2014.07.23 「護憲派に日本防衛戦略があるかね?」
――八ヶ岳山麓から(108)

阿部治平(もと高校教師)


この数年、中国の旅のなかで中国人何人かと日中問題で話し合う機会があった。今年は尖閣問題だけでなく安倍内閣の性格や集団的自衛権などが話題になった。中国の友人たちはあるものは熱心に中国政府を擁護・支持し、あるものは意外に冷めた目で自国政府と日本を見ていた。
日本製品を輸入販売する友人に「日中関係が最悪の状態だから、商売もやりにくいだろう」というと、「やりにくいなんてもんじゃないよ。このまえも通関がやたら手間取った。税関の役人が反日感情の持主だとこうなる」と答えた。
以下内容に矛盾があるのは承知で、中国の友人たちとの会話・問答の断片を記す。

ある友人は、「君たちが憲法九条を守るというなら、それは非武装じゃないか。非武装で独立が守れると思うか。守れないから自衛隊が生まれたんだろう」と聞いてきた。私は概略こんなふうに答えた。
「憲法通りなら非武装だが、いまは憲法擁護派も多くは専守防衛、最小限度の武装を認めている。ところが日米安保条約のもとでは独自では戦えない。自衛隊は世界最新の武器で武装され、防衛費も巨大だが、日本の安全を最終的に守るのはアメリカになっている。在日アメリカ軍基地はアメリカの軍事的影響力を維持拡大するためにあるのに、日本人は日本防衛のためにあると思いこんでいる」

ある少数民族とも話した。
日本政府は従来の憲法解釈をあらためて、現行憲法下でも集団的自衛権が容認されるということにした。これは自国防衛だけでなく、他国の戦争に手出しすることを意味する。政府は集団的自衛権は仮想敵国(中国)からの攻撃抑止力になるともいうのだ。
私の村のような田舎でも毎週金曜日には村の辻でビラ配りをやって、アメリカの戦争に自衛隊が参加する体制にするのに反対した。
こう話したら、意外にも彼は怒りをあらわにしてこういった。
「いいか、日本人よく聞け!日本が軍備を増強しないでどうする!中国にやられていいのか。軍備反対デモなんかやっていたら、おれたちと同じみじめな運命が待っているぞ」
彼は安倍内閣の解釈改憲と軍拡を混同しているが、さらにこういった。
「1949年の革命以来、中国共産党がチベットやモンゴルやウイグルに対してどんなにひどいことをやってきたか知っているか?反右派・大躍進・文化大革命のたびに大量の人命が失われたことを知っているか?おれの母親は拷問で鎖骨が折れて早死にし、父親は腕が曲がったままだった」と。
早い話が2008年ラサの「暴乱」事件直後はチベット人は、漢人地域で宿泊するところがなかった。いまチベット人には特別なことがないかぎりパスポートを出さない。極端分子が苛烈な無差別テロをやるようになってから、北京でウイグル族を泊める旅館やホテルはなくなった。彼らは税関や飛行場でしつこい尋問を受けているだろう。
漢人地域では農村の過剰人口は減少し都市では人手不足だというのに、少数民族の就業状況の相変わらず悪い。習近平政権になってから言論弾圧が激しくなったから、この不満すらおおっぴらに話すことはできない。
「ことばも文化も失われた。わが民族は滅びる。日本人は歴史の教訓に学べ!」おれたちはどんなに嫌でも中国共産党万歳を唱えなければ生きてゆけないのだ。

中国は大国だと誇る人たちがいた。
「平和共存という君の考えは20年前だったら通用したかもしれない。だが情勢は変化している。鄧小平の遠慮の外交、つまり『韜光養晦(とうこうようかい。ことをすすめるにあたって能力を隠し時期を待つ)』の時代は終わったのだ。中国が大国になった以上、アジアでアメリカの影響力を排除するのは当然じゃないか」
こういう大国意識は、直接には江沢民以来長い時間をかけた教育宣伝の効果だ。たしかにアジアにおけるアメリカの影響力の衰退は必至だ。だがそのかわりに、中国がアメリカ同様の覇権国家としてアジアに君臨するのはごめんだ。大国も小国も平等である。
対日認識をめぐっては、知人は米中共通の部分があるといった。彼は習近平中国主席と同じように「二戦(第二次世界大戦)の敗戦国日本は戦後秩序に従わなくてはならない」といった。「二戦」のとき米中は反ファッショ陣営だった。「連合国(国連のこと)」は反ファッショ戦争の勝利者が設立したものだ。領土問題は勝利者が決める。南シナ海でも東シナ海でも「核心的利益」をめぐっては妥協はないという。
「だから日本の尖閣国有は再びの侵略と同じだ。中国人で習近平主席の対日外交に反対するものはいない」
私は「釣魚島(尖閣)領有権の主張は、互いに相手から見れば曖昧で決定的な根拠はない、だから衝突を避け、日中協力して開発したほうが双方のの利益になる」と主張したが、はかばかしい同意は得られなかった。友人のなかには「それを日本政府にいえよ」というものがいた。
尖閣をめぐって日中間に異様な緊張状態がうまれたのは、石原慎太郎の尖閣東京都有発言にたいして民主党内閣が適切に対応できなかったのが発端だ。安倍晋三などの「戦争犯罪への反省の撤回」がそれを増幅した。中国はこれを奇貨としてことさら挑発行為を強めている。

