2014.05.31
国民の護憲意識に歴史的変化が生じているいま、画一的な「保革対決」(保主=改憲、革新=護憲)は意味がない、「護憲対決」(反動=改憲、保守・革新=護憲)の構築こそが目下の課題なのだ
~関西から(138)~
先月、神戸で開かれた「護憲円卓会議・兵庫」の発足シンポジウムにおいて、私は「当面の安倍政権の改憲攻勢に対抗するためには、自民・公明の改憲反対派とも連携するなど護憲運動のコペルニクス的転回が必要だ」と問題提起した。これは神戸の革新勢力などが「自共対決」などいった「針の穴から天をのぞく」ような視野狭窄的な運動方針から脱皮できず、目下、支持政党を超えて大きく広がっている護憲世論の幅広い結集に失敗しているからだ。政治情勢をすべて政党対決の視点からしか捉えられない「自共対決」論は、狭い党内世論のなかでは通用しても一歩外に出れば「虚構の理論」でしかない。こんなことがいまだ理解されず百年一日の如く唱えられているのは、残念であり悲しいことだ。
政党活動は当該政党にあっては全てであっても、社会全体から見れば一部の活動でしかない。社会全体の政治動向を踏まえた情勢分析でなければ「独り善がり」の方針になり、そのうちにみんなから相手にされなくなってしまう。またそれとともに組織自体が衰退化の道をたどり、政治的影響力も枯渇していく。神戸の革新勢力の現状を見ていると、こんな「組織衰退法則」が絵に描いたように進行しているのではないかと憂慮(確信)する。
何度も言うように、私は「保守=改憲」「革新=護憲」といった従来の狭い認識を超えなければ、現在の改憲の危機を乗り越えることができないと考えている。これだけ国民の批判が高まっているにもかかわらず安倍政権が強硬姿勢を崩さないのは、何よりも国会内における「1強多弱体制」にもとづく強権的驕りがあり、加えて世論動向などを無視して突き進む国家主義政権(極右政権)特有の攻撃的体質が政権内部で根絡みになっているからだ。また読売・日経・産経新聞など巨大な発行部数をもつ全国紙が系列テレビ局などを含めて改憲路線を鼓舞し、「アベノミクス・キャンペーン」を張っていることの影響も大きい。それにNHKが安倍政権に対する批判的な論調を極力自粛していることも、安倍内閣の高支持率の継続に貢献している。こんなことが全て安倍政権の強気一本槍の政治姿勢を支えているのである。
しかしその一方、この1年間の護憲世論が過去のいかなる時期よりも顕著な高まりを見せ、安倍政権の改憲路線に対する国民的批判が飛躍的に広がっている状況もまた見ておかなくてはならない。この間の憲法に関する世論動向の特徴は、第1にマスメディアの如何を問わず(読売・産経・日経も含めて)護憲世論が改憲世論を一貫して凌駕するようになったこと、第2にその変化の程度が過去の如何なる時期よりも大幅なものであること、第3に保守・革新の支持政党を超えて護憲世論が国民的規模で大きく広がっていることの3点である。
朝日新聞社の憲法世論調査(2014年2~3月実施、郵送法)の詳しいデータが月刊誌『Journalism』(朝日新聞社、2014年5月号)に公表された。質問ごとに性別・年齢別・職業別・支持政党別のクロス集計が記載されているので、その中から支持政党別の分析結果をみよう。それによると自民党支持者および公明党支持者の各項目に対する回答傾向は、以下のようにこれまでの革新政党支持者の傾向とほとんど変わらないことが注目される。そこには自民・公明支持者は「第3極政党」(維新、みんな、結いなど)などよりも遥かに護憲意識が高く、安倍政権が脱却を掲げているはずの「戦後レジーム=戦後憲法体制」を明確に支持していることが出ているのである。
(1)憲法第9条について、「変える方がよい」自民43%、公明23%、「変えない方がよい」自民
49%、公明68%
(2)非核三原則について、「維持すべきだ」自民77%、公明86%、「見直すべきだ」自民18%、
公明9%
(3)憲法第9条を変え、自衛隊を正式の軍隊である国防軍にすることについて、「賛成」自民37%、
公明18%、 「反対」自民56%、公明76%
(4)集団的自衛権について、「行使できない立場を維持する」自民52%、公明69%、
「行使できるようにする」自民40%、公明27%
(5)いまの日本の憲法は全体として、「よい憲法」自民61%、54%、「そうは思わない」自民29%、
公明38%
(6)いまの憲法ついて、「変える必要がある」自民52%、公明47%、「変える必要はない」自民
41%、公明49%
(7)憲法第96条を変えることについて、「賛成」自民42%、公明35%、「反対」自民49%、公明
53%
このように、これまで憲法9条を軸に形成されてきた国民の護憲意識がさらに強化され、集団的自衛権行使など海外での軍事行動へ反対する世論がほぼ3分の2のレベルに達したことは、“国民世論の構造変化”だと言っても過言ではない。また自民・公明支持者とりわけ自民支持者においても護憲世論が支配的になったことは、戦後の憲法状況を考える上で“歴史的変化”だといってよい。安倍政権のなりふり構わぬ改憲路線が国民の強い危機意識を呼び起こし、与党支持者も含めて「戦後レジーム=立憲主義=平和主義」への理解が国民的規模で大きく広がったのである (つづく)。
