2012.03.31
核燃料サイクル関連施設の建設凍結を
政府は保安院の駆け込み認可を黙認か
早房長治 (地球市民ジャーナリスト工房代表)
世論が「脱原発」(菅直人・前首相)と「脱原発依存」(野田佳彦首相)に分かれる中で、新しい原子力政策をめぐる論議が原子力委員会などで進んでいる。その主要テーマの一つは「核燃料サイクルを継続するか否か」である。ところが、最近、原子力安全保安院が核燃料サイクル関連施設の建設を相次いで認可している。これに対して、専門家の間には「野田内閣は廃止直前の保安院の駆け込み認可を黙認しているのではないか」という見方が出ている。
核燃料サイクルとは、原発の使用済み燃料を再処理して再度使用するための燃料をつくり、通常の原発か高速増殖炉で使うシステムである。しかし、高速増殖炉は開発の見通しがまったく立っていないから、現在、日本では、使用済み核燃料から取り出したプルトニュウムとウランの混合酸化物であるMOX燃料をつくり、これを通常の原発で利用するプルサーマルというシステムを指している。
だが、福島第一原発の事故の後、核燃料サイクルは成り立たなくなる可能性が極めて高くなっている。54基の原発がほとんど停止し、一部が再稼働しても、その数は限定的と見られるからだ。原発の新規建設は少なくとも今後10年間は考えられない。MOX燃料をつくっても使う原発がほとんどない状態が想定されるのである。また、MOX燃料の製造量を減らすと、再処理工場やMOX工場の稼働率が下がって採算が成り立たなくなってしまう。
それにもかかわらず、電力業界と多くの政治家、官僚が核燃料サイクルに固執する主たる理由は次の4つと思われる。第1は、時間がたてば原発の再稼働に反対する世論の動向が変化するという淡い望み、第2は、MOX燃料をつくらない場合のプルトニウム処理の困難さ、第3は、核燃料サイクルを止めたら、再処理工場とMOX燃料工場にかけた建設コストと、資産として計上されている使用済み核燃料が無価値になってしまい、9電力の経営に与える打撃が大きいこと。第4は、再処理工場とMOX工場に加えて中間貯蔵施設の立地まで引き受けてくれた青森県との関係に面倒が生じることである。
野田内閣は新たな原子力政策を今年夏にエネルギー・環境会議で策定する新しいエネルギー政策の中で決定すると表明している。新・原子力政策の内容づくりは原子力委員会で昨年9月以来、進んでおり、核燃料サイクル、原発の安全規制行政、廃棄物管理と処分など10項目が課題として示された。ところが、実際には、核燃料サイクルを推進するような工事申請が業界から出されると、保安院が認可する事例が最近、続発している。
典型的な例は、電源開発の大間原発(青森県)の建設工事についての変更計画申請に対して、保安院が3月15日、「技術上の基準に適合している」として認可したことだ。同原発はMOX燃料だけを使う世界初の原発である。建設工事は約40%まで進んでいたが、昨年の東日本大震災の後、工事が止まっていた。それが保安院による変更計画の認可で工事が再開されることになったわけである。
もう1つは、日本原燃が青森県六ケ所村で進めているMOX燃料加工工場と関連施設の建設工事を保安院が1~2週間以内にも認可しようとしていることである。
このような動きに対して、内閣や首相官邸はチェックするどころか、何の反応も示していない。原子力委員会に属する専門家からは「野田内閣は安全優先を唱えながら、業界と保安院が新しい原子力政策が決まる前に核燃料サイクルへの流れを補強するための既成事実をつくろうとしているのを黙認しているのではないか」という疑念も表明されている。
内閣がちぐはぐな行動をとる背景には、原子力行政が原子力のバックエンドを極めて軽視してきたことがある。バックエンドとは、発電までの事業を除く、原子炉の廃炉や放射性廃棄物の処理、核燃料サイクルなどにかかわる事業全体を指す。バックエンドの重要性と困難性を正当に認識していれば、現在のような環境の下で核燃料サイクルを推進する動きを容認することは考えられないからである。
バックエンドに関して今後どのような態勢を構築すべきかについては、馬淵澄夫・元国土交通相ら民主党の国会議員約70人が参加している「原子力バックエンド問題勉強会」が2月上旬、核燃料サイクルの凍結、プルサーマル計画の中断などを中心とする提言を政府に提出している。野田内閣はこの提言の趣旨を尊重して、当面、核燃料サイクルを凍結すべきである。
中長期的には、バックエンド問題の解決策の策定が重要である。その中で、少なくとも従来、進めてきたような核燃料サイクルは破棄すべきである。従来のやり方では、高レベル核廃棄物が数万年にもわたって残存する上に、その最終処分場をどこに建設するかも全く見通しが立っていないのであるから。
(3月26日記す)