2019.09.12  どこまで続く「こざかしい見栄っ張り」政治―安倍改造内閣を見て思う

田畑光永 (ジャーナリスト)

 第4次安倍内閣第2次改造内閣と称する内閣が発足した。第4次というのは安倍晋三氏が衆議院の首班指名選挙で首班(つまり首相)に4回目の指名を受けて作った内閣であり、第2次改造というのは改造2度目という意味である。そうか「安倍晋三君を内閣総理大臣に指名するに決しました」という衆院議長の声をわれわれは4回も聞かされたわけなのだ。
 最初は2006年9月だった。小泉(純一郎)内閣(2001~06)の後を受けて発足した第1次安倍内閣は翌7年7月の参院選で惨敗。安倍は9月、首相在任1年で退任した。これで終わっていればよかった。ご記憶にあると思うが「三角大福中」と言われた田中角栄、三木武夫、福田赳夫、大平正芳、(鈴木善幸)、中曽根康弘の時代もそうだったが、わが国はその後、より短命政権の時代となった。
 中曽根から安倍の前任の小泉まで、歴代総理の名前を書きだしてみると、竹下登、宇野宗佑、海部俊樹、宮沢喜一、細川護熙、羽田孜、村山富市、橋本竜太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎である。その在任期間は、中曽根と小泉の5年5か月が例外的な長さであって、ほかに2年を越えたのは橋本の2年6か月と海部の2年2か月の2人だけ。あとは全員2年未満、短いほうの筆頭は宇野と羽田の2か月である。
 安倍もこの短命の列に収まったのなら文句はない。ところがどうした風の吹き回しか、民主党政権時代の3年をはさんで、その安倍が復活して、今や歴代在任日数で2800数十日、第2位に上り詰めている。このまま無事に月日が過ぎれば、あと2か月余で桂太郎を抜いて憲政史上最長政権の記録を塗り替えるというのだから、国民としてはなんともいえない焦慮に駆られるではないか。
 なぜこの内閣が長続きするのか。さまざまな説があろう。基本的には90年代から実施された小選挙区制がそれなりに定着して、自民党内の権力の一極集中化が進み、党内野党が存在しにくくなったこと。また時代の変化が速いために、多少なりとも「変革」を掲げなければならない野党がきちんとした立ち位置を確保できず、保守の唱える「安定」が有権者の逃げ込み場所となっていること。そして残念ながら民主党時代の3年間、与党内でぶざまな党内抗争が続き、政治に対するアパシーを助長してしまったことも否定できまい。
 それに国民も健忘症にすぎる。モリカケにはっきり見て取れた安倍政権の権力私物化が、ほんのわずかな時間しか経っていないのに、すでにはるか忘却の彼方へ遠ざかり、史上空前の財務省内の大量公文書偽造さえもはや存在しなかったごとくである。
 どうすればいいか、直截な方法はない。政権の所業を睨みつけているしかない。
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 安倍という人は知らない。報道で見るだけである。私にはこざかしい見栄っ張りとしか見えない。かれの口癖、「戦後○十年、未解決のこの問題を私たちの(つまり私の手で)世代で解決したい」は、かれの名誉欲の発露に他ならない。教育基本法の改正しかり、北方4島の問題しかり、慰安婦問題をはじめ戦争責任に関することどもしかり、そしてもっとも重視する憲法9条の改訂しかり、である。
 どれも大事な問題である。だから手を出すなとは言わない。しかし、かれの手法は真正面から議論を戦わせようというのではい。「子供に自衛隊は憲法違反なの?と聞かれる自衛隊員の苦しみをほっておいていいのか」といったたぐいの形式論理で議論を避け、あとは議会で数を恃んで目的を達しようとする。率直に言って、こういう人物に大事なことは任せられない。
 11日の改造内閣の顔ぶれは、私には再来年9月に待っている自民党総裁としての任期切れにさらに連投をねらう布陣としか見えない。
 11日夕の記者会見で首相が真っ先に口にしたのは、新内閣には13人の初入閣者がいるということであった。首相と公明党枠1人を除くと18人だから新顔が多いとはいえる。政治家にとって閣僚に登用されることは大きな目標だから、いつその順番が回ってくるかは死活的な問題である。
 では、今回の改造でのその13人の内訳を見よう。まず目につくのは話題の38歳、小泉進次郎環境相とスケートの橋本聖子五輪担当相だが、この2人と公明党枠の赤羽一嘉国土交通相は普通の自民党内の大臣競争では別格だからひとまず除いて残りの10人を並べてみると、すぐに気づくことは首相官邸で直接、安倍に仕えた人物が5人もいることだ。河合克行(党総裁外交特別補佐→法務相)、萩生田光一(官房副長官→文科相)、江藤拓(首相補佐官→農林水産相)、衛藤晟一(首相補佐官→一億総活躍・少子化担当相)、西村康稔(官房副長官→経済財政・経済再生担当相)の各氏である。このほかにも経済産業相となった菅原一秀氏は菅官房長官に近い人間として知られている。
 となると、大臣競争の中から選ばれたいわゆる入閣待機組からは4人しか大臣になれなかったわけである。そこで官邸組6人(菅原氏を含む)と待機組4人の平均年齢を計算してみたところ、官邸組は57.1歳、待機組は65.2歳だった。この結果は安倍官邸に取り立てられることが、どれほど今の政界での出世に有利かを如実に示している。何事にせよ、党内から安倍に反対する声はますます出にくくなることは間違いない。
内閣改造では派閥の割り振りが注目される。今回もそれぞれに出入りはあるが、なんといっても、安倍のライバルと見られる石破茂支持勢力からは1人の入閣者もいないことが見逃せない。いや、この言い方は間違っている。石破は「1人も入閣者なし」どころではない痛手を被ったはずだ。
 それは先ほど触れた小泉進次郎環境大臣だ。小泉はこれまでの総裁選では石破支持を公言していた。権力のない石破にとっては、人気の小泉の支持は大きな励ましとなったろう。しかし、その小泉も入閣すれば、抜擢に安倍の恩を感じないわけにはいくまいし、何より大臣在職中に総裁選となったら、反安倍は口にしずらい。安倍は石破を徹底的に踏みつけたのだ。
 というわけで、今回の内閣改造を見ると、安倍はこれからいろんな人間の名前を出しながら、最後は「やっぱり安倍」という流れを作ろうとしているとしか見えない。桂太郎を抜くどころの話ではない。圧倒的な長期政権記録をあの男が作るとしたら・・・想像するだに気持ちが暗くなる。それを阻む道はどこにあるのだろうか。
2019.08.30 「NHKから国民を守る党」の怪しい正体
改憲派の仲間入りか?

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

参院選で「NHKから国民を守る党」(N国党)が比例で当選したことが話題となった。ほかならぬNHK政見放送で「NHKをぶっ壊せ」と叫んだことから、市民の好奇心を煽り、ユーチューブで300万回も視聴された(7/25朝日新聞)。

立花孝志氏とは何者?
「NHKをぶっ壊す」と叫んで国政に進出した立花孝志氏は、元NHK職員だ。不正経理に絡んで懲戒処分、2005年に退職、一時期「みんなの党」に出入りしていた。
2013年「NHKから国民を守る党」を結成、その後大阪や東京で地方議会選に立候補、落選を繰り返した後、2015年船橋市議会議員に。しかし任期半ばで辞任、2016年以降都知事選、堺市長選などで落選を重ねる一方、地方議員に候補をたて、一部で当選者を出すようになった。19年4月の統一地方選で地方議会に26人が当選、余勢を駆って参院選に挑戦することとなった。立花氏の得票は99万票、1.97%だが、全国各地のN国候補の合計得票率が3.02%と政党要件2%を上回ったことから比例当選を果たした。

物珍しさ消え、右寄り傾向見せる
当選直後、「北方領土を戦争で取り返す」と発言し糾弾決議を受けた丸山穂高衆院議員を入党させ、更に参院渡辺喜美参院議員と統一会派を組み「みんなの党」を名乗ることになる。
しかし「みんなの党」が表立ち、N国党がかすむという自己矛盾となる。「物珍しさ」はすっかり消えた。不祥事に関連した元自民議員などの加入を呼びかける一方、「NHKのスクランブル化(NHKを見ない人は払わなくていい)を首相が認めれば、憲法改正に賛成する」(7/30時事通信)という発言や、ネトウヨ的言動に批判が高まっている。新たな右翼グループの誕生で、改憲2/3にあと一歩との見方も一部でささやかれている。
8月10日N国は臨時総会を開いた。ジャーナリストの上杉隆氏を幹事長に起用、政党の体制を一応整ようとした。来年の都知事選、次期衆院選に挑むというが、右寄り傾向という正体を見せたことで、政党としての発展は危うくなったと私はみる。

NHKの在り方を問う市民運動とは無縁
2014年以降3年間はNHK会長籾井勝人(当時)の「政府が右と言えば左と言えない」と発言、受信料不払いを宣言する人が多数出た。NHKに対する不信感は今も続く。しかし2017年12月、最高裁が受信料の支払い義務は合憲だと判断を示した。そのため、番組に対する不満から不払いする視聴者の「権利」は成り立たず、受信料裁判は視聴者の敗訴が続いている。
NHKは8月9日から3日間、「受信料をお支払いください」という異例の3分番組を放送した(松原洋一理事の出演)。続いて政府が「NHKと契約したものは受信料の支払い義務がある」との答弁書を閣議決定した。議員会館室にテレビがあるが、立花氏は「NHKと契約するが受信料は踏み倒す」と公然と発言したからだ。
しかしそのNHKにも矛盾がある。NHKは近々総合とETVのすべての番組をインターネットで同時配信する準備中だ。受信料を払っていない人がネットで流れる番組をパソコンやケータイで視聴しようとすると、「受信料を支払ってください」というスクランブル画面が出る仕組みになるとみられる。ネットでは立花氏の言い分が通るということにならないか。
私自身京都で「NHKを憂うる会」(現「NHK・メディアの会京都」)で、かつて籾井会長の辞任を求める運動を行ってきたが、同時にNHKの安倍政権寄りの報道姿勢を正そうとする運動に参加してきた。そのため“「N国党」とは関係あるのか”と参院選中よく聞かれた。“「まともな公共放送を取り戻そう」という市民運動とは全く異なる”が私の答えだ。
NHKが政権寄りの報道をやめ、本来の公共放送に立ち返るためには、7,122億円の受信
料(2018年)でNHKを支える市民、視聴者の力強い働きかけ以外にはない。
最近NHKの報道の政権寄りを批判する市民組織の数が増え、全国的になっているのは
心強い動きだ。独立した公共放送としての使命を取り戻せ、政府寄りの人事を撤回せよなどの申し入れが「NHKを考える会」など、全国20団体の連名で行われた。(6/26)。NHK批判の市民の動きは全国各地に広がりを見せている。

