2018.05.08  2018年版 報道の自由ランキング
   韓国通信NO555
 
小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

 <日本5位上昇して67位、韓国20位上昇して43位>
4月25日発表された国境なき記者団(RSF)による「2018世界報道自由ランキング」結果である。
韓国の過去最高は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府当時の31位、最低は2016年朴槿恵時代の70位だった。日本の過去最高が2010年の民主党政権時11位だったことを考えると、今回やや順位を上げたとはいえ67位は「中後進国」なみだ。オリンピックや天皇退位問題や株価などにうつつを抜かしている場合ではない。報道の自由は民主主義の根幹にかかわる問題だ。
韓国は「ローソク革命」による民主化の進展が評価された。日本は政権の「恫喝」による報道の「萎縮」「忖度」、閉鎖的な記者クラブの存在が減点になったと思われる。ランキングはあくまでも相対評価だが、「秘密保護法」など報道の自由に対する壁が国際的に「問題あり」と評価された。
 <マスコミは南北首脳会談をどう伝えたのか>
「板門店宣言」が発表された翌日28日の読売新聞は、一面見出しで「『半島の完全な非核化』合意」、さらに「板門店宣言具体策なし」、二面で「日米 警戒崩さず」「拉致 発表で言及なし」、三面では「非核化 米朝に委ねる」「南北首脳 融和を優先。」、さらに三面社説では「非核化の道筋はまだ見えない」と続いた。朝日新聞の一面は「南北『完全な非核化目標』」「非核化具体策示されず」、二面は「米朝会談へまず一歩」、「南北首脳。融和を演出」「非核化巡り北朝鮮譲らず」、三面では「日米中 期待と疑念」「日本、拉致やミサイル放棄注視」と大きく伝えた。
南北会談の模様は朝からテレビで中継され多くの人が見た。つい数か月前までの北朝鮮とアメリカの動きからは想像できない展開に、驚き、感動した人も多いはず。しかし朝日、読売の見出しからもわかるように、またテレビの報道でもどこか「冷めた」あるいは「醒めた」雰囲気があった。

<もっともな「批判」だが、「的外れ」>
「宣言」では非核化への具体策は語られていない。安倍首相が文大統領に頼んだ拉致問題も触れられていない。たしかにそうだが、日本に不満を語る資格はあるのか。
日本、アメリカ、韓国にとって北の核問題は、また全世界にとっても一大関心事だった。しかし、アメリカと日本が制裁と戦争も辞さない強硬姿勢をとるなか、韓国は対話も重視する姿勢を取り続けた。昨年、韓国の北への人道支援に対し日米が口を揃えて批判したことは記憶に新しい。平昌オリンピックへの共同参加と北の核廃棄への動きがきっかけで対話が始まった。朴槿恵前政権では考えられないことだった。半島の非核化は実現に向けてテーブルについたばかりだ。目標は非核化を含め、分断の克服、平和共存である。そのために必要な信頼関係を築くための具体策が「宣言」のなかに盛り込まれた。
韓国政府の働きかけによって米朝会談が開かれることになり、制裁一本やりの日本は大恥をかいたばかりか出る幕がなくなった。文在寅大統領の努力にぶらさがり、始まったばかりの交渉に「検証可能で不可逆的な完全な非核化」という原則をふりかざすばかりで、無能な政府から期待を持たされた拉致被害者家族たちを落胆させた。
素直に「板門店宣言」を読んでみたい。かつてない平和への意思が具体的に感じられるはずだ。自分の目で確かめたくて、歴史的な「宣言」全文を翻訳してみた。表現として「~をすることにした」という表現から、努力するというニュアンスを感じ取った。具体性に欠けるという批判にかかわらず報道されていない、さまざまな提案が行われていることにも気づくはずだ。拉致問題以外の話し合いを拒否して朝鮮総連、朝鮮民族学校への敵視を続けてきた日本政府が「非核化」「拉致問題」の解決を、端緒についたばかりの対話に期待するのは「ムシ」がよすぎはしないか。政府の怠慢を棚に上げ、朝日も読売も政府の姿勢に「忖度」した。

20180508南北首脳握手
 <北朝鮮と韓国の巧みな「演出」> 今回の首脳会議には全世界の注目が集まった。一触即発の核戦争の危機を回避した奇跡的な首脳会談の模様が生放送で世界に送られた。韓国と北朝鮮合作による「ドラマ」のように見えた。嘘っぽい「演出」だと批判する人もいる。しかし私にはしたたかな計算を感じないではいられない。
北朝鮮の「承認」と南北融和に決定権を持つのは残念ながらアメリカである。北が核の放棄を決意し、韓国との融和を図ろうとしてもトランプ大統領が「NO」といえば水泡に帰す。「ノーベル平和賞」という声にまんざらでもないトランプだが、気が変わることは十分ありえる。「宣言」にある「国際社会の支持を得るための努力」は世界世論に訴えてでも南北間の平和と統一を達成しようとする両国の強い意志が感じられる。
「板門店宣言」を否定するなら、全世界からアメリカは指弾を受けるはずだ。祖国統一を否定するなら韓国内の反発が広がり、一挙に韓米条約破棄に進むことも予想される。アメリカ次第の北朝鮮と韓国というこれまでの構図を打ち破るための巧みな演出が仕組まれた。北と南の話しあい路線に後戻りはないという強いメッセージを世界に伝えた。もはやトランプ大統領が米朝会談を拒否する余地はなくなったと云える。NOならば日米は国際的に孤立するだけだ。

<今こそ「核兵器禁止条約」へ>
北朝鮮を含め核保有国は9ヵ国。10000発以上の核を保有している。保有国のうち廃棄を宣言したのは北朝鮮だけ。北朝鮮の核を理由に核兵器禁止条約に反対した日本は禁止条約に加盟するのだろうか。北朝鮮と韓国は加盟するはずだ。北朝鮮に核の放棄を求めた核保有大国アメリカとアメリカによる核抑止力を理由に反対した日本は世界に向けて何と説明するのだろうか。

<北朝鮮はウソつきか>
「北朝鮮はウソばかりつく」といわれる。いつどのようなウソをついたのか。韓国、アメリカと北朝鮮の間で、これまでさまざまな「宣言」「合意」が繰り返され、反故にされたのも事実。政権の当事者が変わり、外部の干渉もあった。しかし北朝鮮だけがウソつきと決めつけるのは明らかに間違いだ。
1994年の米朝合意のブッシュ大統領による破棄、廬武鉉政権時代の10.3合意(2017)が李明博韓国政府による破棄などがその例だ。日本と北朝鮮は、「ウソのつき合い」という表現が正しい。2002年に拉致被害者5人が一時帰国した際に北朝鮮との約束を破って帰国させなかった。亡くなったといわれる横田めぐみさんの遺骨がDNA鑑定で別人のものと判明したことなどがそれだ。日本では根拠のない一方的な北朝鮮への不信感が流布され、増幅されてきた。
2017.12.13 NHKの監督権限を政府から離す改革こそ必要
受信料「合憲」判決は、環境変化に言及せず

