2017.02.08 知覚動詞の構文
知覚動詞+目的語+補語(do/doing)、that節、 wh節

松野町夫 (翻訳家)

知覚動詞は「意志」の有無を基準にして、次のように状態動詞 [S] と動作動詞 [D] に分類できる。

■状態動詞 (stative verbs) → 通例進行形にしない
see, hear, smell, feel, notice (非意志的行為=偶然にまたは自然に知覚する)
■動作動詞 (dynamic verbs) → 進行形にできる
look at, watch,listen to (意志にもとづく動作=注意して見たり聞いたりする))

知覚は本来、感覚器官を通して対象を把握することなので、知覚動詞には視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感動詞(see, hear, feel, taste, smell)をすべて含めてもよさそうなものだが、英文法ではふつう taste を知覚動詞に含めない。理由は以下の構文(SVOC)をとらないから。ただし smell は、原形不定詞を補語にとることはないが、現在分詞(doing)はとれるのでここでは知覚動詞として扱う。

1. 主語+知覚動詞+目的語+補語(原形不定詞)
「彼がバスに乗った」 + 「私はこれを見た」 = 「私は彼がバスに乗るのを見た」
He got on a bus. + I saw this. = I saw him get on a bus.
I (S), saw (V), him (O), get on a bus (C)

2. 主語+知覚動詞+目的語+補語(現在分詞)
「彼がバスを待っていた」 + 「私はこれを見た」 = 「私は彼がバスを待っているのを見た」
He was waiting for a bus. + I saw this. = I saw him waiting for a bus.
I (S), saw (V), him (O), waiting for a bus (C)

知覚動詞+目的語+原形不定詞(do)
補語が原形不定詞(do)の場合は、動作を始めから終わりまで見るという含みがある。したがって、補語は瞬時に完結する動作、たとえば、「乗る」「置く」「入る」「爆発する」「ウインクする」「ジャンプする」など、いわゆる瞬間動詞(get on, put, enter, explode, wink, jump)になる場合が多い。ちなみに、末尾の [S] は知覚動詞が状態動詞であることを表し、また [D] は動作動詞であることを表す。

I saw you put the key in your pocket. あなたが鍵をポケットに入れるのを(偶然に)見た。[S]
I saw him enter the building. 私は彼がその建物に入るのを見た。[S]
He was seen to enter the building about the time the crime was committed.
彼は犯行時刻の頃にその建物に入るのを目撃されていた。[S] *受身は to 不定詞となる。
We heard the bomb explode. 私たちは爆弾が爆発するのを聞いた。[S]
Did you feel the house shake? 家が揺れるのを感じましたか。[S]
I noticed John wink at Mary. ジョンがメリーにウインクするのに気づいた。[S]

Look at the dolphin jump. イルカがジャンプするのを(注意して)ごらん。[D]
She watched the children play. 彼女は子供たちが遊ぶのをじっと見ていた。[D]
I watched a man run across the yard and climb through an open window into the house.
男が庭を走って横切り、開いた窓をよじ登り、家の中に入っていくのを私は見た。[D]
She liked to listen to children talk. 彼女は子供たちが話すのを聞くのが好きだった。[D]

知覚動詞+目的語+現在分詞(doing)
補語が現在分詞の場合は、動作の途中の一部を示す。したがって、補語はある程度時間のかかる動作、たとえば、「待つ」「ジョギングする」「食べる」「踊る」など、いわゆる継続動詞(wait, jog, eat, dance)になる場合が多い。

We saw Nancy jogging. 私たちはナンシーがジョギングしているのを(偶然に)見た。[S]
I saw you eating in a restaurant. ぼくは君がレストランで食事しているのを見た。[S]
I saw her dancing with John. 私は彼女がジョンと踊っているのを見た。[S]
She was seen running away from the scene of the crime.
彼女は犯行現場から走り去るところを目撃されていた。[S]
We heard Tom playing his guitar. 私たちはトムがギターを弾いているのを偶然耳にした。[S]
I can feel something crawling up my leg. 何かが脚をはい上がっているのがわかる。[S]
I smell something burning. 何か焦げくさいにおいがする。[S]
I noticed him stealing money. 彼がお金を盗んでいるのに気づいた。[S]

He looked at the rain coming down. 彼は雨が降ってくるのを(注意して)眺めた。[D]
She watched the kids playing in the yard. 彼女は子供たちが庭で遊ぶのをじっと見ていた。[D]
I listened to the children talking. 私は子供たちが話すのをじっと聞いた。[D]

上記の2つの構文(SVOC)があまりにも有名なために、知覚動詞はこれ以外の構文、たとえば、that 節や wh節はとれないと勘違いしている人もいる。しかし、もちろんそんなことはない。

知覚動詞+that 節
知覚動詞の構文(SVOC)が対象との直接的接触による直観知、つまり実際に知覚したことを表すのに対して、知覚動詞+that 節は直観知ばかりでなく、知的な思考や推理・判断も表すことができる。とくに see, feel, smell, notice はこの傾向がある。ただし聴覚の hear, listen を除く。 hear+that 節は、話し手自身の判断でなく、人から聞いたことを述べるのに使用し、listen は that 節をとらない。

I saw Linda crying. → 構文(SVOC) = 直観知
リンダが泣いているのを(実際に)見た。
I could see (that) Linda had been crying. → that 節 = 推理・判断
リンダが泣いていたことがわかった。

I could see (that) she was tired. 彼女が疲れていることがわかった。[S]
I hear (that) he has been ill since last month. 彼は先月から病気だそうです。[S]
I was surprised to hear (that) he was married. 彼が結婚していると聞いて私は驚いた。[S]
I feel that some disaster is impending. 何か災難が迫っているような予感がする。[S]
I don't feel that it's a very good plan. それがあまりよい計画とは思わない。[S]
I can smell that this meat is rotten. この肉が腐っているのがにおいでわかる。[S]
I could smell that something was wrong. どこかおかしい気がした。[S]
I noticed that the door was open. ドアが開いているのに気づいた。[S]
I noticed that someone was following me. だれかが私を尾行していることに気がついた。[S]

Look that you don't spill coffee. コーヒーをこぼさないように注意しなさい。[D]
Watch (that) you don't slip. すべらないように注意しなさい。[D]
Watch you don’t get your bag stolen. バッグが盗まれないように注意しなさい。[D]

知覚動詞+wh 節
知覚動詞がwh 節を伴うとき、主節は否定文または疑問文の場合が多い。

I didn't see what happened. 何が起きたのかわからなかった。[S]
Did you see what happened? 何が起きたのか見ましたか。[S]
Did you see who started the confusion? その騒ぎはだれが始めたか見ましたか。[S]
Have you heard when they're coming back? 彼らがいつ戻ってくるか聞いていますか。[S]
We’d better hear what they have to say. 彼らの言い分を聞いたほうがよい。[S]
I can smell when it's going to rain. いつ雨が降りだすかにおいでわかります。[S]
Feel whether it is hot. それが熱いかどうかさわってみてごらん。[S]
I didn’t notice how glad she was. 彼女がどんなに喜んでいるのか気がつかなかった。[S]
I didn't notice whether she was there or not. 彼女がそこにいたかどうか気がつかなかった。[S]