2019.08.28 日本政府は韓国政府との間で対話・議論を開始せよ
学者らの声明に賛同署名8千400余

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 韓国人元徴用工の訴訟問題などに端を発した日韓関係の深刻な悪化を憂慮する学者、弁護士、文化人、メディア関係者らが、日本政府による韓国政府との冷静な対話・議論を求めた声明「韓国は『敵』なのか」への賛同署名が、8月15日までに8404人になった。声明の世話人は「賛同署名は8月31日まで継続する」と述べており、賛同署名が最終的にどのくらいになるか、関心を集めている。

 「韓国は『敵』なのか」と題する声明は、7月25日に発信された。それには、呼びかけ人として75人が名を連ねている。大学教授、研究者、弁護士、精神科医、作家、詩人、哲学者、評論家、翻訳家、メディア関係者、元政府代表、元外務省職員らで、石坂浩一(立教大学教員)、内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)、内田雅敏(弁護士)、岡田充(共同通信客員論説委員)、岡本厚(元「世界」編集長)、田中宏(一橋大学名誉教授)、和田春樹(東京大学名誉教授)の7氏が世話人を務める。
呼びかけ人は、インターネットを通じて市民に声明への賛同署名を求めている。

 声明はかなり長文だが、要点は次の通り。

「私たちは、7月初め、日本政府が表明した、韓国に対する輸出規制に反対し、即時撤回を求めるものです。半導体製造が韓国経済にとってもつ重要な意義を思えば、この措置が韓国経済に致命的な打撃をあたえかねない、敵対的な行為であることは明らかです」。

「国と国のあいだには衝突もおこるし、不利益措置がとられることがあります。しかし、相手国のとった措置が気にいらないからといって、対抗措置をとれば、相手を刺激して、逆効果になる場合があります。特別な歴史的過去をもつ日本と韓国の場合は、対立するにしても、特別慎重な配慮が必要になります。それは、かつて日本がこの国を侵略し、植民地支配をした歴史があるからです。日本の圧力に『屈した』と見られれば、いかなる政権も、国民から見放されます。日本の報復が韓国の報復を招けば、その連鎖反応の結果は、泥沼です。両国のナショナリズムは、しばらくの間、収拾がつかなくなる可能性があります。このような事態に陥ることは、絶対に避けなければなりません」

 「すでに多くの指摘があるように、このたびの措置自身、日本が多大な恩恵を受けてきた自由貿易の原則に反するものですし、日本経済にも大きなマイナスになるものです。しかも来年は『東京オリンピック・パラリンピック』の年です。普通なら、周辺でごたごたが起きてほしくないと考えるのが主催国でしょう。それが、主催国自身が周辺と摩擦を引き起こしてどうするのでしょうか。今回の措置で、両国関係はこじれるだけで、日本にとって得るものはまったくないという結果に終わるでしょう。問題の解決には、感情的でなく、冷静で合理的な対話以外にありえないのです」

 「元徴用工問題について、安倍政権は国際法、国際約束に違反していると繰り返し、述べています。それは1965年に締結された『日韓基本条約』とそれに基づいた『日韓請求権協定』のことを指しています。
 日韓基本条約の第2条は、1910年の韓国併合条約の無効を宣言していますが、韓国と日本ではこの第2条の解釈が対立したままです。というのは、韓国側の解釈では、併合条約は本来無効であり、日本の植民地支配は韓国の同意に基づくものでなく、韓国民に強制されたものであったとなりますが、日本側の解釈では、併合条約は1948年の大韓民国の建国時までは有効であり、両国の合意により日本は韓国を併合したので、植民地支配に対する反省も、謝罪もおこなうつもりがない、ということになっているのです。
 しかし、それから半世紀以上が経ち、日本政府も国民も、変わっていきました。植民地支配が韓国人に損害と苦痛をあたえたことを認め、それは謝罪し、反省すべきことだというのが、大方の日本国民の共通認識になりました。1995年の村山富市首相談話の歴史認識は、1998年の『日韓パートナーシップ宣言』、そして2002年の『日朝平壌宣言』の基礎になっています。この認識を基礎にして、2010年、韓国併合100年の菅直人首相談話をもとりいれて、日本政府が韓国と向き合うならば、現れてくる問題を協力して解決していくことができるはずです」

 「元徴用工たちの訴訟は民事訴訟であり、被告は日本企業です。まずは被告企業が判決に対して、どう対応するかが問われるはずなのに、はじめから日本政府が飛び出してきたことで、事態を混乱させ、国対国の争いになってしまいました。元徴用工問題と同様な中国人強制連行・強制労働問題では1972年の日中共同声明による中国政府の戦争賠償の放棄後も、2000年花岡(鹿島建設和解)、2009年西松建設和解、2016年三菱マテリアル和解がなされていますが、その際、日本政府は、民間同士のことだからとして、一切口を挟みませんでした」

 「日韓基本条約・日韓請求権協定は両国関係の基礎として、存在していますから、尊重されるべきです。しかし、安倍政権が常套句のように繰り返す『解決済み』では決してないのです。日本政府自身、一貫して個人による補償請求の権利を否定していません。この半世紀の間、サハリンの残留韓国人の帰国支援、被爆した韓国人への支援など、植民地支配に起因する個人の被害に対して、日本政府は、工夫しながら補償に代わる措置も行ってきましたし、安倍政権が朴槿恵政権と2015年末に合意した『日韓慰安婦合意』(この評価は様々であり、また、すでに財団は解散していますが)も、韓国側の財団を通じて、日本政府が被害者個人に国費10億円を差し出した事例に他なりません。一方、韓国も、盧武鉉政権時代、植民地被害者に対し法律を制定して個人への補償を行っています。こうした事例を踏まえるならば、議論し、双方が納得する妥協点を見出すことは可能だと思います」

 「私たちは、日本政府が韓国に対する輸出規制をただちに撤回し、韓国政府との間で、冷静な対話・議論を開始することを求めるものです」
 「いまや1998年の『日韓パートナーシップ宣言』がひらいた日韓の文化交流、市民交流は途方もない規模で展開しています。300万人が日本から韓国に旅行して、700万人が韓国から日本を訪問しています。ネトウヨやヘイトスピーチ派がどんなに叫ぼうと、日本と韓国は大切な隣国同士であり、韓国と日本を切り離すことはできないのです」
「安倍首相は、日本国民と韓国国民の仲を裂き、両国民を対立反目させるようなことはやめてください。意見が違えば、手を握ったまま、討論をつづければいいではないですか」

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賛同署名記入は、https://forms.gle/4Naxt9Aw4WfS1VK39
からできる。
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 「韓国は「敵」なのか」声明の会は、8月31日(土)14時から、韓国YMCAスペースY(東京のJR水道橋駅東口から徒歩7分、都営三田線水道橋駅A1から徒歩7分)で緊急集会「韓国は『敵』なのか」を開く。内田雅敏、和田春樹さんらが発言。参加費500円。

2019.08.16 共産は第2ステージの野党共闘に対応できるか
2019年参院選を顧みて(3)
                
広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)
          
問題は、野党共闘が第2ステージに入るこれからの局面において、共産が果たしてこの事態に対応できるかどうかということだ。志位委員長は「れいわ」に対して積極的協力の姿勢を打ち出しているが、その場合に立民を含む野党共闘がどのような形になるか、目下のところ「想定外」でしかない。共産を取り巻く懸念材料には事欠かないが、官僚的組織運営と指導方針の硬直化がますます進み、組織の高齢化が相まって「基礎体力=党勢」が目に見えて落ちてきていることは誰の眼にも明らかになっている。にもかかわらず、今回の参院選総括においてもこのような深刻な事態を直視することなく、従来からの硬直した「党勢拡大一本やり」の運動方針から未だ離れることができないのは悲惨と言うほかない。

事実経過を追うと、投開票日の翌日7月22日には下部組織の討議を一切抜きにした「参議院選挙の結果について」(常幹声明)が出されて23日の赤旗に掲載され、25日には「『常幹声明』を直ちに討議し、公約実現のたたかい、党員拡大を根幹にすえた党勢拡大にふみだそう」(書記局)と問答無用の檄が飛ばされるという有様だ。しかも、常幹声明の中身が不可思議極まりない代物なのである。
「比例代表選挙で、わが党が改選5議席から4議席に後退したことは残念です。同時に私たちは、今回の参院選の比例代表得で獲得した得票数・得票率をこの間の国政選挙の流れの中でとらえることが大切です。わが党は、今度の参議院選挙で2017年総選挙の比例代表で得た『440万票、7.90%』を出発点にし、『850万票、15%以上』の目標に向けてどれだけのばせるかのたたかいとして奮闘してきました。この基準にてらして、比例代表で低投票率のもと448万票の得票、8.95%の得票率を獲得し、17年総選挙と比較してそれぞれを前進させたことは、次の総選挙で躍進をかちとるうえで、重要な足がかりになると確信するものです」
 
