2012.10.12 中国は尖閣国有化をなぜ怒るか
――八ヶ岳山麓から(48)――

阿部治平(もと高校教師)


尖閣問題については、伊藤力司氏の本ブログ「日中関係の破局を考える」(上下 9・30,10・1)があるから、ここでは表題の問題についてだけ述べる。

日本人にしてみれば、東京都が尖閣諸島を買い取って石原知事が勝手なことをするよりは、国有化したほうが「平穏かつ安定した環境を保つ」ことができる、と考える。なのに中国は怒る。そこで我々は「中国では個人よりは地方、地方よりは国家のほうが格が上だから、国有化は刺激的だったんじゃないの」とか、同じ理屈で「国有化によって、日本政府は施設建設や自衛隊駐留など、尖閣諸島を自由勝手にする手段を手に入れたと、中国なりの『国有概念』で考えたのではないか(「毎日ネット」2012・9・28)」とか考える。
これは外交ルートを通じて説明すれば相手はわかるはずのことである。
私は、中国は上述の「国有化」の意味が日中では異なることを十分にわかっていて日本に臨んでいると思う。なぜか。胡・温政権の外交が、対日強硬路線に変わったのである、南シナ海でのベトナムやフィリピンに対するのと同じように。

これがいつからなのかわからないが、2010年の民主党政権時の漁船衝突事件がきっかけになった可能性はある。もっと下って2012年4月の石原東京都知事の「尖閣発言」がきっかけかもしれない。
中国には東シナ海を中国の安定した内海にするという国家戦略がある。海軍の増強とともにこれは現実味を帯びてきた。いまや日本による尖閣の調査であれ所有権の移動であれ、機に臨んでこれを紛争化し、「尖閣は中国の領土である」ことを世界中にアピールする段階である。日本が何かしなかったら中国が自ら紛争激化の機会をつくっただろう。
おもえば、胡・温政権は安倍内閣の靖国参拝の中止とか、その後の小沢一郎の引率する議員120人の訪中などによって、小泉内閣時代とは異なる対日関係を演出することができた。尖閣諸島には上陸しない、調査しない、開発しないという日中双方の暗黙の了解で平穏にやって来た。この状況だと東シナ海の共同開発も可能だった。

ところが、2010年の漁船衝突事件では、民主党菅内閣はそれまでの自民党政権とはことなり、領海に侵入した中国人漁民を逮捕し、「尖閣に領土問題は存在しない」という態度で臨んだ。だが尖閣諸島を含む北緯27度線の南には日中漁業協定があり、互いに自国の漁船だけを取締ることになっている。領海内といえども漁船を退去させるのでなく、日本が停船させ臨検をすることは協定違反である(くわしくは孫崎享『日本の国境問題』)。
ここで「国内法に従って粛々と(ことを)おこなう」となれば、中国もまた同じ行動に出る恐れがあり、衝突は避けられない状態だった。

民主党政権の態度変更を契機に、中国共産党中央は従来の対日外交についての検討と転換を行なったかもしれない。そして、このたびの衝突は、今年4月、ネオコンの誰かに入れ知恵されたのか、石原都知事がだしぬけに尖閣を購入するといいだしたことから始まった。その後から中国は漁政船・漁監船を尖閣周辺に送り、テレビ・新聞・ネットによって連日日本帝国主義批判の宣伝を行い、過去の侵略戦争の歴史を思い起こさせ、ナショナリズムを煽った。
秋に予定されていた党18回大会準備のなか、胡錦濤国家主席の「団派」と習近平副主席の「太子党」との派閥抗争が激しくなり、事情通によれば「太子党」対日強硬派や上海閥を中心に「ロシアは北方4島を、韓国は竹島を実効支配している、中国だけがなぜ釣魚島でなにもできないのか」という議論が起ったという。
8月の中共中央政治局の北戴河会議以降、(胡氏「団派」が後退したことを意味するものではないが)外交政策に習近平氏周辺と解放軍の影響が強くあらわれ、解放軍高級将校の「対日戦争辞さず」「ソーセージを切るように日本の実効支配を削ぎ、中国の実効支配を強める」といった威嚇的発言がつづいた。
野田内閣は右からの圧力をうけ尖閣国有化を急いだ。APECウラジオストク会議のおり、胡錦濤主席は野田首相に「国有化には断固反対する」とつたえたが、野田首相は正面から問題を話しあうのを避け、直後の9月10日に国有化を決定した。丹羽大使の忠言は無視された。日本は中国に「断固対決」のメッセージを送ったものと受け止められた。中国は野田内閣の背後にアメリカがいると考えただろう。

経済建設の成功によって国際的威信の高まりを自覚している国である。中国政府はこの日を待っていたであろう。
11日反日デモが組織された。宣伝が行き届いていたから、老百姓(普通の人)が「愛国無罪」を叫んで荒れ狂うのは勘定のうちだった。最高指導層は「メンツが失われた」「領土では一歩も引かない」と叫んだ。
9月19日パネッタ米国防長官の北京訪問の際には習近平氏が応対して、国有化を「茶番」とし、アメリカに「日中問題に介入するな」と高飛車な発言をした。野田首相の国連演説に対しては、中国は「第二次大戦の敗戦国が何をほざくか」「日本は中国の領土を盗み取った」と罵言で応じた。アメリカの威を借る日本に何の遠慮も必要ないというわけだ。
このように中国は「尖閣国有化」を機に攻勢に出て、これまでのところ期待どおりの成果を得た。
第一は、ねらいどおり反日デモによって尖閣諸島が領土係争地であることを世界にアピールできたこと。さらに、ともすればわきから口を出すアメリカを強く牽制できたこと。
そして中国人民のナショナリズムを昂揚させ、汚職と腐敗で国民の信頼がゆらいでいる中共の権威をある程度回復することができたのである。党18回大会を前に最高のお祝いである。

