2019.01.29 参院選京都選挙区、立憲民主党・国民民主党は「共倒れ」するか、統一地方選と参院選を控えて野党共闘はどうなる(4)

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 参院選京都選挙区の立憲民主党と国民民主党の候補者が並立する中で、国民民主党関係者や連合京都はもとより、メディアの間でも両党候補の「共倒れ」の可能性が囁かれている。連合京都会長は昨年10月に国民候補の推薦を機関決定しているにもかかわらず、1月11日に開いた新春旗開きでは「立憲、国民には候補者一本化の協議を改めて要請したい」と異例の呼びかけを行った(各紙、2019年1月12日)。

 過去3回(2010年、13年、16年)の参院選京都選挙区の党派別得票率の推移を見ると、自民28%、37%、40%、民主43%、19%、37%、共産17%、21%、20%となり、自民・共産が組織票によって比較的安定した得票率を維持しているのに対して、民主の得票率はその時の政治情勢による変動幅がかなり大きい。民主は無党派層などの浮動票に頼る割合が大きく、このためその時々の政治情勢の影響を大きく受けるのである。

 前原氏も福山氏もこのことはよく承知しており、無党派層の支持をどう獲得するかが選挙戦のカギになると考えている。だがこの点、前原氏の歩はいささか(というよりは非常に)悪い。野党第一党を解党に導いた記憶は有権者の間でいまだ薄れていないし、国民民主党の世論支持率も著しく低い。前原氏自身も(表向きは)民主党解体の「戦犯」であることは認めざるを得ない十字架を背負っており、無党派層の浮動票頼みだけでは勝てないことは十分に承知している。だからこそ、「共犯」関係にある神津連合会長の後押しで、連合京都の組織力にすがるほかないのである。

 これに対して、福山氏は強気一方だ。彼が主導して発掘したレズビアンを公言する女性候補を、社会の多様性を重視する党の象徴的な候補と位置づけ、無党派層からの大量得票を見込む。立憲民主党の世論支持率が高いことも選挙戦を戦う上での有利な条件であり、京都選挙区が立憲民主党の「必勝区」となっていることからも、選挙戦においては幹部多数の応援も期待できる――というわけだ。

 枝野代表や福山幹事長からすれば、参院選京都選挙区での戦いは前原氏の牙城を切り崩す絶好の機会でもある。枝野代表はこの間、国民民主党から国会議員を引き抜くことで同党の弱体化を着実に推し進めてきているが、参院選京都選挙区では国民との連携を拒否して前原氏の影響力を一挙に削ぐ方針であることは間違いない。国民候補が惨敗すれば、前原氏の政治力は一気に低下し、次期衆院選での自らの議席確保も容易でなくなる。立憲民主党による国民民主党解体作戦の第一歩が、実は参院選京都選挙区での戦いの本質なのである。

 立憲民主党の女性候補の擁立は、共産党現職の女性候補にとっても侮れない強敵となる。性的少数者(LGBT)の代表として若い女性候補が登場するとなると、昨今の世論状況から見て選挙戦の流れが一挙に変わることも十分にあり得るからだ。それに共産現職は自民現職のように盤石の票田を持っているわけでもなく、2013年参院選の得票率は21%にすぎない。共産候補の議席は、維新候補が16%を得票することによって民主候補の得票率が19%に沈んだ結果、相対的に獲得したものにすぎない。いわば「漁夫の利」による勝利であり、真っ向勝負による当選でないことを十分考慮に入れておかなければならない。

 このような複雑極まる京都の政治情勢から考えると、「絵に描いたような野党共闘」あるいは「本気の野党共闘」が全国的に直ちに実現するとはおよそ考えにくい。地域によっては1人区で「政策協定付きの野党共闘」が成立することがあるかもしれないが、そんな事例はごく少数にとどまり、多くの選挙区で候補者一本化が実現したとしても、単なる棲み分けによる「名ばかり野党共闘」に落ち着く可能性が高い。次期参院選は「野党共闘」という名の政党間の駆け引きが主たる側面であり、本格的な野党共闘には程遠い。

 昨年12月25日付の朝日新聞の解説記事「『多弱』野党 進まぬ共闘」は、野党共闘の複雑な局面を分析していて面白い。この中で立憲幹部は「国民は来年の参院選までの政党。今後起こるのは弱肉強食だ」「まずは参院選で国民を解体し、政権との対決はその次の衆院選」だとする「立憲の2段階戦略」を展開している。枝野代表や福山幹事長の言動を見れば、この2段階戦略はあながち荒唐無稽な噂話とは思えない。

野党共闘の「フィクサー」といわれる小沢自由党代表の動きもまた複雑だ。ある時は「立憲、自由、社民3党による統一会派構想」を打診したかと思えば、次は踵を返して国民と「非共産、非立憲」の統一会派結成を画策する。また、橋下氏と前原氏の定期的な会食にも参加して橋下氏の政界復帰を促すなど、その行動は変転極まりない(同上)。小沢氏が政界から退場する時期はもうそこまでやってきている。

今後、参院選が近づけば近づくほどこのような動きが一段と激しくなるであろうが、好むと好まざるにかかわらず、最大野党である立憲民主党の「2段階戦略」に沿って事態が展開するように思える。そのシナリオはどのようなものか、推測を交えて考えてみたい。
(1)枝野代表の政権交代構想は、「安倍政権打倒」ではなく「ポスト安倍政権奪取」に向けられている以上、夏の参院選では「政権交代」のための野党共闘を構築する必要はなく、立憲民主党の党勢拡大に利するものであればよいと考えている。
(2)このため、政権交代を求めて野党間の本格的な政策協定を主張する共産党とは形式的な話し合いに止め、結果として候補者の一本化が実現すればよいと言うのが本心であろう。立憲民主党にとっては、前回の衆院選のように共産党が一方的に候補者を降ろして共産支持票が立憲民主党に流れる状況をつくるのが「最高の形」であるが、それが実現しなくても「リベラル政党」としてのイメージを維持しながら実質的な棲み分けができればよいのである。野党共闘は、立憲民主党が「リベラル政党」としての衣をまとうためのパフォーマンスである側面が大きい。
(3)次期参院選あるいは衆参同日選で立憲民主党が躍進すれば、国民民主党を始め自由党、維新の党などの第三勢力は自ずと消えていくものと考えられる。政界が「保守」「中道保守」「革新」の3潮流に再編され、立憲民主党が「リベラル政党」から「中道保守政党」へ衣替えする時がやってくる。その時から「保守(の一部)」と「中道保守」の連携を通して「保守本流政権」を構築するための政党再編が始まり、立憲民主党がその中核となる――これが枝野代表の抱く政権構想であろう。(つづく)
2019.01.28 参院選京都選挙区の候補者擁立をめぐる立憲民主党と国民民主党の暗闘、統一地方選と参院選を控えて野党共闘はどうなる(3)

