2010.08.14 ミツバチの警告―「新農薬」は生態系と人の健康を脅かす
その3 ネオニコ系新農薬の特徴とその影響(下)

岡田幹治(フリーライター)


(「その3・上」から続く)

人の神経系に作用する
ネオニコ系農薬が脅かしているのは生態系だけではない。東京都神経科学総合研究所の黒田洋一郎氏と木村‐黒田純子氏によれば、有機リン系農薬が昆虫の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素を阻害し、アセチルコリンを過剰にすることによって神経系を撹乱させるのに対し、ネオニコ系農薬はアセチルコリンの受容体と結合し、アセチルコリンがなくてもあるかのように作用して神経系を撹乱させる。いずれの場合でも昆虫は死ぬ。
昆虫の脳と人の脳では規模も複雑さもまるで異なるが、神経細胞や神経伝達物質などは基本的には同じで、アセチルコリンも共通している。したがって有機リン系農薬もネオニコ系農薬も、人の体内に取り込まれれば神経系に何らかの作用を及ぼす(注2)。
とくにネオニコ系農薬が作用しやすいアセチルコリンの「ニコチン性受容体」は、人では、(内臓などを動かす)自律神経系や(筋肉などを動かす)末梢神経で重要であるだけでなく、記憶、学習、情緒など脳の高次機能の面でも重要な役割を果たしていることが、近年分かってきた。また、脳の発達に重要な働きをしていることも分かってきた。このため、とくに胎児や小児など発達期の脳への影響が心配される。妊娠中の喫煙が胎児に悪影響を与えることはすでに分かっているが、それと同じような作用をネオニコ系農薬が人に及ぼす可能性があるという。

ケタ違いに高い農薬の残留基準
ネオニコ系農薬による食中毒はすでに発生しているとみるのが、開業医の青山美子医師(群馬県前橋市)と東京女子医科大学の平久美子医師である。
両氏によれば、茶飲料1リットル以上、果物500グラム(g)=リンゴやモモなら2個ほど=以上などを1週間から数カ月連続して摂取した結果、食中毒を発症した患者が何人もいる。主な症状は、手のふるえ、頭痛、全身倦怠感、腹痛、筋痛、脈の異常(頻脈、徐脈、不整脈)だ。解毒剤を処方し、茶飲料や果物の摂取をやめさせると治るという。
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