2017.03.31 中国共産党第19回全国代表大会はどんなものになるだろうか
   ――八ヶ岳山麓から(216)――
       
阿部治平 (もと高校教師)

中国では毎年開かれる全国人民代表大会(全人代)が終わった。秋には中国共産党第19回全国大会が開かれ、最高幹部が大幅に改選される。全人代での報告と討論をみて、党大会はどのようなものになるか考えたい。

権力の集中について
19党大会の最重要事は党規約が改定され、主席制が復活して習近平がその座にすわれるかどうかである。
毛沢東の専制政治がいくたびもの悲劇を生んだ反省として、82年12回党大会では党主席制を廃止し最高指導部を政治局常務委員会とした。総書記はその議長であり、重要な権限は各常務委員が分担し、政策は多数決によってきた。
現在常務委員は7人。68歳引退の慣習があるから19回党大会で残るのは、習近平と李克強だけである。
習氏は総書記就任以来、反腐敗闘争の名のもと反対派閥を追い落とし、李総理をはじめ他の常務委員の権限を削って権力を自分に集中してきた。自身を別格の「核心」と位置付けさせ、メディアに忠誠を求め、言論の圧殺を続けている。
さきの全人代では発言者のほとんどは習氏を礼賛したが、習氏のねらいが容易に党長老らの同意をえられるかは疑問である。いずれ長老と最高幹部があつまる夏の北戴河会議で方向が決まる。決まらなかったら、習氏は対抗派閥に勝てなかったことを意味する。
党主席制が成立すると、習氏も毛主席のように生涯その座に居座ることが可能である。そうなると21世紀における皇帝支配の復活である。

経済圏の形成について
全人代では、李克強総理は今年のGDP成長目標を6.5%前後とし、前年より低い数値を報告した。そもそも中国のGDP数値はあまりあてにならない。かつて李氏が言ったように「鉄道貨物輸送量・銀行融資額・電力消費量」でやるべきだ。
これについて、環球時報は3月6日付社説で、構造調整が行われているとき、この成長率を維持できるのは貴重だと自賛した。だが、問題は中国経済のソフトランディングができるか、いつ下げ止まるかである。昨年財務相を退職した楼継偉は率直に「中国は五分五分の割合で『中所得のわな』に陥る」といったが、不景気が深刻化したら若者の失業が増加し、社会不安はたかまる。
一方、TPPが崩壊したことと、その後のASEAN諸国の動向からすれば、安倍政権の対中包囲網構想は完全に破綻したといえる。次に来るものはアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の建設と、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉である。習氏はさきのダボス会議で保護主義を批判し、グローバリズムによって中国も他国も利益を得ることができると自信を示した。
中国経済研究者の関志雄氏は「今後、アジアにおける地域統合は、中国が主導するRCEPを中心に進められる可能性が高い」として、こういう。
「中国は、地域統合にとどまらず、新設されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)とBRICS5ヵ国が運営する新開発銀行(NDB)に加え、IMFや世界銀行といった既存の国際機関においても、出資比率の引き上げなどを通じて、存在感を増していくだろう(http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/index.html)」
その通りであろう。中国経済が大きく失速しない限り、TPPのあとに来るものは人民元主導のアジア経済圏である。19回党大会はこれを誇示するだろう。

また頭越し外交か
習氏は3月19日、ティラーソン米国務長官と会談した。中国側の発表では、習氏は「中米両国の共通の利益は意見の相違よりはるかに大きい。協力こそが両国の唯一の正しい選択だ」と強調し、ティラーソン氏もこれに応じて「(習氏の言の)衝突せず、対抗せず、相互に尊重し、協力してウィンウィンを達成する」をくりかえし、「トランプ大統領は習主席との意思疎通に非常に大きな価値を置いている」と述べ、早期の首脳会談開催を重視する姿勢を示した。
トランプ氏は大統領就任にあたって中国にまず一撃を加えたが、それを事実上撤回したのである。
こうした動きの先に、アメリカの「頭越し外交」が透けて見える。1971年8月、ニクソン米大統領は突然中国訪問を発表した。自民党佐藤政権にとっては寝耳に水で、それまでの中国敵視政策を急転換しなければならなくなった。
秋の19回党大会までには、米中外交戦の中味がかなり明らかになるだろうが、日本政府がアメリカの対中強硬策だけを頼りにするなら、とんだ煮え湯を飲ませられるだろう。
どんなにつきあいにくい隣人でも、その気になれば共存共栄の道はあるものだが、残念なことに日本を支配する政財界と官僚群には、自主外交を展開するだけの度胸がない。この5月自衛艦「いずも」を南シナ海に派遣するなどは、現実離れした判断になるにちがいない。

思想弾圧と腐敗取締について
全人代では、最高人民検察院の曹検察長は、まず民主活動家や弁護士を国家政権転覆罪で摘発した事案を報告し、汚職の取締を後回しにした。名指しされたのは活動家の胡石根氏や人権派弁護士の周世鋒氏らである。
党中央紀律検査委員会はすでに改革派の学者が多い北京大の調査に入った。関係者は「主眼は腐敗問題ではなく、講義や研究内容が党中央の要求に合致しているかどうかだ」と明かしたという。曹検察長は今後も「敵対勢力による転覆、破壊活動を厳しく処罰する」と強調した。19回党大会以後も苛烈な思想弾圧がつづくだろう。
検察長報告では、2016年に汚職事件で捕まった公務員は対前年比12.1%減の4万7650人だった。閣僚級以上の高官は21人で前年の半分である。だが以前本欄に書いたとおり、政治局常務委員が大量に交替する19回党大会までには、大物摘発の可能性が残っている。
反腐敗闘争は今後も強調されるだろう。だが根本的改革は不可能だ。なぜなら官とは党であり、官僚から腐敗の根源である特権を奪うことは党の力量を削ぐことになるからだ。

老百姓の生活について
中国へ行くたびに感じるのは、リーマンショック後の内需拡大政策以来、高速鉄道、舗装道路、地下鉄網の拡大、自動車の普及がいちじるしいことだ。都市住宅は極端に高価だが、消費生活のヨーロッパ化が急速にすすんでいる。全人代では貧困層救済に成功したと報告している。
だが貧困だけが問題ではない。一歩村に入れば、両親の出稼ぎと子供のしつけ、小学校の統廃合、農地問題、医療、水と土壌汚染など課題が山積している。
情報統制と監視は今後確実に厳しくなる。いまでも、GOOGLE系のインターネットにはアクセスできないし、メールやWeChat(無料のメッセージと通話のアプリ=「微信」)なども監視されている。携帯電話の購入や旅館ホテルの利用はもちろん、高速鉄道乗車の際も実名登録をしなければならない。
公務員の採用は「官二代(親のコネ)」が目立つ。やがて「官三代」も出るだろう。無権の民(老百姓)の子供は「根本無門(手も足も出ない)」状態だ。そして19回党大会は、民生の向上と機会の平等をうたうかもしれないが、どのくらい本気かはわからない。

