2008.02.07 毒入りギョーザ事件 抜け落ちた視点
今こそ食料自給率の向上を

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 中国製冷凍ギョーザによる中毒事件は、その後、中毒事件を起こした農薬とは別な農薬が検出されるなど、意外な展開をみせているが、事件を伝えるマスメディアの報道をみていると、「食の安全・安心」を論ずる上で一番肝心な視点が抜け落ちているのではないか、と思えてならない。つまり、「食の安全・安心」を貫徹するために食料の自給率をどう高めてゆくか、という観点である。

 中毒事件が発覚した直後の2月1日付の新聞各紙は、社説でこの問題を論じたが、その大半は「事件全容の解明」と「検査態勢の強化」を主張したものだった。
 例えば、朝日新聞は「農薬がどこでなぜ混入したのか。できるだけ早く突き止め、徹底した再発防止策をとってほしい」と述べ、さらに「安全は食品業界の生命線である。食材や製造過程を厳しく点検していくことは、中国側の安全衛生の水準を上げることにもつながるはずだ。輸入する水際での検疫に限界があることも、今回浮き彫りになった。日本が輸入する食品は多すぎて、一部の抜き取り抜き取り検査しかできない。それでも改善できる点はないものか、あらためて検討してもらいたい」としていた。
 読売新聞は「言葉通り、徹底した原因究明に取り組んでもらいたい」と述べ、「輸入時の検疫体制も十分でない。厚生労働省は輸入食品の1割程度をサンプル調査しているものの、農薬に関しては生鮮品を中心に行われている。検査手法が見直しが必要だろう」と主張していた。 
 日本経済新聞は「中国の食品会社の責任と原因を徹底的に追及すべきなのは言をまたない。中国製食品の安全性が疑問視されている中で、なぜ被害を防げなかったのか。日本の企業や行政の責任と課題も重い」と、事件の解明を求めるとともに「加工品の検疫所での水際チェック体制を再点検してほしい。輸入販売する企業も品質管理に万全を期さなければならない」と述べていた。
 毎日新聞も事件の「原因と過程が詳細に解明・公開され、納得いく再発防止の策が明示されなければ、疑心暗鬼を生じる状況になる」として、日中両当局が一致して解明・改善に全力を挙げなければならないと主張、検査システムの見直しを提案していた。
 その後、警察などの捜査で、農薬は冷凍ギョーザが袋詰めされて段ボールに入れられる包装過程で混入された疑いが強まり、各紙の関心は“犯人”さがしに向かう。テレビも同様である。
 こうしたマスメディアの論調なり動向は、至極当然のことと私も思う。しかし、その一方で、そこには何か本質的なことが抜け落ちているのではないかとの思いを禁じ得ない。それは、こんどの事件をわが国の食料自給率との関係で論じたものがほとんどないからだ。

 日本の食料自給率は、農林水産省によると、2004年度で40%(カロリーベース)という。これに対し、フランスは130%、アメリカ119%、ドイツ91%、英国74%で、日本は主要な先進国中最低水準にあるという。つまり、わが国は食料の60%を他国に依存しているわけである。「安全保障の面からみても日本人はなんと危うい食糧事情の中で暮らしているのだろう」と思わずにはいられない。
「食料の60%を他国に依存している」とは、別の言い方をするならば、必要な食料の60%を外国から輸入しているということだ。現に、日本は世界最大の食料輸入国なのである。こうした事情の中で、輸入した食料が私たちにとって「安心・安全」なものであるためには水際での完全な検疫態勢が必要だが、朝日新聞も指摘しているように、それには限界がある。したがって、検疫態勢を強化しても今回のような中毒事件は根絶できないだろう。 であれば、品質に信頼がおける食料、すなわち、手近なところにあって目が届く、素性の知れた国産の食料を増やしてゆく以外にない。つまり、食料の自給率の向上こそ、私たちが目指す方向なのだ。
 私たち日本人の間では「食料は安いほうがいい」という考える人が多い。コスト面からみると、外国産の方が国産よりも低いから、価格は外国産の方がはるかに安い。そこで、低価格の外国産食料の輸入が飛躍的に増え、いまや日本は世界最大の食料輸入国となり、食料自給率は世界最低水準となってしまったという次第だ。
 その一方で、日本の農業はどんどん衰退し、「農村が消滅寸前です。今すぐに対策を立てないと、日本から農村はなくなると思います」(1月20日付朝日新聞「声」欄に載った、岡山県の農民からの投書)という現状である。いまこそ、私たちは農業の再興を真剣に考えるべき時ではないか。

 日本が輸入する食料は年間約5800万トンとされる。これに対し、廃棄される食料は約2000万トンといわれる。私たちは日々、貴重な食料を浪費していると言ってよい。こうした生活の仕方についても、国民一人ひとりが考える時期にきている。
Comment
マスコミはアメリカの食肉問題の時は、
実際には被害がなかったのにかかわらず
全面輸入禁止を主張したのに、
今回は実際に被害が出ているのに
そのような主張を聞きませんな。
やまかわ (URL) 2008/02/07 Thu 21:14 [ Edit ]
東大の沖教授によれば、小麦1Kgの生産に2tの水が必要という。牛肉では実に20t。

これをバーチャルウォーターと呼び、輸入食糧から換算するとその総量は600億t。
国内の水使用料の2/3に相当する。本来であれば国内で使うであろう輸入された仮想水量である。
因みにミネラルウォーター、ビール等の輸入量は100万tというからその桁違いの多さがわかる。

今でもアフリカ、中東は慢性的に水不足に悩んでいる中で、今後、人口増加や気候変動でますます地球レベルでの生活水の不足が進行すると予測されている。

ギョーザ事件で考えなければならないこととして、自給率とともに、この国の途方もない水資源の消費と安い海外製品に向かわざるを得ない所得格差の存在がある。
山彦 (URL) 2008/02/08 Fri 21:28 [ Edit ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
() 2008/03/04 Tue 11:54 [ Edit ]
管理人にだけ表示を許可する
 
TrackBack