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

NHKの受信料強制が合憲かどうか争われていた裁判で、12月6日、寺田逸郎最高裁判所長官が「合憲」の判断を下した。「受信契約義務」と書かれている放送法の双務性が否定され、「受信料支払い義務」と読み替えられたのだ。
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不払いは違法
「NHKを受信できる設備を設置した者は、NHKと受信契約を結ばなければならない」と放送法は規定している(64条1項)。これが受信料支払い義務に直結する規定かどうかについては、長年にわたって問題となってきた。「契約という以上、受信者の側にも一定の権利があり、番組内容や経営方針に対して異論がある場合、それが正されるまでは契約をしないことが認められるべきだ」との放送専門家の多数見解があり、これまで受信契約拒否、受信料不払いの根拠とされてきた。
今回の訴訟では「番組が偏っている」という理由で2011年9月に受信契約を拒否した男性に対し、同年11月NHKが提訴した。男性の側は「契約の自由を保障した憲法に違反する」と主張していたが判決では受信料でNHKを支える仕組みは合理性がある。放送法64条1項は「合憲」であり、テレビがあれば受信契約して受信料を支払う法的義務がある、と指摘した。
またこの裁判では支払い義務のある期間についても争点となった。最高裁は裁判で勝訴が確定した時点で契約が成立、テレビの設置時期にさかのぼって支払い義務があると判断した。これまで受信料の不払いについては時効が5年という定説があったが、未契約者には適用されず、テレビを設置して以降全期間さかのぼって徴収できるとした。
今回の最高裁の判決は、受信者側の完敗ともいうべきもので、今後NHKは収納率(現在79%)の向上を図り、900万世帯といわれる未契約世帯に積極的に働きかけるものとみられる。なお2017年4月末の受信世帯数は4,326万世帯である。

受信料をめぐる角逐
1990年代の初頭、ジャーナリスト本多勝一氏の著書「受信料拒否の論理」に触発されて、受信料拒否の動きが広がったことがある。2004年紅白歌合戦の制作費着服の発覚、経営姿勢に対する批判などから、不払いが広がり、2005年1月海老沢勝次会長が引責辞任した。しかし収納率は低下を続け、2006年度末までには63%まで落ち込んだ。NHKが不払い者に対する、裁判を始めたのは2006年11月からだった。
また籾井勝人元NHK会長が、就任記者会見で「政府が右というものを左とは言えない」と発言(2014年1月)、従軍慰安婦問題などでも政府寄りの姿勢を見せたことから、市民の間でNHK批判が広がった。しかし不払いではなく新しい運動形態として「籾井退任まで支払いを保留する」という動きが広がった。
受信料をめぐって訴訟に至ったのは2006年以降現在まで4000件以上あると読売新聞が報じている(12/7)。その一方、奈良地裁では視聴者の側が「NHKは放送の公正を守っていない、放送法順守義務違反だ」として46人が集団訴訟しているケースがある。

放送環境の変化には言及なし
放送法は1950年に制定された。それから67年後の今、放送をめぐる環境は大きく変化している。テレビの多チャンネル化が進み、衛星放送では有料無料のチャンネルが輩出した。デジタル化に伴い、ワンセグ放送が始まり、iPoneなどデジタル携帯やパソコンに既存テレビコンテンツを含むさまざまな映像が流入している。ワンセグの受信料の可否をめぐっての裁判も判断が分かれたままだ。またNHK自身、デジタル機器への番組の同時送信を検討しているほか、4K, 8Kの高画質放送の事業化を検討している。地上波放送だけだった時代と違い、「受信機があってもNHKを全く見ない」人がいても不思議はない。
今回の最高裁判決は、これらの新しい動きが、受信料制度にどうかかわるのかについては、全く言及しなかったのは、不可解というほかはない。

「国家の影響排除、知る権利充足のため」と最高裁見解に疑問符
判決では受信料制度について次のような判断を最高裁が示している。
 「(受信料は)特定の個人、団体、国家機関から財政面での支配や影響が及ばないよう、広く、広範に負担を求めたもの」。「NHKの財政的基盤を受信料によって確保するものとした仕組みは、憲法が保障する表現の自由の下で、国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう、合理的なもの」。最高裁のアイロニー(皮肉)かとも思える理由であることに驚かされる。
2012年以降の安倍第二次政権下で、政府主導のメディア操作が進み、NHKの報道姿勢の御用化が進んでいるとの指摘がある。事実「公正ではない放送を繰り返せば、免許停止もありうる」発言(高市元総務相、2016年2月)もあったし、国谷キャスター退任(2016年3月)などもあった。報道の面では「もっぱら安倍首相の意向を代弁するレポートばかりだ」と批判される記者もしばしば画面に登場する。秘密保護法、集団的自衛権、安保法制についてのNHK報道が民放に比べて著しく不十分だった、という調査、分析を公表した市民組織もある。
果たしてNHKは「国家機関からの影響が及ばない」、「知る権利を充足する」公共放送なのかという疑問が市民、視聴者の間で広がっているとみるべきではないだろうか。

NHKを政権の手から、国民の手に
更に、国連人権委員会から「(日本の)放送の独立性を確保するため放送法の改正、第三者機関の新設を検討すべきだ」という勧告が出されている。国連は、政府からの独立、第三者機関による放送行政は世界のすう勢だとしている。
NHKの監督権が政府の手にあることに、年度加えて、年度ごとの予算についても「国会承認」の名分のもとに、政府与党が権限を握っている。今回の最高裁の、受信料義務化容認の判決は、政権によるNHK支配をさらに進めることになるのではないか。
受信料がNHKの国家機関からの独立や知る権利の保障として機能させるのであれば、現行の放送法を書き改め、真に国民の代表となりうる第三者機関を新設し、NHKの監督権限を政府から切り離す改革が必要だ。

2017.12.02 大賞にRKB毎日放送の映画「抗い 記録作家林えいだい」
2017年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の両氏ら)は12月1日 、2017年度の第23回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
 基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の6氏を審査委員とする選考委員会によって行われ、候補作品74点(活字部門35点、映像部門39点)の中から次の8点を選んだ。
                  
 ◆基金賞(大賞)1点
 RKB毎日放送製作のドキュメンタリー映画「抗い 記録作家林えいだい」(西嶋真司監督)

◆奨励賞 6点 
 ★沖縄タイムス社取材班の連載「銀髪の時代『老い』を生きる」
 ★シンガーソングライター、清水まなぶさんの「追いかけた77の記憶 信州全市町村戦争体験聞き取りの旅」(信濃毎日新聞社)
★西村奈緒美・朝日新聞記者の「南洋の雪」(朝日新聞高知版連載)
 ★株式会社パワー・アイ(大阪市)製作のドキュメンタリー映画「被ばく牛と生きる」(松原保監督)
 ★広島市立基町高等学校創造表現コース・美術部の「被爆者の体験を絵で再現する活動と10年間の作品集」
 ★望月衣塑子・東京新聞記者の「武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道」

◆審査委員賞 1点
 書籍編集者・ジャーナリスト、梅田正己さんの「日本ナショナリズムの歴史」全4巻(高文研)

選考委員会によると、今年度の選考で目立ったのは、改憲、安保、核兵器、沖縄の基地、原発、「共謀罪」法などに関する問題が今年度も引き続き国民の注目を集めたにもかかわらず、これらの問題に肉迫した作品の応募や推薦が少なかった。そうした面があったものの、今年も、戦前の日本の対外政策、核による被害、ジャーナリズムのあり方に迫った力作が並んだという。 

 基金賞=大賞に選ばれたのは、RKB毎日放送製作のドキュメンタリー映画『抗い 記録作家林えいだい』だが、これは、今年の9月に亡くなった林えいだいさんの晩年の活動を追った作品。林さんは福岡県筑豊に腰を据え、朝鮮人強制連行、旧日本軍の特攻作戦などを取材し続けた。選考委員会では「その取材の原点は、反戦思想を貫いた父親の生き方にあった。だから、強制連行や戦争にこだわって取材し記録した。がんに侵されても続けた。弱者へのあたたかいまなざしを持ちながら不正な国家権力を弾劾し続けた林さんのすさまじい執念があますところなく描かれており、今年度の映画・テレビ番組の中で特筆すべき作品」とされた。

