2023.03.28
苦戦するロシアのウクライナ侵略戦争
坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)
大規模な兵力・火力を注ぎ込んでいるロシアのウクライナ侵略戦争。昨年2月24日に、第2次侵略(第1次侵略は14年3月にクリミア半島占領)を両国国境(ウクライナ北東部から南東部)で開始、最大150kmほどの国境沿いを占領した。しかし、ウクライナ軍の厳しい抵抗で占領地拡大が行き詰まり、現在は国境地帯の中都市バクムートの攻防が一つの焦点になっているが、ここでもロシア軍は苦戦しているようだ。3月25日のBBCウクライナ現地報道を紹介しよう。
ロシアが数カ月かけて攻略を試みたウクライナの都市バクムートの戦いは「安定しつつある」と、ウクライナの司令官が述べた。
今月初め、西側当局者は、昨年の夏以降、バクムートで2万人から3万人のロシア軍が死傷したと推定した。
軍事アナリストのザルジーニ中将は、ウクライナ軍の「多大な努力」がロシアを抑えている、と述べた。 モスクワは、最近大きな利益を得ることができなかったため、勝利を熱望している。
にもかかわらず、同中将は、バクムートには戦略的価値はほとんどなく、街の重要性はもはや象徴的なものだと考えている。
同中将はFacebookで、ウクライナの前線の状況は「バクムート方面が最も厳しいが、ウクライナ防衛軍の多大な努力により、何とか状況を安定させることができる」と述べた。
同中将は、英国の国防参謀長であるトニー・ラダキン提督とウクライナの状況について話した後に投稿した。
彼のコメントは、バクムートの長い戦いに関するウクライナ当局からの最新の肯定的な信号である。
23日、ウクライナの地上軍司令官アレクサンドロ・シルスキー氏は、ロシア軍がバクムート付近で「疲弊」していると述べた。
シルスキー氏は、ロシアは「人員と装備の損失にもかかわらず、何としてもバクムートを奪取する望みを捨てていない。彼らは著しく力を失っている」と付け加えた。
シルスキー氏は、「キエフ、ハリコフ、バラクリヤ、クピアンスクで行ったように、まもなくこの機会を利用するだろう」と述べ、昨年のウクライナの反攻作戦の成功に言及した。
そして今週初め、ウクライナのゼレンスキー大統領は、12月に最後に訪れたバクムート近郊の前線を、改めて訪問した。
大統領府が公開した映像には、古い倉庫で「英雄」と呼ばれる兵士たちに勲章を授与するゼレンスキー大統領の姿が映っていた。
大統領府は水曜日、バクムートの西側でウクライナ軍の反撃があり、バクムートへの補給路の圧力が緩和されそうだとし、ロシアのバクムートへの攻撃は「限られた勢い」を失いつつある可能性があると述べた。
しかし、同声明は「ウクライナの防衛は依然として北と南からの包囲のリスクにさらされている」と付け加えた。
バクムートには侵攻前に約7万人が住んでいたが、現在は数千人しか残っていない。
同市を占領すれば、昨年9月にロシアが不法に併合したウクライナ東部・南部の4地域のうちの1つであるドネツク州全域の支配に、ロシアがわずかに近づけることになる。
(了)
2023.03.27
大がかりな中ロ首脳会談
―習近平が踏み出した一歩の先は?
田畑光永 (ジャーナリスト)
先日(3月20~22日)、モスクワで行われた中ロ首脳会談。ロシアのウクライナ侵攻作戦の現状から見て、習近平とプーチンが話し合えば、なにか事態打開の方向性が見えてくるのでは、と注目されたが、結果は見事に裏切られた。
裏切られただけでなく、見せられたのは、21世紀も4分の1が過ぎようとしている現代の出来事とも思えない、何世紀も前の皇帝外交と見まがうようなばかばかしい光景だった。
モスクワのクレムリンで行われる外交行事は、プーチンの好みなのであろう、概して時代がかっているが、中でも今回はとびぬけていた。21日の正式会談の始まりは、バカでかい、そして天井がバカ高い、壮麗なホールの両側の入り口を結んで長い絨毯の通路が敷かれ、その両端から2人が同時に歩き始め、何十歩か進んで、中心地点で握手。背景には人の背丈の数倍もあろうかという両国の国旗、という設えであった。おそらく2人は何世紀も前のナントカ大帝、カントカ皇帝の気分に浸ることができたであろう。
この会談から打開の方向性が見えてくるのでは、と期待したと書いたが、その期待の元は中国外交部が2月24日に発表した「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」と題する文書について、プーチンも「一部評価する」という態度を公けにしていたことである。
***中国の「立場」***
話の順序として、この中国の「立場」をざっと見ておこう。
全体で12の項目があり、1・各国の主権の尊重、2・冷戦思考の放棄、3・戦闘の停止、4・和平交渉の開始、と始まる。そして冒頭、1・の前半部分はこう書かれているー
「国連憲章の主旨と原則を含む公認の国際法は厳格に順守され、全ての国の主権、独立および領土保全は確実に保障されるべきである。国の大小、強弱、貧富などを問わず、すべての国は平等であり、各当事者は国際関係を支配する基本的な規範を共同で保護し、国際的な公平と正義を守らなければならない。(以下略)」
この部分では武力紛争についての国連の基本的な立場が遵守されるべき規範として掲げられている。これを見る限り、中国としてはロシアのしていることは国連憲章違反、国際法違反と見る立場と受け取れる。しかし果たしてそうか、は先に進まないと分からない。
さらに3・においては、「紛争と戦争に勝者はない」とまで言って、双方に停戦と和平交渉を呼びかける。
ついで、5・人道的危機の解決、6・民間人と捕虜の保護、と当事国間の人道問題の解決が呼びかけられ、その後、7・原子力発電所の安全確保、8・戦略的リスク(核兵器の使用)の軽減、9・穀物輸出の保障、11・産業チェーンとサプライチェーンの安定確保、12・戦後復興の推進、と国際的な懸念事項の解消から戦後復興までの対策が掲げられている。見る限り、一般的な紛争処理、戦後処理の手順とその内容としては順当なところと言えるだろう。
ただお気づきのように、じつは第10項目の紹介を飛ばしている。これが問題項目なのである。項目のタイトルは「一方的な制裁の停止」。その内容は「一方的な制裁と最大限の圧力は、問題を解決できない。のみならず新たな問題を生み出す。国連安全保障理事会によって承認されていない一方的な制裁に反対する。(以下略)」とある。
ここにこの中国の「立場」のからくりがある。1・を見る限り、国連憲章の主旨と国際法を破ってウクライナの主権、領土保全を破ったのは誰かに目が行く。しかし、10・では「安全保障理事会によって承認されていない制裁には反対する」、つまり「ロシアは制裁にあたらない」=「ロシアは悪くない」ということになる。
そしてさらに言えば、安保理がロシアの行為を不当とできなければ、だれが見てもロシア側からの一方的な武力攻撃ではじまった「ウクライナ侵略」もどちらが悪いかの判定抜きの一般の紛争となってしまう。
ロシアは安保理の常任理事国であるから、ロシアが反対すれば(拒否権を行使すれば)安保理は何も決定できない。こんな分かり切ったことを持ち出して、中國はロシアの立場に助け舟を出しているのである。
勿論、国連には総会があり、そこではロシア非難決議などが何度も決議されている。しかし、それは賛成何票、反対何票という相対的な数字である。ロシアもさすがに国連加盟国の多数の支持が得られるとは期待せず、国連に限らず、いずれの国際会議でも反ロシアに反対する票がいくらかでも入ればいい、言い換えれば「賛否両論あり」の形になればいい、という態度だから、安保理の結論は「ロシアは制裁に値せず」である、という中国の屁理屈はおおいにありがたいのである。
私が今度のプーチン・習会談に「期待」したのは、この恩義と交換に、うまくすれば習近平はプーチンからロシア軍の一部撤退など、なんらかの譲歩を引き出すことが出来るのではないかと思ったのである。
***鉄面皮なコミュニケ***
それでは会談はどうなったか。
今回のモスクワでの首脳会談は20、21の2日間で合わせて6時間余に及んだということである。その故か、発表された共同コミュニケは非常に長い。私はロシア語が読めないから、中国語で読んだのだが、私のPCのカウンターではコミュニケ全文は9276字と出た。一般に中国語の文章を日本語に訳すと、すくなくとも2倍以上になるから、まあ少なく見積もっても日本語では2万字以上である。
これは報道発表文として異例と言っていいくらいの、ちょっとした論文なみの長さだが、それはひとまず措いて第9項目のウクライナに関する部分を見よう。
「双方は、国連憲章の主旨と原則は遵守されねばならず、国際法は尊重されねばならないと考える。ロシア側は、中國がウクライナ問題で客観的、公正な立場にあることを積極的に評価する。双方はいかなる国家、あるいは国家群も、軍事的、政治的およびその他における優勢を求めて他国の合理的、安全な利益を害することに反対する。ロシア側は可能な限り早期に平和交渉を再開するべく努力することを表明し、中國側はこれを称賛した。
ロシア側は中國側が政治的外交的方途を通じてウクライナ危機を解決するために積極的な役割を果たそうとしていることを歓迎し、『ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場』の文件に述べられた建設的な主張を歓迎する。
双方は、ウクライナ危機を解決するには各国の理にかなった安全への関心が尊重され、陣営間の対立の形成、火に油を注ぐことを防がなければならないと指摘した。
双方は責任ある対話こそ問題の着実な解決に最適な道であることを強調する。そのために国際社会はそれに関連する努力を支持すべきである。
双方は各方面に局面を緊張させ、戦争を長引かせるすべての行動を停止し、危機がさらに深まり、制御不能に陥るのを避けるよう呼びかける。
双方は国連安全保障理事会の議を経ない、いかなる一方的な制裁にも反対する」
引用が長くなってしまったが、以上がコミュニケのウクライナ戦争そのものについての内容のすべてである。それにしても、よくもまあこれほど事実を無視した奇妙な論理を恥ずかしげもなく人前に出せるものだと思わない人はいないだろう。
