2013.06.21  ヨーロッパとは何か
ロシアはもはや日本の脅威ではない

松野町夫 (翻訳家)

ヨーロッパとアジアは対立した概念である。Europe=「日が沈む地方」。Asia=「日が昇る地方」。Europe の語源はアッカド語の「エレブ」 erēbu「(日が)沈む」に、Asia はアッカド語の「アス」 asu 「(日が)昇る」に由来するという。(出典: ランダムハウス英語辞典)。

Europe と Asia との総称をユーラシア(Eurasia)というが、これは [EUR+ASIA] の合成語である。ユーラシア大陸はヨーロッパとアジアを一つの大陸とみなした場合の呼称である。ユーラシア大陸の西の部分をヨーロッパ、東の部分をアジアとよぶ。その境界線がウラル山脈(the Ural Mountains)。ウラル山脈はロシア西部にあり、北極海からカスピ海近くまで南北に走る山脈(全長約2,500 km)で、歴史的にアジアとヨーロッパとの境界とみなされてきた。ウラル山脈をヨーロッパの東の境界とすれば、西の境界は大西洋、南の境界はコーカサス山脈(カフカス山脈)・地中海・黒海・カスピ海、北の境界は北極海となる。

欧州・西洋・欧米など、日本語にはヨーロッパ関連語が多い。欧州=ヨーロッパ。東欧=東ヨーロッパ。南欧=南ヨーロッパ。北欧=北ヨーロッパ。西洋はヨーロッパだけでなくアメリカやカナダも含む。西洋=欧米。

しかし、西欧には注意が必要だ。西欧(=西ヨーロッパ)は第一次世界大戦以前、英・仏・ベネルクス三国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ)をさしたが、第二次世界大戦後の冷戦期では、ソ連など東欧の計画経済に対して、市場経済の西側諸国(=西洋)をさすようになった。このため、西欧は狭義では文字通り西ヨーロッパだが、広義では西洋となる場合がある。たとえば、西欧社会の「西欧」は西洋(Western)をさす。ヨーロッパの優等生、西ヨーロッパは、単にヨーロッパだけではなく、西洋をも代表できる特権が与えられている。しかし広義の西欧=西洋は誤解を招きやすい。広辞苑や岩波国語辞典では広義・狭義の両方を掲載しているが、日本語大辞典では狭義の西欧=西ヨーロッパしか掲載していない。

ヨーロッパは地理的に東西南北の4つの地域に大別できる。国際連合によるヨーロッパの区分はこの原則に基づいている。イギリスは歴史的に西ヨーロッパに分類されるが、国連の分類では北ヨーロッパに、また、キプロスはEU加盟国なので南ヨーロッパに分類されることが多いが、国連の分類では西アジアに分類されている。しかし地理的な分類に従えば、これはやむをえない。

国連によるヨーロッパの分類
ヨーロッパとは何か

ヨーロッパは文化史的観点から、つぎの3つの地域に大別できる。

1. 地中海周辺地域: イタリア、スペイン、ポルトガルなど。ラテン系民族。ローマ・カトリック教会
2. 西ヨーロッパ地域: イギリス、ドイツ、フランスなど。ゲルマン、ケルト系民族。プロテスタント教会
3. 東ヨーロッパ地域: ロシア、ポーランド、チェコなど。スラブ系民族。東方正教会

アジアには日本文明・中華文明・ヒンズー文明・イスラム文明など多様な文明が存在するのに対して、ヨーロッパはキリスト教世界である。上記の3つの地域の人々の多くはいずれもキリスト教を信仰している。ロシアには10世紀頃、東ローマ帝国からキリスト教(正教)が伝えられ、ロシア帝国(1721-1917)の時代には正教は国教であった。ロシア革命により無神論を信奉するソビエト連邦(1922-1991)が成立すると、すべての宗教は徹底的に弾圧されたが、ソ連崩壊後、ロシア正教会の教勢は次第に回復しつつある。

日本大百科全書の「ヨーロッパ」から、木村尚三郎東京大学名誉教授の解説を紹介する。
ヨーロッパ理解の鍵―キリスト教
ヨーロッパとは何かを考えるとき、とりわけ私たち日本人にとって理解しがたく、かつもっとも重要な問題であるのは、ヨーロッパがキリスト教世界であるということである。一神教としてのキリスト教は、なぜヨーロッパにおいて支配的なのか。そしてまた、キリスト教はアジア諸地域においても広く信仰されているにもかかわらず、なぜわが国では約100万人すなわち人口の1%以下にとどまっているのか。私たちの前に大きな壁のごとく立ちはだかる、この難問をまず乗り越えなければ、ヨーロッパはつねに私たちには遠い。それは同時に、ヨーロッパ人にとっても日本が心理的・文化的に遠いことを意味する。(中略)

ヨーロッパ人の根底にあるのは、孤独感である。自分は自分、人は人であり、自分がただひとり世界に突き放され、投げ出されているような孤独感。だれも助けてはくれず、いざというときは自分で自分の身を守らねばならない不安感と緊張感。これこそが一神教としてのキリスト教を、ヨーロッパ世界に支えてきた根本原因である。日本でなら、年をとって初めて味わう孤独感と不安感を、1000年もの間、老若男女、職業のいかんを問わず、数多くの人が味わってきたのがヨーロッパ人である。孤独感、不安感、緊張感があるからこそ、愛と信頼が切実に求められる。(以上、引用終わり)

私たちがヨーロッパとか西洋とか欧米とか言うとき、たいていの場合、ロシアやその同盟国は含まれていない。日本人にとって東欧はヨーロッパではないのかもしれない。以下の EUとCISの区分図が、皮肉にも日本人のヨーロッパの印象を反映しているように思えてならない。

欧州連合(EU)と独立国家共同体(CIS)
ヨーロッパとは何か

ロシアを見直そう
ソ連崩壊後のロシア連邦はもはや日本の脅威ではない。ロシアは東ヨーロッパと北アジアという2つの顔をもつユニークな国であり、ドストエフスキー、ゴーゴリ、トルストイ、ツルゲーネフといった偉大な小説家たちを輩出した国でもある。ロシア人は愛すべき隣人なのだ。かって、週末の夕方になると新宿の歌声喫茶に行き、大勢の仲間たちと夜のふけるのも忘れてロシア民謡をよく歌ったものだった。IMFによると、2011年のロシアのGDPは1兆8504億ドル(約150兆円)で、世界第9位。ロシアはまた、サウジアラビアに次ぐ第2位の原油輸出国。日本海に面したウラジオストクでは、ガスプロムと日系企業によるLNG生産プラントの建設が計画され、マツダやトヨタなど自動車メーカーの進出も進んでいる。異色の建築家、安藤忠雄の提唱する「日本海海洋牧場構想」も、まずはロシアとの提携から着手すれば実現の可能性がいっきに高まるような気がする。

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