 奨励賞には活字部門から5点、映像部門から1点、計6点が選ばれたが、まず、沖縄タイムス社取材班の『銀髪の時代「老い」を生きる』は、沖縄における高齢者の介護問題に取り組んだ連載である。連載によると、沖縄の高齢者の間で認知症、孤立、虐待などが深刻化しいるとのことで、「沖縄は住民同士の助け合いが盛んな長寿の島」と思ってきた審査委員を驚かせた。選考委では、連載が、その実情を詳細に伝えるばかりでなく、その背景にもきめ細かな深い取材で迫っている点を称賛する声が相次いだ。

 やはり奨励賞に選ばれた『追いかけた77の記憶 信州全市町村戦争体験聞き取りの旅』は、長野市出身のシンガーソングライター・清水まなぶさんが、音楽・芸能活動のかたわら、戦後70年を機に、先の大戦をあらゆる角度から見つめてみたいと思い立ち、長野県の全市町村を訪ねて戦争体験者への聞き取りをおこない、それをまとめたものだ。選考委では「全市町村を訪ねて戦争体験を聞くというやり方が極めてユニークである」「戦争体験談は、戦争でいかにひどい目に遭ったかという被害者の立場からのものが多いが、ここには、731部隊にかかわった兵士や、入植にあたって中国人の農地を奪った満蒙開拓団員の話など、加害の立場からの証言も含まれていて、戦争体験記録としては出色」との賛辞が続いた。
 
 やはり奨励賞の朝日新聞記者・西村奈緒美さんの『南洋の雪』は、1954年のビキニ被災事件にからむ新聞連載。太平洋における米国の水爆実験によって引き起こされたこの事件では、静岡県の第五福竜丸が被ばくしたが、同船以外にも当時、周辺海域に約1000隻の船がいて、乗組員が被ばくしたのでは、との指摘が年々強まっているところから、西村さんは高知県在住の当時の乗組員を訪ね、被災の模様と健康被害の実態をまとめた。乗組員は空から降ってきた実験による“死の灰”を「雪」と思ったとのことだ。「粘り強い丹念な取材に敬意を表したい」と授賞が決まった。
 
 原発問題も引き続き重大な課題とあって、原発関係からもぜひと奨励賞に選ばれたのが、株式会社パワー・アイ製作の映画『被ばく牛と生きる』だ。東電福島第1原発事故の被災地で、政府の殺処分指示に従わず、被ばくした牛を育てている人たちを記録したもので、経済的価値がなくなった牛を飼う人たちは「愛情をこめて育てた牛を殺すなんてできない」「原発の安全神話を信じ過ぎた」と語る。選考委では「故郷も仕事も奪われた農家の人たちの故郷への熱い思いを伝え、生き物の命の尊厳を問うヒューマンな作品」とされた。
 
 広島市立基町高等学校創造表現コース・美術部の『被爆者の体験を絵で再現する活動と10年間の作品集』も審査委員の絶賛を浴びた。この活動は、原爆被害を後世に伝えていくために広島平和記念資料館が始めた事業で、これに参加した生徒たちは被爆者から体験を聴きながら約1年かけて「原爆の絵」を描き上げ、資料館に寄贈する。同校ではこれとは別の「原爆の絵」制作活動にも取り組んでおり、10年間の作品をまとめたのが『平成19~28年度 原爆の絵』である。選考委では「被爆者の高齢化が進み、やがて被爆体験を語る人もいなくなる。それだけに、若い世代が被爆の実相を絵で伝えてゆくという活動は実に貴重だ」との発言があった。

 東京新聞記者の望月衣塑子さんへの奨励賞授賞理由は『武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道』である。その根拠として、選考委では望月さんの著作「武器輸出と日本企業」(角川新書)と「日本のアカデミズムと軍事研究」(雑誌「世界」17年6月号)などが挙がった。とりわけ、「武器輸出と日本企業」に対しては、「武器輸出三原則が事実上撤廃されてゆく過程や、日本企業が武器の生産・輸出に傾斜してゆく経緯がとてもリアルに描写されており、それは現状への警告となっている」との評価だった。

 梅田正己さんの「日本ナショナリズムの歴史」全4巻には特別賞として審査委員賞を贈ることが全員一致で決まった。
 執筆に5年かけた大作で、審査委員の1人は「日本のナショナリズムについて本格的に書かれた本としては初めてのものではないか」と述べ、さらに「本書は、日本のナショナリズムの中軸にあるのは天皇制であること、しかも、そうした性格をもつ日本ナショナリズムが明治以降の日本を形成する上で決定的な役割を果たしたばかりでなく、そうした流れが戦後、そして今日の安倍政権下でも続いていることを明らかにしている」と高く評価した。
 


 基金賞贈呈式は12月9日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費は3000円。
2017.09.16  どうした新聞報道
  改憲問題での重要な情報を載せない紙面

岩垂 弘(ジャーナリスト)

 安倍首相による「9条改憲」を阻止するために護憲派が大同団結して新しい護憲運動組織「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」を発足させたが、これを報じたのは在京6紙のうち、わずか2紙に過ぎなかった。改憲問題に対する国民の関心は高いのに、大半の新聞はなぜ、改憲推進の首相や自民党の動きを逐一報道するばかりで、対する護憲陣営の動きをきちんと報道しないのか。これでは、新聞に対する信頼はますます失われてゆくだろう。

 安倍首相がこの5月に、2020年までに憲法を改定し施行を目指すと表明したことについて、新聞各紙は全国世論調査で賛否を問うた。

 朝日新聞の調査結果では、「安倍首相が憲法改正を提案したことを評価しますか」との質問に対し「評価する」35%、「評価しない」47%。「憲法改正は2020年の施行をめざすべきだと思いますか」との質問には「時期にはこだわるべきではない」52%、「改正する必要はない」26%、「2020年の施行をめざすべきだ」13%。9条に自衛隊の存在の明記を追加する必要についての質問に対しては、「必要がある」41%、「必要はない」44%だった。
産経新聞とフジニュースネットワーク=FNNが共同で実施した調査では、「安倍首相は、自民党総裁として、憲法を改正し、2020年の施行を目指す意向を表明した。あなたは、この姿勢を評価しますか、しませんか」との質問に対し「評価する」と「評価しない」が46.9%で並んだ。「あなたは、憲法9条を維持したうえで、自衛隊の存在を憲法に明記することに賛成ですか、反対ですか」との問いには、「賛成」55.4%、「反対」36.0%。
読売新聞の調査では、「安倍首相は、2020年に、改正した憲法の施行を目指す方針。この方針に賛成ですか、反対ですか」との質問には「賛成」47%、「反対」38%。「安倍首相は、憲法第9条について、戦争の放棄や戦力を持たないことなどを定めた今の条文は変えずに自衛隊の存在を明記する条文を追加したい考えです。この考えに、賛成ですか、反対ですか」という問いには、「賛成」53%、「反対」35%だった。

 これらの調査結果から分かることは、改憲問題では、国民世論が真っ二つに分かれているということだ。であれば、新聞に求められるのは、改憲派、護憲派双方の動きを公平に報道することだろう。

