2022.01.20 ここまで来たかジャーナリズム界の劣化
 読売・大阪府包括連携協定とNHK報道

岩垂 弘 (ジャーナリスト)
 
 ジャーナリズム界の劣化も極まれり――暮れから新年にかけて、我が目をうたがうようなニュースがあった。読売新聞大阪本社と大阪府が結んだ包括連携協定と、NHKがBS1で放送したドキュメンタリーに事実と異なる内容があったというNHKの発表である。どちらも、ジャーナリズムの「原則」から逸脱した行為ではないか、と思えてならない。

 読売新聞大阪本社と大阪府が結んだ包括連携協定は、昨年の12月28日付の読売新聞朝刊で発表された。第3社会面の下部、それもベタ(一段)扱いの記事だったが、それを読んだ私は目を見張った。それは、大要、次のような内容だった。

 読売新聞大阪本社は12月27日、地域の活性化や府民サービスの向上を目的とした包括連携協定を大阪府と結んだ。「教育・人材育成」「安全・安心」など8つの分野で連携し、活字文化の推進や災害対応での協力を進める。具体的には▽府内の小中学校でのSDGs(持続可能な開発目標)学習に記者経験者を派遣▽「読む・書く・話す」力を伸ばす府主催のセミナーに協力▽読者サービスで配布している情報紙に府のイベント情報などを掲載、などを進める。

 その記事はまた、協定の締結式で、読売新聞大阪本社の柴田岳社長が「地域への貢献は読者に支えられている新聞社にとって大切な取り組みの一つ。連携協定を機に一層貢献したい」と述べ、吉村洋文大阪府知事が「これまでも読売新聞販売店に地域の見守り活動などをしていただいている。さらに多くの分野で連携していく」と話した、と伝えていた。

 これまでにも、新聞社や放送会社が文化関係やスポーツ関係の催しを開催するにあたって政府の各省庁や自治体の後援や協力を求めることはあった。が、読売新聞大阪本社と大阪府が結んだ包括連携協定はこの域をはるかに超える大規模なものだ。それだけに、読売新聞という全国紙と、西日本最大の自治体である大阪府との「包括連携提携」は、これまでジャーナリズムの世界で踏襲されてきた、ジャーナリズムと権力の関係をめぐる常識を根本的に変えるものではないか、と私には思えた。

 私は1958年から1995年まで朝日新聞社で記者をしたが、会社から毎年年末に記者に新年用の「社員手帳」が配布された。その最初のページに、「朝日新聞綱領」が載っていた。それは4項目からなっていたが、最初の項目に「不偏不党の地に立って言論の自由を貫き、民主国家の完成と世界平和の確立に寄与す」とあった。私はたまに、この項目に目をやっては心の中で反すうした。

 こんな経験もあった。新人記者としての最初の赴任先は岩手県の盛岡支局で、そこで、支局長や先輩記者から「新聞記者のいろは」を学んだ。その1つが、「新聞記者のあり方」だった。それは、一言で言えば「報道に携わる者は、社会を支配する人間の側に立つよりも、支配される側の人間の視点に立て」ということだったように思う。私はこれを「新聞記者たるものは、絶えず権力を監視せよ、ということなんだな」と受け止めた。

 後年、私は、全国の主要な新聞社が加盟する日本新聞協会の新聞倫理綱領に目を通す機会があったが、そこには、こうあった。「国民の『知る権利』は民主主義社会をささえる普遍の原理である。この権利は、言論・表現の自由のもと、高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される」「新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない」

 これを読んで、私は、盛岡支局で学んだことと、新聞協会が目指していることが、基本的には通底するのではないかと理解した。
 つまり、ジャーナリズムは絶えず権力を監視するために存在するんだという自分の考えを一層強めたわけである。もっとも、新聞倫理綱領は「権力を監視せよ」とまでは言っていない。「あらゆる権力からの独立」を目指すとしている。だとしたら、「ジャーナリズムはあらゆる権力に距離を置く存在」と言い換えてもいいかも知れないな、と思ったりした。

 いずれにせよ、近年、市民の間では、ジャーナリズムへの不信が強まる一方である。「マスゴミ」とか、「新聞社の幹部が定期的に首相と会食するというのは納得できない」「マスメディアは行政の広報紙か」といった声さえ聞かれる。それだけに、今度の読売新聞社と大阪府の包括連携協定を機にこうした不信が一層強まるのでは、と私は恐れる。それを意識したのか、読売新聞の記事は「協定が読売新聞の取材活動や報道に影響を及ぼすことは一切なく、協定書にもその旨を明記している」と述べているのだが……

 ところで、報道によれば、この包括連携協定の消去を求める「ジャーナリスト有志の会」の抗議声明には1月7日現在、5万を超える人から賛同が寄せられているという。この人たちを突き動かしているのは、ジャーナリズムで劣化が進んでいることへの深刻な危機感、と言っていいだろう。

 一方、NHKのドキメンタリー番組に事実と異なる内容があったという問題は、各紙の報道によれば、以下のような経緯である。
昨年の12月26日、NHK・BS1でスペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」が放送された。製作は大阪放送局。その中で、番組に登場した男性について、報酬をもらって五輪反対デモに参加していると字幕で説明。だが、放送後、視聴者からの問い合わせがあり、放送局で再び男性に取材したところ、男性は撮影時には「過去に(五輪以外の)複数のデモに参加したことがあり、金銭を受け取ったことがある」「今後、五輪反対デモに参加しようと考えている」といった趣旨の発言をしていたことが判明、字幕の内容と異なっていたことが分かった。このため、1月9日、大阪放送局は「(字幕の間違いはNHKの担当者の)思い込みによるもので、関係者、視聴者の皆さまにおわびします」と謝罪した。

 このニュースに接した時、私は「NHKともあろうものがこんな初歩的なミスを犯すなんて」とあきれてしまった。私が初任地の盛岡支局で先輩記者からまずたたき込まれたのは、「裏をとれ」だった。情報をキャッチしたら、それが本当のことであるか、つまりそれが事実であるかどうかを必ず確認せよ、ということだった。逆に言えば、伝聞や推測で記事を書いてはいけない、という教えだった。
  「裏」とは、おそらく「裏付け」の「裏」なのだろう、と当時、思ったものだ。こうした経験からも分かるように、「確認、確認、また確認」が、報道関係者の「いろは」なのである。

