などが起こるか測りしれない――と報告は述べている。
 以上が「新型コロナワクチンは絶対に打たない!」と私が決めた第一の理由だ。第二以下の理由については稿を改めて説明する(続く)。
2021.03.31 コロナのおかげで
           韓国通信NO664
           
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 コロナの「おかげ」とは不適切な表現かも知れない。全世界の死者がすでに300万人を超し、この先何人が犠牲になるかわからない。明日はわが身にふりかかるかも知れないコロナはいわば疫病神。恐怖感と不安で過ごした一年間だった。おかげさまと感謝するようなものではないのだが。
 すべてコロナのせいにして、心がパサパサに乾いている自分を見つけた。死の恐怖と生きることへの不安が心から離れなくなっていた。茨木のり子の詩、「自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ」が胸にこたえた。
 さらに彼女の「さくら」という詩が私の心に止めを刺す。

          さくらふぶきの下を
          ふ ら ら と歩けば           
          一瞬 
          名僧のごとくに わかるのです
          死こそ常態 
          生は いとしき蜃気楼と

 迷走していた気持ちが少し落ち着いた。死こそ常態という境地からは程遠いが、蜃気楼のように生きることも悪くないと思った。それでいて生きることはいとおしいものなのだ。
 「禍を転じて福と為す」「禍福はあざなえる縄の如しと」ともいう。
 コロナでゆとりを失いながら、10年前の原発事故に思いを馳せて出した結論は、悟りとは程遠い俗人の生き方だ。自分自身をありのままに生きるしかない。笑われるのを覚悟して最近の生活を綴った。

<Go Toトラベルから始まった>
 昨年10月、友人夫妻と茨城県の鵜の岬へ2泊3日の旅行に出かけた。頼んだわけではないのに旅行代金が割引され、金券までをもらった。評判の悪い「Go Toトラベル」のおかげである。金券で高価なウォーキング用のストックを2組買った。
 「胸を張り視線は前方15メートル先」と、ポールウォーキング講習会で指導をうけ、ちょっとオシャレをして歩き回るようになってから4か月になる。放射能で汚染された手賀沼はこれまで敬遠してきたが、最近はその魅力に取りつかれ週に2、3回は訪れるようになった。ウォーキングは柏、茨城県の守谷、牛久沼まで足を延ばすまでになったが、ホームグランドはあくまでも手賀沼周辺である。
 ウォーキングを始めた秋から冬へ、今は百花繚乱、桜が満開の時期を迎えた。植物の小さな変化にも気づかされ、鳥たちの姿を追い求める毎日である。ムクドリ、セキレイ、ヒヨドリ、ホオジロ、カモ、カモメ、オオバンを友として歩く。行けば白鳥の姿を見ない日はない。 
 一度見ただけで心を奪われたカワセミを探しては木を見上げ、葦原に耳と目をこらす。
 妻はもっぱら鳥や植物に関心を向けるが、私は人と話をするのが好きだ。コロナに負けず歩く孤独な人たちとの出会い。誰とも懐かしく自然に話しができるのがうれしい。
 ウソの塊みたいな政治家と官僚たちのかわりに、打算のない純な人たちに出会えるなんてコロナのおかげだ。声をかけて立ち話、微笑んで別れる。私の中で失われたものが蘇る。
 10年以上通っていたスポーツクラブをやめた。こんなに自然が豊かな町に住みながらジムに通う人間の気が知れないとつぶやいた友人を思い出す。援農ボランティアの中心メンバーで3年前に亡くなった。コロナで相次ぐ脱会者に辻褄をあわせるかのようにスダジオレッスンとスタッフが削減された。資本主義的な健康づくりに不純さを感じた。これもコロナのおかげだ。スポーツクラブで知り合った友人との別れは少し寂しい気もするが。

<おかげで時間ができた。おかげでテレビが…>
 NHKの連ドラ、8時15分から韓国のドラマを必ず見る毎日。コマーシャルの間、朝日のモーニングショーに切り替えるという二刀流。ドラマ「世界で一番可愛い私の娘」は三人の娘と母親の愛情物語。韓民族らしい母と子の情に圧倒された。
 ドラマと言えば、昨年秋から5か月かけて『ソウル1945』71巻を見たのも収穫だった。植民地時代から解放、朝鮮戦争戦のなかで翻弄された家族と友人を描いた。韓半島の分断との現実を根源から問うた作品は韓国で2006年に放映された話題作。
 NHKの正午と夜7時のニュースとTBSのニュース23を聞き比べるのが日課となった。土曜夕方の「報道特集」と日曜の「サンデーモーニング」も欠かさない。NHKの報道がいかに「客観報道」を隠れ蓑にした官製報道ということがわかる。このまま報道を垂れ流し続ければ行き着く先はどこかまるで分っていない。
 中国を擁護する気持ちは全くないが、バイデン米政権の中国に対する「人権」「軍備増強」批判のシリ馬に乗り、米中戦争必至というシナリオのお先棒をNHKが担いでいるように見える。他国を批判する資格のない国が大義を振りかざし戦争をしてきた歴史を繰り返してはならない。核戦争になれば日本は消滅する。核兵器禁止条約に背を向けた米・中・北朝鮮・日・韓を話し合いのテーブルに着かせる冷静さが求められている。国内の矛盾に目をそらすためにコロナ不安に乗じて国際緊張を高めようとする意図が見える。日本最大の知性集団であるNHKに頑張って欲しい。
 国会中継をじっくり見るようになった。興味を削がれる与党側の質問は不要だ。与党の中で議論すればいい。山積する問題を限られた時間内で追及する野党に同情するが、多数与党は「糠に釘」、実質答弁拒否が続いている。国会の機能を回復させるには選挙で自公を大敗させるしかない。国会中継を注視しよう。テレビ中継のない委員会はひどいもの。河野太郎がふんぞり返って共産党の議員に横柄に答えている録画を見たことがある。
 
<おかげで読書が…>
 読書漬けの毎日だ。「ながら」族のクセが抜けずラジオはつけっぱなし。何冊もの本を併読しているのでやや混乱名気味なうえ、次から次へと読みたい本が現れる。
 『親鸞』三田誠広著 歴史小説である。2016年に読んだものを再読中。彼には空海、日蓮を扱った小説もある。仏事は法事以外に縁はないが、仏教の形成史の物語は日本を知る、自分を知るうえで興味は尽きない。南無阿弥陀仏、「善人なおもて 往生を 遂ぐ 況や悪人を や」の深奥に迫りたい。流し読みはできない。
 『水滸伝』北方謙三著 中国の古典を小説化した大衆小説の「力作」。以前から梁山泊に憧れていた。108人の輝く星のような英雄たちが宋時代末期の革命を目指す物語。かつて私が所属した労働組合も100人足らず。少数でも情熱と能力を傾ければ腐った会社を打ち負かすことができるはずと組合を梁山泊に重ねた。1970年代は闘う少数者たちが壮んに抗った時代だった。ゴミ捨て場から拾って読み始めた。21冊のうち11冊目に入った。久しぶりに革命のロマンに心は踊る。
 『わが身に刻まれた八月』 日帝強占強制動員真相究明委員会編  広島・長崎に強制動員され原爆を被災し生き残った韓国人20人の証言が翻訳出版された。600ページに及ぶ資料集のうち、私が広島の三菱重工で働かされた洪順義さん(87)の証言の翻訳を担当した。従軍慰安婦と同様に強制徴用された正確な人数はいまだにはっきりしない。「すべて解決ずみ」と云うにはあまりにもズサンな徴用と実態が次々と明らかになる。方言交じりの文章の翻訳に苦労した、歴史に刻まれた貴重な文献である。購読を希望される方は、カンパとして千円。ゆうちょ 銀行 振替口座 00930-9-297182/ 加入者名は真相究明ネット/ 通信欄に 「カンパ・我が身に刻まれた八月」、振り込み人の住所氏名を記入のうえ申し込んで欲しい。
 『韓日逆転』イ・ミョンチャン著 『水滸伝』の登場人物は約200人。名前が覚えられず苦労しているが、こちらの解読はわからない単語続出で悪戦苦闘。
 最近の嫌韓ヘイトは日本の政治と経済の行き詰まりを反映しているという著者の指摘は厳しく的を射たものだ。選抜高校野球大会で初戦を勝ち抜いた京都国際学園の校歌が韓国語だったのにはビックリした。韓国系の学校だから校歌が韓国語でも驚くことはないが、それより全校生徒130人ばかりのミニ高校が強豪の多い京都の代表に選ばれたことのほうが断然興味をひく。SNSでは韓国系の高校の甲子園出場に嫌韓の渦。二回戦以降の活躍ぶりと反響が楽しみだ。
 2006年1月、強豪国見高校を破りベスト8に勝ち進んだ大阪朝鮮高校のサッカー応援に出かけたことがある。準決勝のPK戦で敗れ、惜しくも国立競技場行きは果たせなかったが市原のサッカー場は大いに盛り上がった。あの頃と比べるとわが国の社会の雰囲気はずいぶんと様変わりした。
 只今、翻訳中『金薬局の娘たち』朴景利著  
 『人新世の「資本論」』斎藤幸平著、『コロナ後の世界を生きる』村上洋一郎編も出番待ち。