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 連合が立憲民主党(立民)と国民民主党(国民)に対して、次期参院選に向けた連携の覚書を交わすための折衝を続けていたちょうどその頃、毎日新聞(京都版)は10月24日、「国民 前原氏秘書擁立へ、参院選 立民との調整決裂」と立民・国民両党の決裂をすっぱ抜き、国民候補の擁立を伝えた。国民京都府連は10月23日、松下政経塾出身の前原氏秘書・斎藤氏(会社員、33歳)の擁立を決定し、24日に党本部が公認決定した。

 同紙によれば、国民京都府連幹部は「今月(10月)上旬に府連として候補者を決定した後も(立民と)調整を続けたが折り合えなかった」と説明し、別の幹部は「単独候補を擁立するなら選挙まで時間がないので決定した。今後も一本化に向けた話し合い自体は続けたい」とも話している。国民京都府連はその後10月26日に候補者擁立を公式発表し、連合京都もこの日に開いた地方委員会で国民候補の推薦を報告した。連合京都は7月以降、立民・国民両党に候補者一本化を求めてきたが、10月の期日までに候補者を決定したのは国民だけだったので、国民新人を唯一の推薦候補に決めたというのである。

 連合京都会長は地方委員会の席上、国民候補の推薦について「5年前、共産党に渡してしまった議席を奪還するためにも、連合京都は一本化でないといけない」と強調し、現時点では国民候補を唯一の推薦候補として戦う方針に理解を求めた。神津連合会長も出席し、「野党が力を合わせる姿とともに候補者擁立が進まないと、国民には一強政治打破への実感がわかない」と挨拶し、「参院選まで8カ月しかなく、京都の決断は極めて大事」と激励した(京都新聞2018年10月27日)。

 これに対して、委員会に来賓として出席していた立民京都府連会長の福山幹事長は、「大変残念な結果になったと言わざるを得ない。立憲は京都の野党第一党であり、国民に選択肢を示すのが政党の責務。なんとか選挙区の候補を擁立したい」と反発した。立民は京都選挙区での候補者擁立を進めるとともに、連合京都に対しては立民と国民民主党の双方に推薦を求めてきたからだ(同上)。

 察するに、神津連合会長は中央レベルで立民・国民の連携工作を進めてはいるが、立民側の煮え切らない状況を打開するため、京都での国民単独候補の推薦に踏み切ったのであろう。だが、その意向は立民に通じなかったようだ。福山幹事長は11月18日の立憲民主党京都府連の設立大会で、「立憲は昨年衆院選の京都で共産党を上回る比例票を得た。選択肢を示さないのはあり得ない。年末までに候補者を発表したい」と独自候補を擁立する考えを強調したのである(京都新聞2018年11月19日)。

 そしてそれから1カ月近く経った12月12日、立憲民主党は次期参院選京都選挙区においてLGBT支援活動に取り組む増原氏(女性、40歳)の擁立を決め、福山幹事長が増原氏と同行の上、連合京都に対して推薦を求めた。16日には枝野代表の同席のもとに公式発表するとした(朝日新聞2018年12月13日)。

 12月16日に京都入りした枝野代表は記者会見を開き、野党各党との連携のあり方などについて改めて立憲民主党の態度を表明した。以下はその要旨である(京都新聞12月18日)。
(1)京都選挙区での候補者擁立について。「京都には福山幹事長(参院議員)、
山本衆院5区支部長(衆院比例北陸信越)がいて全国の中でも足場が強く、最良の候補者も決まった。これで勝てなければ他の選挙区では厳しい。確実に取りにいく」
(2)国民民進党と戦うことについて。「別々の道を歩んで、別々の党である以上、複数区では野党が切磋琢磨しないと自民党一強を変えられない。どこにあっても複数区では立てていく」
(3)政権獲得に向け、他党との連携や合流の在り方について。「大事なことはぶれないこと。有権者は『政党の離合集散』を『選挙目当てで理念政策を曲げること』だと受け止めている。昨年の(旧民進党が旧希望の党に合流した)課程で学んだ。従って、他党との合流や合併、再編にはくみしない」
(4)二大政党制下での政権交代可能な大きな塊について。「小選挙区制が二大政党化を促すといわれたが、制度導入後の政権はすべて連立政権だ。立憲単独政権は望ましいが、それよりも各党の違いを国民に示しつつ、連携する時は連携したい」
(5)参院選1人区で野党統一候補の擁立を呼び掛けている共産党を連立政権に含めることについて。「安倍政権に対する中間評価として一騎打ち構図をつくるため、1人区では野党の一致を目指しているが、政権を共有することとは全く違う次元の話だ。(連立に向けては)現段階で予断を持って話すべきではない。ただ、わが党は理念政策の筋は曲げない。自衛隊は合憲で日米安保は堅持、(象徴天皇制を定める)憲法1条もこのままでよいと思っている」
(6)政権交代の時期について。「民主党政権時代、多くの議員が初めて政権運営を経験し、どんどん慣れていく過程を見てきた。再び経験のない者が一からやると混乱する。だから、あの時に政権中枢を担っていたメンバーが最前線で仕事をしている間に政権をとらないといけない」

 このインタビューでは、枝野代表の野党共闘に関する意見およびその背景にある政権構想についての考え方がよく出ている。この調子では京都選挙区での立民と国民の候補者一本化はありえず、自民党及び共産党の現職との激戦になることは必至だ。(つづく)
2019.01.26  2019年参院選、連合・立憲民主党・国民民主党の政策協定の内実、統一地方選と参院選を控えて野党共闘はどうなる(2) 

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 連合は昨年10月10日、立憲民主党、国民民主党と2019年参院選に向けた連携の覚書を交わし、11月30日には両党それぞれと同内容の政策協定を締結した。朝日新聞(2018年10月12日)によれば、覚書の要点は以下のようなものだ。
(1)立憲民主党、国民民主党、連合は、次期参院選の重要性を踏まえ、与党を利することがないよう、各選挙区における野党間の事前調整の必要性を共有する。それを前提に、連合は両党と政策協定を締結する。
(2)両党は、可能な限り早い段階から候補者擁立について連合・地方連合との話し合いの場を持つ。
(3)1人区では、与野党の1対1の構図を確立すべく、候補者擁立の段階から1人に絞り込む調整が必要との認識を共有。
(4)1人区、複数区ともに、両党いずれかの候補者に絞り込まれた場合には、両党それぞれによう推薦・支援を含め、連合の組織力を最大限発揮しうる環境を構築する。

 問題は政策協定の中身だが、連合のホームページにはその内容が掲載されている。誤解を招かないように、前書きを除いて主要部分を再掲しよう。タイトルは「『つづく社会』『つづけたい社会』の構築に向けて~その実現を目指し、あらゆる政治・政策資源を発揮~」というもので、主文は次の3点及び確認事項から構成されている。