 「河瀬直美が見つめた東京五輪」では、そうした「確認」がおろそかになっていた。取材現場のNHKの諸君には、いま一度、「取材のいろは」を噛みしめていただきたい。

2022.01.15 劣化進むNHKの「日曜討論」
―大本営発表をしかと認識しよう―

半澤健市 (元金融機関勤務)

《日曜討論の更なる学芸会化を見る》
 22年1月9日、久し振りにNHKテレビで「日曜討論 党首に問う」(9:00~10:38)という番組を見た。
 形式内容とも益々劣化している。画面背景にSunday-DEBATEという言葉が見えるが、ディベートが皆無なのである。その理由は二つあると思うので以下に例を挙げる。

 一つは、司会者(男女2名)と各党代表との間に質疑応答がないのである。
 「コロナ禍の拡大には、米軍基地内外の出入国管理、基地勤務の邦人米国人の感染防止策に欠陥があるのではないか」、「管制は実質〈「ザル法」的〉なものではないのか」、「米軍との情報共有や防止策連携が作動していないのではないのか」。
 そういう当然の質問を二人の司会者は、岸田首相(自民党党首)には決して詰問的に問わない。発言主体が誰だか不明な「客観的な」質問なのである。

 すると岸田は「米軍へ遺憾の意を示し米国側の対策実施を求めた」と答える。
 内容の乏しい丁寧でない回答である。ならば質問者は、直ちに「対米確認が遅いのではないか」、「どんな回答があったのか」「日米基地協定の改定交渉をする意向はないのか」と質問をたたみかけるべきである。しかし司会者からそういう再質問は出ることなく、直ちに次のテーマに移るのである。総花的で平板である。
 この問答は「宗主国と植民地」、「主権国家と傀儡国家」間と同質の会話だといえるだろう。

《「NHKの学芸会式討論会」は他党に応答しない》
 二つは、これら内容のない問答に対して、他党代表から疑問や質問が発せられないのである。そういう進行ルールなのであろう。

 私は、このルーティンを以前から「NHKの学芸会式討論会」と呼んできた。学芸会にはディベートが存在しない。しかも更に悪いことには、定時のNHKニュースがこの「無内容な問答を「そのまま切り取って」ニュースとして使っているのである。これは「管制報道」、「大本営発表」だ。メディアは自分の言葉で報道してもらいたい。
 例えば、説得力の乏しい理由で「答えを差し控えさせていただきます」といった回答があったら、「○○は、理由を言わず回答を拒絶した」と書くべきだろうと思う。

 一事が万事である。私自身は大いに腹を立てている。読者も自ら「意識的に注意深く」NHK報道の知的凋落をみとどけて欲しい。闘いがその先に待っている。(2202/01/10)

2022.01.03 2022年元旦社説読み比べ
-読売と日経が健闘-

半澤健市 (元金融機関勤務)

《私の三大課題に各紙はどう応えるか》
 1 台湾海峡は米中戦争の震源地になるのか
 2 戦後民主主義はついにファシズムに屈するのか
 3 新資本主義は本当に可能であるのか

 これは2022年に日本が直面している三大課題である。
 三つは私(半澤)の恣意的な選定だが、読者にも大きな異論はなかろうと思う。今年の新聞各紙読み比べは、「オピニオン欄(主に社説)」が、この三大課題にどう応えてくれるかの検証を意図している。

 この問題に精力的かつ具体的に答えたのは読売社説である。長文だが大筋は次の通りだ。
 現在、世界には「金融資本主義」の歪みと「中国の軍事大国化」という、国際秩序と国家の安全を動揺させる二大要因がある。これが読売の基本認識である。

 経済については、実体経済をカネが動かすようになった。市場原理の浸透から、中間層の没落、経済格差・分断の拡大が起こった。こういう社会の不安定化を、OECDも指摘している。岸田政権の「新しい資本主義」提案は一つの回答である。それは「投機から投資へ」と経済政策を転換する。企業内に蓄積された内部留保をその原資とする。それはシュンペーターのいう「イノべーション(新結合)」であり、成長と分配の好循環を通じて雇用創造にもつながる。分厚い中間層が復活する。

 軍事的緊張に関しては、習近平の大国化路線が、香港一国二制度の放棄、尖閣や台湾海峡への圧力に表れている。安倍政権は「自由で開かれたインド太平洋」政策などで対抗しているが、情勢はなかなか複雑である。日本は対峙の「最前線」に位置することになった。

《具体策は強硬姿勢と融和姿勢の同時発動》
 読売社説の処方箋は、国内に難題を抱えた中国と対中依存度の高い日本経済という環境の下で、日本は強硬姿勢と融和姿勢の両面を同時に実行すべしというのである。具体的には、自主防衛力の強化、日米同盟の深化、言うべきを言うべき時にいう外交、同盟関係を米国以外にも増やすことだとする。融和姿勢とは「戦略的互恵関係」の実現と読める。

 国内政治も緊急課題が多い。夏の参院選に与党が負ければ「決められない政治」が再現する。岸田内閣は具体的な目標を提示して活路を見いだせと社説は結ばれる。

 社説の裏面が安倍元首相へのインタビュー(1回目)である。興味深いのは、そこでの安倍発言がほぼ一字一句、社説と同一であることである。ただし本稿は、批判を極力禁欲して社説紹介に限りたい。批判、意見は別稿に譲ることにしたい。

 産経社説は「年のはじめに」と題して論説委員長乾正人の署名がある。「タイトル」といえる文字は「さらば『おめでたい憲法』よ」となっている。軍事緊張に発して憲法改正までを論じている。結語部分を原文のまま掲げる。■から■

 ■世界は、米国を中心とした「民主主義国家」と中露を主軸とした「強権国家」が対峙する新たな冷戦時代に突入した。(略)もしもの事態が起きた場合、台湾在留邦人や尖閣諸島を抱える先島諸島住民の避難をどうするのか一つとっても何の準備もできていない。憲法や現行法が有事法制の邪魔をしているのであれば、改めるのが政治家の使命である。国権の最高機関である国会は、今年こそ真剣に憲法改正を論議せねばならない。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」国民の安全を図ろうという「おめでたい」憲法は、もういらない。■

《朝日・毎日・東京は引いた一般論》
 朝日・毎日・東京の社説は、事例紹介など細かいところで違いはあるが、総じていえば、前述の三大課題に対して直接回答をせず、一歩下がって「新しい時代の考え方」への注目を誘なう提案であると読んだ。

