2017.09.16  どうした新聞報道
  改憲問題での重要な情報を載せない紙面

岩垂 弘(ジャーナリスト)

 安倍首相による「9条改憲」を阻止するために護憲派が大同団結して新しい護憲運動組織「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」を発足させたが、これを報じたのは在京6紙のうち、わずか2紙に過ぎなかった。改憲問題に対する国民の関心は高いのに、大半の新聞はなぜ、改憲推進の首相や自民党の動きを逐一報道するばかりで、対する護憲陣営の動きをきちんと報道しないのか。これでは、新聞に対する信頼はますます失われてゆくだろう。

 安倍首相がこの5月に、2020年までに憲法を改定し施行を目指すと表明したことについて、新聞各紙は全国世論調査で賛否を問うた。

 朝日新聞の調査結果では、「安倍首相が憲法改正を提案したことを評価しますか」との質問に対し「評価する」35%、「評価しない」47%。「憲法改正は2020年の施行をめざすべきだと思いますか」との質問には「時期にはこだわるべきではない」52%、「改正する必要はない」26%、「2020年の施行をめざすべきだ」13%。9条に自衛隊の存在の明記を追加する必要についての質問に対しては、「必要がある」41%、「必要はない」44%だった。
産経新聞とフジニュースネットワーク=FNNが共同で実施した調査では、「安倍首相は、自民党総裁として、憲法を改正し、2020年の施行を目指す意向を表明した。あなたは、この姿勢を評価しますか、しませんか」との質問に対し「評価する」と「評価しない」が46.9%で並んだ。「あなたは、憲法9条を維持したうえで、自衛隊の存在を憲法に明記することに賛成ですか、反対ですか」との問いには、「賛成」55.4%、「反対」36.0%。
読売新聞の調査では、「安倍首相は、2020年に、改正した憲法の施行を目指す方針。この方針に賛成ですか、反対ですか」との質問には「賛成」47%、「反対」38%。「安倍首相は、憲法第9条について、戦争の放棄や戦力を持たないことなどを定めた今の条文は変えずに自衛隊の存在を明記する条文を追加したい考えです。この考えに、賛成ですか、反対ですか」という問いには、「賛成」53%、「反対」35%だった。

 これらの調査結果から分かることは、改憲問題では、国民世論が真っ二つに分かれているということだ。であれば、新聞に求められるのは、改憲派、護憲派双方の動きを公平に報道することだろう。

 ところが、実態はどうか。いまさら具体例を挙げるまでもなく、新聞各紙は改憲に向けて突っ走る首相や自民党の動きはもらさず積極的に報道する。扱いは常に一面か政治面で、記事の分量は多く、見出しも大きい。一方、護憲派の動きについては、新聞総体で見た場合、載ればいい方で、載ったとしても扱いは小さく、せいぜい社会面である。

 最近、そうした新聞の一般的傾向を示す典型的なケースがあった。新しい護憲運動組織として発足した「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」に関する報道である。

 この組織は8月31日に結成され、その関係者が9月4日、衆院第1議員会館で記者会見してその経緯を発表した。
 それによると、発起人には、有馬頼底(臨済宗相国寺派管長)、内田樹(神戸女学院大学名誉教授)、梅原猛(哲学者)、落合恵子(作家)、鎌田慧(ルポライター)、鎌田實(諏訪中央病院名誉院長)、香山リカ(精神科医)、佐高信(ジャーナリスト)、澤地久枝(作家)、杉原泰雄(一橋大学名誉教授)、瀬戸内寂聴(作家)、田中優子(法政大学教授)、田原総一朗(ジャーナリスト)、暉峻淑子(埼玉大学名誉教授)、なかにし礼(作家・作詞家)、浜矩子(同志社大学教授)、樋口陽一(東北大学・東京大学名誉教授)、益川敏英(京都大学名誉教授)、森村誠一(作家)の19氏が名を連ね、アクションの実行委員会には、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に加わる19団体のほか、九条の会と、立憲デモクラシーの会、安全保障関連法制に反対する学者の会、安保関連法制に反対するママの会の有志が参加した、とのことだった。

 ここ数年の護憲運動は、おおまかに言って、総がかり行動実行委員会と九条の会という2大潮流によって担われてきた。それが、合流して新しい運動組織をつくるというのだから、護憲陣営でかつてない広範な共同が成立したことになる。
 記者会見では、実行委員会として今後、3000万筆を目標に「9条改憲に反対する署名運動」を全国で展開することも明らかにされた。
 こうした会見内容を知って、私には「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」の発足は、憲法問題に関する画期的なニュースに思えた。

 ところが、この会見を報じたのは在京6紙では2紙だけだった。
 東京新聞は9月5日付朝刊でこれを報じたが、15版では1面左下に写真付き3段48行。「9条守れ 市民団体結束」「3000万人署名目標」の2本見出しだった。
 朝日新聞も同日付の朝刊で報じたが、14版では第3社会面の最下段にベタ(1段)扱いで、写真付き27行。「9条改憲で反対で新たな団体設立」「署名3千万人を目標」の2本見出しだった。
 毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞にはこれに関する記事は見当たらなかった。
 なかでも読売と産経は、これまで、護憲派の、安保関連法や、「共謀罪」法、改憲に反対する運動をほとんど報道してこなかった。両紙とも改憲推進の立場なので、護憲派の運動は取り上げないということなのか。だから、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」についても報道しなかったことに私なりに“納得”したのだが、「毎日」の場合は、「どうして取り上げなかったのかな」と疑問がわいた。

 新聞界には、かつては、自社の主張と合わない意見も紙面に載せるという伝統があったと記憶している。が、今では、一部の新聞社で自社の主張に合わない意見は無視するという傾向が強まりつつあるように感じる。
 新聞各社が加盟する日本新聞協会の新聞倫理綱領には「新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない。他方、新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する」とある。
 新聞は、反対意見も載せるという原点立ち戻ってもらいたい。そう願わずにはいられない。
2017.08.21 今年の8月、反戦・平和の報道でよみがえったNHK
新たな事実、証言、証拠を発掘したドキュメンタリー