裏返しの現状批判
日本ではともかく、欧米には中国経済の市場化の未完成を理由に「中国は統制経済であって市場経済に非ず」という議論がある。中国当局はこれにネット上で反論している。その「反論」に対する「誰か」の書込みをここに紹介して拙論を終る。

「西側敵対勢力は、中国が市場経済であることを認めないという。なんたる無知!我々のところでは、官界はすでに市場化し、官職の売買はもとより、解放軍将軍の地位だって買える。おまえらにはここまでやれるか!
教育、医療、裁判、工事の入札、出生・結婚・離婚の証明書、卒業証書、修士・博士の学位、勤続年数・年齢・各種職掌、さらには「地溝油」だって、サッカリンだって、「蘇丹紅」だって、「国際友人」だって、「紅十字会」だって、みんな買えるんだ。
それにネット上の世論だって「5毛ずつ」買って来たものなんだ(注)。
……こんなに立派に市場化しているじゃないか。これでもおまえらは我々が市場経済じゃないというのか!バカめ!」

注)「地溝油」とは食品工場の廃油をすくってもう一度あげものなどに使う油。「蘇丹紅」とは発癌性染色剤。鶏卵に用いられて問題になった。「国際友人」とは、この場合は北京オリンピック招致時のIOC会長サマランチを指す。
「紅十字会」は赤十字社、スキャンダルが多い。「5毛ずつ」とは、ネット上で反体制的書き込みを消し中共支持の書き込みをする仕事が1件5毛(0.8円)だから。「5毛党」という。

2017.03.30 入植地拡大を支援する日・イ投資協定―
研究者、ジャーナリスト、NGO関係者らが国会承認に反対

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)


 日本政府とイスラエル政府は2月1日、「日本・イスラエル投資協定」に調印、安倍政権は今国会での承認・発効をしようとしている。それに対し、中東にかかわる研究者、ジャーナリスト、NGO関係者たちが強く反対し、衆参両院議長に問題点を指摘し、承認を議決しないよう求めた署名簿を来週中にも提出する。関係者に限らず、多くの人が署名に加わるよう、中東研究者の役重善洋さんらが、呼びかけている。
  
署名の送り先は:ysige1971@gmail.com
名前、よみがな、肩書(任意)、ご意見(任意)を添えて

 この協定は、昨年12月、国連安全保障理事会が、イスラエルによるパレスチナ占領地での入植地建設を国際法違反とし、入植活動の即時・完全中止を明確に求めた決議に反している。この決議には、日本も賛成し、アメリカも拒否権行使をしなかった。
 この投資協定は、イスラエル国と占領地の区別を全くしていない。占領地への日本からの投資、占領地で生産した農業、工業製品を日本が輸入することが、事実上、自由に拡大できる。すでに、果物などイスラエル産品が日本市場にまで出回っているが、占領下エルサレムやヨルダン川西岸地区での産品が含まれているらしい。その実態が、新協定によって改めて黙認され、拡大する可能性がある。
 一方EUは2013年、イスラエル入植地にかかわる機関、事業に対する助成等の利益供与を禁じたガイドライン、2015年にはイスラエル入植地産品の原産地表示を「イスラエル国」としてはならないと禁じたガイドラインを公表している。

2017.03.24  米予算案概要発表で、トランプの支持率さらに低下
          ―支持37%、不支持58%は最悪記録―

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 国際的に最も信頼されているギャラップの世論調査(3月18日)によると、トランプ米大統領が16日に初の予算案概要を発表後、就任以来、下落傾向だったトランプ政権の支持率は、さらに大きく下落、支持37%、不支持は58%になった。就任後2か月の大統領としては、おそらく史上最低の支持率だ。
米予算案概要発表で、トランプの支持率さらに低下

        上昇している線が不支持率         下降している線が支持率

 この予算案概要を、トランプ政権は「米国第一予算」と呼び、各省予算は対前年度比で国防総省10.0%増、国土安全保障省6.8%増、退役軍人省5.9%増。その一方で、貧困対策、環境保護、対外援助などを大幅カットし、環境保護局31.4%減、国務省など28.7%減、労働省20.7%減、保健福祉省16.2%減、エネルギー省5.6%減、航空宇宙局(NASA)0.8%減とする方針だ。
 米国の進歩的なニュース通信社Common Dreamsは3月20日、次のように伝えているー
ドナルド・トランプ、アメリカは本当にあなたが好きでないことを、世論調査が示しています(Poll Shows America Really Does Not Like You, Donald Trump )

米予算案概要発表で、トランプの支持率さらに低下

 ニカ ナイト記者
 “残酷”予算の発表後、トランプ・ケア、根拠のない盗聴疑惑などで低下した大統領の支持率は、かってない低率へと落下した。ギャラップが発表した最新のトランプ大統領支持率は、大統領にとって、さらによくない数字だった。
回答者の37%しか就任以来の大統領の行動を承認しなかった。58%が不承認だった。先月の世論調査では支持率42%で、その時点でも記録的な低支持率だったが、今回はさらに低下した。(注:トランプ・ケアとは、オバマ前政権が実施した社会保障制度の加入者の保証が、トランプ政権下に失われる恐れがあること)
 急激なトランプ支持率の低下は、多くの分野でトランプへ非難が浴びせられている中で、明らかになった。トランプに投票した有権者を含め、多くの国民は、貧しい人々への食事や乗り物代補助など公共サービスの大幅カットの一方で、軍事予算を6百億ドルも増額する“道徳的に低劣な”予算案に、落胆し、反対している。ホワイトハウスには、オバマケアの変更案に対する各方面からの非難が集中している。
 また、イスラム教徒の入国禁止を目的とした、大統領の2回目の試みは、一カ所ではなく2カ所の裁判所で敗北している。さらにトランプは、オバマ前大統領が彼の電話を盗聴したと非難しながら、その証拠を全く示すことができないでいる。
(後略)


2017.03.18  朴槿恵大統領罷免!
     韓国通信NO519

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)


3月10日、大統領が正式に罷免された。国政の「私物化」が次々に明るみに出て政権の座から引きずり下ろされた。「政変」というより「革命」という名がふさわしい。現職の大統領でも憲法に違反したら「罷免」という韓国人の選択に全世界が驚愕した。
昨年10月以降、20回に及んだ「ローソクデモ」にはソウルを始め、全国「坊坊曲曲(パンバンゴクコク)」(津々浦々)で「男女(ナムニョ)老少(ノーソ)」(老若男女)たち1600万人が参加したといわれる。想像を絶する参加者数、止むことのない非暴力に徹した蜂起は大統領を頂点とする政財界を震撼させた。市民たちは自分たちが「国の主人公」だと確信した。
大統領側の巻き返しにもかかわらず、市民たちは最後まで運動の手を緩めなかった。8人の裁判官のうち3人が反対すれば現職復帰という甘い期待があったようだが、見果てぬ夢に終わった。大統領は謝罪の一言も無く大統領府を後にした。側近をとおして「不服従」の意思が伝えられ、最後まで憲法を認めない朴槿恵に国民は呆れた。