2017.01.26 知覚動詞 その 2
知覚動詞は実際に「できた」ことを could で表現できる

松野町夫 (翻訳家)

知覚動詞は助動詞の canと相性がいい。感覚動詞(see, hear, feel, smell, taste)は特にそうだ。感覚動詞には can や could が頻繁に使われる。たとえば、

You can see Mt. Fuji from here. ここから富士山が見えます。
I could see Mt. Fuji from here yesterday. 昨日はここから富士山が見えました。
I could see she was upset. 彼女が狼狽しているのがわかった。

Can you hear me? No, I can't hear you. (電話で)聞こえますか? いいえ、聞こえません。
He could hear a dog barking. 犬がほえているのが聞こえた。
No one could hear what she said. 彼女が言ったことは誰にも聞こえなかった。

I can feel a stone in my shoe. 靴の中に石が入っているようだ。
She could not feel her legs. 彼女は両脚の感覚がなくなっていた。
He could feel her watching him. 彼は彼女が自分を見ているのを感じた。

You can smell cheese. チーズのにおいがするでしょう。
I can't smell anything. 何もにおわないよ。
I could smell alcohol on his breath. 彼の息はアルコールのにおいがした。

You can taste the garlic in this stew. このシチューはニンニクの味がします。
I can't taste anything with this cold. この風邪で、何の味もわかりません。
You could taste the fear in the room. あなたはその部屋で恐怖を味わった。

上記の例文で注目してほしいのは could(できた)である。とくに肯定文の could に注目してほしい。知覚動詞は、過去のある特定のときに実際に「できた」ことを could で表現できる。たとえば、
I could see Mt. Fuji from here yesterday. 昨日はここから富士山を見ることができた。
= I was able to see Mt. Fuji from here yesterday.

can と be able to
can や be able to は能力や可能性を表す。両者とも「できる」(~することができる)という意味。

彼女はフランス語を話すことができる(話せる)。
She can speak French.
= She is able to speak French.

しかし厳密に言うと、can と be able to は全く同じ意味ではない。一般に can は身に備わった能力を表し、be able to は一時的な能力を表す。感覚は身に備わった能力なので感覚動詞と can はとくに相性がいい。また、能力や可能性があるからといって、それを実行するとはかぎらない。 be able to はあることが実際にできるかできないかを問題にするが、can は気持ちのうえでできるかどうかを問題にする。いずれにしろ、現在形の can や be able to は日本語の「できる」と意味も用法もほぼ同じなので間違える人はまずいない。「できる」= can = be able to

しかし過去形のcould は、日本語の「できた」(~することができた)と意味も用法もかなり異なるので注意が必要だ。能力や可能性があったからといって、それを実行したとはかぎらない。日本語の「できた」は、能力や可能性があり、それを実行したことを意味し、 was [were] able to と同じ。 「できた」= was [were] able to

私たちは正午に出発できた。
We were able to leave at noon.(この意味ではWe could leave at noon. はダメ)

去年の夏、新しい友達を作ることができた。
I was able to make new friends last summer.(*I could make new friends ...はダメ)

肯定文の could は能力や可能性があること、または、あったことを述べているにすぎない。実行したかどうかはわからない。たとえば、

A: What time shall we start? 何時に出発しようか?
B: We could leave at noon. 正午に出発することもできるね。
(= We can leave at noon.)

この場合、could は過去形ではあるが、その意味は現在形の「できる」に近い。このように肯定文の could は日本語の「できた」とはかなり異なる。「できた」 ≠ could

しかし否定文の could not (= couldn’t) は能力や可能性がなかったわけだから、当然実行できなかったことになる。これは日本語の「できなかった」と同じ。 couldn’t = 「できなかった」。

We couldn't leave at noon. 正午に出発できなかった。 → 否定文
= We were not able to leave at noon.

では疑問文の could はどうだろうか?
Could you sleep well last night? ゆうべはよく眠れましたか?→ 疑問文
= Were you able to sleep well last night?
last night(ゆうべ)という語が過去を明示しているので、とくに問題はなさそうだ。

しかし、次の例文はどうだろうか?
Could you leave at noon? 正午に出発できましたか? → 疑問文
= Were you able to leave at noon?
Could you leave at noon? 正午に出発してくれませんか? → 依頼文
= Can you leave at noon?

この例文では、たまたま at noon が過去とも未来とも解釈できるので状況によっては「正午に出発できますか」とか「正午に出発してくれませんか」という依頼の意味に解釈されるおそれがある。誤解を避けるには、過去を明示するような語句、たとえば yesterday を末尾に追加するとか、could の代わりに were able to で表現したほうがいいと思う。

まとめ
could は can の過去形なので過去時制で使用できる。否定文や疑問文なら問題はない。しかし肯定文の could は仮定法で使うことも多く、とても紛らわしい。そこで「できた」と言いたいとき迷ったら、could ではなく、was [were] able to を使用するのが無難である。

肯定文の could が「できた」の意味で使用できる場合:

■感覚動詞と共に用いるとき
We could see the moon last night. ゆうべは月が出ていた(月を見ることができた)。
As soon as I walked into the room, I could smell gas.
部屋に入るやいなや、ガスくさいにおいを感じた(かぐことができた)。

■過去の事実・能力・可能性・傾向・許可などを表す場合
When he was young, he could run fast. 若い頃、彼は速く走ることができた。
She could be very rude at times. 彼女は時々とても無作法になることがあった。
We were totally free. We could do whatever we wanted.
私たちは完全に自由だった。やりたいことはなんでもできた。
The car cost more than I could afford, so I bought a cheaper model.
その車は私が工面できる金額を越えていたので、もっと安い型式を購入した。

2017.01.14 知覚動詞(perception verb) その 1
知覚における動作と状態の違いは「意志」の有無で判断する

松野町夫 (翻訳家)

人間は目や耳、鼻、舌、皮膚などの感覚器官を通して対象を知覚し脳で認識する。知覚とは、感覚器官を通して対象を把握すること。西周(1829-1897)が Joseph Haven の著 “Mental Philosophy” 邦訳『心理学』 を翻訳した際に perception の訳語として「知覚」という語を案出した。知覚 = perception。ちなみに perception は元来、「完全に(per)つかむ(cept)」を意味するラテン語。

知覚には五感で感知する身体的知覚(see, hear, smell, taste, feel)と脳で認識する精神的知覚(notice, understand, think, believe, know, remember)があるが、実際には両者は複雑にからみあって一体となって機能する。知覚動詞は「見える」「聞こえる」のように、五感で感知する身体的知覚を表す。感覚動詞(sensory verb)ともいう。以下の 8つの動詞はすべて知覚動詞:

視覚 → see,look at, watch
聴覚 → hear,listen to
触覚 → feel
嗅覚 → smell
総合 → notice(目や耳、鼻、舌、皮膚、その他の感覚を通して対象を知覚する)

知覚に関連する動詞は日本語にもある。「見る」「聞く」「感じる」「においがする」「気づく」など。これらの動詞は日本語では動作を表し、特に変わったところもなく、取り立てて言うほどのこともない。

