2022.01.17 五輪を踏み石にゴールの党大会へ?それともコロナが・・・?
―習近平政権の2022年(1)           

田畑光永 (ジャーナリスト)

 年頭恒例の各メディアのさまざまな新年の展望や予測の中で、今年の欠かせないテーマは米の中間選挙と中国の共産党大会、そしてそれが絡み合う米中関係の行方であった。世界における両国の「大きさ」からそれは当然であるが、同時に、そのいずれもが茫漠たる霞にさえぎられて、視界は極めて限られている。
 とくに中国についてはあの国の言論、報道の状況から、今に始まったことではないにしても、社会の根底でなにがどう動いているかがきわめて分かりにくい。表層を手探りするだけのようなもどかしさとスピーカーががなり立てる大音量の合間にふと耳に入る小さな話し声に耳をそばだてるような頼りなさの中で、なんとか「中国の今」を組み立てるしかない。
 そういう限界を承知の上で今年もまたこの場に手探り、立ち聞きの結果を報告するつもりである。忍耐強くお付き合い願えれば幸いである。
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 今年の中国がとりわけ注目されるのは、すでに広く知られているように、憲法で2期10年までと決められた任期で、2013年に就任した習近平国家主席が、2018年にこれといった理由の説明もないままに憲法を改正して、国家主席の任期を撤廃してしまい、本来なら彼が辞任して、新主席が誕生するべき来年春の全国人民代表大会を素通りしようとしているからである。
 そのためには今年秋の中国共産党第20回党大会においても党のトップである総書記の座に留任しなければならない。憲法で国家主席は中国共産党の推薦を受けた人間が候補者になると決められているからである。共産党総書記にはもともと任期の制限はないが、党大会2回つまり2期10年で交代というのが1990年代以来、内規とされてきた。1989年の天安門事件の後、趙紫陽に途中交代で総書記に就任した江沢民は2002年まで13年間在任したが、その後の胡錦涛は2012年に習近平と交代した。
 共産党の内部で総書記がどのように選ばれるかは公開されていないが、よく言われるように太子党グループ(旧幹部の子弟たち)とか共青団グループ(党の青年組織出身者)とかのさまざまな勢力間の談合、妥協の結果であろう。
 つまり習近平が国のトップ、国家主席を「前例を破って10年以上続ける」ためには、まず今秋の党大会で「総書記交代」という言葉がどこからも出て来ないようにしておかなければならない。私の見るところ昨年以来の彼の行動はすべてそのためであるし、それは途中で邪魔が入って挫折しなければ、来年3月の全国人民代表大会(全人代)が「国家主席選任」という議題なしで終わるまで続くはずである。

 ではどういう状態をつくれば、習近平の望む形が実現できるか。それには、今は中国にとって大変な時期であり、この時代を乗り切れるリーダーは習近平しかいない、というふうに多くの国民に思わせることが必要である。
 「農村に最後まで残っていた最貧困層1億人を貧困から脱出させた、これは世界史的な偉業である」とか、「コロナ禍で欧米では多くの死者を出したが、中国の死者は人口比では非常に少ない、これは中国の社会制度が優れているからである」とか、「中国はどこの国よりも多く、何億人分ものコロナ・ワクチンを他国に提供した」とか、「宇宙開発で大きな成果を上げた」とか、自国をほめそやす報道がこれほど多い国はほかにない。すべて「習近平新時代」のたまものと国民に刷り込むためである。

 そして正念場の今年、来年が間近に迫ってきた昨年あたりからは、「現在は百年来なかったほどの大変化の時代(「大変局」)である」という言い方が目立ってきた。生半可な指導者では乗り切れない難しい時代だ、と思わせるためである。
 同時に習近平をトップにいただく政府は国民が首を傾げるようなことや、困っていることには素早く手を打って、社会を健全なものとするのに力を尽くすというアピールにも余念がない。昨年は、このブログでも取り上げたヘェー!と目を引くような出来事が続いた。
 大儲けしているアリババのような企業に独占禁止法違反や脱税などを理由に巨額の罰金を課したり、芸能人のファンクラブが募金の多寡で人気を競うのをやめさせたり、男性タレントの女性まがいの服装、態度をもてはやすのを禁じたり、かと思えば、激しい受験競争の産物である学習塾や予備校を取り締まったり、閉校させたり、学校での試験のやりかたに注文をつけたり、それなら子供はもっと遊ばせろというのかと思えば、家庭でオンライン・ゲームで遊ぶのを認める時間を週日は何時間、習末は何時間と細かく制限したり、とまあ口うるさいこと大変なものがあった。

 特に驚かされたのは、日本でもよく見かけるいわゆるテレビ・ショッピング番組で人気の商品プレゼンターの黄薇さん(芸名「薇娅」)というタレントに昨年末、浙江省杭州市の税務当局が脱税でなんと13.41億元(日本円でざっと240億円)という巨額の追徴金やら罰金やらを課したニュースだった。
 どんな事情があったのか分からないが、そんなに多額の追徴金やら罰金やらを課すところまで、いったい税務当局は何をぼんやりしていたのかという疑問がわく。なにかからくりが潜んでいるのではないかと勘繰ってしまう。
 というのは、ご存知の方も多いだろうが、習近平は昨年8月、これからの新しい時代のスローガンとして、「共同富裕」なる言葉を持ち出した。これはべつに新しいスローガンと言うわけではなく、鄧正平が前世紀の70年代、改革開放政策に乗り出すにあたって、まず豊かになれるものが豊かになり、遅れたものを引き上げる形で皆が豊かになるのを目指すという筋道を示した時にこの「共同富裕」という言葉を使ったのであった。

 今、習近平がこの言葉を持ち出したのは、現在の中国で貧富の格差が広がりつつあることに国民の不満が集中するのを前もってなだめようという狙いがあるのは明らかだ。アリババなど大企業が罰金などをとられた後に、なおさまざまな社会事業や低賃金労働者の待遇改善などにかなりの金額を拠出しているのは、時期を失してより多額の負担を強いられるのを防ぐための予防措置であろう。
 気の毒なのは、ファンクラブを通じてお金を集めたり、高額の出演料を手にしていた芸能人やテレビ・タレントが税金や罰金などの形で搾り取られていることだが、これも社会の不満が膨らむのを抑えるためのガス抜き作業と言えるだろう。
 一方では、政権の意向を忖度して庶民の不都合をないがしろにする事例は相変わらずである。最近ではこんな話が伝えられている。