〇我々は、すべての人へのディーセントワークの実現、持続的で健全な経済成長、負担の分かち合いと社会の分断を生まない再配分、そして、多様な価値観を認め支え合い、誰一人として取り残さない活力にあふれる共生社会を基本理念に据える。
〇その上で、年齢や性別、障がいの有無にかかわらず、誰もが安心して働き・暮らすことのできる社会保障制度の再構築に全力を挙げるとともに、負担を将来世代に付け回さず、公平・公正に分かち合うための責任ある財政の確立をめざす。
〇本政策協定の意義を踏まえつつ、個別課題の具体化については、立憲民主党(国民民主党)と連合とで十分かつ緊密な協議を行う。
以上の内容に立憲民主党(国民民主党)が合意することを確認し、連合は第25回参議院選挙において立憲民主党(国民民主党)を支援する。なお、与党を利さないため、各選挙区における野党間の事前調整の必要性を共有し、各支援団体の組織力を最大限結集し得る環境を連携・協力し構築する。

 読めば一見してわかるように、この政策協定は美しい言葉で理想社会の姿を謳い上げているものの、それを実現するための政策の中身にはほとんど触れていない。そこには国政の基本である憲法、原発、安全保障などに関する態度表明もなければ、安倍政権に対する批判もない。この程度の内容を「政策協定」というのであれば、自公両党が選挙時に「住みよいまちづくりを進めます」「暮らしやすい地域社会を実現します」「みなさんとともに頑張ります」と連呼する(空虚な)内容と何ら変わることがない。

 要するに、この政策協定では主文も前書き程度の意味づけしかなく、言いたいことは、確認事項の「次期参院選において連合は立憲民主党と国民民主党を支援する」「両党は各選挙区での事前調整を行い選挙協力する」と言うことに尽きているのである。いわば政策抜きの「選挙支援協定」であり、政策抜きの「事前調整協定」というわけだ。

 それもそのはず、この「政策協定」を主導したのが他ならぬ神津連合会長なのである。神津氏と言えば、前原氏とともに野党第一党を解体した「A級戦犯」であるはずだが、そんな人物があたかも何事もなかったかのように(口を拭って)今度は分裂させた両党の選挙協力に乗り出すのだから、呆れてものが言えない。彼の辞書には「道義」や「信義」といった言葉がどこにも見つからないのだろう。

 加えて、神津連合会長の上を行くのが「超A級戦犯」の前原氏だ。前原氏は代表の座にありながら野党第一党の民進党を解体するという前代未聞の行動に出たが、結局、保守第2党の結成に失敗し、志半ばで地元京都へ戻ってきた。しかし「転んでもただは起きぬ」前原氏のこと、今度は国民民主党京都府連の結成大会を開いて新会長に収まり、「もう一度、京都から現実的な政策を掲げる政党が競う二大政党制をつくるため、原点に戻り頑張りたい」と述べたという(京都新聞2018年8月20日)。

 前原氏は、自らを党分裂の「戦犯」と反省しつつ会長に就いた意義を強調し、野党共闘についてはこうもいったと言う。「私と(立民幹事長の)福山哲郎さん(参院京都選挙区)がもう一度手を握り、京都から非自民非共産の野党結集を図りたい」。同席した玉木共同代表も「選挙と国会対応は(立民と)一枚岩でやっていくため最大限努力する」と訴えた(同上)。こんなこともあって神津連合会長が両党の手打ちに乗り出したのであろうが、その後の京都は参院京都選挙区の候補者擁立をめぐって修羅場状態が続いている。(つづく)
2019.01.25 枝野代表の狙いは何か、統一地方選と参院選を控えて野党共闘はどうなる(1)

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 今年4月の統一地方選と夏の参院選を真近に控えているというのに、野党共闘がいっこうに進まない。近く野党間の話し合いが持たれるというが、同床異夢もいいところだから誰もすんなりと話がまとまるなどとは思っていないだろう。このままでいくと安倍政権の存続に手を貸すと皆が分かっていながら、ズルズルと時間だけが流れていくのではないか。野党共闘が進まない原因ははっきりしている。それは、最大野党の立憲民主党の思惑がそこにないからだ。

 今年に入ってからの各紙の論調も悲観的だ。とりわけ、読売・産経・日経などの与党系メディアは意識的に「野党共闘悲観論」を流している。また、その方が現実の姿に近いだけに妙にリアル感がある。一方、共産党は「本気の共闘」を必死で呼びかけているが、真面目な主張でありながら宙に浮いた感じが拭えない。共闘は相手のある話だけに、相手がその気にならなければ実現不可能だからだ。

 「一寸先は闇」の政治の世界のことだから軽々な予測は慎まなければならないが、野党共闘が進まない現状(原因)を分析することは重要だ。正確な現状分析がなければ選挙戦術を立てることはできないし、イケイケドンドンの精神論だけでは有権者の心を掴むこともできない。野党共闘の重要性を訴えるにしても、それを実現できる条件や可能性に関する的確な分析が伴わない限り、誰もが疑心暗鬼になり信用してくれない。黙って付いていくのは「死の行軍」も厭わない信者集団だけだ。

 現時点で求められるのは、野党共闘のカギとなる立憲民主党とりわけ枝野代表の行動分析である。しかし、この点に関しては各紙とも表立った評価を避けているように見える。枝野代表もその「あいまい状況」に便乗してキチンとした態度表明をしていない。だから、ますます彼が「何を考えているのか」がわからなくなるし、真面目に野党共闘を考えようとする世論も盛り上がらない。

 おそらく枝野代表の狙いもそこにあるのではないか。表向きは野党共闘に期待を持たせながらこのまま「あいまい姿勢」を続け、選挙前の土壇場になって「この指とまれ」の方針を打ち出す算段なのだろう。つまり、枝野代表の念頭には当面「安倍政権打倒」などの政治目標はなく、参院選を通して立憲民主党の政治基盤を確立することが全てだということだ。だから、枝野代表の基本戦略は、(1)自らの行動の制約になるような野党間の政策協定は結ばないで「フリーハンド」の立場を維持する、(2)候補一本化に際しては相手の譲歩は迫るが、ギブアンドテイクの交渉はしない(自らは譲歩しない)、(3)立憲民主党の党勢拡大が実現し、政治基盤が確立した段階で次の政権構想を考える――と言うことになる。

 隔靴搔痒の野党論評の中で、比較的明確な視点を打ち出しているのが今年1月5日付の読売新聞だ。「枝野氏『脱リベラル』、左派連携『限界』、無党派に照準」と題する当該記事の中には、幾つかの注目すべき指摘が含まれている。

第1は、記事の元になった枝野代表の記者会見が1月4日の伊勢神宮参拝時に行われたものであるということだ。安倍首相以下自民党首脳部は、例年仕事始めの1月4日に伊勢神宮参拝を恒例としているが(今年も参拝した)、枝野代表もそれに倣って参拝したという。おまけに蓮舫副代表、福山幹事長などの幹部も同行しており、立憲民主党は1月4日、枝野代表らの伊勢神宮参拝をツイッターの党公式アカウントで報告している。党としての「公式参拝」であることは明らかだ。