 ところが、実態はどうか。いまさら具体例を挙げるまでもなく、新聞各紙は改憲に向けて突っ走る首相や自民党の動きはもらさず積極的に報道する。扱いは常に一面か政治面で、記事の分量は多く、見出しも大きい。一方、護憲派の動きについては、新聞総体で見た場合、載ればいい方で、載ったとしても扱いは小さく、せいぜい社会面である。

 最近、そうした新聞の一般的傾向を示す典型的なケースがあった。新しい護憲運動組織として発足した「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」に関する報道である。

 この組織は8月31日に結成され、その関係者が9月4日、衆院第1議員会館で記者会見してその経緯を発表した。
 それによると、発起人には、有馬頼底(臨済宗相国寺派管長)、内田樹(神戸女学院大学名誉教授)、梅原猛(哲学者)、落合恵子(作家)、鎌田慧(ルポライター)、鎌田實(諏訪中央病院名誉院長)、香山リカ(精神科医)、佐高信(ジャーナリスト)、澤地久枝(作家)、杉原泰雄(一橋大学名誉教授)、瀬戸内寂聴(作家)、田中優子(法政大学教授)、田原総一朗(ジャーナリスト)、暉峻淑子(埼玉大学名誉教授)、なかにし礼(作家・作詞家)、浜矩子(同志社大学教授)、樋口陽一(東北大学・東京大学名誉教授)、益川敏英(京都大学名誉教授)、森村誠一(作家)の19氏が名を連ね、アクションの実行委員会には、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に加わる19団体のほか、九条の会と、立憲デモクラシーの会、安全保障関連法制に反対する学者の会、安保関連法制に反対するママの会の有志が参加した、とのことだった。

 ここ数年の護憲運動は、おおまかに言って、総がかり行動実行委員会と九条の会という2大潮流によって担われてきた。それが、合流して新しい運動組織をつくるというのだから、護憲陣営でかつてない広範な共同が成立したことになる。
 記者会見では、実行委員会として今後、3000万筆を目標に「9条改憲に反対する署名運動」を全国で展開することも明らかにされた。
 こうした会見内容を知って、私には「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」の発足は、憲法問題に関する画期的なニュースに思えた。

 ところが、この会見を報じたのは在京6紙では2紙だけだった。
 東京新聞は9月5日付朝刊でこれを報じたが、15版では1面左下に写真付き3段48行。「9条守れ 市民団体結束」「3000万人署名目標」の2本見出しだった。
 朝日新聞も同日付の朝刊で報じたが、14版では第3社会面の最下段にベタ(1段)扱いで、写真付き27行。「9条改憲で反対で新たな団体設立」「署名3千万人を目標」の2本見出しだった。
 毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞にはこれに関する記事は見当たらなかった。
 なかでも読売と産経は、これまで、護憲派の、安保関連法や、「共謀罪」法、改憲に反対する運動をほとんど報道してこなかった。両紙とも改憲推進の立場なので、護憲派の運動は取り上げないということなのか。だから、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」についても報道しなかったことに私なりに“納得”したのだが、「毎日」の場合は、「どうして取り上げなかったのかな」と疑問がわいた。

 新聞界には、かつては、自社の主張と合わない意見も紙面に載せるという伝統があったと記憶している。が、今では、一部の新聞社で自社の主張に合わない意見は無視するという傾向が強まりつつあるように感じる。
 新聞各社が加盟する日本新聞協会の新聞倫理綱領には「新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない。他方、新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する」とある。
 新聞は、反対意見も載せるという原点立ち戻ってもらいたい。そう願わずにはいられない。
2017.08.21 今年の8月、反戦・平和の報道でよみがえったNHK
新たな事実、証言、証拠を発掘したドキュメンタリー

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

2014年1月、事実上安倍首相が送り込み、安倍政権の意のままにNHKの報道に干渉した籾井勝人会長が、留任の野望を果たせず、今年1月24日に3年の任期を終えてNHKを去ってから半年余り。午後7時半の「クローズアップ現代」を10時台に動かしてのキャスター国谷裕子外しや、原発報道抑制が象徴した、籾井会長の人事と放送内容への干渉に、自己規制を余儀なくされていたNHKの現場。この8月の反戦・平和への報道で、見事に蘇った、と感じた。もちろん、国内政治・政局報道はじめ、NHKに強い不満、批判を持っている人もなお少なくないとは思うが、わたしは、NHKは蘇った、頑張ってくれよ、と励ましたい。
この8月のNHK番組の反戦・平和の報道はー
(1) 定時ニュースでは、ほぼすべてで、全国各地での戦争体験、戦争の残酷さ、平和の大切さを人々が語り合い、行動する姿が報道された。戦争を体験した高齢の人々が戦争体験を語り、戦争は二度としてはならないと語った。
15日には朝4時半のニュースから「戦後72年の終戦の日。相次ぐ砲弾発見の背景」が報道された。
(2) 12日から15日の4日間のNHKスペシャル。戦場、部隊で残酷な戦争に参加し、多くが生死をさまよって生還した高齢者の証言、ソ連での裁判の記録フイルムなど、よくこれだけ集めた新証言、証拠をまとめた1時間特集番組。
(3) ETV特集「原爆と沈黙」(12日)、「戦争を体験した障碍者。ろう者は『ポイすて』」などの特集番組。新たに発見された沈没病院船の特集では、残存している装置から、国際法で他国からの攻撃を禁止する条件だった重兵器の運搬もしていたことが判明したと報道。
すでにネット上でも(2)について、驚き、怒り、感動した反響があふれているが、一部を見逃した人のために、新聞の番組紹介から、自分の感想をふくめ、紹介しよう。

▽8月12日「本土空襲・全記録」:66都市2000回の空襲を発掘現場と機密資料で
徹底分析▽乱射の瞬間
 わたしは当時小学校2年生だった。東京・中野に住み、夜になると防空壕で過ごした。下町をほぼ全焼した大爆撃の直後、母親、姉と岩手県に疎開した、その1か月半後、新宿、渋谷、中野を含む東京西部が絨毯爆撃され、ほぼ全焼した。

▽8月13日「731部隊の真実」スクープ・肉声の記録。なぜ一線を越えた?人体実験とエリート医学者」:
探し当てた生存兵士たちの証言、ロシアで保存していた731部隊の裁判記録フィルムを入手。731部隊幹部らの証言。NHKが今回初めてロシアで入手したようだ。旧満州での731部隊の細菌戦研究・生産・実行については、わたしも森村誠一さんの「悪魔の飽食」を真っ先に読み、以後、常石敬一さんの研究報告、著書でかなり知っていたつもりだが、京大、東大を始め計数十人の大学教授ら研究者が、軍の求めによって現地での研究・開発に参加しとことは、正直にいって知らなかった。まして、リーダー格の京大教授が、現地で証拠隠滅後、真っ先に帰国し、日本の医学界のトップにまで上り詰めたことなどを知り、ショックを受けた。わたし自身は、60年台に共同通信の京都支局で大学・学術担当記者をやった。そのころ、京大はノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹さんをはじめ科学者の平和運動の一つの中心だった。まさか、細菌戦研究・開発のリーダーがいたことは当時どころか今回のNHK報道まで全く知らなかった。わたしが不勉強だっただけなのかもしれないが。
▽8月14日「知られざる地上戦」:樺太・5000人の犠牲者なぜ?終戦後も戦闘を続けた悲劇の7日間明らかに:天皇が終戦を宣言したのに、さらに1週間戦争を続けさせられた樺太、千島の兵士そして日本人住民たち。このことも、私はまったく知らなかった。日本軍はひどい軍隊だったのだ。敗戦当時だから仕方がなかった、という言い訳は、決して成り立たない。
▽8月15日「戦慄の無謀な作戦はなぜ」:
潜入取材・国境地帯
死者3万の白骨街道
元兵士・消えぬ悪夢
牟田内司令官の肉声
責任逃れの参謀たち
旧日本軍のインパール作戦がどれほど無謀で残酷な作戦だったかは、多くの人が知っているだろう。だが、数少ない生存兵士の声を、当時を再現する豪雨と泥海の現地映像
とともに聞いたとき、無謀、無責任きわまる現地司令部と参謀本部のもとで、極まった戦争の恐怖を、視聴者のだれもが感じたに違いない。(終わり)

