2020.12.02 トランプツイッター、閉鎖されるか?
問われる安倍元首相のSNS

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 ツイッターを駆使して世界に君臨してきたトランプ氏は大統領の地位だけではなく、ツイッターを使えなくなるかもしれない。
 11月17日、米議会の公聴会に出席したツイッターのジャック・ドーシーCEOは「指導者の地位にあるため独別な例外措置を認めているが、大統領の地位を失えば特権を失う」と述べた。
「虚偽発言」18000回
トランプ氏は、これまでSNS上での「虚偽発言」が大統領就任以降18,000回にも上っている。そのうち3,600回がツイッター経由だった、と米紙が報じている。大統領選挙後はさらに「落選」を認めない発言が、連続しているのだが、ツイッター社はこれも「虚偽発言」みているようだ。
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【ツイッター社は「トランプ氏の虚偽の投稿」は「事実確認が必要」などのラベルを付けて掲載した】

 ツイッター社は通常なら削除されるかアカウント自体を取り消される「トランプ氏の虚偽の投稿」を「事実確認が必要」、「投稿の一部に真偽が疑われる記述を含む」などのラベルを付けて掲載してきた。しかし大統領としての「公益性のある地位」を失えば、「虚偽投稿を繰り返す」人物はアカウント凍結措置が取られるのがルールだとドーシーCEOは米議会で述べている。
 クリックしないと閲覧できない!
 2020年5月26日のトランプ大統領の2本のツイートは、カリフォルニア州の郵便投票は不正の対象になるとの投稿だった。これに対し、ツイート社は「事実確認」ラベルをつけた。また5月28日のジョージ・フロイド事件の抗議デモに対するツイッターは自動表示されないようにしたうえで、「暴力をたたえる内容はルール違反だ」と注釈をつけた。
 11月3日の投票日以降もツイッターは数多くのトランプツイッターに対し、「事実確認必要」、「真偽が疑われる」、「誤解をまねくおそれあり」というカードをつけ、クリックしないと閲覧できない、などの措置をとってきた。
 一方、「法の下で市民権を求める弁護士委員会」や、政治監視団体の「コモン・コーズ」などはこれらの措置に納得せず、トランプアカウント凍結を求める公開書簡を送っている(11月12日)。
 フェイスブック、トランプ支持グループアカウント削除
 フェイスブックもトランプ投稿など、内容が虚偽である、または暴力を推奨するような投稿に対し削除するなどの対応をとっている。例えば「コロナはインフルエンザほど致命的ではない」とするトランプ投稿(10/6)を誤った情報だとして削除した(同じ文面のツイッター投稿は自動閲覧できないうえで、注意喚起の表示がついた)。
 またAFP通信によると、多数の偽アカウントを使ってドナルド・トランプ大統領を称賛する運動が展開されたとして、フェイスブックのアカウント200件と記事55ページ、インスタグラムアカウント76件を削除したことをフェイスブック社が発表したと伝えている(10/8)。
 更にトランプ支持グループ「Stop the Steal(選挙を盗むな)」のフェイスブックページを閉鎖した。このグループは全米で35万人のメンバーがいて、トランプ支持のデモを計画していた。議会公聴会で証言したマーク・ザッカーバーグCEOによると、「暴力を誘発する恐れがあった」という(11月17日)。
 トランプのツイッター世界7位、オバマにはかなわない
 トランプ氏がツイッターを始めたのは2009年3月。著書を出版こととなり、どう売り出すか話し合いが行われた。その席上出版会社の編集者からツイッターについて説明があり、興味を抱いたのがきっかけだった。しかしすでに有名だったトランプの偽ツイッターがあり、アカウント名を「@real DonaldTrump」にしたという。
 大統領選挙直前の11月1日に時点のフォロワーは8736万。一日平均のツイート数11件。よく使う言葉は1.「Make Amerika Great again」,2.「Fake News」、3.「Witch Hunt」,4.「Deal」。(毎日新聞11/1)だと報道されている。
 フォロワー数ではバラク・オバマ氏の1億2590万人にはるかに及ばず、世界7位に低迷している。ちなみに2位はジャスティン・ビーバー(1億1,100万フォロワー)、3位はケイティ・ペリー(1億1,000万人)。
 安倍元首相の「桜を見る会」虚偽発言は?
 ところで日本ではツイッターもフェイスブックも厳格な規定がなく、まして政治家の大物の虚偽発言に対抗して、削除することなどは考えられない。
 例えば、安部晋三前首相だが、2018年の桜の会、前夜祭の参加費を補填した事実が明らかになった(11/23)。安倍元首相は在任中「経費補填はしていない」と言い続けてきた。
 安部氏が2019年秋の臨時国会と20年の通常国会で事実と異なる答弁を少なくとも33回行ったことを衆院調査局が明らかにしている。
安部氏が代表を務める資金管理団体晋和会は、懇親会代金の不足分として、5年間で800万円をこえる。この支出は公選法違反の買収にあたるとして野党側が追及してきた。さらに東京地検特捜部も秘書らに事情聴取している。
 後援会員らに経費補填したことが発覚した以上、アメリカであれば、「虚偽発言を続けた人物」のツイッターもフェイスブックも徹底的に調べる。もしその発言の中に虚偽があれば、閉鎖することになる。首相としての特権的地位を失い、公益性のかけらもないのだから。
 安部氏や官邸のツイッター、フェイスブック、インスタグラム、ラインなど一連のSNSでフェイクが流されていれば、閉鎖を含む対抗措置が取られなければならないだろう。
2020.12.01 大賞に信濃毎日の日韓関係続きもの 「記憶を拓く 信州 半島 世界」
2020年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞
                  
岩垂 弘 (ジャーナリスト)
 
 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、ジャーナリストの田畑光永・鎌田慧の両氏ら)は11月30日 、2020年度の第26回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。

◆基金賞(大賞)=1点
信濃毎日新聞社編集局「連載企画・記憶を拓く 信州 半島 世界」

◆奨励賞=7点
★伊藤絵理子・毎日新聞記者の連載「記者・清六の戦争」
★九州朝日放送「良心の実弾~医師・中村哲が遺したもの~」<20・5・29放映>
★Kプロジェクト「ドキュメンタリー映画『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』」 
★静岡新聞取材班「長期調査報道・サクラエビ異変」
★元教員・竹内良男さん(東京都)の「ヒロシマ連続講座」と通信「ヒロシマへ ヒロシマから」の発行
★西日本新聞社取材班「戦後75年企画『言葉を刻む』『あの日、何を報じたか』」
★柏井宏之・樋口兼次・平山昇共同編集「西暦二〇三〇年における協同組合」<社会評論社>

 今年度は戦後75年、被爆75年という節目の年にあたる。このため、選考委としては、戦後75年やヒロシマ・ナガサキ75年を意識した力作や意欲作が数多く寄せられるのではと期待していたが、全般的に低調だったという。これはおそらく、新型コロナウイルスが世界と日本を席巻したため、メディアも十分な報道活動が出来なかったからではないか、というのが選考委の見方だ。
 でも、そうした厳しい状況にあっても積極的な姿勢で取材や執筆挑んだ力作、労作があったという。

