2020.04.07 今問い直す ビキニの核被災
 「労災と認定を」元船員ら、高知で提訴

田中洋一 (ジャーナリスト)

 66年前に米国がミクロネシアのビキニ環礁一帯で行った水爆実験により死の灰を浴びたマグロ漁船や貨物船の元乗組員と遺族が3月30日、高知地裁に提訴した。被災を労働災害と認めて船員保険の適用を求めることにより、人としての尊厳を取り戻す闘いだ。

 第2次世界大戦後、米国はマーシャル諸島のビキニ環礁一帯を信託統治領とし、1946年に原爆実験をした。54年にさらに強力な水爆実験を行なう。3月1日の実験名ブラボーから5月14日のネクターまで計6回繰り返す。死の灰は、現在のマーシャル諸島共和国の島々や広い海域に降り注ぐ。そこに日本の遠洋マグロ漁船や貨物船が航行していた。マーシャル諸島での核実験は58年まで続く。
  
 ブラボーの爆心地から東に160km離れていた静岡県のマグロ漁船、第五福竜丸の冷凍士兼甲板員の大石又七さん(86)は振り返る。引用は岡村啓佐さんの写真集『NO NUKES ビキニの海は忘れない』(自費出版、2018年12月刊)から。
 「最後のはえ縄を行なっていた時の午前6時45分に起きた。私は仮眠しようとしていた時、光が空をサーッと流れて、黄色い光が徐々に空を覆い、そして赤色が加わり夕焼けのような光景になった。2~3分間は光が空を覆っていたと思う」
 半年後、第五福竜丸無線長の久保山愛吉さんが40歳で死去する。アサヒグラフ増刊「戦後20年・人と事件」(1965年7月20日号)には、魚市場にずらりと並ぶ原爆マグロに検査員が放射線量計を当てている大きな写真が載る。「恐るべき"死の灰"」のタイトルと共に、日本社会が受けた衝撃の大きさが見て取れる。
 第五福竜丸事件として矮小化されがちなビキニ水爆実験だが、被災したのは第五福竜丸だけではない。私自身その思いを強くしたのは、70年近く経つ中で声を上げている方々を知ったからだ。
  
 歴史を掘り起こしたのは高校生だ。高知県西部・幡多(はた)地域の幡多高校生ゼミナールがマグロ漁船員の聞き取り調査を始めたのが1985年4月。長崎で原爆に被爆し、ビキニ水爆実験にも遭遇した末に27歳で自死した藤井節弥さんの母親に出会う。
 水産高校3年でマグロ漁船に実習生として乗組み、ビキニ水爆実験に遭遇した谷脇正康さんの遺族にも話を聞く。谷脇さんは被曝の2カ月後に体調を崩して緊急入院する。担当医は再生不良性貧血と診断し、「原爆症の疑いが濃い」と語ったそうだ。入院から7カ月後に急死した。
 高校生たちとの活動から書き起こしたのが山下正寿さんの著作『核の海の証言』(新日本出版社、2012年刊)だ。高校教諭だった山下さんは今、被災したマグロ漁船員たちを支える太平洋核被災支援センター(高知県宿毛市)の事務局長を務める。
  
 被災して命を失い、健康を損なったのに、マグロ漁船員たちは何の補償も受けなかった。それを促す動きが社会にあったのだろうか。第五福竜丸の被災が大々的に報じられて日本国内の世論の悪化を憂慮した日米両国政府は早々と幕引きを図る。
 ビキニ核実験の翌1955年の1月、米国が法的責任を伴わない見舞金200万ドル(当時7億2千万円)を日本に支払うことで両国政府は政治決着させる。マグロなど廃棄した漁獲物の損害に加え、治療費や傷病手当金の項目もあるが、第五福竜丸以外の乗組員にはほとんど行き渡らなかったという。それどころか、見舞金は第五福竜丸乗組員へのやっかみを生み、社会的な差別意識を招いたようだ。
 再び大石又七さんの証言を岡村著から引く。「わずかばかりの見舞金をもらったことで一部の人から八つ当たりや、いやがらせを受け、2年後に東京に出てクリーニング屋をはじめた。それから約15年間、被爆者であることを隠しながら生きてきた」
  
 被災した高知県の元漁船員が被害を認めさせたいと立ち上がるには、高校生の調査活動からさらに30年かかる。他界する同僚が増え、国への不信感が募る中で、二つの動きが2016年に始まる。
 この年の2月、高知県と宮城県の元船員計11人が、労災に当たる船員保険を適用するよう全国健康保険協会に申請した。さらに5月には45人が国に損害賠償を求めて高知地裁に提訴する。
 そもそも、何隻がビキニ水爆実験に遭遇し、何人が被曝したのか。全体像ともいうべき資料を国がやっと開示したのは、被災から60年も経った2014年9月のことだ。その前年にNHK広島放送局が被曝した船の一覧、魚と船体が浴びた放射線量、船員の被曝線量の資料を米国立公文書館で探し出したので、第五福竜丸以外に被災は把握していないと言ってきた国は隠し通せなくなった事情がある。
 開示された資料によれば、一連の水爆実験で放射能に汚染された魚を廃棄した漁船は第五福竜丸以外に856隻(延べ992隻)ある。他に貨物船も航行していた。マグロ漁船の乗組員は1隻20人前後なので、「被災した乗組員は2万人近い」と岡村さんはみる。岡村さんは太平洋核被災支援センターの副共同代表を務める。
  
 国賠訴訟が高知で起こされたのは、被災者に高知県のマグロ漁船員が多いからだ。856隻のうち高知の漁船は117隻(延べ270隻)に上る。国は漁船員の被曝状況を調べていたのに資料を隠し続け、被災者の追跡調査や支援の施策を怠って被曝の事実を隠してきた。その結果、被災者は健康を守る権利を侵害され、苦難の人生を強いられた--と原告側は主張した。
 判決は国の資料隠しも、支援施策などの義務も認めず、原告の請求を棄却した。控訴審の高松高裁も同様に原告の主張を退け、敗訴が確定した。高裁は「健康被害を等閑視することなく、その救済が(原爆被爆者と)同様に図られるべきという主張は理解でき」るとして、漁船員の救済について「立法府及び行政府による一層の検討に期待するほかない」(判決骨子)と下駄を預けた。
  
 高松高裁の判決言い渡しは昨年12月12日だった。その1週間前に原告団長の増本和馬さんは胆管がんで83歳の生涯を閉じた。増本さんが昨年3月に提出した陳述書をかみ締めたい。
 「同じ海域で操業していた第五福竜丸では人的被害があったのですから、私たちマグロ漁船員は全員被災の可能性が高かったのです。しかも放射能汚染は、晩発性被害が考えられるのですから、国は、以後も定期的に健康診断をして、適切な対応をすべきであったのに、早々と被災調査を打ち切り、被災者を放置しました」
 3月30日に高知地裁に起こした裁判では、船員保険の適用を認めなかった全国健康保険協会の処分取り消しを求める。漁労中の被曝を労働災害と認めさせる狙いだ。さらに、日米両国政府による政治決着により米国に損害賠償を求める権利を失わせたとして日本国に補償を求めている。原告は増本さんの遺族をはじめ漁船と貨物船の元船員12人(うち生存者4人)と遺族。
 新たな提訴で救済の道を拓くことができるか、どうか。元船員と遺族の訴えに注目したい。

