2020.06.25  コロナ報道で検閲行為 海外メディアにも及ぶ
          NHKワールドなど政府コロナ要請放送受け入れ

隅井孝雄 (ジャーナリスト、京都在住)

 週刊ポストの最近の報道(6/5,6/12)によると、内閣広報室の数人の係官が、テレビの報道番組、コロナ報道などをモニターし、問題発言を書き起こして政府に報告しているという。

 テレビ報道をチェックし訂正求める
 そういえば「羽鳥慎一モーニングショー」(テレ朝月~金8:00) で安倍首相のコロナ対策後手に回っていること、医療機関へのマスクを重点的に配備すべきだとの発言を、厚生労働省が番組出演者を名指ししてツイッターで攻撃した(3/4)ことがある。
 内閣広報室のメディアチェックは、明らかな憲法21条違反の検閲と言わざるを得ない。
 週刊ポストが入手した情報公開資料によると、2月初旬から3月上旬までの40日ほどで、A4判1000枚近くに及んでいるという。特に目立つのはテレ朝の朝ワイドに出演している玉川徹キャスターやゲストの岡田晴恵白鷗大教授、更には「ダイヤモンドプリンセス号」に乗り込んで、政府の対応を批判した、岩田健太郎神戸大教授の発言などだ。報道番組やワイドショーが中心だが、情報番組の「アッコにおまかせ」(TBS、日曜11:45)での和田アキ子とIKKOとのやり取りも含まれていた。

 諸外国メディアに多い安倍批判
 諸外国の多くは安倍政権のコロナ政策に批判的だ。「日本はPCRの検査が少ない。日本のやり方は症状の軽い感染者を特定し、追跡することを困難にしている」(英紙ガーディアン5/4)と指摘した。4/23に外務省が海外メディア向けに開いた記者会見では、「もっと多くの市中感染があるのではないか」などの質問が1時間にわたって続いた。また韓国の「ハンギョレ新聞」(4/30)も「日本政府は韓国の防疫の成功を無視し、軽んじている」と批判した。(朝日新聞5/8の記事より)。安部首相の感染対策としてマスク2枚配布の発表(4/1)は、国内の批判に加え、海外メディアからも「アベノマスクはエイプリルフールか」(Fox News4/1)など嘲笑、揶揄が乱れ飛んだ。

 海外報道にも及ぶ検閲
 今国会で成立の予算の中に、“批判をチェックし、正しい情報を流すために”との予算24億円を外務省が組んだ。主要20か国などのSNSをAI(人工知能)も活用して海外メディアの報道チェック、“正しい情報を発信する”という。
 厚生労働省も国内海外に向けて「ネガティブ情報の払しょく」、「正しい情報の発信」を行う予算35億円が組まれた。
 外務省、厚生労働省、内閣広報室、内閣官房インフルエンザ等特別対策室は一体となって国内、海外の政府批判阻止の動きを強めているのが現状だ。

 特措法でNHKは指定公共機関
 「改正新型インフルエンザ対策特別措置法」では日銀、赤十字などと並んでNHKが指定公共機関とされた。従来から政権寄りのNHKは、政府のコロナ対策への協力にアクセルがかかっている。国境なき記者団(本部パリ4/8)、日本ジャーナリスト会議(4/11)、などが独立した報道を阻害するとして反対声明を出し、NHKを指定から外すよう要求している。

 NHKの海外放送で政府の要請放送
 160の国・地域へテレビ国際放送(NHKワールド)や、ラジオ国際放送(短波)、インターネットニュースサイト(Japan On Line、17ヵ国多言語)など、NHKの海外向けの情報発信では、在留日本人の生命、身体にかかわる事項、国の重要政策などで政府の要請があれば、それを受け入れることになっている。4月1日に総務省が発表した2020年の要請放送の項目には「新型コロナウイルス感染症に関する国内の最新状況に特に留意すること」が付け加えられた。

 このままではNHKは政府広報機関に陥ることになる
 NHKを指定公共機関から外すよう求めるとともに政府の要請報道に応じないようNHKに求める必要がある。
2020.06.19  メディアだって恥ずべきことをやっている――黒川スキャンダルを巡って
          ――八ヶ岳山麓から(314)――

阿部治平 (もと高校教師)

1月31日、安倍内閣は黒川弘務東京高検検事長(当時)の定年延長を決定した。検察庁法改正案が国会に提出され、5月に審議に入った。これに対して黒川人事を「後づけ」する意図が見え見えだとして、会員制交流サイト(SNS)には、「ツイッターデモ」といわれるほど多くの反対意見が登場した。検察OBからも反対意見が法務省に提出された。5月18日安倍政権はこれに耐えきれず、法案の成立を断念した。
ところが、日をおかず「週刊文春」(2020・05・28)によって、当の黒川氏が産経現役記者、朝日元記者と賭け麻雀をしていたことが暴露された。安倍政権のメンツが吹っ飛び、黒川氏は袋叩きされ辞職に追い込まれた。

産経や朝日は、コロナ禍の緊急事態宣言のさなかに記者らが麻雀賭博をやったことを恥ずべきことと謝罪した。だが自社の記者が東京高検検事長という権力者にべったりひっついていたという事実に対しては、反省の一言もなかった。
日本のメディアは、古くから権力者・有力者に密着取材して情報を得るのが当り前になっている。この担当記者を「番記者」というそうだ。今回賭け麻雀をやっていたのは「番記者」と「元番記者」であろう。毎日だの読売だの日経だの、その系列下のテレビも、「番記者」については何も言わなかったから同じことをやっているに違いない。地方新聞でこの問題を取り上げたところがあったら教えていただきたい。

ジャーナリストの青木理氏は、歴代政権が自制した放埓人事を安倍内閣が繰りかえした責任を問うたのち、末尾で次のように書いた(信濃毎日新聞2020・05・22)。
「……今回、大手メディアの姿勢にも重大な疑念が突きつけられた。一部の週刊誌が政権の問題を浮き彫りにする特ダネを連発する中、焦点の人物とマージャン卓を囲み、肝心の情報を発信しない新聞記者。緊急事態宣言下、誘いを受けたとしても、なぜ固辞しなかったのか。情報を持つ高官の懐に飛び込むといえば聞こえはいいが、いったい誰のための取材であり、メディアなのか」

