2020.01.20
            京都市長選始まる(1)
       国政と地方政治は違うという〝オール与党〟の究極のご都合主義

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 新春早々、1月19日(日)から京都市長選が始まった。選挙期間は2週間の短期決戦、2月2日(日)が投開票日だ。選挙戦は、自民・公明・国民・立憲・社民5党が「オール与党=与野党相乗り」で推薦する現職候補・門川大作氏、共産・れいわが推薦し市民が支援する革新系候補・福山和夫氏、そして地域政党候補・村山祥栄氏の三つ巴合戦となった。このところ京都では、オール与党の非共産系候補と共産系候補が対決する「2極選挙」が続いてきたが、今回は地域政党候補が参入することで久しぶりに「3極選挙」となったのである。

市長選の告示日を1週間後に控えた1月12日(日)、国立京都国際会館のホールで門川氏の4期目当選を目指す「未来の京都をつくる会・総決起大会」が開かれ、壇上には西田自民党京都府連会長(参院議員)、竹内公明党京都府本部代表(衆院議員)、前原国民民主党京都府連会長(衆院議員)、福山立憲民主党幹事長(参院議員)、伊吹元衆院議長(衆院議員)などが勢揃いした(社民党は京都の国会議員がいない)。この5党と連合京都がオール与党体制を組み、財界や業界団体と結束して現職候補の必勝を期して決意表明したのである。

西田氏(自民)、竹内氏(公明)をはじめ、前原氏(国民)、福山氏(立憲)が異口同音に強調したのは、投票率の低下によって現職候補の票が減ることの危険性だった。門川氏が当選した過去3回の市長選は、オール与党会派の自民・公明・(旧)民主・社民4党(今回は民主が分裂したので5党)が、財界や業界団体、町内会団体などと共に「市役所ぐるみ」で選挙母体を組み、連合京都の組合員や創価学会会員などを総動員して戦われてきた。これだけの陣容で臨んでいるのに、彼らはなぜ投票率の低下を懸念するのか。

京都市の有権者数は、2019年12月現在117万2千人(男性54万7千人、女性62万5千人)、過去3回の門川氏の得票数・得票率は、2008年15万8472票(36.7%)、2012年18万9971票(45.3%)、2018年25万4545票(62.5%)と回を重ねるごとに票を伸ばしてきた。この調子だと今回も大丈夫だと考えても不思議ではないのに、「かってないほど厳しい!」と言うのである。その背景には、従来の「2極選挙」が今回は「3極選挙」に変化したことがある。門川氏が初出馬した2008年市長選は、門川(オール与党)、中村(共産+市民派)、村山(第3極)の三つ巴の戦いとなり、第3局の村山氏が8万4750票(得票率19.6%)を獲得した結果、門川氏15万8472票(同36.7%)、中村氏15万7521票(36.5%)とその差は僅か951票(同0.2%)に接近した。まさに〝薄氷の勝利〟だったのである。

西田自民京都府連会長は、この時の「951票」という数字を大声で連呼し、「投票率を上げなければ勝てない!」と会場の参加者に何度も檄を飛ばした。「40%台」に乗せれば勝てるが「30%台半ば」では危ないと言うのである(投票率35%で41万票、40%で46万9千票)。過去3回の市長選投票率はオール与党(彼らはこれを「オール京都」という)で臨んでいるのに、投票率は2008年37.8%、2012年36.7%、2016年35.8%とじりじりと下がってきたので、このままの調子で下がると革新票の比重が増し、現職候補が危ないと言うのである。

 竹内公明京都府本部代表は、オール与党で市長選を戦う理由を「地方分権の時代に中央のイデオロギー抗争を持ち込む方がおかしい。地方政治は住民の福祉向上のためにある」という(京都新聞1月13日)。しかし、現実はどうか。目下、国政の争点となっている原発再稼働、沖縄軍事基地拡充、社会保障制度再編などは、全てが安倍政権の中央イデオロギーがそのまま地方政治に持ち込まれた結果であり、自公連立政権が地方自治・地方分権を踏みにじっているのである。

 前原国民京都府連会長は別の理由を上げる。「門川市長に立候補を要請したのは旧民主党で、製造者責任がある。安定のため一部の党を除きオール与党化するのはどの自治体でもあり、批判には丁寧に説明していく。ポイントは多選の是非だが、党の市議の評価を尊重する」(同上1月12日)というものだ。だが、旧民主党が門川氏を推薦した本当の理由は、長年にわたって京都市政を蝕んできた同和行政をめぐる利権を維持するためだったのではないか。旧民主党や連合京都が部落解放同盟の要求実現団体として終始活動してきたことは紛れもない事実であり、そのことが国民民主党と立憲民主党に分裂したいまでも、彼らがオール与党の1員として動いている背景でもある。

一言で言えば、彼らがオール与党で市長選を戦うのは、現職候補が落選すれば「市役所利益共同体」が崩壊するためである。自民党はオール与党体制のもとでは市政のうまみを独占することができないので時折「多選の弊害」を口にするが、その他のオール与党にとっては「現職の多選」は利益確保のための不可欠の条件となっている。市役所利益共同体を維持するために「多選=従来体制の維持」にこだわり、勢揃いで選挙戦を戦うのはそのためだ。しかし、有権者を前にこんなことを有体に言うわけにはいかないので、表向きは上記のような各党各様の発言となる。

 問題は、立憲民主党幹事長である福山氏の動きだろう。「未来の京都をつくる会・総決起大会」から2日後に共産党第28回党大会が開かれ、大会第1目の様子を伝える「赤旗」には、野党各党代表の挨拶が大きく掲載されている。その中で私が注目したのは、国民民主党は平野幹事長、社民党は吉川幹事長が挨拶しているのに、立憲民主党はなぜか福山幹事長ではなく安住国対委員長が挨拶していることだ。

 それはそうだろう。福山幹事長はその2日前の京都市長選のオール与党決起集会に立憲民主党を代表して参加し、自民党国会議員と並んで現職候補に檄を飛ばしていたのである。立憲京都府連は昨年12月8日、国民京都府連に続いて現職候補の推薦を決めたが、福山氏は同日、立憲京都府連会長を辞任している。各紙は「党務に専念するため」とその理由を伝えているが、実のところは国政では野党共闘を進めているのに、京都では自公両党の推薦する現職候補を応援することへの支持者の反発が強いので(立憲市議の1人がすでに離党している)、京都から「逃げた」のではないかと言われている。

それでいて、福山氏は立憲民主党幹事長という党務に専念すべき要職にありながら、京都市長選のオール与党決起集会には「党務」を放棄して駆け付けているのだから、こちらの方の絆がよほど太いのだろう。権謀術数が渦巻く京都では、このように国政と地方政治の「ねじれ」が普通になっているが、これでは国政と地方政治の「ねじれ」のどちらが本筋なのか分からない。国政では自公与党と「対決」しながら、京都では自公両党と平気で手を組むような政党には信頼が置けないと誰もが思っている。この政党の立ち位置がいったいどこにあるのか、その正体がよく分からないからである。

 京都市長選の投票率低下の原因はもっと別の所にある――と私は考えている。「未来の京都をつくる会・総決起大会」の光景がその証明だ。2000人を超える参加者のほとんどが中高年男性で占められ(黒一色の光景!)、女性が1割にも満たなかった。有権者の過半数(京都市では53%)が女性なのに、それが1割にも満たない選挙集会なんて今まで見たことも聞いたこともない。考えられる理由は、1つは自民党の支持基盤である地域婦人連合会(現在は地域女性連合会)に若い女性たちが加入しなくなり、動員が利かなくなったこと。もう1つは、公明党選挙部隊の中核である創価学会婦人部の姿が見られなかったことだ。それに動員された連合系の組合員も男性がほとんどで、女性の姿はなかった。

