2018.02.06  米国の戦後外交を踏みにじるトランプ
          大使館移転に次ぎ難民支援凍結を宣告

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

昨年12月に、イスラエルが要請し続けてきたテルアビブからエルサレムへの米大使館移転を宣言したトランプ米大統領は、世界各国とくにパレスチナ人の激しい抗議行動に対抗して、70年近くにも及ぶUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)予算の約3割を占める米国の拠出分担金支払いを1月から凍結すると発表した、これについてUNRWAトップのピエール・クレヘンビュール事務局長は1月19日、次のように朝日新聞との会見で述べたー「米国の決定は有害であり、深く失望した。UNRWAは過去最大の財政危機だ」「約50万人の生徒がUNRWAの学校に通い、年間数百万人がUNRWAの診療で治療を受けている」「政治的な対立があっても、人道支援の拠出金を圧力に使うべきではない」
UNRWAは、1947年の国連「パレスチナ分割決議」の直後のイスラエル建国宣言、第1次中東戦争によって発生した多数のパレスチナ人難民を支援するため、49年に国連が設置した機関。分割決議の成立、イスラエル建国と戦争支援には米国が大きな役割を果たした。その後の第3次中東戦争(67年)ではイスラエルが東エルサレム、ヨルダン川西岸まで占領地を拡大、新たな難民が発生した。さらに第4次中東戦争(73年)の停戦交渉も米国が調停した。
その後イスラエル占領地では、パレスチナ人の抵抗闘争が激化する一方、政治解決をめざすパレスチナ人の政治機関PLO(パレスチナ解放機構)への国連はじめ国際的認知が拡がった。そして93年、ワシントンでクリントン大統領の下、ラビン・イスラエル首相とアラファトPLO議長がパレスチナの暫定自治宣言に調印した。パレスチナ側は将来独立後のパレスチナ国家の首都を、第3次戦争でイスラエルが占領した東エルサレムを返還させ、首都とすることを表明した。
このように、第2次大戦後のパレスチナ紛争の経過では、米国はイスラエル支援では一貫しながらも、紛争の調停役をつとめた。また増え続けるパレスチナ難民対策でUNRWA経費の各国別負担では第1位を担い続け、パレスチナ紛争への発言力を確保してきた。国連はエルサレムをイスラエルの首都とは認めず、テルアビブを首都としてきたし、米政府もエルサレムを首都とは公認せず、イスラエルの強い要求にもかかわらず、テルアビブからエルサレムへの大使館移転を引き延ばしてきた。
しかし、トランプ大統領は就任1年を期すように、エルサレムを首都として公認宣言し、1年以内の大使館移転を発表したのだ。それに対し、パレスチナでは直ちに激しい抗議デモが拡がり、世界各国にも拡がった。パレスチナ自治政府は、トランプが派遣したペンス米副大統領との会談を拒否した。トランプは逆に、UNRWAへの拠出金の支出凍結を発表したのだ。
UNRWAは、パレスチナ(難民登録ガザ130万人、東エルサレムと80万人)のほか、パレスチナ難民が多く住むヨルダン、レバノン、シリアを含め合計約530万人の難民支援活動を続けている。食料、医療、電気代など生活支援、学校運営費など。やっと生きていけるだけの援助だが、パレスチナ人の子供たちは熱心に勉強している。
UNRWAによると、昨年1年間の援助の総額は、約12億4千万ドル。うち米国の拠出額は1位で、約3億6千万ドル。米国に続くのは、その半額以下のEU,サウジアラビア、ドイツ、英国。日本は7位の4千万ドルだった。米国が拠出停止は、直ちにパレスチナ難民の生活に深刻な影響をもたらす。UNRWAは、EU,サウジアラビア以下の拠出国に支援を求めるしかないが、まだ、拠出増を表明した国はない。

                    講演会のお知らせ

主催:日本大学経済学部中国アジア研究センター研究会

日時:2018年2月14日18:00-19:30
場所:日本大学経済学部7号館9階7091教室
講演者:盛田常夫氏(ハンガリー在住、元法政大学教授)
テーマ:「体制転換によって中・東欧社会はどう変わったのか-資本主義経済か、それとも特殊な市場経済か」
幹事:池本修一・日本大学経済学部
連絡先: ikemoto.shuichi@nihon-u.ac.jp

講演会のお知らせ
2018.02.03  韓国KBS放送、高社長退任確定、越年ストライキ終結へ向かう?
隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 韓国の公共放送KBSは1月22日に開催された理事会で、コ・デヨン(高大栄)社長の解任を決めた。解任を提案したイ・インホ(李仁浩)理事長は理事会後辞職した。
 昨年9月4日以降、社長退陣を求めて140日以上にわたって続いていたKBS労組の全面ストライキは、解任決定を受けて終結する見通しとなった。しかしコ社長は「公共放送としての中立性が損なわれる」と反発している。
 KBSには産業別の韓国言論労組傘下のKBS新労組と企業内のKBS労組の二組合があるが、今回のストライキでは両労組が足並みをそろえた。両労組ともに、コ社長の態勢の下で、パク・クネ(朴槿恵)政権を批判するニュースが抑えられ、逆にパク政権を擁護する報道が行われたとして、報道の自由を求めて、経営首脳部の一掃を求めてストライキに入ったものである。KBSでは2008年のイ・ミョンパク(李明博)政権誕生以降、パク政権退陣(2017年)に至るまで、9年間にわたって続いた保守政権がKBSの主要人事を握り、政権擁護の報道機関だとの汚名を受け続けてきた。
 特にパク政権の下では、政府批判の報道を行った記者の配置転換、解雇があったほか、2014年のセウル号沈没事件で、政府からの報道差し止めを社長が受け入れたことも、問題となった。北朝鮮の核実験という大きなニュースがあったが、記者たちは取材を拒否した。また、ニュース、時事番組の放送休止や、時間短縮が相次ぎ、ニュースが録画で放送されるという事態にもなったという。人気娯楽系番組も一部休止となった。そのため、放送本部の部長、デスクなど25人が、社長は責任を取って辞職すべきだとの共同声明を出した。視聴者からは「受信料返せ」など、批判的なメールも多数寄せられていた。
 社長解任を報じた「ハンギョレ」新聞は、「国民の念願だった公営放送の正常化の第一歩だ」(1/23)と歓迎している。
 理事会はこれまで前保守政権(現野党)系の理事が多数を占めていたが、保守系の一部理事が公金不正事件で辞任したことから、与党系理事が多数となり、社長解任が決まったといういきさつもある。
 韓国の放送は大統領が保守系か革新系かで政権が変わるごとに揺れ動いてきたが、今回ばかりは、「権力からの独立性と公共性が課題だ」(ハンギョレ新聞1/23)という世論にどう対応するかが問われている。
     韓国KBS放送、高社長退任確定、越年ストライキ終結へ向かう?
22日、ソウル汝矣島(ヨイド)のKBS本館ロビーでコ・デヨンKBS社長の解任建議案が理事会で通過した後、ソン・ジェホ労組委員長がこのニュースを伝えると労組員たちが喜んでいる。文在寅大統領は23日、コ社長解任要求案の採決を行い承認した。//ハンギョレ新聞社
2018.02.01  アメリカの世界的威信の低下続く
          トランプ大統領就任の1年で

