2010.01.06 対米盲従派に盲従する大手メディア 
 普天間は米軍の本来計画通りグアム移設が正解

伊藤力司 (ジャーナリスト)
    

米海兵隊の普天間飛行場の移設問題で日本の大手メディアの報道ぶりは異常だ。これらの報道によれば、普天間基地を辺野古に移設するという2006年の日米合意実行を鳩山首相が早く決断しないので、オバマ大統領は怒り狂っているということになる。

例えば昨年12月7日付の毎日新聞である。1面に「米本国は怒っている/普天間、首相の布石空振り」の大見出しで、12月4日の日米閣僚級作業部会でルース駐日米大使が岡田外相と北沢防衛相に「本国は怒っている。鳩山首相は11月の首脳会談でオバマ大統領に『私を信じてほしい』とまで言ったではないか。なぜこうなるのか。このままでは普天間は固定化する」と詰め寄ったと、書いている。まるで記者が臨席していたかのような書き方である。

ワシントン12月25日発の時事通信電もすごい。「普天間移設問題をめぐり、鳩山首相に対するオバマ政権の不信感が決定的に高まりつつある。偽装献金事件などの影響による支持率下降を踏まえ、米側は早くも『ポスト鳩山』を視野に入れ始めた」というのだ。まるで安倍、福田、麻生と1年ごとに代わった政局記事の趣である。この記事は続けて「21日昼、クリントン国務長官に急きょ呼び出された藤崎一郎駐米大使に、同席したキャンベル国務次官補は、鳩山内閣の支持率が5割前後に急落したことに触れ、政権の行方について問いただした」と、これまた見てきたように書いている。

12月21日のワシントンは大雪のため国務省は半ば閉鎖状態だったが、クリントン長官に呼び出された<と主張する>藤崎大使に対し、長官は普天間飛行場を辺野古沖合に移す日米合意の早期履行を求めたと、22日付夕刊各紙は大きく報じた。「米は強い対日不信感」「異例の大使呼び出し」などの大見出しが躍った。しかしこの後の国務省クローリー報道官(国務次官補)の記者会見によると、クリントン長官が藤崎大使を呼び出したのではなく、大使がキャンベル次官補と会うために国務省に立ち寄って、たまたま空いていたクリントン長官とも話し合ったということだ。
このクローリー発言は国務省のホームページに掲載されているが、同報道官はさらに
「われわれは(辺野古移転の)合意を守る立場だが、この問題で日本側との話し合いを続けるつもりだ」と淡々と語っており、鳩山首相に不信感をたたきつけたという感じではない。しかし日本の大手メディアはこのクローリー発言を黙殺した。筆者の知る限り「クリントン長官が藤崎大使を呼び付けたのではない」と報じたのは、TBSテレビと琉球新報だけだった。だから日本の大半の読者は「オバマさんやクリントンさんは、鳩山さんに不信感を持っているのかな」というふうに刷り込まれてしまっただろう。

いくつかの良心的ブログが藤崎大使とクローリー報道官のギャップを突いて、クローリー発言を紹介している。実は筆者もこれら良心的ブロガーのおかげで、藤崎大使の「やらせ」に気がついた。これより先、コペンハーゲンで開かれたCOP15(気候変動枠組み条約締約国会議)に出席した鳩山首相が、夕食会の席上隣り合わせになったクリントン長官に「普天間問題の結論を2010年に持ち越した経緯を説明し、基本的に理解してもらった」というニュースが12月19日の各紙に掲載されていた。これはまずいと思った藤崎大使が「クリントン長官は怒っている」とメディアに書かせようとしたのであろう。

かつて霞クラブ(日本外務省記者クラブ)に非常勤で在籍したことのある筆者が類推するに、在米大使館は非公式に設けた“記者クラブ”で日米関係を中心に取材し、報道する記者たちの「面倒を見ている」のだろう。ワシントンで日米関係を担当する記者たちはほとんどが政治部出身だ。たいていが外務省や防衛省の記者クラブに属した経験があり、在米大使館に在勤する外務省や防衛省のエリート官僚を取材源としている。政治部出身だから外信部、外報部出身者より英語コンプレックスが強い。だから米当局者への直接取材よりは大使館の「日米関係筋」から話を聞いて書く。