 昨年12月22日の『人民日報』によれば、あの万里の長城の東端の街として有名な河北省秦皇島市山海関区の古城区域内(昔からの城壁内)では、去る2019年から石炭を燃やすことが禁じられているが、それが昨年からは薪を燃やすことも禁じられたという。
 報道によれば、冬には正午でも気温は7度以下、朝はせいぜい4~5度というところだが、薪が燃せない。その代わりに暖気を各戸に供給することになっているのだが、栓をひねっても「温かくない」。やむなく薪を燃やせばすぐに見張りの一隊がやってきて、竈に蓋をする。
 ところが、山海関区政府は正式には薪を燃やして暖を取ってはいけないと通告したことはなく、あくまで「唱導」(そのように勧めること)なのだそうである。そしてそれは環境基準を達成するため、である。
 記事は「現地の管理者は真面目に反省し、具体的な方法を提示して、民衆の現実の困難を解決すべきである」と言うが、この話、いつか聞いたことがあると思われた方も多いだろう。

 すでに2017年の秋から冬にかけて、北京で結構な騒ぎになった話の再来である。この年の春、北京のトップ、共産党北京市委員会書記の座についた蔡奇という人物が北京の空をきれいにしようと「煤改気」という改革の音頭をとったのが始まりだ。この人物は浙江省時代から習近平の下僚で北京に呼ばれ、中央委員でもない平党員で北京市のトップに落下傘降下したのであった。
 「煤」とは中国語で石炭、「気」とは天然ガスのことで、石炭暖房をやめて天然ガスに切り替えよ、という命令を下した。悪名高い北京の空をきれいにして習近平の期待に応えようとしたのであろう。しかし、石炭ストーブをやめることは簡単だが、天然ガスへの切り替えは簡単には進まない。結局、学校などの工事が遅れ、子供たちが体を温めるために休み時間に校庭を走り回り、その姿が国外のニュースで取り上げられたりして、結構、話題になった。
 蔡奇はそれに懲りるどころか、さらに北京の街のビルの看板が見苦しいと看板の撤去命令を出し、今度は看板を急に取り外した跡が見苦しい、看板が亡くなって道が分からなくなった、などと、苦情が殺到し、慌てて命令を取り消す騒ぎを起こした。
 さらには、市内の大興区という出稼ぎ労働者が多く住み着いている一帯で違法建築の建物から火事が出て、死者が出ると、今度はそのあたり数平方キロ(正式発表がないので面積は分からない)もの広い範囲から住民を有無を言わせず強制立ち退きさせるという、暴挙と言っていい行動に出た。
 蔡奇の例は子飼いの子分の独裁者へのおもねりであったが、ここまで列挙してきた昨年来のさまざまな権力からの指示、命令は党大会を控えてなんとか威信を高めたい習近平に自分の働きを認めてもらおうという役人たちのあがきと言える。
 これから3週間後に北京では冬季オリンピックが始まり、3月初めには全国人民代表大会を迎える。そこにコロナのオミクロン株の波が迫る。視界不良のなかでさまざまな動きが錯綜するだろう。手探りを続けながら耳をすませていよう。
2022.01.14 大使館の前で
韓国通信NO687

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 元従軍慰安婦たちの水曜デモが1月5日、30周年を迎えた。世界に類のない要求を掲げた運動が市民に支えられて1525回目。  
韓国通信687

 写真は当日の参加者たちの記念撮影(大プラカードには「水曜デモ30」/ハンギョレ新聞デジタル版より)。
 元従軍慰安婦のハルモニ(おばあさん)たちのデモを見学しにでかけたのは20年以上も前になる。
 地図を頼りに探し当てた日本大使館は景福宮近く、韓国日報本社の横道を入ったところにあった。古色蒼然としたわが日本大使館は集会を避けるように警察車両と警察官に守られ固く門を閉ざしていた。建物の窓のブラインドはすべて降ろされ、日本側の「無視」の意思表示が伝わってきた。
韓国通信687②

 参加者は50人くらいらだったと記憶する。韓国の友人が、「みっともない所を見せて申し訳ない」と余計な心配をした。
 以来、ソウルに出かけ、水曜日にぶつかると大使館前でスピーチに耳を傾けた。観光目的の友人たちを案内したこともある。最後に訪れた5年前、辺りは若者たちで溢れ、平和の少女像が埋め尽くされるほどの賑わいだった(写真/2016/12/21大使館前/筆者撮影)。
 ハルモニたちの「若い人たちに伝えたい」という思いが実を結び、若者たちの参加が増えていた。

 運動のリーダーとして活躍した尹美香さんの金銭トラブルが取りざたされ、新たに発足した正義記憶連帯(略称「正義連」)との確執が刑事事件に発展したことは日本でも大きく報じられた。
 私に事件を語る資格はないが、事件をきっかけに運動と水曜デモが一時困難に陥ったことに心を痛めてきた。

<市民が支えた水曜デモ>
 1991年に元慰安婦として名乗り出た金学順さんに続き、名乗りをあげた元従軍慰安婦たちによって翌年から始まった水曜デモ。ハルモニたちの存在は私個人にとって、過去の歴史と現在を結ぶ現実であり続けた。
 1000回目の集会とシンポジウムに参加、天安にある金学順さんの墓地を訪れたこともある。外務省を「人間の鎖」で包囲したことが昨日のように思い出される。日本を始め世界に共感の輪が広がっていった。こんなに歳月がかかるとは誰も予想しなかった。ハルモニたちの訃報が相次いだ。
 1993年に河野談話があり、村山内閣時代の1995年にはアジア女性基金が設立された。紆余曲折をへて2015年の安倍内閣の10億円「日韓合意」に至るが、誠意のない金銭による解決は当事者たちと韓国社会から受け入れられなかった。特に安倍首相の歪んだ歴史認識と傲慢な態度が明らかになると、徴用工問題をめぐる日韓関係の悪化とも重なり、解決の糸口さえ見えないまま今日に至る。
 局面打開に韓国の新大統領に期待する向きがあるが、河野談話を取り消そうとする日本の動きがある中では誰が大統領になっても解決は到底ありえない。
 「勇気を出して日本軍慰安婦問題を世に知らせ、また第1525回水曜集会に至るまで、長い間行動を共にしてくださった皆様は本当にご苦労された」。当日発表された文在寅大統領のねぎらいのメッセージである。
 国連で「ダーバン宣言」が採択されてから21年。世界は列強による植民地支配に対する反省と賠償を求めている。地球規模の貧困格差と人種差別の是正を求める国際世論である。
 日本だけが悪いのではないという言い訳は通じない。

