2020.04.08 総選挙は間近か、緊急事態宣言と緊急経済対策の打ち出しで都知事選同時選挙の可能性高まる

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 安倍首相は4月6日、新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言を7日にも東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に出す意向を明らかにした。期間は5月6日までの1カ月、7日に正式に決定する。特措法に基づく緊急事態宣言は今回が初めてで、感染拡大防止に必要な措置を実際に講じるのは対象区域の都道府県知事だ。住民への不要不急の外出の自粛要請や、学校や劇場、百貨店、体育館といった施設の使用停止、イベントの開催制限の要請・指示など私権の制限を伴う措置がとれる。

 「都市封鎖を行うことはない、する必要もない」と安倍首相が度々言明しているように、今回の緊急事態宣言が罰則を設けて外出制限などを行う海外の「ロックダウン」(都市封鎖)と異なるのであれば、首相はなぜ緊急事態宣言の発令にこだわるのか。公共交通機関の運行や食料品店の営業などの経済社会活動は可能な限り維持するというのだから、小池都知事や吉村府知事が外出自粛要請していることで十分ではないか。

 安倍首相はまた同日6日、新型コロナの感染拡大に伴う緊急経済対策の民間支出も含めた事業規模を総額108兆円にすると表明した。家計や中小企業などに総額約6兆円の現金給付を行うほか、法人税や社会保険料約26兆円の支払いを猶予するという。今年2~6月のいずれかの月に世帯主の収入が半分以下に減り、年収に換算した場合に住民税が非課税となる水準の2倍以下であれば30万円を給付することも強調した。今回の緊急経済対策の規模はGDPの約2割に当たり、これまで最大だったリーマン・ショック時の約56兆8千億円の2倍近い規模となる。政府は7日2020年度補正予算案とともに閣議決定する。

 私は安倍首相のこれらの発表を聞いて、総選挙が間近いことを直感した。緊急事態宣言発令で国民の心理を極度に委縮させて政府への依存心を高め、緊急経済対策でそれ相応の救済策を打ち出して利益供与の機会をつくるのだから、これほど大掛かりな総選挙の仕掛けはない。コロナ危機を最大限活用したショック・ドクトリン政策がいままさに展開されようとしているのである。

 加えて、共産党の小池書記局長が4月6日の記者会見で批判したように、与党が新型コロナウイルス感染拡大を受け、緊急事態下の国会の在り方を議論する衆院憲法審査会開催を提案したことも気にかかる。自民党は4月3日、2020年度予算の成立を受け、今国会初の憲法審を9日に開催するよう野党側に提案したのである(共同通信4月6日)。自民党は憲法改正案4項目で「緊急事態条項」の新設を掲げており、今回の緊急事態宣言を「前ならし」にして憲法改正の道筋を付けようとしているのだろう。

 小池都知事が再選を狙う東京都知事選挙は7月5日(日)が投開票日だ。小池氏が安倍首相と同種の人物であることはこれまでもよく知られている。小池氏が政府に緊急事態宣言発令を懇請し、安倍首相がそれに応えたことは、両者の思惑が一致していることを示している。小池都知事も安倍首相も緊急事態下の選挙が自分にとって最も有利であることを熟知しており、またそれだからこそ緊急事態宣言の発令にこだわったのである。

 アメリカ大統領の民主党予備選でも明らかなように、新型コロナウイルスの感染拡大につれて、サンダース候補の選挙運動がみるみるうちに失速した。若者たちの熱烈な運動に支えられて有権者に直接訴えかけるサンダース氏の選挙戦術は、自由な選挙集会や街頭演説が強力な武器であることは言うまでもない。新型コロナの感染拡大で選挙集会や街頭演説が封じられると、権力を持たない野党陣営は手足をもがれたのも同然の状態になる。最近「れいわ」の影が薄くなったと言われるのも、山本代表の街頭演説ができなくなったからだと聞いている。

 新型コロナウイルスの感染拡大は簡単に収まらない。人口も経済も東京一極集中している日本では、新型コロナも東京一極集中する可能性が高い。政府の緊急事態宣言は当面1カ月だというが、感染拡大が収まらなければ2カ月、3ヶ月と延長されることは否定できない。この間、選挙運動らしい運動ができなければ、現職が圧倒的に有利となり、野党候補は戦う術もなく出番を失うことにもなりかねない。

 このことは総選挙でも同じことだ。立憲民主党の枝野代表や国民民主党の玉木代表は、政府の緊急事態宣言の発令が遅すぎると批判しているようだが、発令後の事態がどのように展開するかについてはまったく予想していない。東京五輪開催が予定通り行われると観測されていた時期には、東京五輪後に総選挙があることも考えて野党間の話し合いも進めていたというが、最近ではそんな話も聞かなくなった。東京五輪延期のあおりを食って、総選挙も先延ばしになったと考えているのだろうが、それは大間違いだ。

 私は東京都知事選が行われる7月5日に総選挙も同時に行われると予想している。理由は、緊急事態宣言状態が続く中での都知事選と総選挙の同時選挙が圧倒的に与党有利だと安倍首相も小池都知事も考えているからだ。都議会と東京選挙区で自民党が圧勝すれば、憲法改正への道も開ける。安倍首相は次の総選挙の公約に憲法への「緊急事態条項」の導入を掲げるだろう。緊急事態宣言で委縮した国民心理がこの状況にどれだけ抵抗できるか、国民投票で果たして反対できるか、それを確信できる根拠が薄らいできているのである。

 新型コロナ対応を巡っては、野党は政府・与党と「連絡協議会」で意見交換を重ねてきた。それを野党が政権担当能力を示したとして評価する向きもあるが、こんな考え方は余りにも甘すぎると言わなければならない。野党にとっての緊急事態宣言の発令容認は、自らの存在を埋没させ、次の総選挙での安倍政権圧勝への贈り物になるかもしれない。野党はもう一度原点に返って情勢を見直してほしい。

2020.04.06 現金や商品券の一律給付は行うべきではない

盛田常夫 (経済学者、在ハンガリー)

 コロナ禍を政治利用してはならない。一律に現金や商品券を給付する政策は、有権者の票買収以外の何物でもない。

 今次のコロナ禍による経済低迷は経済社会的行動の制限によるものである。これまでの経済恐慌とは違い、潜在的な有効需要は存在しているが、営業制限によって有効需要の発現が抑制されていることから種々の経済問題が生じている。したがって、営業制限が続いている限り、現金給付してもそれが有効需要にならず、貯蓄に回される可能性がきわめて高い。
 いま必要とされているのは、一律の現金給付ではなく、営業制限によって失業した人々や、顧客の激減によって倒産寸前になっている中小企業の救済である。国家資金はこれらの本当に救済を必要としている人に、重点的に行き渡るもものでなければ意味がない。
 