■基金賞=大賞に選ばれたのは、信濃毎日新聞社編集局の『連載企画・記憶を拓く 信州 半島 世界』である。
 日本と韓国は、2年前にあった、元徴用工の賠償問題を巡る韓国大法院の判決をきっかけに最悪の関係にある。書店には嫌韓本が山積する有様だ。こうした状況に真正面から向き合い、日韓関係改善への道を探った連載が、審査委員の注目を集めた。
 選考委では「日韓関係の現況を報道機関としてほっておけないという編集局挙げての気迫を感じさせる」「日韓双方の現状を丁寧に取材していることに好感がもてる」「松代大本営地下壕工事に動員された朝鮮人の生存家族を韓国で探し当て当時のことを語らせたのは、特筆に値する」「日韓関係の歴史を、84年前のベルリン・五輪のマラソンで優勝した孫基禎選手の生涯から解き起こしているのは秀逸」といった賛辞が相次いだ。

 ■奨励賞には活字部門から5点、映像部門から2点、計7点が選ばれた。
 すでに述べたように、本年は戦後75年・被爆75年に当たったので、選考委は、メディアがこれをどう報道したかを論議したという。新聞について言えば、特攻隊の生き残りとか、空襲被害者、満蒙開拓団引揚者など、戦争体験者を紙面に登場させて体験を語らせるといった企画が大半だったが、毎日新聞社が多角的な視点から戦後75年・被爆75年を検証していたのがひときわ光ったという。その中でとくに審査委員の目をとらえたのが伊藤絵理子記者の連載『記者・清六の戦争』だった。
 伊藤記者の曾祖父の弟にあたる伊藤清六は毎日新聞記者だったが、太平洋戦争末期、フィリピンで日本軍と行動を共に敗走中、山中で餓死する。連載はその足跡を丹念にたどったもので、「日本軍による加害の事実、新聞の戦争責任にも言及している点を評価したい」として奨励賞に選ばれた。

 同じく奨励賞を受賞した静岡新聞取材班の『長期調査報道・サクラエビ異 変』は、2年間ですでに500回、まだ連載中というから、まるで大河小説を読むような大作である。
 全国的に有名な駿河湾産のサクラエビの不漁に注目した取材班は、その原因が駿河湾に注ぐ富士川の水の汚れにあるのでは、と推測する。そこで富士川沿岸の歴史を調べてゆくうちに、沿岸の環境破壊が明らかになり、ついに汚水の原因を突き止める。その粘り強い取材に審査委員から驚嘆の声が上がった。

 すでに述べたように、今年は被爆75年。そこで、ヒロシマ・ナガサキ関係から1点を選びたいという審査委員の思いから奨励賞に選ばれたのが、竹内良男さんの『「ヒロシマ連続講座」と通信「ヒロシマへ ヒロシマから」の発行』だった。
 高校教員をしていた竹内さんは生徒を連れた修学旅行で広島を訪れ、被爆の実相を知ってショックを受ける。その事実を、広島から遠く離れた首都圏の人たちに伝えたいと、2016年から都内で始めたのが「ヒロシマ連続講座」で、講師は被爆者や戦争体験者ら。コロナ禍が始まると、講座受講者が減った。そこでウエブで発信し始めたのが、被爆や戦争に関する情報を載せた「ヒロシマへ ヒロシマから」だった。選考委では「たった1人で講座を続ける持続的な努力に敬服する」との声がもれたという。

 今夏も、新聞各紙は「戦争体験をどう次の世代に継承するか」といった問題意識から企画記事を掲載した。大半は、戦争体験者にインタビューしたものだったが、その中でひときわ異彩を放っていたのが奨励賞に選ばれた西日本新聞社取材班の『戦後75年企画「言葉を刻む」「あの日、何を報じたか」』だった。
 「言葉を刻む」は、戦争にまつわる過去の記事、体験をつづった読者の手紙、取材ノートに残っていた言葉をコンパクトに再現したもの、主としてウェブサイトで展開した「あの日、何を報じたか」は、75年前の紙面から市民生活に関する記事を選び、当時と同じ日付の画面に掲載したものだった。こうした手法は、審査委員をして「新聞が戦争体験を次世代に伝えるのにこんな手法もあったとは」と驚かせた。

 同基金は、人と人との「協同・連帯」を重視する作品も顕彰の対象にしているが、今年は柏井宏之・樋口兼次・平山昇3氏共同編集の『西暦二〇三〇年における協同組合』を奨励賞に選んだ。
 世界では、今、資本主義の危機が叫ばれ、資本主義に代わる経済システムが模索されている。本書は、営利を目的としない協同組合こそがそれに値するのではないか、という視点から学者、生協活動家ら23人が、協同組合の可能性を論じたものだ。選考委では「今後の協同組合を考える上で多様な見識を得られる点を評価したい」と称賛されたという。

■映像部門から奨励賞に選ばれた2点は、九州朝日放送の『良心の実弾~医師・中村哲が遺したもの~』と、Kプロジェクトのドキュメンタリー映画『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』。 
 九州朝日放送の作品は、最初はアフガンなど紛争地帯の医療活動に携わっていた中村医師が、貧しい人々を助けるには戦争で荒野となってしまった土地に水を与えることこそが第1命題と考え、現地の人々と共に灌漑事業に献身する姿を追ったドキュメンタリーである。選考委では「中村医師の崇高な活動と人柄をあますところなく描き出した感動的な作品として高く評価したい」とされた。

 『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』は、戦争という名の国策によって生まれた2つの国の残留者たちを追ったドキュメンタリー。中国残留孤児・婦人のことは、報道によって知られているが、敗戦後のフィリピンで日本人の父と生き別れたことから差別と貧困の中に生きることになったフィリピン残留日本人2世のことはほとんど知られていない。選考委では「彼ら彼女らを棄民した日本政府に鋭いアピールを突きつけた作品」と評価された。

 そのほか、活字部門では、信濃毎日新聞記者・渡辺和弘「思想監視 公文書・記録が語る」▽藤原健「終わりなき<いくさ>~沖縄戦を心に刻む」<琉球新報社>▽朝日新聞記者・南彰「政治部不信―権力とメディアの関係を問い直す」<朝日選書>▽沖縄タイムス社「連載企画『独り』をつないで―ひきこもりの像―」が最終選考まで残った。

 例年、12月初旬には、平和・協同ジャーナリスト基金が受賞者を東京・内幸町の日本記者クラブ東京に招いて基金賞贈呈式を催していたが、今年は新型コロナウイルスが猛威を振るっているため、三密を避ける狙いから贈呈式は取りやめとなった。

2020.09.29  新聞の改憲問題報道に違和感
       国会ばかりに目がゆき国民の動きは無視

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 その記事を読んで、思わずうなってしまった。「こんな底の浅い記事を書いているから新聞は読まれなくなったんだな」と。その記事とは、朝日新聞9月12日付朝刊3面トップに載った『考 次期政権の課題』という続き物の6回目で、いわば安倍政権がこれまで進めてきた改憲作業を検証した記事だった。安倍首相最大の念願だった改憲が挫折したのを受けた意欲的な報道には違いないが、私には国民(読者)不在の記事ではないかという思いを禁じえなかった。

 その記事には2本の見出しがついていた。主見出しが「改憲論議 首相主導が裏目」、サブ見出しが「『9条に自衛隊を明記』野党は反発」である。少し長くなるが、記事本文の最初の部分を以下に掲げる。