私は、黒川スキャンダルは、長年習慣的な「番記者」という取材方法にその根源があるとおもう。青木理氏は、黒川氏から誘いを受けた記者らが、なぜ誘いを断らず出かけたのかと問い、彼らが「肝心の情報を発信しない」と批判している。
だが現役も元記者も誘いを断れず、のこのこ出かけたわけはだれでもわかる。権力者から情報を得るつもりが、哀れな召使になっているからだ。いいかえればこの制度を使って記者に取材させているメディアは、自社の記者を権力の「はしため」として差し出し、記者たちはあたりまえのようにそれに従っている。そんなやり方で、いくら麻雀をやっても「肝心の情報を発信できる」わけがない。
青木氏が権力に取り込まれたジャーナリストを批判するなら、「番記者」方式をはっきりと非難すべきであった。

「記者クラブ」というものがある。中央・地方の役所、警察、裁判所、さらには業界団体に設置されていて、クラブの部屋もそこからタダで借りているという。それかあらぬか、日本のニュースには官庁の公式発表の記事が多い。刑事事件などほとんどが警察発表そのものだ。官庁や警察に情報が集まるのだから仕方がないといえばそれまでだが、労働現場や労働組合、農協や生協、平和団体、学者の地道な研究、ボランティア団体など民間の社会活動など、記者が足で取材した記事はごく少ない。催物の記事でも主催者発表が主だ。こうなると記者クラブは、半分は役所や警察の思惑通りに動く報道機関だといわれて仕方がない。

中国のメディアは中国共産党の「喉と舌」つまり宣伝機関である。特に習近平政権になってから独立したメディアは姿を消した。ジャーナリストらしいジャーナリストは脅迫されて沈黙するか牢獄の中だ。
メディアの報道があてにならないことは、中国の「老百姓=無権の人民」はだれもが漠然と感じている。だから「人民日報」などの記事が話題になることなど皆無。むかしはだれだって「街道消息=うわさ」のほうを信じた。今は携帯電話にどこからともなく瞬間的に流されてくるメールを信じる。
中国のメディアを「中国のマスゴミ」といった日本のジャーナリストがいたが、10年余の中国生活から帰国したとき、日本の大新聞とその系列のテレビも、やはり「マスゴミ」だとおもった。テレビのコメンテーターと称する人々はたいてい現状肯定的で、安倍政権のちょうちん持ちが多い。今はこれにすっかり慣れてしまい、週刊誌やネットが権力を批判する自律的な発言をする人を揶揄し叩くのを見ても、「そら来た」という感じで受け止めている。ただ地方紙にはまだ独立心が残っているのを知って少し救われたおもいがしているが。

中国とおなじく、日本でも記者が権力者の非行を暴いたら配転かクビになることがある。最近では、もとNHK記者で、いまは大阪日日新聞記者相沢冬樹氏の例がある。氏は、通産省職員赤木俊夫氏が「最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」と書いた遺書と手記を明らかにした人だ(「週刊文春」2020・04・02)。
彼はNHK時代森友事件をスクープしたために、2018年5月辞めざるを得なかった。大メディアはジャーナリストとしての精神をもった記者が嫌いなのだ(『安倍官邸vs.NHK―森友事件をスクープした私が辞めた理由』文藝春秋、2018年12月)。

元来は報道には真実性と客観性、また論評には批判性という規範が伴っている。教科書風にいうと、客観・中立・公正がたてまえである。そのためには権力側を支持するか反権力であるかにかかわらず、メディアは権力から独立していなければならない。客観・中立・公正とはその意味であろう。
テレビや新聞、雑誌の報道には、権力への忖度とへつらいがあふれている。だからものを考える読者は、ジャーナリズムに批判精神と倫理を期待するのはあきらめて、裏付けが希薄だと思っても、ネット上の記事に目が行く。欧米のメディアの報道に多く見られるような自主性・主観性をもった記事や論評を歓迎するのである。新聞紙の読者が減るのも無理はない。
とはいえ、私はメディアとジャーナリストを信用してはいないが、絶望しているわけではない。絶望しないからこうして注文を付けるのである。
 

2019.12.17 辺野古への土砂投入強行から1年
全力投入の朝日報道

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

沖縄辺野古への土砂投入開始から1年。安倍政権は、環境破壊、埋め立て予定区域の危険な軟弱地盤問題を隠してきたが、土砂投入開始後にようやく正式に認めた。8万本もの杭を海底に打ち込まねばならないことが判明、工事の完成まで最低で10年以上かかることを認めざるを得なくなった。総経費予測もできない辺野古基地移転工事計画。昨年9月の知事選いらい、今年2月の県民投票、4月の衆院補選、7月の参院選のすべてで、沖縄県民は「辺野古移転計画ノー」の意志を明確に示しているのに、安倍政権はしゃにむに埋め立て工事を進めている。米国内には沖縄の海兵隊のグアム移転が好ましいとする戦略見解が少なくないのにだ。
そして、この12月14日、安倍政権が辺野古の海へ土砂投入を強行してから満1年。各紙、NHKと民放は辺野古移転問題を報道した。その中で朝日新聞が最も積極的で明快だったと思う。以下に各記事の見出しと、社説全文をあらためて紹介したい。社説を支持する。

12月12日
▼1面:(時時刻刻)辺野古移設 新たな攻防へ
辺野古に土砂一年 続く緊張
▼2面:土砂投入1% 軟弱地盤難工事
改良工事 守勢の県 強気の国 
県、民意の行方に危機感
国、年明けにも変更申請
▼4面:沖縄・玉城知事インタビュー「辺野古の危機 国民と共有」

