2020.07.04  今こそ脱米入亜へ
          韓国通信NO642

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 朝鮮半島の雲行きがあやしい。南北間の和解友好ムードが一変、3年前に逆戻りした感さえある。米朝交渉の行き詰まりが影を落としている。
 2017年、ほぼ同時期にトランプと文在寅は大統領に就任した。就任以降の朝鮮半島をめぐるアメリカ、韓国、北朝鮮の動きを追ってみた。
 トランプ大統領はオバマ前大統領とは対照的に国際協調路線からアメリカ第一主義へ急転換、外交的にもイランと北朝鮮への敵愾心をむき出しにした。CIAの金正恩暗殺計画が伝えられ、北朝鮮を「テロ支援国家」と糾弾し、もはや戦争は避けられない雰囲気だった。
 金正恩側がトランプを「老いぼれ」「狂った犬」「不倶載天の敵」「死刑に値する」と叫べば、トランプ側は「チビのロケットマン」「狂った男」と、子どもの喧嘩のような個人攻撃を浴びせたのは記憶に新しい。
 核攻撃の「準備はできた」と公言したトランプが突如2018年6月シンガポールで金正恩と会談を行い、世界を驚かせた。
 首脳会談で米朝の国交正常化、朝鮮半島の完全な非核化を目指す共同声明が発表された。
今こそ脱米入亜へ
 <写真/史上初の米朝首脳会談>

 歴史的な米朝会談の実現に大きく寄与したのは他でもない韓国の文在寅大統領だった。注目された2018平昌冬季オリンピックへ北の選手団が参加し、南北関係改善への期待が膨らんだ。
 オリンピックの余韻も冷めない4月27日、文在寅大統領は就任後初めて南北首脳会談に臨んだ。その模様は日本でも生中継され、韓国へ足を踏み入れた金正恩が文在寅を北に招じ入れた感動的な場面を憶えている人も多い。文在寅、金正恩両首脳は「板門店宣言」を発表。朝鮮戦争の終戦と平和協定の締結と朝鮮半島の非核化を約束した。さらに軍事境界線での敵対行為の中止、非武装地帯(DMZ)を「平和地帯」とすることが盛り込まれた。歴史を後戻りさせない、戦争の危機を回避、平和を誓いあった南北新時代の幕開けにふさわしいものだった。
 翌5月に再び板門店で南北首脳会談が開かれ、翌6月に上記米朝会談が開かれた。9月には文在寅が平壌を訪問。約半年の間に3回の首脳会談が開かれたのは前代未聞、南北の経済交流計画の青写真も示された。
 一方、米朝首脳会談は2019年2月にベトナムのハノイ、次いで同年9月に板門店で行われたが、トランプ大統領は満面の笑みで「良き友」金正恩を称えるばかりだった。
 二つの首脳会談を振り返ったが、その後は確たる進展がないまま足踏み状態が続いた。

<進展しない米朝と南北関係>
今こそ脱米入亜へ
 最近、北側の強行姿勢に注目が集まっている。脱北者団体が北側批判の大量のビラを北に向けて飛ばしたのが発端となった。 「板門店宣言」違反を問われると韓国政府は謝罪したが、北側は納得せず、開城工業団地内の南北共同連絡事務所を爆破し、軍事行動も辞さないという強硬姿勢だ。<写真上>。現在のところ軍事行動は「留保」されているが、雪解けムードが凍りついた感は否めない。
 韓国の右翼勢力は文在寅政権を親北(アカ)政権と断じたうえで、北から裏切られたと手を叩いて喜ぶ。星条旗と韓国の国旗(太極旗)を掲げる親米右翼は、南北の関係改善より対決を望む勢力だ。
 日本にもやや似た傾向が見られる。
 普段、韓国と北朝鮮の関係改善に関心のない日本のマスコミは、関係悪化となると大騒ぎ。文在寅政権が苦境に立たされると報道にボルテージが上がり、金正恩の妹、金与正(キム・ヨジョン)については芸能ニュース並みの低レベルの報道が溢れる。朝鮮半島に対する日本人の屈折した心理について誰か説得力のある説明ができる人はいないのか。
 風船によるビラ飛ばしが南北関係悪化の原因といわれるが、北朝鮮の苛立ちの背景には米朝関係の成果が現れず、経済制裁が続くことへの不満がある。それが兄弟国である韓国に向けられた。「八つ当たり」みたいに見えるが、南北分断70年、和解と統一には、山あり谷あり、紆余曲折が予想される。朝鮮半島の和解と平和を望む日本人としてどう向い合うかが問われる。

<不真面目だったトランプ大統領>
 非核化交渉と国交正常化が進まないのは何故か。
 経済力と軍事力では比較にならない超大国と小国が対等な交渉が出来るはずはない。北朝鮮がアメリカと話し合う力の源を「核」に求めるのは当然かも知れない。しかしこの理屈に固執する限り、解決の道は開けないと筆者は考えてきた。
 小国は武力では超大国に勝てない。北が核兵器を完全に廃棄することは敗北を意味するのだろうか。核の抑止力に依存する日本の一市民が言うことなので説得力がないのは覚悟の上だが、北朝鮮は平和国家を宣言、核を廃棄、さらに進めて「核兵器禁止条約」に加盟してほしい。非核化を誓った韓国は当然同調する。核の「抑止力」を否定して核の全面廃棄に踏み出すなら想像を絶する衝撃を全世界に与える筈だ。非核化を念仏のように主張する「唯一の戦争被爆国」日本の立場はどうなるのか。世界の非核保有国は喝采を送り、核保有諸国は世界に恥を晒すに違いない。世界は平和国家を決して見殺しにはしない。
 米朝交渉が進展しないのは、核保有にこだわる北朝鮮にも責任の一端がある。しかしアメリカの責任はもっと重い。アメリカ政府内の意見がまとまらない、米朝関係改善の意欲が感じられない。
 更迭された大統領補佐官ジョン・ボルトンの回顧録が出版され、側近が見たトランプの事情が明らかになった。アメリカンファーストで突き進んできたトランプが突如として「チビのロケットマン」と罵った相手と嬉々として会談した理由。ボルトンの指摘は想像した通りだった。トランプ大統領は世界中を敵にまわしてやりたい放題、異論をはさむ側近をクビにする典型的な自己中心主義者だ。 軍事力を背景に金儲けするのが大統領の仕事と思い込んでいる奇人。批判には一切聞く耳を持たない「新型独裁者」でもある。
 北朝鮮を一瞬のうちに吹き飛ばすと豪語したトランプが突然米朝会談に合意したのは、世界から注目されたい、「ならずもの」国家に手を差し伸べ、トランプの寛容さをアピールすることだった。    
 緊張緩和がアメリカの軍需ビジネスには致命的と考えたボルトンを始めとする戦争屋は、後先を考えない偽善者トランプにハラハラした。同盟国に大量の兵器を買わせ、米軍駐留費の大幅な増額を求めるのはアジアの緊張緩和と明らかに矛盾する。冷静なボルトンはそれを見逃さなかった。
 ボルトンが米朝会議には終始消極的だったのは回顧録を読むまでもなく明らかだった。そして意見対立がもとで政権から去った。トランプにとって邪魔なボルトンがいなくなれば米朝交渉が前進しても良さそうだが、トランプにとって米朝交渉はもはや賞味期限切れ。大統領選挙に忙しくて金正恩に構ってはいられない。トランプにはもともと分断国家の悲劇は眼中になかった。

<さよならトランプ>
 何てことはない。北朝鮮と韓国はトランプの気まぐれにつき合わされたことになる。
 北朝鮮の核問題を協議する日・米・中・ロ・南韓・北韓による六か国協議は2008年以来中断したまま、日本は北朝鮮との公式協議の場を持たない唯一の国だ。アメリカの顔色を窺い、拉致問題以外に関心を示さない日本は6者会議の「お荷物」だった。非核化、南北の対立緩和への努力、戦後補償と国交正常化について努力をした形跡はない。
 安倍首相がトランプの「お友だち」でいられるのもあとわずか。ゴルフと金で結ばれた二国間関係も終わりに近づいた。国際社会を引っ掻きまわした「トランプアァースト」によってアメリカの威信と信頼は深く傷ついた。私たち日本人も、そろそろ、アメリカ依存の生活習慣、思考回路から脱皮すべきではないか。

<アジアのことはアジアで>
 朝鮮半島の分断にアメリカがかかわったのは事実だが、何故アメリカが統一問題にまで決定権を持つのか不思議だ。そろそろ当事者による自主的話し合いにまかせたらいい。トランプ大統領の「フザケタ」米朝会談を見ればその感は強くなるばかりだ。
 アジアにおける存在感の薄れた日本は、トランプ頼りから脱して、「平壌宣言2002」の続きを誠実に履行して朝鮮半島の平和に寄与したらどうだろう。小泉首相に随行して平壌宣言に関わった安倍晋三にその資格は十分にある。相手にされない可能性はあるが、首相としてやり残した大切な仕事に変りはない。退陣前の花道は憲法改悪などではない。北朝鮮を敵視し続けたために解決のメドが立たない拉致問題解決の道筋をつける仕事が残されている。

特別定額給付金が振り込まれた !   100,000円
 何故もらったのか、正確に説明出来る人がいるだろうか。調べてみたが総務省の説明は悪文のお手本みたいなもの。「外出を自粛して、見えざる敵と闘い、国難を克服するための家計への支援」だそうだが、「医療従事者に感謝して」というくだりが、意味不明でわかり難い。政府の混乱ぶりがわかる。何故、10万円なのか、何故一回限りなのかもわからない。政権は10万円で内閣支持率が上がると踏んだようだが、支持率が上がらないので買収作戦は見事失敗。バタバタ決まった特別給付金。心のこもらないバラマキで政府への不信は募るばかり。国難を克服するために外出や商売の自粛を求めるなら、もっときめ細かい補償が必要だ。銀行に振り込まれた金は自動振替の決済資金に使われた。
2020.06.30  トランプ政権、最後の1年(16)
         イスラエルの占領地併合に抗議高まる  欧州25ヵ国、日本でも抗議署名多数

