2013.12.31  男女同権、宗教政党禁止、軍の特権など盛り込む
 同胞団弾圧の中、エジプトで新憲法制定へ

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

2013年7月3日のクーデターで、モルシ大統領の逮捕、憲法の停止、非常事態を発令し全権を掌握したエジプト軍は、マンスール最高憲法裁判所長官を暫定大統領とする暫定政権を発足させた。軍と暫定政権は、モルシ政権与党のムスリム同胞団の弾圧を過酷に実行する一方、軍が準備していた政治工程表に沿って、新憲法の制定、正式大統領の選挙、立法議会選挙への準備作業を進めてきた。
暫定政権は年末の12月25日、前日に地中海岸の都市マンスールで起こった、警察本部への自爆テロ事件(死者16人、負傷者百人以上)をムスリム同胞団の犯行と断定し(同胞団は真っ向から否定)、同胞団を「テロリスト・グループ」と宣言した。これによって、同胞団への加入も資金提供も処罰されることになり、軍と治安機関、メディアを総動員した同胞団潰しがさらに拡がるなか、新憲法案の国民投票が1月14,15日に実施される。
新憲法案は、軍と暫定政権が任命した50人の起草委員会が4か月かけてまとめ上げ、暫定大統領が承認した。国民投票は、同胞団はじめ多くのイスラム組織が投票ボイコットを宣言、3年前のムバラク打倒「1月25日革命」を先導したリベラルな若者組織「4月6日運動」などは反対投票を呼びかけている。
新憲法案をムルシ政権下の12年12月に制定された停止中の憲法と比べると、起草委員の中のリベラル派や左派など少数の革命勢力の強い主張もあって、基本的人権と自由の保障について、内容的にはほぼ維持された。「国家が批准した国際人権諸条約に従う」と明記、男女平等が明文化されるなど国際人権団体も評価する一方、集会やデモについて「法に従ってのみ実施される」と最近の厳しいデモ規制法を合憲化する条項などもある。そのデモ規制法に反対して、治安当局への届け出、許可なしに抗議デモをして逮捕された「4月6日運動」の指導者アハメド・マーヘルら3人が12月22日、裁判所から重労働3年、罰金4千ポンド(約70万円)の有罪判決を受けたばかり。
大きな支持を集めたムスリム同胞団の自由公正党のような宗教政党は禁止された。
軍は国防相を選任し、軍内部の人事と予算へ政府や議会からの介入を排除、軍事法廷で民間人を裁く制度など、さまざまな特権を確保している。12年制定の前憲法では、「大統領は国軍の最高司令官」と明記され、モルシ大統領は就任後、人事権を駆使して国防相と軍のトップ以下主要ポストを入れ替え、あるいは退役させたが、新憲法案では、大統領の軍に対する権限は不明確。
国民投票で新憲法が承認・制定されれば、他の中東諸国への影響もある。その主な注目点を以下に紹介しよう。

(1) イスラム条項の存続と廃棄
国の基本にかかわる条文「イスラムは国家の宗教、アラビア語は公的言語。シャリーア(イスラム法)は立法の主な法源」は維持。しかし、シャリーアの諸原理を区分けして列挙した前憲法219条は廃棄。
(2) 宗教政党の禁止
(新憲法案)「宗教に基づく、あるいは性別、出自、宗派、地理的差別に基づく政治活動、政党結成は禁止される」
(前憲法)「性別、出自、地域の差別に基づく政党は結成できない」
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