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

2014年1月、事実上安倍首相が送り込み、安倍政権の意のままにNHKの報道に干渉した籾井勝人会長が、留任の野望を果たせず、今年1月24日に3年の任期を終えてNHKを去ってから半年余り。午後7時半の「クローズアップ現代」を10時台に動かしてのキャスター国谷裕子外しや、原発報道抑制が象徴した、籾井会長の人事と放送内容への干渉に、自己規制を余儀なくされていたNHKの現場。この8月の反戦・平和への報道で、見事に蘇った、と感じた。もちろん、国内政治・政局報道はじめ、NHKに強い不満、批判を持っている人もなお少なくないとは思うが、わたしは、NHKは蘇った、頑張ってくれよ、と励ましたい。
この8月のNHK番組の反戦・平和の報道はー
(1) 定時ニュースでは、ほぼすべてで、全国各地での戦争体験、戦争の残酷さ、平和の大切さを人々が語り合い、行動する姿が報道された。戦争を体験した高齢の人々が戦争体験を語り、戦争は二度としてはならないと語った。
15日には朝4時半のニュースから「戦後72年の終戦の日。相次ぐ砲弾発見の背景」が報道された。
(2) 12日から15日の4日間のNHKスペシャル。戦場、部隊で残酷な戦争に参加し、多くが生死をさまよって生還した高齢者の証言、ソ連での裁判の記録フイルムなど、よくこれだけ集めた新証言、証拠をまとめた1時間特集番組。
(3) ETV特集「原爆と沈黙」(12日)、「戦争を体験した障碍者。ろう者は『ポイすて』」などの特集番組。新たに発見された沈没病院船の特集では、残存している装置から、国際法で他国からの攻撃を禁止する条件だった重兵器の運搬もしていたことが判明したと報道。
すでにネット上でも(2)について、驚き、怒り、感動した反響があふれているが、一部を見逃した人のために、新聞の番組紹介から、自分の感想をふくめ、紹介しよう。

▽8月12日「本土空襲・全記録」:66都市2000回の空襲を発掘現場と機密資料で
徹底分析▽乱射の瞬間
 わたしは当時小学校2年生だった。東京・中野に住み、夜になると防空壕で過ごした。下町をほぼ全焼した大爆撃の直後、母親、姉と岩手県に疎開した、その1か月半後、新宿、渋谷、中野を含む東京西部が絨毯爆撃され、ほぼ全焼した。

▽8月13日「731部隊の真実」スクープ・肉声の記録。なぜ一線を越えた?人体実験とエリート医学者」:
探し当てた生存兵士たちの証言、ロシアで保存していた731部隊の裁判記録フィルムを入手。731部隊幹部らの証言。NHKが今回初めてロシアで入手したようだ。旧満州での731部隊の細菌戦研究・生産・実行については、わたしも森村誠一さんの「悪魔の飽食」を真っ先に読み、以後、常石敬一さんの研究報告、著書でかなり知っていたつもりだが、京大、東大を始め計数十人の大学教授ら研究者が、軍の求めによって現地での研究・開発に参加しとことは、正直にいって知らなかった。まして、リーダー格の京大教授が、現地で証拠隠滅後、真っ先に帰国し、日本の医学界のトップにまで上り詰めたことなどを知り、ショックを受けた。わたし自身は、60年台に共同通信の京都支局で大学・学術担当記者をやった。そのころ、京大はノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹さんをはじめ科学者の平和運動の一つの中心だった。まさか、細菌戦研究・開発のリーダーがいたことは当時どころか今回のNHK報道まで全く知らなかった。わたしが不勉強だっただけなのかもしれないが。
▽8月14日「知られざる地上戦」:樺太・5000人の犠牲者なぜ?終戦後も戦闘を続けた悲劇の7日間明らかに:天皇が終戦を宣言したのに、さらに1週間戦争を続けさせられた樺太、千島の兵士そして日本人住民たち。このことも、私はまったく知らなかった。日本軍はひどい軍隊だったのだ。敗戦当時だから仕方がなかった、という言い訳は、決して成り立たない。
▽8月15日「戦慄の無謀な作戦はなぜ」:
潜入取材・国境地帯
死者3万の白骨街道
元兵士・消えぬ悪夢
牟田内司令官の肉声
責任逃れの参謀たち
旧日本軍のインパール作戦がどれほど無謀で残酷な作戦だったかは、多くの人が知っているだろう。だが、数少ない生存兵士の声を、当時を再現する豪雨と泥海の現地映像
とともに聞いたとき、無謀、無責任きわまる現地司令部と参謀本部のもとで、極まった戦争の恐怖を、視聴者のだれもが感じたに違いない。(終わり)

2017.06.05  新聞の圧倒的多数が「共謀罪」法案に廃案・徹底審議を主張
    成立賛成派はごく少数
 
岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 参院で審議中の組織的犯罪処罰法改正案(「共謀罪」法案)について、全国の新聞はどう論じているか。それを知りたくて、国立国会図書館で閲覧できる全国の新聞52紙の社説を調べてみた。そうしたら、「共謀罪」法案を成立させよと主張している社説はごくわずかで、圧倒的多数の社説は法案の廃案か徹底審議を主張していた。これでも、政府・与党はマスメディアに現れた民意を無視して法案の可決・成立を強行するのだろうか。

 「共謀罪」法案に関しては、5月19日に自民、公明、日本維新の3党が衆院法務委員会で強行採決し、さらに、5月23日には、これら3党が中心となって法案を衆院本会議で可決して衆院を通過させ、審議は参院に移った。このため、各新聞は5月20日から26日にかけて、いっせいに社説、論説、主張などの欄で、この法案と審議状況を論じた。

 52紙のうち、社説欄がなかったり、この期間に「共謀罪」法案問題を論じなかったのが9紙(17・3%)あった。残りは43紙だが、社説の内容からみると、その内訳は「法案成立賛成」4紙(7・6%)、「法案成立反対」10紙(19・2%)、「徹底審議を」29紙(55・7%)であった。「反対」と「徹底審議を」を合わせると、75%にのぼる。

 「法案成立賛成」は読売新聞、産経新聞、富山新聞、北國新聞、「法案成立反対」は北海道新聞、信濃毎日新聞、朝日新聞、毎日新聞、中日新聞・東京新聞・北陸中日新聞、高知新聞、愛媛新聞、琉球新報である。「徹底審議を」は地方紙の大半と日本経済新聞だ。

 法案成立派の代表的な論調は産経新聞のそれだ。同紙5月20日付「主張」のタイトルは「国民の生活を守るために」で、こう書く。
 「テロ等準備罪を新設する組織的犯罪処罰法改正案が衆院法務委員会で可決された。速やかに衆院を通過させ、参院で審議入りしてほしい」「2020年東京五輪・パラリンピックは、残念ながらテロリストの格好の標的となり得る。開催国として、国際社会と協力して万全の備えを期すことは当然の義務である。法案の成立は、そのはじめの一歩にすぎない」 読売新聞も5月24日付社説で「テロ等準備罪に関わる犯罪の主体は、組織的犯罪集団に限られる。集団と無関係の人に嫌疑は生ぜず、当然、捜査対象にはなり得ない。批判は当たるまい」「テロ対策は焦眉の急である。必要なら、7月2日の東京都議選をまたいだ会期延長もためらわずに、成立を図るべきだ」と書く。