 オリンピックの聖火リレーが始まった。安倍から菅へのリレーの行く末に何が待ち構えているのか。中止となった1940年のオリンピックは紀元2600年祭と合わせ国威発揚を狙ったが、日中戦争泥沼化、翌年真珠湾攻撃へと続いた。コロナの感染拡大が止まらない。

2021.03.30 今こそ通信放送認可の第三者委員会の設立を
          菅政権下のメディア~記者会見、NHK、東北新社汚職、

隈井孝雄(ジャーナリスト)
 

アメリカ大統領がトランプからバイデンに変わった。
 バイデン政権が就任早々の1月20日、真っ先に取り組んだのは「言論の自由」だった。
 1月20日、新大統領の仕事ぶりに接しようと集まった記者団の前に現れたのは新任のジェン・サキ報道官。「私は独立した報道に深い敬意を持っている。米国民に正確な情報を提供する目標は共有している」、「(大統領も私も)透明性と真実に重きを置く」と語った。
 前のトランプ政権とは大きな違いだ。

日本の記者会見
 本は他国のことを高み見物してはいられない。
 菅首相は8年の長きにわたり官房長官として政治をとりしきってきたが、その間に様々なネガティブルールを作り上げてきた。例えばコロナが再拡大後初めての1月4日の総理記者会見は6人の記者が質問しただけで打ち切られた。「幹事社以外は一人1問、再質問は認めない」、「会見出席は一社一人に限る」というのが、彼が設定したルールだ。
 官邸会見室は120席あったのがコロナを理由に29席に減らされた。そのうち内閣記者会外加盟社が19席を占める。残りの10席を専門記者会、雑誌協会、ネット協会、外国メディア、フリー記者が抽選で分け合う。(ちなみに、内閣記者会の正会員社は103社、365人)。
 2月28日に、大阪など6府県の緊急事態を解除した際には、首相会見も開かず、26日にぶらさがり(立ち話)で記者たちの質問に答えるにとどまった。菅首相が首相広報担当にした、汚職問題が発生した山田真貴子広報官を擁護するためであったとみられる。3月1日山田広報官は辞職した。
 官邸記者クラブの一問一答を聞いていても民主主義からは程遠い、切って捨てるような返答か政府から帰ってくるだけだ。「透明性」と「真実」を回復したアメリカのメディアと政治の関係はうらやましい限りだ。(ホワイトハウスの記者会証を持つ記者は750人前後、会見室は狭い部屋で49席を分け合っている)。

問題抱えるNHK
 放送に目を転じると、NHKと政府の癒着が著しい。かんぽの不正を伝える番組を中止(2018年4月)させた張本人である森下俊三氏(当時経営委員長代行)がその後経営委員長に昇格、今回再任された(3/9)。経営委員会が番組には介入してはならないという放送法があるのを無視して菅首相が決定したものである。森下氏は今回問題になっているNTT出身だ。経営委員会の委員長職務代行に選任された村田晃嗣(同志社大教授)は右翼的言辞で知られる。
 一方、市民の間に人気のNHK、有馬嘉男アナ、武田真一アナの降板が発表された。昨年10月首相に選出された初出演(10/26)で、有馬アナは日本学術会議問題について質問を重ねたことが原因で、官邸の怒りを買い、降板につながったといえる。原聖樹政治部長のもとに官邸から𠮟責の電話がかかってきたと伝えられる(週刊文春2/25)
 武田アナの場合は二階博幹事長の出演に際し、「政府のコロナ対策は十分なのか、さらに打つ手があるとすれば、何が必要か」を問いただした。それが二階氏の逆鱗を買ったのだといわれる(2/25週刊文春)。
 NHKスペシャルで「令和未来会議、どうする?東京オリンピック・パラリンピック」という番組があるとTVガイドに載っていた。見ようと思って待ち構えていたところ、内容が全面差し替えになり、「わたしたちの目が危ない」というどうでもいいような番組に差し替えられた。前例のない出来事だ。週刊現代(2/13)が「Nスぺ五輪特集がお蔵入り、局内騒然、官邸の影」、「前田晃伸会長が総理に言われて差し替えたか、忖度したかのどちらかだ」、と報じた。五輪問題のNHKスペシャルは、諸外国からの観客を受け入れないことが決まった後、3月22日にようやく放送されたが、内容は薄いものだった。
 NHKがかくも政府、自民党に屈している姿は、民主主義とは程遠い。

「東北新社」「NTT」汚職
 ところで最近「東北新社」という会社の汚職が問題になっている。この会社は、テレビ初期に、アメリカから「ハイウエイ・パトロール」など多くのテレビ映画を輸入して、生まれたての日本のテレビ局に売り込んできた会社だ。その後映画の輸入、配給、吹替、字幕、CM制作などを手掛けた。
 1984年からスターチャンネルという映画チャンネルで衛星放送に乗り出した。そして2018年から新たに開局したのがBSの洋画専門「ザ・シネマ4K」、スカパー「囲碁将棋チャンネル」だった。
 菅首相の長男らが、許認可権限を持つ総務省の幹部らと会食したのが、2016年7月、認定を申請したのが同年10月。地上放送、衛星放送などを総合的に所管している総務省に認可するよう協力に働きかけたことは、容易に想像できる。
「ザ・シネマ4K」の放送は近く姿を消す。申請に虚偽があったとして認可が取り消されるからだ。

放送・通信の管理監督は独立した第三者委員会が世界の常識
 NHKも民放も衛星放送も放送の許認可権を持っているのは総務省だ。
 日本では当たり前のように放送局が政府(総務省)の傘下に置かれているが、国が放送を直接管理しているのは世界では、中国、ロシア、北朝鮮、ベトナムの4か国だけだ。その他の国々では言論、表現の自由と客観性を保つために放送の許認可は第3者機委員会にゆだねている。アメリカは、連邦通信委員会、イギリスは放送通信庁、韓国は放送委員会などだ。ドイツでは州ごとに市民活動組織、文化芸術団体の代表者が放送局の管理監督にあたっている。付言すれば、イギリス、アメリカをはじめ多くの国で、電話、各種デジタル通信なども、放送に関与する第3者委員会が管掌している。通信放送一体化の時代にふさわしい体制だ。
 今回日本で、衛星放送の会社東北新社とNTTで認可や、制度変更をめぐって汚職が発生しているのは、偶然のことではない。

恣意的な放送介入多発
 日本では政府がNHKの人事を左右するだけではなく、番組の気に入らないものを排除している。菅首相、二階幹事長らのNHK出演時のアナウンサー更迭問題(前出)にとどまらず安部前首相(当時は内閣副官房長官)ETV2001「問われる戦時性暴力」介入( 20011年1月)、高市早苗元総務相の報道ステーション批判の際、「公平性を欠く放送が繰り返されれば、電波免許を取り上げる」発言(2016年2月)、など政府与党による放送への介入は枚挙にいとまない。
 私は以前から有識者らによる第三者委員会に放送行政をゆだねることを提案してきた。この機会にその実現へ向けて、発言を強めていきたい、
2021.03.27  緊急事態宣言は新型コロナへの無理解が生んだ大失政だ!
          ~必要性も効果もないのに被害は深刻~

岡田幹治 (フリーライター)

 菅義偉首相が1月7日に出した新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が3月21日、再延長されていた東京都など4都県でも解除された。
 いま、「第3波」と呼ばれる流行の性質や宣言に基づく対策の効果を検証すると、延長・再延長はもとより宣言発出そのものが不必要だったことがわかる。宣言は新型コロナに関する無理解が生んだ大失政だったと筆者は考えている。
 宣言はなぜ不必要だったのか。主な理由は、①「第3波」は季節が冬になったため起きた流行であり、住民の気の緩みが引き起こしたものではない、②飲食店の営業時間短縮を柱とする感染抑制対策はほとんど効果がなかった、③医療の逼迫は医療体制の整備で解決すべきものであり、感染者減らしで解決しようとするのは筋が違う――の三つだ。

◆冬に流行し春には終息する
 新型コロナやインフルエンザなど「弱毒性ウイルスによる呼吸器感染症」は、晩秋から初冬にかけて流行が始まる。気温が下がってウイルスが活性を取り戻すからだ。
 感染症の研究歴が長い川村孝・京都大学名誉教授によれば、流行が始まると新規感染者は増え続け、ピークに達すると、しばらく高原状態を続けた後、下落に転じる。新規感染者は多少の上下動をともなって減っていき、暖かくなる3月末か4月上旬までには終息する。
 感染するのは免疫力が弱いなど「感染しやすい人」だ。一般に高齢者や持病のある人は免疫力が弱く、睡眠不足などで免疫力が一時的に下がる人もいる。
 流行が終息してもウイルスが完全にいなくなるわけではない。その後も少数の感染者を出しながら生き残り、冬が近づくと再び流行が始まる。梅雨時や夏に小さな流行がある年もある(「新型コロナウイルス感染症の総括」2月24日など)。

