2017.05.25  「相棒」について考える
   小山の教育通信 [2017.5月-3]

小山和智(グローバル化社会の教育研究会事務局長)

5月21日から 双子座(Gemini) に入ります。カストール&ポルックスの仲の良い双子は、世界各地で「コミュニケーション能力と知謀・知略」の象徴になっています。

「相棒・相肩 (partner)」という言葉は、一つの駕籠や荷物を一緒に担ぐ相手のことだったのですが、“ペアになって仕事をこなす際の相手 (associate)”を指すようにもなります。これが、「片棒」から「共犯」へと進むと、人数も怪しさも増していきます。

相棒・相肩は 普通は一人ですから、「mate」が“対”の感じがしてピッタリ。商船の「First/Chief Mate (一等航海士)」は、船長(Captain) の“女房役”です。嫌な仕事や汚れ役、臨時の警察官の役も 負わされます(当然 拳銃を携帯)。その点、運転技師である「Engineer (機関士)」は、気が楽なようです。
なお、大型客船の場合、船長の補佐役は「Staff Captain (副船長)」と呼ばれます。主には、乗客の安全確保に関する職務をこなしますので、普通は 拳銃等を携行しません(注:船長室などに保管)。

因みに、古代の日本語では、配偶者(spouse) のことを「ツマ」(反対側の端)と呼び、男女の区別はありませんでした。漢字が輸入されて“夫・妻”の字が当てられるようになり、やがて女性のみに使われるようになりました。英語の「better half (妻)」も元は“親友”の意味で、男女は関係なかったそうです。

阿部泰尚さん(TIU総合探偵社) が、マンションやアパートの郵便受けに入る「NTT Flet's 光」のチラシについて 報告されています (5/12)。結論からいうと「NTTを騙る悪質な営業行為」でして、NTT自身は「Flet's 光」を戸別訪問や電話勧誘 (⇒迷惑電話) 等で 直接営業はしません。ただし、こうした“販売代理店”がまとめてきた顧客に対して“サービス提供は厭わない”姿勢です。

困るのは、訳のわからない機器やサービスを 契約させられ、(知らない内に) 高額な料金を払い続ける嵌めになることと、解約したい場合は消費生活センターか 弁護士に頼むしか 方法がないことです。引っ越した直後や、一人暮らしを始めたばかりの学生などが、まんまと騙されるのですが、学校・大学側の注意勧告も「NTT販売代理店」の“印籠”の前では 色褪せてしまいます。
この調査、10年前にやって欲しかったですね。無数の犠牲者を出して、一体 誰が儲けているのでしょう?

それでは、例によって他のニュースも。
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関西 かけはしセミナー2017

日 時  5月27日(土) 午前10時半~12時半
場 所  イオンコンパス大阪駅前会議室 (大阪駅前第2ビル 15F)
テーマ  『英語教育改革の現状と今後の展望』
      講師:藤田 保(上智大学言語教育研究センター教授)
※ 「入試が変われば…」といわれてきた日本の英語教育は 2020年の大学入試改革に向けて どう変わっていくのでしょう?
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関西「帰国子女教育を考える会」第76回研究例会

日 時  6月 3日(土) 午後2時~5時 (例会後、懇親会)
場 所  立命館中学・高校  (京都府長岡京市調子1-1-1)
テーマ  『SGH(スーパーグローバルハイスクール) 実践4年目を迎えて』
      発題:神戸市立葺合高校、大阪府立三国丘高校、立命館高校
※ 文科省SGH(昨年度までに 123校指定)で試みられた 様々な実践やカリキュラム等は、帰国生にとって どういう意味を持つのでしょう?
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「Captain」は 船長・艦長ですが、海軍大佐 という階級も意味します。陸軍では“大尉”、警察では“警部”となるし、各国で微妙に異なるので 困惑することもあります。なお、陸軍大佐は「Colonel」です。

『Strong in the Rain (雨ニモマケズ)』が 日本語で読めます (えにし書房刊)。悲惨な原発事故を経験しながら、未だに 同じエネルギー戦略の下で 原発再稼働を進める愚かさ、津波対策も 巨大防潮堤の建設という“土建需要”にすり替える狡さを、外国人記者が看破しています。

「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が 5月19日(金)、衆議院法務委員会で可決されました。「国会議員定数を半分に減らす」と国民を欺き、大多数の議席を確保したら、その約束は 放置して、特定秘密保護法制定、自衛隊法等改正を強行した上に、とうとうこの暴挙です。
共同通信は、国連人権理事会から任命された特別報告者 (U.N.Special Rapporteur) のジョセフ・ケナタッチ氏が安倍首相に緊急書簡を送って、警告を行ったことを配信しました。法案の「計画」や「準備行為」の文言が抽象的で、恣意的な適用のおそれがあること、対象となる犯罪の中に テロリズムや組織犯罪と無関係のものを含んでいる危険を指摘しています。

5月25日(木)、ASIA-NETクロスナレッジ「伝える技術を鍛える勉強会」南部労政会館(東京都品川区)で開かれます。今回は「モンローの説得話」をテーマに取り上げ、現場で使える実践スキルの習得を目指します。

次のグローバル化社会の教育研究会(EGS)は6月30日(金)、聖学院中学・高校 (東京都北区)--- 同校の「21世紀型教育の実践」をテーマに話し合わせてもらおうと 準備中です。詳しくは、別便にてご案内します。

それでは皆様、ごきげんよう。

小山 和智 ( OYAMA, Kazutomo)
  http://www.toshima.ne.jp/~kyoiku/
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(過去のニュースは 下記をご覧ください。)
 http://www.toshima.ne.jp/~kyoiku/shijo-news.htm
2017.05.16 「五」について考える
  小山の教育通信 [2017.5月-2]

小山和智(グローバル化社会の教育研究会事務局長)

五月病シーズンのピークですが、皆様 お加減は如何でしょう?

五原則や五元素など“五”を一組とする感覚は、仏教・ヒンズー教圏の特徴です。起源は 手の「五指」なのでしょうが、親指を「finger」と考えない欧米では、“五”を完全数と感じないだけでなく、「fifth」には“裏切り, スパイ, 破壊…”のイメージもあります。「Olympic symbols」を“五輪”と呼ぶのは 日本だけ。五輪が象徴する“五大陸 (Continents)”の色 (左から青・黄・黒・緑・赤)の、どの色が どの大陸を指すのかの詮索は、無意味です。

「Oceans」は 日本では“五大洋”と訳しますが、太平洋と大西洋を 更に南北に分けて「Seven Seas」と呼ぶ方が、グローバルには一般的です。ただし、10~15世紀、世界文明の頂点にいたアラビア商人(+海賊)にとっての「七つの海」は、南シナ海・ベンガル湾・アラビア海・ペルシア湾・紅海・地中海・大西洋でしたけど…。因みに、北米の「Great Lakes」を “五大湖”と訳すと、ニピゴン湖・セントクレア湖などは 無視されることになります。

大阪夏の陣(1915年) は 旧暦4月26日開戦 (~5月8日) でした。現在の暦で5月下旬から6月上旬です。真田幸村の伝説的な活躍は、今でも子ども達に人気……沢田博史さんの『冥銭のドラグーン』は、もう読まれましたか?
「流鏑馬 <やぶさめ>」は 疾走する馬上から的を射る技術・儀式のことですが、弓矢の代わりに 小銃(rifle)を持つ騎兵を「竜騎兵 (dragoon,cavalry)」といいます。ただし、馬上からの射撃は 照準が難しいので、実戦では、下馬して “伏せ撃ち”するのが普通でした。日露戦争の「騎兵第1旅団」(秋山隊)も竜騎兵です。軽砲や機関砲まで装備していても、文字通りの“機動性 (cavalry)”が命でした。