2017.06.05  新聞の圧倒的多数が「共謀罪」法案に廃案・徹底審議を主張
    成立賛成派はごく少数
 
岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 参院で審議中の組織的犯罪処罰法改正案(「共謀罪」法案)について、全国の新聞はどう論じているか。それを知りたくて、国立国会図書館で閲覧できる全国の新聞52紙の社説を調べてみた。そうしたら、「共謀罪」法案を成立させよと主張している社説はごくわずかで、圧倒的多数の社説は法案の廃案か徹底審議を主張していた。これでも、政府・与党はマスメディアに現れた民意を無視して法案の可決・成立を強行するのだろうか。

 「共謀罪」法案に関しては、5月19日に自民、公明、日本維新の3党が衆院法務委員会で強行採決し、さらに、5月23日には、これら3党が中心となって法案を衆院本会議で可決して衆院を通過させ、審議は参院に移った。このため、各新聞は5月20日から26日にかけて、いっせいに社説、論説、主張などの欄で、この法案と審議状況を論じた。

 52紙のうち、社説欄がなかったり、この期間に「共謀罪」法案問題を論じなかったのが9紙(17・3%)あった。残りは43紙だが、社説の内容からみると、その内訳は「法案成立賛成」4紙(7・6%)、「法案成立反対」10紙(19・2%)、「徹底審議を」29紙(55・7%)であった。「反対」と「徹底審議を」を合わせると、75%にのぼる。

 「法案成立賛成」は読売新聞、産経新聞、富山新聞、北國新聞、「法案成立反対」は北海道新聞、信濃毎日新聞、朝日新聞、毎日新聞、中日新聞・東京新聞・北陸中日新聞、高知新聞、愛媛新聞、琉球新報である。「徹底審議を」は地方紙の大半と日本経済新聞だ。

 法案成立派の代表的な論調は産経新聞のそれだ。同紙5月20日付「主張」のタイトルは「国民の生活を守るために」で、こう書く。
 「テロ等準備罪を新設する組織的犯罪処罰法改正案が衆院法務委員会で可決された。速やかに衆院を通過させ、参院で審議入りしてほしい」「2020年東京五輪・パラリンピックは、残念ながらテロリストの格好の標的となり得る。開催国として、国際社会と協力して万全の備えを期すことは当然の義務である。法案の成立は、そのはじめの一歩にすぎない」 読売新聞も5月24日付社説で「テロ等準備罪に関わる犯罪の主体は、組織的犯罪集団に限られる。集団と無関係の人に嫌疑は生ぜず、当然、捜査対象にはなり得ない。批判は当たるまい」「テロ対策は焦眉の急である。必要なら、7月2日の東京都議選をまたいだ会期延長もためらわずに、成立を図るべきだ」と書く。

 一方、「法案成立反対」派の北海道新聞は5月24日付紙面で「『戦前』に戻してどうする」と題する社説を掲げ、「(法案の)本質は『平成の治安維持法』と呼ばれ、過去3度廃案になった法案の内容と何も変わらない」「捜査は個人の内面に向けられ、犯罪の計画段階での処罰が可能となる。実行行為を処罰する刑法の大原則を転換することになる。捜査当局による市民生活への監視を強め、思想や表現の自由などを保障する基本的人権を侵しかねない。危険な法案は参院で徹底審議し、廃案にすべきだ」と論じた。
 
 信濃毎日新聞は、5月24日付社説「社会を窒息させる懸念」で「準備と判断するために、当局はあらかじめ目を付けた組織や市民を監視し、動向をつかもうとするだろう。警察が強大な権限を手にし、市民の運動や意見表明を圧迫する恐れは増す」「衆院の審議は、法相がしどろもどろの答弁に終始し、政府の強弁も目に付いた。なお追及すべき論点は多い。参院で徹底して審議し、廃案にすべき法案であることを明確にしなければならない」と書いた。
 
 琉球新報の5月24日付社説は「治安維持法下の戦前戦中のような監視社会を招いてはならない。十分な論議もなく憲法に反する法案を強行採決したことに強く抗議する。立憲主義・民主主義の破壊は許されない。廃案しかない」と述べた。

 中日新聞グループ(中日新聞、東京新聞、北陸中日新聞)は5月20日、「なお残る『共謀罪』法案の懸念」と題する共同社説を掲載したが、その中で「政府・与党に今、必要なことはこの法案を強引に成立させることではなく、内心に踏み込むような法整備を断念することである」と書いた。

 さらに、愛媛新聞は5月24日付の社説でこう書く。「政府は今の答弁姿勢を変えないまま、参院でも『時間が来た』と採決を強行する可能性が高い。野党はあらゆる手段を講じて法案の成立を阻止すべきだ」
   
 「法案成立反対」派は法案に反対する理由として、いずれも、法案の内容が日本国憲法が保障する思想の自由や表現の自由に抵触する点を挙げているが、政府の「2020年東京五輪・パラリンピックを開催するためのテロ対策として必要」という主張に対して疑問を呈した社説もあった。例えば、高知新聞の5月24日付社説は「テロ対策そのものを否定しているのではない。現行法で対応可能ではないのか」と書いた。

 「徹底審議」派の新聞社説は、いずれも、その理由として、法案に対して国民が抱いている「一般市民もテロ準備罪の捜査対象になるのでは」という不安、疑問に政府が十分に答えていない点を挙げている。これは、各紙社説のタイトルを見ると明白である。例えば、こうだ。

 岩手日報「理解は得られていない」、秋田魁新報「参院で徹底審議が必要」、河北新報「国民の不安を軽んじている」、山形新聞「疑問と不安が拭えない」、上毛新聞「解消されていない懸念」、茨城新聞「拙速な成立を許すな」、日本経済新聞「なお残る『共謀罪』法案の懸念」、神奈川新聞「疑念解消されていない」、新潟日報「採決強行で疑念が膨らむ」、山梨日日新聞「疑念置き去り、参院で熟議を」、静岡新聞「不安置き去りにするな」、北日本新聞「論議は深まっていない」、神戸新聞「国民の理解を得ていない」、山陽新聞「多くの疑問残ったままだ」、京都新聞「審議を尽くす責任がある」、中国新聞「議論を一からやり直せ」、西日本新聞「『良識の府』で徹底審議を」、南日本新聞「論点棚上げは許されぬ」、沖縄タイムス「懸念解消にはほど遠い」

 どれをとっても、社説執筆者の懸念や危機感が伝わってくる。こうした新聞界の論調が参院での審議に影響を与えることができるか、どうか。はたまた、政府・与党に押し切られるのか。結論の出る日が迫っている。

2017.04.25 日米で取材制限進む
日本、経産省施錠、記者出て行け、ホワイトハウス、10社を会見除外

隅井孝雄 (ジャーナリスト 京都在住)