中国の「立場」の冒頭、両国の「コミュニケ」でも冒頭に置かれている「国連憲章、国際法の尊重」とロシア軍の一方的なウクライナ攻撃はどうつながるのか、そこを素通りして知らん顔は世界に向けての両国の態度表明にしては無責任に過ぎる。
さらに「ロシア側は可能な限り早期に平和交渉を再開するべく努力することを表明し、中國側はこれを称賛した。」というくだりなど、一体どこの戦争の話かと頭が変になりそうである。ロシアが兵をウクライナから引けば、それで「停戦」は実現し、その後、平和交渉を開くならいつでも開けるのに、「平和交渉を再開するべく努力」などと、ロシアはまるで無意味なことを言い、中國側が「これを称賛した」とは、よく恥ずかしくないものだ、とその鉄面皮に感心してしまうほどである。
***中ロ友好、それでいいの?***
今度の中ロ首脳会談はかなり注目を集めた。直前にロシアが中国に武器援助を頼んだというニュースが流れ、もしそれが実現するようなことになると、ロシアのウクライナ併合企図というローカル紛争が中ロ両大国対西側陣営というグローバル対決へと拡大するからである。
しかし、どうやらそうはならなかったことはご同慶のいたりである。しかし、中國がロシアにドローンを何十機か提供するといった話はくすぶっているし、もしそうなれば苦しいロシアを中国が幾分なりとも助けることになるが、大規模な対決へと進むことだけは何としても国際世論の力で阻止しなければならない。
それにしても、この段階で習近平がモスクワへ赴いて、はっきりロシアの肩を持ったことは、中國国内へどういう影響を及ぼすか、ここが注目点と私は見ている。
しかし、その前提として、習近平が憲法を改正してまで、長期政権、それも周りを側近で固めた宮廷政治の形でスタートしたことは、決して中国の政治を安定させることにはならないと私は思っている。「孤樹不成林」(樹は1本では林にならない)という言葉は、習近平の前の胡錦涛時代(2002~2012)のナンバー2、温家宝が首相になった時にご母堂が周囲との協調を諭して書き送った手紙にあった言葉だそうである。取り巻きだけで作った政権はいざとなると弱いのである。
さて、昨年2月、北京での冬季五輪開会式に訪中したプーチンを迎えた習近平は、長期政権の確立という同じ目標を持つもの同士として、肝胆相照らす会談の中で、プーチンからウクライナ併合の野望を明かされ、それを自らの台湾解放の夢と重ね合わせて、協力を約束したと私は推測している。
そして、2月24日、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まり、国連その他でロシア非難の声が上がるたびに、中國はそれに加わらずに、ロシアの肩をもってきた。しかし、ウクライナの善戦と西側の応援によって、1年経ってもプーチンの野望は実現するどころか、逆にその進退は窮まりつつあり、3月17日にはICC(国際刑事裁判所)から「ウクライナの子供誘拐容疑」でプーチンに逮捕状が出されている。
そこで、プーチンとしては武器援助という形で中国をはっきり味方陣営に引きこむか、あるいはせめて派手な会談でも演出して、四面楚歌のジリ貧状況にカツを入れようとしたというのが、今回の会談であったと私は見る。習近平にしてもなにかとうるさいバイデンよりもプーチンの方が話しやすいだろう。
それが冒頭に紹介した時代がかった会談演出であり、論文と見まがうほどの長大な共同声明となったのであろう。それによってプーチンにどれほどのプラスがあるか、否、そもそもプラスがあるか否かさえ不明であるが、習近平にとってははっきり大きなマイナスになると私は見る。
確かに今、中米関係はよくない。トランプ、バイデンとここ2代の米大統領は「反中」姿勢を表に掲げている。それにはいろいろ原因があるが、最大のものは習近平が権威主義的支配を強めていることである。香港やウイグル地区や、国内の統制ぶりが嫌われていることは確かで、「内政に干渉するな」と言ったところで、相手が嫌うことをしているのだから、好かれないことに文句を言ってもはじまらない。自業自得である。
しかし、中国の民衆の立場に立って考えると、政府と米との関係が良い時と、悪い時を歴史的に見れば、よい時のほうが悪い時よりはるかに幸せであったことは間違いない。「アメリカ帝国主義は世界人類共通の敵」と唱えていた時代の中国国民は人民服を着て自転車に乗っていた。「改革・開放」時代となり、米国が身近になって、暮らしは格段によくなり、自動車にも手が届き、子弟は続々と太平洋を渡って、米の大学で勉強している。
そしてロシア(ソ連)はと言えば、中国が米と対立した時代の同志であり、友人であった。今、側近に囲まれた習近平はプーチンとの王様ごっこに得意満面である。成り行き注目である。(230325)
2023.03.18
「強国」?「安定」? 亀裂を引きずった中国・全人代
―大国の土台に“軋(きし)み”はないのか
田畑光永 (ジャーナリスト)
中国政治の春の大行事、全国人民代表大会が5日から13 日まで開かれた。見慣れた行事ではあるが、今年はどうも例年よりさらに作り物に見えて、見物にも力が入らなかった。
というのはほかでもない、昨秋10月の中国共産党第20回党大会の最終日、覚えておられるだろう。議場の演壇、最前列中央の習近平総書記に向かって右隣りに座っていた胡錦涛前総書記が、議事の始まる直前に何者か不明の2人の男性に肘を抱えられて退場させられるという一幕があった。
すでに傍聴席には中国だけでなく各国の記者団も入っていたから、その一部始終は多くの目とカメラに記憶、記録され、世界中に伝えられた。中國当局が事後に新華社の英文記事でのみ伝えたのは、同氏は「体調を崩して退席した」という説明であったが、現場の光景は明らかにそれとは違い、胡錦涛は議案と見られるファイルを指さして、なにごとかさかんに説明しようとしたが、外から来た男性2人に力づくで議場外に連れ去られたのであった。
その後、胡錦涛の真意がどこにあり、なぜ議場外に出されたかの説明は、すくなくとも外部世界にはなにも聞こえてこなかった。しかし、あの数十秒は中国共産党という組織内部の深い亀裂の存在と、いざというときの処理の仕方、作風とでもいうべきものをはっきりと外部世界に知らしめたのであった。
それを意識したのか、今回の全人代では初日に(胡錦涛直系の)李克強首相が最後の政府活動報告を終えた後、まず習近平国家主席とついで李強次期首相と握手する場面があり、会場の拍手を浴びたが、これがまた演出じみて、なにかうそ寒いものが背筋に走るのを感じないわけにはいかなかった。
共産党大会に話を戻せば、9600万人にもおよぶ党員の中から5年に1度の大会に出席できるのは約3000人の代表である。大会前には各地、各分野で代表の選出がどのように行われたかがよく新聞記事になるほど大事な行事である。であれば、その代表1人1人の発言権は尊重されてしかるべきであり、まして大会に出席する権利はよほどのことがない限り守られなければならないはずだ。
しかし、あの時、なぜ胡錦涛が退場させられるのかを問う声は会場のどこからも上がらず、李克強、汪洋、胡春華といった同氏直系の要人たちは、出口へ向かう胡錦涛が背後を通っても振り向くことさえしなかった。おそらくあの場で胡錦涛に同調したり、同情したりといった行動に出れば、その後の自分の立場がどうなるかに自動的に頭が回転するように出来ているのであろう。
くどくどと昨秋の出来事にこだわってしまったが、あれ以来、なにを見てもあの事件を背景に置いて考える習慣が出来てしまったので、お許しを願いたい。
そこで、今度の全人代である。共産党大会があった翌年の全人代、とくに「10年で共産党の総書記交代」の慣例が生きていた時代のそれは、新総書記のもとでの組閣という意味で新鮮味があったのだが、今回はトップの習近平だけが変わらず、その他がほとんど交代という変則的な、それも要人のほぼ全員を習直系が占めるという「王政復古」と見まがう形となった。
それで中國は何処へ向かうか。その答えが出るにはもうすこし時間がかかりそうだが、それを考える手掛かりになりそうな兆候はすでに表れているようなので、今回はそれをお知らせしておく。
今年の全人代では、政権の考え方を窺わせる発言が3人から行われた。まず今回の大会を最後に引退する李克強首相による政府活動報告、国家主席に三選された習近平の演説、それと李強新首相の記者会見である。このうち一問一答の記者会見が一番中身がありそうなのだが、日本を含む西側の外国人記者の質問が認められず、つまり鋭い質問がなく、あまり参考にならないので取り上げない。
したがって、取り上げるのは李克強、習近平の演説である。といっても、演説原稿はスタッフがあちこち考えながら複数でつくるのだろうから、それほど個人的色彩が色濃く現れるわけではない。しかし、それでも個人差は出るはずなので、それを見ることにする。
まず李克強の政府活動報告。これはあくまで報告が先でその後に今年の目標がくるのだが、経済関係の目標数字を挙げてみると、GDP成長率は5%前後、新規就業者1200万人前後、都市失業率5.5%前後、消費者物価上昇率3%前後、国民収入の増加率は経済成長率と同程度、国際収支は基本的に平衡、穀物生産量は6.5億トン以上、というところである。
全体として、コロナの影響から回復しつつある経済をそのまま延長するといった目標で、退任する首相としては特別にどこに力を入れるとか、なにかを切り替えるとかいった発言は控えている印象を受ける。
この李克強報告については3月6日付の『日本経済新聞』が面白い分析をしているので、それを紹介しておく。
同紙が過去11年分の政府活動報告のキーワードを調べたところ、今年の報告は「安定」を意味する中国語の「穏定」という単語が33回も登場しており、前年22年のそれより38%も増えているという。「穏定」の意味を含めて「穏」一字だけが使われた場合を加えると、全部で90回も登場したそうである。退任する首相としては、なにごとも「安定第一で」というのが置き土産ということであろうか。
