2022.08.11 8月3日 我孫子から
韓国通信NO702

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

 友人読者から「韓国通信」は「看板に偽りあり」と皮肉られた。韓国について考えることは山ほどあるのに、つい、日々起こる国内と世界情勢のほうに目が向いてしまう。
 2日、米国のペロシ下院議長が台湾を訪れ大騒ぎになった。激増するコロナ患者、長引くウクライナ戦争、国葬をめぐるニュースで私の小さな頭脳はパンクしそうだった。

 8月3日、モヤモヤした気分で駅前に出かけた。連日35度を超す猛暑である。熱中症を妻は心配したが水筒とタオルを持ってクソ暑いなか出かけた。
 ステッカーは「九条壊すな!」「戦争させない」にくわえて新作「国葬NO!」の3種。焼けつくような暑さを避けてバス停の屋根の下で立ち続けた。

 「私は国葬には絶対反対だね」と言いながら年配の女性が話しかけてきた。「安倍は悪い。そんな人のために何故税金を使うんだ」と語気を強めた。
 「国民の半分が反対しているのに政治に利用するために国葬をするのは死んだ人にも気の毒」と安倍に同情するようなことを言ったら、「気の毒なことはない。変な宗教からお金までもらって、自業自得だ。同情する必要はない」と、元気なおばさんに活を入れられてしまった。
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 写真を撮らせて欲しいと男性が声をかけてきた。「どうして?」と言ったら、「めずらしいから」と日本語がほとんどわからない中国人が翻訳機を持って話しかけてきた。

 「何故国葬に反対するのか」。翻訳されたスマホの画面を見て私が答えた。「国葬に値する政治家ではない」
 「何が問題なのか」と画面はたずねる。
 「一口では言えないけど安倍元首相は国政を私物化した挙句、嘘をついてごまかした」
 「選挙で彼を選んだのは国民ではないですか」。彼が画面に向かって話すと日本語画面が出てくる。同時通訳だ。
 「民主的に選ばれても、悪いことをしたら批判するのは当然」。彼はうなずく。
 「一人でこんなことをしても意味がないように見えるが」と厳しい質問がスマホの画面に映し出された。私は強気になって、「少数者が多数者になる可能性はある」
 彼はすかさずスマホに語りかけた。「日本の民主主義は素晴らしい。中国人として学びたい」
 「謝謝」。私が知っている唯一の中国語だ。
 「中国はどうしたら民主主義国家になれると思うか」。難しい質問には少しあわてた。
 「中国、韓国、アメリカの民主主義についてあまり関心はない。僕には日本の民主主義が大切。中国の政治については中国人が考えるべきだ」と突き放すと彼は深くうなずき、「日本に来たばかりなのに日本人とこんな話ができてとてもうれしい」

 日本語学校で勉強中という彼は別れ際に「あなたを尊敬する」とお世辞を画面に残して熱い握手をして改札ホームへ消えていった。
 基本的な疑問から始まり、運動論、民主主義にまで及んだ彼の質問に舌を巻いた。

 バス停でこちらを眺めていた小学生たちに写真を頼んだら、ワイワイガヤガヤと撮ってくれたのが上記の一枚だ。「国葬について知っている?」と聞かなかったことが悔やまれる。
 
 この日、駅頭で会ったもう一人の中国人留学生のことも触れておきたい。
 「先生何しているのですか」と声をかけてきた。戦争反対と憲法守れ、国葬反対のステッカーを説明した。彼は私がボランティアをしている日本語教室に通ってくる地元の大学に通う留学生だ。その彼から先月の初めにコロナに感染したらしいとSOSのメールが来た。紹介できる病院を探すのに苦労したが、結局救急車で病院に搬送され自宅療養をした。全快して久しぶりに駅頭で再会した。私のスタンディングに興味深げだった。

 国葬の話を聞いた時、わが国で国をあげて追悼する人物として真っ先に思い浮かんだのはアフガニスタンで凶弾に倒れたベシャワール会の中村哲医師だった。武力ではなく愛の力でアフガンのために尽くした日本人として世界に誇るべき人物だ。
 それに比べて評価が全く異なる人物、射殺した容疑者を通して明らかになってカルト宗教の広告塔になった故人を国葬することへの批判の声は日ごと高まっている。反社会的集団に汚染された多くの政治家が次々と明らかになり国葬どころではなくなった。「日本の民主主義は素晴らしい」。通行人の中国人がもらした感想が面映ゆく感じられた。

 <語り継がなければならないこと>
 NHKの連続ドラマ『ちむどんどん』のヒロインの母親役の仲間由紀恵は好きな女優さんだ。ドラマで沖縄戦の経験した親として子どもたちの幸せのために戦争の悲惨さを伝えるシーンの説得力に感動した。
 雑誌「通販生活」<2022盛夏号>で読者から寄せられた「語りつぐ戦争のはなし」を読んだ。五木寛之、草笛光子、八名信夫さんらの話も興味深い。
 戦争を体験した最後の世代生存者たちが語る空襲、疎開、引き上げの話は戦後77年、戦争体験のない世代に属する私にはいつもになく貴重に思えた。特集を組んだ作家森まゆみさんの仕事はとても貴重だ。「戦争を知らない」世代と言われ続けてきた私がいつの間にか先輩たちの経験を引き継ぎ、次の世代に伝える番になった。
 戦争を体験した人たちが次々と亡くなっていく。残された者に何が出来るのか。先月、はからずも80才を迎えた。まだ人生の賞味期限は切れていない。やるべきことは多い。