<田中洋一氏の略歴>1950年生まれ。メーカー勤務を経て2016年まで新聞記者。埼玉県在住

2020.04.01 『それでも 蟷螂(とうろう)の斧をふりあげて』
韓国通信NO632

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

<真相は究明されなければならない>

 『それでも 蟷螂(とうろう)の斧をふりあげて』。かつて『朝日ジャーナル』に掲載された同誌の懸賞論文入選作のタイトルである。筆者の大西公哉さんは職場の先輩であり労働組合の先輩だった。
 正副委員長の解雇、組合分裂攻撃と闘った数少ない中堅役付き社員のひとりとして、また、「わだつみの会」の活動などの平和活動、また社会派の歌人でもあった。
 昇格は遅れに遅れ、非組合員になったのは定年間際。自身の経験をもとに銀行の分裂攻撃の実態を明らかにし、それに抗った自身の心情を手記としてまとめた。自分を蟷螂(カマキリ)に喩えた悲痛な叫びは後輩の私の心に残った。
 海軍兵学校出身。世渡りが不器用な大西さんは、変わり身の早い同僚たちが次々と仲間を裏切り出世していく企業社会の醜さを世に問うた。
 以下の二首は平和万葉集慣行委員会遍『平和万葉集』(1986/8/15)に掲載された大西作品だ。

 覆轍(ふくてつ)に学ばざる政党は度し難し 国家機密法を議会に出す
 <過激派>が一転し<右翼>に転ずる日の 日本にはわが生くる余地なかるべし

 稀有な職場体験のみならず、戦中戦後を生き抜いた一市民として日本の行く末に一匹の蟷螂として斧をあげ続けた。治安維持法まがいの「国家機密法案」が提出されると警鐘を鳴らし、戦中派としてのやりきれなさを「生くる余地なし」と詠んだ。

<死者の魂が蟷螂の斧となって> 
 公務員は、「全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない<憲法15条2項>」。警察官、自衛官も地方公務員、国家公務員、検事、裁判官、議員は公務員だから当然「公僕」である。
 好き勝手な振る舞い、権力を笠に着た公僕の名に値しない公務員は罷免する他ない。罷免する権利は国民固有の権利として憲法で保障されている。
 国有地の払い下げ疑惑を追及された首相が、「事実なら首相も議員も辞める」と見えを切ったばかりに、直接改ざんにかかわった地方の財務局職員赤木俊夫さんが自殺に追い込まれた(2018/3)。
 公文書改ざんという前代未聞の国家的犯罪に財務省は身内で関係職員の処分をおこなっただけ。改ざんを指示した目的と理由については明らかにしなかった。自殺した職員に対して感想を求められた首相と財務大臣は「お気の毒」の一言で済ませた。
 大阪地検特捜部が告発を見送ったため、事件の真相は闇に葬られることになった。あろうことか、改ざんを指示した佐川理財局長は国税庁長官へ栄転、その片棒をかついだ中村稔氏もイギリス公使に栄転、森友問題が表面化した直後、安倍晋三首相の妻・昭恵氏付の職員谷査恵子氏もイタリア日本大使館の職員に栄転した。醜悪の極みである。浮かばれないのは自殺した赤城さん、主権者の私たちもすっかり虚仮(こけ)にされた。
 事件から2年後の今年、自殺した赤木さんの遺族が遺言とメモを発表し、無念の死を遂げた本人に代わって提訴したことが明らかとなった(3月18日)。手記と遺書には、改ざんを指示する佐川氏に対する疑問とその苦しみが綴られている。官僚組織、国家の壁。死なずに頑張って欲しかったという思いもわく。組織のために波風を立てたくない遺族の気持ち、二年間の苦しみが痛いほどに感じられる。私がその立場だったらどうしただろうかと自問した。
 とっさに「蟷螂の斧」という言葉が浮かんだ。弱い力であってもファイティングポーズを崩さないカマキリの必死な形相が浮かんだ。蟷螂の斧は遺族によって引き継がれた。
 事件が終わっていないのを実感する。佐川氏はすべてを語るべきだ。自殺に追い込んだ人間としての最低のモラルである。首相と副総理はただちに再調査の必要はないと反応したが、疑惑の当事者にそういう資格はない。
 真の公僕であろうとして苦悶した赤木氏の思いを私たちは引き継ぎたい。孤立した蟷螂の闘いにしてはいけない。

<首相、財務大臣を罷免すべし>
 遺族が求めているのは佐川局長の指示と自殺の関係を明らかにすることだ。佐川氏が理由もなく改ざんを指示したとは考え難い。事実関係が白日の下にさらされると安倍首相は総理どころか議員辞職もしなければならない。佐川氏を利用した安倍首相は佐川氏に生殺与奪の権利を握られた構図である。ただでさえ「桜を見る会」、検事長の定年延長問題で窮地に追い込まれている首相である。真相究明を求める提訴と世論の高まりは政権に追い打ちをかけるに違いない。
 窮地に立たされた安倍首相はオリンピック開催とコロナ対策で政権の延命をはかっているように見える。政府がコロナ対策に総力をあげて取り組むのは当然のことだが、自ら招いた国民の政治不信のなか、政府のコロナ対策には不信感がつきまとう。人類の危機に対して、余計なことを考えるから対策の足元が定まらない。不純な動機に不信感は高まるばかりだ。
 森友疑惑を追及しないことを決めたNHK(元NHK記者相澤冬樹著『安倍官邸vs NHK』に詳しい)は一体どこまで安倍政権と「伴走」を続けるつもりか。連日、オリンピックの盛り上げに狂奔する。安倍首相とともにNHKも思考停止のさなかにある。官営放送、アベチャンネルと揶揄されてきたNHKもそろそろ理性を取り戻す時期に来たように思えるのだが。
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2020.03.26 都内で開催の「ヒロシマ連続講座」が100回に
   5年目を迎えた元高校教員の試み

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 2016年から、東京都内で続けられてきた「ヒロシマ連続講座」が、3月21日にあった例会で100回になった。都内在住の元高校教員が、「原爆や戦争の被害について理解を深めよう」という狙いで始めた、首都圏在住者を対象とする一種の学習会だが、一市民が主宰する原爆や戦争に関する講座がこれほど長期にわたって続いてきた例は極めて珍しい。

 原爆や戦争の被害について理解を深めるために
 「ヒロシマ連続講座」を始めたのは、東京都立川市在住の竹内良男さん(70歳)だ。
 東京で高校教員をしていた竹内さんは、30数年前、修学旅行の生徒たちを引率して広島を訪れた。その時、被爆者の証言を聞き、衝撃を受ける。それを機に、悲惨極まる原爆被爆の実相をもっと知りたいと、広島、長崎を訪れるようになった。
 退職後も広島を訪れ、慰霊碑を回ったり、被爆者の証言に耳を傾け続けた。そのかたわら、希望者を募って、慰霊碑や原爆や戦争に関する遺跡を巡るフィールドワークを組織するなどの活動にも取り組んできた。こうした活動による竹内さんの“広島詣で”はすでに100回を超える。