12月14日
▼7面:辺野古ノー 何度叫べば 
続けた抗議に無力感「心折れた」 
「民主主義が一緒に埋め立てられる」

12月15日
▼6面:社説 全文
土砂投入1年 民主国家のすることか

 力で異論を抑え込み、重要な情報を隠し、ごまかしと強弁を重ねて相手の疲弊を待つ――。そんな安倍政権の体質が、この問題でもあらわだ。
 沖縄・米軍普天間飛行場の移設をめぐり、辺野古の海への土砂投入が始まって1年になる。
 昨年9月の知事選、今年2月の県民投票、4月の衆院補選、そして7月の参院選と、県民は繰り返し「辺野古ノー」の意思を示してきた。だが政権は一貫して無視を決めこんだ。
 日ごろ自らの正統性をアピールするために国政選挙での「連勝」を誇り、野党をやゆする首相だが、こと沖縄に関しては、投票で示された民意は切り捨てるべき対象であるらしい。二重基準も甚だしい。
 ほかにも、およそ民主主義国家とは思えぬ行いが続く。
 環境破壊の恐れや取り決め違反を理由に県が実施した行政指導は、埋め立てに関する法令に基づくものだけで、15年以降で33件に上る。今月も、浮き具の重りがサンゴを傷つけたとして撤去と工事の中止を求めたが、国は一顧だにしない。民間の事業では考えられない対応だ。
 一方で、県が埋め立て承認を撤回したことの当否を争う裁判では「国も一般企業や個人事業者と変わりはない」と主張し、国が埋め立てをする「権利」を守るよう唱える。物事の本質を見ず、小手先の法解釈に走る裁判所がこれを追認し、一体となって沖縄を追い詰める。嘆かわしい限りだ。
 埋め立て予定区域に広がる軟弱地盤問題でも、国は14~16年の調査で存在を把握しながら公表しなかった。土砂投入後にようやく正式に認め、8万本近くの杭を海底に打ち込んで対応すると言い出した。自らが選んだ有識者の「お墨付き」を近く得て、設計変更を県に申請し、認められなければ裁判に訴えてでも押し通す構えだ。どれだけの費用がかかるのか、国は見通しすら示していない。
 こうした態度に県民が不信を募らせるのは当然だ。焼失した首里城の復元に国が前向きなのも、辺野古で県の譲歩を引きだすためではないかと、警戒の目が向けられるありさまだ。
 そもそも普天間飛行場の移設は、沖縄の基地負担の軽減が出発点だった。ところが辺野古の埋め立てが自己目的化し、普天間が現に直面する騒音被害や墜落の恐怖をいかに取り除くかという協議は、一向に進展しない。今の計画どおりでも移設工事の完成に10年以上かかる。国が力を尽くすべきは、真の「普天間問題」の解決である。
 沖縄の声に向き合え。土砂もろとも民意を海中に投じたあの日から1年、繰り返し訴える。
2019.11.29 大賞に京都新聞の「旧優生保護法下での強制不妊手術に関する報道」
         2019年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞
                                       
岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストを顕彰する活動を続けている市民団体の平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、ジャーナリスト・田畑光永の両氏ら)は11月28日 、2019年度の第25回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。

 基金賞の選考は太田直子(映像ディレクター)、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、本間健太郎(芸能クリエーター)の6氏を審査委員とする選考委員会で行われた。基金の運営委員会に寄せられた候補作品は61点(活字部門33点、映像部門28点)で、この中から次の8点を選んだ。

基金賞=大賞(1点)
 京都新聞社取材班の「旧優生保護法下での強制不妊手術に関する一連の報道」

奨励賞(7点) 
 ★沖縄タイムス編集局の「権力の暴走をただし、民主主義を問う一連の報道」
 ★ドキュメンタリー映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯」
  <佐古忠彦監督作品、TBSテレビ>
 ★ドキュメンタリー映画「誰がために憲法はある」<井上淳一監督作品、(株)ドッグシュ
  ガー>
 ★共同通信記者・平野雄吾さんの「入管収容施設の実態を明らかにする一連の報道」
 ★朝日新聞記者・三浦英之さんの「南三陸日記」<集英社文庫>と朝日新聞連載「遺言」
 ★揺るがぬ証言刊行委員会の「揺るがぬ証言 長崎の被爆徴用工の闘い」<自費出版>
 ★信濃毎日新聞編集委員・渡辺秀樹さんの「連載企画 芦部信喜 平和への憲法学」と関
  連スクープ

基金賞=大賞に選ばれた、京都新聞社取材班の「旧優生保護法下での強制不妊手術に関する一連の報道」は、旧優生保護法下で、特別の疾患や障害を理由に子どもを産む権利を国に奪われながら、謝罪も補償もないまま沈黙せざるを得なかった人たちの存在を明らかにした報道である。旧優生保護法下での強制不妊手術を受けたハンセン病患者やその家族には補償金を支給する法律が施行されているが、同じ目にあった精神障害者や聴覚障害者らはほとんど放置されたまま。そうした実態を3年間に及ぶ綿密な取材で掘り起こした報道で、選考委では「見事な報道活動」「世界でも、日本でも、これまで不当に差別され、虐げられてきた少数派の人々の人権を回復しようという動きが強まりつつある。これは、そうした動きに即応したタイムリーなキャンペーンと言える」と絶賛された。
 選考委によると、人権侵害問題をテーマとした報道活動に大賞が贈られたのは初めてという。

奨励賞には活字部門から5点、映像部門から2点、計7点が選ばれた。
 沖縄タイムス編集局の「権力の暴走をただし、民主主義を問う一連の報道」は、沖縄県宮古島市がゴミ事業をめぐって市民を名誉毀損で提訴する議案を市議会に提出するというスラップ行政訴訟の異常さや、今年施行された改正ドローン規制法が報道の自由を侵すのではないかと指摘した報道である。選考委では「安倍政権登場以来、政府や自治体による民主主義を侵害する権力の行使が目立つ。これに立ち向かった新聞社のキャンペーンに敬意を表したい」「本土の新聞では改正ドローン規制法に関する報道が少なかった。その危険性を伝えた紙面は非常に優れたもので、顕彰に値する」と評価された。

 共同通信記者・平野雄吾さんの「入管収容施設の実態を明らかにする一連の報道」は、強制退去を命じられた外国人を拘束する法務省出入国在留管理庁収容施設の非人道的な実態を明らかにしたもの。選考委では「入管収容施設における外国人に対する非人道的な扱いは、一般の人にはほとんど知らされていない。それを明らかにした先駆的な報道」「この一連の報道で他紙もこの問題を取り上げるようになった点を買いたい」といった声が上がった。

 朝日新聞記者・三浦英之さんの『南三陸日記』と朝日新聞連載『遺言』は4編あった原発関係の作品の中から選ばれた。東日本大震災直後、津波で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町に約1年間暮らしながら被災した人たちを取材し続けた記録をまとめたのが『南三陸日記』、東日本大震災に伴って起きた東電福島第1原発事故の被災自治体の一つである福島県浪江町町長へのインタビューをまとめたのが『遺言』だある「被災地に長期間常駐して書いた記録だけに被災住民の苦しみ、悲しみが実に子細にかつ深く描かれていて、心打たれた」「原発事故で全町民避難を強いられた浪江町民の苦難がひしひしと伝わってきて、原発による放射能禍がいかに恐ろしいものであるかを改めて知らされた」との評価だった。

 揺るがぬ証言刊行委員会の「揺るがぬ証言 長崎の被爆徴用工の闘い」は、戦時中、三菱長崎造船所に徴用され、被爆した3人の韓国人が被爆者手帳を長崎市に申請したものの却下されたため、国と長崎市を相手取って提訴し、今年1月、長崎地裁で勝訴するまでの経緯を記録したものである。「勝訴までの経緯が実によくまとめられている」「徴用工の闘いから、改めて日本の対朝鮮植民地支配について考えさせられた」「日韓両国民による献身的な支援活動が判決に影響を与えたとの印象を受けた。このことは特記されるべき」との意見が相次いだ

