2019.09.18 朝日社説「反感をあおる風潮を憂う」を支持、でも、腰が引けていないか

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

9月16日の朝日社説「嫌韓とメディア 反感あおる風潮を憂う」に同感し、支持する。でも、「風潮を憂う」の見出しは、なんか引退したジャーナリストが憂っているようで、戦う姿勢に欠けてはいないか?
同論説が取り上げている文春10月号の「憤激と裏切りの朝鮮半島/日韓断絶」、週刊ポスト「厄介な隣人なんて要らない」、週刊ポスト「怒りを抑えられない”韓国人という病理“」は、まるで右翼のフェイク宣伝よりもひどい、嫌韓を煽って大売り出しをする、悪質商法。こんなのに1円でも出さないように、駅の売店と本屋で、ページをめくって読んだ。
それらに対し朝日社説は、「最初から相手国への非難を意図するものでは、建設的な議論につながらない。」「韓国人というくくりで“病理”を論じるのは民族的差別というべきだ。」「もし出版物の販売促進や視聴率狙いで留飲を下げる論旨に走るのならば、『公器』としての矜持が疑われる。」と諭している。そのとおりだが、あまりにも穏やかな“諭し”ではないか。言葉を換えれば、戦う意思表示が弱くはないか。
現時点で、安倍政権と、反韓のサンケイ系メディア、一部週刊誌、さらにひどいフェイク情報をあの手この手で流す一部ネット・メディアの反韓国キャンペーンに、国民のかなりの部分が、影響されている。戦後の日韓関係のなかで、最も険悪な状況だ。一方,朝日新聞をはじめ毎日も東京新聞はじめ主要地方紙も、反韓、嫌韓キャンペーンに反感、危機感を持っているはずだ。協議、協調して反韓、嫌韓と戦うべき時ではないか。
16日の朝日社説の下段は、分かりやすい。そのまま、紹介したいー
「もし出版物の販売促進や視聴率狙いで留飲を下げる論旨に走るのならば、「公器」としての矜持が疑われる。
政治の責任もむろん重い。両政府とも相手を責めるのみで、問題があっても善隣関係をめざす原則は語らない。国内世論の歓心をかいたい政権とメディアの追随が、重奏音となって世論を駆り立てるのは危うい。
戦前戦中、朝日新聞はじめ各言論機関が国策に沿い、米英などへの敵対心と中国・朝鮮などへの蔑視を国民に植え付けた。その過ちを繰り返さないためにも、政権との距離感を保ち、冷静な外交論議を促す役割がメディアに求められている。
自国であれ他国であれ、政治や社会のうごきについて批判すべき点を批判するのは当然だ、ただ論議の際には、あらゆる差別を排し、健全な対外関係を築く視座をゆるがせてはなるまい」
(了)
2019.07.06 私がNHKを辞めたワケ
      韓国通信NO606
       
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)
 
 昨年8月、30年以上のキャリアを持つNHKのベテラン放送記者が退職した。相澤冬樹氏(56)である。彼の活動をよく知る人たちから退職を惜しむ声があがった。
 退職後に発表した著書『安倍官邸VS NHK』を読み、「解雇」ではないが、NHKによって実質退職に追い込まれた記者の無念を知った。
 
 彼は森友学園事件とNHK大阪支局司法担当キャップ時代から関わった。国有地が8億円以上も値引きされ、タダ同然に森友学園に売却された事件。名誉校長の昭恵首相夫人の疑惑をいち早く報道し、他社の報道記者とともに、真相解明にしのぎをけずった。
 この本を読むまで、NHKが独自調査をして、スクープ報道を追っているとは知らなかった。新聞報道の後追い、警察発表をそのまま報道するのが私のNHKニュースのイメージだった。
 国有財産が政治の力で不正に売却されたなら、明らかな犯罪。彼はそれを立証するために奮闘し、巨悪は「官邸」と「大阪府」と確信するに至った。しかし彼の取材に立ちはだかったのは、官邸を忖度する官僚たちと検察だった。籠池理事長への独自取材と自殺した近畿財務局の職員家族への取材は本書の読ませどころだ。

 権力の壁に挑む姿に久しぶりの「ジャーナリスト魂」を見た思いもするが、特筆すべきは真相解明の足を引っ張ったのはNHKの上層部だったという事実だ。彼の記事は書き替えられ、握りつぶされた。報道局長からの横やり、挙句は取材を断念させるために人事異動の脅しまで受ける。果たして結果はその通りになった。有能な部下、同僚、上司の姿も垣間見えるが、詰まるところ、官邸に対する「忖度」が相澤記者を退職に追い込んだ。取材記者としての生命が断たれた。

<これが公共放送か>
 著書を読み終わって、意外性はなかった。NHKが政権の「侍女」になって久しい。「ウソ」「偏向」「隠蔽」報道の例に枚挙のいとまがない。「国営放送」、「アベチャンネル」という非難が巷に溢れるなかで、あらためてそれが実証されたことになる。経験にもとづく勇気ある内部告発だが、NHKの腐敗はこれに始まったことではない。
 2001年1月に放送された「ETV2001」の番組改変事件を記憶する人は多い。従軍慰安婦の存在を認めない中川昭一議員、安倍晋三官房副長官(当時)がNHK上層部に談じ込み、放送内容を変えさせた事件。言論の自由に対する明らかな侵害は、番組を担当した長井暁、永田浩三氏らの証言で明らかになった。しかし事件は誰も責任を取ることなく、証言した二人が社外に去るという結末に終わった。私は長井暁さんが記者会見の席で見せた涙を今でも忘れられない。保身に走らず、NHKと自分の尊厳を守った非力だが誠実そうな姿に感動した。
 あの事件以来、NHKは権力者の「薬籠中 (やくろうちゅう)のもの」になった。

 今日のNHKの無残な姿は2014年にNHK会長に就任した籾井勝人氏の「言いたい放題」からも見て取れる。籾井の就任は日銀総裁、内閣法制局長官人事と同じ露骨な「安倍人事」だった。
 政府が「右」と言っているのに「左」と言うわけにはいかない発言に代表される政府の「下請け機関宣言」は公共放送NHKを葬り去った。従軍慰安婦問題は「日韓条約で解決ずみ」と政府見解と口を合わせ、国家機密法は「通ったものは仕方ない。あまりカッカする必要はない」と、官房長官さえ口に出来ない政府の本音を語った。このような会長をトップに据えたNHKは公正中立とは無縁な存在となった。だから相澤氏が官邸への忖度を指摘しても今さら驚かなかった。
 「ETV問題」にしても、「籾井発言」にしても、NHKは組織としての反省はしていない。壊された公共放送の体質は現在も温存されたままだ。

<韓国の放送民主化運動から学ぶ>
 韓国のドキュメンタリー映画 『共犯者たち』(2017)を思いだす。監督はMBC放送を解雇された崔 承浩(チェ・スンホ)氏。2008年に大統領に就任した李明博が真っ先に手がけたのは社会的影響力の強いKBSとMBCのテレビ局を政権の手中に収めることだった。大統領の息のかかった社長に交代、露骨な報道への干渉を強めた。社員たちは直ちに反撃を開始。両テレビ局の社員たちは放送の「公平」「中立」を求めて10年間にわたって闘った。解雇・懲戒者は300人を超えた。その激しさと厳しさが理解されよう。
 「主犯」は李明博元大統領と朴槿恵前大統領。「共犯者たち」は両大統領の手足となってテレビを権力に売り飛ばした経営者たちだ。政権に忖度して事実を伝えない公共放送に対する人々の怒りがローソクデモの中で爆発した。大統領と共に共犯者たちも崩壊、追放された。
韓国通信606写真
                   <写真/公正放送を求めて立ち上がったKBS社員>