<朝日新聞を読む>
翌日の朝日新聞朝刊は1面、3面、11面。15面を使って大統領罷免を詳しく伝えた。経緯、慰安婦合意への懸念、日米韓の安保協力への不安、次期大統領候補の紹介、韓国社会に生じた深い亀裂、低迷する韓国経済、日韓関係を見つめなおす提言、さらに「考/論」では柳興洙前駐日韓国大使の「日韓関係混乱を懸念」、小針進・静岡県立大教授の「左派系新大統領に高い対処能力を求めたい」というコメントが続いた。
「オピニオン耕論」では紙面の大半を使って、「罷免の底流」というテーマで、慶応大名誉教授小此木政夫氏、劇作家の平田オリザ氏に語らせた。小此木氏は韓国社会の分断を憂え、克服の道は厳しいと断じ、平田氏は文化交流の展望を語った。
これだけ紙面を費やしながら、韓国社会を揺るがした出来事について掘り下げた独自記事が無いことに違和感があった。多数の市民たちが一体何を求めデモに参加したのか。韓国だけの特殊な出来事だったのか。「混乱」「亀裂」「不安」という借り物の言葉からは、冷静に今回の事件を分析・評価する姿勢は見えなかった。専門家の意見でお茶を濁しただけ。韓国民衆の怒りは何だったのか。そこから日本は「学ぶこと」はないのか。韓国市民に対するリスペクト、謙虚さが少しも感じられなかった。
私が読んだのは「朝日」だけである。他の新聞で素晴らしい記事を読まれた方は紹介して欲しい。

<噴出したマグマとそれがめざしたもの>
判決直前に大統領は報道機関の「ねつ造」を主張した。トランプ大統領も「ウソだ! デッチあげだ!」と報道機関を叩いている。安倍首相の報道に対する干渉は人後に落ちない。批判を認めない特異な価値観を彼らは共有しているようだ。ちなみに最新の報道の自由度ランキングは韓国70位、日本72位、アメリカ41位である。
今回の事態には日本人が読み解くべき「不都合な真実」が多くある。韓国を「特殊」のなかに封じ込め、日本とは無縁な出来事と見なし、都合の悪い問題だけを取り上げようとする姿勢だ。大新聞も避ける不都合な真実について考えた。以下は、始まったばかりの韓国の「市民革命」への私なりの期待である。ローソクデモの主張から垣間見えた韓国社会は、人によっては「危険」。考え方によっては、私たち日本人にとって魅力と期待にあふれたものだ。

<韓国が目指す新しい「国づくり」>
◆まず、次期政権は韓国社会最大の懸案である所得格差、貧困問題の解消を真っ先に取り上げるはずだ。金持ち優遇税制の廃止、大企業への増税によって所得再配分をめざす。非正規雇用労働者の正規雇用化も国をあげて取り組むはずだ。どうする日本!
◆セウォル号事件は現在でも韓国民の一大関心事である。人の命が粗末に扱われてきた象徴的な事件と考えられているからだ。真相究明と責任者の厳正な処罰を求められる。わが国の福島原発事故と好一対である。
◆米韓FTA協定によって農業の将来に絶望した農民たちの不満は大きい。FTA協定の見直し、または廃止。日本はトランプ政権との個別交渉によってすべて投げ出そうとしている。
◆言論の自由の回復。北朝鮮の「脅威」を理由に言論・報道が制限されてきた。特に朴槿恵が大統領就任後に強行した統合進歩党の解散、「スパイ防止法」の成立によって市民的自由、政治活動の自由が制限された。野党の反対を押し切って成立した「スパイ防止法」は廃止されるに違いない。「共謀罪」を狙う安倍内閣との類似性を指摘しておきたい。
◆財閥企業と政府の癒着問題が大きな問題として浮上した。サムスングループのトップが逮捕された。今後は経済の民主化が進むはずだ。わが国でも大企業と政府の癒着があらためて問われそうだ。企業の政治献金は明らかな「賄賂」だ。銀行と政府の癒着。何故東京電力を潰さないのか。
◆大統領(政府)は憲法を無視してはいけない。国政を私物化してはいけない。当然のことだ。普遍的な民主主義のルールを冒したために大統領は退陣に追い込まれた。集団的自衛権容認は明らかな憲法違反だ。安保法制(戦争法)を成立させた安倍内閣は韓国なら完全に「アウト」、日本なら「セーフ」。森友学園の国有地払い下げ問題も韓国なら「アウト」。韓国の「風」が日本に伝わるのを恐れている人たちが日本には大勢いる。
◆慰安婦問題の政府間合意は白紙の可能性。日本政府が朴槿恵退陣によって怖れていたのがこの問題だ。当事者抜きの「合意」だったうえに、安倍首相発言「謝罪する気持ちは毛頭ない」発言は日本側が合意をぶち壊したと考えられる。「少女像」の撤去を迫るのはやめたほうがいい。安倍政権となれ合うのが「親日」ではない。これから真摯な交渉を新政権と行う必要がある。新政権を「反日」と警戒しているのは安倍政権だ。
◆米軍THAAD配置も白紙化の可能性。朝日新聞の記事でもTHAAD配置の白紙化で日米韓の安保体制の足並みが乱れると懸念した。韓国全土が臨戦態勢という状況に韓国人はウンザリしている。日本人としても北朝鮮・中国との緊張緩和を目指す新政権に期待したい。
◆韓国は脱原発を目指す。福島原発事故を目の当たりにして、反原発・反核の主張はローソクデモの中心的テーマになっていた。環境問題の取り組みも一層すすむ筈だ。台湾に続いて韓国も脱原発は必至だ。わが国は世界の常識にいつまでも逆らい続けるのか。

<どうする日本>
「混乱」「亀裂」「不安」という評価からは何も見えてこない。1600万人が参加した大衆運動を評価するのは容易ではない。前代未聞のエネルギーの爆発は巨大過ぎて私たちの理解を超えている。今後の予測は難かしいが、私たち日本人は今回の「「市民・民衆革命」から謙虚に学ぶ必要がある。今後の韓国の変化に注視していきたい。

『2・19総がかり行動 -格差・貧困にノー!!みんなが尊重される社会を!-』
韓国人の目に「大集会」がどう映ったか。「静でおとなしい」を連発、退屈そうにしていた。銀座までのデモに参加。4千人あまりのデモだったが、東京電力本社前を黙って通りすぎるデモ行進に私もショックだった。「年寄りの参加者が多いのは素晴らしいことだ」と励まされた。日本から老人を抜かしたら何もなくなりそうな現実を強く感じた。これから韓国の若者たちのエネルギーが日本に伝わるのを期待したい。

2017.03.17  反イスラム極右政党予想外に低調―オランダ総選挙
    米国では6イスラム国民の入国拒否大統領令にまたNo!