この常幹声明に対して感じる疑問は、第1は手の届きそうにない「850万票、15%以上」を依然として党勢拡大目標に掲げていること。第2は2017年衆院選の比例代表得票数440万票(7.9%)を今回参院選の比較基準にしていること。第3は今回参院選の低投票率を根拠として448万票(9.0%)の得票を「前進」だと総括していることの3点である。

「参院選850万票、15%以上」という数値目標は、2016年参院選を翌年に控えた2015年1月、志位委員長が第3回中央委員会総会において提起したものだ。志位委員長はこう発言している(カッコ内は筆者注)。
「次期国政選挙の目標について。総選挙の結果と教訓を踏まえ(2014年衆院選、比例代表得票数606万票、得票率11.4%)、次期国政選挙(2016年参院選)の目標を比例代表選挙で『850万票、得票率15%以上』とし、これに正面から挑むことを提案します。この目標は、国政選挙における過去最高の峰―1998年の参議院選挙での819万票、14.6%を上回り、新たな峰をめざそうというものです。また、この目標は、綱領実現をめざす『成長・発展目標』の達成を現実的視野にとらえる目標となります」

2015年と言えば、共産が比例代表得票数で過去最高を記録した1996年衆院選726万票(13.1%)、1998年参院選819万票(14.6%)から既に20年近くも経過している。現在の選挙制度に変わってからの国政選挙の結果を見ると、参院選、衆院選ともに上記選挙(※)がいずれも例外的に「突出」した事例だったことがよくわかる。全体を通してみれば、参院選13回のうち300万票台4回、400万票台5回、500万票台3回と400万票台が最大多数であり、800万票台は1回のみで得票率が2ケタになったのは2回にすぎない。

衆院選では8回のうち300万票台1回、400万票台4回、600万票台2回、700万票台1回であり、これも400万票台が最大多数であることに変わりない。なのに、1回しか得票したことのない819万票(14.6%)を超える「850万票、15%以上」が、どうして「綱領実現をめざす『成長・発展目標』の達成を現実的視野にとらえる目標」になるのであろうか。

【現在選挙制度に基づく共産比例代表得票数・得票率の推移、参院選、衆院選】
         参院選           衆院選
1980年代   1983年416万票(9.0%) 
1986年543万票(9.5%) 
   1989年395万票(7.0%) 
1990年代  1992年353万票(7.9%) 
1995年387万票(9.5%)  ※1996年726万票(13.1%)
   ※1998年819万票(14.6%) 
2000年代  2001年432万票(7.9%)  2000年671万票(11.2%)
2004年436万票(7.8%)   2003年458万票(7.8%)
   2007年440万票(7.5%)  2005年491万票(7.3%)
2009年494万票(7.0%)
2010年代  2010年356万票(9.0%)  2012年368万票(6.1%)
2013年515万票(9.7%)  2014年606万票(11.4%)
   2016年601万票(10.7%)  2017年440万票(7.9%)
2019年448万票(9.0%) 

おそらくその背景には、2010年代に入って300万票台に落ち込んでいた国政選挙の比例代表得票数が、2013年参院選では500万票台、2014年衆院選では600万票台に乗り、党勢が上向いたとの判断があったのだろう。しかし、「850万票、15%以上」という目標は、2013年参院選515万票の1.7倍、2014年衆院選606万票の1.4倍に当たり、これを達成するのが容易でないことは誰の眼にも明らかだ。最大の理由は、1960年代から倍々ゲームで躍進してきた党勢(党員数、機関紙読者数)が見る影もなく落ち込んでいるからである。

京都新聞(2017年1月19日)によると、2017年当初の党勢は「党員数は約30万人でこの20年間に約7万人減少。収入の柱である機関紙『赤旗』の発行部数(日刊紙と日曜版の合計)も20年前と比べると半減した」とある。20年前と言えば、1960年代に入党した若者の多くが壮年期に達した頃であり、活動エネルギーも最高潮の時期だった。それから20年、多くは高齢者となって活動量は目に見えて落ちてきており、その上党員数の減少にも歯止めが掛からない。実質的な活動量は20年前から半減していると見なければならない。質量ともに低下の一途を辿っている組織に対して、「850万票、15%以上」という途方もない大きな目標を押し付けることはできないし、押し付けたとしても〝虚構の目標〟になることは目に見えている。

第2の疑問は、「850万票、15%以上」が提起されたときの基準は2014年衆院選の606万票(11.4%)だったのに、それが常幹声明ではなぜ2017年衆院選の440万票(7.9%)になったかについてである。2013年参院選以降、国政選挙では2度の参院選と衆院選が行われているが、2017年衆院選は共産の比例代表得票数が440万票(7.9%)の最低レベルに落ち込んだ選挙だった。最低レベルの選挙を「基準」にすれば、今回参院選の448万票(9.0%)も「前進」と言えないこともないが、そんな詭弁は余りも悲しいではないか。

 第3の疑問は、常幹声明が「この基準にてらして、比例代表で低投票率のもと448万票の得票、8.95%の得票率を獲得し、17年総選挙と比較してそれぞれを前進させたことは、次の総選挙で躍進をかちとるうえで重要な足がかりになると確信するものです」と言っていることだ。このことは、今回参院選は48.6%の低投票率であるにもかかわらず、投票率53.7%の2017年衆院選を上回る得票だったことを評価していることを意味する。

しかし、衆院選と参院選における投票率と共産の比例代表得票数の関係は、参院選では相対的な関係が認められるものの、衆院選ではほとんど関係が見られないのでこの論法は成立しない。言い換えれば、投票率の高低を基準にして衆院選と参院選の得票数を比較することはできないし、しても無意味だということなのである。こんな現象が起るのは、衆院選が政権選挙である以上その都度予期しない「想定外」の政変が引き起こされて投票率は上がるものの、事態に対応できない政党が振り落とされて得票数を減らすためである。共産が大量の票を失った2012年衆院選(投票率59.3%)は「第3極」の躍進が起り、2017年衆院選(投票率53.7%)は民進党分裂に伴う「枝野立民」の旗揚げがブームを呼んだ選挙だった。こんな事情を無視して、2019年参院選は投票率が下がったにもかかわらず2014年衆院選よりも「前進」したなどと総括することにどれだけの意味があるというのだろうか。

【2010年代の衆院選、参院選の投票率と共産得票数・投票率の関係】
衆院選         2012年      2014年      2017年
得票数、得票率  369万票(6.1%)  606万票(11.4%) 440万票(7.9%)
投票率        59.3%       52.7%      53.7%

参院選         2013年      2016年      2019年
得票数、得票率  515万票(9.7%)  602万票(10.7%) 448万票(9.0%)
投票率        52.6%       54.7%      48.6%

 このように性格の異なる衆院選と参院選をごちゃ混ぜにして、2017年衆院選得票数を「基準」に今回参院選の結果を論じようとすることなど、まともな政党のすることではあるまい。衆院選は衆院選で、参院選は参院選で、それぞれ時系列的な客観分析が求められることは自明の理なのであり、2016年参院選の602万票(10.7%)が2019年参院選では448万票(9.0%)に落ち込み、▲154万票(▲25.4%)になった現実を直視しなければ、今回参院選の総括は始まらないというべきだ。

問題が深刻なのは、「850万票、15%以上」という目標がもはや〝虚構の数字〟であるにもかかわらず、共産が依然としてこの目標にしがみついていることだ。現状に苛立った志位委員長は、2019年参院選の前年、2018年6月の第4回中央委員会総会で次のように発言している。
「『特別月間』のこの目標は、参院選躍進にむけた中間目標であって、党勢拡大の流れをさらに加速させて、来年の参議院選挙は党員も読者も『前回比3割増以上』の党勢でたたかうという目標に挑戦することに『決議案』が呼びかけていることです。この目標の提起は新しい提起であります。『前回比3割増以上』という目標は、党員でも読者でも現勢の1.4倍以上をめざすという目標になります。どんな複雑な情勢が展開したとしても、参院選で『850万票、15%以上』という比例目標をやりきる、その保障をつくるということを考えたら、これはどうしても必要な目標です。2010年代に『成長・発展目標』を達成するという大志とロマンある目標との関係でも、『前回比3割増以上』に正面から挑戦しようではありませんか」
「わが党の歴史をふりかえれば、前回選挙時比で130%以上の党勢を築いて、次の選挙戦で勝利をめざすというのは、1960年代から70年代の時期には、全党が当たり前のように追求してきた選挙戦の鉄則でした。党綱領路線確定後の「第1躍進の時期」―1969年の総選挙、72年の総選挙などでは、いずれも前回比130%の党勢を築いて選挙を戦い、連続躍進を勝ち取っています。(略)来年の参議院選挙・統一地方選挙をそのような党勢拡大と選挙躍進の本格的な好循環をつくる選挙にしていこうではありませんか」

だが、それとは逆に浮かび上がってきた現実は、ごく最近になって公表された「2017年衆院選比で党員7300人減、日刊紙1万5千人減、日曜版7万7千人減」(赤旗2019年7月30日)という最近の党勢衰退を示す冷厳な事実だった。2017年当初の党勢が「党員数は約30万人でこの20年間に約7万人減少。収入の柱である機関紙『赤旗』の発行部数(日刊紙と日曜版の合計)も20年前と比べると半減した」との京都新聞記事と照合すると、これまでの20年間の年平均減少数は党員3500人減、機関紙読者5万人減となり、この2年間の年平均減少数(党員3650人減、年間読者4万6千人減)とほぼ合致する。20世紀末から21世紀にかけて共産の党勢が確実に衰退し続けているというリアリズムに立脚すれば、「革命的ロマン主義」を掲げて〝虚構の目標〟を追求することの弊害は大きい。それが「空想的ロマン主義」に陥り、実態を覆い隠す観念主義に転化するからである。

