2010.03.02 普天間移設をめぐる嘘と虚構(5)
坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)



▽「抑止力の源泉」は「米軍人の日本防衛に死ぬ覚悟」の虚構
 「あんな米軍広報みたいなのを相手にするな」といわれそうだが、元米国防総省日本部長・ポール・ジアラ氏の「沖縄の海兵隊 抑止と危機対応で重い役割」(朝日新聞2月25日オピニオン欄、見出しは編集者が付けたのかもしれない)は、よくある「嘘と虚構」の好例だ。ここで取り上げた理由は(1)「沖縄海兵隊が担ってきた抑止力」の維持を政府に迫る朝日新聞の論調は、こんな米国防総省や軍部の論理に寄り添っている(2)ジアラ氏とかマイケル・グリーン氏とか、日本のメディア好みの、いわゆる米国「知日派」が使う嘘と虚構がよくわかるーから。
 まず、ジアラ氏は「日本にとっての海兵隊の重要性はより増している。海兵隊は世界で最も能力の高い戦闘部隊だ。日本でのプレゼンスは北朝鮮を含む『敵』に、攻撃を躊躇させる抑止力になっている」という。北朝鮮は“厄介者”には違いないが、何のために日本を攻撃するのか、米・中・韓の巨大な軍事力に取り囲まれている中で、日本を攻撃することなどまったく不可能ではないか。周辺には在韓米軍だけでも陸軍第8軍、第7空軍、第七艦隊が存在しており、北が暴発すれば、核兵器を使うまでもなく、たちまち北の軍事力を壊滅してしまう。海兵隊の出る幕など全然ない。
 さらにジアラ氏は「北朝鮮を含む『敵』」と述べ、他にも「敵」がいるというのだ。韓国もロシアも日本の「敵」ではないから、「敵」はやはり中国だというのだろう。ジアラ氏はかねてから中国脅威論を唱えている。中国の軍事力強化は要警戒だが、日本を攻撃しようとしている「敵」なのか。日本の防衛省系「専門家」は、海兵隊は尖閣列島や先島諸島への中国の攻撃への抑止力だというが、中国が何のために攻撃するのか。さらに海兵隊が中国に強襲上陸するような事態になれば、それは米中戦争だ。こんな「敵」の攻撃を仮定しなければ、海兵隊の「抑止力」を説明できないこと自体、「抑止力」が虚構であることを証明している。海兵隊が全部日本から撤退しても、「敵」への「抑止力」に何の影響もない。
 ジアラ氏は最後をこう締めくくっているー「沖縄の海兵隊は『日本の海兵隊』だ。太平洋海兵隊のスタルーダー司令官は『日本に駐留する米軍人は、日本防衛のために死ぬ覚悟がある』と語る。これが抑止力の源泉だ」
 「抑止力」の根拠が弱いことを自覚してか、ジアラ氏はこんな虚構まで作り上げた。米海兵隊員たちと日ごろ付き合いのある沖縄県民は、笑っちゃうだろう。事実、名護市に住む友人に電話したら大笑いだった。もちろん、「日本防衛のために死ぬ覚悟がある」海兵隊員など、会ったことないさ。だが、笑われたのはジアラ氏だけだろうか。海兵隊抑止力を主張し、虚構に満ちた抑止論に紙面を提供する、朝日新聞を含むメディアかもしれない。
 
▽本音が示す事実
 ジアラ氏の「オピニオン」で面白いのは、本音や事実が見えるところだ。
 まず「海兵隊は日本の安全保障に関係がなく、その兵力を削減しても問題ないとみなされているのは皮肉で残念なことだ」-さすがに「知日派」だけに、都合のいい大手メディアだけでなく、日本の世論をよく見ている。
 そして海兵隊ヘリ部隊の件。宜野湾市の伊波洋一市長が、前回ここでも紹介した「普天間基地のグアム移転の可能性について」のなかで「沖縄海兵隊の主要な部隊が一体的にグアムに移転する。普天間飛行場の海兵隊ヘリ部隊も含まれる」という見解に、ジアラ氏は強く反論するー「海兵隊の航空部隊は、有事の際、歩兵、砲兵、補給部隊とともに作戦行動をとるため、平素から一緒に訓練する必要がある。だから沖縄には海兵隊の飛行場が必要になる」
 普天間飛行場のヘリ部隊は、住民にとって最も迷惑な部隊だが、土地が限られ、人口が多い沖縄で、海兵隊が広い山林を演習場として囲い込んでいるのも、非常に迷惑なことだ。ヘリ訓練のために飛行場が必要なら、これほど県民が反対している沖縄に飛行場を建設することをあきらめ、演習場とともに沖縄から撤退してグアムでも他の北マリアナ諸島にでも、移転すればいいではないか。そっちなら、すべて米国の属領だから自由に使えるし、訓練用のジャングルだってある。
 ジアラ氏はまた、沖縄の地理的な重要性を主張する。例の太平洋の地図のトリックだー
「(軍事力の迅速展開のために)沖縄は理想的な位置にある。日本本土や韓国までは海路で約36時間、南シナ海までは3日、マラッカ海峡までは5日の距離だ。米西海岸からだと最低3週間かかってしまう」-不思議なことに、沖縄海兵隊(第3遠征軍)が本拠地を移すことを決定しているグアムには触れていない。グアムだと近すぎるので、はるかに遠い米西海岸(第1遠征軍の本拠地)からの距離をあげて、沖縄の重要性を強調したのか。
 しかし、本稿(3)でも実例を列挙した通り、海兵隊が戦争や紛争に介入したすべての実例で、36時間だ、3日だという時間に迫られるのではなく、事前に何週間も何カ月もかけて、兵員、兵器と兵站資材をなるべく近いところに集積し、強襲揚陸艦に積載したうえで、作戦を開始している。こうして、地球の裏側でもどこでも、介入するのだ。じつは、ジアラ氏もこのことを認めてしまっているー「沖縄の海兵隊はよく輸送手段を持たないと指摘されるが、一部装備を事前集積したり、輸送機、強襲揚陸艦、高速輸送船を組み合わせたりすれば需要をまかなうことができる」
 そうなのだ。作戦開始の事前に集積し、輸送することによって、これまでのすべての実例の通り、戦争・紛争に介入してきたのだ。その集積地が沖縄でなくグアムだって、同じではないか。住民の強い反対に包囲されている沖縄より、自由に使用できるグアムや北マリアナの方がはるかに好都合ではないか。だからこそ、米国防総省と軍部は、第3遠征軍の本拠地をグアムに移転するのではないか。それとともに世界で唯一、海兵隊は大規模な前方展開基地を沖縄に確保しようとしているのだが、一挙両得の強欲さだ。(つづく)
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