2022.08.15 G7広島サミットを批判する市民集会を開こう
広島で市民による準備会が発足

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 G7広島サミットが2023年5月19日(金)~21日(日)、広島市内で開催されるが、広島の市民団体が、同サミットを徹底的に批判する市民集会を開こうと準備を進めている。

 G7サミットとは、首相官邸のHPによれば、自由、民主主義、人権などの基本的価値を共有する仏、米、英、独、日、伊、加の7カ国の首脳が一つのテーブルを囲みながら、世界経済、地域情勢、様々な地球規模課題について、率直な意見交換を行う場だという。毎年開催されており、日本での開催は7回目となる。

 G7広島サミットを批判する市民集会を開こうという提案は、広島の市民団体、市民らが8月5日に広島市内で開いた「8・6ヒロシマ平和のつどい2022」でなされた。
 提案されたのは「2023年5月『G7広島サミット』批判の市民集会開催の提案」と題する文書で、提案者は「G7広島サミットを問う市民のつどい準備会」だった。

 提案は、まず「G7サミットとは、帝国主義間の非公式な、法的根拠を持たない国際会議に過ぎない。国際的な重要問題については国連加盟国193国による国連総会で平等に論議され、決められるべきであり、たった7カ国で決定されてはならない」とし、「岸田首相が主導権を発揮した『G7広島サミット』の結果は、2016年5月に広島を訪れたオバマ大統領と同じように、原爆無差別大量殺戮に対して最も責任の重い米国と、マンハッタン原爆開発計画に参加したお英国、カナダを含む7カ国の首脳が、おざなりの慰霊のために平和公園を訪れるだけの『political show 政治的な見世物』に終わることであろう。かくして、オバマ大統領と安倍首相が広島の犠牲者の霊を政治的に利用し、米国も日本も、それぞれが戦時中に犯した戦争犯罪の犠牲者に対しての謝罪は一切せずに、結局は広島を日米軍事同盟の強化のために利用したのと同様、来年も再び広島が政治目的のために利用され、市民が踊らせるだけという結果になるであろうことは明らかである」とする。

 その上で、提案は「こんな状況を黙って見過ごすわけにいかない」と述べ、「私たちはG7サミットが開かれる1週間前の2023年5月13日~14日に広島市内でG7サミットを徹底的に批判する大規模な市民集会を開催することを提案し、実現に向けてこれから活動を展開していくための呼びかけをここに行う」としている。

 さらに、提案は、G7首脳への要求はとりあえず5点である、として以下の項目を挙げている。
1 バイデン大統領は、広島・長崎への原爆無差別大量虐殺が「人道に対する罪」であったことを認め、被害者ならびにその親族に謝罪すべきである。同時に、核抑止力(=核兵器保有)が「平和に対する罪」であることを認め、核兵器を即時廃棄すべきである。
2 岸田首相は、日本軍国主義によるアジア太平洋侵略戦争の加害責任を認め、戦争中に日本軍や日本政府がアジア太平洋各地で犯した戦争犯罪行為や人権侵害の被害者ならびにその親族に謝罪すべきである。
3 岸田内閣は日米軍事同盟を廃棄し、NATOへの加担をやめ、沖縄をはじめ日本各地の米軍基地の即時撤去を米国政府に要求すべきである。
4 G7首脳は、軍拡でロシア・中国・朝鮮を封じ込めることをやめ、それらの国々との平和的共存を目指して、外交交渉を粘り強くすすめていくべきである。そのためには、ロシア軍がウクライナ侵略戦争遂行をただちにやめ、ウクライナ大統領・ゼレンスキーとロシア大統領・プーチンが和平交渉のテーブルに1日も早くつくように、G7首脳も努力しなければならない。
5 G7首脳は、気候危機を発生させ且つ今もその危機状況をさらに悪化させている、いわゆる先進工業諸国としての責任を自覚し、生物多様性を保持、発展させ、脱原発と化石燃料削減による脱炭素社会実現に向けて懸命の努力をしなければならない。

 G7広島サミットを問う市民のつどい準備会事務局の久野成章さんによると、準備会が発足したのは7月18日。準備会の呼びかけ人は現在20人だが、今後、広島市内から呼びかけ人を、全国から賛同人と賛同団体を募るという。
 来年5月の行動内容だが、13日(土)は広島市内のアステールブラザで屋内集会、翌14日(日)に屋外集会とデモ行進を計画しているという。

 G7広島サミットを問う市民のつどい準備会の連絡先は次の通り。
 〒730-0853 広島市中区堺町1-5-5-1001
 電話090-4740-4608

2022.08.09 広島市・平和団体と首相の間の深い溝明らかに
「8・6広島」 核禁条約を巡って

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 広島は8月6日、「被爆77年」を迎えた。核戦争が勃発するのではないかという危機感が世界に広がる中、広島市で、この日を中心に、市当局や平和団体よってさまざまな催しが行われたが、それらを通じて鮮明になったのは、広島市や平和団体がこぞって「核戦争を起こさせないためには核兵器を廃絶する以外にない。それには世界中の国々を核兵器禁止条約に参加させなくては」と声を挙げたのに対し、広島出身の岸田文雄首相がこの条約に全く言及しなかったことである。
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「被爆から77年の原爆ドーム。元広島県産業奨励館。広島の原爆被爆のシンボルとして世界遺産に登録されている」

 私は1960年代から、「広島原爆の日」の8月6日を中心とする諸団体の催しの取材を続けてきた。今年で51回目。4日から6日にかけて、市内で行われた催しの一部を見て回った。猛暑と新型コロナウイルスの感染拡大の最中の催しだったが、全国各地から「核なき世界」の実現を願う人々が集まった。

 高まる核戦争への恐怖とプーチン発言への抗議

 まず、強く印象に残ったのは、核戦争に対する不安、恐怖が各会場にただよっていたことである。1960年代から70年代にかけて毎夏、広島・長崎で開かれた平和団体の集会には、米国とソ連という二大超大国による激烈な核軍拡競争への不安、恐怖がただよっていたが、今回のそれは、その時以来と言ってよい。
 今回の不安、恐怖をもたらしたのが、2月24日にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が開始されて以来の、プーチン大統領による核兵器の使用を示唆する度重なる発言であることはいうまでもない。
 それだけに、各団体の催しの会場では、プーチン発言への抗議の声が相次いだ。広島市主催の平和記念式典に初参加したグテーレス国連事務総長は、あいさつの中で「深刻な核の脅威が、中東から、朝鮮半島へ、そしてロシアによるウクライナ侵攻へと、世界各地で急速に広がっています」と警告した。
 平和記念式典で平和宣言を発した松井一實市長は、その中で「ロシアによるウクライナ侵攻で、核兵器による抑止力なくして平和は維持できないという考えが勢いをましています」と述べ、「他者を威嚇し、その存在をも否定するという行動をしてまで自分中心の考えを貫くことが許されてよいのでしょうか。私たちは、今改めて、『戦争と平和』で知られるロシアの文豪トルストイが残した<他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない。他人の幸福の中にこそ、自分の幸福もあるのだ>という言葉をかみ締めるべきです」とロシアの指導者をいさめた。

 平和団体の集会でも、プーチン大統領への非難が噴出。6日に開かれた原水爆禁止日本協議会(原水協)の原水爆禁止2022年世界大会ヒロシマデー集会で採択された「広島宣言」は「人類はいま、新たな核使用の危険に直面している。プーチン大統領は、ウクライナ侵略を続けるなかで、核兵器による威嚇を繰り返している」として、「ロシアのウクライナ侵略は明白な国連憲章違反である。我々は、ロシア軍の撤退と原発への攻撃・占拠を含む一切の軍事行動をただちに停止するよう要求する」と述べていた。
 やはり6日に開かれた原水爆禁止日本国民会議(原水禁)の被爆77周年原水爆禁止世界大会・広島大会まとめ集会で採択された「ヒロシマ・アピール」は「(ロシアによるウクライナへの)侵攻により,多くの尊い命を犠牲なする状況が続いています。また、(プーチン大統領は)公然と核兵器使用をほのめかす発言をし、侵攻前には核兵器搭載可能な大陸間弾道ミサイルを使った軍事演習をするなど、核の脅威を繰り返してきました。国家主権と領土を武力で犯すことは、国連憲章に反する蛮行であり、断じて許されません。即時停戦の実現と国際社会の安定を求めていきます」としている。
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「コロナ禍で平和記念式典の参加者を制限したため、式典会場に入れなかった人たちが式典会場の際までつめかけた=8月6日朝、平和公園で」

