2017.04.22 飼育動物による人身事故
信州ツキノワグマ通信
Newsletter of Shinshu’s Black Bear, No.72, 2017.3.23

林 秀剛 (信州ツキノワグマ研究会)

 偶数年は大量出没? などとうわさされた昨年(2016)、旧牛舎に出没した最後のクマ。8月末日のことです。秋田の重大な人身事故などもあり、監視を続けたのですが、さほど頻繁には現れませんでした。出没情報は、住民の方にも逐次お知らせし、無事に一年を過ごすことができました。(撮影・文 : 林 秀剛)

 昨年夏ごろから、飼育動物による人身事故が多発している。<2016年8月16日>群馬県富岡市の群馬サファリで、巡回中の職員がクマに襲われ死亡、<10月15日>長野県安曇野市豊科で、男性が飼育しているクマにかまれ死亡。クマを檻に戻そうとした男性も軽傷を負う。そして、年を越し<2017年1月23日>千葉県成田市の動物プロダクションで、ライオンの身体を洗う作業中に襲われて、男女2人が重傷、<2月26日>長野県小諸市動物園では、檻の中でライオンに噛まれた飼育員が重傷。<3月13日>和歌山県白浜町のレジャー施設でゾウにより飼育員が死亡。被害者の多くは、ベテランの飼育員や飼育者。なぜ?と思う。慣れ過ぎての過失だろうか?それとも??

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 安曇野市の事故については、県の飼育許可はとっており、檻の安全性には問題ないと報じられた。クマ研にも問い合わせがあり、濱口さんが対応。クマの健康面の問題点などについてのコメントが放映に使われていたが、「きちんと検証しなくては・・・」という重要なセリフは無視。「マスコミ対応は難しいですね」が彼女の感想。
 飼育グマについては、「通信」No.24(2004年4月27日)にクマ研スタート時の経験についての記事を掲載した。その中の事例として挙げたクマを思い出した。 2004年12月、四賀村(現在は、松本市)のMさんの飼育許可申請に関連して、現場に立ち会った。前年(2003年)春、子グマを拾い、飼育を始めたが、大きくなり山に返そうと試みたが、懐きすぎて離れてくれない! ということで、県林務課に相談があり、飼育許可申請となった次第。檻の設置などを条件として、許可が出た。 

 今回の、人身事故多発で、13年振りに、四賀のクマ・ぺぺに会いに行ってきた。だいぶん道に迷ったが、何とかたどり着いた。飼い主のMさんにはお会いできなかったが、ぺぺには会えた。穏やかな顔をみて、可愛がられていると感じ一安心。体重は100㎏ほどありそうだが、肥満ではなく、健康そう。なにより、毛並みはよく、きれい。檻に近づいても、臭気は感じられず、非常に清潔。Mさんが一生懸命面倒を見ていることが感じられた。

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冬眠明けごろの子グマ(ペペではありません)。
たまらなく愛らしい!

 松本保健所にも寄り、最近の状況をうかがったところ、管内の飼育グマは、現在、ペペと安曇野市で人身事故を起こした2頭だけとのこと。担当者はこまめに巡回して、状況を把握している。詳細な資料で説明してくださった。人身事故の原因については現時点ではよくわからないとのこと。また、飼育に関する条例などについてもうかがったが、基本的にはペペの許可申請の時と変わっておらず、環境省告示の「特定飼養施設の構造及び規模に関する基準の細目」に従い、第一に危険防止、加えて、動物の福祉にも配慮することが必要とのこと。
 クマの場合、飼育のきっかけは、主に狩猟の際の母グマの捕殺と推定される。子グマは本当に愛らしいので、連れて帰ってしまうのだろうか。狩猟の重要性は重々評価しなくてはならないと思うが、母のいない子グマをつくりださない技術の完成を切望する。

2017.03.15 やめられないとまらない――チベット・モンゴル高原の環境汚染(2)
       ――八ヶ岳山麓から(214)――
                 
阿部治平 (もと高校教師)
 
だが中国は違う。羊八井発電では利用済み廃水をなんら処理することなく、直接堆龍河に流し込む。羊八井の地下水の砒素含有量は1ℓ当り5.7㎎、中国の汚水排出基準は、全砒素量の最高濃度が1ℓあたり0.5mgである。羊八井発電所の廃水は11倍余になる勘定である。
羊八井発電所の廃水は毎年2000万tに達し、発電所下流の26ヶ村の人畜の生活水は直接の危害を受けている。堆龍河はラサ川の支流である。その水はヤルザンボ川に入る。ラサ川にせよヤルザンボ川にせよ現地住民の生活水である。チベット高原の大湖ヤムジョユムツォの流域住民の生活水にも、基準量を越えるセレンやアルミニウム・硝酸塩が含まれている。だが、自治区政府はこれをまったく問題にしていない。
水汚染の最大の原因は、鉱産資源の大規模な略奪的開発であり、いかなる保護措置もとられないことにある。そのためチベット全体の表流水のカドミウムは基準値をはるかに超えている
(王维洛論文http://woeser.middle-way.net/2017・02・17)。

中国では、ことはチベット自治区に限ったことではない。チベット高原東北の青海省にも内モンゴル草原にも深刻な汚染がある。チベットや内モンゴルだけではない。中国では環境汚染はすでに水も土も健康と生命の危険のレベルに達している(高橋五郎『農民も土も水も悲惨な中国農業』2009朝日新聞出版)。
毎年1200万tの食料が重金属に汚染されている。いわゆるカドミウム米問題である。その損害額は毎年200億元に達するとしている(「環境観察」2016・12・07)。
これは中国の牧畜地帯に限らない。モンゴル国(外モンゴル)でも鉱山開発による自然破壊が進んでいる。チベット高原・モンゴル高原から中央アジアのステップにいたる広大な内陸アジアは、伝統的には牧畜地帯であった。草原は入植者によって開墾されるようになると、砂漠化が進んだ。1980年代に入ってからは砂漠化どころではない、牧民の健康と生命を直接脅かす変化が生まれている。石油・石炭・天然ガスなどのエネルギー資源、鉄鉱やボーキサイト鉱、貴金属、希土類元素を求めて、急速で大規模な開発が進み、それが重金属汚染を進めているからである。しかも、住民はその恐ろしさを知らされていないことがほとんどだ。

すでに柳瀬滋郎・島村一平編著の『草原と鉱石――モンゴル・チベットにおける資源開発と環境問題』(2015明石書店)は、ソ連時代からの内陸アジアのステップにおける、鉱山開発と環境破壊の実態を明らかにした。「序文にかえて」はこういう。
「2012年のデータによると、モンゴル国において鉱業がGDPに占める割合はすでに21.4%に達し、農牧業の14.8%を凌駕している……(モンゴル国は)もはや『遊牧の国』ではなく『地下資源の国』なのである。そうした中、モンゴルでは首都を中心に大気汚染や水質汚染といった環境汚染が懸念されている。また、地方の小規模金鉱においては水銀を用いる違法な精錬が行われており、現地メディアにおいても問題視されている」
同書ではモンゴル国におけるソ連時代からの地下資源開発の歴史と社会変貌、地下資源開発による環境破壊の現状、また中国の内モンゴルと青海チベットの地下資源開発の危険性が指摘されている。そして鉱山開発とそれに伴う環境破壊は、否応なしに民族問題となって現れる現実を記している。