この時期、新しい定期券を手にしている人が 多いでしょう。定期券は、券面に表示された経路通りにしか 乗れませんし、本人しか使えません。旅行ライターで漫画家の恵 知仁さんによると、2007年 他人名義の定期券を10ヶ月使った生徒に、JRは123万円を請求。複数の学生が不正な定期券を使用していたことが発覚した日本大学では、642万円の支払いに応じたそうです。「知らなかった」では済まされません。

満員電車での迷惑行為のトップは、痴漢ではなくて (注:痴漢は犯罪)、「リュックを背負って乗車」(マナー:リュックは前に) と「ドア地蔵」(マナー:入口付近に立たない) だそうです。前者は「スマホを見たい」という身勝手から、後者は「慣れない通勤・通学路で、降りられなくなるのが怖い」という心理から、と分析されています。いわゆる「新入りラッシュ」(=遅延) の元凶ですが、何度も注意されて、6月頃には 改まるのが普通です。

それでは、例によって他のニュースも。
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東京私立中学合同相談会

日 時  5月21日(日) 午前10時~午後4時
場 所  東京国際フォーラム (東京都千代田区丸の内3-5-1)
内 容  各校の個別ブース、東京大学やJAXA(宇宙航空研究開発機構)による体験講講座、「私立中高一貫教育の価値と魅力」 を知るセミナー、ほか
参加費  無 料(予約不要)

※ 東京の私立中学校173校が集結し 中高一貫校の優れた教育を紹介。

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中国の五行思想は、万物は 木・火・土・金・水 の5種類の元素からなるという説。各々に 青(緑⇒ 春、東)・赤(朱⇒ 夏、南)・黄(⇒ 土用、中央)・白(⇒ 秋、西)・黒(玄⇒ 冬、北) の色がついています。

音楽で使う五線紙は「staff」、楽譜/五線譜は「(staff) score」です。また、ギター教本では 親指を除いた4指を 1~4で示します。「親指も指だよ」と言うと、「toe (足指)と混同するな」と諭されるでしょう。

「冥銭」は 死者を葬る時に棺に入れる硬貨(=三途の川の渡し賃) のこと。中国では、本物のお金はあの世に持って行けないので、薄紙に紙幣のような印刷を施した「冥鈔 (ming2chao1)」を燃やして供養します。

5月17日(水)から、東京ビッグサイトで「教育ITソリューションEXPO」が開幕。21世紀型教育の実践を目指して、32もの特別セミナーもあります。体が一つでは とても足りませんね。

『海峡 27号』(社会評論社刊)に 桑ヶ谷森男先生の論文「新渡戸稲造と柏木義円の朝鮮認識を問う」が、掲載されています。新渡戸稲造に対する印象が大きく覆される一方、柏木義円という論客にも感激しました。二人とも クリスチャンながら、真反対の論調には驚きます。

『月刊 海外子女教育』5月号の特集は「アイデンティティをめぐる帰国生物語」「古典に親しむ」。後者は、国際バカロレア(IB)の「日本語科」が どういうものかを知る 格好の解説です。

日本は、一気に夏になってしまったような陽気です。毛穴が十分に開いていないと、熱中症の危険もあります。皆さま お身体を大切に。ごきげんよう。

小山和智( OYAMA, Kazutomo)
 
 http://www.toshima.ne.jp/~kyoiku/
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(過去のニュースは 下記をご覧ください。)
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<小山和智氏の略歴>
1952年生まれ。海外子女教育振興財団に13年半勤務したほか、ジャカルタ日本人学校 事務長、クアラルンプール日本人学校 国際交流ディレクター、啓明学園 国際教育センター所長、順心広尾学園 校長補佐、上海日本人学校学校 事業計画室長を歴任。現在、グローバル化社会の教育研究会事務局長。国際教育相談員。
著書に『インドネシア・マレイシア駐在員マニュアル』(旺史社)、『海外赴任のためのリロケーションガイド』(NNA他)のほか、ビデオ教材『中国人の交渉術と価値観』(ジオモンド社)など。
2017.04.28 今こそ日本国憲法を守り生かそう
施行70年を記念して統一集会へ

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 日本国憲法が施行されたのは1947年5月3日である。それから70年にあたる5月3日(水=祝日)、東京・江東区有明の東京臨海広域防災公園で、大規模な集会が開かれる。「施行70年 いいね!日本国憲法」「平和といのちと人権を!」をメーンスローガンに掲げる「5・3憲法集会」だ。憲法記念日に行われる、護憲派の統一集会は一昨年、昨年に次いで3回目だが、今年は安倍政権が改憲に向けた攻勢を強めつつある中での開催なので、緊張感ただよう集会となりそうである。

 集会を主催するのは「5・3憲法集会実行委員会」。それを構成するのは、戦争をさせない1000人委員会、解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会、戦争する国づくりストップ!憲法をまもり・いかす共同センターの3団体である。これらには、旧総評系、共産党系の団体のほか、中立の市民団体も加わっており、いわば、護憲を目指すほとんど全ての潮流による統一集会といってよい。

 最初の統一集会は、一昨年の5月3日、横浜市のみなとみらい地区の臨港パークで開かれ、参加者は3万5000人(主催者発表)。昨年の統一集会は、やはり5月3日に東京・江東区の有明臨海広域防災公園で開かれ、参加者は5万人(同)だった。今年は、これを上回ることができるかどうか。

 今年の集会の特徴は、以下の8項目にわたる「私たちがめざすこと」を掲げていることだ。

私たちは、日本国憲法を守り生かし、不戦と民主主義の心豊かな社会をめざします。
私たちは、二度と戦争の惨禍を繰り返さないという誓いを胸に、戦争法の廃止をめざします。
私たちは、沖縄県民と思いを共にし、辺野古新基地建設の撤回を求めます。
私たちは、被災者の思いに寄りそい、原発のない社会をめざします。
私たちは、人間の平等を基本に、貧困のない社会をめざします。
私たちは、人間の尊厳をかかけ、差別のない社会をめざします。
私たちは、思想信条の自由を侵し、監視社会を強化するいわゆる「共謀罪」に反対します。
私たちは、これらを実現するために行動し、安倍政権の暴走にストップをかけます。

 集会参加者は、憲法施行から70年という節目で、改めて日本国憲法を守り、活かすことを誓い、今、世界と日本で解決が求められている諸課題に取り組む決意を新たにしよう、ということだろう。

 集会開始は11時30分。13時から各界の人によるスピーチや野党代表のあいさつがある。各界の人によるスピーチでは、名古屋大名誉教授・池内了、弁護士・伊藤真、作家・落合恵子、ファッション評論家・ピーコ、法政大学教授・山口二郎の各氏らの登壇が予定されている。集会後、パレードを行う。

