2011.02.16 「減税」の旗印の実体は?――河村たかし氏の「民主主義」は危ない
暴論珍説メモ(100)

田畑光永 (ジャーナリスト)

               
 去る六日に投開票された名古屋のトリプル選挙。ご承知のように結果は河村たかし氏が市長に再選、愛知県知事には河村氏の盟友で自民党をとび出した前代議士の大村秀章氏が当選、あわせて行われた名古屋市議会解散の賛否を問う住民投票では賛成が過半数を占め、来月、出直し市議選が行われることになった。
 すべては河村氏の計算どおりになったわけで、それだけ氏に対する市民、県民の支持が厚いということになるのだろうが、同時にこの結果に危惧を抱いた人も少なからずいたはずだ。私もその一人である。氏の論理と政策のいずれにも欺瞞があると思うからだ。
河村氏は「新しい民主主義の日本の夜明けだ」と豪語するが、その論理構造はきわめて簡単である。氏が前回の市長選で公約の「一丁目一番地」に掲げた「市民税10%減税」の恒久化に市議会が反対したことは「民意にそむく」ので、それを糾すのが今度の選挙だというのだ。そして自ら市議会の解散を求める住民投票実施にむけて署名運動をリードし、自らも市長職を辞して再度信を問うたという訳である。
一見、筋の通った理屈のように見えるが、当選した市長の公約に反対することをもって「民意にそむく」と決め付けることが妥当かどうか、がまず問われなければならない。日本の地方自治体においては、首長と議会議員は独自に選挙で選ばれる。ともに民意を託された存在である。首長の意思も民意なら議会の意思も民意である。そこに食い違いが生じたらどうするか。河村氏は市議会が法案の成立を拒否すれば、法案が通らないから議会が「殿様だ」と言うが、市長は何度でも法案を提出することができるのだから、一方的に議会が上とは言い切れない。制度が期待するのは、ともに民意を体現する首長と議会の意思が異なった場合には、双方がそれこそ「熟議」を尽くして妥当な結論に到達することのはずである。
河村氏はそれを「なれあい」と表現して、妥協を排除するが、相手を抹殺することが民主主義ではないはずだ。直近の選挙結果が民意だという言い方もあるが、これは新しく勝った側の身勝手な論理にすぎない。選挙に現れる民意そのものが揺れ動くのは常識なのだから、違った民意が現れることは、珍しいことではなく、その場合は立法、行政に携わるものに立ち止まってよく考えることを民意は要求していると受け止めるべきなのであって、新しい民意が古い民意より正しいという理屈にはならない。河村氏の論理は欺瞞である。
河村氏の掲げる政策はどうか。その第一は市民税の10%減税である。そのため氏は「減税日本」なる政党を立ち上げ、出直し市議選では40人もの候補者を立てるそうである。また今回の選挙では大村氏も県民税の10%減税を掲げたから、河村・大村コンビの政治は一にも二にも減税から始まるようである。
減税と聞いて喜ばない人はいないだろうから、選挙スローガンとしては強力である。しかし、一方では国も地方も財政難どころか財政危機にあるのに減税などして大丈夫なのかと誰しも心配になるはずだ。
河村氏はまた議員の報酬を半減して800万円にすることも公約とした。巧妙な戦術である。確かに氏の言う如く、地方議員(国会議員も)の報酬は高すぎる。だから議員が職業化し、そこから世襲といった問題も起きてくる。それはそれで日本の民主主義を考える材料の一つであるが、それを減税と組み合わせて、あたかも減税を埋め合わせるかの如くに持ち出すのは欺瞞である。議員報酬を半減させたところで、出てくるお金はせいぜい6億円程度、市民税減税に必要な250億円とは文字通り桁が違う。
河村氏と大村氏は13日朝のフジテレビの番組に出演したが、そこで河村氏は単年度で既に実施した減税の財源161億円は行財政改革で浮かした185億円で賄ったと言い、今後も減税の財源は行財政改革、なかんずく人件費の削減から生み出す、そのために800人の職員を削減する、と明言した。
減税が恒久化されれば、毎年、財源はいる。それを行財政改革で賄い続けるなどということができるはずがない。名古屋市にどれほど無駄な人間がいるのか知らないが、800人の削減というのもこの時代に可能なのだろうか。
減税のほかには、河村氏にはどんな政策があるのか。それがさっぱり見えない。「愛知から日本を変える」と威勢のいい大村新知事にも具体的な政策にはこれといったものはないようである。目玉の減税にしても名古屋市民税の減税額は年収300万円の家庭で年1400円、500万円で9500円、700万円で18100円だそうである。経済効果が見込めるほどのものではない。
それ以外に13日のテレビで大村氏が言った政策らしきものはこんなことである。日本一税金の安い愛知県、名古屋市を売り物にして、大勢の人や企業に移住してきてもらう。そうすれば名古屋も愛知もどんどん大きくなる。中国の上海は30年前は何もなかった。それが今のように大きくなった。これからの世界は大都市の競争だ。名古屋は、あるいは名古屋と大阪が手を組んで、その競争に参加するのだ。
市民税、県民税の10%減税くらいでそんなふうに物事が回転してゆくのか、なんだか詐欺師の台詞を聞いているようだが、それ以上にこの発想は税のダンピング競争であることが危険である。確かに愛知、名古屋は日本有数の大都市圏であるから、減税を売り物にすれば、移り住む人、企業が出てくるかもしれない。しかし、それは減税など逆立ちしても出来ない市町村にしわ寄せがいくことを意味する。「愛知から日本を変える」のではなく、「愛知だけうまくやろう」ではないのか。そうなるかどうかは別として、発想はそうではないのか。
仙谷前官房長官は河村氏を「ヒトラーやナチスのよう」と評したそうである。私には河村氏にヒトラーほどの大戦略があるとはとても思えない。しかし、氏は選挙後、民主党の小沢元代表のもとへ二度も足を運んでいる。なるほど選挙巧者、選挙第一主義者という意味で小沢イズムの信奉者とは言えそうである。
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名古屋市議会解散の市民投票で、解散賛成に投票した696,146人の人間は河村氏のまやかしの論理にたぶらかされた!名古屋市民はその程度の民度なんですね。石原都政3選を維持した東京都民の民度の高さを見習うべきです。しかも4選もありうるとか。ただ「名古屋市にどれほど無駄な人間がいるのか知らない」そうですが、名古屋市民は知っているからこそ投票に行ったと仄聞しています。

阿智胡地亭 (URL) 2011/02/22 Tue 11:15 [ Edit ]
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