ここでただちに思い至るのは、2014年 11月アジア太平洋経済協力首脳会議で明らかにされた、習近平中国共産党総書記の「一帯一路」という経済圏構想である。「一帯一路」は、世界の人口の6割を占める65カ国でインフラ整備を進め、貿易を拡大する構想だ。中国主導のグローバリズムである。ロシアのプーチン大統領もこれを支持している。すでに中国からイギリスまでの長距離鉄道が動き始めている。
当然東トルキスタン(新疆)・モンゴル国から西アジアの資源開発は投資の焦点になる。中央アジアの低開発で資源の豊富な国々はこれに飛びつく。中国やロシアの今日の開発方式を進めれば、企業は莫大な利益を上げるだろうが、環境の汚染はとめどがなくなる。
内陸アジアのステップの自然環境は、21世紀に大きく変貌するだろう。それも悪いほうへ。
2017.03.14 やめられないとまらない――チベット・モンゴル高原の環境汚染(1)
      ――八ヶ岳山麓から(214)――
                 
阿部治平 (もと高校教師)
 
産経は3月9日、「大気汚染解消へ都市ランキング公表へ、結果責任で必罰化」という見出しで中国の環境汚染対策を報じた。今回の人民代表大会(全人代)で、「深刻な状況が解消されず国民の苛立ちが高まる中、危機感を抱く当局は実績を上げられなかった地方政府の責任を追及する“成果主義”を導入する構えだ」
李克強首相は5日の政府活動報告で「空気の質の改善を急ぐことは人民大衆の切実な願いだ。合格をもらえる結果を出さなければならない」と危機感を示し、冬季の暖房について石炭燃料から電気・ガスへの転換を急ぐ考えを示したという(2017.03.09)。――いかにも遅い。30年遅い。

中国でもっとも空気も水もきれいだと思われているのは、チベット高原である。この実態をお話ししましょう。
数年前チベット自治区主席は、毎年2000億トンの水を産出しつづければ、1トン当たり0.1元として毎年200億元の収入が得られる。自治区政府が優遇条件を出せば水関連企業を引きつけ、「好水資源」開発ができるという皮算用をやった。このチベット自治区開発の優遇政策に飛びついたのが、食品飲料メーカー「娃哈哈(ワハハ)集団」である。
理事長宗慶後は1987年浙江省の杭州に「娃哈哈公司」を設立し、あっという間に中国最大の食品飲料メーカーに成長した。現在世界第5という大企業である。宗慶後は2009年2300万ドルを投下して、ラサに「西蔵水」を生産する工場を建て、瓶製造・瓶詰・包装の一貫したオートマチック生産をやる計画だった。
ところが去年の全国人民代表大会のとき、全人代代表の宗慶後は、突然「娃哈哈公司」は高原水資源開発の大計画を放棄したと発表して人々を驚かせた。「娃哈哈集団」はチベットに技術人員を送り、独自の実地水質検査をやった。結果、これぞという水源は軒並み重金属に汚染されていた。いま宗慶後はチベット高原には環境基準値に合格した新しい水資源はまったくないとみている。
世界の屋根の氷河を水源とする「西蔵好水」はなぜ重金属が超過したのか?汚染はどこから来たか、汚染のレベルはどのくらいか、汚染はどういう広がりを見せているか。

中国でも飲用水の重金属には基準値規定がある(以下1ℓ当たり㎎。括弧内は日本の基準値)。ヒ素0.1(0.01)、カドミウム0.05(0.003)、6価クローム0.05(0.05)、鉛0.01(0.01)、水銀0.001(0.0005)である。
チベット高原の水調査をした科学者には、この数値を超過する実態がわかっている。だがこれは中国でいう「敏感的問題」である。彼らは政治的圧力を恐れて全体像を明らかにしない。かろうじて特定の汚染現象にふれるだけで、水質調査の結果は「基本的に合格」と発表するのである。

1980年代初めNHKテレビのチベット紹介番組には砂金採りの漢人集団が登場した。中国では砂漠・草原は無主地と見なされるから、草原の砂金も早い者勝ち、勝手次第である。これら漢人は「わがなきあとに洪水は来たれ」式に牧民の放牧草地を掘りかえした。ついで企業家が低価格で地方政府から鉱産資源開発権を買い取った。草原は広範囲に破壊され、そのあとには大量の残滓と廃水とがのこされた。
その後チベットには四大鉱脈が発見され、金・銅・ホウ素・リチウム・クロウム・亜鉛・モリブデン・アンチモン・鉄・プラチナなどの埋蔵量が多く、開発は容易とされ、内地企業の注目の的となった。青蔵鉄道開通後、チベット高原の資源開発は一層拡大した。水と土の大規模汚染が始まった。

砒素による大規模汚染の例をあげましょう。
1976年チベット自治区の温泉名所・羊八井(ヤンパージャイン)に、はじめて1000キロワットの地熱発電機が設置され、77年10月に動き出した。1985年李鵬が視察に訪れ、この年発電能力は1万1000キロワットとなった。1990年江沢民が視察したとき発電能力は1万9000キロワットとなり、ラサ電力の40%を供給した。
地熱発電は元来持続可能なエネルギー源である。地熱貯留層に井戸を掘り、地熱流体を取り出す。セパレータで流体を蒸気と熱水に分け、熱水は還元井から地下に戻す。蒸気でタービンを回転させ、発電し終わった蒸気は復水器で冷ました後、蒸気の冷却に使用する。使用ずみの水は還元井から地下に戻すという循環方式をとるのが一般的である。

2017.01.27 ツキノワグマとの共生を求め続ける
―NPO法人信州ツキノワグマ研究会の仲間たち

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

すでに紹介したことがありますが、NPO法人信州ツキノワグマ研究会を改めて紹介します。この1月に機関誌71号が出て、編集者の一人、林秀剛さんから送られてきたからで、イスラム教徒やメキシコ移民との共生を壊そうとするトランプ新政権が米国で発足したからではありません。ご存知の通り、私たちのリベラル21が掲げている3本の柱は「護憲、軍縮、共生」です。
信州ツキノワグマ研究会は、主に長野県在住のツキノワグマ生態研究者あるいは友人たちの活発な研究会。年2,3回発行の機関誌には、ツキノワグマの生態と住民との関わりのリポートが、ぎっしり詰まっていて驚きます。71号は20ページですが、うち1~3ページをすこし短縮して、ここに紹介します。

NPO法人 信州ツキノワグマ研究会
信州ツキノワグマ通信
Newsletter of Shinshu’s Black Bear
No. 71, 2017.01.05

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あるとき遠くにクマが登っている杉の木を見つけ、根元で待ち伏せしたことがあります。クマの姿は真下からではまったく見えません。「じきに降りてくるだろう」と思っているうちに5時間が経過。もしかすると木を見誤ったかと思い、再確認のためその場を離れた瞬間、クマがダダッと降りてきました。野生動物が人間を探知する能力と辛抱強さにはかないません。(澤井俊彦氏/写真家)

2016年長野県クマ人身事故状況
岸元 良輔(信州ツキノワグマ研究会)

2016年は、秋田県鹿角市で春にツキノワグマによる死亡事故が続いたために、全国的にクマの出没や人身事故が話題になりました。では、長野県での2016年の人身事故の状況はどうだったでしょうか?
長野県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室で聞いてきたところ、12月現在で人身事故は9件(被害人数は各件1人で計9人)で、例年並みとのことでした。以下、その内容について紹介したいと思います。

