2014.10.10 安倍首相の「積極的平和主義」を厳しく批判した国民安保法制懇報告

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)


「法の番人」内閣法制局の元長官、大森政輔氏ら11人からなる国民安保法制懇が9月29日に発表した「集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める」報告は、さすがに「立憲主義の破壊に反対する」極めて説得力のある、わかりやすい報告書だ。国民安保法制懇のホームページで、発表文も報告全文も読める。ぜひ、日本国憲法を大切に思い、日本が世界のどこででも戦争するようになることに反対の、多くの方々に読んでほしい。
11人のメンバーは、よくこれだけの顔ぶれが集まったと思わせる、憲法、外交の本当の有識者ばかり。安倍首相が粗製乱造する、御用諮問機関のメンバーたちとは、まさに人格、識見とも大違いだ―
愛敬 浩二(名古屋大学教授)、青井 未帆(学習院大学教授)、伊勢崎 賢治(東京外国語大学教授)、伊藤 真(弁護士)、大森 政輔(元内閣法制局長官)、小林 節(慶応大学名誉教授)、長谷部 恭男(早稲田大学教授)、樋口 陽一(東京大学名誉教授)、孫崎 享(元外務省国際情報局長)、最上 敏樹(早稲田大学教授)、柳澤 協二(元内閣官房副長官補)
報告書は以下の各項からなっているー
(1)閣議決定による憲法解釈変更の問題点
(2)1.立憲主義への攻撃 2.憲法解釈の根底的不安定化 3.内閣法制局の変質
(3)1.憲法解釈の「変造」2.行政要件の不明瞭さ
(4)「積極的平和主義」の奇怪さ
(5)アメリカとの同盟関係の強化
(6)むすび

▽冒険主義の唱導は、蓄積してきた国際的信用を自ら毀損
安倍政権の目立つ手法の一つは、正体不明、実現性あいまいなキャッチ・コピーの乱発だ。その最たるもものが「積極的平和主義」。国内ばかりか、国連でも外国訪問の際にも乱発する。戦後の日本と国民が大切に維持し、国際社会の信頼を得てきた根強い平和主義が、消極的だったというのか。だから積極的に自衛隊が世界のどこででも戦えるように転換するのかは、あいまいなキャッチ・コピーだ。最近のNHKが毎日のように「積極的平和主義」を安倍首相の発言のポイントにして(他に取り上げるべきポイントが無いにしても)報道するのを見聞きするたびに、情けなくなる。その「積極的平和主義」を国民安保法制懇報告が取り上げ、1項目を設けて「奇怪」であり、「およそ平和主義とは相容れない猛々しく危うい立場と見分けがつかない」として、厳しく批判したことに、注目した。全文を紹介したいー

(4)「積極的平和主義」の奇怪さ
集団的自衛権行使容認の論拠として、「積極的平和主義proactive pacifism」なる奇怪な概念が提唱されていることは、さらに懸念を深める。実力の行使を原則として禁止し、自国に対する攻撃があった場合にのみ、必要最小限度で実力による対処を認めるという従来の政府見解は、政府の判断を統御する指針としての客観性と明確性を兼ね備えている。
それと異なり、外部からの自国への攻撃に先立つ積極的行動を通じて平和を実現するという方針をとると、そこで言う「平和」は、「日本政府が正しいと考える事態」という主観的意味合いを強く持たざるを得ない。当然ながら、「正しいと考える事態」は各国政府によって異なるし、武力の行使やその威嚇を伴う場面では、相互に鋭く対立する。
「積極的平和主義」とは、結局のところ、日本政府が正しいと考える事態を実現するために地球上のいたるところで実力を行使するという、およそ平和主義とは相容れない猛々しく危うい立場と見分けがつかない。さらに、交戦法規に関する諸ルールも整備されないまま、戦闘に巻き込まれる危険のある地域へと自衛隊を積極的に送り出そうとする人々に、日本国民である自衛隊員の生命・身体・自由を尊重する意図がそもそもあるのかも、深刻な懸念の材料である。

「積極的平和主義」に基づく憲法解釈の変更は、立憲主義に対する攻撃であるのみならず、憲法9条の根幹にある平和主義を変質させ、否定するものでもある。海外で武力を行使しないことによって紛争地域を含めた諸人民から敬意を集めてきた日本が勇ましい冒険主義を唱導することは、蓄積してきた国際的信用を自ら毀損することを意味する。むしろ、近隣諸国との融和を心がけると同時に、偶発的な衝突等、不測の事態に対処するための周辺諸国との交渉等を通じたルール策定等、広い意味での危機管理を志向することこそが、地域の安定の確保と国民の生命・安全の保障につながるであろう。(了)

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