こうした環境の下、藤崎大使以下在米大使館やその周辺の「対米盲従派」が、大手メディアの担当記者に「鳩山首相の優柔不断がオバマ政権を怒らしている」といったキャンペーンを張らせるのは容易なことだ。しかも日本でも大手メディアの政治部記者はあまりにも長かった自民中心政権の取材に慣れ切って、鳩山・小沢コンビが描く政治構想を理解していない。「政治」報道ではなくて、小泉、安倍、福田、麻生と1年ごとに代わった、これまでの「政局」報道に明け暮れてきたからだ。

こうして自民党・外務・防衛官僚を中心とする「対米盲従派」に盲従する大手メディアという構図が、2010年の日本メディア界の現状である。日刊ゲンダイのような駅売り紙とか、続々と登場している「志あるブログ」の方がはるかに真実を伝えているのだが、大方の読者はまだ朝日、毎日、読売、日経、産経などの方を信じているだろう。メディアのおかげで長年飯を食ってきた元サラリーマン・ジャーナリストとしては、「嗚呼悲しいかな」の一言(ひとこと)に尽きる。


さて普天間飛行場の問題である。これはつとに優れたブロガーたち(例えば池田香代子さんの<池田香代子ブログ=http://blog.livedoor.jp/ikedakayoko/>とか、高野孟氏の<THE JOURNAL= http://www.the-journal.jp/>)が詳しく伝えているように、普天間飛行場は2006年5月の「在日米軍再編計画」に示されたグアムへの移転が正解なのである。

これは普天間飛行場の地元である宜野湾市の伊波洋一市長が昨年11月26日に、鳩山首相はじめ与党国会議員たちに提示した「普天間基地グアム移転の可能性について」と題する文書(http://www.masrescue9.jp/index_images/iwarepo.pdf)を読めば一目瞭然である。この文書によると、普天間代替地として辺野古が浮上したのは1996年のクリントン・橋本政権時代の日米協議だったが、その後辺野古案は10年間棚ざらしに置かれた。それがブッシュ・小泉政権時代に合意された2006年5月「在日米軍再編ロードマップ」で、在沖米海兵隊は2014年までに普天間のヘリ部隊も含めグアムに移動することが決まり、日本はそのために巨額の「引越料」を拠出することを約束した。

そもそも普天間問題は、1995年の普天間基地所属米兵による少女強姦事件がきっかけである。この事件に怒った沖縄県民の反米基地闘争の盛り上がりに恐れをなした米軍当局が普天間基地の閉鎖を提起したのだ。当時米軍が代替施設として要求したのは「長さ45㍍のヘリコプター発着帯」だけだった。それが沖縄側の公共事業発注への思惑が加わり、沖縄北部の名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沖合を埋め立て、新しいヘリ部隊基地をつくるという2006年の日米合意になった。これに仲井間弘多・沖縄県知事や島袋吉和・名護市長の思惑が絡んでいたのは間違いあるまい。

上記のキャンベル国務次官補は1995年当時、クリントン政権の国防次官補代理として少女強姦事件の事後処理に奔走し、普天間飛行場の辺野古移設案をつくる米側の実務当局者だった。当時キャンベルの下にいたのがグレグソン現国防次官補である。このキャンベル=グレグソン・コンビこそ、藤崎大使を筆頭とする在米日本大使館の「対米盲従派」のパートナーである。この連中を主なニュース・ソースとしているのだから、ワシントン発のニュースがためにする「誤報」の連続になるのは当然だ。

「八方美人」とか「優柔不断」とかメディアに酷評されてばかりの鳩山さん。あれこれ発言をぶれさせながらも、実はヘリ部隊も含めた在沖米海兵隊をグアムに移動させるという本来の米軍再編計画に沿った普天間飛行場閉鎖を、オバマ大統領・クリントン国務長官に納得させようと模索しているのではあるまいか。その意味でも、海上自衛隊によるインド洋給油サービスを今月でやめる鳩山政権の方針に、オバマ政権がことさらに文句をつけていなことに大手メディアは注目すべきである。
Comment
ちきゅう座から来ました。
辺野古には2005年から関わっています。
今年は国際ジュゴン年です。秋には名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議もあります。基地建設からジュゴンを守ろうの声を高めれば、特にアメリカのグリーンな人の力を
集めれば、辺野古は守れると信じています。
すでにジュゴン訴訟や種の保存法訴訟などの実績もあります。
宮坂亨 (URL) 2010/01/06 Wed 21:38 [ Edit ]
伊藤力司様