1. 過去の人身事故の推移

まず、人身事故が例年並みとは、どれくらいの被害人数を指すのでしょうか?これまでの毎年の人身事故に遭われた人数をみてみましょう (図1)。
実は、20年以上前は年間1~2人で、多くても3人でした。まったく事故がない年もあります。ところが、1994年頃から人身事故が増える傾向にあります。特に、大量出没が起きた2006年・2010年・2014年は突出して多くなっています。2008年は大量出没ではなかったにも関わらず、10人を超えています。それ以外では、最近は6~9人の年が多く、これが例年並みといったところです。
では、なぜ最近になって人身事故が増えてきたのでしょうか?これは、おそらく、里山が放置されてクマの生息地がだんだんと低標高に広がってきて、人とクマが遭遇する機会が増えたからだと思います。ちなみに、長野県での死亡事故は2004年に1件、2006年に2件起きています。

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図1.長野県のツキノワグマによる人身事故の被害人数の推移
(長野県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室資料より)

2. 2016年の人身事故状況

さて、2016年の人身事故は8月までに3件だったので、今年は少なめに推移するかなと思ったのですが、9月に2件、10月に4件と秋に事故が続いてしまいました(表1)。特に、キノコ採りで事故に遭われた方が多かったようです。これについて、長野県の担当者は、今年はマツタケが豊作でキノコ採りに出かけた人が例年より多かったのではと推測しています。また、コナラの堅果が豊作の傾向にあり、コナラが生育する標高の低い地域を多くのクマが徘徊したためではないかとのことです。いずれにしても、2016年の人身事故はほとんど山林内で、人がクマの生息地に入り込んでの事故でした。一方、1件は飯山市瑞穂地区の集落内で、住宅の庭で事故が起きています。この地区は、クマに限らず野生動物の被害が多いために、林縁部に防護柵が広い範囲に張られているのですが、それでもクマが入り込んだようです。生ごみなどクマを誘引する原因が住宅や農地周辺にないか、もう一度、集落全体でチェックする必要があるでしょう。

今回の人身事故のもう一つの特徴は、特定の地域ではなく、全県に散発していることです。クマに出会っても襲われることはまずありませんが、偶発的に事故につながることがあります。長野県の山林はどこでもクマが生息しているので、入山者は常にそのことを認識して、鈴などを携行したり、クマが潜むようなヤブからはできるだけ距離をとったり、山林内では走らないなどを心がけることで、少しでも偶発的な事故を避けることができます。

表1.長野県のツキノワグマによる人身事故の被害人数
(2016年12月現在/長野県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室提供)
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クマは木から落ちる?
林 秀剛(信州ツキノワグマ研究会)

11月24日、全国で早すぎる初雪だより。こんな日に、もの好きにも、星野さんと安曇野市穂高の浅川山でクマ棚調査をしてきました。クマ棚の調査は、長野県の生息状況調査として始まりましたが、クマ研として関わったのは2005年から。その後、継続が大事と、自発的にいくつかのルートで調査を続け、10年目になります。クマの大量出没との関係もいろいろと見えるようになってきましたが、まだ大量出没の「予測」につながるかどうかはわかりません。今年の浅川山には、コナラの棚は、たくさんありましたが、ミズナラはさっぱり。これは何を意味するかは、星野さん、濱口さんが解析中ですので、そのうち報告されることを期待します。
クマ棚は、しばしば、とてつもなく高いところに作られています。私はごく最近まで、クマは高い木に登るのが好きなんだ、景色の好いところで食事するんだ、と思い込んでいました。不勉強を反省!

「通信」No.64(2015年1月)に、大町市の調査結果を「速報」として報告しました(林・星野、2015)が、これまでの調査結果を整理してみると、ドングリが豊作の年にはあまり棚を作らない傾向がありそうです。クマは好き好んで高い木に登るのではないようです。高い木に登り、餌獲得の競争に負けまいと、必死に冬眠の準備をするのでしょうね。
高い木に登るということは、落ちるというリスクを負うことにもなるわけです。野生のクマが木から落ちて死ぬことについて、20年前に議論したことを思い出しました。「通信」No.8(1997年2月)に、星野さんが書いた“ダイゴローはなぜ死んだ?”という記事があります。北アルプスで捕獲されて追跡していた92㎏の立派な雄ダイゴローが死んだことについて、激論?!を闘わせた記録です。議論の一部を転載してみます。皆さんは、どうお考えですか?
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【画像はクリックすると拡大します】

2016.11.24   2016年、塩尻・旧牛舎へのクマ出没は?
林 秀剛(信州ツキノワグマ研究会)


(筆者紹介)久しぶりの林秀剛さんのツキノワグマ・リポートです。林さんは信州大学在職中から、ツキノワグマの生態調査、人間との共存、保護、被害軽減に取り組む「NPO法人信州ツキノワグマ研究会」の中心メンバーの一人です。本稿は同研究会発行の「信州ツキノワグマ通信70号」からの転載です。同号は16ページ、最新のツキノワグマ情報が満載です。(坂井)
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 2016年春は、前年のドングリ豊作を受け、冬眠明けの子グマ連れのクマの出没が多いのではないかとの予測から始まった。
 5月末から6月初旬に秋田県鹿角市の衝撃的な死亡事故が続発。それに呼応するかのように、旧牛舎周辺での出没騒動。人身事故が気がかりで、旧牛舎にセンサーカメラを設置し、撤退宣言をひるがえして、監視することに。
2016年、塩尻・旧牛舎へのクマ出没は?
写真 1. 作業者にこん棒やナタを装備

 6月3日カメラを設置。設置場所は、旧牛舎中央通路に2台、北側山林への獣道上に1台。旧牛舎は、奈良井川左岸の段丘上に位置し、南側奈良井川河畔には畑が、北側には山林が続く。(注;牛舎は2012年に経営は停止されたので、<旧牛舎>と表示する。)カメラ設置の際、畑に足跡が。住民のNさんに出会う。作業車には、武器満載の重武装。夕方のTVニュースでは、塩尻駅裏を走るクマの映像が。偶然の一致に驚く。6月6日、クマ研にTVクルーが取材に。
2016年、塩尻・旧牛舎へのクマ出没は?
写真 2. 6月25日撮影されたクマ(7月6日長野朝日放送)

 7月6日、TVでのクマ報道。檻の前に仕掛けたカメラに、6月25日撮影された大きなクマの映像。6月30日には、地元新聞が、“塩尻、熊の目撃相次ぐ洗馬地区猟友会おり設置”の記事。センサーカメラには、6月26日、7月1,3,13日に撮影されていた。
その後、しばらく、センサーカメラに映像が映らない日が続いたが、8月に入り、出没が頻繁となる。とはいえ、大量出没の2014年と比較すればけた違いではあるが(通信No.67参照)。
2016年、塩尻・旧牛舎へのクマ出没は?
写真 3. 北側山林の獣道に大きな個体が

 8月15日には、北側の山林入口の獣道のカメラに大きなクマが。数日後、Nさんの案内で、周辺を見て廻る。サクラにクマ棚が。サクラの実がいっぱいの糞を採取。周辺にはハチの巣の破片も。明らかに、夏期の餌事情が厳しいことを物語っている。しかし、この時期、周辺でのクマ目撃情報は、新聞などにはほとんどないことは興味深い。8月のセンサーカメラにクマが写った日は、8月3,5日、14,18,23,24日、それに、28,29,31日。
2016年、塩尻・旧牛舎へのクマ出没は?
写真 4. 8月31日。今年最後の出没