 会場の東京臨海広域防災公園へは、りんかい線「国際展示場駅」から徒歩4分、ゆりかもめ「有明駅」から徒歩2分。

2017.04.26 BANK
韓国通信NO522

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

<銀行の政治献金再開>
バブルの崩壊によって、ほとんどの銀行が山のように積み上げられた不良債権の処理に追われ悪戦苦闘した。大手都市銀行も公的資金の導入によって救済された。拓銀のように破綻し消滅した銀行もあれば、長銀、日債銀、足利銀行のように国有化された銀行もある。銀行の救済のために投じられた国費は数十兆円にのぼり、多くの銀行が合併によって姿を消した。
私企業とはいえ軒並み税金で救済された以上、銀行経営には目先の利益を追わず社会的公正さが強く求められるのは当然だ。政治と行政との悪しき癒着関係も厳しく断罪された。国民の負託は大きく重い。
その期待を裏切るかのように、銀行のトップ、三大メガバンク三菱UFJ、みずほ、三井住友が、一昨年から自民党に政治献金を再開した。雌伏十年。反省どころか権力者の顔色をうかがい政治に利益を期待する本性がちらつく。
18年ぶりに再開した政治献金について、毎日新聞は社説で「銀行の献金復活 数々の疑問がつきない」として「メガバンク三グループがそれぞれ約2000万円を自民党の政治資金団体『国民政治協会』に提供した。『企業の社会貢献の一環』と説明しているが、特定政党への寄付が社会全体に役立つという考えは理解しがたい」と批判した(2016/1/26)。
金利実質ゼロ政策のなかでメガバンクは莫大な経常利益(2016年)をあげた。
1位 三菱UFJフィナンシャル・グループ・5兆7144億円
2位 三井住友フィナンシャル・グループ・4兆7721億円
3位 みずほフィナンシャル・グループ・3兆2152億円
中小零細企業に対する「貸し渋り」の解消。高い振り込み手数料やATM利用手数料の引き下げなど真っ先にやるべきことがたくさんある。
政治献金(賄賂)の再開は「再生」した銀行にもとるものだ。銀行ほど多数の派遣社員を採用している職場はない。リストラ・出向は思いのまま。長時間労働と残業代の不払い。有給休暇もロクに取れない。これ程の利益を上げながら銀行は「職場の劣等生」であることは今も昔と変わらない。各銀行が掲げる「社会貢献」「コンプライアンス(法令順守)」が泣く。「お飾り」に過ぎないのか。

かつて所属していた銀行の労働組合は、1970年代に政治献金の廃止を求めて労使交渉を行なうとともに他の金融組合とともに全銀協へ申し入れをした。故市川房枝さんとともに有楽町駅頭で「廃止」のビラまきをしたこともある。「賄賂政治」は許さないという彼女の主張に共感したからだ。政治献金が1998年から中止されたのは当然だが(公的資金をもらって政治献金するのは「まずい」と考えたようだ)、またもや銀行の「賄賂」が復活した。「気は確かか」「恥ずかしくないのか」。
 

 <怒り・悲しみ・疑問に思うことが多すぎる>
韓国語の慣用句に눈코 뜰 새 없단 というのがある。「目と鼻をあける暇がない」。日本語の「目がグルグル回るほど忙しい」に相当する。目だけでなく鼻まで入っているのが面白い。
シリア、アフガニスタンの戦争に加え緊迫する朝鮮半島の情勢。節操もなく米国トランプ政権に追随する日本政府の危うさにくわえ、「共謀罪」の成立を急ぐ政府与党。原発再稼働を認める裁判所の「忖度」判決。高濃度の放射能の地へ帰郷を促す政府。帰らないのは「自己責任」と言い放つ復興大臣。甲状腺ガン患者が何人発見されても因果関係はわからないと云い張る行政。沖縄県民の意思を踏みつける中央政府。国有財産の払い下げをめぐる疑惑。政府に都合の悪い資料隠し。教育勅語を教えろという閣議決定。呆れ果てて「目も鼻も」開ける暇がない。血圧の高い人でなくても血圧があがりそうだ。一気呵成に憲法「改正」に突き進む勢いを見せても国民の支持は相変わらず高い。体がいくつあっても足らないもどかしさ。
問題山積の時期に銀行の話題は少し「のんき」すぎるかも知れない。銀行に勤めていたせいか、政治献金再開から見える最近の巨大銀行の動きは見逃せない。
銀行が脱原発に反対しているのは有名な話だ。だから自民党に政治献金と疑われても仕方がないない。電力会社が原発施設を廃棄すれば不良債権化する。倒産したのも同然の東京電力を潰すことにも銀行は反対している。

<国境を越えるメガバンク>
国際的ニュース配信会社「新月通信社」(社長マイケル・ペン)がわが国の三大メガバンクが融資するアメリカ、ノースダコダ州のパイプライン建設事業について報じている(HPと『週刊金曜日』3/10号)。原住民スー族に認められた土地を無断で使用する石油パイプライン建設に反対運動がわき起こり全米で注目されている。原住民の権利侵害と環境保全が争点である。融資に日本の銀行が深くかかわり、トランプ大統領も出資者であることが知られている。大統領に就任後、警察は抗議行動を鎮圧した。
スー族の代表が来日、日本のアイヌ人権擁護団体の活動家たちとともに融資各行に融資の取りやめを要請した(2/17)。各行とも署名と要請書は受け取ったが、今のところ要請に応じる意思は無いようだ。抗議者たちは各銀行が内部規定に「人権保護」をポリシーとして掲げていることに期待し、融資規定に反する融資の中止を求めている。
日本ではメガバンクの融資が現地の人権侵害を引き起こしていることはほとんど知られていない。銀行は「法律」「国際人権規約」を遵守すべきだ。ただ儲かればいいというバブル期に教訓を得た反社会的な融資は止めるべきだ。法律順守も社会貢献も、人権保護も単なる「お飾り」であってはならない。

<共謀罪反対>
警察が、「何か企んでいるだろう」と疑うだけで捜査ができる「共謀罪」。無関係と思っている人にもやがて累が及ぶ悪法だ。民主主義を窒息させないために廃案にすべきだ。以下、陶芸美術館「朝露館」からの訴えを紹介します。

テロ対策とオリンピック対策を隠れ蓑に、「共謀罪」(テロ等準備罪)法案が、閣議決定され、国会に上程されました。そして、法律学者や弁護士会はじめ多くの人びとから明確な反対の声が上がっているにも関わらず、なんとゴ―ルデンウイーク前に成立させたいと自公政権は公言しています。
そもそも、社会に有害な結果を生じさせた行為がなければ処罰されることはないのが、フランス人権宣言以来の近代刑法です。「共謀罪」は、行為以前、準備だけで、死刑をもふくむ罪にされます。テロ等準備とある<等>も、曲者です。国家権力の恣意的判断によって、<等>に該当する、と決めつけやすいからです。
すでに政府自身、「正当な活動を行っていた団体についても、目的が犯罪を実行することに一変したと認められる場合は、組織的犯罪集団にあたる」と統一見解を出しています。
国会前のデモをテロと言ってのけ、教育勅語を<道徳>で取り扱ってもよいなど、戦前回帰の自公政権。都合の悪いことは、「他国への侵略」を「積極的平和主義」、あるいは「武器の輸出」を「防衛装備の移動」と言い変えたりもして。
現憲法が記している前文が、憲法第九条・戦争の放棄が、思想・良心の自由が、邪魔で邪魔で仕方がないのでしょう。
かつて治安維持法によって、どれだけ罪のない人びとが、捕らわれ、いたぶられ、殺されもし、そしてその親族までが深い傷を負ったことか。まだ、その復権もなされていない現在ではありませんか。
政権側が考えていることは、明明白白です。人びとを互いに疑心暗鬼にさせ、委縮させ、自分たちにだけ、親分の米軍産複合体にだけ、都合のよい政治をしよう、憲法改悪をしようとの魂胆でありましょう。
そんなことを許すなよ、騙されるなよ、かつての侵略戦争による彼我の犠牲者の声が聞こえてくる気がいたします。
「共謀罪」に反対します。
2017年  4月 16 日
朝露館館主    関谷興仁
       朝露館につどう会 代表 石川逸子
       東京琉球館    島袋マカト陽子
朝露館につどう会 吉川 光  水戸洋子  青山晴江  山田やす子  大道万里子
和田悌二  星野栄子  小原 紘  吉岡志朗  川見一仁 鈴木文子  根津公子  廣瀬克美小島久之  田澤義誠 薄田和子  磯部 浩  若林直樹  二村淑子  宍倉良江

