2008.01.31 〔書評〕  小川原正道『西南戦争 西郷隆盛と日本最後の内戦』
(中央公論新社、¥861)

雨宮由希夫 (書評家)

 「何のための御一新であり、何のための革命であったのか。これでは徳川家に申し訳ない」と西郷隆盛は維新後、怒ったというが、私はこの西郷発言に胡散臭さを覚えてならない。この発言から、幕末期、体制の変革を目指し、なんとしても武力討伐を完遂せずにはおられなかった西郷が、討幕後の国家構想について、何の青写真も持ち合わせていなかったことが想定されるからである。
 西郷が、「幕末維新の激動期の最大のリーダー」であることには異を唱えない。元治元年(1864)の禁門の変から、明治元年(1868)の江戸城明け渡しに至るまでの日本の歴史の主役の一人は間違いなく西郷であった。しかし、西郷の生涯の最大の謎は、やはり、江戸城開城を境にして起きた、別人のような豹変ぶりであり、これが同一人物の軌跡かと誰しもが首をかしげるだろう。
 西郷の同時代人である内村鑑三は「ある意味で1868年の日本の維新革命は、西郷の革命であった」(『代表的日本人』)と書いている。西郷を書くことは維新史を書くことであり、「明治維新とは何か」を問うことであると内村は言っている。確かに西郷は、日本の近代化というものを考えるうえで避けて通れない存在なのである。続いて、内村が、西南戦争と西郷について、「西郷の生涯のこの時期を歴史が解明できるのは、まだ百年先のことでしょう」と書き残しているのは興味深い。
 迂闊ではあるが、昨年は百年先どころか、西南戦争勃発130周年の年であった。
本書の著者・小川原正道は近代日本政治史を専攻する研究者である。小川原は、本書は「反逆の伏線を形成した明治六年(1873)の政変から、朝敵の烙印が消される明治22年(1889)あたりまでを叙述の範囲とした西南戦争の通史」を目指した「ささやかな入門書」であるとしている。
 「最大の士族の反乱」として片付けるにはあまりに事が大きすぎる西南戦争はどうして起こったのか。
  「専制政府の打倒という共通の調べが流れている。何よりも、これを逃がしては政府を打倒するチャンスはないという切迫感と、西郷ならば、という期待感がただよっていた」と当時の状況を描写した上で、著者は、西南戦争の大義名分を、以下のように分析する。
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