 韓国のローソクデモを過小評価したがる人たちは言うかもしれない。韓国の大統領も大統領なら、国民も国民だと、韓国政治の未熟さと国民の「過激」さを笑う。
 韓国の後進性を語るなら、放送内容に安倍、中川らが「イチャモン」を付けて改ざんさせたこと、政府が右と言えば右と云って憚らない首相差し回しの会長、森友学園のスクープに怒り、報復人事を行なったNHKは、「韓国ほどではない」とでも言うのだろうか。

 言論の自由を守るために韓国では労働組合が組織を挙げて市民とともに闘った。かつて、NHKの労働組合「日放労」は社会的存在感のある「たたかう」組合だった。今ではNHKに労働組合があることを知らない人も多い。政府の走狗となった経営への批判はおろか、ジャーナリストとして苦悩する社員を守ろうともしない労使協調の企業内組合。その組合が先進的で、報道の「中立」「公正」を求めてストライキをした韓国のKBSとMBCの組合が後進的で、過激とは考えられない。政権にハイジャックされたNHKに怒らない日本人が「立派」とは思えない。

 ドキュメンタリー「共犯者たち」を見たNHKの職員も多いはず。政府に頭があがらない情けないNHKをどう考えるのか彼らに聞いてみたい。韓国の放送労働者たちは「共犯者」たちを追いだしたが、NHKの「共犯者」たちは長期政権とともに栄光の座に居すわり続けている。それを容認するなら職員も共犯者ではないのか。
 受信料支払いは国民の義務と言わんばかりの最高裁判決にあぐらをかいて、NHKはますます傲慢になっていくように見える。放送受信料をただ黙々と払い続けるなら、私たちも共犯者に違いない。公共放送を私物化するNHKに損害賠償を求めたいくらいだ。
2018.11.30 大賞に琉球新報の「沖縄知事選ファクトチェック報道」

        2018年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞
                  
岩垂 弘 (ジャーナリスト)
 
 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の両氏ら)は11月29日 、2018年度の第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
 基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、島田恵(ドキュメンタリー監督家)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏を審査委員とする選考委員会によって行われ、候補作品92点(活字部門32点、映像部門90点)から次の8点を選んだ。

◆基金賞=大賞(1点)
 琉球新報編集局政治部の「沖縄県知事選に関する報道のファクトチェック報道」

◆奨励賞(5点)
 ★朝日新聞記者・青木美希さんの「地図から消される街」(講談社現代新書)
 ★アジア記者クラブの一連の活動
 ★「沖縄スパイ戦史」製作委員会製作のドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」(三上
   智恵・大矢英代監督作品)
 ★毎日新聞記者・栗原俊雄氏の戦争責任・戦後補償に関する一連の著作
 ★中村由一著、渡辺考・聞き書き、宮尾和孝・絵「ゲンバクとよばれた少年」(講談社)

◆荒井なみ子賞(1点)
 水野スウさん(石川県津幡町)の「わたしとあなたの・けんぽ うBOOK」「たいわ・けんぽ
 うBOOK+」(いずれも自費出版)

◆特別賞・審査委員賞(1点)
 疾走ブロダクション製作のドキュメンタリー映画「ニッポン国VS泉南石綿村」(原一男
 監督作品)

 選考委によると、今年度も改憲、安保、沖縄の基地、核兵器、ヒロシマ・ナガサキ、原発などをめぐる問題を追及した作品が基金賞候補にノミネートされたが、内容の点では例年に比べ全般的に低調だった。が、そうした面があったものの、今年もメデイアのあり方、福島の原発事故、戦後補償問題、公害問題などに迫った力作があったという。

 基金賞=大賞に選ばれた琉球新報編集局政治部の『沖縄県知事選に関する報道のファクトチェック報道』は、新聞の選挙報道に新しい道を開いたものと評価された。
 2013年の参院選で「ネット選挙」が解禁されて以来、ネット上にウソの情報を流し、ライバル候補を攻撃する現象がみられるようになった。とくに沖縄で行われる選挙戦はフェイクニュースの標的となることが多く、今年9月の沖縄県知事選では、多くのデマが飛び交った。これに対し、琉球新報政治部は、ネット情報の真偽を確認し発信するというファクトチェックに取り組んだ。
 選考委では「日本の新聞の選挙報道としては本格的なファクトチェック報道であり、大いに評価したい」「これから先、メデイアではますますフェイクニュースが多くなると予想されるところから、今回の琉球新報政治部のファクトチェック報道への取り組みは大変意義深い試み」とされた。

 奨励賞には活字部門から4点、映像部門から1点、計5点が選ばれた。
 活字部門でまず選ばれた、朝日新聞記者・青木美希さんの『地図から消される街』は、東京電力福島第1原発の事故から7年後の被災地の現状を紹介したルポルタージュある。インフラ面では再建が進んでいるものの、政府の政策が被災地の歴史、生活、コミュニティを崩壊、分断させ、困難に陥らせている実態が、リアルに、かつ克明に描かれていて、選考委は「原発事故被災地に関する報道が減り、原発災害は忘れ去られつつある。そうしたメデイア状況の中では、貴重な現地報告である」と高く評価した。
 
 次いで、アジア記者クラブの一連の活動に奨励賞が贈られた。同クラブは、記者クラブ制度の閉鎖性に異議を唱え、開かれた市民のためのジャーナリズムを創出しようという狙いで1992年に設立されたフリーランサーや市民の集まりで、これまで、定例会を開いたり、「アジア記者クラブ通信」といった会報を発行するなどの活動を続けてきた。選考委では、定例会の講師に一般のメデイアにはなかなか登場させてもらえない人を招いたり、「通信」に既存のマスメデイアが報道しない内外のニュースや、発展途上国に関するニュースを積極的に掲載している点が評価された。
 
 毎日新聞記者・栗原俊雄氏の『戦争責任・戦後補償に関する一連の著作』も審査委員の関心を集めた。日本政府が始めた太平洋戦争ではおびただしい日本人が被害を受けたが、戦後、元軍人・軍属は手厚い補償を受けたものの、東京・大阪・名古屋大空襲などで被害を被った民間人への補償は今なお省みられない。シベリア抑留者への補償も十分でなかった。栗原氏はこれを「不平等な戦後補償」として、数十年にわたり、新聞紙面や著作で政府を追及してきた。選考委では「徹底的な現地取材を踏まえた長年にわたるねばり強い取り組みに敬服する」との賛辞が寄せられた。