▼経済産業省、記者入室シャットアウト
2月27日から、経済産業省は全執務室に鍵をかけ、新聞記者など外部の人間が入室できない措置を取った。同省はこの日から、取材の場所や対応する職員を限定するなどのルールを定め、全職員に通知した。取材に対応するのは管理職以上、メモを取る職員を同席させ、取材のやり取りを広報室に報告するように求めている。また幹部が自宅周辺で取材に応じることも原則禁止、やむをえず応対した場合は、広報室に報告するように求めている。
 この事態に対し、元共同通信記者、同志社大学社会学部の小倉純教授は「省庁が持つ情報は国民の財産であり、官僚が独占し、密室で扱ってよいというものではない。役所の都合のいいことだけ報じればいいというのは、情報公開に逆行する」(2/26毎日新聞)と語った。
 これに先立つ2月10日、日米会談に関する経産省作成の資料の一部がメディアで報道され、「情報漏れ」が経産省内で問題となったため、急きょ新ルールがきめられたようだ。

 ▼質問する記者に「うるさい、出ていけ」、今村復興相
 この報道がまだ冷めやらぬ4月4日、今度は今村復興大臣が記者会見の質問に激高し、「うるさい、出ていけ」と怒鳴る事件が起きた。
 質問した記者は、「避難解除にあたって、約26,000人の自主避難者は家賃補助も打ち切られている。補償金の対象にもなっていないため、国はそれらの人々にどのような責任をとるのか」と問いかけた。それに対して復興相は「帰るか帰らないは本人の責任と判断だ」と返答、さらに国の責任を問う記者に対し、「撤回しろ、出ていけ、二度と来るな」など激高して会見室から出て行ってしまった。
 質問した記者はこれまで一貫して原発被害を取材している中西誠一郎氏(フリーランス)。中西記者によると、復興省の今回の会見は質問のないまま終わりそうになったので、手を挙げたのだという。被災地が避難解除となっても、多くの被災者は地元に帰らない人が多い。特に補償もないまま住宅補助が打ち切られ、帰るという選択もできない、自主避難者は放置されたままだ。避難地域解除にあたっての、政府の手厚い対応が必要とされるのに、「本人の責任と判断だ」と突き放す復興省の態度は、追及されて当然だろう。
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 ▼CNNをインチキニュース呼ばわり、就任式の参加者数、史上最大?
 アメリカの場合は主要メディアとトランプ政権が鋭く対立としていると伝えられている。就任直前の記者会見で発言を求めたCNNの記者に対して、トランプ大統領は「CNNはインチキニュースを流す、質問させない」と拒み通した。ロシアがトランプ大統領の弱みをにぎってアメリカ政治に介入してきた可能性があるとの報道が原因だった。
1月20日の就任式をめぐっては、メディアが「議事堂前に集まった市民の数は25~30万人、8年前オバマ前大統領の時の参加者180万人に比べるとかなり少ない」と報じたことに対し、トランプ陣営は、参加者数は最大だったと言い張り、ケリーアン・コンウエイ補佐官は、メディアが空撮映像を示して誤りをただしたのに対し、「われわれが主張するのは、もう一つの真実だ」と答えた。こうした態度が一連の「フェイクニュース」の元凶だといえる。
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 ▼批判的報道10社を締め出し
 制裁問題についてロシアの駐米大使と話し合ったことが明るみに出たマイケル・フリン補佐官が辞任した際も、大統領は一連のメディア報道を「フェイク(偽)」だと記者会見で述べた。メディアの側が「この情報は政権内部から漏れたものだ」と事実であることを主張したのに対し、大統領自身は「リークは事実だがニュースはフェイクだ」(2/16の大統領会見)と主張した。
 就任以来メディアとの確執は続いているが、ショーン・スパイサー報道官は10社をホワイトハウス会見から締め出した(2/24)。排除された社は、ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズ、ニューヨーク・デイリーメール、英国デイリーメール、CNN、英国BBCニュース、ポリティコ、ザ・ヒル、バズフィード、ハフィントンポスト、いずれもトランプ政権に批判的メディアである。AP通信とタイム誌は抗議の意味を込めて出席を断った。
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 ▼「信頼できる」ニュース、NYタイムズ購読者急増
 1月8日、ゴールデングローブ賞授賞式でトランプ氏の言動を「差別的だ」として批判した女優メリル・ストリープは発言の最後を次のように締めくくった。
 「抗議の怒りがあるとき、信念を持ち、声を上げる報道機関が必要です。前に進むためには報道が必要だし、真実を守るために我々が必要なのです」。
 一部、トランプ大統領に迎合するメディアもあるが、CNNはもとより、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズ、CBSニュース、ABCニュースなど基幹メディアは、トランプ政権に鋭い批判の矢を放し続けている。
 そして市民はこの呼びかけに反応している。ニューヨーク・タイムズの購読者は選挙後1週間で4万部増、その前後3か月でウエブ有料購読が27万件増えた。ニューヨーク・タイムズは「信頼できるニュースを読者が求めている」と語っている。

 ▼ワシントン・ポスト、トランプ調査報道にピュリツァー賞
4月10日発表された今年のピュリツァー賞には、国内報道部門ではワシントン・ポスト紙のデービッド・ファレンソルド記者が受賞した。選挙期間中、一貫して共和党候補、トランプ氏への調査報道を徹底したことが評価された。ファレンソルド記者がとりわけ力を注いだのは、「トランプ財団」への献金が個人的に流用された事実を追跡することで、ツイッターで取材経過を公開しながら、幅広く情報提供を募るという手法も評価された。
 解説報道部門の受賞は「パナマ文書」の実態を明らかにした「国際調査報道ジャーナリスト連合ICIJ」に与えられた。
 調査報道を貫く姿勢によって、アメリカの基幹メディアが、読者、視聴者の信頼回復を成し遂げていることに注目したい。

2017.01.11 沖縄報道にNHKの変化が見えた

隅井孝雄 (ジャーナリスト 京都在住)

12月22日、沖縄の米軍北部訓練所の半分が返還され、式典が行われた。日本政府からは菅官房長官、稲田防衛大臣らが出席、またキャロライン・アメリカ大使も出席して、祝意を述べた。しかしそこに翁長知事の姿はなかった、同じ日、同じ時間に開かれた「オスプレイ墜落事故抗議県民集会」に知事は出席したのだ。
この日NHKは政府主催式典を1分53秒間型どおり報道した後、18分間にわたって県民の抗議大会を中心に、オスプレイ事故に焦点をあてた。現地にとんだ河野憲治キャスターは、オスプレイ事故の状況、わずか6日後に飛行再開となったことに抗議する沖縄県民をインタビュー取材した。また基地返還の条件となったのは6か所のオスプレイ発着ヘリポートだったこと、高江の住民たちが強い不安にかられていることも紹介された。
沖縄に関してはこれまでのNHKの報道は、琉球放送、沖縄テレビ、琉球朝日などに比べて大きく遅れているだけではなく、本土の民放ドキュメンタリーのような積極性も欠いており、高江の問題をほとんど取り上げない、政府の立場を忖度する報道が多いという強い批判を浴びていた。
2015年6月23日の慰霊の日式典で参列者から安倍首相が「帰れ」など激しい罵声を浴びた場面で、NHKは中継放送のヤジ音声を消して放送したことが問題となったことがあった。海外メディアの多くは、ヤジがあったことをニュースとして報じ、音声を消したNHKを批判した。
 NHKは政治課題での市民のデモや抗議集会には、これまで冷淡な対応を見せるのが常であった。例えば2015年8月30日に、安保法案反対、立憲主義を守れと、国会周辺に12万人(主催者発表)が集まって、抗議行動が行われた。この日は日曜日であったため報道ステーションは翌日月曜日に12分間にわたって、市民の行動を特集報道した。これに対してNHKニュース7は当日2分間、翌日のニュースウォッチ9で30秒伝えたにとどまった。
 このような状況が続いていたことから見ると、今回の沖縄報道は大きな変化ということができるだろう。
 政府の見解を伝えると公言していた籾井会長が辞任したあとである。NHKが公正なジャーナリズム精神に立ち返り、市民の抗議活動、集会、デモ行進もきっちりと伝えてくれることを強く望みたい。
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「NHKTVの映像から」