 東日本大震災時と同様に、不可効力な災禍が生じた時は社会が連帯して痛みを分かち合わなければならない。一律に現金や商品券を配るという発想は、ポピュリズム以外の何物でもない。巨額の国家資金が必要な時に減税を唱えるのではなく、逆に国の債務を野放図に増やさないために、救済資金を確保する特別税を導入し、負担できる法人や個人から徴税する仕組みを考えるべきだ。国民も「減税ならなんでもOK。国がくれるものはなんでも頂く」という姿勢ではなく、国の財政の行く末を考え、その使途を監視しなければならない。
 国が配る現金であれ商品券であれ、その原資は財政の前借(借金)である。国の借金は将来世代につけ回しされた負債である。アベノヨイショの「経済学者」が放言しているように、「国の借金などどうにでもなる」ことはない。「国の借金がいつの間にか消えてなくなる」ような手品はない。いつの日か、何らかの形で、必ず国民が負担することになる。それを忘れてはならない。
 もし日本の公的債務が小さく、国家財政に余裕があれば、大規模な救済政策がとれるはずだが、すでにGDPの200%を超える累積債務を抱え、日銀が株を買い支え、潜在的な債務超過になっている異常な状況では、政策発動に大きな制約が存在する。コロナ禍に加え、大地震や原発事故が重なれば、経済社会は致命的な打撃を受ける。それほどまでに日本の国家財政基盤は脆弱である。経済社会崩壊を避けるために、政治家だけでなく、国民が危機感を持つことが必要だ。
 10万円であれ20万円であれ、今の世代が取得する現金は、そのまま将来世代、つまり今の子供の世代に先送りされる付けである。このことを認識できなければ、春秋時代の警句になった「サル」と同じである。だから、支給された現金が貯蓄に回ることに、それなりの合理性がある。なぜなら、給付金を貯蓄に回すことによって、将来、子供や孫に伸しかかってくる負債と相殺できるからである。しかし、これでは緊急政策として意味も効果もなく、国の債務を増やすだけのことだ。

 もっとも、政府の「施し政策」によって、自民党政府にたいする有権者の支持が増えるという政治的効果が期待できる。だから、一律に現金や商品券を給付するといういかがわしい政策を容認してはならない。
 アメリカは貧富の格差が大きく、一般労働者は民間の医療保険に加入する経済的な余裕がない。アメリカのような市場原理主義的な社会保障後進国では、問題の根本解決にならないが、現金給付によって一時的に労働者層を救済できることはある。しかし、社会保険制度が異なる日本が、アメリカの政策の真似をする必要はない。

2020.04.03 森友疑惑、財務省の担当者自殺の真相明らかに
「週刊文春」が遺書公開、遺族は1億1千万円の賠償を提訴
改ざん再調査を求める署名3日間で17万超


坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

 森友疑惑。直接の担当者、赤木俊夫・上席国有財産管理官(57歳)の自殺にもかかわらず、安倍首相・同夫人―麻生財務相―佐川元理財局長(当時、事件の全容を指揮)は国会での厳しい再調査要求を拒否し続けている。2年前の2018年3月7日に自殺した赤木氏はひそかに手記を記していたが、残された赤木夫人は、A4の用紙7ページに克明に記されていた遺書の公開を断り続けてきた。
 事件当時、NHK大阪報道部の記者、相沢冬樹さんは、司法キャップとして森友疑惑取材を指揮、森友事件をいち早く報道していた。赤木さんと親しかった相沢さんは、赤木さん自殺から半年余り後の18年11月、赤木さんの妻、昌子さんと初めて会い、故人が残した手記を見せられた。昌子さんは故人となった夫から、相沢さんのことを良く聞かされていた。
 相沢さんは、それ以前にNHK大阪報道局の記者を外され、NHKを辞め、大阪日日新聞に移っていた。そのことを知った赤木夫人から、相沢さんと会いたいとの連絡があったのだ。その席で、昌子さんは、夫が残した遺書を相沢さんに見せた。相沢さんは遺書をメディアで伝えたいと要望したが、昌子さんははっきりと拒否した。相沢さんによると昌子さんは、夫の後を追うつもりで、その際に公表するつもりだったという。それを察した相沢さんは、生き続けて亡き夫を死に追い込んだ安倍首相を頂点とする国と直接の指揮官である理財局長を提訴し、真相を明らかにするよう、昌子さんを必死に説得し、成功した。
 昌子さんは、国と佐川元局長が逃げられないよう、1億1千万円の賠償請求を大阪地裁に提訴した。おそらく相沢さんの発案で、週刊文春に独占取材を委ねた。週刊文春は3月26日号で遺書の全文「赤木俊夫氏が遺した『手記』」を3ページ、関連取材記事、解説を7ページ掲載した。同誌は一両日で売り切れてしまって店頭では入手できなくなった。
 NHKの関西NEWS WEBによると、亡くなった赤木俊夫さんの妻昌子さんは3月28日から、インターネットサイト「チェンジ・ドット・オーグ」(Change.org)で第三者委員会による再調査を求める署名活動を始めた。30日午前11時の時点で、17万7千人余の署名が集まっている。
 共同通信社が26~28日に全国で行った、財務省の公文書改ざん問題を再調査する必要性について尋ねた世論調査では「再調査が必要」の回答が73.4%、「必要ない」の回答が19.4%だった。安倍首相も麻生財務相も再調査を拒否し続けているが、それ自体、森友汚職を認めているようなものだ。(了)

2020.04.02 新型コロナウイルスの感染拡大を契機とする、安倍流ショックドクトリン政策は成功するか

広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 近畿財務局職員の遺書の公開、黒川東京高検検事長の定年延長をめぐる森雅子法相の支離滅裂答弁、河合夫妻の公職選挙法違反疑惑に関する秘書逮捕などなど、最近の安倍政権には内閣が幾つも吹っ飛んでおかしくないほどの不祥事が続出している。それでいて一旦下がった内閣支持率が再び回復するなど、良識ある国民には理解しがたい出来事が起こっている。いったいこの現象をどう見ればいいのか、見識ある政治評論家のコメントを聞きたいものだ。

 3月21、22両日に行われた産経新聞世論調査では、前回36.2%にまで下がった内閣支持率が41.3%に5.1ポイント上昇した。自民党支持率も31.5%から32.6%へ1.1ポイント回復している。これに対して立憲民主党、国民民主党、社民党など野党支持率は軒並み低下している。「いったいどうなってるの?」と言いたくなるぐらいの現象なのだ。

 産経新聞(3月24日)は、この結果を「野党 支持離れ鮮明、政権追及空回り」「新型コロナ 政府対応 野党支持層も評価」「『次も安倍首相』トップ」などと、全紙を使って大きく伝えている。結論は、「支持が広がらない背景には、イベント自粛要請や小中高校の一斉休校など、新型コロナウイルスの感染拡大阻止に向けた政府の対応が一定の評価を得ていることがある」というものだ。事実、肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大について、「政府の対応を評価するか」との質問に対しては、「評価する」が前回49.4%から51.2%へ上昇し、「評価しない」が45.3%から38.9%へ低下している。

 具体的には、(1)小中高校の一斉休校要請の判断が「適切だと思う」68.4%、「適切でないと思う」25.3%、(2)イベント自粛要請の判断が「適切だと思う」86.8%、「適切でないと思う」25.3%など、国民生活の一大事に関する安倍首相の思い付きと独断が「適切」だと圧倒的に支持されているのである。新型コロナウイルスへ恐怖感がそれほど大きく、安倍首相の思い付きや独断までが「果敢な行動」だと映るような社会心理状態が拡がっているのだろう。

 安倍政権は3月10日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとして「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(2012年制定)の改正案を国会に提出し、立憲民主党などをも巻き込んで強引に成立させた。この特措法による「緊急事態宣言」は、住民への外出自粛要請や各種イベントの開催制限の要請・指示、医薬品などの売り渡し要請などができる。多数の者が利用する施設(学校や社会福祉施設など)の使用制限・停止要請では適用対象が拡大可能であり、ときの政権に批判的な市民集会とかが排除されるおそれがある。また、NHKや民放の「指定公共機関」に対しても「必要な指示をすることができる」とあり、憲法で定められた集会の自由や表現の自由を侵しかねない内容が含まれている。