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)


 オランダの総選挙では、反イスラム、反移民、EU脱退を主張した極右の自由党が、第1党に躍進かとの予想もあったが、議席増がすくなく終わった。同党のウィルダース党首は事実上の敗北宣言をした。自由党の過激な主張に多くの人々が危機感を持って、投票所に行った結果だった。
 一方米国ではトランプ政権が性懲りもなく、前回は裁判所の決定であきらめた、7つのイスラム国の国民の入国を拒否する大統領令から、イラクを除外した6か国の国民の入国拒否の大統領令を発令した。しかし、今度はハワイの裁判所が実施を全国で差し止める決定をくだした。大統領令が発効する直前の16日夜だった。
 どちらの出来事も、人種と宗教の差別を禁じ、移民を受け入れ共存してきた国民多数の意思の表れだった。トランプやウィルダースが展開したイスラム・テロの脅威、反イスラム、反移民のキャンペーンは、限られた国民の支持しか得られなかった。まして米国では、憲法に忠実な裁判官を屈服させることはできなかった。

 中東で生まれ成長したイスラム国(IS)はじめ偏狭なイスラム聖戦主義過激派や、それにつながる国内イスラム過激派の大規模テロを経験した欧米の人々の中には、イスラム教とイスラム教徒に対する警戒心あるいは嫌悪感を抱く人が少なくないかもしれない。
 しかし、ISのように、偏狭なイスラム思想、イスラム法の解釈を信じ、残虐な暴力によりそれを強制し、他者を排除する自称聖戦(ジハード)主義者は、世界人口の4分の1を占めるムスリム(イスラム教徒)のごくごく一部なのだ。ほとんどのイスラム教徒は、過激な聖戦主義者を嫌い、その暴力的行動・テロを恐れ、他宗教との共存を妨げる、イスラム社会の敵だと思っている。これは、中東で計7年間生活した私の実体験の結論でもある。
 ここで私は、著名なパキスタンのジャーナリスト、アハメド・ラシッドの著書「Jihad(聖戦)」(邦訳「聖戦」講談社2002年)から、偏狭な聖戦(ジハード)派を厳しく批判するイスラム教徒のジャーナリストの思想と戦いを紹介したい。出版年は、9.11米同時多発テロ事件の前年。ラシッドは現在、パキスタンのイスラム過激派から死刑宣告の脅しを受けながら、ラホールの自宅を本拠地にして、国内紙と英BBC、フィナンシャル・タイムズ、ニューヨーク・ブックレビューの常時寄稿者として活躍している。邦訳(いずれも講談社刊)には他に、「よみがえるシルクロード国家(1996)」「タリバン(2000年)」がある。
 「預言者ムハンマドが説明したように、大ジハード(聖戦)は第一に自ら内部での探求なのだ。それにはムスリム一人一人がよりよい人間になるための努力、彼あるいは彼女をよりよくするための闘いが含まれる。こうしてジハードの参加者は、彼あるいは彼女のコミュニテイに貢献する。さらにジハードは、ムスリム一人一人の神に対する服従、地上での命令を実行する意思をしめすものだ。バーバラ・メトカーフは「ジハードは自らの道徳的尊厳とイスラムへのかかわりの内部闘争であり、政治的行動である」と述べている。
 イスラムが、ムスリムか非ムスリムかを問わず、不正義な支配者に対する反乱を認めていることもまた事実で、ジハードは人々を政治的、社会的闘争に動員する手段にもなりうる。
 ムスリムは、預言者ムハンマドの人生を、大小のジハードを例示したものとして敬っている。預言者は彼の周辺のひとびとに行動の規範となり、神への完全なかかわりをしめすために、一生、彼自身のために闘い続けた。
 預言者は彼が住んでいた腐敗したアラブ社会と闘い、その改革のために、あらゆる手段―それだけではないが、過激な手段を含めーを使った。」
 「しかし、民族、宗派、信仰を理由に、罪のない非ムスリムの男女そして子供を、また、ムスリム同胞を殺すことを、いかなるムスリムの書物も伝統もみとめてはいない。
 罪のない人々の殺害を正当化することは、ジハードの堕落であり、今日の最も極端なイスラム運動である新原理主義過激派を特徴づけるものである。かれら、新ジハード・グループは、腐敗した社会を正しい社会に変革することに関心をもたない。そのために仕事を作り出すことや、教育、支持者たちの社会的向上、また、多くのイスラム諸国に住むさまざまな民族グループ間の調和にも、関心を払わない」(Jihad「聖戦」18-19ページ)

2017.03.06  ふたつの3.1
          韓国通信NO.518

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

毎年3月1日になると思いだす ふたつの3.1。

<1954.3.1>
ひとつは「ビキニデー」。64年前、ビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験によって第五福竜丸が「雪のように降る」死の灰を浴びた。大人たちは大騒ぎした。連日、新聞で報じられ、小学生だった私にもバリカンで頭を坊主刈りにされる船員たちの姿、大量に廃棄されたマグロの写真、亡くなった久保山愛吉さんの記憶が鮮明だ。この事件がきっかけとなり、わが国に原水爆禁止が世論として定着した。
それと同じ時期、「核の平和利用」がアメリカによって主張され、それを受け入れた自民党政府が積極的に原発を推進、核開発の道へ進んだ。「禁止」と「推進」が同時に進むことに矛盾を感じる人は多くはなかった。安全で未来を開くはずの原発が事故を起こしてから6年目。「3.1ビキニデー」は原発にしがみつく日本を原点から考える日でもある。

3.1と云えば「ビキニデー」を思い浮かべるなか、作家小田実は加害の記憶として1919年3月1日の朝鮮独立運動3.1運動を忘れるなと主張した。今日、ビキニデーも独立運動も「忘れました」では小田さんは何と思うだろうか。
最近のこじれにこじれた日韓関係、日朝関係を考えるうえで、私たち日本人が3.1独立運動を知る大切さは以前にくらべ増している。小田実さんは3.1独立運動を持ち出して、日本人の朝鮮半島との向き合い方を喚起した。
日本がアメリカと戦争をしたことを知らない若者が多いことに唖然。あらためて教科書風に3.1独立運動をスケッチした。1910年の日韓併合は日清戦争、日露戦争によって韓国の保護国化を進めてきた「しめくくり」だった。そこに至るまで、朝鮮民衆の反発は強く、東学農民戦争、義兵闘争が闘われ、1909年には安重根による伊藤博文の暗殺事件も起きた。

