2011.11.30 政党不信時代の“代理選挙”となった大阪ダブル選挙、ハシズムの分析(その1)

~関西から(44)~

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)


大阪ダブル選挙が終わった。11月27日夜、私は劇的なハシズムの終焉を期待してテレビの前で開票結果を待っていたのだが、なんと開票前からNHKの出口調査で「当確」が出たのには驚いた。というよりは、ひどく落胆したと言った方が正確かもしれない。ひとつは私自身の見通しの甘さと分析力の貧困さに対して、ひとつはハシズムを圧勝させる大阪の政治風土に対してである。

だが開票結果の数字を冷静かつ客観的に眺めて見ると、この選挙は単に一地方の首長選挙などではなく、現在の日本の政治状況や既成政党に対する国民の強烈な批判行動であり、明確な意思表示だと思わざるを得なくなった。自民党政治からの政権交代を訴えて権力の座に着いた民主党が、自民党以上に自民党的な政治を展開する状況のもとで、多くの国民はそれこそ「やり場のない憤り」と閉塞感のなかに押し込められているからだ。

イギリスのフィナンシャルタイムズをはじめ、多くの海外紙も大阪ダブル選挙を単なる一地方選挙だとは見ていない。そこに流れている論調は、国政(政党)選挙の“代理戦争”として大阪ダブル選挙が機能したのであって、大阪維新の会が既成政党に対する政治不信の「受け皿」になったというものだ。遅まきながら民主党・自民党もその気配を察したらしく、幹事長声明や記者会見を通して警戒感を露わにし始めた。

こんな国民(大阪市民・府民)の強烈な政党不信・政治不信がハシズムという「ガス栓」を通して噴出し、橋下包囲網を突破したのが今回の大阪ダブル選挙だった。だから、橋下・松井氏に投票した大阪市民・府民のほとんどは、大阪維新の会が掲げる政策の是非などというよりは、この閉塞状況に少しでも風穴を開けることができるのなら、「ハシズムでもなんでもいい」というのが率直な心情だったのだろう。

橋下氏は「壊し屋」であって、それ以外の何物でもないというのが私の橋下観であり、それはいまも変わっていない。だから、共産党が自前候補を降ろしてまで橋下包囲網をつくろうとしたことを評価したいし、そのことがハシズム阻止の有力な方法になると考えていた。だが政党支持別の有権者の投票行動を見ると、民主・自民・公明支持者の約半数が橋下・松井氏に投票している。つまり議会民主主義を守るために共産党が連携を呼びかけた各政党の支持者が、それに応えることなくハシズム側にまわったのである。

この事態の意味するものは、かなり深刻だと言わなければならない。つまり民主・自民・公明3党は、その支持者たちにとってさえ、もはや議会民主主義の担い手というよりは、議会民主主義の名を騙って自らの利益を守ろうとする既成権力すなわち「守旧派」と見なされているのである。政治不信が政党不信へと収斂し、しかも自らの支持政党不信にまで波及してきたことは、政党政治の崩壊につながる危険信号として重視する必要がある。そこで、まず投票結果そのものについての分析から始めよう。

私の予測は、投票率は府市とも50~55%、投票総数は大阪府355~391万票、大阪市106~117万票、当選ラインが大阪府142~156万票(得票数の4割)、大阪市が53~59万票(得票数の5割)というものだった。しかし実際の投票結果は、大阪府52.9%、366.6万票、松井氏得票率54.7%、大阪市投票率60.9%、投票総数127.3万票、橋下氏得票率58.9%となった。私の誤算は、主として以下の推測の誤り(見通しの甘さ)にもとづくものだ。
 
第1は、大阪府の投票率を前回より数%アップ、大阪市投票率を同じく10%程度アップするものと見込んで府市両方とも50%台前半としたが、大阪府は3.9%アップと予想範囲に収まったものの、大阪市は17.3%と大幅にアップして60%台に乗せるという予想外の展開となった。このことは、いままでほとんど選挙に行かなかった「棄権常習層」が投票に行ったことを示すもので、今回のダブル選挙の最大の特徴といえる。

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