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 イスラエルのネタニヤフ政権は、事実上イスラエルの軍事支配下にあるパレスチナ・ヨルダン川西岸地区の領土併合作業を、7月1日以降から開始しようとしている。実際の作業は、領土化宣言、国民投票、入植地の周辺を拡大して防護壁の強化、現在もイスラエル軍の支配下にある主要幹線道路の領土化作業など。これに対し、世界各国で非難、抗議が広がり、24日までに25ヵ国の立法議員1,080人が抗議声明に署名。各国政府、議会に送られたと英BBC放送は伝えている。英国では「影の内閣」の主要閣僚と国会議員240人以上が署名している。

 この作業開始は、トランプ米大統領がネタニヤフ政権に提案した、ヨルダン川西岸地区の約30%をイスラエルの領土とし、約70%をパレスチナの領土として残す案が手掛かりになった。ネタニヤフ政権は、パレスチナ全土の領土化を目指していながらも、トランプ提案に好意を表明。一方パレスチナ自治政府と住民は、トランプ政権への非難をさらに強めた。

 パレスチナ自治政府領としてイスラエルを除く国際社会が認めている地域は、東エルサレム、ヨルダン川西岸地区、ガザ。総面積は日本の茨木県と同じくらいの6、020平方キロ(うち365平方キロがガザ)。人口は497万6千人(うち西岸地区は298万人)。
 国際社会とイスラエル政府、パレスチナ自治政府代表が調印した、もっとも最近の協定は、93年にワシントンで調印されたパレスチナ暫定自治宣言。それに基づきパレスチナ暫定自治が始まったが、イスラエルは東エルサレムの支配と、ヨルダン川西岸地区での、入植地と幹線道路のイ軍による支配をつづけたため、パレスチナ人の抵抗が続いてきた。
 イスラエルが暫定自治宣言に調印した労働党政権の期間は、暫定自治は一応尊重されたが、2001年の総選挙で極右政党のリクードが勝利して以来、パレスチナ自治政府と関係が悪化、入植地の建設が拡大。特に09年の総選挙でリクードのネタニヤフ政権が勝利して、現在に至るまで、パレスチナ自治政府との関係は悪化したまま、入植地の強行建設が続いている。

 さらに、2017年に発足した米国のトランプ政権は、国連はじめ国際社会の取り決め、意志を踏みにじって、ネタニヤフ政権が大歓迎する行動を開始。イスラエルの建国以来の熱望通り、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転。ヨルダン川西岸地区での入植地拡大を黙認、イスラエルが67年の第3次中東戦争で占領したままの、シリア領ゴラン高原のイスラエル領土化を承認した。そして今回、ヨルダン川西岸での不法入植地のイスラエル領土併合を黙認したのだ。

 ▼日本でも、パレスチナ人民の支援活動に長年取り組んできた、奈良者英佑さんを代表とする人たちが、次のような「イスラエルによるヨルダン川西岸地区の併合に反対する実行委員会声明」(和文と英文)を緊急に発表。集まった署名とともに、イスラエル政府、駐日イスラエル大使館、日本政府の官邸と外務省に、今日30日に送付した。以下にその全文を添付します。



イスラエルによるヨルダン川西岸地区の併合計画に強く反対する(和文)

イスラエル政府は、西岸地区のうち広大な部分を自国領として併合することを早ければ7月1日にも公式発表する計画だと伝えられる。これは、パレスチナ人にとって当然の自決と独立の権利を真っ向から否定するばかりではなく、国際法と国際秩序を全くないがしろにするものである。この計画が実行されればイスラエル/パレスチナ紛争の平和的解決への道は完全に閉ざされ、中東地域の紛争は一層激化し、それは世界の平和を脅かすだろう。私たちは、この無責任な政策を深く憂慮する。
占領地を併合することは、国連憲章とジュネーヴ議定書に対する重大な侵害である。ジュネーヴ第4議定書は、西岸地区でのイスラエル人入植地建設のような、自国民の移住を禁止している。また、国連安全保障理事会決議242号は、イスラエルが1967年の戦争で占領した領土からの撤退を要求している。さらに、1993年のオスロ合意は、領土、入植地、難民などの重要な諸問題を平和的な交渉で解決すること、諸当事者が、一方的な措置をとらないことを求めている。
アメリカのトランプ政権は今年1月「中東和平案」を発表した。その中で、イスラエルが西岸地区の入植地ブロックとヨルダン渓谷を併合することを提案した。当然ながら、パレスチナ人はこれを断固拒絶した。イスラエルもこの理不尽な提案を断るべきであった。
わたしたちは、ここに、イスラエル政府がこの無責任な西岸地区併合計画を撤回するよう強く求める。
同時に私たちは日本政府に対して以下の3点を要求する。

1.日本・イスラエル間の武器取引禁止と両国間の軍事・安全保障協力の停止
2.日本・イスラエル間の貿易など経済関係に対する厳しい規制
3.西岸地区の入植地やその他のイスラエル占領地で生産された物品の輸入禁止

2020年6月30日
イスラエルによるヨルダン川西岸地区の併合に反対する実行委員会(東京)
2020.06.24  トランプ大統領、最後の1年(15)
          剛腕右派のボルトン前補佐官が暴露本出版 

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 共同通信は23日早朝、同日米国で出版され、同国内で大騒ぎを起こしている、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当補佐官の著書について、次のように速報した。
「 【ワシントン共同】ボルトン前米大統領補佐官は23日出版の回顧録で、昨年7月に訪日した際、トランプ大統領が防衛費の分担金として年間約80億ドル(約8500億円)の負担を求めていると日本政府高官に伝えたと証言した。在日米軍を撤収させると脅して交渉を優位に進めるようトランプ氏から指示を受けたことも明らかにした。共同通信が回顧録を入手した。
 80億ドルは日本が現在、負担している在日米軍の駐留経費負担の4倍以上に相当する。日本政府はこれまで米側の負担増要求の報道について「そのような事実はない」(菅義偉官房長官)と否定していたが、米側の当事者本人が明確に認めた形だ。」



 トランプ米大統領の国家安全保障担当補佐官だったジョン・ボルトン氏が、1年半にわたる任期中の政権内部と外交の実態を暴露した回顧録「それが起きた部屋、ホワイトハウス回想録」を23日に出版した。大統領はワシントン地裁に「国家安全保障に損害を与える」として、出版の差し止めを求めて提訴したが、同地裁は19日、訴えを却下した。
 出版社のサイモン&シュスターは、出版を前に、トランプ政権の出版差し止め提訴を想定し、今月上旬から一部の新聞、テレビ、通信各社を選んで、完成本や抜粋を提供した。各社の報道合戦が国内はもちろん、各国に広がった。発売禁止を求めるトランプ氏側の提訴と却下も、ボルトン氏と出版社は予測していたことは間違いない。出版社側は米国内と全世界で何百万部も売れることを予測しているとの報道もある。しかし、米紙やBBCの抜粋報道を読む限り、ボルトン氏が書いている米国も世界も、ぎすぎすした世界で、感動するような話も見当たらない。世界のベストセラーになるかどうか?
 ボルトン氏は、その経歴、強硬な右派的主張から、17年1月のトランプ政権当初から、国家安全保障担当補佐官の有力候補者と見られていたが、まず国連大使に就任、翌18年4月に国家安全保障担当補佐官に就任。トランプ政権の対ロシア・ウクライナ政策、対イランはじめ中東政策、対アフガニスタン政策、対中国政策などに強硬な右派としての影響力を発揮し始めた。
 しかし、ボルトン氏の顔が何より示しているように、論理的で、自己主張が強く、抜け目がない。両方とも敵に対しては残忍になるが、トランプ氏のように、論理的に政策、物事を考えずに、感覚的に処理するタイプの人間は、ボルトン氏には理解できない行動をとる。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談、会場でトランプ氏がニコニコしてみせることなど、ボルトン氏は唾棄する思いだったのではないか。

▼ボルトンの主張十項目
 ボルトン氏の著書の内容をBBC電子版が要領よくまとめているので、これに沿って以下に10項目を紹介しよう―

1.トランプは再選のための支援を求めた
 この本の中でボルトン氏は、昨年の日本での先進20か国首脳会議(G20)の際の、中国の習近平主席との会談について、次のように書いている。―「トランプ氏は、会談で米大統領選についての議題を持ち出し、さりげなく中国の経済力に言及、大統領選での勝利を確実にするための支援を嘆願したので驚いた」
 「彼は農民の重要性を強調、中国が大豆と小麦の買い上げを増加してくれることを求めた」
 農業は米国中西部の主要産業の一つで、2016年の大統領選でのトランプの勝利の地盤となった。

2.トランプは、抑留施設の建設は「正しい行動だ」といった・・・
 中国でのウイグル族や他の少数民族の取り扱いは、国際的な非難を引き起こしており、約100万人が新疆地域のキャンプに抑留されているとみなされている。
 トランプ氏はこの大量拘留に関わった中国当局者への制裁を承認、中国の怒りを引き起こした。しかし、ボルトンの本によれば、習主席がこれらの収容所建設を正当化したさい、中国の行動を承認した、という。

3.トランプは「私自身は独裁者好きだ」と発言
 ボルトン氏は、中国の指導者だけが、トランプ氏が迎合した独裁者ではない、と非難している。
 トランプ氏は彼が好む独裁者たちに「事実上の好意的措置を与えるため」犯罪捜査に介入したがっていると、ボルトン氏は書いている。
 本書によると、トランプ氏は2018年、トルコのエルドアン大統領に対し、トルコ企業のイラン制裁容疑に対する米当局の捜査に関して、助力を申し出た。
 米大統領は「注意深く捜査を進める」ことに同意し、捜査担当の検事たちは「オバマ時代の者たちだ」と言ったという。