伊藤力司 (ジャーナリスト)

1月20日、ドナルド・トランプ・アメリカ合衆国大統領は就任後満1年を終えた。この間「アメリカ第一主義」つまり「アメリカのエゴイズム」を掲げたトランプ政権の米国は、国際社会での指導力を大きく落とした。

米国の世論調査会社「ギャラップ」が昨年3~11月に134か国の15歳以上の男女1000人ずつに質問した結果、米国の国際社会についての指導力については、「評価する」が30%、「評価しない」は43%という数字が1月19日に発表された。「評価する」はオバマ政権時代の2016年の48%から18ポイントも下落した。

ギャラップがこの調査を始めた2007年以降では、アフガン、イラク戦争を始めたブッシュ(息子)政権の2008年の34%を下回り、過去最低の記録となった。日本での調査では「評価する」が31%で、オバマ政権最後の2016年の47%から16ポイントも減った。評価しないは36%だった。

第2次世界大戦以降、米ソ冷戦時代は自由世界の、そして冷戦終結以後は全世界のリーダーとして押しも押されぬ存在だったアメリカがこの体たらくである。1960年代のベトナム戦争をはじめ1991年にアフガン戦争、2003年にイラク戦争を始めた「戦争国家」とはいえ、1776年の独立宣言以来の「自由」と「民主主義」のリーダーであることを自他共に許してきた国である。

トランプ大統領は、戦後70年余り続いたアメリカの世界におけるリーダーシップを自ら放棄することを宣言した。それが「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)である。その結果トランプ政権の1年は、外交・安保政策でも「独断」と「前例打破」の連続となった。

トランプ大統領は就任早々の昨年1月27日、2006年から10年越しの交渉で12か国がようやく合意した環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を宣言した。TPPはアメリカの国益に反するとして、TPP離脱は大統領選挙戦でのトランプ候補の公約だった。

ところが大統領はつい最近になって、再交渉を前提にアメリカはTPPへの復帰を検討すると前言を翻した。世界中の政財界の要人が一堂に会する今年のダボス会議に初出席したトランプ大統領は、1月26日の演説でTPPについて「すべての国の利益になるなら再交渉を検討する」と述べた。

米国以外のTPP11か国はこの1年間に、米国抜きのTPP再交渉をようやく仕上げたばかりだ。トランプ政権と11か国の再交渉が始まるのか現段階でははっきりしないが、再交渉に臨む意図は当然米国の通商上の利益拡大であり、米国に競争力のある農産物や医薬品などの問題で日本などはまた窮地に立たされるかもしれない。

さらにトランプ大統領は昨年6月、1997年の京都議定書から18年ぶりに2016年12月にようやく採択された地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」からの脱退を表明した。アメリカは2001年のブッシュ(息子)政権時代に京都議定書から離脱した前例がある。
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2018.01.26  最近の習近平政権論をよむ
   ――八ヶ岳山麓から(248)――

阿部治平(もと高校教師)

中国関係の本はだいたい中国の悪口だ。しかもやたらに多い。こう多くてはなにを読んでいいかわからない。新聞の書評にとりあげられたのを買って「だまされた!」と思うことがときどきある。
『習近平の悲劇』(産経新聞社2017)を読んだ。著者矢板明夫氏は去年まで産経新聞北京特派員、現在は外信部次長である。本書は矢板氏の2007年から10年間の論評をまとめたものだ。
内容はおおざっぱには、中国共産党中央の派閥抗争、習近平の能力と業績の低さ、習派閥の形成過程、文化大革命の復活傾向と独裁への傾斜、幹部の伝統的特権、さらに中国外交の失敗といったところだ。これも中国悪口派の書だが、だまされたとは思わなかった。もちろん意見はある。

私は産経の神憑り的な右翼思想にうんざりしながらも、同紙の文革以来の中国報道には一定の信頼を置いてきた。というのは、半世紀前、日本のメディアの多くが文革礼賛に傾くなか、産経は柴田穂北京支局長の文革の実態をつたえる記事を掲載し、その後も反共イデオロギーを旨としてではあるが、中国に遠慮のない報道をつづけたからである。
私は、矢板氏の記事にも柴田記者以来のリアリズムを感じてきた。とくに、中共幹部から農民・労働者にいたるまで、矢板氏が直接取材した記事には、自分の中国体験を重ねて深い共感を覚えた。

まもなく全国人民代表大会で「習近平思想」が憲法に明記される。強引というほかないが、このすさまじい権力欲はどこから来たか。矢板氏によれば、それは習近平の劣等感の産物である。
かつて矢板氏は、習近平は江沢民や胡錦濤と異なり、権威者による指名とか高い行政能力とかのゆえでなく、ただただ中共最高層の派閥抗争の結果としてその地位についたといった(『習近平――共産中国最弱の帝王』)。彼は本書でもこの論理を貫いた。習統治の過去5年間には、反腐敗闘争のほか見るべきものがなかった。本書を『習近平の悲劇』としたのは、「習の支配下にある中国人民にとって大きな悲劇である」からだという。

矢板氏は文革について多くのページを割いた。
中共中央が民主人権派に対して、文革時代の「反革命」というレッテルを貼るとき、中国はふたたび暗黒時代を迎えるという。いま中国では、現代史を知らない若者はもちろん、経済発展から取り残された労働者・農民も「文革時代はみな平等だった」という神話にひきつけられ、毛沢東を懐かしむ。そして習近平への個人崇拝やメディア統制、政治犯の拘束などを認める風潮がうまれている。
しかも、中共は1981年の歴史決議によって文革を「毛沢東の誤り」としたのだが、今日習近平が毛沢東を持上げているがために、文革を実証的に語ることができない。
めずらしいことに日本共産党の機関紙「赤旗」もこれをとりあげて、「『文化大革命』の項削除か」という記事で、歴史教科書から文革の「誤り」という文言が消えそうだと伝えている(2017・01・16)。