この記事に触発されて、習近平の演説を読んでみると、こちらは「強国建設」という言葉が目に付く。「強国を建設する」とか「強国戦略」とかを加えて数えると、12回あった。「穏定」に比べると少ないが、演説時間も半分ほどだし、「穏定」(「安定」)という一般的な形容詞に比べれば、「強国建設」は極めて具体的、かつ政治目標としてはいささか刺激的である。さほど長くない演説で同じ目標を12回も繰り返すのは、そこに力点があると考えてよいだろう。
ということは、これからの習近平中國は李克強の「穏定」でなく、「強国」を目指すのか。では「強国」とは何だ。
「強」を形容詞とする言葉を思い出してみよう。強者、強豪、強敵、強情・・・、どれもあまり親しみやすくはない。できれば敬遠したい相手だ。国でも同じだろう。習近平は中國をそういう国にしたいというのか。これまでの中国の表向きのスローガンとは違う路線だ。
古い話で恐縮だが、私が北京に駐在していた1970年代の後半は毛沢東、周恩来が世を去り、鄧小平が実権を握って、「4つ(農業、工業、国防、科学技術)の近代化」に取り組み始めた時代であった。その頃、中國はしきりにアジア・アフリカに生まれた社会主義政権の国々の元首を招いていたのだが、到着した元首の歓迎宴で中国側の首脳が述べる挨拶に必ず含まれたのは「国に大小なく、革命に先後なし」という一句であった。大国だからえらいわけではない、早く革命を成し遂げたからえらいわけではない、という意味だ。
言うまでもなく、世界で最初にボリシェビキ革命をなし遂げた故をもって、社会主義の盟主と自任していたソ連を皮肉り、自国を謙譲の美徳の持ち主と印象づけるための殺し文句であった。今、習近平はそれをみずから捨てて、「強国」として、世界に君臨しようというのである。
これは大きな変化だ。掛け値なしに自ら強国としてふるまうとはどういうことか。これまで中国が「大国」として一目置いていたのは米一国だ。台湾との関係でも、他国にはきびしく、しかし米にはいろいろ例外を認めてきた。米から台湾への武器の売却を認めているのはその最たるものだ。自ら「強国」を目指すとなれば、他国は黙ってオレに道を譲れ、逆らうな、と言っているようである。そうなのか。
昨年2月、北京での習・プーチン会談の後、「中ロ友好関係に上限はない」(当時の楽玉成外務次官)という言葉がこぼれ出てきた親密な関係は本物であったか、と思わせる習の「強国」への執着である。中國共産党は習の独走を許すのか。そこに軋みはないのか。
報道によれば、習のロシア訪問も近いという。「ロシアへの武器援助」などという物騒な話が「瓢箪から独楽」ともなりかねない。3期目の習近平政権の正体に眼をこらさねば・・・
2023.03.15
戦争と地震
韓国通信NO716
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)
東日本大震災から12年目を迎えた。
私にとってこの12年間は過去のどの時期に比べても印象深い歳月だった。高度経済成長期にサラリーマン生活を過ごした者として、原発事故は悔いある人生の記憶として残る。さらにウクライナの戦争とトルコ・シリアの地震が辛い記憶として上書きされる。
暗澹たる思いと、沸き上がる怒り。
最近、日本がかつて破滅の道を歩んだ戦争について考えることが多くなった。戦争で苦労した多くの人たちが「無謀な戦争」を語ってくれたのを思いだす。無謀な戦争なら、「何故反対しなかったか」と大人たちを困らせたこともある。
戦争が終わって77年たった。政府が突如として「安保三文書」を閣議決定した。驚くべき国防の大転換。だが、「敵基地攻撃能力の保有」と「国防予算の倍増」で日本の安全が確保されると思う人は結構多い。時代の流れかもしれない。政府にお任せの姿勢は、かつての大人たちとあまり変わりはない、そんな時代に私たちは生きている。
「台湾有事」を前提に臨戦態勢が着々と作られている。「台湾有事」は米中対立から生まれた。その対立に私たちは何のかかわりがあるのか。台湾問題はいわば中国の内政問題だ。再び沖縄が捨て石になるだけではすまない。日本全体の壊滅が予想される戦争にかかわる必要はない。アメリカに追随したがる人にはその愚かさを説き、戦争を回避すること。外交努力は先ずアメリカに向けられなければならない。
ウクライナへのロシアの侵攻から学んだこと。世界的潮流となった脱原発の時代にかつてチェルノヴィリ事故を起こしたウクライナに原子炉が15基もあることに驚くが、欧州最大規模のザポリージャ原発が戦火に曝されれば核戦争に匹敵する大惨事が予想される。ウクライナを「他山の石」としてわが国の原発政策を根本から考え直す必要がある。原発がある国は戦争をする資格がないということだ。
トルコ・シリアの地震からもあらためて地震の恐ろしさを学んだ。戦争に加えて原発は地震と共存できない。ウクライナの戦争を理由に原発依存を深めようとする政府の方針は「風が吹けば桶屋が儲かる」式の破綻した論理である。
父親から若いころ「この横着者」と叱られたことを思い出す。考えが浅はかで悪いことをするという意味だが、岸田首相は並みの「横着者」ではない。「ていねいに説明させていただく」が口癖だが口先だけ。平和のための敵基地攻撃能力と、電力不足と脱炭素を理由とした原発回帰は横着そのものではないか。福島原発事故から12年。右手にトマホーク400発、左手に原発をかざせば、国民は不安に陥り、貧するばかりだ。
<韓国完敗 突然の日韓正常化>
10日に行われたWBC日韓戦の話ではない。2018年の韓国大法院の判決に日本政府が「解決済み」と解決を拒んできた問題。個人の請求権問題については数回にわたって論じてきたので今更ここでは述べない。植民地支配に対する日本側の認識が厳しく問われた。日本政府は判決を歯牙にも掛けず、報復として対韓輸出規制、韓国は日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を通告して両国関係は泥沼化した。わが国のマスメディアが政府と同一歩調をとったため、日本国内では「不当な要求」をする韓国に対する「反韓」「嫌韓」の感情が蔓延した。
日本が主張を変えない限り解決は不可能に見えたが、韓国側が従来の主張を変えたため「正常化」が一気に進むことになった。
昨年5月に発足した新政権は前政権を反米・反日、容共政権と断じ、政権交代直後から大規模な米韓軍事演習を実施するなど北には厳しい対決姿勢をとってきた。反発した北朝鮮が相次ぐミサイル発射をして朝鮮半島は冷戦状態に逆戻りした。一触即発の状態に尹錫悦大統領は熱い戦争さえ辞さない姿勢だ。
強気の姿勢を支える背景に1965年の日韓条約締結、2015年の慰安婦合意時と同じく北朝鮮・中国をにらんだバイデン米政権の強い意志が感じられる。日本に対して安保三文書による戦争参加への地ならしと戦闘機、トマホークなどの購入を求める一方、韓国には従来から主張してきた対日要求の変更を求めた。アメリカは韓国に譲歩を求めることによって米韓国政府が望む日韓の「和解」にこぎつける道を開いた。
<未来志向というウソ>
「未来志向」を言い出すのはいつも日本側だった。過去を曖昧にするための常套句である。<写真/プノンペン会談にて 聯合ニュース>

今回は韓国側が言い出した。信じがたい韓国の変化である。「尹大統領はいつから日本の首相になったのか」。韓国社会は大統領の変節ぶりに驚きを隠さない。
過去は問わない、損害賠償まで韓国持ちという至りつくせりの内容。従来からの主張に沿った日本側の完全勝利だ。
だが、正常化にはこれまで以上の困難が待ち受ける。市民団体と野党は一斉に「大韓民国憲政史にこのように本末転倒な白旗投降、亡国的外交惨事があったろうか」と猛反発。歴史的・屈辱的事件とみなす保守勢力を含む多数の市民たちの反発は大きいからだ。
姑息な国交正常化は日本人に韓国に対する侮蔑、優越感を助長することになりかねない。さらに懸念されるのは日米韓の軍事同盟の強化によって東アジアの緊張が一挙に高まることだ。
マスメディアは「正常化」歓迎一色だが、どこまでも見当違いを続けるつもりか。1998年に当時の金大中大統領と小渕恵三首相が発表した「21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ」に盛り込まれた「植民地支配への痛切な反省と心からのおわび」の確認で解決する姑息さ。またもや当事者を抜きにして問題が先送りされることになる。
2023.03.14
ロシア軍の空爆と地上侵攻にウクライナ軍が激しく迎撃
1年を過ぎたロシアの侵略戦争
坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)
ロシアがウクライナへの侵略戦争を開始(昨年2月24日)してから1年以上が過ぎた。ウクライナでは、ロシア軍の空爆と戦車侵攻に対して、ウクライナ軍の抵抗が激しく続いている。
連日、現地からの報道を全世界に伝えているBBCは8日、以下のような報道をしている。
ロシア軍は、北部のハリコフから南部のオデッサ、西部のジートミルに至るウクライナ全土の目標をミサイル攻撃した。
ハリコフやオデッサでは多くの建物やインフラ施設が攻撃され、いくつかの地域で停電が発生した。また、首都キエフへの攻撃も報告されている。
この攻撃は、ウクライナ東部のバフムート市をめぐる激しい地上戦が続く中で行われた。
米国のヘインズ国家情報長官は8日、「プーチン大統領は戦争を何年も引き延ばすつもりかもしれないが、ロシアは今年新たに大規模な攻勢をかけるほど強くない」と述べた。
ヘインズ長官はなお戦争が続く可能性があることを示唆し、「どちらも、決定的な軍事的優位性を持たない、消耗戦になっている」と分析した。
ロシアのプーチン大統領が、ちょうど1年前に侵攻を開始して以来、何万人もの戦闘員や民間人が死傷し、何百万人ものウクライナ人が難民となった。
キエフのクリチコ市長と救急隊は、首都の西部と南部で大きな爆破があった現場に駆けつけた。
港町オデッサのエネルギー施設を大量のロシア・ミサイルが襲い、停電を引き起こしたと、同市のマルチェンコ知事が述べた。住宅地も攻撃されたが、死傷者は出ていないと、彼は付け加えた。
ハリコフ市とその周辺では約15回の空爆があり、「重要なインフラ施設」と住宅が標的となったと、シネグボフ地方行政長官が述べた。
ロシアのウクライナ攻撃のその他の被害地域は、西部のヴィニツィアとリブネ、中央部のドニプロとポルタヴァ。