 8月末、31日でカメラに映るクマは終了した。Facebookに、31日にゲットした動画とともに、下記を投稿した。「9月26日、長野県は、ツキノワグマ出没予測を発表。ドングリ類の実りはまあまあであり、集落への大量出没の可能性は低いと。信州クマ研として、今年も出没状況をカメラでモニタリングしていますが、8月中はボチボチと顔を見せていましたが、8月31日を最後に、ピタリと。それ以後、9月27日までは、まったく姿を見せません。このところの偶数年に大量出没する、という伝説?は、今年はなかったようですね。とりあえず、よかった!」
 非常に特殊で、少数のデータであるが、周辺の目撃情報などとの対応は、よいように感じられる。日常的なモニタリングとして利用可能ではないか?
 (追記1)最近、北信地域では、出没情報が頻繁であり、人身事故も何件か発生している。県の予報でも、堅果類が凶作ないしは不作の地域もあるとのことなので、非常に特殊な“旧牛舎”でのモニタリングが、どれだけ一般性があるかは、検証の必要がある。
 (追記2)今年の秋は、柿が大豊作。2014年の大量出没の際、11月に入っても、柿の実を食べに来たクマが人身事故を起こしたことが思い出される。それと、8月末に写ったクマが痩せていること、サクラの木にクマ棚があったこと、などなど。少々気がかり。8月のクマが太っているはずはないので、心配はないとは思うけど・・・

2015.05.16  「機能性表示食品」なんて、いらない・下
    早くも問題商品が相次ぐ
  
岡田幹治(ジャーナリスト)
         

 「機能性表示食品」制度が4月1日に施行され、多くの事業者から届出書類が消費者庁に郵送されてきた。ただ、記載内容に不備のあるものが多く、同庁は大半について書き直しを要請。その結果、16日に7社の8件を受理し、ウェブサイトで公表した。
 その中に早くも、問題商品がいくつも見られる。

◆トクホ失格商品が「自作自演」で機能性表示食品に
 まず、食品企業キューピーが届け出た「ヒアルモイスチャー240」というサプリメントである。このサプリはヒアルロン酸を含み、「肌の水分保持に役立ち、乾燥を緩和する機能がある」と表示しているのだが、実はかつて特定保健用食品(トクホ)に申請しながら、2008年に却下されたものだ。
 キューピーは2002年から、(政府の許可がない)「いわゆる健康食品」としてこのサプリを販売しており、却下後もその事実を伏せたまま販売を続けてきた。このたび、三つの臨床試験を根拠にして「機能性(健康への効果)あり」と判断したのだが、その試験と評価は「自作自演」に近い(注3)。

注3 詳しくは植田武智の次の記事を参照してほしい。
http://www.mynewsjapan.com/reports/2149

 ヒアルロン酸は動物の結合組織の成分で、ヒトの皮膚・腱・筋肉・軟骨などに分布しているが、加齢とともに減少する。俗に「美肌効果がある」「関節痛を和らげる」といわれており、健康食品がいくつもの企業から売り出されている。しかし、経口摂取によるヒトでの有効性については「信頼できるデータは見当たらない」と国立健康・栄養研究所の「安全性・有効性情報」は記している。
 キューピーが機能性の根拠としたのは、乾燥肌に悩んでいる成人を対象に肌のうるおいへの効果を調べた三つの論文だ。その一つによれば、1日に120ミリグラム(mg)のヒアルロン酸を含むサプリを飲み続けたグループと、同成分を含まないサプリ(プラセボ)を飲み続けたグループで皮膚の水分量を比べると、成分を含むグループの方が3週間後でも6週間後でも増加量が有意に多かったという。

 しかし、三つの論文はいずれもキューピーの社員によるもので、それらを評価して「効果あり」と判断したのも同社の社員だ(同社は試験担当者と評価担当者は別人で、試験も評価も公正に実施されたとしている)。
 しかも、キューピーが届け出た動物実験では、肌まで届くと確認されたヒアルロン酸の量は最大で0.3%程度。さらにヒト対象の3論文の中には、試験終了の2週間後にだけ効果が出たという理解しにくい論文もあるという。

◆食品安全委が安全性を確認できなかった成分も
 食品安全委員会が安全性を確認できなかった成分を含む機能性表示食品も現れた。健康食品素材の研究開発企業リコム(東京都豊島区)の「蹴脂粒(しゅうしりゅう)」である。このサプリは、エノキタケの抽出物が配合されており、「体脂肪(内臓脂肪)を減少させる働きがある」と表示されている。
 同社は同じ抽出物を同量含有した飲料「蹴脂茶」を、2009年にトクホに申請。審査はまず機能性について消費者委員会の新開発食品調査部会で行われ、効果ありとされた後、食品安全委員会の新開発食品専門調査会で安全性審査を実施。「安全性を評価できない」との「評価書」が5月12日の食品安全委で決定された。事務局は「安全性に問題があるということではない」と説明している(注4)。

注4 詳しくは松永和紀の次の記事を参照してほしい。
http://www.foocom.net/column/editor/12585/

 食品安全委が問題にしたのは、エノキタケ抽出成分が脂肪細胞に作用して体脂肪を減少させるというメカニズムをリコムが主張している点だ。申請通りなら、作用は脂肪細胞だけでなく「多岐にわたる臓器に影響を及ぼす可能性は否定できない」と指摘している(この成分は医薬品にも使われており、その場合には心血管系・泌尿器系など多岐にわたる臓器に影響を及ぼす副作用があることが明らかになっている)。
 これに対してリコムは同社のサイトなどで「サプリに含まれる抽出物の量は医薬品に比べてはるかに少なく、生のエノキタケに換算して4gにすぎない。サプリは各種試験で健康への有害な影響はみられなかった」とし、予定通り販売する方針だ。
 消費者庁は「(商品を個別に審査するトクホと違って)機能性表示食品は制度上、書類が整っていれば受理する。受理後に問題が確認できれば回収命令などを出すこともある」と説明している。しかし食品安全委が安全性を確認できなかった成分を「体によい成分」として販売するのは適当なのか。食品安全委の評価書の内容は消費者庁の情報サイトに出ていないが、それで消費者は的確な判断ができるのか、といった批判が出ている。

◆レベルの低い論文を根拠に、具体的な効果を表示する
 もう一つ、機能性と安全性の根拠に疑問が出されている例を挙げよう。健康食品大手ファンケルの「えんきん」という「中高年の老眼対策」サプリだ。
 このサプリはルテイン、アスタキサンチン、シアニジン-3-グルコシド、DHAという4成分が配合されており、「手元のピント調整機能を助けるとともに、目の使用による肩・首筋への負担を和らげる」と、きわめて具体的に表示されている。

 根拠となったのは、45~64歳の102人を対象にした臨床試験だ。4成分を含むサプリを4週間摂取し続けたグループと、成分を含まないサプリ(プラセボ)を摂取し続けたグループを比較したところ、4成分を含むサプリのグループの方が目の「調節近点距離」(ピントを合わせられる最短距離)がより改善され、「目のかすみ」と「肩や首のこり」もより改善されたという。
 しかし、この論文は欠陥が多く、厳格な査読が行われる学術誌なら、おそらく掲載されない程度の内容だ。その程度の論文を根拠に具体的な効果をうたうことに疑問の声が出ている(注5)。