矢板氏は、2012年の習近平登場以来、中国経済は外国からの投資、輸出、国内消費、公共投資のいずれにおいても失速し、同時に地下経済も縮小した。「爆買い」は中産階層の肥大ではなく、景気の悪化を示すものだという。
私も中国経済の低成長は「中進国のわな」にはまりつつある兆しかと疑うが、矢板氏ほどには、中国の実力を低く見ることはできない。なぜなら巨大な国内市場と軍事科学の抜きんでた成長、これを無視できないからだ。
矢板氏は、安倍政権が中国の圧力に屈しなかったことで、中国は対日外交で使えるカードを使いきってしまったという。私は逆に感じる。中国は摩擦を起しながらも、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を軸に、インドを除くアジア各国に外交と経済方面の影響力を強めつつある。安倍政権もこの頃は「一帯一路」に尻尾を振っているではないか。

矢板氏は、トランプ米大統領のツイッターを毎日点検して、トランプがアジア外交にあまり関心がなく、台湾問題を北朝鮮、南シナ海、尖閣諸島などと同様、中国との取引材料にしか見ていないという。習近平政権の今後5年間を考えたとき、危険は朝鮮半島ではなく、台湾海峡に存在する。
習近平は自分に毛沢東や鄧小平に比肩する歴史評価を切望している。挑戦すべき課題は台湾統一のほか残されていない。ところが台湾人の大半は大陸との統一を望まない。いきおい習政権は武力統一に傾斜せざるをえない。いったんことが起れは、日本にとっても尖閣以上の深刻な問題になる。トランプがどうであれ、矢板氏にはいままで以上に台湾に注目してほしい。

かつて柴田穂記者の記事は、産経本社の右翼イデオロギーを超越していた。私は矢板氏に柴田記者のジャーナリスト精神を継承することを心から期待する。
2018.01.23  鄭 明勲(チョン・ミョンフン)の夢
   韓国通信NO546

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

クラッシックファンなら知っている人も多い。鄭明勲(チョン・ミョンフン)(65)は韓国ソウル生まれ、世界的に活躍する指揮者、ピアニストでもある。
現在東京フィルの常任指揮者として度々来日し、日本のファンも多い。
パリ・オペラ座の音楽監督を皮切りにヨーロッパ各地のオーケストラの指揮をつとめ好評を博してきた。
韓国ではソウル市交響楽団の常任をつとめるなど、日本と韓国の音楽交流に努めてきた。以下『ハンギョレ新聞』電子版記事<「鄭明勲の夢」>を翻訳紹介する。

――鄭明勲は1990年、北朝鮮から平壌公演を依頼されたが、韓国政府は許可しなかった。2006年10月には同じく平壌の尹伊桑(ユニサン)交響楽団を指揮しようとしたが、北の最初の核実験が行われたために取り消しになった。2011年9月には平壌で銀河水(ウナス)管弦楽団とリハーサルを行い、ソウル市響と「合同演奏」を行う仮調印を結んだが南北関係がこじれ水泡に帰した。
彼は「南北オーケトラ合同公演を指揮することが私の夢」と常々語ってきた。
北朝鮮とフランスの管弦楽団の合同練習を指揮する機会がまず訪れた。2012年3月フランスのパリで銀河水管弦楽団とラジオ・フランスフィルの合同公演を指揮した。ブラームスの交響曲第一番に続きアンコールに「アリラン幻想曲」を演奏した。鄭明勲は「音楽はいかなる分断の理由より強い。亡くなった母にこの『アリラン幻想曲』を捧げる」と語った。彼の母親の故郷は「北」である。
20180121チョン・ミョンフン
鄭明勲(チョン・ミョンフン)が2012年3月フランスのパリで銀河水管弦楽団とラジオ・フランスフィルの合同公演を指揮した時のリハーサル風景

朴元淳ソウル市長は去年6月ロシアを訪問、マリンスキー劇場の総監督ワレリ・ゲルギエフにソウル市響と北のオーケストラとの合同公演の指揮を依頼した。ケルギエフ氏は乗り気だった。もちろん世界最高級のマエストロであるゲルギエフもすばらしいが、南北合同公演をするなら意義深さではチョン・ミョンフンに指揮させるほうがずっと大きいはずだ。
鄭明勲とロッテ文化財団が作った「ワン・コリア・ユースオーケストラ」が最近、楽団結成演奏会を行った。ワン・コリアとは「音楽で南北を結ぼう」という意味が込められている。鄭明勲は「心と心をつなげるのは音楽をおいてない。いつか北の音楽家たちと一緒に音楽をするのが私の目標」と語る。三池淵(サムジヨン)管弦楽団が平昌オリンピックへ祝賀公演にやってくる。オーケストラと歌舞団あわせて140名規模と言われている。日程が差し迫っているとは云え、ソウル市響とサムジョン管弦楽団が合同公演をしたらどうだろうか。その時こそ鄭明勲の長年の夢がかなう時だ――
                         1/16 イム・ソクキュ記者

 平昌オリンピック目前、南北会談の進展には驚くばかりだ。南北の統一チーム結成、北の訪問団が連日伝えられるさなか、北朝鮮の核・ミサイル問題に関する外相会合が16日カナダのバンクーバーで開かれた。
席上、河野外相は南北の対話に触れ「北朝鮮が核・ミサイル計画を執拗に追求している事実から目を背けるべきではない」と指摘し、「北朝鮮の『ほほ笑み外交』に目を奪われてはならない」と発言した。
閣僚の中で野田聖子総務相とともに「非安倍」と目された期待の新人とはとても思えない硬直した発言だ。北朝鮮との戦争もあり得ると恐怖を煽ってきた政府には、南北会談は「困った」ものに映るようで、河野発言からもその当惑ぶりが見える。
  たしかにこれまで北朝鮮の行動と発言に「振り回されてきた」感は否めない。しかし南北の「熱い戦争」が回避されたことにひとまず胸をなでおろした人も多いはず。北朝鮮の核問題を協議する六か国協議で、わが国は口を開けば「拉致問題」を優先させようとしたため、「核」も「拉致」もこじらせてしまった。核とミサイル開発に北朝鮮を追い詰めた責任が問われる。南北の対立はまず南北の話し合いからという素人っぽい大人の態度を見せるトランプ大統領をむしろ見習うべきだろう。
 「予断を許さない」「紆余曲折が予想される」などとNHKのようによそ事みたいなことを言わず、率直に南北の話し合いを見守っていく態度が必要だ。