 こうした活動の中で、竹内さんが痛感したのは、「広島から遠のくほど人々のヒロシマへの関心は薄れる」ということだった。そして、こう思う。「首都圏の人たちにもヒロシマに関心をもってもらうにはどうしたらいいだろうか」
 そこで、思いついたのが「ヒロシマ連続講座」だった。被爆者や研究者、ジャーナリスト、平和運動関係者らを招き、原爆被害や戦争の実態について話してもらう。そうすれば、受講者は広島でどんなことがあったのか理解してもらえる。「そればかりか、講座は被爆体験や戦争体験を次の世代に伝える場となるかもしれない」。竹内さんはそう考えた。
 
 会場は北区のJR山手線駒込駅近くの愛恵ビル3階(公益財団法人・愛恵福祉支援財団)にある貸し会議室。講座開講日は土曜日の午後で、月に1~3回。講座のテーマと講師は毎回、竹内さんが自ら選定する。

 原爆以外の多彩なテーマも取り上げる
 第1回講座は2016年1月23日で、テーマは「広島・原爆供養塔」、講師はジャーナリストの堀川惠子さん。広島市の平和記念公園の片隅にある原爆供養塔に祭られた7万人の遺骨をめぐる謎に迫った話だった。
 以来、さまざまなテーマが取り上げてきた。それは、原爆に関わるテーマに留まらず、戦争がからむあらゆるテーマに及び、その多彩さに目を見張らせられる。
 例えば――広島の「黒い雨」、原爆で死んだ少年少女たち、脱走アメリカ兵援助、人間魚雷「伏龍」、韓国の被爆者たち、第五福竜丸事件、「原爆の図」巡回展、韓国人BC級戦犯の訴え、丸山眞男と原爆、東京大空襲、日本国憲法、五日市憲法草案、大学と戦争、原水爆禁止署名運動、足尾銅山・谷中村、昭和天皇と戦争、拉孟全滅戦、アウシュヴィッツ、南京事件、原爆と部落差別、「この世界の片隅に」を読み解く、シベリア抑留、炭鉱と戦争、日本の核開発、長崎で被爆した朝鮮人「徴用工」、関東大震災と朝鮮人虐殺、学童集団疎開、ブラジルの被爆者たち……

 講座は1年間で終えるつもりだった。が、「貴重な話が聞けてよかった」「もっと続けて」との声が寄せられたため、止めるわけにもゆかず、ずっと続けてきたという。そして、竹内さんは、こう付け加える。「被爆から75年。被爆者の高齢化が進んでいるので、今聞いておかねばならないことが山ほどある。そう思うと被爆体験を聴ける講座はやめられない」
 これまでの講座参加者は約2150人にのぼる。

 核セミナーと核問題討論会
 私の記憶によれば、戦後この方、市民が中心となった、核問題をテーマとした学習会的な催しがいくつかあった。とくに記憶に残っているのは、次の二つだ。
 一つは、東京の市民グループ「原爆体験を伝える会」が、1975年の2月10日から4月14日までの間に東京・市ヶ谷の日本YMCAで開いた連続・核セミナー「原爆から原発まで」である。これは「ヒロシマ・ナガサキの悲劇から三十年たったいま、私たちをとりまく<核状況>はますます悪化している。米ソを始めとする大国の核競争は止むことを知らず、インドの核実験は世界的な核拡散の口火を切ったに等しい。そして『核エネルギーの平和的利用』の名による原子力発電所の建設計画は、それがはらむあらゆる危険にもかかわらず推し進められている。私たちはヒロシマ・ナガサキの国民的体験から本当に教訓を学んだといえるのだろうか」(同会編『原爆から原発まで―核セミナーの記録』<アグネ刊>)という問題意識を基に同会が10回にわたって開いたセミナーだった。21人の講師とⅠ団体代表が、10の課題について講演した。
 原爆体験を伝える会は、国際政治学者の袖井林二郎、原爆文献研究家・詩人の長岡弘芳の両氏らが中心となってつくられた市民グループで、1970年代から80年代にかけて、原爆体験を内外に紹介する活動をおこなった。
 
 もう一つは、1981年から82年にかけて東京・神田の教育会館や渋谷の婦人会館を会場に13回にわたって続けられた「忘れまいぞ核問題討論会」である。82年6月の第2回国連軍縮特別総会を前にして、日本国民の間に核兵器完全禁止の機運を盛り上げようという狙いから計画された、市民のための学習会だった。主導したのは評論家の陸井三郎、物理学者の服部学の両氏と市民団体代表。講師は学者、研究者らで、会場には生協組合員や地域婦人会の会員らがつめかけた。

 どちらも、市民がグループで取り組んだ催しだった。それらに比べると、「ヒロシマ連続講座」を1人で仕切る竹内さんの奮闘ぶりが際立つ。これも、ヒロシマに寄せる思いの強さ、深さから生み出されたものだろうか。

 ヒロシマ講座は資料代1000円。だれでも参加できるが、事前申込みが必要。申込先はqq2g2vdd@vanilla.ocn.ne.jp 竹内良男さん。
 次回の講座(第101回)は4月4日(土)午後1時から。テーマは「満蒙開拓とは何だったのか?」である。

元高校教師のヒロシマ
第98回ヒロシマ連続講座(2020年2月15日、東京都北区で)

<筆者追記>この記事を発表後、講座主宰者から「(新型コロナウイルスを巡る)このところの状況を考えて4月4日の講座は延期することにしました」との連絡がありました。

2020.02.21  護憲団体と改憲・自民党が“草の根”の対決へ
     両陣営とも世論の喚起に躍起

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 護憲団体が結集する「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が、新しい署名運動を始めた。新署名のタイトルは「安倍9条改憲NO! 改憲発議に反対する全国緊急署名」で、東京で2月6日に開いた署名スタート集会には市民や野党代表がつめかけた。一方、自民党は昨年10月、幹部を動員した改憲運動を全国各地でスタートさせている。両陣営とも自らが目指す方向に世論を喚起するのに必死で、護憲・改憲をめぐる問題は両陣営による“草の根”からの対決という様相を帯びてきた。

 「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」は、学者・文化人ら19人の呼びかけで、2017年8月に結成された。これには個人のほか、旧総評系の「戦争をさせない1000人委員会」、共産党系団体が中心の「戦争する国づくりストップ!憲法をまもり・いかす共同センター」、市民団体の「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」、九条の会などが加わった。

 発足直後の全国市民アクションが取り組んだのは「安倍9条改憲NO! 憲法を生かす全国統一署名」で、3000万筆を目標にしていたことから、「3000万人署名」という略称で呼ばれた。
 この署名は2019年6月までに947万筆余を集め。国会に提出された。

 全国市民アクションが新署名を始めた理由は何か。
 全国市民アクションが「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」と連名で1月1日に発表した声明には、こうある。
「先の参院選で改憲派が発議可能な3分の2の議席を失ったにもかかわらず、安倍首相は臨時国会終了後の記者会見で『必ずや私の手で(改憲を)成し遂げていきたい』と語り、自らの自民党総裁任期の2021年9月までに実現する決意を語りました」「この改憲スケジュールからみて、安倍改憲をめぐるたたかいはいよいよ最大の山場にさしかかったというべきでしょう。2020年の通常国会と臨時国会で『改憲発議』を許すかどうか、さらに2021年通常国会会期中に安倍改憲国民投票を許すかどうかの正念場になりました。この安倍首相の企ては絶対に阻止しなければなりません」「事態は緊急です」
 要するに、護憲派としては、安倍首相の改憲に向けての決意表明に危機感を高め、改憲発議に反対する署名運動をスタートさせたというわけである。