注5 詳しくは松永和紀の次の記事を参照してほしい。
http://www.foocom.net/column/editor/12648/

 この論文は、Immunology Endocrine and Metabolic Agent in Medicinal ChemistryのVol.14-Nomber.2,2014に載ったのだが、この雑誌は米国立医学図書館が提供する世界最大級の医学・生物学文献のデータベースである「PubMed(パブメド)」には収録されていない(つまり世界での評価は高くない)。主任編集者は、規制改革会議などで議論をリードした人物として「上」で紹介した森下竜一・大阪大学大学院教授だ。
 制度づくりを主導した人物が、大手企業の研究者が発表したレベルの低い論文を、自分が責任をもつ学術誌に掲載して、機能性表示食品への道を開いてやる――そんな構図が浮かんでくる。
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2015.05.15  「機能性表示食品」なんて、いらない・中
    消費者被害の増加が懸念される 
    
岡田幹治(ジャーナリスト)
 
                
◆農水産業者も参入に意欲を示すが
 消費者庁が3月2日に「機能性表示食品」制度の細目を定めたガイドラインを公表してから、関係事業者の届け出をめざす動きに拍車がかかった。新制度は生鮮食品も対象にしているため、今回は健康食品会社や食品、製薬会社のほか、農水産業者も意欲的なのが特徴だ。
 たとえばJAみっかび(浜松市)は、特産の温州ミカンに「骨の健康を保つ」といった表示をすることを検討中だ。他のミカンに比べて「β-クリプトキサンチン」の含有量が多く、骨粗しょう症のリスクを下げる機能があるという。
 JAかごしま茶業は、特産の茶葉「べにふうき」に「目や鼻の調子を整える」といった表示をしたい考え。日射量が多いため、坑アレルギー作用のある「メチル化カテキン」が豊富なのだ。

 ただ、効果の科学的根拠は複数の学術論文を修士以上の研究者が評価する必要があるなど、ガイドラインで定められた手続きを小規模企業が単独で実施することは難しい。そこで、関係の団体や原料供給業者が支援に名乗りを挙げている。
 たとえば「日本健康・栄養食品協会」という公益財団法人である。厚生労働省OBが理事長などを務めるこの団体は、特定保健用食品(トクホ)の推進を主な事業にしてきたが、ここにきて機能性表示食品の支援事業にも手を伸ばしている。3月30日に東京都内で開いた「機能性表示食品支援制度説明会」では、こんな呼びかけをしたという。
 「トクホの許可を消費者庁から受けるには、2年以上の時間と平均して5億円の費用がかかるが、新制度なら、当協会が受託すれば、(論文の評価は)3カ月と500万円以下で可能となります」(樫田秀樹「『機能性表示食品』解禁で翻弄される業界」=『週刊金曜日』2015年4月17日号)
 ただ、1商品の論文評価だけで500万円もかかるのであれば、仮に5商品を発売するには2500万円もが必要になる。小規模企業にとって軽い負担ではない。

 もっとも、機能性表示食品がどこまで市場に浸透するかは未知数で、慎重に構えている企業もある。新制度では「体の部位」を挙げて健康効果を表示できるのがうりだが、巧みな表現でイメージに訴える「いわゆる健康食品」が禁止されるわけではない。「すでに効果が広く認知されているものもあり、それらについてはコストをかけて新しい機能性表示食品を発売するメリットがあるだろうか」(担当者)とする大手食品企業もある。

◆惨憺(さんたん)たる米国の状況
 新制度が導入されれば、消費者は自分に合った製品を選べるようになって健康になり、企業は売上げを増やすから経済成長は加速され、医療費が削減されるから国にとっても利益――と推進派は言うが、本当にそんなことになるのだろうか。
 参考になるのは、安倍内閣がモデルにした米国の状況である。米国では1994年に「ダイエタリ・サプリメント(DS)健康教育法」(DSHEA=ディーシエ)が制定され、企業が製品に健康効果があると判断すれば、発売後30日以内にFDAに通知するだけで機能性表示ができるようにした。
 この結果、当時60億ドル程度(約7000億円)だった市場は、20年間で約350億ドルに急成長。いま約6万種ものDSが売られ、成人の半数以上が使うようになった。

 半面で、問題も噴出している。たとえば、米食品医薬品局(FDA)がDSで最初に販売を禁止した「エフェドラ」含有サプリの場合だ。
 麻黄(マオウ)という漢方薬の成分でもあるエフェドラは、米国ではダイエットや運動能力向上のためのサプリとして、1000万人を超す人々に利用されていた。ところが、心臓発作や脳卒中を起こす危険性が早くから指摘され、重篤な被害も続いたため販売禁止になった。ただDSHEAでは、販売を禁止するにはFDAが危険性を立証しなけれず、FDAが最初に報告を受けてから禁止までに8年もかかった。この結果、死者は164人にも達してしまった(エフェドラは日本では医薬品に指定されており、サプリの輸入は以前から禁止されている)。

 米国では2008年に、重篤な被害が出た場合には15日以内にFDAに報告することを事業者に義務づけた。しかし、その後も被害は続いている。米連邦議会の行政監査局(GAO)が13年に公表した報告書によれば、08~11年に6307件の報告があり、1836人が入院、80人以上が死亡している(これらすべてで因果関係が証明されているわけではない)。
 米国ではルールも守られていない。米保健福祉省の監察総監室が2012年に「体重減少」と「免疫力強化」のDS127商品を調査したところ、ヒトの健康に関係する事業者提出の557件の研究のうちFDAのガイドラインに合致したものは一つもなく、ほとんどの商品の科学的裏づけが不十分だった。
 事業者を訴える訴訟も急増。たとえば膝の変形性関節炎への効果が表示されている「グルコサミンとコンドロイチン」のDSは、商品がうたう効果は確認できないという論文が多いことが分かり、少なくとも3件の集団訴訟が起こされた。うち1件はメーカーが商品を買った1200万人に代金を返却することで和解が成立している。

◆国内では高齢者中心に経済被害も急増
 日本国内の健康食品をめぐる状況も深刻だ。販売中のトクホに安全性や有効性に疑問のある商品が少なくないうえ、暗示とほのめかしの広告で消費者を引きつける、いわゆる健康食品が氾濫している。
 これらは薬事法(現・医薬品医療機器等法)などで病気予防効果などの表示が禁止されているが、違反が絶えず、しかも行政の監視と法の執行が不十分なので、野放しに近い状態だ。
 一例が「寝ている間に勝手にダイエット!?」などと表示して人気を集め、短期間で50億円を売った健康食品の「トマ美ちゃん」だ。消費者庁は2013年12月、商品を摂取するだけで痩身効果が得られるような表示は景品表示法違反だとし、販売業者のコマースゲートに措置命令を出した。同社はサイトにお詫びを掲載したものの、返金はせず、表示を変えて販売を続けた。

 判断力の鈍った高齢者を中心に財産被害も急増しており、国民生活センターが2013年9月に「健康食品の送りつけ商法に新たな手口」という警告を出したほどだ。それによると、「申し込んだ覚えがないと断ったのに、健康食品を強引に送りつけられた」という相談が8か月余りで2万件を超え、前年同期の15倍以上になった(注2)

注2 岡田幹治「(健康食品)七つの大罪」(『週刊金曜日』2015年4月17日号)は。健康食品の問題点を次の七つにまとめている――。①健康効果はほとんどなく、あってもごくわずか、②品質がばらばらで、未知の化学物質が含まれていることもある、③有害成分を含むものがあり、健康被害が絶えない、④抽出・濃縮・乾燥が問題を生むこともある、⑤薬と併用すると薬効が低下するものがある、⑥実態からかけ離れた広告・宣伝で消費者を惑わす、⑦悪徳商法の材料となり、経済被害が急増している。