上に紹介した「鄭明勲の夢」は、韓国の人たちが(おそらく北朝鮮の人にとっても)、祖国の統一にどれほど熱い思いを持っているを示すものだろう。
朝鮮半島の統一を願っていた世界的作曲家尹伊桑(1917- 1995)も忘れられない存在だ。
                20180121尹伊桑
                    尹伊桑
植民地時代に日本で音楽を学んだ尹伊桑は1967年、東ベルリンで、北のスパイ容疑で朴正煕政権下、KCIAによって拉致され無期懲役の判決を受け、国際世論の反発を受けたため釈放された人物だ。
東洋を取りこんだ作曲作品は20世紀を代表するものと評価が高い。生涯、韓国の民主化運動にかかわり南北の統一を「夢」見た。故郷に帰る夢は叶わず78才の生涯をドイツで終えた。故郷の慶尚南道統営(トンヨン)には尹伊桑記念音楽ホールがある。
 国土と民族の分断という隣国の現実に私たち日本人は無関係ではない。繰り返すが、好んで北と南に分かれたのではない。当事者が話し合うことに不満や横やりをいれるのは日本人としてやめたほうがいい。「微笑み」に「誤魔化されるな」などと偉そうな戯言(たわごと)は云わないほうがいい。
2018.01.18  朝日新聞がおかしいー「韓・米・日の結束強化」を主張して南北合意を攻撃する社説と紙面

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

1月9日板門店で行われた南北閣僚級協議は、1か月後の2月9日に開幕が迫った平昌冬季オリンピック大会に、北朝鮮が選手団、応援団、芸術団、テコンドー模範演技団、記者団を派遣し、韓国が必要な便宜を保証することで合意。韓国側は南北合同での開会式入場と応援団、文化行事を提案、北側は賛意を示した。南北は2000年シドニーなど3回の五輪と2002年の釜山アジア競技会の開会式にも、合同選手団で入場式に参加、多くの人々が大歓迎した。今回も同様だろう。また両国は、緊張緩和のための軍事当局者の会談の開催についても合意した。両国の指導者、政府だけでなく、大多数の国民も喜んでいるに違いない。政府が対立していても、どちらも選手団を派遣し、国際ルールの下でともに競技し、信頼と友好に役立てるのが、オリンピックの精神であり、歴史なのだ。
トランプ米大統領も、安倍首相も一応、好意を表明したが、文在寅韓国大統領の北への和解姿勢に強い警戒感を示し、北の核開発を放棄させるための日米韓の結束に変わりはないことを強調した。朝日新聞は11日の社説で「平和の祭典への参加表明は、ひとまず朗報といえよう」と一言書いたとはいえ、同社説も紙面の1,2面も、南北協議・合意への批判、非難を散らばせた記事ばかり、まるで安倍首相が露骨に言えないことまで代弁して、文政権を説教しているかのようだった。朝日新聞がおかしい。トランプと安倍政権に膝を屈したのか。
まず、南北協議の翌日1月11日の社説を見よう
南北朝鮮対話―冷静に非核化へ誘導を
「(南北対話の合意を受け)韓国の文在寅大統領は(中略)条件さえ合えば南北首脳会談にも応じる考えを明らかにした。
まさに問題はその『条件』である。南北対話の歩を進めていくうえでは、北朝鮮の軍事的脅威の低下に確実につなげる環境づくりが欠かせない。
その点でなお不安が残る。今回の協議で韓国側が非核化に向けた対話を求めたところ、北朝鮮は強く反発したという。
さらに合意には、南北関係をめぐるすべての問題を『南北が当事者として』交渉を通じ解決する、と盛り込まれた。
北朝鮮が米国を排除する意図を込めたのは明らかだ、これを盾に米韓合同演習の中止や在韓米軍の撤退を求め、米韓の離反をねらうことが予想される。
北朝鮮は国際的な孤立から逃れるためにまず、もっとも手っ取り早いと考える南北関係の改善に手をつけようとしている。五輪に選手団だけでなく高官や応援団を送るというのも、そのための戦術と見ざるをえない。」
「南北対話と五輪の成功で国内の支持固めを図りたい文政権の胸の内も、平壌は熟知しているはずだ。」
「だからこそ、文政権は内向きな思惑で拙速に陥ってはなるまい。南北の和解自体は好ましいが、ムードに流されて無原則な対北支援に走れば、国際制裁の効果が損なわれる。
北朝鮮の出方を一つずつ吟味し、米国と日本との調整の下で交渉の進め方をじっくり組み立てる慎重さが必要だ。
北朝鮮とのすべての対話を、朝鮮半島の非核化と北東アジアの安定に導く。その目標として韓国、米国、日本が一層結束を固めるべき時である。」
朝日社説は、南北協議の成功と北朝鮮の五輪参加を歓迎する韓国、北朝鮮のおそらく大多数の人々の気持、意思を踏みにじる、思い上がった、南北合意への攻撃だと思う。

さらに10日付の南北協議報道から引用しようー。
 1月10日朝刊13版1面準トップ(トップ記事は「慰安婦合意『再交渉せず』」
▼北朝鮮、五輪参加を表明 南北協議 軍事会談でも合意
「9日、北朝鮮と韓国の軍事境界線上にある板門店の韓国側施設『平和の家』で開かれた南北閣僚級協議は、平昌冬季五輪への北朝鮮代表団派遣で合意した共同報道文を採択した。韓国側は南北合同での開会式入場や応援、文化行事を提案し、好感触をえたという。五輪参加を機に南北関係改善と孤立脱却を狙う北朝鮮の意向が色濃く反映された内容になった。両国は緊張緩和のための軍事当局者会談の開催でも合意。報道文に『南北関係から生まれるすべての問題を、当事者として対話と交渉を通じて解消する』との文言が盛り込まれた。米国の影響力排除を望む北朝鮮の意図が反映されたとみられ、米側の反発を呼びそうだ」

 同2面のほぼ全面を埋めた解説記事
▼五輪の陰で核の策略―北朝鮮 抑止要請に譲歩なし
「昨年だけで20発の弾道ミサイルを発射し、『国家核戦略の完成』を唱えた北朝鮮が9日、平昌冬季五輪への代表団派遣で韓国側と大筋合意した。融和姿勢の背景には、南北対話に積極的な韓国の文在寅大統領への歩み寄りを足場に国際的な包囲網に穴を開けながら、核・ミサイル能力を完成させる時間を稼ぎたい狙いが透ける。」(ソウル=牧野愛博、ワシントン=峯村健司)
「板門店の協議会場と平壌は回線で結ばれ音声はリアルタイムで送られている。(李北朝鮮代表の)今回の柔和な態度も、周到に準備された演技とみられる」
「北朝鮮関係筋は『9日の参加表明は既定路線。親族に問題ない人だけを派遣する作業に既に入った』と語る。」
「ソウルの情報関係筋によれば、平昌五輪への応援団や芸術団の編成の指揮を執るのは、金正恩朝鮮労働党委員長の実妹、金与正党政治局員候補だ。党宣伝扇動副部長を務める。」
「情報関係筋は、『北朝鮮に親近感を抱かせ、制裁や武力行使が正しくないと思わせる懐柔策だ』と話す。南北は00年シドニー五輪など3大会で合同入場した。また、02年の釜山アジア大会など韓国での国際大会に北朝鮮が派遣した女性主体の応援団は人気を集めた。こうした手法が韓国世論を軟化させるのに有効だと踏んでいるとみられる。」
韓国 対話、圧力に影響も
米国 同盟ほころび警戒