<1919.3.1>
日本の「武断統治」による露骨な土地の収奪と「皇民化」に対する韓国国民の不満が爆発した。3月1日にソウルの「パゴダ公園」で「独立宣言」が発表されると燎原の火のように独立運動は全国に広がった。1500回近いデモには参加者約200万人、8千人に近い死者とそれに倍する負傷者、検挙者は4万7千人にのぼったと云われる。夥しい弾圧と殺戮に対する抵抗は数カ月間続き、弾圧された後も独立運動は日本の敗戦まで続いた。朝鮮総督府は警察・憲兵を出動して弾圧した。
「侵略はウソ」「朝鮮のために併合した」などとうそぶく「晋ちゃん」たちの手にかかっては厳粛な3.1独立運動の事実さえも否定されかねない。幼稚園児に嫌韓・嫌中を叫ばせる時代に私たちは歴史をしっかり学ぶ必要がある。隣国との諸懸案を解くカギは過去の歴史の中に埋もれていると云っても過言ではない。2017年3月1日。韓国では新しい国づくり、国民のための政治を目指す大衆行動が全国で繰り広げられた。
2017.03.01  2024年五輪開催都市立候補を取り下げたハンガリー

盛田常夫 (在ブダペスト、経済学者)

 ハンガリー政府、ブダペスト市、ハンガリー・オリンピック委員会は2月23日、2024年五輪開催立候補を取り下げる決定を行った。表向きは、「ブダペスト五輪開催の是非をめぐる国民投票実施に必要な署名数が集まったため、国民の一致した意思を示すことができなくなり、開催権を得ることが難しくなった」という理由である。国民投票なしで、事実上、政府が決断した背景には、現政権の政治的基盤を崩したくないという政治的な読みがある。ラーザール首相府長官は、「左翼が五輪を政争の道具に利用し、それがブダペスト・オリンピック開催を妨げた」と解説した。しかし、投票も行わずに早々と取下げを決めた背景には、現政権の存続を危うくするような政治的な動きに、早めに手を打ちたいという政権政党の政治的判断がある。

ハンガリーの政治状況
 日本と同様に、ハンガリーの現政権は三分の二の議席に迫る絶対過半数を有する長期安定政権である。民族主義的政策とオルバン首相の独裁的な指導力で、EU内でも異質な存在になっている。このような政権が誕生した背景には、体制転換後も強い政治勢力を維持してきた社会党(社会主義労働者党=旧共産党を受け継ぐ)の長年にわたる腐敗がある。相次ぐ公金横領報道に、社会党支持者が愛想を尽かし、最高時には200万人を超えた支持者がその3割程度の支持者数にまで落ち込み、その反動で強い民族的主張を掲げるオルバン首相率いるFIDESZが絶対多数を得る一強多弱状態が生まれたからである。
 弱小化した社会党の勢力はさらに分裂し、現政権は「国内に敵なし」である。現政権は有権者(絶対数)の35%を抑えているから、多弱の野党はどう足掻いても相手にならない。すべての野党が統一候補を出せない限り、政権交代など夢の夢である。その意味で、日本と似通っている。
 
五輪開催の是非を問う国民投票署名運動
 現政権政党のFIDESZは、もともと「若い民主主義者の連合」という学生運動から生まれた政党である。しかし、この政党の指導者も年々齢を重ね、50の峠を超えるようになった。2期続く長期政権では、例に漏れず、政府の公金やEU補助金で私財を増やす政治家が、次から次へとメディアの話題となっている。右も左も、政権を執れば政治家は蓄財に励む。右と言おうが左と言おうが、権力は腐敗する。
 そこに、昨秋から、Momentum Mozgalom(Momentum Activity)と称する若者集団が五輪開催の是非をめぐる国民投票要求の署名活動を開始した。必ずしも反五輪反政府というわけではない若者集団の活動に、かつてFIDESZ政権に協力した知識人たちの何人かが賛意を表明するようになり、国民投票を要求できる署名数が集まってしまった。少数野党も署名集めに協力したが、ほとんどの署名はMomentumの活動家が集めた。 
 当初、政権側はこの署名運動を冷ややかに扱い、この運動の活動家や署名した人々を、「売国者」、「裏切り者」とすら罵倒する始末だった。こういう状況を見かねた政権に近い著名な学者や知識人の何人かが、積極的に署名活動を助けた。政権政党の姿勢を質すという意味もあった。
 短期間に27万人近い署名が集まり、これで政権政党側が慌てた。反体制の学生活動家として政治の世界に入ったオルバン首相は、若者の動きに非常に敏感だ。この署名運動が政治的な運動に転化するのを恐れたのである。

世論の風向きの変化
 今夏開催の水泳世界選手権の主会場として新しい競泳会場(Duna Arena)が建設されたが、当初の予算をはるかに上回る巨額の投資となった。他方で、ブダペスト市は地下鉄3号線の改修工事費が捻出できず、四苦八苦している。この問題で、ブダペスト市と政府はしっくり行っていない。サッカー好きのオルバン首相が新しいサッカー場の建設を次から次への進めることにも、多くの国民が疑念をもっている。もっと、「別の目的に予算を使ってもらいたい」、と。
 国会もブダペスト市議会もほとんど満場一致で決めた五輪招致だが、最新の世論調査(政府系調査機関、2月上旬)では国民の65%が五輪開催を望んでおらず、質問を受けた76%は五輪予算を別の目的に使うべきだという意見に賛意を表明している。明らかに、世論の風向きが変わった。ハンガリーはオリンピックの歴史に大きな足跡を残しているスポーツ大国だが、国威発揚のために公金を無駄遣いできるほど、経済的な余裕があるわけではない。だから、オリンピックにお金をかける意味を見いだせないと考える国民が多数いることに驚きはない。

政府の姿勢
 現政府は難民問題で、自らが主導して国民投票を実施したが、他方で国民からの国民投票要求には耳を傾けない。日曜日の営業禁止令の撤回を求める国民投票要求が、実施要件を満たす勢いになると、オルバン首相はすぐに法令を改めて、日曜日の営業容認に転換した。学生がインターネット税反対のデモを組織すると、すぐにこれを撤回した。
 今回も、分が悪いとみるやいなや、オリンピック開催の是非を問う議論を回避して撤回を決めた。もっとも、秋に国際オリンピック委員会の招致決定会議が開かれることを考えれば、国民投票実施は遅きに失するが。
いずれにしても、現政権は何ごとにも、反対派との対話を避けて、分が悪いテーマではすぐに譲歩し、反対派を勢いづかせるような政治問題にならないように、政治情勢をコントロールしようとしている。今回の取下げでも、「左翼が五輪立候補を妨害した」と、キャンペーンを張っている。