4.民主党は弾劾努力をもっと進めるべきだった
 本書でボルトン氏は、民主党の大統領選候補者バイデン氏への捜査を開始するよう、ウクライナ政府に圧力をかけるために、トランプ氏はウクライナ政府への軍事援助の停止を望んでいたという民主党の主張を支持している。この民主党の主張により、トランプ氏に対する弾劾の動きが始まった。
 しかしボルトン氏は、本書の中で民主党を非難し、「彼らはウクライナだけに集中し、弾劾に失敗した」と述べている。ボルトン氏は、もし彼らが調査をもっと広げていたら、トランプ大統領を辞めさせるために必要となる「重大な犯罪と軽犯罪」を彼が犯していたと、より多くの米国民に信じさせることになっただろう、と述べている。
 ボルトン氏は、彼が述べる新たな主張が、弾劾に結び付くかどうかについては述べていない。
 彼は、昨年遅くに行われた、下院でのトランプ弾劾への手続きでの証言を避け、上院では、共和党議員たちによって証言が阻止された。

5.トランプは二期以上、大統領を続けるのを望んでいることを示唆した
 トランプ大統領の習近平との会話について続ける。ボルトンは、トランプ氏が中国の指導者に、米国人はトランプ氏が2期以上大統領を務めるために、憲法を改正することを熱望している、と述べている。
 「習はトランプに、6年以上やってほしいと思っていると応じて、会談は最高潮に達した。トランプは、国民は彼のために、2期までと定めている大統領の任期条項を廃止すべきだと言っている、と応じた」とボルトンは、ウオールストリート・ジャーナルが掲載した本書抜粋で書いている。
 「習は、選挙が多すぎる。と述べた。彼はトランプの交代を望んでいないからだ」
 ―以下、長くなるので、BBC電子版の一部を省略。

6.トランプは英国が核保有国であることを知らなかった
7.・・・もしフィンランドがロシアの一部だったら・・
8.彼はNATO脱退実行にとても近い
 トランプ大統領はしつこくNATO批判をしており、他の加盟国の分担金増額を要求している。
 米国はNATOメンバーに留まってはいるが、2018年のNATO首脳会議に際しては、トランプはNATO脱退を決意していた。
 ボルトン氏によると、大統領は「われわれは脱退する。支払わない国は守らない」と言った。

9.ベネズエラ侵攻は“クール”に
 トランプ政権の外交にとって、頭の痛い重要テーマの一つは、ベネズエラのマドーロ大統領の、ゆるぎない反米姿勢だ。
 この問題について、トランプ大統領は、ベネズエラ侵攻は「クール」だろうし、この南米の国は「実際は米国の一部なのだ」と述べていた。(この項後略)

10.同盟国でさえ彼を嘲笑している
 ボルトン氏のこの著書には、ホワイトハウス内の公職者たちがトランプ大統領を嘲笑している数例が記されている。
 彼はホワイトハウス内の機能不全について書き、会合が政策作成の努力とみなすより、“食べ物の奪い合い”に似ている、と記述している。
 彼がホワイトハウスに到着した時、首席補佐官のジョン・ケリーは「ここは、働こうとする人には悪いところです。あなたも分かるでしょう」といった。
 大統領に忠実だとみられているポンぺイオ国務長官でさえ、大統領のことを“Full of shit”(くそったれ)と呼んでいるメモを書いたといわれている。(了)

(注)トランプ米大統領はじめ人物の敬称、肩書については、BBCの原文になるべく従った。日本のメディアは、見出しでも文中でも、おそらくすべて「大統領」とか「氏」とかを付けているが、世界のメディアは違う。文中では単に「トランプ」で、肩書、敬称を付けないこともある。
2020.06.06  「封城」(ロックダウン)下の武漢の暮らし
          - 方方女史の『武漢日記』(14)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 3月21日
 封城59日目、なんとまあ長いこと。昨日のあの大きかった太陽が今日は突然暗くなった。午後にはいくらか雨も落ちてきた。この時期、中庭の樹木や花に雨はとっても必要だ。2,3日前、武漢大学の桜は満開だったのに、樹の下はがらんと無人。たぶん記者が撮った写真が同窓生の間をぐるぐる回っている。人のいない桜の道は文句なしの美しさ。
 真っ暗になった夕方、文聯の入り口に速達を取りに行った。春雨が降っていた。傘は持たなかったが、とても気分がよかった。その帰り、わが棟の入り口まで来たところで急に激しく降り出した。一足遅ければずぶぬれだった。幸運。
 病気の方は見たところ落ち着いている。しかし、人心は安定と言うわけにはいかない。みんな新型肺炎患者が再び増えるのでは、と、びくびくしている。誰かがゼロの記録を破らないために、故意に知らせないのではと心配している。友人の医師たちに聞けば、彼らの答えはいつもきっぱりしているが、ネット上では相変わらず大勢が心配している。このウイルスは奇妙で狡猾、分からないこと、不確定なことがたくさんある。だからみんな恐れている。とくに武漢人は早い段階でのあの酷い悲惨さを直接見ているから、心の深いところに恐怖が潜伏している。ちょっと熱でも出れば、みんな病院に駆け込む。おかげでもともと新型肺炎でないのに、病院でかかったりする人もいれば、医療系統を崩壊に近づけて、より多くの人を死なせたりもする。
 だから現在、病気は平穏で恐れなくていい。病院はたっぷり治療経験を積んだから、感染だろうとぶり返しだろうと、緊張する必要なし。治療するだけのことだ。普段からわれわれは金剛不壊の身体ではないのだから、よく病気にかかる。だから普段どおり治療を受ければいいのだ。せいぜいちょっと時間がかかるというだけのことだ。冬から春にかけてはもともとインフルエンザがはやる。だけどみんなちゃんと生きているではないか。
 上海の張文宏医師によれば、この病気の致死率は1%以下。だったら怖がる必要はない。死にさえしなければかかっても怖くない。仮設病院の患者たちも病院の中で踊ったり歌ったりしていたではないか。退院すれば大喜び。別に他の病気ととくに変わったところはない。
 話を戻す。私にはゼロを追及する気持ちが分からない。ゼロと1の間にどれほどの差があるのか?私にすれば、政府だろうと民間だろうと、こんな小さな差を大騒ぎする必要はない。伝染病はいつだって存在する。みんな警戒しているが、かかれば治療するところがある。それでいい。まさか、ゼロ人なら、われわれは仕事ができるが、1人いたとなると仕事に影響するだろうか?その1人を病院に送り込んで隔離すれば、それでいいのでは?何が何でもゼロの完璧を追及しなければならないのだろうか。そんな完璧さは時によっては極めて非現実的だ。
 新型肺炎の予防については、私は上海の張文宏医師の判断を信頼する。彼はこの病気は本当に予防できると言う。それには有効な個人の防護、社会的距離の保持とその後の手洗い、さらにマスク、この3つが必要だ、と。張先生は「これまでのところ、この3点をきちんと守って、それでも感染した人は見たことがない。その可能性は極めて低い」と仰る。私もこの見方には賛成だ。
 上海人にすれば、湖北にはなんでも差し上げるけれど、張文宏医師だけはだめ、というところか。上海人が何故ここまで張先生を信頼するかといえば、彼の話はすべて実証ずみのことなのだ。また日本の蔓延抑制もすこぶるうまくいっているようだ。それには日本人の衛生面の習慣が非常に良いことが相当程度ものをいっているようだが、確かに世界を歩いてみて、日本ほど清潔なところはない。だから日本人は長寿なのだ。いろいろ言ったが、衛生に気を付けることが多くの病気を防ぐのだ。
