2012.12.29 夢かうつつか幻か――旭日の漢民族
――八ヶ岳山麓から(55)――
       
阿部治平(もと高校教師)


朝日新聞(2012・12・12)は、中国の超タカ派・対日強硬派として知られる閻学通(清華大学当代国際関係研究院院長)とのインタービューを載せた。先に本ブログで紹介した『2030年 中国はこうなる』の著者胡鞍鋼教授と同じ政府ブレーンである。以下、「朝日」の記事を参考に閻学通の言説を私見を付加えて紹介する。(――の箇所が閻氏の直接の言分)

まず米中関係の将来についての見方は次の通り。
――中国はまもなく世界第1位の強国になる。だがアメリカはそれを望まない。だから中国とアメリカとの政治軍事文化経済各方面での衝突は不可避だ。ただそれは武力行使を伴わない。(別の場所での発言だが)中国の政治的目標は、かつて歴史の中で占めた国際的な地位の回復すなわち中華民族の復興である。また、物質的実力の観点からすれば現在の(アメリカだけが超大国、その他はほどほどの)「一超多強」から「両超多強」に変わる。

閻氏の論理は清華大学胡鞍鋼教授と共通する。胡鞍鋼氏も先の著書で今後も7,8%の経済成長が持続すれば、2030年の中国は、GDPにおいてアメリカを凌駕してはるかな高みに達し、技術革新の先頭に立ち、高度福祉国家になり、高度の環境保全国家になるといった。
閻氏は別なところで、「中華民族の復興」とは、「漢唐の盛世時代の世界第1位の地位」であると明言している(ここに漢民族の大帝国だけが挙げられ、モンゴル民族の元朝と満洲民族の清朝が登場しないことに注意していただきたい)。

別な場所では、ゆくゆくはアメリカの地位にかわり覇権国家として世界を支配する。それまでは二つの覇者(「両超」)として衝突を戦争まで持って行かないように東アジアを「管理」するともいう。
だが、彼は中国のGDPの成長と軍備拡大、アメリカとの覇権あらそいに夢中になり、アラブ・インドを含めた西アジア・アフリカの存在に関心がない。

日本についてはこういう。
――米国がまだ中国より強大なのに対し日本は中国より弱い。時間はかかるかもしれないが日本はこうした状況に慣れ、中国を競争相手と見ることをやめなければならない。日本が自らをアジアの一国家と定義すれば協力の基礎を共有できる。しかし西欧の一員と規定すれば、すべての面でアイデンティティーの違いがきわだつことになる。日本が米国に依存しきって、米中間のバランスをとらないことは、賢明な戦略だとは思えない。

国際的に米中関係が日米関係よりは重視されているなかで、私は、日本がアメリカにたよって中国と張りあうのは両国にとって不幸だと思う。むしろ米中両国から自立した日本をあるべき日本の姿と考えるが、閻氏のそれは違うようである。論理の赴くところ、日本は中国をアジア・太平洋の覇権国家として認めねばならぬということらしい。漢唐帝国同様、日本に「叩頭の礼」を求めているのであろうか。

別なところでは。
――中国は2010年日本をGDPで追越した。日本人の自慢できるのは軍事でも文化でもなく経済だ。ところが日本経済は絶対的下降傾向で、日本人をいらいらさせている。この不満が中国に向けられた(尖閣問題をさす)。日本人は全体として右傾化しているが、それは民族の誇りの基盤が動揺しているからだ。これを利用して右傾化極端思想がはびこった。
日本は自国ですたれた製品をダンピングする国家で、これが彼らの一貫したやり方だ。いま中国人はそんなものはいらない。日本人が中国に投資したがるのは中国人が大変金持ちになったからだ。

さらに尖閣諸島問題についての意見。
尖閣問題解決策は、「朝日」の記事では「鄧小平の『棚上げ、共同開発』に代わる新たな原則を見つける必要がある」というものだが、別な場所での発言はきわめて挑発的攻撃的である。
――釣魚島問題は、野田(首相)が選挙を控えて国民の支持を狙って国有化したのが発端だ。根本原因は中国が急成長した結果生まれた、日本との構造的矛盾である。
問題の転換点は9月11日である。中国側は国有化以前は警告しただけだが、以後は海監船を巡邏させた。この威嚇が成功していない。今後は遠慮なく日本が我慢できないくらいやっつければいいのだ。日本は釣魚島を支配している。我々の家のなかに入り込んだのだ。中国人はこの侮辱を受入れるわけにはいかない。