ハンガリーの政治に変化が起こるか
 オルバン首相率いる政権政党FIDESZによる長期政権の支持基盤は堅いが、若者たちのMomentum Mozgalomの活動が、一強多弱の停滞する政治状況を打破する力になるかどうか。ほとんどの国民は既存の野党に期待していないから、ハンガリーの政治に新鮮な風を送り込む若者たちへの期待が膨らむことは十分に考えられる。オルバン首相が警戒するのもこの風の変化だ。
 何時の時代も、若い人々の勢いのある力がなければ、社会は動かない。来年に総選挙を控えるハンガリーに、再び、政治に波乱を起こす力が動き出すかどうか。興味深い。

2017.02.23  ある越境逮捕事件をめぐって
   ――八ヶ岳山麓から(212)――

阿部治平(もと高校教師)


旧暦大晦日、1月27日の深夜、私服の中国公安(警察)と国家安全部(諜報機関)の数十名が香港の高級ホテル四季酒店に押し入り、滞在中の「明天系」持株会社CEOの蕭建華を拘束し、複数のガードマンとともに中国へ連れ去った。蕭はカナダ国籍を持ち香港永住権もあったが、そんなことはおかまいなし。蕭は連行されるとき抵抗しなかったという(各紙2017・01・31)。
中国情報治安当局が越境して香港住民を逮捕したのは、昨年の銅鑼湾書店事件以来2度目である。香港の「一国二制度」は名ばかりになろうとしているが、香港人は今回の強制連行事件に抗議していない。それは蕭が中国・香港の政財界で暗躍する人物として知られていて、出版言論の自由とか人権などには関係がないと見たからであろう。

蕭建華は1971年生れの45歳。400億元(6600億円相当)の資産を持ち、香港・中国の金融界では「なぞの大鰐」「株式市場の梟雄」といわれ、「明天系」と呼ばれる一連の投資・金融企業の統括者である。
北京大学法律系卒。1989年の学生市民の民主化運動当時は、官製の学生会議長だった。彼ははじめ学生代表として大学当局と対峙したが、のちに解放軍の北京進攻直前には大学当局とともに学生運動を抑え込もうとしたという。
これを評価されたためか、90年の卒業とともに北京大学党委員会学生工作部主任(学生課長)となり、93年大学当局の援助を得てコンピューター販売を始め、その後投資会社「北大明天資源科技有限公司」を設立してビジネス界に入った。これがのちの「明天系」と呼ばれる企業集団の始まりで、わずか数年後には上場企業9つを擁するまでになった。

蕭建華が若くして金融界の大物になれたのは、すぐれた商才があったというよりは、政官界有力者、さらにその家族と特別な関係を結んだからである。彼がとくに近しかったのは、中共政治局常務委員だった曽慶紅の息子曾偉である。曾偉は中国香港の金融界では黒幕として知られた人物である。その父曽慶紅は元国家主席江沢民ひきいる上海閥の大番頭である。上海閥だけを蕭の人脈と見ることはできないが、彼が曽慶紅らと密接な関係にあることは間違いない。
中国の金融ブローカーは一般に社会の表に出ることは少なく、こっそり政官界高官と結び、権力の庇護をうけながら、「銭袋」として株式市場の操作や企業買収、マネーロンダリングなどの裏の仕事をする。たとえば失脚した鉄道部部長劉志軍には石炭商丁書苗が、重慶の支配者薄熙来には大連実徳理事長徐明が、江沢民に近く中国の石油業界を牛耳った周永康には四川商人呉兵が、胡錦濤の懐刀令計画には北大方正集団の李友がついていたように。

「明天系」集団が世間に知られるようになったのは、2006年の「魯能買収事件」からである。大型国有企業「魯能集団」は山東省の資産規模738億元(約1兆2000億円)の、エネルギーを中心とした大総合企業だったが、彼はこれを資産の20分の1の37.3億元で買取ったといわれた。
この取引は極秘裏に行われたはずだったが、なにかの原因で外に漏れた。世間はこれを問題にしたが、彼は一切を語らず、2014年6月に香港の四季酒店に居を移し、奇妙なことに女性ガードマン多数に囲まれるという生活を始めた。
「魯能」買収ののち、蕭は大型の国有企業「中国平安保険」の民営化に手を出した。2012年、この大保険会社の株式買収を2社が争ったとき、彼はその一方の正大集団の背後にいた。
2016年1月香港の映画会社数字王国(Digital Domain)が別な映画企業の「PO朝霆」の株式の85%を買収した時には、その黒幕に車峰という特別な身分の人物がいた。車峰は、さきの天津市市長・中国人民銀行頭取、現在全国社会保障基金会理事長の戴相龍の娘婿で、金融界の有力人物である。この車峰が「銭袋」として使ったのが、高名な政財界ブローカー郭文貴と、もう一人が蕭建華であった。

そこで蕭建華の逮捕は何を意味するか。一般の見方は、これを突破口に紀律検査委員会主任王岐山が腐敗の根源である上海閥を直撃するというものだ。元国家主席江沢民はともかく、曽慶紅逮捕までは行くかもしれない。いや、それを期待する人は多い。
ところが、蕭建華事件は派閥闘争とは直接関係なく、取締機関の現場が王岐山などの指令をまたず勝手にやったものだという見方がある。そうだとすれば取締機関が独自に行動しはじめ、上の統制が効かなくなったことを意味する。王岐山はコケにされたのである。
それどころではなく、さらに蕭建華の「明天系」企業をつぶして、その財産を没収し、誰か国家安全部系統の有力者がふところに入れるためだという人がいる。いくらなんでも21世紀の今日、公的機関がむかしの匪賊のように金持を襲撃して財産をものすることなど思いもよらないことである。だがありえないことではない。それは取り締まる側の腐敗である。

国家安全部次官の馬建は長年治安情報系統を握ってきたが、昨年1月、中国でいう「重大な紀律違反」すなわち汚職を理由に逮捕された。国家安全部は外国情報の収集と、国内の反体制派の監視をおこなう機関とされているが、主な仕事は国内にあって、その権限は超法規的ともいえるものである。
馬建は金融ブローカー郭文貴と密接な関係を結び、郭は国家安全部の強大な権限を背景に数々の黒い経済活動を展開した。北京市副市長だった劉志華(2006年失脚)も交えて、北京モルガン投資公司を通じて巨額の利益を得たこともある。また馬は腐敗を理由に失脚した令計画との密接な関係も取りざたされている。馬建逮捕と同時に、郭文貴はアメリカに逃亡した。いまアメリカから中共上層のスキャンダルに関する、思わせぶりの情報を発信している。
馬建だけでなく、取締機関の汚職腐敗は深刻なものになっている。習近平指導部が発足した2012年秋以降、党の紀律検査機関や行政監察部門の職員のうち、汚職などを理由に処分を受けたものは約7900人に上る。
このため、昨年の中央紀律検査委員会では、習近平自らが「反腐敗闘争の一層の深化」「聖域なき反腐敗の堅持」を強調しなければならなかった。しかも汚職摘発にあたる検査機関を監督し、腐敗を防ぐための「監督規則(試行)」が採択された。あまりに多く刑事がどろぼうに変るので、検査機関の検査が必要になったのである。

