2008.02.26 お懐かしや!三浦和義氏
暴論珍説メモ(番外)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 あの三浦和義氏(この人のことをどういう肩書きで呼んだらいいのか分からない。新聞は「元社長」「元被告」「容疑者」などさまざまだが、ここではとりあえず「氏」にしておく)が23日、サイパンで米警察に逮捕されたというニュースには驚かされた。
 日本の最高裁で5年前に無罪が確定した27年前の妻の一美さん殺しで、米警察があらためて逮捕したとなれば、新証拠が出たか、新証人が現れたか、ともかくそれ相当の材料があるからであろうから、これからのことは進展を見守るしかない。
 なのになぜここに一文を載せようとしているか、まあ聞いてください、あの騒ぎのさなか、最初に本人にインタビューしたのはほかならぬこの私だったのですから。以下は老記者の昔話です。
 当時(いつのことだったかもはっきりしません。ともかく騒ぎが最高潮の時です)私はTBSで『報道特集』(これは今でもあります)という番組のキャスターをしておりました。三浦氏への疑惑が深まり、三浦氏の家の前には毎日大勢の報道陣がつめかけて彼の話を聞こうとしていましたが、彼はそれに応じようとしませんでした。某有名芸能レポーターは毎日大きな花束を抱えて彼の家の玄関に立ちましたが、それでも会うことが出来ませんでした。
 この頃、朝日新聞では筑紫哲也氏が『朝日ジャーナル』の編集長をしていて、会う人ごとに「日本で唯一、三浦和義を取り上げない週刊誌です」と自慢していたということですが、われわれ『報道特集』としては数多のワイドショーと同じことはしたくないが、しかし出来ればあの大勢のレポーター連中の鼻を明かしてやりたいという気持はありました。
 しかし、これという名案もないので、だめでもともと、ひとつ正攻法で行こう、ということになり、われわれの番組はワイドショウーとは違う(このあたり今思えばいやらしい)ということを強調して、じっくりあなたの話を聞くからこの番組に出ないかという手紙を出しました。
 そしたらそれに彼は食いついて来たのです。そして彼がTBSに来ることになりました。そこで最初に話したのは実は出演料のことです。「三浦はいくら積めばテレビに出る」というような噂が飛び交っていましたから、われわれは彼に「TBSは金で出演してもらうつもりはない、規定どおりのお金しか払えない、そのほうがあなたもいろいろ言われなくていいだろう」
と持ちかけました。彼はそれでいいとOKしました。いくら払ったか記憶がはっきりしませんが、タレントでも政治家でも学者でもない一人の市民として、ということは最低ランクで拘束時間を計算し、社に来てもらうのでその分を割り増しにして、確か二万数千円、三万円以下であったことは間違いありません。ともかくそれで出ることが決まりました。
 本番でどんな話をしたか、これも今となっては残念ながら定かではありません。まあ当時言われていた疑惑を彼に質し、彼がそれをひとつひとつ否定する(当たり前ですが)という展開だったと思います。
 ただ忘れられないことが一つあります。まだ本番に入る前、打ち合わせで事件の話になったとたん、彼はやにわに椅子から立ち上がると、ベルトを緩めて、ズボンを下にずり下げたのです。パンツ一枚です。そのすそをたくし上げて股間に近い一ヶ所を指さしました。そこには傷跡がありました。「見てください。僕もここを撃たれたのです。ちょっとずれれば大事なところがやられてしまいます。僕があの犯人たちに頼んで一美を殺させ、カムフラージュで自分も撃たせたと言われますが、芝居でこんなところを撃たせますか」と言うのです。
 その動作はいかにも芝居がかっていました。疑惑を否定するのにどうすれば効果的か、それを計算した結果の作戦だったのでしょう。考えてみれば、もしも嘱託殺人事件であったとして、頼まれた人たちは彼のもっと無難な箇所を狙ったのに、弾がそれて偶然「大事なところのそば」にあたったということだってありうるわけですから、傷の場所が彼の疑惑を晴らすことにはならない理屈ですが、いきなりズボンを脱ぐというアクションは人を驚かすには十分でした。
 その後、彼はいろいろなテレビに出るようになりました。どうも一度テレビに出てみて「テレビの司会者などはたいしたことはない。いくらでもこちらのペースでやれる」と自信をつけたようで(私の無能が一役買ったのでしょう、残念ながら)、むしろテレビ出演を楽しんでいる風さえ見られました。それらを見るたび、私はこの番組のスタッフもきっと彼のパンツ姿を見せられたのだなと苦笑したものでした。
 米国の捜査が今後どう進んでいくのか分かりませんが、私の印象では三浦和義という人は次から次へといろんなことをまくし立てて自分の正当性を印象づけようとするタイプです。その言葉数の多さは相当なものです。最高裁が無罪とした決定的な理由は確か銃撃犯が特定されなかったことでしたから、今になっての逮捕はそこに新しい事実が出てきたことが考えられますが、米国の法廷で彼の弁舌がどう活躍するか、二十数年前を思い出しながら、ちょっと覗いてみたい気分です。
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