この事態は、日本帝国陸軍の『失敗の本質』を想起させる。過去の(一時的な)成功体験を絶対化・普遍化して基本方針を定立し、その後の情勢変化や敵味方の戦力の変化を一切考慮することなく、ただひたすらに「進軍」「突撃」を命じ続けたのが日本帝国陸軍の体質であり伝統であった。この軍事組織の欠陥を鋭く分析したのが、防衛大学校の戦史研究グループを中心に編纂された『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(中公文庫、1991年)である。

不遜な比喩かも知れないが、私にはこの日本帝国陸軍の体質と伝統が現在の共産にも流れている(受け継がれている)ような気がしてならない。共産主義が「戦時共産主義」として生まれ、革命を遂行するためには軍隊に比すべき上意下達システムが貫徹され、それが党内民主主義の成長を妨げてきたことは歴史の教えるところだからである。ソ連をはじめ各国の共産政権が連鎖的に崩壊したのも、また現在の中国政府の強権的体質が批判されているのも全てはこの点に関わっている。そんな思いで本書を読み直してみたのだが、多くの兵隊の命を奪った作戦の失敗が日本帝国陸軍の欠陥に直結していることを改めて痛感した(ちなみに、私は戦前の満洲生まれの帰国者である)。以下、幾つかの抜粋を紹介して本稿を終わりたい。

「日本軍の戦略策定は一定の原理や論理に基づくというよりは、多分に情緒や空気が支配する傾向があった。これはおそらく科学的思考が組織の思考のクセとして共有されるまでに至っていなかったことと関係があるのだろう。(略)第15軍がビルマでインパール作戦を策定したときにも、牟田口中将の『必勝の信念』に対し、補佐すべき幕僚はもはや何を言っても無理だというムード(空気)に包まれてしまった。この無謀な作戦を変更ないし中止させるべき上級司令部も次々に組織内の融和と調和を優先させ、軍事的合理性をこれに従属させた」(283~284頁)

「およそ日本軍には、失敗の蓄積・伝播を組織的に行うリーダーシップもシステムも欠如していたというべきである。ノモンハンでソ連軍に敗北を喫したときは、近代陸戦の性格について学習すべきチャンスであった。ここでは戦車や銃砲が決定的な威力を発揮したが、陸軍は装備の近代化を進める代わりに、兵力量の増加に重点を置く方向で対処した。装備の不足を補うのに兵員を増加させ、その精神力の優位性を強調したのである。こうした精神主義は二つの点で日本軍の組織的な学習を妨げる結果になった。一つは敵戦力の過小評価である。(略)もう一つの問題点は、自己の戦力を過大評価することである。(略)ガダルカナル島での正面からの一斉突撃という日露戦争以来の戦法は、功を奏さなかったにもかかわらず何度も繰り返し行われた。そればかりか、その後の戦場でもこの教条的戦法は墨守された。失敗した戦法、戦術、戦略を分析し、その改善策を探求し、それを組織の他の部分へ伝播していくということはおどろくほど実行されなかった」(325~326頁)

「それでは、なぜ日本軍は組織としての環境適応に失敗したのか。逆説的ではあるが、その原因の一つは過去の成功への「過剰適応」が挙げられる。過剰適応は適応能力を締め出すのである。(略)組織が継続的に環境に適応いくためには、組織は主体的にその戦略と組織を革新していかなければならない。このような自己革新組織の本質は、自己と世界に関する新たな認識的枠組みを作り出すこと、すなわち概念の創造にある。しかしながら、既成の秩序を組み換えたりして新たな概念を創り出すことは、われわれの最も苦手とするところであった。日本軍のエリートには、狭義の現場主義を超えた形而上的思考が脆弱で、普遍的な概念の創造とその操作化ができる者は殆どいなかったと言われる所以がここにある」(410頁)

2019.08.15 野党共闘は政権交代につながるか
2019年参院選を顧みて(2)
                
広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)
        
今回の参院選は数々の課題があったにもかかわらず、選挙の焦点が「改憲勢力3分の2阻止」一本に絞られ、そのカギになる「1人区野党共闘」に注目が集まった。結果は32区のうち10区で野党統一候補が勝利し、前回より1議席減らしたものの全選挙区で野党議席が3分の1を上回ったことで、あたかも野党が勝利したような印象が広まっている。「3分の2阻止」の意義については評価を惜しまないが、これがそのまま政権交代につながるといった甘い期待に浸っていると、厳しい政治世界の現実に足をすくわれることになりかねない。

なぜこんな水をかけるようなことを言うかというと、枝野代表が率いる立民主導の野党共闘に対して信頼を置けないからだ。今回参院選においても、枝野代表の野党共闘に対する基本的スタンスは、野党第1党としての政治基盤強化が第一義であって、政権交代を目指すものではなかった。枝野代表の念頭には「安倍政権打倒」の政治目標はなく、参院選を通して立憲民主党の政治基盤を強化することが全てだったのである。その根底には「自分は保守本流」だとする枝野氏の政治信条がある。立憲民主党の基本政策が、日米安保条約堅持、自衛隊合憲、消費税維持などに置かれているのはそのためであり、「自分は保守本流」だとするパフォーマンスは、保守政党の慣行に従った今年1月4日の伊勢神宮(公式)参拝にもあらわれている(福山幹事長も同行した)。枝野代表の政権構想の狙いは、次期衆院選で自公政権を弱体化させ、自公及び自民内部の分裂を誘い、与野党横断型の「保守本流政権」を樹立することにあることはまず間違いない。

自社さ連立政権と違うところは、枝野構想は自民党の全てではなく旧宏池会系など「自民党の一部」との連立を目指すことで、安倍一派などの極右勢力を排除した保守中道政権の成立を目指す点にある。この政権構想は広く立民内において共有されており、「枝野降ろし」のような事態が生じない限りこれからも変わることがないと思われる。枝野代表にとっては次期衆院選までは(方便としての)野党共闘が必要であり、共闘路線はこれからも継続されることになるだろう。また、共産も従来路線の延長として野党共闘を政権交代に結びつけるべく努力するだろうから、市民グループの立ち位置は知らないが、立民と共産との間ではいわば「同床異夢」の野党共闘が当分継続する可能性が大きいと言える。

しかしながら、次期衆院選において自公が勢力を維持すればもちろん政権交代はあり得ないし、また、野党勢力の躍進によってたとえ自公政権が動揺する事態に陥ったとしても、政策協定に基づく野党政権が成立するとは必ずしもいえない。むしろその場合は、選挙が終わった段階で「政変=政界再編」が起り、左派勢力を排除した与野党横断型の連立政権(いわゆる「大連立政権」)が成立する可能性が大きい―と私は考えている。このような事態になれば、立民主導の野党共闘はもちろん崩壊するだろうし、枝野代表をはじめ立民幹部は世論の批判に曝されることになるだろう。だが、権力さえ奪取すれば、そんなことは意に介さない世論がつくられることもまた歴史が教えているところだ。自由党と連合して成立した民主党政権のその後の姿がこのことを余すところなく証明しているではないか。

加えて、今回の野党共闘が国民民主を含むものであったことも、今後の野党共闘にとっては大きな波乱材料になる。すでにその兆候は表れており、野党共闘は明らかに「第2ステージ」に入ったと見るべきだ。その変化は、第1に野党共闘からの国民民主の脱落、第2に「れいわ」をめぐる野党再編の動きによって特徴づけられる。なぜなら、安倍政権の激しい切り崩し工作によって、国民民主が野党共闘から脱落することはほぼ既成事実と化しつつあるからだ。玉木国民代表は7月25日のインターネット番組において、「私は生まれ変わった。我々は憲法改正の議論を進め、安倍晋三首相にもぶつける。党として一つの考えをまとめる」と発言し、今後の改憲論議については「最終的には党首と党首として話をさせてもらいたい」と踏み込んだ(朝日7月27日)。
 
また、8月1日の臨時国会召集を控えて、国民民主の参院幹部が維新の片山虎之助参院議員団会長に統一会派の打診をしたことも無視できない。意図は、国民民主が参院で野党第1会派を確保するためだというが、仮に両党が参院で統一会派を組むなら40議席となり、立民と社民の会派(35議席)を上回ることになる。参院国民民主が維新と会派を組み、改憲勢力に入るなら「3分の2」を超えることになる(日経7月27日)。

ただし、この選択が国民民主の解党・消滅を導くことになることは必定だ。改憲反対の政策協定に署名して野党共闘に参加した直後に改憲勢力と手を組む(寝返り)ことは、有権者に対する明白な裏切り行為であり、政党として許されるものではないからだ。ただそうでなくても、国民民主内の改憲分子が今後さみだれ式に改憲会派に合流することが十分考えられる(この可能性が一番大きい)。この動きが止まらなければ、国民民主は政党としての存在意義を失い自然消滅していくことにならざるを得ない。いずれにしても、国民民主が次回衆院選までこのまま存続する公算は極めて小さいと言えるだろう。

第2は、「れいわ旋風」が立民主導の野党共闘に波乱を呼び起こし、野党再編の新しい動きが生じる可能性が大きいということだ。開票前まではメディアで無視されていた「れいわ」が予想以上の得票を獲得したことは、既成野党に大きな衝撃を与えた。「れいわ旋風」に対する野党各党の反応は、枝野代表「様々なところで連携したい」、玉木代表「率直に意見交換したい」、志位委員長「協力できることは何でも協力していきたい」と濃淡様々だが、いずれにしても「れいわ」が無視できない存在であることはもはや明らかだ(朝日7月23日)。

