2010.08.10
ミツバチの警告―「新農薬」は生態系と人の健康を脅かす
その2 「農薬」という巨大利権システム
「その1」で紹介した長崎県は、日本養蜂はちみつ協会の被害調査で、2009年に農薬による被害が最大の県だった。同調査によれば、この年、全国では1万1500以上の群が農薬で死滅し、被害額は2億5300万円以上に上った。08年も1万1600群以上の被害があり、損害額は6500万円以上だった。この年は北海道で4487群もが死滅し、「現場の憤りは限界に近い」と被害調査は伝えている(同協会の調査は約2500の会員を対象にしたもので、約5000の業者がいる全国の被害を正確に示すものではないが、大勢は示している)。
ネオニコチノイド系(ネオニコ系)農薬(殺虫剤)が原因と推定される大量死は03年の熊本県や05年と06年の岩手県など、それまでも散発的に発生していたが、08年から09年にかけて一気に増えたわけだ。
フランスでは、1994年にネオニコ系農薬ゴーショ(有効成分はイミダクロプリド)が導入されると同時にミツバチの不可解な失踪が発生し、ゴーショへの疑いが強まった。農業省は99年、予防原則(注1)に基づいてゴーショのヒマワリの種子処理(注2)への使用を暫定的に禁止し、本格的な調査研究を開始した。03年にまとまった調査結果でイミダクロプリドの種子処理の危険性が明らかになったため、農業省は04年に同農薬の暫定禁止を正式禁止に改めた。これに対して農薬メーカーのバイエルや農業生産者が提訴したが、06年、最上級の行政裁判所が訴えを退けた。
しかし、日本ではフランスのようには動いていない。農林水産省が指導し、ほとんどの県が従っているのは「交配用ミツバチの需給調整」と「農家と養蜂業者の連絡の強化」である。つまり、農家と養蜂業者が交配用ミツバチの需給を早い時期に話し合い、不足が見込まれれば他県から融通してもらうこと、および、農家が農薬を散布するときは事前に養蜂業者に連絡し、巣箱を一時的に移転してもらうことだ(移転する場所もないし、費用もかかるので、移転は実際にはほとんど実行されていない)。
一体なぜ、日本では農薬を規制する方向に動かないのだろうか。「その2」ではそれを考えてみたい。日本の民主主義が未熟で国民に権利意識が低いこと、養蜂業者には農地に巣箱を置かせてもらっている弱みがあることなども影響しているが、ここではその他の事情を指摘したい。
岡田幹治(フリーライター)
「その1」で紹介した長崎県は、日本養蜂はちみつ協会の被害調査で、2009年に農薬による被害が最大の県だった。同調査によれば、この年、全国では1万1500以上の群が農薬で死滅し、被害額は2億5300万円以上に上った。08年も1万1600群以上の被害があり、損害額は6500万円以上だった。この年は北海道で4487群もが死滅し、「現場の憤りは限界に近い」と被害調査は伝えている(同協会の調査は約2500の会員を対象にしたもので、約5000の業者がいる全国の被害を正確に示すものではないが、大勢は示している)。
ネオニコチノイド系(ネオニコ系)農薬(殺虫剤)が原因と推定される大量死は03年の熊本県や05年と06年の岩手県など、それまでも散発的に発生していたが、08年から09年にかけて一気に増えたわけだ。
フランスでは、1994年にネオニコ系農薬ゴーショ(有効成分はイミダクロプリド)が導入されると同時にミツバチの不可解な失踪が発生し、ゴーショへの疑いが強まった。農業省は99年、予防原則(注1)に基づいてゴーショのヒマワリの種子処理(注2)への使用を暫定的に禁止し、本格的な調査研究を開始した。03年にまとまった調査結果でイミダクロプリドの種子処理の危険性が明らかになったため、農業省は04年に同農薬の暫定禁止を正式禁止に改めた。これに対して農薬メーカーのバイエルや農業生産者が提訴したが、06年、最上級の行政裁判所が訴えを退けた。
しかし、日本ではフランスのようには動いていない。農林水産省が指導し、ほとんどの県が従っているのは「交配用ミツバチの需給調整」と「農家と養蜂業者の連絡の強化」である。つまり、農家と養蜂業者が交配用ミツバチの需給を早い時期に話し合い、不足が見込まれれば他県から融通してもらうこと、および、農家が農薬を散布するときは事前に養蜂業者に連絡し、巣箱を一時的に移転してもらうことだ(移転する場所もないし、費用もかかるので、移転は実際にはほとんど実行されていない)。
一体なぜ、日本では農薬を規制する方向に動かないのだろうか。「その2」ではそれを考えてみたい。日本の民主主義が未熟で国民に権利意識が低いこと、養蜂業者には農地に巣箱を置かせてもらっている弱みがあることなども影響しているが、ここではその他の事情を指摘したい。