 新型肺炎が発生して以来、「愛」とか「善」とかが、今やそれほど空疎なものでなくなった。人々ははっきりと本当の善、本当の愛とはなにかを見てとった。ただ惜しむらくはただ喚くだけの人間というのもいるのだ。そういう人間はいざとなるとどこかへいなくなってしまう。われわれはそういう幻の概念に慣れてしまっている。情熱的に愛を伝え、善を示しても、いざ具体化となると熱情どころかほんのわずかの温度さえ感じ取れないのだ。ここ数日、映像を通じて千里を巡ってやっと帰国した同胞に向かって辱めと罵声を浴びせる人たちを見た。あるいはまた外国へ働きに出ていた湖北人に対して、はげしく反感を示すのを見て、なんとも不思議な感じを受けた。なぜ国を愛する熱い気持ちでこの人たちを愛せないのか?
 肺炎が武漢で発生したばかりの時、武漢人の医療用物資は極度に欠乏していた。そこで海外にいた同胞たちは全力で所在国の商店の棚が空になるほど駆け回った。武漢が難関を乗り切るのを助けるために。ところが次に彼らが家に帰ろうとして困難にぶつかった時、あんなに多くの人が出てきて罵った。一瞬で顔が変わった。人のさがの悪さを見せつけた。まだある。湖北人は病気が蔓延しないよう数々の困難を背負わされた。自分を押さえつけて50日余りも家にこもった。そして彼らが再び自分の働き場所に戻ろうとした時、さまざまな邪魔をした。われわれにはあの気宇壮大なスローガンがあり、あんなに沢山の文献があったのに、目の前のこととなると、そんなスローガンや文献は空気みたいなものとなった。政府は同胞の帰国と湖北人が省を出て働きに行くのに大きな支持を与えた。にもかかわらず民間の一部の人間がそれに従わないのは、私には不思議でならない。
 ほかにも細かいが、記録しておいた方がいいことがある。諸外国は国民にお金を配っている!このニュースが伝わるとネット上は狂ったような大騒ぎだ。お金を配る威力はたいしたもので、掛け値なしにみんな羨ましい。そして誰しも感ずる疑問、中国は配る?配らない?湖北は配る、配らない?今日、1つの提案を見た。湖北ではなにがしか金券を配るべきだ。蔓延がおさまれば民衆は市場でそれを使って買い物をする。市場の販売が増え、市場の活気が続く。そして元気の回復が早まる、というのだ。コメントを見ると、この提案に賛成する人が多い。
 武漢では、聞くところでは例えば弱い立場の人たちに一定の対策があるという。「扶貧弁」(注:貧しい人を援助する公的機関。国務院扶貧領導小組弁公室)からの情報で、「肺炎蔓延が貧困家庭の収入に与える影響を最大限に減らすため、全市の低保家庭(注:最低生活保障家庭)、低収入家庭のうちの都市、農村における臨時工、肺炎蔓延で出稼ぎに出られず無収入となった者に、都市と農村の最低保障基準(都市780元/月)、農村635元/月」(注:約12,500円、約10,000円)の4倍を一時的臨時的に救助する」との由。聞こえてくる外国の話と比べると、ずいぶん差が大きい。が、ないよりはましだ。べつに損する人間がいるわけでもなし。
 肺炎がここまで落ち着いて、病院もぼつぼつ外来診療を再開した。ただし元通りかどうかは分からない。実際のところ、これは焦眉の急なのだ。平時だって病院はいつも患者でいっぱいだった。それがこの2か月というもの、急性も慢性もすべての病人は新型肺炎のために自分の問題は自分で克服しなければならなかった。つまり待っていたのだ。
 しかし、待つと言うことは自分の身体を傷めることが前提だ。たとえば化学療法が必要な癌患者が化学療法を受けられなくなったらどうなるか?手術が必要な患者の手術が延びたら、手術も受けられなくなってしまわないか?ということだ。
 友人が1通の手紙を転送してきた。差出人は自分の妹のことを書いている。その妹さんは以前は毎日、太極拳に出かけていた。家に50日あまりこもったところで、脳卒中を突発した。110番したが、どこの病院も受け入れてくれない。やっとある病院に運び込んだが、そこではまず新型肺炎かどうかの検査を受けた。その結果を待って、新型肺炎でないことが分かったが、その時はすでに手術の時期を過ぎていた。そして1週間後に亡くなった。差出人は言う。「顛末を話して、心中の憤懣を聞いてもらいたいこともあるが、もっと大事なのは武漢の関係方面の人に、正常な医療秩序を大急ぎで回復するよう訴えたい。正常な公共交通秩序も回復して、予防と秩序を同時に重視してほしい。さもないと死ななくてもいい人が大勢死ぬ!弟の嫁の母親は胆管癌の痛みで食事もできなかったが、受け入れてくれる病院がなかった。110番、120番はいくら電話しても誰も出ない。正月の2日に痛がりながら死んでいった」。「コロナの全市蔓延はほんとうに憎らしい。武漢の衛生健康委員会も蔓延について不透明、不開示。死ななくていい人をどれほど殺したか。封城の前のあの何もしなかった指導者たちは心中まったく無策だった。封城からもう2か月になるが、大勢の高齢慢性病患者、癌患者、急性患者に対応する措置は全くない。なんと恐ろしいことか!!!」以上は感嘆符を含めてすべて原文である。
 身辺の人間がつぎつぎ世を去る。間違いなく恐怖の連続だ。医を求めても門なし。これは急性、慢性の患者が今、直面する尋常でない現実である。この問題を医師の友人にぶつけた。「普通の病人が診察を受けに来たら、まず血液検査をして新型肺炎かどうかを見るの?病気を診るのはその後ってわけ?」。
 友人の医師の答え。「新型肺炎以外の患者を診察する場合、安全のためわれわれの病院は2つの緩衝区を設けている。新型肺炎の可能性がある場合は隔離病棟に入れる。肺炎でないと分かれば緩衝病棟に入れる。患者は全員に、核酸、胸部CT,および抗体を調べる。家族の付き添いが必要ならその家族の胸部CTと抗体を調べる。新型肺炎でないと確認してから付き添いができる。心筋梗塞、脳卒中の患者に対しては、われわれ神経科の医師と心臓血管の医師は直接救急処置を行い、新型肺炎の検査結果を待つことはしない」。惜しいかな、手紙を書いた友人の妹さんは今まで待つことはできなかった。
 医療人員自身にも心配はある。現在、蔓延阻止はまだ完全に安定したとは言えないから、病人が感染者かどうかには心の中では恐れがある。あんなに大勢の医療人員が倒れたのだから、彼らにも傷と恐れがある。友人の医師は言う。「新型肺炎の患者を排除しなければ、入院後、ほかの患者に感染させる。われわれの責任は大きい。武漢封城50余日の成果は一朝にして崩れる」。この問題は相当に深刻だ。
 友人の医師は患者との関係がまた緊張しそうだと考えている。なぜか?検査が増えたために馬鹿にならないお金がかかるのだ。彼に言わせると、なぜ新型コロナの治療になぜみんなが満足したかと言えば、政府が費用をもったからだ。貧困家庭にとって1000元は大きな消費だ。何項目も検査をすれば1000元近くかかる。といって、すぐに入院できるわけでもない。こうして怒りは第一線の緊急診療科の医師にぶつけられる。今、患者は応急診療を受ければ、外来ということになる。武漢市では入院だけが保険で支払われることになっていて、応急診療の分は患者自身の負担だ。もし、政府が払ってくれれば、われわれが罵られるのは大きく減る。患者に払わせるから医者が怒鳴られる。病院の人手不足と言う問題も明らかに存在する。「疾病の初期に医療人員が感染することが非常に多い。そして大部分は完全に回復する前に家に戻って在宅療養だ」。庶民の苦労と医師の負担が目の前に広がっている。現在も状況の厳しさは新型コロナウイルスの猖獗時期とちっとも変わらない。目に見えている問題も解決しようとすればとてつもなく難しい。やはり専門家が政府に建言建策して、ともに問題解決の方式を探さなければならない。たとえばどんな病気でも新型肺炎に関係ある検査ならすべて無料というのはどうだろうか?
2020.06.04  黒人殺害の白人警官を非難しないトランプ大統領
          全米に広がる抗議デモ弾圧に州兵出動を要請
          英BBCが代表する国際世論の非難

