2007.09.12 「職を賭す」に騙されるな!
田畑光永 (ジャーナリスト)

暴論珍説メモ(20)

 隣時国会が始まった。7月末の参院選で示された安倍内閣に対する民意が永田町でどういう形に結実するか、国民は固唾を呑んで見つめている。あの選挙で国民は明確に安倍内閣の退陣を求めた。それを「参院選は政権選択の選挙ではない」という屁理屈で、内閣は居座った。だからその民意は今、宙をさまよっている。どこかにそれを落ち着かせなければならない。それがこの臨時国会の役目である。
 この国会の最大の焦点はインド洋で海上自衛隊が米英などの艦船におこなっている給油活動の法的根拠となっているテロ特措法の延長問題とされている。しかし、ちょっと待ってほしい。それは一つの問題ではるけれども、最大ではない。選挙のときの応酬では、安倍内閣の掲げる「戦後レジームからの脱却」、つまり市場メカニズム万能主義、格差拡大容認の構造改革路線の是非こそが争点であったのであり、また秋になって「経済指標が出揃ったら、消費税をどうするか、本格的に論議する」というのが、政権側の公約であった。


 とくに後者は4~6月のGDPが年率1.2%のマイナス成長であったことが判明し、「いざなぎ越え」の長期景気もいよいよ終わりかとなった以上、なにを措いても今、真剣な討議が求められている。もとより「政治とカネ」、「年金」もまだまだ論議の種はつきない。
 にもかかわらず、テロ特措法だけを浮かび上がらせたのは、安倍政権のなかなかに巧妙な戦術である。参院で多数を占める野党が反対すれば、特措法の延長は一見不可能である。衆院で再可決するにしても、会期の点から11月1日の期限切れまでには無理である。だからいかにも政権にとって難題であり、それをあえて争点にするのは得策でないように見えるが、さにあらず。じつはこの問題には政権にとって強力な武器がある。
 特措法を延長しなければ、国際的なテロ撲滅行動から日本は離脱することになり、なにより対米関係が損なわれる、それでもいいのかと国際社会における日本の看板を人質にすることで、野党、世論を揺さぶる手である。
 そして、安倍首相は9日、シドニーでの記者会見で「この問題に職を賭して取り組む。職責にしがみつくことはない」と言い切った。いかにも難題を前にして、いさぎよい態度に見えるが、この言葉にはとんでもない底意がある。「職を賭す」と言った以上、失敗すれば辞めることになるのは当然であるが、それは逆に、成功すれば「職にとどまる」ことに正当性が得られたと言い張る根拠になる。くどいようだが、国民が安倍内閣「ノー」と言ったのはなにもこの問題でのことではない。これは巧みなすり替えである。
 しかも、ここ一両日の官房長官の発言を聞いていると、特措法の延長が出来なくても、改めて新法を作り、国会を延長して成立させれば、いくばくかの空白期間は生じても、給油活動の継続は可能ということで、乗り切ろうとしているようである。衆院で絶対多数を擁している以上、そのやり方なら「給油の継続」という成功は保証される。
 とすれば、いかにもいさぎよいかのごとき安倍発言は、じつは国民の退陣もとめる参院選の請求書に別の証文を持ち出して支払いずみと言い張るための準備である。これでは事務所経費の明細に領収書のコピーを使いまわす誰ぞの手口と変わらないではないか。「職を賭す」などというまやかしに騙されてはならない。
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