◆欠陥だらけの新制度
 このような状況のところへ、以下のような欠陥をもつ機能性表示食品が追加されたのだ(主婦連合会が4月10日に消費者担当大臣らに提出した「申し入れ書」を参考にした)。消費者はますます混乱し、被害も増えるのではないだろうか。

1 新制度の創設は本来なら、トクホの場合のように健康増進法などの規定が必要なのに、今回は内閣府令(食品表示   基準)で行っている。食品表示基準は「表示」の基準であり、機能の科学的根拠や安全性の要件を規定するものでは  ないから、新制度は違法・無効の疑いがある。
2 安全性や機能性の根拠に関する事項はガイドラインで示されているにすぎないので、守られない可能性がある。ガイド ラインを順守しなかった場合の対処の仕方も明確になっていない。

3 ガイドラインでは、健康被害が発生した場合、情報を事業者が収集し、消費者庁に速やかに報告すると定められてい  るが、あくまでガイドラインなので、義務も罰則規定もない。また被害を未然に防ぎ、拡大を防ぐために不可欠な「公表」  については何の言及もない。
4 ガイドラインでは、どのような方法で「生産・製造及び品質管理」をしているかを届け出ることしか定められていない。品 質を担保(保証)する規定がないので、成分の配合ミスなど、危険な機能性表示食品が販売される可能性がある。

 以上のように機能性表示食品は、責任を事業者だけに委ね、行政は責任を回避するものであり、消費者の健康被害と経済的被害の発生、拡大は必至だと主婦連はみている。
 世界を見渡せば、安倍内閣がお手本にした米国は特殊な例で、むしろ健康食品への規制を強めている国・地域が増えている。たとえば欧州連合(EU)では、欧州食品安全機関(EFSA)がフード・サプリメントの効果や安全性を厳しく評価し、妥当と判断されなかったサプリの流通を禁止している。
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2015.05.14  「機能性表示食品」なんて、いらない・上
    安倍・成長戦略の一環として解禁された
    
岡田幹治(ジャーナリスト)
 
                
 「機能性表示食品」という言葉が新聞やテレビによく出てくるようになった。新しい食品表示制度が4月に解禁になり、それに基づく機能性表示食品が6月にはドラッグストアの店頭や通信販売のリストに並ぶ見通しになったからだ。機能性表示食品とは一体どんなものか。それは私たち消費者に何をもたらすのか。それを3回に分けて報告する。まず「上」は、解禁までのいきさつである。

◆届け出るだけで「体への効果」を表示
 機能性とは「体への効果」のことで、それを表示できるのは医薬品に限られている。例外が「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」の二つで、これらを合わせて「保険機能食品」と呼ぶ(このほか、政府の許可を受けずに、体によさそうなことをイメージで売り込む「いわゆる健康食品」が多数販売されている)
 トクホは、商品ごとに有効性や安全性を専門家が審査し、消費者庁が許可したもので、その食品が身体の構造と機能に影響を与えることを表示できる。また栄養機能食品は、国の定めた栄養成分が基準値の範囲で含まれていれば、国の審査を受けることなく、成分と機能を表示できる(注1)。
注1 トクホは飲料・ヨーグルト・菓子などの1144品目に許可されており(今年4月現在)、容器に「トクホマーク」がついている。栄養機能食品は人に対する有効性が明確な栄養成分を補うことを目的とした食品で、ビタミン12成分とミネラル5成分が指定されていたが、4月からn-3系脂肪酸、ビタミンK、カリウムの3成分が追加された。

 これに対して新しく解禁された「機能性表示食品」は、食品に含まれる成分などに健康を維持・改善する効果があると企業が判断し、消費者庁に届け出れば、「骨の健康を保つ」「目の調子を整える」といった表示ができるものだ。「第3の制度」とも呼ばれる。
 具体的には、サプリメント(錠剤・カプセルなどの形をしたもの)や加工食品に加えて、果物や魚などの生鮮食品も対象で、どの成分が関与して効くのかなどを企業が臨床試験や複数の学術論文で確認し、届け出ればよい。科学的な根拠を判断するさいの詳細な条件などは消費者庁がガイドライン(指針)で示すが、商品が条件を満たしているかどうかの個別審査はしない。届け出書類に不備がないと消費者庁が判断して受理すれば、その60日後から販売できる(届け出の内容はウェブサイトで公開されるから、誰でもチェックできる)=表1。
機能食品(岡田稿表1)

◆首相が熱心だった背景
 この制度は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざす安倍晋三内閣の成長戦略の一つとして解禁された。第2次安倍内閣発足直後の2013年2月に、成長戦略を審議する規制改革会議(議長、岡素之・住友商事相談役)で検討項目に取り上げられ、わずか4か月で解禁が決定された。首相は同年6月5日、成長戦略第3弾の発表スピーチで「健康食品の機能性表示を、解禁いたします」と宣言し、解禁が必要な理由をこう説明した――。
 現在はトクホの認定を受けなければ健康効果を表示できないが、その取得には費用も時間もかかり、中小企業・小規模事業者にはチャンスが事実上閉ざされている。米国では国の認定を受けていないことを明記すれば、商品に機能性を表示できる。これを参考に(より企業に便利な)「世界最先端」の制度をめざす、と。

 首相が明言しているように、許可までに費用も時間もかかるトクホは企業の負担が重いので、その負担を軽くしようというのが新制度のねらいなのだ。
 首相が解禁に熱心だった背景は次の二つだったと推測できる。あらゆるものを成長戦略に利用しよういう姿勢と、米国の市場開放要求に応えオバマ政権との関係を改善しようという思惑である。同時に、首相を後押しした二人の存在も見逃せない。森下竜一・大阪大学大学院医学系研究科教授と健康食品の大手ファンケルの池森賢二会長だ。

◆議論をリードした森下竜一・大阪大教授
 新制度は、まず規制改革会議とその下の「健康・医療ワーキング・グループ(WG)」(座長、翁百合・日本総合研究所理事ら9委員)で検討されたのだが、これらの場で積極的に議論をリードしたのが、森下だった。
 医療ベンチャー「アンジェスMG」の創業者でもある森下は、内閣官房参与も務めている自称「安倍政権のブレーン」。アンジェスMGは赤字続きで、過去にいくつもの不祥事が報道された、いわくつきの企業だ。また森下は、ノバルティスファーマの降圧剤をめぐる研究データ偽造疑惑にからんで名前が取りざたされたこともある。

 その森下がWGなどで「機能性表示を解禁すれば、国民に安心感を与え、医療費が削減できる」などと根拠の乏しい主張を展開。WGは健康食品業界と関係省庁からヒアリングしただけで結論を出した。健康食品をめぐって消費者からの苦情や健康被害が増加しているという「負の側面」が考慮された形跡はない。

◆検討の山場で動いた池森賢二ファンケル会長
 一方、池森は一代でファンケルを築き上げた新興財界人で、安倍とはときどき夕食を共にする「お仲間」の一人。健康食品の規制緩和は成長戦略の有力な柱になると首相に売り込んだことは容易に想像できる。
 国内の健康食品市場(トクホなどと「いわゆる健康食品」の合計)は2012年度で約1兆7000億円。健康食品の問題点が指摘され出した2006年ごろから伸び悩んでいる。ファンケルの業績も近年は振るわず、池森はいったん退いた経営の一線に2013年に復帰している。業界としても、企業としても新しい突破口が何としてもほしいところだった。

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2015.01.08 日本の食品表示は「劣等生」!・下
内外で表示が異なる「コアラのマーチ」