 毎日は、民主主義から権威主義へと転換する傾向が世界的に進んでいることを述べてから、「日本の状況はどうか」と自問し安倍・菅政権下で「異論を排除する動きが強まり、国民の分断が深まった」と断ずる。政府への信頼度がコロナ前後で下落していることを挙げ、沖縄県民投票で辺野古埋め立て反対が7割もあったのに、政府が「辺野古が唯一の解決策」に固執していることを例示する。そして、「民主主義の危機」を語る岸田文雄首相の責任は重いと書く。対応策については、フランス、スペインなどの市民参加による政治への反映を挙げているだけで物足りない。結語部分の「夏には参院選がある。人々が声を上げ、政治がその多様な意見を吸い上げる。市民と政治をつなぐ民主主義の力が試されている」という文章はまことに正論過ぎて迫力がない。

 朝日は、デジタル企業によるビッグデータへの独占支配の危険と個人の権利を論じている。個人情報保護が遅れている日本では注目すべき論点である。「何より個人の尊重に軸足を置き、力ある者らの抑制と均衡を探っていかねばならない」という結語には平板だが注目しておきたい。

 東京は「持続可能な開発目標」の分かり難さを論じて、「ざっくり『ほどほどのススメ』ぐらいに理解しておいても、あながち見当違いではないかもしれません」と結んでいる。

《日経の資本主義論は再認識を求めている》
 以上5紙に対して日経社説は「資本主義を鍛え直す年にしよう」というタイトルで堂々たる資本主義論を展開している。私は従来、「日経損得史観」とか「相場新聞の成り上がり」と日経を揶揄してきたが、歴史観を加えた危機感や再生論は新しい日経らしさを表現しており、私は再評価の必要を感じ始めている。勿論、違和感・批判はあるが、禁欲説を再度発して今年の「全国紙オピニオン読み比べ」の筆を擱く。(2022/1/2)


2021.12.09 字幕付きCMの登場
テレビの効用を聴覚障がい者にも届けたい

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 10月から全国の民放テレビで字幕付CMが放送されるようになった。
 字幕付きCMとは、音声を文字化し、文字として表示するCMのことだ。設定はリモコンの「字幕」ボタンを押すことにより音声を字幕で表示できる。
 総務省の調べによれば聴覚障がい者は34万人(2118年厚生省)だが、「難聴」といわれる人は3400万人(2016年総務省)に達する。高齢化に伴い,今後の増えることが予想される。
  
 平成22(2010)年3月にTBSテレビ系列28局で放送されたドラマ「ハンチョウ」で、パナソニック株式会社が字幕付きCMを放送したのが、初めての取り組みだった。その後、取り組みは徐々に広がっており、平成27(2015)年春改編時からは、従来の1社提供番組に加えて複数提供番組でも字幕付きCMが放送できるよう、在京テレビ5社を中心に、拡大に向け取り組んできた。今回放送されるようになったのは、地上民放99局と民放BS5局だ。

 民放連は、平成26(2014)年10月に広告主の団体である日本アドバタイザーズ協会、広告会社の団体である日本広告業協会と共同で字幕付きCM普及推進協議会を設立した。「聴覚障害者の情報アクセシビリティ向上のため、関係3団体の連携により字幕付きCMの普及を図ること」を目的に、情報共有やセミナーの開催などの活動を行っている。
 ユーチューブなどに登場する「それ行け!字じまく君」、「字幕付き5つのお話」などはキャンペーンの一環だ。

 コマーシャルにも字幕をとの声は、聴覚障がい者の間では切実だ。しかしこれまで関東地域に限られていたことから、付与率は、わずか1.05%に限られていた。せっかくリモコンについている字幕ボタンを押すだけ、という簡便な方法なのに、関東地区以外ではこれまで放送局側の設備が整っていなかった。
 10代で両耳を失聴した、松村かりんさん(IAUD=国際ユニヴァーサル・デザイン協議会理事)は長年にわたって字幕CMの必要性を訴えかけてきた。消音ボタンがあっても、字幕ボタンがないことに疎外感があったような事態が解消されつつある。「このままではせっかくのCMが全く伝わらない」として長年プロジェクトを行っており、広告主にテレビスタッフに音のないCMを聞いてもらうなどの働かけを続けてきた。
 CMは短いものが多いため「前のCMが次のCMにかぶった場合でも事故扱いにはしない」などという合意もある。
 字幕によるCMに触れる人が増えれば企業のイメージアップのつながるのは当然のことだ。加えて、病院やオンライン会議など音が出しにくい場所でもCMをみられる。そのため健常者にも、メッリットがある。
 技術的には多少複雑なので、全面的な展開は2022年10月としている。関係者は「CMも社会インフラ、全面的な展開で、情報がスムースに行き渡るよう尽力したい」といっている。

2021.12.03 大賞に日韓問題を論じた「歴史認識 日韓の溝」
2021年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞
                  
岩垂 弘 (ジャーナリスト)


 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、ジャーナリストの田畑光永・鎌田慧の両氏ら)は12月2日 、2021年度の第27回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を次のように発表した。

◆基金賞=大賞(1点)
ジャーナリスト・元朝日新聞記者、渡辺延志氏の「歴史認識 日韓の溝」<ちくま新書>

◆奨励賞(6点)
★池尾伸一・東京新聞編集委員の「魂の発電所 負けねど福島 オレたちの再エネ十年物語」<徳間書店>
★共同通信取材班の「わたしの居場所」<現代人文社>
★札幌テレビ放送の「核のごみは問いかける 『尊重』の先には…」
 ★毎日新聞記者・千葉紀和、上東麻子両氏の「ルポ『命の選別』 誰が弱者を切り捨てるのか?」<文藝春秋>
★イラストレーター、橋本勝氏の長年にわたる一連の政治風刺漫画
★宮田求・北日本新聞社編集委員の「連載・神の川 永遠に―イ病勝訴50年」

審査委員特別賞(1点)
RKB毎日放送の「永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書」

 基金運営委員会によると、第27回平和・協同ジャーナリスト基金賞の候補作品は推薦・応募合わせて88点。その内訳は活字部門39点、映像部門49点。
今年度の特徴は、これらの候補作品のテーマが極めて多様であったことだという。これまでは、核兵器、ヒロシマ・ナガサキ、原発、憲法、安保、沖縄の米軍基地なといった課題を論じたものが大半だったが、今年はこれらに加えて、日韓問題、外国人労働者問題、入国管理局での人権問題、コロナ禍、「優生社会」化問題などに肉薄した作品が寄せられ、しかも力作が多かったという。