だが、このツイッターは党支持者から激しい批判を浴びた。参拝を批判する投稿が瞬く間に千通余りに達し、「支持層に背中を向ける行為、伊勢神宮なんか行かずに(沖縄県名護市)辺野古に行くべき」「自分たちが保守であることを強調したいようだが、それが支持拡大に貢献するとは思わない」「政教分離はどうする?内閣総理大臣になったら参拝する?」などの批判が渦巻いたという(産経1月18日)。福山幹事長は1月15日の記者会見で「個人としての資格で参拝した。党代表の行動、活動を(公式ツイッターで)お知らせしたということだ」と釈明したが、これなどは自民党閣僚が靖国神社参拝時に使う口実にそっくりで、体質までが自民党に似てきたとさらに火に油を注ぐ結果になった。

 第2は、記事の重点が、枝野代表の政治信条が「保守本流」にあることの確認に置かれていることだ。このため、同紙は枝野代表の「自分は保守本流」とのこれまでの言明を紹介し、それを裏付ける行為として、自民党元閣僚を含む衆院会派「無所属の会」議員を立憲民主党に迎え入れた今回の決定を挙げている。また、枝野代表が「リベラル」と称されがちな党の色を薄めようと情報発信を強化していることを指摘し、その一つが今回の伊勢神宮参拝だったことに言及している。

 第3は、枝野代表のこのような行動の背景にあるものとして、立憲民主党の選挙情勢分析の基礎に「左派連携限界説」があることを指摘している点である。枝野代表をはじめ立憲民主党幹部の間では、夏の参院選においては「無党派層への浸透が不可欠」であり、「リベラル系の支持だけでは万年野党にとどまる。ウイングを広げたい」との考えがあるのだという。これだと国民民主党と何ら変わらないが、問題は結党時に掲げた政策とズレが生じることだ。「そもそも立民は、『寄り合い所帯』と評された民主党や民進党とは対照的に、主張を先鋭化させることで強固な支持を取り付けてきた経緯がある。党内には『ぶれたと受け止められれば支持は離れる』(幹部)と懸念する声もある」との内部事情があるからである。

 紙面では明言していないが、読売新聞の論調は日経新聞などと同じく、連合が推進する立憲民主党と国民民主党の連携であり、それに伴う従来政策の修正(変更)であろう。①原発ゼロ、②消費税反対、③米軍普天間飛行場の辺野古移設反対といった従来の政策を維持するのか、それとも修正して別の政策を掲げるのか「はっきりしろ」と迫っているわけだ。

 ここからは私見だが、立憲民主党が従来の政策を修正すれば、有権者からは「国民への裏切り」として激しいバッシングを受けることは確実だろう。といって、ゆくゆくは「保守本流政権の樹立」を目指す枝野代表らが、その足手まといになるような政策協定を共産党らと結ぶがはずがない。そこで当面の選挙戦術として浮上するのが「あいまい路線」の継続だ。いわば「リベラル政党」との建前を当面維持しながら、政策協定抜きの野党共闘を進め、結果として次のステージへ駒を進めるというシナリオである。果たしてこんな見え透いた田舎芝居が通用するか、今後の推移を見守りたい。(つづく)
2019.01.24  言わずにはいられない!
――八ヶ岳山麓から(274)――

 
阿部治平(もと高校教師)
             
ことしの元旦に「リベラル21」編集委員会による「今年は護憲派にとって決戦の年――2019年の年頭にあたって」が掲載された。安倍改憲案を葬るために汗を流そうという趣旨に大いに共感したが、同時に一抹の不安を覚えたのでそのことをここに記してみたい(上記記事は以下「元旦所感」という)。

「元旦所感」の情勢判断は、一口に言って護憲派に有利というものである。事実なら結構な話だが、本当にそうか。
「元旦所感」はその根拠として、日本経済新聞とテレビ東京の昨年12月の世論調査で安倍首相に期待する政策を複数回答させたところ、「憲法改正」は10%の最下位だったこと、また同月の朝日新聞の世論調査などでは「安倍首相は2020年に新しい憲法を施行したいとの考えを改めて示しました。この安倍首相の姿勢を評価しますか」との問いに対し、「評価する」33%、「評価しない」48%だったことなどをあげている。
たしかに2017年NHK 調査でも、憲法9条を変える必要はないとする人が57%であった。ところが、2018年3月のNHK世論調査だと、憲法を改正して自衛隊の存在を明記することに賛成か反対か聞いたところ、「賛成」が36%、「反対」が23%、「どちらともいえない」が32%だったという。この変化はなぜかわからないが、私にとってはがっかりする結果だった。
また同じ2018年内閣府の自衛隊に関する調査では、自衛隊の存在目的を「災害派遣」とするものが最多で81.2%だった。「災害派遣」は当然としても、周辺海域における安全確保、島嶼部に対する攻撃への対応、すなわち軍事目的とするものも74.3%だった。日本人の大半は尖閣諸島を守るためには自衛隊で対処すべしとしているのである。

世論調査は調査の項目や質問の仕方によって結果がかなり変ることは、経験済みである。だが、私は「元旦所感」のように、国民の過半が安倍改憲案に反対するものと判断するのには躊躇する。
あらためて安倍改憲案を見てみると、自民党の改憲案にある「国防軍」設置とは異なり、憲法9条と自衛隊二つながらの共存を望む世論を巧みに利用した、非常によく考えられた案である(もちろん9条2項の後に自衛隊を明記したら前後矛盾するから、日本語としてわけのわからないものになることは目に見えている。英文にしたらどうなるか心配になる)。
しかも安倍晋三氏は、「自衛隊をこのまま日陰者にしていてよいのか」と人情に訴える手も使っている。自民党案では軍国化が露骨すぎて反感を買うことを見通した狡猾な演出である。これは意外に人々支持を集めるのではなかろうか。
                       
「元旦所感」は以下のように「専守防衛」を盾に安倍改憲案と戦おうとする世論を支持している。
「(憲法に自衛隊が明記されると)自衛隊員は米国のために戦う可能性が一段と増すでしょう。これは、多くの国民から支持されている『専守防衛に徹する自衛隊』像から逸脱します。しかも、このところ、安倍内閣は、9条改憲の前に自衛隊を『専守防衛』から解き放そうとしているのではないかと思わせる事象まで起きています。例えば、安倍内閣は事実上の『空母』の導入に踏み切りました」

もともと専守防衛は保守政権が言い出したもので、1970年防衛庁長官だった中曾根康弘氏がこれを連発したのだから、ずいぶん使い古された言葉である。もちろん保守政権の専守防衛は、冷戦時代のソ連を包囲し壊滅させるというアメリカの戦略に従ったものだったから、当時は軍備増強のまやかしに過ぎなかった。
専守防衛の原則にのっとった作戦行動は、相手の攻撃力を殲滅するものではないから、再びの侵略はありうるが、冷戦が終わって30年の今日では、この原則を国際的に明確に提示すれば、相手方も先に手を出しにくいという点で有効だと思う。
逆に安倍改憲案が通って、自衛隊が米軍に従いところかまわず共同作戦を行うことになれば、中国をはじめ周辺諸国はこれを脅威と受け止め、軍事的に対応せざるを得ないだろう。当然国際関係は緊張し、日本の安全保障にとってきわめて好ましくない状況に陥る。
だから護憲派が保守政権の専売特許だった専守防衛を逆手にとって、安倍改憲案にに対抗するのは賢明だと思う。