ヘインズ長官また、プーチン大統領は戦争を何年も引き延ばすつもりかもしれないが、ロシアは今年新たに大規模な攻勢をかけるほど強くはないとの見解を示した。
同長官は、ウクライナの戦争は「どちらも決定的な軍事的優位性を持たない、消耗戦」になっていると述べた。さらに同長官は「しかし、プーチンは、時間が自分に有利に働くと計算し、戦闘の一時停止を含めて戦争を長引かせることが、たとえ何年もかかっても、最終的にウクライナにおけるロシアの戦略的利益を確保するために、最善の道だと考えているようだ」と述べた。
さらにヘインズ長官は、ロシアは現在占領している地域の防衛に転じるかもしれないと述べ、ウクライナでの作戦レベルを維持するためには、さらに「強制動員や第三者の弾薬源」が必要になるだろうと付け加えた。
ウクライナ軍は2023年3月9日、ロシア軍が東部の都市バクムートの東半分を制圧したと主張しているにもかかわらず、同市に対するロシアの激しい攻撃を押し返したと発表した。
モスクワは数ヶ月前からバフムート市の奪取を試みており、双方が消耗戦で大きな損害を被っている。
ウクライナ軍参謀本部は「敵は攻撃を続け、バフムート市への襲撃をやめる気配はない が"、我が防衛軍はバフムートと周辺地域への攻撃を撃退した」と述べた。
西側当局によると、ウクライナの都市バフムートの戦闘が昨年の夏に始まって以来、2万人から3万人のロシア軍が死傷している。
2023.03.08
「アメリカは台湾を略取しようとしている」
―-八ヶ岳山麓から(419)―-
阿部治平 (もと高校教師)
2月25日、人民日報国際版の環球時報は、「米台結託のさらなるレベルアップ、台湾島内は高度の警戒心を持て」という論評を掲載し、アメリカの台湾政策を痛烈に非難した。
直接には、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)2月23日の「米軍は台湾軍の訓練支援のため、今後数カ月以内に台湾に100~200人を派遣する計画だ」という報道に反応したものだが、情勢をよく知ったものの論評である。
ところが、著者は正奇経緯智庫特約研究員の李牧野という人物だが正体不明、正奇経緯智庫というシンクタンクの名前もいままで聞いたことがない(後述)。
この1月には、マッカーシー米下院議長の訪台が取りざたされたり、中国気球問題でブリンケン国務長官の中国訪問が中止されたこともあったが、米中両国の外交基調は22年秋の首脳会談以来、意思疎通を維持して偶発的な衝突を避けようとするものであった。環球時報掲載のこの李牧野氏論文は、それからすればかなり外れた対米強硬論で、注目すべきものだと思う。
李氏は 「(訓練要員の派遣4倍増という)事実が最終的に確認されれば、疑いもなくアメリカによる台湾問題における重大な挑発行為というべきである」 といい、国外の反中国勢力(すなわちアメリカ)は「台湾カード」を絶対に放棄しないし,台湾島内の台湾独立・分裂勢力もアメリカに頼って独立を謀ろうとしている、これに警戒心を持つべきだという。
氏は台湾内政を論じ、昨年の「九合一」選挙で民進党は惨敗を喫したが、これは国務院台湾事務弁公室がいう通り、「平和、安定、良い暮らしを求める」という台湾民衆の強い要求のあらわれだという。
注)「九合一」選挙は、2022年11月26日の台湾の統一地方選挙のこと。与党民進党は敗北、蔡英文総統は党主席を辞任した。21の市長・知事選挙のうち、選挙前に7つを占めていた民進党は台北市長の奪還もならず、北部3つの市を失った。この選挙は2024年の総統選の前哨戦といわれた。
李氏は、「選挙後の世論調査からしても、台湾社会では、海峡両岸の正常な交流を求め平和的発展を擁護する声が強まっている。国民党など台湾の政党、社会団体はきそって大陸を訪問し、金門島民衆は直接「永久非軍事区」の成立を求めている」と自説を述べる。
そして民進党は、両岸の交流を回復せよとの大きな民意の圧力にいやいや譲歩しており、風向きが変わるのを待っている、またその一方で「(アメリカが台湾を守るか否かを疑う)疑米論」をやっきになって抑えているという。さらに旧暦正月以後、蔡英文総統はみずから行政改革を行い、熟練者に民進党の「親米抗中謀独」 つまりアメリカとの連携路線を断固実行させる態勢をとったというのである。
これは選挙結果にかかわらず、台湾人のほとんどが大陸との統一も望まず、台湾独立も避けて現状維持を望んでいることを意識的に無視したものである。
李氏は、アメリカと民進党結託の一連の動きを詳細に分析すれば、アメリカが「台湾を以て中国を制圧する(「以台制華」)」路線がまさに重大な変化を遂げ、「今日のウクライナは明日の台湾(「今日烏克蘭、明日台湾」)」を実現しようとしていることがわかる」と、アメリカを強く牽制する。
西側では、「今日のウクライナは明日の台湾」といえば、ロシアがウクライナで勝てば、中国の台湾武力統一の可能性が強まると受け取る。だが中国からすれば、アメリカ主導のNATOがウクライナを席巻したように、アメリカは台湾を中国から奪い取ろうとしているとなるのである。
その第一はアメリカが台湾政治に対する全面的支配を強化しようとしていることだ。
李氏曰く、「民進党が登場して以来、アメリカの台湾の選挙への介入は絶えず強化され、何度もさまざまな方式で公然と『緑営』人士のために応援し、かつ全力でそのほかの在野勢力を製造し、島内にアメリカのいいなりになる政権を育てようと企んでいる」
注)「緑営」はもともと清朝の漢人編成の常備軍だが、今日台湾で「緑営」といえば、民進党や台湾団結連盟などとその支持者を指す。「藍営」は国民党と国民党系の政党連合のことである。「緑」は民進党の、「藍」は国民党のそれぞれ党旗の色である。「営」は兵営のこと。
第二はアメリカによる経済分野での台湾の抱き込みである。
李氏は「ワシントンはいわゆる『21世紀の貿易に関する米台イニシアチブ』などの仕組みを利用して、台湾経済をアメリカ主導の『中国排除産業チェーン』に導入しようとしているが、これについて、台湾島内の有識者は台湾がアメリカの『経済植民地』になる可能性があると警告している」という。
注)中国最大の輸入相手は台湾で、中でも戦略物資の半導体が最大という実態を踏まえたうえでの議論である。2022年6月台湾行政院は、アメリカとの間で「21世紀の貿易に関する台湾・米国イニシアチブ」を立ち上げ、2023年1月14~17日には、台湾当局とアメリカ通商代表部(USTR)が米台の貿易枠組みをめぐる協議をおこない、一定の進展を見た。
第三は軍事分野での「非対称戦略」である。
李氏は、「バイデン政権が登場してから台湾を反中国の『前進拠点』、より正確には『ヤマアラシ』にしようとしてきた」「アメリカはさらに多くの軍要員を派遣しようとしているが、その目的は、台湾防衛部門をさらに深くアメリカ軍の防衛作戦体系に繰り入れようとするものだ」 と強い警戒感を示している。
注)ヤマアラシ(戦略)は、短距離対空ミサイル・魚雷・快速攻撃車両・自走砲・対戦車ミサイル・対艦ミサイルなどの導入によって、アメリカの援助の下、台湾軍が中国軍から制海・制空権を奪い取ろうとする戦略を指す。
第四は、台湾とアメリカの政治家上層が非公式に相互訪問して重大事態を製造しようと策動していると米台の連携を指摘する。
「新任のアメリカ下院議長マッカーシーが台湾訪問を計画しているほか、近く、外交部長(外相)呉釗燮(ごしょうしょう)と安全部門の秘書長顧立雄がワシントンを訪問しアメリカの高官と面会した。ある台湾メディアは、このとき米台双方の軍事的連携や上層人物の相互訪問の詳細を協議した可能性がある」
李氏が指摘するように、この数ヶ月米台高官の相互訪問が頻繁となり、安保協力強化の動きが目立ってきたのは事実である(毎日 2023・02・25)。
そして李牧野氏は、「台独」分子と反中国勢力は「火中の栗を拾おう」とし、「平和を守れという旗をふり……武力で独立を謀るという悪事をやっている」と米政府と蔡英文政権を非難し、 「両岸の平和を望む台湾民衆は高度の警戒心を持ち、軽はずみをせず,大陸と手を携え、両岸の平和を擁護し促進するために知恵と力を出すよう期待する」と、まるで中国共産党の公式声明のような言い方で論評を結んでいる。
これからすれば、米下院議長マッカーシー氏が台湾訪問を強行した場合、中国の報復は2022年のペロシ氏訪台後の軍事演習と同様かそれ以上になり、さらに米中間の緊張が高まる可能性は否定できない。
おわりにひとこと。
著者李牧野という人物は謎である。また彼が属する正奇経緯智庫というシンクタンクも、これを所有する北京正奇経緯科技有限公司も素性不明。このシンクタンクには李牧野と同じ特約研究員という肩書を持つ数人の人物がいるが、これも正体がわからない。
同公司は2019年12月に登記されたが、徐偉という人物が100%出資した個人企業である。ソーシャルメディアのアカウントを持ち、反米・反民進党のメッセージを頻繁に出しているが、会社自体のHPはなく、シンクタンクについての情報もない。
なぜ素性のわからない研究員の論説やら分析を、環球時報といった権威ある国営メディアが取り上げるか、不可解というほかない。
憶測すれば、この数年西側においては、中国からの政治的シグナルが国営メディアや研究所・大学発というだけで、単なるプロパガンダの類と見られることがしばしばうまれている。このため中国当局は、既存の発信機関だけでなく、あえて民間のプラットフォームを装い、これを介して中国共産党や中国軍の本音を発信する手を採用したのではなかろうか。 (2023・03・02)
2023.03.04
韓国 出生率0.78の衝撃
韓国通信NO715
昨年(2022年)の韓国の合計特殊出生率※(以下出生率)は過去最低の0.78だった。4年前に出生率1.0を割り込んだまま低下に歯止めがかからない。 一昨年の日本の出生率は1.3だった。岸田首相は「異次元の少子化対策」を重要課題として表明。両国とも国家存亡の危機に立たされた感がある。 (※合計特殊出生率とは15~49歳までの既婚・未婚問わない全女性の年齢別出生率を合計したもので、女性人口の年齢構成の違いを除いたその年の出生率)
<このまま行くと…>