 日本政府は核兵器禁止条約に参加すべし
 では、世界が核戦争の危機から脱するために日本はいかなる道を歩むべきか。
 広島市の「平和宣言」が以下のように述べて、日本が進むべき道を明確に示したのは注目に値する。
 「6月に開催された核兵器禁止条約の第1回締約国会議では、ロシアの侵攻がある中、核兵器の脅威を断固として拒否する宣言が行われました。また、核兵器に依存している国がオブザーバー参加する中で、核兵器禁止条約がNPT(核兵器不拡散条約)に貢献し、補完するものであることも強調されました。日本政府には、こうしたことを踏まえ、まずはNPT再検討会議での橋渡し役を果たすとともに、次回の締約国会議に是非とも参加し、一刻も早く締約国となり、核兵器廃絶に向けた動きを後押しすることを強く求めます」

 原水協ヒロシマデー集会の「ヒロシマ宣言」も「日本には唯一の戦争被爆国にふさわしい役割の発揮が強く求められている。しかし、日本政府はアメリカの『核の傘』への依存を深め、核兵器禁止条約に反対するなど、国民の願いにも、世界の流れにも背を向けている。……日本政府に対し『核抑止力』論から脱却し、核兵器禁止条約への支持、参加を表明することを要求する」と言い、原水禁まとめ集会の「ヒロシマ・アピール」も「日本政府は核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバー参加すら行わず、『条約に賛成することは、米国による核抑止の正当性を損なう』という主張を崩していません」として、「日本政府に核兵器禁止条約署名・批准を求める運動に総力をあげる」と述べていた。

 市民団体が開いた「8・6ヒロシマ平和へのつどい」が採択した「市民による平和宣言」は、今後取り組む活動に11項目を挙げているが、最初の項目は「日本政府に対し、核兵器禁止条約に署名・批准することを求め、米国の核抑止への依存政策から脱却し、朝鮮半島そして北東アジアの非核兵器地帯化を実現しよう」である。

 いわば、官民こぞっての「日本政府は核兵器禁止条約に参加せよ」の大合唱であった。これはもはや、日本の民意と言えるのではないか。

 首相のあいさつには核兵器禁止条約への言及なし
 これに対し、政府側はどう対応したか。
 平和記念式典に参列した岸田首相のあいさつのさわりは、以下の個所とみていいだろう。
 「77年前のあの日の惨禍を決して繰り返してはならない。これは、唯一の戦争被爆国である我が国の責務であり、被爆地広島出身の総理大臣としての私の誓いです。核兵器の使用すらも現実の問題として顕在化し、『核兵器のない世界』への機運が後退していると言われている今こそ、広島の地から、私は、『核兵器使用の惨禍を繰り返してならない』と、声を大にして、世界に訴えます。我が国は、いかに細く、険しく、難しかろうとも、『核兵器のない世界』への道のりを歩んでまいります」
 「来年は、この広島の地で、G7サミットを開催します。核兵器使用の惨禍を人類が二度と起こさないとの誓いを世界に示し、G7首脳と共に、平和のモニュメントの前で、平和と国際秩序、そして自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値観を守るために結束していくことを確認したいと思います」

 首相あいさつが核兵器禁止条約に触れることはついになかった。そればかりでない。首相が描く「核兵器のない世界」へ至る道は極めて抽象的で、具体性に欠けていた。国の安全保障を米国の「核の傘」に依存している日本政府の長としては、口がさけても「核兵器禁止条約に賛成」とは言えぬ、ということであろうか。

 世界で唯一の戦争被爆国でありながら、政府と国民の間に横たわるこの底なしの深い溝。核兵器禁止条約を国連で成立させ核兵器完全禁止に向けて動き出した世界の人びとは、こうした日本の現実を知って何と思うだろうか。
 ちなみに、核兵器禁止条約は核兵器の開発、実験、製造、取得、保有、貯蔵、移譲、使用、使用の威嚇などを禁じる条約。2021年1月に発効、現在66カ国が批准している。条約締約国は、核保有国の「核の傘」に依存する国の政府のオブザーバー参加を歓迎している。

2022.08.08 選挙結果を素直に総括できない政党は真面な方針を出せない
日本共産党第6回中央委員会総会報告を読んで

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 8月2日の「しんぶん赤旗」を読んだ感想を述べたい。年老いた3人の酒飲み仲間が懇親会を兼ねて集まり、参院選の結果について忌憚のない意見交換をした。大手紙数紙も互いに持ち寄っての合同会議だから、多多ますます弁ずの次第と相成った。それぞれが思い思いの感想を述べ合ったが、その中の一番口の悪い奴の言いぐさが面白かった。

 ――いわく、議席減と得票減という現実を「二重の大逆流」といった屁理屈をこねて素直に認めず、これを「全党の大奮闘によって押し返す過程での一断面」だという論法は、まるで旧日本帝国陸軍の「敗戦を転戦」と呼ぶのとそっくりそのもの。どうやら志位委員長は、不勉強にも『失敗の本質、日本軍の組織論的研究』(ダイヤモンド社、1984年)を読んでいないらしい。
 ――いわく、自分の会社経験からすれば、業績不振の会社の社長が経営戦略の誤りを認めず、自らの責任を棚に上げて居座ったままでは、年老いた営業マンの尻をいくら叩いても業績は絶対に上がらない。これでは組織の疲弊と衰退が進むのが目に見えている。
 ――いわく、参院選投開票翌日の常幹声明は、「全党のみなさんの知恵と経験に学びたい」などとしおらしいことを言っていたが、その後の赤旗には「全党の知恵と経験」の話が全く出てこない。声を出しても編集部が取り上げようとしないからか、それとも声を出しても無駄だと党員や支持者が見限っているからか、そのどっちをとってみても末期症状というほかない......などなど。

 大手紙の論評でも政策上の問題はほとんど注目されず、関心はもっぱら組織問題に集中している。毎日新聞(8月2日)は、総会報告の内容よりも党内関係者の取材に力点を置き、「共産党、先細りの危機感」と題して次のような事態を明らかにしている(要約)。
 ――創立100年を迎えた共産党が、党勢維持に向け正念場を迎えている。7月の参院選で、改選6議席から2減になった。1日に党本部で開いた第6回中央委員会総会では、志位和夫委員長が参院選の総括を踏まえ、党勢回復に向けた「奮闘」を誓ったが、党関係者の高齢化などを抱える地方組織からは「このままではじり貧で、先細っていくだけだ」と悲痛な声が聞こえてくる。
 ――志位氏は再び共闘を目指し、自民など改憲勢力と対峙する姿勢を強調した。一方、党内では、組織の高齢化を前に「これまでのように指示を広げることができない」「活動を支えるメンバーは高齢者ばかり。世代交代ができていない」「党本部は、後援会員らが周囲に『折り入って作戦』を展開せよというが、個々の結びつき頼りでは世代が広がらない」との声が漏れる。
 ――党は、参院選投開票の翌日に公表した常任幹部会声明で、党員減少などを指摘し「自力をつける取り組みは、質量ともにその立ち遅れを打開できていません」と認めている。志位氏は6中総、23年に想定されていた党大会を、統一地方選前であることを理由に24年1月へ先送りすることを提案した。2日に了承されれば現在の党体制が当面維持されるとみられる。統一選を控える地方議員の一人は「党勢回復か没落か。まさに今が正念場だ」と語った。