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 米国中西部ミネソタ州で5月15日、白人警官が黒人市民のジョージ・フロイドの首を押さえつけたまま離さず、殺した事件。全米で激しい抗議デモが広がり続けている。トランプ大統領は、警官の行為を一切非難せず、デモを鎮圧するために州兵出動を権限のある知事に要請。それが実現しないため、大統領権限のある米軍の出動命令を考慮しているという。この事件につて、米国内の政治動向や世論の影響を受けない、世界でもっとも信頼されているのは、英BBC国際版だと思う。日本時間3日朝のBBC国際版米国発の見出しは「ジョージ・フロイドの死亡は殺人。検死当局が宣言」。以下にその報道の冒頭部だけ、そのまま和訳して紹介した。

 全米に広がった抗議活動を引き起こした、ジョージ・フロイドの死は殺人だった、とミネアポリスの公的検死結果報告で宣言された。
 同報告によると、ミネアポリスの警察官に拘束された46歳のフロイドは心臓病を患っていた。
 フロイドの死因は、警察官によるこの心臓病患者の拘束、首部の圧迫であるーと明記している。
 一方、トランプ大統領は、不穏情勢を終らせるために軍の出動を言明した。
 一部テレビは、白人警官が、フロイドが呼吸できないと訴えるのに、首を膝の上に抑え続けているビデオ映像を放映した。警官が黒人アメリカ人を殺したことに、心底からの怒りが、全米に広がっている。(了)
2020.06.02  「封城」(ロックダウン)下の武漢の暮らし
          - 方方女史の『武漢日記』(13)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 3月20日
 快晴続き。気温は昼に26度まで上がった。でも暖房はまだ止めてない。部屋の中と外の温度が同じくらいになった。窓を開けて空気を通した時、中庭に数羽のカササギが飛来していた。門前の楠と白木蓮の上を飛び回っている。1羽はわが家の入口まで来て石臼の水を飲んでいる。みんなその姿を見て大喜びだ。どんないいことがあるのだろうと楽しみにしている。(訳注:カササギは吉事を運ぶと言われる)
 病気については特に話すこともなさそう。依然としてゼロ。このゼロが一直線に続きますように。そして14日後、われわれは門を出て行ける。ただ、ネット上には気になる話がいくつか。心配ごとは広く伝わる。1つは同済病院に感染確認患者が20何人も出たが新聞には載らなかった、という話。私はこの情報を2人の医師に直接ぶつけてみた。1人が言うには、それは誤解だ。現在、退院する人が多く、残った患者はいくつかの指定病院に移している。だから新患者ではなく、転院だ。
 別の医師の言い方は思い切ったものだった。きびしい制度だから、本当かもしれないし、あるいはもう真面目に届けてないかもしれない。
 また別のビラによる噂話も飛び交っている。1人の病人が退院した後、検査で陽性となった。ところがなかなか入院できないというのだ。これも人々を不安にさせている。そこでまた2人の医師に聞いた。1人は陽性に戻ることはあるが、非常に少ない、と言う。もう1人も同じようなことを言ってから、もう少し具体的に教えてくれた。それによると、新型肺炎を治療する指定病院は調整が行われている。その病人は行くところを間違えて、行ったところが指定病院ではなかったのだ。しかし、よく知っている顔のきく指導者に相談し、結局、その病院に受け入れてもらったそうだ。
 友人の医師たちは2点を強調した。陽性に転じる患者は確かにいるが、非常に少ない。そしてなんの症状もなく、感染もさせない人もいる。もし具合が悪くなった人がいれば、病人はすべて病院が追跡しているから、指定病院に行けば、そこでは受け入れないという問題は発生しない。私は医師と病人の言い分の違いを確かめたりしなかったので、言われたことだけを書いておく。
 しかし、武漢人は、感染したかしなかったかにかかわらず、心理状態がこのところ非常に脆くなっている。神経も緊張している。指定病院が調整された件はもっと目に付く方法で告知してもらいたい。どんな調整も知らせはすぐに更新してほしい。そして病人に対しては、体に不調を覚えたら、まずどこの病院が新型肺炎を受け入れ、どこが受け入れないかを確認して、間違った病院へ行って、無駄骨を折らないように徹底してもらいたい。夜中に何時間も外で病院を探しまわるなんてどれほど辛いことか。
 中心病院からまた不幸が伝わってきた。病院倫理委員会委員の劉励女史が新型肺炎で今日午後、不幸にも亡くなった。中心病院の人で亡くなったのはこれで5人目。病院のお偉いさんがたはよくじっとしていられるものだ。
 昨日はとても多くの人が某「高校生」に返信してくれた。それは今日まで続いた。それから今日はもう1件、「数名の高校生から1人の高校生への返信」というのもあったが、最初、私は気に留めなかった。どこかのサイトで遊んでいるのかと思ったのだ。ところが友人の1人に本当の高校生の返信だと言われて、驚いて、探し出して読んでみた。そして、高校生と「高校生」はずいぶん違うことを知った。文字が違うだけでなく、はっきり境界線がある。文中にある一節を大変、面白いと思ったので、どうしてもここで引用したい。
 「われわれがまあ言いたいことと言えば、非常に多くの場合、問題はわれわれが過度に暗黒に注目することではなく、われわれがまぎれもなく過度に光明を熱愛しているところにある。――そして強い光でわれわれの視力を傷つけているのだ」。子供たちはもともとわれわれが想像するほどには弱くはない。彼らはしっかりと独立した思考能力を持っている。その上、豊かな観察力を持っているから、多くの問題で大人たちよりももっと遠くまで考えている。
 昨日はもともと昔の文学論争について書くつもりで、一部分を書いたところで、『察網』の文章を目にした。そこで話題を変えることにし、すぐ弁護士に証書を取ってもらうことにした。今日の昼、たくさんの情報が送られてきた。あの『察網』に載った斉建華の文章が削除された、と。へー、自分で違法と分かっていたんだ。削除したということは自ら誤りを認めたわけだから、こちらも許すかどうか思案してみよう。
 午後、ある人がこう言った。上海のある極左が不服で泣いたり騒いだりしながら、告訴はできない、告訴はできないと言っているそうな。この話は面白い。それじゃ、削除しなさんな!
 もともと今日は昨日の文学の話題の続きで、当時と今の話をするつもりだった。ところが突然、また友人が文章を転電してきたために、再び中断。まあ文学のいいところは話題としてクールなことで、朝、語ろうと、夜、語ろうと別にどうということはない。
 北京大学の張頤武教授(訳注1)がみずから出て来た。大物だ!私を包囲攻撃するあの連中の後ろ盾か?あるいは先頭のお兄さんか?軽視することはできない。聞くところでは張教授はウエイボー(ツイッターの名前)で文章を出すそうだが、私はそれを直接読めないので、友人に送ってもらった。その一段をここに採録して、とりあえずの記録としておこう。
 張教授曰く。「もっぱら疫病のことを日記に書いている作家がいるが、今、その文章がいたるところで批判され、疑問を投げかけられている。彼らがいかに陰惨な目に遭っているか、いか縛られているか、匿名の高校生がいかに愚昧であるか等々、なぜ人々はこうした文章を信用しないか。率直に言って、病気の蔓延がひどい時に日記に描写する手法が、ルポルタージュのような言葉だからである。葬儀社の床におちていたスマホの写真、これは医師の友人が彼女に提供したものと言われるが、そんなことで広く注目を集め、それが伝播し、日記が目を引くことになったのである。
 大勢がこの件に疑問を持ち、この写真が実在するかどうか質しても、一貫して正面から向き合わず、あれやこれやの果てに、彼女は自分が迫害されていると言い募るのである。しかし、作家にとって最も大事なことは最低限、真実を求める心である。人間としての最低限の条件である。欺瞞を組み立てて、それを正直に信ずる読者を彼女は欺いてはいけない。さらに重大な時期に、重大な事柄で偽造することは絶対に容認されない。良心を持たないことは、一人の作家として一生の、さらに永遠の恥辱である」
 張教授の文字を見ていて、彼が私の日記を読んでいないことが分かった。誰か読んだ人が要約を作ったのであろう。それも自分の口調で作った要約を。「匿名の高校生がいかに愚昧であるか」などとは、私が言っていない言葉であることは明らかである。さらに張教授は「なぜ人々はこうした文章を信用しないか」と言うが、張教授の「人々」は何人いるのだろうか?教授の周りにいる人たちだけではないのだろうか?張教授は私を信頼する人間が何人いるか見たことはないのでは?張教授の方法で論断するならば、張教授を信頼する人間を私は1人も見たことはありません、文壇と言わず、学界と言わず。
 さらに「欺瞞を組み立てて、それを正直に信ずる読者を彼女は欺く」と言い切っているが、張教授も「組み立て」はなかなかお盛んではないですか?それも張教授の「組み立て」はたいそうなものだ。周小平(訳注2)がいかに好青年か称賛するときに、教授はまことに熱烈な言葉を使い、まるで周小平は張教授以上に北京大学の教授に適しているかのようでした。
 実のところ、張教授はご自分のせこい根性で他人を推し量るのがお好きなようで、それでご損もなさったはずです。いつでしたか張教授はある著名作家の小説を推測で「模倣」と決めつけて、こてんこてんにやっつけられたではなかったですか?
 写真のことは、私はすでに別の日にはっきりと書きました。残念ながら張教授は私が何を書いたかご存じないようですが。張教授はぜひ武漢にいらして、当時の真実の状況をご理解いただきたい。当時、毎日何人が死亡したか。遺体は病院から火葬場へどのような手順で運ばれたか。亡くなった方の遺品はどこへ行ったか。病院と火葬場はどのような情況下にあったか。リチウム電池は焼却できず、消毒も間に合わなかった時はどう処理するか。さらに全国のいくつの火葬場から応援が武漢に来たか?などなど。
 こういう話はここまでにします。張教授および皆さんが理解したければ理解していただきたいし、理解したくないのであれば、どうぞご随意に。写真はいつか皆さんもみることが出来ると思います。私がお見せするのではなく、持ち主がお見せするでしょう。私は本心から張教授が武漢に来て実地調査をされるよう提案します。当然のことですが、一言つけ加えれば、これらはすべて早期の段階で起こったことです。後期のことではありません。張教授が真実の状況を理解された上で、はっきりした結論を出されれば、きっと北京大学のレベルに達したものとなるでしょう。そういうふうに学生を教えれば、きっと父兄も安心するでしょう。
 今日はここまでにする。一言、繰り返しておきたい。極左は国と民の双方に災いをもたらす存在だ。改革開放がもしも彼らの手で破壊されるようなことになれば、それはわれわれ近代人の恥辱だ。さあ来い、お前たちの手の内すべてをさらけ出せ。お前たちの背後の大物を呼んでこい。私が怖がるかどうか、見せてやる!(続)
*********
訳注1:北京大学中文系教授。同時に「微博」(ウェイボー)で盛んに時事問題について発信している。
訳注2:1981年四川生まれ。著名ブロガー、作家。2014年10月に開かれた文芸工作座談会で、習近平から「方向の正しい(中国語は『正能量』)の作品をたくさん創って欲しい」と声をかけられたことで有名に。
2020.05.29  「封城」(ロックダウン)下の武漢の暮らし
           - 方方女史の『武漢日記』(11)
 
田畑光永 (ジャーナリスト)
                      