しかし興味深いことに英米人の感覚では、知覚には動作を表すものもあれば、状態を表すものもあるという。知覚動詞における動作と状態の違いは、「意志」の有無で判断する。知覚動詞のうち、see(見える), hear(聞こえる), feel(感じる), smell(においがする), notice(気づく)は瞬時に感知する非意志的行為、すなわち状態動詞であるのに対して、look at, watch,listen to は意志にもとづく動作を表す動作動詞となる。

■状態動詞 (stative verbs) → 通例進行形にしない
see, hear, smell, feel, notice (非意志的行為)

■動作動詞 (dynamic verbs) → 進行形にできる
look at, watch,listen to (意志にもとづく動作)

いったい英米人は知覚に関する動作と状態をどのように区別しているのだろうか?
そこで、知覚動詞の代表格である see を通して、知覚における動作と状態の違いを具体的にみることにする。メリアム・ウェブスター英英辞典では see の原意を次のように定義している。

see = to notice or become aware of (someone or something) by using your eyes
筆者訳: see は「目で(人やものに)気づく」こと。

see の定義で使用されている動詞、notice や、動詞句 become aware of は両方とも「気づく」という動作を表す。状態ではない。「気づいている」という状態には、be aware of を使うのが普通だ。 become は動作動詞、beは状態動詞。 see は状態動詞なのに状態ではなく動作を表している!? 日本人の感覚では一見すると矛盾するような気がする。しかし「気づく」という動作は、よく考えてみると、外面的な動きではない。それは内面的な心の動き、いわば静的な動きであり、その実態は動作というよりも、限りなく状態に近い。英語ではこうした心の動きを表す動詞、たとえば、notice, understand, think, believe, know などは、すべて状態動詞とみなす。

see にはさまざまな意味がある。OALD7英英辞典は see の意味を18項目、メリアム・ウェブスター英英辞典は17項目、MED2英英辞典は11項目、LAAD2英英辞典はなんと50項目にそれぞれ分類している。ここでは、コンパクトなMED2英英辞典の11項目を紹介し、筆者の参考訳と状態か動作かを追記する。

1. notice with eyes 気づく、見る → 状態
 a. able to use your eyes (目が)見える → 状態
 b. watch something(映画・芝居・公演などを)見る、見物する → 状態
 c. look at something(確認するために)見る → 状態
2. meet or visit someone 会う、訪問する → 動作または状態
 a. meet by chance(偶然に)出会う → 状態(無意志)
 b. meet by arrangement(約束して)会う → 動作(進行形にできる)
 c. spend time with a friend 逢う、交際する → 動作(進行形にできる)
3. look up information 参照せよ → 動作(命令形のみ) 例: see above(上記参照)
4. understand something 理解する → 状態
5. consider particular way (ある見方で)みる → 状態
6. imagine someone/something 想像する → 状態
7. find something out (様子を)みる、考えてみる → 状態
8. experience something 経験する → 状態
9. happen somewhere ある時代・場所が事件・事態を目撃する → 状態
10. go with someone somewhere (面倒を)みる、付き添う → 状態
11. bet same amount 同額を賭ける → 状態

日本語の「見る」にもさまざまな意味がある。たとえば、みる(見る 視る 観る 診る 看る)。日本語大辞典は「見る」の意味を11項目、広辞苑は 5項目、岩波国語辞典は 6項目、旺文社全訳古語辞典は8項目に分類している。ちなみに、日本語大辞典の「見る」の意味を以下に列挙する。

みる【見る】 《語幹と語尾に分けられない》
1. 目で知覚する。see; look at; <用例>~と聞くとは大違い。
2. 観察する。observe; watch; <用例>~人が見たら。
3. 事態・情況を判断する。regard...as; judge; <用例>法律からみれば。
4. 読む。目を通して調べる。read; look over; <用例>新聞を~。
5. 見物する。鑑賞する。visit; see; <用例>映画を~。
6. 占う。read; <用例>運勢を~。
7. 仕事や人の世話など責任をもってする。care for; <用例>めんどうを~。
8. 見つもる。estimate; <用例>1日5マイルとみて。
9. 経験する。see; <用例>痛い目を~。
10. 物の質、人の意志や気持ちなどをためす。try; <用例>切れ味を~。
11. 物事がある状態になる。 <用例>夢の実現を~。

「見る」と seeについて、意味は共通する点が多い。しかし用法はかなり異なる。
日本語では、万物(映画・芝居・公演・パレード・テレビ番組・試合・新聞・雑誌・鳥・動物・草・木・花・物品・天・空・星・山・海・川など)を「見る」ことができる。日本語の「見る」は基本的に動作を表すので、たとえば、「今、映画を見ているところです」と、すべて「見る」という一語で一律に進行形で表現できる。

英語でも万物を “see” できる。You can see everything. 実際 see は動くもの、動かないもの、何にでも使える。ここまでは日本語の「見る」とほぼ同じ。しかし英語の see は基本的に状態を表すので通例進行形にできない。進行形にする場合は、動作動詞の look at, watch, read などを使う必要がある。たとえば、「今、映画を見ているところです」のつもりで、*I am seeing a movie now. はダメ。 I am watching a movie now. ならOK。

動かないものを見るときは look at、動くものをある程度の時間見るときは watch、新聞や雑誌を見る(読む)ときは read を使って、I am looking at flowers.; I am watching TV.; I am reading a newspaper. というように表現する。また、動くものであっても短い時間見るときには look at を使う。
He is looking at his watch. 彼は時計を見ています。*He is watching his watch. はダメ。

2016.12.22 動作動詞と状態動詞
put on (動作)と wear (状態)の違いを検討する

松野町夫 (翻訳家)

英語の動詞は動作動詞と状態動詞の2種類に分類できる。おもに動作を表す動詞を「動作動詞」と呼び、おもに状態を表す動詞を「状態動詞」と呼ぶ。動作動詞は進行形(be + ~ing)にすることができ、進行形にすると、その動作の継続・反復など一時的な状態を表すようになる。状態動詞は通常、進行形にしない。というか、もともと状態を表しているので進行形にする必要がない。

動作動詞と状態動詞の区別は日本語にはない。日本語には状態動詞という概念がない。だから私たちは、英語動詞における動作と状態の違いをなかなか理解できない。しかし両者を区別できないかぎり、和文英訳はできない。そこでここでは put on (動作動詞)と wear (状態動詞)を比較・検討し、動作と状態の違いを理解する手助けとしたい。ちなみに、動作動詞 (dynamic verbs) と状態動詞 (stative verbs) を動詞ごとに分類した英和辞書は少ないが、『ジーニアス英和大辞典』は各動詞の意味ごとに動作 [D] と状態 [S] を分類している。

put on と wear の違い

put on はその場で「身につける」という動作を表し、wear は「身につけている」という状態を表す場合と、「着用する(use)」という動作を表す場合の2通りがある。このことはメリアム・ウェブスター英英辞典の定義を見れば一目瞭然である。

put on = put something on your body. (何かを体につける → 身につける)
wear = use or have something on your body (着用する、または身につけている)

put on の定義で使われている put は、「置く」という動作を表す動詞で、状態を表すことはない。
しかし wear の定義で使われている2つの動詞のうち、have は「身につけている」という状態を表し、use は「使用する(=着用する)」という動作を表す。つまり、wear は「身につけている」という状態を表す場合と、「着用する(use)」という動作を表す場合の2通りがある。

put on = 「身につける」 → 動作

急いで!上着を着なさい。 → 動作
Hurry up! Put on your coat. (*Wear your coat. はダメ)

彼女は上着を着て外出した。 → 動作
She put on her coat and went out. (*She wore her coat and went out. はダメ)

彼は眼鏡をかけた。 → 動作
He put on glasses. (*He wore glasses. はダメ)

wear = 「身につけている(have)」 → 状態

彼は眼鏡をかけていた。 → 状態
He wore glasses. (*He was putting on glasses はダメ)
= He was wearing glasses.