<異変 占拠された抗議集会場>
 これまで開かれてきた大使館前での集会ができない異常事態が続いている。尹美香事件が報じられると、「自由連帯」「オンマ(母親)部隊」らの右翼団体が、「水曜デモはさせない」と公然と会場を占拠するようになった。「慰安婦たちはウソつき、騙されるな」「日韓条約を守れ」「日本は何回も謝った」というのが彼らの主張。極右団体は親日派、反北朝鮮派、朴槿恵前大統領を支持する反文在寅大統領派である。
 日本政府とまったく同じ主張を掲げ、日本政府が求める少女像の撤去まで求めている。ついに日の丸を掲げて集会になぐり込みをかける人間まで現れた。『反日種族主義』の著書のひとり李宇衍氏(イ・ウヨン)氏<写真「ハンギョレ」デジタル版>である。日本の極右勢力がニンマリする光景かも知れないが、普通の日本人にはこの「親日」は薄気味悪い。
韓国通信687③

<日本の平和を求める水曜デモ>
 日本では水曜デモについては謝罪と賠償に焦点をあてた反日ステレオタイプな報道が氾濫している。徴用工問題にせよ慰安婦問題にせよ主要メディアは政府見解を丸のみするばかりで、政府見解に対する検証もない。
 ハルモニたちが戦争志向の日本に危機感を募らせ、平和を強く求めていることはあまり知られていない。原爆の被爆者たちが核兵器廃絶を強く訴えるように、彼女たちは日本の平和を求める資格のある貴重な生存者ということを忘れてはならない。軍の性奴隷にさせられたハルモニたちの世界平和への訴えは全世界に感動を与えているが、日本には届かない。「すべて解決済み」とする
 本国政府に歩調を合わせて大使館の中に閉じこもり、30年間何も学ばなかった大使と館員たちの怠慢も見逃せない。 
2022.01.13 コロナ対策の目標は何か
 -目標なき場当たり主義が社会経済活動を萎縮させるー
 
盛田常夫 (在ブダペスト、経済学者)

 テニスのジョコヴィッチ選手のオーストラリア入国問題をめぐって、欧州とアジア・オセアニアのコロナ対応の違いが浮き彫りになった。
 スキージャンプの小林陵侑選手は11月27日にフィンランド・ルカで開催されたW杯で優勝した後、PCR検査で陽性の判定を受けた。小林選手自身は2度のワクチン接種を終えており無症状だったので再検査を要求したが叶わず、フィンランドのホテルで自動的に10日間の自主隔離に入った。デルタかオミクロンかの判定も、濃厚接触者の隔離などは一切なく、10日を経て自動的に試合復帰が認められた。インフルエンザ並みの対応である。
 当初、嫌がらせではないかと思われたが、とにかく自主隔離に入った。隔離期間中のトレーニング不足が懸念されたにもかかわらず、隔離明けも好調を維持し、欧州ジャンプ週間で2度目の総合優勝を飾った。個人戦で他の選手より2試合少ない参戦ながら、ジャンプ週間の3連勝で、W杯得点首位に躍り出た。災い転じて福となすである。早々と自主隔離を済ませた小林選手は、コロナ陽性による隔離リスクから解放され安心して五輪に臨むことができるというのが、欧州スキー関係者の解説である。
 この事例からも分かるように、欧州ではデルタであろうがオミクロンであろうが、無症状あるいは軽症者は自主隔離10日で社会復帰できる。日本やオーストラリアなどのアジア・オセアニア国々では、このように簡単には済まない。なにせ、日本へ入国する場合は何回ワクチン接種していようが、PCR検査が何度陰性だろうが、一律に14日間の「自主」隔離が強制される。オミクロン濃厚接触者と認定されれば強制隔離され、到着地から遠く離れたホテルへ移動させられる。外国人の入国は禁止である。これでは、強毒性ウィルスへの対応と変わらない。
 小林選手はまだ欧州でのW杯に参戦しているが、北京五輪の準備のために事前に日本へ戻ることはできない。日本で最終調整を行い、時差をなくして五輪に参加できるという利点を活かす機会を絶たれ、日本を経由することなく欧州から直接に中国へ入国せざるをえない。無用な自主隔離でトレーニングが中断されるからである。
 かくように、一律主義で硬直的なコロナ対応は社会経済活動の活性化を妨げている。日本的な官僚的硬直性が如実に現れている。中国に見られるようなアジア的で国家主義的対応である。
 欧米とアジア・オセアニアのコロナ対応の違いは、基本的目標の違いに由来している。欧米では早くからゼロコロナを目標とすることを断念した。そもそもバクテリアやウィルスを地上から抹殺することはできない。もちろん、致死率5割のエボラ出血熱のような強毒性のあるウィルスにたいしては完全防御のロックダウンが必要だが、感染力は高いが弱毒性のコロナウィルスを抹殺することはできない。にもかかわらず、日本やアジア諸国は強毒性のウィルスと同様な対応を取ろうとするために、無用な社会的摩擦を引き起こし、それが社会経済活動を阻害し、人権侵害まで惹き起こす。
 日本政府のコロナ対策には明確な目標がないようだ。世論の動向を見て,水際対策や厳しい制限を要求する声が大きいと判断して、硬直的な対応を維持しているようだ。世論に耳を傾けなかったから菅政権の人気が凋落したと考えているのだろう。だから、その逆を張れば、政権の人気が出ると踏んでいる。浅はかな考えだ。風見鶏・朝令暮改内閣である。岸田首相の性格が如実に出ている。もっとも、与党と同じく世論を忖度している野党もさして変わらないが。
 現時点で鎖国性格をとっている先進国は日本ぐらいのものだ。鎖国政策によって、観光業や航空会社が大打撃を受けている。観光客だけでなく、外国ビジネスマンや外国人留学生を排除しているために、必要不可欠な人材確保やビジネス交渉が妨げられている。無用で硬直的な対応が、日本社会の活力を削いでいる。岸田政権にとって、社会の活力低下より、政権の人気を落とさない方が重要なのだろう。感染拡大の危機を煽って、厳しい措置を導入することによって、政権が安定するという奇妙な状況が生まれている。
 これまで人類が経験してきたバクテリアやウィルスとの闘い歴史の中で、毒性と感染の相関関係が分かっている。強毒性のウィルスやバクテリアは宿主を殺してしまうので伝染力は弱く、弱毒性のウィルスやバクテリアは宿主を変えて生きながらえる。したがって、大雑把に見れば、毒性(致死率)と感染度(再生産数)には、直角双曲線的な反比例関係がみられる。コロナもその例に漏れない。
 また、感染率は社会状況によって変化するので幅があり、再生産数は1.5~3.5と推定されている。インフルエンザよりやや高く、ノロウィルスより低いと判定されている。
 これからの研究を待たなければならないが、オミクロン株の変異はコロナウィルスの弱毒化による延命化だと考えられる。明らかに感染力は高まっているが、致死率は大幅に下がっている。とすれば、コロナ対策も新しい段階に向かわなければならない。ところが、日本はその逆を行っている。明らかに政策目標が間違っているからだ。
コロナ対策転換の必要性
 日本は弱毒化したコロナウィルスの蔓延によって、コロナ規制を厳しくした。これでは、新たな変異株が出現するごとに、より厳しい制限措置を維持しなければならなくなる。まさに「コロナの罠」である。永遠にコロナ禍から脱却することができない。「コロナの罠」から脱却する道は、弱毒化に対応して、柔軟な政策措置を取ることである。
 したがって、これから目指すべきは、「ゼロコロナ」ではなく、「重症化リスク回避」を目標にした対応措置である。

