2008.03.19
胡錦涛政権の多難な折り返し
−“天変地異”にはさまれた中国の「両会」−
毎年3月、中国憲法で「最高権力機関」とうたわれる全国人民代表大会(全人代)とその諮問機関的な中国人民政治協商会議(政協)が開催される。いろいろある差異は棚上げしてわかりやすくたとえると、日本の衆参両院ということになるからいわば定例国会だ。
そして、このふたつの会議、いつも足並みをそろえて3月に開かれるから「両会」と略称される。その「両会」が18日までに議案審議、人事決定などを終えて閉幕した。今年注目されたのは次のような点である。
一つ目は、手続き的なこと。全人代は任期5年で、今年から第11期が始まった。今回の第11期1回会議で選任された国家主席以下の国家機関・軍・政府などの責任者も5年任期のスタートを切った。
二つ目は、胡錦涛国家主席(再任)=習近平同副主席(新任)、胡錦涛総書記=温家宝首相(いずれも再任)という2組のコンビで党・国務と政務を担う体制ができたこと。次期総書記含みの習近平国家副主席へのバトンタッチを含め、胡錦涛=温家宝政権は次の中国共産党大会の開かれる2012年までの折り返しに入ったことである。
三つ目は副題に掲げた“天変地異”である。中国の国民にとって1年で一番楽しみにしている春節(旧正月=2月7日)の直前に湖南省・広東省など中国中南部が寒波に襲われた。この寒波による積雪や結氷などで鉄道と道路交通がマヒし、火力発電用の石炭輸送が滞ったり送電塔が倒壊したりしたため広範な地域で停電が続いた。
このため、春節を迎えようと郷里に向かっていた億にちかい多数の人々が立ち往生させられた。鉄道網のカナメの広州駅では、乗客への広報・誘導が不十分だったことも手伝って80万人の乗客が滞留して押し合い圧(へ)し合い、若い女性が1人、混乱の中で死亡した。
善後策を督励するため、温家宝首相が2度にわたって南部の現地に飛び、復旧策を指示した。人口13億の大国の首相が首都からとんぼ返りしなければならなかった事態を「首脳の陣頭指揮」と評価するか、「鶴の一声」なしには災害復旧も思うようにいかないらしい事例ととらえるか。
丹藤佳紀 (早大講師)
毎年3月、中国憲法で「最高権力機関」とうたわれる全国人民代表大会(全人代)とその諮問機関的な中国人民政治協商会議(政協)が開催される。いろいろある差異は棚上げしてわかりやすくたとえると、日本の衆参両院ということになるからいわば定例国会だ。
そして、このふたつの会議、いつも足並みをそろえて3月に開かれるから「両会」と略称される。その「両会」が18日までに議案審議、人事決定などを終えて閉幕した。今年注目されたのは次のような点である。
一つ目は、手続き的なこと。全人代は任期5年で、今年から第11期が始まった。今回の第11期1回会議で選任された国家主席以下の国家機関・軍・政府などの責任者も5年任期のスタートを切った。
二つ目は、胡錦涛国家主席(再任)=習近平同副主席(新任)、胡錦涛総書記=温家宝首相(いずれも再任)という2組のコンビで党・国務と政務を担う体制ができたこと。次期総書記含みの習近平国家副主席へのバトンタッチを含め、胡錦涛=温家宝政権は次の中国共産党大会の開かれる2012年までの折り返しに入ったことである。
三つ目は副題に掲げた“天変地異”である。中国の国民にとって1年で一番楽しみにしている春節(旧正月=2月7日)の直前に湖南省・広東省など中国中南部が寒波に襲われた。この寒波による積雪や結氷などで鉄道と道路交通がマヒし、火力発電用の石炭輸送が滞ったり送電塔が倒壊したりしたため広範な地域で停電が続いた。
このため、春節を迎えようと郷里に向かっていた億にちかい多数の人々が立ち往生させられた。鉄道網のカナメの広州駅では、乗客への広報・誘導が不十分だったことも手伝って80万人の乗客が滞留して押し合い圧(へ)し合い、若い女性が1人、混乱の中で死亡した。
善後策を督励するため、温家宝首相が2度にわたって南部の現地に飛び、復旧策を指示した。人口13億の大国の首相が首都からとんぼ返りしなければならなかった事態を「首脳の陣頭指揮」と評価するか、「鶴の一声」なしには災害復旧も思うようにいかないらしい事例ととらえるか。
さて、その後に日中間では「毒餃子事件」が持ち上がり、問題はまだ解決していない。しかし、3月10日から「チベット問題」が急浮上し、「毒餃子事件」は報道レベルでは暫時、棚上げの形となった。
この「チベット問題」について、本ブログではチベット人の多数居住する青海省からの貴重なレポートなどを17、18日に掲載したので、ここでは詳説しない。
「両会」の注目点として手続き的なことから挙げたが、意味合いの重さからいえば順序が逆になることはいうまでもないだろう。
胡錦涛総書記の提唱した「科学的発展観」がいまや党規約にも書き込まれる時代だが、大衆はやはり風水思想など伝統的なものの見方・考え方にいまでも一目置いている。そこで、中国人の友人たちの気にするのは、毛沢東時代が終わりを告げた1976年の前例だ。