 一方、「法案成立反対」派の北海道新聞は5月24日付紙面で「『戦前』に戻してどうする」と題する社説を掲げ、「(法案の)本質は『平成の治安維持法』と呼ばれ、過去3度廃案になった法案の内容と何も変わらない」「捜査は個人の内面に向けられ、犯罪の計画段階での処罰が可能となる。実行行為を処罰する刑法の大原則を転換することになる。捜査当局による市民生活への監視を強め、思想や表現の自由などを保障する基本的人権を侵しかねない。危険な法案は参院で徹底審議し、廃案にすべきだ」と論じた。
 
 信濃毎日新聞は、5月24日付社説「社会を窒息させる懸念」で「準備と判断するために、当局はあらかじめ目を付けた組織や市民を監視し、動向をつかもうとするだろう。警察が強大な権限を手にし、市民の運動や意見表明を圧迫する恐れは増す」「衆院の審議は、法相がしどろもどろの答弁に終始し、政府の強弁も目に付いた。なお追及すべき論点は多い。参院で徹底して審議し、廃案にすべき法案であることを明確にしなければならない」と書いた。
 
 琉球新報の5月24日付社説は「治安維持法下の戦前戦中のような監視社会を招いてはならない。十分な論議もなく憲法に反する法案を強行採決したことに強く抗議する。立憲主義・民主主義の破壊は許されない。廃案しかない」と述べた。

 中日新聞グループ(中日新聞、東京新聞、北陸中日新聞)は5月20日、「なお残る『共謀罪』法案の懸念」と題する共同社説を掲載したが、その中で「政府・与党に今、必要なことはこの法案を強引に成立させることではなく、内心に踏み込むような法整備を断念することである」と書いた。

 さらに、愛媛新聞は5月24日付の社説でこう書く。「政府は今の答弁姿勢を変えないまま、参院でも『時間が来た』と採決を強行する可能性が高い。野党はあらゆる手段を講じて法案の成立を阻止すべきだ」
   
 「法案成立反対」派は法案に反対する理由として、いずれも、法案の内容が日本国憲法が保障する思想の自由や表現の自由に抵触する点を挙げているが、政府の「2020年東京五輪・パラリンピックを開催するためのテロ対策として必要」という主張に対して疑問を呈した社説もあった。例えば、高知新聞の5月24日付社説は「テロ対策そのものを否定しているのではない。現行法で対応可能ではないのか」と書いた。

 「徹底審議」派の新聞社説は、いずれも、その理由として、法案に対して国民が抱いている「一般市民もテロ準備罪の捜査対象になるのでは」という不安、疑問に政府が十分に答えていない点を挙げている。これは、各紙社説のタイトルを見ると明白である。例えば、こうだ。

 岩手日報「理解は得られていない」、秋田魁新報「参院で徹底審議が必要」、河北新報「国民の不安を軽んじている」、山形新聞「疑問と不安が拭えない」、上毛新聞「解消されていない懸念」、茨城新聞「拙速な成立を許すな」、日本経済新聞「なお残る『共謀罪』法案の懸念」、神奈川新聞「疑念解消されていない」、新潟日報「採決強行で疑念が膨らむ」、山梨日日新聞「疑念置き去り、参院で熟議を」、静岡新聞「不安置き去りにするな」、北日本新聞「論議は深まっていない」、神戸新聞「国民の理解を得ていない」、山陽新聞「多くの疑問残ったままだ」、京都新聞「審議を尽くす責任がある」、中国新聞「議論を一からやり直せ」、西日本新聞「『良識の府』で徹底審議を」、南日本新聞「論点棚上げは許されぬ」、沖縄タイムス「懸念解消にはほど遠い」

 どれをとっても、社説執筆者の懸念や危機感が伝わってくる。こうした新聞界の論調が参院での審議に影響を与えることができるか、どうか。はたまた、政府・与党に押し切られるのか。結論の出る日が迫っている。

2017.04.25 日米で取材制限進む
日本、経産省施錠、記者出て行け、ホワイトハウス、10社を会見除外

隅井孝雄 (ジャーナリスト 京都在住)

▼経済産業省、記者入室シャットアウト
2月27日から、経済産業省は全執務室に鍵をかけ、新聞記者など外部の人間が入室できない措置を取った。同省はこの日から、取材の場所や対応する職員を限定するなどのルールを定め、全職員に通知した。取材に対応するのは管理職以上、メモを取る職員を同席させ、取材のやり取りを広報室に報告するように求めている。また幹部が自宅周辺で取材に応じることも原則禁止、やむをえず応対した場合は、広報室に報告するように求めている。
 この事態に対し、元共同通信記者、同志社大学社会学部の小倉純教授は「省庁が持つ情報は国民の財産であり、官僚が独占し、密室で扱ってよいというものではない。役所の都合のいいことだけ報じればいいというのは、情報公開に逆行する」(2/26毎日新聞)と語った。
 これに先立つ2月10日、日米会談に関する経産省作成の資料の一部がメディアで報道され、「情報漏れ」が経産省内で問題となったため、急きょ新ルールがきめられたようだ。