 (1) 無差別に一律に国民を隔離するのではなく、重症化リスクのある人々を中心に隔離する方向へ転換すべきである。健康な人も病人も一緒くたに隔離するのではなく、高齢者、既往症のある人々、免疫不全者のような重症化リスクのある人を中心に隔離の方法を考え、その他の人々の社会生活を漸次的に自由化すべきである。

 (2) したがって、ブースターショットはこれらの重症化リスクのある人々から優先すべきである。

 (3) 陽性者を探しだすような一般的なPCR検査は不要である(感染者数の増大ばかりを強調すると、無用な検査が広がる)。これにたいして、重症化リスクのある人々の抗体検査、PCR検査を重点的定期的に行い、抗体生成が充分でない人々の行動抑制の指針を決める。

 (4) デルタであれオミクロンであれ、無症状者、軽症者の入院は不要である。10日の自主隔離の後に、社会復帰できるというルールを明確にすべきである。何時までも、ずるずると2週間も拘束する必要はない。

 (5) 鎖国政策を止め、事前のPCR検査陰性証明とワクチン接種証明を保持している場合、到着時のPCR検査が陰性であれば、日本人と外国人とにかかわらず、自主隔離免除とすべきである。一律2週間の自主隔離という硬直的愚策は撤廃すべきである。

 (6) 感染経路が分からないのに、濃厚接触者を探し出すような無駄な仕事は止めるべきである。濃厚接触者でも、ワクチン接種証明とPCR検査陰性が確定すれば、行動を拘束すべきでない。

 (7) 他国に比べて日本では重症者が少ないにもかかわらず、特定の医療機関に診療負荷がかかるのは、コロナの所為というより、医療システムの問題である。重症者の治療について、国は感染症治療病院を指定し、必要な予算をつけて対応すべきである。
 政策目標を誤ると、人々は無駄な社会的行動を余儀なくされ、社会的コストが増加する。空港でも保健所でも、意味のない仕事を長時間にわたって行う社会的損失は大きい。人々の力をもっと有用で効果的な仕事に振り向けるべきである。そのためには、政治家が明確な指針を示さなければならない。さもなければ、官僚組織は自己組織保持のためだけに動いてしまい、「屋上屋を架す」措置の維持に固執する。それによって、社会的生産性が著しく損なわれる。
 はたして、岸田首相はこのような声に耳を傾ける知力と胆力があるかどうか。

2022.01.12 モンゴル人の悲劇、それはどうやって生まれたか

――八ヶ岳山麓から(357)――
                      
阿部治平 (もと高校教師)

 日本では、モンゴル人といえば大相撲の力士である。日本軍がかつて中国東北、モンゴル人地域で我物顔にふるまった歴史を思う人はごくまれである。
 むかし、チンギスハンの大帝国を作り上げたモンゴル民族は、現在おおざっぱにはロシア連邦シベリアのブリアート、モンゴル国(外モンゴル)のハルハ、内モンゴルの諸部族に分かれている。外モンゴルは1922年ソ連赤軍の支持を得て中国からの「独立」を遂げた。だが、現在でもいずれの土地のモンゴル人にも統一国家への潜在的な希望がある。これを中国では「三蒙統一」といい、ロシアなどでは「パンモンゴリズム」といって弾圧の対象としてきた。
 1920年代から内モンゴルでは外モンゴルの独立に刺激され、外モンゴルとの統一、あるいは高度の自治を求める民族主義運動が起こった。
 ここでは、これに対して1930年代から日本人が何をどうしたかということ、それをモンゴル人の立場から見るとどうなるか、モンゴル人にどのような累を及ぼしたかということを書いた本を紹介したい。

まず簡単に歴史を振り返ってみよう。
 日本が第二次世界大戦に敗れるまで13年間、中国東北には日本関東軍が支配する「満洲帝国」という国家があった。1931年9月日本関東軍は瀋陽郊外の柳条湖で満州鉄道を爆破して一気に中国東北を占領し、32年3月清朝の廃帝愛新覚羅溥儀を担ぎ出して、傀儡国家「満洲帝国(以下満洲国)」をでっち上げた。

 当然のことながら満洲国は日本関東軍に操られていたが、外モンゴルも当時はソ連・コミンテルンに完全に抑えられていた。関東軍は対ソ連戦略のために、諜報・宣撫工作・対反乱作戦・秘密作戦などを行う特殊軍事機関を設置して、その本部をハルビンにおき、満洲国の領土外にもその出先機関を侵出させた。フルンボイル盟の西隣シリンゴル盟(盟は省の下の行政区)、貝子廟(ベイズミャオ、現シリンゴル市、貝子廟は本来仏教寺院)に置かれたアバガ特務機関はその一例である。
 シリンゴル盟はソ連の極東部隊が進駐している外モンゴルと国境が接している。内モンゴル人の「対日協力者」は、この特務機関によってゴビの向こうの外モンゴル情勢を探る先兵として使われた。
 余計な話だが、わたしは1997年モンゴル馬と日本在来の木曽馬の比較研究をしている獣医らとともに、アバガ特務機関の置かれた草原の町シリンゴルに行ったことがある。このとき貝子廟はかなり破壊されていて、その修復中であった。責任者らしい人が「ほかに資料がないから長尾雅人先生の『蒙古喇嘛廟記(もうこらまびょうき)』によって修復している」と長尾氏の本を私に見せてくれた。長尾氏は仏教学者としてモンゴル人地域の仏教調査をし、貝子廟の遺構を詳細に記録したのであるが、著書のなかで日本軍人の立ち居振る舞いを嫌悪感をもって記している。
 シリンゴルの特務機関については、すでに岡村秀太郎・内蒙古アパカ会共編『特務機関』(国書刊行会 1990)が出版されている。特務機関で働いた日本軍人の回想録である。