この秋の中共第19回大会は習近平政権5年間の総括であり、次期中央委員会政治局、さらには常務委員会メンバーを決定する重大な会議である。ここで習近平派が多数を制すれば、あとの5年ほしいままの治政ができ、習近平の地位も権力も望み通りの高みに登ることができる。このためにはライバルとの闘争は避けようにも避けられない。
2016年に不正を摘発され処分を受けた党員は41万5000人である。省トップや閣僚などの「省部級官僚」では76人に上り、2012年の習指導部発足後最多となった。一般官僚はともかく政府高官の汚職が多いのは、見方によっては好都合である。腐敗を口実に対抗派閥の有力メンバーを失脚させることができるからである。
蕭建華逮捕の当局の狙いについては、この戦略にのっとった上海閥殲滅作戦の前哨戦なのか、匪賊略奪の現代版なのか、いまのところ憶測の域を出ない。

以上示すところは、権勢ある政府高官が特定業者とむすんで暴利をむさぼればこうなるという見本である。「中国の特徴ある社会主義」すなわち「権貴資本主義」の否定しがたい姿である。


2017.02.23 ■「短信」■       

フランス核実験 被害者はいま―汚された太平洋の楽園―
3・1ビキニ記念のつどい

 今年の「3・1ビキニ記念のつどい」は、南太平洋の楽園で行なわれたフランス核実験について取り上げます。核保有数第3位のフランスは、南半球の仏領ポリネシアの2つの環礁で200回余の核実験を行いながら、被害や環境汚染を否定し、反対運動や被害者の声を無視してきました。しかし、近年、被ばく者たちが声を上げ、変化の兆しがあります。仏核実験の実相と今を学びます。

日時:2017年2月25日(土)午後2時—4時30分
会場:BumB東京スポーツ文化館 研修室B
(夢の島公園内、新木場駅徒歩12分。第五福竜丸展示館より徒歩5分)
報告:真下俊樹(フランス核政策研究者、埼玉大学講師)
   豊崎博光(フォト・ジャーナリスト、第五福竜丸展示館専門委員)
資料代:500円
主催:公益財団法人第五福竜丸平和協会
〒136-0081 東京都江東区夢の島2-1-1 TEL 03-3521-8494           (岩)
2017.02.21  トランプに困惑する世界 ―― 一寸先は闇 
 
伊藤三郎 (ジャーナリスト)
 

 地球全体を舞台とした「トランプ劇場」はまだ幕が開いたばかり。先行きを展望したり、その歴史的位置づけなどとてもできる段階ではない。が、21世紀のアメリカに忽然と現れた風車のような怪物、ドナルド・トランプ大統領に、ドン・キホーテよろしく貧相な槍で切り付けて見ようか。
 私がトランプ氏の登場に戦慄を覚えたのは昨年(2016年)の夏、英国民が「欧州連合(EU)離脱」を選んで世界を驚かせたあの歴史的「国民投票」直前のことだった。その時初めてトランプ氏に遭遇、と言っても、英国の有力経済紙「フィナンシャル・タイムズ」(2016/6/6付)の紙面上での話だが、米国の著名な経済学者、ローレンス・サマーズ元財務長官が「英国民投票(6/23)と米大統領選挙(11/8)という今年2つのリスク(危険因子)」を展望した一文の中でトランプ氏をこう紹介しのだ ― 「私の人生において、有力政党がこれほど世界経済にとって危険な人物を大統領候補に据えた選挙を経験したことがない。市場は幸い、トランプ大統領の可能性は低いと見ている。皆さん、この市場の判断が正しいことを祈りましょう」
 この激越なトランプ氏拒絶の言葉に衝撃を受けた私は、古巣・朝日新聞その他の元政治記者らが発行しているブログ新聞に一文を寄せた(「メディアウオッチ100」2016/6/27 号『「英国EU離脱の衝撃 ― 次の焦点は米大統領選挙』)。

 この段階で「ひょっとしてトランプ米大統領の誕生も」と、サマーズ氏と憂慮を共にした私は、その理由として、大西洋を挟む英米両国の政治・文化には気味悪いほどの「共鳴」のジンクスがあることを紹介。自らがロンドン特派員をしていた1979年にマーガレット・サッチャーさんが英国史上初の女性首相となったその翌年、米国ではレーガン大統領の共和党政権が生まれ、時ならぬ「新保守主義」の風に“風見鶏”の異名を持ったわが国の中曽根康弘首相がすかさずワシントンを詣で、レーガン新大統領にもみ手をしてその尻馬に・・・などと綴った駄文のその落ちに ― 「洋の東西を問わず政治の世界は“一寸先は闇”。英国を震源地とする巨大地震が5か月先の米大統領選にどんな余震をもたらすのか、目が離せない」。

 果たしてその米大統領選挙は、サマーズ氏が恐れた通り、トランプ氏に勝利をもたらした。前記ブログ紙に送った私の続報(同2016/11/9 号『劇薬的新大統領への祈り』)のリードと結びを再録すると―
『「投票による革命」が起こった。世界がかたずをのんで見詰めた米大統領選は8日、政治経験のない実業家ドナルド・トランプ氏(70)の勝利という衝撃の結果をもたらした。トランプ氏が吠えまくった「既成の政治権力」「一握りの特権階級」への失望と怒りが、共和党、民主党という二大政党の枠を超え、全米50州の境界線も越えて支持を得た。その言わば合法的な民衆蜂起が建国250年来例のない異端の不動産王を新大統領に選んだのだ。』
  『トランプ新大統領を生んだとてつもないエネルギーの源は何だったのか。それは、目にはさやかに見えなかったが、虐げられた人々の痛みを抑え、怒りを鎮める「劇薬的」大統領候補への地球市民の祈りだった、と思いたい』