今世紀末には日本の人口は5300万人、韓国は3000万人以下と予想されている。
日本は過去100年間に3倍以上人口が増えた。人口が減少すれば食糧不安もなく自然環境にもプラス、ゆとりある生活ができるとのんきなことは言っていられない。財政、教育、社会保障面などあらゆる仕組みの破綻が予想される。山のように積み上げた国の借金を将来の世代に押し付けるわけにはいかないではないか。
世界最低を記録した韓国の議論を参考にわが国の少子化問題を考えた。
出生率の低下は先進国に共通する傾向である。ワシントン大学の研究チームは世界の人口が2064年をピークに世紀末は9憶人減少すると予測する。先進23か国の人口は半減、最も人口の多い中国もピーク時14億人から半減が予想されている。豊かになれば出生率が低下する一方、アフリカ地域の人口は今世紀末には3倍増の30憶人を超えるという。減少が予想される諸国は人口維持ラインの出生率2.1を目指すが効果は上がっていない。
<韓国と日本>
韓国からせめて「日本並み」にという声も聞こえてくるが日本人としては面はゆい。韓国政府はこれまで少子化傾向に手をこまねいてきたわけではない。児童手当、1歳以下の子どもがいる家庭に「親給与」の支給、新婚夫婦への経済支援。にもかかわらず一向に改善されなかった。
何故、韓国の若者たちが結婚をためらい、子どもをつくろうとしないのか。
住宅価格の高騰、就職難、不安定な非正規雇用職場、教育費の負担と激化する受験競争などがあげられる。女性たちからは仕事と家庭の両立の難しさの声があがる。韓国特有の事情とばかりは考えにくく、日本も似たり寄ったりだ。強いて言うならソウル一極集中による極度の住宅事情の悪さと若者の就職難は日本とは比較にならないほど厳しい。さらに儒教的束縛が根強く残る韓国社会を指摘する人も多い。
私は韓国から来た五人の女子留学生たちから韓国語を学んだが、一人を除いて独身である。彼女たちは大学院を卒業後、結婚より仕事を選んだ。唯一既婚者だった先生が自分のことを「家の奴隷」と嘆いていたことを思い出す。日本では想像できないほど女性に過酷な社会。また日本とは比較にならい学歴偏重社会、出世主義と肩書万能社会である。多くの若者は新自由主義社会の洗礼をうけ将来を展望できないでいる。若者たちの不満が噴出した結果、政権交代が生じたとさえ言われている。
生きづらさを抱えた韓国の若者たちが出生率を下げているのはわかるような気がする。だが事情は日本も五十歩百歩。程度の違いが出生率1.3と0.78に表れているに過ぎない。韓国から手本にしたいとまで言われる日本の出生率は改善する見通しは立っていない。 最新の『朝鮮日報』は―
「少子化対策は国をあげて取り組まねばならない。雇用、住宅、育児、教育、移民など、国のあらゆる政策を『出産・育児に優しい』という観点から見直すべきだ。今のままではこの国に未来はない」と危機感をあらわに警鐘を鳴らす。
<日本の将来は>
遅きに失したわが国の少子化対策は財源も具体策も明らかでない。「異次元」とふれこんだ対策を支持する人は少ない(所信表明演説直後の世論調査では朝日新聞・日経新聞とも支持しないが支持を上回った)。首相への不信感が背景にある。国防費倍増とセットになった感のある少子化対策には「愛情」のひとかけらも感じられない。首相の頭には人的資源(いやな言葉である)の減少に対する危機感ばかりがあるようで、結婚しない(できない)子どもを産まない人たちの生活がまるで見えていないようだ。カネをはずむから「子どもを産んで」という発想の安易さと貧しさ、庶民生活に対する鈍感さ、なれ合い春闘に見せる「新しい資本主義」のかたち、反省無き「安倍政治」の踏襲、統一教会との関係も清算しないまま、突如として方向転換した原発政策。戦争を前提とした軍事費倍増計画、閣議決定ですべて決める目に余る国会軽視。
戦前の「産めよ 増やせよ 国のため」の国策標語が思い浮かんだ。
それにしても日本はなんと不安に満ちた国なのだろう。敵基地攻撃能力では国民の命と財産を守れない。原発が安価で安全なエネルギーと言い出すお粗末さ。ミサイルを撃ち合えば多くの命が失われる。政府が国民に子どもを産んで欲しいとお願いする資格はない。
安心して子どもを産み育てることができる社会をつくるのが前提だ。生まれた子供たちを低賃金労働者として、愛国兵士として期待するだけではないか。
日本という国を存続させるために、ひょっとして諸外国、特にアフリカ諸国からの移民に期待する時期がいずれ来るかもしれない。
100年先を見据えた少子化問題と国の在り方について根本から考える時だ。金儲けのことしか考えない政治家や経済人の賞味期限は切れた。
フクシマを忘れない! 再稼働を許さない!
さようなら原発 全国集会のお知らせ
2023年3月21日 春分の日 会場 東京代々木公園イベント公園
13時~オープニング 13時30分~トーク 落合恵子 鎌田慧さんほか
15時15分~デモ行進
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)
昨年(2022年)の韓国の合計特殊出生率※(以下出生率)は過去最低の0.78だった。4年前に出生率1.0を割り込んだまま低下に歯止めがかからない。 一昨年の日本の出生率は1.3だった。岸田首相は「異次元の少子化対策」を重要課題として表明。両国とも国家存亡の危機に立たされた感がある。 (※合計特殊出生率とは15~49歳までの既婚・未婚問わない全女性の年齢別出生率を合計したもので、女性人口の年齢構成の違いを除いたその年の出生率)
<このまま行くと…>
今世紀末には日本の人口は5300万人、韓国は3000万人以下と予想されている。
日本は過去100年間に3倍以上人口が増えた。人口が減少すれば食糧不安もなく自然環境にもプラス、ゆとりある生活ができるとのんきなことは言っていられない。財政、教育、社会保障面などあらゆる仕組みの破綻が予想される。山のように積み上げた国の借金を将来の世代に押し付けるわけにはいかないではないか。
世界最低を記録した韓国の議論を参考にわが国の少子化問題を考えた。
出生率の低下は先進国に共通する傾向である。ワシントン大学の研究チームは世界の人口が2064年をピークに世紀末は9憶人減少すると予測する。先進23か国の人口は半減、最も人口の多い中国もピーク時14億人から半減が予想されている。豊かになれば出生率が低下する一方、アフリカ地域の人口は今世紀末には3倍増の30憶人を超えるという。減少が予想される諸国は人口維持ラインの出生率2.1を目指すが効果は上がっていない。
<韓国と日本>
韓国からせめて「日本並み」にという声も聞こえてくるが日本人としては面はゆい。韓国政府はこれまで少子化傾向に手をこまねいてきたわけではない。児童手当、1歳以下の子どもがいる家庭に「親給与」の支給、新婚夫婦への経済支援。にもかかわらず一向に改善されなかった。
何故、韓国の若者たちが結婚をためらい、子どもをつくろうとしないのか。
住宅価格の高騰、就職難、不安定な非正規雇用職場、教育費の負担と激化する受験競争などがあげられる。女性たちからは仕事と家庭の両立の難しさの声があがる。韓国特有の事情とばかりは考えにくく、日本も似たり寄ったりだ。強いて言うならソウル一極集中による極度の住宅事情の悪さと若者の就職難は日本とは比較にならないほど厳しい。さらに儒教的束縛が根強く残る韓国社会を指摘する人も多い。
私は韓国から来た五人の女子留学生たちから韓国語を学んだが、一人を除いて独身である。彼女たちは大学院を卒業後、結婚より仕事を選んだ。唯一既婚者だった先生が自分のことを「家の奴隷」と嘆いていたことを思い出す。日本では想像できないほど女性に過酷な社会。また日本とは比較にならい学歴偏重社会、出世主義と肩書万能社会である。多くの若者は新自由主義社会の洗礼をうけ将来を展望できないでいる。若者たちの不満が噴出した結果、政権交代が生じたとさえ言われている。
生きづらさを抱えた韓国の若者たちが出生率を下げているのはわかるような気がする。だが事情は日本も五十歩百歩。程度の違いが出生率1.3と0.78に表れているに過ぎない。韓国から手本にしたいとまで言われる日本の出生率は改善する見通しは立っていない。 最新の『朝鮮日報』は―
「少子化対策は国をあげて取り組まねばならない。雇用、住宅、育児、教育、移民など、国のあらゆる政策を『出産・育児に優しい』という観点から見直すべきだ。今のままではこの国に未来はない」と危機感をあらわに警鐘を鳴らす。
<日本の将来は>
遅きに失したわが国の少子化対策は財源も具体策も明らかでない。「異次元」とふれこんだ対策を支持する人は少ない(所信表明演説直後の世論調査では朝日新聞・日経新聞とも支持しないが支持を上回った)。首相への不信感が背景にある。国防費倍増とセットになった感のある少子化対策には「愛情」のひとかけらも感じられない。首相の頭には人的資源(いやな言葉である)の減少に対する危機感ばかりがあるようで、結婚しない(できない)子どもを産まない人たちの生活がまるで見えていないようだ。カネをはずむから「子どもを産んで」という発想の安易さと貧しさ、庶民生活に対する鈍感さ、なれ合い春闘に見せる「新しい資本主義」のかたち、反省無き「安倍政治」の踏襲、統一教会との関係も清算しないまま、突如として方向転換した原発政策。戦争を前提とした軍事費倍増計画、閣議決定ですべて決める目に余る国会軽視。
戦前の「産めよ 増やせよ 国のため」の国策標語が思い浮かんだ。
それにしても日本はなんと不安に満ちた国なのだろう。敵基地攻撃能力では国民の命と財産を守れない。原発が安価で安全なエネルギーと言い出すお粗末さ。ミサイルを撃ち合えば多くの命が失われる。政府が国民に子どもを産んで欲しいとお願いする資格はない。
安心して子どもを産み育てることができる社会をつくるのが前提だ。生まれた子供たちを低賃金労働者として、愛国兵士として期待するだけではないか。
日本という国を存続させるために、ひょっとして諸外国、特にアフリカ諸国からの移民に期待する時期がいずれ来るかもしれない。
100年先を見据えた少子化問題と国の在り方について根本から考える時だ。金儲けのことしか考えない政治家や経済人の賞味期限は切れた。
フクシマを忘れない! 再稼働を許さない!