 信濃毎日新聞編集委員・渡辺秀樹さんの「『連載企画 芦部信喜 平和への憲法学』と関連スクープ」も高い評価を得た。「戦後の総決算」を目指す安倍政権はいよいよ本格的な改憲作業に乗り出した。このため、護憲派としては、堅固な改憲反対論を展開することを迫られているわけだが、平和憲法制定以来、護憲派の憲法論をリードしてきた1人が憲法学者の芦部信喜(長野県駒ヶ根市出身)だ。その芦部の軌跡を追いながら、彼の徹底的な平和主義がどのようにして形成されたのかを明らかにしたのがこの37回にわたる連載である。選考委では「芦部の平和主義の原点が何なのかよく分かる」との賛辞が寄せられた。「関連スクープ」とは、長野県知事が県護国神社の崇敬者会長を務めたり、神社への寄付集めに関わっていた事実などをすっぱ抜いた報道で、こうした行為は憲法違反では、と警告している。

映像部門から奨励賞に選ばれた2点はドキュメンタリー映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯」<佐古忠彦監督作品、TBSテレビ製作>と、同じくドキュメンタリー映画の「誰がために憲法はある」<井上淳一監督作品、(株)ドッグシュガー製作>である。
 「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯」は、沖縄の政治家・瀬長亀次郎の生涯を描いた作品。沖縄の本土復帰後、国会議員に当選した瀬長は国会で「1リットルの水も一握りの砂も一坪の土地もアメリカのものではない。沖縄の大地は基地となることを拒否する」と訴えるなど、沖縄県民のリーダーとして活動した。選考委では「歴史的背景も取り入れながら彼を描くことで、本土から差別され続けてきた沖縄の今を観客に強く訴える作品となっていることを評価したい」とされた。

 「誰がために憲法はある」は、芸人・松本ヒロが演じ続けている、日本国憲法を擬人化した1人語り『憲法くん』を、今年87歳を迎えた女優の渡辺美佐子が演じるシーンと、彼女を中心とする10人の女優たちが33年も続けてきた原爆詩の朗読劇を収めたドキュメンタリーである。選考委では「憲法の大切さと戦争放棄の理念を表現した、今日的存在感のある力作として高く評価したい」とされた。

 基金賞贈呈式は12月7日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で行われる。だれでも参加できる。
2019.10.30   日本郵政グループ、NHKかんぽ不正報道に介入
          NHK会長謝罪、続報取りやめ

隅井孝雄(ジャーナリスト)

 日本郵政が「かんぽ生命保険」を高齢者に不正販売していたこと、しかも1400件に法令違反があり、顧客に不利益を与えたとされるものは18万3千件に達する可能性があることが明らかになった。その一方、この問題の追及を始めた「クローズアップ現代」(NHK)を日本郵政(郵便、保険、銀行投信3グループ)が妨害、驚くことにNHK会長が謝罪したと伝えられた。
NHK経営委員会が会長を叱責
 「クローズアップ現代」は昨年4月22日に「高齢者が被害うけている」として番組で取り上げた。さらに取材を進めていたところ、日本郵政グループは抗議文を送り付けてきた。NHK経営委員会はその抗議を受けてNHK上田良一会長(元三菱商事副社長)を叱責、厳重注意処分した。それだけではない。上田会長自身も木田幸紀放送総局長を郵政グループ本社に派遣(18年11月6日)、「謝罪文」を読み上げ、手渡していたという。二回目の放送は中止された。
 個別の番組について、経営委員会が批判し、会長や放送総局長ら幹部が取材先に謝罪することなどは、これまでになかったことだ。
 従軍慰安婦問題を扱った「ETV特集、戦時性暴力」(2001年)に対し、当時の安倍晋三副官房長官が松尾武放送総局長(当時)との直接面談の席上で、番組内容を非難し、総局長自身が番組を改変、後に禍根を残したことが思い出される。
健闘したクローズアップ現代
 「クローズアップ現代」の現場スタッフは長期取材によって、かんぽ生命が、高齢者が家族が知らぬ間に高額の保険に入れられたり、同意サインが偽造されたり、2重契約があるなどの事実をつかんでいた。また取材の過程で、現役の郵便局員、保険セールスマンの声が多数寄せられており、取材に応じた現役のナマの声も手元に持っていた。さらに続編の制作のため、情報提供を呼び掛けてネット上に動画を含む映像を投稿していた。また、ゆうちょ銀行の投資信託にも不正な契約があることも把握して取材を進めていた。
 郵政グループは、ネット上で情報提供を呼び掛けることの中止と、会長名による謝罪を要求してきた。制作グループは「会長は番組内容には関与しない」と伝えたところ、この発言を経営委員会に問題視され、会長が叱責を受け、郵政グループに謝罪するに至ったという
 しかし、会長が外部に謝罪することに一部委員が疑問を呈したことから、経営員会の議決の無いまま、「会長厳重注意」の処分が行われた。二重、三重の放送法違反である。放送法では3条と36条で経営委員会が個別の番組に対し、干渉してはならないと定めている。
 (3条、放送送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ何人からも干渉され、または規制されることはない。32条、委員は個別の放送番組の編集その他協会の業務を執行することができない)。
政権におもねるNHK幹部
 NHKの経営委員長と経営委員の人事は国会の同意を得て、総理大臣が決める。またNHK会長や理事は経営委員会によって決定される。このところ、国会の頭越しに総理、副総理、監督官庁の総務省が経営委員長、会長などの人事を左右することが増え、NHKの公共性は無視されたままだ。特に今回NHKに抗議してきた日本郵政の鈴木康雄上級副社長は、NHKの監督官庁である総務省の事務次官からの天下りだ。おもねりとしか思えない。
 NHK石原進経営委員長(JR九州相談役)の辞任を求める動きが広がっている。東京ではもちろん、関西の京都、大阪、兵庫ほか全国各地でも「NHKとメディアを考える会」など市民組織が即刻辞任の申し入れを行った。

 マンモス金融機関郵政グループの問題点の積極的解明を行う「クローズアップ現代」の制作陣の健闘を期待したい。
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     写真、日本郵政のクロ現介入を報じるTBS News23, 9/26

2019.10.22  台風被害とテレビ NHK台風報道38.4% 民放も夜の娯楽編成を改めるべきだ

隅井孝雄(ジャーナリスト)