 ■基金賞=大賞に選ばれた「歴史認識 日韓の溝」は、「日本と韓国の関係にきしみが増している。戦時中の徴用工をめぐる問題で対立が深まり、最悪と指摘されるまでに関係は悪化した。両国における嫌韓、反日の感情は高まり、憎しみや敵対感を隠さない言動は珍しくなくなった。……それはなぜだろう」との問題意識から、日韓両国の関係史を現地取材や膨大な文献でたどった論考。選考委では「文中に出てくる『問われているのは、過去に何があったかのかということにとどまらず、今日を生きる私たち日本人の歴史認識であるとの思いが強くなった』という著者の言葉が心に残った」「ドイツは自国が過去に行ったことを繰り返し検証して国民が共通の歴史認識をもつように努めている。だから、敵対国だったフランスとも友好的な関係を築けた。日本人もこれに見習わなくては」「今はこういう著書がぜひ必要」との発言があったという。

 ■奨励賞には活字部門から5点、映像部門から1点、計6点が選ばれた。
 まず、活字部門だが、池尾伸一・東京新聞編集委員の「魂の発電所 負けねど福島 オレたちの再エネ十年物語」が「東日本大震災から10年。これは、被害を被った地域の市民同士の協同と連帯による新しい経済・エネルギーの仕組みを目指した人びとの闘いの軌跡をまとめた記録で、地域循環型経済の成功例がここにある。福島県で飯舘電力(太陽エネルギー)を始めた出資者80人の努力と成果は、日本各地の農村に大きな刺激を与え、範となる」と評価された。

 同じく奨励賞となった共同通信取材班の「わたしの居場所」には、審査委員から「コロナ禍によって人びとは分断され、孤立化させられた。格差も拡大した。そんな中にあっても、生きがいや人びとの連帯を求めて、さまざまな生き方を独自に始めた人たちが全国各地に現れた。そうした人たちを紹介した記事はまことに面白く、読ませる」「コロナ禍にめげず、多様な分野、地域で働く人たちの生き方は私たちに希望を与えてくれる」といった賛辞が寄せられたという。

 やはり奨励賞となった毎日新聞記者・千葉紀和、上東麻子両氏の「ルポ『命の選別』 誰が弱者を切り捨てるのか?」は、医学、生命科学、ビジネス、医療福祉の現場などに「優生思想」が浸透し、そこで「命の選択」が実際に行われていることを浮き彫りにしたルポルタージュ。選考委では「優生思想の本源は何かについて考えさせる優れたルポで、感服した」「日本社会の『優生社会』化には、日本人の生産第一主義や経済優先思考が大きく影響していると思った」といった発言があったという。

 イラストレーター、橋本勝さんは特徴ある政治風刺漫画で知られる。とくに、長年にわたる反戦、反核、憲法第9条擁護をテーマとしたイラストは多くのファンの心をつかんできた。平和運動のあるところ、必ず橋本さんのイラストがあったと言っても過言ではない。選考委では、ここ数年、毎年、橋本さんの活動が候補に挙げられてきが、今年は選考委の冒頭で、満場一致で橋本さんに奨励賞を贈ることが決まったという。

 宮田求・北日本新聞社編集委員の「連載・神の川 永遠に―イ病勝訴50年」も奨励賞受賞となったが、これは、4大公害裁判の一つ、イタイイタイ病損害賠償訴訟の勝訴から50年を迎えたのを機に、富山県の神通川流域に発症したイタイイタイ病の歴史を検証し、この病の原因と被害の全容を改めて明らかにしたもの。選考委では「私たちは、再び悲劇を繰り返さないために、これまでの公害から学ばなくてはいけない。この連載はそれに応えてくれる」「産業振興を重視する行政の路線を支持していたメディアが、公害報道に積極的でなかったという識者の指摘を末尾に載せていることを評価したい」などの発言がありたという。

 映像部門から奨励賞に選ばれた札幌テレビ放送の「核のごみは問いかける 『尊重』の先には…」にタイしては、「“核のゴミ”は人類にとって大きな問題であるが、その処理場建設の候補地の一つとして北海道の、小さな予算しか組めない町に20億円というエサで調査を強行しようとする政府。町の多くの人びとが反対する中、町長や賛成町民もいて、町は揺れる。その町の姿をとらえ、見る者にこの問題がもつ重要さを考えさせる番組となっている」との評価だった。
 
 この部門で審査委員特別賞にになったRKB毎日放送製作の「永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書」については、「戦後76年。再び起こしてはならない太平洋戦争の歴史は日本人の中で風化してゆく。そうした現状の中、この作品は、これまでほとんど知られていなかった事実を掘り起こし、戦犯として裁かれた人びとが、加害者であることと被害者であることを同時に体験していたという事実を中心に描くことで、反戦を強く訴える番組となっている」「今年度の映画、テレビ番組の中では稀有な作品と言える」とされた。

 基金賞贈呈式は12月11日(土)、東京・内幸町の日本記者クラブで行われる。コロナ禍がまだ収束していないところから、主催者は、密を避けるために一般公開はやめ、参列者は受賞者、基金役員、報道関係者のみとする方針だ。

2021.10.08  コロナ禍でラジオ聴取者増える

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 ラジオを聞く人がコロナ禍で増えていることが伝えられたのは、2020年2月ごろからだ。
 ビデオリサーチによると首都圏のラジオ局5局の週別平均聴取人数(1分当たりのラジオ聴取人数、推計)では20年2月から3月では80万人だったのが、4月に入ると週90万人に増加したことがわかっている。その後も90万人前後が続いるとみられる。
 同社が12歳~69歳の男女5000を調査したところ、コロナ禍での行動の変化について「ラジオを聞く時間が増えた」人は2.6%だった。
 
 ラジコで聴く人900万人
 ラジオは従来AMやFMのラジオチューナーでしか聴けなかったが,2010年ラジオがインターネット機器で聴ける「ラジコ」が始まった。ラジコは当初居住している地域のローカルラジオに限定されていたが、2014年から月350円で全国のラジオが聴ける「ラジコ・プレミアム」が始まった。さらに2016年には1週間以内であれば放送時間外の番組も聞ける「タイム・フリー」機能が追加された。
ラジコによると、月間ユーザー数はコロナ禍以前の昨年2月から約1ヵ月の間で約150万人増加し900a)4d(4d’万人を超えた。 さらに、10代リスナーの30%が昨年3月以降にラジコの利用を開始しているという。