 朝日新聞(8月4日)は、「議席減、志位氏への不満も」「共産党参院選総括、幹部人事1年先送り」との見出しにあるように、志位委員長の進退問題に焦点を当てて記事をまとめている。具体的にはこうだ。
 ――共産党は1、2両日、党本部で中央委員会総会を開き、議席を減らした参院選を総括した。党執行部は一定の責任を認めたものの、人事を決める党大会の1年先送りを決めた。地方からは不満の声も上がっている。
 ――16年、19年の参院選は成果を挙げた共闘だが、昨秋の衆院選以降は党勢拡大に結びつかず、委員長を20年以上務める志位氏には、地方から「異例」(党関係者)の不満も出ている。「『人心一新』し出直すため、党員による選挙をしたらどうでしょうか。誰も猫の首に鈴をつけたくないので、委員長自ら決断を」。党員でもある京都府商工団体連合会の久保田憲一会長は参院選後、SNSにこう投稿した。「周囲でも交代を求める声が多い。ちょっときついかなとも思ったが一石を投じた」と取材に語った。ただ、党幹部や関係者の間では「理論的な柱になってきたのは志位氏」との声が大勢を占める。
 ――共産は2~3年ごとに党大会を開いて幹部人事を決めるが、今回の総会では2023年1月とみられていた党大会を1年先延ばしにすると決めた。志位氏は「来春の統一地方選の重要性を考慮した」と説明。総会終了後の会見で、志位氏は強調した。「責任は党を強くすること、そして反転攻勢を直面する統一地方選で勝ち取ることで果たしていく」

 この記事の中で驚いたのは、京都の党関係者(それも幹部)が公然と党首選挙を呼び掛けたことだ。京都の共産党は中央に忠実なことで知られる。前の衆院選では「野党共闘の実を上げる」と称して京都3区に候補者を立てず、泉健太氏(立憲)の勝利に貢献した。政党リーダーとしての資質に欠ける泉氏が立憲代表に選ばれたのは、偏にこの京都での大勝のお陰だと言われている。京都の共産党は野党共闘の最大の妨害者となった泉氏を支援することで、自らの首を絞めたのだ。

 どこまで本気かどうか知らないが、とにもかくも志位氏のリーダーとしての正統性を問う声が公然と出てきたのは一歩前進だと言わなければならない。この動きが全国に広がり、党組織刷新の声が大きくなれば、さすがの志位氏も安閑としていられないだろう。統一地方選が大事だから党大会を先延ばしにするなんて口実は、もう誰もが「保身」のためのものだと見抜いている。無駄な時間稼ぎは党組織の疲弊と衰退を加速するだけだ。

 参院選に大勝し、「黄金の3年」を手に入れた岸田内閣にも最近暗雲が垂れ込めてきた。京都新聞(8月1日)は1面トップで、共同通信社が30、31両日に実施した全国電話世論調査の結果を「安倍氏国葬『反対』53%、国会審議『必要』6割超す」「国葬『反対』政権揺さぶる、旧統一教会問題、野党追及」「内閣支持率急落51%、内閣支持率12ポイント急落」と大々的に報じた。

 調査では、新型コロナウイルスの感染を抑えられない政府対応への不満が表れ、物価高対応への評価も低調だった。旧統一教会と国会議員のつながりの解明を求める声も大きい。自民党の閣僚経験者は支持率急落の要因を「旧統一教会を巡る問題に国葬も加わって、おどろおどろしい雰囲気を醸し出してしまっている」と分析した。毎日新聞(8月1日)も共同通信世論調査の結果について、「感染が急拡大している新型コロナへの対応、依然続く物価高への対策に加え、説明不足との批判がある政府の国葬実施決定が支持率急落につながった可能性がある」と、同様の見方をしている。

 今日4日から臨時国会が始まったというが、政府・自民党はとにかく議論封じに徹して3日間で会期を閉じたい意向だ。でも、岸田内閣の閣僚でも岸信夫防衛相が旧統一教会に所属する人物から選挙の際に手伝いを受けたと明かし、二之湯智国家公安委員長が関連団体が18年に開いたイベントで「実行委員長」を務めたと説明し、末松信介文部科学相もパーティー券を購入してもらったことを認め、磯崎仁彦福官房長官が関連団体が関わる行事に来賓として出席するなど、自民党国会議員と統一教会に近いと言われる反共産主義の政治団体「国際勝共連合」との深い関係が疑われている(日本経済新聞8月2日)。

 今後の世論状況や政局の変化は、これまでの予想を遥かに超えるものになるだろう。一切の既成概念や価値観にとらわれず、与野党の動向を客観的に見つめることが求められる。次の総選挙は案外早いのかもしれない。その時まで国民の誰もが目を凝らして事態の推移を見守るべきだ。(つづく)

2022.08.05 安倍外交の克服と岸田外交への期待
――八ヶ岳山麓から(387)――

阿部治平(もと高校教師)

 根性の座った外交官として知られる、元外務審議官田中均氏はこのほど毎日新聞政治プレミアに寄稿し、岸田内閣に独自外交を求め、日本は「外交の内政化」から脱却しなければ活路はない、近隣諸国との関係改善を急ぐべきだと主張した(2022・07・20)。
 その概略を私なりにまとめると以下の通りである。
 
 〇この10年、 日本外交を牽引したのは安倍元首相で、大きな功績をあげたが、今日それを見直す必要がうまれた。最も重要なのは、この10年間で悪化した中国や韓国との関係修復だ。
 〇問題は『外交の内政化』である。 これによって客観的に国益の見地から相手国を評価し、一定の戦略を立てて外交を進めることが難しくなった。これまでにもまして政治上位となり、官僚の人事があたかも当該幹部が政治権力に忠実かどうかを最大の評価基準として差配される結果、官僚は政治権力の意図を推し量ることが最重要となった。
 〇本来、民主主義国家では長期・短期の国益判断のうえで特定の政策を決め、それを国民に説明し支持を得るのが統治の手法だ。ところがこの10年、日本の政治は選挙に勝つため、ポピュリズムに傾倒し「国民受けの良い」発言と政策を軸にまわってきた。
 〇 米国との関係は外交の基軸ではあるが、……このところ「アメリカ第一」政策しか目につかない。だが、米中関係も対立一色ではないことを知るべきだ。(米中関係の)現状は軍事的対立、政治的競争、経済的相互依存、グローバル協力と、ベクトルが異なる関係の集大成だし、そうである以上突然米中関係が破綻することはない。
 〇韓国とは、親日傾向の新大統領が就任したのにもかかわらず、「共に関係改善に進もう」と踏み出せない。だがいま、もろもろの問題を一括解決し、日韓関係を未来志向の道筋に戻すべきである。
 〇対中国関係は(貿易一つ見ても)、元来日本の将来を左右する関係なのに、もはや関係改善をしようと発言する人もいなくなった。日本が十二分な抑止力を持つことは極めて重要だが、安保体制の強化も敵意をむき出しにして行うのはどうかと思う。
 クアッド(日米豪印)首脳会談の頻繁な開催やインド太平洋経済枠組み(IPEF)、主要7カ国(G7)の大型インフラ協力などでは中国を意識し、中国と対抗するイニシアチブの共同提案者といった観を呈している。
 〇日本は経済的相互依存を深化させ、気候変動、エネルギー、北朝鮮問題などにおける協力関係を深掘りすべきだ。中国もロシアと一体化してみられることは避けるべく、日本との協力関係の再構築に乗ってくるだろう。
 〇岸田政権は自前の議論を展開してほしい。党内の異論を恐れ、「世論」を恐れていては、外交はできない。外交は国内的に威勢の良いことを言うのではなく、日本の国益に沿う結果を作る作業である。相手国が悪いと切って捨てるのはいとも簡単だが、一方の理屈だけでは外交は成り立たない。

 7月27日、中国人民日報国際版の環球時報ネットに、この田中氏の提言に対応した論文が現れた。
 表題は「岸田外交はバランスの取れた合理性を取り戻す必要がある」。著者は項呉宇氏。 中国国際問題研究所アジア太平洋研究所特別研究員で中国シンクタンクの一員とみられる。