 中村由一著、渡辺考・聞き書き、宮尾和孝・絵の『ゲンバクとよばれた少年』は、長崎で被爆した中村氏の語りをNHKディレクターの渡辺氏が、子ども向けに書籍化したものである。中村氏は被差別部落に生まれたが、2歳の時に被爆、両足に大やけどを負う。兄、弟は死亡。家が焼失したので母とともに祖母の家に身を寄せるが、小学校では、教師、級友から「ハゲ」「ゲンバク」などと呼ばれ、いじめられ、差別される。本書はそうした体験を語ったもの。選考委では「被差別部落民ゆえの差別と被爆による差別。二重の差別に心が痛む」「被爆者の高齢化により、被爆体験をどうやって若い世代に伝えてゆくかが焦眉の課題となっている折から、子ども向けの本で被爆体験を取り上げたのは注目すべきタイムリーな試み」との感想が述べられた。

 映像部門から奨励賞に選ばれた、「沖縄スパイ戦史」製作委員会製作の『沖縄スパイ戦史』(三上智恵・大矢英代監督作品)は、戦後70年以上にわたって覆い隠されてきた、日本の特務機関「陸軍中野学校」出身者たちが、軍の命令で沖縄戦でおこなった事実を明らかにしたドキュメンタリー映画。彼らは、少年たちを米軍向けのゲリラ部隊に編成したり、波照間島島民を西表島へ強制移住させ、移住島民の多くをマラリアで病死させた。映像関係の審査委員は「特定秘密保護法が制定されたり、南西諸島に自衛隊が増強されたり、ミサイルが配備されつつある今、この映画の持つ“今日性”は高く評価されていい」と評した。

 荒井なみ子賞は、元生協運動家・荒井なみ子さん(故人)からの寄金で創設された特別賞で、主に女性ライターに贈られる。今年は3年ぶり、8回目の授賞。
 今回は石川県津幡町在住の水野スウさんの『わたしとあなたの・けんぽうBOOK』『たいわ・けんぽうBOOK+』(いずれも自費出版)に贈られる。どちらも、日本国憲法を守り、生かすために書かれた手作りの冊子で、憲法を優しい言葉で解説している。そればかりでない。「紅茶の時間」と題する、憲法について話し合う場を自宅に設けているほか、頼まれればどこへでも出かけて行って自ら憲法について講演する「出前紅茶」を続ける。選考委では「安倍政権は改憲にしゃかりき。それに引き換え、国民の側の憲法論議はそう熱心ではない。だとしたら、今こそ、水野さんのような活動が効果的ではないか」とされた。

 審査委員賞を贈るこになった、疾走ブロダクション製作のドキュメンタリー映画『ニッポン国VS泉南石綿村』(原一男監督作品)は、2部構成・約4時間の大作。
 大阪泉南地域は明治末から百年もの間、石綿紡織工場が密集してきた地域で「石綿村」と呼ばれた。石綿の粉じんを吸引すると肺がんを発症するとされ、そうした健康被害を被った労働者とその家族が、国を相手に国家賠償請求訴訟を起こす。その8年間にわたる闘いの日々をカメラで追った。審査委員の1人は「訴訟活動が生き生きと描かれ、本年度、洋画を含めたドキュメンタリー映画のナンバーワンに推される作品である」と高く評価した。

 そのほか、活字部門では、熊本新聞社の『熊本地震 あの時何が』が最終選考まで残った。

 基金賞贈呈式は12月8日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費3000円。

2018.09.29 樹木希林の「戦争ドキュメンタリー」
  ―ユーモラスな女優の胸底にあるもの―

半澤健市(元金融機関勤務)

《『戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』》
 2015年秋に「東海テレビ」(東海テレビ放送株式会社・名古屋本社)は、『戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』という番組を放映した。1本約90分、6本の大作である。各回、全国地方局が放映したドキュメンタリーから希林とスタッフが選択した1本の全編を放映し、番組テーマに関わる場所を希林が訪れ、毎回異なるゲストと対談する。この三要素が一体となった重厚な番組である。
『戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』は、6本に共通するタイトルであり、個々の番組には選択された元の「ドキュメンタリー」名がついている。各番組のタイトル、そのテーマ、希林が訪ねた場所、対談ゲストを挙げると次の通りである。

1.『父の国 母の国』・満蒙開拓農民・満蒙開拓記念館・笑福亭鶴瓶(タレント)
2.『母の肖像』・長崎被爆者・長崎原爆資料館・箭内道彦(東京芸大准教授)
3.『村と戦争』・農村と戦争・靖国神社・吉岡忍(ジャーナリスト)
4.『明日は自由主義者が一人この世から去って行きます』・航空特攻・知覧特攻記念館・
   青木理(ジャーナリスト)
5.『いくさのかけら』・学徒出陣・無言館・岡野弘彦(歌人)
6.『むかし むかし この島で』・沖縄地上戦・平和の礎・鈴木敏夫(映画プロデューサー)

《私は偶然に見たのであるが》 
 私は、樹木希林(きき・きりん、1943~2018)をよく知らなかった。変わった芸能人程度の認識だった。今夏、私は「日本映画専門チャンネル」で上記のうち、『村と戦争』(1995年制作、戦後50年記念)と『いくさのかけら』(2005年制作、戦後60年記念)をみる機会があった。
岐阜県加茂郡東白川村が舞台である。戦争が村にどのように押し寄せたのか。909人が出征し203人が戦死したこの農村で、戦後50年も経ってから戦争遺品を集めた「平和記念館」がなぜ、どのように建設されたか。そのなかで出征家族にどんな葛藤があったのか。真珠湾雷撃の戦果を伝える手紙が虚偽と分かった遺族の懊悩はどうだったのか。
ある日記がある。「お母さん。お母さん。お母さんのおとなしい息子だった僕は人を殺し火を放つおそろしい戦場の兵士となりました」、「妹よ。戦争をお前に語りたくない」。1937年に日中戦争で戦死した青年はこう書いた。このように庶民と戦争との沢山の関わりが痛切に浮かび上がる。

《歌人岡野弘彦は今をどう見ているのか》
 『いくさのかけら』では、2013年に行われた歌人岡野弘彦(おかの・ひろひこ、1924~)と希林の会話が意味深い。二人は旧知であった。
1943年、國學院大での学徒出陣式で学長、配属将校は「天皇のために死んでこい」と訓示をした。そのあと教授折口信夫(おりくち・しのぶ、1887~1953)が立った。「國學院千人の学徒の一人でも帰って来て欲しい。そうすれば国学は滅びない」と述べた。そして「手の本をすててたたかふ身にしみて恋しかるらし学問の道」と詠んだ。そのとき講堂には、うめきのような声が起こったという。岡野は、1945年の再評価、70年間の平和の意味、地球温暖などの人類的な危機、性急な改憲論への警戒感を述べている。

希林は長野県上田の無言館を訪れる。戦没画学生の遺品700点の展示館である。希林は展示画をみて回り、言葉にならぬ嘆息をもらし、裸婦像を観て「ずいぶん大胆に描かれている」という。展示絵画を「見つめることしかできない」「残念を胸に抱えて死んでいくのかなあ」「見ておいてよかった」と呟いてまわる。生涯最後の作品になると思って描いた画学生の心情がテレビ画面からも訴えてくる。