さようなら原発 全国集会のお知らせ
2023年3月21日 春分の日 会場 東京代々木公園イベント公園
13時~オープニング 13時30分~トーク 落合恵子 鎌田慧さんほか
15時15分~デモ行進
2023.03.03
プーチン「習近平を待っている」・・・しかし、習はモスクワへ行けるか
―ウクライナ戦争1年、両者になにが起こったか?
田畑光永 (ジャーナリスト)
昨2022年2月4日、北京での中ロ首脳会談は歴史に残る会談であった。終了後、同席した中国のベテラン外交官が記者団に「中ロ関係に上限はない」と叫んだほどに、両国関係の密接ぶり、明るい未来を出席者が共有した時間であった。
話の中身はロシアのウクライナへの武力侵攻計画であり、それに続く大ロシア帝国復活への展望であり、そしてそれはまた中国の台湾併合への道を照らし出したものでもあったはずだ。この会談ではウクライナ侵攻の話は出なかったという関係者の発言もあるが、出ていても出なかったと当事者は言い張るのが通例のテーマであるから、そこを詮索してもあまり意味はない。いずれにしろ両首脳がバラ色の近未来を共有したことはあの雰囲気からして間違いない。
しかし、それから半年後、米ペロシ下院議長が台湾を訪問した際に、中国軍が台湾周辺の海域にミサイルを雨あられと撃ち込んだのは、プーチンのセールス・トークを信じた習近平の自分へのうっぷん晴らしであったとしか思えない。
そしてさらに半年が過ぎて、侵攻は2年目に入った。戦況は局地的には激戦が続いているようであるが、ロシア軍に開戦当初の勢いはすでになく、今や何を目的に戦っているのか、はっきりしない状況に陥っているように見える。
一方、ウクライナ軍も西側諸国の武器援助を受けつつ必死に反抗を試みてはいるものの、ロシア軍を領域外に一気に追い出すまでの力はなさそうである。
そこで、手詰まり打開のチャンスと見たのかどうか、突然、中国が「自国の立場」なるものを打ち出してきた。と言っても、しかるべき責任者が国際会議や記者会見で発表するといった公式の形ではなく、「ウクライナ危機の政治解決に関する中國の立場」と題する文書を外交部のウエブサイトに掲載するといった珍しい形での発表であった。2月24日のことである。
この文書には前書きもなければ、発信者の名前も部署名もなく、いきなり「一」から始まって「十二」まで、A4判なら一枚紙で終わるという、はなはだ味もそっけもない事務的な文書である。
しかし、同時にその12項目にはそれぞれ漢字数文字の見出しがついているので、内容は分かりやすい。とりあえずその見出しを紹介するとー
1、各国の主権尊重 2、冷戦思考の放棄 3、停戦 4、交渉開始 5、人道危機の解決 6、一般国民と捕虜の保護 7、原子力発電所の安全維持 8、戦略的危機の減少(核兵器不使用、核戦争起こさず)
9、食糧の海外輸送の保障 10、一方的制裁の停止 11、産業チェーン・供給チェーンの安定確保
12、戦後再建の確保―である。
一見する限りでは紛争を解決するための討議項目として、ごく普通の項目が並んでいる。とくに第5項以下の各項は紛争解決のためには一般的に必要な項目であり、細目は別にしてとくに討議事項としては異論を呼ぶものではなさそうである。
しかし、冒頭の4項は、今回のロシア軍によるウクライナに対する宣戦布告もなしの一方的攻撃開始という事態の特殊性にまったく触れることなしに一般原則を列挙したとの見せかけの上で、加害者と被害者の区別をことさらに曖昧にしようとする非常識きわまりないものである。
たとえば第1項の締めくくりの一節には「国際法は平等、統一的に適用すべきであって、ダブル・スタンダードは採用すべきでない」とある。一般論としてはその通りであるが、一方的に攻撃を加えているものとそれから身を守っているだけのものに向かって、ことさらこんな理屈を述べ立てるのは、一般論に隠れて加害者と被害者を同列に並べる、つまり加害者の加害部分を消去しようとの下心と見られても仕方がないだろう。
第2項の「冷戦思考の放棄」を見よう。この項目の後半は極めて難解である。こういう文章だ。
「複雑な問題に簡単な解決方法はない。共同、綜合、協力、持続可能な安全観を堅持して、世界の長期平和に目を向け、均衡、有効、持続的なヨーロッパの安全構想の構築を進め、自国の安全を他国の不安全の基礎の上に建てることに反対し、陣営間の対抗を形成することを防いで、アジア・ヨーロッパ大陸の平和、安定を共同で守る」
大国ロシアが小国ウクライナを武力で跪かせ、うまくいけば併合しようと攻め込んだ、としか見えない今度の戦火を、ことさらに「複雑な問題」と定義して「簡単な解決方法はない」と決めつける。
そしてこれでもかと形容詞を羅列して、あげく「自国の安全を他国の不安全の基礎の上に建てることに反対して、陣営間の対抗を形成することを防ぐ」と話は広がる。よく読めば「ウクライナ(自国)の安全をロシア(他国)の不安全な基礎の上に建てることに反対し」と、「NATOの東への拡大に反対」するプーチンの言い分の肩を持ち、どっちがどっちを攻めているのかという火種を隠して、ことはロシアの侵略ではなく、「陣営間の対抗である」と、まさに「冷戦思考」そのものに話をつなげていく。
くどくなるので、3、4項は省略するが、要するに今回の戦火について、加害・被害の別、道理・非道理の別を曖昧にして、国家間の衝突一般に還元し、それを言葉とは裏腹にかつての冷戦構造の再現に強引に結び付けて、プーチンを被告席に立たせることなく、事態をあいまいの闇に葬ろうという下心が丸見えの作文である。
なるほどこれではさすがの出たがり屋の習近平、王毅両氏も自分の署名で世界に出すことを逃げ、それ以下の署名では国際的に相手にされないということで、結局、無署名の性格不明の文書としてウエブサイトに載せたものであろう。
*****
それにしても、なぜこんな形で中國はウクライナ戦争への態度表明をしたのであろうか。昨秋の20回共産党大会で前代未聞の総書記3期留任を実現した習近平にとっては、来月5日からの第14期全国人民代表大会(全人代)が国務院の新体制とともに新しい「施政の方向」を明らかにする正念場である。
と同時に、昨秋の第20回共産党大会では総書記3選ははたしたものの、その後の「コロナ」の処理では大きく躓いて、白紙デモのような街頭での大衆運動さえ各地に発生した。それは大事にならずに済んだとはいえ、今度の全人代を体制の新スタートのやりなおしとしたい。そのためにはウクライナ戦争の解決に向けて、イニシアティブを握りたいという気持が動いたことが考えられる。
この1年、思えば習近平にとってはすべてがこと志と違う方に転がってしまった。総書記3選という大目標こそ達成したが、コロナ対策の迷走による民心の離反、不動産不況に象徴される経済の活力消滅、対外的にはなんとかミサイルの脅しでペロシ氏の訪台を阻止しようとしたのが無視されて、1人で拳を振り回すピエロを演じてしまったこと等々、とくにウクライナ戦争については、ロシアを制裁する決議案が出されるたびに、「棄権」票を投ずるという安保理常任理事国とも見えない不甲斐無い態度に終始した。
したがって、開戦2年目に入ったこのあたりでなんとか存在感を示したい、という焦りが、この文書を生んだとも考えられる。しかし、ことはそれだけであろうか。
じつはこの文書が中国外交部のウエブサイトに登場する2日前、中国共産党の外交担当の政治局員、王毅前外相が22日、モスクワでプーチン大統領と会った。しかし、この会談を伝えたニュースはプーチンが「習近平の訪ロを待っている」と王毅に伝えたということしか報じていない。
プーチンの発言として伝えられたのは「ロシアと中国の関係は計画通りに発展している。国連だけでなく、BRICKSや上海協力機構などでも協力している。中國で政治的な議題(全国人民代表大会)があることを理解している。(習氏の)ロシアへの訪問を待っている」という、あたりさわりのない言葉であった。
王毅は中国外交の最高責任者である。しかし、発表はウクライナについても、ほかの外交問題についても(2人が)「意見を交換した」とは言っていない。つまり、プーチンは王毅と国際情勢について意見を交換する気などなかった、ということになる。それでいて「習のロシア訪問を待っている」とはどういう意味か。
私見を述べれば、プーチンはウクライナ戦争についての、中国の、あえて言えば習近平の態度には不満がいっぱいなのだ。一言で言えば「去年と約束が違うではないか」ということだ。去年の2月4日、「中ロ関係には上限はない」というほどに盛り上がった会談で、おそらく習はウクライナで精一杯の協力をプーチンに約束したのではなかったか。
そう仮定すれば、これまでの中国の煮え切らない態度はすべて合点がいく。中國にすれば、「もっと素早くけりをつけると言ったではないか」と言いたいだろうし、ロシアにすれば「協力するといったではないか。武器を寄越すなどもっと協力しろ」と怒鳴りたい心境であろう。
だから王毅の顔を見ても、国際情勢の話などする気にならず、なにより習近平に直接会うことが大事だった。「習が来るのを待っている」という言葉は聞きようによっては怖い脅しではないか。
プーチン・王のモスクワ会談のあたりから、中国からロシアへの武器援助の話が取りざたされるようになったのは、火のないところに煙は立たず、というところだろう。そしてまた紹介した24日の無署名の外交部文書もそれへの布石(プーチンの反応を見るための)と考えれば、分かりやすい。
中国の全国人民代表大会は5日から1週間くらいだから、その後、3月中旬以降、ウクライナの戦況と絡んで中ロ間でどのような駆け引きが演じられるか、注目に値する。(230227)
2023.02.25
ロシアは中国人観光客を待っている?