 項氏は、まず田中均氏の主張を「日本の世論に『親米、反露、憎中、嫌韓』という議論が氾濫するなか、田中氏の見解は、少なくとも日本の「戦略界」にはまだ冷静な声が残っていることを反映している」と高く評価する。
 項氏の岸田内閣登場後の分析は、以下の通りである。
 〇日本政府の対外戦略思考は保守的で硬直したままである。 岸田内閣が22日に採択した「防衛白書2022」は、中国の軍事力開発と北朝鮮の核ミサイルの脅威を誇大宣伝し、中露軍事協力と台湾問題に言及し、日韓の島嶼紛争をあおり、日本は「反撃能力」を開発すべしと唱えた。 これは、当然近隣諸国(すなわち中国・韓国)からの批判を引き起こした。
 〇日本国内では安倍元総理の「外交遺産」として、「日本の国際的影響力の高まり」に焦点が当てられている。だが、安倍外交の根底にある論理は、 「自虐的歴史観からの脱却」「正常な国家論」「政治大国の夢」などの右翼保守思想である。これは日本の政治思想や戦略的思考に深く浸透している。
 〇(参院選後)保守政党が日本の政治を席巻し、伝統的な中道左派は小さくなった。「強軍備戦」を誇示する強硬論が盛んになり、平和主義は後退した。
 〇安倍元総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想の本質は、アメリカ式のイデオロギーの旗を掲げ、米国とその同盟体制の覇権を守る戦略手段であり、「インド太平洋」外交をとおして見えてくるものは、日本と中・露・北朝鮮・韓国4つの近隣諸国との関係の同時緊張状態である。
 〇岸田は自民党内のハト派「宏池会」の継承者であり、元来の思想は温和な保守であり、政策理念は「重経済、軽軍事」の「吉田茂主義」の傾向を引き継ぎ、安倍のような「政治的強者」ではないにもかかわらず、政権の座に登ってから、「軟弱」「親中」「親韓」などの批判を避けるために、ほとんど保守勢力の対外強硬路線に迎合し、当初の予期されたバランスと合理性を示してはいない。

 項氏は「岸田が長期安定政権を望むなら、外交上やるべきことがある」と、次の 3項目を挙げる。
 1)現在日本では、日米同盟基軸が依然「政治的に正しいもの」とされている。だが、親米と近隣諸国重視とは矛盾しない。 岸田は、宏池会前任者の池田勇人・大平正芳・宮沢喜一が首相であったとき、中国や韓国との関係改善に積極的であり、日本と近隣諸国との和解に貢献してきたことをよく知っているはずだ。
 2)岸田は、「平和ビジョン」を掲げ、来年広島でG7サミットでは、「核のない世界」の理念を推進する意向である。この「平和」の概念と憲法改正の強力な軍事路線の矛盾をいかに打破するかは説得力ある説明を必要とする。
 3)(安倍時代)日米は「インド太平洋」の概念を植え付け、イデオロギーと価値観の旗を掲げて陣営間の対立をあおり、アジア太平洋地域の協力関係に打撃を与えた。岸田の「インド太平洋」外交が、中国を抑制対象とし続けるならば、アジア諸国家に容認されることはないだろう。
 硬直した対外戦略思想を変えずに、岸田外交が政治大国の道を追い続けるならば、その行動には大きな疑問符を張り付けられるだろう。

 7月29日のバイデン・習近平の米中首脳会談では、対立点を鮮明にしながらも同意できるところは同意しようと努力している。田中氏の「米中関係も対立一色ではないことを知るべきだ」「(米中関係は)ベクトルが異なる関係の集大成だし、そうである以上突然米中関係が破綻することはない」という通りであった。
 もちろん日本の外交官と中国の研究者の間には立場からくる主張の違いがあるが、田中氏の「中韓両国との関係修復を急げ」という主張は、項氏の「日米同盟基軸であっても中国と友好関係は維持できる」「親米と近隣諸国重視とは矛盾しない」という主張と重なる。
 項氏だけでなく他の日本研究者も別な観点から日中関係を論じ、現状からの脱却を論じている(たとえば霍建崗論文 環球時報 2022・07・27)。

 わたしは外交問題にはまったくの素人だから、これ以上議論することはできない。だが、田中均氏の主張に項呉宇氏が同調した背景には、中国外交部首脳の日中関係好転への期待がある。そしてこれは岸田内閣へのシグナルだと思うが、読者の皆さまはどうお考えであろうか。                 (2022・07・30)

2022.08.04 旧統一教会に寄生する政治家の即退場を求める
安倍元首相銃撃死亡事件で世界平和七人委がアピール

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 世界平和アピール七人委員会は8月3日、「搾取・収奪常習を問われる集団に寄生する政治家の即退場を求める」と題するアピールを発表した。

  アピールはまず、7月に生じた、安倍晋三元首相が旧統一教会に恨みをもつ暴漢に銃撃されて死亡した事件によって、「80年代、90年代に悪名高い霊感商法で社会問題化した搾取・収奪常習の宗教集団、統一教会が、名称を変えて21世紀の日本で営々と生き延びていたこと、そして親の入信で苦難の人生を強いられた子どもたちの実態」が浮かび上がったとし、「世界平和アピール七人委員会は、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)による欺瞞的な勧誘や高額の献金がかくも深刻な社会問題であったにもかかわらず、今日まで等閑にしてきたことに、日本国民として深く恥じ入る」と述べる。
  その上で、「安倍元首相の祖父である岸信介元首相にまで遡る政治家と旧統一教会の深すぎる関係にあらためて思いをはせ、安倍元首相の国葬を含めて強烈な違和感を新たにするものである」と続ける。

  アピールは、さらに「少なからぬ国民を脅し、騙し、強制し、多額の財産を奪い、家族を崩壊させてきた宗教団体の存在は間違いなく社会の治安をゆるがす問題であり、これを信教の自由で語ることはできない。そのような宗教団体である旧統一教会に、いま現在、元首相や現職閣僚を含む約100人の政治家が関わりをもち、選挙で多大な便宜を図ってもらっており、何が問題だと居直る者もいる」「選挙で勝つためには国民の苦難を顧みない政治、国民への加害をいとわぬ宗教団体に寄生する政治と言っても過言ではない」として、「旧統一教会に寄生する政治家の即退場を求める」と述べている。

  世界平和アピール七人委は、1955年、ノーベル賞を受賞した物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器廃絶、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発してきた。今回のアピールは154回目。
  現在の委員は大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者)、池内了(宇宙物理学者)、池辺晋一郎(作曲家)、髙村薫(作家)、島薗進(上智大学教授・宗教学)の6氏。

  アピールの全文は次の通り。

搾取・収奪常習を問われる集団に寄生する政治家の即退場を求める

世界平和アピール七人委員会

  去る7月8日、奈良市内で参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相が旧統一教会に恨みをもつ暴漢に銃撃されて死亡した事件は、治安の良さを内外に誇ってきた日本国民に大きな衝撃を与えた。
  しかしながら凶行以上に国民を困惑させたのは、80年代、90年代に悪名高い霊感商法で社会問題化した搾取・収奪常習の宗教集団、統一教会が、名称を変えて21世紀の日本で営々と生き延びていたこと、そして親の入信で苦難の人生を強いられた子どもたちの実態が事件によって浮かび上がったことである。
  逮捕された容疑者は子ども時代に母親の入信で実家が破産して以降、社会の底辺で逼塞しながら旧統一教会への恨みを募らせ続けたとされている。搾取・収奪常習の教団の信者とその家族は、その特異な価値観のせいで一般社会に受け入れられることはない。そのため二世・三世は精神的・経済的に追い詰められていることが多い。
  私たち世界平和アピール七人委員会はまず、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)による欺瞞的な勧誘や高額の献金がかくも深刻な社会問題であったにもかかわらず、今日まで等閑にしてきたことに、日本国民として深く恥じ入る。そしてさらに、安倍元首相の祖父である岸信介元首相にまで遡る政治家と旧統一教会の深すぎる関係にあらためて思いをはせ、安倍元首相の国葬を含めて強烈な違和感を新たにするものである。
  少なからぬ国民を脅し、騙し、強制し、多額の財産を奪い、家族を崩壊させてきた宗教団体の存在は間違いなく社会の治安をゆるがす問題であり、これを信教の自由で語ることはできない。そのような宗教団体である旧統一教会に、いま現在、元首相や現職閣僚を含む約100人の政治家が関わりをもち、選挙で多大な便宜を図ってもらっており、何が問題だと居直る者もいる。批判の的になっていた「統一協会(世界基督教統一神霊協会)」の名を隠すことになった名称変更が長年認められなかったのに、文化庁によって認められた2015年当時の文部科学大臣は、深い関係がこのたび明らかになった一人だった。選挙で勝つためには国民の苦難を顧みない政治、国民への加害をいとわぬ宗教団体に寄生する政治と言っても過言ではない。
  当然ながら、弱い立場に追い込まれる国民の幸せも、公共的な意思決定を目指す民主主義も彼らの目には入っていない。安倍元首相が晩節を汚した森友問題や桜を見る会の公私混同も、またあるいは困窮者の再起を阻む日本社会の冷たさも、公共の正義を等閑視する政治がもたらした帰結である。
  人間のあるべき道義として、旧統一教会に寄生する政治家の即退場を求める。