 3月17日
 封城55日目。
 晴天。ごみを捨てに出る。木の枝越しに坂の下の満開の桃の花が見えた。いささか「灌木、春色の断ずるを遮らず 一枝の紅桃、墻より出る」といった趣を感じた。「文聯大院」(筆者の住む居住区)は人が見えないことを除けば、そのほかのすべてはいつもと変わらない。
 今日の発表では確認された新しい患者は1人だった。0はもう目の前だ。多くの重症患者もつぎつぎと救出されている。もっとも彼らは完全回復までにはまだ長い時間がかかるけれども。彼らが頑張り通して、苦しくてもまず生き残って、そこから治癒への道をゆっくり上がってほしい。今のところ役所が発表した湖北省の新型コロナ肺炎による死者はすでに3000人余りに上る。間違いなく人の意気を沮喪させる数字だ。病勢を終息させ、遺族を慰めることは非常に重要だ。病勢を通して見て、国が湖北救済に力を入れ始めてから行ったさまざまな措置はかなり有力、かなり有効であった。その一歩を踏み出すのが大変だった。
 たくさんのもっといいニュースも他省に伝えられている。友人たちのいるところ、どこでも皆、それを見ている。その中のもっとも重要な知らせは、武漢を除いて全省の各地、各市は生産再開が始まり、大勢の従業員、労働者は武漢へ帰り始めている、というものだ。われわれが最も聞きたかった、最高のニュースである。武漢がまたあの雑踏を取り戻し、生気溌剌たる情景が再現されるのを本当に見たい。
 武漢には実のところ、企業などよりもっともっと待ちきれない人たちがいる。それも少数ではない。多数いる。それは子女がよその土地にいる「空巣」老人と独居老人だ。こうした老人たちの普段の生活は介護士か時間制のお手伝いに完全に頼っている。春節には介護士も時間制のお手伝いもほとんどは家で年越しをして、年明けに出勤してくる。ところが今年は封城のおかげで大多数が決めた通りに老人の家に来ることが出来ず、老人たちの生活が大変なことになった。何日か前、知り合いの曾さんと彼のお母さんについて話したことがあった。
 武漢にはかなり有名な「老通城」という店がある。その名前は漢口(武漢市は長江とそれに左岸から合流する漢水によって大きく3つに分かれるが、漢口は長江左岸の下流の部分)では知らない人はまずいない。老通城の「豆皮」(トウピー、米と緑豆の粉と卵で作った薄い餅で米飯、肉、筍などを挟んだ食品)は武漢人に最も人気のあるおやつだ。創業者の名前は曾広誠という。大分、昔になるが、湖北省作家協会が文学プロジェクトの1つとして、地元の人から公募して地元のことを書いてもらったことがあり、曾さんはそれに応募してきた。
 彼が書こうとしたのは『漢口老通城曾家』。彼は創業者、曾広誠の一番上の孫であった。創業者は彼に多くの痛みを背負わせたが、一方では大きなエネルギーを与えた。曾さんはそういう家族の在りし日を書こうと決めたのだ。われわれは曾さんを選んだ。そして曾さんは粒粒辛苦の末、三部曲の形式で物語を完成させた。
 数日前、その曾さんが言うには、97歳になる母親が湖北大学の教員・従業員住宅に住んでいる。曾さんたち家族はみんなよそで仕事をしており、弟が1人だけ武漢にいる。しかし、住んでいるところが封鎖され、母親のところへ行けなくなってしまった。母親は1人住まいを喜ぶたちで、直前までは時間決めのお手伝い1人を頼んでいただけだった。母親は精神も身体も悪いところはなかったが、お手伝いも離れた場所で隔離、母親のところに行けないとなった。
 曾さんたち家族は慌てた。独居の老母はほとんど炊事はできない。生活の必要品を買うこともできない。集中配送にも参加できない。野菜など玄関前に置いていくだけだから、母親にはなんにもできない。毎日の食事をどうしたらいいのか。薬もすぐに飲み終わってしまう。おまけにスマホもウイチャットのだめ。必要があっても、どうして外と連絡するか。曾さんの言うには、「電話が壊れそうになるほど、焦りまくった」そうだ。
 幸いなことに湖北大学の居住区ではサービスを状況に合わせてくれた。野菜を届けても、それを調理することができない。野菜を届けただけでは母の問題は解決しない。母は温めれば簡単に食べられる饅頭と漬物などを欲しがる。そこで、また曾さんは居住区に助けを求め、居民委員会が調理済みのものを届けてくれるように手配した。そして大学病院の当直の医師にも連絡を取った。大学側の事務員も学生も関心を持ってくれて、品物を届けた時には、曾さんのお母さんが中に入って、何か頼む用事がないか待ってくれるようになった。そして蜂蜜の瓶の蓋や醤油の瓶の蓋が開かないと聞けば、同意を得て中に入り、蓋を開けた。
 曾さん曰く、毎日、母に電話するが、話し声は楽しそうだ。そして勉強好きの情熱を発揮して、私に屈原や李斯(いずれも有名な歴史上の人物)の話をしてくれる。母は毎日、創作を1000字ずつ書いていると言い、私に読んで聞かせる・・・。
 お母さんは「彼らは毎日3度、食べ物を届けてくれる。一生のうちこれほど大事にされたことはない。大学は本当に行き届いている」と言っているそうだ。
 97歳!1人で生活し、創作の文字を書きながら、これほど長くなった封城の日々をゆったりと暮らす。なんと頑強な太太であることか!尊敬、感服するのみ。しかし、長い目で見れば、老人にこんな形で生活させることは、やはり明らかに不適当だ。武漢で介護士や時間決めお手伝いに頼って生活している老人は千や万では止まらないだろう。その人たちは切羽詰まった気持ちで世話をしてくれる介護士やお手伝いが戻ってくることを待っている。さらに言えば、私自身だってそうだ。
 昨日、あるネット友達がブログにこんなコメント残した。「私のところは黄岡蘄春県、封鎖解除6日目。この2日間、仕事の決まった出稼ぎの人たちが貸し切りのバスで続々働き場所の都市へ帰って行った。湖北のいくつかの市は大体こんな感じ。それからその他の県や市でも自家用車で省を出て働きに行くのを認めている。全体として湖北は長期間、封じ込められていたが、今、状況はゆっくりと好転しつつある」。
 本当にいい知らせ!うちのお手伝いさんも蘄春の人、今日、早速連絡してみよう。ただ、聞くところでは道がまだ開通していないというから、武漢へ戻るにはまだ何日かかかるだろう。
 今日はもう1件、記録しておくべき重要なことがあった。湖北に来ていた応援の医療隊が今日、続々撤退し始めたというのだ。彼らは湖北がいちばん危ない時に危険を冒して助けに来てくれた。湖北人は全員が彼らに恩義を感じている。4万人を超える医療人員の誰1人も感染しなかった。よかった!われわれ恩恵を被ったものも一息つける。別れとなると、感慨は深くなる。今日、友人の間で見たビデオでは、医療隊が帰る際、家から出られない武漢人はそれぞれのベランダで、皆さん、有難う!ご苦労様!さようなら!と叫んだ。熱い涙があふれ出た。武漢の道々で人々はみな最高の礼義で白衣の天使たちを見送った。彼らがわれわれの都市とわれわれを救ってくれたのだ。
 聞くところでは、湖北の襄陽市では襄陽を助けてくれた医療隊員全員の名前を記録して、今後、区域内のすべてのA級観光地と25の星級ホテルではその人たちを終身無料とすると決めたとか。本当かどうか分からない。でも、私は「そうあって欲しい!」と思う。全湖北のすべての観光地をその4万人余りの人たちに開放すべきだと思う。
 勿論、感動の中には笑い話もある。四川省の医療隊が湖北省に出発する時、1人の女性隊員の夫が車の下で叫んだそうだ。「趙英明!無事に帰って来いよ、家事は1年ひきうけた!」。今、趙英明は無事に帰宅した。
そして早速、彼女は動画を友人たちに配信してこう言った、「友達の皆さん、この夫が毎日、家事をちやんとするように監視してください」。見た人たちは笑い転げた。彼女がその後毎日、家庭の様子を放送しているかどうかは分からない。
 この数日のいちばんにぎやかな話題は外国から帰ってくる人たちのことである。こんな言い方がある。中国は前半戦を戦った。中国以外の国は後半戦を戦う。留学生は両方とも戦う。つまり、新型ウイルス肺炎がひどかった春節の時、海外にいた留学生は続々と帰って来た。現在、中国はすでに蔓延を抑え込んで、湖北省も安全となった。そして今は諸外国が緊張しているのだが、留学生たちは今度はそこへ帰っていく、と。
 しかし、この言い方は正確でない。早くから外国にいた留学生たちは病気の蔓延がひどかった頃は、各地を奔走して国内に援助物資を送っていた。大いに力を尽くしていた。今はそれぞれ元の場所へ帰っているが、実際はそうだったことをはっきりさせておかなければならない。面白いのは大勢が私に今度のことをどう思うかと聞いてきたことだ。
 私には自分の子供のように心と心がつながっている気がする。もし私に子供がいて、海外にいたら、私もきっと呼び戻した。皆が英雄になる必要はない。それは許される。家に帰るということは、心の中で自分の国は頼りになると思っているからだ。それがその人の信頼感と愛国心だろう。抗日戦争当時、「逃難」という言葉があった。日本人が来たとなると、大勢の庶民は南へ逃げた。なぜその土地にとどまって「鬼子」(日本兵)と戦わないのか、などと責める人間は1人もいなかった。「逃難」は人間の本能だ。とどまって日本と戦うのは英雄だ。「逃難」して逃げたものはせいぜい英雄ではなかったというだけのことだ。まして自分でも英雄ではないと認めているのだから、なにも責められるいわれはない。
 海外にはまだ十数万人がいて帰国したがっていると言われる。中国はこんなに大きいのだから、各省はそれぞれ自分のところの子弟を帰宅させればいい。それだけのことだ。病気にかかったものは入院させ、そうでないものは帰宅させて隔離すればいい。ただ、病から逃れた過程や帰国後において、規則は守れなければならない。自分を守るために他人の利益を傷つけないというのは前提であり、常識だ。
 ついさっき1人の高校生がロックダウン解除のスケジュール表を届けてきた。:22日、別の場所に留まっていた人間はまっすぐに湖北省あるいは武漢市に帰ることができる。湖北省あるいは武漢に留まっていた人間は湖北省あるいは武漢を離れて目的地へ直行できる。24日、公共交通機関、地下鉄の消毒、運行再開の予行演習などの準備。26日、集合住宅敷地内封鎖解除、住民は居住区内で活動できる。29日、少区内封鎖解除。住民は保健番号、就業証明、自家用車、自転車、徒歩で仕事へ復帰。31日、企業での生産、市場取引を手順を追って正常化。4月2日、重点商業地区の正常化。4月3日、公共交通機関、地下鉄の運行回復、実名制で乗車。4月4日、空港、高速道路、動車(不明)、国道の正常化。学生さんはこのメモを渡して、こう付け加えた。「回って来たもので、真偽は不明です」。本当だろうとウソだろうと、大いに元気づけられる。生活が次々に正常に戻ることがはっきりした。
********(続)
訳者注:今回の後半の部分、つまり外国へ出ている子女が新型コロナ肺炎の蔓延時をどこでどう過ごしたかということを論じている部分は、正直なところなにがどう問題なのか、すっきりと分からない。あるいは中国人なら、こう書くだけでお互い理解できるのかもしれない。いずれにしろ、極力、原文の論理を外さないように訳したつもりなので、あとは読者の想像力で補っていただきたい。
2020.05.27  トランプ大統領、最後の1年(14)
    新型コロナ対策で大きく後れ、増え続ける世界最悪の感染者数
            ―WHOと中国を攻撃したが孤立


坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 新型コロナウイルスの世界感染状況は5月23日現在、全体で感染者521万5253人、死者33万8265人。1位の米国は感染者160万1434人(31.7%)、死者9万6007人(28.3%)。数字は、世界各国が毎日の感染者数、死者統計で信頼し、使用している米国ジョンズ・ホプキンス大学の統計。裕福で、医療技術も高く、普及している超大国で、感染者、死者数はともに増え続けている。米国の感染者、死者がなぜこれほど多いのか。対策実施に大きく遅れたトランプ政権の大失政が原因だが、トランプは、国内の批判、追及を避けるため、中国とWHO(世界保健機関)に責任転嫁しようと必死だ。
 トランプ政権が、中国とWHO(世界保健機関)が毎日発表してきた武漢についての感染者数と病院急設、医療従事者の集中派遣の事態に対応していれば、米国でこんなに感染者が増加することはなかったはずだ。上に紹介したジョンズ・ホプキンス大学の「Timeline of Event」の記録の一部を紹介する。
1月6日:武漢の医師と看護師13人が患者13人の手術
1月7日:この病原を新型コロナウイルスと判定
1月13日:潜伏期間14日と判定
1月14日:肺炎専門医が人間から人間への感染発表
1月23日:武漢に交通遮断令施行 厳しい封鎖状態に
1月23日:武漢当局、10日以内の新病院建設を発表
1月23日:数百人の医学スタッフ、器具、食料を武漢に送りこむ
1月28-29日:数千人の医療従事者が武漢入り
2月3日:最初の急設病院開業。他の病院も続々開業
2月9日:さらに318人の医療従事者が武漢入り
2月19日:1299人の医療従事者が武漢入り、市内の下水処理に従事開始
2月29日:中国とWHOがCOVID19(新型ウイルス)についての合同調査報告書発表
3月11日:WHOのテドロス事務局長がCOVID19の世界的流行(パンデミック)を宣言
3月12日:中国の感染者80,700人。