1975年、吉林省に大隕石が落下し、1976年7月には河北省唐山市でマグニチュード7・8の直下型大地震が発生して100万市民のうち24万人が死亡した。時間的には先後するが、1976年1月、建国以来の宰相・周恩来が死去し、毛沢東と紅軍をつくった朱徳がその7月に死去した。そして9月9日、「重陽の節句」毛沢東が死去し、「中国の赤い星」が3つ消えた。
ただ、「マッチポンプ」になるようだが、1976年は干支でいう「辰年」だった。中国では「龍年」というのは天変地異の起こりやすい年とされているが、今年は「子年」だからそれには該当しないことになる。天安門事件の前年の1988年が「龍年」だったが、2000年の次はいつかというと、2012年、胡錦涛総書記から後継者にバトンの渡されるときになる。
なにやら「当たるも八卦」みたいな話になったので、全人代に戻そう。昨秋の中国共産党大会で「2階級特進」により中央政治局常務委員になった習近平氏が共産党の推薦通り国家副主席に選任された(賛成2919・反対28・棄権7)。反対・棄権票はどちらもひとケタだった胡錦涛(国家主席)、呉邦国(全人代委員長)をわずかに上回った。
これらの選挙はいずれも候補者が一人だけの信任投票である。だから、投票用紙に印刷されている習近平氏にマルかバツをつける投票(あるいは棄権)なのに、ライバルと目されている李克強政治局常務委員の名を書き込んだ票が5票出たのである。
胡錦涛総書記は、自らの出身母体である共産主義青年団OBの李克強氏を後任に据えたいと考えてきたという。党大会で政治局常務委員に引き上げたものの習近平氏より下位である。それを反映して、今回の全人代では習氏の国家副主席に対して筆頭副首相に選任された。
ここでは多種多様な政策問題には触れなかったが、高度成長の中で昨年から目立つ物価の急激な上昇(2月の消費者物価指数=前年2月比8・7%上昇)は国民大衆に大きな負担になっている。この問題は、所得格差・過少消費・人民元切り上げなどにからむだけに腰を据えた取り組みが求められる。
この「チベット問題」について、本ブログではチベット人の多数居住する青海省からの貴重なレポートなどを17、18日に掲載したので、ここでは詳説しない。
「両会」の注目点として手続き的なことから挙げたが、意味合いの重さからいえば順序が逆になることはいうまでもないだろう。
胡錦涛総書記の提唱した「科学的発展観」がいまや党規約にも書き込まれる時代だが、大衆はやはり風水思想など伝統的なものの見方・考え方にいまでも一目置いている。そこで、中国人の友人たちの気にするのは、毛沢東時代が終わりを告げた1976年の前例だ。
1975年、吉林省に大隕石が落下し、1976年7月には河北省唐山市でマグニチュード7・8の直下型大地震が発生して100万市民のうち24万人が死亡した。時間的には先後するが、1976年1月、建国以来の宰相・周恩来が死去し、毛沢東と紅軍をつくった朱徳がその7月に死去した。そして9月9日、「重陽の節句」毛沢東が死去し、「中国の赤い星」が3つ消えた。
ただ、「マッチポンプ」になるようだが、1976年は干支でいう「辰年」だった。中国では「龍年」というのは天変地異の起こりやすい年とされているが、今年は「子年」だからそれには該当しないことになる。天安門事件の前年の1988年が「龍年」だったが、2000年の次はいつかというと、2012年、胡錦涛総書記から後継者にバトンの渡されるときになる。
なにやら「当たるも八卦」みたいな話になったので、全人代に戻そう。昨秋の中国共産党大会で「2階級特進」により中央政治局常務委員になった習近平氏が共産党の推薦通り国家副主席に選任された(賛成2919・反対28・棄権7)。反対・棄権票はどちらもひとケタだった胡錦涛(国家主席)、呉邦国(全人代委員長)をわずかに上回った。
これらの選挙はいずれも候補者が一人だけの信任投票である。だから、投票用紙に印刷されている習近平氏にマルかバツをつける投票(あるいは棄権)なのに、ライバルと目されている李克強政治局常務委員の名を書き込んだ票が5票出たのである。
胡錦涛総書記は、自らの出身母体である共産主義青年団OBの李克強氏を後任に据えたいと考えてきたという。党大会で政治局常務委員に引き上げたものの習近平氏より下位である。それを反映して、今回の全人代では習氏の国家副主席に対して筆頭副首相に選任された。
ここでは多種多様な政策問題には触れなかったが、高度成長の中で昨年から目立つ物価の急激な上昇(2月の消費者物価指数=前年2月比8・7%上昇)は国民大衆に大きな負担になっている。この問題は、所得格差・過少消費・人民元切り上げなどにからむだけに腰を据えた取り組みが求められる。
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