 選挙集会に女性の姿が見られない、ということの意味は大きい。自公両党の支持基盤である地域婦人会会員や学会会員が高齢化し、選挙活動や投票動員が思うようにならなくなってきているという年齢要因もあるが、それ以上に市長選ごとに繰り返される「オール与党選挙」に対する政治不信が大きく、嫌気がさしてきているのである。これでは幾ら動員をかけても投票率は上がらないし、候補者に対する支持も広がらない。それでもオール与党候補の現職が勝つという現状をどう打破するのか、その回答が求められている。

 勝敗の帰趨は、やはり投票率の動向にあることは間違いない。だが、「投票率が上がれば現職候補が勝てる」という西田氏の情勢分析は誤りで、私は逆に「投票率が上がれば革新系候補が勝てる」と考えている。問題は投票率がどれだけ上がるかだろう。理由は、立憲支持者など革新系市民の中に「現職離れ」の兆候が見られることであり、これに無党派層の流れが加わると一挙に形勢が変わる可能性があるからだ。

この点で、「れいわ」が福山氏を推薦した影響が大きいと思う。れいわは山本代表が福山氏の応援演説に入り、大型宣伝車を走らせるなどすでに選挙活動を開始している。これに福山陣営の労組や団体の活動が本格化すると、思いがけない相乗効果を発揮することも考えられる。投票率が40%台に乗るようであれば、これは保守派の動員の影響によるというよりは、むしろ革新系の動きによるものと考えるべきだろう。どれだけ革新系市民の浮動票を掘り起こせるか、ここに福山氏の勝利が懸かっていると言っていい。(つづく)
2020.01.07  米国よるイラン司令官殺害を非難
  平和アピール七人委が緊急の訴え

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

中東情勢の緊迫化に対し、世界平和アピール七人委員会は1月6日、「米国によるイラン革命防衛隊司令官殺害を非難し、すべての関係者が事態を悪化させないよう求める」と題する緊急アピール発表し、国連総長、国連総会議長、米国大使館、イラン大使館、安倍首相、茂木外相、河野防衛相に送付した。

世界平和アピール七人委は昨年12月12日、「自衛隊の海外派遣を常態化してはいけない」と題するアピールを出したが、新年になって米国によるイラン革命防衛体司令官殺害という事態が発生、成り行きによっては最悪の事態も予想されることから委員全員が危機感を深め、緊急アピールの発表となった。
アピールは「『米国』と『イラン』の立場を置き換えたとき、米国政府と米国民は自国軍の司令官の殺害という事態を受け入れられるだろうか」として米国の行為を非難、両国をはじめ国連や日本政府にこれ以上事態を悪化させないための努力を求めている。

世界平和アピール七人委は、1955年、物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人有志の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器禁止、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発表してきた。今回のアピールは138回目。

 現在のメンバーは武者小路公秀(国際政治学者、元国連大学副学長)、大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者、慶應義塾大学名誉教授)、池内了(宇宙論・宇宙物理学者、総合研究大学院大学名誉教授)、池辺晋一郎(作曲家、東京音楽大学客員教授)、髙村薫(作家)、島薗進(上智大学教授、宗教学)の7氏。

 アピールの全文は次の通り。

        米国によるイラン革命防衛隊司令官殺害を非難し、
        すべての関係者がこの危機を悪化させないよう求める


                  世界平和アピール七人委員会

米国政府は、イラクでイラン革命防衛隊の司令官を1月3日にドローンで殺害したと発表した。これに対してイランは報復を予告している。イラク首相は主権侵害だとしている。
「米国」と「イラン」の立場を置き換えたとき、米国政府と米国民は自国軍の司令官の殺害という事態を受け入れられるだろうか。
私たち世界平和アピール七人委員会は、米国によるこの殺害を非難し、この危険な事態をさらに悪化させないよう関係するすべての国に求める。
国連安全保障理事会のメンバー諸国は 直ちに自国の立場を明示すべきであり、国連は速やかに総会を開いて対話による解決のためのあらゆる努力を行っていただきたい。
米国とイラン双方と友好関係にあると自任する日本政府は、直ちに米国に完全な自制を促すべきである。
日本政府は、米国が2019年6月に提案した有志連合には参加せず、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機を、通行する船舶の護衛を含まない「調査・研究」のために中東に派遣すると、国会にも国民にも説明しないまま2019年12月27日に決定した。
しかし得られる情報を有志連合と共有するため、バーレーンにある米中央海軍司令部に連絡員を派遣することが明らかになり、事態が変われば派遣目的を変更するとされている。これでは米国に与するものとみなされてもしかたがない。我々が12月12日に発表したアピール『自衛隊の海外派遣を常態化してはいけない』の内容をあらためて強く求める。日本国憲法によって法的に制限された軍事組織である自衛隊を危険地域の周辺に派遣させるべきでない。日本は非軍事的手段による平和構築に積極的に取り組むべきである。
2019.12.28 NHK会長5人連続財界人、みずほ銀から前田晃伸氏
不祥事多発したNHK歴代会長を採点する
                          
隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 NHKの次期会長にみずほファイナンシャルグループの元会長前田晃伸氏が選任された。村上会長の続投も一時うわさされていた。しかし「クローズアップ現代」の保険不正販売追及番組に対する郵政グループの介入、干渉問題が大きく広がったことから、官邸の意向で急遽前田氏に白羽の矢が立ったとみられる。前田新会長は2020年1月25日に就任する。任期は3年間だが、2期務める可能性もある。
 ▼財界から天下り続く、陰で安倍首相、菅官房長官が糸?
 前田氏の会長就任で、財界出身者の会長は2008年以降五人連続となる。就任に先立って記者会見した前田氏は「放送機関から政権がチェックされるのは当たり前、きちっとした距離を保つ」と発言した(12/10)。しかし会見の席上、記者から問われ、安倍首相を取り巻く財界人グループ「四季の会」のメンバーであることを認めた。「四季の会」葛西敬之(JR東海副社長)、古森重隆(フジフィルム会長)の二人が中心メンバーだとして知られる存在で、安倍首相のブレインとして、政策助言にあたっていることで知られている。
 NHKの会長、専務理事、経営委員など主要人事の決定の際は、必ず葛西、古森両氏が動く。2005年会長福地茂雄氏は四季の会メンバー、2008年会長の松本正之氏は葛西氏の部下、2014年会長籾井勝人会長も「四季の会」が推挙だった。古森氏自身も2007年6月から2008年12月までNHK経営委員長を務めた。
 このような状態の下で、果たして「権力との距離」を保てるかどうかだ。大手各紙の報道を見る限り、上田会長の退任、前田次期会長の選任は安倍首相と菅官房長官が影響力を行使、「四季の会」が選任したとみていいだろう。
 ▼歴代会長―財界7, 官僚4、記者4、NHK出身6、
 NHKの初代会長の岩原謙二(1926年~36年)氏の前職は三井物産常務だった。
2代会長の小森七郎(1936年~43年)は郵政官僚が据えられた。ラジオ放送の威力がまし、政府がNHKを傘下に収めるためだった。その流れを汲んで第二次大戦末期(1943年~45年)には下村宏(情報局総裁)がNHKをがっちり握り、戦争遂行の番組一色になった。
 戦後一時期、郵政官僚である大橋八郎が会長の座に就いたが、まもなく戦後民主化の流れで放送委員会が誕生した。委員は岩波茂雄、馬場恒吾、宮本百合子、荒畑寒村、加藤静枝、土方與志、大村英之助ら、戦後文化人の結集体だったが、彼らが選んだ会長は高野岩三郎(1946)、統計学者であった。社会運動家としても、人格識見共に傑出した人物であり、戦後のNHK再出発を率いた。
 そののち、古垣鐵郎(朝日、1949)、野村秀雄(朝日、1958)、阿部真之助(東京日日、1960)、前田義徳(朝日、後NHK報道局長、1964 )ジャーナリスト出身者が続いた。間に実業家永田(1956)が入るが・・・。この間にNHKは公共的存在であり、ジャーナリズムと文化、娯楽の重要な機関であるとの認識を、市民の間に培ったと言えよう。9年という長期政権であった前田には後半権威主義的な傾向が見られた。
 ▼田中角栄側近不祥事後、一時期、内部昇格続く
 ところが1957年、田中角栄が郵政大臣となったことがNHKの方向を二転、三転させた。田中は放送行政に辣腕を振るい34社に及ぶテレビの大量免許を行うとともに、この免許で田中の右腕だった小野吉郎事務次官をNHKの専務理事として天下りさせ、興隆中のテレビ事業を掌中に収めた。小野は副会長を経て1973年NHK会長に昇格した。ところがロッキード事件で逮捕された田中を保釈中に小野会長が見舞い、世論の批判を浴びた、受信料不払いが激減ことから辞任を余儀なくされた。
 小野退陣の後、NHKの復活を任されたのは、「朝ドラ」の生みの親として知られる演出家坂本朝一であった(1976)、初の生え抜きとして、坂本は職員の受けもよく2期6年、引き継いだ川原正人会長(1982)は報道局長から専務理事経験者で、同じく2期6年を務めた。この12年がNHKのもっとも安定した時期であったといえよう。
 しかし1988年政権与党(自民)の画策の結果、三井物産の元会長であった池田芳蔵が送り込まれた。しかし高齢(77歳)の池田は、今でいう認知症で、言語不明瞭。国会答弁もままならず、7カ月でNHKを去った。
 後任は再びNHK内部から、報道局長経験者の島桂二が起用されたが(1989)、強引な人柄が反感を買い、不祥事も手伝って途中退任、大河ドラマなどのプロデユーサーであり、人望もあった川口幹夫が就任(1991年)、ハイビジョン、国際放送などを推進、多チャンネル時代の波を乗り切り、久しぶりに2期6年の任期を全うする会長とし、大型で見ごたえのある番組作りに貢献した。
 ▼海老沢後半、視聴者批判激化し、財界人起用の連鎖
 川口の後会長職を継いだのは副会長の海老沢勝二であった(1997)。海老沢は政治部記者出身だが、早くから管理職として階段を昇り、専務理事、副会長、そして会長に上り詰めた。しかし、早くから政権への迎合姿勢が顕著で、2001年にはETV特集「戦争をどう裁くか」の慰安婦問題で、政府の意向を受けて大幅な番組改変が行われた。その後2004年には紅白歌合戦のプロデユーサーによる不正支出が週刊誌に暴露され、海老沢体制に視聴者の批判が集中、受信料不払いが急増した。国会に喚問された海老沢が、テレビ中継を行わなかったことも重なり、視聴者の批判が増大、2005年1月、辞職に至った。辞職に際し、顧問に就任したこと、多額の退職金が用意されていることも伝えられ、視聴者のNHKへの批判は増大の一途をたどった。
 海老沢後のリリーフとし2008年1月以降は「四季の会」の取り仕切りで財界人に委ねられた。福地茂雄(アサヒビール、2008)、松本正之(JR東海、2011)、籾井勝人(三井物産、2014)、上田良一(三菱商事、2017)、前田晃伸(みずほファイナンシャル、2020)と続く。
 
 NHKには絶えて久しく、見識あり、放送文化を預かる人物を会長職に見ることが無い。政府、財界との癒着を断ち切り、公共放送文化を育成することに十分な理解を持ち、文化的にも造詣の深い物を見出すことができる環境を作ることが必要ではないか。
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写真、新会長、前田晃伸氏の就任を報じる「NHKニュース7」(12/9/2019)

2019.12.26 安倍内閣支持率下落は一時的現象か
本格的下落のはじまりか(その3)

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

12月14、15両日に行われた共同通信調査では、第3期の「内閣支持率と不支持率が接近し(あるいは不支持率が支持率を上回り)、自民支持率が下がる」傾向が本格化しつつあることが明らかになった。内閣支持率は「支持」48.7→42.7%(▲6.0ポイント)、「不支持」38.1→43.0%(△4.9ポイント)と不支持が支持を上回って逆転した。また、自民支持率も41.8→36.0%(▲5.8ポイント)と時事通信(▲7.1ポイント)に次ぐ下落幅となった。この傾向を分析した京都新聞は、次のように伝えている(2019年12月16日)。
「共同通信社の世論調査で内閣不支持率が42.7%へと6.0ポイント下落し、11月の前回調査と合わせた下げ幅は11.4ポイントに達した。不支持率が僅差で上回り、調査結果からは『桜を見る会』問題で安倍晋三首相ら政権幹部への有権者の不信感が増幅している現状が浮かぶ。(略)『気を引き締めないといけない。自民党支持率にも影響し始めている』。首相周辺は取材に対し、危機感を強調した。内閣支持率と連動するように、自民党支持率も5.8ポイント減の36.0%に下がっており、桜を見る会問題が自民党のイメージ悪化に波及したとの認識を示した形だ」

今回の共同通信調査の特徴は、安倍政権が末期に近づきつつあるとの認識から、「桜を見る会」の疑惑ばかりでなく「安倍首相の下での憲法改正」「安倍首相の総裁4選」「日本経済の先行き」など国政の重要課題についても幅広く取り上げていることだ。憲法改正については「賛成」31.7%、「反対」54.3%と前回より差が開き、総裁4選については「賛成」28.7%、「反対」61.5%といずれも賛成は3分の1にも満たない。日本経済の先行きに至っては「不安+ある程度不安」が87.9%と圧倒的比重を占めている。もはや政権の舵取り役として「安倍政権は御用済み」という世論が、国民の大勢を占めてきていると言える。

産経調査もまた、内閣支持率が「支持」45.1→43.2%(▲1.9ポイント)、「不支持」37.7→40.3%(△2.6ポイント)と接近しており、不支持率が40%を超えたのは今年3月以来9カ月ぶりだという。一方、政党支持率の方は大きな変化がなく、共同通信調査のような自民支持率の下落は見られず30%台半ばで安定している。ただ、これまで安倍首相に憲法改正を強く迫ってきた産経紙としては、内閣支持率の下落が国政の課題達成を困難にしていることが心配でならないらしく、この点に大きな紙面を割いている。
「世論調査で、首相主催の『桜を見る会』への招待者選定をめぐる安倍晋三首相の説明について、『納得できない』との回答が74.9%に上った。国民の根強い不信感は安倍内閣の支持率や憲法改正の賛否にも影響しているとみられ、ボディブローのように政権の足元を脅かしつつある。(略)女性の方が安倍政権に厳しい傾向は、内閣の支持・不支持率にも表れている。女性では、40代を除く全ての年代で『支持しない』が『支持する』を上回った。50代では47.3%が『支持しない』と回答し、『支持する』37.8%を約10ポイント上回った」