 ミンガド・ボラグ著『草はらに葬られた記憶』(関西学院大学出版会 2019)は、上記の著書『特務機関』への事実上の反論として、シリンゴル盟に置かれた特務機関と、それにかかわったモンゴル人の過去と今日を、今に生きるモンゴル人に語らせたものである。
 この本には「日本特務―日本人による『内モンゴル工作』とモンゴル人による『対日協力』の光と影」という副題がついている。しかもその「帯」にこうある。「「日本人よ、宗主国の国民らしく、モンゴル史に直面せよ」と。
 さらに「二度と戦争をしてはいけない」「多くの同志たちを異国の土に失った」「平和ほど大切なことはない」という我々日本人の言葉を引用して、「戦後74年の歳月が過ぎても、毎年のように繰り返される常套句!そこには現地の人々への感謝の言葉は一つもない。日本の植民地だった内モンゴル人が戦中と戦後にたどった過酷な歴史がここにあり」という。

著者ミンガド・ボラグ氏は自著についてこう説明している
 「本書はそれらの機関に直接または間接的にかかわったモンゴル人の回想を、史実に照らし合わせて解説を加えたドキュメンタリーである。誤解をおそれない言い方をすれば、本書は日本が内モンゴル草原に残した負の遺産を背負って生きてきたモンゴル人の人生ドラマである。
 というのは、のちの文化大革命時、彼ら全員が日本のスパイを意味する『日本特務』や、売国奴を意味する『日本帝国主義の走狗』として吊るし上げられ、その負の連鎖は今なおつづいている。よって本書における『日本特務』には二つの意味がある。ひとつは日本と満洲国に直接的にかかわることによって生まれた『日本特務』であり、もうひとつは文化大革命中、中国人によって着せられた濡れ衣の『日本特務』である」
 
 二つのうち、前の「日本特務」は日本敗戦ののち国民党政権、ソ連軍、その後の共産党政権によって「対日協力者」として断罪されたモンゴル人のことである。あとの「濡れ衣」は、主として文化大革命期に起きた捏造事件「内モンゴル人民革命党(内人党)事件」の犠牲者を指している。内モンゴルのモンゴル人約135万(1964年)のうち、「公式」には1万6222人が虐殺され、34万6000人余が迫害されたという。中国からの独立を企てたとしてこの人々に加えられた弾圧・拷問は、鋸による股裂きなど陰惨、酸鼻極まるものであった。

 本書の第一章では、著者の一族が「日本特務」となった経緯が語られる。第二章はソ連情報収集の前線であったウジムチン草原のラマ・イン・クレー寺の特務機関の「仕事」と、それとかかわりのあったアヨシという人物の回想録である。第三章は同じくボンソグの回想によって「日本協力者」の悲惨な運命を描く。第四章はアバガ特務機関の西ウジムチン分機(分所)の使用人の娘シルとその夫の回想録である。第五章は、著者の故郷である貝子廟の特務機関の活動や、1945年対日参戦をしたソ連軍の悪行を述べたものである。第六章は日本軍車輛の運転手の回想である。

 本書に登場する人物はこういっている
 「私からすれば、日本人はある日、突然家に入ってきていろいろ指示をし、まるで家族の一員のように振る舞っていたが、いつの間にかいなくなっていたという印象しか持っていない。あの時の日本人がいれば是非聞きたい。あなたたちはいったい何をしにこの草原に来たのか」と。

 先に1939年の「ノモンハン事件」に関する鎌倉英也氏の著書を紹介したが、そこでも明らかなように、わが日本人はモンゴル人の土地でほしいままに振舞い、「大東亜戦争」の敗戦とともに「対日協力者」を顧みることなく、「あとは野となれ山となれ」とばかりに引揚げた。
 今日ニュースによると、アフガニスタンでタリバン勢力が首都に迫ると、日本の外交官らは日本関係の仕事をしていたアフガン人を見捨てて脱出したという。わたしは、わが民族のこのみっともなく罪深いやりかたがまた繰返されたかと残念でならなかった。(2022・01・05)

2022.01.11 戦うアフガニスタンのろう者女性たち

パジュワク通信社が伝える現状(9)

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 11月8日から、8回、アフガニスタンのパジュワク通信社の報道する、現タリバン暫定政権発足(8月15日樹立)以来の現状を紹介してきた。9回目のここでは、1月3日に同通信社が報道した“Deafness cannot stop me from progress”の全文(英語)を紹介します。

 フィロズコウ発:特別な学校で教育を受けているゴール州の多くのろう者たちは、障害にもかかわらず、進歩のために戦い続けているが、標準的なクラスがないことに抗議している。
 ゴール州では、26人のろう者を教育するハイスクールが、州都のフィロズコウのグローバル・パートナー・フォア・エジュケーションによって設立された。同スクールでは現在、身体障害者と同州のための殉教者施設内の数教室だけで開かれている。
 16歳のマータブは難聴で、それにも関わらず絵画や他の芸術で才能を発揮している。彼女はフィロズコウに住み、現在高校9年生、トップ・クラスの優等生の一人。彼女は最新の絵画の一つでゴリ王朝を描き、「障害者は不能者じゃない」と語った。なぜゴリ王朝を描いたのかと尋ねると、マータブは「彼らが働き者だから。彼らは王位に達するまで一生懸命勉強しました、なかでもスルタン・ラジアはゴリ王朝の指導者で、最も成功した女性の一人。「私は彼女のことを、すべてのクラスメートや、他の同じ志を持つ人々に伝えたい」と語った。
 マータブは昨年、学校の近くで、自動車爆弾の爆発で目に負傷したが、教育を受け続けた。「私たちはクラスにいました。恐ろしい爆発が起こったのは午前10時ごろ。クラスメート18人が負傷し、とても恐ろしかったです。私も目に負傷しました。でも、学校をやめず、教育を受け続けました。」と語った。