しかし、専守防衛の原則を貫き通そうとすれば関門がある。
いま日本では、日米安保体制すなわちアメリカの核抑止力を容認しながら安倍改憲案に反対するといった人は無視できないくらい多い。
だが、アメリカの核抑止力は、日本の上に核の傘をさしかけて雨露をしのぐように、他の国の核攻撃から日本を守ってくれるといった類のものではない。アメリカの核抑止力は先制的に核攻撃し壊滅させる意思を示して相手方を威嚇し、攻撃をあきらめさせるというものだ。自衛隊は、韓国軍と異なり作戦行動の指揮権を持ってはいるものの、アメリカの核戦略の下に置かれ、そのミサイルの矛先は北朝鮮や中国に対して向いているのである。
アメリカの核抑止力に依存しながら専守防衛の自衛隊を構想するというのは明らかな自己撞着である。私も含めて、こうしたあからさまな矛盾をほとんど意識しないで専守防衛を支持するという感覚は、日本を目下の同盟者とするゆがんだ日米関係が70年も続いた結果だと思う。
もうすでに20年前の経験だが、中国人青年と中国の核ミサイルの脅威について議論したとき、彼から「アメリカの核の傘の下にいながら、日本人が中国の核兵器を問題にするのは滑稽ではないか」と逆襲されたことを思い出す。

私は国家には本来的に自衛権があるという考えだから、専守防衛が直ちに憲法に違反するものとは思わない。だが、二心なく憲法を読めば、前文と9条において非武装平和の原則を強調していることがわかる。これと専守防衛の自衛隊の存在とはなじまないことは明らかだ。
だから、いつになるかわからないが、国家の軍事行動を明確に限定するために、個別的自衛権と専守防衛原則を憲法に書きこまなければならない日はかならず来ると思う。

今年の参院選で安倍自民党に対抗する立役者は立憲民主党である。その安全保障政策はやはり専守防衛である。同党は「現実的な安全保障政策」や「健全な日米同盟」を目指すというのだが、これは何を意味するのだろうか。立憲民主党が将来もアメリカの核抑止力に頼るというのならば、あなたがたの専守防衛の中身もやはり矛盾したものである。
立憲民主党といわず護憲派は、安倍改憲案に勝利するためにもう一歩進んで日米安保体制を検討し、アメリカの核抑止力に頼らない、「独立国」にふさわしい防衛政策を国民に提示すべきではなかろうか。
1960年日米安保条約改定を企図した岸信介首相は、対米自立ないしは対等な同盟関係を目指して改定交渉に臨んだ。当時反体制派は日米安保体制からの離脱を目指し、安保条約の破棄を要求して岸政権と戦った。
しかしその後の保守政権はアメリカの核抑止力に頼るだけの路線を選んだために外交力を失い、NATO諸国にくらべて恥かしいほどアメリカに媚びへつらい、現在ますますその度合いを強めている。このため沖縄県民は、国家がやるべき対米従属というくびきからの脱出を、自力でなしとげようと悪戦苦闘しているのである。

私たちがあくまで専守防衛を目指すなら、日米関係の再構築を視野に入れて、民族の誇りを賭けて安倍改憲案と戦わなくてはならない。そのことをいま特に強調したい。
2019.01.11  不信時代の選挙
   韓国通信NO586

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

政治に対する信頼は地に墜ちた。それを伝えないマスコミへの不信感は増すばかり。2019年、憲法改悪のたくらみを粉砕するチャンス到来の年なのに一向に盛り上がらないのが気になる。突破口は自分たちで見つける他ない。
今月の20日、我孫子市長選挙が行われる。
立候補予定者の飯塚まことさんを激励する集会に出かけた(5日)。
告示日前にもかかわらず、会場に140人ほどの市民が集まった。
飯塚さんと「新しい市長をつくる会」は選挙公約に―
①全国でトップレベルの自然エネルギー推進都市にする②子育てしやすい都市にする③生涯、安心して自分らしく暮らせる都市にする④新しい発想で都市整備をすすめる⑤市の借金を増やさず子どもにツケをまわさない⑥公正で透明な入札と契約をすすめる⑦市職員の力量を高めるため、民間との交流をすすめる 
を掲げた。

<地方が変われば 国も変わる>
我孫子住民でない人にとって人口13万人あまりの地方小都市の市長選挙に興味はわかないかも知れない。今まで選挙の集会に参加したことがない私が、のこのこと出かけたのには理由がある。
社会を覆う閉塞状況を変えるために、まず住んでいる町が変わる大切さを痛感するようになったからだ。今頃気づくようでは「遅い」と笑われそうだ。
公約づくりの議論に参加した者として注目して欲しいのは、何といっても「自然エネルギー推進都市」を真っ先に掲げたことだ。
福島原発事故から8年目を迎える今年、「脱原発」を真っ先に据えたのは、原発事故を風化させる風潮に果敢に挑戦するものだ。かつて東海村村長選挙、南相馬市長選挙では脱原発を掲げた現職が落選の苦渋を飲まされたことを考えると、この公約はかえって先進的で画期的でもある。勇気あるこの政策を何とかして実現させたい。私を含め集会に参加した人たちの共通の思いである。
安倍政権のもとでは弱者切り捨て、福祉を削って軍事を優先させる政策が急ピッチに進められている。②以降の公約からみて政府が進めている方向とは逆の「市民生活重視」の姿勢は明らかだろう。理想論ではない、実行可能なことばかりだ。
市民たちの期待を背負った市長選。候補者は立憲民主党から無所属として出馬。市民団体が擁立、自民・公明を除いた野党系市議会議員が挙(こぞ)って推薦する構図である。
無風で四選を決め込んでいたと思われる市長は危機感を募らせ、暮れの24日に駅頭に立ち、「我孫子駅構内のエレベーター設置の目途かついた。もう一期やらせて欲しい」と訴えた。12年間市長をやって、エレベーター設置の目途がついたと報告する市長は間違いなく「賞味期限切れ」である。
一地方都市の市長選挙だが、この選挙で新人候補が勝てばその影響は計り知れない。統一地方選挙や参院選挙でも、市民が中心となり、野党が結集するという「我孫子モデル」が先行例として全国的に広がっていくならこれほど素晴らしいことはない。
地方から始まり、国政を変えるイメージは60年代中盤から始まった革新自治体の相次ぐ誕生を思いださせるが、それは60年安保の余波と深刻化した公害問題に対する地方の「反乱」だった。今年の統一地方選挙と参院選は、国政が生んだ未曽有の生活全般に対する不安に、一人ひとりがどう立ち向かっていくかが問われる、かつてなく大事な選挙だ。