共同通信調査と産経調査に共通することは、「内閣不支持上回る、政権不信感『桜』で増幅」(京都新聞)や「首相に『桜』で不信感、改憲賛否にも影響」(産経新聞)との見出しにも見られるように、もはや国民の安倍政権に対する不信感が頂点に達し、それも女性の不信感がもはや修復不可能なレベルに達しているということだ。この事態を安倍政権に近いジャーナリストはどう見ているのだろうか。毎日新聞特別編集委員の山田孝男氏は、『風知草』(毎日新聞コラム、2019年11月18日)で次のように語る。
「時ならぬ桜騒動は、身内に厚く、問い詰められれば強弁――という、憲政史上最長政権の〈不治の病〉再発を印象づけた。見過ごされていた首相の公私混同、政権の慢心を丹念に調べた共産党の追及は鮮やかだった。これを小事と侮れば政権は信頼を失うが、『桜を見る会』の運営が天下の大事だとは思わない。大嘗祭もつつがなく終わり、令和への転換が進む。世界激動の今日、国際的な課題を顧みず、観桜会が『最大の焦点』になるような国会のあり方自体、改める時ではないか」

この主張はテレビでも盛んにコピーされ、少なくないキャスターやタレントからも同様のメッセージが発信されている。天下国家の大事を論じなければならない国会が、こんな些末なことに何時までもかかわっていてよいのか――、一見尤もらしい主張である。しかし、事の本質は山田氏の前半の指摘にあるのであって、後半の主張にあるのではない。国民は「桜を見る会」疑惑の中に安倍首相の宰相としての「不治の病=公私混同・身びいき・えこひいき・強弁・居直り・すり替え・屁理屈・嘘つき・逃げ回り...」に気付き、もう嫌だと言っているだけのことなのである。安倍夫妻のような「チャチな男とノーテテンキな女」に6年間もダマされてきたことを嘆き、そして怒り、心の底から嫌気がさしているだけのことなのである。

同じ毎日新聞のコラムでも、土曜サロンの「松尾貴史のちょっと違和感」(2019年12月7日)の方がはるかに的を射ている。
「この案件は関係者が安倍夫妻、副総理、官房長官、内閣府、自民党関係者、安倍晋三後援会、ホテルニューオータニ、そして招待者1万8000人というおびただしさなので、ウソで蓋をしようとすればするほど、つじつまの合わないところが出てきて疑惑が数珠つなぎに引っ張り出される構造になっている。森友学園や加計学園の疑惑は何となくほとぼりが冷めているだけなので、もしこの桜を見る会についてのスキャンダルが長引けば、さらに政権の体質自体が問題であることがどんどん顕在化して、ダメージは大きくなっていくだろう」

「桜を見る会」疑惑の本質は、松尾氏が指摘する通り、まさに安倍政権の〝体質〟の問題なのである。安倍首相夫妻の公私混同・身びいきの性癖が「国政の私物化」をもたらし、天下国家の大事を歪める根底(土台)となっているからだ。この土台を取り換えることなく、新しい時代を迎えることはできないし、国際的な課題はおろか人類史的な課題にも向き合うこともできない。

事実、12月15日に閉幕した第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)では、グテーレス事務総長が自然災害の頻度が増し、人的、経済的な被害が大きくなっているとして、「気候変動は長期的な問題ではない。今まさに私たちは危機に直面している」と指摘し、「各国の今のままの努力では不十分なのは明らかだ。足りないのは政治的な意思だ。会議では各国に責任感とリーダーシップを見せてもらいたい。約束を引き上げるような明確な行動を期待している」と述べたにもかかわらず、日本代表の小泉環境相は何一つ温暖化対策への積極的な取り組みを示すことができなかった(各紙、2019年12月16日)。

私たちは、もうそろそろ「みみっちい首相へ別れの手紙」を書く時が来たのであり(朝日新聞「多事奏論」、編集委員・高橋純子、2019年12月18日)、古い瘡蓋(かさぶた)を取り除いて新しい時代を迎える時が来たのである。

2019.12.25 安倍内閣、支持率下落は一時的現象か
本格的下落のはじまりか(その2)

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

12月前半は、「内閣支持率は下がるが、自民支持率はそれほど下がらない」という第2期と、「内閣支持率と不支持率が接近し(あるいは不支持率が支持率を上回り)、自民支持率も下がる」という第3期が交錯する複雑な時期である。毎日調査(11月30日、12月1日)の結果が前者に相当し、時事通信調査(12月6~9日)の方は後者に当たる。これまで質問や回答の内容にはあまり触れなかったので、毎日調査の主だった結果をまず紹介したい。私が特に注目したのは女性の回答だ。
(1) 内閣支持は42%(▲6ポイント)、不支持は35%(△5ポイント)となって、支持・不支持率が接近した。特に、女性の支持率が男性46%よりも8ポイント低く38%になったのが目立つ。
(2) 「国の税金を使って開く『桜を見る会』に、安倍首相の地元後援会関係者らが多数、招待されていたことが明らかになりました。あなたはどう思いますか」との質問に対しては、「問題だと思う」65%、「問題だとは思わない」21%で、問題視する回答が問題視しない回答の3倍に上った。女性は70%対14%で5倍だった。
(3) 「野党は『桜を見る会』に反社会的勢力の関係者が参加していたと指摘しています。あなたは、誰の推薦でどのような人物が『桜を見る会』に招待されていたのか、政府は明らかにすべきだと思いますか」との質問に対しては、「明らかにすべきだ」64%、「明らかする必要がない」21%で、これも「すべき」が「必要ない」の3倍に上った。
(4) 「『桜を見る会』の招待者名簿を取りまとめている内閣府は、野党の議員から国会で『桜を見る会』に質問を受けたその日に名簿をシュレッダーで廃棄していました。政府は廃棄と国会質問は一切関係がないと説明していますが、この説明に納得できますか」との質問に対しては、「納得できる」13%、「納得できない」72%で、「できない」が「できる」の5倍強となった。女性は9%対72%で8倍となった。

 いずれの回答も政府への批判が圧倒的であり、否定側の回答が肯定側の回答の3倍から6倍(女性は5倍から8倍)に達している。問題は「桜を見る会」の疑惑に対する不信感がこれほど大きいにもかかわらず、安倍首相夫妻による国政私物化の真相究明を妨げている自民・公明・維新の与党支持率がいっこうに下がらないことだ。毎日新聞の与党支持率は、自民36→36%、公明3→3%、維新4→4%、合計43→43%と微動もしていない。一方、野党支持率は、立民10→8%、国民1→1%、共産3→4%、社民1→0%、れいわ1→2%、合計16→15%と却って低下している。これは「支持政党なし」が34→35%とほとんど変わらないためだが、それにしても与野党支持率の差が3倍もあるのでは話にならない。

他方、時事通信がそれから1週間後の2019年12月6~9日に実施した世論調査によると、安倍内閣支持率は40.6%(▲7.9ポイント)、不支持率35.3%(△5.9ポイント)となり、支持・不支持率がかなり接近している。首相主催の「桜を見る会」をめぐり、安倍首相が多数の後援会関係者を招いていたことや、マルチ商法を展開したジャパンライフの元会長も招待されていたことなどが批判を浴び、支持率に影響したとみられる―と同社は分析している。

これを時事通信調査の時系列でみると、今回の内閣支持率の下落幅の大きさ(▲7.9ポイント)は2018年3月以来のことだという。前回は、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する財務省の決裁文書改ざん問題が国会の焦点となっていた時のことで、支持率は40%割れの39.3%(▲9.4ポイント)、不支持率は40.4%(△8.5ポイント)と支持・不支持が逆転した。いずれも安倍首相絡みの不正隠しを、与党・官僚が総ぐるみで行ったことが背景となっている。今回は支持・不支持が逆転するまでに至っていないが、それでも下落幅の大きさは注目に値する。