《ジャーナリストと靖国・天皇制を語る》
 希林は靖国神社に今まで時々参拝してきた。今回(2015年)の取材で、遊就館も含めて、神社側から詳しい説明を受けた。相撲場、鎮霊社、神池庭園、喫煙所などの存在に素直に驚いている。
兜町の日本ペンクラブを訪ねて吉岡忍と対話する。靖国神社の存在理由や、天皇制と靖国・鎮魂の関係を話し合う。二人は靖国の存在を肯定する。今のような不定形な存在こそが自然なあり方だと、逆説的に肯定理由を述べる。多様性を認めぬ社会風潮がひたひたと押し寄せていると語り合う。『村と戦争』の兵隊検査で「せめて乙種合格を」と望んだ青年は合格して「これで近所付き合いができる」と言った。その言葉に吉岡は強く反応する。こういう「空気」が本当に「恐ろしい」という。

希林の関心はどこに向かってきたのか。
私が2本のドキュメンタリーから読み取ったのは次の三つである。
一つ。樹木希林は、家族から国家までの様々な共同体の在りように関心をもつ。
   特に国家の行う戦争について。
二つ。樹木希林は、人々のナショナリズムの心情に関心をもつ。ナショナリズムは戦後左翼
   が敬遠した視点であった。
三つ。樹木希林は、日本社会の同調圧力に関心をもつ。彼女は、最近社会の雰囲気が窮屈な
   状況へ近づいているという意見に同意している。
総じて彼女は、考え方の多様性と他者への寛容が大切だと考えている。

《歴史に向き合った女優を伝えよ》
 それを日常語でユーモラスに語った。本心は「韜晦」だったと思う。何がそういう希林を生んだのかは分からない。しなやかな感受性と鋭敏な時代感覚をもつ俳優を失ったのは損失である。どこの局でもいい。『戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』を放映してもらいたい。(2018/09/26)
2018.09.25 韓国民が高く評価する文大統領の北訪問
  ―不信・疑惑に偏った朝日新聞の報道

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

今回の文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の北朝鮮訪問、南北首脳会談が成功に終わったことを心からお祝いしたい。
韓国の多数の国民も喜び、支持している。韓国の有力世論調査会社リアルメーターが21日に発表した世論調査によると、18~21日に開催された文大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の首脳会談について、肯定的な評価が71.6%、否定的な評価が22.1%だった。
また、有力調査会社のギャラップが同日発表した18~20日に実施の世論調査(対象1001人)によると、文大統領の支持率61%、不支持率30%で直前に行われた調査に比べ支持率が10ポイント上昇、不支持率は9ポイント下落した。今回の調査で文大統領を支持する最も大きな理由は「北朝鮮との関係改善」26%、「南北首脳会談」14%、「対北朝鮮・安全保障政策」12%、「外交」8%、「最善を尽くしている、頑張っている」が5%だった。
しかし日本の主要メディアは、「非核化前進と言えず」「「文氏のすり寄り懸念 韓国世論 経済協力に抵抗感」「「対北包囲網」ほころび」という朝日新聞(「和解の機運を広げたい」を見出しにした社説は別として)をはじめ、首脳会談とその共同声明、軍事分野合意書など発表文書に疑義をはさみ、文大統領が宿願だった白頭山訪問にまで嫌味をつける報道ぶりだった。たぶん記事の量ではもっとも多かった朝日新聞の記事見出しを、以下に記録しよう、紙面は朝刊13版と夕刊。
(9月18日)
▼文大統領平壌を初訪問―南北会談、非核化など議題
(9月19日)
▼正恩氏に新たな決断促すー南北首脳2人だけで会談
▼非核化案の提示 説得かー文氏、正恩氏と会談
▼南北首脳 融和ムードー夕食会・公演 互いに「歓迎」「友情」
(9月20日)
▼寧辺核施設廃棄の用意
 南北合意 米の相応措置条件
▼解説 非核化前進と言えず
▼時時刻々 核の新提案 米の出方探るー北朝鮮、交渉再開狙いか 核施設申告なし、米は不信感
▼米軍の脅威削減・外貨獲得-南北合意 北朝鮮の意向反映
▼融和先行に日本懸念
▼もてなす北朝鮮 韓国抱きこむ策略(国際面1ページ特集)写真4枚
▼平常共同宣言の要旨
▼南北首脳 共同会見の要旨
▼南北軍事分野合意書の要旨
▼文氏のすり寄り懸念―韓国世論 経済協力に抵抗感
 ▼「対北包囲網」ほころびー南北合意 中ロ「歓迎」鮮明
 ▼考論 慶応大学准教授 磯崎敦仁氏 「非核化へ前進評価できる」
     元韓国統一次官 金千植氏 「根本的な解決可能か疑問」
 ▼社説 南北首脳会談 和解の機運を広げたい
 (9月21日)
 ▼文大統領、白頭山登山―金正恩氏同行―体制宣伝の「聖地」
(この見出しは自宅に配達された13版。ところが図書館に配達された同じ13版の朝日新聞の見出しは「南北首脳 白頭山登る 観光開発狙い正恩氏が誘う」に変わっていた。印刷のわずかな時間差の間に、えげつないサブ見出しを取り換えたのだろうか)
 両首脳は夫人とともに白頭山に登山した。4人の写真を各紙、テレビとも報道した。朝日の紙面は写真、地図付き4段で、次のように締めくくっていた。3日間の報道では、もっとも文大統領に暖かい記事だったー「文氏は19日夜、平壌で正恩氏とともにマスゲームを鑑賞し、会場を埋めた北朝鮮市民ら約15万人の前で演説した。文氏は「白頭からかハッラ(済州島の山)までの美しいわれわれの山河を、永久に核兵器と核の脅威のない平和の地にして子孫に譲り渡すことを(正恩氏と)確約した」と述べて拍手を受けた。民族心を刺激し、非核化の重要性を市民に訴えた」

断っておきたいが、わたしは日本の新聞で最も朝日新聞を信頼し、同紙以外には定期購読したことがない読者だ。だが、朝鮮半島報道だけは、北朝鮮嫌い、不信感が目立ち、信用できなかった。朝鮮報道事情に詳しいジャーナリストたちに聞くと、たいてい「朝日はねー」と言葉を濁したり、渋い顔をする。そして彼らの返事に共通しているのは、対北朝鮮政策と情報工作を担当する韓国の統一省や情報機関に歴代朝日特派員が有力な情報源を持ち、引継ぎ、北朝鮮情報に強くなるが、それとともに反北朝鮮に偏った報道をするようになるーというのだ。
このことは、朝鮮半島担当のジャーナリストたちは誰でも知っていながら、口を閉ざしているようだが、朝鮮半島情勢の大きな変化の中で、朝日新聞に十分信頼出来る報道を願って、書かせてもらった。
  白頭山
 白頭山を訪問し、カルデラ湖「天池」で手を上げる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長
 (中央左)と韓国の文在寅大統領(同右)。両側は同行した双方の夫人=20日(平壌
 写真共同取材団)
2018.09.15 ドイツの反人種差別大コンサートを報じたBBCと報じなかった朝日新聞
坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

主に中東から必死に逃れてきた移民の受け入れをめぐり、国内の対立が深刻化しているドイツや東欧、イタリア。ドイツでは人道・人権主義のメルケル政権と多数の市民が移民たちを寛大に受け入れたのに対して、極右勢力の過激な反移民デモや暴力が続発している。移民問題について人道・人権主義の立場からの報道が根強い現場欧州にくらべ、日本での欧州報道では、反移民の動きが強い懸念をもって報道されてはいるが、多数の市民たちの同情、移民受け入れの努力、人道主義、旧ナチス・極右勢力復活と戦う行動がごく控えめにしか伝えられていないのではないかと思う。
 移民をめぐる対立が深まるドイツ東部ケムニッツでの大規模な反人種差別のコンサートの報道を、英公共放送BBCの電子版は世界に向けて熱く報道したが、朝日新聞は全く報道していない。(他の日本の新聞・テレビをチェックしてはいない)