いいセーターを着てますね。 → 状態
What a nice sweater you're wearing! (*you’re putting on. はダメ)

私は5年間同じスーツを着ている。 → 状態
I've worn the same suit for five years. (*I’ve put on ... はダメ)

彼女はジーンズとピンクのTシャツを着ていた。 → 状態
She was wearing jeans and a pink T-shirt. (*She was putting on ... はダメ)

一般の英和辞書にはたいてい、「身につける」「着る」「はく」「かぶる」などの動作には put on を用いる、と説明する。しかしこの説明は不完全で、「身につける」「着る」「はく」「かぶる」などの動作には、文脈により put on または wear のいずれかを用いる、とすべきだと私は思う。現行の説明では、たとえば次のような和文英訳には役に立たないどころか、かえって混乱を招く。「かぶる」「履く」「かける」「着る」「つける」という動作にいずれも wear が使われていることに留意してください。

wear = 「着用する(use)」の用例

屋外では帽子をかぶりなさい。 → 動作
Wear a cap outdoors. (*Put on a cap outdoors. はダメ)

私はふだん眼鏡はかけません。 → 動作
I don't wear glasses. (*I don’t put on glasses. はダメ)

何かを読むときは眼鏡をかけます。 → 動作
I wear glasses for reading. (`I put on glasses for reading. はダメ)

結婚式には何を着て行ったらいいかしら? → 動作
What should I wear to the wedding? (*What should I put on ... はダメ)

代表者は全員、バッジをつけなければなりません。 → 動作
All delegates must wear a badge. (*All delegates must put on a badge. はダメ)

葬式のとき、日本人は黒い喪服を着る。 → 動作
At funerals, Japanese people wear black. (*put on black clothes. はダメ)

しかし韓国では、故人の家族は白い喪服を着る。 → 動作
But in Korea the family of the deceased wear white. (*put on white clothes. はダメ)

このように、「かぶる」「履く」「かける」「着る」など「身につける」という動作を表す日本語の動詞は、英訳すると、文脈により put on または wear のいずれかになる。「身につける」 = put on or wear。
これは日本語の動詞からは put on と wear の違いを区別できないということを意味する。

それでは put on と wear の違いを見分ける決め手は何か?決め手はその動作にかかる時間だと私は考えている。 put on はほとんど時間がかからず瞬時に完結するが、wear はある程度の時間、持続する。翻訳の際、put on か wear かで判断に迷ったとき、私はその所要時間で判断する。たとえば、

A. 帽子をかぶりなさい。 Put on your cap. 
B. 屋外では帽子をかぶりなさい。 Wear a cap outdoors. (*Put on a cap outdoors. はダメ)

A と B両方とも帽子をかぶることにかわりはないが、B では「屋外では」 (outdoors)」という語(句)が付加されている。こうした付加語の有無により所要時間は異なる。単に、「帽子をかぶりなさい」は、その場で今すぐ帽子をかぶることを意味し、瞬時に完結するので put on、一方、「屋外では帽子をかぶりなさい」は、その場で今すぐ かぶるわけではなく、屋外では帽子を着用する(use)という動作を表し、ある程度の時間、持続するので wear となるという次第。ちなみに「結婚式では」や「葬式のとき」などは付加語。

put on はその場で「身につける」という動作を表すので動作動詞。一方、wear は「身につけている(have)」という状態を表す場合と、「着用する(use)」という動作を表す場合の2通りがあるが、おもに状態を表すとみて状態動詞と分類される場合が多い。状態動詞は通常、進行形や命令形にしないが、wear は進行形や命令形で頻繁に使用される。その場合、wear は「着用する(use)」という動作を表していると解釈すれば合点もいく。

2016.12.14 チャレンジ(challenge)
「チャレンジする」は challenge ではなく、try を使う

 
松野町夫 (翻訳家)

日本語では、むずかしい事柄に挑むことを「挑戦する」「チャレンジする」という。しかし当然のことながら、日本語の「挑戦する」「チャレンジする」と英語の “challenge” は意味は似ているが、用法はかなり異なる。「チャレンジする」は、和文英訳で日本人がまちがえやすい単語のひとつである。「チャレンジする」は「やってみる」に近いので、try (try to do) または attempt (attempt to do) を使う。

来年はマラソンにチャレンジしたい。 
*I want to challenge a marathon next year. はダメ。
I want to try a marathon next year. → OK
I want to try to run a marathon next year → OK

彼は富士山に挑戦した。 He tried to climb Mt. Fuji.
彼はヒマラヤに挑戦した。 He attempted the Himalayas.
今、俳句にチャレンジしています。 I am trying to learn haiku now.
彼女は東大にチャレンジした。 She tried to get into Tokyo University.
私たちは今、難問に挑戦しています。 We are attempting to solve a difficult problem.
囚人たちは脱獄に挑戦したが、失敗した。 The prisoners attempted an escape, but failed.

日本語の「挑戦する」「チャレンジする」の目的語はモノである場合が多い。これに対して、「挑戦する」という意味の challenge の目的語は基本的に人であり、モノではない。

1. challenge someone to something:
Can I challenge you? 勝負しないか?
Mike challenged the world champion. マイクは世界チャンピオンに挑戦した。
He challenged me to a game of chess. 彼は私にチェスを挑んだ。
She challenged him to a race and won. 彼女は彼に競走を挑み、勝利した。
Fred challenged his friends to a race around the block. フレッドは友達に街区を一回り競走しようと挑んだ。

2. challenge someone to do something:
They challenged me to fight. やつらは私にけんかをするかと挑んできた(けんかを売ってきた)。
He challenged me to run the Tokyo marathon. 彼は私に東京マラソンを走ろうと挑んできた。

構文2 の challenge は、「挑戦する」という意味から転じて、相手に当然のこととして何かをするよう「要求する」 “to demand” that someone do something” という意味にもなる。

The opposition leader challenged the prime minister to call an election. 
野党の党首は首相に選挙をしたらどうかと迫った(要求した)。

We challenged the company to prove that its system was safe. 
私たちはその会社にこのシステムが安全であることを証明するよう要求した。