岡田幹治(フリーライター)


◆内外格差に驚く食品表示部会委員
 内閣府の設置された消費者委員会の食品表示部会委員を務める立石幸一・JA全農食品品質・表示管理部長は、外国へ出張するたびに、加工食品の表示内容の内外格差に驚くという。
たとえば、子どもたちに人気のスナック菓子「コアラのマーチ(イチゴ)」は、国産品とほぼ同じデザインで北米やアジアの国々で販売されているが、表示の内容は内外で大きく異なるのだ。
脂肪分の表示を例にとると、日本では1箱48グラム(g)当たり「脂質14.1g」としか記されていないのに、たとえば香港で販売中されていたものは100g当たり「総脂肪5.3g。うち飽和脂肪11.9g、反式脂肪(トランス脂肪酸)4.8g」と記されている(1箱41g当たりの含有量はこの4割程度になる)。
マーガリンやビスケット類に使われるトランス脂肪酸は、心臓疾患などのリスクを高める性質があり、世界保健機関(WHO)が「1日摂取量は総エネルギーの1%以下」という勧告基準を定めている(日本人では脂肪2g以下に当たる)。消費者にとって無関心ではいられない脂質だ。
トランス脂肪酸の含有量の表示を多くの国は義務づけており、香港ではコアラのマーチを1箱食べるとWHO基準にほぼ見合う量を摂取してしまうことが分かる。しかし、日本では分からない。

◆世界で進む二つの表示改革
世界の食品表示に詳しい技術士の藤田哲によれば、世界では二つの方向で表示制度の改革が進んでおり、「日本は世界で最も遅れた国の一つ」だという。
改革の一つは「分かりやすい栄養成分表示」だ。栄養成分表示の義務化はまず米国で1994年に始まり、いまではきわめて多くの国に広がった。東アジアで義務化していないのは日本・北朝鮮・ラオスなどごくわずかだという。
内容も親切で、たとえば米国では約10項目の栄養素について、包装1個当たり何g含むかとともに、米国人の1日必要量の何%に当たるかも表示されている。
日本では、栄養成分の表示は新しい食品表示法で義務づけられた。しかし、その対象はわずか5項目(エネルギー・タンパク質・脂質・炭水化物・ナトリウム=食塩相当量で表示)にすぎない。消費者の要望が強いトランス脂肪酸は「任意」とされてしまった(注2)。しかも、栄養成分表示の義務化には猶予期間が設定されており、実施されるのは5年も先になる。

注2 食品表示基準では5項目が「義務」とされたほか、飽和脂肪酸と食物繊維が「任意(推奨)」とされ、糖類、トランス脂肪酸、コレステロール、ビタミン・ミネラル類が「任意」とされた。

もう一つの改革の方向は「水分を含めた『主要な』および『特徴的な』原材料の分量の%表示」だ。これは欧州連合(EU)が2000年に始め、すでに50か国程度に広がっている。主要原材料とは、製品中の5%を超える水・食肉・野菜・乳製品などのことだ。また特徴的な原材料とは、「イチゴヨーグルト」のように表示に名称や絵が使われているもので、「冠商品」とも呼ばれる。これは微量しか含まれていなくても、%表示しなければならない。
日本では原材料の%表示は必要ないので「水増し」が横行する。たとえば、豚肉以外に水分や植物タンパクなどを多量に含んでいても「ロースハム」とされるが、正しくは「ハム類似物」と呼ぶべきだろう。%表示は今回の表示基準策定では検討もされなかった。

◆遺伝子組み換え食品は例外だらけ
EUに比べて見劣りするのが、遺伝子組み換え(GM)食品の表示だ。日本では、八つの農作物(大豆、トウモロコシ、ナタネ、ワタなど)とそれらを原料とする33食品群が表示の対象になっているが、以下のような例外があって、ほとんどは表示されない。このため私たちは知らないうちに大量のGM食品を口に入れている。
まず「検査で検出できない食品」は対象外なので、GMナタネなどを原料とする食用油やGM大豆が原料の醤油・コーンフレークなどは表示されない。対象になるのは、大豆なら豆腐・納豆・味噌など、トウモロコシならコーンスナック菓子くらいだ。
次に、多種類の原料からなる加工食品の場合、表示対象は重量で上位三つのGM品目に限られる。意図せざる混入も5%までは許容され、5%未満なら「遺伝子組み換えでない」と表示できることになっている。また「不分別」というあいまいな表示も許されている(この表示の場合、たいていはGM作物を含んでいる)。このほか、牛・豚・鶏などの飼料はほとんどがGM作物(主にトウモロコシ)だが、飼料も表示の対象外だ。
これに対してEUでは、GM作物を使用したすべての食品は表示が義務づけられており、意図せざる混入も認められるのは0.9%まで。レストランなどでもメニューに示されており、EUではGM食品がほとんど流通していない。

◆審議会で重きをなす産業会代表
日本の食品表示の欠陥を正し、遅れを取り戻す好機が4年前に訪れた。八つもの法律で定められていた表示制度を一元化し、食品表示法を制定する作業が2011年に始まったからだ。
しかし、消費者庁は食品衛生法・JAS法・健康増進法という三法の表示部分の形式的な一元化を主な内容にし、「原料原産地表示」などの懸案は先送りしてしまった。不十分な内容の食品表示法が制定され、それを受けて食品表示基準案の審議が消費者委員会の食品表示部会で行われたが、これも問題の多いものだった。
まず2013年11月に発足した第3期の食品表示部会で、メンバーが大幅に入れ替えられた。それまで委員を務めていた山根香織・主婦連合会会長ら消費者団体関係者3人が外された。いま部会で重きをなしているのは池原裕二委員(食品産業センター企画調査部次長)で、部会の下に設置された三つの調査会のすべての委員に就任し、業界の意向を代弁している。食品産業センターは、全国の食料品・飲料メーカーとその業界団体による中核的・横断的な組織である。
食品表示部会や調査会の審議では、たとえばトランス脂肪酸の表示問題などは議論そのものを封じ、消費者庁案を強引に通そうとする場面もみられた。消費者庁案に対して強硬な反対意見があったため、最後は項目別に委員の賛否を数えるという、この種の審議会では異例の方法が取られた。
消費者庁が2009年に創設されるとき、当時の福田康夫首相は「明治以来続いてきた産業振興優先の行政を、消費者・生活者重視に転換させる」意気込みだった。霞が関に「静かな革命」を起こすともいわれた。しかしできてみれば、農水省や厚生労働省からの出向者が要職を占め、業界優先で縦割りという従来通りの行政が行われている。
日本は国内総生産(GDP)が世界3位の経済大国であり、アジアでただ一つの主要国首脳会議(G7)のメンバー国だ。にもかかわらず、韓国・香港・タイなどにも劣る食品表示制度しか持っていない原因はここにある。(敬称は略しました)

2015.01.07 日本は食品表示の「劣等生」!・上
中国産でも「国産」のリンゴジュース

岡田幹治(フリーライター)


私たちが食品を選ぶとき重要な手がかりとなる「食品表示」の内容が、日本は世界で非常に遅れていることをご存じだろうか。多くの国で近年、「消費者が選択しやすい表示」や「健康維持に役立つ表示」をめざして改革が進んでいるのに、この国では業界への配慮を優先し、旧態依然の表示をいまだに続けているのだ。
食品表示ついては新しい「食品表示法」が一昨年6月に制定され、細かいルールを定めた内閣府令の「食品表示基準」も昨年末までに消費者庁によってまとめられた(注1)。新法は今年6月までに施行されるが、その内容は世界に大きく立ち遅れている。以下、具体的にみてみよう。

