2014.11.29 一事不再理
判決が確定した事件は再び起訴することができない

松野町夫 (翻訳家)


テレビ朝日の刑事ドラマ、相棒(season 13)第3話 『許されざる者』は、殺人の容疑で逮捕・起訴され、裁判で無罪が確定し釈放された男が「あれは本当は自分がやった」という手記を出版しようとして、その直前に、彼の弁護を担当した女性弁護士によって殺害されるという物語である。

一事不再理とは、ひとつの事件(一事)は再び審理されないの意。つまり、判決が確定した事件は再び起訴できないことをいう。判決確定後は、たとえ当人が真実を告白し、それを裏付ける明白な証拠が提示されたとしても、警察は彼を逮捕できない。しかしこれは、私たち一般人の素朴な感覚すれば納得がいかない。罪を犯せば当然、罰を受ける。殺人という大罪を犯しながら、罰を受けることなく、のうのうと暮らしていけるのはおかしいではないか。

以下は、世界大百科事典(解説: 田宮 裕)から一部抜粋して引用する。

一事不再理 (いちじふさいり)
ある犯罪事件で一度訴追されれば、あとで同じ事件について再度の訴追を受けないという原則。すでにローマ法で ne bis in idem として確立し、中世から近世初期の糾問主義の時代に一時否定されたことがあるものの、フランス革命後は、近代刑事訴訟法の基本原則として、ほぼどこの国でも承認されている。日本国憲法にもこれを宣言した規定がある(39条)。 【以下省略】

ちなみに、ne bis in idem はラテン語で、英語に逐語訳すると not twice in the same 同一物について(訴訟は)2度存在しない、つまり一事不再理(= double jeopardy)の意。
double jeopardy: the act of causing a person to be put on trial two times for the same crime.
二重の危険: 同一の犯罪で被告を再度裁判にかけること。

たしかに日本国憲法 39条には、次のように明記されている。

第39条〔遡及処罰の禁止・二重処罰の禁止〕
何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2011によると、この第39条は 「被告人に不利益な変更を禁止する趣旨であるから、被告人に有利な変更 (有罪を無罪としたり、より軽い罪や刑を言い渡すこと) は憲法上さしつかえない」とある。

なるほど、そうか!一事不再理というのは、国家権力から被告人の人権を守る趣旨があったのか。それなら納得もいく。そういえば、東電OL冤罪事件では、無期懲役の判決を受けて収監されていたネパール人男性が、証拠物のDNA鑑定の結果、第三者の犯行である疑いが強まったため、再審が認められ、最終的に無罪・釈放された。

重罪を犯しながら、最後まで嘘をつきとおして無罪判決を勝ち取る被告人もいると思うが、しかし、だからと言って、一事不再理の原則を改めて、被告人に不利な変更を伴う再審まで認め始めたら、むしろ弊害の方が大きくなるのは明白だ。「若気の過ち」「魔が差す」など、人は誰でも罪を犯す可能性がある。昔の事件でいつまた起訴されるかわからないのでは、被告人は心配で夜もおちおち眠れない。起訴するのは権力。権力は常に暴走する危険をはらんでいる。一事不再理は、権力から被告人の人権を守る重要な役割を果たしている。