以上のような経過が、中国とWHOによって把握され、全世界に警告されていたのだ。日本のメディアでも、武漢の封鎖(交通遮断令)はじめ中国当局の取り組みも報道され、私自身でさえ、えらいことになりそうだ、日本は大丈夫かと恐怖を感じた。
ところが米国では、トランプ政権が事態の重大さを理解できなかったようだ。1月23日の武漢封鎖の段階で、トランプ政権は、なんの行動もとらなかった、米政府があわてて警戒行動を開始したのは3月7日。感染者402人、世界で10位が確認された時点で、WHOがパンデミックを宣言する11日の直前だった。すでに中国では感染者が8万人を超え、韓国、イタリア、イラン、スペイン、ポルトガルなどで感染者が急増しつつあった。以後、米国の感染者が急増、3月22日にはまだ中国1位、米国3位だったが、3月27日には、米国が1位の10万人台となり、さらに急増しだした。トランプ政権が、武漢封鎖を重大な危険信号だと理解できていたら、米国のその後は全く違っていたはずだ。2月中に全米で行動を起こせば、事態は大きく変わっていただろう。
11月の大統領選挙が5か月後に迫るなか、全米の都市封鎖を解除しつつあるが、感染が収まる兆候もないままの危険な人気取り強行策だ。 
▼米国民の怒りを中国とWHOへ向けるのに必死
先週ジュネーブで開かれた世界各国の流行病対策の中心である国連のWHO(世界保健機関)の年次総会で、トランプ氏はワシントンの自分と腹心のポンペイオ国務長官、ジュネーブの会場でアザール厚生長官が、コロナウイルスの大流行は中国とWHOの責任だと非難。トランプ氏自身は18日に公開したテドロスWHO事務局長への書簡の中で「WHOが30日以内に大幅な改善にとりくまねば、拠出金の停止を恒久化し、WHOへの加盟を見直す」「パンデミック(世界的な大流行)への対応であなたとWHOの度重なる失敗は世界に非常に大きな犠牲を与えた」「前に進む唯一の方法は、中国からの独立を実際に示せるかにかかっている」批判した。この書簡の公表に先立って記者団に「WHOは中国の操り人形だ」「中国の(拠出金)は昨年4千万ドルだったが、米国は年4億5千万ドル払ってきた。4千万ドルに減らそうと考えていたが、それでも多すぎるという人もいる」と語った。
一方、アザール長官は5月18日、会議場での演説で「ウイルスが制御不能になって拡大した理由の一つにWHOの失敗がある」「WHOは世界が必要とする情報を得ることに失敗し、そのせいで多くの人が命を落とした」「少なくとも一つの国が感染拡大を隠そうとして、透明性の責任についてごまかしている」と述べた。国名を挙げないまでも「一つの国」が中国を指していることは、参加者の誰にも明らかだった。
 アザール氏はさらに「WHOの働きは透明でなければならない。パンデミック(WHOが宣言した世界的な大流行)への対応にすべての面で独立した検証にかけることを支持する」「現状には容認できない。WHOは大幅に透明性を高め、もっと説明責任を果たさなければならない」と主張した。
こうした、トランプ政権がWHOと中国攻撃に必死なのは、トランプ政権が流行の兆しを十分知りながら、ほぼ1か月、対応に遅れ、WHOが公式のパンミックへの警告を発してからも、緊急な対応に遅れた責任を自覚しているはずだからだ。(了)
2020.05.26  コスタリカに学ぶ (その2)
           韓国通信NO639
 
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

年号を変えなければ今年は明治153年。153年間の前半は戦争ばかりだったのに、後半の75年は戦争のない平和な時代が続く。日本は平和な国に変身した。スゴイ(拍手)! 
平和(憲法)は戦争の悲惨さを体験した人たちによって守られてきた。
戦争を知らない人たちによって平和が危うくなっている。いつの世にも戦争をしたい人間はいるが、政治のトップにいる彼らが、「日頃お世話になっているアメリカと一緒に戦う」と変な理屈を言いだし、憲法解釈を変えて集団的自衛権にもとづく海外派兵を可能にした。解釈にあきたらず憲法も変えたいという。75年間の平和に飽きたといわんばかりだ。
戦後生まれの人たちが戦争を知らないのは当然だが、彼らは親や祖父たちから何を教わって育ったのか。つくづく親の顔が見たい。権力があればやりたい放題というのも明らかな家庭教育と学校教育の欠陥だ。
国政の私物化が指摘されると検察まで手中に入れようとする。コロナ騒ぎで手が回らないが、暴走は食い止めなければいけない。

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5月3日の憲法記念日。千葉県・我孫子駅頭で以上のような憲法アピールを行った。人手が足りず、左手に「戦闘機より生活だ」、右手に「原発推進NO」。<写真/我孫子駅頭で>

<コスタリカに学ぶ>
「さわやか」コスタリカに学ぶことは多い。
日本ではややなじみのうすいコスタリカ。世界地図で正確に探し当てる人はあまりいない。
スペイン植民地からの独立運動は江戸時代末期、日本が開国を迫られた時期にあたる。コスタリカも日本も西欧列強の植民地獲得競争に翻弄された。19世紀から20世紀にかけて大国アメリカ合衆国の存在が大きく、くわえて中米諸国の政情が不安定なため苦労が絶えなかった。
日本の真珠湾攻撃をきっかけにコスタリカは対日開戦に踏み切る。サンフランシスコ講和条約には戦勝国として名を連ねる。敗戦国日本が新憲法を制定した2年後、戦勝国のコスタリカも軍隊を持たない憲法を制定した。不思議な巡り合わせという他ない。内乱に勝利したホセ・フィゲーレスがクーデターを防ぐ必要に迫られ、軍隊を廃止したのだ。
1983年には「永世的、積極的、非武装中立」を宣言、1986年にはアリアス大統領が中米紛争解決に貢献したことが評価され、ノーベル平和賞を受賞した。紆余曲折はあったが平和国家としての面目躍如たるものがある。周辺諸国からの信頼もあつく、外交力によって自国の安全保障を確かなものにしてきた。コスタリカを中米のスイスという人もいる。

女性の参政権は中南米諸国では早い時期に確立、2010年には女性大統領が就任した。バナナ、コーヒー農家の育成協同化を進めるなど農業立国を目指してきた。しかし何といっても素晴らしいのは、「兵士より教師」のスローガンのもとに「教育立国」を国の柱にしていることだ。もちろん、医療、福祉にも重点が置かれた。
日本は独立後、いち早くアメリカの極東戦略に巻き込まれ、憲法にもとづく社会づくりは改憲勢力によってないがしろにされてきた。そして現在、戦争を知らない人たちによって平和憲法までがうち捨てられようとしている。
コスタリカの国会議員は57名、再選はない。選挙は比例代表制で、各党の拘束名簿ではどちらかの性の候補者数を40%盛り込むとされている。女性の進出が進まないわけはない。
ここで男女平等世界ランキングに触れなければならない。世界経済フォーラム(2019年)では1位は前年とおなじくアイスランド、コスタリカは堂々の13位、日本は153ヵ国中121位だった。

<映画『コスタリカの奇跡~積極的平和国家の作り方~』>
二人のアメリカの学者(マシュー・エディ/ユタ大学、マイケル・ドレリング/オレゴン大学)がコスタリカに注目して映画を制作(2016)し、来日してインビューに応じた(2018)。
映画制作は、国家予算も資源も少ないコスタリカが何故、幸福度でいつもトップクラスなのかという素朴な疑問から始まった。国全体に行き渡る民主主義、持続可能性重視の思考、フェアトレードの思想、連帯や平和の価値を第一に教える学校教育の存在に彼らは気づいた。国民の幸福感が教育、医療、社会保障、環境保全から生まれていることにも注目。軍事費がないため平和のメリットを享受しているコスタリカから世界は学ぶべきだともいう。
軍隊に頼らない国の安全保障は決して理想論ではない。(日本では非武装中立は子供じみてると一蹴されてきた)。一国主義ではない国際的連帯や国際法を有効利用する平和モデルはむしろ現実的である。政治家は市民の力をおそれ、市民の意見を尊重する。70年以上続く平和の受益者である国民の9割が軍隊を持たないことに賛成していることも注目に値する。
プロデュースした二人は対談の最後に、日本人の平和運動と平和憲法に期待、平和国家としての自覚、コスタリカに学び平和を求め続けるようメッセージを残した。

<最後に>
韓国の朴槿恵前大統領が国政の私物化を問われ弾劾されたのは記憶に新しい。「モリカケサクラ」疑惑は、内容、規模ともに朴槿恵と遜色はないが、日本国民の半数は安倍政権を支持している。安倍首相は日本人の寛大さに感謝すべきだろう。
非暴力に徹し、社会を動かした韓国のローソクデモに世界中から称賛の声があがった。日本では安倍政権に累がおよぶと忖度したのか、マスコミの評価は概して冷淡だった。同じことが日本で起きたら安倍政権はもたない。
懸案問題はすべて「解決ずみ」という政府見解に同調して文在寅政権に冷笑を浴びせ続ける日本のマスコミ。日本が韓国の風下に立つことはありえないという伝統的な傲慢さが溢れている。