時事通信調査のもう1つの大きな特徴は、自民支持率が前月比で23.0%(▲7.1ポイント)と大幅に下落したことだ。2018年3月の自民支持率は25.2%(▲3.3ポイント)だから、自民支持率が20%台前半に落ち込んだことは注目に値する。与党総ぐるみで安倍首相の不正を隠し、野党の真相解明を妨げるために国会延長に応じず、審議を拒否したことが、国民から激しく批判されているのである。安倍首相はもはや「死に体」と見なされているので、今後の政治情勢にとっては自民支持率の下落の影響の方が大きい。次の総裁を誰に代えても自民支持率が下落していれば、選挙戦は著しく困難になるからである。

これに対して、野党支持率の方は相変わらず低迷している。立憲3.8%、共産2.0%、れいわ0.7%、国民0.6%、社民0.2%、全部足しても僅か7.3%でほとんど動きがない。ただその一方で、注目されるのは今回の6割にも及ぶ「支持政党なし」の急増ぶりだろう。「支持政党なし」は61.1%(△5.6ポイント)となり、今年3月以来の60%台に乗った。これは、自民離れ層が「支持政党なし」に移行したものと思われ、今後の政治情勢が極めて流動的であることを物語っている。野党各党がこれから「政党支持なし層」をどれだけ取り込めるか、そこに安倍内閣打倒の全てが掛かっていると言ってもいい。

これまで安倍政権が比較的安泰だったのは、野党が押しなべて弱体化している一方、自民支持層が岩盤のように分厚く安定しているからだと言われてきた。いかなる政治状況においても自民を支持する保守固定層が常に3~4割台を占め、野党の進出を許してこなかったからだ。ところが、安倍政権の長期化による腐敗の極みが「身内政治=国政の私物化」という形で顕わになり、それが官僚機構まで巻き込んで国の統治機構の根幹が侵される事態(いわゆる「忖度」行政による公文書捏造や破棄など)にまで浸透してきたことは、さすがの保守固定層においても〝自民離れ〟を引き起こさざるを得なかったのである。

 内閣支持率と自民支持率が〝今年最大の下げ幅〟となったことに関して、時事通信は次のように分析している。
「政権内では、なおくすぶる首相主催『桜を見る会』をめぐる問題が直撃したとの見方は強く、反転へのきっかけがつかめない状況に危機感がにじむ。首相官邸幹部は(12月)13日、支持急落に関し『ずいぶん下がった』と深刻に語った。自民党幹部は『やはり桜が大きかった』と指摘した。11月8日に国会で取り上げられて以降、『桜』問題は拡大を続けた。首相後援会や首相夫人の昭恵氏の関与、共産党が名簿提出を求めた日の廃棄、反社会的勢力とされる人物の参加などが相次いで指摘された。10月に2閣僚が辞任しても支持率は堅調だったが、『桜』問題は野党が連日追及、メディアも大きく取り上げたことが響いたとみられる。別の自民党幹部は『桜ももちろんだが、長期政権のおごりが原因だ。緊張感がない』と述べ、政権の緩みに警鐘を鳴らした」
「自民党内には、支持率低下は『今が底』(参院幹部)、『3割台にならなければ大丈夫』(中堅議員)と強がる声もある。ただ、内閣支持率に連動して自民党支持率が大きく下落したのは今年初めてのケースだ。党関係者は『解散は当分できない。これでやれば自爆だ』と語る。一方、世論調査では『支持する政党はない』が前月比5.6ポイント増の61.1%に上った。野党各党の支持率は横ばいで、自民党から離れた支持は野党に向かわなかったとみられる。立憲民主党の福山哲郎幹事長は『無党派層の支持を得るような発信をしていく』と強調した。公明党からは『(支持急落は)桜が響いているが、またすぐ上がるだろう。野党も全然伸びていない』(幹部)との楽観論も出ている」

 このように、与党内でも時事通信調査の結果に関しては議論が大きく分かれている。内閣支持率が「今が底」で「またすぐ上がる」と見るのか、それとも自民党支持率の下落と連動して本格的な下落段階に入るのか、目下のところはまだ先が見えてこない。その回答が、果たして12月中旬(12月14、15両日)に行われた共同通信調査と産経調査の結果を通して得られるのかどうか、確かめてみたい。(つづく)

2019.12.24 安倍内閣、支持率下落は一時的現象か
本格的下落のはじまりか(その1)

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

安倍首相主催の「桜を見る会」をめぐって政治情勢がにわかに流動化してきた。安倍首相の「身内政治=国政私物化」の姿がここまで赤裸々に暴露されているにもかかわらず、知らぬ存ぜず一点張りで逃げ切ろうとする醜態が国民の激しい怒りを呼んでいるためだ。当人は国会延長を要求する野党の追及を振り切り「逃げ切った」と思っているらしいが、野党はもとより国民がそんなことで納得するわけがない。正月が来れば「その内にみんな忘れてくれる」なんて甘い夢は見ない方がいいのである。

この間の世論状況の推移を各社の世論調査で追ってみると、僅か2カ月足らずの間に世論が大きく動いていることがわかる。画期の区分は、(1)内閣支持率も自民支持率も下がらない、(2)内閣支持率は下がるが、自民支持率はそれほど下がらない、(3)内閣支持率と不支持率が接近し(あるいは不支持率が支持率を上回り)、自民支持率も下がる、の3期である。このような区分をするのは、安倍政権に対する支持は、首相自身に対する評価と自民党全体に対する評価の二重構造になっていて、内閣支持率が下がっても自民支持率が下がらなければ、自民党政権が安泰だからである。自民党政権の危機は、その両方が連動して本格的に下がるときに初めて訪れることになる。

11月前半までは、第1期の「内閣支持率も自民支持率も下がらない」時期が続いていた。11月になって最初に行われた時事通信調査(11月8~11日)は、政府が首相主催の「桜を見る会」を来年度中止を決定した11月13日以前だったためか、2閣僚辞任や大学入試への英語民間試験の導入見送りなど不祥事が相次いだにもかかわらず、内閣支持率は48.5%(△4.3ポイント)、不支持率は29.4%(▲3.6ポイント)となり、支持率が逆に上昇していた(マジか!)。

一方、政党支持率の方は、「自民」30.1%(△2.6ポイント)で断トツ1位を維持しており、それに比べて「立憲」3.1%(▲2.7ポイント)で公明3.7%を下回る始末、その他野党はいずれも2%以下で見る影もない。「支持政党なし」55.5%(▲0.5ポイント)が過半数を占めているように、国民多数が〝野党離れ〟にある状況の下で、安倍政権はこのまま不祥事をやり過ごせると踏んでいたのである。

しかし、安倍首相が来年度の「桜を見る会」中止を決定した11月13日以降、情勢は少し変り始めた。11月半ばから後半にかけて、世論動向は第2期の「内閣支持率は下がるが、自民支持率はそれほど下がらない」へ移行した。これまで相対的に高い支持率が続いてきた読売調査(11月15~17日)と産経調査(11月16、17日)においても、読売「支持」54→49%(▲6ポイント)、「不支持」34→36%(△2ポイント)、産経「支持」51.7→45.1%(▲6.6ポイント)、「不支持」33.0→37.7%(△4.7ポイント)となって、下落傾向が明らかになってきた。50%台を恒常的に維持していた読売・産経の内閣支持率が、過半数割れの状態に落ち込む傾向がはっきりと出て来たのである。

また、支持率が低かった朝日調査(11月16、17日)においても「支持する」45→44%(▲1ポイント)、「支持しない」32→36%(△4ポイント)となった。首相が来年度の「桜を見る会」中止を決定してからというものは、程度の差はあれ支持率が下落し、不支持率が上昇した。安倍首相の「臭い物に蓋をする」姿勢に少なくない国民が失望したのだろう。ただしこの段階では、まだ不支持率が支持率を上回るような状況ではなかった。