 10月12から13日にかけて史上空前と言われた台風が伊豆半島から上陸し、日本列島を縦断、河川の氾濫など想像もできない被害をもたらした。決壊は52河川72ヵ所と伝えられるが、実際には200以上の河川で越水、排水不良など浸水被害が起きた。

▼気象庁もNHKも3~4日前から避難呼びかけ
 気象庁は上陸の3日前から「避難をするなど適切な対策を」「避難の難しい人は早めに対処を」との呼びかけを行っていたが、大型台風の被害を食い止めることはできなかった。
 NHKは12日早朝から、「朝ドラ」の除くほとんどの時間帯で終日台風情報を流し続け、13日はもちろん、14日も多くの番組を休止し台風関連情報に切り替えた。また民放ではTBSは12日午後3時から夕方6時50分まで台風の動きを伝えたのが目立った。
 終日放送のNHKには視聴者が集中し、12日午後6時45分には38.3%(関東地区、ビデオリサーチ)に達し、終日20%台から28%台を維持した。「災害時にはNHKだ」という思いは視聴者の間では圧倒的だ。
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    10月8日、9日から危険うったえるNHK

▼避難呼びかけにも人間味
 NHKは「命を守るための行動を」と間断なく呼びかけていた。しかし被害が果てしなく拡大し、留まることが無い状態になると、次第に言葉だけの繰り返しの呼びかけは、むなしいものと思えるようになったことは否めない。民放の一部では「あなたは一人ではありません、必ず救助が行きます」、「こんな時は深呼吸しましょう」と呼びかけ、あるいは安住アナの手書きによる氾濫状況説明など、個性ある台風情報に人間味が感じられた。
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    視聴率38%のNHKニュース7(12日)

▼大規模抜本対策必要
 政府は何の行動もとらず、自衛隊の救難隊出動に期待するのみであった。ようやく「緊急閣僚会議が開かれた」のは13日朝、千曲川が決壊したことが伝えられた後だった。台風被害をいかに食い止めるかという考えはなく、すべて事後処理だという状況は何とか変えられないかと思う。ダムの放流をやめることができる改善、堤防のかさ上げ、JR車両基地の防水など、各種の大規模な改良が早急に必要だ。
 民放地上派も「マルチチャンネル」、導入、BS空チャン活用せよ
20698IMG_5111(隅井)
    健闘した「報道特集」(TBS12日)   

▼12日、13日は三連休の土日だったので特番風のものも含めた娯楽番組のテレビ番組は全く不振、ふだんなら二桁の、「世界一受けたい授業」、「ほんとにあった怖い話」、「外科医、大門未知子」も一桁だった。
 今後の台風報道では同じことが繰り返されることは許せない。民放もNHK並みの特番編成にする、通常番組はBSのサブチャンネルに委ねるなど新しい工夫をしてもいいのではないか。
 実はデジタルテレビ放送では、地上波でも1チャンネルで複数チャンネルを送受信できる「マルチチャンネル」という技術的方法があるという。災害多発時代に備え、マルチチャンネルを実用可能にしてにし、新しい災害報道を開発すべきだ。

2019.09.18 朝日社説「反感をあおる風潮を憂う」を支持、でも、腰が引けていないか

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

9月16日の朝日社説「嫌韓とメディア 反感あおる風潮を憂う」に同感し、支持する。でも、「風潮を憂う」の見出しは、なんか引退したジャーナリストが憂っているようで、戦う姿勢に欠けてはいないか?
同論説が取り上げている文春10月号の「憤激と裏切りの朝鮮半島/日韓断絶」、週刊ポスト「厄介な隣人なんて要らない」、週刊ポスト「怒りを抑えられない”韓国人という病理“」は、まるで右翼のフェイク宣伝よりもひどい、嫌韓を煽って大売り出しをする、悪質商法。こんなのに1円でも出さないように、駅の売店と本屋で、ページをめくって読んだ。
それらに対し朝日社説は、「最初から相手国への非難を意図するものでは、建設的な議論につながらない。」「韓国人というくくりで“病理”を論じるのは民族的差別というべきだ。」「もし出版物の販売促進や視聴率狙いで留飲を下げる論旨に走るのならば、『公器』としての矜持が疑われる。」と諭している。そのとおりだが、あまりにも穏やかな“諭し”ではないか。言葉を換えれば、戦う意思表示が弱くはないか。
現時点で、安倍政権と、反韓のサンケイ系メディア、一部週刊誌、さらにひどいフェイク情報をあの手この手で流す一部ネット・メディアの反韓国キャンペーンに、国民のかなりの部分が、影響されている。戦後の日韓関係のなかで、最も険悪な状況だ。一方,朝日新聞をはじめ毎日も東京新聞はじめ主要地方紙も、反韓、嫌韓キャンペーンに反感、危機感を持っているはずだ。協議、協調して反韓、嫌韓と戦うべき時ではないか。
16日の朝日社説の下段は、分かりやすい。そのまま、紹介したいー
「もし出版物の販売促進や視聴率狙いで留飲を下げる論旨に走るのならば、「公器」としての矜持が疑われる。
政治の責任もむろん重い。両政府とも相手を責めるのみで、問題があっても善隣関係をめざす原則は語らない。国内世論の歓心をかいたい政権とメディアの追随が、重奏音となって世論を駆り立てるのは危うい。
戦前戦中、朝日新聞はじめ各言論機関が国策に沿い、米英などへの敵対心と中国・朝鮮などへの蔑視を国民に植え付けた。その過ちを繰り返さないためにも、政権との距離感を保ち、冷静な外交論議を促す役割がメディアに求められている。
自国であれ他国であれ、政治や社会のうごきについて批判すべき点を批判するのは当然だ、ただ論議の際には、あらゆる差別を排し、健全な対外関係を築く視座をゆるがせてはなるまい」
(了)
2019.07.06 私がNHKを辞めたワケ
      韓国通信NO606
       
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)
 
 昨年8月、30年以上のキャリアを持つNHKのベテラン放送記者が退職した。相澤冬樹氏(56)である。彼の活動をよく知る人たちから退職を惜しむ声があがった。
 退職後に発表した著書『安倍官邸VS NHK』を読み、「解雇」ではないが、NHKによって実質退職に追い込まれた記者の無念を知った。
 