 BBC電子版は9月3日夜、ドイツ東部のケムニッツで開催された「人種差別に反対する」コンサートに6万5千人が参加したと、トップ・ニュースで次のように世界に伝えたー
“”ドイツ東部のケムニッツで開催された「人種差別に反対するコンサート」におよそ6万5千人が参加しました。
同市では先月、35歳のドイツ人男性が刺されて重傷を負い、二人の移民が容疑者とされて以来、極右勢力の集会とデモが行われてきました。
パンクとヒップホップのバンドは、3日夜、“私たち以上に多数の人がいる”のスローガンを掲げてコンサートを開きました。それは、極右が掲げたスローガン“我々が国民だ”に対する
答えでした。
多くの人々が「ナチス・アウト(ナチスは出ていけ)」と叫びました。
3日午前には、アフガニスタン人とみられる移民が裁判で、ドイツ人の元ガールフレンドを殺害したとして8年以上の刑を宣告されました。
この事件は全国的な怒りを引き起こし、極右グループは反移民キャンペーンに利用しました。
3日夜のコンサートは、刺殺された犠牲者への1分間の黙とうで始まりました。それが終わると楽団クラフトクラブの歌手が挨拶し、「私たちはナイーヴではありません。」「コンサートを開いたので、世界が救われると幻想を持っているわけではありません。」「でも、ときには、わたしたちは一人ではないと示すことが大切です。」と語りました。
コンサートが開かれているとき、地元警察は1日行われた極右グループのデモの際、ジャーナリストを攻撃した容疑者の男を逮捕しました““

 朝日新聞は、5日朝刊でケムニッツの極右勢力のデモ写真付きの記事「ドイツ反移民デモ続発 受け入れ3年 高まる不満」を国際面左肩3段で掲載した。しかし、6万5千人の市民が参加した人種差別反対のコンサートについては、翌日も翌々日も全く触れなかった。この朝日の報道は一例だが、日本のメディアが、ドイツはじめ欧州諸国での主に右翼勢力の反移民行動の広がりを、深い懸念をもって報道していることはよくわかる。しかしそれ以上に、移民たちに対する市民たちの温かい思いやりと支援行動、反移民感情を利用するナチス、極右勢力の復活、拡大に強い危機感を持ち、対抗する多数の市民たちの行動を、ここに紹介したBBCのように積極的に報道してほしい。

▼写真(1)
20180904ドイツの反ナチデモ
ドイツ東部ケムニッツで3日、開かれた「人種差別に反対する」コンサートには6万5千人の市民が参加した。日本時間4日に英公共放送BBCの報道した会場の写真。

  ▼写真(2)
         201809朝日新聞2
 9月5日の朝日新聞国際面が報道した、「極右勢力の反移民デモ続発」8月27日の写真
  (備考:当記事をお読みになる場合、当画像をマウスの左クリックして頂くと、当画像のみの画面が出ます。)
2018.05.08  2018年版 報道の自由ランキング
   韓国通信NO555
 
小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

 <日本5位上昇して67位、韓国20位上昇して43位>
4月25日発表された国境なき記者団(RSF)による「2018世界報道自由ランキング」結果である。
韓国の過去最高は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府当時の31位、最低は2016年朴槿恵時代の70位だった。日本の過去最高が2010年の民主党政権時11位だったことを考えると、今回やや順位を上げたとはいえ67位は「中後進国」なみだ。オリンピックや天皇退位問題や株価などにうつつを抜かしている場合ではない。報道の自由は民主主義の根幹にかかわる問題だ。
韓国は「ローソク革命」による民主化の進展が評価された。日本は政権の「恫喝」による報道の「萎縮」「忖度」、閉鎖的な記者クラブの存在が減点になったと思われる。ランキングはあくまでも相対評価だが、「秘密保護法」など報道の自由に対する壁が国際的に「問題あり」と評価された。
 <マスコミは南北首脳会談をどう伝えたのか>
「板門店宣言」が発表された翌日28日の読売新聞は、一面見出しで「『半島の完全な非核化』合意」、さらに「板門店宣言具体策なし」、二面で「日米 警戒崩さず」「拉致 発表で言及なし」、三面では「非核化 米朝に委ねる」「南北首脳 融和を優先。」、さらに三面社説では「非核化の道筋はまだ見えない」と続いた。朝日新聞の一面は「南北『完全な非核化目標』」「非核化具体策示されず」、二面は「米朝会談へまず一歩」、「南北首脳。融和を演出」「非核化巡り北朝鮮譲らず」、三面では「日米中 期待と疑念」「日本、拉致やミサイル放棄注視」と大きく伝えた。
南北会談の模様は朝からテレビで中継され多くの人が見た。つい数か月前までの北朝鮮とアメリカの動きからは想像できない展開に、驚き、感動した人も多いはず。しかし朝日、読売の見出しからもわかるように、またテレビの報道でもどこか「冷めた」あるいは「醒めた」雰囲気があった。

<もっともな「批判」だが、「的外れ」>
「宣言」では非核化への具体策は語られていない。安倍首相が文大統領に頼んだ拉致問題も触れられていない。たしかにそうだが、日本に不満を語る資格はあるのか。
日本、アメリカ、韓国にとって北の核問題は、また全世界にとっても一大関心事だった。しかし、アメリカと日本が制裁と戦争も辞さない強硬姿勢をとるなか、韓国は対話も重視する姿勢を取り続けた。昨年、韓国の北への人道支援に対し日米が口を揃えて批判したことは記憶に新しい。平昌オリンピックへの共同参加と北の核廃棄への動きがきっかけで対話が始まった。朴槿恵前政権では考えられないことだった。半島の非核化は実現に向けてテーブルについたばかりだ。目標は非核化を含め、分断の克服、平和共存である。そのために必要な信頼関係を築くための具体策が「宣言」のなかに盛り込まれた。
韓国政府の働きかけによって米朝会談が開かれることになり、制裁一本やりの日本は大恥をかいたばかりか出る幕がなくなった。文在寅大統領の努力にぶらさがり、始まったばかりの交渉に「検証可能で不可逆的な完全な非核化」という原則をふりかざすばかりで、無能な政府から期待を持たされた拉致被害者家族たちを落胆させた。
素直に「板門店宣言」を読んでみたい。かつてない平和への意思が具体的に感じられるはずだ。自分の目で確かめたくて、歴史的な「宣言」全文を翻訳してみた。表現として「~をすることにした」という表現から、努力するというニュアンスを感じ取った。具体性に欠けるという批判にかかわらず報道されていない、さまざまな提案が行われていることにも気づくはずだ。拉致問題以外の話し合いを拒否して朝鮮総連、朝鮮民族学校への敵視を続けてきた日本政府が「非核化」「拉致問題」の解決を、端緒についたばかりの対話に期待するのは「ムシ」がよすぎはしないか。政府の怠慢を棚に上げ、朝日も読売も政府の姿勢に「忖度」した。