緊急事態宣言は新型コロナへの無理解が生んだ大失政だ!
 昨年11月末以降の新規感染者数(PCR検査の陽性者数)の動きをグラフに示した。グラフの流行曲線は報告数(青線)と「7日間の移動平均」(日曜日から土曜日までの平均値を水曜日の値にする=赤線)の二通りが示されているが、曜日による変動をならした移動平均がわかりやすい。
 グラフの感染者数は発表日に基づいている。感染から検査結果発表までに1週間以上かかるから。実際の感染日(推定感染日)はグラフより一週間以上前になる。
 グラフによれば、新型コロナの感染者は昨年の年末から年初にかけて(感染日でいえば昨年12月下旬に)ピークに達し、高原状態が10日ほど続いて下降に転じ、以後、多少の上下動を伴いながら減少しつつある。
 菅首相の緊急事態宣言は、流行のピークを過ぎてから発出されたことがわかる。

◆年末年始に激増したPCR検査
 グラフによれば感染者数は昨年末から年始にかけて激増しているが、この激増は自然現象だけでは説明がつかない。PCR検査の激増が影響していると考えられる。
 いまは「PCR検査の陽性者」を「感染者」とみなしているから、感染者(陽性者)数は検査数に左右される。その検査数が昨年夏から増え、とくに年末年始に激増した。
 東京都を例にとると、昨年3~4月(第一波と呼ばれている時期)には一日の検査数が500件前後だったが、8月(第二波と呼ばれている時期)に5000件程度に増え、12月には1万件を超える日が目立つようになり、今年1月4日には1万6000件を超えた。
検査件数が増えた一つの理由は、PCR検査が昨年5月から公的保険で認められるようになったことだ。PCR検査1件にかかる試薬などのコストは8000円ほどだが(人件費を除く)、診療報酬は1万3500円。PCR検査は確実に利益の出るビジネスになり、検査を自ら手掛けるクリニックなどが増えた。
 そのうえ年末近くになって、53歳の羽田雄一郎参院議員がコロナで死亡したと伝えられ、検査希望者が急増したと考えられる。

 いずれにせよ、同じ「感染者数」でも最近の数値と昨年4月ごろの数値では意味が異なることに注意しなければならない。
 「最初の緊急事態宣言が解除された昨年5月25日の東京の新規感染者はわずか8人だったが、今回はその時と比べて感染者数が格段に多い」(西浦博・京都大学大学院教授)といった指摘がよく聞かれるが、昨年5月ごろの感染者数と最近の感染者数を同じように扱うのは誤りだ。
 感染の広がりをより正確に示しているのは「陽性率」(検査数に占める陽性者数の割合)だ。東京都の場合、昨年11月初旬には4%以下だったが、12月25日に8.1%になり、今年1月7日には14.4%に達した(いずれも発表日)。
 その後、徐々に下がり、最近は3月5~11日の週が3.3%(一日平均の検査数は約7000件)、3月12~18日は3.5%(同約6700)となっている。

◆日本人は変異株にもある程度の免疫を持つ
 気がかりなのは変異株(変異した新型コロナウイルス)の広がりだ。
 英国・南アフリカ・ブラジルで確認された変異株のほか国内で確認されたものもあり、英国と南アフリカで確認されたものは感染力が従来のものより強いといわれる。
 変異株は毒性が強くなったり、ワクチンが効かなくなったりすることがあるので、きちんとした分析結果が出るまで警戒は怠れない。
 ただしウイルスは宿主(ヒトや他の生物)の中でしか生きられない存在であり、宿主を殺してしまうような強毒性のウイルスは広まりにくい。したがって時間が経つにつれ弱毒化していくのが普通だ。

 日本人はよく風邪をひくが、風邪の原因の15%程度は4種のヒトコロナウイルス(ヒトに感染するコロナウイルス)だ。風邪を何度もひいているうちに日本人の多くはコロナウイルスに対する免疫を持つようになった(これが、日本人の人口当たりの感染者・死者が欧米諸国などより二けたも少ない理由の一つだ)。また新型コロナそのものに感染して免疫を持った人もいる。これらの人たちは新型コロナの変異株に対してもある程度の免疫は持っていると考えられる。
 こうした事情を踏まえて川村名誉教授は、変異種の広がりによって感染者は多少増えることがあっても、流行の推移に大きな影響を与えることはないのではないかと予測している。
 変異株はすでに国内で感染が広がりつつあり、いまさら水際作戦を強化しても意味がない。予防策も手洗いやマスクの着用といった基本的対策を続けるしかない。

◆人為的対策で撲滅は無理
 緊急事態宣言は不要だったと考える第二の理由に話を進めよう。
 弱毒性ウイルスはカビや雑草と同じように、ちょっとした隙を見つけて広がっていく。国境の完全封鎖や外出の完全禁止といった措置を取らないかぎり、人為的な対策で侵入を防いだり撲滅したりすることはできない。感染した場合、発症前でも他人にうつすことがあるし、ヒト→モノ→ヒトという経路での感染は感染者自身もわからないことが多い。
 したがって人間ができることには限りがあり、基本的な予防法を実行するしかない。こまめに手洗いをする、不特定多数の人が触れたものは消毒する、必要なときはマスクを着用したり他人との距離を取ったりすることだ。
 世界の国々では、外出自粛の要請のような緩やかな措置から、ロックダウン(都市封鎖)のような厳格な措置まで、さまざまな「社会的施策」が実施されているが、こうした社会的施策は流行の拡大速度(流行曲線でいえば上りの傾き)をいくらか抑えるだけで、流行の規模(流行曲線下の面積、つまり感染者総数)を小さくすることはできないことが経験的にわかっている。
 安倍晋三前首相が昨年4月7日に出した最初の緊急事態宣言も、ピークを過ぎてからの発出であり、効果はほとんどなかった。

◆「会食」で感染はたった2%
 今回の緊急事態宣言はどれほどの効果があったか。
 藤井聡・京都大学大学院教授が、緊急事態宣言が出された「11都府県」と「それ以外の道県」で宣言発出後の感染者の減少ぶりを比較したところ、ほとんど違いがなかった。
 今回は対策の的を飲食店に絞ったのも効果が出なかった理由の一つだ。「対策の肝は飲食にある」と政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長らは力説したが、それが見当外れだったことは公表データから明らかだ。
 東京都の場合、たとえば2月28日の感染者329人のうち、35%に当たる116人は「感染経路不明」。経路が判明している濃厚接触者では「施設内」が最多で126人、次いで「家庭内」が58人、「職場内」が12人で、「会食」はたった6人(2%)に過ぎなかった。
 施設内での感染を防ぐなら、それにふさわしい方法があるはずで、住民全体に外出自粛を求めたり、飲食店に営業時間短縮を求めたりする必要はないはずだ。

◆医療逼迫は医療の世界で解決を
 政府が緊急事態宣言を再発出した最大の理由は、一部の都府県での医療の逼迫だった。しかし、医療の逼迫は医療の世界で解決するべき問題で、解決への努力を尽くさないまま首相や知事が住民に我慢を求めるのは筋が違う。これが緊急事態宣言が不要と考える第三の理由だ。
 日本は人口当たりのベッド数など医療施設が世界有数の国だ。その日本で医療が逼迫していたのは、新型コロナの医療が国公立病院など一部の医療機関に偏っているからであり、地域ごとに病院の役割分担を定め、病院間の連携を強化すれば逼迫は解消する。
 とにかく感染者を減らさねばと躍起になっている小池百合子知事のおひざ元の東京都でも、たとえば墨田区は1月下旬に自宅待機者を解消し、以来ゼロを続けている。
 墨田区は特段すぐれた医療環境にあるわけではない。西塚至・保健所長が主導して、①重症患者と中等症患者を受け入れる中核病院、②中等症患者を受け入れる病院、③感染の疑いのある人を診る中小病院と役割分担を明確にした。そのうえで回復期の患者は①から②や③へ素早く移す道筋もつけ、「地域完結型」の医療体制をつくりあげた(山岡淳一郎「自宅待機ゼロ 墨田区の独行」=『世界』4月号)。

◆前年より6%も落ち込んだ1月の消費
 必要性がなく効果もほとんどない緊急事態宣言だが、被害は深刻だ。その一つが消費の大幅な落ち込みである。
 総務省が3月9日に発表した1月の家計調査(2人以上の世帯)によると、一世帯当たりの消費支出は26万7760円で、物価変動を除く実質で前年同月より6.1%も落ち込んだ。昨年12月は前年同月比0.6%のマイナスだったから、緊急事態宣言の影響の大きさがわかる。
 1月の支出で前年同月より9割以上落ち込んだのが、旅行支出と外食の飲酒だ。不要不急の外出自粛が求められ、飲食店が営業時間を短縮した影響である。
 消費の落ち込みは飲食業などの経営を直撃し、そこで働く人たちの仕事を減らす。
 東京商工リサーチによると、全国のコロナ関連の経営破綻(負債額1000万円以上)は3月11日時点で1124件。うち飲食業が最多の192件に上る。
 野村総合研究所が2月に全国のパート・アルバイト就業者6万4943人を対象にしたアンケートと、総務省の労働力調査を用いて推計したところ、全国で実質的に失業状態にある非正規雇用者は女性が103万人、男性が43万人にもなった。
 人々の生活も事業者の営業も追い詰められている。