2017.03.29 今こそ知ってほしいアラゴンの詩
4月から教員や学生となる方へ

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 4月は門出の季節だ。中には、4月から初めて教壇に立つ人や、初めて大学の門をくぐる人もいるだろう。私は、その人たちの新しい門出を祝って、フランスの詩人、ルイ・アラゴン(1897―1982年)の詩の一節を贈りたいと思う。この1年、この国の教育現場は荒廃しているのではと思わせる出来事や不祥事があまりにも多かったからである。

 ルイ・アラゴンは詩人であるとともに小説家でもあった。
 1914年に勃発した第1次世界大戦に従軍後、シュールレアリスム運動に加わり、その主要メンバーとなる。1927年にフランス共産党に入党。ソ連の詩人・マヤコフスキーの義妹エルザ・トリオレとの出会いを機に社会主義リアリズムに基づく小説を発表するようになる。1939年に始まった第2次世界大戦中は対独レジスタンス運動に身を投じ、レジスタンスを主題とする詩を発表し、フランス国民に広く愛しょうされた。大戦後はフランス共産党中央委員として活動するとともに多くの詩や小説を執筆した。
 
 私がこの詩人の存在を知ったのは、今から約60年前の1950年代のことだ。早稲田大学に入って出会った先輩から「フランスにこんな詩人がいるぞ」と教えられたのが、ルイ・アラゴンであった。
 当時、同大学では学生運動が盛んで、その先輩も学生運動に熱心だった。私は、その先輩との付き合いを通じて、そのころ、同大学の学生運動活動家の間でアラゴンの詩が熱烈に読まれていたことを知った。詩そのものに感動しての愛しょうだったのか、それとも、アラゴンが困難な状況の中で知識人として対独レジスタンス運動に加わったことへの敬意を込めた愛しょうであったのか、私には分からなかった。今では、おそらく、その両面からの傾倒だったのだろうと思う。

 先輩たちが、最も愛しょうしていたアラゴンの詩は、彼の代表作の一つとされる「ストラスブール大学の歌」の一節だった。
 この詩は、1945年に刊行された彼の詩集『フランスの起床ラッパ』に収められていた詩で、第2次世界大戦中、ナチス・ドイツ軍によって教授や学生たちが銃殺されたストラスブール大学の悲劇をうたった詩だ。先輩たちが愛しょうしていたその中の一節とは、次のようなものだった。
 「教えるとは 希望を語ること/学ぶとは 誠実を胸にきざむこと」(大島博光訳)
 
 この一節に初めて接したときの深い感動は、いまでも鮮やかに覚えている。その時、私の心をゆさぶった感慨は「この一節ほど教育・学問の真の意味を言い当てた字句はないのではないか」というものだった。そして、こう思ったものだ。「よし、大学に在学中は誠実を胸に刻もう。そして、将来、教壇に立つようなことがあったら、希望を語るよう努力しよう」と。それからは、「ルイ・アラゴン」という名前を耳にしたり、活字に出合ったりするたびに、思わずこの一節を口ずさんだものだ。 

 しかし、大学卒業後、私は新聞記者の道を選んだため、「アラゴン」は次第に遠いものとなっていった。思い出すこともなくなった。ところが、昨年、ひょんなことから「アラゴン」が私に甦ってきたのである。

 昨年11月18日夜、東京の日比谷コンベンションホールでドキュメンタリー映画『まなぶ 通信制中学 60年の空白を越えて』の有料試写会があった。映像ディレクターの太田直子さんが、さまざまな事情で中学を卒業できなかった高齢者が東京都千代田区立神田一橋中学校の通信教育課程で学ぶ姿を、5年かけて記録した映画だった。
 試写会後、会場でシンポジウムがあり、舞台に座っていた講師の1人の見城慶和さん(元夜間中学校教師・山田洋次監督の映画『学校』の主人公のモデル)が発言した。見城さんは「通信制の中学校があるということは知っていたが、そこで、どのような人たちが、どのように学んでいるかというようなことは全く知らなかった。この映画との出合いは感動の一言につきる」と語り、さらに、「学ぶことの意義」に言及して、こう述べたのである。「フランスの詩人、ルイ・アラゴンは言った。『教えるとは希望を語ること 学ぶとは誠実を胸にきざむこと』だ、と」

 その瞬間、観客席にいた私の胸に、大学時代に口ずさんだアラゴンの「ストラスブール大学の歌」の一節が甦ってきたのである。私は、60余年前にこの一節に出合った時の興奮を思い起こしながら帰途についた。
 
 教育活動の経験豊かな見城さんの発言を聴いて、私は、アラゴンの詩の一節ほど教育・学問の真の意味を言い当てた字句はないという自分の思いに自信を深めた。加えて、その後、まことに偶然なのだが、そうした自信をいっそう深めることになる。というのは、私が加わっている読書会の今年2月の例会のテキストが、堀尾輝久著『教育入門』(岩波新書、1989年刊)で、同書の末尾が、なんと次のような文章で結ばれていたからである。
 「フランスの詩人ルイ・アラゴンの詩に『教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸にきざむこと』という一節があります。私たちの望む教育は、こうありたいものだと願うのです」

 こうしたことがあって、私は、自分の思いを教育関係の人たちに伝えたくなった。なぜなら、昨年来、教育現場で教員や学生の不祥事が多発していたからである。

 新聞を見ていると、教員の不祥事には、飲酒運転、わいせつ行為、体罰、暴言、情報漏えいなどといったものが多かった。
 そればかりでない。「教育現場でこんなことが」と驚いてしまうニュースに出合うことも少なくなかった。例えば、昨年11月には、東電福島第1原発の事故で福島県から横浜市に自主避難した小学生が、同級生から名前に「菌」をつけて呼ばれたり、「賠償金があるだろう」と金銭を要求されるなどのいじめを受け、不登校になったにもかかわらず、担任教師や校長がこうした事態を放置していたと報じられた。また、昨年暮れには、やはり原発事故で福島県から新潟市へ避難している小学生が、同級生や担任の教諭から名前に「菌」をつけて呼ばれ、学校を休んでいる、との報道があった。
 
 もちろん、大部分の先生は日々、身を粉にして真摯に教育に取り組んでおり、不祥事を起こす先生はごく一部に違いない。が、こうした報道に接するたびに「それにしても多すぎはしないか。なぜだろう」と考え込んでしまった。

 学生諸君についても、びっくりさせられたことがあった。その一つが、有名大学の学生による不祥事である。
 昨年5月には、東大生5人が、女子大生への強制わいせつ容疑で逮捕された。同年9月には、慶応大学が広告学研究会の学生4人を無期停学、または譴責(けんせき)処分とした。処分の理由は、研究会が借用していた合宿所で、未成年飲酒や性行為など「気品を損ねる行為をした」というものだった。さらに、同年11月には、千葉大学医学部5年生3人が、集団強姦致傷の容疑で逮捕された。
 こうした事件が連続的に報道されると、「学園はどうなっているんだろう」と思わずにはいられなかった。

 4月から教壇で子どもたちと向き合う人や、学園で勉強を始める人に伝えたい。「教えるとは 希望を語ること/学ぶとは 誠実を胸にきざむこと」とうたった詩人がいたことをぜひ知ってほしい、と。  

2017.03.21   「森友学園問題」や「共謀罪」にも怒りの声
    東京で「さようなら原発全国集会」

岩垂 弘 (ジャーナリスト)


 東京電力福島第1原子力発電所の事故から6年経ったのを機に、「いのちを守れ! フクシマを忘れない さようなら原発全国集会」と題する集会が3月20日午前11時から、東京の代々木公園で開かれた。国会で、国有地が不当に安い価格で森友学園に払い下げられた問題や、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の制定などが論議されている折りから、集会では「森友学園問題」の徹底的な解明を求める声や、「共謀罪」絶対反対の声が相次いだ。
フクシマ6周年集会 009
               「代々木公園の野外ステージ前を埋めた参加者」