20180508南北首脳握手
 <北朝鮮と韓国の巧みな「演出」> 今回の首脳会議には全世界の注目が集まった。一触即発の核戦争の危機を回避した奇跡的な首脳会談の模様が生放送で世界に送られた。韓国と北朝鮮合作による「ドラマ」のように見えた。嘘っぽい「演出」だと批判する人もいる。しかし私にはしたたかな計算を感じないではいられない。
北朝鮮の「承認」と南北融和に決定権を持つのは残念ながらアメリカである。北が核の放棄を決意し、韓国との融和を図ろうとしてもトランプ大統領が「NO」といえば水泡に帰す。「ノーベル平和賞」という声にまんざらでもないトランプだが、気が変わることは十分ありえる。「宣言」にある「国際社会の支持を得るための努力」は世界世論に訴えてでも南北間の平和と統一を達成しようとする両国の強い意志が感じられる。
「板門店宣言」を否定するなら、全世界からアメリカは指弾を受けるはずだ。祖国統一を否定するなら韓国内の反発が広がり、一挙に韓米条約破棄に進むことも予想される。アメリカ次第の北朝鮮と韓国というこれまでの構図を打ち破るための巧みな演出が仕組まれた。北と南の話しあい路線に後戻りはないという強いメッセージを世界に伝えた。もはやトランプ大統領が米朝会談を拒否する余地はなくなったと云える。NOならば日米は国際的に孤立するだけだ。

<今こそ「核兵器禁止条約」へ>
北朝鮮を含め核保有国は9ヵ国。10000発以上の核を保有している。保有国のうち廃棄を宣言したのは北朝鮮だけ。北朝鮮の核を理由に核兵器禁止条約に反対した日本は禁止条約に加盟するのだろうか。北朝鮮と韓国は加盟するはずだ。北朝鮮に核の放棄を求めた核保有大国アメリカとアメリカによる核抑止力を理由に反対した日本は世界に向けて何と説明するのだろうか。

<北朝鮮はウソつきか>
「北朝鮮はウソばかりつく」といわれる。いつどのようなウソをついたのか。韓国、アメリカと北朝鮮の間で、これまでさまざまな「宣言」「合意」が繰り返され、反故にされたのも事実。政権の当事者が変わり、外部の干渉もあった。しかし北朝鮮だけがウソつきと決めつけるのは明らかに間違いだ。
1994年の米朝合意のブッシュ大統領による破棄、廬武鉉政権時代の10.3合意(2017)が李明博韓国政府による破棄などがその例だ。日本と北朝鮮は、「ウソのつき合い」という表現が正しい。2002年に拉致被害者5人が一時帰国した際に北朝鮮との約束を破って帰国させなかった。亡くなったといわれる横田めぐみさんの遺骨がDNA鑑定で別人のものと判明したことなどがそれだ。日本では根拠のない一方的な北朝鮮への不信感が流布され、増幅されてきた。
2017.12.13 NHKの監督権限を政府から離す改革こそ必要
受信料「合憲」判決は、環境変化に言及せず

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

NHKの受信料強制が合憲かどうか争われていた裁判で、12月6日、寺田逸郎最高裁判所長官が「合憲」の判断を下した。「受信契約義務」と書かれている放送法の双務性が否定され、「受信料支払い義務」と読み替えられたのだ。
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不払いは違法
「NHKを受信できる設備を設置した者は、NHKと受信契約を結ばなければならない」と放送法は規定している(64条1項)。これが受信料支払い義務に直結する規定かどうかについては、長年にわたって問題となってきた。「契約という以上、受信者の側にも一定の権利があり、番組内容や経営方針に対して異論がある場合、それが正されるまでは契約をしないことが認められるべきだ」との放送専門家の多数見解があり、これまで受信契約拒否、受信料不払いの根拠とされてきた。
今回の訴訟では「番組が偏っている」という理由で2011年9月に受信契約を拒否した男性に対し、同年11月NHKが提訴した。男性の側は「契約の自由を保障した憲法に違反する」と主張していたが判決では受信料でNHKを支える仕組みは合理性がある。放送法64条1項は「合憲」であり、テレビがあれば受信契約して受信料を支払う法的義務がある、と指摘した。
またこの裁判では支払い義務のある期間についても争点となった。最高裁は裁判で勝訴が確定した時点で契約が成立、テレビの設置時期にさかのぼって支払い義務があると判断した。これまで受信料の不払いについては時効が5年という定説があったが、未契約者には適用されず、テレビを設置して以降全期間さかのぼって徴収できるとした。
今回の最高裁の判決は、受信者側の完敗ともいうべきもので、今後NHKは収納率(現在79%)の向上を図り、900万世帯といわれる未契約世帯に積極的に働きかけるものとみられる。なお2017年4月末の受信世帯数は4,326万世帯である。

受信料をめぐる角逐
1990年代の初頭、ジャーナリスト本多勝一氏の著書「受信料拒否の論理」に触発されて、受信料拒否の動きが広がったことがある。2004年紅白歌合戦の制作費着服の発覚、経営姿勢に対する批判などから、不払いが広がり、2005年1月海老沢勝次会長が引責辞任した。しかし収納率は低下を続け、2006年度末までには63%まで落ち込んだ。NHKが不払い者に対する、裁判を始めたのは2006年11月からだった。
また籾井勝人元NHK会長が、就任記者会見で「政府が右というものを左とは言えない」と発言(2014年1月)、従軍慰安婦問題などでも政府寄りの姿勢を見せたことから、市民の間でNHK批判が広がった。しかし不払いではなく新しい運動形態として「籾井退任まで支払いを保留する」という動きが広がった。
受信料をめぐって訴訟に至ったのは2006年以降現在まで4000件以上あると読売新聞が報じている(12/7)。その一方、奈良地裁では視聴者の側が「NHKは放送の公正を守っていない、放送法順守義務違反だ」として46人が集団訴訟しているケースがある。

放送環境の変化には言及なし
放送法は1950年に制定された。それから67年後の今、放送をめぐる環境は大きく変化している。テレビの多チャンネル化が進み、衛星放送では有料無料のチャンネルが輩出した。デジタル化に伴い、ワンセグ放送が始まり、iPoneなどデジタル携帯やパソコンに既存テレビコンテンツを含むさまざまな映像が流入している。ワンセグの受信料の可否をめぐっての裁判も判断が分かれたままだ。またNHK自身、デジタル機器への番組の同時送信を検討しているほか、4K, 8Kの高画質放送の事業化を検討している。地上波放送だけだった時代と違い、「受信機があってもNHKを全く見ない」人がいても不思議はない。
今回の最高裁判決は、これらの新しい動きが、受信料制度にどうかかわるのかについては、全く言及しなかったのは、不可解というほかはない。