 ▼質問する記者に「うるさい、出ていけ」、今村復興相
 この報道がまだ冷めやらぬ4月4日、今度は今村復興大臣が記者会見の質問に激高し、「うるさい、出ていけ」と怒鳴る事件が起きた。
 質問した記者は、「避難解除にあたって、約26,000人の自主避難者は家賃補助も打ち切られている。補償金の対象にもなっていないため、国はそれらの人々にどのような責任をとるのか」と問いかけた。それに対して復興相は「帰るか帰らないは本人の責任と判断だ」と返答、さらに国の責任を問う記者に対し、「撤回しろ、出ていけ、二度と来るな」など激高して会見室から出て行ってしまった。
 質問した記者はこれまで一貫して原発被害を取材している中西誠一郎氏(フリーランス)。中西記者によると、復興省の今回の会見は質問のないまま終わりそうになったので、手を挙げたのだという。被災地が避難解除となっても、多くの被災者は地元に帰らない人が多い。特に補償もないまま住宅補助が打ち切られ、帰るという選択もできない、自主避難者は放置されたままだ。避難地域解除にあたっての、政府の手厚い対応が必要とされるのに、「本人の責任と判断だ」と突き放す復興省の態度は、追及されて当然だろう。
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 ▼CNNをインチキニュース呼ばわり、就任式の参加者数、史上最大?
 アメリカの場合は主要メディアとトランプ政権が鋭く対立としていると伝えられている。就任直前の記者会見で発言を求めたCNNの記者に対して、トランプ大統領は「CNNはインチキニュースを流す、質問させない」と拒み通した。ロシアがトランプ大統領の弱みをにぎってアメリカ政治に介入してきた可能性があるとの報道が原因だった。
1月20日の就任式をめぐっては、メディアが「議事堂前に集まった市民の数は25~30万人、8年前オバマ前大統領の時の参加者180万人に比べるとかなり少ない」と報じたことに対し、トランプ陣営は、参加者数は最大だったと言い張り、ケリーアン・コンウエイ補佐官は、メディアが空撮映像を示して誤りをただしたのに対し、「われわれが主張するのは、もう一つの真実だ」と答えた。こうした態度が一連の「フェイクニュース」の元凶だといえる。
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 ▼批判的報道10社を締め出し
 制裁問題についてロシアの駐米大使と話し合ったことが明るみに出たマイケル・フリン補佐官が辞任した際も、大統領は一連のメディア報道を「フェイク(偽)」だと記者会見で述べた。メディアの側が「この情報は政権内部から漏れたものだ」と事実であることを主張したのに対し、大統領自身は「リークは事実だがニュースはフェイクだ」(2/16の大統領会見)と主張した。
 就任以来メディアとの確執は続いているが、ショーン・スパイサー報道官は10社をホワイトハウス会見から締め出した(2/24)。排除された社は、ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズ、ニューヨーク・デイリーメール、英国デイリーメール、CNN、英国BBCニュース、ポリティコ、ザ・ヒル、バズフィード、ハフィントンポスト、いずれもトランプ政権に批判的メディアである。AP通信とタイム誌は抗議の意味を込めて出席を断った。
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 ▼「信頼できる」ニュース、NYタイムズ購読者急増
 1月8日、ゴールデングローブ賞授賞式でトランプ氏の言動を「差別的だ」として批判した女優メリル・ストリープは発言の最後を次のように締めくくった。
 「抗議の怒りがあるとき、信念を持ち、声を上げる報道機関が必要です。前に進むためには報道が必要だし、真実を守るために我々が必要なのです」。
 一部、トランプ大統領に迎合するメディアもあるが、CNNはもとより、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズ、CBSニュース、ABCニュースなど基幹メディアは、トランプ政権に鋭い批判の矢を放し続けている。
 そして市民はこの呼びかけに反応している。ニューヨーク・タイムズの購読者は選挙後1週間で4万部増、その前後3か月でウエブ有料購読が27万件増えた。ニューヨーク・タイムズは「信頼できるニュースを読者が求めている」と語っている。

 ▼ワシントン・ポスト、トランプ調査報道にピュリツァー賞
4月10日発表された今年のピュリツァー賞には、国内報道部門ではワシントン・ポスト紙のデービッド・ファレンソルド記者が受賞した。選挙期間中、一貫して共和党候補、トランプ氏への調査報道を徹底したことが評価された。ファレンソルド記者がとりわけ力を注いだのは、「トランプ財団」への献金が個人的に流用された事実を追跡することで、ツイッターで取材経過を公開しながら、幅広く情報提供を募るという手法も評価された。
 解説報道部門の受賞は「パナマ文書」の実態を明らかにした「国際調査報道ジャーナリスト連合ICIJ」に与えられた。
 調査報道を貫く姿勢によって、アメリカの基幹メディアが、読者、視聴者の信頼回復を成し遂げていることに注目したい。

2017.01.11 沖縄報道にNHKの変化が見えた

隅井孝雄 (ジャーナリスト 京都在住)

12月22日、沖縄の米軍北部訓練所の半分が返還され、式典が行われた。日本政府からは菅官房長官、稲田防衛大臣らが出席、またキャロライン・アメリカ大使も出席して、祝意を述べた。しかしそこに翁長知事の姿はなかった、同じ日、同じ時間に開かれた「オスプレイ墜落事故抗議県民集会」に知事は出席したのだ。
この日NHKは政府主催式典を1分53秒間型どおり報道した後、18分間にわたって県民の抗議大会を中心に、オスプレイ事故に焦点をあてた。現地にとんだ河野憲治キャスターは、オスプレイ事故の状況、わずか6日後に飛行再開となったことに抗議する沖縄県民をインタビュー取材した。また基地返還の条件となったのは6か所のオスプレイ発着ヘリポートだったこと、高江の住民たちが強い不安にかられていることも紹介された。
沖縄に関してはこれまでのNHKの報道は、琉球放送、沖縄テレビ、琉球朝日などに比べて大きく遅れているだけではなく、本土の民放ドキュメンタリーのような積極性も欠いており、高江の問題をほとんど取り上げない、政府の立場を忖度する報道が多いという強い批判を浴びていた。
2015年6月23日の慰霊の日式典で参列者から安倍首相が「帰れ」など激しい罵声を浴びた場面で、NHKは中継放送のヤジ音声を消して放送したことが問題となったことがあった。海外メディアの多くは、ヤジがあったことをニュースとして報じ、音声を消したNHKを批判した。
 NHKは政治課題での市民のデモや抗議集会には、これまで冷淡な対応を見せるのが常であった。例えば2015年8月30日に、安保法案反対、立憲主義を守れと、国会周辺に12万人(主催者発表)が集まって、抗議行動が行われた。この日は日曜日であったため報道ステーションは翌日月曜日に12分間にわたって、市民の行動を特集報道した。これに対してNHKニュース7は当日2分間、翌日のニュースウォッチ9で30秒伝えたにとどまった。
 このような状況が続いていたことから見ると、今回の沖縄報道は大きな変化ということができるだろう。
 政府の見解を伝えると公言していた籾井会長が辞任したあとである。NHKが公正なジャーナリズム精神に立ち返り、市民の抗議活動、集会、デモ行進もきっちりと伝えてくれることを強く望みたい。
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「NHKTVの映像から」

2016.12.02   大賞に毎日新聞夕刊編集部の「夕刊・特集ワイド」
    2016年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の両氏ら)は12月1日 、2016年度の第22回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
 基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、清水浩之(映画祭コーディネーター)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏を審査員とする選考委員会によって行われ、候補作品69点(活字部門25点、映像部門41点、インターネット関係3点)の中から次の8点を選んだ。

◆基金賞(大賞)(1点)
 毎日新聞夕刊編集部の「夕刊『特集ワイド』における平和に関する一連の記事」
◆奨励賞(7点)
 ★ノンフィクション作家、大塚茂樹さんの「原爆にも部落差別にも負けなかった人びと」(かもがわ出版)
 ★原爆の図丸木美術館学芸員、岡村幸宣さんの「≪原爆の図≫全国巡回――占領下、100万人が観た!」(新宿書房)
 ★よしもと所属の夫婦漫才コンビ・DAYSJAPAN編集委員、おしどりマコ・ケンさんの原発問題での情報発信
 ★金澤敏子、向井嘉之、阿部不二子、瀬谷實さんの「米騒動とジャーナリズム」(梧桐書院)
 ★上丸洋一・朝日新聞記者の「新聞と憲法9条」(朝日新聞出版)
 ★瀬戸内海放送制作の「クワイ河に虹をかけた男」
 ★森永玲・長崎新聞編集局長の「反戦主義者なる事通告申上げます――消えた結核医 末永敏事――」(長崎新聞連載)