一方、「自民」支持率の方は、読売42→37%(▲5ポイント)、産経37.7→36.2%(▲1.5ポイント)、朝日45.7%で変わらずと各社まちまちだった。野党は「立憲」にやや上昇傾向がみられるものの(読売5→7%、産経7.3→7.8%、朝日7.8→9.8%)、「支持政党なし」がほとんど動いていないので(読売38%変わらず、産経39.4→38.7%、朝日30.0→26.5%)、こちらの方はそれほど大きな変化はなかったと言える。

読売・産経・朝日から約1週間遅れで、共同通信調査(11月23、24日)と日経調査(11月22~24日)が行われた。この1週間は、野党側の「桜を見る会」への追及によって招待者の実態が次々と明らかになり、安倍首相夫妻や政権幹部、自民党関係者による「桜を見る会」の私物化が暴露された1週間だった。おまけに招待者名簿が野党の資料請求当日に破棄されたとあって、証拠隠滅も露骨かつ組織的に行われていたことが判明した。こんな有様だから、私などは内閣支持率が一気に10%程度下がってもおかしくないと思っていたのである。

ところが、内閣支持率は共同通信「支持」54.1→48.7%(▲5.4ポイント)、「不支持」34.5→38.1%(△3.6ポイント)、日経「支持」57→50%(▲7ポイント)、「不支持」36→40%(△4ポイント)と思ったほど下がらなかった。また、政党支持率の方も共同通信が「自民」44.6→41.8(▲2.8ポイント)とやや下落したものの、「立憲・国民・共産・社民・れいわ」の全てを合わせても16.6→16.2%(▲0.4ポイント)と変化がなく、「支持政党なし」28.9→30.4%(△1.5ポイント)が少し増えただけだった(日経は数字が明示されていない)。つまり、この段階では〝自民離れ〟が〝野党支持〟へ移行しておらず、「支持政党なし」に途中下車している程度の変化しか見られなかったのである。

この状態を日経は次のように解説している。
「安倍晋三首相は20日に通算在任日数が憲政史上最長となった。日本経済新聞社の22~24日の世論調査で、2012年12月に発足した第2次安倍政権以降の仕事ぶりについて質問すると『評価する』と答えた人が55%、『評価しない』が34%だった。長期政権を評価する声が過半に達したが、一方で『安倍政権に緩みがあると思う』と答えた人も67%にのぼった」
「首相主催の『桜を見る会』をめぐる問題などで内閣支持率は7ポイント下がったが、それでも50%あり、首相への評価は底堅い。10人の名前を挙げて『次の政権の首相にふさわしいと思うのは誰か』を聞いたところ、安倍首相は前回10月調査の16%とほぼ横ばいの14%で、順位は同じ3位だった」
「一方、政権の緩みには厳しい意見が目立つ。9月の内閣改造から1カ月半で菅原一秀前経済産業相、河井克行前法相と2閣僚が相次いで辞任したことを受け『政権に緩みがあると思う』と答えた人は67%に上った。『あるとは思わない』の27%を大きく引き離した」

この解説は、日経の編集方針の基調である、(1)安倍長期政権の仕事ぶりは国民に広く評価されている、(2)安倍内閣の支持率は底堅い、(3)不祥事は政権の「緩み」から生じるもので本質的な欠陥に基づくものではない、との政治認識に基づいている。キーワードは「緩み」であり、続出する自民政権の不祥事の原因をすべて党内の「緩み」に求めるというものだ。この論調は、国民に対して自民政権の継続が国政の前提との印象を与えるもので、ここからは〝政権交代〟の主張は出てこない。安倍政権の腐敗を「政権の緩み」にすり替え、「党内改革」によって体制の延長を図ると言う典型的ストーリーとなっている。(つづく)

2019.12.14 敵を知る人による重要な指摘
―片山善博の「桜を見る会」論の紹介―

半澤健市 (元金融機関勤務)

 本稿は、鳥取県知事・総務大臣を経て現早大教授の片山善博(かたやま・よしひろ)の「『桜を見る会』で重要な論点」というエッセイの紹介である。月刊誌『世界』に連載されている「片山善博の『日本を診る』」の122回分として同誌2020年1月号に載った。以下に要約を掲げ最後に半澤の感想を記す。

《慇懃無礼な安倍政権論の面白さ》
 片山の「桜を見る会」の位置づけは、「森友・加計」事件とは「いささか趣を異にするところがある」というものだ。
安倍政権は、明らかに不公正なことをしでかしているのだが、当人たちはそれを躍起に否定してきた。一連の過程で都合の悪い文章は廃棄されているし、およそ作り話としか思えない奇想天外なストーリーが持ち出された。
次いで「森友・加計」事件の処理の仕方が解説される。「森友」では、実行当事者を「近畿財務局限り」にし、関係文書の改竄を「財務省理財局の仕業」に押し込めた。
「加計」では「総理秘書官が記憶を失い、加計学園幹部が嘘をついていたとヘラヘラ前言を翻す」ことで、総理自身が火だるまになることを避けた。しかし「桜を見る会」は総理の主催であり自ら説明責任を果たす必要に迫られている。

《会計処理に重要問題がひそむ》
 片山は「桜を見る会」の会計処理上の問題に集中する。
菅官房長官の会見で、記者が「これまでの予算計上のあり方に問題があったか」と問い、菅は「結果から見れば、そうではないか」と答えた。その問答の欠点をこう皮肉る。
「記者は頓珍漢で問題の本質を理解していない」し、答弁は「予算執行に責任ある立場にある者として無責任」である。予算を上回って支出した政府は、財政支出の法形式に違反している。このことを政府はどう説明するのか。
片山は、予算超過の支出の出所はまず「裏金」であろうとする。裏金を使った例はかつていくつもの自治体で発覚した。たとえば中央官庁から幹部が県を訪れたときの知事主催懇談会の経費である。もし二次会の予算が計上されていないと裏金から出す。
しかし片山は「今の政府が、(裏金を使うほど)腐敗しているとも思えない」と書く。そして、他の可能性として「他の費目の予算流用」、「予備費」の流用を挙げる。「官房機密費を充てた可能性もないわけではない」が、「まさか『桜を見る会』などに投入されていることはあるまい」と慎重な推定をしている。そして片山エッセイは次のように結ばれている。(「■から■)、原文のまま」

《片山「見る会」論はこう結ばれる》
 ■実は政府はこの超過経費を「内閣府一般共通経費」で賄ったと説明しているようだが、胡乱(うろん)で俄には信じがたい。では具体的に内閣府予算のどこからいくらを適法に持ってきたのか、尋ねてみたい。すると立ち往生し、結局はここで取り上げたまっとうでない経理処理がなされていると発覚する可能性は十分ある。ここは国会の財政監視機能に強く期待する。■

筆者(半澤)の感想三点。
一つ 「敵を知るもの」の批判は強いと思う。他には郷原信郎ぐらいしかいない。SNSを
   含むあらゆる方法で、フェイク(偽物)を排し事実を拡散しようではないか。
二つ 「明らかに不公正なことをしでかしている」のに安倍支持はなぜ続くのか。
   開票開始の瞬間に結果が出る選挙を断固拒否する。香港の戦友に学んで投票率を
   70%に上げようではないか。オセロゲームの与野党逆転を実現しようではないか。
三つ 安倍晋三は、提出を要求された日に「見る会名簿」が廃棄された理由に、「障害者
   雇用職員」の作業であることを挙げた。こういう恥ずかしい指導者に一日も早く退
   場してもらおうではないか。国会閉会中も全てのデモクラシー支持者は安倍政権追
   及を続けようではないか。(2019/12/09)