2022.07.28 「国葬」がオモシロイ?
           韓国通信NO701
    
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)


 「アベ政治を許さない」を主張してきた者にとって彼の突然の死は残念というほかない。「許せない」相手から謝罪の言葉を聞くチャンスが永久に失われた。生かしておくべき大切な人だった。
 国葬をするという。法的根拠のない異例な国家行事だ。参院選勝利で舞い上がったのか、愚かな決定をしたものだ。安倍という「くびき」から解放された安堵感と死者へのゴマスリ感がにじむが、意図するのは死者を悼む気持ちに乗じた政権アピールという露骨な政治利用だ。言わずもがな、国を挙げた服喪にふさわしい人物かどうか疑問が沸き上がった。

<驕りが墓穴を掘る>
 国葬が遅まきながら安倍政権に対する批判と疑問に火をつける点けることになった。
 「一般庶民の生活苦」「大企業と金持ち優遇」。アベノミクス批判から始まり、最悪の事態を迎えつつあるコロナパンデミックを目前にして、あの悪名高いアベノマスクと「モリ・カケ・サクラ」の記憶があらためて噴き出す。積もった不満が安倍政治に由来することに多くの国民が気づき始めた。果たして国葬にふさわしい人物なのか。
 税金の無駄使い、国の借金を山と築いた。不誠実・無能・無責任さが問われている。長期政権に忖度を重ねてきた新聞・テレビもそろそろ目覚めたらどうか。安倍政権に対する冷静な検証を求めたい。
 諸外国から「偉大な政治家」の死を惜しむ声が寄せられたのは事実だが、まさかモリ・カケ・サクラの醜態、118回のウソ、アメリカに盲従する軍拡路線を称賛したわけではないだろう。死者へのお悔み外交辞令を国葬の根拠にしているのも信じがたい。

 旧統一教会、現世界平和統一家庭連合と安倍元首相との関係も国葬に疑問を感じさせる理由のひとつだ。祖父の岸信介元首相時代から始まった自民党とカルト集団のつながりは共通の反共主義によって持ちつ持たれつの関係を深めてきた。マインドコントロールされた信者たちはオウム真理教の信者を彷彿とさせるが、統一教会は自民党と深く結びつきながら違法な「霊感商法」をとおして勢力を拡大してきた。
 今、統一教会との関係を指摘された政治家たちは釈明にいとまがない。襲撃事件で「藪から蛇」。反社会的組織との癒着が次々と明らかになり、自民党がオカルト集団と言われかねない事態になっている。岸信介元首相が文鮮明とともにCIAのエージェントだった疑惑も囁かれてきた。戦後の保守政権の実態が透けて見えはじめた。

 「オモシロイ」とは不謹慎かもしれない。事件と国葬を議論すると自民党の闇に行き着いてしまう。わが国の将来は統一教会と深く結びついた安倍政権(自民党政権)の体質と正面から向き合うことにかかってはいないか。寝た子を覚ます衝撃が走る。
 何かにつけて腰の定まらない立憲民主党が国葬に反対を表明した。捨てたものではない。参院選勝利をうけた自民党の「黄金の三年」が「イバラの三年」に変わろうとしている。
2022.07.27 共産党敗北の原因を考える

      ――八ヶ岳山麓から(385)――
                             
阿部治平 (もと高校教師)
       
  立憲民主党と共産党の敗北は、はなからわかっていたとはいえ、じつに残念だった。社民党が消えそうないま、両党には頑張ってほしいと切に願っている。
 立憲民主党の問題点については、広原盛明氏の論評で十分だと思うので、わたしは共産党についてだけ意見を付け加えたい。これは共産党常任幹部会の参院選の総括で「どうか率直なご意見・ご提案をお寄せください」というのに応えたものである。

 今度の参院選での共産党の敗北の原因の一つとして、政策のわかりにくさがあった。例を挙げる。
 共産党は元来自衛隊解消論である。だが、2000年に民主連合政府のもとで「急迫不正の侵略」にたいしては自衛隊を活用することに変更した。ところがその後も機関紙赤旗は、毎週のように活用するはずの自衛隊の増強や防衛予算の拡大を非難してきた。
 今回の参院選をひかえて、志位委員長はあらためて自衛隊の活用を主張した。専守防衛とはいえ、「力対力」の防衛政策である。だが参院選がはじまったとたん、赤旗は「力対力ではなく外交で」といい、さらに「大軍拡反対」「戦争か平和か」といいだした。これはわからない。
 経済政策では、「やさしく強い経済」を「見出し」にした。中身は新自由主義からの決別であり、賃上げや非正規労働者対策を盛り込んだまともな政策だったが、「見出し」が「やさしく強い」だから、有権者が一目みただけではぴんとこないのである。
 それに他党同様に、巨額の国債対策がなかった。日本は2022年度末には国債残高が1026兆円に上るという爆弾を抱えている。ここで共産党が目覚ましい対策を打ちだしていたら、支持が幾分か高まったはずである。
 残念なことに、共産党の経済政策にも、盛田常夫氏の「消費を拡大させることが景気回復の道だと、物知り顔に主張する御仁や政治家もいる」という批判が当たる部分があった(本ブログ2022・07・21)。
 以上のほか、去年の衆院選でも今回の参院選でも、共産党は「北東アジア地域協力」や「環境保護」「ジェンダー平等」を政策としてかかげたが、あまり効き目はなかった。

 だが、選挙で振わない根元的な理由は、党の路線と活動のマンネリズムにあると私は考える。
 この30年、党活動は党員と機関紙購読者数の拡大に「特化」し、口ではともかく、実際には労働運動をはじめとする大衆運動を軽視してきた。だから活動家は育たず、若者の入党は少なかった。この間、わが衆院選小選挙区では企業内党組織はほとんど消滅したものとみられる。
 今日新聞・テレビよりもSNSによって情報を得ている人が増え、一般紙すら読者が減少しているなかで、ニュース伝達の機能がほとんどない赤旗の拡大は、一層困難だ。たとえ拡大しても、昔と違い、日曜版購読者一人につき支持者が二人増えるといった結果は得にくい。拡大運動の繰り返しの中で、党員は疲れる一方なのに、「共産党は選挙の時しか顔を出さない」とか、「票になることしかやらない」という批判が生まれた。
 友人の共産党員は、「高齢者が増えて活動力が小さくなっているのだから、それなりの戦い方があるはずだ。尻を叩くだけでは動かない」といった。

 この党活動のマンネリズムはつまるところ、党指導部の自分(たち)の路線は常に正しいとする無謬性信仰に根源があると思われる。
 日本共産党最高指導者の在任期間は、他党と比較するといずれもおどろくほど長い。指導者の「長期在位」が権力への執着心によるものでないとすれば、理由は自己の正しさへの過信にあるとしか考えられない。
 議会を通した社会変革と自主独立の路線を確立した宮本顕治氏は、1955年から97年まで40数年間最高指導者の地位にあった。宮本路線の継承者不破哲三氏は1970年に書記局長、82年幹部会委員長、2000年に議長となり、2006年までつごう36年間指導的地位にあった。92歳の現在もなお常任幹部会員である。
 現共産党委員長志位和夫氏は、1990年党書記局長となり、2000年に共産党委員長になった。在任期間実に30余年。この間、国会議員をはじめとして、党員、赤旗読者など党勢はほとんど半減した。
 2003年総選挙で惨敗したとき、志位氏は「路線は間違っていないから辞任しない」と言った。昨年の衆院選でも、今回の参院選でも「やめない」といった。共産党は、議会を通して社会変革を実現する政党のはずである。議会選挙で後退しても、路線に間違いがなかったというなら、どんな状態になれば間違いなのであろうか。

 ところが、共産党は、路線や情勢認識の見直しを幾度もしてきた。
 たとえば、1991年末ソ連が崩壊したとき、議長宮本氏は「巨悪の消滅を歓迎する」といった。ならば、ソ連を天まで持ち上げていた過去をどう説明するのか。
 2020年の党大会では、それまで中国を「社会主義をめざす国」と定義していたのに、大国主義・覇権主義を理由にそれを取り消した。しかもこの定義を発明した不破哲三氏は自己批判もなく、けろりとしていた。志位氏もまた「社会主義をめざす国」は、当時は間違っていなかったと不破氏を弁護した。
 かつては、日米安保反対などで一致しない限り国政選挙での「共闘はない」といっていたのに、いまや「野党共闘」でなければ夜も日も明けないありさまだ。これについて有権者にわかりやすい説明があっただろうか。
 党中央幹部が見直し以前の路線や認識を自己批判しないのは、正しさへの信仰が揺らぐからである。揺らげば指導力が問われるからである。政治姿勢は保守的にならざるを得ない。