 ラジコの効用
 ラジコはiPhoneなどのケータイはもとより、家庭でパソコンでもアプリを入れれば聞くことができる簡便さで大きく伸びた。加えて、多数のラジオ番組がSNSやYouTubeと連携した番組作りをしているのも、ラジコの存在があってのことだ。
 ラジコの大幅増加の背景には外出自粛や休校、加えてテレワークの広がりなどがある。
 日経ビジネスのアンケートでは、コロナ禍でラジオを聴く機会が大幅に増えた14.3%、やや増えた 34.1%と、ラジオを聞き始めた人の半数はコロナ以降だ。
 どのような機器でラジオを受信しているか調べてみた。据え置き型ラジオ、CDカセット付ラジオ、カーラジオ、カーナビ。ケータイ端末、パソコンなどだ。ラジコはカーナビ、ケータイ、パソコンなどで横断的に聴取できる。
コロナ禍でラジオ聴取者増える

 ラジオ聴取者像
 ラジオを聴く時間帯はこれまでのカーラジオ時代であれば出退勤時や受験生向けの深夜そして日中も主婦、高齢者の一定の高さが続いていた。しかし今回の日経調査では21時以降、24時以降が他の時間帯を大きく超えるという特徴を見せた。
  関西で人気のラジオ局FMCOCOROでは、大阪府に初めて緊急事態宣言が出された2020年4月上旬頃から、「新たに聴き始めた」、「今までも聞いていたが、リクエストするのは初めて」などといったメールなどによる反応が急激に増えたという(読売新聞大阪版、20年7/11夕刊)。またTokyo FMでは、ある番組が番組放送後、不定期に「オンライン飲み会」を開催しているのだが、時に参加者が1万人をこえることがある(朝日新聞東京版21年5/24夕刊)。これらの情報はラジコが威力を発揮し始めていることを示している。
 また15~19歳の若者のうち3割が「コロナ禍以降ラジコで番組を聞き始めた」という調査もある。20代から30代も「日常的にラジオを聴いている」という。好きな芸能人やアーティストの生の声を聴きたいという若者を呼び込んだとみられる。在宅勤務でテレワーク中の中年世代でもラジオを聴く習慣が身に付き始めているようだ。

 雑誌のラジオ特集相次ぐ
 ラジオの魅力に着目、大型の特集を組む雑誌が相次いで刊行されているとの報道が伝えられた。「RUTUS」3月号で「なにしろラジオ好きなもので」、「TV Bros.」2月号、ラジオ特集、「日経トレンディ」2月号、ヒットをなぜ生み出せるか、「週刊金曜日」8月20日号、ラジオが面白い、などである。ラジオと雑誌は規模や受け手との距離が似ている。コロナ禍で改めてラジオの双方向性やリスナーとの距離感に着目した企画が多く、報道系の番組では話し手がのびのびと語れる、などの記述があった(民間放送9/22)
 
 COCOLO人気
 21年6月、関西圏のラジオ聴取率調査が行われた。明らかになった事実は、FM Cocolo765とFM802が地上波局(ABC, MBS, NHK大阪)を抑えて聴取者の支持を得ていることであった。50代男女の場合の関西ラジオ支持率を例示してみよう。
 1,FMCOCOLO765 20.3%、2.FM802 15.7%、3,MBS 15,6%、4,ABC 14.6%、5,FM大阪 6.7%、6,NHK第1 6.6%。ちなみに、FMCOC OLOの20.3%という数字は、一週間に135万人の視聴者がいることを示している。
 以上のデータで見る限りAM局を上回るFM局の活躍が目立つ。現在のAM局は数年後には新たなFM周波数に転換するが、その備えが出来ているかを問う必要があるだろう。
 ともあれ、ラジオは新たなメディアに再生しつつある。しかも聴取者の身近に存在するという特性を持つメディアでもある。今後のラジオの新たな発展に注目する必要がある。
 
 ラジオ番組ベストテン
 最後にどんな番組に人気が集中しているのか、見ていただきたい(日経ビジネス2/19)。
 ワイド系
1.ニッポン放送、オードリーのオールナイトニッポン。2.ニッポン放送、Creepy Nutsのオールナイトニッポン。3.Tokyo FM、福山雅治 福のラジオ。4.ニッポン放送 菅田正暉のオールナイトニッポン。5.Tokyo FM、山下達郎の楽天カード サンデー ソングブック。6.TBSラジオ、赤江珠緒たまむすび。
 アイドル系
1.ニッポン放送、Six Tonesのオールナイトニッポン。2.ニッポン放送、藤ヶ谷太輔 Peaceful Days。3.NHKラジオ第一、らじらー!。 
2021.09.02 米NBC視聴者激減
今後の五輪混迷    

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 アメリカの3大テレビネットワークの一つNBCネットワークが五輪放送権の独占を続け、五輪に支配的な影響力を発揮していることは今では知らない人はいない。
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              NBCのロゴ
 IOCnは「無観客でも、NBCの放送がありさえすればいい」として、緊急事態宣言下でも開催に固執した。その判断を菅首相は歓迎し、開催一筋に邁進したのだった。

強気一筋だったNBC
 NBCのジェフ・シェルCEOは開会前次のように強気の姿勢を語っていた。「前回2016年のリオ五輪でジカ熱感染症の問題があり人々は不安を抱えていた。だが開会式が始まるとすべての人々がそのことを忘れて17日間の五輪を楽しんだ。今回の東京五輪も開幕すれば同じようになる」(6/14ロサンゼルス・タイムズ)
 同じ日、NBCの東京五輪の広告収入が12億5000万ドル(約1370億円)に達し、記録を更新すると見込んでの発言だった。NBCによるとプライムタイムの30秒CM料はリオ五輪の15%増、12万ドル(約132万円)に達した。
 ところが世界の中で最も視聴人口が高いはずのアメリカ国内でNBCの視聴率が激減し最大スポンサーとして威力をふるっていたテレビ会社NBCに衝撃を与える結果となった。
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            NBC本社(ニューヨーク)