 政府は3月26日、首都圏での新型コロナウイルスの感染拡大を受け、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく政府対策本部を設置した。これに伴い全都道府県も知事をトップとする対策本部を設け、感染症の専門家らによる諮問委員会が緊急事態宣言を出す要件を満たすと提言すれば、安倍首相が「緊急事態宣言」を出すことができる。首相は対策本部の初会合で「国難というべき事態を乗り越えるために国や地方公共団体、国民が一丸となって対策を進めていく」(日経3月27日)と述べた。

 安倍首相はこれまで幾度も「国難」を連発してきた。北朝鮮のミサイル発射に対しては「避難マニュアル」まで作らせ、児童や住民の避難訓練を実施させた。自分は友人たちとゴルフを楽しんでいる...と言うのにである。その一方、少子化と言う国難にはいっこうに立ち向かおうとしない。人口を回復させるという「希望出生率1.8」はそのまま棚ざらしになっている。自分のご都合で「国難」をでっちあげて一定の政治効果が上がったと見るや、次の「国難」を作っては強権政治への求心力を高める――こんなことの繰り返しをやってきただけなのだ。

 だが、新型コロナウイルスの感染拡大を契機とする今回の「緊急事態宣言」への準備は、今までのご都合主義とは異なる真剣味を帯びている。対策本部の設置後、安倍首相は東京都の小池知事と首相官邸で会談した。小池知事は「国の大きな力強い協力が必要だ」と要請し、首相は「収束に努力している都を一体的に支援する」と応じた。小池知事は会談後、緊急事態宣言について「これから検討されることを期待したい」と記者団に語ったという(日経3月27日)。

 安倍首相は「頭の片隅にもない」と言いながら、自民党総裁4選をいつも念頭に置いている。小池知事もまた7月に迫った都知事選で頭が一杯だ。全国民の関心が新型コロナウイルスの感染拡大の行方に集中しているとき、両者がこの事態を自分の権力拡大に利用しないわけがない。連日テレビ報道を一身に集めている現在は、安倍首相にとっても小池知事にとっても「果敢な決断」を示す絶好の機会なのである。国難を救う強力なリーダー像を演出する上で、これほどの機会はまたとやってこないからだ。

 「独裁と化した安倍政権に強大な権限を与えると、戒厳令に等しい状況をつくられてしまう危険性がある」と、日弁連は警鐘を鳴らしている。政変・戦争・災害などの危機的状態の下で、人々がショック状態や茫然自失状態から自分を取り戻せないときに、安倍首相が「国難というべき事態を乗り越えるために国や地方公共団体、国民が一丸となって対策を進めていく」と言うのは、まさにこのことなのである。

 安倍首相が「緊急事態宣言」の下で〝ショックドクトリン政策〟を実行に移すことを許してはならない。新型コロナウイルスの感染拡大防止という名目で〝恐怖政治〟を実質化することを許してはならない。今、野党は存在意義を懸けてそのことを国民に問う時なのである。

2020.03.28 内容ないコロナ首相会見に抗議広がる
日本マスコミ文化情報労組(MIC)9組合が共同声明

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 コロナウイルス感染が広がり続けている3月14日、安倍首相はコロナ特措法の成立を受けて2度目の記者会見を行った。前回(2/29)の会見がわずか34分で打ち切ったことを批判されたが、今回は18分増えて52分になった。進行役の長谷川栄一内閣広報官が約44分で会見を打ち切ろうとしたが、「これで記者会見と呼べるか」、「質問まだあり」など記者の声が飛び、会場は騒然とした。
 結局、安倍首相の「まあいいじゃないか」という一言もあり、最終的に12人が質問した(前回、質問記者は5人にとどまった。しかし、首相が会見場を後にした時にも、会見を続けるよう求める記者の声が相次いだ)。
 今回の首相記者会見にあたっては、事前に官邸記者クラブの幹事社、東京新聞と共同通信が官邸報道室に対し、十分な時間を取り、多くの質問に答えるよう要望していた。しかし、実際には多くの質問に答えることなく、手を挙げる記者たちを残して、事実上の打ち切りだったといえる。
 なお、NHKはこの記者会見の中継をしたが、途中で中継を打ち切った。その直後に長谷川内閣広報官が会見を打ち切りしようとした。このことから、NHKと長谷川内閣広報官の間で、事前に会見時間について密約があったのではないかとみられる。

 ▼突然の休校要請、判断根拠提示されず一方的打ち切り
 2月29日、新型コロナウイルスへの政府の対応に関する安倍晋三首相の記者会見は突然の休校要請だったが、記者会見の時間はわずか34分。「まだ質問があります」という声を司会の長谷川内閣広報官は無視して会見は打ち切られた。安倍首相は自宅へ。
 「まだ質問があります」と声を挙げたジャーナリストの江川紹子氏は、以下の文面のツイッターを連続投稿した。
 「安倍首相の記者会見、一生懸命“まだ聞きたいことがあります”と訴えたけど、事前に指名されて質問も提出していたらしい大手メディアの記者に対して、用意されていた原稿読んで終わりでした。」(江川紹子)
 「専門家会議では議論してない全国一斉休校要請について、他の専門家に相談したのか、今回の判断した根拠やエビデンスは何か、それに伴う弊害やリスクとの検討はどのようにやったのか、期待される効果や獲得目標は何か…その他いろいろ聞きたいことはあったんだけど」(江川紹子)
 ▼マスコミ労組など、十分な時間と質問できる時間を要求、署名3万人超える
 朝日新聞と毎日新聞は会見の翌日、15日の紙面で、記者会見打ち切りの経過を詳報したことも注目される。政府の記者会見に対する、不誠実な対応は、メディアはもとより市民の間にも批判が広がっている。
 3月18日には「日本マスコミ文化情報労組(MIC)の議長、南彰新聞労連委員長(朝日新聞記者)、と「国会パブリックビューイング」の代表、上西充子法政大学教授が、日本記者クラブで会見し、安倍首相に十分な時間を確保し、質問を求めるジャーナリストの多くに丁寧に答えるよう要望した。
 MICはこのところ安倍首相の会見が短時間で、挙手があるにもかかわらず打ち切られる例が続いていること、官邸クラブで東京新聞望月記者ら特定記者に全く答えないなどの事態が続いていることなどから、「オープンな記者会見を求める」署名運動を行っており、第一陣として12日に3万3000人分の署名を官邸に提出している。
 南MIC議長は「為政者、権力者の一方的な発信を防ぐためには、会見で記者が多角的に質問することが重要だ」と指摘、「会見の主導権を首相官邸に握られている。再質問もできる十分な時間を確保し、フリーの記者なども幅広く参加できる形で実施すべきだ」と述べた。
 また国会パブリックビューイングの上西教授は、「記者会見は国会の議論と同様の重要性を持つ。記者会見の実情も可視化され、ジャーナリズムの役割を発揮できるようになるため連携していきたい」と述べた。
 MICは3月18日付で「市民の疑問を解消する首相への質問機会を取り戻そう」という加盟9組合の共同声明を発表した。MICの加盟組合は、新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労の9全国単産。