Civil rights activists have challenged the company to employ more minorities. 
公民権運動家たちは、その会社に少数民族出身者をもっと雇用するよう要求している。

Hillary Clinton challenged the F.B.I. to “release all the information that it has” about the
inquiry into newly discovered emails
ヒラリー・クリントンは新たに発見されたメールの調査に関して、FBI に「その所持する情報をすべて公開する」よう要求した。(ニューヨークタイムズの2016年10月28日のニュース速報より)

2016.11.19 見出し語(entry word)
set という英単語は現代文明と密接に関連している

松野町夫 (翻訳家)


実務翻訳という仕事がら、私は40種類ほどの辞典類を常用する。すべて電子辞書(CD)で自分のコンピュータのハードディスクに格納して活用する。ある単語を調べるのに、それぞれの辞書を別々に引いていたのでは手間がかかるので、すべての辞書をひとまとめにして瞬時に一括検索できるソフトウェア、Logophile(ロゴファイル)を愛用している。

先日、この Logophile を使用して “put” 「置く」とその類義語をすべての辞書を対象にして、「完全一致」の条件で前方検索したところ、見出し語の件数に関して意外な結果が表示された。

put ...... 37 (見出し語数、以下同様)
set ....... 245
lay ......... 55
place ..... 49

おわかりのように、set の見出し語数だけが、異常な値を示している。他の単語は50個前後なのに、set は245個でほぼ5倍も多い。これには驚いた。どうしてなのかな?真っ先に頭に浮かんだのは、set という単語は現代文明と深く密接に関連し、多数の技術分野で見出し語として採用されているのではないか、ということであった。もしそうだとすれば、set は現代文明を理解するキーワードのひとつとなる。

set は、3種類の品詞(動詞・名詞・形容詞)に分類できる。品詞ごとに見出し語を立てれば、見出し語数は 3 になる。まとめてひとつにするか、品詞ごとにするかは辞書により異なる。

そこで手間はかかったが、 Logophile でそれぞれの辞書を個別に指定しながら、set を「完全一致」の条件で前方検索したところ、以下のような結果となった。

set の見出し語数:

研究社・新英和中辞典、ランダムハウス英語辞典、リーダーズ英和辞典、ジーニアス英和大辞典、経済・ビジネス用語辞典、世界大百科事典、コンピュータ用語辞典、英辞郎、OALD英英辞典
 …  1 each
COBUILD English Dictionary (名詞+動詞・形容詞で2つの見出し語)
…  2
研究社・新編英和活用大辞典、科学技術45万語対訳辞典、メリアム・ウェブスター英英辞典、LAAD英英辞典、マクミラン英語辞典
 …  3 each
ビジネス技術実用英語大辞典
 … 11
マグローヒル科学技術用語大辞典
… 190

見出し語数は、「マグローヒル科学技術用語大辞典」が190個と異常に高い。つまり、見出し語数の異常値は「マグローヒル科学技術用語大辞典」に起因することがわかった。この辞典は下記のように、set の複合語も含んでいる。set の完全一致は set のみであり、複合語を含めてはいけない。要するにこの辞典は、「完全一致」の検索機能に対応できていないのだ。少なくとも Logophile でこの辞典を使うかぎりにおいては。またこの辞典は、専門用語ごとに日本語の見出し語を立てる方針を採用しているので、これも見出し語数の増加の一因となる。

「マグローヒル科学技術用語大辞典」の見出し語の例:
(set を「完全一致」の条件で前方検索; 一部抜粋)

アクロナル集合 achronal set
【相対】 どの2点も時間的に分離していない時空の点の集合.

あさり set
【工学】 鋸本体の平面の外へ曲げられた鋸歯.これによって被加工物に広い切口を生ずる.

アングル切張り angle set
【鉱山】 1. 方づえに使用する木材. 2. 互いに角のところに設置される一連の装置の一つ.

入り set
【天文】 天体が沈むとき,西方実視地平線を横切ること.

硬化時間 time of set, set-up time, setting time
【材料】 新たに混合したコンクリートがかたくなる時間(約1時間の初期硬化),または最小の規定硬度に達するのに必要な時間.(最終硬化は約10時間)実際の硬化時間は使用するセメントの種類によって異なる.

硬化する set
【化学】 可塑性物質や液状物質が硬化または固化する.

集合 set
【数学】 あるものが集まりの中に属するかどうかが決定できる性質をもつ対象の集まり.

セット set
【地質】 基本的に整合している地層ないし斜交層理のグループ.他の堆積岩単元とは侵食面,非堆積面,または性状の急変面によって区別されている.

セット set
【航行】 針路の設定.

セット set
【通信】 ラジオまたはテレビジョン受信機.

セット set
【情報】 レコードの集合.

セット set
【アート】 印刷紙面上のインキを,完全ではないにしろ,固着あるいは乾燥させ,インキ汚れなしに印刷物を取り扱えるようにすること.

流れ set
【海洋】 海流の流れる方向.

以下は、「マグローヒル科学技術用語大辞典」で、“put” 「置く」とその類義語を「完全一致」の条件で前方検索したときの見出し語数を示す。

put ...... 1 (見出し語数、以下同様)
set ....... 190
lay ......... 12
place ..... 12

マグローヒル科学技術用語大辞典は、普通の語学辞典と異なり、専門用語に特化した辞典である。名詞の見出し語が圧倒的に多く、動詞や形容詞などの見出し語はほとんどない。ここでも set の見出し語数が190個と異常に高く、set という単語が現代文明と密接に関連していることを示唆している。
2016.10.25 プチ暗号の作り方
日本語を数字で表記する

松野町夫 (翻訳家)

プチ暗号とは、作成や解読がとても簡単な暗号をいう。簡単に解読されるのでは暗号の主旨に反するが、プチ暗号は秘密保持ではなく、パズルのような知的な遊びの一種。たとえば、Facebook など、ソーシャルネットワークを利用する同好会の会員同士の通信などに使用できる。会員は暗号文を簡単に作成・解読できるが、部外者にはわからないので会員の仲間意識が高まるという効用もある。日本語は仮名で表せるが、ここでは仮名の代わりに、10種類の数字 (0 - 9) と数種類の記号を使用したプチ暗号の作り方を紹介したい。

50音表の(あ、か、さ、た、な …)の各行には 1, 2, 3, 4, 5 ... というように数字を順番に割り当てる。母音(あ、い、う、え、お)には、あ列は無記号、い列はカレット(^)、う列はアポストロフィー(’)、え列は星印(*)、お列は抑音符号(`)をそれぞれ割り当てる。この形式のプチ暗号を便宜上、「マチオコード」 (Machio Code) と命名する。パソコンで入力する際には、数字や記号は半角とする。記号はすべてパソコンのキーボードから直接入力可能。ただし半濁音を示す(°)を除く。

五十音表とマチオコード
50hyoMC.jpg
【画像はクリックすると拡大します】

仮名46文字すべてに固有のコードを割り当てたので、仮名とコードは1対1の対応関係にある。これにより、とりあえずプチ暗号が完成した。早速、簡単な単語でためしてみよう。