 「安倍晋三首相が望んだ憲法改正が最も実現に近づいたのは、2016年7月の参院選で『改憲勢力』が衆参ともに3分の2を占めた時のことだ。
 その後の衆院憲法審査会で自民党は、改憲項目の具体的な絞り込みは急がず、議論を積み上げる中でまとめていく方針をとった。数を頼みに改憲案の発議を急いでも、その後の国民投票で否決されるおそれがあったからだ。
 だが、思うように進まぬ議論にしびれを切らしたのは首相だった。翌年の憲法記念日に改憲派集会に送ったメッセージで『9条に自衛隊を明記』と打ち上げ、2020年の施行と期限まで示した。だが、これがあだとなった。
 露骨な首相主導に立憲民主党などが猛反発。やがて憲法審査会は、開くこと自体が難しくなっていく。改憲勢力に数えられていた公明党も、9条の解釈変更で集団的自衛権の行使を認めたことへの支持母体の強い反発もあり、9条改正には腰を引いた。
 自民は18年3月ら9条も含めた『改憲4項目』をまとめたが、財務省による公文書改ざんなどで政権への逆風が強まると、党内でも改憲への機運は急速に薄れていった」

 安倍改憲の挫折までの流れはこの通りだろう。こうした政治的経緯はすでに報道されており、ここには新しい事実の紹介はない。要するに、この記事が言いたかったのは、首相の狙いは与党の一角の公明党と立憲民主党など野党の抵抗で実現しなかった、ということだろう。

 でも、公明党と野党が安倍改憲を阻んだ、と言い切ってしまっていいだろうか。一見そう見えるが、そうした見方は重大な事実を見落としているのではないか。私に言わせれば、安倍首相の改憲意図を砕いた最大の要因は、広範な市民による護憲運動であった。

 改憲作業を推進する安倍政権にとって最大のつまずきは、2019年7月の参院選だったと私は思う。この選挙で、改憲勢力は参院で改憲の発議に必要な3分の2を割ったのだから。つまり、改憲勢力は参院で改憲発議ができなくなったのだった。

 その時の攻防を詳しく見てみよう。
 参院の議席定数は245だから、改憲発議に可能な「3分の2」は164議席。当時、自公両党に日本維新を中心とする改憲勢力は非改選で79議席を擁していたので、2019年7月の参院選で改憲に必要な議席164を獲得するには改選議席124のうちの85議席を獲得する必要があった。だから、自民党は参院選に全力を注いだ。

 参院選の結果はどうだったか。
 改選議席124の当選者の内訳は、自民57、立憲17、国民6、公明14、共産7、維新10、社民1、れいわ2、無所属ほか10 。この選挙により非改選の議員を含めた参院議員は245人となったが、うち改憲勢力は160人にとどまり、改憲発議に必要な164人に届かなかった。僅差ではあったが、国会での改憲か護憲かを巡る攻防では護憲勢力の勝利であった。

 護憲派が勝利できた要因は、なんと言っても、野党が全国で30あったⅠ人区に統一候補を立て、10人を当選させたことが大きかった。岩手、山形、秋田、宮城、新潟、長野、滋賀、愛媛、大分、沖縄の選挙区である。

 ところで、参院選が迫っても、野党間の統一候補擁立作業は難航した。その野党を統一候補擁立に踏み切らせた一つのきっかけは、市民を中心とする護憲派の野党への働きかけだった。 
 
 野党各党の背を押したのは、「市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)」である。これは、集団的自衛権行使容認に道を開いた安保関連法案に反対する運動が盛りあがった2015年に、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会 、安全保障関連法に反対する学者の会、 安保関連法に反対するママの会、 立憲デモクラシーの会などに属する有志の呼びかけで発足した市民のプラットフォーム。
 それ以来、市民連合は「安保法制の廃止と立憲主義の回復を実現するには、野党に頑張ってもらう以外にない。野党共闘に向けた政党間の協議が進まないというのであれば、まずは市民が広く連帯することで、市民が野党共闘をリードしよう」として、野党共闘を後押しする活動を続けた。

 2016年の参院選挙では、32の1人区で野党統一・市民連合推薦候補の擁立を実現し、11の1人区で勝利した。
 そして、2019年7月の参院選を迎えたわけだが、そこでは、前述したように、1人区で野党統一候補を10人当選させることができた。
 選挙に先立ち、市民連合と5つの野党・会派(立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党、社会保障を立て直す国民会議)は13項目の政策協定を結んだ。その第1項目は「安倍政権が進めようとしている憲法『改定』とりわけ第9条『改定』に反対し、改憲発議そのものをさせないために全力を尽くすこと」であった。
 
それから、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が果たした役割も見逃せない。これは、安倍首相による9条改定を阻止するために護憲団体が大同団結して2017年に発足させた組織で、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会に加わる「戦争をさせない1000人委員会」「憲法9条を壊すな!実行委員会」「戦争する国づくりストップ!憲法を守り・いかす共同センター」の3団体のほか、九条の会などが参加している。

 全国市民アクションは、発足と同時に「安倍改憲NO!憲法を生かす全国統一署名」(略称3000万人署名)を始め、2019年6月末までに947万筆を集め、国会に提出した。目標を達成できなかったものの、市民の護憲意識を高める上で一定の役割を果たし、これが参院選に影響を与えたとみて差し支えないだろう。

こうした経緯をたどってくると、安倍首相の野望を潰えさせた主役は公明党と野党ではなく、むしろ、広範な市民を中心とする護憲派だったとするのが妥当な見方ではないか。

 もっとも、朝日新聞の記事も、後半部分で「改憲案を最終的に承認するのは国民投票だ。これは憲法改正の主役は国民であることを示しており、国会はその手助けをするに過ぎない」と述べている。そこまで言うなら、「主役」である国民が、この7年8カ月の間、安倍政権の改憲作業とどう闘ってきたかについても言及すべきではなかったか、と私は考える。
2020.08.18 NHK経営委員会森下委員長の辞任問題と情報公開
クローズップ現代のかんぽ報道              