「れいわ」の出現は、次期衆院選の野党共闘においては「諸刃の剣」として作用する可能性がある。政権交代に必ずしもつながらない野党共闘路線に固執する立民に対しては「毒薬」として、本格的な政権交代を求める左派勢力に対しては「劇薬」としてである。朝日新聞野党担当キャップは、次のように指摘している(7月25日)。
 「山本氏の視線の先には、国会に緊張感をもたらす野党勢力をつくり、政権交代をめざす狙いがあるという。本来、その役割が最も期待されていたのは野党第1党の立憲民主党のはずだ。しかし、枝野幸男代表は2017年秋の結党以来、非自民という枠組みだけの結集は繰り返さないとの姿勢を貫き、政党間合流を含めた野党共闘を否定し続けている。(略)安倍政権下の政策で恩恵を受けている『勝ち組』や『主流派』の人々も少なからずいるだろう。しかし、主流の外にいる少数者たちは、多くは悩みや不満を抱える。山本氏はその声なき声に耳を傾け、大きなうねりを起こした。そこには、与党にはできない野党の強みがあった。立憲をはじめとする既成野党はどう応えるのだろうか」
 
立民内にははやくも「れいわ=毒薬」に対する警戒感が広がっている。「反原発」「消費税廃止」「辺野古基地建設中止」などを打ち出す山本氏の姿勢が左派を中心に熱狂的に支持されたことから、このまま放置すると政権批判の主導権を脅かされかねないとの懸念が広がっているからだ。産経はその状況を次のように解説している(7月23日)。
 「山本氏は参院選で秋田、岩手、宮城、大分、大阪などの選挙区で応援に奔走しており、選挙期間中にもかかわらず『消費税延期』という党方針に反して、『消費税廃止』と繰り返した立民の当選者もいた。立民関係者は『離党してれいわに移籍する可能性は十分ある』と警戒する。れいわと手を結べば責任政党の土台が崩れ、対立すれば身内の反目や政権批判票離れを招きかねない」

次期衆院選における野党共闘において、立民が今回参院選レベルの政策協定に固執すれば、「れいわ」が野党共闘から離反して独自の選挙戦を戦う公算が大きい。その時、立民主導の野党共闘が政権批判票を「れいわ」に奪われるかもしれず、またこの事態になれば、共産が立民と「れいわ」のいずれを選択するかが問われることになる。その時、共産は「れいわ」の自由奔放な運動形態に翻弄され、「れいわ」という劇薬によって上意下達の組織にヒビが入るかもしれない。いずれにしても、枝野代表がこれまで主導してきた(方便としての)野党共闘路線が破綻し、政権交代のための(本物の)野党共闘が問われる局面がやってくる。(つづく)

2019.08.14 野党共闘はオールマイティか
2019年参院選を顧みて(1)

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

2019年参院選が終わった。既に多くの解説や論評が出ているので改めて繰り返さないが、私の関心事はとりわけ野党共闘の成果が野党勢力の伸長にどう反映したかを分析することにある。注目点は、第1が投票率が50%を割ったこと、第2が護憲勢力が相対的に後退し、なかでも左派勢力の中心である共産と社民が大量票を失ったこと、第3が1人区において野党統一候補が善戦し改憲勢力3分の2を阻止したものの野党勢力の伸長には繋がっていないことである。

今回参院選の注目点の第1は、投票率が「議会制民主主義の危機」といわれる50%を割り込み、有権者の過半数が棄権したことである。前回2016年参院選の投票率54.7%から48.6%(▲6.1ポイント)となり、戦後2番目の低投票率に落ち込んだ。投票率50%割れは29府県に及び、大都市部、地方部ともに低下した。投票率分布(カッコ内は前回参院選)は、30%台1県(0)、40%台28府県(4県)、50%台17都道県(39都道府県)、60%台1県(4県)である。18~19歳投票率は今回さらに低下した。前回46.9%から31.3%(▲15.6ポイント)に大幅低下し、ティーンエージャーは3分の1しか投票していない。

投票率低下の原因については、政治不信、安倍政権に対する絶望感、無関心層の広がりなど様々な見方がある。私は「1億総バカ現象」とまでは言いたくないが、かなり深刻な「政治劣化現象」が国民の間に広がっているのではないかと懸念している。トランプ大統領の移民排斥や人種差別発言がアメリカ国民の分断を助長し、ヘイトクライムを増大させているように、安倍首相のウソつき政治の浸透が国民の倫理観を麻痺させ、政治不信を掻き立て、議会制民主主義に対する関心や責任感を奪っていると思うからだ。その結果が投票率の低下となってあらわれたのだろう。

第2は、投票率の低下によって全体得票数(比例代表得票数、諸派、無所属を含む)は5601万票から5007万票へ減少し、▲594万票(▲10.6%)となったが、改憲勢力よりも護憲勢力の減少率の方が大きかったことだ。改憲勢力3分の2を阻止したので、あたかも護憲勢力が伸長したような印象が広がっているが、事態は逆である。改憲勢力(自民、公明、維新)は3284万票(得票率58.6%)から2916万票(同58.2%)へ▲369万票(▲8.2%)だったのに対して、護憲勢力(立民、国民、共産、社民)は、1930万票(得票率34.5%)から1693万票(同33.8%)へ▲237万票(▲12.3%)と、▲4ポイントも減少率が大きかった。ただ、得票率が辛うじて3分の1を上回っただけである。

なかでも注目すべきは、伝統的な左派勢力である共産・社民の得票数が激減したことだ。旧民進(立民+国民)が▲35万票(▲3.0%)と減少幅が小さかったのに対して、共産は4分の1の▲153万票(▲25.4%)、社民は3分の1の▲49万票(▲31.8%)という大量票を失った。全体得票率▲10.6%を基準にすると、共産減少率▲25.4%は2.5倍、社民減少率▲31.8%は3.0倍となり、全体得票率の減少よりも遥かに高い倍率で共産・社民の得票数が激減したことになる。共産・社民・旧民進系の減少数合計▲237万票は、「れいわ」△228万票の得票数とほぼ見合うものであり、このことは、旧民進系の一部と共産・社民票の少なくない部分が「れいわ」にシフトしたことを意味している。

【参院選全選挙区、与党3党比例代表得票数の推移、単位万票、()内数字は得票率】
     2016年   2019年   増減数  増減率
総計 5601(100) 5007(100)  ▲594  ▲10.6%
-------------------------------------------------------------
与党計 3284(58.6) 2916(58.2)  ▲369  ▲11.2%
自民   2012(35.9) 1771(35.3)  ▲240  ▲11.9%
公明    757(13.5)  654(13.1)  ▲104  ▲13.7%
維新   515(9.2)   491(9.8)   ▲25  ▲4.8%

【参院選全選挙区、野党4党比例代表得票数の推移、単位万票、()内数字は得票率】
       2016年 2019年 増減数  増減率
総計  5601(100) 5007(100)  ▲594 ▲10.6%
-------------------------------------------------------------
野党計 1930(34.5) 1693(33.8) ▲237 ▲12.3%
旧民進   1175 (21.0) ※1140(22.8) ▲35 ▲3.0%
 立民 792(15.8)
 国民 348(7.0)
共産   602(10.7)    448(8.9)  ▲153 ▲25.4%
社民    154(2.8)     105(2.1)  ▲49 ▲31.8%
-----------------------------------------------------------
れいわ    ―     228(4.6)  △228

無党派層においても共産・社民離れが進行している。共同通信出口調査によると、無党派層は前回参院選21%、今回参院選20%とほぼ同率であり、前回と今回の無党派層の投票先は、自民22%→24%、公明7%→7%、維新11%→12%と改憲勢力が微増している。改憲勢力は半数近い無党派層の安定した支持(N国を加えると45%)を維持しているのである。これに対して護憲勢力は、民進23%→28%(立民21%、国民7%)、共産15%→11%、社民4%→3%、「れいわ」10%となり、民進系が増えたが共産・社民が減っている。ここでも共産から立民と「れいわ」に無党派層の投票先がシフトしている様相が見てとれる。

第3は、1人区では野党共闘が一定の勝利を収めたものの、野党勢力の拡大には必ずしもつながっていないことである。参院選1人区の総得票数(諸派、無所属を含む)は前回2089万票、今回1862万票、▲227万票(▲10.9%)であり、全体の減少率▲10.6%とほぼ等しい。前回は統一候補得票数と野党得票数が2088万票で同数だったが、今回は統一候補得票数1862万票が野党得票数1836万票を△26万票(△12.4%)上回った。

野党統一候補の得票数と野党4党得票数の割合を見ると、32区のうち29区で統一候補が4党得票数を上回り、その内訳は150%以上4区(うち当選4)、140%以上3区(当選1)、130%以上4区(当選1)、120%以上9区(当選3)、110%以上6区(当選1)、100%以上3区(当選0)、100%未満3区(当選0)だった。

野党統一候補の政党別内訳は、前回が民進15、共産1、無所属16、今回は立民7、国民6、共産1、無所属18でそれほど変わらないが、得票数は民進系候補が485万票(得票率23.2%)から316万票(同17.0%)へ▲227万票(▲34.8%)と激減したのに対して、無所属候補は投票率の低下にもかかわらず、408万票(得票率19.5%)から443万票(同23.8%)へ△35万票(△8.6%)増加した。

一方、1人区の野党比例代表得票数は2088万票から1836万票へ▲252万票(▲13.1%)となり、全体の減少率▲10.6%よりも大きかった。野党共闘が成立している1人区で野党得票数が減ることは、無所属候補の増加が統一候補得票数の増加に寄与しているものの、野党各党の比例代表得票数の増加には必ずしも結びつかないことを示している。

なかでも注目されるのは、前回と今回で旧民進(立民+国民)が455万票(得票率21.8%)から423万票(同23.5%)へ▲32万票(▲7.0%)で比較的減少幅が小さかったのに対して、共産は182万票(得票率8.7%)から136万票(同7.4%)へ▲46万票(▲25.4%・4分の1)、社民は74万票(同3.5%)から59万票(同3.2%)へ▲15万票(▲20.1%・5分の1)と、共産・社民の減少が非常に大きかったことである。これは、旧民進、共産、社民の▲93万票の多くが「れいわ」△71万票の得票に流れたことをうかがわせる。