例: 赤12, 朝13, 傘 23, 坂 32, 棚 45, 花 65, さかな 325, 浅間山 13787, 秋 12^

上記の五十音表には濁音・半濁音・拗音・促音・長音・外来音についての規定がない。しかし、こうした音声は日本語を正確に表記するのに必要なので、それぞれに記号を割り当てることにしよう。

濁音はダブル・クオーテーション(”)で示す。濁音記号は、別の記号の後では1スペースあける。
例: 外国 2”1^2`2’, 英語 1*1^2` “, 音楽 1`0’2”2’, 座布団 3”6’ “4`0’

半濁音(ぱぴぷぺぽ)は、温度や角度などの単位を表す「度」 degree (°)で示す。
例: パン 6°0’, パイブ6°1^6’°, ペンギン6*°0’2^ “0’, 担保 40’6`°

拗音(「や・ゆ・よ」を小さく添えるもの)は、以下のようにスラッシュ(/)で示す。
YoonMC.jpg
例: 客2/2’, 休暇 2/’1’2, 挙手 2/`3/’, 社長 3/4/`1’, 緑茶 9/`2’4/, 百科6/2’2

促音は、「しっかり」「いっきに」「コップ」のようにつまる音(「っ」)。これは縦棒(|)で示す。
例: しっかり 3^|29^, いっきに 1^|2^5^, コップ 2`|6’°, 言った 1^|4

長音はハイフン(-)で示す。
例: コーヒー 2`-6^-, ノート 5`-4`, おかあさん 1`2-30’, ヨーロッパ 8`-9`|6°

外来音(fa, fi, fe, fo)は、波線記号(チルダ、tilde, ~)で示す。
FafifeMC.jpg
例: ファイト6~1^4`, フィルム 6~^9’7’, フェンス 6~*0’3’, フォーク 6~`-2’

これで準備万端整った。使い勝手を検証するため、昔の流行歌の歌詞をマチオコードに変換する。

メランコリー
歌: 梓みちよ 作詞: 喜多条忠 作曲: 吉田拓郎

緑のインクで 7^4` “9^5` 1^0’2’4`
手紙を書けば 4`2”7^0` 22*6”
それはサヨナラの 3`9*6 38`595`
合図になると 11^3’ “5^ 59’4`
誰かが言ってた 4”9*22” 1^|4*4
女は愚かで かわいくて 1`0’56 1`9`24* 201^2’4*
恋に全てを 賭けられるのに 2`1^5^ 3’6* “4*0` 22*99*9’ 5`5^
秋だというのに 恋も出来ない 12^4”4` 1^1’5`5^ 2`1^7` 4* “2^51^
メランコリー メランコリー 7*90’2`9^- 7*90’2`9^-

2016.10.04 前置詞句(prepositional phrase)
前置詞句を主語とする表現は、英語なのに日本語のような雰囲気がある

松野町夫 (翻訳家)

和文英訳は、まず主語を設定することから始まる。主語を決めないかぎり、英文は書けない。英文に主語は不可欠だ。主語になるものは名詞、代名詞のほか、名詞相当語句(noun equivalent)である。名詞相当語句は名詞そのものではないが、その働きが名詞に相当するものをいう。たとえば、〈the+形容詞〉、動名詞、不定詞、前置詞句、名詞節など。

名詞相当語句: 下線部が名詞相当語句で主語(主部)となる。
The sick need good care. 病人にはよい治療が必要だ。→ 〈the+形容詞〉
注記:〈the+形容詞〉は集合的に複数扱い
Smoking too much is bad for your health. → 動名詞〈動詞+ing〉
タバコの吸い過ぎは健康に悪い。
To solve the problem is impossible.  → 不定詞〈to +動詞〉
= It is impossible to solve the problem.
その問題を解くのは不可能です。
Through the wood is the nearest way. → 前置詞句
森を抜けるのが一番の近道です。

前置詞句とは何か
前置詞句とは、through the wood; on the table; in the kitchen のように、前置詞で始まる句をいう(A prepositional phrase is a phrase that begins with a preposition, such as “through the wood”, “on the table” and “in the kitchen”)。前置詞の後に続く語をその前置詞の目的語という。

名詞相当語句の中で、私にとって前置詞句を主語とする表現が一番悩ましく、そのぶん新鮮な魅力を感ずる。私は長い間、この種の表現を倒置(inversion)と理解していた。原文は 〈S+V+A〉 の文型と解釈した。ちなみに、A は付加語(Adjunct)のこと。付加語とは削除することのできない修飾語(副詞または前置詞句)を意味する。SVA型の構文とは、たとえば、

a. Mother is in the kitchen. 母は台所にいます。(付加語 A) → 〈S+V+A〉
b. Ken is sleeping in his room. ケンは部屋で寝ています。(修飾語 M) → 〈S+V〉
b. の in his room は削除しても文としては成立するが、a. の in the kitchen を削除すると文は成立しない。修飾語(modifier)は削除できるが、付加語(adjunct)は削除できない。

本題に戻って、
The nearest way [S] + is [V] + through the wood [A] → 〈S+V+A〉 を倒置すると、
一番の近道は森を抜けることです。
Through the wood [A] + is [V] + the nearest way [S] → 〈A+V+S〉 となる。
森を抜けるのが一番の近道です。

つまり、真の主語は the nearest way で、through the wood は付加語にちがいないと思い込んでいた。実際、そのように解釈しても特に不都合はない。少なくとも be 動詞のSVA型の構文に関しては。

しかし、旺文社 『ロイヤル英文法』や、安藤貞雄著 『現代英文法講義』では through the wood を主語と認定している。前置詞句を主語としてみると、とたんに広々とした新しい英語の世界が展開する。

Through the wood [S] + is [V] + the nearest way [C] → 〈S+V+C〉
森を抜けるのが一番の近道です。

前置詞句を主語にすると、〈S+V+C〉というごく普通の基本的な文型となる。この解釈の方が単純で はるかにわかりやすい。前置詞句を主語とする表現には解放感があり、英語なのに日本語のような雰囲気すら漂っている。

Under the bed is a good place to hide. → 〈S+V+C〉
ベッドの下は隠れるのによい場所である。
Among her virtues are loyalty, courage, and truthfulness.
彼女の徳のなかには忠実、勇気、誠実が数えられる。
From childhood to manhood is a tedious [tíːdiǝs] period.
子供から大人にかけては、退屈な時期である。

上記の3つの表現は、それでもなお、倒置と解釈する余地は残されている。これに対して、以下の5つの表現はもはや倒置などではなく、前置詞句を主語としないかぎり、どうにも説明がつかない。ただし、すべての動詞が前置詞句を主語にできるわけではない。前置詞句を主語にとる動詞は be 動詞と suit に限定されているのでご用心あれ。

Over the fence is out. → 〈S+V+C〉
= it is out if the ball goes over the fence.
(ボールが)フェンスを越えるとアウトです。
Near the fire is warmer.
火の近くはもっと暖かいですよ。
After four is OK with me.
4時以降ならOKです。
Above the cloud is difficult for us to see.
雲の上は私たちには見えにくい。
Around eight o’clock suits you? 
8時頃ではご都合いかがですか?