 一方、自民党も国民世論を改憲に引きつけようと躍起だ。二階幹事長、岸田政調会長ら党の幹部が先頭に立ち、全国各地での集会を計画するなど、挙党態勢で改憲運動の盛り上げを図る。
 昨年10月18日には、二階幹事長の地元の和歌山市で約1600人を集めて改憲集会を開いた。
 また、同党は改憲をテーマとした地方政調会を全国各地で開催することになり、昨年10月28日には、さいたま市で、11月18日には広島市で、12月3日には福島市で、それぞれ岸田政調会長らが出席した地方政調会を開いた。
 さらに、同党の憲法改正推進本部に新設された遊説・組織委員会は、全国を10ブロックに分けて担当議員を配置した。
 同党が各地での改憲集会で使用するために、同党所属の国会議員や都道府県連に安倍首相のメッセージ動画を配布した。

 国民世論を盛り上げるための大衆運動、例えば集会、演説会、講演会、デモ行進、署名といった活動は、これまでは労組など革新系団体のおはことみられてきた。が、 いまでは、右派系や保守系の団体もこうした大衆運動に力を入れるようになった。
 護憲・改憲をめぐる対決は、今や大衆運動の分野にまで広がってきたと言えよう。

2020.02.06  生協の組合員が3000万人へ
          個配や地域社会づくり推進が奏功か

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 生協(生活協同組合)の組合員が2020年度に3000万人を超える見通しとなった。1月24日に東京・渋谷の日本生活協同組合連合会本部で行われた日本生協連新年記者会見で、嶋田裕之・代表理事専務が明らかにした。生協組合員数が3000万の大台に乗るのは初めてで、今や、生協は日本最大の消費者組織となったと言える。日本生協連が進めてきた商品供給事業での個配と、「誰もが安心してくらし続けられる地域社会づくり」が地域住民に支持され、組合員増につながったとみていいようだ。

 生協には、地域生協、職域生協、学校生協、大学生協、医療福祉生協、共済生協、住宅生協などがあり、これらの生協のほとんどが日本生協連に加盟している。その数は2018年度で568。その組合員は総計で2924万人である。
 嶋田専務によると、組合員はその後も増えており、2019年度中には3000万人に届かないものの、2020年度の早い段階に3000万人に届きそうだという。
 日本は少子高齢化のテンポが速く、人口減少が著しい。そうしたこともあって、労組、農協など、これまで多数の国民を組織してきた団体は軒並み構成員を減らしている。その中にあって生協は年々組合員を増やしているわけで、このことは特筆に値する。
 
 とりわけ、地域生協での組合員増加が目立つ。2018年度の地域生協数は123。その組合員 は2227万人。これは全体の76%を占める。世帯加入率は38・1%。全国の世帯の約3分の1が地域生協に加入していることになる。北海道、宮城、福井、兵庫の4道県は加入率が50%を超す。加入率40%を超すのは青森、岩手、山形、茨城、群馬、千葉、京都、奈良、岡山、香川、愛媛、大分、宮崎の1府12県。
 これらの数字からしても、生協が国民の間に広く根を張りつつあることが分かる。

 組合員増加の理由は何か。
 日本生協連関係者はまず、「個配」が組合員の支持を受けていることをあげる。
 地域生協の事業で最も主要なそれは組合員に生活必需品を供給することだが、それには2つの手段がある。店舗での供給と宅配による供給だ。
 日本生協連の報道用基礎資料によると、全国の主要地域生協(65生協)の2018年度の供給高は2兆7661億円だが、その内訳は店舗での供給が32%、宅配による供給が65%。
 宅配には組合員の自宅に届ける個配と、グループや職場へ届ける班配がある。その比率をみると、宅配の中で個配が占める割合は71%にのぼる。日本生協連関係者によれば、このところ、個配が年々1%増を示しているという。「組合員の生活スタイルや個人ニーズに対応した供給の仕方が組合員に支持されているからだろう」というのが関係者の見方だ。
 地域生協が全国各地で産声をあげたのは1960年代で、70年代には世界的に注目を浴びた驚異的な発展を遂げるが、それを支えたのは組合員による共同購入だった。いわば、宅配の原型だ。宅配こそ、生協にとってお家芸だったわけである。
 市民の自宅まで商品を届けるというやり方は、最近では他の流通業でも急速に進んでいるが、生協のレベルまでにはまだ追いつけない、といったところか。

 地域生協が推進する「誰もが安心してくらし続けられる地域社会づくり」も、地域の人たちに受け入れられつつあるとみていいようだ。その活動は多岐にわたるが、成果を上げているものとしては、まず、被災地復興支援活動があげられる。
 この活動が本格化したのは2011年の東日本大震災で被害を被った東北の被災地への支援活動からで、日本生協連と全国の生協が2011年度に被災地へ送った義援金は約35億円にのぼった。2012年度から2015年度までは支援活動の一つとして「くらし応援募金」に取り組み、6億6000万円を集めた。
 2018年7月の西日本豪雨では、日本生協連が全国の生協に現地の復興活動を支援するための緊急募金を呼びかけ、募金総額は10億円に達した。同年9月の北海道胆振東部地震被害でも、全国の生協が約3億7000万円を集め、被災地の関係団体に送った。
 さらに、昨年の台風19号による災害でも、被災地支援活動をおこなった。全国の生協から長野市や宮城県丸森町の災害ボランティアセンターに職員を派遣したほか、全国の生協による被災地支援募金は6億7000万円を超えた。

 全国の地域生協が取り組んできた災害地支援活動は他にもある。その一つが、災害などの緊急時に自治体の要請に応えて生協が被災住民向け物資を自治体に供給するという協定を両者で結ぶ活動だ。日本生協連によれば、これまでに都道府県のほとんどと協定が結ばれ、区市町村との協定は700件以上にのぼる。

 宅配のインフラを活用した「地域見守り活動」の推進もあげていいだろう。
 高齢社会を迎えて、地域では1人住まいの高齢者が増えている。そこで、生協の宅配担当者が家々に商品を配達する折りに「高齢者宅でポストに郵便物が貯まったままになっていないか」「届けた商品に手がつけられていないということはないか」などと気をくばり、異変があれば、行政や社会福祉協議会に連絡する、という仕組みをスタートさせた。日本生協連によれば、すでに全国99生協が47都道府県の1147市区町村と地域見守り活動協定を締結した。これは、全地区町村の65・9%にあたるという。
 さらに、全国各地の地域生協は、高齢者が多い過疎地の買い物困難地域に商品を積んだ移動販売車を派遣している。