中国在住の日本人は「中国では、オバマ米大統領の「尖閣には日米安保条約上の防衛義務がある」という発言を、従前からの米政府の見解の繰返しではなく、『本気』と受止め、日本だけではなくベトナムやフィリピンの主張と行動を励ますものと感じている」といった。オバマは領土問題の平和解決も主張したが、中国人はこれをあまり意識しないという。
友人曰く、「だからわが方は断固たる反対の意思表示をするために、西沙諸島でベトナムに断固たる態度で臨んだ。中国は外国から脅しがあればかならず厳しく報復するのだ」
私から見るとこれは、ベトナムやフィリピンに習政権が譲歩すれば軟弱外交として非難される、ましてや日本なんかに譲ったら命取りになるということだ。これは習近平氏の政治基盤が弱いことを示している。彼はきびしい少数民族政策と言論抑圧と並んで腐敗追放を呼号しているが、腐敗の頂点に立つ周永康という元最高幹部の逮捕はまだできないし、ライバルの胡錦濤派も抑えられない……。

私にとって深刻な質問は、「君たち護憲派なる人々は日本防衛の戦略構想をもっているか」という質問だった。また別な友人は、「君たちは日本は最小限度の防衛力をもつだけだというが、中国が軍事力を向上させれば、日本も対抗上防衛力を増強しなければならない。軍拡競争は避けられないじゃないか」といった。
これは中国の核ミサイルなど先鋭的武装に日本はどう対処するかという問いに通じるものである。私は自分の考えをいってみた。

まずは敵を作らないこと、アメリカの敵を日本の敵としないこと、近隣諸国とは核兵器を含めた脅しを受けない関係を構築することである。いいかえれば日米・日中・日韓を問わず、互いを必要不可欠とする環境、とくに密接な経済関係を構築・維持すること。これが防衛戦略である。
たとえば米中には対立があるが、核戦争に至るようなものではない。アメリカは、協調できるところは協調し中国との紛争を避けようとしている。なぜか。中国はアメリカ国債の最大の所有国だ。米中は互いに第2の貿易相手国で、中国にとってアメリカは最大の輸出相手国である(対中貿易では日本の地位は低下している)。米中は対立・矛盾をはらみながらも密接な関係になっている。
とうぜん、日本はアメリカをあてにして中国を敵視する外交をやめるとともに、日米安保条約と独立国に米軍の巨大基地があるという矛盾の解消、つまり侵略に自らの判断で反撃する体制に転換すべきである。

これに対して、彼は、私のような考えが日本人の心をとらえられると思うかと反問した。しばらく考えたが適切に返すことばが見つからなかった。
おもえば、護憲・リベラル派は、「戦争のできる国への反対」をいうだけで、尖閣問題はこう解決せよ、中国や韓国やアメリカとはこう向きあおう、こうやれば日本防衛は十全だという、国民が納得できるような提案をしてきただろうか。中国の尖閣をめぐる挑発行為が日本右傾化の力強い並走者・平和憲法改悪の有力な応援団になっていることを中国政府に指摘し、挑発をやめるよう要求しただろうか。

Comment
侵略に自らの判断で反撃する体制に転換するには、国防費を四倍程度増やし、核武装もし、当然憲法も改正することが必要になります。それが財政的に無理だからアメリカに頼らざるを得ないのです。
密接な経済関係だけでは紛争を防げないのは、中国とベトナム・フィリピンの関係を見れば明らかです。
はてな (URL) 2014/07/23 Wed 06:46 [ Edit ]
笑えますね(泣き笑いですが)。

旧ソ連の小国民たち同様に、「共産党政権」下の大国中国でも、まだ、武力自衛政策(=武力自衛可能論)の幻想が克服されていない。
9.11以降、核抑止政策の放棄を主張し始めたキッシンジャーたち4賢人のようなブルジョア体制派にも劣る現実感覚や認識水準しかもてないのが「共産中国」の小国民たちや20世紀型マルクス主義者の現状なのでしょうね。マルクス・エンゲルスの「軍国主義滅亡の弁証法」の今日的発展形態の鮮明化努力など、考えも及ばないということなのでしょうか。

阿部さんも、バカな自称左翼どもの挑発に乗せられて「十全なる国家防衛策」などで無駄な格闘をしない方がよろしいかも。幻想はしょせん幻想、過去の現実や有効性・正当性も歴史発展の中で解体・死滅していくのが弁証法的歴史世界です。

なお、キッシンジャーたちの提唱する核廃絶論は、武力抑止政策幻想からの覚醒にあと一歩まで迫っているとしても能動的軍事干渉政策の完全放棄にまでは至っていない大国主義とプラグマチズムのアマルガムですから、手放しの賛美も危険です。
バッジ@ネオ・トロツキスト (URL) 2014/07/23 Wed 09:29 [ Edit ]
あと、

>中国の尖閣をめぐる挑発行為が日本右傾化の力強い並走者・平和憲法改悪の有力な応援団になっていることを中国政府に指摘し、挑発をやめるよう要求しただろうか。

こういう主張や願望も、無い物ねだりだと思いますよ。

「自主独立」路線や内政不干渉原則を抽象化し絶対化している反マルクス的一国主義左翼には、その基本的立場の変更(=マルクスの国際主義への回帰)無くして外交・防衛政策も労働・経済政策も環境・エネルギー問題も人権・民主主義政策も真のオルタナティヴを期待出来ないでしょう。
バッジ@ネオ・トロツキスト (URL) 2014/07/23 Wed 09:45 [ Edit ]
>近隣諸国とは核兵器を含めた脅しを受けない関係を構築すること
既に日本国籍を持つ人間を拉致したままの国や、一方的な国境線を策定した国や、不可侵条約を破った国や、資源があると分かった途端に領有権を主張してくる国がある以上は無理ですね。
(URL) 2016/05/05 Thu 00:07 [ Edit ]
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