前置詞句が主語になるということは、前置詞句が実質的に名詞になるということでもある。「前置詞句が名詞になる」という現象は、二重前置詞では頻繁に起る。二重前置詞とは、from across, from under, from within, from in front of のように、ふたつの前置詞が連続するものをいう。たとえば、

She called to me from across the street.
彼女は「通りの向こう」から私に声をかけた。
He took a bottle from under the counter.
彼は「カウンターの下」からボトルを取り出した。
The noise seemed to be coming from within the basement.
その音は、「地下室の中」から聞こえてくるようだった。
Please move your car away from in front of our house?
「家の前」から離れたところに車を移動していただけませんか。

前置詞の後には名詞が続く。上記の英文の from の後の前置詞句はいずれも実質的に名詞であると解釈すると、わかりやすい。日本語でも「通りの向こう」「カウンターの下」「地下室の中」「家の前」というように、いずれも名詞として表現されている。

2016.09.17 天皇と日本
天皇制は君主制で、元号は古代の中国王朝を起源とする古い時代の年代記述方式だ

松野町夫 (翻訳家)

天皇と日本のかかわりは深い。切っても切れない関係にある。天皇を抜きにしては、日本の歴史・政治・宗教・文化は語れない。天皇の生前退位の表明報道(2016.7.13)を視聴し、あらためて天皇と日本のかかわりについて考えてみた。

「天皇」という語は中国語から取り入れられて日本語となったことば(=漢語)である。中国語では天皇は天の最高神を意味したが、唐の674年以降、地上の君主の意味で使用されるようになった。つまり、天皇という称号の日本での使用開始は、第40代天武天皇(在位:673~686)以後となる。それ以前、天皇は「すめらみこと」と呼ばれていた。西郷信綱によると、「すめら」は「澄める」に由来するという。「みこと(尊・命)」は神または貴人の尊称なので、「すめらみこと」は神聖な貴人を意味する。「天皇」は漢語、「すめらみこと」は大和言葉。

天皇家の歴史は古い。戦前、天皇家は万世一系(ばんせいいっけい)と喧伝されていたので多くの人は今でも、天皇家は同じ血筋で古代から現代に至るまでえんえんと続いていると信じているか、またはそうあってほしいと思っている。日本の初代の天皇は神武天皇(在位:前660~前585)、現在の平成天皇(今上天皇)は第125代天皇(在位:1989~)とされる。しかし天皇家が万世一系というのはもちろん事実ではない。歴代の天皇のうち、とくに古代初期の天皇は神話伝説であり史実ではない。

戦後、江上波夫の「騎馬民族征服王朝説」が一世を風靡(ふうび)した。これは、日本の大和政権は大陸から渡来した東北アジアの騎馬民族が樹立したとする学説である。これによると、天皇家の先祖は大陸からの渡来人となる。騎馬民族説はマスメディアでさかんに取り上げられ、ブームとなり一般人から広く支持された。敗戦を契機に、戦前の天皇制(天皇主権)から戦後の象徴天皇制(国民主権)に日本が大きく変化する過程で、時代が江上説を必要としたのかもしれない。この仮説には、神武以来の万世一系という天皇家の神話をうちこわす解放感があった。

しかし騎馬民族説は今日、支持する専門家が少なく、日本の古代史学界ではほとんど否定されている。ウィキペディアの「騎馬民族征服王朝説」によると、その理由は、1. 考古学の成果からみて、前期古墳文化と後期古墳文化の間には断絶はなく、強い連続性が認められること。 2. 「大陸から対馬海峡を渡っての大移動による征服」という大きなイベントにもかかわらず、中国・朝鮮・日本の史書にはその記載がなく、それどころか中国の史書では、紀元前1世紀から7世紀に至るまで日本を一貫して「倭」と呼んでおり連続性が見られること。 3. 騎馬民族であるという皇室の伝統祭儀や伝承に馬畜に由来するものがみられないこと。(以下略)
弥生時代後期から古墳時代にかけて、日本には大陸や朝鮮半島との交易や戦火を契機に騎馬文化が流入したのはまちがいない。しかしそれは穏やかな流入であり、少なくとも王朝が交代するような大規模かつ急激な事態は無かったというのが現代の定説である。

天皇家の人々の中で現在、国民に最も敬愛されている人物は、おそらく聖徳太子(574~622)であろう。第33代女帝、推古天皇(在位:592~628)のもと、摂政として蘇我馬子と協調して政治を行い、遣隋使を派遣し大陸の進んだ文化を取り入れ、冠位十二階や十七条憲法を制定するなど、天皇を中心とした中央集権国家体制の確立を図った。

聖徳太子の死後、古代日本の国家制度は律令制に移行する。「律」は刑法、「令」は行政法・民法などにあたる。律令制は古代中国に始まり唐代に完成し、その影響は東アジア諸国にも広まった。日本では、大化の改新(645年)を経て、第40代天武天皇(在位:673~686)の時代に、律令体制がほぼ完成したという。こうして古代日本は、天皇を君主とする官僚制度によって統治されることになった。

律令制下の天皇は中国流の皇帝として位置づけられたが、両者は基本的に異なる。

1. 天皇は世襲制で君主に選ばれたが、中国の皇帝は有徳者が天命を受けて君主となった。
たとえば、秦の始皇帝は紀元前247年秦王となり、前221年 武力で中国全土を統一し皇帝(在位:前222~前210)となったが、彼の死後わずか4年で秦王朝は項羽や劉邦などによって滅ぼされ、中国は項羽以下の多くの新しい王によって分割統治された。

2. 天皇は日本固有の民族宗教「神道」の指導者だが、皇帝は世俗的君主である。
原始・古代社会の日本人は人間の力を超えたものに畏怖の念を抱き、それをカミと呼んだ。また、あらゆるものに魂があり、魂をカミ、その働きもカミと考えていた。天皇はこうした土着の宗教「神道」の指導者である。カミとの交流は収穫祭や稲作儀礼など宗教的儀式を通して行われるが、天皇はそうした儀式の最高の司祭者でもある。

天皇が主権者として日本を治めた期間は、古代(250-1185)と近代(1868-1945)の約千年である。中世(1185-1573)と近世(1573-1868)は武家の台頭により、天皇は次第に政治的実権を失い、名目上の主権者となるが、それでも鎌倉・室町・江戸の幕府の長を征夷大将軍に任命するなど、任命権や認証権を持ち、一定の政治的影響力を保持し続けた。武力で天下統一した者でも、政権を長期的に維持するには人民の信任を得る必要があり、それには天皇のお墨付きが不可欠だったのかもしれない。

明治維新で天皇は君主として再び返り咲いた。天皇は統治権を持つ元首となり、天皇に直属する文武の官僚が権力を行使する絶対主義的な政治機構および天皇を倫理・道徳の中心とする政治・社会体制(=天皇制)が成立した。天皇制は明治憲法で法的に確立され、明治・大正を経て昭和初期の太平洋戦争に敗北するまで77年間継続した。

しかし1945年、敗戦で天皇は元首の地位を剥奪され、日本国および日本国民統合の象徴となり、主権は天皇から国民に移行した。天皇は国家的儀礼としての国事行為のみを行い、国政に関する権能を有しない(=象徴天皇制)。