2020.03.21 パンデミック宣言で東京五輪はどうなる?
 開催延期・中止は安倍政権の終焉につながる
                
広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 遅きに失したとはいえ3月11日、 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は漸くにして新型コロナウイルス感染拡大は「パンデミック(世界的な大流行)」に相当すると表明した。中国湖北省武漢が発生源とされる新型コロナ感染は、3月11日時点で114国・地域にすでに拡大しており、これまでに11万8000人超の感染が確認され、4291人が死亡したという。テドロス事務局長は感染者及び死者数は今後も増加する見通しと述べたが、その後、各国当局の発表に基づきAFPがまとめた統計によると3月16日現在、世界の新型コロナウイルス感染者数は141の国・地域で16万9390人に達し、うち6420人が亡くなったとされる。恐るべき勢いだ。

 テドロス事務局長はまた3月13日、イタリア、スペイン、ドイツ、フランスなどヨーロッパ各国での新型コロナウイルスの感染者急増を念頭に、「今や欧州が新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の中心地だ」との認識を示した。テドロス事務局長は「欧州では中国以外の世界の感染・死者数を合わせた数字を上回り、パンデミックの中心地となった」と述べた。テドロス氏によると、3月13日時点で感染は123カ国・地域に広がり、患者数は13万2000人を超えている。その後3月16日午前2時時点の地域別感染者数(AFP通信)は、アジアが9万1973人(死者3320人)、欧州が5万2407人(死者2291人)、中東が1万5291人(死者738人)、米国・カナダが3201人(死者52人)、中南米・カリブ海諸国が448人(死者6人)、アフリカが315人(死者8人)、オセアニアが303人(死者5人)となっている。

 テドロス事務局長は、これまで中国への過度の政治的配慮からパンデミック宣言に踏み切ることを躊躇してきたとされる。しかし、その結果が中国以外のヨーロッパ各国での急速な感染拡大につながったとしたら、責任は重大だと言わなければならない。緊急事態宣言やパンデミック宣言に時機を逸したことが、世界各国の警戒心を高めることの障害になったとしたら、テドロス事務局長の判断は許されるものではないし、責任を免れるわけにはいかないだろう。

 パンデミック宣言はまた、東京五輪の開催についても深刻な影響を及ぼさずにはおかない。これまで日本では、東京五輪開催のために国内での感染をいかに食い止めるかに最大の力点が置かれてきた。大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」への対応一つを見ても水際対策が極力重視されてきたのは、国内への感染拡大が東京五輪の開催の中止につながることを極度に恐れていたからだ。その背後には、東京五輪の開催に懸ける安倍首相の並々ならぬ執念がある。

 そもそも安倍首相は、フクシマ原発の放射能汚染を警戒する世界各国の懸念を払拭するため、東京五輪の開催を決めるIOC総会において専門家の判断に基づくものでもなければ先の見通しもなく、「フクシマ原発の汚染水は完全にコントロールされている」と大見得を切った政治的前科がある。それ程にまで安倍首相が東京五輪に執着するのは、それが安倍内閣の政権浮揚にとって欠かすことのできない政治戦略の一環として位置付けられているためだ。しかし、原発汚染水の処理がその後も一向に進まず、最近に至っては「海に流すほかない」といった荒唐無稽な方針が出されるまでに事態は膠着しているのである。

 だがWHOのパンデミック宣言は、東京五輪の開催が「国内マター」ではなく一挙に「世界マター」になったことを印象付けた。例え日本国内の感染が期限内に収束したとしても、選手団や役員そして応援団などを送り出す世界各国の感染が収束しなければ五輪開催は難しい。WHOが〝パンデミック終息宣言〟を出さない限り東京五輪は開催できないことは誰もが知っているからだ。新型インフルエンザの場合も発生から終息宣言まで2度の山があり、1年有余の時間を要している。ヨーロッパがパンデミックの中心になった現在、今年7月に迫った東京五輪が開催できるなどと考えるのは、余ほどの国際的感覚に欠ける自己中心的グループだけだ。

 すでに国際オリンピック委員会(IOC)側からも日本側からも、東京五輪の可否に関して様々な観測気球が揚げられている。IOC側からは最古参のパウンド委員(カナダ)が2月25日、5月下旬が判断の期限になるとの考えを示し、「その時期になれば、東京に安心して行けるほど事態がコントロールされているか誰もが考えないといけないだろう」と語った(読売2月26日)。また日本側からは、大会組織委員会の高橋理事が3月10日付けの米紙ウォールストリート・ジャーナルのインタビューに対して、「ウイルスは世界中に蔓延している。選手が来られなければ五輪は成立しない。2年の延期が現実的だ」との見解を示した。

 高橋理事は毎日新聞の取材にも応じ、(1)東京大会はIOCが巨額の放映権料を失うため中止できない、(2)無観客開催は組織委員会にとって重要な収入源である入場料を失うことになる、(3)年内延期は欧米のプロスポーツと時期が重なり、来年のスポーツ日程もすでに固まっている、(4)5月下旬に対応を決めるとの声があるが、多方面に迷惑が掛かるので今月下旬の組織委員会理事会に提言する―との見解を表明している(毎日3月12日)。

 3月12日にはさらに重大な発言が相次いだ。IOCバッハ会長がドイツ公共放送のインタビューを受け、東京五輪の開催中止や延期について、「我々はWHOの助言に従う」との態度をはじめて明らかにした。また同日、トランプ米大統領は東京五輪の開催について、「観客がいない状態で競技を行うよりは、1年延期する方がよい代替案だと思う」との個人的意見を述べた(各紙3月13日)。驚いた安倍首相は13日午前、トランプ氏との電話会談で「五輪開催は予定通り」と力説して理解を求め、橋本五輪担当相や小池東京都知事なども延期話の打ち消しに躍起となった。

 だが、事態は次第に延期論に傾きつつある。毎日新聞は日本オリンピック委員会(JOC)関係者の声として、「最終的には米国の動向がキャスティングボートを握る。強行開催は難しくなってきた」(3月13日)との意向を伝え、朝日新聞は「東京五輪、延期論が拡大」との見出しで、政権幹部の「新型インフルエンザでも流行に2度の山があり、収束までに1年かかった。夏ごろ下火になっていたとしても、IOCは予定通り開催と判断できるだろうか」との声や、東京都幹部の「延期は一番最悪な状況の中での最適な解だ」との意見を紹介している(3月14日)。

 事態は極めて流動的であり予断を許さないが、東京五輪を目標にフル回転してきた安倍政権はここにきて最大の危機に直面することになったことは間違いない。東京都の試算によれば、東京五輪の経済効果は2013年から2030年までの18年間で32兆円に上る。32兆円の内訳は、五輪前8年間でインフラ整備等21兆円、五輪後の10年間で五輪関連イベント等11兆円となっており、うち都内が20兆円と約6割を占めるが、訪日客の観光需要拡大などにともない地方にも12兆円の波及効果があると試算している(日経17年3月7日)。

 すでに膨大な公共投資・民間投資が注ぎ込まれている以上、万が一中止になれば経済面への打撃は大きく、訪日客の全面ストップはもとより関連イベントが軒並み中止に追い込まれ、その影響は全国に及ぶことになる。SMBC日興は3月6日、新型コロナウイルス感染が7月まで収束せず、東京五輪が開催中止に追い込まれた場合、約7.8兆円の経済損失が発生するとの試算を公表した。国内総生産(GDP)を1.4%程度押し下げ、日本経済は大打撃を被ることになるという(時事通信3月6日)。 