 生協が、2015年度から、貧困に直面している子どもたちを支援する活動を始めたことも地域住民の関心を集めていると言っていいだろう。具体的には「フードバンクまたはフードドライブ」、「子ども食堂」、「学習支援」といった活動だ。
 「フードバンク」とは、食品を取り扱う企業から、余剰食品や規格外商品、店舗で売れ残った賞味期限・消費期限内の食品などの寄付を受け、無償で必要な人や団体に提供する活動だ。「フードドライブ」とは、家庭で余っている食品を持ち寄り、福祉団体や施設、フードバンクなどに提供する活動をいう。「子ども食堂」とは空腹であったり、1人で食事をしている子どもたちに無料または低額で食事を提供する取り組み、「学習支援」とは、貧困家庭の子どもたちの勉強を支援する活動だ。
 日本生協連によれば、こうした活動は生協単独で行うというよりは他の団体、例えばNPO法人やJA(農業協同組合)と連携して行う事例が多い。2019年度現在、フードバンクを行っている生協は40、フードドライブを行っている生協は37、子ども食堂をやっている生協は39、学習支援をしている生協は19にのぼるという。  

 こうした多面的な地域貢献活動が地域住民に歓迎され、組合員の増加をもたらしたというわけである。

 もっとも、生協陣営としては組合員の増加を手放しで喜んでばかりいられないようだ。なぜなら、主要地域生協の2019年度の4月度から12月度までの総供給高累計が前年比で99・4%にとどまったからである。嶋田専務によれば、主要地域生協の総供給高が前年度割れしたのは初めてという。1世帯あたりの購入額が減ったためだが、これは消費税増税のほか、高齢者世帯が増えて食べる量が減ったことなどが響いたという。
 同専務はこうした実態を「生協にとって厳しい状況だ」とし、「これからは宅配事業の改善と再強化に力を入れたい」と述べた。
2020.02.05  私の願い
          韓国通信 NO629

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

私の願い埋め立て工事が進む辺野古大浦湾。ブルドーザーのうなる音が沖縄県民の願いを押し潰す。民主主義が悲鳴をあげる。
 埋め立て工事の映像さえ見ることがなくなった。それは「密室殺人」を思わせる。<写真左/辺野古で抗議する筆者。FORTITUDEは「不屈」2019/5/13>
 こんなことがあっていいのだろうか。心は痛むばかり。何もできないもどかしさ。いっそのことキャンプシュワブのゲート前で座り込みでもするかと思うのだが…。
 いくじのない自分にできることを去年からずっと考え続けてきた。

 <政府に辺野古基地問題で沖縄と話し合いを求める請願>
 黙っていては基地建設を認めることになる。勝手に沖縄応援団長に名乗りをあげて、作ったばかりの署名用紙を持って訴えた。これまで原発反対の署名活動をした経験がある。基地問題で関心が集まるか心配したが予想外の反響と手応えがあった。
署名は安倍首相に千葉県我孫子市議会が意見書を出すことを求める請願だが、市議会が採択しなければ意見書の提出はない。採択され、意見書が政府に送られたとしても工事は中止にならない。無駄なことをやっているようだが、辺野古の問題で市民が話をするだけでも意義があると始めた請願運動だ。

 今回は友人たちと市議会議員を交え、請願の意義について議論をするなど、少し市民運動らしくなった。気持ちは「ストップ辺野古基地」だが、今回の請願内容には直接触れていない。民主主義、基本的人権と平等権に焦点をしぼった。
最近、政権与党の数を恃みとする驕りと横暴、デタラメ政治が目に余る。辺野古は民主主義の根幹にかかわる問題と確信し、政府に対する異議申し立ての思いが込められている。
 保守系議員の多い我孫子市議会では不採択の可能性があるが、議員たちには会派を越えて、請願に対する理解を求めたい。採択されれば孤立を余儀なくされている沖縄県民に対するエールになるはずだ。若い人たちに署名運動に参加してほしい。保守化と政治に対する無関心が指摘される彼らとこの問題で話をしてみたいという思いも強い。
<お願い>
 請願書は以下の通りです。我孫子市の請願は市外住民、未成年、外国人も参加できる。あなたも是非「沖縄の応援団員」になってほしい。
請  願  書
辺野古基地について政府が沖縄県と真摯に話し合うことを求める意見書提出に関する請願
趣旨
 沖縄県議会が2019年2月24日に実施した県民投票によって辺野古基地建設反対の県民の意思が明らかになりました。しかし、政府は現在、国の安全保障にかかわる問題として県民の意思を尊重せず埋め立て工事を進めています。
国土の0.7%の沖縄が在日米軍基地の70%を負担するという苛酷な状況から生まれる苦痛は察するに余りあります。一地方自治体の民意を政府が考慮を払わないことに沖縄県外の住民としても看過できません。
沖縄県民の意思に寄り添って、政府が沖縄県と真摯に話し合うよう意見書を提出してください。
理由
1. 日本国憲法は第92条で地方自治の尊重を定めています。沖縄県民投票の結果は最大限尊重されるべきです。

2. 沖縄に過重な負担を求めることは、日本国憲法に定められた個人の尊厳と法の下での平等の原則に反するものです。沖縄の基地問題は国民全体の問題であり、沖縄県民の法の下での平等、人権の尊重は私たち市民全体の願いです。

3. 辺野古基地建設については、県民投票の結果を踏まえた各種世論調査で基地建設に反対する意見が多数を占めています。政府が沖縄県民の意思を無視することは同時に、わが国全体の民意を否定することになりかねません。     以上                 
 
請願署名欄      (署名された氏名住所は請願活動以外には使用しません) 

  氏 名

住 所 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

令和2年    月    日            請願者代表(小原 紘 我孫子市我孫子2-1-204) 
我孫子市議会議長                  様  

<関西電力事件の告発人になって>
第三者委員会に任せて幕引きを図ろうとする関電の原発マネーの還流事件。検察が捜査に乗り出すべきなのに、何故か沈黙。故人の高浜町元助役を悪者にして一件落着とするなら、あまりにも国民を馬鹿にしている。原発の利権構造を明らかにして、脱原発に進む絶好のチャンスだ。3272名の市民が告発人に名乗りをあげた。私もそのひとりとして、今後の裁判の経過をお知らせしていくつもりだ。告発の罪名は、特別背任罪、背任罪、贈収賄罪、所得税法違反である。告発人代理人は河合弘之弁護士ほか5名である。
2020.01.18 ほんとうに大丈夫なのか?オリンピック輸送問題
ほんとうに大丈夫なのか?オリンピック輸送問題

          ドライバーの労働環境は既に限界

杜 海樹(フリーライター)

 東京オリンピックを目前に控えても各種交通機関が滞りなく機能するかどうかの懸念が続いている。特に選手村などが設置される臨海部は公共交通機関自体がそもそも少ないところであり問題が指摘され続けて来てきたところであるが、今日に至っても問題が克服されたという話は耳にしていない。
 
国や東京都は、首都高速道路では1日あたり約7万台の交通増が見込まれるとして、関係各位に対してオリンピック期間中の交通量削減に向け協力を求める文書等を発出し、臨海部混雑マップなどを示してはいるが、お願いされただけで削減できるような余裕のある経営をしている企業がそうあるとも思えず、この先一体どうなるか非常に気になるところだ。何しろ、臨海部の交通が麻痺してしまえば、オリンピックの運営だけではなく、東京港からの食糧輸送、郵便配送や各種宅配配送、企業や工場への輸送等々に深刻な影響が出ざるを得ないからだ。
 