2016.12.02   大賞に毎日新聞夕刊編集部の「夕刊・特集ワイド」
    2016年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の両氏ら)は12月1日 、2016年度の第22回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
 基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、清水浩之(映画祭コーディネーター)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏を審査員とする選考委員会によって行われ、候補作品69点(活字部門25点、映像部門41点、インターネット関係3点)の中から次の8点を選んだ。

◆基金賞(大賞)(1点)
 毎日新聞夕刊編集部の「夕刊『特集ワイド』における平和に関する一連の記事」
◆奨励賞(7点)
 ★ノンフィクション作家、大塚茂樹さんの「原爆にも部落差別にも負けなかった人びと」(かもがわ出版)
 ★原爆の図丸木美術館学芸員、岡村幸宣さんの「≪原爆の図≫全国巡回――占領下、100万人が観た!」(新宿書房)
 ★よしもと所属の夫婦漫才コンビ・DAYSJAPAN編集委員、おしどりマコ・ケンさんの原発問題での情報発信
 ★金澤敏子、向井嘉之、阿部不二子、瀬谷實さんの「米騒動とジャーナリズム」(梧桐書院)
 ★上丸洋一・朝日新聞記者の「新聞と憲法9条」(朝日新聞出版)
 ★瀬戸内海放送制作の「クワイ河に虹をかけた男」
 ★森永玲・長崎新聞編集局長の「反戦主義者なる事通告申上げます――消えた結核医 末永敏事――」(長崎新聞連載)

 選考委員会によると、今年度は、新聞社からの応募や推薦が少なかった。これについて、審査員の1人は「昨年は、戦後70年を機に戦後70年を総括する企画や、集団的自衛権問題、安保問題、憲法問題に取り組んだ新聞が多く、力作が目白押しだった。今年はその翌年とあって、全般的に低調。いわば“戦後70年疲れ”と いったところか」と述べた。そうした面があったものの、今年も、原爆、憲法、沖縄の基地問題、原発問題などを粘り強く追った力作が審査員の目を引いたという。 

 ■基金賞=大賞(1点)には、毎日新聞夕刊編集部の『夕刊「特集ワイド」における平和に関する一連の記事』が選ばれた。同紙の「夕刊 特集ワイド」は、夕刊二面の全面を使った大型紙面で、毎夕、さまざまな問題を取り上げている。2015年から16年にかけての紙面では、国民の関心が高い集団的自衛権、安保関連法、憲法、沖縄の基地問題、原発問題などを積極的に取り上げ、選考委では「ユニークな企画性が感じられ、現在のマスメディアの中では異彩を放つ意欲的な紙面」とされた。沖縄・高江の米軍ヘリパッド建設現場で機動隊員による「土人発言」問題が起きた時、これを直ちに紙面化した点も評価された。

 ■奨励賞には活字部門から6点、映像部門から1点、計7点が選ばれた。
 大塚茂樹さんの『原爆にも部落差別にも負けなかった人びと』は、広島市福島町を中心とした地域の戦後史を描いたノンフィクション。この地域はかつて被差別部落だったが、原爆で甚大な被害を受けた。いわば、この地域の人たちは二重の苦しみに見舞われたわけだが、本書はその苦しみがどんなに深いものであったかを克明に明らかにしており、選考委では「著者はこれをまとめるのに3年を費やし、インタビューした人は60人を超える。そうした取り組みに敬意を表したい」とされた。

 岡村幸宣さんの『≪原爆の図≫全国巡回――占領下、100万人が観た!』も原爆にからむノンフィクションである。丸木位里・俊夫妻が「原爆の図」を発表したのは米軍占領下の1950年。米軍が原爆に関する報道を禁止していたから、日本国民が原爆被害の実態を知るのは困難な時代だった。ところが、本書によれば、なんと「原爆の図」巡回展が全国各地で催され、大勢の入場者があったという。「日本国民の間で今なお反核意識が強いのは、こうしたことがあったからかも。これまで知られていなかった事実を丹念に掘り起こした努力は称賛に値する」と、全会一致で授賞が決まった。

 原発問題も引き続き重大な課題とあって、原発関係からもぜひと選ばれたのが、おしどりマコ・ケンさんの『原発問題での情報発信』だった。お二人は漫才コンビだが、市民の立場から、原発事故に関し本当に必要な情報が出てこない状況に疑問を抱き、東電や政府の記者会見に出席したり、福島にも通って原発事故に関する情報を執筆、動画、講演などで発し続けている。こうした活動が「市民運動の支えなっている」と評価された。

 金澤敏子、向井嘉之、阿部不二子、瀬谷實さん(いずれも細川嘉六ふるさと研究会のメンバー)の『米騒動とジャーナリズム』は、大正時代に富山県から全国に広がった米騒動の全容を新聞報道から検証した、4年がかりの労作。そこでは、初めは米騒動に無関心だった新聞が、政府から取材規制を受けながら次第に民衆の側に立ってゆく報道姿勢の変化が立証されている。選考委では「今のジャーナリズムも、今こそこうしたジャーナリズムの歴史に目を向けて原点に戻り、庶民の側に立った報道をしてほしいという著者たちの願いが伝わってくる」とされた。

 上丸洋一・朝日新聞記者の『新聞と憲法9条』は、憲法関係からもぜひ選ばねばという審査員の配慮から授賞作となった。審査員の1人は「憲法改定が現実味をおびてきた今、憲法の眼目ともいうべき9条の意義を歴史的に、しかも、分かりやすく解明した本書の今日的意義は大きい」と語った。

 「かつてこんな医者がいたとは」と審査員全員が驚きの声を上げたのが、森永玲・長崎新聞編集局長の『反戦主義者なる事通告申上げます――消えた結核医 末永敏事――』だった。戦前、米国に留学までしながら日中戦争下に軍部への協力を拒否したため投獄され、悲劇的な生涯を閉じた医師の空白部分に迫った連載記事(長崎新聞2016年6月~10月)である。選考委では、「単に1人の医師の悲劇を明らかにしただけでなく、医師の受難とからめて現行の特定秘密保護法や、政府が目論む共謀罪に警鐘を鳴らしていることを髙く評価したい」とされた。
 
 ■映像部門では、瀬戸内海放送の『クワイ河に虹をかけた男』(満田康弘監督)が奨励賞に選ばれた。
 太平洋戦争中、タイとビルマ(ミャンマー)を結ぶ「泰緬鉄道」の建設に陸軍通訳として関わった永瀬隆さんの、半世紀にわたる贖罪の足跡を追ったドキュメンタリーである。選考委は「妻の佳子さんと二人三脚でタイへの巡礼を続け、犠牲者の慰霊、連合国軍元捕虜たちとの和解、タイ人留学生の日本への受け入れなど、国がやろうとしない『戦後処理』を独力で行ってきた永瀬さんの執念に圧倒される。彼が謝罪した元捕虜たちの心の変化も捉えて、人は『戦争』にどう決着をつけるかを考えさせてくれる、深みのある作品になった」とした。
 