 問題は、それが経済的打撃だけには止まらないことだ。東京五輪が延期・中止に追い込まれれば、東京五輪を契機として安倍政権の更なる延命と浮揚を図り、安倍一強体制を維持し続けようとする野望が一挙に崩れることになる。毎日新聞の次の指摘は鋭い(3月14日)。「首相は経済優先の姿勢をアピールすることで長期安定政権を築いてきた。だが、ウイルスの感染拡大を受けた世界的な株安が日本を直撃する。2回先送りした10%への消費税率引き上げを19年10月に踏み切ったのは、翌年に控える『五輪特需』を見越し、増税による景気落ち込みが最小限になるタイミングと踏んだためだ。五輪を契機に政権浮揚を図る戦略から、首相は今年1月の施政方針演説で五輪開催に向け『国民一丸となって新しい時代へ共に踏み出そう』とアピールしたが、五輪が延期・中止に追い込まれれば政権が見込んだシナリオは崩れかねない」。

2020.03.09 「緊急事態宣言」を発動させるな
新型コロナウイルス感染症対策で
                    
岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 安倍政権は、まん延する新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐとして、新型インフルエンザ等対策特別措置法(インフル特措法)改正案を3月10日にも国会に提出し、13日に成立させる方針だが、改正案が成立すれば、内閣総理大臣は新型コロナウイルス対策で「緊急事態宣言」を発することができるようになる。いわば、内閣総理大臣は強制力をもつ極めて強い権限をもつことになるわけだが、「それでは憲法で保障された基本的人権が犯されかねない」と危惧する声が上がっている。

 今や万人の目に明らかになったことだが、中国で発生した新型コロナウイルス感染症への対応では、安倍政権による「初動ミス」や「後手後手」、あるいは「行き当たりばったり」的な対策で、日本でも感染者が拡大する一方である。3月2日には、WHO(世界保健機関)が「新型コロナウイルス感染症拡大に関する最大の懸念は韓国、イタリア、イラン、日本の4カ国である」と指摘するに至った。国内で確認された感染者は3月8日現在、1157人、死者13人にのぼる。
 あわてた安倍首相は感染症拡大を抑えようと2月26日にスポーツ・文化イベントの開催自粛を、翌27日には全国すべての小中高校の一斉休校を、それぞれ首相主導で要請したりして、全国各地に混乱と戸惑いと困惑を引き起こしている。

 それでも新型コロナウイルス感染症の拡大は止まらないため、安倍政権は一層強力な感染拡大防止策を実施しようと躍起だ。そこで、思いついたのが「緊急事態宣言」である。これまで、同政権が打ってきた防止策は、いずれも関係団体への「要請」であって、拘束力がない。それゆえ、今度は国民や関係団体に対する強制力をもつ「緊急事態宣言」で強力な感染拡大防止策を実施し、事態の打開を図ろうというわけである。

 出来れば新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための「緊急事態宣言」を可能にする法律をつくりたい。が、それには、時間がかかり、危機打開に間に合わない。そこで、首相が思いついたのはインフル特置法の活用だ。
 これは、新型インフルエンザ感染拡大を阻止するために民主党政権下の2012年4月27日に参院本会議で可決、成立した法律で、採決に際しては民主党、公明党が賛成、自民は棄権、共産党と社民党は反対した。
 このインフル特置法は、新型コロナウイルス感染症を対象にしていないから、同感染症撲滅には使えない。そこで、安倍政権としては、インフル特置法を改正して同法が適用される感染症に新型コロナウイルス感染症を加えようというわけである。

 インフル特置法に規定された「緊急事態宣言」はまだ一度も発動されていないが、同法には「政府対策本部長(内閣総理大臣)は、新型インフルエンザ等が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある事態が発生したと認めるときは、緊急事態宣言をし、並びにその旨を国会に報告するものとする」とある。そして、緊急事態宣言が発せられれば、内閣総理大臣や都道府県知事がインフルエンザまん延防止のためのさまざまな措置を講ずることができるとしている。その中には強制力を伴うものも含まれる。

 インフル特置法がつくられるにあたっては、日本弁護士連合会、日本ペンクラブ、日本消費者連盟などが反対あるいは抗議の声明を表明したという経緯がある。
 とくに日弁連のそれは、傾聴に値するものだった。2012年3月22日に宇都宮健児会長名で発表された反対声明は、「本法案には、検疫のための病院・宿泊施設等の強制使用、臨時医療施設開設のための土地の強制使用、特定物資の収用・保管命令、医療関係者に対する医療等を行うべきことの指示、多数の者が利用する施設の使用制限等の指示、緊急物資等の運送・配送の指示という強制力や強い拘束力を伴う広範な人権制限が定められている」と指摘しているほか、「個別の人権制限規定にも多くの問題がある」として、「特に、多数の者が利用する施設の使用制限等は、集会の自由(憲法21条)を制限し得る規定である」と述べている。

 首相が「緊急事態宣言」の実現に前のめりになれはなるほど、不安感に襲われる人が少なくないことも指摘しなくてはなるまい。
 すでによく知られていることだが、安倍首相と自民党は、日本国憲法の改定にしゃかりきだ。自民党の改憲案は、改定すべき項目として4つを挙げている。①自衛隊の明記②緊急事態条項の新設③参院合区の解消④教育無償化の明記である。
 ところが、新型コロナウイルス感染症の拡大が問題化しつつあった1月30日、自民党の伊吹文明元衆院議長が二階派の会合で、新型コロナウイルスの感染拡大について「緊急事態の1つの例。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」と話したのである。新型コロナウイルス禍を憲法改定につなげたらどうかと言わんばかりの発言に、「思わず自民党幹部の本音が出たのではないか」と受け止めた人も少なくなかった。
 それだけに、安倍政権と自民党は、新型コロナウイルス対策に便乗して、憲法への緊急事態条項導入を一気に進めるのではないか、という警戒心を抱く市民が増えつつあるのだ。

 政治家が緊急事態宣言をする権限を手に入れるということは、国家を運営する上での絶対的な権力、つまり全権を握るということである。
 ナチス・ドイツのヒトラー政権は、「国会議事堂炎上事件」を利用して大統領に「国民と国家の防衛のための大統領緊急令」を出させる。それは「第三帝国の国家基本法」として猛威を振るい、ヒトラーはこれによって国家の全権を握る。民主的な憲法とされたワイマール共和国憲法の崩壊と、ヒトラー独裁政権の誕生であった。1933年のことである。
 こうした故事を今こそ思い起こしたい。

 国民も馬鹿ではないから、政府が新型コロナウイルス感染症に関する情報を全面的に公開し、防止策を遂行するにあたって国民の声や専門家の意見に耳を傾ければ、政府が打ち出す対策に国民は自ら進んで協力するだろう。だから、基本的人権を制限しなくても新型コロナウイルスを抑え込めるはずだ。そう思いたい。
2020.03.03 馬鹿に付ける薬はない、
安倍政権における末期症状

広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 「馬鹿に付ける薬はない」という格言がある。落語の世界でよく出て来る言葉だが、これが政治の世界とりわけ政権中枢の話となると笑ってばかりはいられない。そんなことを痛感したのが、安倍首相が独断で打ち出した2月27日の全国小中高の臨時休校方針(要請)をめぐるドタバタ劇だった。