全選挙区における野党各党の前回と今回の得票数の差は、旧民進▲35万票(▲3.0%)、共産▲153万票(▲25.4%)、社民▲49万票(▲31.8%)である。これに対して1人区では、旧民進▲32万票(▲7.0%)、共産▲46万票(▲25.4%)、社民▲15万票(▲20.1%)だから、野党各党は野党共闘が成立した1人区においてむしろ後退しているとさえ言える。原因は明らかであり、無所属候補の増加と「れいわ」の登場が、野党各党の比例代表得票数の減少につながったと言えるだろう。

【参院選1人区、野党統一候補得票数の推移、単位万票、()内数字は得票率】
  2016年  2019年 増減数  増減率
総計 2088(100) 1862(100)  ▲227  ▲10.9%
------------------------------------------------------------
計 904(43.3) 767(41.2)  ▲137  ▲15.2%
旧民進  485(23.2)  ※316(17.0) ▲169  ▲34.8%
立民         191(7.5)
 国民         125(6.7)
共産    10(0.5)    8(0.4)  ▲2   ▲20.0%
無所属   408(19.5) 443(23.8) △35   △8.6%

【参院選1人区、野党4党比例代表得票数の推移、単位万票、()内数字は得票率】
    2016年   2019年 増減数 増減率
総計 2088(100) 1836(100)   ▲252 ▲12.1%
------------------------------------------------------------
野党計 711(34.1)(100) 618(37.5)(100)  ▲93 ▲13.1%
旧民進  455(21.8)(64.0) ※423(23.5)(68.4)  ▲32 ▲7.0%
 立民         265(14.4)(42.9)
 国民         158(8.6)(25.6)
共産   182(8.7)(25.6)   136(7.4)(22.0)  ▲46 ▲25.4%
社民    74(3.5)(10.4)   59(3.2)(9.5)   ▲15 ▲20.1%
-------------------------------------------------------------
れいわ    ―      71(3.9)   △71

メディアは野党後退をどう見ているだろうか。産経(7月28日)は得票数を大きく減らした政党として、与党では公明、野党では共産に焦点を当てて以下のように論評している(要旨)。
「公明は今回参院選で比例代表得票数は654万票、前回から104万票減らしたにもかかわらず低投票率に助けられて14議席を獲得し、過去最高28議席を占めた。だが、創価学会員を始め支援者の高齢化が深刻で、得票数を回復させるのは容易でない」
 「共産は比例代表850万票の獲得を目指したが、今回は153万票減らし、前回の602万票を大きく下回る448万票にとどまった。全体でも獲得議席は7と改選前の8から後退した。共産が比例票を減らしたのは、支持層の高齢化に歯止めがかからないことに加え、野党共闘の前提として他党に求めてきた「相互推薦・支援」をうやむやにしたことが大きい」
「共産は、初めて野党共闘に踏み切った2016年参院選と2017年衆院選において選挙区で候補を取り下げたが、政権批判票が比例も含めて他党に流れる動きが止まらず比例票が伸び悩んだことを受け、今回は『相互推薦・支援』の確約を求めてきた。しかし、野党間の候補者調整が進まない現状にしびれを切らし、今年5月に「状況に即して勝つために効果的な支援を目指したい」と軌道修正。改憲勢力『3分の2』阻止などを争点に掲げ、選挙区で候補の取り下げを進めた」
「この結果、今回は比例で前回から1減の4議席しか確保できず、政権批判票は今回も野党第一党の立憲民主党などに流れた可能性が高い。加えて、党勢を切り売りしても堅持した野党共闘にはほころびが出ている。国民民主の玉木代表は7月25、憲法改正について「私は生まれ変わった。議論は進める。安倍首相にもぶつける」と明言した。首相と玉木氏が改憲推進で一致すれば、成果として誇る「3分の2割れ」がヌカ喜びに終わりかねない」

以上の指摘は重要だ。改憲勢力「3分の2割れ」を実現するために身を切ってまで野党共闘成立に奮闘してきた共産が、その努力を報われることなく「党勢後退」という深刻な事態に追い込まれたからだ。次期衆院選においても「野党共闘推進」という基本方針は変わらないだろうが、このままでは「党勢後退」どころか「党勢危機」にもつながりかねない。(つづく)
2019.08.10 小泉進次郎の正体を報道せよ
―結婚報道は進次郎政権への開門―

半澤健市 (元金融機関勤務)

 小泉進次郎自民党衆院議員が、フリーアナウンサー滝川クリステルとの結婚を安倍首相と菅官房長官に報告し、その後の記者会見でそのことを発表した。滝川は懐妊しているという。この発表前後の進次郎報道で私の目にとまったものが二つある。

《山本太郎と藤井聡は小泉進次郎を批判》
 一つは、れいわ新選組山本太郎の進次郎観である。BS-TBSの「報道1930」(2019年8月5日)で司会の松原耕二は、ゲストの山本太郎に対して「小泉進次郎と組んだらどうか」と質問をした。野党共闘を誰と組むかという質問の最後に聞いた。面白いところを衝いたつもりらしい。山本太郎はすかさず、「どうなんですかね?(小泉進次郎は)CSISと深いつながりがあるんではないですかね?」と返答した。そして、8月8日朝のニュースで、山本太郎は進次郎の首相官邸での結婚発表を「政治的利用を感じる」とコメントした。

二つは、藤井聡の厳しい進次郎批判である。京都大学大学院教授の藤井聡は、文化放送の報道番組(8月8日朝)で、政治家小泉進次郎を全否定する発言をした。藤井は、2012年から18年まで安倍内閣官房参与だった。政治家としての進次郎をよく知っている。そして進次郎は新自由主義の信奉者であり、農協解体などの「構造改革」を進めて日本農業を破壊していると言った。「バカ」であると呼んで藤井は政治家小泉を酷評した。

《太郎と進次郎の政権獲得闘争へ》
 自民党は遂に切り札小泉進次郎を担ぎ出した。これは私の個人的な見立てである。
その背景には、安倍政治の八方塞がりがあり、れいわ新選組の躍進がある。ポピュリズム政治の時勢にあって自民党は、連立公明党や自党の石破茂、岸田文雄では勝てないと思ったのである。野党も山本太郎を軸にした共同戦線を張らなければ、進次郎ブームに圧倒されるだろう。

小泉進次郎とは何者なのか。管見の限り、政治ジャーナリストが小泉進次郎の政治理念、イデオロギー、政策とその実績を精査し報道したものを見たことがない。私が見るのは、は女性フアンに囲まれてキヤッチコピーを発しているテレビ画面の小泉進次郎である。

《誰も小泉進次郎の顔しか知らない》
 小泉進次郎は自らの公式サイトで学歴・職歴を次のように書いている。
・1988年 4月 関東学院六浦小学校入学、 以来中学・高校・大学と関東学院で過ごす
・2004年 3月 関東学院大学経済学部卒業
・2006年 5月 米国コロンビア大学大学院で政治学部修士号取得
・2006年 6月 米国「戦略国際問題研究所」(CSIS)研究員に
・2007年 9月 衆議院議員小泉純一郎秘書
・2008年 10月 自由民主党神奈川県第11選挙区支部長
・2009年 8月 衆議院議員
・2011年 10月 自民党青年局長
・2013年 9月 内閣府大臣政務官・復興大臣政務官
・2015年 10月 自民党農林部会長
・2017年 8月 自民党筆頭副幹事長
・2018年 10月 自民党厚生労働部会長

ウィキペディアによれば、小泉進次郎はコロンビア大学ではジェラルド・カーティスに学び、シンクタンクCSISではマイケル・グリーンの下で研究をした。いずれも「ジャパン・ハンドラー」の代表的な人物である。ジヤパン・ハンドラーとは、日本の対米隷従システムの舵をとる米国側の日本専門家である。

《核心が見えにくい小泉進次郎の発言》
 小泉のイデオロギーや実績を追跡したメディアは少ない。ネット配信「朝日RONZA」には、小泉インタビューがいくつか載っている。高齢化時代、人生100年時代の社会保障に関する発言が多い。現在の自民党厚生労働部会長という立場から当然である。
給付の削減か積み立ての増加か、という二者択一の問題設定に批判的であり、一見柔軟性に富む発言に見える。しかし選択肢の増加=生き方の選択肢への問題転化にもつながる。「企業の論理」を貫徹するために「生き方の選択肢」が増えるワナを警戒しなければならない。また進次郎の発言には、民主主義や平和外交の言葉が出てこない。出てくる「日米同盟の強化」や「国際社会への貢献」という言葉の現実は、自衛隊の海外派兵や米軍産体制に奉仕する政策に帰結しつつある。これが安倍長期政権の「成果」である。私は、小泉の新自由主義は巧妙に隠されているという印象をもつ。

小泉は2019年5月3日にCSISで講演をした。その全文と概要は小泉進次郎公式サイトからアクセス可能である。読者はそれを読んで拙稿の当否を判断して欲しい。今回は引用を控えたが、ジャパン・ハンドラーからの連想で小泉進次郎が日米支配層の情宣代理人であるとみるサイトが多い。

《徹底的に小泉進次郎の正体を報道せよ》
 日本の政治ジャーナリズムに、小泉進次郎のコロンビア大学院修士論文やCSISでの研究論文を、日本で報道されていない発言を、徹底的に分析し報道してもらいたい。そして本人にその意図と本音を聞いてもらいたい。そのうえで自分の頭で考えた忖度なしの小泉進次郎論を展開してもらいたい。政治報道は芸人報道より重要である。国民の命につながるからである。(2019/08/08)

2019.08.09 日本政府の核政策への批判相次ぐ
2019年の「8・6広島」

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 8月6日は、米軍機が広島市に原爆を投下してから74年。この日を中心に、広島では今年も原爆の犠牲となった人々を悼む慰霊の行事や核廃絶を求める集会が繰り広げられた。酷暑の中、全国から多くの人々がこれらの行事や集会に集まったが、そこでは、日本政府の核政策を批判する声が相次いだ。とくに、2年前に国連で採択された核兵器禁止条約に背を向け、いまだにこれへの署名・批准を拒否していることへの批判が目立った。加えて、米国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の間で行われている朝鮮半島非核化交渉についても日本政府が積極的な役割を果たしていないことへの批判も聞かれた。
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【2019年8月6日朝の原爆ドーム。原爆は74年前の8月6日午前8時15分、
ドーム上空約600メートルで炸裂した】 写真はクリックすると拡大します。