 彼は森友学園事件とNHK大阪支局司法担当キャップ時代から関わった。国有地が8億円以上も値引きされ、タダ同然に森友学園に売却された事件。名誉校長の昭恵首相夫人の疑惑をいち早く報道し、他社の報道記者とともに、真相解明にしのぎをけずった。
 この本を読むまで、NHKが独自調査をして、スクープ報道を追っているとは知らなかった。新聞報道の後追い、警察発表をそのまま報道するのが私のNHKニュースのイメージだった。
 国有財産が政治の力で不正に売却されたなら、明らかな犯罪。彼はそれを立証するために奮闘し、巨悪は「官邸」と「大阪府」と確信するに至った。しかし彼の取材に立ちはだかったのは、官邸を忖度する官僚たちと検察だった。籠池理事長への独自取材と自殺した近畿財務局の職員家族への取材は本書の読ませどころだ。

 権力の壁に挑む姿に久しぶりの「ジャーナリスト魂」を見た思いもするが、特筆すべきは真相解明の足を引っ張ったのはNHKの上層部だったという事実だ。彼の記事は書き替えられ、握りつぶされた。報道局長からの横やり、挙句は取材を断念させるために人事異動の脅しまで受ける。果たして結果はその通りになった。有能な部下、同僚、上司の姿も垣間見えるが、詰まるところ、官邸に対する「忖度」が相澤記者を退職に追い込んだ。取材記者としての生命が断たれた。

<これが公共放送か>
 著書を読み終わって、意外性はなかった。NHKが政権の「侍女」になって久しい。「ウソ」「偏向」「隠蔽」報道の例に枚挙のいとまがない。「国営放送」、「アベチャンネル」という非難が巷に溢れるなかで、あらためてそれが実証されたことになる。経験にもとづく勇気ある内部告発だが、NHKの腐敗はこれに始まったことではない。
 2001年1月に放送された「ETV2001」の番組改変事件を記憶する人は多い。従軍慰安婦の存在を認めない中川昭一議員、安倍晋三官房副長官(当時)がNHK上層部に談じ込み、放送内容を変えさせた事件。言論の自由に対する明らかな侵害は、番組を担当した長井暁、永田浩三氏らの証言で明らかになった。しかし事件は誰も責任を取ることなく、証言した二人が社外に去るという結末に終わった。私は長井暁さんが記者会見の席で見せた涙を今でも忘れられない。保身に走らず、NHKと自分の尊厳を守った非力だが誠実そうな姿に感動した。
 あの事件以来、NHKは権力者の「薬籠中 (やくろうちゅう)のもの」になった。

 今日のNHKの無残な姿は2014年にNHK会長に就任した籾井勝人氏の「言いたい放題」からも見て取れる。籾井の就任は日銀総裁、内閣法制局長官人事と同じ露骨な「安倍人事」だった。
 政府が「右」と言っているのに「左」と言うわけにはいかない発言に代表される政府の「下請け機関宣言」は公共放送NHKを葬り去った。従軍慰安婦問題は「日韓条約で解決ずみ」と政府見解と口を合わせ、国家機密法は「通ったものは仕方ない。あまりカッカする必要はない」と、官房長官さえ口に出来ない政府の本音を語った。このような会長をトップに据えたNHKは公正中立とは無縁な存在となった。だから相澤氏が官邸への忖度を指摘しても今さら驚かなかった。
 「ETV問題」にしても、「籾井発言」にしても、NHKは組織としての反省はしていない。壊された公共放送の体質は現在も温存されたままだ。

<韓国の放送民主化運動から学ぶ>
 韓国のドキュメンタリー映画 『共犯者たち』(2017)を思いだす。監督はMBC放送を解雇された崔 承浩(チェ・スンホ)氏。2008年に大統領に就任した李明博が真っ先に手がけたのは社会的影響力の強いKBSとMBCのテレビ局を政権の手中に収めることだった。大統領の息のかかった社長に交代、露骨な報道への干渉を強めた。社員たちは直ちに反撃を開始。両テレビ局の社員たちは放送の「公平」「中立」を求めて10年間にわたって闘った。解雇・懲戒者は300人を超えた。その激しさと厳しさが理解されよう。
 「主犯」は李明博元大統領と朴槿恵前大統領。「共犯者たち」は両大統領の手足となってテレビを権力に売り飛ばした経営者たちだ。政権に忖度して事実を伝えない公共放送に対する人々の怒りがローソクデモの中で爆発した。大統領と共に共犯者たちも崩壊、追放された。
韓国通信606写真
                   <写真/公正放送を求めて立ち上がったKBS社員>

 韓国のローソクデモを過小評価したがる人たちは言うかもしれない。韓国の大統領も大統領なら、国民も国民だと、韓国政治の未熟さと国民の「過激」さを笑う。
 韓国の後進性を語るなら、放送内容に安倍、中川らが「イチャモン」を付けて改ざんさせたこと、政府が右と言えば右と云って憚らない首相差し回しの会長、森友学園のスクープに怒り、報復人事を行なったNHKは、「韓国ほどではない」とでも言うのだろうか。

 言論の自由を守るために韓国では労働組合が組織を挙げて市民とともに闘った。かつて、NHKの労働組合「日放労」は社会的存在感のある「たたかう」組合だった。今ではNHKに労働組合があることを知らない人も多い。政府の走狗となった経営への批判はおろか、ジャーナリストとして苦悩する社員を守ろうともしない労使協調の企業内組合。その組合が先進的で、報道の「中立」「公正」を求めてストライキをした韓国のKBSとMBCの組合が後進的で、過激とは考えられない。政権にハイジャックされたNHKに怒らない日本人が「立派」とは思えない。

 ドキュメンタリー「共犯者たち」を見たNHKの職員も多いはず。政府に頭があがらない情けないNHKをどう考えるのか彼らに聞いてみたい。韓国の放送労働者たちは「共犯者」たちを追いだしたが、NHKの「共犯者」たちは長期政権とともに栄光の座に居すわり続けている。それを容認するなら職員も共犯者ではないのか。
 受信料支払いは国民の義務と言わんばかりの最高裁判決にあぐらをかいて、NHKはますます傲慢になっていくように見える。放送受信料をただ黙々と払い続けるなら、私たちも共犯者に違いない。公共放送を私物化するNHKに損害賠償を求めたいくらいだ。
2018.11.30 大賞に琉球新報の「沖縄知事選ファクトチェック報道」

        2018年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞
                  
岩垂 弘 (ジャーナリスト)
 
 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の両氏ら)は11月29日 、2018年度の第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
 基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、島田恵(ドキュメンタリー監督家)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏を審査委員とする選考委員会によって行われ、候補作品92点(活字部門32点、映像部門90点)から次の8点を選んだ。