「国家の影響排除、知る権利充足のため」と最高裁見解に疑問符
判決では受信料制度について次のような判断を最高裁が示している。
 「(受信料は)特定の個人、団体、国家機関から財政面での支配や影響が及ばないよう、広く、広範に負担を求めたもの」。「NHKの財政的基盤を受信料によって確保するものとした仕組みは、憲法が保障する表現の自由の下で、国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう、合理的なもの」。最高裁のアイロニー(皮肉)かとも思える理由であることに驚かされる。
2012年以降の安倍第二次政権下で、政府主導のメディア操作が進み、NHKの報道姿勢の御用化が進んでいるとの指摘がある。事実「公正ではない放送を繰り返せば、免許停止もありうる」発言(高市元総務相、2016年2月)もあったし、国谷キャスター退任(2016年3月)などもあった。報道の面では「もっぱら安倍首相の意向を代弁するレポートばかりだ」と批判される記者もしばしば画面に登場する。秘密保護法、集団的自衛権、安保法制についてのNHK報道が民放に比べて著しく不十分だった、という調査、分析を公表した市民組織もある。
果たしてNHKは「国家機関からの影響が及ばない」、「知る権利を充足する」公共放送なのかという疑問が市民、視聴者の間で広がっているとみるべきではないだろうか。

NHKを政権の手から、国民の手に
更に、国連人権委員会から「(日本の)放送の独立性を確保するため放送法の改正、第三者機関の新設を検討すべきだ」という勧告が出されている。国連は、政府からの独立、第三者機関による放送行政は世界のすう勢だとしている。
NHKの監督権が政府の手にあることに、年度加えて、年度ごとの予算についても「国会承認」の名分のもとに、政府与党が権限を握っている。今回の最高裁の、受信料義務化容認の判決は、政権によるNHK支配をさらに進めることになるのではないか。
受信料がNHKの国家機関からの独立や知る権利の保障として機能させるのであれば、現行の放送法を書き改め、真に国民の代表となりうる第三者機関を新設し、NHKの監督権限を政府から切り離す改革が必要だ。

2017.12.02 大賞にRKB毎日放送の映画「抗い 記録作家林えいだい」
2017年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の両氏ら)は12月1日 、2017年度の第23回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
 基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の6氏を審査委員とする選考委員会によって行われ、候補作品74点(活字部門35点、映像部門39点)の中から次の8点を選んだ。
                  
 ◆基金賞(大賞)1点
 RKB毎日放送製作のドキュメンタリー映画「抗い 記録作家林えいだい」(西嶋真司監督)

◆奨励賞 6点 
 ★沖縄タイムス社取材班の連載「銀髪の時代『老い』を生きる」
 ★シンガーソングライター、清水まなぶさんの「追いかけた77の記憶 信州全市町村戦争体験聞き取りの旅」(信濃毎日新聞社)
★西村奈緒美・朝日新聞記者の「南洋の雪」(朝日新聞高知版連載)
 ★株式会社パワー・アイ(大阪市)製作のドキュメンタリー映画「被ばく牛と生きる」(松原保監督)
 ★広島市立基町高等学校創造表現コース・美術部の「被爆者の体験を絵で再現する活動と10年間の作品集」
 ★望月衣塑子・東京新聞記者の「武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道」

◆審査委員賞 1点
 書籍編集者・ジャーナリスト、梅田正己さんの「日本ナショナリズムの歴史」全4巻(高文研)

選考委員会によると、今年度の選考で目立ったのは、改憲、安保、核兵器、沖縄の基地、原発、「共謀罪」法などに関する問題が今年度も引き続き国民の注目を集めたにもかかわらず、これらの問題に肉迫した作品の応募や推薦が少なかった。そうした面があったものの、今年も、戦前の日本の対外政策、核による被害、ジャーナリズムのあり方に迫った力作が並んだという。 

 基金賞=大賞に選ばれたのは、RKB毎日放送製作のドキュメンタリー映画『抗い 記録作家林えいだい』だが、これは、今年の9月に亡くなった林えいだいさんの晩年の活動を追った作品。林さんは福岡県筑豊に腰を据え、朝鮮人強制連行、旧日本軍の特攻作戦などを取材し続けた。選考委員会では「その取材の原点は、反戦思想を貫いた父親の生き方にあった。だから、強制連行や戦争にこだわって取材し記録した。がんに侵されても続けた。弱者へのあたたかいまなざしを持ちながら不正な国家権力を弾劾し続けた林さんのすさまじい執念があますところなく描かれており、今年度の映画・テレビ番組の中で特筆すべき作品」とされた。

 奨励賞には活字部門から5点、映像部門から1点、計6点が選ばれたが、まず、沖縄タイムス社取材班の『銀髪の時代「老い」を生きる』は、沖縄における高齢者の介護問題に取り組んだ連載である。連載によると、沖縄の高齢者の間で認知症、孤立、虐待などが深刻化しいるとのことで、「沖縄は住民同士の助け合いが盛んな長寿の島」と思ってきた審査委員を驚かせた。選考委では、連載が、その実情を詳細に伝えるばかりでなく、その背景にもきめ細かな深い取材で迫っている点を称賛する声が相次いだ。

 やはり奨励賞に選ばれた『追いかけた77の記憶 信州全市町村戦争体験聞き取りの旅』は、長野市出身のシンガーソングライター・清水まなぶさんが、音楽・芸能活動のかたわら、戦後70年を機に、先の大戦をあらゆる角度から見つめてみたいと思い立ち、長野県の全市町村を訪ねて戦争体験者への聞き取りをおこない、それをまとめたものだ。選考委では「全市町村を訪ねて戦争体験を聞くというやり方が極めてユニークである」「戦争体験談は、戦争でいかにひどい目に遭ったかという被害者の立場からのものが多いが、ここには、731部隊にかかわった兵士や、入植にあたって中国人の農地を奪った満蒙開拓団員の話など、加害の立場からの証言も含まれていて、戦争体験記録としては出色」との賛辞が続いた。
 
 やはり奨励賞の朝日新聞記者・西村奈緒美さんの『南洋の雪』は、1954年のビキニ被災事件にからむ新聞連載。太平洋における米国の水爆実験によって引き起こされたこの事件では、静岡県の第五福竜丸が被ばくしたが、同船以外にも当時、周辺海域に約1000隻の船がいて、乗組員が被ばくしたのでは、との指摘が年々強まっているところから、西村さんは高知県在住の当時の乗組員を訪ね、被災の模様と健康被害の実態をまとめた。乗組員は空から降ってきた実験による“死の灰”を「雪」と思ったとのことだ。「粘り強い丹念な取材に敬意を表したい」と授賞が決まった。
 
 原発問題も引き続き重大な課題とあって、原発関係からもぜひと奨励賞に選ばれたのが、株式会社パワー・アイ製作の映画『被ばく牛と生きる』だ。東電福島第1原発事故の被災地で、政府の殺処分指示に従わず、被ばくした牛を育てている人たちを記録したもので、経済的価値がなくなった牛を飼う人たちは「愛情をこめて育てた牛を殺すなんてできない」「原発の安全神話を信じ過ぎた」と語る。選考委では「故郷も仕事も奪われた農家の人たちの故郷への熱い思いを伝え、生き物の命の尊厳を問うヒューマンな作品」とされた。
 
 広島市立基町高等学校創造表現コース・美術部の『被爆者の体験を絵で再現する活動と10年間の作品集』も審査委員の絶賛を浴びた。この活動は、原爆被害を後世に伝えていくために広島平和記念資料館が始めた事業で、これに参加した生徒たちは被爆者から体験を聴きながら約1年かけて「原爆の絵」を描き上げ、資料館に寄贈する。同校ではこれとは別の「原爆の絵」制作活動にも取り組んでおり、10年間の作品をまとめたのが『平成19~28年度 原爆の絵』である。選考委では「被爆者の高齢化が進み、やがて被爆体験を語る人もいなくなる。それだけに、若い世代が被爆の実相を絵で伝えてゆくという活動は実に貴重だ」との発言があった。