南北対話を強調する文在寅政権と同じ進歩(革新)政権の金大中、廬武鉉政権両元政権は、緊張緩和の有効策としてスポーツ交流を推進した。ただ北朝鮮は金大中政権期にも弾道ミサイルを発射、蘆政権期には初の核実験。スポーツ交流の陰に隠れて核・ミサイル開発を進めてきた現実がある。」「韓国政府内には五輪で北朝鮮代表団にできるだけ支援をすべきだとの意見も強い。北朝鮮の意向を踏まえて米韓合同軍事演習の統合や縮小を模索する声さえ上がりはじめている。9日の共同報道文も『南北朝鮮を主体とした解決』など、北朝鮮の主張に配慮した内容が目立った。「(トランプ米政権は)韓国政府が南北協議を重ねることで、米韓合同演習の全面中止などに応じることを警戒。北朝鮮への圧力政策にほころびが出ることを懸念している」 
 なお、これらの記事には、「ソウルの情報関係筋」とか「北朝鮮関係筋」とか出てくるが、いずれも韓国の情報機関と思われる。(了)
2018.01.17  再び慰安婦問題について
         韓国通信NO.545

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

久しぶりの南北会談で平昌オリンピックと緊張緩和について議論がかわされたことは喜ばしい。周囲がやきもきすることはない。特にアメリカは余計な口ばしをいれず、北朝鮮がアメリカに求めている交渉の実現に努力して欲しい。

 慰安婦問題の「政府間合意」について康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が韓日合意について再交渉を日本に要求しないことを表明、同時に日本側に被害者の名誉・尊厳回復と心の傷を癒すための努力を求めた。翌10日には文在寅(ムン・ジェイン)大統領は青瓦台で開かれた新年の記者会見で、「日本が真実を認め、被害者に真の謝罪をし、それを教訓に国際社会と努力することが慰安婦問題の解決だ」と述べた。
 
 いっぽう河野外相は「韓国側が日本側にさらなる措置を求めることは全く受け入れられない」「韓国政府が最終的かつ不可逆的なものとして合意を着実に実施するよう引き続き強く求めていく」と述べ、韓国側に抗議をすると語った。
 日本のマスコミも一斉に、合意したものを「ムシ返す」のは国際的信義に反するものと今後の日韓関係に憂慮を伝えた。 韓国でも「日本側の激怒」(朝鮮日報)、「国際社会で韓国の信頼度に影響」(中央日報)と日本側に配慮しながら文政権の対応に批判的だ。

前号で2年前の政治決着について私の持論を述べたが、今回の日韓の対応を見て、あらためて交渉は振り出しに戻すべきという思いを強くした。韓国側が求めている被害者の「名誉・尊厳・回復と心の傷」を癒し「真の謝罪」を日本側が拒む理由がわからないからだ。
 さらに朴前政権と安倍政権の「合意」にたいする異議申し立ては国際常識、道義に反すると日本側はさかんに言い募るが、説得力はない。

国際的な信用をいうなら、「盟友」アメリカのパリ条約脱退についてわが国はアメリカ政府に信義を問うたことがあったのか。核兵器禁止条約にアメリカの顔色を窺って反対したことがわが国の国際的信用をどれほど落としたことか。TPPの中心国アメリカが新大統領になった途端、脱退を宣言したことに抗議をしたのか。強いアメリカには沈黙、韓国には強気で約束の履行を迫る日本の姿勢は過去の歴史を思いださせ、国際的信用と品格を貶めるものだ。
国会内の多数を頼み、秘密保護法、安保法制、共謀罪など憲法違反の法律を次々と成立させ、官僚たちを権力の侍女扱いする安倍政権の横暴ぶりは目に余る。韓国政府も自分たちの思いどおりになると考えてはいないか。韓国の政権が対日関係を考慮するあまり言い難いことを敢えて指摘した。 日本人として「ローソク革命」とは何だったのかもういちど確認する必要がある。
2018.01.16  2018年 春  夢を語って悪いのか?
     韓国通信NO544

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

米・英・中三か国首脳会談にもとづくカイロ宣言(1943年11月27日)は日本の領土と朝鮮について次のように述べている。
「日本国は、また、暴力及び強慾により略取した他のすべての地域から駆逐される。前記三大国は、朝鮮人民の奴隷状態に留意し、やがて朝鮮を自由独立のものにする決意を有する」
また日本の無条件降伏を求めた米・英・ソ首脳によるポツダム宣言(1945年7月26日)は――
「8. カイロ宣言の条項は履行されるべきであり、又日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国ならびに我々の決定する諸小島に限られなければならない」
しかしマッカーサー布告第1号(1945年9月7日)は――
「第1条 北緯38度線以南の朝鮮領土およびその住民に対する全統治権は、当分の間、本官の権限の下に施行する」

植民地からの「解放」のはずが「占領」になってしまった。敗戦国が戦勝国に占領されるのは理解できるが朝鮮が占領されるのは全く理不尽なことだった。ここに日本の敗戦処理とかかわりながら、米ソ対立がからみあって韓半島分断の歴史が生まれた。統一の努力(済州島4.3抗争もそのひとつ)にもかかわらず、国内諸勢力の対立と米ソ中の力関係のなかで1948年、南には大韓民国、北には朝鮮民主主義人民共和国が生まれた。
今年、分断70年を迎える。
2年後の1950年に起きた朝鮮戦争には中国義勇軍とアメリカを中心とする国連軍が参戦する国際戦争に発展した。敗戦国のわが国は分断を免れ、アメリカに占領された後独立したが、日米安保条約、日米行政協定(日米地位協定)によって、半独立国という屈辱の中にあるのは現在も変わらない。
70年もたつと何故同じ民族が分断されているのか忘れがちだ。決して好き好んで分かれたわけではない。最近の過激な米国トランプ政権とわが国の指導者たちの発言を聞いていると、「北」は憎悪の対象、消えてほしい存在にも聞こえるが、私たちもそんな雰囲気のなかにいる。

<統一を望む声に耳を傾けたい>
どんなに北朝鮮が嫌いでも、分断が好ましいと思っている韓国人に会ったことがない。南も北も武力によって統一を図ったため戦争の悲劇が生まれた。その後はさまざまな平和的な統一構想が模索された。現在は北の核とミサイル問題で統一問題はあまり聞こえなくなったが、統一が民族の「宿願」であることに変りはない。韓国の憲法前文と第4条には平和的統一が明記されている。韓国の人たちは武力衝突が現実味をおびても戦争だけは絶対に避けるべきと考えている。事実、北がどれほど挑発的な発言をしても、「強がり」程度に受け止め本気にしない。ずっとそれに慣らされてきたからかもしれない。圧倒的な米韓の軍事力に囲まれて「吼えている」ぐらいに理解しているようで、韓国人は信じられないくらい冷静だ。
金正恩体制への評価は別にして、韓国人に日本と北朝鮮のどちらが大切か聞いてみたらよい。北は同じ民族だから日本と比べようがないと答えるに違いない。日本人の軽々しい北朝鮮批判などは聞きたくないと答えるかもしれない。70年たっても同胞は同胞である。