――八ヶ岳山麓から(417)――
ロシアがウクライナに侵攻してから、日米欧は経済制裁を科しているが、中国の対ロシア貿易は拡大しつづけている。中国は貿易拡大による日米欧の制裁を警戒しながら、ロシアと一定の距離を置いた関係を維持しつつ貿易を通して事実上の経済援助を拡大してきた。最近では、中国による武器援助もとりざたされている。
2022年の中露貿易の総額は、前年比29.3%増の過去最高となった。とりわけ中国の輸入は43.4%増で、エネルギーの増加が目立つ。経済制裁によってロシア産原油は一時割安となったが、中国は欧州連合(EU)に代わり、ロシアにとって最大の原油輸出先となっている。
これにひきかえ、ロシアへの外国人観光客は激減した。2022年は20万100人となり、コロナ前の19年の510万人から96.1%減少した。ちなみに20年は33万5800人、21年は28万8300人だった。
昨年2月にロシアがウクライナに侵攻すると、欧州各国は数日後には領空内でのロシア航空機の飛行を禁止した。アエロフロート・ロシア航空は、3月にすべての国際便の運航を停止した。
現在「友好国」行きの便は徐々に再開しているというが、中国が最近まで新型コロナ感染防止対策として厳格な規制を敷いていたことから、コロナ流行前に外国人観光客の約3割を占めていた中国人観光客は回復せず、22年はわずか842人にとどまった(AFP 2023・2・10)。
ところが人民日報国際版の「環球時報」は、近頃ロシアの「モスクワ・コムソモリスカヤ紙」2月9日付けの下記のような記事を転載した。中国政府が外国への団体旅行を解禁したことから、ロシアが比較的金持の中国人観光客を呼び込もうとし、それに中国官界が幾分か応えたものと見ることができよう。
同記事はウクライナ戦争について何一つ触れることなく、モスクワやサンクトペテルブルク、シベリアのバイカル湖、オーロラ見物ができるムルマンスクなどを挙げ、中国人観光客を誘っている。また、以前はロシア観光の際は、スリ・かっぱらい、スキンヘッドのやくざなどの危険があるという話があったが、現在は治安上の心配がなくなったともいう。中国人は夏のロシア観光シーズンが来たときどんな行動をとるだろうか。
「中国観光客ななぜロシアが好きか」(筆者はアンナ・カルビツカヤ=音訳、漢語への翻訳は柳玉鵬)を見てみよう。それによると――
中国が国外への団体旅行を開放してから中国旅行業界は、中国人の国外旅行を毎年800万人増加を見込み大いに期待している。それだと2030年までにはこの数字は2億2800万人になる。
中国旅行客は、まずどこへ行くのだろうか?旅行計画にロシアは含まれているのだろうか?
このためわれわれ(モスクワ・コムソモリスカヤ紙)は、中露の国際結婚をしたロシア作家のワキム・チクノフ(音訳)と上海記者粛荷(音訳)夫妻をたずねた。二人はこもごも、中国人はみな国外旅行の制限が取り払われたことを大変喜んでいる、しかもロシアには関心が高く、大勢がオーロラの下で記念写真を撮るのを夢見ているだろうと語った。
ワキムは、「ロシアに初めて来た中国人は、まずモスクワとサンクトペテルブルグに行くと面白いはずだ」と言った。ロシアに来たことのある人は、二度目もこの二つの都市と博物館へ見物に行きたがる。
中国人は、バイカル湖へのコースをたいへんに好む。冬は、彼らは(バレンツ海方面の)ムルマンスクへ行くか、そうでなければ(白海に面した)アルハンゲリスクへ行くか、それともこの二つとも行く。これはオーロラを見ることのできるコースである。
ワキムがみたところ、50歳以上の中国人、とくに退職した人は(個人旅行よりも)団体旅行を好む。これは彼らにとってよりたのしく安全を感じさせるもので、それが習慣でもある。若者は個人あるいは家族旅行を好む傾向が強くなった。中国人は適応力があるから旅行中のちょっとした不便や困難を我慢することができる。その主な行動はといえば、まず彼らは熱い湯を入れた魔法瓶を持っている。お茶を入れたり、カップ麺を食べたり、路上で白湯を飲むのである。また中国人の多くは、インスタントラーメンも用意している。これは旅費節約のためというよりは、現地の食べ物に慣れないからだといえよう。
ワキムによれば、中国人の旅行者は、旅行中にカネを使ってぜいたくをしようとはしない。だが彼らは記念品を買うにあたってはけちけちせずカネを使うという。ロシアでは中国人はいつもローズゴールドや琥珀やチョコレートを買う。
注)ローズゴールドはピンク色が入っている黄金でロシアのこの種の黄金は有名とのこと)
また、彼らはいつも生薬を原料にした化粧品やいろんな民間薬を買う。彼らがウォトカを買うのはその瓶を記念品とするためである。このため瓶にはロシアの象徴がしるされたものを選ぶ。もっとも好まれるのは、クレムリン宮殿をあしらった瓶である。
注)ワキムが土産物として、ロシアの入れ子人形「マトリョーシカ」をとりあげないのは不可解である。
そのほか、旅行の安全面については、中国人はすこしの心配もない。大多数の中国人は、ロシアは非常によいところだという。どんな国でも旅行者は、いろんなペテン師のたぐいや町のよた者のもっともよい目標であることをよくよくわかっている。だから(中国人も)旅行中はそれなりの注意をしている。
ワキムは、以前はロシアを観光する中国人の中に、スキンヘッド党といったヤクザの心配があるといううわさが流れていたが、現在はこのようなニュースはなくなった。だから中国人はロシアへ来て安心しておおいに楽しんでもらいたいと語った。(「モスクワ・コムソモリスカヤ紙」。2023・2・9)
阿部治平 (もと高校教員)
ロシアがウクライナに侵攻してから、日米欧は経済制裁を科しているが、中国の対ロシア貿易は拡大しつづけている。中国は貿易拡大による日米欧の制裁を警戒しながら、ロシアと一定の距離を置いた関係を維持しつつ貿易を通して事実上の経済援助を拡大してきた。最近では、中国による武器援助もとりざたされている。
2022年の中露貿易の総額は、前年比29.3%増の過去最高となった。とりわけ中国の輸入は43.4%増で、エネルギーの増加が目立つ。経済制裁によってロシア産原油は一時割安となったが、中国は欧州連合(EU)に代わり、ロシアにとって最大の原油輸出先となっている。
これにひきかえ、ロシアへの外国人観光客は激減した。2022年は20万100人となり、コロナ前の19年の510万人から96.1%減少した。ちなみに20年は33万5800人、21年は28万8300人だった。
昨年2月にロシアがウクライナに侵攻すると、欧州各国は数日後には領空内でのロシア航空機の飛行を禁止した。アエロフロート・ロシア航空は、3月にすべての国際便の運航を停止した。
現在「友好国」行きの便は徐々に再開しているというが、中国が最近まで新型コロナ感染防止対策として厳格な規制を敷いていたことから、コロナ流行前に外国人観光客の約3割を占めていた中国人観光客は回復せず、22年はわずか842人にとどまった(AFP 2023・2・10)。
ところが人民日報国際版の「環球時報」は、近頃ロシアの「モスクワ・コムソモリスカヤ紙」2月9日付けの下記のような記事を転載した。中国政府が外国への団体旅行を解禁したことから、ロシアが比較的金持の中国人観光客を呼び込もうとし、それに中国官界が幾分か応えたものと見ることができよう。
同記事はウクライナ戦争について何一つ触れることなく、モスクワやサンクトペテルブルク、シベリアのバイカル湖、オーロラ見物ができるムルマンスクなどを挙げ、中国人観光客を誘っている。また、以前はロシア観光の際は、スリ・かっぱらい、スキンヘッドのやくざなどの危険があるという話があったが、現在は治安上の心配がなくなったともいう。中国人は夏のロシア観光シーズンが来たときどんな行動をとるだろうか。
「中国観光客ななぜロシアが好きか」(筆者はアンナ・カルビツカヤ=音訳、漢語への翻訳は柳玉鵬)を見てみよう。それによると――
中国が国外への団体旅行を開放してから中国旅行業界は、中国人の国外旅行を毎年800万人増加を見込み大いに期待している。それだと2030年までにはこの数字は2億2800万人になる。
中国旅行客は、まずどこへ行くのだろうか?旅行計画にロシアは含まれているのだろうか?