象徴天皇制は現在、大多数の国民によって支持されている。
2009年10月末にNHKが行った世論調査『平成の皇室観』では、天皇のありかたについて、「天皇は現在と同じく象徴でよい」と回答した人の割合が圧倒的に高い。
1. 天皇に政治的権限を与える … 5.9%
2. 天皇は現在と同じく象徴でよい … 81.9%
3. 天皇制は廃止する … 7.5%

こうした国民の圧倒的支持を背景に、日本の各政党も立場の違いはあるが、いずれも象徴天皇制を維持する方針を示している。自民党は2012年版『日本国憲法改正草案』の第1条で、「天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」と表明しているし、共産党も民主共和制を目標としながらも、当面、象徴天皇制と共存する方針である。そうすると、象徴天皇制は今後も継続し、それに関連する元号法も存続することになる。

天皇の生前退位についても、メディアの世論調査によると、国民の85%が賛成しているという。こうした現状を考慮すると、遅かれ早かれ、皇室典範は「生前退位」「生前譲位」を認めるように改正され、元号も平成から新しい元号に変わるのは、まず、まちがいない。

しかし、天皇制はしょせん君主制であり、世界史的にみて君主制をとる国は次第に減少しつつある。元号は古代の中国王朝を起源とする古い時代の年代記述方式で、日本でしか通用しない。現代は西暦が世界標準だ。日本は国際社会の一員であり、物事はもっと国際的、世界的視野に立って判断したほうがよいのではないか。

2016.08.22 抽象名詞は可算か不可算か
-ness, -tionで終わる英単語は抽象名詞

松野町夫 (翻訳家)

名詞は事物の名前を表す。「猫」「鉛筆」など形のあるものを表す名詞を具象名詞(concrete noun)、「美」「親切」など形のない抽象概念を表す名詞を抽象名詞(abstract noun)と呼ぶ。

抽象名詞は可算か不可算か?抽象名詞は不可算名詞(数えられない名詞)である。ちなみに、具象名詞は可算だが、物質名詞(water, milk)や一部の集合名詞(baggage, furniture)、固有名詞(John, Tokyo)は不可算名詞に属する。

抽象名詞は、具体的な形を持たない抽象概念(abstract concept)を表す。たとえば、
観念 → beauty, love, courage, justice(美、愛、勇気、正義)
感情 → joy, anger, sorrow, pleasure(喜怒哀楽)
状態 → peace, stability, confusion, hunger(平和、安定、混乱、空腹)
学問 → art, music, mathematics, science (芸術、音楽、数学、科学)

抽象名詞を主語にして一般論を述べるときは、以下のように無冠詞、単数形となる。
Beauty is in the eye of the beholder. 【諺】 美しさは見る人の目の中にある。
Hunger is the best sauce. 【諺】 空腹は最良のソースである。
Science is verified knowledge. 科学とは検証された知識をいう。

抽象名詞の作り方: 「形容詞」+ness
形容詞に接尾辞(ness)を付けると、「性質」「状態」などを表わす抽象名詞ができる。ためしにランダムハウス英語辞典で ness で終わる単語を後方検索したところ、7,139 words がヒットした。

good(良い) + ness = goodness(善)
bad(悪い) + ness = badness(悪)
There's more goodness than badness in him. 彼には悪いところもあるが、良いところがもっと多い。

happy(幸福な) + ness = happiness(幸福)
There are different ways to happiness. 幸福へ至る道はさまざまだ。

sad(悲しい) + ness = sadness(悲しみ)
He looked at me with sadness in his eyes. 彼は目に悲しみをたたえて私を見た。

polite(礼儀正しい)+ ness = politeness(礼儀正しさ)
We accepted the invitation out of politeness. 私たちは礼儀上その招待を受けた。

rude(失礼な) + ness = rudeness(無礼)
I cannot forgive his rudeness to my wife. 妻に対する彼の無作法は許せない。

hard(厳しい) + ness = hardness(厳しさ)
He often complained of the hardness of life. 彼はよく人生の厳しさをこぼしていた。

抽象名詞の作り方: 「動詞」+ion
また、ラテン系の動詞に接尾辞 -ion(-tion, -ation, -ition, -sion)を付けると、「動作」「状態」を表わす抽象名詞ができる。ためしにランダムハウス英語辞典で ion で終わる単語を後方検索したところ、7,951 words がヒットした。

tempt(誘惑する) + ation = temptation(誘惑)
He could not resist the temptation to steal. 彼は盗みたい誘惑に抗することができなかった。

suggest(提案する) + ion = suggestion(提案)
The party was given at my suggestion. そのパーティーは私が言い出して催された。

compete(競争する)+ tion = competition(競争)
The small merchant gets powerful competition from the chain stores.
小規模の商人はチェーンストアから激しい競争を仕掛けられる。

globalize(国際化する) + tion = globalization(国際化)
the globalization of world markets 世界市場のグローバリゼーション

recreate(気晴らしをする) + ion = recreation(レクリエーション)
What do you do for recreation? レクリエーションには何をしますか。

vacate(空にする) + ion = vacation(休暇=心を空にすること)
You aren't here on vacation. 休暇でここに来ているのではありませんよ。

抽象名詞の作り方: 「動詞」+ment
動詞に接尾辞 –ment を付けると、「動作」「状態」「結果」「手段」を表わす抽象名詞ができる。ためしにランダムハウス英語辞典で ment で終わる単語を後方検索したところ、1,568 words がヒットした。

move(動く)+ ment = movement(動き)
Loose clothing gives you greater freedom of movement. ゆったりした服装は動きやすい。

pay(支払う)+ ment = payment(支払)
We require payment in advance for all goods purchased. 商品のお支払はすべて前払いです。

attach(取り付ける)+ ment = attachment(取り付け)
Hooks on the ski boots make attachment easier. スキー靴の留め金で取り付けは簡単です。

develop(開発する)+ ment = development(開発) 
The land was sold for development. その土地は開発のために売られた。

抽象名詞が可算名詞に変身する
ここの例文で掲げた名詞はすべて抽象名詞(不可算)なので a/an を付けたり、複数形にはできない。しかし、こうした名詞がその抽象性を失って「具体的なもの」を意味するとき、具象名詞(可算)に変化する。その名詞はもはや抽象名詞ではなく具象名詞なのでa/an を付けたり、複数形にすることが可能となる。たとえば、beauty は「美しさ」を意味するときは抽象名詞だが、「美人」を意味するときは具象名詞になる。development は「開発」を意味するときは抽象名詞だが、「団地」を意味するときは具象名詞。

Everyone admired her beauty. 誰もが彼女の美しさを称賛した。 → 抽象名詞
A beauty is a beautiful woman. 美人は美しい女性である。 → 具象名詞

the application of science to industry 科学の産業への応用 → 抽象名詞
start an application アプリケーション(プログラム)を起動する → 具象名詞

It is still under development. それは今なお開発中だ。 → 抽象名詞
a new housing development 新興住宅団地 → 具象名詞