2019.12.13 自衛隊の海外派遣を常態化してはいけない
世界平和アピール七人委が訴え

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 世界平和アピール七人委員会は12月12日、「自衛隊の海外派遣を常態化してはいけない
―集団的自衛権行使に向かう既成事実作りの危険性を直視し、武力によらない平和構築に向けての積極的貢献を!―」と題するアピールを発表した。
 報道によれば、政府は、年内にも、海上自衛隊を中東海域に派遣することを閣議決定するとみられている。これに対し、世界平和アピール七人委は、「自衛隊による集団的自衛権行使の『予行演習』につながりかねない措置である」との危機感を深め、緊急アピールを出すことにしたものだ。
 アピールは、「自衛隊の海外派遣を常態化てはならない」と警告し、日本は「安定した平和を構築するための外交面での積極的貢献と人道的支援について世界の最先端に立って活動すべきである」と主張している。

世界平和アピール七人委は、1955年、物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人有志の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器禁止、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発表してきた。今回のアピールは136回目。
 現在の委員は、武者小路公秀(国際政治学者)、大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学、慶應義塾大学名誉教授)、池内了(宇宙論・宇宙物理学、総合研究大学院大学名誉教授)、池辺晋一郎(作曲家)、髙村薫(作家)、島薗進(宗教学、上智大学教授)の7氏。

アピールの全文は次の通り。

自衛隊の海外派遣を常態化してはいけない
―集団的自衛権行使に向かう既成事実作りの危険性を直視し、
武力によらない平和構築に向けての積極的貢献を!―
世界平和アピール七人委員会


 年内に自衛隊艦船や哨戒機の中東派遣を閣議決定すると報じられている。この派遣計画は2019年10月18日の安倍晋三首相の検討指示によって明らかになった。7月に米国から呼び掛けられたイラン包囲の有志連合「海洋安全保障イニシアチブ構想」には参加しないが、首相の判断や国会の承認を必要とせず防衛大臣のみの判断で派遣できる「調査・研究」との名目での中東派遣である。米国とイランの緊張が高まっているホルムズ海峡までは行かないので危険はないと説明され、菅義偉官房長官は船舶防護が必要な状況ではないと言う。友好国イランに配慮すると言い訳しつつ、他方では中東問題での日米協力を確認している。

 現在の対立は、5月末に米国がイラン産の原油の全面禁輸を開始したことによって引き起こされたものである。6月には日本のタンカーが、9月にはサウジアラビアの石油施設が正体不明の相手から攻撃されるなど、中東の緊張は高まってはいる。11月には7か国のみの参加による米国主導の有志連合も活動を開始した。
 しかし、いまなぜ自衛隊艦船や哨戒機を「調査・研究」のために派遣しなければならないかの国民への説明は一切なされず、与党の了解だけで閣議決定を行うというのである。事態が変化すれば派遣区域も派遣目的も変更し、武器使用の制限を緩めて対処するというのだから、けじめなく既成事実が拡大されていくことになる。

 このようなあいまいな自衛隊の海外派遣は、軍隊を持たず最小限の自衛に限るべき日本の行うべき活動ではない。中東のあるべき姿に向けて国際的緊張を緩和させ、危険性を除去し、安定した平和を構築するための外交面での積極的貢献と人道的支援について世界の最先端に立って活動すべきである。

2019.11.30 ローマ教皇のメッセージに賛同する
       平和アピール七人委がアピール

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 世界平和アピール七人委員会は11月28日、「ローマ教皇の長崎・広島でのメッセージに賛同する」と題するアピールを発表した。同月23日に来日したローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は24日、原爆被爆地の長崎と広島でメッセージを発したが、七人委はその内容を高く評価し、それに全面的に賛同するとの見解をまとめ、それをアピールという形で発表した。
 アピールは、教皇がメッセージの中で述べた内容は、日本国憲法第九条の精神に合致するものであり、さらに、一昨年に国連で採択された核兵器禁止条約の趣旨にも合致すると述べている。

 世界平和アピール七人委は、1955年、物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人有志の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器禁止、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発表してきた。今回のアピールは135回目。
 現在の委員は、武者小路公秀(国際政治学者)、大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学、慶應義塾大学名誉教授)、池内了(宇宙論・宇宙物理学、総合研究大学院大学名誉教授)、池辺晋一郎(作曲家)、髙村薫(作家)、島薗進(宗教学、上智大学教授)の7氏。

アピールの全文は次の通り。

       ローマ教皇の長崎・広島でのメッセージに賛同する
       世界平和アピール七人委員会
 

  武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

 2019年11月24日、フランシスコ教皇は長崎爆心地公園と広島平和公園で二つのスピーチを行った。そこで教皇は、1945年8月に広島・長崎に投下された原爆により尊い生命を失った人々、その後も苦しみと悲しみのなかで生きてこられた方々の苦難を思い起こしながら、その悲劇を忘れてはならない、繰り返してはならないと述べている。
 教皇は「原子力の戦争目的の使用は、倫理に反します。二年前に私が言ったように、核兵器の所有も倫理に反します」「核兵器は、今日の国際的また国家の、安全保障への脅威からわたしたちを守ってくれるものではない、そう心に刻んでください。人道的および環境の観点から、核兵器の使用がもたらす壊滅的な破壊を考えなくてはなりません」、さらに核兵器や大量破壊兵器の所有について「それは、恐怖と相互不信を土台とした偽りの確かさの上に平和と安全を築き、確かなものにしようという解決策です。人と人との関係をむしばみ、相互の対話を阻んでしまうものです」と明言している。

 現代世界の代表的な宗教指導者のこれらの言葉は、すべての人々の良心に訴えたものであり、とくに原爆投下による悲惨な結果を忘れることない日本の多くの人々の心に響くものである。同時に、それは日本国憲法第九条の精神に合致したものである。
 フランシスコ教皇の二つのメッセージは、2017年に国連で採択された核兵器禁止条約の趣旨にも合致したものである。そして日本を含め、この条約を受け入れようとしない国々の政治指導者が頼る「核抑止力」という偽りの理論を問い直してもいる。核兵器をめぐる日本の政府与党の現在の姿勢が厳しく問われていることも明らかである。
 私たち世界平和アピール七人委員会は、この力強いメッセージに深く共鳴し、その趣旨に賛同し、それが広く共有されることを願う。とくに、現代世界の宗教や学術や文化活動に携わる人々からも、こうした声がさらに高まっていくことを強く期待したい。

2019.11.19 周回遅れのランナー――日本共産党の綱領改定案を見て
――八ヶ岳山麓から(298)――

阿部治平 (もと高校教師)

11月6日、日本共産党(以下日共という)の綱領改定案が発表された(日刊赤旗)。綱領は国家でいえば憲法である。志位委員長の党中央委員会への提案は、説明を入れて6ページに及ぶ長いものだが、その核心は、現行綱領の中の中国・ベトナム・キューバを「社会主義への道を歩む国家」としている部分の削除である。
現行綱領の文言の削除部分は「今日、重要なことは、資本主義から離脱したいくつかの国ぐにで、……『市場経済を通じて社会主義へ』という取り組みなど、社会主義をめざす新しい探求が開始され、人口が13億を超える大きな地域での発展として、21世紀の世界史の重要な流れのひとつとなろうとしていることである」となっている。
これに関連して、「社会主義と資本主義の二つの体制が共存する時代」という規定も成り立たなくなったとして、これも削除するという。さらに中国とともにベトナム・キューバも一緒くたにして「社会主義への道を歩む国家」から抹消した。この2つの国家はどういう理由で外されたのか、志位氏は語っていない。