◆「コロナに怯える」のをやめよう
 以上のような結果をもたらしつつある緊急事態宣言だが、各種の世論調査によれば世論は圧倒的に支持している。テレビや新聞の報道によって「コロナは怖い」という意識が人々に根づいているからだろう。
 しかし、新型コロナ感染症はそんなに怖い病気なのだろうか。
 少なくない研究者や医師が新型コロナは風邪の一種だとの見解を明らかにしている。
 「新型コロナは感染力の強い風邪ウイルス」(井上正康・大阪市立大学名誉教授)、「風邪のちょっと悪いヤツ」(大木隆生・東京慈恵会医科大学教授・診療部長)などだ。
 国立感染症研究所のサイトには「ヒトに感染するコロナウイルスの報告件数(月別感染者数)」のグラフ(2015年~19年)が掲載されている。先述した4種のヒトコロナウイルスが原因の風邪の感染者の月別の推移を示したものだ。
 「その流行曲線が新型コロナの流行曲線と似ている」と森田洋之医師(南日本ヘルスリサーチラボ代表)ら何人もの研究者・医師が指摘している。これも、新型コロナが旧来のコロナと同じ風邪ウイルスであることを示している。
 日本を含む東アジアの国々の新型コロナの人口当たりの死者数が欧米諸国に比べて二けたも少ないことはよく知られている。  森田医師はその点も踏まえ、日本人は新型コロナに「強い」のだと述べている(「医療は英国のNHSを学べ」=『WiLL』4月号)。
 もうコロナに怯えるのはやめよう。もっと冷静に新型コロナという病気を見つめ、どう対処すべきかを考えるときだ。
2021.03.19 話題のワクチン開発者・カリコー・カタリンとの質疑応答
                     
盛田常夫 (在ブダペスト、経済学者)

 セゲド大学出身で、mRNA(メッセンジャーRNA)ベースのワクチン開発者として知られるカリコー・カタリン(Karikó Katalin、1955年生まれ)の質疑応答記録が、ハンガリーのネットにアップロードされたので、それをお伝えする。日本でも「週刊現代」(2021年3月13日号)で、「コロナワクチンの母、カタリン・カリコという人」で紹介されている時の人である。
 なお、ハンガリーは欧州内で唯一、日本と同様に姓名の順に氏名を標記する。カリコーが姓、カタリンが名である。「週刊現代」はそれをまたほかの欧州国家の順に直している。なお夫の姓はFrancia Béa(フランツィア・ベーラ)で、長女はFrancia Zsuzsanna(フランツィア・ジュジャンナ)である。
 また、ワクチン(vaccine、ヴァクスィン)やウィルス(virus、ヴァイラス)は日本語で、外人と会話する場合には通じない発声であることに注意したい。

略 歴
 ハンガリー南部のセゲド大学(生物学)を1978年に卒業し、1982年までセゲド生物学研究センターで研究を続け、1983年にPhDを取得した。すでにこの時期にRNA(遺伝子転写物質・メカニズム)の研究を始めた。主流のDNA(遺伝子)研究ではなく、傍流のRNA研究に取り組んだ成果が、25年の時間を経て、大きな成果となって結実した。
 PhD取得後にアカデミーの奨学金を得て、セゲド生物学研究センターで研究を続けた。1985年に研究センターの人員整理が行われた際に、家族でアメリカに渡ることを決断し、フィアデルフィアのテンプル大学に職を得て、修飾ヌクレオチド(RNAを構成する物質の構造が変化したもの)の研究に従事した。
 3年後にワシントンに移り、分子生物学を研究し、その後再び、フィアデルフィアに戻り、2013年までペンシルヴェニア大学の医学部循環器科で分子生物学者として研究を進め、その後、神経外科に移動した。フィアデルフィアに戻った当初から、mRNAをベースにした治療法を構想していたが、「治療法は有効でない」と研究費申請を拒否された。
 この治療法は遺伝子そのものを操作するのではなく、遺伝子の転写メカニズムに作用して、免疫の元となるたんぱく質の創出を促す治療法である。このメカニズムを操作することによって、従来の不活性化されたワクチン開発より、はるかに短い時間で体内に免疫を創り出すことが可能になり、かつウィルスの変異に迅速に対応することが可能になる。この点で画期的な科学的発見であり、ノーベル賞級の研究成果である。
 さて、神経外科に移動し、免疫学の同僚医師がこの治療法のアイディアに関心を示したことから、さらに研究を進めることになった。研究のポイントは、「合成mRNAが強い炎症反応を惹き起こす」ことであった。これを解決することが、カリコーの研究課題になった。
 フィアデルフィア大学でHIVワクチン開発を行っていたワイスマン(Drew Weissmann)はDNAを利用したワクチン開発を行っていたが、カリコーとともにmRNAをベースとするワクチン開発に方向転換した。ここで、修飾ヌクレオチドから出発し、炎症を抑えたmRNAを作ることに成功した。ペンシルヴェニア大学はKariko-Weissmanの名で知られる特許を取得し、その後、BioNTechやModeRNAが高額の特許使用料(ロイヤルティ)を払って製造を開始した。
 当初、RNAを利用する治療法は無視されていたが、細胞情報を伝達するRNAを使えばどのような感染スィミュレーション(simulation)にも対応できるというアイディアは次第に多くの研究者の関心を得ることになり、ヴェンチャー企業であるModeRNAを2010年に創設したマサチューセッツ・ケンブリッジのデリック(Rossi Derrick)がカリコーを引き込もうとした。しかし、カリコーはドイツのヴェンチャー、BioNTech RNAと連携する道を選んだ。
 現在、カリコーはペンシルヴェニア大学の教授職を保持したまま、BioNTechの副社長を務めており、ドイツとアメリカを往復している。ハンガリーにも時々戻っている。カリコーはハンガリー国籍を保持しており、二つの国籍を持っている。なお、長女のジュジャンナは、Susan Franciaの名前で五輪の女子エイト競技(ボート)に参加し、二度金メダル(北京、ロンドン)に輝いている。ハンガリーはカヤック、カヌー競技に強いが、ジュジャンナがアメリカに渡ったのは3歳の時だから、ハンガリーで競技力をつけたのではない。
 1937年にビタミンCの発見でノーベル医学生理学賞を受賞したセントージョルジィは1931年に、セゲド大学に新設された生化学研究所に教授として赴任した。戦後の体制の中で優れた伝統は失われたが、しかしセゲド大学では生化学研究が細々と続けられている。ハンガリーの優秀な人材はハンガリーの教育を受けた後、西側の世界で世界的な成功を収めてきた。
 この辺りの事情は、マルクス・ジョルジュ著(盛田編訳)『異星人伝説-20世紀を創ったハンガリー人』(日本評論社、2001年)の「セント-ジョルジィ・アルバート」(198-206頁)を参照されたい。