そもそも、臨海部の混雑は東京オリンピック時の混雑という問題以前に慢性的な渋滞問題として長い間黙認されてきた経緯の上にあるということは知っておきたいところだ。東京一極集中が進む中、東京港においても十分な待機スペースがあろうはずもなく、コンテナ船などの大型船が着岸すれば幹線道路もトレーラートラックで溢れかえり微動だにしない状況が長い間続いて来た。そして、大渋滞が発生する度、問題として取り上げられては来たものの、ピークが過ぎれば、喉元過ぎれば熱さを忘れるごとくに問題が先送りされ続けてきた経緯がある。
 2018年上半期の東京港のコンテナ取扱個数は244万TEU(TEUはコンテナを数える単位。1TEUは長さ20フィートのコンテナ1個分を指す。最近は長さ40フィートのコンテナが主流となっているため2TEUがコンテナ1個分である場合がほどんど)を数えており、これを1日分に換算すると概算で6777個のコンテナを東京港で取扱う計算となる。時間に換算すれば12.7秒に1個の割合でコンテナを運んでいかないと追いつかない計算となっている。さらには、都も施設容量の不足を認めているところであり、新たな車輌待機場の整備、ターミナルの整備、埠頭の再編等を推進するとはしているものの、現状に全く追いついていないのが実態となっている。
 
東京港臨海部で輸送に携わっているトレーラードライバーは渋滞で数時間待たされるのは常であり、長いときは7時間も8時間も路上で渋滞のまま待たされ、朝に並んで夜まで待たされるといった悲惨な状況にもおかれている。混雑時には主要道が完全に機能停止となってしまうのだ。そして、路上にはトイレも売店も何もないことから、ドライバーはペットボトルを尿瓶代わりに持参したり、オムツをして乗車するなどの状況に追い込まれてもいる。
 もちろんこうした状況が労働基準法を満たしている訳は全くなく、業界紙である物流ニッポンは、2017年実績で、トラック運送事業所の内の84%が労基法違反、69%が自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)にも違反だと報じている。自動車運転者の労働時間等の改善のための基準は、1日の拘束時間は最大で16時間までが限度(一般のサラリーマンで例えれば9時に出勤して深夜1時まで拘束できるというような長時間拘束が認められる)、1年間の拘束時間は最大で3516時間が限度等々と極めて緩い基準となっているのだが、この緩い基準すらも守れていないのが実態となっているのだ。
 
2020年現在、厚生労働省内には委員会が設置され、過労死防止の観点から、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の見直し作業が始まっているが、まだまだ改善の道は遠いというのが実態となっている。
 こうした厳しいトラックの現実の中に東京オリンピックの輸送問題が割って入って来た訳なのだ。臨海部の渋滞問題は小手先の回避策では到底対応できるものではないであろう。臨海部周辺で働くドライバーは、既に労基法違反の長時間労働で首が回らない状況にある。オリンピックからパラリンピックまでを考えると約1ヶ月の期間があり、その間、通常の生活に必要な物流を止めることなく、オリンピックの輸送を本当に行えるのであろうか?
2020.01.16 旧陸軍被服支廠を保存して
      旧陸軍被服支廠を保存して

        広島の被爆建物解体の動きに反対の声

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 「原爆を浴びても生き残った被爆建物は歴史的にも文化的にも貴重な人類の遺産。決して解体してはならない」。そんな声が、広島と東京で高まりつつある。今年は広島・長崎の被爆から75年。この問題は、原爆被爆を日本人としてどう考えるかという問いかけを改めて私たちに突きつけていると言えるのではないか。

 問題になっているのは広島市南区にある旧陸軍被服支廠(ししょう) 。爆心地の南東2・7キロにある。1913年に完成した鉄筋コンクリート・れんが造りの3階建てで、戦前から戦争中にかけては軍服や軍靴を製造していた。
 もともとは13棟あったが、現存しているのは4棟で、1945年8月6日に広島に投下された原爆でも倒壊を免れた。1~3号棟を広島県、4号棟を国(中国財務局)が所有している。4棟の敷地は合わせて約1万7000平方メートル。現在、広島市が被爆建物として登録している建物は市内に86件あるが、その中でも最大級という。
 被爆後は広島高等師範学校、県立広島工業高校の校舎、日本通運の倉庫などに利用されてきたが、1995年以降は使われていない。

  ところが、昨年12月初め、広島県が、所有する3棟のうち爆心地に最も近い1号棟を改修・補修して保存し、他の2棟(2号棟と3号棟)を解体・撤去する方針を明らかにした。県によると、築100年を超えているので劣化が進み、地震による倒壊または崩壊の恐れがあるからだという。2、3号棟の解体・撤去に当たっては事前にバーチャルリアルティー(Vr)の技術を用いて現在の姿を精密にデジタル保存する、としている。
 一方、4号棟を所有する中国財務局は「解体を含め検討中」としている。

 こうした県の方針に対し、さっそく市民の間から「解体反対」の声が上がった。それは次のような主張に基づく。
 一つは、被爆直後にここが救護所となったため、多数の被爆者がここに逃れてきて、ここで亡くなった人もいたという事実を重視すべきだ、という主張だ。つまり、旧陸軍被服支廠はいわば「被爆の証人」と言える。だから、被爆者が年々減少し被爆体験をどう継承するかが問題となっている折から、「もの言わぬ被爆者」である旧陸軍被服支廠は何としても残すべきだ、というわけである。
 もう一つの主張は「旧陸軍被服支廠は国内最古の鉄筋コンクリートの建物で、建築学上も大きな価値をもつから、解体・撤去は避けるべきだ」いうものだ。

地元紙・中国新聞によれば、今月初め、全国の市民有志約200人でつくる「旧被服支廠の保全を願う懇談会」が、3棟を所有する県に「3棟を解体せずに最大限保存するよう要望する」文書を提出した。
 また、朝日新聞によれば、今月初め、原爆ドーム前で、旧陸軍被服支廠の保存を求める市民有志が署名活動を行い、「解体の危機にある赤れんが倉庫(旧陸軍被服支廠のこと)をあなたの手で支えてください」と、観光客らに呼びかけると、約1時間で100筆近くの署名が集まった。同紙はまた、広島市の市民が「長きにわたって歴史を物語ってきた建造物を後世に残してほしい」とインターネットによる署名を始めたところ、約一カ月で内外の約1万6000人から賛同を得たことや、広島県原爆被害者団体協議会(坪井直理事長)が4棟の保存を求める要望書を県に提出したことを伝えている。

 さらに、広島出身の被爆文学者の作品や資料の収集に当たっている「広島文学資料保全の会」は、1月26日(日)午後2時から、広島市中区袋町、ひとまちプラザ・北棟6Fで「赤れんが よみがえれ―保存・活用をめざして」と題する講演会を開く。講師は石丸紀興・元広島大学教授。講演会の狙いを「拙速に“広島の原風景”を消してはならぬ。旧被服支廠の保存・活用にむけて多くの県民・市民の意見を集約しよう」としている。

 東京でも、広島での動きに呼応する動き出始めた。3年前から、原爆や戦争の被害について理解を深めようと、東京で月に1~3回の「ヒロシマ連続講座」を主宰している元高校教師の竹内良男さん(東京都立川市)が、今月から来月にかけて3回にわたる「広島・旧陸軍被服支廠の保存を考える」と題する緊急講座を開く。
 第1回は1月19日(日)、第2回は同月26日(日)、第3回は2月11日(火・祝日)。いずれも午後1時30分から。場所はJR山手線駒込駅東口から徒歩7分の愛恵ビル3F(公益財団法人愛恵福祉支援財団)である。講師には、永田浩三・武蔵大学教授、栗原俊雄・毎日新聞学芸部記者らが予定されている。
参加には事前の申込みが必要で、竹内さんのアドレスはqq2g2vdd@vanilla.ocn.ne.jp

