2013.01.15 得票数・得票率の科学的分析がなければ総選挙の総括はできない、革新政党の不振と衰退は目を覆うばかりだ(3)
~関西から(87)~ 

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)


共産党についてもホームページでその見解を見よう。総選挙翌日の「総選挙の結果について」(2012年12月17日、中央委員会常任幹部会)によれば、議席数、得票数、得票率に関する総括部分は以下のような文面になっている。

「12月16日に投開票がおこなわれた衆議院選挙で、日本共産党は議席倍増をめざして奮闘しました。議席倍増という目標は長年続いてきた古い政治が崩壊的危機に陥るもとで、日本共産党の躍進を勝ち取ることは国民に対する責任であるとの立場から掲げたものでした。残念ながら、結果は改選9議席から8議席への後退となりました。」

「議席を後退させたことは残念な結果ですが、全党と後援会員のみなさんの奮闘によって一歩ではありますが、前進への足がかりをつかんだことは重要だと考えます。日本共産党は「私たちが出発点とすべきは2010年参院選比例票の356万票(6.10%)」(4中総決定)であることを銘記してこのたたかいにのぞみました。この出発点にてらすと、総選挙でわが党は比例代表で369万票(6.13%)に得票・得票率をわずかですが前進させました。小選挙区での「全区立候補」に挑戦し、選挙区選挙で470万票(7.89%)を獲得したことも積極的意義をもつものでした。とりわけ比例票を参院比例票の約1.2倍に増やして議席を守り抜いた東北ブロックでの勝利は、被災地復興の今後を考えてもきわめて重要なものとなりました。」

「情勢が求める躍進を果たせなかったことに対して、常任幹部会として責任を痛感しています。党内外のみなさんのご意見に耳を傾け、自己検討をおこない、今後のたたかいに生かす決意です。」

この文面を読んで、正直驚かなかった人はいなかったのではないか。すでに多くの人が批判しているように、最大の問題は、今回の総選挙結果を2010年参院比例票の得票数356万票(6.10%)を基準にして比較し、「わが党は比例代表で369万票(6.13%)に得票・得票率をわずかですが前進させました」などと総括(強弁)していることだ。
共産党が「私たちが出発点とすべきは2010年参院選比例票の356万票(6.10%)(4中総決定)であることを銘記してこのたたかいにのぞみました」というのは党独自の選挙方針であるから、それはそれで言うことはない。おそらくその背景には、356万票という得票数が衆院に小選挙区比例代表制(1966年)が導入されて以降、共産党が獲得した史上最低の得票数(衆参両院選挙を通して)だったということがあるのだろう。いわば356万票は「どん底」の数字なのであり、そこから這い上がるために2010年参院選比例票がそれ以降の基準になったものと思われる。

しかしながら、国会が衆参両院からなる2院政度をとる限り衆院選挙と参院選挙の性格が異なることは言うまでもなく、有権者もこのことを十分認識して選挙活動(投票行動)に参加している。小選挙区比例代表制導入以降の共産党の比例得票数の推移を見ても、衆院と参院では明らかに得票数・得票率の傾向が異なる以上、衆院選挙は衆院選挙で、参院選挙は参院選挙で、それぞれを独自に比較分析しなければ選挙結果の総括にはならないというべきだ。以下は、その得票数・得票率の推移である。

2000年衆院:672万票11.2%→2001年参院:433万票7.9%
2003年衆院:459万票7.8% →2004年参院:436万票7.8%
2005年衆院:492万票7.3% →2007年参院:441万票7.5%
2009年衆院:494万票7.0% →2010年参院:356万票6.1%
2012年衆院:369万票6.1% →2013年参院:?

この数字を見れば即座にわかることだが、以下のような傾向を指摘できる。

(1)直近の衆参両院選挙の比例得票数を比較すると、衆院選挙の得票数が参院選挙の得票数を常に上回っている(前回参院選挙と今回衆院選挙を比較して「僅かに前進しました」「前進への足がかりをつかんだ」などというのは詭弁そのものだ)。
(2)時系列で見れば、衆院選挙(2000年672万票→2012年369万票、▲303万票、▲45.1%)、参院選挙(2001年433万票→2010年356万票、▲77万票、▲17.8%)となり、衆院も参院も比例得票数が着実に減少している(長期低落傾向から抜け出せていない)。
(3)2007年から2010年への参院得票数の急激な落ち込み(441万票→356万票、▲85万票、▲19,3%)が、2009年から2012年への衆院得票数の激減(494万票→369万票、▲125万票、▲25.3%)に連動している(この現実をもっと直視して選挙方針を立てるべきだった)。
(4)2007年から2010年への参院得票率の減少(▲19,3%)、2009年から2012年への衆院得票率の減少(▲25.3%)を勘案すると、2013年参院選挙の得票数・得票率が300万票(▲56万票、▲16%)を割っても何ら不思議ではない(先行指標である社民党の低落傾向は他人事ではないはずだ)。

共産党は「科学的社会主義の党」を標榜している。でもこんな「非科学」的な(「エセ科学」といってもよいぐらいの)選挙総括ではその名前が泣くというものだ。次回はもう少し踏み込んで分析しよう。
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() 2013/01/15 Tue 10:23 [ Edit ]
何をどう分析するべきか?
(先ほどの投稿に一部脱落がありましたので、訂正版を送ります。)
  社民党や共産党の革新勢力の退潮は、こんなに細かい数字を並べ立てなくても明瞭で(もちろん、この分析に意味がないわけではない)、このままいけば、次回の参院選で社民党は消滅、共産党は去年の衆院選における社民党並みの水準まで後退する可能性がある。おそらく共産党もそれはよくわかっているが、支持者や党員を落胆させたくないために、前回の総選挙と直近の参院選を比較したに違いない。共産党の退潮は、政策上の優位さを生かし切れずに、メディアの意図的排除と「維新」、「みんな」、「未来」への誘導、若い世代への浸透不足、リベラル革新の共同作戦の欠如、活動家の老齢化、一部を除く立候補者の力量不足などによって生じたもので、その構図が変わらなければ次回参院選でも同じことが起こるであろう。
 支配者側は革新の退潮をよくわかっているので、民主党の失敗の間隙をついて、ここぞとばかりに、さまざまな潮流(「維新」の極右主義、「みんな」の改良主義など)を動員して、改憲をゴールにした戦後民主主義体制の根本的改廃への総攻撃をかけてきている。それに抗して、これまでの退潮を克服して革新の側が前進することを期待する立場に立つとすれば、民主的知識人がやるべきことは、革新の退潮の根本原因を「支配勢力と民衆のたたかい」の観点から分析して、前進への提言をすることではないか。このブログの著者にそれを期待したい。
きよちゃん (URL) 2013/01/16 Wed 16:45 [ Edit ]
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