 毎日新聞(大阪本社版)は2月29日、1面トップで「全国休校 首相独断、新型肺炎禍 強いリーダー固執、『側近』文科相の直言もソデ」と大見出しで伝え、続いて3面では「唐突通告 身内も困惑、麻生氏『共働きはどうなる』、与党『1日で準備 めちゃくちゃ』、専門家『科学的根拠ない』」と連打し、社説では「『全国休校』を通知、説明不足が混乱を拡げる」「新年度予算案が通過、安倍首相も瀬戸際にある」と論じた。

 それにしても、新型肺炎対策をめぐる安倍政権のこの間の迷走ぶりは目に余るものがある。加藤厚労相は2月25日、政府の基本方針として「イベント開催について全国一律の自粛要請はしない」「学校の臨時休校などの適切な実施については都道府県から設置者に要請する」と発表したばかりだった。ところがその翌日の26日、安倍首相が一転して「多数の人が集まる大規模なイベントは今後2週間、中止・延期または規模縮小を要請する」と基本方針を覆し、さらに27日には「全国の小中高校、特別支援学校には来週3月2日から春休みまで臨時休校するよう要請する」と追い打ちをかけた。その結果、28日には全国自治体や学校現場で混乱が広がり、首相や関係閣僚は釈明に追われることになったのである。

 各紙報道では、この異例の方針を首相に進言したのは今井首相補佐官とされ、菅官房長官も発表直前まで知らされていなかったという。側近の萩生田文科相の反対を押し切ってまで「見切り発車」した安倍首相の意図はいったいどこにあったのか、朝日新聞(2月29日)は次のように解説している。「(自民党幹部らは)今回の判断の背景のひとつに、政権批判に対する首相の危機感があったと指摘する。政府の対応をめぐっては、船内で感染が拡大した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の問題に海外メディアからも批判が集中。国内でもネット上などで政府批判があふれる。さらに感染が拡大するようなことになれば、首相が『世界中に感動を与える最高の機会に』と期待する東京五輪・パラリンピックへの影響も現実のものとなりかねない」。

 この点については、毎日新聞(同上)も同様の見方をしている。「首相や首相サイドが『強いメッセージ』にこだわるのは、桜を見る会や東京高検検事長の定年延長の問題で報道各社の内閣支持率が下落した状況の中、ウイルスの感染拡大で野党から『対策が後手に回った』との批判を浴び、『首相の顔が見えない』(国民民主党・玉木代表)と指導力不足を指摘されたためだ。こうした批判を払拭しようと焦った首相による『強いメッセージ』は、かえって政権の混乱ぶりを浮き彫りにした。省庁から『一斉休校しても支持率は下げ止まらないのでは』との不安が広がる。『政権末期を見ているようだ』。与党関係者は声を潜めた」。

 安倍首相の突然の方針転換は、年度末でもあり教育現場に及ぼす影響は極めて深刻だ。折角の卒業式や終業式ができない、思い出をつくるための一番大事な最後の機会が奪われる、年間に必要な授業時数は確保できるのか、学習に遅れは出ないのか、母子家庭や共働き世帯などでは低学年生の世話を誰が見るのかなどなど、学校や家庭に大きな混乱が広がっている。学童保育や保育所は閉鎖しないというが、こちらの方が濃厚接触の危険性が高いのではないかとも言われている。

 専門家からも「科学的根拠がない」との意見が相次いでいる。日本環境感染学会理事長の吉田東京慈恵会医大教授は「政治的な判断だ。科学的な知見に基づいての提言ではない」と述べ、政府専門家会議メンバーの岡部川崎市健康安全研究所長(元国立感染症研究所感染症部長)も「専門家会議でも一斉の休校については諮問されてもおらず、提言もしていない。政治的判断だ」と話している。和田国際医療福祉大学教授は「社会的影響が大きく、是非を議論して社会の納得を得る必要がある。政府は専門家に相談し、効果があるする根拠を示すべきだ」と指摘した(毎日・朝日、同上)。

 自治体首長の多くは(不甲斐ないことに)「右へならえ」だが、中には独自の姿勢を示す首長もいる。滋賀県湖南市の谷畑市長は28日未明、フェイスブックに「全国の首長に告ぐ」と題して「学校の臨時休業の権限者は設置者である。(中略)総理は責任を負わぬ。大切な事なのでもう一度言う。総理は責任を負わぬ」と投稿した。その数時間前には「内閣総理大臣による地方自治への不当な介入であり、土足による蹂躙(じゅうりん)でもある」「内閣総理大臣は『要請』と言いながら、無批判なマスコミを通じて『事実上の命令』を下したのも同然なのだ」と首相の要請を強く批判した(朝日デジタル、2月28日)。

 ウイルス感染の不安に怯える国民の要求に応えることなく新型肺炎検査体制の整備を怠り、やるべきことをやらずして自らの責任を棚に上げ、「先手対策」と称して全国小中高の臨時休校に踏み切る―。こんな本末転倒の「緊急対策」を国民が許すはずがない。私は「最後のあがき」ともいうべきこの措置によって安倍首相はますます窮地に追い込まれ、遠からず政権の座を追われるときがやってくると確信している。直近の世論調査の結果を示そう。

 今年2月期の各社世論調査で、最後に実施された産経新聞世論調査(2月22、23日実施、25日発表)では、内閣支持率と自民党支持が連動して急落するという結果になった。内閣支持率が前回44.6%から36.2%へ8.4ポイント急落し、不支持率が38.9%から46.7%へ7.8ポイント急増した。その結果、1年7カ月ぶりに不支持が支持を10.5ポイント上回ることになり、安倍政権を震撼させたのである。

 自民党支持率も39.3%から31.5%へ7.8ポイント下がった。これまでは内閣支持率に変動があっても自民党支持率は高位安定していたが、今回は内閣支持率と連動して急落したことが注目される。このことは、首相の虚偽答弁や辞任閣僚の雲隠れを擁護し続けてきた与党・自民党にも批判の眼が向けられ始めたことを意味する。安倍首相のもとではもはや次期総選挙を戦えないことが、与党・自民党の中でも会派を問わず明らかになってきたのである。

 いまや、安倍首相の無能・無策ぶりは世界中に知れ渡っている。ロイター通信(東京)は2月25日、「安倍首相はどこにいる?」とのニュースを配信した。歴代最長の在任期間になった安倍首相が、新型ウイルス対応策の代表者として陣頭指揮を執らず、その任務を加藤厚労相に「丸投げ」しているという批判だ。安倍首相は、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部会合では冒頭の短いコメントを読み上げるだけで(いわゆるテレビカメラの頭撮り)、その後はさっさと退席して身内の者との会食に出かけるか、そうでなければ会議運営を全て加藤厚労相に任せて座っているだけなのである。

 時事通信(2月29日)は、「臨時休校『日本の対応急変』=五輪控え『政治的計算』の見方も」とのNYタイムズ記事を配信している。ニューヨーク時事によると、2月28日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、安倍政権が新型コロナウイルスの感染防止策として打ち出した小中高校の臨時休校が「これまでの慎重姿勢からの急変」だと報じたという。同紙は、日本での感染状況について韓国などのように急増しているわけではないと指摘し、政府が26日、コンサートなどの大規模イベント自粛を呼び掛けたものの、前日にはこうした自粛対応が不要との見方を示していたと説明している。しかし東京五輪・パラリンピック中止の懸念が浮上する中、安倍晋三首相が指導力発揮に躍起になった結果、7月の五輪開催を控えて科学的な観点よりも政治的な計算が上回ったとするアナリストらの見方を紹介している。また、「子どもはコロナウイルスに感染しにくく、休校は医学的に正当化されない」とする感染症専門家の声も取り上げたという。 