 選考委員会によると、今年度は、新聞社からの応募や推薦が少なかった。これについて、審査員の1人は「昨年は、戦後70年を機に戦後70年を総括する企画や、集団的自衛権問題、安保問題、憲法問題に取り組んだ新聞が多く、力作が目白押しだった。今年はその翌年とあって、全般的に低調。いわば“戦後70年疲れ”と いったところか」と述べた。そうした面があったものの、今年も、原爆、憲法、沖縄の基地問題、原発問題などを粘り強く追った力作が審査員の目を引いたという。 

 ■基金賞=大賞(1点)には、毎日新聞夕刊編集部の『夕刊「特集ワイド」における平和に関する一連の記事』が選ばれた。同紙の「夕刊 特集ワイド」は、夕刊二面の全面を使った大型紙面で、毎夕、さまざまな問題を取り上げている。2015年から16年にかけての紙面では、国民の関心が高い集団的自衛権、安保関連法、憲法、沖縄の基地問題、原発問題などを積極的に取り上げ、選考委では「ユニークな企画性が感じられ、現在のマスメディアの中では異彩を放つ意欲的な紙面」とされた。沖縄・高江の米軍ヘリパッド建設現場で機動隊員による「土人発言」問題が起きた時、これを直ちに紙面化した点も評価された。

 ■奨励賞には活字部門から6点、映像部門から1点、計7点が選ばれた。
 大塚茂樹さんの『原爆にも部落差別にも負けなかった人びと』は、広島市福島町を中心とした地域の戦後史を描いたノンフィクション。この地域はかつて被差別部落だったが、原爆で甚大な被害を受けた。いわば、この地域の人たちは二重の苦しみに見舞われたわけだが、本書はその苦しみがどんなに深いものであったかを克明に明らかにしており、選考委では「著者はこれをまとめるのに3年を費やし、インタビューした人は60人を超える。そうした取り組みに敬意を表したい」とされた。

 岡村幸宣さんの『≪原爆の図≫全国巡回――占領下、100万人が観た!』も原爆にからむノンフィクションである。丸木位里・俊夫妻が「原爆の図」を発表したのは米軍占領下の1950年。米軍が原爆に関する報道を禁止していたから、日本国民が原爆被害の実態を知るのは困難な時代だった。ところが、本書によれば、なんと「原爆の図」巡回展が全国各地で催され、大勢の入場者があったという。「日本国民の間で今なお反核意識が強いのは、こうしたことがあったからかも。これまで知られていなかった事実を丹念に掘り起こした努力は称賛に値する」と、全会一致で授賞が決まった。

 原発問題も引き続き重大な課題とあって、原発関係からもぜひと選ばれたのが、おしどりマコ・ケンさんの『原発問題での情報発信』だった。お二人は漫才コンビだが、市民の立場から、原発事故に関し本当に必要な情報が出てこない状況に疑問を抱き、東電や政府の記者会見に出席したり、福島にも通って原発事故に関する情報を執筆、動画、講演などで発し続けている。こうした活動が「市民運動の支えなっている」と評価された。

 金澤敏子、向井嘉之、阿部不二子、瀬谷實さん(いずれも細川嘉六ふるさと研究会のメンバー)の『米騒動とジャーナリズム』は、大正時代に富山県から全国に広がった米騒動の全容を新聞報道から検証した、4年がかりの労作。そこでは、初めは米騒動に無関心だった新聞が、政府から取材規制を受けながら次第に民衆の側に立ってゆく報道姿勢の変化が立証されている。選考委では「今のジャーナリズムも、今こそこうしたジャーナリズムの歴史に目を向けて原点に戻り、庶民の側に立った報道をしてほしいという著者たちの願いが伝わってくる」とされた。

 上丸洋一・朝日新聞記者の『新聞と憲法9条』は、憲法関係からもぜひ選ばねばという審査員の配慮から授賞作となった。審査員の1人は「憲法改定が現実味をおびてきた今、憲法の眼目ともいうべき9条の意義を歴史的に、しかも、分かりやすく解明した本書の今日的意義は大きい」と語った。

 「かつてこんな医者がいたとは」と審査員全員が驚きの声を上げたのが、森永玲・長崎新聞編集局長の『反戦主義者なる事通告申上げます――消えた結核医 末永敏事――』だった。戦前、米国に留学までしながら日中戦争下に軍部への協力を拒否したため投獄され、悲劇的な生涯を閉じた医師の空白部分に迫った連載記事(長崎新聞2016年6月~10月)である。選考委では、「単に1人の医師の悲劇を明らかにしただけでなく、医師の受難とからめて現行の特定秘密保護法や、政府が目論む共謀罪に警鐘を鳴らしていることを髙く評価したい」とされた。
 
 ■映像部門では、瀬戸内海放送の『クワイ河に虹をかけた男』(満田康弘監督)が奨励賞に選ばれた。
 太平洋戦争中、タイとビルマ(ミャンマー)を結ぶ「泰緬鉄道」の建設に陸軍通訳として関わった永瀬隆さんの、半世紀にわたる贖罪の足跡を追ったドキュメンタリーである。選考委は「妻の佳子さんと二人三脚でタイへの巡礼を続け、犠牲者の慰霊、連合国軍元捕虜たちとの和解、タイ人留学生の日本への受け入れなど、国がやろうとしない『戦後処理』を独力で行ってきた永瀬さんの執念に圧倒される。彼が謝罪した元捕虜たちの心の変化も捉えて、人は『戦争』にどう決着をつけるかを考えさせてくれる、深みのある作品になった」とした。
 
 ■そのほか、活字部門では、高知新聞取材班の『秋のしずく 敗戦70年のいま』、映像部門では、是枝裕和監督の『いしぶみ』(広島テレビ)、毎日放送の『テレビの中の橋下政治~“ことば”舞い散る8年~』、テレビ熊本『還らざる魂魄~シベリア・死者たちの声が聞こえる』、熊本県民テレビ『生きる伝える“水俣の子”の60年』、佐藤太監督の『太陽の蓋』、藤本幸久・影山あさ子監督の『圧殺の海第2章 辺野古』『高江 森が泣いている』が最終選考まで残った。
 荒井なみ子賞は該当作がなかった。

                              
 
 基金賞贈呈式は12月10日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費は3000円。
2016.08.12  安倍政権の支持率はなぜ高いのか(3)
          ―青木理『日本会議の正体』を読んで―

半澤健市 (元金融機関勤務)