注1 食品表示法は、食品衛生法・JAS法・健康増進法という三つの法律の表示部分を一元化したもの。施行のための食品表示基準は、栄養成分表示などのルールを定める「本体部分」と「栄養機能食品」「新・機能性表示制度」の三つに分けて策定作業が進められており、本稿で対象にするのは本体部分。本体部分だけでも本文と24の別表を合わせて340ページもあり、きわめて分かりにくい。

◆外食とインストア加工は対象外
昨年7月下旬、中国の食肉加工会社による期限切れ食肉の使用が発覚し、その会社から日本マクドナルドホールディングス(HD)が鶏肉を輸入していたことが明らかになった直後、マック利用者からはこんな嘆きが聞かれた。「えっ!マックのチキンナゲットが中国産なの?」
この事実はほとんどの利用者にとって寝耳に水だった。それも当然だろう。原料の原産地がどこであるかは、メニューなどに全く記されていなかったのだから(その後ウェブサイトに掲載)。
食品の品質表示についてはJAS法(農林物資の規格・品質表示適正化法)で詳しいルールが定められているが、「外食」と「インストア加工」(コンビニなどの店内で焼く焼き鳥など)は例外になっている(デパートの地下など店頭で量り売りされる惣菜なども、ほぼ同じ扱い)。だから、これらの店ではマイナスイメージを与える情報は明らかにされない。
一昨年10月以降、一流のホテルやデパートでメニューの虚偽表示が次々に明らかになったが、「外食例外の規定はこうした不正の温床にもなっている」と神山美智子弁護士(市民団体「食の安全・監視市民委員会」代表)はいう。
外食店などの表示は景品表示法で規制されているが、これは「著しく事実に相違した表示」を禁じているだけなので、ほとんど役に立たないのだ。
期限切れ鶏肉の使用問題をきっかけに「外食店にもJAS法の適用を」という要望が強くなっているが、消費者庁は「外食店では従業員に産地を尋ねることができるし、食材の産地が日々変わる店もあるので表示の義務化は難しい」との態度を変えていない。

◆原料原産地の表示義務づけはごくわずか
表示制度の欠陥は、スーパーなどの小売店でも見られる。たとえばリンゴジュース(果汁)は国内消費の約半分を中国産が占めるなど多くは輸入品だが、ほとんどが「国産」と表示されている。
現行制度では、生鮮食品(肉や魚など)には原産地表示が原則として義務づけられているが、加工食品は、22食品群(モチ、コンニャクなど)と4品目(農産物漬物、ウナギかば焼きなど)に限って原料の原産地の表示が義務化されているだけだ。しかも22食品群では表示義務は重量の割合が50%以上の原料に限られる。
リンゴなどの果汁の場合、外国で搾汁された後、濃縮・冷凍して輸出され、それを国内で解凍、水分を加えて100%果汁にすると、その希釈が国内製造とみなされる。
容器で包装されず、ばらで販売される焼き鳥もそうだ。外国で串刺しにまで加工された半製品が冷凍で輸出され、国内のコンビニなどが解凍、加熱して販売すれば原産国は日本となり、原料原産地の表示義務はない。
こうして多くの輸入加工食品が、あたかも国産であるかのようにして売られている。これが輸入食品を増やし、食料自給率を引き下げる一因になっている。

◆「一括名」が許される食品添加物
 食品添加物の表示も欠陥が多い。使用しているすべての添加物を表示するのが原則としながら、「一括名」や「簡略名」が許されているため、全物質名が表示されることはほとんどないのだ。したがって、できるだけ食品添加物を避けたいと思っても、知らぬ間に摂取してしまう。
一括名というのは、同じ目的で同じ効果が認められる物質をいくつも使った場合に許されるもの。たとえばグルタミン酸ナトリウム・コハク酸ナトリウムなどアミノ酸類を何種類か使用した場合、「調味料(アミノ酸類)」と表示すればよいのだ。このような一括名は「光沢剤」「香料」「pH調整剤」など合計13種類に認められているが、このような表示を許しているのは主要国では日本だけだ。
また、一般に広く使われているとされる名称(簡略名や別名)での表示も認められている。たとえばソフトドリンク剤に「ビタミンC」と書かれているのが一例だ。ビタミンというと良い印象を受けるが、「L-アスコルビン酸」という化学物質が酸化防止剤として使われている可能性がある。
さらに食品添加物は用途つきで物質名が表示されないため、「保存料不使用」といった詐欺的な表示が横行している。この表示の場合、ソルビン酸などの保存料は使わない代わり、保存効果のある添加物(グリシン、酢酸ナトリウムなど)を多量に使用していることが多い。

◆加工食品の製造所が意味不明の記号
一昨年末、アクリフーズ(現マルハニチロ)群馬工場製の冷凍食品から超高濃度の農薬マラチオンが検出され、同工場製の冷凍食品は「食べずに返送するよう」呼びかけられたとき、困った消費者が少なくなかった。
保存していた冷凍食品の製造所を確認しようとしても、ラベルに製造所の名称はなく、「J796」とか「SFA25」とかいった意味不明の記号が記されただけの食品があったからだ。
食品衛生法の表示基準は製造所の名称と所在地を記すよう定めているが、「消費者庁長官に届け出た製造所固有記号」で代えることができるという例外が認められており、多くの食品がこれを使っている。
固有記号は販売業者が勝手につけることができるので、同じアクリフーズ群馬工場でも異なる記号がつけられている。固有記号は全部で80万もあり、消費者庁でさえ全体を把握していないから、事故が発生すると官庁でさえ正確な事態がすぐにはつかめない。
このため当時の森雅子・消費者担当相が廃止を表明したが、とたんに業界が強く反発し、結局、新しい食品表示基準でも製造所が二つ以上ある場合は認めることになった。
業界はなぜ反発したのか。固有記号があれば、有名ホテルのオリジナル食品が実は零細な工場で作られていることも、土産品が観光地とは無縁の工場で作られていることも隠すことができるからだろうと推測されている。

◆韓国と比べると
日本の表示制度がいかに遅れているか。それは同じように食品輸入大国である隣国の韓国と比べるとはっきりする。
韓国では、258の加工食品について、重さが多い順に二つの原料の原産地を表示することになっている。外食店では牛肉・豚肉・鶏肉・コメ・白菜キムチなど重要16品目は原産地を店内に表示しなければならない。食品添加物も、すべての添加物の名称と用途の表示が義務づけられている。
原産地表示の規制は今年6月から強化され、加工食品の原産地表示は上位3原料に拡大。外食店の義務づけも20品目に増やすことになっている。
日韓両国とも産地偽装が絶えないが、その監視・取締り体制も格差が大きい。日本で2013年、JAS法の品質表示基準違反として指導・公表されたのはたった14件だった。これに対して韓国では同じ年に2701件が原産地表示違反で摘発されている。
韓国では国立農産物品質管理院などがしっかり監視し、罰則も厳しい。そのうえ、消費者団体や生産者団体から推薦された「名誉(市民)監視員」が1万9000人もいて効果を上げている。
日本の農林水産省には、食品不正を調べる「食品表示Gメン(特別調査官)」が約1300人いるが、ほとんど機能していない。日本は不正のやり得状態になっているのだ。(敬称は略しました)

本稿は『週刊金曜日』14年10月17日号の「日本は食品表示の『劣等生』!」に加筆修正したものです。