<統一を望まない人たち>
韓半島に統一国家が実現したら、国土は22万㎡k、人口は7500万人になる。ちなみに日本は 37万8千㎡㎞、1億2600万人である。小国という事実に変りはないが、統一したらまたたく間に経済力で日本を上回るにちがいない。既にOECDは韓国が20年後に日本を抜き去って世界第三位の経済大国になると予想している。つまらないことかも知れないが、オリンピックのメダル数で日本を凌駕している韓国が北と一緒になれば日本が足元に及ばない「スポーツ大国」になるはずだ。「統一コリア」はまばゆいほどの可能性と発展が約束されている。

韓半島の統一はこれまでアメリカと中ソの大国の利害と思惑によって阻まれてきた。韓国は日本とともに東西対立の最前線として位置付けられ、自由主義反共国家の道を歩んできた。
冷戦構造の崩壊は半島統一のチャンスだったが、現実は統一を許さなかった。アメリカの巨大軍需産業は韓半島の「火だね」を消すことを望まなかった。領土、宗教、イデオロギー、人種問題による紛争の背後にはいつも軍需産業がある。
トランプ大統領が日本と韓国を訪れ、北朝鮮の脅威を理由に高額の武器を売り込んだのは記憶に新しい。世界最強の国の指導者が死の商人のセールスマンを務めた。最近のアメリカの景気と株価高騰はロッキード、ホーイングを筆頭とするアメリカの軍需産業によるものといわれている。ここでも「金正恩サマサマ」である。戦争が金儲けにつながるという政財軍一体の構造だ。このことからも北と南が戦争を回避しようとしてもアメリカが反対する理由は明らかだろう。まさしく軍需産業にとって平和は敵だ。「人権国家」を標榜しながら「戦争紛争屋」まるだしの姿勢である。アメリカはいつまで南北統一の前に立ちはだかり続けるのか。

日本はどうだろうか。「平壌宣言」(2002年)は過去の清算にも触れた画期的な宣言と評価された。日朝間の国交正常化が半島の安定と平和に寄与し、将来的には南北統一に貢献することが期待された。だが拉致問題がクローズアップされると、「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」という声が巷にあふれ、国交正常化と真逆の道を歩んだ。日朝関係は平壌宣言以前よりむしろ悪化した。一体何が起きたのか。
拉致問題は政治目的に利用された。国交正常化後に拉致問題の解決は十分可能だった。政治利用されただけでいまだに解決の目途も立たず被害者家族を苦しめ続けている。
拉致被害を口実に北朝鮮に対する憎悪を煽り、戦争ができる国、平和憲法を変えることまでも画策されている。拉致問題も北朝鮮もその目的のために利用されてきた。
南北が平和統一したら武器輸出の商機を失うのがアメリカなら、わが国は憲法改悪も軍備増強もその根拠を失う。もちろん安倍首相やその後継をめざす政治家たちの出番もなくなる。刻々伝えられる危機的状況とかけ離れた提案かも知れないが、北朝鮮との関係改善、南北の統一の促進がわが国の平和にとって最高最善の道だということを確認しておきたい。私の夢を笑わないで欲しい。

<政府間合意(従軍慰安婦問題)は振り出しに>
文在寅新政権が提起した二年前の政府間合意の見直し提案を日本側は一蹴した。被害者側である韓国からの疑問に対して、謝罪した側が異議を唱えるという異常事態だ。「10億円払った」といえば、「返す」という話まで聞こえる。子どもじみたあきれた話だ。どのような交渉が行われたのか私も疑問を抱き続けてきた。何故、安倍首相が従軍慰安婦問題について持説を曲げて「謝罪」までして解決しようとしたのか。韓国側が当時の交渉過程を調査したように、わが国も明らかにして欲しい。「最終的かつ不可逆的に解決」はあくまでも政府間の合意である。謝罪された側の国民の大多数が反対すれば解決にはならない。
安倍首相の「謝罪」は両国外相の発表文書に盛られただけで、首相本人が直接謝罪する意思はさらさらなく、「平和の像(少女像)」の撤去ばかりを日本側は求めた。形だけの謝罪、不誠実な決着に当事者のハルモニたちはもちろん韓国社会は激昂した。安倍政権に解決の意思があったことは評価できるが、これでは無意味な決着だったとしかいいようがない。

このような政治決着の背景には日韓両国に解決を迫ったアメリカの意思が感じられる。
証拠はないが根拠はある。
ブッシュ大統領から従軍慰安婦問題で安倍首相が問い詰められ「謝罪」したことがある。2007年4月27日、訪米した安倍首相とブッシュ大統領(当時)の共同記者会見で、何故元慰安婦のハルモニではなく、ブッシュに謝ったのか不思議がられた。しかし安倍首相は帰国後、謝罪しなかったと釈明した。これも不思議なことだ。これからもわかるように、米国政府が慰安婦問題について重大な関心を寄せていたことがわかる。国連人権理事会の勧告、アメリカ州議会での謝罪決議などが相次ぐなか、日本政府は国際的にも窮地に追い込まれていた。次のオバマ大統領も重大な関心を寄せ、アジアでの股肱とも頼む日韓がギクシャクすることに神経をとがらせ、対北朝鮮、中国との緊張が高まる中、早期の解決を望んでいた。オバマ退任直前の年末に急遽「政府間決着」がはかられたと読める。政府間合意発表後もアメリカ政府高官が合意の「ほころび」を憂慮して日本政府に働きかけたことが報じられた。強引に問題を解決させようとしたアメリカの傲慢ぶりがさらに日韓関係を悪化させることになった。

「話を蒸し返すな」といわんばかりの菅官房長官の態度からは謝罪した側とは思えない傲慢さが感じられる。高宗皇帝の反対を押し切って強行された日韓併合(1910年)を彷彿とさせる日本側の居丈高な態度では日韓の友好関係は悪化の道をたどるだけだ。
年明けの5日、韓国の挺対協からハルモニがまた一人亡くなられたという訃報が届いた。解決は急がなければいけない。早急に振り出しに戻した真摯な交渉と結論を望みたい。
2018.01.08  朝鮮半島の危機緩和―明日2年ぶり南北対話
  平昌オリンピック期間中は米韓軍事演習を延期