カリコー質疑応答

ワクチンの有効期間はどれほどか? 
 カリコー:まだ確実なことは言えない。昨年4月と5月に試験的な接種を行ったが、現在、そのうちどれほどの人が感染したかを調べている。コロナに感染した人が、接種を受けていない場合、6ヵ月後に再感染することが分かっている。
 これにたいして、最初に接種を受けた人たちの感染はいまだ確認されていない。しかし、この点については、まだ状況を見る必要がある。
感染後、どれほどの時間経過の後に接種を受けることができるか?
 カリコー:1か月ほど前までは90日が目安だった。その後、この問題について研究が進められているが、まだ明確な結果が示されていない。この問題は、感染の重度に依る。
 無症状あるいは軽症の場合、抗体形成が進んでいないので、もっと早く接種を受けてもよいと考えられる。しかし、重度の症状があった人の場合は、ウィルスに対する強い反応が残っているので、接種は重度の副作用をもたらす可能性がある。
感染した人は1回目の接種と同様の効果をもっていると考えられるか?
 カリコー:はい、最近の研究では、感染が1回目の接種と考えてよいということが分かっている。
アナフィラクシー・ショックの確率はどの程度のものと考えられるか?
 カリコー:イスラエルの接種からPfizer/BioNTechに寄せられたデータによれば、470万人の接種で、158名の重度の副作用が見られた。ざっと3万人に1人の割合である。
 このワクチンの検証が終了した時点では、妊婦と16歳以下の人々への接種を避けるように提案したが、それは治験を行っていないからである。ワクチンへの反応が不明だからである。現在、妊婦および子供への治験が行われている。
 副作用のない薬剤は存在しない。しかし、感染によって、それより深刻な結果が生まれる可能性がある。したがって、心臓手術の後であっても、接種を勧めたい。
1回目と2回目の接種に3週間の期間が設定されている。ハンガリーではこれを35日に延長しているが、これは問題を惹き起こすか?
 カリコー:3週間という時間は治験で設定された時間で、それで認可を得ているからである。したがって、3週間が最適な時間であることを意味しない。3週間というのはもっとも短い期間で、それを過ぎれば再度接種が可能ということを意味する。
 現在、2か月間の間隔を空ける治験が行われている。今、言えることは、接種の間隔について、正確・厳密に言えることはないということである。
接種が男性機能に影響することはあるか?
 カリコー:それはあり得ない。私が知る限り、接種が体の機能に影響を与えることはない。1回のワクチンには30ミクログラムのmRNAが含まれている。一粒のコメにはおよそ30mgである。この事例を使えば、一粒のコメを千粒ほどに細かく砕いたほどの量のmRNAが、局所的に腕に入る。さらに、mRNAは不安定ですぐに破壊される物質で、2日経てば組織から消えてなくなる。mRNAによってコード化されたタンパク質が現れるが、これは数日間だけ体内に残るものである。短時間とはいえ、この時間は免疫反応を引き起こすのに十分な時間である。
自己免疫疾患をもつ患者は接種を受けることができるか?
 カリコー:これについては、CDC(アメリカ疾病予防センター)の指針がある。私が知る限り、mRNAベースのワクチンが自己免疫疾患者に問題を惹き起こした事例はない。他方、コロナは自己免疫疾患患者に大きなリスクを与えるので、接種が問題を起こす確率は極めて低いと思う。一般論として、接種可能と考える。
妊婦への接種は胎児を守ることになるか?
 カリコー:現在の医学界の見解は、イエスである。抗体が胎児に渡り、子供を守ることができる。これは授乳期の母親についても同様で、母乳を通して、抗体が引き渡される。
免疫抑制ケースにある患者に接種は可能か?
 カリコー:重篤の疾病患者の場合、免疫抑制状態にあるか、免疫反応を抑えるために免疫抑制剤が使われている。このような患者の場合、数か月にわたってコロナウィルスと戦うことはできず、ウィルスが体内で分離された時に、変異を生み出す。一人の人間の体内で、無数の変異種が発生する。一部の病原体は体内で無効化されるが、すべて無効化することはできない。
 したがって、このケースでも、接種は有効だと考える。なぜなら、これらの患者は他者に感染を惹き起こし、社会全体を大きなリスクに晒すからである。
Pfizer/BioNTechワクチンの冷凍問題で、改善が予想されるかどうか?
 カリコー:「なぜ零下70℃でなければならないのか」はよく受ける質問である。これも実験結果が決めている。3-4年70℃で冷凍保存したmRNAを取り出して使ったところ、完全な効能を示した。
 零下20度で保存した場合の実験を行っているが、この場合は6か月で有効性を失うことが分かっている。したがって、可能な限り、適切な冷凍庫を入手できるのが望ましい。
mRNAワクチンの製造能力を制限している要因は何か?
 カリコー:mRNAを大量に作ることは可能で、それを包む4種類の脂質のうち二つはどこでも入手可能だが、イオン化可能な脂質の合成が最大の問題である。このプロセスそのものがあまり効率的でなく、現在の技術は少量の生産に向いているが、単純に拡張することができない。
 誰にでも分かることだが、今まで二人の人に接種しなければならなかったのが、明日から急に200人に接種しなければならなくなった時のことを考えればよい。こうなると、それまでの製法を変える必要が出てくる。他の会社の助けを借りることもできる。たとえば、脂質合成はその例である。しかし、イオン化可能な脂質合成の増産は解決できていない。多くの製薬会社も少量生産しかできないからだ。
製薬会社は大きな利益を上げている。パンデミックの時も、利益が業務遂行を決める要因になっているのか?
 カリコー:今の状況下で皆が考えていることは、可能な限り速やかに、かつ効率的にワクチンを開発することだ。Pfizerはアメリカ政府の補助金を得るのではなく、20億ドルを出資してBioNTechの開発を支援してきた。これは失敗すれば、株主に弁済しなければならないお金である。そういうリスクをかけて開発している。
 これまで費やしたお金や努力に比べて、ワクチンの価格が高いとは思わない。会社の幹部も利益が一番重要な動機だとは思っていない。
ロシアや中国のワクチンをどのように評価しているか?
 カリコー:私自身は生化学者であり、ワクチンの専門家ではない。もちろん、科学雑誌で最新の研究情報を得ているが、ロシアや中国のワクチンについて意見表明することはできない。どのワクチンにも効果があり、それなりにウィルスから守ってくれるものだと思っている。
中国ワクチンを打った後、別のワクチンを接種することはできるのか?
 カリコー:たとえば、秋になってワクチンが十分に確保されている場合には、別種のワクチン接種を考えることは可能である。mRNAベースあるいは不活性なウィルスを含むワクチンを接種した場合、次回にどのようなワクチンをも選択できる。しかし、スプートニクVやAstraZenecaのように、アデノウィルスをベースにしたワクチンの場合、すでに体組織が所与のアデノウィルスヴェクター(この場合のヴェクターは、ウィルスの媒介者という意味)を認識しているとすれば、免疫システムが有効成分を目的箇所に運ぶことを拒否することが考えられる。
 たとえば、アフリカでエボラ熱にたいするチンパンジーアデノウイルスベクター・ワクチンを接種している場合、コロナにたいするアデノウィルスヴェクター・ワクチンを接種しない。体組織がそれに反応しないからである。

https://qubit.hu/2021/03/10/kariko-katalin-a-vakcinak-kifejezetten-olcsok-ahhoz-kepest-hogy-mennyi-munka-van-bennukより翻訳。

追記:mRNAをベースにしたワクチンのメカニズムについては、インターネットでいろいろな人が開設している。簡潔にまとめたものとして、以下のサイトが参考になる。
https://www.cas.org/ja/blog/covid-mrna-vaccine

2021.03.12 新型コロナ、真の感染者は発表数のわずか3%程度の可能性
     ~日本のPCR検査ではウイルスの死骸があっても陽性になる~

岡田幹治 (フリーライター)

 新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が首都圏の4都県で3月21日まで再延長され、住民がさらなる我慢を強いられる中で、新型コロナをめぐる「不都合な真実」がいくつも明らかになってきた。
 その一つが、感染を判定するPCR検査が日本を含む多くの国で不適切に運用されていることだ。このため非常に多数の非感染者が「感染者」にされており、日本の場合、真の感染者は発表数の3%程度にすぎない可能性が大きい。
 世界保健機関(WHO)も不適切な運用を認めている模様で、昨年12月14日の「情報通知」で運用を適正化するよう求めている。

◆遺伝子を大幅増幅し、高感度で検出するPCR検査
 新型コロナの感染の判定に使われるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、遺伝子の断片を大幅に増幅し、超高感度で検出する方法だ。検体(鼻の奥のぬぐい液など)に遺伝子合成酵素などを混ぜた混合液を、100度近くに温めてから約60度に冷まし、また約70度に上げるというサイクルを繰り返すたびに遺伝子は2倍になる。
 自動的に温度を上げ下げする機器やキットでサイクルを繰り返せば、遺伝子の数は倍々ゲームで増えていく。同時に、より少ないウイルスでも陽性判定が出るようになる。
 20サイクルだとウイルスが10万個以上ないと陽性にならないが、30サイクルでは1000個以上で陽性になり、40サイクルになるとわずか10個でも陽性になる。
 PCR検査を新型コロナの感染判定に使う場合、何サイクルにすれば適正な判定になるかという基準(Ct値)は定められていない。
 このため、Ct値は各国でまちまちになっている。WHOは45以下を推奨しており、これにならってイギリスが45以下、日本・フランスが40~45以下、米国が37~40以下になっている。一方、中国は37以下、台湾・スウェーデンは35以下にしており、ニュージーランドはもっと低い値を採用しているといわれる。
 この結果、日本で陽性の人でも台湾では陰性になるというようなことが起きる。

◆PCR検査ではウイルスの死骸があっても陽性になる
 日本の検査のように40回も増幅すると、どんなことになるか。
 新型コロナで「発症」(ウイルスに感染して発熱などの症状が出ること)や「感染」(ウイルスが細胞内に侵入して増殖すること)した場合だけでなく、「曝露」(ウイルスが体内に入ること)しただけでも陽性になる。それどころか、死んだウイルスの遺伝子断片があっても、遺伝子配列が新型コロナと似た別のウイルスの遺伝子断片があっても陽性になる。
 したがって「PCR検査の陽性者」=「感染者」とは言えないのだが、世界中で陽性者を感染者としており、そう報道されている。
 適正なCt値について、この問題に詳しい国際的な研究者グループ(ドイツのボルガ―博士、日本の大橋眞・徳島大学名誉教授ら23人)は「25~30にすることが望ましく、少なくとも35以下にすべき。35を超すと偽陽性(陰性を陽性と判定すること)が急増する」と公表している。
 Ct値が35以上だと、実際に感染しているのは陽性者の3%だけで、97%は偽陽性だったという調査もある。日本でCt値を35以下に下げれば、感染者は現在の2~3%に激減すると大橋名誉教授は予測している。
 日本では今年1月8日に新規感染者が7844人となり、過去最高を記録したが、実際に感染していたのはその3%、235人程度だった可能性が大きいわけだ。