 ろう者のための学校は専用の建物はないし、聴覚障害者の学生は、いくつかの部屋で学んでいる。学生たちは、学校の科目を学ぶだけでなく、英語とコンピューターも学んでいる。
 マータブは、先生たちから専門的なすべての科目を学び、プロジェクターの助けを借りて、コンピューター教育を受けたといっている。
 マータブの兄のザボールは、「マータブは学習と絵画の芸術に大きな才能を持っており、限られた資源にアクセスできただけなのに、貴重な芸術を作ることができた」と語った。
 ザボールはさらに「彼女は勉強と絵画に非常の興味があり、彼女の作品を見ることができます。彼女の障害は決して弱点ではなかったし、常に偉大な芸術を描きます」と重ねた。
 聴覚障害者の学生は、教育のためのグローバル・パートナーに感謝し、彼らがより良い環境で教育を受けられるように、独立した校舎だけでなく、必要な施設を提供してくれるよう、アフガニスタン政府と国際機関によびかけた。
 聴覚障害者学校の二人の教師、ノール・アハマドとハリルは、彼らが持っている資源は限られているが、生徒たちに質の高い教育を提供するために、多くのことを試みていると語った。
 一方、殉教者と障害者の部門の責任者である、アブドル・ハキム・サミールは聴覚障害者のスキルと才能について知っていると述べ、政府や国際機関に、必要な施設を学生に提供するよう要請した。
 「聴覚障害者な能力を持ち、良い人たちです。我々は彼らを助けています。現在、私たちは殉教者と障害者の二つの部屋を彼らと共有しています」と彼は語った。
 フィロズコウ市の高校には、9人の女生徒を含む26人の聴覚障害者がいる。(了)



2021.12.30 各地で市民たちの活動が活発化(8)
パジュワク通信社が伝える現状

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

 11月1日から、七回連載でアフガニスタンのパジュワク通信社の、全世界に向けた英語報道(他に現地2語もある)の一部を転載してきた。驚嘆するのは、この報道が、日々改善し、取材、記事の内容で、ロイター、APなど国際的な通信社の水準に近付いている。
 12月21日付けは、計19本。一本ごとの記事は、1行に20語ぐらいの細かさで、15-30行が多い。一番長い記事は57行だった。記事ごとに、ほとんど併用写真が付いているのも感心する。
 以下に、21日付の19本の記事の大部分を紹介しようー

 ▼(カリナウ)北西部のバジス州の身体障害者たちも、国家再建を助ける用意。

 ▼(ファラーシティ)市民活動家ハミーデイ(28)は、アフガニスタンの平和が長く続くことを要求。

 ▼(カブール)中国にパインナッツ(1600万ドル)を、2カ月以内に輸出。

 ▼(ヘラート市)身体障碍者支援団体IDP‘sは、暫定政権がこの国の長く続く平和のために、経済の安定に努めるよう、要望している。

 ▼(カライナウ)西バジス州の映画製作者たちは、国の平和と安定の下でこそ幸せで、そのために、さらに努力すると誓った。

 ▼(ファラーシティ)アフガニスタン人の帰国者たちは、平和と開発のため働くことを誓った。戦争と抗争の40年間に何百万人ものアフガニスタン人が外国に逃れ、何千もの家族が、あちこちとさまよった。

 ▼(ヘラート市)「暴力をなくすために、人々は手を結ぼう」と、ヘラート市の19歳の詩人マイワンアザニが訴えた。

 ▼(カブール)多数のカブール市民が21日、市内でデモ行進を行い、米国に対し、アフガニスタンに対する資産凍結をはじめ、すべての制裁をできるだけ早くを解除するよう要求した。4か月前、アフガニスタンの前政権が崩壊、タリバンが政権を支配したとき、米国政府は、米国にあったアフガニスタン中央銀行の資産約100億ドルを凍結した。

 ▼(カンダハル市)カンダハル州南部の取引業者、店主たちによると、外貨の売買が禁止されて以来、商品の価格が5~10%値下がりした。
先週カンダハル州知事は、通貨アフガニの価値を防衛するため、取引業者と会談した後、州内での外貨使用を禁止した。

 ▼(カライナウ)北西地方のバッジス州カライナウの大学教授、女性、若者、街の有力者たちは、様々なタイプの暴力を根絶し、人々の結びつきを強めることで、街の平和を固めようと一致した。これは、パジュワク通信社とUNDP(国連開発計画)、カブールのデンマーク大使館の支援の下で開かれた会合での合意。

 ▼(プルイクムリ)北バグラン州の情報文化局長ハシャミ氏は、許可証のないすべてのクリニックと薬局の閉鎖を約束した。
パジュワク通信社の調査報道によると、同州の30の薬局店と4つのクリニックが許可証なしに営業している。

 ▼(ヘラート市)著名な女性平和運動家ソニア・アハマデイさん(25)は、平和を守り、暴力と社会的迫害をなくさなければならないと、パンジュワク通信社の取材に対し強調した。アハマディさんは、5年前、ヘラート大学のジャーナリズム・マスコミュニケーション学部を卒業して以来、外国人の協力も得て、150の平和セミナーを開催してきた。

 ▼(ペシャワール)OICがアフガン国民のための人道的支援基金を設立
OIC(イスラム協力機構、加盟57か国)は20日、ペシャワールで開催した外相会議で、WHO(世界保健機関)と協力して、アフガニスタン支援のため、人道的支援基金の設立と食料安全計画を開始することを決議した。

 ▼(コスト市)コスト州南東部当局は、無計画、無公認のビルの建設を禁止した。パジュワク通信社の12月9日の報道によると、コスト市の85%のビル建設は、市の許可を得ていなかった。

2021.12.28 日本政府は核兵器廃絶に踏み出せ
新年を前に世界平和七人委がアピール

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 世界平和アピール七人委員会は12月27日、「2022年を日本政府が核兵器廃絶に踏み出す年に!」と題するアピールを発表した。
 年が明けるとすぐに核兵器不拡散条約(NPT)の第10回運用検討会議が、3月には核兵器禁止条約の第1回締結国会議が開催されるところから、七人委として、日本政府に対し、核兵器に依存して国の安全を求めるこれまでの政策と決別し、被爆国の政府として核兵器廃絶のために主導的な役割を果たすよう求めている。具体的には、日本政府が、核兵器国と非核兵器国の双方と積極的な対話を行って問題解決への糸口を探すこと、核兵器禁止条約の第1回締結国会議にオブザーバーとして参加するよう求めている。