現行綱領は2004年にできたものだ。私がこれを記憶しているのは、中国から一時帰国したとき、共産党員の亡友から綱領のこの部分を知らされて驚き、「そいつは間違いだ」といったので、友人と論争になったからである。
当時中国には、国営私営を問わず各産業分野に独占企業があって、それに中共最高指導部の利権が絡んでいたし、すでに『海爾=ハイアール(家電メーカー)』などは日本に進出していた。私は、亡友との論争で中国は社会主義に進むことはあり得ない。資本主義、それも独占資本主義段階にあると主張した。この考えは今も変わらない。

さて志位氏が中国のどこを問題にして上記の文言を削除したかというと、大略以下の四つである。
① 核兵器問題での変質(核兵器禁止条約反対・発効阻止の立場)が一層深刻になった。
② 東シナ海・南シナ海での覇権主義的行動も深刻化した。
③ 国際会議の民主的運営をふみにじる横暴なふるまい。
④ 香港やウイグルなどにおける人権問題が深刻化した。
上記①の核を放棄しないという中国の方針は、多少とも核軍縮に関心のある人は以前から中国の本音であると感じていたことである。また②の覇権主義も昔からのことで、日共も干渉を受けたことがあるし、中越戦争でもそれは明らかだった。③は私のような読者にはわからないので省略。④の人権問題は、いまさら香港やウイグルをもちだすまでもなく、毛沢東時代から存在していた。モンゴルもチベットも、自治権と民族語を奪われ、民主と人権を主張する人々は逮捕、拷問、投獄を免れなかった。

遺憾なことに、日共は過去「内政不干渉」という原則を設けて、重大な人権侵害を黙認してきた。たとえばノーベル賞受賞者の劉暁波について機関紙「赤旗」がどのくらい報道したか。こうした態度が日共は中共と同じ人権無視の独裁政党だという見方を広めた。日共は、それがどのくらいマイナスか長いこと自覚できなかった。
だが、このたびの綱領改定では、重大な人権侵害は国内問題にとどまらず、もはや国際問題だとした。今後は香港・ウイグルだけでなく、ダライ・ラマの後継者問題などもふくめて、中共に都合の悪いことも遠慮なく発言することを期待する。
そこで志位氏に聞きたい。中国の覇権主義や人権問題は以前から存在したのに、いまあわただしく中共批判に踏み切ったのはどういうわけか。我慢の限界はどこにあったのか。これを教えてもらいたい。

日共の中央委員会では、「提案報告が述べている中国の変化は、なぜ起こったのか、それはいつごろで、何をきっかけにしたものだったか」という質問があった。志位氏は「難問だが」といいつつ、概略次のように答えている。
① 中国の国際政治に問題が現れてきたのは、2008年から09年ごろ。胡錦涛から習近平に政権が移行する時期(正確には2012年――阿部)で、尖閣諸島に中国公船が入って来たのが2008年、核兵器廃絶を棚上げしたのが2009年である。
② その背景にあるのは、中国のGDPが日本を追い越し、世界第二の経済大国になり、このため対外的には抑制的であるべき中共指導部が傲慢になってしまった。
③ 根本的な問題としては中国革命が武力革命で、しかもソ連式の「一党制」が導入されたたために、自由と民主主義のしかるべき位置付けがなかった。
④ 近代以前の中国王朝は朝貢体制によって周辺諸国を従属関係に置いていた覇権国家だったことだ。

志位氏は、中国に覇権主義が現れたのは、胡錦涛政権の2008、09年ころで、経済発展が国際上の大国主義をもたらしたという。だが中共は近年大国主義になったわけではない。毛沢東はアメリカに追いつくのを目標としたし、改革開放登場後も一貫して「大国崛起(大国復興)」を掲げ、いまや世界に冠たる中華民族国家を目指している。
ところが、志位氏の指摘する同じ時期の2005年から2009年まで、日共は中共と3回友好的な「理論会談」をおこなっている。日共の権威者である不破哲三氏の報告を読むと、中国側をマルクス主義者として好意をもって発言していることがわかる(不破哲三『激動の世界はどこに向かうか――日中理論会談の報告』新日本出版社 2009年)。
この時期、不破氏が中共の覇権主義に気付かないはずはない。なにか別な意図があって対中批判を避けようとしたのではないか。
この点について、11月11日元日共安保外交部長の松竹信幸氏は氏のブログで次のように語っている。
「2003年頃だったと思う。共産党の本部で不破さんが勤務員対象に外交問題で話をする学習会があった。(中略)そこで不破さんが語ったことの一つは、中国が国際政治の中で重みを増しつつある現在の世界の中では、中国と密接な関係にあるということが、信頼をかちとれるのだということだった。その頃、両党の関係は非常に友好的で、不破さんが中国に招かれて高い評価を相手から与えられることがあった」(https://ameblo.jp/matutake-nobuyuki/)。

志位氏は、中国の今日的な覇権主義・人権問題を生んだ経済構造はいったいどのようなものか全く触れていない。史的唯物論では、政治・法制度・道徳・宗教などの上部構造は、究極的には土台たる経済構造によって規定されるとする。いやマルクス主義者でなくても、中国の覇権主義や人権問題はどこから生まれたのか、気になるところである。
不破氏は2009年の「理論会談」で、2008年9月のリーマンショックに際して取った胡錦涛政権の政策を高く評価して、おおむねこんな発言をしている。
「中共は中国経済のマクロ・コントロールの拠点を、その手に握っている。つまり計画経済の陣立て(ママ)を持ち、十分な財政的・経済的裏付けを持っている。今回の世界経済危機への対応でも非常に大きな力になっている。2008年10月、G20の会議でも大きな対応策を発表できた。4兆元という規模(の財政投資)、的確に柱を立てた内容の点でも世界にうれしい衝撃を与えた。今後ともそれを握って放さず、機敏に対応してほしい」
この問わず語りには、あきらかに中国が国家独占資本主義である現実が反映されている。近年の覇権主義・人権問題は政権の性格にもよるが、その土台がここにある。

志位氏の報告には、「マルクス、エンゲルスは、資本主義をのりこえる社会主義革命を展望したときに、……イギリスでの革命が決定的な意義を持つことを繰り返し強調しました。……21世紀の世界における社会主義的変革の展望も、マルクス、エンゲルスが描いた世界史の発展の法則的展望の中に見出すことが重要であります」というくだりがある。
氏は、途上国の革命や既存の社会主義国の発展ではなく、マルクスの主張どおり発達した資本主義国の社会変革が社会主義への大道だというのである。これは限りなく誤解に近い議論である。私の記憶では、マルクスは先進国革命に固執していたわけではない。晩年は、遅れたロシア農村の「ミール共同体」を軸に、ロシアに革命を起こす可能性を考えていた。これは、19世紀ロシアのナロードニキ、ウェラ・ザスリーチの質問に対する返信でわかる(マルクス『ウェラ・ザスリーチへの手紙』)。

それにしても、私は中国は社会主義でもないし、それをめざす国でもないという判断を支持する。日共はようやく日本社会の一般常識のレベルに到達したのである。いわばトラックを2,3周遅れで先頭走者に並んだ、あまり強くない長距離ランナーである。それでも、常識に達したのはよいことである。
綱領の部分的改定の本当の意図は、対中国認識の間違いを(自己批判なしに)是正して、国民の支持を増やし、党勢の衰退をとどめようとするところにある。中国の大国主義への変化は口実にすぎない。
だが綱領改定を必要とする根底には、社会主義・共産主義を展望した党是や党名、組織原則に対する根本的見直しを迫る日本社会の現実がある。従来の路線と行動から脱皮すべき時期はとうに来ているのである。それなしに日共が議会で多数を占めることは絶対にない。