◆非常に多数の「非感染者」が不当に隔離されている
 35を超すCt値にしていると、どんな弊害があるだろうか。
 まず、非常に多数の偽陽性者が必要もないのに隔離され、行動を制限される。これは重大な人権侵害である。この人たちを入院させたりホテルに隔離したりして看護すれば、、医療資源の無駄遣いになる。
 次に、実際とは異なる過大な感染者数が毎日発表され、人々の恐怖をあおる。新聞やテレビが連日「昨日の新規感染者は○○人」と報道することは他の病気では考えられず、それ自体異常なことだが、新規感染者が2000人だったのと、60人だったのとでは印象がまるで異なる。
 今回の新型コロナ騒動は、メディアがあおった恐怖心と情報の暴走による「インフォデミック」が住民と政府の過剰反応を招いたと指摘されている、その原点が過大な新規感染者数の発表だ。
 さらに、政府や自治体の対応をゆがめることにもなる。昨年12月31日に東京都の新規感染者数が1337人となり、初めて千人を超えた。この数字を見て菅義偉首相は、それまでしぶっていた緊急事態宣言の発出を決断したというが、この数字が40人(1337人の3%)だったら、発出を決断しただろうか。
 政府は感染状況を判断する材料として六つの指標を定めているが、そのうち二つは「直近1週間の10万人あたりの新規感染者数」と「新規感染者数の前週との比較」だ。その新規感染者数が不正確では的確な対応ができるわけがない。
 新型コロナの封じ込めにこれまでのところ成功している台湾では、Ct値を35以下に設定し、陽性者すべてについて検査の際のCt値と症状を公表している(個人名は伏せられる)。
 さらに「Ct値が27より高い場合は、陽性判定を受けても他人に感染させる危険性はほぼない」と中央感染症指導センターの責任者が発表し、混乱が起きないようにしているという(藤重太「台湾のコロナ感染増加で浮き彫り、日本政府との「決定的な対応の違い」とは」=ダイヤモンドオンライン2021年2月18日)。

◆PCR運用の適正化を求める動き
 この問題について国内では、前出の大橋名誉教授らが早くから指摘しており、筆者も昨年10月のオンライン記事で取り上げたが、政府も自治体も大手メディアも動かなかった(「新型コロナ感染者数「大幅水増し」疑惑報道は本当か」=ダイヤモンドオンライン2020年10月7日)。
 こうした状況を変えようとする動きが年明けとともに始まっている。
 その一つがネット上で展開されている「PCR正常化プロジェクト」の署名活動だ。毎日報道される「感染者」は「PCR検査の陽性者」であり、その判断基準が非科学的なため不要な社会不安をあおる要因になっているとし、Ct値を30にするよう政府に求めている。すでに1万3000人を超す人が賛同している。
 個人的に動いている医師もいる。統合医療クリニック徳(名古屋市)の院長で米ウィスコンシン医科大学名誉教授の高橋徳医師は今年1月、フェイスブックを通じ「PCR検査の陽性者を「感染者」とすることに疑問を感じている医師」に呼びかけた。同意した医師15人は、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会に「報道における表現を改めるよう」メールを送った。
 しかしこれまでのところ表立った反応はない。国立感染症研究所のマニュアルはCt値が45のままだし、新聞やテレビもPCR陽性者を感染者と呼び続けている。

◆ポルトガルでは違法判決
 世界では昨年11月以来、注目すべき動きが続いている。
 まず11月18日、ポルトガルの控訴裁判所が「PCR検査の陽性判定だけを根拠に住民に隔離を命じるのは違法」とする判決を下した。
 訴えたのは、地域保健局により隔離された4人だ。うち1人はPCR検査で陽性となり、3人は高リスクの曝露を受けたと判断されたが、その判断は違法だと訴えていた。
 これについて控訴裁判所は①(欧米のほとんどの国が採用している)Ct値35以上の場合、陽性判定者のうち実際に感染しているのは3%である可能性が大きい、②ポルトガルではCt値が不明である――などを理由に、PCR検査の結果だけで隔離を命じるのは違法と判断した。
 続いて11月27日、前出の国際研究者グループが「PCR検査の根拠となった論文には致命的欠陥がある」と発表し、所管している科学誌に論文を掲載した欧州連合(EU)疾病予防管理センター(ECDC)に掲載撤回を求めた。
 対象になったのはドイツのドロステン博士らが執筆した論文で、新型コロナに感染しているかどうかを判定する効果的な検査法(PCR検査のこと)を最初に開発したと主張している。昨年1月21日に科学誌に投稿され、22日に受理されて23日にはオンラインで公表。WHOが直ちに採用し、PCR検査が世界の標準的な検査法になった。
 研究者グループによれば、この論文はきちんとした査読(ピアレビュー)を受けていないことや、陽性か陰性かを判定するCt値が 記載されていないことなど10もの欠陥があり、撤回すべきだという。
 新型コロナの判定にPCR検査を使用することの理論的根拠が揺らいでいるのだ。

◆WHOや厚労省がひそかに動き出した
 WHOが昨年12月14日、「IVDユーザー向けの情報通知」を出したのも見逃せない動きだ。
 「リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いたSARS-CoV-2検出のための核酸検査(NAT)技術」という副題のついた通知でWHOは、回りくどい言い方でCt値を高くするとバックグラウンドノイズ(偽陽性のこと)が得られるなどと記述し、低いCt値にするよう暗に求めている。
 このような通知をWHOはなぜ出したのだろうか。こんな見方がある――。
 多くの国で実施されているPCR検査では多数の偽陽性が出るという事実に多くの人が気づきだしたので、基準をなし崩し的に改めていこう。その結果、感染者が減少すれば、それはワクチン普及の結果だと説明すればよいとWHOは考えているのではないか。
 日本では厚生労働省が今年1月22日に出した「医療機関・高齢者施設における無症状者に対する検査方法について(要請)」が注目されている。
 この事務連絡は、「プール方式」(複数の人の唾液などの検体を混ぜて一度に調べる方式)を無症状の利用者や職員に対して使った場合、国が費用を負担することを連絡したものだ。その「別添2」として「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)検体 プール検査法の指針」が付いており、その中でCt値を「30~35付近」にするよう求めている。
 高齢者施設などのプール方式に限ったこととはいえ、Ct値を下げるよう厚労省が求めているわけで、この動きがどう定着し広がっていくか、関係者は注目している。
 厚労省も基準をなし崩しに下げていこうとしているのかもしれない。
2021.02.17  眠ってはいられない
          韓国通信NO660

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)


 原発 沖縄の辺野古基地 コロナ 韓国・北朝鮮 モリカケ桜 憲法 貧困 オリンピック 地球温暖化 学術会議 ワクチン NHK  核兵器禁止条約 

 問題が山積なら、読みたい本も山積み。行きたいところも、会いたい人もたくさんいるのに身動きがとれない。怒りと焦りで心が悲鳴をあげている割には最近よく眠れる。
 今回は肩から力を抜いて、韓国からの「通信」をお届けする。

韓国からの手紙)<その1>
眠ってはいられない 韓国の親友の娘が去年中学校に進学した。韓国のコロナ対策は早い時期からPCR検査の徹底、学校の閉鎖、集会の禁止等かなり厳しい。日本に比べ成果は上がっているようだが厳戒態勢は今も変わらない。送られてきた『韓日逆転』の本に娘のヨンウンちゃんの手書きのカードか添えられていた。

 ハラボジ ハルモニ※お元気ですか。ヨンウンです。コロナがとても流行していますがお元気ですか。いただいたプレゼント大切に使っています。ありがとうございました。お礼の手紙が遅れてゴメンナサイ。
 裕子ハルモニお元気ですか。私は元気にしています。コロナのせいで学校にはあまり行けないのでピアノを習い、数学の学習塾、家では英語、国語、科学の勉強をしています。
 最近BTSが好きになり、歌をたくさん聞いています。SNSで友達と連絡を取り合ったり、ボードに乗って遊んだり、散歩もよくします。早くコロナが無くなり、以前のようになったらいいのにと思っています。ハラボジ、ハルモニ コロナに気を付けて元気にお過ごしください。
     

 ※ ハラボジ ハルモニ はおじいちゃん、おばあちゃんという意味だが、私たち夫婦にとってこのような呼び方は初めてでショックだった。韓国では60歳以上のひとに敬意をこめたこの呼称は常識だ。韓国留学時代にアジョシ(オジサン)と呼ばれてショックを受けた。オジサンは困る。「オッパ(お兄さん)」と呼んで欲しいと頼んだら女子大生に顔を背けられてしまった。

韓国からの手紙<その2>
 韓国の写真家鄭周河さんからのメールである。福島の原発事故直後から南相馬を中心にした写真を発表してきた。『奪われた野にも春は来るのか』と題した写真の巡回展は日本全国で反響を呼んだ。毎年来日して福島を取り続けてきたが、コロナのために昨年は来日がかなわなかった。手紙にはその無念さと今後の抱負が綴られている。

 当方もコロナで大変苦労しています。私が住んでいる全羅北道の田舎はコロナとは関係がないようなところですが、集会禁止、5人以上の家族でも集まってはいけないことになっています。いやはや、これでは人間が住む世の中ではないみたいです。
 そんなわけで、毎日家でゴロゴロして暮らしています。大学※1は依然として休みですが、再開される授業は対面授業ではなく、映像で講義を撮影して学生たちはモニターを見て学ぶ方式です。これも喜劇みたいなもの。すべてがこんな具合でめまいを感じるほどです。 
眠ってはいられない 福島に行こうという私の思いは膨らむばかりですが、日本はすべての外国人の出入国を禁止しています。いつ緩和されることやら。白河のアウシュヴィッツ平和博物館で現在行われている展示会※2に行くこともかなわない状態です。
 思い出しますね。いつぞや小原さんと白河に写真展の準備のためにご一緒した時のこと。あの時は本当に楽しかった。帰途、館長が差し入れた一升瓶を東北新幹線の中で全部飲んでしまい、盛り上がりすぎて他の客から注意されたこと。今でも楽しい思い出です。
 アウシュヴィッツ平和博物館にもう一度行ってみたい。夏が過ぎたころには何とかなるのではないかと思っています。
今は2月、もうすぐ福島原発事故から10年になります。今年中には是非行きたい。最近の作品<パラ-ダイス、Peace-Diese>(浪江近くの希望牧場にいる牛と木を撮影した作品)も小原さんにも見てもらい、話ができたらと思っています。
ご夫人にもよろしくお伝えください
 ともに杯をあげた思い出を新たにしつつ…。<写真上/鄭周河氏2018>