伊藤力司(ジャーナリスト)

核・ミサイル開発に血道をあげる北朝鮮と、軍事力を行使してもこれを阻止しようとする米国間で緊張が高まっていた朝鮮半島で、新年とともに危機が緩和された。トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩・労働党委員長のえげつない口喧嘩を当分は聞かされなくてすむと思えばほっとする。

金正恩委員長が元日にTV放送した「新年の辞」で、2月に韓国で開く「平昌(ピョンチャン)五輪の成功を願う」と語ったことから、韓国側が北の選手団受け入れなどを協議する南北当局者会談を開くことを提案。北も即座にこれを受け入れて明日9日板門店で、2年ぶりに南北当局者会談が開かれる。

この間トランプ米大統領は、1月4日に行われた文在寅・韓国大統領との電話対談で平昌オリンピックの期間中は、例年2、3月に行われてきた米韓合同軍事演習を延期することに同意した。平昌冬季オリンピックは2月9日から25日まで、平昌パラリンピックは3月9日から18日まで開かれる。

米韓軍は例年2月から3月にかけて、野外機動訓練「フォール・イーグル」と合同指揮所演習「キリングフィールド」を行ってきたが、今年は3月19日以降に延期する。北朝鮮はかねてから米韓合同演習の中止を要求してきた。米側は「平和の祭典」と言われるオリンピック期間中の延期には応じるが、演習中止などはもってのほかという構えだ。

こうして少なくとも3月18日までは朝鮮半島の緊張が緩和した状態が続くと言えるだろうが、それ以降はまた米韓合同演習が始まれば緊張が再燃しかねない。問題の根源にある核・ミサイル開発を北朝鮮が断念することは見込めないからだ。

金正恩委員長は「新年の辞」で「米本土全域が核攻撃の射程圏内にあり、核のボタンが私の執務室の机の上に常にある」と豪語し、米国向けにICBM(大陸間弾道ミサイル)の実戦配備を事実上宣言した。

しかし北朝鮮は米国内に届くICBMは完成させたが、核弾頭の小型化やミサイルが大気圏に再突入する時に発生する超高温から核弾頭を保護する対策はできていないとみられている。それができるまでにあと1年はかかるだろうというのが米専門家の見方であり、だから米国としては1年以内に軍事力を行使しても北の核・ミサイル開発を止めなければならない、とする意見がこれまでにペンタゴン(米国防総省)筋から漏れていた。

昨年末にはこうした観点から、米国の一部タカ派の観測筋が北朝鮮中枢部に対する軍事攻撃を避けるべきでないとする論調を打ち出し、米国や韓国で緊張が一挙に高まった。こうした雰囲気を一変させたのが、金委員長が「新年の辞」で平昌五輪の成功を打ち出したことだ。

金委員長はこの中で「核のボタン」にも言及するなど、米国に対する好戦的姿勢も打ち出したが、それは言うなれば「常の言い草」であって、新しい要素は平昌五輪を口実にした“南北対話”の姿勢である。

彼は「わが人民が建国70周年(9月)を大慶事として記念し、南朝鮮(韓国)で冬季五輪が開催される意義深い年」と位置付け、「凍結状態にある北南関係を改善し、民族史に特筆すべき重大な年にすべきだ」と訴えたのだ。

これまで文在寅・韓国大統領が、昨年5月の就任以来続けてきた南北対話の呼びかけに冷淡な姿勢を執り続けてきた金委員長が、新年を機会に軟化したのはなぜか。おそらくは度重なる国連安保理決議による北朝鮮に対する制裁がだんだん効いてきたためではないか。

中国商務省は1月6日、国連安保理決議に基づき北朝鮮への原油や石油製品の輸出を制限すると発表した。これによると、2018年内の原油輸出量は最大400万バレルないし52・8万トン、ガソリン、ディーゼル油などの石油製品は年間50万バレルに抑制される。

北朝鮮にとって原油や石油製品の規制は痛い。トラック、バス、タクシー、まして戦車を動かすにはガソリンが不可欠だし、何よりも弾道ミサイルの燃料精製には石油製品が不可欠である。もとより禁輸にそなえてかなりのストックは用意しているだろうが。

6年前に金正日政権から金正恩政権になって以来中朝関係は目に見えて悪化してきたが、中国が北朝鮮への石油輸出の本格的規制に同意したことは、北朝鮮の国家運営にピンチを招きつつあるのではないだろうか。

一方、トランプ大統領は1月6日夕(日本時間7日朝)ワシントン郊外のキャンプ・デービッドで記者団に「金正恩委員長と電話会談する用意があるか」と聞かれ「もちろんある。私は常に対話を信じている」と述べた。

一方で「前提条件なしに対話のテーブルに着くか」と問われると「そんなことは言っていない。対話には北朝鮮の非核に向けた意思表示が必要で、圧力を最大限に強めて核の放棄を迫る方針は揺るがない」と強調した。

さらに南北当局者会談について大統領は「良い結果が出ることを望むし、私もそれをとても見てみたい。物事はそこから動くかもしれず(会談を)100%支持する」と述べた。さらに「オリンピック以外のことも取り上げることを望むし、それを見てみたい」と述べ、幅広い議題(言外に緊張緩和)について協議することを歓迎する姿勢を示した。

新年早々、トランプ・ホワイトハウスの内幕を暴露したベストセラー本「Fire and Fury(炎と怒り)」の引き起こした騒動に揺れる大統領だが、ワシントンから遠く離れた板門店での南北対話が、朝鮮半島危機にいくらかでも明るい展望をもたらすことを真剣に望んでいるようだ。
2018.01.05  「中国は法治社会か」
  ――八ヶ岳山麓から(246)――

阿部治平(もと高校教師)
 
中国湖南省長沙の裁判所は12月26日、国家政権転覆扇動罪などに問われた人権派弁護士、謝陽氏に刑事処罰免除の判決を言い渡した。謝氏が罪を認めていることや、社会への危害の程度が低いことを理由としている。人権派弁護士に対する刑事処罰免除の判決は異例。(中略)
ただ天津市の裁判所は26日、国家政権転覆罪に問われた別の人権活動家呉淦氏に、政府の悪口を言ったとして懲役8年の実刑判決を言い渡しており、政府に批判的な言論への厳しい姿勢は基本的に変わらないとみられる(共同・産経2017・12・26)。

いま中国では、「依法治国(法によって国を治める)」が強調されています。にもかかわらず、なぜ中国では上記のような摩訶不思議な裁判結果が生れるか。答えは簡単、「中共が一切の社会活動を領導する(中国共産党19回大会の習近平報告)」からです。中共の意向に従えば軽く、従わなければ重罪です。
厳しい監視の目をくぐって、中国のネット上に、こうした中国の法状況に真っ向から挑んだ論説が現れました。呉侃氏のエッセイです。呉氏は中国刑法では条文に犯罪の構成要件が明記されないために、罪刑法定主義が貫かれず、罪刑が法執行者の専断にゆだねられていることを糾弾しています。
呉侃氏の素性はわかりません。以下は彼のエッセイの「さわり」です。( )内は阿部。