 第三次安倍内閣が2016年8月4日に発足した。
防衛相稲田朋美を、メディアは「保守派」「タカ派」と呼ぶだけで、「日本会議」の中核人物とは紹介していない。都知事選で290万票を獲得し、増田寛也(自公)と鳥越俊太郎(民・共・社・生活)に圧勝した小池百合子も、日本会議国会議員懇談会の副会長であった。

《外紙から見るのは私だけではない》
 前回拙稿の「安倍ファシズム論」紹介に、読者から過剰反応との指摘を受けた。普段ならそうかもしれない。しかし、事態は大方の認識よりずっと深刻だと私は思う。

ジャーナリスト青木理(あおき・おさむ)の新著『日本会議の正体』(平凡社新書、2016年7月刊、以下「本書」)を読んだ。それで改めてそう思ったのである。青木も、敏感な海外メディアに対して、本邦メディアは鈍感だとして本書を説き起こしている。
青木の問題意識・要点・結論を抜粋しておく。

青木書の問題意識・要点・結論(本書からの抜萃)
■「日本会議」は、日本の最も強力な「ロビー団体」なのか。「極右」であり、「超国家主義団体」なのか。そして「安倍政権の中枢でますます影響力を強め」ていて、「内閣を牛耳」っているような組織なのか。/その存在の意味と今後を洞察するのが本書の目的である。(「プロローグ」、16頁)

■彼ら、彼女らは、現行憲法やそれに象徴される戦後体制を露骨に嫌悪し、これをなんとかしてでも突き崩したいと願い、宗教的出自から生じがちだった小異を捨てて大同につき、日本会議という政治集団に集結した。そうした実態を踏まえると、日本会議とは、表面的な”顔 ”としては右派系の著名文化人、財界人、学者らを押し立ててはいるものの、実態は「右派宗教団体」に近い政治集団と断ずるべきなのだろう。
そこに通奏低音のように流れているのは戦前体制――すなわち天皇中心の国家体制への回帰願望である。だとするなら日本会議の活動伸長は、かつてこの国を破滅に導いた復古体制のようなものを再来させかねないという危険性と同時に、「政教分離」といった近代民主主義社会の大原則を根本から侵す危険性まで孕んだ政治運動ともいえる。(「第三章」、154頁)

■私なりの結論を、一言でいえば、戦後日本民主主義体制を死滅に追い込みかねない悪性ウィルスのようなものではないかと思っている。/日本社会全体に亜種のウィルスや類似のウィルス、あるいは低質なウィルスが拡散し、蔓延し、ついには脳髄=政権までが悪性ウィルスに蝕まれてしまった。このままいけば、近代民主主義の原則すら死滅してしまいかねない。(「あとがき」、246頁)

《もう少し詳しく述べると》
 青木は問題意識と結論をどう繋げているのか。以下に半澤流で翻訳する。
■日本会議の沿革
1997年に設立された日本会議には二つの母体がある。
「日本を守る会」(1974年発足)と「日本を守る国民会議」(1981年発足)である。
「日本を守る会」は、宗教右派の組織であって、谷口雅春(成長の家)、伊達巽明(明治神宮)朝比奈宗源(円覚寺)らの初期中心人物の顔ぶれをみると、新興宗教系・神道系・仏教系それぞれの諸派の緩やかな連合である。
「日本を守る国民会議」は、学会、財界、宗教界などのインテリ右翼の結集であった。活躍した人名(故人を含む)は多々あるが、加瀬俊一、黛敏郎、清水幾太郎、小堀桂一郎、江藤淳、香山健一、村松剛、加瀬英明、瀬島龍三、塚本幸一、武見太郎、百地章、大原康男がいる。
■日本会議のイデオロギー
「守る会」は、谷口の国家的イデオロギーと明治神宮の経済的支持が大きな力となった。イデオロギーは、冷戦体制期の「反共」一本から、ポスト冷戦期用の再構築が行われた。日本会議が設立大会で決定した「基本運動方針」のうち最重要な四点は次の通りである。
①皇室の尊崇
②憲法の改正
③国防の充実
④愛国教育の推進
■運動の実績
日本会議成立前から右翼各派の活動があった。現在までの成果は次のように多様である。紀元節(「建国記念の日」)の復活、元号法制化、国家・国旗法、教育基本法の改正。これらは法律に結実したものである。
他にも多くの運動がある。『新編日本史』編纂、「新憲法の大綱」、天皇訪中反対、戦後50年決議反対、選択的夫婦別姓制度反対、外国人の地方参政権反対運動、首相の靖国参拝支持、「国立追悼施設」反対、女系天皇容認反対、などなどである。すべてが日本会議だけのものではないが、右翼が実に精力的に運動しているかがわかる。
■運動の特色
彼らはどのように組織され行動しているのか。
会員動員や地方自治体の議会決議採択など、中央からの徹底したオルグと下からの運動盛り上げ方式は、1960年代に新左翼運動からノウハウを取り入れた。長崎大学の学生運動を制圧した右翼セクトのリーダー椛島有三らに起源し、次第に全国化していった。範囲は学生から社会人に広がり「日本青年協議会」「日本協議会」ができる。

《政権中枢で「明治憲法」の復活を考えている》
 日本会議会員総数3万8千名、日本会議国会議員懇談会会員数280名、日本会議地方議員連盟加盟員1700名。全国各地の支部243。本書からはこれが日本会議の量的勢力と読み取れる。しかし彼らは多くの会員情報を秘匿している。

本書を読んで強い恐怖を感じた。政権中枢は、「日本会議」に占拠されているからである。この奇怪な集団に簒奪されているからである。有権者は、以上のような現実を知っているか。少しは知っていても、歴史的な文脈に位置づけることは、したことがあるか。我々はいつ彼らの主導するこの「体制」を承認したのか。

私は、20年前や30年前に、「日本会議」的なるものを、「無視し」「揶揄し」「馬鹿にし」ていた。サンケイ新聞と桜井よしこの住む「仮想空間」だと思っていた。しかし、我々はいま、本気で「日本会議」的なるものと、理論と実践の両面で、命を賭けて戦わねばならない情勢にあると思う。安倍政権の支持率は、上がることはあっても下がりそうもない。この国の左派とリベラルは「日本会議」に追い抜かれたのである。しかも、その自覚が薄いのである。(2016/08/07)

2016.03.23  日本にはジャーナリズムが存在するか
    ――八ヶ岳山麓から(177)――

阿部治平(もと高校教師)

さる3月3日、高市早苗総務相は放送法4条をたてに「放送局の電波停止の可能性もある」と発言した。「行政が何度要請してもまったく改善しない放送局に、なんの対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性がまったくないとは言えない」とか、テロの宣伝と見られれば停止対象だともいっている。
ニュース報道の公正性、ことのよしあしは政府が判断する、場合によってはテレビ局の存立基盤を奪うぞという、とんでもない発言である。発言対象は直接にはテレビ局だが、メディア全体に対する脅迫である。こんなものを放置していたら日本は報道統制国家になる。