  はじめまして。邪魔大国と申します。ずいぶん時間が経ってしまいましたが、この問題、重要だと思うのでコメントさせてください。
  いわゆる藤崎大使の「呼び出し」問題について、「やらせ」と書かれていますが、私はこの点若干疑問をもっています。伊藤さまが「良心的」といわれる皆さんは、主にクローリー国務次官補の発言を根拠に、「呼び出しはなかった」と結論付けておられますが、他方でそれと矛盾する情報にはあまり注意を払っておられません。

  まず、1月7日付読売新聞に掲載された、読売新聞とカート・キャンベル米国務次官補との単独会見に関する報道では、キャンベル氏は「先月21日のクリントン国務長官と藤崎一郎駐米大使の緊急会談については、『国務長官が大使級と会談することはほとんどないが、非常に重要なので、米国の考えを直接伝えるために、長官が呼び出した』と説明した」と報道されています。

  次に、昨年12月25日の岡田外務大臣の会見記録では、日刊ゲンダイ記者と岡田外相のやりとりがこう記載されています。(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_0912.html

【日刊ゲンダイ 細田記者】今週月曜日の話に戻って恐縮ですが、クリントン米国務長官が藤崎駐米大使を呼んだというけんですが、22日の国務省のクローリー国務次官補の会見で「呼んだのか」という質問に対して「藤崎駐米大使は“STOP BY”立ち寄ったのである」要するに「藤崎大使の方が来た」とコメントしていますが、事実に食い違いがあると思いますが、事実はどうなっているのでしょうか。

【大臣】先ず、呼ばれもしないのに突然行ったというのは考えらません。外交について、それなりに経験のある方なら誰もが分かることだと思います。突然、大使が外務省にやって来て「(大臣に)会わせろ」と言って「分かりました」と言って大臣が会うというのは非現実的であります。藤崎駐米大使は呼ばれもしないのに、何もないのに行ったということは100%ありえないと思います。では、どちらが先に声をかけたのかということは、私(大臣)はそんなに大事な話ではないと思いますが、お互い必要だと思ったから合意が成立して会見になった訳です。私(大臣)が承知しているところでは、報道官のその発言は正確ではないと、米国政府の正式な見解ではありませんが、そのような発言は承知をしております。

  キャンベル国務次官補の発言と、岡田外務大臣の発言は、若干ニュアンスの違いはありますが、クローリー国務次官補の発言とは明らかに違っています。

  キャンベル国務次官補の発言は、公式な報道会見の場ではなく、読売との単独会見の中での発言ですが、それでも国務次官補として発言していることの重みは無視できません。もちろん、伊藤様ならキャンベルは最初からグルだ、と主張されるのでしょうが、岡田発言についてはどう説明されるのでしょうか。岡田氏が会見で触れている「クローリー発言を否定するアメリカ側の発言」は、キャンベル氏の発言のことかもしれません。しかし岡田氏の論拠はそれだけではありません。伊藤様は、岡田外相もグルだ、とお考えなのでしょうか。

  もし、多くの方が疑っておられるように、藤崎大使が世論をミスリードするために嘘をついたのであれば、それこそ大問題で、藤崎氏は解任されてしかるべきでしょうし、天木直人氏が書かれているように、鳩山首相が岡田外相に指示してでも、藤崎氏を解任するでしょう。( http://www.amakiblog.com/archives/2009/12/24/ )その動きがないのは不思議です。藤崎氏が嘘をついたとすれば、それは鳩山首相にとっては許し難い反逆であるはずです。しかし、鳩山首相は12月30日には岡田外相、藤崎大使と公邸で会った、と報道されています。これも不思議ですが、藤崎嘘つき説の皆さんはふこれに触れておられません。