コスタリカの問題に戻ろう。憲法、外交、教育、医療、福祉、環境の分野で学ぶことは多い。だが現実の問題としてコスタリカにも欠点はいくらでもある。政治腐敗、所得格差問題を指摘する人もいる。正しい指摘かも知れない。しかしその批判には、他国は忌憚なく問題点を指摘するものの、自国の問題はまるで眼中にない。学ぼうとする謙虚さがなければ、単なる批判に終わる。
コスタリカから学ぶのは都合が悪い、とでもいうような底意地の悪さである。評価したくない文在寅政権のあら探しをして批判するのとどこか似ている。
2020.05.25 「封城」(ロックダウン)下の武漢の暮らし
       - 方方女史の『武漢日記』(10)
 
田畑光永 (ジャーナリスト)
                        
 3月16日
空がまた暗くなった。しかし、花咲く春、の花は「多彩多姿」だ。色彩が陰鬱を細かく砕いてくれる。だから抑えつけられる感覚はない。離れた江夏(市内の旧武昌区が江夏区となった場所、筆者はそこにも家を持っているようだ)のお隣さん、唐小禾(トウショウカ)先生が我が家の門前の写真を送ってくださった。迎春花が咲いていて、黄色が輝いている。海棠(カイドウ、バラ科の1種)は盛りを過ぎて、散り始めている。その落ちた花弁が迎春花の地面すれすれの緑の葉と組み合わさって、とても情緒がある。唐先生の家の紅玉蘭は毎年、素晴らしい。密生して輝く。傍の道を通ると世間が沈んでいる時でも、その赤い花は喜びの空気をあたりにしみこませている。
 今日も病気の状況はここ数日と大きな変化はない。低位に張り付いたといった感覚である。新しく確認された患者は相変わらず数人で、生死の線上にいる重症者は3000人強である。仮設病棟はすべて休院。ただ、今日、どこからか分からないが、仮設病棟を休院にしたのは「政治休院」で、病気の状況がよくなったわけではない、という話が伝わってきた。
 ただ私の印象では、数日前にも言ったように病院のベッドは足りているし、回復していない患者はすべて病院に入った。治った病人はホテルで14日間の隔離に移っている。だからその噂は根も葉もないものなのかどうか、友人の医師にどう思うか聞いてみた。答えはきっぱりしたものだった。「間違いなくデマだ!そんな必要もないし、そんなことできない。徹底的に蔓延を抑えるのが政治の現在だ。0になるまで入院患者を積極的に治療する。政治が予定より早く病院を閉めろなどと言うはずはない。伝染病は隠しきれない!ここでの重大な是非は政府を信頼することだ!いくら向こう見ずでも広い空を隠すことはできない!急性劇症伝染病は徹底的に抑えなければ必ず蔓延する。誰も隠せない!」。「!」は全部、友人本人がつけたものだ。私はこの話の方を信ずる。
 ウイルスはとうに政治至上主義のチャブダイをひっくり返してしまった。今さらだれが隠蔽など考えるだろうか?1か月余り前の武漢の恐ろしい情景を再現しようと思う人間はいないだろう。
多くの人間がウイチャットで厳歌苓(ゲンカレイ、女性作家、1958年上海生まれの米国籍中国人)の文章を転送し合っている。私にも友人が送ってくれた。タイトルは『借唐婉三字:瞞、瞞、瞞』(末尾に注)。遠くベルリンにいる厳歌苓も武漢を注視し、心配している。だいぶ前になるが、湖北省作家協会が主催して、世界華人女性作家会議を開いたことがあった。厳歌苓も武漢に来た。その時、私たちは彼女に武漢大学で講演してくれるように頼んだ。当日、私は行かなかったが、会場は超満員だったそうだ。
厳歌苓は直観が鋭い。彼女は今回の感染症が最初の段階から災難に転化してゆく過程を重要な一つの文字:「瞞」と捉えた。後になって抑え込んだとしても、最初に蔓延が進んだ肝心の段階には、「瞞」の字が見えないところはない。それにしても、なぜ「瞞」だったのか?故意か、手落ちか?あるいはほかの原因か?とりあえずこれは保留しておこう。
 そこで、親愛なる歌苓さん。貴方の文章を読み終えました。大変感動し、感慨を覚えました。しかしまだ友人たちに回すことはできません。削除されてしまうでしょうから。ご存知と思いますが「瞞」の兄弟分は「刪」(削る)です。われわれはこの「瞞」の兄貴分にさんざん痛めつけられてきました。ネット上でいつ、どんな原因で、条令違反を犯したのか、自分では全く知らなくても、誰もそのことを貴方に言わなくても、そして受け入れないと言っても、受け入れざるを得ないのです。
 今、文壇が驚いているニュースはLlosaの本が全部、書店の棚から降ろされたことだ。こんなことがありうるのか?まったく信じられない。Llosaを読んだのは青年時代だった。あの頃、作家はみな彼を読んだと思う。多くの人が彼の文章の運び方、そして型にとらわれない構成を喜んだ。しかし、実のところ、私が読んだ彼の本は3冊を越えてはいないはずだ。それも最も人気の高かったものを。しかし、このニュースを聞いて、ほかの作家たちと同様、私もまず驚き、次に怒り、最後は悶々とするしかなくなり、何と言っていいかわからず、その実、ぶつぶつ言う以外、モノを言う場所とてない。Llosaが何を言ったとしても、彼は政治家ではない。作家ではないか。
 数日前にこういう文章を読んだ。そこに作家を形容するこんな一句があった。「書くことのもっとも基本的で、最高の使命はデマに打ち勝ち、真実の歴史を明らかにし、人類の尊厳を回復することだ」。誰が書いたのかは知らない。Llosaはもう80歳を過ぎているだろう。われわれはなにをすればいいのだろう。「瞞、瞞、瞞」の三字は唐婉と陸游(末尾の注)の愛情物語に登場することは多くの中国人が知っている。ここでは陸游の詩から字を三つ借りてこよう、「錯、錯、錯」(誤りの意)。
 今日、知ったのだが、よそから湖北に助けに来てくれた医療人員がすでにグループごとに帰り始めたそうだ。ところが「開城」のニュースはさっぱり聞こえない。耳をそばだてる話がネット上を乱舞しているが、デマもかなり多い。ウイルスも獰猛だが、ウイルスよりもっと手ごわいのが彼の前に立ちはだかっている。それは、多くの人が生きていけなくなった、ということだ。
今日、北京の1人の記者が私に「湖北人の呼びかけ」という文書を送ってきた。それで数日前に聞いたそれの電話録音を思い出した。あらためて文章を見ると、きわめて客観的で事理は明晰だ。そこで提起しているのは政府が考えなければならない問題である。その主要部分をここに記録しておく。
私は自分の言ったことの法律的責任を負う。あなた方はウイルスを防除する。われわれ一般庶民は大いにそれを支持し、大いに協力する。しかし、こうも長期間、50余日も閉じ込められると、不健康とされるべきも健康ということになってしまう。あなた方は個別の事情に応じて政策を適用すべきだ。あなた方政府はなぜなにも行動しないのか?
こうして毎日毎日、家の中でじっと待っている。あなた方はなかなかいつということを言わないが、こっちにも目安が要る。3月末、4月末、それも時間だ。でも、現在はもはや時間は問題ではない。何の希望もなしに、こうして家でじっと待っている。一日一日の生活費、みな一家の主だ。金をかせいで朝から晩までの食う、飲む、油、なんでも金が要る。当然、話はどうどう巡りだが、食べたものは腹におさまってしまう。そして、毎日払わなければならない出費がある。
われわれが毎朝、目を開いて最初に見るものは大新聞のトップ記事、感染者がどれだけ増えたか、どれだけ減ったか、である。見ていると、武漢一帯はたしかに病状は重要であるが、湖北省のすべての都市が武漢と一緒の時間を過ごしているわけではない。それは事実だ。私は1月26日に帰ってきた。それからの日数を数えてほしい。毎日毎日、家でじっとしている。食べては寝て、寝ては食べる。大事なことはこうした日々がいつになったら終るのかが分からないということだ。始めは3月1日、それから3月10日、3月11日になったら3月15日と言う具合。鍾南山(前出、コロナ対策の医師の中心人物)は6月末に延ばした。
ずっとこれが続いて、次に何かが始まるのはいったいいつなの?
隔離をするのもいい。感染した人をともかく隔離するのには、支持し、協力する。しかし、隔離するのは病毒であって湖北人ではないはずだ。それにわれわれはすでに家に隔離されているのに、外へ出ればまた隔離される。理由は何にせよ外に出れば隔離なら、外へ出て隔離されて14日後、ご当地政府の検査を受けて正常だったとしたら、出勤して、収入を得て、正常に戻れるということか。家の中にいつまでも隔離されて、5月末になり、6月末になり、外へ出てまた半月の隔離、などとなったら、この1年にいったい何ができるのか?これほど浪費される人生は誰の人生なのだ?
お偉いみなさんよ、われわれの身になって、われわれの訴えを聞いてほしい。これは私1人の声ではなくて、大勢の人民大衆の声なのだ。騒ぎを起こそうというのではない。生きねばならない、食べねばならない、水も飲まなければならないのだ。考えてほしい、われわれ庶民の立場から問題を考えてほしい。負担を感じない家があるとお考えか?下の階では朝から晩までスピーカーが喚いている。「外へ出るな、外へ出るな、外へ出るな」。いつまで外へ出られないの?外出禁止はどの程度まで?外出禁止の条件は?外出禁止の理由は何?朝から晩までヒゲをいじっている人間の鶴の一声。外出禁止とは家を出ないということだ。ウイルスを隔離するので、湖北人を隔離するのではないのだ。それで分かるはずだ。分かれば、通達されてきた文献の精神が貫徹できる。
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今日は「封城」54日目、一組のトランプ・カードなら切り終わった。(続)

訳者注:陸游と唐婉の悲恋物語。12世紀、相愛の2人は結婚するが、陸游の母の反対で離別させられ、陸游は漂泊の旅に出る。10年後、2人は浙江省紹興の沈園で偶然、再会するが、すでに唐婉は別人に嫁していたため、再び涙ながらに分かれる。