中国は法治社会か
                呉侃
今日の中国が「法治」国家であるか否かといえば、まちがいなく「否」である。なんとなれば、憲法の序言に「中国各族人民は中共の領導下、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論……によって導かれ、人民民主専政と社会主義の道を堅持し、……」と書かれているからだ。つまり中共は、「専政(独裁)」を行なうと明言している。独裁政権がどうして法によって統治できるのか。

中共は文化大革命終息後、文革を「10年の大災難」といいつづけ、「四人組」が法制度を破壊し「公安・検察・裁判」をめちゃくちゃにしたといってきた。文革が「公安・検察・裁判」を破壊したのは事実だが、これを中共の法治の後退だというのはまちがいだ。というのは、1979年にはじめて「刑法」ができるまで、どんな法律もなかったのだから(刑法のほか刑事訴訟法、民法・民事訴訟法も79年に公布された)。
中共は建国直前、「(中華民国時代の)法律は統治階級の武力によって強制する、いわゆる国家の意識形態であって、……ただ統治階級の利益を擁護する手段に過ぎない」といい、国民党時代の六法全書は「階級の本質を覆い隠す形式のあらわれ」として政権獲得以前の法をいささかも継承しなかった。
中共は政権樹立後、「反革命鎮圧」を実行したが、そこでは「無産階級の専政」のスローガンで思うままに人を捕まえ、簡単に人を殺した。1979年以前はそもそも法律がなかったのだから、中共の「公安・検察・裁判」は罪刑を決めるのに、いかなる法律にもよらなかったのである。
君は、公安が力ずくで人を連行し、検察、裁判所が無実の罪を着せるのは、今日の現象だと思っているだろう。だがそうではない。それは昔から一貫した中共の作風だ。

とはいえ憲法は1954年に作られている。これはソ連憲法をもとに毛沢東が秘書の田家英など数人に書かせたものだ。だが、彼らのなかには法律がどんなものかわかるものがいなかった。だから54年憲法はスターリンの憲法を下敷きにせざるを得なかったのである。
ところが例外がある。政権樹立の前、江西(瑞金、1930年前後)で武装割拠したとき作った「婚姻法」だ。婚姻関係を保証するものじゃない。離婚を支持するものだ。これはひとこと離婚したいといえば離婚できるというもので、当時はこれを「個性の解放」といった(これは一概に否定できない。婚姻法には封建的な婚姻関係解消の意味もあった)。
あの時代、性関係の紊乱は中共内部に限ったことではなかった。公然であろうが内緒だろうが、紅区(中共支配地域)全体にはびこっていた。中国では結婚離婚は組織の批准が必要とされてきたが、それはこの時代が始まりだったのだ。

文革が終った1977年から、以前幾多の政治運動で打倒された老幹部が権力の座に再登場した。しかし復活したとはいえ、それまでに彼らは深く傷つき、気持に「おびえ」が残っていた。だから、彼らはふたたびみたび政治運動で打倒されるのを避けようとして、法律の制定をつよく求めた。ところが、その一方で民衆の手に法律が握られて、彼らに反抗されるのもまた恐れたのである。
そこで1979年の法律の条文は(犯罪の構成要件が)あいまいな文言になった。できるだけ法律の中にポケットをつくり、いつでも君やぼくなんかを閉じ込めるようにしたのだ。そういうわけで、現代法は一般大衆を保護するものにはならなかった。だから今日中共は法の名のもとに民衆を迫害することができる。これがとりもなおさず中共がいま「依法治国」を強調する理由なのだ。

21世紀に入ってから、中共の法律専門家は文革がもたらしたような退行現象は、再びありえないといったほらを吹くようになった。たとえば、
「建国からの30年、中国の法制は建国初期から一定の発展を遂げ、改革開放後は法治の発展は急速だった。とくに依法治国の推進によって、中国は法治に進む最良の時期、最高の水準になった。これは客観的事実であり、疑うべくもない」と。
1997年「刑法」が改定され、悪名高い「反革命罪」が取消された。とはいえさらに新たに多くの罪名が加わった。たとえば「刑法300条」だが、これは信仰集団を迫害するもので、いわば思想犯罪の取締りだ。宗教を犯罪とするのは人類の信仰、文明に対する誹謗である(中国では邪教とされた法輪功だけではなく、キリスト教各宗派も許可された教会以外は宗教活動を許されない)。
「刑法300条」の文言には異なった解釈がある。たとえば「迷信」は犯罪とされるが、1979年「刑法」の「封建迷信」によって解釈するのか、それとも全国人民代表大会の法律工作委員の解釈によるべきか。ひとによって解釈が異なるのであれば、なにが「邪教」かわかるはずがない。中国史上の暴政といえば、元朝がいつも槍玉に上がるが、元朝はどんな宗教も禁止しなかった。

(2015年に)「国家政権転覆罪」で、709人の弁護士が弾圧された(一般には300人という)。彼らがもし暴力を行使したというなら、国家政権転覆罪は適用されない。その前の条文の「武装反乱・暴乱罪」だ。
司法当局の解釈では、「国家政権転覆罪」は国家政権、社会主義制度を転覆させる行為の着手を必要とはしないという。709人の弁護士の犯したとされる「国家政権転覆罪」は、第2項の「流言飛語、誹謗、あるいはその他の形式で国家政権の転覆を扇動したり、社会主義制度を覆そうとする」という条文によるものだ。
問題は「流言飛語」や「誹謗」だが、なにが「流言」であり、「誹謗」であるか定義がない。どんなふうにでも解釈できるから、いくらでも罪を善良の人にかぶせ、迫害できるのである。さらに中共の法律にはいつも「その他の形式」という補充条項がついている。だが、誰も「その他の形式」が何だかわからない。法の執行者は使いたいときにこれをもちだし、罪を捏造する。
つまり君が政権を転覆しようとしなくても、政府に対する不満を口にしただけで「扇動」の罪を犯したことになり、「国家政権転覆扇動罪」を適用されるのだ。

中共の法律は悪法というだけではない。実際(の法行政)では、罪刑を決めるのに証拠を必要としない。必要なら「証拠」は捏造して、それを犯罪の生産ラインにおくだけだ。そして逮捕・起訴・証拠・法廷・裁判などという文言をもって人を騙す。
中共はさまざまな方法を考え出し、法治の名をもって民衆を統治する。それで間に合わなくなったら、別な手を考えて人々を支配するというわけだ。(2017・12・27記)