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 NHKの報道番組「クローズアップ現代」は1993年4月に始まり、2016年3月までは国谷裕子さんがキャスターを務めていた時代はきらめきのあるNHKの看板番組だった。以前は月曜~木曜の放送だったが、今は火曜~木曜の週3日(週2日だけの時あり)。国谷時代のきらめきはなくなったとはいえ、今でもしばしば政治、経済、社会に鋭く切り込む姿勢を保ち続けている。
 ▼「クロ現」で「かんぽ報道」波紋呼ぶ
 この番組で2018年に放送された「郵便局が保険の押し売り~郵便局員たちの告白」(4/24)は一種のスクープ取材であり、大きな反響を生んだ。いわゆる「かんぽ報道」の先駆けであった。
 続編の放送が企画され、取材の一環としてネット動画を公開した(18年7月)。取材結果の一部を明らかにするとともに、情報提供を募る内容だった。しかし郵政グループ三社社長(日本郵政、かんぽ生命保険、ゆうちょ銀行)連名で、誹謗、中傷だとの抗議文が届くとともに、取材を拒否する旨の通告があった。続編で「かんぽ生命保険の不正」を扱う道は断たれた。(その後「クロ現」では、初回の放送から、1年3ヵ月後の19年7月31日、そして20年1月15日、20年1月16日にようやく「かんぽ生命の検証」を放送した)。
 ▼経営委員会、郵政への会長謝罪を強要
 一方、NHKの意思決定機関である経営委員会は2018年10月23日、上田良一会長(2018年当時)を呼びつけ、厳重処分にするとともに、日本郵政に会長として謝罪することを要求した。
 上田会長は「(首脳部が)個別の番組に介入することが表に出れば、NHK全体の非常に大きな問題になる」という見解を表明したと伝えられていたが、経営委員会の厳重処分に抗しきれなかったとみられる。日本郵政への会長謝罪を主導したのは、石原進経営委員長(当時)と森下俊三委員長代行(当時)であった。
▼放送法の禁じ手違反明白
 放送法は第三条と第三十二条に以下のような条文がある。
第三条、放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、また規律されることがない。
第三十二条(経営委員の権限等)
委員は、この法律又はこの法律に基づく命令に別段の定めがある場合を除き、個別の放送番組の編集その他の協会の業務を執行することができない。
 2. 委員は、個別の放送番組の編集について、第三条の規定に抵触する行為をしてはならない。
「クローズアップ現代+」のかんぽ報道に関する経営委員会の一連の動きは、放送法によって禁じられている行為であることは明白だ。
 ▼経営委員長辞任要求と経営委情報公開
 2019年12月、安倍内閣は森下氏を経営委員長に起用した。以後、市民の反発はさらに強まり、「経営委員会の個別番組への干渉を禁じた放送法に反する」として、森下氏の辞任を求めるとともに、18年当時の経営委員会の議事録公開を要求する動きが急速に強まった。7,204筆の個人署名(5/8提出)、全国視聴者組織24団体(6/8提出)にのぼる。
 また「かんぽ報道」問題については、毎日新聞が、議事内容も含めた、2ページにわたる巨大記事で「経営委強引さ鮮明」と報じ(6/29)、朝日新聞が3回にわたり特集を組んだ(6/30,7/1,7/2)。また研究者、法律家22人も、会長を厳重注意した問題で森下委員長の辞任と、当時の議事録の開示を求めている。
 NHK自体が設置している「情報公開、個人保護審議委員会」が、視聴者組織や、毎日新聞などが出した「開示請求」に対し今年5月に全面開示を答申したにもかかわらず、経営委員会は公開済みの一部の発言要旨を切り張りして出しただけで、実質不開示のままだ。
 ▼市民組織、国会請願署名に動く
 このような現状のもと、NHKの公共性を強く求める市民運動組織24団体は、森下経営委員長の罷免と、と経営委の情報公開をもとめて、国会に請願する署名行動を開始した(8/9)。
 1.衆議院のしかるべき委員会に森下俊三氏を参考人として招致し、森下氏に「放送法」に違反する行為、職務上の義務違反に相当する行為があった事実を徹底的に究明すること。
 2.森下俊三氏をNHK経営委員から罷免するよう、安倍内閣総理大臣に意見を提出すること。
 私自身も3年以上にわたって、「クロ現、かんぽ報道」に対する日本郵政三社の介入、干渉を受け入れた経営委員会の行為を問題視し、森下経営委員長の辞任と、当時の議事録の全面開示を求め続けている。
 朝日新聞や毎日新聞がいまだにこの問題に関する調査報道を続け、経営員会の正常化と、NHKに対しての郵政介入干渉に抗し、公正な報道を求め続けていることは心強い。
2020.07.29 コロナ報道、市民が頼りにしたのはテレビだった
        ニュース20%越え、リモートドラマも登場  

隅井孝雄 (ジャーナリスト、京都在住)

 コロナロックダウンで、人々は自宅にこもり情報を求めた。テレビの報道が重要な情報源として高い評価をうけたという調査結果が最近次々に発表されている。スタッフ自体がコロナに感染する事例が出たことから、番組編成、演出手法も大きく変化した。

コロナの主要情報源になったテレビ
 緊急事態宣言(4/7)から解除(5/25)に至る7週間、市民が自宅にこもって、情報をテレビに頼った、という調査が最近発表されている。
 最新情報入手(73%)、概要理解(70%)、理解深める(61%)とテレビがニュース系ネットを20ポイント上回った(ビデオリサーチ5/13)。「テレビを毎日利用する」が7割に達し、速報性(71.9%)、わかりやすさ(62.4%)で情報系ネットや新聞などを圧倒した(民放連研究所調べ)。

ハネ上がったニュース視聴率
 各地で外出自粛要請が出され、志村ケンさんの死亡(3/29)が重なり、多くの人々は自宅にこもり情報をテレビに求めた。その結果「報道ステーション」(テレ朝)、「情報7days」など民放報道系が20%を超えるようになった。緊急事態宣言が発令された日の「NHKニュース7」は26.8%を記録、市民の4人に1人がテレビに見入ったことは、テレビニュース黄金時代の再来である。

NHKより民放ニュース
 NHKニュースの感染報道は貴重な情報ではあったが、政府批判はなかった。「特措法」でNHKを指定公共機関にしたことが影響したといえる。
 人々は手軽にチャンネルを切り替えた。感染初期のもたつき、休校措置の突然の発表、PCR検査の不足などについて「モーニングショー」(テレビ朝日)、「報道1930」(BSTBS)、「サンデーモーニング」(TBS)等は視聴者に歓迎された。一部ワイドにセンセーショナルな表現もあったが、全体としてテレビは信頼された。(信頼度民放テレビ48.7%、ニュース系ネット22.4%、新聞19.1%、NHKは調査対象になっていない、ビデオリサーチ5/13日)。

アメリカ3大ネットワーク局も
 この傾向は海外のテレビ報道でも見られた。昨年同期と比べて、ABCニュース48%増、NBCニュース37%増、CBSニュース24%増であった(ニューズウイー6/23)。普段この3局を反トランプとして批判的だった共和党系の市民も頼りにしたという。特に視聴率の高かったABCニュースのデービット・ミュアーのワールドニュース・トゥナイトは視聴者数1200万人を獲得、アンカーとしてニュース全盛時(1960年代~70年代)のウォルター・クロンカイト(CBS)にも匹敵する存在となった。

テレビが実践するソーシャルディスタンス 
 3月25日、東京都内の新規感染者がハネ上がり「感染爆発の危険」が指摘されたあと、報道系の番組では次々に自らソーシャルディスタンスの実践を始め、視聴者参加番組、芸人大量参加バラエティなど多くの番組にも広がった。
 例えばTBS「サンデーモーニング」では、広いスタジオ、長いテーブルの端に司会の関口宏がぽつんと座り、ゲストの自宅からのリモート出演の立看板が林立した。各局のニュース番組で司会のアナと出演者の間隔が2メートル以上となり、中には透明なアクリル板の衝立で仕切られた番組も現れた。
 バラエティでもタレントが大勢ひな壇に並ぶことはなくなった。ドラマはスタジオ収録もロケが出来なくなり、NHKの大河ドラマ「麒麟(麒麟)がくる」は6月7日放送(21回)のあと「戦国大河名場面集」の再編集でしのぐことになった。「麒麟・・・」再開は8月以降になる。
 民放も過去の人気ドラマなどの再放送で穴埋めした。ところが「逃げるは恥だが役に立つ」
 (TBS)、「Jin-仁」(TBS)、「ごくせん」(日テレ)などが10%を越える人気を博したことか
ら再放送番組の見直しが始まった。TBSは「半沢直樹」の再放送が22%を獲得、新版を企
画した。
コロナとテレビ1広いセットにゲストのパネル映像林立
広いセットにゲストのパネル映像が林立、サンデーモーニング5/31より