 今年の「8・6」に関する行事や集会は、緊迫する核情勢の中で行われた。なぜなら、冷戦終結後の核軍縮の柱となってきた米国とロシアの中距離核戦力(IMF)廃棄条約が8月2日に失効したうえ、2021年に期限切れを迎える米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)が、その後も延長されるのかどうか不透明な状況となっているからである。
 そればかりでない。米国のトランプ政権が、核兵器の使用をより可能なものとするための小型核兵器開発を始めるなど、核軍縮に逆行する動きを強め、ロシアもこれへの対抗姿勢を強めているからだ。世界は新たな核軍拡競争に突入したと言える。イラン核合意から脱退した米国の動き、核兵器を保有しているインド・パキスタンの対立激化も世界に緊張をもたらしている。 

 そんな世界情勢に直面しているためか、広島における行事や集会では、核兵器禁止条約の意義が一昨年、昨年にも増して強調された。
 核兵器禁止条約は2017年7月、国連加盟国193カ国中122カ国(6割)の賛成により採択された。その内容は「条約締結国は、いかなる場合も、核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵のほか、核兵器やその管理の移譲、核兵器の使用、使用するとの威嚇、核兵器を自国内に配置、設置、配備することを行わない」とするもので、核兵器を全面的かつ厳密に禁止する画期的、歴史的な条約とされている。
 条約を採択した会議を主導したのは非核保有国や非同盟諸国で、米、露、中、英、仏のほか、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮などの核保有国と、米国の「核の傘」に自国の安全保障を委ねる日本やNATO(北大西洋条約機構)加盟国は会議に参加しなかった。発効には50カ国・地域の批准が必要だが、これまでに25カ国が批准している。

 6日に平和記念公園で開かれた広島市主催の平和記念式典には、台風8号の余波による雨の中、被爆者、89カ国の代表、各都道府県別の遺族代表、一般市民ら約5万人(広島市発表)が参列した。参列者は式典会場に入れきれず、会場外にあふれた。式典参列者数は前年と同じだったが、雨にたたられるという悪条件を考えれば、よくこれだけ集まったという印象が強く、被爆から74年たってもなお人々の間で原爆投下に対する抗議と犠牲者への慰霊の気持ちと核兵器廃絶への願いが衰えていない、と感じさせた。
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【広島市民は原爆が投下された8月6日午前8時15分には、犠牲者の霊に黙とうをささげる。今年も、平和記念式典に参列していた全員が黙とうに参加し、その中には、中学生の姿もみられた】

 松井一實・広島市長は「平和宣言」の中で「日本政府には唯一の戦争被爆者として、核兵器禁止条約への署名・批准を求める被爆者の思いをしっかりと受け止めていただきたい。その上で、日本国憲法の平和主義を体現するためにも、核兵器のない世界への実現にさらに一歩踏み込んでリーダーシップを発揮していただきたい」と述べた。
 同市長は、同条約に後ろ向きな日本政府に対し、昨年までは署名・批准を直接求めてこなかった。これに対し被爆者団体など約30団体が反発し、今年は明確に政府に対し署名と批准を求めるよう要請していた。それを無視できなかったのか、今年の宣言には「署名・批准を求める被爆者の思いを受け止めていただきたい」と書き込まれた。
 被爆者の1人は「被爆者の思いを政府に伝えるという形でなく、市長として署名・批准を求めると言ってほしかった。そうすれば、広島市民が署名・批准を求めている、という宣言になったのに」ともらした。が、自民・公明の推薦で市長になったことから、これまで政府の方針に配慮してきた松井市長としては一歩踏み込んだ宣言と言ってよく、その点は評価したい。

 一方、原水爆禁止団体や市民団体の大会や集会では、核兵器禁止条約に参加しない安倍政権への批判が噴出した。
 4日開かれた原水爆禁止日本国民会議(原水禁)の被爆74周年原水爆禁止世界大会・広島大会開会総会(1900人参加)で、あいさつに立った川野浩一議長は「原爆により広島・長崎で40万近い市民が被爆死した。被爆国の政府として日本政府は核兵器禁止の先頭に立つべきなのに、核兵器禁止条約にいまだ賛同していない。こんな政府を許せるか。政府は被爆者の怒りを真摯に受け止めるべきだ」と述べた。
 同大会で6日採択された「ヒロシマ・アピール」は「2020年には核不拡散条約(NPT)再検討会議が行われます。原水禁、連合、KAKKIN(核兵器廃絶・平和建設国民会議)は再検討会議にむけて、日本政府に核兵器禁止条約の批准、NPT再検討会議の成功を求める『核兵器廃絶1000万署名』に取り組むことに合意しました。日本政府の『核兵器禁止条約署名・批准』を実現させるため、原水禁運動の総力を挙げましょう」と述べている。

 6日に開かれた原水爆禁止日本協議会(原水協)の原水爆禁止2019年世界大会・広島(1300人参加)は「広島からのよびかけ」を採択したが、そこには、こうあった。
 「五つの核保有国は、NPT再検討会議の合意に背を向け、核兵器禁止条約に反対しています。『核兵器は安全の保証だ』とする『核抑止力』論は、核兵器の非人道性の告発によって破綻しています。核兵器禁止条約の発効はもはや時間の問題です」「アメリカの『核の傘』からの離脱と核兵器禁止条約への参加を日本政府に強く求めましょう。400を超えた禁止条約への署名・批准を求める自治体意見書のとりくみをさらに大きく広げましょう。日米核密約を破棄し、非核三原則の厳守・法制化を求めましょう。ニューヨークでの原水爆禁止世界大会をはじめ、2020年NPT再検討会議での国際共同行動を成功させましょう」
 
 5日に開かれた市民団体中心の「8・6ヒロシマ平和つどい」は、参加者一同の名で「市民よる平和宣言2019」を採択したが、そこに「2020年に行われるNPT再検討会議を前に、日本政府に対し核兵器禁止条約への署名・批准を強く求める」と書き込まれた。

 こうした日本政府批判に対して安倍首相はどう対応したか。
 首相は広島市主催の平和記念式典であいさつしたが、核兵器禁止条約には一切ふれず、「近年、世界的に安全保障環境は厳しさを増し、核軍縮をめぐっては各国の立場の隔たりが拡大しています。我が国は、『核兵器のない世界』の実現に向け、非核三原則を堅持しつつ、被爆の悲惨な実相への理解を促進してまいります。核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、双方の協力を得ながら対話を粘り強く促し、国際社会の取り組みを主導していく決意です」と述べるにとどまった。
 式典後の記者会見でも「核兵器禁止条約は現実の安全保障の観点を踏まえることなく作成され、核兵器保有国が参加していない」と条約不参加の理由を述べ、これまでの方針を変えなかった。

 各集会では、昨年3月から始まった朝鮮半島非核化の動きに対しても活発な議論が行われた。世界は今、米国と北朝鮮の交渉の行方を固唾をのんで見守っているが、これから先、どういう形で両国の交渉が進むのが一番望ましいか、あるいは、どういう解決策が現実的に可能なのか、といった観点からの発言もあった。印象に残ったのは、原水禁の分科会における梅林宏道氏(ピースデポ特別顧問・元長崎大学核兵器廃絶研究センター客員教授)の「北東アジア非核兵器地帯」創設案だった。
 これは北朝鮮、韓国、米国、中国、ロシア、日本の6カ国で朝鮮半島を含む北東アジア核兵器地帯を作ろうという提言だ。梅林氏は「この構想に日本政府は積極的に取り組むべきだ。なぜなら、これが実現すれば、日本は米国の核の傘から脱却できるし、核兵器禁止条約にも参加することができるのだから」と述べた。

 朝鮮半島の非核化をめぐって南北朝鮮、米国、中国、ロシアがさまざまな動きを見せている中で、日本だけが、ここうした動きの「カヤの外」に置かれていることにも批判の声が上がった。「政府は、北朝鮮に対しては制裁強化一辺倒という態度を転換し、この国との国交正常化を急ぐべきだし、韓国とも友好な関係を築くべきだ」という発言もあった。

 各集会では、安倍政権が、東京電力福島第1原子力発電所の事故後も、原発の再稼働を推進していることに反対する声も強かった。中には、「日本の支配層が原発推進を断念しないのは、日本の核武装を目指しているからではないか」という意見もあった。

 日本の核廃絶運動は、果たして日本政府の核政策を変えることができるか、どうか。そのための本格的な国民運動を構築できるか、どうか。今年の「8・6」は、運動側に厳しい課題を突きつけたように思えた。

2019.08.05 否定された安倍首相の改憲路線
護憲団体が参院選を総括

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 参院選が終わった。「改憲反対」を掲げて参院選を闘った護憲団体から、選挙結果に対する総括が相次いで発表された。そのうちの代表的なものの内容を紹介する。

 総選挙に向けてさらなる協力を―市民連合
 安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)は参院選直後の7月22日、「参議院選挙の結果を受けて」と題する一文を発表した。
 それは、冒頭部分で「この選挙では、多くの地域で市民と野党の共闘が実現しました。そして、32の1人区で10議席を獲得できました。また、改憲勢力の3分の2を打破することができました。自民党が現有議席を確保できず、参議院における単独過半数を失ったことにかんがみても、憲法改正を訴えた安倍晋三首相の路線が否定されたということができます」と述べ、「これは、日本の立憲主義と民主主義について危機感を燃やした市民と野党の頑張りの賜物です」としている。まさに、“勝利宣言”とみて差し支えないだろう。

