2010.11.30
朝鮮半島有事、解決のカギは米中の出方
「国会崩壊」の日本、新しい対朝関係を
早房長治 (地球市民ジャーナリスト工房代表)
23日に起きた北朝鮮軍による韓国領・大延坪島に対する無警告の砲撃は、国際法上の複雑な問題があるとしても、韓国兵士だけでなく民間人の犠牲者を出した「蛮行」である。国際社会はこのような行為を絶対に認めてはならない。 しかし、北朝鮮の「蛮行」の再発を止めるには、一部の論者が主張するように、同国への制裁を強化するだけでは効果は期待できない。米国と中国を中心に、6カ国協議メンバーが想を新たにして画期的な枠組みで問題解決を図るしかない。
大延坪島砲撃の最大の目的が米国を北朝鮮との直接対話に引き出すことにあったことは明らかである。北朝鮮は砲撃に先立って、米国にウラン濃縮施設と実験用原子炉の建設を公開している。いずれも米朝対話の再開を狙った挑発行為である。
ただ、北朝鮮が韓国との関係修復を犠牲にしてまで、このような蛮行になぜ踏み切ったか疑問が残る。この答えは、金正日・国防委員長の健康悪化にあるのではないか。金正日氏が正常に活動できる間に米朝対話によって米国、韓国との平和条約を締結しようとしていると考えられる。同時に、金正恩氏へバトンタッチする態勢を早急に整えようとしているのであろう。
北朝鮮問題解決の最大のカギを握っているのは米国である。米国が直接対話に応ずれば、少なくとも当面、北朝鮮の蛮行は止まる。対話が平和条約締結問題にまで及ぶことになれば、北朝鮮の対外姿勢を大幅に変えることも可能であろう。その場合、最重要の課題は北朝鮮が保持する核兵器と核関連物資・施設の扱いである。北朝鮮は簡単に核放棄に応ずる意志はないので、米国側が、「韓国にある核兵器撤去」「北朝鮮の核保有は認めるが、核と核技術の拡散は禁止する」などの条件を示さなくてはならない。この条件づくりは国内的にも国際的にも大きな困難を伴うであろう。
いうまでもなく、中国も北朝鮮問題解決の大きなカギを握っている。中国からの食料、石油、原料炭などの援助がなければ、北朝鮮経済が短期間に崩壊することは明らかである。米、日、韓の3国は中国がその影響力を行使して北朝鮮の身勝手な行動をコントロールするよう要求しているが、中国は応ずることができない。北朝鮮の暴発と朝鮮戦争の再開や、現体制が破綻した場合に生じる大量の難民の流入を恐れるからである。
米国と中国が核問題と難民問題で従来とはまったく異なる対応を取らない限り、問題解決の道は開きそうにない。
日本は北朝鮮問題の解決について、まったく無力である。植民地支配問題を清算していない上、拉致問題をめぐって直接対話も不可能になってしまった。このような状態にした責任はほぼ全面的に小泉純一郎内閣以下の歴代自公政権にあるが、民主党政権も何ら前向きの手を打っていない。菅直人首相は「北朝鮮の同盟国である中国に影響力を行使するよう働きかける」というだけである。
日米韓が一糸乱れない協力姿勢を取ることは重要である。しかし、これだけでは北朝鮮問題は基本的に解決しない。菅政権は中国に影響力行使を働きかけるとともに、米国に対しても北朝鮮との直接対話に応じるよう説得を試みるべきである。
それ以上に大切なのは、拉致問題解決の糸口を探り、独自の積極的な手を打つとともに、幅広いテーマについての直接対話を開始することである。いい換えれば、2002年の「ピョンヤン宣言」の線まで戻って、両国間の問題解決を進めるということだ。日本はそのように行動した時に初めて朝鮮半島問題の解決に貢献することができる。
それにしても、今日の国内政治状況はあまりにも酷い。連日の国会審議で、野党各党は北朝鮮問題の本質はそっちのけで、「内閣の北朝鮮非難・韓国支持の表明が米国より遅かった」など末梢的な点を取り上げて政府を攻撃している。菅内閣の支持率をさらに落とそうという狙いで、あわよくば総選挙の持ち込もうとしているのであろうが、朝鮮半島有事に近い状況の下で政府の力を弱めることが日本国民の利益になると本気で考えているのか。危機管理の要である仙谷官房長官の問責決議案を出すに至っては狂気の沙汰である。
心ある国民は国会の現状を「学級崩壊と似た、国会崩壊」と呼んでいる。国会議員は、今回の北朝鮮の蛮行だけでなく、尖閣諸島問題、北方領土問題についても本質を正確に認識し、冷静に議論してほしい。
(11月26日記す)