コロナとテレビ(3大河ドラマロケ出来ない、旧作再編集で凌ぐ
リモートドラマに力入れるNHK、ネットのNHK宣伝映像より

テレビスタッフもコロナ感染直撃受ける
 コロナ感染はテレビ局自体も直撃した。毎日放送で制作担当役員の60歳男性の死亡が確認された(4/7)のに続き、テレビ朝日が「報道ステーション」富川悠太アナの感染と複数のスタッフの感染を明らかにした(4/12)。テレビ朝日では、その後打ち合わせはすべてテレビ会議に切り替え、出演者とスタッフは接触することなく放送にのぞんだ。
 相方である徳永有美アナは、2週間の自宅待機の後、リモート出演で復帰、また富川アナもナマ放送に復帰した(6/4)。

新趣向リモートドラマ
 リモート出演は時に映像の乱れ、音声の途切れなどトラブルが多発したが、放送を重ねることで画質、音声など質が向上した。そしてドラマをリモート画面のみで制作する、という新手法が生まれた。
 NHKが「今だから新作ドラマを作ってみました」(NHK5/4,5/5,5/8)、「Living」(NHK5/30,6/6)で先鞭をつけた。「世界は3で出来ている」(フジテレビ6/11)、「宇宙同窓会」(日テレ系ネット6/6,7)、「ダブルブッキング」(日テレ6/28)などだ。いずれの作品もリモートで作ることを前提にしたシナリオをもとにしていて作品の質は高い。
 例えばNHKの「今だから・・・・」の第一話は海外で挙式の思いがなわなかった遠距離夫婦とその友人らが、互いにパソコンの会議システムにつながりストーリーが展開、出演者は全員自宅にいて自撮り出演する。「世界は・・・」は一卵性三つ子の役を林遣都が一人3役で熱演した。いずれもライター達が新技法に力を入れた秀作だった。

新しい制作手法開発
 緊急事態の解除後、6月に入ってテレビも徐々に従来の姿を取り戻しつつある。番組によって差はあるが、スタジオに出演者が少しずつ戻ってきたし、ドラマのロケも、スタジオ収録も感染を避けながら再開され始めた。リモート出演の簡便さに慣れ親しんで、すっかり定着したというべきだろう。リモートドラマという新ジャンルは、視聴者から好感を持って受け入れられた。
 報道番組ではコロナ取材に困難は伴うのを乗り越え、取材、制作スタッフの感染を避けるノウハウも確立した感がある。新型コロナの政府の政策の批判しながら、刻々変化する状況をあらゆる角度からとらえ、視聴者に伝える番組も多くみられた。

テレビ公共CM激増
 テレビ広告では自動車、電化商品など耐久消費財関連のCMが減り、イベント、映画、演劇、コンサートなどのCMも消えた。その穴埋めにACジャパンの公共CMが3月から5月にかけて大幅に増えた。「手を洗ってくれてありがとう、家にいてくれてありがとう。あなたのコロナ対策がみんなを救う」、「自分もかかりたくない」、「距離取ろう」、「手を洗うまで」など直接コロナ対策を訴える15秒CMだ。一日当たり100回放送されるという記録を作った。
 一般商品のCMで目立ったのは、健康飲料「ポカリ」だった。汐谷夕希ら多数の中高生が自撮り画面でCMソングを歌いつなぐ。まさにコロナ禍の真っただ中でのCM表現だった。

新たな歩みを期待
 2次感染の予測が絶えない中で8月を迎える。テレビは市民視聴者の新しい信頼を獲得しつつある。重要なメディアとして再生した今、リモートなどの新技術を手に、新たな歩みをどのように切り開くのか見守りたい。
隅井孝雄




2020.06.25  コロナ報道で検閲行為 海外メディアにも及ぶ
          NHKワールドなど政府コロナ要請放送受け入れ

隅井孝雄 (ジャーナリスト、京都在住)

 週刊ポストの最近の報道(6/5,6/12)によると、内閣広報室の数人の係官が、テレビの報道番組、コロナ報道などをモニターし、問題発言を書き起こして政府に報告しているという。

 テレビ報道をチェックし訂正求める
 そういえば「羽鳥慎一モーニングショー」(テレ朝月~金8:00) で安倍首相のコロナ対策後手に回っていること、医療機関へのマスクを重点的に配備すべきだとの発言を、厚生労働省が番組出演者を名指ししてツイッターで攻撃した(3/4)ことがある。
 内閣広報室のメディアチェックは、明らかな憲法21条違反の検閲と言わざるを得ない。
 週刊ポストが入手した情報公開資料によると、2月初旬から3月上旬までの40日ほどで、A4判1000枚近くに及んでいるという。特に目立つのはテレ朝の朝ワイドに出演している玉川徹キャスターやゲストの岡田晴恵白鷗大教授、更には「ダイヤモンドプリンセス号」に乗り込んで、政府の対応を批判した、岩田健太郎神戸大教授の発言などだ。報道番組やワイドショーが中心だが、情報番組の「アッコにおまかせ」(TBS、日曜11:45)での和田アキ子とIKKOとのやり取りも含まれていた。

 諸外国メディアに多い安倍批判
 諸外国の多くは安倍政権のコロナ政策に批判的だ。「日本はPCRの検査が少ない。日本のやり方は症状の軽い感染者を特定し、追跡することを困難にしている」(英紙ガーディアン5/4)と指摘した。4/23に外務省が海外メディア向けに開いた記者会見では、「もっと多くの市中感染があるのではないか」などの質問が1時間にわたって続いた。また韓国の「ハンギョレ新聞」(4/30)も「日本政府は韓国の防疫の成功を無視し、軽んじている」と批判した。(朝日新聞5/8の記事より)。安部首相の感染対策としてマスク2枚配布の発表(4/1)は、国内の批判に加え、海外メディアからも「アベノマスクはエイプリルフールか」(Fox News4/1)など嘲笑、揶揄が乱れ飛んだ。

 海外報道にも及ぶ検閲
 今国会で成立の予算の中に、“批判をチェックし、正しい情報を流すために”との予算24億円を外務省が組んだ。主要20か国などのSNSをAI(人工知能)も活用して海外メディアの報道チェック、“正しい情報を発信する”という。
 厚生労働省も国内海外に向けて「ネガティブ情報の払しょく」、「正しい情報の発信」を行う予算35億円が組まれた。
 外務省、厚生労働省、内閣広報室、内閣官房インフルエンザ等特別対策室は一体となって国内、海外の政府批判阻止の動きを強めているのが現状だ。

 特措法でNHKは指定公共機関
 「改正新型インフルエンザ対策特別措置法」では日銀、赤十字などと並んでNHKが指定公共機関とされた。従来から政権寄りのNHKは、政府のコロナ対策への協力にアクセルがかかっている。国境なき記者団(本部パリ4/8)、日本ジャーナリスト会議(4/11)、などが独立した報道を阻害するとして反対声明を出し、NHKを指定から外すよう要求している。

 NHKの海外放送で政府の要請放送
 160の国・地域へテレビ国際放送(NHKワールド)や、ラジオ国際放送(短波)、インターネットニュースサイト(Japan On Line、17ヵ国多言語)など、NHKの海外向けの情報発信では、在留日本人の生命、身体にかかわる事項、国の重要政策などで政府の要請があれば、それを受け入れることになっている。4月1日に総務省が発表した2020年の要請放送の項目には「新型コロナウイルス感染症に関する国内の最新状況に特に留意すること」が付け加えられた。