 世界平和アピール七人委は、1955年、ノーベル賞を受賞した物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器禁止、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発してきた。今回のアピールは150回目。
 現在の委員は大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者)、池内了(宇宙物理学者)、池辺晋一郎(作曲家)、髙村薫(作家)、島薗進(上智大学教授・宗教学)の6氏。
 アピールの全文は次の通り。

2022年を日本政府が核兵器廃絶に踏み出す年に!
世界平和アピール七人委員会

 2022年に入るとすぐ、1月4~28日に核兵器不拡散条約(NPT)の第10回運用検討会議が予定されており、続いて核兵器禁止条約の第1回締結国会議が3月22~24日に開催されることになっている。核兵器不拡散条約は、国連加盟国193カ国のうち、189カ国が参加している普遍的な条約である(註)。これまで核兵器保有国は、第6条の「各締結国は、核軍備競争の早期停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、・・・誠実に交渉を行うことを約束する」との規定の交渉を全く実施してこなかった。2015年の第9回会議では、議長の最終文書案を、中東非大量破壊兵器地帯構想に反対する米国ほか数カ国が拒否して、採決できないまま終了した。

 核兵器使用が非人道的であることは、日本政府も含めて、世界で認められている。核兵器の使用を確実に防ぐ唯一の方法は核兵器の廃絶である。日本政府は 核兵器の廃絶を目指し、核兵器国と非核兵器国の橋渡しの役を果たすと繰り返し言明してきた。岸田文雄首相は、『核兵器のない世界へ』と題する著書まで出して、「核兵器のない世界」に向けて国際的な取り組みを主導していくという固い決意を表明している。
 そうであれば、現実がむずかしいといって何もしないのではなく、自らが核兵器に依存して安全を求める政策と決別し、双方と積極的な対話を行い、解決への糸口を探し、解きほぐしていくことから進めるべきである。

 私たちは、今回の会議においては、「締結国が次回の運用検討会議までに誠実にかつ積極的にこの第6条の約束に従った交渉を行い、成果報告を行う」ための具体的な合意が得られるよう、日本政府が主導することを求め、会議が必ず最終合意に達することを求める。

 また、3月の核兵器禁止条約締結国会議にはNATO加盟国であるノルウェーとドイツがすでにオブザーバー参加を表明しており、対話が始まることは明らかなのだから、橋渡し役を自認する以上、日本もオブザーバーとして参加しなければならない。

 私たち世界平和アピール七人委員会は、新しく迎える年を、核兵器廃絶を確実に進める節目の年とするよう呼びかける。

(註) イスラエル、インド、パキスタンは、NPTに加盟していない。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、2003年1月に脱退の自動的且即時発効を通告した。

2021.12.23 アフガニスタン 暫定政権発足から4か月
パジュワク通信社が伝える現状(7)

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

 アフガニスタンにタリバンの暫定政権が発足(8月15日)してから4か月。国連を中心に大使館や外交代表が首都カブールに復活する動きも始まる一方、飢餓寸前の子供たちを抱えた母親たちの苦闘も、国内各地から伝えられる。
 全国に取材網を広げ、アフガニスタンの2言語と英語で、世界にアフガニスタンの現状を伝えている、十分信頼出来るパジュワク通信社の報道を11月1日から6回紹介してきた。12月18日の報道の一部の要点を紹介しよう
 (カブール)ロシアはアフガニスタンでの人道的必要経費と欧州への移民流出を防止する措置の強化のため、凍結しているアフガニスタンの資産を解除するよう、西側諸国に要求した。
 ロシアのノーボスチ通信社の報道によると、カブールを訪問したプーチン・ロシア大統領の特使カブロフ氏は、「西側諸国は、アフガニスタンからの移民増加を恐れている。それならば、凍結しているアフガニスタン人の資産を解除すべきだ」と西側諸国に呼びかけた。
 同特使は「何万ものアフガニスタン人の家族が、自国を離れる必要がないように、できることは何でもやらなければならないのだ」と強調した。
 8月半ばにタリバンがアフガニスタンを支配してから、米国とその同盟国は、アフガニスタン中央銀行の資産95億ドルを凍結している。
 国連は、アフガニスタン国民のうち1,900万人が真冬のさなか食料不足に直面しており、外国への移民流出か飢餓を選ばなければならない、と言っている。(注;アフガニスタンの全人口は2020年の推定で約3、900万人)

 (カブール)首都カブールにある中央パスポート事務所が19日に開所し、業務を再開する。すでにパスポート取得を申請し、手続きを整えた人もいるが、19日からは、ムジャヒディン(タリバンの軍事要員)のみ申請を受け付け、それ以外は1月10日から新しく申請を受け付ける。
 パスポート事務所のアラムグルハッカーニ所長は、内務相の指示により、新しい器具が整備された、と語った。

 (ヘラート市)パジュワク通信社の取材によると、コロナ・ウイルスの第1波流行の際、ヘラート市当局は、検査器具のCTスキャンを3、080万アフガニで購入した。この価格は当時の市場価格より1,900万アフガニ高価な価格だった。(当時のアフガニの対ドル価格は1ドル=77アフガニ) 
 ガニ前政権は、コロナ・ウイルス対策で、ヘラート州に4億アフガニを配分、うち2億3千6百万アフガニが使用され、1億6千4百万アフガンが未使用で政府に返却された。
 パジュワク通信社の調査によると、ヘラートの市民病院が2020年4月22日、このCTスキャンと同じドイツ製品を、3,080万アフガニで購入していた。しかし、パジュワク通信社が得た当時の市場価格は、1,150万アフガニだった。この購入の際のサインはヘラート市公衆衛生局長A.H.Tamana。
 アフガニスタンでコロナ・ウイルスの感染者が最初に記録されているのはヘラート市。このためアフガニスタン政府は、同州でのコロナ流行のコントロールに、特別の注意を払っていた。

2021.12.21 コロナ、スパイウエア、復旦大学受け入れ
ハンガリーの政局3つの話題

盛田常夫 (経済学者、在ハンガリー)