ところがこれに対し、ほとんどのテレビ局は反発しなかった。数日後、ようやく青木理氏らテレビキャスターらが呼びかけ人となって高市発言を非難する記者会見をした。また池上彰氏などは「欧米なら内閣がつぶれる」といった趣旨の発言をした。
ほかにもこのような動きはあるだろうが、今に至るも全国規模には到っていない。なにしろ私の知るかぎり、テレビで「圧力とは戦う」と発言したのは、テレビ朝日「羽鳥モーニングショー」の玉川記者だけだ(ほかにもあったらぜひ教えてください)。
テレビが腰抜けなら、新聞やラジオ、週刊誌が高市総務相に辞任を迫るキャンペーンを打ちそうなものだがそうはなっていない。背景には大新聞社が系列のテレビ局を持っているという事情があるかもしれないが、それは「知る権利」の前にはいかほどの言い訳にもならない。報道機関が存在する理由は、権力の横暴を掣肘し国民の「知る権利」を保証するところにある。

「報道の自由」と「知る権利」を制限し、メディアから権力からの独立を奪えばどうなるか。記事内容が画一化する一方で、第一線で働く記者・編集者のモラルが低下するのである。
私は中国で四川汶川大地震・青海玉樹大地震などを経験したが、報道パターンはまるで同じだった。災害の実態よりも現場に出向いた党指導者の動向の方が大きく、記事の日時と地名を取りかえればいつでもどこでも間に合いそうだった。げんにテレビで女性アナウンサーが現地報告と称して架空の災害レポートをするという奇想天外の事態もあった。
「紅包(賄賂)」をもらって、たいこもち記事を書くものもいた。これが習慣になれば「紅包」がないときに悪口を書くのはあたりまえになる。事件報道でも冗長な記事があるのは、字数を多くしてボーナスを得ようという魂胆であろう。編集者もそれを承知で載せている。この傾向は地方党機関紙にいちじるしい。
もちろん中国にも公然と「報道の自由」を求める勇気ある人もいるし、ジャーナリスト魂を持った記者もいる。最近の一例をあげる。
1月7日、甘粛省武威市(シルクロードのオアシス都市)中心部で防火訓練が行われたが、周辺の建物に引火して本物の火災になった。当局者は記者らに「取材するな」と圧力をかけたが、蘭州晨報の張記者ら3人はこれを無視して現場に向かい逮捕された。9日に地元警察は逮捕理由を「買春容疑の現行犯」とし、約1週間後には「政府を恐喝した」に“変更”した、と報道された(産経2016.1.30)。

中国では、この2月習近平中国共産党総書記が新華社通信などメディアに「党の代弁者たれ」と訓示・指示したためか、16日に閉幕した全国人民代表大会の報道は、全人代代表の習近平政権賛美一色になった。こうした現象をとらえて、日本は中国とは比較にならないほど自由だ、比較する方がおかしいという人がいる。そして日本のメディアは中国の報道規制をしばしば嘲笑する。
何を笑っているのか。君が笑っているのは自分自身だ。
テレビ・ニュースをごらんなさい。どの局も同じ項目で同じような解説をしている。国際ニュースは極端なほどアメリカに偏っている。NHKテレビBSの「ワールド・ニュース」が典型だ。にもかかわらず、あなた方は世界中のできごとを報道していると思っている。そして日本国民はメディアによって世界中のニュースを知ることができると思っている。いずれも錯覚である。
南スーダンの治安や、ジブチの自衛隊の拠点はどうなっているか。前者は自衛隊のPKO派遣地であり、後者は海賊対策で設けたはずだが、いまや「国際緊急援助活動」の基地になっている。その実態がどのくらい報道されただろうか。

日本のメディアはこれという権力批判をほとんどしない。やってもかるい皮肉、虎の尾におずおずと触る程度だ。中国のように党に楯突いて記者や編集者がクビになることもない。だが権力批判の自主規制は、それとわかりにくいだけに悪質である。国民はまるでゆでガエルだ。
中国といい日本といい、なぜ権力者は「知る権利」「知らせる権利」を制限しようとするか。情報を独占して支配を維持するためである。権力批判の自主規制は権力者による情報独占への協力を意味する。それは国民の選択の権利を奪い、機会の著しい不平等を導く。
いま日本のメディアはジャーナリズム魂を失っている。そして朦朧状態のなか、中国的状況への道を歩んでいる。高市総務相批判が拡大しないのがそのあかしである。このままではやがてジャーナリズムの心肺停止、死亡が確認されるであろう。
2016.03.22  国谷裕子さん、23年間ご苦労さま。「クロ現」つぶしに抗議する
坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 NHKは、視聴者の信頼を集めてきた看板番組「クローズアップ現代」のキャスター国谷裕子さんを、3月17日を最後に降坂させた。番組そのものを「クローズアップ現代+」に変更してゴールデンアワーの午後7時半から午後10時に動かす。キャスターは女性アナ7人が交代で務めるという。
国谷キャスターが23年間にわたり独立したキャスターとして、かなり自由に発言し、権力者におもねることがなかったため、とくに自民党政権は反感を抱いてきた。しかし、歴代政権は看板番組「クロ現」を直接槍玉にあげて、公然と攻撃することまでは避けてきたように見えた。だが安倍政権は、まずNHK会長に籾井勝人氏を押し込んだ。同会長は恥をさんざん晒し、国会でも厳しく批判されながら、NHK内部の人事と番組に魔手を伸ばし、ついに国谷キャスターの「クロ現」をつぶしたのだ。後任の女性キャスターたちはNHKの職員であり、独立したパーソナリティの国谷さんと異なりコントロールがしやすい。番組制作現場とNHK職員全体、そして新キャスターたち自身の頑張り期待するが、視聴率の低下は避けられないだろう。これは国民の視聴料で運営されている公共放送局NHKにとって、大きな損失になる。
国谷さんは、国内だけでなく、米国はじめ国際的な要人、政治家、学者、芸術家、芸能人らに直接英語でインタビューをして、生放送してきた。決して臆することがない国際インタビューは見事だった。これができるTVキャスターは、日本では国谷さんだけだ。惜しい。国谷さんの「クロ現」をつぶした安倍政権と籾井会長は、日本の放送文化に大きな損害を与えた犯罪者だ。
この春、民放でもテレビ朝日の古舘キャスターをはじめ、優れたテレビ・キャスターが降坂した(降坂させられた!)。憲法改正(改悪)を「在任中に成し遂げたい」と公然と言い出した安倍首相のお気に召すまま、あるいは自らも進んで「放送法による放送局の電波停止の可能性もある」などの暴言を繰り返す高市総務相発言など、メディアに対する政権と自民党からの攻撃が露骨になってきた。この安倍首相の「在任中に」発言の世論調査は「評価する」38%、「評価しない」49%(朝日新聞世論調査)だった。自信をもって安倍政権のあくどい攻勢に総反撃しよう。