 このままではNHKは政府広報機関に陥ることになる
 NHKを指定公共機関から外すよう求めるとともに政府の要請報道に応じないようNHKに求める必要がある。
2020.06.19  メディアだって恥ずべきことをやっている――黒川スキャンダルを巡って
          ――八ヶ岳山麓から(314)――

阿部治平 (もと高校教師)

1月31日、安倍内閣は黒川弘務東京高検検事長(当時)の定年延長を決定した。検察庁法改正案が国会に提出され、5月に審議に入った。これに対して黒川人事を「後づけ」する意図が見え見えだとして、会員制交流サイト(SNS)には、「ツイッターデモ」といわれるほど多くの反対意見が登場した。検察OBからも反対意見が法務省に提出された。5月18日安倍政権はこれに耐えきれず、法案の成立を断念した。
ところが、日をおかず「週刊文春」(2020・05・28)によって、当の黒川氏が産経現役記者、朝日元記者と賭け麻雀をしていたことが暴露された。安倍政権のメンツが吹っ飛び、黒川氏は袋叩きされ辞職に追い込まれた。

産経や朝日は、コロナ禍の緊急事態宣言のさなかに記者らが麻雀賭博をやったことを恥ずべきことと謝罪した。だが自社の記者が東京高検検事長という権力者にべったりひっついていたという事実に対しては、反省の一言もなかった。
日本のメディアは、古くから権力者・有力者に密着取材して情報を得るのが当り前になっている。この担当記者を「番記者」というそうだ。今回賭け麻雀をやっていたのは「番記者」と「元番記者」であろう。毎日だの読売だの日経だの、その系列下のテレビも、「番記者」については何も言わなかったから同じことをやっているに違いない。地方新聞でこの問題を取り上げたところがあったら教えていただきたい。

ジャーナリストの青木理氏は、歴代政権が自制した放埓人事を安倍内閣が繰りかえした責任を問うたのち、末尾で次のように書いた(信濃毎日新聞2020・05・22)。
「……今回、大手メディアの姿勢にも重大な疑念が突きつけられた。一部の週刊誌が政権の問題を浮き彫りにする特ダネを連発する中、焦点の人物とマージャン卓を囲み、肝心の情報を発信しない新聞記者。緊急事態宣言下、誘いを受けたとしても、なぜ固辞しなかったのか。情報を持つ高官の懐に飛び込むといえば聞こえはいいが、いったい誰のための取材であり、メディアなのか」

私は、黒川スキャンダルは、長年習慣的な「番記者」という取材方法にその根源があるとおもう。青木理氏は、黒川氏から誘いを受けた記者らが、なぜ誘いを断らず出かけたのかと問い、彼らが「肝心の情報を発信しない」と批判している。
だが現役も元記者も誘いを断れず、のこのこ出かけたわけはだれでもわかる。権力者から情報を得るつもりが、哀れな召使になっているからだ。いいかえればこの制度を使って記者に取材させているメディアは、自社の記者を権力の「はしため」として差し出し、記者たちはあたりまえのようにそれに従っている。そんなやり方で、いくら麻雀をやっても「肝心の情報を発信できる」わけがない。
青木氏が権力に取り込まれたジャーナリストを批判するなら、「番記者」方式をはっきりと非難すべきであった。

「記者クラブ」というものがある。中央・地方の役所、警察、裁判所、さらには業界団体に設置されていて、クラブの部屋もそこからタダで借りているという。それかあらぬか、日本のニュースには官庁の公式発表の記事が多い。刑事事件などほとんどが警察発表そのものだ。官庁や警察に情報が集まるのだから仕方がないといえばそれまでだが、労働現場や労働組合、農協や生協、平和団体、学者の地道な研究、ボランティア団体など民間の社会活動など、記者が足で取材した記事はごく少ない。催物の記事でも主催者発表が主だ。こうなると記者クラブは、半分は役所や警察の思惑通りに動く報道機関だといわれて仕方がない。

中国のメディアは中国共産党の「喉と舌」つまり宣伝機関である。特に習近平政権になってから独立したメディアは姿を消した。ジャーナリストらしいジャーナリストは脅迫されて沈黙するか牢獄の中だ。
メディアの報道があてにならないことは、中国の「老百姓=無権の人民」はだれもが漠然と感じている。だから「人民日報」などの記事が話題になることなど皆無。むかしはだれだって「街道消息=うわさ」のほうを信じた。今は携帯電話にどこからともなく瞬間的に流されてくるメールを信じる。
中国のメディアを「中国のマスゴミ」といった日本のジャーナリストがいたが、10年余の中国生活から帰国したとき、日本の大新聞とその系列のテレビも、やはり「マスゴミ」だとおもった。テレビのコメンテーターと称する人々はたいてい現状肯定的で、安倍政権のちょうちん持ちが多い。今はこれにすっかり慣れてしまい、週刊誌やネットが権力を批判する自律的な発言をする人を揶揄し叩くのを見ても、「そら来た」という感じで受け止めている。ただ地方紙にはまだ独立心が残っているのを知って少し救われたおもいがしているが。

中国とおなじく、日本でも記者が権力者の非行を暴いたら配転かクビになることがある。最近では、もとNHK記者で、いまは大阪日日新聞記者相沢冬樹氏の例がある。氏は、通産省職員赤木俊夫氏が「最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」と書いた遺書と手記を明らかにした人だ(「週刊文春」2020・04・02)。
彼はNHK時代森友事件をスクープしたために、2018年5月辞めざるを得なかった。大メディアはジャーナリストとしての精神をもった記者が嫌いなのだ(『安倍官邸vs.NHK―森友事件をスクープした私が辞めた理由』文藝春秋、2018年12月)。

元来は報道には真実性と客観性、また論評には批判性という規範が伴っている。教科書風にいうと、客観・中立・公正がたてまえである。そのためには権力側を支持するか反権力であるかにかかわらず、メディアは権力から独立していなければならない。客観・中立・公正とはその意味であろう。
テレビや新聞、雑誌の報道には、権力への忖度とへつらいがあふれている。だからものを考える読者は、ジャーナリズムに批判精神と倫理を期待するのはあきらめて、裏付けが希薄だと思っても、ネット上の記事に目が行く。欧米のメディアの報道に多く見られるような自主性・主観性をもった記事や論評を歓迎するのである。新聞紙の読者が減るのも無理はない。
とはいえ、私はメディアとジャーナリストを信用してはいないが、絶望しているわけではない。絶望しないからこうして注文を付けるのである。
 

2019.12.17 辺野古への土砂投入強行から1年
全力投入の朝日報道

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

沖縄辺野古への土砂投入開始から1年。安倍政権は、環境破壊、埋め立て予定区域の危険な軟弱地盤問題を隠してきたが、土砂投入開始後にようやく正式に認めた。8万本もの杭を海底に打ち込まねばならないことが判明、工事の完成まで最低で10年以上かかることを認めざるを得なくなった。総経費予測もできない辺野古基地移転工事計画。昨年9月の知事選いらい、今年2月の県民投票、4月の衆院補選、7月の参院選のすべてで、沖縄県民は「辺野古移転計画ノー」の意志を明確に示しているのに、安倍政権はしゃにむに埋め立て工事を進めている。米国内には沖縄の海兵隊のグアム移転が好ましいとする戦略見解が少なくないのにだ。
そして、この12月14日、安倍政権が辺野古の海へ土砂投入を強行してから満1年。各紙、NHKと民放は辺野古移転問題を報道した。その中で朝日新聞が最も積極的で明快だったと思う。以下に各記事の見出しと、社説全文をあらためて紹介したい。社説を支持する。

