2017.05.29  「貧しい人々の犠牲で金持ちをさらに富ませるトランプ予算案」(Wポスト)
坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

トランプ米大統領は23日、2018年度(今年10月―来年9月)の連邦予算案を発表した。米議会史上最低の支持率の大統領が、貧しい多数の国民の社会保障を大幅に削り、それで浮かせた予算で少数の裕福な国民への資産税と累進課税を大幅に軽減するとともに、軍事予算を大幅に増額する。今年度比で、国防予算9%増、国内治安予算7%、退役軍人予算6%増。メキシコとの国境の壁建設も進める計画だ。
昨年の大統領選挙運動でトランプは、民主党のクリントン候補を、ウオール街の金持ちたちの代表だと激しく攻撃し、自分は貧しいアメリカ人の仕事と収入を増やすと約束、とくに中西部の貧しい白人層に支持を広げて勝利したといわれている。就任後100日が過ぎたが、一向にプアー・ホワイトと呼ばれる貧しい人たちの仕事や、賃金が増える兆しもなく、オバマ政権の努力で拡大した医療保険、貧しい人たちへの生活支援が、早くもごっそり奪われようとしている。トランプに投票した、貧しい白人層の人たちは、いまでもトランプを支持し,期待をつないでいるのだろうか。
長い年月にわたって民主主義社会を築いてきたアメリカ合衆国で、こんなことが起こっていいのだろうか。続くのだろうか。ここでは、米国のメディアがどう報道したかを、ニューヨーク・タイムズとともに国際的にも高く信頼されているワシントン・ポスト2017.5.23日付けの報道のごく一部を、紹介したい。ニュースと自社の主張、分析、識者の発言を豊富に報道しているので、5月23日の本紙のニュースと電子版での主解説をそれぞれ最初の部分だけ紹介しよう。
▼ワシントン・ポスト本紙
トランプの予算案 社会のセーフティ・ネットからどんなに削減するのか
デニス・ルー、キム・ソッフン記者

23日、トランプ大統領は、2018年度予算案を発表した。それによると、多くの救貧プログラムが大幅にカットされ、フード・スタンプの4分の1以上、子供健康保険の19%が削られる。
さまざまな貧困者支援事業の大幅なカットを第一にしようとしているこの予算案は、トランプが各省庁や国防当局に、現行予算の変更を求める私案を示してから2か月たっている。最大の予算カットは、芸術、科学研究、対外援助である。
(注)フード・スタンプ:4千万人以上の低所得者への食費支援

主な予算削減項目 
SNAP(フード・スタンプ計画) 現行計画(10年間で6、720億ドル)を4、787億ドルに減額-28.8%、
CHIP(子供健康保険、600万人の低所得者の子供が受給) -19.4%
MEDICAID(低所得者7,700万人への公的医療保険) -15.5%
TANF(極低所得者の両親と子供への経済支援)-13.1%
失業保険 ―11.5%
低所得労働者減税 ―8.3%

▼ワシントン・ポスト電子版
貧しい人々の犠牲で金持ちをさらに富ませるトランプ予算
マックス・ユーレンフロウンド(政治ニューレター発行・執筆者)

オバマ前大統領にとって、金持ちの米国民と貧乏な米国民を隔てているギャップは、彼が2013年の演説で述べたように「われわれの時代の、頑強な挑戦対象」だった。彼と彼の政権は8年にわたり、不平等の縮小を国家政策の中心的な目標として、野党共和党や経済的現実に立ち向かってきた。
にもかかわらず、米国はもっとも不平等な先進国の一つなのだが、この23日にトランプ大統領は、彼の前任者の不平等縮小への努力を決定的に放棄してしまった。
彼の最初の連邦予算案に示された政策は、金持ちの収入を増やし、その一方で貧乏人から奪うことになるだろう。
トランプは税制改革案を明らかにし、それには 主に大金持ち納税者が支払ってきた不動産税と累進課税の上限引き下げによる何兆ドルもの縮小ないし廃止が含まれる。彼はメディケイド(低所得者への公的連邦医療保険)への支出を大幅に縮小するとともに、各州に対しフード・スタンプはじめ主要な貧困支援事業での厳しい適用制限を可能にする。