 米国視聴者42%減
  NBCは放送権として、IOC収入の75%を負担しているスポンサーだ(22~32年冬夏6大会の放送権料、120億ドル日本円換算約1兆3200億円)。IOCの五輪収入にも影響を与えかねない。東京五輪でNBCが負担し、IOCに支払っている放送権料は12億ドル(約1,300億円)と推定される。
 ところが、東京五輪の米プライムタイムの視聴者数は1550万人にとどまった。2016年のリオデジャネイロ五輪との比較では、42%の減少だった。開会式の視聴者数も1700万人弱、過去33年間で最低だった。
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             東京五輪
 NBCは広告主との間で、補償策について、五輪中の8月上旬から交渉を始めていると米メディアが報じ始めた(米ブルームバーグ通信)。
 プライムタイムの体操女子のシモーン・バイル選手の棄権や、人気種目である陸上400メートルリレーの予選敗退など盛り上がりを欠いた、とNBCは説明している。またその他諸のテニスのココ・ガウラ(米)、ジョン・ラーム(米)、クレー射撃のアンバー・ヒルなどなど人気アスリートが数多く欠席したしたことも挙げられるだろう。
 また直前に感染増加で無観客になったことや、日本とアメリカの時差(東部時間で13時間,西部時間で16時間、いずれも夏時間)の影響もあり、プライムタイムに録画の放送が多かったことも、少なからぬ影響をもたらしたようだ。

ストリーミング視聴に流れる
 視聴者がテレビ画面を離れ、「ピーコック」というストリーミングサービスで視聴する人々が増大したことも原因の一つに挙げられている。この会社は2020年4月、NBCの親会社「NBCユニバーサル」が発足させた無料動画配信だ。NBCは地上波テレビ、ケーブルテレビ、に加えて、ピーコックストリーミングも合わせて過去最長の7000時間放送をおこなった。地上波テレビの番組視聴者がじりじりと減少しつつあることに備えてのことだとみられる。若い世代がTikTokなどのソーシャル・メディアを通じて東京五輪を追ったことも伝えられている。また他のスポーツなどでも視聴率は落ち込み始めているとも報じられている。
 オリンピックも北京(2022冬)、パリ(2024夏)、ミラノ/コルティナ・ダンペッツオ(2026冬)、ロサンゼルス(2028夏)までは決まっている。しかしそれから先、果たして順調に開かれるのかどうか、放送権を巨額負担しているNBCがテレビ放送続けることができるのかどうか、コロナの余波を考えると、オリンピックをめぐる混迷がどうなるのか、予想がつかない事態だ。

2021.07.01  文春リアリズムはいま――バズーカを人々の手に」
  
半澤健市 (元金融機関勤務)

 
《半藤・保阪・磯田》
 半藤一利を追悼するNHKの番組で、保阪正康はこういっている。「半藤さんは近現代史を足で書いた先駆者なんですね。その半藤さんがなくって、言論界の地図は変わると僕は思っています」。同じく歴史家の磯田道史は「これから先は色々なものがこわれていくと思います。コロナでまずいことになっています。歴史の歯車は早く回転しはじめますから、半藤さんのような過去の歴史のレファレンスの名人が生きていることがとても大事なことだったと思いますね」といった。

《「野次馬精神とファクト発掘」合作の成果》
 保阪発言は何を意味しているのだろうか。
 私(半澤)は「文春リアリズム」という視点を考えてみる。
 ジャーナリズムの本性には「野次馬精神とファクト発掘」の二つの魂があると私は思っている。それは相克している。時代によって相克の様相は異なる。1950年代までのメディアは、15年戦争時代への悔恨と新時代生成の両面を意識して健闘していた。

 私は受験浪人の50年代に中島健蔵が司会する時局座談会をよく聴いたものである。「ラジオ東京」(現TBSラジオ)のこの番組では池島信平(文春)、扇谷正造(朝日)、高木健夫(読売)の常連がリベラルな意見を発信していた。
 文春の「野次馬精神とファクト発掘」は大宅壮一と半藤一利のチームによる作品「日本の一番長い日」として見事に結実した。1945年8月14日から15日の「聖断」に至るドキュメンタリーであった。

《スキャンダル重視に傾いた文春》
 しかし60年以降に時代精神は「経済成長」へと変わり戦後の主流たる進歩的知識人の言説と読者層の現状認識とのズレが拡大した。現在に至る半世紀間のメディア世界の変貌を一行で述べれば、言説の拡散、左翼の退潮、グローバリゼーションの圧勝である。
 「文春リアリズム」における二つの塊の相克は野次馬が強ければ記事はスキャンダルとフェイクに傾き、ファクト重視が強ければ歴史の真実に迫ることになる。

 「文春リアリズム」はどう変化したか。
 全体としてここでも、現在までの50年の潮流に棹さしてきたと観察できる。報道は歴史からエンタメへと変化し、言説自体が短期間の消費の対象となった。

《バズーカを人々の手に》
 人は、文春といえば「文春バズーカ」という。もっともである。その砲弾は政治の中枢を撃っているようで、個人のスキャンダル暴露に終っている。人々はどうしても文春砲炸裂の見物人になりがちだ。人びとが自らバズーカになること――たとえば投票率を20%増やすこと。多様で幅広な共同戦線を組立てること。バズーカを我々の手中にして民主主義を取戻さねばならない。(2021/06/24)
2020.12.02 トランプツイッター、閉鎖されるか?
問われる安倍元首相のSNS

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 ツイッターを駆使して世界に君臨してきたトランプ氏は大統領の地位だけではなく、ツイッターを使えなくなるかもしれない。
 11月17日、米議会の公聴会に出席したツイッターのジャック・ドーシーCEOは「指導者の地位にあるため独別な例外措置を認めているが、大統領の地位を失えば特権を失う」と述べた。
「虚偽発言」18000回
トランプ氏は、これまでSNS上での「虚偽発言」が大統領就任以降18,000回にも上っている。そのうち3,600回がツイッター経由だった、と米紙が報じている。大統領選挙後はさらに「落選」を認めない発言が、連続しているのだが、ツイッター社はこれも「虚偽発言」みているようだ。
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【ツイッター社は「トランプ氏の虚偽の投稿」は「事実確認が必要」などのラベルを付けて掲載した】