 この路線と活動スタイルは、30年間の党勢衰退を示す数字によって限界が明らかである。外から見ると、指導部の交代は必然である。しかし共産党の場合、指導者自らが辞任の意志をもたない限り、それは不可能だ。そして彼らにはその意志がない。
 共産党員には最高指導部を直接選挙で選ぶ権利がなく、リコール権も事実上保証されていない。民主集中制の組織原則によって、所属する支部以外の党員に働きかけ数をまとめるのは、分派行動として禁止されているからである。また党組織の中核である専従者の場合、党中央に対する批判は失業覚悟でないとやれない。ひとたび党から排除されれば、一般社会で職を得ることがきわめて難しいからである。

 共産党はソ連・中国など既成の社会主義を否定し、マルクス主義本来の社会主義を目指すとしている。だが、現存社会主義国あるいはその承継国は軒並み専制国家である。社会主義革命によって歴史は後退したのである。
 ソ連崩壊から最近のウクライナ侵攻まで、激動の30年を見届けた今、有権者の多くは賞味期限切れとして社会主義に関心を持たなくなった。このままでは党員がいくら苦労しても、いつ国会で議席の過半を占め、政権に到達できるかわからない。
 わたしは、党員の皆さんに最終目標を社会主義・共産主義においていることの検討も含めて、いまこそ党の現行路線と自らの活動スタイルを検討し、新しい共産党の在り方を追求してほしいと心から願うものである。           (2022・07・24)
  

2022.07.22 沖縄県民は「経済」より「反基地」を選んだ
         参院選の結果を分析する
 
宮里政充 (元高校教師)


 7月10日の参院選で沖縄では激戦が繰り広げられた。伊波洋一候補(無所属、オール沖縄推薦)が27,4235票、古謝玄太候補(自民党公認)が27,1347票を獲得。わずか2,888票差で伊波候補が2選を果たした。

 この結果に少なからぬ影響を与えたのが、河野禎史・参政党(22,585票)、・山本圭・NHK党(11,034票)、金城竜郎・諸派(5,644票)の各候補である。特に、河野候補はその政策からみると自民党右派に近く、自民党票に食い込んで古謝候補の得票数を減らした可能性がある。参政党は2023年の統一地方選では全国で10,000人規模の候補者を擁立する意欲を見せており、同党の影響力は沖縄だけにとどまらないであろう。
 ただ、今回の沖縄参院選では伊波候補が辺野古新基地建設にはっきりと異議を唱え、古謝候補が基地容認の立場を明らかにしていた。11日午前、玉城デニー知事は県庁内で記者団の取材に応じ、「辺野古移設は止めるべき」という政策が明確に支持されたと語った。

 今年1月16日に行われた名護市長選では、自民・公明推薦の渡久地武豊候補は辺野古新基地建設問題に関しては「国と県の係争が決着を見るまで、推移を見守る」という立場を貫き通し、直接基地問題には触れず、給食費や子どもの医療費の無償化などの子育て支援の実績を強調して当選した。
 沖縄では選挙のたびに、「基地か経済か・理想か現実か」という問題が争点になる。そして、政権与党につながる保守派は経済を重視し、革新系は米軍基地によるさまざまな問題の打開を基本に据える。そして今回の参院選では、この構図がはっきりと前面に出てきた。おそらく、その背景には、プーチンのウクライナ侵略、それに伴う日本の反応、特に防衛費の増強や核共有論の台頭、沖縄の米軍基地の果たす役割への危機感などがあったのではなかろうか。

 私は戦争中、沖縄北部の山や森を逃げ回り、自然の洞窟(ガマ)に隠れて生き延びた世代の人間である。米軍に背後から撃たれて即死した祖父のこと、収容所でマラリアにかかり、両のてのひらに入るほど小さくなって死んだ祖母の死に水をとった記憶などは80歳を超えた今でもなくなりはしない。私には、国家権力というものはそう簡単に受け入れてはならないのだ、という皮膚感覚が沁みついている。
 「ムヌクイシヌドゥ ワーウスー(物を恵んでくださるお方こそが私のご主人様だ)」という諺が沖縄にはある。これは苦しい歴史の中から生まれてきた事大主義であり、沖縄が生き延びるための知恵であったことは確かであるが、そこから抜け出すのは容易なことではない。しかし抜け出さなければならない。

 9月には知事選が待っている。選挙戦は、玉城デニー知事と再度出馬する佐喜眞淳・前宜野湾市長、7月13日に立候補を表明した下地幹郎・前衆議院議員の三つ巴になる予定である。佐喜眞淳氏は前回辺野古移設の是非には触れず、普天間の早期返還を強調する戦術をとったが、今回その戦術を変えるのかどうか。下地氏はこれまで自民党・国民新党・日本維新の会と所属政党を変えてきており、沖縄開発政務次官や経済産業大臣政務官などの経歴を持っている。今回立候補に際して彼が掲げた政策は、辺野古埋め立ての中止、基地負担の軽減、経済政策の推進、教育無償化、防衛費増額ではなく交渉力と行動力による解決など、玉城デニー氏や佐喜眞淳氏と重なる部分が多い。玉城氏には「オール沖縄」という支持基盤があるとは言うものの、下地氏にも一部財界の支持がある。その点で下地氏は佐喜眞陣営にとっても悩ましい存在である。有権者がどう判断するか、予断を許さない。

 現在、北朝鮮によるミサイルやロケット砲の度重なる発射、中国の南シナ海や尖閣列島周辺における不穏な動き、台湾問題など、日本や沖縄を取り巻く国際情勢は緊迫の度を強めている。それに加えて本土政権のこれまでにない急速な右傾化への流れ。
 米軍基地の7割を抱えている沖縄は苦しみながらも、「反基地」の道を選んだ。とはいえ、2021年10月に行われた衆議院選挙では自民党が圧勝した現実がある(自民党4、社民党1、共産党1)。沖縄の有権者の判断は大きく揺れているのである。ただ私としては、今回の参院選の流れを引き継ぎ、知事選では玉城デニー氏が再選されることを心から願っている。                         (2022.07.15記す)

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2022.07.20 安倍晋三元首相殺害事件をめぐって
        マスメディア、言論人、政治家は軌道修正せよ

小川 洋(教育研究者)
 
マスメディアの軽率な反応-政治テロではなかった
 いまごろ、多くのマスメディアや一部の言論人は、ばつのわるい思いをしているはずだ。安倍氏が選挙応援演説中に襲撃される事件が伝わると、彼らは「言論封殺は許されない」、「民主主義を守れ」と、いきり立つように声をあげた。安倍氏の政治姿勢に反感を募らせた人物による、政治的な事件と反射的に考えたからだ。
 ところがその後、警察から容疑者の動機について「ある宗教団体によって家庭崩壊させられ、その教団と安倍氏の間には強い繋がりがあると考え、その恨みから銃撃に及んだ」という情報が出てきた。さらには、「韓国在住の教団最高幹部や日本の代表者の殺害を考えたが、いずれも難しく、自分が住む街に安倍氏が選挙応援に来ることを知って、安倍氏を狙うことにした」と、容疑者が供述していることも明らかになった。
 本人の犯行声明などはなく、警察発表だけでは不十分だが、容疑者に名指しされた旧・統一教会(以下、統一教会)が間もなく記者会見を開き、母親が信者であることを認めた。容疑者の動機は、政治的なものではなく、教団に対する私怨によるものであることが、ほぼ確実になったのである。

