2007.11.17 「大連立」は国民を忘れ、国益に反した行為である
早房長治 ((地球市民ジャーナリスト工房代表)


「透明性」は民主主義にとって必須の要素

  10月末から11月上旬にかけて、政界を揺るがした自民、民主両党の大連立騒動とは何だったのか。それは、国民と国益を忘れた、福田康夫首相ら自民党幹部と小沢一郎・民主党代表、それに福田・小沢会談を仲介したマスコミ関係者の妄動だった。小沢氏以外の民主党幹部が大連立構想を拒否したことによって、状況は旧に復した。民主党は今後、迷うことなく、正攻法によって、政権交代への道を前進してほしい。
  政府与党が大連立を歓迎するのは当然である。民主党を筆頭とする野党が参議院で過半数を握る状況の下では、予算案と条約以外の法案は成立させるのが難しい。とりわけ、予算関連法案が参院を通らなければ、予算も事実上執行できない。これは、行政の崩壊といっても過言ではない。政府与党にとって、この破滅的状況を突破するには、民主党を抱き込むしかない。政策協議を頻繁に繰り返す手法もあるが、大連立の方が好都合であることはいうまでもない。
  軽率だったのは小沢氏である。読売新聞グループの総帥、渡辺恒雄氏がフィクサーとして登場し、大連立を実現するための福田・小沢会談を仕組んだシナリオに、民主党の他のリーダーと相談もせずに乗ってしまった。
  小沢氏に、自民党に屈する気は、さらさらなかったであろう。彼自身が説明しているように、「ねじれ国会」の状況下では、参院選で民主党が約束した政策が実現できず、また、現在の民主党の実力では、総選挙で衆院の過半数を獲得するのは難しいと考え、突破口としての大連立に飛びついたことも、理解できないわけではない。彼は、内心、自分ならば、連立内閣を運営する過程で、実質的に自民党を乗っ取ることができる、と信じていたに違いない。
  しかし、小沢氏が考えたような手法は、よしんば成功したとしても、今日の議会制民主主義の下では評価できない。「透明性」は今日の民主主義にとって最も重要な要素である。表向きは「総選挙で衆院の過半数を獲得して、政権交代を実現し、日本の政治を変革する」と繰り返しながら、裏では、福田首相と大連立の密議を凝らすようなやり方は、国民の支持を得ることはできない。このことを理解しない限り、小沢氏は民主党代表の資格はない。

  今夏の参院選から約3ヶ月間に演じられた大連立劇のプレーヤーたちが国益を真剣に考えていたかどうかは、極めて疑問である。今日の日本の最大の問題点は、自民党の長期政権が実質的に半世紀以上も続いた結果、政治、行政とも腐敗し、まともに機能しなくなってしまったことである。それは厚労省と防衛省で何が起きているかを見れば明らかだ。
  このような機能不全を解消するには、政権交代を実現するしかない。今、国民の多くはそのことに気付き、参院選で民主党にあれだけの票を投じたのである。この厳粛な事実さえ、大連立のプレーヤーたちは忘れるか、または、否定しようとした。
  大連立では、自民党は生き残ることができるから、政官業の癒着構造も存続してしまう。すなわち、大連立では構造問題は解決できない。大連立劇のプレーヤーたちは「ねじれ国会では、わが国が直面する多くの問題がほとんど解決できない」と主張したが、政官業の癒着構造を解消しない限り、当面する問題もまともには解決できないことは、過去10年の自民党を中心の政府の下で何が起きたか、何ができたかを振り返れば、明らかである。

  「総選挙による政権交代」は、民主党が自ら国民に訴え続けてきたという点からも、多くの国民が望んでいるという事実からも、民主党にとっての大義名分である。小沢氏がいうように、政権交代の可能性は低いかもしれないが、それが大義名分を捨てる理由にはならない。総選挙によって衆院の過半数を獲得できなくても、衆院でも第一党になれる可能性は高く、現在、衆院の3分の2以上を占める与党勢力をそれ以下に追い込めることは確実である。そうなれば、自公政権は、さらに追い込まれ、総選挙を再度、行なわなくてはならなくなる。その時、民主党による政権交代の確率は、1回目の総選挙よりはるかに高い。
  大連立劇を幕末になぞらえれば、「公武合体」(幕府と天皇勢力の連立政権)を唱えた島津久光や山内容堂のような一部の藩主勢力と一部の幕臣に西郷隆盛が取り込まれてしまったようなものだ。これでは明治維新という政治体制の大改革ができるはずはない。小沢氏は今日の政治・行政の大変革における自らの役割を見失ってしまったのだ。もちろん、何回も倒幕を試みても、成功しない場合、隆盛が一時的に公武合体を受け入れることはありえたかもしれない。だが、最初から倒幕を放棄してしまっては、政治の大変革は実現しようがない。
  自分の主張が容れられないからという理由で辞意を表明した小沢氏を必死になって慰留した民主党執行部の行動は、同党のひ弱さを浮き彫りにした。しかし、分裂を回避し、総選挙に勝つためには慰留はやむをえないことであった。民主党を中心とした非自民勢力による政権交代が民意なのだから。こうなった以上、民主党は行動の透明性を最重要視し、正攻法で進むしかない。総選挙が終わった段階で、なお、小沢氏が透明性の重要さを理解しないのであれば、代表辞任を民主党員は全員で迫ればいい。
総選挙までの過程で、国民生活に密接な問題に関して、自民党との政策協議を行なうのは当然である。だが、「外交・安全保障問題では、与野党の意見が大きく異なるのは望ましくない」というような俗論には組するべきでない。
  大連立は政治運営の一つの手法として排除する必要はない。しかし、国益にとってプラスになる場合も、マイナスになる場合もあることを忘れてはならない。今日の段階では、大きなマイナス以外の何ものでもない。
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