 ツイッター社は通常なら削除されるかアカウント自体を取り消される「トランプ氏の虚偽の投稿」を「事実確認が必要」、「投稿の一部に真偽が疑われる記述を含む」などのラベルを付けて掲載してきた。しかし大統領としての「公益性のある地位」を失えば、「虚偽投稿を繰り返す」人物はアカウント凍結措置が取られるのがルールだとドーシーCEOは米議会で述べている。
 クリックしないと閲覧できない!
 2020年5月26日のトランプ大統領の2本のツイートは、カリフォルニア州の郵便投票は不正の対象になるとの投稿だった。これに対し、ツイート社は「事実確認」ラベルをつけた。また5月28日のジョージ・フロイド事件の抗議デモに対するツイッターは自動表示されないようにしたうえで、「暴力をたたえる内容はルール違反だ」と注釈をつけた。
 11月3日の投票日以降もツイッターは数多くのトランプツイッターに対し、「事実確認必要」、「真偽が疑われる」、「誤解をまねくおそれあり」というカードをつけ、クリックしないと閲覧できない、などの措置をとってきた。
 一方、「法の下で市民権を求める弁護士委員会」や、政治監視団体の「コモン・コーズ」などはこれらの措置に納得せず、トランプアカウント凍結を求める公開書簡を送っている(11月12日)。
 フェイスブック、トランプ支持グループアカウント削除
 フェイスブックもトランプ投稿など、内容が虚偽である、または暴力を推奨するような投稿に対し削除するなどの対応をとっている。例えば「コロナはインフルエンザほど致命的ではない」とするトランプ投稿(10/6)を誤った情報だとして削除した(同じ文面のツイッター投稿は自動閲覧できないうえで、注意喚起の表示がついた)。
 またAFP通信によると、多数の偽アカウントを使ってドナルド・トランプ大統領を称賛する運動が展開されたとして、フェイスブックのアカウント200件と記事55ページ、インスタグラムアカウント76件を削除したことをフェイスブック社が発表したと伝えている(10/8)。
 更にトランプ支持グループ「Stop the Steal(選挙を盗むな)」のフェイスブックページを閉鎖した。このグループは全米で35万人のメンバーがいて、トランプ支持のデモを計画していた。議会公聴会で証言したマーク・ザッカーバーグCEOによると、「暴力を誘発する恐れがあった」という(11月17日)。
 トランプのツイッター世界7位、オバマにはかなわない
 トランプ氏がツイッターを始めたのは2009年3月。著書を出版こととなり、どう売り出すか話し合いが行われた。その席上出版会社の編集者からツイッターについて説明があり、興味を抱いたのがきっかけだった。しかしすでに有名だったトランプの偽ツイッターがあり、アカウント名を「@real DonaldTrump」にしたという。
 大統領選挙直前の11月1日に時点のフォロワーは8736万。一日平均のツイート数11件。よく使う言葉は1.「Make Amerika Great again」,2.「Fake News」、3.「Witch Hunt」,4.「Deal」。(毎日新聞11/1)だと報道されている。
 フォロワー数ではバラク・オバマ氏の1億2590万人にはるかに及ばず、世界7位に低迷している。ちなみに2位はジャスティン・ビーバー(1億1,100万フォロワー)、3位はケイティ・ペリー(1億1,000万人)。
 安倍元首相の「桜を見る会」虚偽発言は?
 ところで日本ではツイッターもフェイスブックも厳格な規定がなく、まして政治家の大物の虚偽発言に対抗して、削除することなどは考えられない。
 例えば、安部晋三前首相だが、2018年の桜の会、前夜祭の参加費を補填した事実が明らかになった(11/23)。安倍元首相は在任中「経費補填はしていない」と言い続けてきた。
 安部氏が2019年秋の臨時国会と20年の通常国会で事実と異なる答弁を少なくとも33回行ったことを衆院調査局が明らかにしている。
安部氏が代表を務める資金管理団体晋和会は、懇親会代金の不足分として、5年間で800万円をこえる。この支出は公選法違反の買収にあたるとして野党側が追及してきた。さらに東京地検特捜部も秘書らに事情聴取している。
 後援会員らに経費補填したことが発覚した以上、アメリカであれば、「虚偽発言を続けた人物」のツイッターもフェイスブックも徹底的に調べる。もしその発言の中に虚偽があれば、閉鎖することになる。首相としての特権的地位を失い、公益性のかけらもないのだから。
 安部氏や官邸のツイッター、フェイスブック、インスタグラム、ラインなど一連のSNSでフェイクが流されていれば、閉鎖を含む対抗措置が取られなければならないだろう。
2020.12.01 大賞に信濃毎日の日韓関係続きもの 「記憶を拓く 信州 半島 世界」
2020年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞
                  
岩垂 弘 (ジャーナリスト)
 
 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、ジャーナリストの田畑光永・鎌田慧の両氏ら)は11月30日 、2020年度の第26回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。

◆基金賞(大賞)=1点
信濃毎日新聞社編集局「連載企画・記憶を拓く 信州 半島 世界」

◆奨励賞=7点
★伊藤絵理子・毎日新聞記者の連載「記者・清六の戦争」
★九州朝日放送「良心の実弾~医師・中村哲が遺したもの~」<20・5・29放映>
★Kプロジェクト「ドキュメンタリー映画『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』」 
★静岡新聞取材班「長期調査報道・サクラエビ異変」
★元教員・竹内良男さん(東京都)の「ヒロシマ連続講座」と通信「ヒロシマへ ヒロシマから」の発行
★西日本新聞社取材班「戦後75年企画『言葉を刻む』『あの日、何を報じたか』」
★柏井宏之・樋口兼次・平山昇共同編集「西暦二〇三〇年における協同組合」<社会評論社>

 今年度は戦後75年、被爆75年という節目の年にあたる。このため、選考委としては、戦後75年やヒロシマ・ナガサキ75年を意識した力作や意欲作が数多く寄せられるのではと期待していたが、全般的に低調だったという。これはおそらく、新型コロナウイルスが世界と日本を席巻したため、メディアも十分な報道活動が出来なかったからではないか、というのが選考委の見方だ。
 でも、そうした厳しい状況にあっても積極的な姿勢で取材や執筆挑んだ力作、労作があったという。