金まみれの教団と政治家
 統一教会は世界各地で活動しており、欧米でも多くのトラブルを起こし、反社会的、犯罪的な「カルト教団」と広く認識されている。国内でも金銭的な被害などが多く発生しており、賠償を要求する訴訟も起こされている。と同時に、教会は財力にものを言わせ、世界各地の有力政治家から、大会行事などに「祝福メッセージ」を取り付け、権威付けをして活動環境をつくることに努めてきた。
 ジョージ・H.W.ブッシュ元大統領がメッセージを寄せた際には、約8万ドル(現在のレートで約1,100万円)が支払われた(2022/7/12 “Washington Post”。なお報道があってからブッシュ氏は相当額を慈善活動に寄付した)。21年秋の教団行事には、トランプ前大統領と安倍元首相がビデオメッセージを寄せているが、相当額の謝金が支払われたはずである。原資はもちろん山上容疑者の母親のような信者の「布施」などだったはずだ。
 安倍氏など保守政治家の多くが統一教会と持ちつ持たれつの関係にあったことは半ば公然の秘密だったが、警察としては有力政治家との関係を誇示するような教団は、容易に手を出しにくい対象だっただろう。
 
警護体制がなぜ緩かったのか-ひとつの仮説
 元首相の殺害事件であり、当然、警護上の問題も論じられている。一発目の銃声が響いた時点でも、安倍氏周辺の警備関係者の動きには緊迫感が欠如していたと指摘され、全体的にどことなく緊張感に欠ける雰囲気があったようだ。その理由について、多少の推理を交えた考察をさせてもらいたい。
 元首相は当初、長野県に応援演説に赴く予定だった。しかし、直前に発行された週刊誌が、自民党候補者の不倫などのスキャンダルを報じたため、自民党本部は安倍氏を含む幹部の派遣を中止した。安倍氏が予定を変えて向かったのは、事件現場となった奈良市の大和西大寺駅前である。なぜ大和西大寺駅前が選ばれたのか。

大和西大寺駅前が選ばれた理由を推理する
 元首相の来訪を周知する時間のなかった奈良県自民党役員は、聴衆がほとんど集まらないという事態を避けたかったはずだ。自民党が党員を中心として動員をかけるとすれば、奈良駅前が選ばれるはずだろう。自民党奈良県支部の建物は近鉄奈良駅とJR奈良駅とほぼ等距離の場所にある。しかし、実際には近鉄橿原線の大和西大寺駅前が選ばれた。支部からは5㎞ほど離れている。
 1日当たりの乗降客数をみると、事件現場となった大和西大寺駅が4.7万人に対して近鉄奈良駅は6.5万人である(リクルート調べ)。当日の午後は、12時半から京都市の繁華街での演説会が予定されていた。いずれの場所からも電車でも車でも約50分みればよく、11時40分ころに現地を離れれば間に合う。

 ここからは下衆の勘繰りになる。グーグルマップで「統一教会」を検索すると、「世界平和統一家庭連合 奈良家庭教会」が、事件現場から直線距離で300メートル足らずにあることがわかる。以前から自民党議員を中心に多くの議員たちが統一教会との関係を半ば公然と持つようになり、選挙活動の協力も得ていたという。教会と接点のある自民党関係者が、自民党の地方組織を動かすより確実に一定数の動員が見込める教団に「聴衆」の動員を依頼したのではないか。
 事件当時の現場周辺の写真をみると、平日の昼前にもかかわらず一定数の「聴衆」がいる。聴衆の多くは、自民党と関係の深い宗教団体に動員されている人たち(サクラ)だ、という情報が警備陣に伝わっていたとすれば、現場には弛緩した気分が流れていたはずである。「中日スポーツ」紙には、会場周辺で山上容疑者にIDを求めた警察官が彼の運転免許証をチェックしている写真が掲載されている。手製銃が入っていたはずのバッグをチェックしていれば惨事は防げた。

今後の課題
 第一に、メディアや言論人の軌道修正である。事件発生後、容疑者の動機が明らかになった時点で、政治テロ事件と即断したメディアや言論人は、軌道修正するべきだった。しかし、テレビ局は特別番組を組み、安倍氏の事績などを延々と流し続け、政治理念に殉じた偉大な政治家だったという印象を与える番組を流し続けた。
 そうではなく、安倍氏は、その反社会的性格でも知られていたカルト教団の広告塔となっており-少なくとも容疑者にはそう思われていたし、そう思われてもやむえない事実があり-それ故に襲われたのである。であれば、マスメディアや言論人たちは、その政治家とカルト教団の関係という闇の世界に踏み込んでいかねばならないはずだ。

恥をさらす「国葬」-政治家たちの責任
 第二に、政治家たちの責任である。参院選直後にも疑惑が報じられている。当選した自民党の井上義行氏が、統一教会の全面的支援を受けていたと報道された。選挙期間中、統一教会の「責任者出発式」集会に出席し、幹部から信徒であると紹介され、激励を受けていたというのである。
 井上氏は高校を出て旧国鉄に就職し、民営化の人員整理に伴い総理府勤務になった。その後、安倍晋三氏などの秘書となり、さらに自身が政治家の道を目指していた。統一教会は信者を国会議員に秘書として無償で提供し、影響力の拡大を図っていたといわれ、もともと信者だった井上氏が教会からの指示で自民党に接近した可能性もある。彼の忠誠心は隣国に住む教団代表者に向けられているはずだ。自民党はどう対処するつもりだろうか。
 安倍氏自身が教団とどの程度深い関係にあったかは不明であるが、祖父の代の岸信介氏以来の付き合いがあったことは明らかになっている。相当に密接な関係があったと考えざるをえない。安倍氏に近い政治家たちも統一教会と強い関係を結んでいた。政治家たちは、まずは統一教会との関係を清算し、国民に疑われることのないよう努めることが最優先の課題であるはずだ。

 岸田内閣は今秋、国葬を行う方針を示した。しかし、自民党と統一教会との関係や、安倍氏襲撃事件の経緯からすれば、葬儀は自民党と統一教会の合同葬が適当だろう。安倍氏の葬儀に税金が使われる筋合いはない。国葬とすれば国内外から要人が多く会葬することになろう。その時、殺害された経緯が話題となれば互いに気まずい思いをすることになり、日本という国の異様さを印象付けてしまうことになりかねない。国益にも反する行事は行うべきではない。
2022.07.19 〝自滅〟した野党共闘、比例票狙いの各党立候補も不発
     泉健太立憲代表はその責任を取らなければならない
               
広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)
               

 6月20日以降、拙ブログは事実上「開店休業」状態だった。連載中の原稿の締め切りが迫っていたこと、阪神淡路大震災の「新長田再開発事業」に関する検証報告のフォローに追われていたこと、〝灼熱地獄〟の京都の暑さに身体が対応できずダウンしたことなど、理由はいくらでも挙げることができるが、最大の理由は「気が進まなかった」ことだ。

 事実、参院選がスタートして以来、聞こえてくるのは気が滅入るニュースばかり。各紙の選挙予想を見ても、「自民大勝」「維新躍進」「立憲不調」「共産低迷」といった見出しがズラリと並んでいて、読む気もしない。これでは、最初から勝負が決まっている「田舎競馬」のレース予想みたいなもので、選挙の雰囲気がいっこうに盛り上がらないのも当然だろう。

 しかし、与野党が有権者の審判を受ける選挙は〝結果〟が全てである以上、その分析はあくまでも選挙結果(事実)に基づいて行わなければならない。まずは、党派別比例代表得票・得票率の結果である。前回の2019年参院選と比較すると、総得票数は5007.2万票から5302.7万票に5.9%増加した。そのことを前提に、前回からの各党の得票・得票率がどのように変化したかを見よう。

【2019年参院選得票(率) 2022年参院選得票(率・ポイント) 増減(率)】
                                 単位:万票

 総計 5007.2(100%) 5302.7(100%)      △295.5(△ 5.9%)

 自民 1771.2(35.4%) 1825.6(34.4%・▲1.0) △ 54.4(△ 3.1%)
 公明  653.6(13.1%) 618.1(11.7%・▲1.4) ▲ 35.5(▲ 5.4%)
 維新  490.7( 9.8%)  784.5(14.8%・△5.0) △293.8(△59.9%)
 国民  348.1( 7.0%)  315.9( 6.0%・▲1.0)  ▲ 32.2(▲ 9.2%)

 立憲  791.7(15.8%)  677.1(12.8%・▲3.0) ▲114.6(▲14.5%)
 共産  448.3( 9.0%) 361.8( 6.8%・▲2.2) ▲ 86.5(▲19.3%)
 れいわ 228.0( 4.6%) 231.9( 4.4%・▲0.2) △ 3.9(△ 1.7%)
 社民    104.6( 2.0%) 125.8( 2.4%・△0.4)  △ 21.2(△20.3%)
  