(参考資料:朝日新聞デジタル:WEBRONZA「国谷キャスター降坂で番組コントロールを狙う」冒頭部を引用。この記事をなぜ本紙に載せなかったのか。まさか自粛したのだとは思いたくないが)

NHK「クロ現」国谷キャスター降板と後任決定の一部始終
川本裕司 | 朝日新聞記者、WEBRONZA筆者 2016年2月13日 15時
23年間にわたりNHKの看板報道番組「クローズアップ現代」のキャスターを務めてきた国谷裕子さんが3月17日を最後に降板する。続投を強く希望した番組担当者の意向が認められず上層部が降板を決断した背景には、クロ現をコントロールしたいNHK経営層の固い意思がうかがえる。
クロ現は4月から「クローズアップ現代+」と番組名を一部変え、放送時刻も午後10時からと深くなる。後任のキャスターにはNHKの女性アナウンサー7人が就くと、2月2日に発表された。ただ、7人の顔ぶれが決まるまで、「ニュースウオッチ9」の大越健介・前キャスターが浮上したり、最終局面で有働由美子アナの名前が籾井勝人会長の意向を反映する形で消えるなど曲折があったという。
複数のNHK関係者によると、黄木紀之編成局長がクロ現を担当する大型企画開発センターの角英夫センター長、2人のクロ現編集責任者と昨年12月20日すぎに会った際、国谷さんの3月降板を通告した。「時間帯を変え内容も一新してもらいたいので、キャスターを変えたい」という説明だった。
センター側は「国谷さんは欠かせない。放送時間が変われば視聴者を失う恐れがあり、女性や知識層の支持が厚い国谷さんを維持したまま、番組枠を移動させるべきだ」と反論した。しかし、黄木編成局長は押し切った。過去に議論されたことがなかった国谷さんの交代が、あっけなく決まった。
国谷さんには角センター長から12月26日、「キャスター継続の提案がみとめられず、3月までの1年契約を更新できなくなった」と伝えられた。
国谷さんの降板にNHKが動きを見せたのは、昨年10月下旬にあった複数の役員らが参加した放送総局幹部による2016年度編成の会議だった。
編成局の原案では、月~木曜の午後7時30分からのクロ現を、午後10時からに移すとともに週4回を週3回に縮小することになっていた。しかし、記者が出演する貴重な機会でもあるクロ現の回数減に報道局が抵抗し、週4回を維持したまま放送時間を遅らせることが固まった。
報道番組キャスターや娯楽番組司会者については、放送総局長の板野裕爾専務理事が委員長、黄木編成局長が座長をそれぞれつとめ部局長が委員となっているキャスター委員会が決めることになっている。番組担当者からの希望は11月下旬に示され、クロ現の場合は「国谷キャスター続投」だった。現場の意向を知ったうえでの降板決定は、NHK上層部の決断であることを物語っている。
現場に対しても「番組の一新」という抽象的な説明しかなかった降板の理由について、あるNHK関係者は「経営陣は番組をグリップし、クロ現をコントロールしやすくするため、番組の顔である国谷さんを交代させたのだろう」と指摘する。
2016.01.13 海岸で波に洗われている子供の遺体の写真が、難民への国際世論と政策を大きく変えた
― シリア紛争解決の転機に⑨ ―

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

1月2日のBBC電子版は、“アラン・クルディの伯母さんは「私の死んだ甥の写真は何百人もの命を救った」と語った”の見出しで、SNS(ツイッターやフェースブックなどのネット・メディア)に掲載された写真の巨大な影響について伝えた。昨年9月3日、SNSに掲載された、トルコの海岸の波打ち際に打ち上げられた男の子の遺体の写真に、全世界の何百万人の人々が衝撃と悲しい共感で反応した。英語版では150万人が“Refugees Welcom”(難民を歓迎する)のハッシュタグ(挿入言葉)に同調した(見た人はその何十倍あるいはそれ以上だろう。英国では国民の80%とBBCは推定)その衝撃は、ドイツ、英国をはじめ欧州諸国やカナダの世論に大きく影響、増え続けるシリア難民受け入れに反対する右派勢力の運動を押し返し、ドイツのメルケル首相をはじめ、各国政府の難民受け入れ政策を力付けた。
 日本では今年、憲法改悪を狙う安倍政権が、参院選挙で改憲勢力による3分の2を確保すべく、大規模なキャンペーンをしつつある。平和憲法を守り、政権が強行採決・成立させた安保諸法(戦争法制)廃止を目指す私たちは、安倍政権を圧倒する憲法擁護のキャンペーンを大いに展開しなければならない。SNSでも安倍政権と護憲勢力は激しく影響力を争うことになる。とくに今回の国政選挙から投票に参加する18歳以上の若者をはじめ若い有権者たちへの影響力は、テレビや新聞よりも電子メディア大きいだろう。私の世代はあまり役立ちそうもないが、護憲勢力はそのための態勢づくりを進めたい。この写真については、さまざまなメディアで既に伝えられているが、4か月後のBBC電子版の報道を見て、SNSの巨大な影響力を改めて思った。

(写真説明)
1. 昨年9月3日早朝、トルコ東岸の浜辺に打ち寄せられ、うつぶせになって波に洗われるアラン・クルディ君(3歳)の遺体。トルコのドガン通信社のカメラマン、ニリュファー・デミールが撮影。同日中にSNSで全世界に流された。
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2. この写真に反応してSNSに投稿された画。
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3. 同上
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4. 同上
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「アラブ人として、わたしはとても恥ずかしい。人間よ、安らかにお眠りください」と記されている。動物たちが人間の子供の死を悼んでいるのに、人間はメモを書いているだけ。人間愛、人道主義は無いのかと、痛烈に皮肉っている」

アラン君(3歳)の遺体がトルコの海岸に流れ着いたのは、昨年9月2日。アラン君の一家4人は、シリア北部国境の町コバネの少数民族クルド人住民。占領しようとする「イスラム国(IS)」と地元クルド人民兵との激戦が長く続いている故郷からトルコ領に脱出した。トルコ地中海岸から、業者の手配するゴムボートでギリシャ領の島を目指した。しかし、荒天でボートが転覆、乗っていたシリア難民のうち12人の遺体がトルコの海岸に打ち寄せられた。アラン君の父親のアブドラさんは助かったが、母親と兄は死亡した。