広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)
先月、神戸で開かれた「護憲円卓会議・兵庫」の発足シンポジウムにおいて、私は「当面の安倍政権の改憲攻勢に対抗するためには、自民・公明の改憲反対派とも連携するなど護憲運動のコペルニクス的転回が必要だ」と問題提起した。これは神戸の革新勢力などが「自共対決」などいった「針の穴から天をのぞく」ような視野狭窄的な運動方針から脱皮できず、目下、支持政党を超えて大きく広がっている護憲世論の幅広い結集に失敗しているからだ。政治情勢をすべて政党対決の視点からしか捉えられない「自共対決」論は、狭い党内世論のなかでは通用しても一歩外に出れば「虚構の理論」でしかない。こんなことがいまだ理解されず百年一日の如く唱えられているのは、残念であり悲しいことだ。
政党活動は当該政党にあっては全てであっても、社会全体から見れば一部の活動でしかない。社会全体の政治動向を踏まえた情勢分析でなければ「独り善がり」の方針になり、そのうちにみんなから相手にされなくなってしまう。またそれとともに組織自体が衰退化の道をたどり、政治的影響力も枯渇していく。神戸の革新勢力の現状を見ていると、こんな「組織衰退法則」が絵に描いたように進行しているのではないかと憂慮(確信)する。
何度も言うように、私は「保守=改憲」「革新=護憲」といった従来の狭い認識を超えなければ、現在の改憲の危機を乗り越えることができないと考えている。これだけ国民の批判が高まっているにもかかわらず安倍政権が強硬姿勢を崩さないのは、何よりも国会内における「1強多弱体制」にもとづく強権的驕りがあり、加えて世論動向などを無視して突き進む国家主義政権(極右政権)特有の攻撃的体質が政権内部で根絡みになっているからだ。また読売・日経・産経新聞など巨大な発行部数をもつ全国紙が系列テレビ局などを含めて改憲路線を鼓舞し、「アベノミクス・キャンペーン」を張っていることの影響も大きい。それにNHKが安倍政権に対する批判的な論調を極力自粛していることも、安倍内閣の高支持率の継続に貢献している。こんなことが全て安倍政権の強気一本槍の政治姿勢を支えているのである。
しかしその一方、この1年間の護憲世論が過去のいかなる時期よりも顕著な高まりを見せ、安倍政権の改憲路線に対する国民的批判が飛躍的に広がっている状況もまた見ておかなくてはならない。この間の憲法に関する世論動向の特徴は、第1にマスメディアの如何を問わず(読売・産経・日経も含めて)護憲世論が改憲世論を一貫して凌駕するようになったこと、第2にその変化の程度が過去の如何なる時期よりも大幅なものであること、第3に保守・革新の支持政党を超えて護憲世論が国民的規模で大きく広がっていることの3点である。
朝日新聞社の憲法世論調査(2014年2~3月実施、郵送法)の詳しいデータが月刊誌『Journalism』(朝日新聞社、2014年5月号)に公表された。質問ごとに性別・年齢別・職業別・支持政党別のクロス集計が記載されているので、その中から支持政党別の分析結果をみよう。それによると自民党支持者および公明党支持者の各項目に対する回答傾向は、以下のようにこれまでの革新政党支持者の傾向とほとんど変わらないことが注目される。そこには自民・公明支持者は「第3極政党」(維新、みんな、結いなど)などよりも遥かに護憲意識が高く、安倍政権が脱却を掲げているはずの「戦後レジーム=戦後憲法体制」を明確に支持していることが出ているのである。
(1)憲法第9条について、「変える方がよい」自民43%、公明23%、「変えない方がよい」自民
49%、公明68%
(2)非核三原則について、「維持すべきだ」自民77%、公明86%、「見直すべきだ」自民18%、
公明9%
(3)憲法第9条を変え、自衛隊を正式の軍隊である国防軍にすることについて、「賛成」自民37%、
公明18%、 「反対」自民56%、公明76%
(4)集団的自衛権について、「行使できない立場を維持する」自民52%、公明69%、
「行使できるようにする」自民40%、公明27%
(5)いまの日本の憲法は全体として、「よい憲法」自民61%、54%、「そうは思わない」自民29%、
公明38%
(6)いまの憲法ついて、「変える必要がある」自民52%、公明47%、「変える必要はない」自民
41%、公明49%
(7)憲法第96条を変えることについて、「賛成」自民42%、公明35%、「反対」自民49%、公明
53%
このように、これまで憲法9条を軸に形成されてきた国民の護憲意識がさらに強化され、集団的自衛権行使など海外での軍事行動へ反対する世論がほぼ3分の2のレベルに達したことは、“国民世論の構造変化”だと言っても過言ではない。また自民・公明支持者とりわけ自民支持者においても護憲世論が支配的になったことは、戦後の憲法状況を考える上で“歴史的変化”だといってよい。安倍政権のなりふり構わぬ改憲路線が国民の強い危機意識を呼び起こし、与党支持者も含めて「戦後レジーム=立憲主義=平和主義」への理解が国民的規模で大きく広がったのである (つづく)。