 集会を主催したのは、内橋克人(経済評論家)、大江健三郎(作家)、落合恵子(作家)、鎌田慧(ルポライター)、坂本龍一(音楽家)、澤地久枝(作家)、瀬戸内寂聴(作家)の各氏ら9人の呼びかけでつくられた「さようなら原発一千万人署名市民の会」。
 3月4日から始まった、脱原発諸団体による東電福島第1原発事故から6年を記念する一連の集会の一つで、一連の集会では最大規模のものとなった。主催者によると、参加者は1万1000人。会場に林立する旗やのぼりから判断すると、参加者の主力は旧総評系の労組組合員、生協組合員、市民団体関係者らで、関東を中心に全国各地から参加があった。
 
 午後1時30分から始まった第2部では、各界の人々が登壇。
 最初に登壇して主催者あいさつをした落合恵子さんは「福島の原発事故で多くの人たちが今なお避難生活を余儀なくされているが、その人たちへの住宅無償支援がこの3月で打ち切られようとしている。いったい誰が事故を起こしたのか。原発事故に対し何の罪もない人への支援を打ち切り、生活を奪うとは何ごとか。これは、人としての権利を奪うものだ。住宅無償支援の維持を訴えよう。事故を起こした者に責任をとらせよう」と訴えた。
フクシマ6周年集会 017
              「核燃料サイクル廃止を訴える民医連関係者」

 福島県郡山市在住の野口時子さんは「事故直後は、世界各地や全国各地の団体が、避難先で暮らす福島の子どもたちを招いて保養キャンプを催してくれた。が、事故から6年。いまでは、そうした保養キャンプもほとんどなくなった。私たちは、福島の放射能被害が忘れ去られつつあるのか、とおそれている。放射性物質の半減期は30年といわれる。どうか、福島の放射能被害を忘れないでほしい」と訴えた。
 同じく福島県田村市から参加した武藤類子さん(福島原発告訴団ひだんれん)は「原発事故はまだ終わっていない。これから先どうなってゆくのだろうかと考えると、夜も眠れない。私たちのことを忘れないでください」と訴えた。

 脱原発運動をさらに推進しよう、という訴えもあった。
 河合弘之さん(弁護士、3・11甲状腺がん子ども基金理事)はこう述べた。「私がつくった映画『原発と日本』はすでに全国で10万人が観た。われわれの脱原発運動は必ず勝つだろう。なぜなら、世界の潮流はいまや脱原発で、われわれの運動はそれに沿ったものであるからだ」
 
 最後に登壇した鎌田慧さんは「原発事故の犠牲はあまりにも大きかった。しかし、ようやく裁判所が、原発事故の責任は国と東電にあるという判断を下した。こうした判断が今後、全国に広がってゆくだろう。そうなれば、原発の再稼働は時代遅れのものとなってゆくだろう。原発はすでにたそがれなのだ。加えて、東芝を見よ。原発に手を出したため赤字がかさみ、つぶれそうだ。にもかかわらず、安倍政権は原発の再稼働を進めようとしている。そればかりでない。共謀罪の法案を成立させ、沖縄に新たな米軍基地をつくり、平和憲法をつぶそうとしている。今こそ、力を合わせて安倍政権を打倒しよう」と呼びかけた。
フクシマ6周年集会 015
          「共謀罪反対を訴える人も」

 時が時だけに、国会で論議されている問題や、国民の間で話題となっている問題に関する発言も飛び出した。
 
 落合恵子さんは、主催者あいさつの中で「このところ、明けても暮れても不透明な問題があぶり出されてくる。森友学園問題もその一つで、私たちのものである国有地が不当に安い価格で森友学園に払い下げられた。その裏に誰がいるのか。誰がこの現実をつくったのか」と述べた。言葉を次いで「共謀罪」制定の動きに言及し、「このような醜悪で不平等な国と化したこの国を、何としても子どもや孫に残さないようにしましょう」と訴えた。
 ある団体代表も「共謀罪」問題を取り上げ、「政府は『共謀罪』国会提出を今週中にも閣議決定しようとしている。『共謀罪』の狙いは平和運動、脱原発運動の抑圧だ。なんとしても制定させてはいけない」と叫んだ。
 南スーダンの国連平和維持活動(PKO)での陸上自衛隊の日報を「破棄した」と発表しながら実際は陸上自衛隊内で保管していた問題を取り上げ、「国民の信頼を大きく失った」と批判した発言もあった。
フクシマ6周年集会 013
                  「林立する組合旗や団体ののぼり」

 集会後、参加者は原宿コース、渋谷コースに分かれてデモ行進した。
 
2017.03.03 脱原発団体が連続的な集会へ
東電福島第1原発事故から6年

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 国民の約6割は原子力発電所の再稼働に反対する。なのに、世界に衝撃を与えた原発事故はまだ収束せず、そればかりか核燃料サイクルはすでに完全に破たんしたにもかかわらず政府と電力業界は原発の再稼働を急ぐ。これが、この3月11日で東電福島第1原発の事故から6年を迎える日本の現実である。こうした状況を迎えて、脱原発を目指す諸団体は今年も「3・11」前後に脱原発を訴え、再稼働に抗議する行動を展開する。

 2月21日付の朝日新聞朝刊によると、同紙が同月18、19両日の全国世論調査で原発の運転再開への賛否を尋ねたところ、「反対」57%、「賛成」29%だったという。2011年3月11日の東日本大震災にともなう東電福島第1原発の事故直後の国民の間の「脱原発志向」は6割だった。それから6年経っても、国民の「脱原発志向」はいささかも風化していないということだろう。

 しかも、日本政府の原子力政策の破たんは、誰の目にももはや明らかである。
 まず、事故を起こした東電福島第1原発では、放射能に汚染された水の処理が進んでいない。原子炉建屋に流入し、放射能に汚染された地下水は捨てる場所がない。地下水の流入を阻止するための決め手として凍土壁をつくる策が試みられたが失敗、増え続ける汚染水はタンクで保管されているが、もう限界である。安倍首相は、東京オリンピック招致にあたって「汚染水は完全にコントロールされている」と演説したが、首相はこうした事態を今、どうみているのだろうか。
 さらに、同原発2号機格納容器でこの2月に検出された放射能は、毎時650シーベルトという衝撃的なものだった。調査ロボットも手が出せない天文学的高濃度の放射能で、人が浴びれば1分弱で死亡するとされる。このため、いまや廃炉作業のメドも全くつかない状況だ。

 政府の原子力政策が立脚している「核燃料サイクル」も今や、事実上破たんしていると言える。プルトニュウムとウランを燃料にして、消費した以上の燃料を生み出す「夢の原子炉」とされた高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)は、1兆円以上の事業費を投じたにもかかわらず事故続きで稼働することが出来ず、政府は昨年暮れ、ついに廃炉に踏み切らざるをえなかった。
 青森県六カ所村の核燃料再処理工場も「核燃料サイクル」を続けるためには不可欠の施設だ。原発から出る使用済み核燃料から再利用できるウラン、プルトニュウムを取り出すための工場で、1993年から2兆円以上を投じて建設が進められているが、2009年から本格稼働という予定がトラブル続出で23回も延期され、工場の完成は2018年度にずれ込むと発表されている。