 ■そのほか、活字部門では、高知新聞取材班の『秋のしずく 敗戦70年のいま』、映像部門では、是枝裕和監督の『いしぶみ』(広島テレビ)、毎日放送の『テレビの中の橋下政治~“ことば”舞い散る8年~』、テレビ熊本『還らざる魂魄~シベリア・死者たちの声が聞こえる』、熊本県民テレビ『生きる伝える“水俣の子”の60年』、佐藤太監督の『太陽の蓋』、藤本幸久・影山あさ子監督の『圧殺の海第2章 辺野古』『高江 森が泣いている』が最終選考まで残った。
 荒井なみ子賞は該当作がなかった。

                              
 
 基金賞贈呈式は12月10日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費は3000円。
2016.08.12  安倍政権の支持率はなぜ高いのか(3)
          ―青木理『日本会議の正体』を読んで―

半澤健市 (元金融機関勤務)

 第三次安倍内閣が2016年8月4日に発足した。
防衛相稲田朋美を、メディアは「保守派」「タカ派」と呼ぶだけで、「日本会議」の中核人物とは紹介していない。都知事選で290万票を獲得し、増田寛也(自公)と鳥越俊太郎(民・共・社・生活)に圧勝した小池百合子も、日本会議国会議員懇談会の副会長であった。

《外紙から見るのは私だけではない》
 前回拙稿の「安倍ファシズム論」紹介に、読者から過剰反応との指摘を受けた。普段ならそうかもしれない。しかし、事態は大方の認識よりずっと深刻だと私は思う。

ジャーナリスト青木理(あおき・おさむ)の新著『日本会議の正体』(平凡社新書、2016年7月刊、以下「本書」)を読んだ。それで改めてそう思ったのである。青木も、敏感な海外メディアに対して、本邦メディアは鈍感だとして本書を説き起こしている。
青木の問題意識・要点・結論を抜粋しておく。

青木書の問題意識・要点・結論(本書からの抜萃)
■「日本会議」は、日本の最も強力な「ロビー団体」なのか。「極右」であり、「超国家主義団体」なのか。そして「安倍政権の中枢でますます影響力を強め」ていて、「内閣を牛耳」っているような組織なのか。/その存在の意味と今後を洞察するのが本書の目的である。(「プロローグ」、16頁)

■彼ら、彼女らは、現行憲法やそれに象徴される戦後体制を露骨に嫌悪し、これをなんとかしてでも突き崩したいと願い、宗教的出自から生じがちだった小異を捨てて大同につき、日本会議という政治集団に集結した。そうした実態を踏まえると、日本会議とは、表面的な”顔 ”としては右派系の著名文化人、財界人、学者らを押し立ててはいるものの、実態は「右派宗教団体」に近い政治集団と断ずるべきなのだろう。
そこに通奏低音のように流れているのは戦前体制――すなわち天皇中心の国家体制への回帰願望である。だとするなら日本会議の活動伸長は、かつてこの国を破滅に導いた復古体制のようなものを再来させかねないという危険性と同時に、「政教分離」といった近代民主主義社会の大原則を根本から侵す危険性まで孕んだ政治運動ともいえる。(「第三章」、154頁)

■私なりの結論を、一言でいえば、戦後日本民主主義体制を死滅に追い込みかねない悪性ウィルスのようなものではないかと思っている。/日本社会全体に亜種のウィルスや類似のウィルス、あるいは低質なウィルスが拡散し、蔓延し、ついには脳髄=政権までが悪性ウィルスに蝕まれてしまった。このままいけば、近代民主主義の原則すら死滅してしまいかねない。(「あとがき」、246頁)

《もう少し詳しく述べると》
 青木は問題意識と結論をどう繋げているのか。以下に半澤流で翻訳する。
■日本会議の沿革
1997年に設立された日本会議には二つの母体がある。
「日本を守る会」(1974年発足)と「日本を守る国民会議」(1981年発足)である。
「日本を守る会」は、宗教右派の組織であって、谷口雅春(成長の家)、伊達巽明(明治神宮)朝比奈宗源(円覚寺)らの初期中心人物の顔ぶれをみると、新興宗教系・神道系・仏教系それぞれの諸派の緩やかな連合である。
「日本を守る国民会議」は、学会、財界、宗教界などのインテリ右翼の結集であった。活躍した人名(故人を含む)は多々あるが、加瀬俊一、黛敏郎、清水幾太郎、小堀桂一郎、江藤淳、香山健一、村松剛、加瀬英明、瀬島龍三、塚本幸一、武見太郎、百地章、大原康男がいる。
■日本会議のイデオロギー
「守る会」は、谷口の国家的イデオロギーと明治神宮の経済的支持が大きな力となった。イデオロギーは、冷戦体制期の「反共」一本から、ポスト冷戦期用の再構築が行われた。日本会議が設立大会で決定した「基本運動方針」のうち最重要な四点は次の通りである。
①皇室の尊崇
②憲法の改正
③国防の充実
④愛国教育の推進
■運動の実績
日本会議成立前から右翼各派の活動があった。現在までの成果は次のように多様である。紀元節(「建国記念の日」)の復活、元号法制化、国家・国旗法、教育基本法の改正。これらは法律に結実したものである。
他にも多くの運動がある。『新編日本史』編纂、「新憲法の大綱」、天皇訪中反対、戦後50年決議反対、選択的夫婦別姓制度反対、外国人の地方参政権反対運動、首相の靖国参拝支持、「国立追悼施設」反対、女系天皇容認反対、などなどである。すべてが日本会議だけのものではないが、右翼が実に精力的に運動しているかがわかる。
■運動の特色
彼らはどのように組織され行動しているのか。
会員動員や地方自治体の議会決議採択など、中央からの徹底したオルグと下からの運動盛り上げ方式は、1960年代に新左翼運動からノウハウを取り入れた。長崎大学の学生運動を制圧した右翼セクトのリーダー椛島有三らに起源し、次第に全国化していった。範囲は学生から社会人に広がり「日本青年協議会」「日本協議会」ができる。

《政権中枢で「明治憲法」の復活を考えている》
 日本会議会員総数3万8千名、日本会議国会議員懇談会会員数280名、日本会議地方議員連盟加盟員1700名。全国各地の支部243。本書からはこれが日本会議の量的勢力と読み取れる。しかし彼らは多くの会員情報を秘匿している。

本書を読んで強い恐怖を感じた。政権中枢は、「日本会議」に占拠されているからである。この奇怪な集団に簒奪されているからである。有権者は、以上のような現実を知っているか。少しは知っていても、歴史的な文脈に位置づけることは、したことがあるか。我々はいつ彼らの主導するこの「体制」を承認したのか。

私は、20年前や30年前に、「日本会議」的なるものを、「無視し」「揶揄し」「馬鹿にし」ていた。サンケイ新聞と桜井よしこの住む「仮想空間」だと思っていた。しかし、我々はいま、本気で「日本会議」的なるものと、理論と実践の両面で、命を賭けて戦わねばならない情勢にあると思う。安倍政権の支持率は、上がることはあっても下がりそうもない。この国の左派とリベラルは「日本会議」に追い抜かれたのである。しかも、その自覚が薄いのである。(2016/08/07)