 しかし、いよいよトランプ新政権が仕事に就いたいま、「革命」の後遺症としての米国市民の亀裂は予期した以上に深刻のようで、「祈り」というきれいごとを超えた危険水域に迫っているかに見える。トランプ氏の大統領就任式(1月20日)を境に激化した左右市民運動の激突ぶりを「ニューヨークタイムズ」紙が1面トップ(プラス14面1ペイジ)という力のこもった編集で詳報(2017/02/03付)を。そこでクローズアップされた「アナーキスト(無政府主義者)」という懐かしい言葉と、その時ならぬ勃興ぶりの一端をお伝えすると ―
 『極右勢力を決してのさばらせない、必要なら暴力に訴えてでも ― アナーキストたちの誓い』 ― こんな激越な見出しがついたこの記事。大統領就任式の日、ホワイトハウスからほど近い首都ワシントンの一角で起こった「トランプ支持」と「抗議」のデモ隊の激突の中、「白人極右指導者リチャード・スペンサーをぶっ飛ばした(トランプ反対派の)一発のパンチ」のビデオ映像が全米に流され、極右、極左の亀裂を深めるきっかけになった、と書き出し、「1・20」以降の「反ファシスト党」と名乗る左翼運動家やアナーキストたちの興奮・高揚の声を生々しく記録する。
 アナーキストたちの「暴力も辞さず」宣言がたちまちカリフォルニア州の2都市で現実に。大統領就任式の20日、シアトルのワシントン大学で催された右翼指導者の演説会を止めようとした反ファシスト党の覆面運動員が銃撃されて負傷。その2週間後バークレイのカリフォルニア州立大で、反ファシスト党員と見られる覆面男が同大学校舎に火を放ち、けが人が複数出たことで、大学当局は右翼指導者の演説会を中止。左翼による「血のシアトル事件」の報復と見られている。
 こうした暴力沙汰には当然市民からの批判があるが、アナーキストのリーダーの一人は「暴力も辞さず、とは言っても、右翼のやりたい放題を抑えるため最低限に」と言い訳し つつ、「トランプ大統領就任以来われわれアナーキスト集団のツイッターには登録者が急増。運動は全国に広がり、日を追って強くなっている」と胸を張る。

 こうしたアナーキストたちの動きを支持・支援するロンドン大学のデイビッド・グレイバー教授(文化人類学)は「われわれは絶大な文化的、政治的衝撃を与えた」と反トランプ運動の盛り上がりにエールを送る。グレイバー教授は「我々こそ(地球上全人口の)99%の貧困層」「貧困層の債務を帳消しに」と叫び、世界中の「(所得)格差是正運動」を声援。チュニジアの「ジャスミン革命」を皮切りにイスラム教国に連鎖した革命運動「アラブの春」(2010 ―12年)やニューヨーク金融街を震撼させた「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street=OWS)」運動(2011年)にも関わったアナーキスト運動のカリスマ的指導者である。

 ただ、「格差是正」には満足な成果を上げ得なかったオバマ政権には不満を表明する一方で、「トランプ氏の勝利は『格差是正こそ社会の病弊の特効薬』というアナーキストたちの主張が正しかったことを証明した」とも語っているように、トランプ勝利とアナーキスト運動の因果関係には複雑なねじれ現象も。ただ、トランプ政権始動とともに米国市民の左右の亀裂が今後一段と深刻化しそうなことは、NY タイムズ記事の以下の結びからも容易に推察できる ―
 (アナーキストたちは)ツウィッターで「右翼指導者・スペンサーが全国の大学キャンパス巡回を計画中」と知らせ、嬉しそうにこう付け加えた ― 「さー、われわれ全員に奴をぶっ飛ばすチャンス到来だ!

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2017.02.20  急がれる核兵器禁止条約、核兵器の近代化進める米ロ

隅井孝雄(ジャーナリスト)


核兵器廃絶に向けて、新たな動きプラス、マイナス
 3.1ビキニデーが目前。1954年3月1日、福竜丸など日本の漁船が、太平洋ビキニ環礁近辺で、原爆実験によって被災して63年になる。今年は世界の多くの国が核廃絶のために行動するという特別な年だ。だが同時に米ロが新たな核近代化競争を始めるという状況も生まれた。特にアメリカがオバマ政権からトランプ政権に代わり、終末時計の針も2分30秒前に迫った。
 国連の動きは心強い。昨年12月23日、国連総会の全体会合で、核兵器禁止条約についての会議を17年3月に開始することを決議、113ヵ国が賛成票を投じた。核保有国のうち、米、英、仏、ロは反対したが、中国、インド、パキスタンは棄権に回った。残念ながら日本は反対票を投じたが、賛成はこれまでの核関連決議で最多だ。
 決議では「核兵器を禁止し、廃絶につながるよう法的拘束力のある国際条約の成立」を目指している。ニューヨーク国連本部で3月27日~31、6月15日~7月7日国際機関、市民組織の代表も参加して開催される。大いなる成果を期待したい。

核兵器近代化すすめるアメリカ
 ところで、米露仏英など核保有大国は、核兵器の近代化を進めている。昨年12月10日に放送された「核なき世界の行方、核兵器の近代化とアメリカ」(制作NHK、放送NHKBS1 ) は大いに触発される番組であった。
 アメリカは現在核兵器開発を凍結しているのだが、旧型の性能を向上させる近代化を進めている。60年代に開発された小型核兵器B61近代化をはかり、850億ドルの予算措置も講じている。
 B61タイプ12は戦闘機や爆撃機の機体に搭載する300 Kgの誘導弾。尾翼を遠隔操作して、目標の30メートル以内に落とせる。地中を貫通して地下爆発も可能だ。現在ネバダ砂漠で投下実験中。爆発も最大50キロトンから4段階、最小0.3キロトンに抑えられる(広島のリトルボーイは爆発力12キロトンだった)
 旧型はNATOに配備されて、180発がオランダ、ベルギー、ドイツ、イタリア、トルコにある。これが小型化されれば、被害を敵だけに抑えられる、という口実になる。

アメリカ4賢人による核廃絶提案 
 2001年以降、テロリストが核兵器を手にする可能性があると、アメリカでも廃絶の動きが進んだ。ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、サム・ナン、ウイリアム・ペイリーが「核兵器なき世界」という論文で核兵器廃絶を提案、彼らは4賢人と呼ばれるようになった。
 提案は次の4項目からなっている。1.核戦力の大幅縮小、2. 米の包括的核実験禁止条約批准、3.核分裂物質の生産の禁止、4.同盟国への戦術核の全廃。
 これに賛同して大統領に当選したのがバラク・オバマだった。ペイリーは小型だからと一国が使用すれば、たちまち全面核戦争が起き、人類は破滅すると、危機感を抱く。
 しかしヨーロッパではロシアが国境沿いに戦術核を展開し、アメリカもB61-12の配備を急いでいる。
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アメリカ新大統領、核兵器近代化進める
 アメリカの新大統領ドナルド・トランプは就任前の12月22日、「世界が核について良識を取り戻すまで、米国は核兵器を強化すべきだ」とツイッターで語った。同じ日プーチンも戦術的核戦力の軍事能力を強化する必要があると発言、ウクライナ紛争で、核使用も検討したと述べている。トランプ大統領は就任後「米軍再建」の大統領令に署名(1/27)し、核兵器の近代化を含めた装備強化をはかるよう指示した。
 国連による、核兵器禁止条約の成立は、人類にとって喫緊の課題であるといえよう。