 日本を代表する大企業の一つである東芝は、今、深刻な経営危機に陥っている。なぜ、そんな事態を招いたのか。それは、東芝が2006年に買収した米国のウェスチングハウス(WH)が、米国での原発建設事業で7000億円を超える損失を出したからである。
 2月25日付の朝日新聞は「東芝の自己資本は今年3月末時点で1500億円のマイナスとなって債務超過に陥る見通し。半導体事業の過半売却で1兆円超を調達し、来年3月末には自己資本を大きく回復させる方針だが、このままなら今年3月末時点で債務超過を解消できない公算が大きい」と報じている。このままでは、東芝株は東証1部から2部へ降格するのでは、との報道もある。
 原発事業は、大企業の屋台骨をゆるがし、果ては倒産に追い込みかねないほどのリスクを伴うことが明らかになったのだ。

 こうした事態にもかかわらず、安倍政権が2014年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」は、原子力を「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置づけ、前政権(野田政権)が目指した「原発ゼロ」目標を取り下げ、原発の新設・増設も否定しない、というものだった。
 これをきっかけに、安倍政権と電力業界は原発の再稼働に躍起だ。日本は東電福島第1原発の事故後の2013年9月以降、全ての原発が停まるという「原発ゼロ」の状態が続いていたが、安倍政権は2015年8月に九州電力の川内原発(鹿児島県)1号機を再稼働させ、次いで、川内原発2号機、関西電力の高浜原発3、4号機(福井県)、四国電力の伊方原発(愛媛県)3号機を再稼働させてきた。
 さらに、近く九州電力の玄海原発(佐賀県)3、4号機を再稼働させる方針だ。

 本来なら、「脱原発」を願う国民世論を受けて野党第1党の民進党が「脱原発」を掲げて安倍政権と対決すべきだと思うのが、同党の蓮舫代表が、これまでの党公約の「2030年代原発ゼロ」を「2030年原発ゼロ」に前倒ししようとしたところ、支持母体の連合がこれに猛反発、前倒しを断念せざるをえなかった。

 「国会内がそうした状況ならば大衆運動を盛り上げて安倍政権と対決する以外にない」と、脱原発を掲げる各団体は、3月4日(土)から、それぞれ次のような行動を繰り広げる。
 ◆原発をなくす全国連絡会は、4日(土)13:30から、東京の日比谷野外音楽堂で「全国大集会 原発ゼロの未来へ 福島とともに」を開く。メインスピーチは元宇宙飛行士・ジャーナリストの秋山豊寛氏。14:45から銀座をパレード。
 ◆たんぽぽ舎、テントひろばなど市民団体は、11日(土)14:00から、東京・新橋の東電本店前で「東電福島原発事故から6年、東電は責任をとれ 原発事故被害者の住宅を奪うな!東電本店合同抗議」。
 ◆首都圏反原発連合は11日(土)17:00から、国会正門前と首相官邸前で「反原発!国会前大集会+首相官邸前抗議~福島・祈りを超えて~」を行う。
 ◆原発のない福島を県民大集会実行委員会は、18日(土)13:10から、福島県郡山市の開成山陸上競技場で県民大集会を開く。
 ◆「さようなら原発」一千万署名市民の会は、20日(月、春分の日)11:00から、東京・代々木公園で「いのちを守れ! フクシマを忘れない さようなら原発全国集会」を開く。13:30から作家の落合恵子、ルポライターの鎌田慧氏らが発言。15:00からデモ行進。

 各団体が独自の行動を繰り広げるというのでは、運動は吸引力に欠けるとの見方もあるが、脱原発運動では諸団体が共闘する統一集会がこれまで何度も開かれてきただけに、これからも統一集会が追求されるはずだ。
2017.02.24  不安だらけの2020東京オリンピック
    韓国通信NO517

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)


韓国の平昌(ピョンチャン)で開かれる冬季オリンピツクまで1年。ソウル市庁舎前にカウントダウンの時計が設置された。
去る9日、NHKニュースはソウルの街の表情と、冬季オリンピックに5割近い人が「無関心」と答えた世論調査を紹介し、「こんなに無関心で大丈夫?」と心配していた。
隣国のオリンピックに親切に気を配る「ゆとり」。3年後の東京オリンピックには問題はないのだろうか。NHKの「ノーテンキ」ぶりに呆れ果て今回の「通信」のテンションは上がった。

<怒りの声は無視されて>
オリンピックが東京に決まった直後、「信じられない」と怒りで口を震わせた福島の友人がいた。2013年、原発事故から2年、福島は原発の恐怖のどん底にあった。彼には日本中が誘致成功の喜びに湧いているのが悪夢のように感じられたようだ。喜色満面、得意げな安倍首相の「アンダーコントロール」という言葉から福島が「切り捨てられた」のを感じ取り深く傷ついた。
高濃度の放射能による汚染は続いている。事故は収束されないまま、被災者たちの涙と絶望を踏みつけ、オリンピックの準備が進んでいる。

<「原子力緊急事態宣言」はいまだに解除されていない>
「アンダーコントロール」は2013年の流行語大賞の候補に挙がった。真っ赤な嘘を大賞に選ばなかったのは首相に対する「気兼ね」、最近よく耳にする言葉では「忖度(そんたく)」だった。事実、その「嘘」は垂れ流しの放射能とともに実証され続けてきた。
福島第2号機格納容器で検出された650㏜の放射能は衝撃的だった。ロボットさえ手が出ない天文学的高濃度の放射能である。廃炉作業のメドも全くつかない。このまま放出が続けばどうなるのか。大気汚染はさらに広がり、避難解除どころではなくなる。
最悪のシナリオをたどるとオリンピックどころでない。地震も心配だ。こんなことを言うと、「何もできなくなる」と反論されそうだが、不安を無視して国全体が無邪気にオリンピックにのめり込む方が心配だ。安全を「保証しない」規制委員会が次々と原発の再稼働を認めていることも心配のひとつ。原発が増えた分だけ事故の可能性は増える。

<戦争になったらオリンピックはできない>
1940年の東京オリンピックは日中戦争のさなか、日米開戦の直前に中止になった。
戦争ができる国にしたいという安倍晋三の夢は南スーダンへの自衛隊派遣で実を結びつつある。彼の「愛国心」は北朝鮮、中国との戦争も視野に入れたもので危険このうえない。恒久平和を誓った憲法をかなぐり捨てる動きも切迫している。オリンピックと戦争を同時に行うことは考えられない。商業主義に染まり利権うずまくオリンピックとは云え、まじめにオリンピック開催を考えるなら平和志向に徹するべきだ。軍備の拡大と日米の軍事同盟の強化では戦争の抑止にはならない。真逆である。憎しみと不信を駆り立て、戦争をした過去の教訓を学びたい。戦争とオリンピックのどちらを選ぶか冷静に考えたい。

<テロの危険>
2001年9月11日に起きた「同時多発テロ事件」以来、多くの先進国はテロに苦しんできた。テロ事件のすべてをイスラム過激派集団の仕業とするのが一般的な理解だが、貧富の差が極端に二分化された社会ではテロはどの国でも起こりうる。トランプ米大統領に無限にすり寄るわが国がイスラム過激派の標的になる可能性は高くなった。くわえて先が見えない不満が鬱積した社会はテロの温床だ。わが国にもテロが起きる可能性は否定できない。
「だから」と首相は強い口調でテロからオリンピックを守るために「共謀罪」から名を変えた「テロ等準備罪」を主張するが、国民の不満を権力で抑え込むのは本末転倒だ。テロを心配するなら、とりあえず安倍首相が退陣するのが最善のテロ対策のように思える。
2020年までに何が起こるかわからないが、戦争と原発とテロ対策に無自覚なまま突き進んでいくのは怖ろしい。
自分の生活と国内外の政治に不安を抱く韓国の人たち。それを克服するための市民革命進行中の韓国にオリンピックにあまり関心がないと心配するNHKの頭の中も心配だ。