■基金賞=大賞に選ばれたのは、信濃毎日新聞社編集局の『連載企画・記憶を拓く 信州 半島 世界』である。
 日本と韓国は、2年前にあった、元徴用工の賠償問題を巡る韓国大法院の判決をきっかけに最悪の関係にある。書店には嫌韓本が山積する有様だ。こうした状況に真正面から向き合い、日韓関係改善への道を探った連載が、審査委員の注目を集めた。
 選考委では「日韓関係の現況を報道機関としてほっておけないという編集局挙げての気迫を感じさせる」「日韓双方の現状を丁寧に取材していることに好感がもてる」「松代大本営地下壕工事に動員された朝鮮人の生存家族を韓国で探し当て当時のことを語らせたのは、特筆に値する」「日韓関係の歴史を、84年前のベルリン・五輪のマラソンで優勝した孫基禎選手の生涯から解き起こしているのは秀逸」といった賛辞が相次いだ。

 ■奨励賞には活字部門から5点、映像部門から2点、計7点が選ばれた。
 すでに述べたように、本年は戦後75年・被爆75年に当たったので、選考委は、メディアがこれをどう報道したかを論議したという。新聞について言えば、特攻隊の生き残りとか、空襲被害者、満蒙開拓団引揚者など、戦争体験者を紙面に登場させて体験を語らせるといった企画が大半だったが、毎日新聞社が多角的な視点から戦後75年・被爆75年を検証していたのがひときわ光ったという。その中でとくに審査委員の目をとらえたのが伊藤絵理子記者の連載『記者・清六の戦争』だった。
 伊藤記者の曾祖父の弟にあたる伊藤清六は毎日新聞記者だったが、太平洋戦争末期、フィリピンで日本軍と行動を共に敗走中、山中で餓死する。連載はその足跡を丹念にたどったもので、「日本軍による加害の事実、新聞の戦争責任にも言及している点を評価したい」として奨励賞に選ばれた。

 同じく奨励賞を受賞した静岡新聞取材班の『長期調査報道・サクラエビ異 変』は、2年間ですでに500回、まだ連載中というから、まるで大河小説を読むような大作である。
 全国的に有名な駿河湾産のサクラエビの不漁に注目した取材班は、その原因が駿河湾に注ぐ富士川の水の汚れにあるのでは、と推測する。そこで富士川沿岸の歴史を調べてゆくうちに、沿岸の環境破壊が明らかになり、ついに汚水の原因を突き止める。その粘り強い取材に審査委員から驚嘆の声が上がった。

 すでに述べたように、今年は被爆75年。そこで、ヒロシマ・ナガサキ関係から1点を選びたいという審査委員の思いから奨励賞に選ばれたのが、竹内良男さんの『「ヒロシマ連続講座」と通信「ヒロシマへ ヒロシマから」の発行』だった。
 高校教員をしていた竹内さんは生徒を連れた修学旅行で広島を訪れ、被爆の実相を知ってショックを受ける。その事実を、広島から遠く離れた首都圏の人たちに伝えたいと、2016年から都内で始めたのが「ヒロシマ連続講座」で、講師は被爆者や戦争体験者ら。コロナ禍が始まると、講座受講者が減った。そこでウエブで発信し始めたのが、被爆や戦争に関する情報を載せた「ヒロシマへ ヒロシマから」だった。選考委では「たった1人で講座を続ける持続的な努力に敬服する」との声がもれたという。

 今夏も、新聞各紙は「戦争体験をどう次の世代に継承するか」といった問題意識から企画記事を掲載した。大半は、戦争体験者にインタビューしたものだったが、その中でひときわ異彩を放っていたのが奨励賞に選ばれた西日本新聞社取材班の『戦後75年企画「言葉を刻む」「あの日、何を報じたか」』だった。
 「言葉を刻む」は、戦争にまつわる過去の記事、体験をつづった読者の手紙、取材ノートに残っていた言葉をコンパクトに再現したもの、主としてウェブサイトで展開した「あの日、何を報じたか」は、75年前の紙面から市民生活に関する記事を選び、当時と同じ日付の画面に掲載したものだった。こうした手法は、審査委員をして「新聞が戦争体験を次世代に伝えるのにこんな手法もあったとは」と驚かせた。

 同基金は、人と人との「協同・連帯」を重視する作品も顕彰の対象にしているが、今年は柏井宏之・樋口兼次・平山昇3氏共同編集の『西暦二〇三〇年における協同組合』を奨励賞に選んだ。
 世界では、今、資本主義の危機が叫ばれ、資本主義に代わる経済システムが模索されている。本書は、営利を目的としない協同組合こそがそれに値するのではないか、という視点から学者、生協活動家ら23人が、協同組合の可能性を論じたものだ。選考委では「今後の協同組合を考える上で多様な見識を得られる点を評価したい」と称賛されたという。

■映像部門から奨励賞に選ばれた2点は、九州朝日放送の『良心の実弾~医師・中村哲が遺したもの~』と、Kプロジェクトのドキュメンタリー映画『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』。 
 九州朝日放送の作品は、最初はアフガンなど紛争地帯の医療活動に携わっていた中村医師が、貧しい人々を助けるには戦争で荒野となってしまった土地に水を与えることこそが第1命題と考え、現地の人々と共に灌漑事業に献身する姿を追ったドキュメンタリーである。選考委では「中村医師の崇高な活動と人柄をあますところなく描き出した感動的な作品として高く評価したい」とされた。

 『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』は、戦争という名の国策によって生まれた2つの国の残留者たちを追ったドキュメンタリー。中国残留孤児・婦人のことは、報道によって知られているが、敗戦後のフィリピンで日本人の父と生き別れたことから差別と貧困の中に生きることになったフィリピン残留日本人2世のことはほとんど知られていない。選考委では「彼ら彼女らを棄民した日本政府に鋭いアピールを突きつけた作品」と評価された。

 そのほか、活字部門では、信濃毎日新聞記者・渡辺和弘「思想監視 公文書・記録が語る」▽藤原健「終わりなき<いくさ>~沖縄戦を心に刻む」<琉球新報社>▽朝日新聞記者・南彰「政治部不信―権力とメディアの関係を問い直す」<朝日選書>▽沖縄タイムス社「連載企画『独り』をつないで―ひきこもりの像―」が最終選考まで残った。

 例年、12月初旬には、平和・協同ジャーナリスト基金が受賞者を東京・内幸町の日本記者クラブ東京に招いて基金賞贈呈式を催していたが、今年は新型コロナウイルスが猛威を振るっているため、三密を避ける狙いから贈呈式は取りやめとなった。