2008.03.07 土壇場で踏みとどまったヒラリー
民主党の大統領候補指名争いなお激戦

伊藤力司 (ジャーナリスト)

3月4日テキサス、オハイオ、ロードアイランド、バーモントの4州で行われた、米大統領選挙の候補者を決める予備選で、窮地に立たされていた民主党ヒラリー・クリントン上院議員はテキサス、オハイオ、ロードアイランドの3州で勝利した。この結果、2月から3月にかけて11連勝と破竹の勢いだったバラク・オバマ上院議員(この日バーモント州で勝利)に一矢を報い、候補者指名レースに踏みとどまることになった。ヒラリー氏の地盤とみなされてきたテキサス州、オハイオ州でもし敗れれば、指名争いから撤退せざるを得ないという厳しい局面だったが、これを辛うじて切り抜けたヒラリー氏は、今後もオバマ氏との一騎打ちを続ける。

共和党ではこの日4州全ての予備選でジョン・マケイン上院議員が完勝。その結果、これまで大量リードされながらレースを続けてきたマイク・ハッカビー前アーカンソー州知事がついに撤退を表明。これで共和党は08米大統領選を、ベトナム戦争のヒーローであり、イラク、アフガンの対テロ戦争でブッシュ大統領の強硬路線を支持してきたマケイン候補(71)で戦うことが事実上決まった。この結果民主党の指名争いには、マケイン候補に勝てる候補として、オバマ氏とヒラリー氏のどちらがいいかという基準が加味されることになった。
民主党ではこの4州予備選の結果、オバマ氏を支持する代議員数が通算1,555人、ヒラリー氏支持代議員数は同1,449人(NHK速報)となった。2月5日のスーパーチューズデー直後、獲得代議員数はヒラリー氏が若干リードしていたが、その後オバマ氏が11連勝で逆転、代議員数でオバマ氏が100人余りのリードを保ってきた。このリードは3月4日の4州予備選でのヒラリー氏3勝1敗を受けても、さして変わらなかった。民主党の場合、獲得代議員数は各候補の得票率で比例配分されるから、得票率に大差がつかない限りトレンドは大きく変化しないからだ。

今年8月25日から4日間、コロラド州デンバーで開かれる民主党全国大会の代議員数は4,049人。その過半数2,025人の支持を得た人が正式に民主党大統領候補者となる。これから6月までに、残り10州とプエルトリコ、グアムなど自治領の予備選が行われ、新たに600人余りの代議員が選出される。これだけ競っていると、オバマ氏、ヒラリー氏のどちらも一般選出の代議員から2,025人を確保することは難しい。そこでカギを握るのがスーパー代議員(super delegate)の存在だ。

スーパー代議員(または特別代議員)とは、上下両院議員、州知事、元正副大統領など、選挙で公職に選ばれた人々と民主党全国組織の役員たち、総数795人で構成されるエリート集団だ。かつては各州の予備選、党員集会による草の根選挙で選ばれた代議員だけで民主党大統領候補を選出した。しかし1972年に大統領候補になったジョージ・マクガバン氏、78年に当選したジミー・カーター氏に不満を抱いた民主党エスタブリッシュメントが、大統領候補選びには政治プロ集団の見識が必要だとして導入した制度である。全国党大会に出席する州選出の代議員は、予備選なり党員集会の投票結果で支持候補が決まっているが、スーパー代議員の場合は好きな候補に投票することができる。

今年のスーパー代議員では、ケネディ上院議員のように早々とオバマ支持を公表した人もいれば、ペロシ下院議長のように去就を明らかにしない人もいる。これまでにいずれかへの支持を明白にしたスーパー代議員は約400人に上る。残り400人弱はまだ態度を明らかにしていない。これらのスーパー代議員たちこそ、8月党大会での候補者指名にいわば生殺与奪の権を握ることになる。1978年に夫ビル・クリントン氏がアーカンソー州知事に当選してから、30年にわたり民主党エリート集団に身を置いてきたヒラリー氏のほうが、スーパー代議員とのコネが広く深いことは言うまでもない。

昨年末までヒラリー氏がオバマ氏に支持率で20ポイントの差をつけていたころ、スーパー代議員の圧倒的多数はヒラリー支持だった。しかし本年1月以降のオバマ旋風で、スーパー代議員の意識も変わった。有権者の投票で選ばれた公職者である以上、選挙民の動向にはいつも敏感だ。1年前はほとんど無名だったオバマ氏が、ベテランのヒラリー氏を追いつめている現代アメリカの“空気”を無視することはできない。「勝ち馬に乗れ」は政治家の鉄則である。11連勝でオバマ氏に傾いた流れが、ヒラリー氏の“金城湯池”テキサス州、オハイオ州で食い止められた。出口調査からはテキサスのヒスパニック票、オハイオのブルーカラー票がヒラリー氏の勝因だったと分析されている。

イラク、アフガンの泥沼に加えてガザの流血拡大で、ブッシュ共和党政権の中東和平構想は早くも挫折した。財政・貿易の「双子の赤字」の上に、サブプライム・ローン問題を抱えた米国の経済が減速から後退に向かうのは必至だ。こうした中で、共和党のマケイン候補が勝てるチャンスは万に一つもなかろう。次が民主党政権であることはほぼ決定的だ。それがオバマ政権なのか、ヒラリー政権なのか。
新旧の世代交代の可能性を含みながら、アメリカは日本よりダイナミックに21世紀の歴史を踏み出そうとしているようだ。
Comment
独立党のブログ 2008年 03月 05日付け記事の転載

そして猿芝居はつづく

「絶体絶命」「撤退か?」の憶測が躍り、まさに水際まで追い詰められたところで飛び出した起死回生の逆転劇。

票差などいくらでも操作でき、結果も主催者の胸先三寸の出来レースは、こうして、今しばらくのデッドヒートが繰り広げられていく。

どこからともなく、「全50州、国民の大半が観る映画なんだから、もっと派手な展開を盛り込まなきゃ駄目だ」という、プロデューサーの声が聞こえてくるかのようだ。

一方の当事者である(つもりの)国民も、経過ごとに興奮したり悔しがったりで、そこまで迫っている経済破綻のことなど、目を向ける余裕がないほど忙しい。
NSA (URL) 2008/03/07 Fri 20:31 [ Edit ]
「こうした中で、共和党のマケイン候補が勝てるチャンスは万に一つもなかろう。次が民主党政権であることはほぼ決定的だ。」
傍目から見れば誰でもそう思うかもしれないし、アメリカのためにはそうあるべきだと(私個人としては)思いますが、2月20日〜24日のニューヨークタイムス/CBSのアンケート調査では、現時点で大統領選があれば誰に投票するか、という質問に:
オバマ  50%
マケイン 38%

ヒラリー 46%
マケイン 46%

ということで、ヒラリー氏の場合はかなりの接戦です。マケイン氏は先日ブッシュ大統領の後援も得て(これも傍目には、逆効果じゃないかと思えるのですが)、更に右寄りの票を取り込めるので、副大統領候補次第では、(自分は経済のことはあまりよくわからない、と以前認めたにもかかわらず)マケイン氏が勝つ公算も高まってくると思います。とにかく共和党の攻撃がすごい。ブッシュ大統領が再選された時も信じられませんでしたが、何が起こるか(あるいは何が仕掛けられるか)、私には先が読めないアメリカ大統領選です。とにかく、今度は、投票したい人達全員がちゃんと投票できる公正な選挙にしてほしいです。
ShadowTheCat (URL) 2008/03/09 Sun 18:01 [ Edit ]
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