2008.02.17 「食料自給率向上」で本格的な論議を
三たび毒入りギョーザ事件について考える

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 1月30日に発覚した中国製冷凍ギョーザ中毒事件は、その後、どの過程でだれが何の目的で殺虫剤(農薬)を混入したかという“犯人捜し”に焦点が絞られてきた感があるが、その一方で、事件の背景には日本が食料を外国に依存していることがあるとして、食料自給率を上げるべきだとの意見も次第に高まりつつある。 日本人は「熱しやすく、冷めやすい」といわれる。例え事件の“犯人”が見つかっても、それで一件落着とさせず、引き続き「食料自給率向上」のための論議と具体策の検討が行われることを期待せずにはいられない。
 
 マスメディアで、今回の事件にからんで「自給率向上」を主眼とした企画記事を真っ先に掲載したのは読売新聞である。
 同紙は事件直後の2月5日付朝刊から1面で『食ショック 第1部 細る自給率』と題する続きものを5回にわたって連載した。
 連載は「日本の食料自給率は熱量(カロリー)ベースで、先進国最低の39%(2006年度)まで落ち込んだ」と書き出し、今、日本の食料がすべてストップしたら現在の国民1人あたりの供給熱量2548キロ・カロリーは996キロ・カロリーに激減し、「1〜2歳の男児が1日に必要な程度のカロリーしかない」状態になると診断する。
 したがって、食料輸入が明日から途絶しないようにしなくてはならないが、途絶する危機の予兆があるとする。それは、地球温暖化の影響で食料の生産量が減ったり、米政府が石油燃料の代替エネルギーとしてバイオエタノールの利用を打ち出したり、新興国が食料を大量消費するようになったからだという。さらに、世界では、今や食料の争奪戦が行われている、と指摘し、「これまで日本は、経済力を背景に世界中から質の高い食料を比較的安く買うことができた。だが、いま食料調達の最前線は、必死になって必要量の確保に取り組んでいる。食料安定供給の足元は大きく揺らいでいる」と報告する。
 であれば、食料自給率の向上が急がれるわけだが、連載は、わが国の農村では農業就業人口の激減、農業従事者の高齢化、耕作放棄地の拡大が進み、その影響で食料自給率がますます細りつつあると警告。「『細る自給率』をどう食い止めるか、国民一人ひとりの食に対する意識も問われている」。連載は、そう結ばれていた。
 民間団体の間でも、日本の食料自給率低下を招いたのは政府のグローバル化路線だとして、これを批判する動きが出てきた。2月1日に全国労働組合総連合(全労連)の小田川義和事務局長が発表した「政府の『グローバル化』路線の抜本的見直しを―『中国ギョーザ中毒』事件を契機にした国民論議を呼びかける―」と題する談話もその一つだろう。
 その談話は「中国製冷凍ギョーザによる中毒事件が発生し、国民の不安が広がっている」として、次のように述べていた。
「明らかな問題点の一つは、自動車などの工業製品を輸出し続けることでグローバル化の経済競争を勝ち抜くことを最優先した結果、カロリーベースの食料自給率が39%にまで低下したことである。そのため、学校給食で、一般家庭でも、飲食店でも、輸入食料品に依存せざるを得なくなり、被害が拡散しやすくなっている。
 二つには、大量の食料品が輸入されているにもかかわらず、それを監視、検査する体制が極めて貧弱で、慢性的な人員不足の状態にある。しかし、政府は、人的体制の強化をはかるのではなく、食品衛生法を改悪して輸入食料の『モニタリング』調査と言う『手抜き』で対処しようとした。自由貿易のいき過ぎが、このような「手抜き」法を生み、国民の健康を蝕む結果を生んでいるのである。
 三つは、政府の『グローバル化』路線のもとで、農民の貧困化が進行していることである。自由貿易が強調されるほど米価は下落し、ペットボトル1本分の米の値段が90円台にまで低下した。他の農産物でも同様の状況があり、農民が生産意欲を損なうまでの価格低下で、貧困と格差が広がっている。そのことが地域経済をさらに疲弊させ、深刻な社会問題となっている。グローバル化は、世界的にも格差と貧困を深刻にしたが、国内でも一部の産業に大きな影を落としている。
 今回の中毒事件を契機にして、直接的な原因解明だけでなく、格差や貧困を解消し、持続可能な日本社会をめざす視点から、重大な社会問題と位置づけた議論を求めたい。そのためのリーダーシップを政府や政党、マスコミが果たすよう強く期待したい」
 
 首都圏を中心とする10生協でつくる「パルシステム生活協同組合連合会」(組合員105万人)が、北海道農業・農村確立連絡会議などとともに進めている「日豪EPA(経済連携協定Economic Partnership Agreement)交渉における農業分野での適切な国際規律の確立を求める署名」も自給率の低下に反対する運動と言える。
 同連合会によると、現在、日本とオーストラリアの間で、EPAの締結に向けた交渉が行われているが、そこでは、「重要農産物の関税撤廃」が検討されている。同連合会としては、これが協定に盛り込まれると、日本の食料自給率をさらに引き下げ、地域農業(社会)を崩壊させることにつながりかねないとして、これに反対の姿勢をとることにしたという。
 署名では、政府に対し「EPA日豪交渉において、米や小麦、牛肉、乳製品、砂糖などの農業分野での重要品目を関税撤廃の対象から除外するなど適切に対応すること」を求めており、署名集約のうえ、2月22日に内閣総理大臣に届ける。

 2月13日のNHKニュースによると、NHKが2月9日から3日間、全国の20歳以上の男女を対象に世論調査を行い、今回の毒入りギョーザ事件を教訓に政府が最優先で取り組むべき再発防止策を質問したところ、「食料自給率の向上」が43%で最も多く、次いで「輸入食品に対する検疫体制の強化」が22%、「情報を共有し、迅速に対応できる態勢の確立」が14%だったという。
 国民世論は健全、とみていいだろう。こうした世論を踏まえて、食料自給率向上に向けた具体策についての本格的な検討が政府や政党、関係団体、マスメディアなどで始められることを切に望む。
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