※ 1 鄭さんは百済芸術大学教授
※ 2 アウシュヴィッツ平和博物館(白河市)では3月1日~20日まで企画展 ふたたび開く鄭周河写真展-「奪われた野にも春は来るか」を開催する

 最後は私が卒業した高校の同窓生で俳優、作家の中村敦夫と音楽家の坂本龍一の話。
 福島原発10年を前にして語った彼らの思いが大きな励ましになった。
 中村敦夫は一人芝居『線量計が鳴る』への思い、坂本龍一は南米先住民に伝わる「はちどりのひとしずく」を紹介して、無駄なことと諦めない小さな努力、希望を持ち続けることの大切さを語った(朝日新聞「私は忘れない」シリーズ)。
 13日夜の地震。千葉も揺れに揺れた。10年前を思い出した友人も多い。
2021.02.12  国際オリンピック委員会(IOC)が、性的平等について緊急声明(全文・仮訳)

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 国際オリンピック委員会(IOC)は9日、東京五輪、パラリンピック組織委員会の森会長の女性蔑視発言に対して、「オリンピック運動における性的平等についての声明」を緊急に発表した。森氏の名前は挙げないものの、森会長の女性蔑視がオリンピック運動の性的対等の精神。行動と全く反することを、徹底的に批判している。バッハ会長名のこの声明は、IOC憲章に次ぐ重要な文書であり、オリンピック運動が続く限り、世界中の誰もが、いつでも閲覧できる。今回のIOC声明を、私の仮訳で紹介します―

国際オリンピック委員会(IOC)声明 2021.2.9
オリンピック運動における性的平等についてのIOC声明 

 インクルージョン(包含)、ダイバーシティ(多様性)、男女平等は、国際オリンピック委員会(IOC)の仕事の不可欠な要素。
 過去25年間、IOCはスポーツの中で女性を促進する上で重要な役割を果たしてきましたが、野心的な目標を設定することで引き続きそうしていきます。私たちが生きている困難な文脈の中で、多様性は私たちが尊敬し、強さを引き出す必要がある基本的な価値です。 東京2020(注1)の森会長の最近のコメントは、IOCのコミットメントとオリンピックアジェンダ2020(注2)の改革とは全く不適合であり、矛盾しています。彼は謝罪し、その後にも何回もコメントをしました。 森氏の謝罪に加えて、東京2020組織委員会(OCOG)も彼のコメントは不適切であると考え、男女平等へのコミットメントを再確認しました。 オリンピック運動のリーダーとして、我々はオリンピック憲章に記載されているように、あらゆるレベルおよびすべての分野でスポーツにおける女性の昇進を奨励し、支援するという使命にコミットしています。 一方で、IOCは男女平等に関する重要な記録を持っており(下記参照)、これに基づいて構築し続けます。一方、我々は、OCOGや他の組織が責任の範囲内で望む目的を支援する用意があります。 IOCの決定、成果、およびこの点におけるコミットメントは次のとおりです。

 女性アスリートの参加率は約49%で、東京2020オリンピックは初の男女平等オリンピックとなります。 IOCは、206の各国内オリンピック委員会(NOC)に対し、各オリンピックチームに少なくとも1人の女性と1人の男性アスリートを持つことを初めて要求しています。 IOCは初めて、開会式で206人のNOCすべてに1人の女性と1人の男性アスリートが旗を掲げることを許可し、奨励しました。 IOC難民オリンピックチーム東京2020のシェフ・ド・ミッションは、平和、難民の大義、教育、女性の権利を主張するテグラ・ロルーペさんです。アフリカから初めてニューヨークマラソンで優勝した女性で、3度のオリンピアンであり、長年にわたり世界記録保持者でもあります。 IOCの東京2020オリンピック第1副会長は、1976年モントリオール・オリンピックのアフリカ系アメリカ人銅メダリストで、女子エンパワーメントの先駆者となるアニタ・デフランツ氏です。 オリンピック東京2020では、選手の大半が選手自身によって直接選出されるIOC選手委員会(AC)が代表を務めます。IOC ACは、11人の女性と6人の男性メンバーで構成されています。ACの議長であり、IOC理事会のメンバーは、5度のオリンピアンであり、7つのオリンピックメダルを獲得したカースティ・コベントリー氏です。副議長は、ロンドン2012オリンピックで3回目となったオリンピック選手、銅メダリストのダンカ・バルテコワ氏で、すでに東京2020オリンピックの出場権を獲得しています。 IOCは覚書に基づき、国連女性と男女平等の推進に関して緊密に協力しています。IOC会長は、IOCの貢献と男女平等へのコミットメントを認められ、UN Women(国連女性機関)によってHeforSheチャンピオンに任命されました。 今日、女性IOC会員数は37.5%で、オリンピックアジェンダ2020の開始時の21%から増加しています。 IOC理事会の女性代表は33.3%で、オリンピック前のアジェンダ2020は26.6%です。 女性はIOCの委員会のメンバーの47.8%を占めていますが、オリンピック前のアジェンダ2020は20.3%です。 女性従業員はIOC本部の53%を占めています。 これらすべての理由から、選手、すべてのオリンピック関係者、一般市民は、IOCが男女平等、包摂性、連帯、非差別へのコミットメントを引き続き果たすことを安心することができます。
 (注1)2020東京大会(21年に延期された)
 (注2)バッハ会長が就任後発表した改革方針で40の提言からなる。
2021.02.10  最悪だったトランプ政権の中東政策
          ―バイデン政権への大きな期待と不安(1)

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 トランプ大統領の4年間。米国は中東で、親イスラエル、親サウジアラビア、反イラン、反パレスチナ政策を露骨に推し進め、中東の人々を苦しめ、犠牲の死傷者を大きく増やした。バイデン政権への期待と不安は大きい。ここでは、長年にわたり、主に中東全域からアフガニスタンまで、現地駐在も含め30年以上も報道を続けてきた英BBCのライス・ドウセット記者の報道を主な頼りにしながら、バイデン政権の米国の中東での政策・行動について書いていきたい。現在彼女はBBCのチーフ外国特派員。私自身は、1973年夏に共同通信の(レバノン)ベイルート支局に赴任していらい、中東に関わってきた。ベイルートで助手をしてくれたジャーナリストの友人は、今でもほぼ毎週、ベイルートから近況を伝えてくれている。

 ▼トランプ政権下の米国は一方的にイランとの核合意から撤退。制裁発動
 オバマ政権下の米国をはじめ英独仏中ロ6ヵ国が2015年7月にイランと結んだ、画期的なイランの核開発を制限する取り決め。国際原子力機関(IAEA)の査察の下で、イランが高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間は生産しないことと、ウラン濃縮に使われる遠心分離機を大幅に削減する代わりに、米欧が金融制裁や原油取引制限などを緩和した。しかし、トランプ政権下の米国は18年5月に一方的に離脱、イラン産原油の全面禁輸を開始。制裁を再開したため、他の5ヵ国とイランも19年5月から段階的に核合意の履行停止を始めた。これに対しイランは21年、保有するウランの濃縮度を20%に引き上げた。
 以後、米国はサウジアラビア、アラブ首長国連邦を巻き込み、イランの革命防衛隊がサウジのタンカー4隻を攻撃したと主張(イラン政府は否定)、トランプ大統領は米兵1,500人を派遣すると発表するなど、軍事衝突の危機感が高まった。以後、再三にわたって、イラン国内と周辺諸国で、米軍とイラン革命防衛隊の軍事攻撃や暗殺やテロが発生した。これらの事件はすべて、トランプの根深いイラン嫌い、敵視に根ざしていた。
 1978年の王政打倒イラン・イスラム革命後の79年11月に発生した米大使館人質事件。米国に逃れたパーレビ元国王の引き渡しを求める学生たちが米大使館を占拠、外交官らを人質にした。米国は80年4月、人質救出の軍事作戦を決行するが失敗。81年1月、アルジェリアの仲介で人質52人は解放された。トランプのイラン敵視の根源だ。
 トランプ大統領の就任後最初の外国訪問国はサウジアラビア、2017年5月だった。トランプはサウジアラビアとの米国史上最高額1、110億ドルの武器売却協定に調印した。
 ペルシャ湾を挟む両大国はどちらもイスラム教国だが、宗派はスンニ派、シーア派に分かれ、サウジアラビアは親米、イランは反米だ。トランプは最初の外国訪問でサウジアラビア尊重を宣言、サウジのサルマン皇太子は同国史上最高額の武器購入で応えたのだった。