このためわれわれ(モスクワ・コムソモリスカヤ紙)は、中露の国際結婚をしたロシア作家のワキム・チクノフ(音訳)と上海記者粛荷(音訳)夫妻をたずねた。二人はこもごも、中国人はみな国外旅行の制限が取り払われたことを大変喜んでいる、しかもロシアには関心が高く、大勢がオーロラの下で記念写真を撮るのを夢見ているだろうと語った。
ワキムは、「ロシアに初めて来た中国人は、まずモスクワとサンクトペテルブルグに行くと面白いはずだ」と言った。ロシアに来たことのある人は、二度目もこの二つの都市と博物館へ見物に行きたがる。
中国人は、バイカル湖へのコースをたいへんに好む。冬は、彼らは(バレンツ海方面の)ムルマンスクへ行くか、そうでなければ(白海に面した)アルハンゲリスクへ行くか、それともこの二つとも行く。これはオーロラを見ることのできるコースである。
ワキムがみたところ、50歳以上の中国人、とくに退職した人は(個人旅行よりも)団体旅行を好む。これは彼らにとってよりたのしく安全を感じさせるもので、それが習慣でもある。若者は個人あるいは家族旅行を好む傾向が強くなった。中国人は適応力があるから旅行中のちょっとした不便や困難を我慢することができる。その主な行動はといえば、まず彼らは熱い湯を入れた魔法瓶を持っている。お茶を入れたり、カップ麺を食べたり、路上で白湯を飲むのである。また中国人の多くは、インスタントラーメンも用意している。これは旅費節約のためというよりは、現地の食べ物に慣れないからだといえよう。
ワキムによれば、中国人の旅行者は、旅行中にカネを使ってぜいたくをしようとはしない。だが彼らは記念品を買うにあたってはけちけちせずカネを使うという。ロシアでは中国人はいつもローズゴールドや琥珀やチョコレートを買う。
注)ローズゴールドはピンク色が入っている黄金でロシアのこの種の黄金は有名とのこと)
また、彼らはいつも生薬を原料にした化粧品やいろんな民間薬を買う。彼らがウォトカを買うのはその瓶を記念品とするためである。このため瓶にはロシアの象徴がしるされたものを選ぶ。もっとも好まれるのは、クレムリン宮殿をあしらった瓶である。
注)ワキムが土産物として、ロシアの入れ子人形「マトリョーシカ」をとりあげないのは不可解である。
そのほか、旅行の安全面については、中国人はすこしの心配もない。大多数の中国人は、ロシアは非常によいところだという。どんな国でも旅行者は、いろんなペテン師のたぐいや町のよた者のもっともよい目標であることをよくよくわかっている。だから(中国人も)旅行中はそれなりの注意をしている。
ワキムは、以前はロシアを観光する中国人の中に、スキンヘッド党といったヤクザの心配があるといううわさが流れていたが、現在はこのようなニュースはなくなった。だから中国人はロシアへ来て安心しておおいに楽しんでもらいたいと語った。(「モスクワ・コムソモリスカヤ紙」。2023・2・9)
2023.02.22
「プーチンの戦争は失敗した。ロシアは何を望んでいるのか」
(英BBC日本時間20日早朝の国際報道)
英国BBCの国際ニュースは、日本時間20日早朝、Paul Kirby(BBC News)の名前入りで、下記に添付した報道をした。以下にその全部を紹介しようー
ウラジーミル・プーチンは、2022年2月24日に最大20万人の兵士をウクライナに送り込んだとき、数日のうちに首都キエフに突入し、政府を退陣させられると誤って考えていた。
屈辱的な撤退を繰り返した後、彼の最初の侵略計画は明らかに失敗しているが、ロシアの戦争はまだ負けていない。
プーチンの当初の目的は何だったのだろうか。
今でもロシアの指導者は、第2次世界大戦後最大の欧州侵攻を「特別軍事作戦」と表現している。ウクライナ全土の市民を爆撃し、1300万人以上を海外に難民として、あるいは自国内に避難民として残す戦争のことでもない。
2022年2月24日に彼が宣言した目標は、ウクライナを非軍事化し、武力で占領しないことであり、2014年からロシアの代理勢力に占領されているウクライナ東部の領土独立を支持することである。
プーチンは、8年間にわたるウクライナでのロシア系住民虐殺から、人々を守ると誓ったが、これは現実には何の根拠もないロシアの主張,扇動である。彼は、NATOがウクライナに足場を築くのを防ぐと話し、さらにウクライナの中立的地位を確保するという別の目的も加えた。
プーチン大統領は決して声高には言わなかったが、ウクライナの選挙で選ばれたゼレンスキー大統領の政権を倒すことが重要な課題であった。「敵は私を1番目の標的とし、私の家族を2番目の標的としている」とゼレンスキー大統領は言った。彼の顧問によると、ロシア軍は大統領官邸への襲撃を2度試みたという。
ウクライナのナチスが大量虐殺を行ったというロシアの主張は、決して納得できるものではなかったが、ロシア国営通信社ノーヴォスチは、「脱ナチス化は必然的に脱ウクライナ化でもある」、つまり実質的に近代国家ウクライナを消し去ることだと説明している。
ロシア大統領は長年にわたり、ウクライナの国家としての地位を否定してきた。2021年の長文のエッセイでは、9世紀後半にさかのぼり「ロシア人とウクライナ人は一つの民族であった」と書いている。
▼ケルソンにてー喜び、涙、そして正義の話
プーチンはいかにして戦争の目的を変えたか
キエフとチェルニヒフからの撤退後、侵攻から1カ月が経過し、プーチンの作戦目標は劇的に縮小された。主な目標は「ドンバスの解放」、つまりウクライナ東部のルハンスクとドネツクの2つの工業地帯を広義に指すようになった。
北東部のハリコフ、南部のケルソンからさらに撤退を余儀なくされ、ロシアの狙いは変わらないが、その達成にはほとんど成功していない。
このような戦況の中で、ロシアは昨年9月、東部のルハンスク、ドネツク、南部のケルソン、ザポリツィアなどウクライナの4州を完全支配することなく併合したのである。
モスクワで群衆を前に、プーチンはウクライナの領土を併合したことを祝った。プーチン大統領は、部分的で約30万人の予備兵に限ったものの、第2次世界大戦後初のロシア動員に追い込まれた。
現在、850kmに及ぶ前線で消耗戦が繰り広げられ、ロシア軍の勝利は小さく、稀である。プーチンは迅速な作戦のつもりだったが、今や西側指導者たちが、ウクライナが勝利すべきと決意した長期戦になっている。ウクライナの中立という現実的な見込みは、とっくになくなっている。
ロシアは敗北させなければならないが、粉砕はしてはならないーマクロン・仏大統領は
プーチン大統領に12月、戦争は「長期化する可能性がある」と警告したが、その後、ロシアの目標は「軍事衝突のフライホイールを回すことではない」、「それを終わらせることだ」と付け加えた。
プーチンは何を達成したのか。
プーチン大統領が主張できる最大の成功は、ロシアの国境から2014年に不法に併合したクリミアへの陸橋の支配確立し、ケルチ海峡の橋に依存しなくなったことだ。
マリウポル市やメリトポリ市を含むこの領土の獲得は、「ロシアにとって重要な結果」だと話している。ケルチ海峡の内側のアゾフ海は「ロシアの内海になった」と宣言し、ロシアのピョートル大帝でさえ、それを管理できなかったと指摘した。(了)
坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)
英国BBCの国際ニュースは、日本時間20日早朝、Paul Kirby(BBC News)の名前入りで、下記に添付した報道をした。以下にその全部を紹介しようー
ウラジーミル・プーチンは、2022年2月24日に最大20万人の兵士をウクライナに送り込んだとき、数日のうちに首都キエフに突入し、政府を退陣させられると誤って考えていた。
屈辱的な撤退を繰り返した後、彼の最初の侵略計画は明らかに失敗しているが、ロシアの戦争はまだ負けていない。
プーチンの当初の目的は何だったのだろうか。
今でもロシアの指導者は、第2次世界大戦後最大の欧州侵攻を「特別軍事作戦」と表現している。ウクライナ全土の市民を爆撃し、1300万人以上を海外に難民として、あるいは自国内に避難民として残す戦争のことでもない。
2022年2月24日に彼が宣言した目標は、ウクライナを非軍事化し、武力で占領しないことであり、2014年からロシアの代理勢力に占領されているウクライナ東部の領土独立を支持することである。
プーチンは、8年間にわたるウクライナでのロシア系住民虐殺から、人々を守ると誓ったが、これは現実には何の根拠もないロシアの主張,扇動である。彼は、NATOがウクライナに足場を築くのを防ぐと話し、さらにウクライナの中立的地位を確保するという別の目的も加えた。
プーチン大統領は決して声高には言わなかったが、ウクライナの選挙で選ばれたゼレンスキー大統領の政権を倒すことが重要な課題であった。「敵は私を1番目の標的とし、私の家族を2番目の標的としている」とゼレンスキー大統領は言った。彼の顧問によると、ロシア軍は大統領官邸への襲撃を2度試みたという。
ウクライナのナチスが大量虐殺を行ったというロシアの主張は、決して納得できるものではなかったが、ロシア国営通信社ノーヴォスチは、「脱ナチス化は必然的に脱ウクライナ化でもある」、つまり実質的に近代国家ウクライナを消し去ることだと説明している。
ロシア大統領は長年にわたり、ウクライナの国家としての地位を否定してきた。2021年の長文のエッセイでは、9世紀後半にさかのぼり「ロシア人とウクライナ人は一つの民族であった」と書いている。
▼ケルソンにてー喜び、涙、そして正義の話
プーチンはいかにして戦争の目的を変えたか
キエフとチェルニヒフからの撤退後、侵攻から1カ月が経過し、プーチンの作戦目標は劇的に縮小された。主な目標は「ドンバスの解放」、つまりウクライナ東部のルハンスクとドネツクの2つの工業地帯を広義に指すようになった。
北東部のハリコフ、南部のケルソンからさらに撤退を余儀なくされ、ロシアの狙いは変わらないが、その達成にはほとんど成功していない。
このような戦況の中で、ロシアは昨年9月、東部のルハンスク、ドネツク、南部のケルソン、ザポリツィアなどウクライナの4州を完全支配することなく併合したのである。
モスクワで群衆を前に、プーチンはウクライナの領土を併合したことを祝った。プーチン大統領は、部分的で約30万人の予備兵に限ったものの、第2次世界大戦後初のロシア動員に追い込まれた。
現在、850kmに及ぶ前線で消耗戦が繰り広げられ、ロシア軍の勝利は小さく、稀である。プーチンは迅速な作戦のつもりだったが、今や西側指導者たちが、ウクライナが勝利すべきと決意した長期戦になっている。ウクライナの中立という現実的な見込みは、とっくになくなっている。
ロシアは敗北させなければならないが、粉砕はしてはならないーマクロン・仏大統領は
プーチン大統領に12月、戦争は「長期化する可能性がある」と警告したが、その後、ロシアの目標は「軍事衝突のフライホイールを回すことではない」、「それを終わらせることだ」と付け加えた。
プーチンは何を達成したのか。
プーチン大統領が主張できる最大の成功は、ロシアの国境から2014年に不法に併合したクリミアへの陸橋の支配確立し、ケルチ海峡の橋に依存しなくなったことだ。
マリウポル市やメリトポリ市を含むこの領土の獲得は、「ロシアにとって重要な結果」だと話している。ケルチ海峡の内側のアゾフ海は「ロシアの内海になった」と宣言し、ロシアのピョートル大帝でさえ、それを管理できなかったと指摘した。(了)