<選挙に行こう !>
選挙に期待が持てないという理由で棄権する人たちが多い。前回の我孫子市長選の投票率は32%。一昨年の衆院選は全国で53.7%(小選挙区)だった。理由がどうであれ、民主政治は崩壊寸前としか言いようがない。投票しなければ不満を語る資格はない。「死に票」の多い小選挙区制のせ選挙いにして選挙に行かない人もいるが、投票で制度を変えることだってできる。昨年のアメリカ中間選挙で若者たちがトランプに「ノー」を突きつけたことを思いだす。同じく昨年行われた韓国の地方選挙では元朴槿恵政権側の候補者が壊滅的な敗北を喫した。
市長選を前に、今話題の桜田義孝五輪担当大臣から市民は大きな教訓を得た。彼が地元選出議員と知らなかった人がいるくらい、有権者のたった4分1の得票で小選挙区を制した。巷では「恥ずかしい」「みっともない」の声がしきりだが、責められるべきは彼本人、投票した人でもない。投票に行かなかった人の責任だ。白けて選挙に行かない弊害が見事に実証された。口当たりのいい公約に騙されないのは、テレビ・新聞のウソを見抜くことと同じくらい難しいが、知恵を絞って、とにかく騙されないことだ。桜田議員の看板が市内に貼りめぐらされている。満面の笑顔とともに、皮肉にも「教育立国」が彼の一枚看板である。

暮れの24日、クリスマスイブの我孫子駅前にサンタ姿で「選挙に行こう」「社会を変えよう」のプラカードを掲げた。
   20190111小原

何の選挙かとたずねる人に、前回32%だった市長選挙と桜田議員の話をするとまずまずの反応。しばらくすると私の横で市長が街頭演説を始めた。
選挙で我孫子市長を変えようとアピール活動をしていたサンタは当惑した。

<みなさんはどう考えますか 東京オリンピック>
最近のテレビはオリンピックの話題が多すぎると思いませんか。知りたいニュースは山ほどあるのに…。特に責任逃れをして平然としている首相の笑顔に屈辱感すら覚える毎日です。原発事故を無かったことにして日本中を「お祭り」騒ぎにするのがオリンピック誘致の目的でした。アスリートたちの頑張りには感動しますが、彼らが政治的に利用されそうで気の毒、とても残念です。
住宅補助を打ち切られ、途方に暮れる福島の被災者、貧困に苦しむ日本中の多くの人たち、沖縄県民を無視した辺野古基地建設、戦争や飢餓に苦しむ世界中の人たちを放置して、トランプ米大統領を真似た日本の「自国ファースト」の行く末も心配です。オリンピックが近づいたら田舎に疎開しようかなどとも考えますが、何も解決になりません。オリンピックは「やめたほうがいい」が持論ですが、ひょっとして想像を絶する事件が起きて「中止」になるのではないかと思ったりもします。ご意見をお聞かせください。
2018.12.29 安倍政権、史上空前の防衛費増強予算
トランプへのゴマすりで、F35戦闘機購入計画など急ぐ

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

 安倍政権が21日に発表した来年度予算は、史上最大の101兆円余。防衛予算も今年度より1.3%増の過去最大。しかもこの支出増は、今後も増え続けることを避けられない仕組みだ。中でも米トランプ政権が大喜びしているF35戦闘機のように、来年度は6機購入だけだが、その後数年度にわたって計147機を購入する全体計画の初年度で、全体で1兆2千億円の計画のスタートに過ぎない。
 国民の税負担は、消費税2%アップなどで増え、税収は過去最大。国債発行(新たな借金)は32兆円台と9年連続低下したというが、国の予算の32.2%の超借金財政。国債残高(国の借金)897兆円。国民一人当たり700万円余の借金をしているのだ。国の借金は増え続け、いつか破綻が来る可能性がある。
 なぜこのような財政のなかで、防衛予算を増やし、新兵器で強化し続ける必要があるのか。安倍政権は中国や北朝鮮の軍事的な脅威を抽象的に強調して軍備増強の言い訳にするが、朝鮮半島の情勢も中国との関係もさらに改善し、ありもしない軍事的脅威を理由にした負担を軽減すべきなのだ。
 安倍政権が予算総額と防衛費を過去最大に膨らませたことについて、各紙とNHK の報道をチェックしました。朝日新聞の社説に最も同感したので、以下に再録しました。朝日新聞になんでも同感するわけではありません。本欄では、韓国・北朝鮮報道について何回か批判しました。
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朝日新聞(2018年12月23日)社説
防衛費の拡大 米兵器購入の重いツケ
 安倍政権による2019年度の当初予算案で、防衛費が5兆2574億円に膨らんだ。今年度当初より1・3%増え、5年連続で過去最大だ。
 来年度は「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」の初年度にあたる。中国や北朝鮮の脅威に軍事的に対抗する姿勢が鮮明になり、米国製兵器の購入に拍車がかかっている。
 特に目立つのが、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の整備費1757億円と、F35戦闘機6機の購入費681億円だ。F35は147機体制をめざしており、将来的な追加取得費は約1兆2千億円にのぼる。一部は、空母化される「いずも」型護衛艦での運用が想定される。
 陸上イージスにしろ、空母にしろ、巨額の費用に見合う効果があるのか、大きな疑問符がつく。それでも安倍政権が導入に突き進むのは、トランプ米大統領が掲げる「バイ・アメリカン(米国製品を買おう)」に呼応してのことだろう。
 日米の通商交渉をにらみ、米国の貿易赤字削減に協力する姿勢をアピールする狙いもありそうだ。しかし、軍拡競争や地域の不安定化につながりかねない兵器の大量購入で、トランプ氏の歓心を買うような振る舞いは、およそ見識を欠く。
 見過ごせないのは、米政府から直接兵器を買う有償軍事援助(FMS)が、安倍政権で急増していることだ。来年度は過去最大の7013億円。今年度に比べ、一気に3千億円近く増えた。政権発足前の12年度の1380億円の約5倍となる。
 こうした高額な兵器の代金は、複数年にわたって分割払いされる。後年度負担は将来の予算を圧迫し、なし崩し的な防衛費増につながる恐れがある。来年度の契約に基づき、20年度以降に支払われる後年度負担は2兆5781億円。実に年間の防衛予算の半分に迫る規模だ。
 中期防は、次の5年間の防衛費を27兆4700億円程度とした。効率化、合理化を徹底することで2兆円を節減し、実際に投じる額は25兆5千億円程度を「目途とする」としている。
 ただ、あくまで「目途」とされており、枠をはめたものではない。ほんとうに実現できるのか疑わしい。
 厳しい財政事情の下、費用対効果を見極め、優先順位をつける必要性は、防衛費といえども変わらない。歯止めなき予算増は、とても持続可能な防衛政策とは思えない。米兵器の大量購入は将来に重いツケを残すことを忘れてはならない。
2018.12.22 すべて解決済み
韓国通信NO585