 その他 171.0( 3.4%) 362.0( 6.8%・△3.4) △191.0(△ 3.8%)

 (1)得票・得票率は、前回に引き続き自民が「ダントツ1位」で1825万票(34%)を獲得した。次いで、784万票(15%)を獲得した維新が、立憲677万票(13%)、公明618万票(12%)を抜いて2位に上がった。国民315万票(6%)、共産361万票(7%)は、いずれも票を減らして見る影もない。
 (2)総得票数は前回から295万票(増減率△6%、以下同じ)増えたが、その増加分は維新293万票(△60%)にほぼ吸収された。減少したのは、公明35万票(▲5%)、国民32万票(▲9%)、立憲114万票(▲15%)、共産86万票(▲19%)である。公明は「体力低下」が原因とされるが、国民、立憲、共産3党の場合は「野党共闘の崩壊」による〝自滅〟が原因だろう。
 (3)野党のだらしなさに愛想をつかした無党派層の票が、れいわ・社民のような少数政党、そして雨後の筍のように出てきたN党や参政党などの諸派にまわった。既成政党とりわけ「ゴタゴタ」を繰り返して野党のイメージを台無しにした玉木雄一郎国民代表や泉健太立憲代表は、その事実を認めて責任を取らなければならない。

 玉木・泉両氏は、投開票日の翌日、選挙結果を連合の芳野会長に別々に報告に行ったというが、一体何を話したのだろうか。今回の参議院選で、連合は立憲と国民候補を合わせて55人を推薦したものの、22人しか当選しなかった。このうち、比例代表では、傘下の産業別労働組合の出身者9人が両党に分かれて立候補し、1人が落選した。連合の芳野会長は、記者会見で「非常に厳しい結果になった。推薦した全員の当選という目標を実現できなかったので、責任は重いと思っている。今後、選挙の総括をまとめるなかでしっかり議論していきたい」と述べたという。そのうえで、立憲民主・国民民主両党間の連携が限定的になったことに関連して「両党が大きな塊となり、戦いやすい形に持っていきたいという思いは今も変わらないので、両党への働きかけは続けていきたい」と語った(各紙7月12日)。

 「いったいどの面下げて......」と言いたいところだが、自民麻生副総裁やその他幹部としばしば酒席をともにし、自民の選挙ポスターの前の記者会見で「自民との会合は政策実現のため」といけしゃあしゃあとのたまう御仁のこと、今回の国民・立憲の惨敗は痛くも痒くもないのだろう。「共産とは手を組まない=野党共闘からの排除」という公約通り、共産を2割近い得票減(86万票)に追い込んだことで、連合として大満足なのではないか。

 一方、泉健太立憲代表もこれに劣らず鉄面皮ぶりだ。泉氏は12日の党執行役員会で、参院選の総括を8月中旬までにとりまとめる方針を明らかにしたものの、自らは〝続投〟することを前提に立て直しを図る考えを表明した。立憲は今回、現職が立った岩手、新潟、山梨で議席を失うなど6議席減の17議席の獲得に終わった。野党第1党の座は辛うじて維持したものの、比例票では維新を約100万票下回った。勝敗を左右する1人区で、野党は4勝28敗の惨敗だった。泉氏はこの日の会合で、敗北に終わった昨秋の衆院選を念頭に「我々にとって、非常に厳しいところからのスタートという戦いだった」と説明し、「歯を食いしばって難局を乗り越えて、もっともっと国民のために働く必要がある」と述べた。この発言に対して、出席者からは辞任要求は出なかったというが、小川淳也政調会長は「今回の敗北は執行部に責任がある。人心の一新を図るべきだ」と主張したという(朝日新聞7月13日)。

 泉氏に野党第1党を率いる識見も器量もないことは、今回の選挙で白昼のもとに明らかになった。リーダーの識見は「引き際」に発揮されるというものである。自らの器の大きさを客観視できないようなリーダーは、もうそれだけで指導部の任に非ずというべきだろう。泉氏がこのまま立憲代表の席に居座るようでは、立憲の将来はない。8月中旬までの選挙総括をまとめる前に、泉氏がなすべきことは潔く代表の座を降りることである。

 同様のことは、立憲以上の惨敗を喫した共産にも当てはまる。日本共産党中央委員会常任幹部会は7月11日、例によって「参議院選挙の結果について」との声明を発表した(しんぶん赤旗7月12日、要約)。
 「比例代表選挙で、日本共産党は『650万票、10%以上、5議席絶対確保』を目標にたたかいましたが、361万8千票、得票率6.8%にとどまり、改選5議席から3議席への後退という、たいへんに残念な結果となりました。常任幹部会として、こうした結果になったことに対して、責任を深く痛感しています」
 「昨年11月の第4回中央委員会総会決定で、私たちは、党員拡大でも、前回参院選時の回復・突破を目標に掲げて奮闘しました。しかし、党勢は前回参院選時比で、党員92.5%、日刊紙読者92.0%、日曜版読者91.4%にとどまりました。私たちは、今回の参議院の最大の教訓はここにあると考えています。どうやってこの弱点を打開していくか。全党のみなさんの知恵と経験に学びたいと思います。どうか率直なご意見・ご提案をお寄せください」 

 いつもなら、全党の議論を待つことなく常任幹部会の上からの決定を「総括」と称して学習させるのが指導部の常套手段であるが、さすがに今回の結果はそれを許さなかったのであろう。指導部がいくら叱咤激励しても党組織が動かなくなり、結果として得票数も得票率も〝過去最低〟の水準にまで落ち込んでしまったことの衝撃があまりにも大きいからである。前回の参議院選の比較だけでなく、衆院選も含めてここ数回の選挙結果の推移を辿ってみると、まるで「崖から転げ落ちる」ような勢いで共産の得票数、得票率が減少している状況が浮かび上がる(『前衛』2022年2月臨時増刊)。

【衆参選挙における共産党比例代表得票数、得票率の推移、2014~2022年】
                          (単位:万票)
 2014衆 2016参 2017衆 2019参 2021衆 2022参
 得票数  606.2   601.6   440.4  448.3  416.6  361.8
 得票率  11.3%   10.7%  7.9%   8.9%   7.2%  6.8%

 その根本的な原因は、常任幹部会声明がいうように〝自力不足〟にあるが、これを克服することは容易なことではない。一つは党組織が著しく高齢化していること、もう一つは若者が「共産離れ」をしていて寄り付かないことだ。共産党の機関紙「しんぶん赤旗」では、連日(1年365日)機関誌拡大、党員拡大などのキャンペーンを続いているが、どれもこれも同じ文句の繰り返しで見るのもうんざりする。疲弊した党組織をいくら𠮟咤激励しても効果がないことはわかっているのに、百年一日の如く繰り返しているのをみると、これ以外の発想や方策はもうないのかもしれない。

 常任幹部会が、「今回の選挙結果について深く責任を痛感している」のであれば、「全党のみなさんの知恵と経験に学びたい」などと他人事のように責任転嫁をせず、自らがそれにふさわしい責任を取ることから始めなければならない。せめても志位委員長が長年独占してきたトップの座を清新な指導者に譲り渡し、指導部を一新するぐらいのことがなければ、共産の再生は難しいだろう。また、「戦時共産主義」の残滓ともいうべき「民主集中制=上意下達」の党組織を依然として維持し、90歳を越える超高齢幹部が定年制もなく常任幹部会に居座るようでは、若者の眼には共産は「化石」同然の存在としか映らない。〝魁より始めよ〟が組織改革の鉄則であって、他人に意見を求めて時間稼ぎすることではあるまい。

 これまでも再三再四、「選挙結果は厳しかったが、政策は間違っていなかった」との同じような口実で、志位委員長がもし責任を取らないようなことが起これば、若者の眼には共産は改革を拒否する「永遠の保守政党」としての烙印を押されるだろう。オールドリベラリストたちも志位委員長の顔は「三度まで」と引導を渡すだろう。

 赤旗の死亡告知欄には、連日高齢党員の名前が平均して数名掲載されている。年間累計数では千数百名を下ることはないと言われている。生物学的法則を党員魂の喚起で覆すことはできない。指導部はもとより党組織を一新しなければ、共産党は生物学的に〝自滅〟する以外の道が残されていない。(つづく)