2009.08.31 「政権交代」は“禁句”なのかー中国メディアの総選挙報道
丹藤佳紀(ジャーナリスト)

  4年前の総選挙と攻守所を変えたような今回の選挙結果を、お隣り韓国の新聞はそろって大々的に報道した。なかでも、『朝鮮日報』、『東亜日報』とならぶ有力紙『中央日報』は、31日、「選挙革命」の見出しをつけて1面トップで報道し、それに加えて7ページもの特集を組んで韓国への影響などをまとめた。
  中国共産党の機関紙『人民日報』は、1面左の最下段に「民主党が日本の衆議院選挙で勝利獲得」の見出しを掲げ、安定多数の269議席を上回る「空前の勝利」を手にしたと選挙結果を伝えた。ただ、政権党の機関紙だからその評価については慎重だ。
  興味深いのは、その『人民日報』のウェブサイト「人民網」の対応である。
  31日午前の段階では、「人民網」はトップの位置に日本の総選挙特集を置き、その見出しは以下のカットで見られるように、「日本の衆議院選挙で民主党が大勝、62年を経て初めて政権交代実現へ」となっていた。
                     election
 「人民網」のトップ記事 (左端の写真は鳩山・麻生党首)。
         (写真をクリックすると拡大されます)

  62年という計算は、1947年6月の片山哲・社会党首班内閣の登場からカウントしたものだろう。中国共産党主導の中華人民共和国成立はその2年後で、新中国成立から今年で60周年になる。
  それだけに、「人民網」のこの見出しを見たとき、日本でのこととはいえ、「62年を経て初めて政権交代」とは大胆に打ち出したものだと感心した。同時に「大丈夫かな」とも懸念したのである。
  はたして、そうだった。この原稿を書くため31日午後、いま一度「人民網」にアクセスしてみたら、この見出しを含む特集は、「汚職反対キャンペーン」に差し替えられていた。
  元の特集には、『人民日報』特派員(「人民網」特派員兼任)による「日本の総選挙で『改朝換代』(旧王朝から新王朝へ―政権交代)の台風が吹いた」などの詳報が含まれていた。『改朝換代』なんて中国共産党政権にとっては“タブー”だろう。この差し替え後、これらの記事はすべて別に特設の総選挙特集に押し込められてしまった。
  韓国の報道からは、「日本は万年自民党政権」と思われていたことがわかる。中国「人民網」の対応には、日本の「62年を経て初めて政権交代」という“チェンジ”の影響が国内に浸透するのを懸念する中国共産党当局の姿勢がにじみ出ている。