2014.05.01  「満額回答」を喜ぶ時代錯誤
―日米・米韓首脳会談の記者会見を読む―
 
半澤健市 (元金融機関勤務)

 バラク・オバマ米大統領のアジア四カ国歴訪が2014年4月下旬に行われた。
ホワイトハウスのホームページで日米・米韓の首脳共同記者会見の質疑応答を読んだ。
次の三点に絞りメディアの報道を検証し短くコメントしたい。念のために原文の一部も併記した。誤訳があったらご指摘頂きたい。
1.「満額回答」は本当か
2.歴史認識のスレ違い
3.オバマの中国観

《オバマの満額回答という愚かな評価》
 オバマが安保適用で尖閣に言及したのは「満額回答」だという。
政府与党から聞こえる多数の声でありメディアも殆ど疑問を呈していない。
「大統領が尖閣へ安保適用するという言及は初めてだがその意味は」との記者質問に答えて、オバマは「米国の立場に何も新しいものはない」と言った。既に米政府高官が明言しておりこれは「我々の一貫した立場」だと答えている。
Our position is not new. Secretary Hagel, our Defense Secretary, when he visited here, Secretary of State John Kerry when he visited here, both indicated what has been our consistent throughout.
尖閣諸島の主権が日中いずれにあるかに関与しない。歴史的に日本の施政権下にあること認め、その地域は日米安保の対象である。これも一貫したものである。これがオバマの答えである。
We don't take a position on final sovereignty determinations with respect to Senkakus, but historically they have been administered by Japan (略)the treaty covers all territories administered by Japan. So this is not a new position, this is a consistent one.

「満額回答」とは未達のものを要求し全面承諾の答えを引き出すことである。「何も新しいものでない」発言の引き出しは外交成果ではない。

《従軍慰安婦を人権侵害と言ったオバマ》
 ソウルではオバマに対して、東京で安倍が靖国参拝へ言及したことへの質問が発せられた。オバマは靖国問題には直接答えず、同じ会見で朴槿恵韓国大統領が強調した慰安婦問題について発言した。慰安婦は恐ろしい言語道断な人権侵害だったことを認めなければならぬと言った。女性たちは、戦時中とはいえ、衝撃的な方法で権利を侵害されたのであり、彼らの言い分を聞かねばならず、彼らの尊厳は護られねばならず、起こった事実の正確で明確な説明がなされなければならないと言った。
I think that any of us who look back on the history of what happened to the comfort women here in Korea, for example, have to recognize that this was a terrible, egregious violation of human rights. Those wemen were violated in ways that, even in the midst of war, was shocking. And they deserve to be heard, they deserve to be respected, and there should be an accurate and clear account of what happened.
オバマはこのあと未来志向の発想も必要だと発言していることは付言しておく。メディアこの未来志向の部分を重視して報道した。

《中国とは強固な関係というオバマ》
 オバマの対中認識はイデオロギーを排した現実的な視点にたっている。
米中対立を武力で解決する発想を抑制している。これは60年前の「平和共存」論を私に想起させる。東京の会見では、安倍に次のことを強調したと言った。
「尖閣問題については平和解決を目ざし、事態をエスカレートさせず、論難を慎み、挑発を回避し、両国が協力できることを決めること」。そのうえ大きな人口、成長する経済を考えれば、中国の平和的な台頭への支援を継続したい。通商や成長、気候変動対策の協力など、膨大な機会が存在すると述べた。更には、米国は中国と強い関係を結んでいる。中国は世界に極めて重要な国だと言っている。他でも紛争の平和的解決については繰り返し強調している。
I emphasized with Prime Minister Abe the importance of resolving this issue peacefully ―not escalating the situation, keeping the rhetoric low, not taking provocative actions, and trying to determine how both Japan and China can work cooperatively together. And I want to make that larger point. We have strong relations with China. They are a critical country not just to the region , but to the world.

戦前でも米中関係が独立変数で、日中関係はその従属変数だと言った識者がいたという。全く同感というのが私の感想である。(2014年4月29日・「昭和の日」に)
Comment
豊下楢彦著『「尖閣問題」とは何か』(岩波現代文庫)によれば、尖閣諸島のうち、久場島と大正島は米軍政時代に射爆場として使用されており、沖縄返還以後も日本人立ち入り禁止の排他的な米軍管理地とされている。その事実は現在も海上保安庁第11管区本部のホームページに公表されている。
 とすれば、尖閣諸島は安保条約第六条に規定された「基地」であり、この事実を無視して「尖閣諸島の領有権については関与しない」という米国の態度は無責任と非難すべきであり、オバマ大統領発言に対して「満額回答」などと手放しで有難がる日本政府は、外交を真剣に遂行しているか疑問である。外務省も防衛省も尖閣諸島の地位を根本的に再検討して、主張すべきことは明確にすることこそ喫緊の責務である。
深津 真澄 (URL) 2014/05/02 Fri 19:09 [ Edit ]
2017年2月3日に、来日の米マティス国防長官が安倍首相を「表敬訪問」した。NHK午後7時のニュース画面には、テロップが流れて、「米は尖閣が安保第五条の対象であることを確認」と出た。「満額回答」を笑った私は、驚愕した。尖閣をカードにすれば、日本は何でも言うことをきくことが分かって、マティスは心から喜んだと思う。
半澤健市 (URL) 2017/02/08 Wed 17:26 [ Edit ]
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