12月12日
▼1面:(時時刻刻)辺野古移設 新たな攻防へ
辺野古に土砂一年 続く緊張
▼2面:土砂投入1% 軟弱地盤難工事
改良工事 守勢の県 強気の国 
県、民意の行方に危機感
国、年明けにも変更申請
▼4面:沖縄・玉城知事インタビュー「辺野古の危機 国民と共有」

12月14日
▼7面:辺野古ノー 何度叫べば 
続けた抗議に無力感「心折れた」 
「民主主義が一緒に埋め立てられる」

12月15日
▼6面:社説 全文
土砂投入1年 民主国家のすることか

 力で異論を抑え込み、重要な情報を隠し、ごまかしと強弁を重ねて相手の疲弊を待つ――。そんな安倍政権の体質が、この問題でもあらわだ。
 沖縄・米軍普天間飛行場の移設をめぐり、辺野古の海への土砂投入が始まって1年になる。
 昨年9月の知事選、今年2月の県民投票、4月の衆院補選、そして7月の参院選と、県民は繰り返し「辺野古ノー」の意思を示してきた。だが政権は一貫して無視を決めこんだ。
 日ごろ自らの正統性をアピールするために国政選挙での「連勝」を誇り、野党をやゆする首相だが、こと沖縄に関しては、投票で示された民意は切り捨てるべき対象であるらしい。二重基準も甚だしい。
 ほかにも、およそ民主主義国家とは思えぬ行いが続く。
 環境破壊の恐れや取り決め違反を理由に県が実施した行政指導は、埋め立てに関する法令に基づくものだけで、15年以降で33件に上る。今月も、浮き具の重りがサンゴを傷つけたとして撤去と工事の中止を求めたが、国は一顧だにしない。民間の事業では考えられない対応だ。
 一方で、県が埋め立て承認を撤回したことの当否を争う裁判では「国も一般企業や個人事業者と変わりはない」と主張し、国が埋め立てをする「権利」を守るよう唱える。物事の本質を見ず、小手先の法解釈に走る裁判所がこれを追認し、一体となって沖縄を追い詰める。嘆かわしい限りだ。
 埋め立て予定区域に広がる軟弱地盤問題でも、国は14~16年の調査で存在を把握しながら公表しなかった。土砂投入後にようやく正式に認め、8万本近くの杭を海底に打ち込んで対応すると言い出した。自らが選んだ有識者の「お墨付き」を近く得て、設計変更を県に申請し、認められなければ裁判に訴えてでも押し通す構えだ。どれだけの費用がかかるのか、国は見通しすら示していない。
 こうした態度に県民が不信を募らせるのは当然だ。焼失した首里城の復元に国が前向きなのも、辺野古で県の譲歩を引きだすためではないかと、警戒の目が向けられるありさまだ。
 そもそも普天間飛行場の移設は、沖縄の基地負担の軽減が出発点だった。ところが辺野古の埋め立てが自己目的化し、普天間が現に直面する騒音被害や墜落の恐怖をいかに取り除くかという協議は、一向に進展しない。今の計画どおりでも移設工事の完成に10年以上かかる。国が力を尽くすべきは、真の「普天間問題」の解決である。
 沖縄の声に向き合え。土砂もろとも民意を海中に投じたあの日から1年、繰り返し訴える。
2019.11.29 大賞に京都新聞の「旧優生保護法下での強制不妊手術に関する報道」
         2019年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞
                                       
岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストを顕彰する活動を続けている市民団体の平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、ジャーナリスト・田畑光永の両氏ら)は11月28日 、2019年度の第25回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。

 基金賞の選考は太田直子(映像ディレクター)、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、本間健太郎(芸能クリエーター)の6氏を審査委員とする選考委員会で行われた。基金の運営委員会に寄せられた候補作品は61点(活字部門33点、映像部門28点)で、この中から次の8点を選んだ。

基金賞=大賞(1点)
 京都新聞社取材班の「旧優生保護法下での強制不妊手術に関する一連の報道」

奨励賞(7点) 
 ★沖縄タイムス編集局の「権力の暴走をただし、民主主義を問う一連の報道」
 ★ドキュメンタリー映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯」
  <佐古忠彦監督作品、TBSテレビ>
 ★ドキュメンタリー映画「誰がために憲法はある」<井上淳一監督作品、(株)ドッグシュ
  ガー>
 ★共同通信記者・平野雄吾さんの「入管収容施設の実態を明らかにする一連の報道」
 ★朝日新聞記者・三浦英之さんの「南三陸日記」<集英社文庫>と朝日新聞連載「遺言」
 ★揺るがぬ証言刊行委員会の「揺るがぬ証言 長崎の被爆徴用工の闘い」<自費出版>
 ★信濃毎日新聞編集委員・渡辺秀樹さんの「連載企画 芦部信喜 平和への憲法学」と関
  連スクープ

基金賞=大賞に選ばれた、京都新聞社取材班の「旧優生保護法下での強制不妊手術に関する一連の報道」は、旧優生保護法下で、特別の疾患や障害を理由に子どもを産む権利を国に奪われながら、謝罪も補償もないまま沈黙せざるを得なかった人たちの存在を明らかにした報道である。旧優生保護法下での強制不妊手術を受けたハンセン病患者やその家族には補償金を支給する法律が施行されているが、同じ目にあった精神障害者や聴覚障害者らはほとんど放置されたまま。そうした実態を3年間に及ぶ綿密な取材で掘り起こした報道で、選考委では「見事な報道活動」「世界でも、日本でも、これまで不当に差別され、虐げられてきた少数派の人々の人権を回復しようという動きが強まりつつある。これは、そうした動きに即応したタイムリーなキャンペーンと言える」と絶賛された。
 選考委によると、人権侵害問題をテーマとした報道活動に大賞が贈られたのは初めてという。

奨励賞には活字部門から5点、映像部門から2点、計7点が選ばれた。
 沖縄タイムス編集局の「権力の暴走をただし、民主主義を問う一連の報道」は、沖縄県宮古島市がゴミ事業をめぐって市民を名誉毀損で提訴する議案を市議会に提出するというスラップ行政訴訟の異常さや、今年施行された改正ドローン規制法が報道の自由を侵すのではないかと指摘した報道である。選考委では「安倍政権登場以来、政府や自治体による民主主義を侵害する権力の行使が目立つ。これに立ち向かった新聞社のキャンペーンに敬意を表したい」「本土の新聞では改正ドローン規制法に関する報道が少なかった。その危険性を伝えた紙面は非常に優れたもので、顕彰に値する」と評価された。

 共同通信記者・平野雄吾さんの「入管収容施設の実態を明らかにする一連の報道」は、強制退去を命じられた外国人を拘束する法務省出入国在留管理庁収容施設の非人道的な実態を明らかにしたもの。選考委では「入管収容施設における外国人に対する非人道的な扱いは、一般の人にはほとんど知らされていない。それを明らかにした先駆的な報道」「この一連の報道で他紙もこの問題を取り上げるようになった点を買いたい」といった声が上がった。