 「馬鹿に付ける薬はない」という格言に加えて、「馬鹿は死ななきゃ治らない」というもうひとつの格言がある。安倍首相に対してこの2つの格言の意味をよく説明し、引導を渡す政治家が必要だ。棚の上のボタ餅はなかなか落ちてこないからである。

2020.02.27  元自衛隊高級将校の「安全保障論」を読む
         —八ヶ岳山麓から(307)—
 
阿部治平(もと高校教員)


著者が元陸将という渡邊隆著『平和のための安全保障論――軍事力の役割と限界を知る』(かもがわ出版 2019・12)を読んだ。
新型コロナウイルス問題が発生するまでは、なにかというと自衛隊の退職幹部がテレビに出ることが多かった。彼らは北朝鮮や中国、アメリカの軍備、それに関連する自衛隊機や艦船の装備や性能を語ったが、日本の安全保障体制をどう認識しているか、どうあるべきかを語ることはそうは多くはなかったように思う。
著者の渡邊隆氏は、自衛隊初の国連平和維持活動となった1992年のカンボジアPKOで初代指揮官を務め、その後は幹部候補校長、統幕学校長などを歴任した。彼の安全保障論の根底には40年間の自衛官の体験がある。
内容は、古代から第2次大戦、そして冷戦に至るまでの戦争史、今日の集団安全保障と集団的自衛権、紛争防止、予防外交などの施策、PKOや周辺事態のシナリオ研究、日本の安全保障、日米同盟論がある。安全保障論各分野にわたる入門書である。

著者の経歴からして、対米従属国家日本の現状を丸ごと肯定するかというと必ずしもそうではない。
たとえば著者は日米地位協定では、米軍人の裁判権、基地・施設使用権はアメリカが排他的権利を持つこと、米軍人は外国人登録を免除されていること、さらには基地・施設の返還に伴う原状回復の義務はアメリカにはないこと、そのうえ米軍には航空特例法の適用が除外されることなどの事実をあげて、それが対等な国家間の協定ではないことを(そっと)示している。
また、ドイツやイタリアは、冷戦後大使館の土地以外の(軍事基地を含めた)管理権を取り戻したが、日本は、協定そのものは一言一句変わっていない。米軍の国別在外兵力(人)では、ドイツや韓国などアメリカの同盟国と比較して日本が一番多い。それは脅威や国際情勢の変化だけではない。日本が米軍の駐留経費を肩代わりしているからだといい(思いやり予算)、また日米合同委員会は、占領軍当時同様で、米側が軍人で日本側は各省庁の官僚であり、この中に政治家や自衛官は一人も入っていないといった思いがけない事実もあげている。
さらに、安倍晋三首相の外遊が多いことについて、「一国の指導者が海外に高い関心を持つことは悪いよりも良いことだ」と(皮肉を)言い、肝心なのは首脳外交がどのような戦略で行われているかということだと、至極まっとうな指摘をしている。

もちろん、肝心なところに触れていないと感じる部分もある。私は、食料自給率が軍事やエネルギーと同じくらい重要だと思うが、渡辺氏は一行で済ましている。
本書には、「もし、日本が危機事態に巻き込まれたら?」として、北朝鮮に金正恩打倒のクーデタが生じたという設定で、学生に周辺事態発生のケーススタディをやらせるところがある。しかし北朝鮮の異変も含めて、日本の軍事基地が北朝鮮のミサイル攻撃を受けるとか、尖閣諸島に中共軍が上陸するとかいった事態よりも、日本の臨海部に並んでいる原発へのテロ攻撃などのほうが現実的危機をはらんでいるとおもう。
さらにいうと沖縄米軍基地問題も優先的に考えるべきだと思う。これが放置され続ければ、将来沖縄県民の多数が日本からの独立を選択する道を選ぶかもしれない。この事態は遠い将来のことと思われるかもしれないが、現実になったとき日本という国家に深刻な危機をもたらすだろう。

さて、自民党改憲案に「国防軍」が明記され、それが「憲法九条を守る会」などで議論されていた時は、専守防衛の原則が取っ払われて自衛隊が普通の軍隊になってしまう、といった批判が多かった。そこでは直ちに自衛隊をまるごと否定する意見はなかったと思う。だから私の村の「九条の会」の学習会には元自衛隊員も顔を出していた。
9条の末尾に自衛隊を明記する安倍加憲案がでると、自衛隊そのものを否定するような議論が多くなった。共産党の政策責任者が防衛費を「人殺し予算」と呼んだことがあったが、「九条の会」などでも、防衛予算の膨れ上がりや、アメリカの言い値のまま兵器を購入することへの批判が強調され、「自衛隊予算の本質はやはり人殺しだ」という見方が強いように思う。災害支援であれ何であれ、自衛隊の存在を肯定する世論が圧倒的ななか、自衛隊に否定的な材料をいくら並べても九条改悪阻止の力にはなりにくい。
憲法九条は、日本がこれまでアメリカの戦争に加担するのを阻止するのに大きな力を発揮してきた。しかし先頃の安保法制の成立によって、集団的自衛権が法的地位を確立したかのような現実が存在するなか、以前のように九条がブレーキの役割を果たし続けることができるとは思えない。
安全保障に関しても無知は偏見を生む。自衛隊は国際的には世界8位の軍備をもつ立派な軍隊である。だから我々は、最高幹部の頭のなかから隊員の訓練内容・日常生活まで、もっと多くを知り、彼らと意見を交わす機会を増やすほうがよいと思う。本書はそれが可能であることを示唆している。

残念なことに、この本は編集そのものが乱雑だ。
本書では第1講から第25講と補講までの各講冒頭をはじめ、多くの地図・図表を材料に議論が展開されている。安全保障論だから当然である。ところがコスト削減のためか、原稿段階ではカラー刷りの地図・図表だったと思われるものをすべて白黒のコピーに変えてあるから、地図・図表が不鮮明になっているところがある。本文には赤や緑の色を示してあっても、地図では消え失せてどこだかわかないのである。
また原図を縮小したために、図形や活字が小さくなりすぎて、領土の歴史的変遷や戦力の移動などが読み取れない地図もある。しかも軍事機密か否かわからないが、地図・図表に出典が示されていないものが多い。極め付きは、「第1次世界大戦の原因」を示した表の下の各行2段の活字が消えているために、本文が「判じ物」と化している部分である。
この本のかなりの部分は壊死状態だ。たぶん著者は泣いている。読者は読むのに腹を立てる。本というものは、もっと親切に編集して売るべきものではなかろうか。

2020.02.07  京都市長選終わる
          現職 当選はしたけれど...
          立憲・国民支持層に見放された「オール京都・ワンチーム」


広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 2月2日に投開票された京都市長選は、国政与野党5党相乗りの現職・門川大作氏が21万票640票(得票率45.1%)を得て4選を果たした。しかし、新人で弁護士の福山和人氏(共産・れいわ推薦)は16万1618票(同34.6%)、新人で元市議の村山祥栄氏9万4859票(同20.3%)を獲得し、新人票を合わせると54.9%となり現職票45.1%を約10ポイント上回った。