   私としては、この問題について絶対的自信はありませんが、「大使は自ら立ち寄った」と断定するのを躊躇させる有力な証拠があると思います。どちらが声をかけたか、というのは分かりませんが、どちらかといえばアメリカ側から呼ばれたのだろうと推測しています。藤崎大使が自分のほうから訪ねて行って、普通に話したのを「異例の呼び出しを受けた」と一方的に発表すれば、アメリカ側が自ら否定するのではないかと思いますし、大使がアメリカ側に「呼び出してくれ」と依頼したのであれば、またそうした疑いがあるのならば、鳩山首相の対応は解せないというほかありません。自らの政権を揺るがしかねない大問題ですから。


  もちろん、アメリカ側が呼び出したのなら、なぜクローリー国務次官補が「立ち寄ったのだと思う」と言ったのか、という疑問は残ります。しかし、アメリカ側の立場に立てば、日本の世論の反応を考慮したときに、「アメリカが高圧的な態度に出ている」という印象を与えてはまずい、という判断が働き、言い淀んだ上に「立ち寄ったのだと思う」というぼかし気味の表現をした、という可能性は十分あると思います。

  私の推測は誤りかもしれませんが、少なくとも、多くの「良心的?」ブロガーの方たちが、私が引用したような情報に関心を示さず、クローリー発言をもとにその主張を展開されているのは不思議でもあり、不用意だと思います。ご意見を賜れば幸いです。

   長文失礼いたしました。

               邪魔大国
邪魔大国 (URL) 2010/01/21 Thu 00:04 [ Edit ]
邪魔大国さま;
コメント有難うございました。寡聞にして読売のキャンベル・インタビューと日刊ゲンダイ記者の岡田とのやりとりは知らなかったので、注意を喚起されました。ただキャンベルは普天間移設案をつくり、現在も普天間案が最善と言っている張本人ですから、彼の言い分は額面通り受け取れないでしょう。岡田の発言は一般論を述べただけでしょう。
問題は藤崎が日本人記者団に「国務長官に呼びつけられた」というストレートな表現をしたのか、記者団が「呼びつけられた」と受け取れるような表現をしたのか。いずれにしても記者団は国務長官が大使を呼びつけて文句を言ったと判断し、これは大見出しになるぞと張り切って、あのように大げさな原稿を送ったのでしょう。
クローリーはon the recordの記者会見で、藤崎が立ち寄り、たまたま空いていたヒラリーと話し合ったという言い方をして、ヒラリーが藤崎を呼びつけたとは言っていません。
この日キャンベルと藤崎は会う予定になっていたのでしょう。この両者は日米間の実務を仕切るcounterpaartですから、頻繁に話し合う関係にあり、この日どちらが先に声をかけて会うことになったかは、さして重要ではありません。
クローリーはまた、米側は辺野古案が最善という立場だが今後とも日本側と話し合うと言っているわけで、ヒラリーがに鳩山に対してカンカンに怒っているというニュアンスはありません。
その後キャンベルの師匠格のジョセフ・ナイが、日米関係の大局からすれば小さな問題である普天間問題であまりカッカするなという趣旨の発言をしています。また当のキャンベルは2月初め来日するそうですが、ワシントン発共同通信によると、彼は1月21日米上院で普天間問題などについて証言した後記者団に(鳩山が決着期限とした5月について)「われわれは期限という言葉を使わないようにしている。失礼な感じがする」と述べ、圧力をかけずに日本政府の判断を見守る姿勢を示したということです。
このような推移を見ても、12月22日の各紙夕刊が派手に報じた「米が鳩山首相に強い不信感を露わにした」というトーンは異常だったと言わざるを得ません。
伊藤力司 (URL) 2010/01/23 Sat 22:30 [ Edit ]
伊藤様

丁寧なご返答ありがとうございました。会談の真相についてははっきりしたことは分からないという印象が抜けませんが、日本の大手紙が煽るような報道をしたということはありそうですね。私は普天間問題の日米関係への影響はかなり大きいと思いますし、移設先は辺野古が望ましいという立場ですが、報道機関としてはまず冷静に事実を伝えることを優先してほしいものだと思います。それでは失礼いたします。
邪魔大国 (URL) 2010/01/29 Fri 22:25 [ Edit ]
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