 朝日新聞記者・三浦英之さんの『南三陸日記』と朝日新聞連載『遺言』は4編あった原発関係の作品の中から選ばれた。東日本大震災直後、津波で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町に約1年間暮らしながら被災した人たちを取材し続けた記録をまとめたのが『南三陸日記』、東日本大震災に伴って起きた東電福島第1原発事故の被災自治体の一つである福島県浪江町町長へのインタビューをまとめたのが『遺言』だある「被災地に長期間常駐して書いた記録だけに被災住民の苦しみ、悲しみが実に子細にかつ深く描かれていて、心打たれた」「原発事故で全町民避難を強いられた浪江町民の苦難がひしひしと伝わってきて、原発による放射能禍がいかに恐ろしいものであるかを改めて知らされた」との評価だった。

 揺るがぬ証言刊行委員会の「揺るがぬ証言 長崎の被爆徴用工の闘い」は、戦時中、三菱長崎造船所に徴用され、被爆した3人の韓国人が被爆者手帳を長崎市に申請したものの却下されたため、国と長崎市を相手取って提訴し、今年1月、長崎地裁で勝訴するまでの経緯を記録したものである。「勝訴までの経緯が実によくまとめられている」「徴用工の闘いから、改めて日本の対朝鮮植民地支配について考えさせられた」「日韓両国民による献身的な支援活動が判決に影響を与えたとの印象を受けた。このことは特記されるべき」との意見が相次いだ

 信濃毎日新聞編集委員・渡辺秀樹さんの「『連載企画 芦部信喜 平和への憲法学』と関連スクープ」も高い評価を得た。「戦後の総決算」を目指す安倍政権はいよいよ本格的な改憲作業に乗り出した。このため、護憲派としては、堅固な改憲反対論を展開することを迫られているわけだが、平和憲法制定以来、護憲派の憲法論をリードしてきた1人が憲法学者の芦部信喜(長野県駒ヶ根市出身)だ。その芦部の軌跡を追いながら、彼の徹底的な平和主義がどのようにして形成されたのかを明らかにしたのがこの37回にわたる連載である。選考委では「芦部の平和主義の原点が何なのかよく分かる」との賛辞が寄せられた。「関連スクープ」とは、長野県知事が県護国神社の崇敬者会長を務めたり、神社への寄付集めに関わっていた事実などをすっぱ抜いた報道で、こうした行為は憲法違反では、と警告している。

映像部門から奨励賞に選ばれた2点はドキュメンタリー映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯」<佐古忠彦監督作品、TBSテレビ製作>と、同じくドキュメンタリー映画の「誰がために憲法はある」<井上淳一監督作品、(株)ドッグシュガー製作>である。
 「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯」は、沖縄の政治家・瀬長亀次郎の生涯を描いた作品。沖縄の本土復帰後、国会議員に当選した瀬長は国会で「1リットルの水も一握りの砂も一坪の土地もアメリカのものではない。沖縄の大地は基地となることを拒否する」と訴えるなど、沖縄県民のリーダーとして活動した。選考委では「歴史的背景も取り入れながら彼を描くことで、本土から差別され続けてきた沖縄の今を観客に強く訴える作品となっていることを評価したい」とされた。

 「誰がために憲法はある」は、芸人・松本ヒロが演じ続けている、日本国憲法を擬人化した1人語り『憲法くん』を、今年87歳を迎えた女優の渡辺美佐子が演じるシーンと、彼女を中心とする10人の女優たちが33年も続けてきた原爆詩の朗読劇を収めたドキュメンタリーである。選考委では「憲法の大切さと戦争放棄の理念を表現した、今日的存在感のある力作として高く評価したい」とされた。

 基金賞贈呈式は12月7日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で行われる。だれでも参加できる。
2019.10.30   日本郵政グループ、NHKかんぽ不正報道に介入
          NHK会長謝罪、続報取りやめ

隅井孝雄(ジャーナリスト)

 日本郵政が「かんぽ生命保険」を高齢者に不正販売していたこと、しかも1400件に法令違反があり、顧客に不利益を与えたとされるものは18万3千件に達する可能性があることが明らかになった。その一方、この問題の追及を始めた「クローズアップ現代」(NHK)を日本郵政(郵便、保険、銀行投信3グループ)が妨害、驚くことにNHK会長が謝罪したと伝えられた。
NHK経営委員会が会長を叱責
 「クローズアップ現代」は昨年4月22日に「高齢者が被害うけている」として番組で取り上げた。さらに取材を進めていたところ、日本郵政グループは抗議文を送り付けてきた。NHK経営委員会はその抗議を受けてNHK上田良一会長(元三菱商事副社長)を叱責、厳重注意処分した。それだけではない。上田会長自身も木田幸紀放送総局長を郵政グループ本社に派遣(18年11月6日)、「謝罪文」を読み上げ、手渡していたという。二回目の放送は中止された。
 個別の番組について、経営委員会が批判し、会長や放送総局長ら幹部が取材先に謝罪することなどは、これまでになかったことだ。
 従軍慰安婦問題を扱った「ETV特集、戦時性暴力」(2001年)に対し、当時の安倍晋三副官房長官が松尾武放送総局長(当時)との直接面談の席上で、番組内容を非難し、総局長自身が番組を改変、後に禍根を残したことが思い出される。
健闘したクローズアップ現代
 「クローズアップ現代」の現場スタッフは長期取材によって、かんぽ生命が、高齢者が家族が知らぬ間に高額の保険に入れられたり、同意サインが偽造されたり、2重契約があるなどの事実をつかんでいた。また取材の過程で、現役の郵便局員、保険セールスマンの声が多数寄せられており、取材に応じた現役のナマの声も手元に持っていた。さらに続編の制作のため、情報提供を呼び掛けてネット上に動画を含む映像を投稿していた。また、ゆうちょ銀行の投資信託にも不正な契約があることも把握して取材を進めていた。
 郵政グループは、ネット上で情報提供を呼び掛けることの中止と、会長名による謝罪を要求してきた。制作グループは「会長は番組内容には関与しない」と伝えたところ、この発言を経営委員会に問題視され、会長が叱責を受け、郵政グループに謝罪するに至ったという
 しかし、会長が外部に謝罪することに一部委員が疑問を呈したことから、経営員会の議決の無いまま、「会長厳重注意」の処分が行われた。二重、三重の放送法違反である。放送法では3条と36条で経営委員会が個別の番組に対し、干渉してはならないと定めている。
 (3条、放送送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ何人からも干渉され、または規制されることはない。32条、委員は個別の放送番組の編集その他協会の業務を執行することができない)。
政権におもねるNHK幹部
 NHKの経営委員長と経営委員の人事は国会の同意を得て、総理大臣が決める。またNHK会長や理事は経営委員会によって決定される。このところ、国会の頭越しに総理、副総理、監督官庁の総務省が経営委員長、会長などの人事を左右することが増え、NHKの公共性は無視されたままだ。特に今回NHKに抗議してきた日本郵政の鈴木康雄上級副社長は、NHKの監督官庁である総務省の事務次官からの天下りだ。おもねりとしか思えない。
 NHK石原進経営委員長(JR九州相談役)の辞任を求める動きが広がっている。東京ではもちろん、関西の京都、大阪、兵庫ほか全国各地でも「NHKとメディアを考える会」など市民組織が即刻辞任の申し入れを行った。

 マンモス金融機関郵政グループの問題点の積極的解明を行う「クローズアップ現代」の制作陣の健闘を期待したい。
19101かんぽIMG_5095
     写真、日本郵政のクロ現介入を報じるTBS News23, 9/26