◆基金賞=大賞(1点)
 琉球新報編集局政治部の「沖縄県知事選に関する報道のファクトチェック報道」

◆奨励賞(5点)
 ★朝日新聞記者・青木美希さんの「地図から消される街」(講談社現代新書)
 ★アジア記者クラブの一連の活動
 ★「沖縄スパイ戦史」製作委員会製作のドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」(三上
   智恵・大矢英代監督作品)
 ★毎日新聞記者・栗原俊雄氏の戦争責任・戦後補償に関する一連の著作
 ★中村由一著、渡辺考・聞き書き、宮尾和孝・絵「ゲンバクとよばれた少年」(講談社)

◆荒井なみ子賞(1点)
 水野スウさん(石川県津幡町)の「わたしとあなたの・けんぽ うBOOK」「たいわ・けんぽ
 うBOOK+」(いずれも自費出版)

◆特別賞・審査委員賞(1点)
 疾走ブロダクション製作のドキュメンタリー映画「ニッポン国VS泉南石綿村」(原一男
 監督作品)

 選考委によると、今年度も改憲、安保、沖縄の基地、核兵器、ヒロシマ・ナガサキ、原発などをめぐる問題を追及した作品が基金賞候補にノミネートされたが、内容の点では例年に比べ全般的に低調だった。が、そうした面があったものの、今年もメデイアのあり方、福島の原発事故、戦後補償問題、公害問題などに迫った力作があったという。

 基金賞=大賞に選ばれた琉球新報編集局政治部の『沖縄県知事選に関する報道のファクトチェック報道』は、新聞の選挙報道に新しい道を開いたものと評価された。
 2013年の参院選で「ネット選挙」が解禁されて以来、ネット上にウソの情報を流し、ライバル候補を攻撃する現象がみられるようになった。とくに沖縄で行われる選挙戦はフェイクニュースの標的となることが多く、今年9月の沖縄県知事選では、多くのデマが飛び交った。これに対し、琉球新報政治部は、ネット情報の真偽を確認し発信するというファクトチェックに取り組んだ。
 選考委では「日本の新聞の選挙報道としては本格的なファクトチェック報道であり、大いに評価したい」「これから先、メデイアではますますフェイクニュースが多くなると予想されるところから、今回の琉球新報政治部のファクトチェック報道への取り組みは大変意義深い試み」とされた。

 奨励賞には活字部門から4点、映像部門から1点、計5点が選ばれた。
 活字部門でまず選ばれた、朝日新聞記者・青木美希さんの『地図から消される街』は、東京電力福島第1原発の事故から7年後の被災地の現状を紹介したルポルタージュある。インフラ面では再建が進んでいるものの、政府の政策が被災地の歴史、生活、コミュニティを崩壊、分断させ、困難に陥らせている実態が、リアルに、かつ克明に描かれていて、選考委は「原発事故被災地に関する報道が減り、原発災害は忘れ去られつつある。そうしたメデイア状況の中では、貴重な現地報告である」と高く評価した。
 
 次いで、アジア記者クラブの一連の活動に奨励賞が贈られた。同クラブは、記者クラブ制度の閉鎖性に異議を唱え、開かれた市民のためのジャーナリズムを創出しようという狙いで1992年に設立されたフリーランサーや市民の集まりで、これまで、定例会を開いたり、「アジア記者クラブ通信」といった会報を発行するなどの活動を続けてきた。選考委では、定例会の講師に一般のメデイアにはなかなか登場させてもらえない人を招いたり、「通信」に既存のマスメデイアが報道しない内外のニュースや、発展途上国に関するニュースを積極的に掲載している点が評価された。
 
 毎日新聞記者・栗原俊雄氏の『戦争責任・戦後補償に関する一連の著作』も審査委員の関心を集めた。日本政府が始めた太平洋戦争ではおびただしい日本人が被害を受けたが、戦後、元軍人・軍属は手厚い補償を受けたものの、東京・大阪・名古屋大空襲などで被害を被った民間人への補償は今なお省みられない。シベリア抑留者への補償も十分でなかった。栗原氏はこれを「不平等な戦後補償」として、数十年にわたり、新聞紙面や著作で政府を追及してきた。選考委では「徹底的な現地取材を踏まえた長年にわたるねばり強い取り組みに敬服する」との賛辞が寄せられた。

 中村由一著、渡辺考・聞き書き、宮尾和孝・絵の『ゲンバクとよばれた少年』は、長崎で被爆した中村氏の語りをNHKディレクターの渡辺氏が、子ども向けに書籍化したものである。中村氏は被差別部落に生まれたが、2歳の時に被爆、両足に大やけどを負う。兄、弟は死亡。家が焼失したので母とともに祖母の家に身を寄せるが、小学校では、教師、級友から「ハゲ」「ゲンバク」などと呼ばれ、いじめられ、差別される。本書はそうした体験を語ったもの。選考委では「被差別部落民ゆえの差別と被爆による差別。二重の差別に心が痛む」「被爆者の高齢化により、被爆体験をどうやって若い世代に伝えてゆくかが焦眉の課題となっている折から、子ども向けの本で被爆体験を取り上げたのは注目すべきタイムリーな試み」との感想が述べられた。

 映像部門から奨励賞に選ばれた、「沖縄スパイ戦史」製作委員会製作の『沖縄スパイ戦史』(三上智恵・大矢英代監督作品)は、戦後70年以上にわたって覆い隠されてきた、日本の特務機関「陸軍中野学校」出身者たちが、軍の命令で沖縄戦でおこなった事実を明らかにしたドキュメンタリー映画。彼らは、少年たちを米軍向けのゲリラ部隊に編成したり、波照間島島民を西表島へ強制移住させ、移住島民の多くをマラリアで病死させた。映像関係の審査委員は「特定秘密保護法が制定されたり、南西諸島に自衛隊が増強されたり、ミサイルが配備されつつある今、この映画の持つ“今日性”は高く評価されていい」と評した。

 荒井なみ子賞は、元生協運動家・荒井なみ子さん(故人)からの寄金で創設された特別賞で、主に女性ライターに贈られる。今年は3年ぶり、8回目の授賞。
 今回は石川県津幡町在住の水野スウさんの『わたしとあなたの・けんぽうBOOK』『たいわ・けんぽうBOOK+』(いずれも自費出版)に贈られる。どちらも、日本国憲法を守り、生かすために書かれた手作りの冊子で、憲法を優しい言葉で解説している。そればかりでない。「紅茶の時間」と題する、憲法について話し合う場を自宅に設けているほか、頼まれればどこへでも出かけて行って自ら憲法について講演する「出前紅茶」を続ける。選考委では「安倍政権は改憲にしゃかりき。それに引き換え、国民の側の憲法論議はそう熱心ではない。だとしたら、今こそ、水野さんのような活動が効果的ではないか」とされた。