 ▼バイデン政権は対イラン関係改善に慎重
 発足したバイデン新政権は、トランプ前政権が次々とぶち壊した地球温暖化対策のパリ協定や、コロナとの戦いでも国際的な中心となっているWHO(世界保健機関)との協力関係を次々と復活しつつある。しかし、対イラン関係の修復には慎重だ。
 米国側は、まずウラン濃縮停止を要求、イラン側は、まず制裁の全面的な解除を要求している。どちらも、相手国への不信が低くないことが、交渉を難しくしているに違いない。
 しかし、バイデン政権は、トランプ政権とは違う。米・イランの関係改善は遠くないと思う。それが、国際社会の願いだからだ。
 ここでは触れないが、サウジアラビアの南側にある国イエメン(人口2916万人)は、サウジアラビアが背後にある政府側と、イランが背後にあるフーシ派勢力が、前例のないほど凄惨な内戦を続けている。イエメン内戦の解決のためにも、バイデン政権の尽力に期待している。(了)
2021.01.06  私が出会った忘れ得ぬ人々(42)
          北杜夫さん――僕の仕事は親父の歌一首に及びません

横田 喬 (作家)


 作家の北杜夫さんは不惑にさしかかる年頃の一九六六(昭和四一)年春、躁病をいきなり発症した、という。
 ――躁が来る時は、自分でもわかる。口数が多くなって、陽気になる。仕事をなんでも引き受け、ふだんは嫌いなテレビ出演なんかも自分から申し込んだりします。子供に返ったのと同じで、次から次と湧いてくる思い付き、つまり妄想に熱中し、あげくに挫折する。

 四十代後半のころ、気分が高揚して全能感に満ちあふれ、「文学は男子一生の業にあらず」と事業家への転身を志す。株でもうけようと、新聞や雑誌で勉強に励み、証券会社に口座を開設。玄人並みに仕手株の売買までやらかすが、ド素人でうまくいくはずがない。短期間ですっからかんになったどころか、借財の穴埋めに追われる。なじみの出版社はおろか母・輝子さんや同人誌以来の親しい仲の作家・佐藤愛子さんらから各ン百万円単位の借金をこしらえ、億単位の損害による禁治産者の身となったというから凄まじい。

 幸い、新潮社からタイミングよく個人全集が刊行されて印税が相当入り、なんとか借金は返済することができた。躁状態になると人変わりし、日ごろのていねいな口利きとは一転。しとやかな賢夫人・喜美子さんに対しても、「バカ、このノロマ!お前なんか出ていけ!」と散々口汚く悪態をついた、とか。念のため、後ほど夫人に確かめたところ、
 ――何人もの夫と暮らした気がします。なにせ様子がまるで変わってしまいますから。
 と、遠回しながら、当時の苦労を認めた。

 躁状態の波が引くと、気分がぐんと落ち込み、鬱症状がやってくる。奈落の底に沈んだような絶望感を覚え、外界への興味を失ってしまう。何もやる気が起こらず、日中は布団にくるまって横になったまま。気持ちがひどく沈み、何事にも興味や関心が湧かない。北さんは自嘲気味に、こう打ち明けた。

 ――朝の三時、四時までビデオを見ながら酒を飲み、後はうつらうつら睡眠が浅いんで十四時間も寝てます。生きてると言えるかどうか、もう分からないくらい。
 ――酒飲みが酔っ払って騒いでいるのが躁だとすれば、酒が切れてひどい二日酔いで苦しんでるのが鬱。躁の時はひらめくんで、形容詞なんかもパッと浮かぶ。筆が勝手にどんどん走り、月に原稿用紙(四百字詰)八百枚くらいは軽い。鬱だとそうはいかず、月に六~七枚を綴るのがやっとになります。

 当初は三年周期くらいで躁病の波がやってきて半年ほど続いて消えるパターンだったのが、齢とともにエネルギーが失われ、最近では躁の気配がだんだん薄れつつある、とも述べた。根が精神科医だけに、「躁状態」と「鬱状態」の我が身の転変を冷静的確に観察~分析している。聴くうち、いろいろ思い当たる節があり、私自身も躁鬱症の部類に入るのでは、と感じたのを思い出す。北さんは、しまいにこう言った。
 ――でも、鬱病は斎藤家では新種なんです。自分ではゲーテに似てきた、と得意になってます。精神病者をやっかい者視する風潮には腹が立つ。病者にも、いい人や素晴らしい人はちゃんといるんです。

 北さんは戦時中に東京の小・中学校(旧制)を卒業した。子供のころは昆虫採集に熱中し、『昆虫記』で知られるファーブルのような人物が憧れだった、という。戦後、旧制松本高校に進み、トーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』を知る。イタリア出身の母の血を受け継ぐ芸術家気質と北ドイツの富裕な事業家だった父譲りの堅実な気質。その相克に揺れるマンの告白的・記念碑的な作品だ。当時の学友には後に作家・フランス文学者として名を成す辻邦生氏がいて交りを深め、初めて文学の価値に目を開く。

 父・茂吉の厳命で旧制東北大医学部へ進むが、学業には身が入らなかった。純文学ふうの小説を次々と書いては雑誌の懸賞に応募するが、落選に次ぐ落選。「親の七光り」のそしりが嫌で名乗ったペンネームは、仙台すなわち北の都にちなむ「北」と、前述のトニオをなぞらえる「杜二夫」(字面上「二」は後に省略)に由来する、という。

 東京へ戻り、慶応大学病院勤務の六〇(昭和三五)年春、書き下ろしの『どくとるマンボウ航海記』を中央公論社から上梓して一躍ベストセラーになる。海外へ憧れ、前年に水産庁の漁業調査船に船医として乗り組み、半年近い航海を体験した。
 長い洋上生活を味わい、アジア・ヨーロッパ・アフリカの風景や文化をじっと観察。奔放ですっとぼけたユーモアとユニークな文明批評を盛り込み、型破りな旅行記として人気を博す。題名のマンボウは、魚なのに尾びれがなく、泳ぎが下手。体長一㍍前後、重さが数十㌔もある巨体で海面に昼寝さながら浮遊している奇態な生き物だ。このマンボウが作家・北杜夫の代名詞と化し、その後の数々の「マンボウもの」シリーズの人気へ道を開く。

 吉報は続き、この年に雑誌『新潮』に発表した小説『夜と霧の隅で』が同年上半期の芥川賞を受ける。作品の舞台は、第二次大戦末期のドイツの地方都市の精神病院。ナチスはユダヤ人排斥~大量抹殺という非道な蛮行とは別に、自国民に対しても遺伝性精神病者の断種を決定した。
 ヒトラーの命令で回復の見込みがない精神病者の安死術~焚殺を通達する。主人公のドイツ人医師は患者を救おうとする余り、電気ショックを過剰に与え、脳の部位を大量に切除さえしてしまう。極限状況におかれた人間の不安と矛盾。正気と狂気は紙一重と感じさせ、人間という存在は何なのか、と深く考え込ませる。

 北さん自身は私に「しんどいもの(純文学作品)とリラックスしたもの(『マンボウ』ものなど)を交互に書いていけば、精神のバランスが取れます」と述べた。しんどいものは「鬱」を、リラックスしたものは「躁」を連想させ、面白いなと感じたのを覚えている。
 この後、雑誌『新潮』に長編小説『楡家の人びと』の第一部、並びに第二部(「残された人々」)を二度にわたって連載する。

 尊敬するトーマス・マンの長編小説『ブッデンブローク家の人々』の影響を受け、自らの斎藤一族をモデルに大正~昭和戦前期にわたる精神科医一家の盛衰を描く大河小説だ。作家・三島由紀夫は「戦後に書かれた最も重要な小説の一つ。日本文学は真に市民的な作品を初めて持った」と絶賛した。発表後すぐ、毎日出版文化賞を受け、後に民放やNHKでテレビドラマ化もされている。

 北さんは、私にこう言った。
 ――父の文学者としての側面は意識的にネグりました。一家の没落史なので、徹吉(茂吉がモデルの登場人物)は魅力のない存在になっています。
 その埋め合わせをするごとく、彼は後年、『青年茂吉(――以下は略)』『壮年茂吉(同)』『茂吉彷徨(同)』『茂吉晩年(同)』の四部作を著す。歌人・斎藤茂吉の真骨頂を多角的に検証し、大仏次郎賞を受ける。受賞歴では他にも、日系ブラジル移民の汗と涙の苦闘を描く長編小説『輝ける碧き空の下で』が日本文学大賞。

 しかし、そうした栄誉をこともなげに、北さんはつぶやいた。
 ――茂吉は歌以外でも、マルクスやエンゲルスを原書で読んで勉強する努力家でした。
いい歌を作るために、お百姓さんたちに深々とお辞儀してメモを取ったり、神社でじっと瞑目したり、蚊帳の中にこもって精神集中を図った。よく激怒りもしたが、怒るべき時に怒れない人間はだめ、憤怒は勢いにつながるから。親父ほどの歌詠みは今後とも現れない、と思う。僕が苦労したどんな作品も、彼の歌一首に到底及ばない、と思っています。

 単なる謙遜ではない切実な響きがあり、真摯で繊細な彼の内面を私は痛々しく感じた。北さんは二〇一一(平成二三)年、腸閉塞のため八十四歳で亡くなった。    
(完)