 今はユネスコの世界遺産に登録されている原爆ドームについても、広島市民の間で、保存か取り壊しかの論争があった。結局、1966年7月に広島市議会が永久保存を決議、これを機に保存工事のための募金が全国的な規模で行われ、1967年から広島市による保存工事が始まった、という経緯がある。これまでに3回にわたる保存工事が行われている。
 旧陸軍被服支廠については、どんな結末となるのだろうか。
2019.12.02 崩壊する大学入試改革
記述問題をめぐって

 小川 洋(大学非常勤講師)

 現・高校2年生が受験する予定のセンター試験に代わる大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が、収拾のつかない事態になっている。今回の「改革」の最大の柱は、民間英語検定の利用と記述式問題の国語と数学への導入の二つだった。英語検定は11月1日に導入の見送りが発表された。全国の相当数の高校生がすでに受検予約金(3000円)の支払いを済ませ、1日は各高校が生徒の受検登録の申請を入試センターへ発送する当日、という混乱ぶりだ。
 
記述問題では、すでに数学での導入が見送られる方向になっている。昨年行われた試行調査(プレテスト)では、一部の問題の正答率がわずか3.4%だった結果を受けてのものである。ほとんどの受験生が答えられない問題では、試験自体が無意味になる。中教審会長として今回の改革をリードしてきた安西祐一郎氏(元慶応大学塾長)は、この報道を受けて、「出題に対応できていない高校以下の教育が悪い」と、八つ当たり気味の反応をしたという。
 
さらに国語でも雲行きが怪しくなっている。文科省自身が国公立大学に対し、国語の記述問題の成績を二段階選抜(二次試験への足切り)に利用しないよう要請することを検討しているという。国語の記述問題は、80~120字で解答する問題と、より少ない字数で解答する2問が予定されている。採点は5段階の総合評価であるが、試行調査の分析結果から、評価の信頼性を十分に担保できないことが明らかになったからである。どれほど慎重に実施しても、採点担当者によって評価が異なることが避けられないことを、文科省が認めたのである。そのようなテストで、各大学の個別試験に進めるか否かが左右されては、入試の大前提である公正さが保証できない。今後、私大も含めて、記述問題部分の得点を選抜に使わない大学が続くことが予想される。もともと建付けの悪かった改革の看板は、今や釘一本でかろうじて留まっている状態である。

今回の改革案を検討する一連の会議のなかで学習評価法の専門家などから技術的な問題点などを指摘されても、安西氏は、「技術問題はいずれ解決できるはずだ」と、自説を貫いたという。しかし例えば、複数の民間英語検定を比較する一覧表は、最後まで疑問が投げかけられ続けた。例えば、英語圏の大学で学ぶための能力検定とビジネス現場での英語能力を問う検定を同列に扱えるはずがないことは、まともな研究者には初めから分かっていたことだ。一事が万事で、今回の改革は基本的な問題を無視して突き進んできたというしかない。

記述式問題についても同様だ。そもそも中教審答申などを読んでも導入する必要性や理由について、まともに説明されていない。多肢選択式問題では記憶力しか測れず、「これからの社会で求められる」とする「思考力、判断力、表現力」を測れない、という程度の漠然とした問題意識しか読み取れないのだ。改革案の具体化を検討する作業部会を経て出されたのは、最大で百数十字の文章作成という結論だった。本場フランスのバカロレアでは、必須科目の哲学で4時間に及ぶ論述が求められることはよく知られている。さすがにそこまで踏み切れるとは、筆者も考えていなかったが、字数を聞いて桁を間違えているのではないかと一瞬耳を疑ったほどだ。

散文での表現は基本的に、問題設定、展開、結論の最低でも三段階で構成される。地方公務員試験や教員採用試験の論述試験は、600~1200字程度とされる。120字の文章で、どのような学力を確かめようとしているのか、まともな説明はなされていない。さらに、第一回の試行調査では正解率が極端に低く、二回目のプレテストにおいて、本文中から適切な語を探させるなど、解答への誘導をするように問題を修正したという。ならば、多肢選択式で十分ではないか、と突っ込みを入れたくなるような有様なのである。

 今回の入試改革の発端は、民主党政権末期の12年11月に出された自民党内の教育再生実行本部の中間報告にまで遡る。そのなかで、大学入試については、「日本版バカロレアの創設」と「英語テストへのTOEFL等の導入」の二つが掲げられていた。しかし、日本版バカロレアを「高校在学中も何度も挑戦できる達成度テスト」とした点で、すでに提案は破綻していた。フランスのバカロレアは年一回行われる論述式テストであり、10万人の採点者が動員される大事業である。複数回受験可能なのは、アメリカの大学進学適性テストのSAT (Scholastic Assessment Test)であるが、基本的にマークシート方式で、コンピュータによって統計的に処理される。両立するはずもない入試制度である。教育学の専門家に意見を求める謙虚ささえあれば、犯しえない誤りである。
「論述式(バカロレア)」と「英語の民間検定試験」の二つの「改革」の源流は、ここにまで遡れるが、このような居酒屋談義に類する議論から実際の政策が進められる傾向は、この直後に成立した第二次安倍政権の体質のように思われる。無内容な「改革」に振り回されている教育現場と生徒たちにとっては、とんでもない災難である。抗議活動が広がって政権が倒れてもおかしくない事態である。

 仮にこのまま記述式問題の導入に突き進むとして、その採点がなぜベネッセなのか。記述問題部分の採点は、ベネッセが4年間60億円あまりで引き受けることになっている。現在、小6と中3の生徒に学力調査が悉皆調査で行われ、その採点業務を、毎年のようにベネッセが落札し、その実績があるということなのだろうが、短期アルバイトを動員して採点業務を遂行してきた経験があるということでしかない。
 
より確実で信頼性の高く安く済む方法を提案したい。筆者が専門とするカナダでも、ほとんどの州で学力調査が実施されている。公用語である英語とフランス語のテストでは、示された文章の要約を書かせる、与えられたテーマでエッセーを書くなど、基本的に記述式である。採点に当たるのは、おもに退職教員や現職教員である。6月に実施された調査の解答は州都などに運ばれ、夏休み中に採点される。日本でも教員を動員することは可能なはずだ。
 
新しい共通テストも、従来のセンター試験と同時期の1月第3週の週末に行われる。多くの高校では1月半ばに「家庭研修」という名目で3年生の授業は無くなっているから、現職教員も相当数動員できる。これに加えて退職5年以内程度の元教員を動員すれば人数は十分に揃う。2000人ほどを集め、研究者などが統括すればよい。各県の青少年会館のような宿泊施設で1週間ほど缶詰になってもらう。原稿用紙半分にも満たない分量である。3人一組で約750枚を評価するのには5日間ほどあれば十分だろう。日当、交通費、宿泊施設および食費を含めて一人15万円として、3億円で済む。会場費などを加えても5億円もあれば十分だ。ベネッセへの委託費の半額以下である。それとも、今回の改革は「ベネッセのための改革」なのだろうか。