 東京新聞記者の望月衣塑子さんへの奨励賞授賞理由は『武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道』である。その根拠として、選考委では望月さんの著作「武器輸出と日本企業」(角川新書)と「日本のアカデミズムと軍事研究」(雑誌「世界」17年6月号)などが挙がった。とりわけ、「武器輸出と日本企業」に対しては、「武器輸出三原則が事実上撤廃されてゆく過程や、日本企業が武器の生産・輸出に傾斜してゆく経緯がとてもリアルに描写されており、それは現状への警告となっている」との評価だった。

 梅田正己さんの「日本ナショナリズムの歴史」全4巻には特別賞として審査委員賞を贈ることが全員一致で決まった。
 執筆に5年かけた大作で、審査委員の1人は「日本のナショナリズムについて本格的に書かれた本としては初めてのものではないか」と述べ、さらに「本書は、日本のナショナリズムの中軸にあるのは天皇制であること、しかも、そうした性格をもつ日本ナショナリズムが明治以降の日本を形成する上で決定的な役割を果たしたばかりでなく、そうした流れが戦後、そして今日の安倍政権下でも続いていることを明らかにしている」と高く評価した。
 


 基金賞贈呈式は12月9日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費は3000円。
2017.09.16  どうした新聞報道
  改憲問題での重要な情報を載せない紙面

岩垂 弘(ジャーナリスト)

 安倍首相による「9条改憲」を阻止するために護憲派が大同団結して新しい護憲運動組織「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」を発足させたが、これを報じたのは在京6紙のうち、わずか2紙に過ぎなかった。改憲問題に対する国民の関心は高いのに、大半の新聞はなぜ、改憲推進の首相や自民党の動きを逐一報道するばかりで、対する護憲陣営の動きをきちんと報道しないのか。これでは、新聞に対する信頼はますます失われてゆくだろう。

 安倍首相がこの5月に、2020年までに憲法を改定し施行を目指すと表明したことについて、新聞各紙は全国世論調査で賛否を問うた。

 朝日新聞の調査結果では、「安倍首相が憲法改正を提案したことを評価しますか」との質問に対し「評価する」35%、「評価しない」47%。「憲法改正は2020年の施行をめざすべきだと思いますか」との質問には「時期にはこだわるべきではない」52%、「改正する必要はない」26%、「2020年の施行をめざすべきだ」13%。9条に自衛隊の存在の明記を追加する必要についての質問に対しては、「必要がある」41%、「必要はない」44%だった。
産経新聞とフジニュースネットワーク=FNNが共同で実施した調査では、「安倍首相は、自民党総裁として、憲法を改正し、2020年の施行を目指す意向を表明した。あなたは、この姿勢を評価しますか、しませんか」との質問に対し「評価する」と「評価しない」が46.9%で並んだ。「あなたは、憲法9条を維持したうえで、自衛隊の存在を憲法に明記することに賛成ですか、反対ですか」との問いには、「賛成」55.4%、「反対」36.0%。
読売新聞の調査では、「安倍首相は、2020年に、改正した憲法の施行を目指す方針。この方針に賛成ですか、反対ですか」との質問には「賛成」47%、「反対」38%。「安倍首相は、憲法第9条について、戦争の放棄や戦力を持たないことなどを定めた今の条文は変えずに自衛隊の存在を明記する条文を追加したい考えです。この考えに、賛成ですか、反対ですか」という問いには、「賛成」53%、「反対」35%だった。

 これらの調査結果から分かることは、改憲問題では、国民世論が真っ二つに分かれているということだ。であれば、新聞に求められるのは、改憲派、護憲派双方の動きを公平に報道することだろう。

 ところが、実態はどうか。いまさら具体例を挙げるまでもなく、新聞各紙は改憲に向けて突っ走る首相や自民党の動きはもらさず積極的に報道する。扱いは常に一面か政治面で、記事の分量は多く、見出しも大きい。一方、護憲派の動きについては、新聞総体で見た場合、載ればいい方で、載ったとしても扱いは小さく、せいぜい社会面である。

 最近、そうした新聞の一般的傾向を示す典型的なケースがあった。新しい護憲運動組織として発足した「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」に関する報道である。

 この組織は8月31日に結成され、その関係者が9月4日、衆院第1議員会館で記者会見してその経緯を発表した。
 それによると、発起人には、有馬頼底(臨済宗相国寺派管長)、内田樹(神戸女学院大学名誉教授)、梅原猛(哲学者)、落合恵子(作家)、鎌田慧(ルポライター)、鎌田實(諏訪中央病院名誉院長)、香山リカ(精神科医)、佐高信(ジャーナリスト)、澤地久枝(作家)、杉原泰雄(一橋大学名誉教授)、瀬戸内寂聴(作家)、田中優子(法政大学教授)、田原総一朗(ジャーナリスト)、暉峻淑子(埼玉大学名誉教授)、なかにし礼(作家・作詞家)、浜矩子(同志社大学教授)、樋口陽一(東北大学・東京大学名誉教授)、益川敏英(京都大学名誉教授)、森村誠一(作家)の19氏が名を連ね、アクションの実行委員会には、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に加わる19団体のほか、九条の会と、立憲デモクラシーの会、安全保障関連法制に反対する学者の会、安保関連法制に反対するママの会の有志が参加した、とのことだった。

 ここ数年の護憲運動は、おおまかに言って、総がかり行動実行委員会と九条の会という2大潮流によって担われてきた。それが、合流して新しい運動組織をつくるというのだから、護憲陣営でかつてない広範な共同が成立したことになる。
 記者会見では、実行委員会として今後、3000万筆を目標に「9条改憲に反対する署名運動」を全国で展開することも明らかにされた。
 こうした会見内容を知って、私には「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」の発足は、憲法問題に関する画期的なニュースに思えた。

 ところが、この会見を報じたのは在京6紙では2紙だけだった。
 東京新聞は9月5日付朝刊でこれを報じたが、15版では1面左下に写真付き3段48行。「9条守れ 市民団体結束」「3000万人署名目標」の2本見出しだった。
 朝日新聞も同日付の朝刊で報じたが、14版では第3社会面の最下段にベタ(1段)扱いで、写真付き27行。「9条改憲で反対で新たな団体設立」「署名3千万人を目標」の2本見出しだった。
 毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞にはこれに関する記事は見当たらなかった。
 なかでも読売と産経は、これまで、護憲派の、安保関連法や、「共謀罪」法、改憲に反対する運動をほとんど報道してこなかった。両紙とも改憲推進の立場なので、護憲派の運動は取り上げないということなのか。だから、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」についても報道しなかったことに私なりに“納得”したのだが、「毎日」の場合は、「どうして取り上げなかったのかな」と疑問がわいた。

 新聞界には、かつては、自社の主張と合わない意見も紙面に載せるという伝統があったと記憶している。が、今では、一部の新聞社で自社の主張に合わない意見は無視するという傾向が強まりつつあるように感じる。
 新聞各社が加盟する日本新聞協会の新聞倫理綱領には「新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない。他方、新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する」とある。
 新聞は、反対意見も載せるという原点立ち戻ってもらいたい。そう願わずにはいられない。