2008.02.08 オバマ氏急追、勝負つかず
米大統領選・スーパーチューズデー

伊藤力司 (ジャーナリスト)

08米大統領選で民主、共和両党の候補者を決めるための各州予備選・党員集会が集中し、“天王山”と目された2月5日のスーパーチューズデー(Super Tuesday)が終わった。民主党はヒラリー・クリントン上院議員とバラク・オバマ上院議員が大接戦を演じて勝負がつかなかった。共和党ではジョン・マケイン上院議員が一歩抜け出したが、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事とマイク・ハッカビー前アーカンソー州知事が選挙戦続行を宣言、両党とも今後も指名争いを続けることになった。

正式な候補者選出は、民主党が8月、共和党が9月に開く全国大会で行われるが、各州ごとに予備選または党員集会を通じて全国大会に出席する代議員を選出する。
民主党の場合は、各州で各候補者が獲得した得票比率に従ってその州に割り当てられた人数の代議員を比例配分するが、共和党では1位になった候補者がその州の代議員を独占する。今年のスーパーチューズデーには民主党で22州、共和党で21州が予備選または党員集会を開いた。1月初めから既に数州が予備選か党内集会を済ませているのを加えると、全米50州のほぼ半分が大統領選の第1段階を終えたことになる。

4年ごとに行われる米国大統領選では、通例2月第1週に行われるスーパーチューズデーで両党の候補者が事実上決まるケースが多かった。ところが今年は大激戦で、勝負はこれから行われる州の予備選・党員集会に移ることになった。スーパーチューズデーの結果、民主党ではヒラリー氏がニューヨーク、カリフォルニア、 ニュージャージーなど代議員数の多い大州を中心に8州で勝利、1038人の代議員を獲得した。オバマ氏は地元イリノイ州の他、中西部、南部を中心に13州で勝利、獲得代議員は940人。共和党ではマケイン氏がニューヨーク、カリフォルニアを含む9州で勝ち、獲得代議員は662人。ロムニー氏は地元マサチューセッツなど6州、253人を、ハッカビー氏は地元アーカンソーなど5州、181人を獲得した。
さて08大統領選挙当面の焦点は言うまでもなく、民主党候補者がヒラリー氏、オバマ氏のどちらになるかだ。アフガニスタン、イラクの反テロ戦争泥沼化や財政、貿易の双子の赤字拡大で、内政・外交に失点を重ねたブッシュ共和党政権は支持率3割そこそこと低迷を続け、民主党は8年ぶり政権奪回のチャンスに立つ。
ヒラリー氏だとアメリカ史上最初の女性大統領、オバマ氏だと史上初の黒人大統領が登場する現実的可能性があるのだ。これほどスリリング(thrilling)な展開になるだろうと、1年前に誰が予想したろうか。


ちょうど1年前、イリノイ州スプリングフィールドにシカゴ大学の学生など若者がバスを連ねて集まった。全国的にはほとんど無名の1上院議員バラク・オバマ氏が、ここで08年大統領選出馬を宣言したのだった。シカゴでなくスプリングフィールドを選んだのは、エイブラハム・リンカーンが1858年、あの奴隷解放を訴える演説をした町だったからだ。それからわずか1年、CHANGE WE BELIEVE IN (やればできる変革)というオバマ陣営のスローガンが全米はおろか全世界に広がり、アメリカを変えるかもしれない人物として、オバマ氏がクローズアップされていいるのだ。

1年前、ヒラリー氏は既に圧倒的な存在感を持つ大統領候補者だった。1993年から8年間ホワイトハウスを取り仕切ったファーストレディであり、夫ビル・クリントン大統領(と実習生モニカ・ルウィンスキさん)の性的スキャンダルを乗り切った女丈夫であり、2001年以降はニューヨーク選出上院議員として、令名あまねくエリート政治家であった。アメリカ大統領として必要な政治的経験を充分に積んだ有資格者。だからこそ、07年を通じた各種世論調査でヒラリー氏は一貫して人気トップを維持したのだった。

ところが08年早々のアイオワ州党員集会で勝ったのは、ヒラリー氏ではなくてオバマ氏だった。続くニューハンプシャー州予備選では、前評判を覆してヒラリー氏が雪辱。さらにサウスカロライナ州予備選ではオバマ氏が快勝、次のネバダ州党員集会ではヒラリー氏が辛勝。弱冠オバマ氏はベテランのヒラリー氏に互角の勝負を続けてきたのだ。ヒラリー・マシーン(Hilary machine)と呼ばれる全国ネットの支持母体、民主党内部に張り巡らせたクリントン人脈、ヒスパニックや黒人などの間に今も残っているビル・クリントン人気。ヒラリー氏が持つ重層的な支持基盤に対抗しているオバマ氏の魅力とは何か。

1961年にホノルルで、ケニア出身の父と白人の母の間に生まれたオバマ氏は、父が帰国、離婚した母に育てられるという厳しい境遇にめげず、名門コロンビア大学、次いでハーバード大法科大学院という秀才コースに学んだ。大学院修了で弁護士資格を取り、ハーバード卒の法曹界名士たちの機関誌Harvard law reviewの編集長に選ばれたことで政界への登竜門に立った。1997年からイリノイ州の上院議員を務め、その雄弁を買われて2004年大統領選のためシカゴで開かれた民主党全国大会の基調演説者に選ばれ、全国的知名度を得るチャンスをつかんだ。この年イリノイ州選出上院議員に当選、翌年から上院でイラク戦争反対の立場を明白にした。

頭の回転が速いだけでなく、人の話をよく聴くので好感度ナンバーワンのオバマ氏は一面、強烈なカリスマの持ち主だ。選挙キャンペーンを通じて多数の人々に接する中で、「黒人のケネディ」の異名を取るに至った。米民主党内でいまだに独特の影響力を持つケネディ家は、スーパーチューズデーを前にオバマ支持を明白にした。あのジョン・F・ケネディ大統領の娘キャロライン・ケネディさんと弟のエドワード・ケネディ上院議員は、オバマ氏こそ国民とともにアメリカを変革する指導者だと全国の民主党員に訴えた。

50代のキャロラインさんによると、オバマ氏に傾倒した20代の娘さんに引かれてオバマ氏に注目するうち、オバマ氏こそ21世紀のアメリカに新風を吹き込む指導者だと確信するようになったという。オバマ氏こそ人種、性別、年齢を超越するアメリカ社会を信じ、市民とともに祖国アメリカを変革しようとする第1級のリーダーだと確信するようになったと、キャロラインさんは語っている。かくて08年が明けると、日を追うにつれてオバマ旋風がヒラリー氏を急追した。
スーパーチューズデーで決着がつかなかった両党の指名争いは、2月9日のワシントン州、2月12日のバージニア州、メリーランド州、2月19日のウィスコンシン州と続き、3月4日のオハイオ、テキサス州の予備選または党員集会で勝負が着くだろうと言われている。オバマ氏に追う者の強味が付くか、ヒラリー氏が逃げ切るか、いよいよ大変な勝負の時が迫ってきた。
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