 今回の市長選の最大の特徴は、過去半世紀にもわたって続いてきた京都府知事選・京都市長選の「オール京都=国政与野党5党相乗り体制」がいよいよ終焉の時を迎えたということだろう。直近の2019年参院選における京都市内の比例代表得票数・得票率をみると、「オール京都」は自民14万6428票(28.7%)、公明6万1894票(12.1%)、立憲7万4102票(14.5%)、国民1万9940票(3.9%)、社民4534票(0.9%)、計30万6898票(60.2%)と有効投票数の6割を占めている。これに対して対抗勢力は、共産9万6883票(19.0%)、れいわ2万9656票(5.8%)、計12万6539票(24.8%)の少数派で、「オール京都」とは倍以上(2.4倍)の開きがある。なお、市長選に参戦しなかった維新は5万8382票(11.7%)、諸派は1万7621票(3.5%)だった。

 このように、19年参院選では得票率6割を占める「オール京都」の現職が45%しか得票できず、革新系・無党派系新人候補の55%に遠く及ばなかった。結果として、選挙は勝ったけれども与野党相乗り5党体制は機能不全に陥り、事実上崩壊したと言ってもよい。このことは、京都新聞・毎日新聞・共同通信が協力して行った出口調査によっても確かめられる。支持政党別の投票先をみると、相乗り候補の現職に対して自民支持層の7割、公明支持層の8割強が投票しているのに対して、立憲支持層は4分の1、国民支持層は3分の1しか投票していない。社民支持層に至ってはゼロなのだ。

 今回の市長選では(でも)福山哲郎立憲幹事長や前原誠司国民府連代表は、「オール京都」の1員として奮戦した。要職にありながらしかも国会開催中にもかかわらずトンボ返りで応援演説に駆け付け、陣営の引き締めを図った。前原氏などは「自分は『非自民非共産』を信条とする〝リベラル保守〟だ」と自称しながらも、「非自民」の方は臆面もなく投げ棄て「非共産」の先頭に立った。福山氏は、「大切な京都に共産党市長『NO』」の反共新聞広告に「違和感」を感じただけで事前事後も何ら対応しなかった。両氏とも「反共」の母斑が付いているのか、京都では生き生きと「オール京都」の1員として活躍するのである。

 だが、福山・前原両氏が先頭に立って現職支持の旗を振ったにもかかわらず、立憲・国民支持層の大半はソッポ向いて対立2候補に投票した。この傾向を最もビビッドに示すのが、左京区と東山区の選挙区だ。左京区は大学関係者が多く従来から革新票の多いことで知られるが、今回の市長選では投票率が前回2016年39.49%よりも8.7ポイント上昇して48.21%になり、市内最高を記録した。得票数は、福山2万2558票(37.4%)でトップ、門川1万9159表(31.8%)で第2位、村山1万8091票(30.0%)で第3位となった。支持政党別投票先のデータはないが、この得票分布からして立憲・国民支持増のほとんどが福山・村山候補に投票したことはほぼ間違いない。

 清水寺や祇園がある京都観光の中心地、東山区ではどうか。ここでも投票率が前回35.24%から41.77%へ6.53ポイント上昇し、門川5093票(41.1%)に対して福山4493票(36.2%)と肉薄した。福山・村山票を合わせると7128票(57.5%)となり、門川票5093票(41.1%)を大きく上回った。東山区の市会議員は自民・国民2人で共産はいない。2人の市議に応援される現職候補が圧倒的得票して当然なのに、なぜ福山候補がこれほどの差にまで詰め寄ったのか。言うまでもなくその理由は、東山区全体を覆うオーバツーリズム(観光公害)に対して門川市政が取るべき対策を取らずに「まち壊し」が進み、「子育て環境日本一」を自画自賛する門川市政のもとで、東山区の出生率が〝全国市区町村ワーストワン(最下位)0.77〟(1人の女性が生涯0.77人の子どもしか産まない、産めない)の状態から脱出できないからだ。

 2月2日投開票日の翌日、各紙のニュースを読み比べてみた。地元紙の京都新聞が特大の紙面を割いて詳細に報道したほかは、あまり見るべき記事がなかったというのが率直な感想だ。そんな中で目を引いたのが、「現職への批判 2人に分散」とする朝日新聞の解説だった。短いコメントだが簡にして要を得ている。そのまま再録しよう。
 ―現職の4選による「安定」を選ぶのかが問われた京都市長選。投票率は前回から約5ポイント上がった。安定ではなく「停滞」ととらえた有権者が、批判票を投じた結果だろう。門川氏に対する厚い信任とは言い難い。現職への批判票が新顔2人に分散したことが、門川氏の最大の勝因だ。これまでの京都市長選は「非共産対共産」といった党派の動きを中心に語られることが多かったが、今回は「現職支持対現職批判」の票の奪い合いだったお位置づけられそうだ。
 ―門川市政3期12年の間に京都の街は大きく変わった。観光は京都の大きな魅力だが、足元では「観光公害」と呼ばれる問題が顕在化している。歴史ある景観を含む観光資源と、住民の暮らしをどう調和させるのか。少子高齢化や厳しい財政事情にも対応が必要だ。門川氏は「オール京都で京都を前へ前へと進めていく」と唱え続けた。「オール」にどれだけの市民を巻き込むことができるのか。4期目の「挑戦と改革」の真価が問われる。

 私は、朝日解説の中の「現職」を「現体制=オール京都」と読み替えれば、今回の京都市長選の全てが理解できると思う。「現職=門川市長」は「現体制=オール京都=国政与野党5党相乗り」の単なる利益代表にすぎず、有権者の一部が「オール京都」の代表と錯覚しているだけの話なのだ。事実、今回の市長選における現職候補得票数21万640票は、有効投票数46万7117票の45%に過ぎず、対立2候補の得票数25万6477票を4万5837票も下回っている。「現職支持票」よりも「現職批判票」の方が多いのであり、しかも「現職批判票」が過半数を占めているのである。

 この点で、「現職への批判票が新顔2人に分散したことが、門川氏の最大の勝因」だとする、朝日の指摘は的を射ている。また、これまでの京都市長選が「非共産対共産」といった党派的文脈で語られることが多かったのに対して、今回の市長選の対決軸は「現職支持対現職批判」だとする分析視角も優れている。このような分析視角でなければ、なぜ立憲支持層の4分の1、国民支持層の3分の1しか現職候補に投票しなかったのか、その理由を解明できないからだ。要するに、福山立憲幹事長や前原国民府連代表がいくら「非共産対共産」の文脈で反共ムードを煽ろうとしても、支持者たちは「現職支持対現職批判」の視点すなわち「現体制=オール京都=国政与野党5党相乗り批判」の立場から投票したのである。

 門川市長は4期目を「挑戦と改革」の気概で乗り切ると表明した。だが、門川市政の前途には観光公害ならぬ「観光地獄」というべき事態が待ち構えている。自らが煽りに煽った市内の宿泊施設拡大政策が、いまや「飽和状態」から「過剰状態」に劇的に変化しつつあるからだ。わけても中国新型コロナウイルス肺炎の影響は大きく、このところ市内宿泊施設のキャンセルが日増しに増えている。外国人宿泊客の3分の1を占めていた中国人観光客の激減が、京都観光に与える影響は計り知れない。「ゴーストビル」ならぬ「ゴーストホテル」が林立しないことを祈るばかりだ。

 また、「非自民非共産」と言いながら「非共産」に徹する前原国民民主党京都府連代表(衆院議員)も大きな打撃を受けるだろう。前原氏の選挙区は、左京区・東山区・山科区の3区にわたるが、その大票田の左京区で現職票が沈んだ影響は大きい。レームダックと化した4期目の門川市長と前原衆院議員が権力の座から滑り落ちる日はそう遠くないのである。