<ふるさと納税>
確定申告のシーズンである。わずかばかりの所得税の還付請求をするために毎年確定申告をしている。収入が年金だけなので申告は簡単だが、「ふるさと納税」をしているので申告書第二表の寄付金に記入、第一表で所得から引かれる金額の寄付金控除の欄に計上する。還付されたお金を次年度の「ふるさと納税」として振り込むのを毎年繰り返している。
この二、三年「ふるさと納税」が脚光を浴びている。寄付金を受けた各自治体が「お礼」として地域の特産品などを競っているのが話題になり、「ふるさと」でもないのに「お礼」につられて寄付をする人が多いらしい。2千円は持ち出しになるが残りの寄付金がそっくり次年度の税金が軽減される仕組み。寄付としては「せこい」感じは免れない。
この数年、私が寄付を続けているのは沖縄県の名護市である。辺野古基地に反対する名護市に政府が交付金を払わないという「兵糧攻め」を聞いて応援のつもりで「ふるさと納税」を始めた。市役所からは市長名の「お礼」の手紙とともに去年はバンフ「米軍基地のこと辺野古移設のこと」「名護市の米軍基地のこと」が送られてきた。「アッパレ!!」である。寄付者の名前、金額が市のホーム・ページで公開されている。暖かい辺野古基地反対へのメッセージがとても感動的だ。毎年、件数も金額もうなぎのぼりで増え続けている。
小原T

<マイ確定申告>
今回の確定申告で困ったことが起きた。マイナンバーの記入が求められたからだ。
ひとりひとりに番号を割り当て、個人のふところ具合を把握する狙いらしい。金持ちには厳しくすべきだが庶民まで一網打尽とは納得がいかないうえに、本当の狙いはさまざまな個人情報をリンクさせて、国による個人情報の一元的管理をするというとんでもないマイナンバー制度に私は反対だ。国民の不安にもかかわらず強行導入されたのは記憶に新しい。
マイナンバー制度に反対して確定申告書にマイナンバーを記入しないと還付が受けられないとは。
封も開けずに放置したままの「通知書」を開くのもシャクで空欄のまま提出した。友人に話すと「確定申告は受理されないはず」と言われて少し動揺した。
受信料を払うのは義務というNHKと10数年来論争を続けてきたが、今度は手ごわそうな国税庁が相手である。これまで平穏な市民生活を送ってきた一市民として国家を相手に理論闘争をせざるを得なくなった。
マイナンバー制度はこれからさまざまな場面で問題が生じてきそうだ。例えば自動車の免許更新、パスポートの更新、さらには介護の申請など公的サービスにもマイナンバーが絡んできそうで正直なところ、ため息が出そうだ。しかし、これまでマイナンバー抜きでも受けられた公的サービスが受けられなくなることが問題で、国による一元的な個人情報管理に屈服しなければ国民の権利が行使できない仕組みこそ問題のはずだ。
皆さんのご意見をお聞きしたい。

2017.02.17 日本の核兵器廃絶運動のあり方を批判
     「ラロック証言」の元米海軍提督が死去

岩垂 弘 (ジャーナリスト)


 1月11日付の「しんぶん赤旗」に載った訃報が目を引いた。そこには、元米海軍提督で、ミサイル巡洋艦プロビデンスの艦長を務めたジーン・ラロック氏が昨年10月31日に98歳で死去したとあった。「米艦船は日本に核兵器を持ち込んでいる」というラロック氏の証言は日本の各界に衝撃を与えたが、私はこのこととは別のことでも同氏に関心を持ち続けてきた。というのは、同氏が日本の核兵器廃絶運動のあり方に対し一つの疑問を呈していたからである。

 ラロック氏の証言とは、1974年9月10日、米国議会の上下両院合同原子力委員会軍事利用小委員会が開いた、核拡散の危険をめぐる公聴会で述べたものである。ラロック氏は当時、元海軍少将で、国防問題に関するシンクタンク「国防情報センター」の所長を務めていた。当時、共同通信ワシントン支局にいた佐藤信行氏によれば、証言の内容は次のようなものだったという(2009年8月の日本記者クラブ会報に掲載された「ラロック証言のいま―『核なき世界』へ」による)。

 「私の経験によれば、核兵器を積み込める艦船はいずれも核兵器を積み込んでいる。これらの艦船は日本や他の国々の港に入るに当たって、核兵器を降ろすことはない。核兵器を積み込める場合には、艦船がオーバーホールないし大規模な修理を受けるための寄港の場合を除いて、通常はいつでもこれらの核兵器を艦船内に積み込んだままである。これらの核兵器の一つをうっかり使ってしまうかもしれないという現実の危険性がある」

 この発言は日本国内に大きな反響を巻き起こしたが、日本政府は「米国がいかなる形にせよ、日本に核を持ち込む場合は日本政府との事前協議の対象になる」として、米艦船による日本への核兵器持ち込みを否定し続けた。しかし、いまでは、日米安保条約の改定時に日米両国政府間で「核持ち込みの密約」があったことが明らかになっている。

 ラロック氏の訃報に接した瞬間、私の脳裏に甦ってきたことがあった。平和運動家であった故熊倉啓安氏(1927~1995年)から聞いたエピソードだ。
 熊倉氏は日本平和委員会の専従活動家で、事務局長、副理事長、代表理事、顧問を歴任した。この間、原水爆禁止運動、基地反対闘争、日中・日ソ国交回復運動、日韓条約反対運動、反安保闘争、ベトナム人民支援運動、沖縄返還運動などに関わった。

 1978年5月には、米国に渡航した。この時期、ニューヨークの国連本部で第1回国連軍縮特別総会(SSDⅠ)が開かれたためだ。
 SSDⅠに対し、日本の原水禁運動団体、労働団体、市民団体、宗教団体は「国連に核兵器完全禁止を要請する署名運動推進連絡会議」を結成し、全国で署名運動を展開、署名は1869万筆に達した。この署名簿をたずさえた「国連に核兵器完全禁止を要請する日本国民(NGO)代表団」の502人がニューヨークに向かい、署名簿を国連事務次長に手渡した。熊倉氏もこの代表団に加わった。
 その後、代表団は12の班に分かれて各国政府や軍縮関係機関を訪れ、核兵器完全禁止に向けての努力を要請した。

 熊倉氏は第3班に加わり、ワシントンの「国防情報センター」にいたラロック氏を訪ねた。熊倉氏によると、班のメンバーの要請に「きみたちは来るところを間違えた。核兵器反対を言うなら、むしろ日本政府に向かって言うべきだ」と述べたという。「米国の『核の傘』のもとに安住していて反核を叫ぶことの矛盾を見事に突かれた思いでした。ショックでした」。帰国後、同氏が私にもらした述懐である。

 核兵器の拡散を恐れるラロック氏としては、核兵器の拡散を防ぐためには、まず各国の国民がそれぞれの国の政府に核兵器の製造や持ち込みをやめるよう働きかけるべきだ、と考えていたのだろう。が、それまでの日本の核兵器廃絶運動は、専ら、核兵器の禁止を国際社会に訴えるもので、米国の「核の傘」に頼って日本の安全保障を図ろうという歴代の自民党政権に対して「それを止めよ」と要求する運動は弱かった。それだけに、熊倉氏にとっては虚を突かれた思いだったのだろう。

 熊倉氏が、その後、ラロック氏の指摘を日本の運動にどのように活かしたらいいのかと考えていたのかどうかは私は知らない。が、同氏を通じて知ったラロック氏の指摘は、私にとって日本の核兵器廃絶運動を考える上で重要な視点となった。だから、日本の核兵器廃絶運動のあり方について意見を求められれば、ラロック氏の指摘を頭の隅に置きながら、意見を述べてきた。