では、我々はどうやって最終的に問題を解決するか。国際関係の原理からすれば、国境紛争は軍事衝突にまで達してはじめて止まる。タイとカンボジア、アルゼンチンとイギリス、どれもこれもまず軍事衝突、それから交渉のテーブルに着いた。だから(日本との)小規模の軍事衝突の可能性はある。双方張りあって、我慢できない方が交渉による解決をいいだすのだ。日本は消耗し続けられないと思う。日本の対中国貿易は輸出において22%だが、我々の対日貿易は11%に過ぎない。

尖閣問題をめぐって、ミサイル発射準備はできているとか琉球は中国領だなど好戦的脅迫的な発言を繰返した解放軍高級将校と同じように、閻氏は力づくで日本に対抗し、小規模の衝突を想定している。だが、かりに小規模であれひとたび銃撃戦となれば、9月よりは反日感情は昂揚する。日中戦争のかたきとばかり中国の日系企業は破壊され、駐在日本人の安全はあやうくなる。在日中国人もまた緊張した環境に置かれる。
私は、これは杞憂におわらないと思う。たとえば習近平党総書記の最近の「広州戦区」における解放軍部隊に対する訓話――党の指揮に断固従うことが強軍の魂であり、戦争を行い打ち勝てることが強軍の要であり――は解放軍将官や閻氏の言分と一脈通じるものがあるからである。

閻氏の国家道徳論はどうもまじめかどうか疑わしい。
――中国は、欧米の民主主義・自由・平等よりはるかに高いレベルの政治道徳を持っている。「公平」は「平等」に勝り、「正義」は「民主主義」より高い。(原注:上品、丁寧なという意味の中国語の)『文明』は『自由』を凌駕(りょうが)する。
(「公平」はどうして「平等」に勝るのか、という質問に対し)「たとえばバスに乗る時、早い者勝ちが『平等』、妊婦やお年寄りに席を譲るのが『公平』だ」

「朝日」の記者は閻氏の哲学に感心したようだが、これでは「開き直り」と「やけくそ」はどう違うかといったレベルの話である。
閻氏は別なところでも、中国の伝統文化「礼・仁・義」の思想観念の基礎の上に思想革新をすすめることは、世界に「自由・民主・平等」よりもさらに好ましい価値観を提供することになるといっている。
「自由・民主・平等」よりも超越した価値観とは、すなわち「礼」は「自由」を超越し、「仁」「義」は「平等」に勝る。「礼」は「文明(道徳・文化・礼儀あるの意)」による行為であるという。たとえば「自由」は人前で裸になる権利を認めるが、それは動物的本能だ。人と他の動物の重要な相違は「文明」であるという。……これをなるほどとはいいがたい。

私が見た限り、彼の国家観は、中華人民共和国はアメリカに対抗し最終的にこれに勝つという「覇道」である。いまさら孔孟の哲学にさかのぼらなくても、中国の国是の哲学のうちにはマルクス・レーニン主義があるのだから、マルクス・エンゲルスの思想を知れば、今まで関心がなかった国内の社会問題を考え、「王道」による国際関係を見出せるようになるのではないか。

以前から閻氏の著作を知る人は「閻学通の思想回路は、産経新聞に登場する右翼論客と瓜二つ。自国の伝統文化を大事にすれば、やがて国が強くなり世界からも尊敬されるという支離滅裂の論理構成だ」といった。これなら、日本にも大東亜共栄圏なる野蛮を導いた「神ながらの道」がある。
彼に対しては米中・日中の共同利益を求める人々や改革派の批判があるが、中国では大国主義・大漢民族主義が主流を占めるようになった。これが日本では、日中の友好関係を重視する(たとえば丹羽元中国大使のような)声を抑え、改憲・核武装論者に力を与えることは明らかだ。

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