2007.09.30 「ヤメ検」弁護士と金 (下)

内田雅敏 (弁護士)

――元公安調査庁長官緒方重威氏の「詐欺事件」に思う――

 話をもどす。それからしばらくして朝堂院大覚氏から依頼され、京橋にある㈱三正の満井社長を訪れた。
 ㈱三正は京橋交差点にある大きなビルの数フロアを使用しており、「日本経済再建委員会」という名称の看板もかかっていた。
 満井社長は、60歳を少し過ぎたくらいで、小柄だがなかなかエネルギッシュな感じであった。穏やかな口調だが、ときどき人を上目使いに見る癖があり、一筋縄ではいかない顔付をしていた。長崎県知事選で当選した金子知事の一族が経営する金子漁業が、漁船を沈めては保険金詐欺をしているのでこれを告発してくれという。〈危ない、危ない、こんな話にうっかり乗ったら大変だ〉と、適当に相槌をうって聞いていた。
 そのうちに満井社長は住宅金融債権管理機構の中坊社長のことを話し出した。元日弁連会長の中坊公平弁護士のことだ。当時住管機構の社長として、配下の多数の弁護士を使って、住専からの多額の借入れを焦げつかせている不動産業者に対し厳しい取立てを行ない、拍手喝采を浴びていた人物だ。現代の鞍馬天狗と呼ぶ人すらいた。満井社長は中坊のことを血も涙もない男だと、口を極めて罵った。非情な取立をし、これでは我々不動産業者は皆潰されてしまうと言った。
 満井社長は言った。――確かにバブル時代には我々不動産業者も無茶苦茶をしていた。関西の末野興産のようなひどい会社もある。しかし、政府も土地の値上がりを放置し、莫大な税収を得ていた。それを一気に土地の値段を下げてしまって、例えば我々不動産業者が銀行から100億円借りて不動産を買ったところ、不動産の値段が10分の1の10億円にまで下がってしまった。ところが借金は100億円がそのまま残ってしまっている。それを返済せよというのだからひどいのではないか――と。彼の言い分も分からないではなかった。しかし、それは商売の見通しの問題であり、欲の皮が突っ張ってしたことだから仕方なかった。
 中坊社長と闘う手助けをしてくれと頼まれたが、住管機構に専務や常務で入って中坊にこき使われているのは、私の友人の弁護士達だからそれはできないとやんわりと断った。とにかく件の悪徳弁護士との闘いの関係で朝堂院大覚氏の顔を立て、満井社長とも付かず離れずといった態度で聞いた。それから数日後のことであった、㈱三正の満井社長らが強制執行妨害容疑で逮捕されたのは。
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