 例えば、「週刊金曜日」1998年8月4日号に発表した『米国の「核の傘」の下で反核を叫ぶ矛盾』である。
 私はそこで、日本で開かれた反核集会に参加した海外代表が「米国の『核の傘』から抜け出さないと、日本は核軍縮で指導的役割は果たせない」「米国の『核の傘』の下にいることが日本の外交政策を制約している。日本は、米国の『核の傘』から脱却を」などと発言していることを紹介しながら、「日本の運動がこれまで掲げてきた最大にして最優先の課題は一貫して『核兵器完全禁止』または『核兵器廃絶』だった。ほとんどこれ一本やりだったといってよく、一部の団体はともかく、『米国の核の傘からの脱却』を運動の全面に明確に掲げたことは、運動全体としてはなかった」と書いた。   

 ところで、日本の原水禁運動団体、消費者団体、青年団体、婦人団体、宗教団体などは今、3月から国連で始まる、核兵器禁止条約締結に向けた会議に向けて、被爆者の団体である日本原水爆被害者団体協議会提唱の「ヒバクシャ国際署名」に取り組んでいる。「核兵器を禁止し廃絶する条約を結ぶようすべての国に求める」署名だ。
 ところが、日本政府はこの条約の締結に反対している。としたら、日本の運動としてはこぞって「被爆国の政府が核兵器禁止条約に反対するのはおかしい」と、日本政府に迫る運動も起こしてもらいたい。そう思わずにはいられない。一部の運動団体は「日本政府は核兵器禁止条約へ行動を」とのスローガンを掲げて活動しているが、まだ運動全体のものとなっていない。

2017.02.07  改めてこの船の航跡に注目しよう
          第五福竜丸建造から70年

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 東京・夢の島の一角に立つ「都立第五福竜丸展示館」を久しぶりに訪れた。毎年、「ビキニ・デー」の3月1日が近づくと、この展示館を訪ねてみようかという気持ちになるが、今年は、ここに展示されている船・第五福竜丸が建造から70年になるところから、それを記念する特別展が開かれていると聞き、訪れた。ここは訪れる度に私に強い印象を残すが、今回も改めてさまざまなことを考えさせられた。

 第五福竜丸は140・86トン、全長28・56メートル、幅5・9メートルの木造船である。敗戦直後の1947年、和歌山県の古座町(現串本町)でカツオ船として建造された。当時の船名は「第七事代丸」といい、神奈川県三崎港を母港にカツオ漁に従事した。その後、マグロ船に改造され、船名も「第五福竜丸」となり、静岡県焼津港を母港に遠洋マグロ漁に従事する。
 ところが、1954年3月1日、太平洋で操業中、マーシャル諸島のビキニ環礁で行われた米国の水爆実験で生じた放射性降下物の「死の灰」を浴び、乗組員23人が急性放射能症になり、無線長の久保山愛吉さんが死亡する。水爆による初めての犠牲者だった。実験場周辺の島々の住民たちも「死の灰」を浴び、同様の被害を受けた。これが、ビキニ被災事件である。

 この事件をきっかけに全国的な規模の原水爆禁止運動が起こり、世界に波及する。1955年にはバートランド・ラッセル(哲学者)、アルバート・アインシュタイン(物理学者)、湯川秀樹(物理学者)ら世界的に著名な学者11人により「将来の戦争は必ず核兵器が用いられるから、各国間の紛争の解決は平和的手段によってなされるべき」との「ラッセル・アインシュタイン宣言」が出され、これを受けて1957年には、核軍縮を目指す科学者の国際的集まり「パグウオッシュ会議」が発足する。
 原水禁運動団体はこの事件を忘れまいと「3月1日」を「ビキニ・デー」と名付け、毎年、この日前後に記念の集会を開き「核兵器禁止」を訴え続けてきた。この催しは今も続いている。

 “ビキニ被災事件の証人”となった福竜丸はその後、政府に買い上げられ、東京水産大学(現東京海洋大学)の練習船となるが、老朽化のため廃船処分となり、東京のゴミ捨て場だった夢の島に放置されていた。1968年、みじめな姿に変わり果てた福竜丸に心を動かされた一会社員の船体保存を訴える投書が朝日新聞の投書欄に載ったことがきっかけで、原水禁運動団体などが中心となった保存運動が起こり、1976年6月、公園に生まれ変わった夢の島に都立第五福竜丸展示館が完成する。船体を所有していた財団法人第五福竜丸保存平和協会(現在の公益財団法人第五福竜丸平和協会の前身)が船体を東京都(当時の知事は美濃部亮吉氏)に寄付し、都が展示館を建設して永久保存を図るという形で決着をみたわけである。展示館の管理は平和協会に委ねられた。

 今回の特別展は「この船を知ろう 第五福竜丸建造70年の航跡」と題され、福竜丸の船体わきで行われている。カツオ船、マグロ船、練習船それぞれの時代に関連する資料や船の図面、写真などが展示されており、これらを見て行くと、この小さな木造船がたどった数奇な運命に改めて驚かざるをえない。

 第五福竜丸平和協会によれば、木造船の耐用年数は15年から20年という。であれば、70年前に建造された木造船がいまだに現存していること自体、世界的にも極めて珍しいことと言ってよい。
 そのことだけでも、この船がもつ歴史的意義は大きいが、そのことに加え、この船の航跡もまた歴史的意義をもつと私は考える。なぜなら、この船が第2次世界大戦後の日本と世界の歴史を一身に背負ってきたように思えるからだ。
 すなわち、大戦直後には、日本の食糧難を救うために太平洋でカツオ漁やマグロ漁に活躍し、その最中に、米ソによる核軍拡競争がもたらした米国の水爆実験に遭遇、ヒロシマ、ナガサキに次ぐ第3の核被害の当事者となる。その後も水産大学生の練習航海に貢献し、ついには、廃船処分となってゴミ捨て場に棄てられながら、世界的な規模にまで発展した「核兵器廃絶運動」のシンボルとして甦る。まさに、戦後史をたどる上で欠かせない貴重な証人なのである。

 もし、ビキニ被災事件が闇から闇に葬られ、さらに夢の島でゴミになる寸前だった福竜丸に誰も気づかなかったとしたら、世界史は今とは変わったものになっていたに違いない。そう思うと、福竜丸が現存することの意義を痛感するとともに、ビキニ被災事件をスクープした読売新聞と、福竜丸の保存のために陰に陽に尽力した多くの人びとに改めて敬意を抱かずにはいられない。

 特別展とともに常設展示も見ることができる。そこでは、ビキニ水爆実験の実相、それによってもたらされた被害の実態、マーシャル諸島では被ばく住民の苦しみがいまも続いていること、ビキニ被災事件を機に核兵器廃絶運動が高揚したにもかかわらず、世界では今もなお核の水平・垂直拡散が続く事実が紹介されている。それらに目を注いでいると、福竜丸が、この63年間、身をもって訴え続けてきたことはまだ実現していないという現実が胸に迫ってくる。福竜丸の存在意義は、今後ますます高まるのではないか。

 特別展、常設展示を見ながら、私は第五福竜丸平和協会の初代会長を務めた三宅泰雄氏(地球化学者)が生前、好んで口にしていた言葉を思い出した。「福竜丸は人類の未来を啓示する」というものだった。ビキニ水爆の被災船・福竜丸の無言の姿こそ、人類が核兵器の存在をゆるして地球破滅の道に進むのか、それとも核兵器と戦争を廃絶して平和と幸福の世界を築きあげるかの選択を迫るものだ、という意味だろう。
 私は、この言葉を心の中で反すうしながら展示館を後にした。

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特別展「この船を知ろう 第五福竜丸建造70年の航跡」は3月26日まで開かれている。
入館無料。開館9:30~16:00。月曜休館
東京メトロ有楽町線、JR京葉線、りんかい線、「新木場駅」下車、徒歩13分
TEL:03-3521-8494