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

<法事の席で>
 叔父の一周忌の食事会で従弟妹(いとこ)たちと同席になった。故人の思い出話をしているうちに、徴用工の損害賠償の話になった。
「解決済みの話がムシ返された」
「こんな非常識な話に付き合ってられませんね」
「このままじゃキリがないわ」
法事の食事会の席である。黙って聞いていた。
日本中どこでもこんな話がされているのかと考えると憂鬱になった。悪びれる風もなく、さりげなく話していることも気になった。
 韓国語では「大騒ぎする」ことを「惹端法席(やだんぽぷそく)」という。法事の席で「大騒ぎ」と理解していたが、そうではない。仏教の「真理」について議論し、それが嵩じて「大騒ぎ」というのが語源らしい。韓国人なら、聞き捨てならない発言を聞いたら大騒ぎになるのかもしれない。しかし日本人の私はその場の雰囲気を優先させてしまった。
<閑話休題> 本題に戻そう。
 「解決済み」では決してない。自分が受けた許しがたい屈辱、被害を償えというのは人間として当然なこと。「時効」や「条約」以前の、人間の尊厳にかかわる問題だ。国と国が「手じまい」したから我慢しろと云われても納得できるものではないだろう。「つぐない」を求める権利は無くならない。当然だがわが国でもそのような個人の権利は認めてきた。もっとも、我慢するのも個人の自由だが。

<鹿島・西松・ハンセン病>
 強制連行された中国人が酷使され400人以上の死者が出た「花岡事件」(秋田県花岡町/現大館市)では和解が成立、被告の鹿島建設は非を認め5億円を支払った(2000年11月)。
 同じく強制連行された中国人元労働者と遺族に対して西松建設は謝罪、2億5千万円の和解金を支払った(2009年10月)。
いずれも日本の裁判による法的救済こそ認められなかったが、「解決済み」とはせず、和解で解決した。
強制連行
<写真/中国人強制連行を伝える益子の朝露館> 
 ハンセン病患者に対して熊本地裁が国家賠償を認め(1998年)、政府、国会、裁判所は被害者に謝罪した。続いて韓国と台湾のハンセン病患者が国家補償を求めたのに対して、紆余曲折はあったが、政府は日本人と同水準の補償を行った(2006年)。
これらの事例を見ても、今回の徴用工判決に対して安倍首相が先頭に立って「解決済み」と主張する異常さがわかるはずだ。「国際法違反」と主張するのは韓国の最高裁が支払いを命じたからだが、日本の裁判所に門前払いされ、自国(韓国)の裁判所に救済を申し立てたのは当然のことだった。日本政府と裁判所が「解決済み」と、かたくなに解決を拒まなかったら、日本国内での解決は可能だったかも知れない。「国際法違反」などと主張する前に、新日鉄住金と三菱重工の何が問われたのか明らかにすべきだ。わが国では両社の犯罪行為が不問に付されている。
 中国、韓国、その他、わが国が占領地域で行った非人道的行為を認めない安倍政権では、今後、責任を追及し賠償を求める動きはさらに活発化すると予想される。

<従軍慰安婦問題>
 こじれている従軍慰安婦問題で政府の対応があらためて問われることになった。一体あの10億円は何だったのか。日韓条約で「すべて解決済み」という主張と矛盾していないか。解決済みなら10億円を支払う必要はなかった。10億円払って、今度こそ「不可逆的解決」という理屈は支離滅裂だ。日韓条約の無償3億ドルと有償2億ドルは賠償金ではなく経済協力だった。条約では謝罪はもとより賠償という言葉もない。日本は賠償を経済協力という言葉に置き換え、今頃になって「賠償した」かのように主張するのは言葉の「トリック」にほかならない。慰安婦問題の解決金も賠償金ではない、従って本人たちに謝罪する必要がないというのが日本政府の立場だ。日韓条約でも慰安婦問題でも謝罪しない点は共通している。
 これが日韓関係のこじれの原因になっている。
 目的、意味不明の10億円。日本の納税者からも批判が出るのは当然だ。過去の侵略、戦争責任を曖昧にして逃げ回っているようでは何も解決しない。けじめのない「未来志向」。責任の「ツケ」は将来に持ち越すことになる。

<「こんな非常識な話」には…>
 食事をしているさなかに聞こえた「非常識な話」。その発言からは解決済みを主張する日本政府への同調と、韓国の最高裁所の判決に対する蔑視が感じられた。韓国の最高裁のレベルは「子供以下」と呆れかえっているように聞こえる。安倍首相や菅官房長官、河野外相の口ぶりからも同じものが感じられた。判決内容について正面切った反論はなく、ただ感情に訴えるだけ。
 これでは特定の国、民族、主張に対するいわれのない憎悪、「ヘイト」ではないのか。自分(たち)と異なる考え方に対して聞く耳を持たない人たちは、トランプや安倍、ネット右翼といわれる特定の人たちだと考えていたが、身近なところに存在していることに驚いた。

<「このままじゃ キリがありません…」>
 食事会で従妹が「キリがない」と頷いたがそのとおりだ。戦時中、日本は戦争遂行のために国内外で現地の人たちを徴用して土木事業などに従事させた。その数は全体で100万人は越すとも言われている。彼女が心配するように、現に訴訟を起こしている人に加えて次々と訴訟が起こる可能性がある。まさに「キリがない」状況といってよい。
 「サンフランシスコ講和条約」(1951)、日華平和条約(1952)、日韓条約、請求権協定(1965)のずさんさが露呈したといえる。近隣諸国の人たちに与えた被害に真剣に向き合ってこなかった「つけ」が噴出している。日本政府は韓国の最高裁判決を政治決着で無力化するつもりらしいが、「三権分立」を理解しない政府の動きは恥の上塗りだ。
 韓国の李洛淵(イナギョン)首相が14日、日韓議員連盟合同総会の開会式に出席して、「政治とメディアが相手国に対する自国民の反感を刺激して利用しようとすれば、それは無責任で危険なこと」、「難しい問題が起きた時ほど、政治指導者は節制を守って知恵を発揮しなければならない」(12/14「中央日報」日本語版)と、出口のない日本政府とメディアに釘をさした。

2018.12.18 沖縄県民の意思を無視する政府を許さない
世界平和アピール七人委が訴え

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設をめぐり、政府が埋め立て用土砂を強行投入した問題で、世界平和アピール七人委員会は12月17日、「沖縄県民の意思を無視し、対話を拒否する政府を許容してはいけない」と題するアピールを発表した
七人委は同日、アピールを首相官邸と防衛省に送った。
 世界平和アピール七人委は、1955年、物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人有志の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならないを原則に、日本国憲法の擁護、核兵器禁止、世界平和実現などについて内外に向けアピールを発表してきた。今回のアピールは131回目。
 現在の委員は、武者小路公秀(国際政治学者)、大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学、慶應義塾大学名誉教授)、池内了(宇宙論・宇宙物理学、総合研究大学院大学名誉教授)、池辺晋一郎(作曲家)、髙村薫(作家)、島薗進(宗教学、上智大学教授)の7氏。