ハンガリーでは明日(12月15日)から、5歳~11歳の子供に対するワクチン接種が開始されます。現在の感染拡大は児童を中心に増えており、子供へのワクチン接種が優先課題となっています。児童・生徒の感染が拡大していますが、学校単位での休校はありません。学級閉鎖か部分的なオンライン授業が中心になっています。インフルエンザの場合と同様の措置です。
他方、学校関係者(教員、事務員、用務員等)でワクチン未接種者は来月中旬までに接種を終えない場合には、1年間の無給休職扱いとなります。健康上の理由で接種を受けられない場合には、医師の証明書が必要です。ただし、これは公立学校での措置で、私立学校には適用されず、その学校の判断に任されます。
一時は連日1万人を超える新規感染者が出てきましたが、ここ数日は4000名前後の新規感染者数に落ち着いています。しかし、死者の数は減少していません。1日当たり、160-180名前後の幅で推移しています。年齢に関係なく、基礎疾患のある人々が犠牲になっています。病院で治療を受けている人の数はおよそ6500名、人工呼吸器での治療を受けている人は560名前後です。後者の数はほとんど増減していません。新規の重篤者が出ても、人工呼吸器治療の重篤者が次々と死亡するので、治療者数は増えないという関係になっています。
2000年五輪の体操(吊り輪)金メダリストのチョラーニィ・スィルヴェスター(51歳)が11月中旬ににコロナ感染し、現在、人工呼吸器による治療を受ける重篤状態にあると報道されています。ワクチン接種は受けておらず、ECMOによる治療が必要だと報道されています。基礎疾患があったかどうかの報道はありません。ハンガリーには20数台のECMOしかありませんが、この治療を受けた場合は回復しても、かなりの後遺症が残るとされています。

ところでハンガリー政府がイスラエルのスパイウェア「ペガサス」(Pegasus)を購入し、政権批判のメディア関係者の盗聴に使用していた問題で、動きがありました。11月4日の国会の防衛委員会終了後、委員長のコーシャ・ライヨシュ(FIDESZ・キリスト教民主国民党)幹部で、デブレツェン市長)が、国会内で新聞記者の質問に答えて、「内務省がペガサスを購入した」と言明したことにたいし、国家機密漏洩で告訴を求める訴状が検察に届きました。これは内務大臣のピンテルが、「国家機密事項を質問すること自体が罪に問われる」と言明したことに反応したものですが、11月末にハンガリー検察は訴状を却下しました。却下の理由として、検察は「内務省はペガサスを購入していないから、国家機密の漏洩ではない」と判断したとされています。それでは、政府のどの部署がペガサスを購入したのかという問題が、依然として残ることになります。
この間、アメリカでもこのスパイウェアが問題となり、イスラエル企業はジャーナリストを盗聴した国との契約を打ち切ったようですが、それにハンガリーが含まれているのかどうかは不明です。FIDESZ政治家は知らぬ存ぜぬで突っ張っていますが、盗聴には法務大臣の決裁が必要であり、法務大臣や内務大臣が関係していることは自明のことです。
FIDESZ政権は来年の選挙を見据えて、なりふり構わぬ「ばら撒き」政策を展開しています。11月に年金プレミアム(平均で8万Ft・1フォリント=0.38円))を配っただけでなく、来年2月に年金ボーナスとして、1か月分の年金を支払うだけでなく、年初より年金支払額を物価上昇に合わせて5%引き上げることも決めました。地方在住の有権者と年金生活者をターゲットにしたFIDESZ政権の選挙戦略です。ただし、このばら撒き政策のために、国家予算の赤字額は計画の2倍を上回ることになりました。たとえ総選挙実負けても、財政赤字の補填はFIDESZの仕事ではなく、今の野党の責任に任せるということでしょう。
他方、復旦大学ブダペストキャンパス開校をめぐる国民投票についてその可否が審査され、「可」という判断が示されたため、カラチョニィ・ブダペスト市長は国民投票実施のための有権者の署名(20万人)活動を始めることを宣言しました。

来年の総選挙をめぐって、熱い戦いが始まっています。

2021.12.11 アフガニスタン、暫定政権が女性の権利で行政命令発布
パンジュワク通信社が伝える現状(6)

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

 アフガニスタンのタリバン暫定政権が発足してから4カ月近くが過ぎた。政権最高指導部は3日、女性の権利に関する行政命令を発表し、すべての関連機関、組織、ウラマー(イスラム教指導者)、裁判官たちに伝達した。暫定政権の最高指導部は、女性の人権問題が、米国をはじめ西側主要国による国家承認、支援の大きな妨げになっていることを十分知っており、この行政命令を急いだに違いない。
 パンジュワク通信社が3日に伝えた、女性の権利に関する行政命令の要点を紹介しようー
(1) 結婚には成人女性たちの同意が必要(結婚する双方は対等)。誰も女性に結婚を強制、圧力をかけてはならない。
(2) 女性は所有物ではなく、高貴で自由な人間である。誰も平和的な交渉で女性を交換したり、憎悪を終わらせるために他人に女性を提供してはならない。
(3) 夫の死後、シャリアアダト(4か月と10夜)あるいは妊娠期間が過ぎても、彼女を平和的な交渉事や憎悪を終わらせるために、利用してはならない。
(4) 夫の死後の女性が再婚して、新しい夫からマハール(坂井注:現地用語?)を受け取るのはシャリア(イスラム法)上の権利である。
(5) 未亡人には相続権があり、夫の遺産から規定されている分を受け取り、夫の父親、子供たち、親戚はじめ誰も、彼女の権利分を減らすことはできない。
(6) 一人以上の女性と結婚している男性は、シャリア(イスラム法)に基づき、それらの女性たちすべてに正しく遺産を分配しなければならない。

 以上の行政命令を実行するため、関係機関に以下の指示をくだすー
(1) ハッジ・宗教問題省に対し:学識者たちが、女性の権利について、人々が認識をもっと深めるように、抑圧された女性たちが与えられるべき権利を与えられないならば、アラーは不満であり、アラーに苦しみと怒りをもたらすことを、文書や説教によって示すよう、力づけなければならない。
(2) 情報・文化省に対し:現存する女性に対する抑圧を取り除くため、またシャリア(イスラム法)上の女性の権利について、ウラマ(イスラム教導者)と一般市民に有益な出版物とオーディオ普及を進めなければならない。
(3) 最高裁判所はすべての裁判所に対し、女性特に寡婦の権利とその抑圧に配慮し、女性たちが抑圧を乗り越え、シャリア上の権利を獲得できるよう、指示しなければならない。
(4) 中央、地方の長は、以上の指示を実行するため、ここに明記した各省、最高裁判所と協力しなければならない。