なお、今回の大学入試改革の経緯については、筆者の『地方大学再生』(朝日新聞出版、2019年)の第七章「迷走する大学入試改革」で詳しく述べているので、参照していただきたい。

2019.11.20 大学入試への民間英語検定導入中止
壮大な詐欺計画

小川 洋 (大学非常勤講師)

 現・高校2年生が受験する大学入試の一部が突然、キャンセルされた。センター試験に代わって、20年度に導入される入試では、高3の間に民間英語試験を受検すること(2回まで)が求められ、多くの大学が、その成績を合否判定に利用することになっていた。萩生田文科相が、その中止を発表したのは、受検の前提となる登録受付の初日だった。多くの高校では、生徒から申込用紙を取りまとめて発送するところだった。基本的に高校入学時に卒業段階の入試制度は確定されてなければならず、実施1年余り前に突然、変更されたのだから異常事態である。韓国のような、日本以上に教育に関心が強い国であれば、政権の一つや二つが吹っ飛ぶくらいの事件のはずだ。

 筆者は以前から、今回の入試改革の要は、大学入試を教育企業に開放することにあると指摘してきた。より直裁に言えば、政府・文科省と主要教育産業と一部英語教育研究者が、新たな利権を創出するために計画したものだった。制度の矛盾点を指摘し、反対を唱え続けてきた東大の阿部公彦教授(英文学)も、中止決定後は、ツイッター上で「詐欺」という強い言葉を使い始めている。
 詐欺の定義は、人々の不安に付け込むなどして、「騙し、金品を奪う、あるいは損害を与える」こととされる。今回の民間英語試験の導入計画は、2013年の自民党の教育再生部会の報告にまで遡る。その後、中教審委員長を務めた安西祐一郎元慶応大塾長や財界関係者あるいは一部の英語教育研究者が中心となって、「入試を変えて、高校以下の英語教育を変えていかなければならない」という主張をした。一連の動きの陰に、竹中平蔵氏の姿が垣間見え、ベネッセなどの企業が裏で活発に動いていたことに気づいていた人も少なくなかったはずであるが、マスメディアの関心はいまひとつだった。
 
 日本人は一般的に、英語に苦手意識が強いと言われる。とくに「聞く・話す」は弱い。英語力に自信がある人が、初めて出かけた海外で英語がまったく通じなかった、という挫折の体験もよく聞く。6年も学習して、日本の英語教育はまったくなってないではないか、という不満が出る。「話す英語」を強調するために生み出されたキャッチコピーが「四技能」という、聞きなれない言葉である。「読み・書き・聞く・話す」の四つの力をバランスよく身につけるべき、という主張だ。人によって必要な能力は異なるはずなのだが、バランスが大事だというのである。「あなたには、〇〇が不足しています」と人の不安を煽るのは、効果の怪しいサプリメントを売り込む企業のよく使う手法でもある。
 詐欺を成功させるには、人々の漠然とした不安が前提となる。振込め詐欺が典型だ。日頃、音信の途絶えがちな子どもから、突然、「窮地に立たされているから助けてほしい」という連絡があって、潜在していた不安に火が付き、冷静に考える暇もなく、指示されたとおりに大金を振り込んでしまう。教育では、以前から「グローバル人材育成」が叫ばれ、小学校への英語教科導入なども進められるなど、子を持つ親たちは、英語教育への強迫観念が植え付けられていた。そこに付け込んだ新ビジネスが、今回の民間英語試験の導入だった。センター試験の受験生は毎年約50万人、全員が2回受検すれば、受検料が一回1万円として、100億円のビジネスが出現することになる。しかも、準備学習教材の需要も相当額が見込まれる。
 先日も国際語学教育機関が、日本人の英語力が低いレベルにあり、さらに順位を下げているとの調査報告を出した。しかし、日本人の英語が振るわないのは、我々の先人たちの努力や日本語の特性などに、その理由があることを忘れてはならない。日本では、江戸後期の蘭学者たちが、ヨーロッパの学問を積極的に学び、日本語に置き換える努力を積み上げ、また漢字仮名混じりという、世界的にも珍しい言語が、それを可能としてきた。

 高等教育を母語で学べる国は、国際的にも多くはない。現在、理系分野では、日本のトップレベル大学でも、一定の外国語能力を求められるのは、学部4年生になり、海外の最新研究にアクセスする段階である。かつて欧米各国の植民地だった国々では、多くの場合、高等教育を受けるためには、中等教育段階から英語や仏語の習得が必要となる。フィリピンでは、理系科目は初等教育から英語で行われる。文系科目こそフィリピン語(タガログ語)で行われるが、フィリピン語では理系分野の概念を扱いきれないのだ。
 英語、中国語、タミール語、マレー語を公用語とするシンガポールでも、エリートを目指すには、英語で授業が行われる大学への進学が有利である。イギリスの植民地だった地域では、現地エリート層には英語教育を与え、協力者として育てながら、民衆には英語教育の機会を与えなかった。今でもインドでは、社会の上層部の人々は英語が堪能だが、中等教育で終わっている人たちの英語力は、ほとんど期待できない。

 近年の日本の大学入試や大学改革における英語への偏執的な姿勢は、日本の言語環境の特殊性の理解が疎かにされているためではないかと思われる。学部の授業の一部を英語で開設するのも一種の流行りである。留学生向けならば、必要性も分かるが、日本人学生の教育に日本語と英語のいずれが適切かは論ずるまでもない。英語で授業を行えば、伝えるべき情報は日本語での授業の何分の一かになってしまう。日本の教育を無国籍化しようとしているとしか思えない政策をなぜ進めるのか。

 自民党の文教族といえば、かつては利権とは縁の薄い、愛国心教育など、イデオロギー色の強い議員というイメージが強かった。ところが、安倍政権の7年間、道徳の教科化や社会科教科書検定など、教育行政へのイデオロギー的な介入を一層強めるとともに、森友学園・加計学園に見られるように、教育行政の私物化が著しい。民間英語試験の利用に否定的だった国立大学に対し、文教族の大物が、国の交付金の減額を匂わせながら利用を促したという話さえもが伝えられている。ヤクザ顔負けの言動である。政府与党がヤクザや詐欺師のような振る舞いに及んでいるのだ。
 有能な詐欺師は、被害者が騙されたことを悟られないように事を片付ける。その点、今回の詐欺師たちは、あまり有能ではなかったようだ。センター試験の受験料は18,000円である。民間英語試験の受検料では2万円を超えるものもあり、また民間企業のやることだから、参加者が十分に見込まれない地方に会場は設営されない。そのため、とくに少子化の進む地方では不安と不満が渦巻いていた。
 全国高校校長会が、民間試験導入の延期と制度の見直しを文科省に対して提出するなど、カモたちも騒ぎ始めていたのである。カモに騒がれるような詐欺計画が失敗するのは当然だが、詐欺師が改心することはない。今後も、手を変え品を変え、民間企業へのビジネスチャンス提供の試みを続けるはずだ。詐欺の被害を防ぐには、詐欺師の取り締まりと被害に遭いそうな人たちへの啓蒙が必要だ。安倍政権を取り締まることができるのは選挙民しかない。