アピールの全文は次の通り。

沖縄県民の意思を無視し、対話を拒否する政府を
許容してはいけない


 政府は、沖縄県民の意思を無視して、玉城デニー知事の度重なる対話要請に真摯に向き合わず、対話を拒否し、辺野古の恒久基地化をめざし、埋め立て計画区域への土砂投入強行を始めました。
 安倍政権の度重なる暴力的行動は、日本国憲法に書かれている「国政は、国民の厳粛な信託による」とする人類普遍の原理に違反し、平和のうちに生存する権利を否定するものです。政治には倫理とヒューマニティが必要です。
 世界平和アピール七人委員会は、19世紀に琉球王国を滅亡させ、20世紀に沖縄戦において県民に多大な犠牲を強いたことに続く、21世紀の琉球処分を認めるわけにいきません。私たちは 沖縄県民の側に立ちます。
 国民一人一人が他人事と思うことなく、現状を直視し、発言されることを求めます。

2018.11.26 「安倍内閣支持者に改憲阻止を働きかけよう」
       平和アピール七人委、高知市の講演会で訴え

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 内外に向けて反核平和を訴え続けている有識者グループの「世界平和アピール七人委員会」が11月17日(土)、高知市の県民文化ホールで講演会を開いた。自民党が開会中の臨時国会に改憲案を提示する動きを示していることから、講演会のテーマは「改憲をさせないために何ができるか」。5人の七人委員会メンバーが改憲をさせないための方策を訴えたが、その中に「改憲を進める安倍内閣を支持する人たちに『騙されてはならぬ』と働きかけよう」という訴えがあり、聴衆の関心を集めた。

 講演会が七人委員会と、地元護憲団体の、こうち九条の会、女性「九条の会」高知の共催となったことから、講演会には「憲法公布72周年県民のつどい」の名称がかぶせられた。会場は約400人の聴衆で埋まった。

 講演会では、池内了委員(宇宙論・宇宙物理学者、名古屋大学名誉教授)が七人委員会の歴史と活動を紹介。その後、大石芳野委員(写真家)が「踏みにじられる人々の思い」、髙村薫委員(作家)が「誰も騙されてはならぬ」、武者小路公秀委員(国際政治学者、元国連大学副学長)が「新冷戦 二つの積極的平和主義を否定するトランプ『アメリカ第一主義』」、小沼通二委員・事務局長(物理学者、慶應義塾大学名誉教授)が「過去に戻らず、未来を拓くために」との演題でそれぞれ講演した。

 日本の戦前回帰をアジアの人々が懸念
 大石委員は、戦地で負傷した子どもたちや難民の写真を紹介し、「戦争は人災ですから、本気で止めようと思えば止められるものです。戦火に見舞われた国々に、もし日本国憲法の第9条のようなものがあったならば、この子たちは親や愛しい人を失うとか、武器で怪我をするなどの心身の傷を受けずに済んだだろうに……との思いを繰り返しながら付き合ってきました」「ところが今や、憲法をめぐる論議に揺れています。これまで当たり前のようにあった、戦争をしない、人権を守るといった生きることに必要な最低限の保障が変えられようとしているのです」と、改憲の動きに強い危機感を表明した。
 さらに、「こうした日本の現状をアジア諸国の人々も強い関心を持って見守りつつも、また戦前のような状態になりはしないかと心配しています」と、アジアの人々の間に高まりつつある懸念を伝えた。

 自衛隊明記は子どもでも分かる矛盾
 髙村委員は、まず「現時点では、私たちの国はとうてい改憲を目指し、推し進める状況にない」との認識を示し、「にもかかわらず、国民の意思とは関係のない、政治家の個人的な妄執による改憲の動きが出てきていることが最大の問題点である」と断じた。
 その上で「改憲を阻止するにはどうしたらいいか」と問い、「それには、二通りの道がある。一つは安倍内閣を打倒すること、もう一つは改憲をめぐる国民投票で自民党の改憲案を否決すること。安倍内閣を倒すには、支持率を下落させればよい」と述べた。だが、髙村委員は「これは容易なことではない。安倍内閣がどんなにウソをついても、この内閣を支持する人がなお4割もいるからだ。多くの人がいまだに安倍内閣のウソと不実に気がつかないためだ」「改憲問題で、安倍首相は9条の2項(戦力不保持と交戦権否認)を残して自衛隊を明記するだけ、と言っている。しかし、これは、子どもでも分かる矛盾だ」として「安倍内閣を支持する人たちに、今こそ、安倍内閣に騙されぬな、と呼びかけなくては」と話した。

 新冷戦に抵抗しよう
 武者小路委員は「トランプ大統領のもとで米国が打ち出した戦略は、核兵器を実戦に適するようにするために、その小型化を進めて潜水艦に搭載することだ」と指摘し、これにより、太平洋・インド洋と地中海・大西洋で米対中ロの海洋核軍拡競争を中心とする「新しい冷戦」が始まるだろうとの見方を示した。そして「米国と西欧と日本の市民は、反核・反帝国主義のために協力する平和学の『積極的平和主義』の立場から、一致・協力して、地球上の生命を全滅させかねない新冷戦に抵抗すべき時がきている」と述べた。
 また、「『アメリカ第一主義』のもとで、世界各地域でのマイノリティや先住民族や、移住労働者や難民を差別主義や憎悪扇動の対象とする世界規模の新しいファシズムが台頭していることを確認しよう」と語った。

 防衛省を防災省に
 小沼委員・事務局長は、第1次世界大戦終結以来の戦争廃絶への流れとヒロシマ・ナガサキ以来の核兵器廃絶への流れを紹介した後、「今、われわれは何ができるか」と問い、「相手の立場に立って考える」「現政権のもとでの憲法改定への動きと憲法空洞化が日本を弱体化していることを直視する」「少子高齢化・慢性財政悪化・国土狭溢の日本の軍事化は現実性がないことを確かめる」「被占領国意識を脱却し、安保条約と行政協定の不合理を直視する」「世界の潮流を見据えて、他国が脅威を感じない国にするために抜本的な路線見直しを行う」「すべての変革は少数派が支持を広げた結果であり、あきらめることなく、自信を持って着実に進む」などの実践を呼びかけた。
 さらに、小沼委員・事務局長は、防衛省を防災省に、自衛隊を災害救助隊に改組することを提案した。

 休憩後、池内委員の司会で、大石、髙村、武者小路、小沼の4委員によるパネル討論が行われたが、冒頭、池内委員の発言があり、その中で、池内委員は、安倍政権になってから世界の趨勢に逆らって防衛予算(軍事費)が年々大幅に増えていること、防衛省と企業による軍事転用可能な共同研究が拡大しつつあることを指摘し、「こうした事実に警戒心を強め、反対の世論を盛り上げよう」と呼びかけた。