 その一方で、一文は「残念ながら、安倍政権はさらに継続することとなりました。憲法改正の動きは一応頓挫しましたが、安倍自民党はこれから様々な形で憲法改正にむけた揺さぶりをかけてくることが予想されます。私たちは、引き続き立憲主義と平和国家を守るために運動を続けなければなりません」とし、さらに「この参議院選挙で野党共闘が一定の成果を上げたことをふまえ、次の衆議院総選挙に向けたさらなる協力を作り出すことが求められます。政権構想の深化と選挙協力体制の構築のために、市民と野党の対話、協力を続けていきたいと考えます」と述べている。

 改憲勢力3分の2を阻んだ運動に確信を―九条の会
 九条の会は7月29日、「参議院選挙後の新たな改憲情勢を迎えて」と題する声明を発表した。
声明は、まず「2017年5月3日の改憲提言以来、自民党は衆参両院における改憲勢力3分の2という状況に乗じて改憲を強行しようとさまざまな策動を繰り返してきましたが、その後2年にわたり市民の運動とそれを背にした野党の頑張りによって改憲発議はおろか改憲案の憲法審査会への提示すらできませんでした。そして迎えた参院選において、改憲勢力は発議に必要な3分の2を維持することに失敗したのです」と、こんどの参院選で改憲勢力を3分の2以下に追い込んだことを高く評価。
 続けて声明は「3分の2を阻止した直接の要因は、市民と野党の共闘が、『安倍政権による改憲』反対、安保法制廃止をはじめ13の共通政策を掲げて32の一人区全てで共闘し、奮闘したことです。また、安倍9条改憲NO! 全国市民アクション、九条の会が、3000万署名を掲げ戸別訪問や駅頭、大学門前でのスタンディングなど草の根からの運動を粘り強く続けることで、安倍改憲に反対する国民世論を形成・拡大する上で大きな役割を果たしたことも明らかです」と述べている。

 その上で、声明は「安倍首相は任期中の改憲をあきらめていません。それどころか首相は、直後の記者会見において「(改憲論議については)少なくとも議論すべきだという国民の審判は下った」と述べて改憲発議に邁進する意欲を公言しています」「安倍首相は、自民党案にこだわらないと強調することで、野党の取り込みをはかり3分の2の回復を目指すなど、あらゆる形で改憲強行をはかろうとしています」「安倍9条改憲を急がせる(米国の)圧力も増大しています」として、「参院選で3分の2を阻んだ市民の運動に確信をもち、3000署名をさらに推進し、広範な人々と共同して草の根から、9条改憲の危険性を訴える宣伝と対話の活動を強めましょう」と訴えている。

2019.08.01 再び徴用工問題を考える
韓国通信NO609

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 最悪の状態といわれる日韓関係。マスコミは、改善の出口が見えない、解決策がないとまで報じる。無責任な野次馬報道、政府主張の垂れ流し、お先棒を担ぐ新聞・テレビには本当に腹が立つ。彼らには解決策が見えないのは当然だ。あらためて問題点を考えてみた。

<アメリカに仲裁を期待する愚かさ>
 韓国にアメリカの仲裁を期待する向きがある。アメリカの舎弟(しゃてい)」を自認する日本がアメリカの仲裁なら受け入れると考えるのはわかる気がするが、アメリカの利益を優先する仲裁は将来に禍根を残すだけだ。日韓関係はこれまでアメリカによって歪められてきた歴史がある。当事国が真摯に向き合うことなしに真の解決は望めない。

<平和主義、協調主義をかなぐり捨てた安倍内閣>
 韓国を力で屈服しようとする安倍内閣の姿勢は、傲慢な差別主義者トランプ米大統領とそっくりだ。「戦後体制からの脱却」を目指す安倍政治の脱平和主義、脱協調主義は、「戦争法」の制定と同じく憲法改悪の先取り、憲法の蹂躙にほかならない。
 仮想敵を作りだしてナショナリズムの風を吹かすのは世界的風潮だが、アメリカを筆頭に経済的行き詰まりの兆候でもある。安倍内閣の「強がり」と「弱者切り捨て」政策は遠からず破綻する。国会の議席数では盤石に見えるが、庶民の不満は渦巻き、政権基盤は揺らぎ始めている。

<日本は正しい、韓国は間違っているという「決めつけ」>
 安倍政権に期待はしないが支持する人がかなり多いらしい。トランプ大統領を支持する現象に似ている。背信を山のように築いた政権を支持し続けるのは信じられないが、今回の参院選で不信感が広がっていることは立証された。自民党への支持者は有権者の20%前後だ。
 困った時の「隣国恃(たの)み」とはよく言ったものだ。人気落ち目の挽回策に隣国とことさら事を構える。古今東西、古典的な国民の支持誘導策だ。特に、オリンピックを来年に控え、「ガンバレ ニッポン」の「ノリ」で、対決ムードが軽く受け入れやすくなっているのかも知れない。 
 しかし、韓国との関係はスポーツの世界ではない。政府が撒いた不信の種が様々な民間交流に影響を及ぼし始め、政府のお墨付きを得たとばかりに憎悪(ヘイト)を声高に主張する勢力が勢いづいている。何が何でも、「韓国は間違っている」。「だから嫌い」という声が広がり始めている。
 首相とその取り巻き連中に共通する感情的な露骨な「決めつけ」。駐日韓国大使に「無礼」と発言してヒンシュクを買った河野外相の傍若無人ぶり。本当に恥ずかしい。

 問題の発端として1910年の日韓併合、1965年の日韓条約まで遡る必要があるが、ここでは、韓国大法院(最高裁)が2018年10月に新日鉄住金に賠償命令、続いて不二越、三菱重工にも同様の判決が続いたことから始めたい。
 日本政府は日韓請求権協定によって「すべて解決ずみ」と判決の無効と撤回を主張した。口を開けば「解決ずみ」という政府の主張が繰り返された結果、企業の加害責任が忘れ去られ、加害企業が被害者であるような理解が生まれた。日本政府は居丈高に「すべて解決ずみ」という姿勢から一歩もでない。
 オウム返しのように繰り返される政府の「見解」は正しいのか。政府を批判する法律家、学者たちの意見は発表の場すらない異常な状況が続いている。「すべて解決ずみ」への疑問を「韓国通信」NO576、NO585、NO596でも取り上げた。それほど難しい話ではないが、一般のマスコミも政府見解を前提にした状況が続いている。責任を問われた日本企業の前に政府が立ちはだかり、国益ばかりを主張する異常さに気づいてもらえるとうれしい。

<円満解決のチャンスを壊した安倍政権が押した「横車」>
 ◇日本は韓国最高裁判決の撤回を韓国政府に求めた。三権分立の韓国では行政府が最高裁判決の撤回を求めることは出来ない。かつてアメリカの圧力で「伊達判決」を最高裁で葬ったことのある日本は、アメリカ気取りで韓国に撤回を求めた。
 ◇「解決ずみ」と日本は主張するが、日本政府の公式的見解「国家間の請求権の問題は完全に消滅したが、個人の請求権は消滅していない」と矛盾する。(1991年8月27日参議院予算委員会)。国家間で解決ずみでも個人の請求権は、国際的にも認められた権利だ。
 さらに日本の最高裁でも請求権を認めている。中国人が強制連行による被害の賠償を求めた西松建設事件では請求権にもとづき和解による実質的賠償が行われた。花岡事件でも鹿島建設と和解による解決が行われた。今回の日本政府の介入で解決のチャンスが失われたことになる。原告側の強制執行に大騒ぎするが、そこまで追い込んだ責任は日本政府にある。政治献金の見返りに政府が加害企業をかばった疑いもある。加害企業の釈明は何も無い。

<日韓条約・請求権協定から問われる歴史認識>
 政府は締結済みの日韓条約・日韓請求権協定を主張するが、条約・協定について、今回あらためて慰安婦問題、徴用工問題等の諸問題点が明らかになった。「未来志向」の観点からも日韓正常化のために再検討が必要だ。
 日韓条約の合計5億ドルの経済協力金は賠償ではない。資金の使途は「経済の発展に供する」ものと定められた。植民地支配への謝罪を回避するために「経済協力」。個人が補償を求めると、「経済協力金」で賠償ずみというのは矛盾している。損害賠償と経済協力の都合の良い使いまわし。 
 日韓正常化交渉を振り返る。予備会談(1951)から始まり締結まで15年かかった。この間の交渉は侵略を正当化する日本側の発言で度々中断された。日本の侵略の歴史を「鉄道を敷いた」「学校を建てた」「経済発展に貢献した」などと侵略と搾取を正当化し続けた。それでも締結に至ったのはアメリカが締結を急がせたこと。朝鮮戦争によって荒廃した国土再建を急ぐ朴正煕軍事政権と日本政府の政治決着によるものだった。それは締結当時から韓国国民に屈辱的なものだった。
 「経済協力金」で韓国が奇跡的な経済発展をとげたのは事実だが、日本には植民地支配に対する旧態依然とした歴史認識が反省も無いままに残った。

 韓国・北朝鮮に対しては、何を云っても、何をしても構わないといった尊大ぶり。徴用工問題から火が噴いた輸出制限という「経済制裁」からも明らかだ。相手の主張は認めず、韓国・北朝鮮に対しては、何を言っても、何をしても構わないといった尊大ぶり。徴用工問題に目を向けようとしない政府の姿勢からは、かつて朝鮮・中国へ侵略を進めた驕りの気分さえ感じさせる。日韓条約にもとづく仲裁委員会の設置に韓国が応じなかったという非難も姑息だ。仲裁委員会で解決する見通しは皆無である。時間稼ぎをして韓国が悲鳴をあげるのを待つ狙いだ。韓国側の怒りを知ろうともせずに、「明らかに国際法違反」などと外務大臣が居丈高に口走る姿は理解に苦しむ。
 問われているのは日本か韓国か。歩み寄るべきはどちらなのか。