日中関係は冬の時代に入った。
これから数カ月の間に何らかの解決策が日中どちらからか出ないとすれば、最悪の事態に陥る危険がある。中国は辺境をめぐる紛争ではかならず一戦を交えてきた。1962年と69年、中印国境と中ソ国境に戦争があった。1979年から89年には中越国境紛争があった。いずれも小さな衝突があって国境の緊張が高まり、それから鉄砲の打ちあいになったのである。すでに南シナ海では実弾が発射されている。私はこれを思うと緊張せずにはいられない。
もし日本に新しい政治情勢が生まれるなら、右からの「売国奴」「民族の裏切者」といった批判に屈せず、尖閣諸島問題で話し合いの場をつくり、領有問題を「棚上げ(「擱置」)」状態に戻して、東シナ海を共同開発の海にするよう隣国とねばり強く交渉できる、そういう政府を期待する。
(2010・10・2)
Comment
「中国には東シナ海を中国の安定した内海にするという国家戦略がある」のに、「中国人民のナショナリズムを昂揚させ、汚職と腐敗で国民の信頼がゆらいでいる中共の権威をある程度回復」という話になって、「東シナ海を共同開発の海にするよう隣国とねばり強く交渉できる、そういう政府を期待する」という結論に何故なるのかが疑問。最初の国家戦略が本当ならば、全然別の対処の仕方が必要なのでは?
目黒駅は品川区 (URL) 2012/10/12 Fri 12:43 [ Edit ]
中国にとって尖閣は棚上げで収まる問題ではありません。基本的には中国覇権主義と十三億の民をどう食わせていくのかが問題なのです。国際法やら歴史などは関係ない話で、必要なものは奪い取るという野獣の論理だけか支配している国家です。話せば解るという論理は理性ある人間に通用する話で、野獣には馬の耳に念仏です。
ではなぜ狂ったように尖閣にこだわるか。日本人にはこの点が理解できていないようです。それは簡単で共産中国の覇権を確立するためには、台湾の奪取がどうしても必要です。二つの中国を認めたのでは覇権などチャンチャラおかしい話です。台湾に侵攻するにはアメリカが東シナ海あたりに、うろうろされていたのではすごい邪魔になる訳です。そこで目をつけたのが日本が支配する尖閣です。
中国は日本を押せば引く国と見ていますから、人民を雇って日本企業を攻撃させたり、国連で日本を泥棒呼ばわりしたりして、圧力をかけ続ける訳です。彼らの作戦は日本が何らかの譲歩を示さない限り続きます。いったん日本が譲歩すれば、それを梃子に中国軍の基地を建設にとりっかるでしょう。アメリカはそれに対してなにも言えない立場にあります。なぜなら尖閣の問題は日本と中国の外交問題で、それにアメリカはとやかく言えない立場にあるからです。尖閣に中国の基地が出来れば、アメリカの作戦行動は大幅に制限されます。中国が台湾侵攻するのも非常にやりやすくなるでしょう。つまり尖閣が落ちれば台湾も落ちると踏んだのでしょう。台湾が落ちれば後は沖縄が落ち、九州がおちて、将棋倒しです。そのような事態にならないように、今回の尖閣では、一歩たりとも譲歩してはならいのです。
丸山 将 (URL) 2012/10/12 Fri 15:02 [ Edit ]
中国は日本の尖閣国有化に攻勢をかけることで、人民のナショナリズムを昂揚させ、中共の権威をある程度回復することができたのでしょうか?反日デモに便乗して、中共に対する不満が噴出しているという話も耳にします。
amdowa (URL) 2012/10/18 Thu 11:20 [ Edit ]
おもての「見えてる国際政治」では
米中は対立してる様に見えますが
水面下では結託してます。
70数年前もそうでしたね。
蒋介石に武器と金を無制限に供与しパイロットまで
提供して日本人へのテロを起こし続けさせ
日中がまるで戦争してる様に演出し、アジア人同士
潰し合い漁父の利を得ようとしました(オレンジ計画の一貫でしょう)
そして蒋介石の利用価値が無くなったらさっさと見限り、」グローバル企業に有利な毛沢東政権樹立を助けたのもアメリカです。
今のアメリカも一枚岩ではなく、米国内の国際主義者(グローバル=共産主義者&社)は中国共産党のビジネスパートナーです。日中の対立で儲かるのは彼らです。彼らに取って平和は金にならない。東アジアの緊張、中東やアフリカの緊張を常に演出し続けてるのです。キッシンジャーは今や中国最大の石油会社の重役ですよ。
ddrg (URL) 2016/09/27 Tue 09:33 [ Edit ]
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