 審査委員賞を贈るこになった、疾走ブロダクション製作のドキュメンタリー映画『ニッポン国VS泉南石綿村』(原一男監督作品)は、2部構成・約4時間の大作。
 大阪泉南地域は明治末から百年もの間、石綿紡織工場が密集してきた地域で「石綿村」と呼ばれた。石綿の粉じんを吸引すると肺がんを発症するとされ、そうした健康被害を被った労働者とその家族が、国を相手に国家賠償請求訴訟を起こす。その8年間にわたる闘いの日々をカメラで追った。審査委員の1人は「訴訟活動が生き生きと描かれ、本年度、洋画を含めたドキュメンタリー映画のナンバーワンに推される作品である」と高く評価した。

 そのほか、活字部門では、熊本新聞社の『熊本地震 あの時何が』が最終選考まで残った。

 基金賞贈呈式は12月8日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費3000円。

2018.09.29 樹木希林の「戦争ドキュメンタリー」
  ―ユーモラスな女優の胸底にあるもの―

半澤健市(元金融機関勤務)

《『戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』》
 2015年秋に「東海テレビ」(東海テレビ放送株式会社・名古屋本社)は、『戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』という番組を放映した。1本約90分、6本の大作である。各回、全国地方局が放映したドキュメンタリーから希林とスタッフが選択した1本の全編を放映し、番組テーマに関わる場所を希林が訪れ、毎回異なるゲストと対談する。この三要素が一体となった重厚な番組である。
『戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』は、6本に共通するタイトルであり、個々の番組には選択された元の「ドキュメンタリー」名がついている。各番組のタイトル、そのテーマ、希林が訪ねた場所、対談ゲストを挙げると次の通りである。

1.『父の国 母の国』・満蒙開拓農民・満蒙開拓記念館・笑福亭鶴瓶(タレント)
2.『母の肖像』・長崎被爆者・長崎原爆資料館・箭内道彦(東京芸大准教授)
3.『村と戦争』・農村と戦争・靖国神社・吉岡忍(ジャーナリスト)
4.『明日は自由主義者が一人この世から去って行きます』・航空特攻・知覧特攻記念館・
   青木理(ジャーナリスト)
5.『いくさのかけら』・学徒出陣・無言館・岡野弘彦(歌人)
6.『むかし むかし この島で』・沖縄地上戦・平和の礎・鈴木敏夫(映画プロデューサー)

《私は偶然に見たのであるが》 
 私は、樹木希林(きき・きりん、1943~2018)をよく知らなかった。変わった芸能人程度の認識だった。今夏、私は「日本映画専門チャンネル」で上記のうち、『村と戦争』(1995年制作、戦後50年記念)と『いくさのかけら』(2005年制作、戦後60年記念)をみる機会があった。
岐阜県加茂郡東白川村が舞台である。戦争が村にどのように押し寄せたのか。909人が出征し203人が戦死したこの農村で、戦後50年も経ってから戦争遺品を集めた「平和記念館」がなぜ、どのように建設されたか。そのなかで出征家族にどんな葛藤があったのか。真珠湾雷撃の戦果を伝える手紙が虚偽と分かった遺族の懊悩はどうだったのか。
ある日記がある。「お母さん。お母さん。お母さんのおとなしい息子だった僕は人を殺し火を放つおそろしい戦場の兵士となりました」、「妹よ。戦争をお前に語りたくない」。1937年に日中戦争で戦死した青年はこう書いた。このように庶民と戦争との沢山の関わりが痛切に浮かび上がる。

《歌人岡野弘彦は今をどう見ているのか》
 『いくさのかけら』では、2013年に行われた歌人岡野弘彦(おかの・ひろひこ、1924~)と希林の会話が意味深い。二人は旧知であった。
1943年、國學院大での学徒出陣式で学長、配属将校は「天皇のために死んでこい」と訓示をした。そのあと教授折口信夫(おりくち・しのぶ、1887~1953)が立った。「國學院千人の学徒の一人でも帰って来て欲しい。そうすれば国学は滅びない」と述べた。そして「手の本をすててたたかふ身にしみて恋しかるらし学問の道」と詠んだ。そのとき講堂には、うめきのような声が起こったという。岡野は、1945年の再評価、70年間の平和の意味、地球温暖などの人類的な危機、性急な改憲論への警戒感を述べている。

希林は長野県上田の無言館を訪れる。戦没画学生の遺品700点の展示館である。希林は展示画をみて回り、言葉にならぬ嘆息をもらし、裸婦像を観て「ずいぶん大胆に描かれている」という。展示絵画を「見つめることしかできない」「残念を胸に抱えて死んでいくのかなあ」「見ておいてよかった」と呟いてまわる。生涯最後の作品になると思って描いた画学生の心情がテレビ画面からも訴えてくる。

《ジャーナリストと靖国・天皇制を語る》
 希林は靖国神社に今まで時々参拝してきた。今回(2015年)の取材で、遊就館も含めて、神社側から詳しい説明を受けた。相撲場、鎮霊社、神池庭園、喫煙所などの存在に素直に驚いている。
兜町の日本ペンクラブを訪ねて吉岡忍と対話する。靖国神社の存在理由や、天皇制と靖国・鎮魂の関係を話し合う。二人は靖国の存在を肯定する。今のような不定形な存在こそが自然なあり方だと、逆説的に肯定理由を述べる。多様性を認めぬ社会風潮がひたひたと押し寄せていると語り合う。『村と戦争』の兵隊検査で「せめて乙種合格を」と望んだ青年は合格して「これで近所付き合いができる」と言った。その言葉に吉岡は強く反応する。こういう「空気」が本当に「恐ろしい」という。

希林の関心はどこに向かってきたのか。
私が2本のドキュメンタリーから読み取ったのは次の三つである。
一つ。樹木希林は、家族から国家までの様々な共同体の在りように関心をもつ。
   特に国家の行う戦争について。
二つ。樹木希林は、人々のナショナリズムの心情に関心をもつ。ナショナリズムは戦後左翼
   が敬遠した視点であった。
三つ。樹木希林は、日本社会の同調圧力に関心をもつ。彼女は、最近社会の雰囲気が窮屈な
   状況へ近づいているという意見に同意している。
総じて彼女は、考え方の多様性と他者への寛容が大切だと考えている。

《歴史に向き合った女優を伝えよ》
 それを日常語でユーモラスに語った。本心は「韜晦」だったと思う。何がそういう希林を生んだのかは分からない。しなやかな感受性と鋭敏な時代感覚をもつ俳優を失ったのは損失である。どこの局でもいい。『戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』を放映してもらいたい。(2018/09/26)