2014.10.28 自民、民主、公明、社民各党の相乗り候補が圧勝した、それでも全国の「原発再稼動反対」「脱原発」の世論は衰えない
全国注目の福島知事選の行方を考える(その4)~関西から(150)~

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)


 東日本大震災による福島第1原発事故後最初の第20回福島知事選が10月26日行われ、即日開票の結果、自民、民主、公明、社民各党相乗りの前副知事候補、内堀氏が当選した。当選確実のニュースが流れたのが投票締め切りから僅か2分後の午後7時2分、内堀陣営が事務所で当選万歳をしたのが午後7時10分とのことだから、出口調査で余程の大差が開いていたのだろう。投票率は過去最低から2番目の45.9%だったが、内堀氏の得票数は49万票、得票率は68%で他5候補を全く寄せつけない圧勝だった。

 それにしても「原発再稼動反対」を訴え、脱原発勢力が支援した熊坂氏は12万9千票(18%)、井戸川氏は3万票(4%)、2人合わせても15万9千票(22%)しか得票できなかった。原発事故の地元県で「脱原発」を訴えた両候補の得票率が僅か2割強という結果に、予想していたとはいえ少なからず衝撃を受けたのはひとり私だけではないだろう。

 安倍政権の選挙戦術はオーソドックスで巧妙だった。民主党系知事とはいえ内実は保守県政とほとんど変わらない佐藤前知事の後継者に相乗りすることは何の抵抗もなかったし、わけてもそれが副知事を務めてきた天下り官僚となれば、共産党を除くオール与党で担ぐことが出来る「申し分ない候補」だと映ったに相違ない。佐藤県政への反発から(波乱要因になりかねない)独自候補を担ぎ出そうとした自民党県連を押さえつけ、全国津々浦々で見られる「天下り官僚→副知事→知事」の定番コースに沿って自民党本部が候補者を決定した瞬間に相乗り候補の事実上の当選が決まったのである。

 「脱原発」をめぐる福島内外の世論格差が大きかったことも、相乗り候補の圧勝を許した有力な原因だった。県内の脱原発世論は相乗り候補の「県内原発全基廃炉」の公約に吸収され、県外の脱原発世論とリンクしなかった。だが注意すべきは「県内原発全基廃炉」の公約は単なる候補者の要求にすぎず、安倍政権はもとより民主党の承認を得た公約でもなかったことだ。政党推薦を受けずに「オール福島」「県民党」で戦うという相乗り候補のスタンスを巧みに利用して、安倍政権は「脱原発」はおろか「県内原発全基廃炉」という要求にさえ一切言質を与えなかったのである。
 
 民主党も同様だ。東電労組を含む電力総連の支持を受ける民主党が、特定の原発を名指しして廃炉を約束するなど口が裂けても言うはずがない。それにもかかわらず民主党が相乗り候補を支援し、候補者が「県内原発全基廃炉」を公約することによって、原発廃炉があたかも自動的に実現するかのような雰囲気になり、「脱原発」が選挙争点から外されたのだ。政党推薦を形式的には受けないが、実質的な政党支援を受けるという相乗り候補が選択した今回の選挙戦術は、支援政党の政策と候補者の公約の食い違いを誤魔化す巧みな仕掛けとして機能したのである。 

 こうして安倍政権は、福島知事選が全国の原発再稼動運動に波及することを辛うじて阻止することに成功した。また電力総連をはじめ連合との関係で脱原発に踏み切れない民主党もその「曖昧さ」を暴露されることなく何とか知事選を乗り切った。これに対して、ひとり損をしたのは社民党だ。本部レベルでは「脱原発の元祖」「原発再稼動絶対反対」を唱えながら、福島では県議会で統一会派を組む民主党に引きずられて自民党と相乗りする有様だ。これではますます革新政党としての影が薄くなる一方で、遠からず少数政党から泡沫政党への道をたどることになるのではないか。

 しかし視点を変えれば、福島知事選に全国の「脱原発」の帰趨が懸かっているかのような見方も一面的だろう。福島知事選は確かに原発事故後の首長選を象徴する事例であることには間違いないが、全国レベルでは「原発再稼動反対」「脱原発」の運動や世論がいっこうに衰える気配がない。今年5月の大飯原発差止め訴訟における画期的な福井地裁判決が全国の脱原発世論を励まし、そのことが世論調査結果にもはっきりとあらわれているからだ。(余談ながら、私も現在行われている京都地裁での大飯原発差止め訴訟の原告団の一員であり、9月末の口頭弁論では意見陳述の役割を担った)

 福島知事選前後の世論調査結果をみるに、「原発再稼動反対」の世論はこの間驚くほど一貫しており、安倍政権の再稼動の動きにもかかわらず反対世論はむしろ高まってきていることがわかる。全国の地方紙が加盟する日本世論調査会の9月27、28日に実施された全国面接調査では、「原発再稼動反対」が前回3月の54%から7ポイント増加して61%に増え、「賛成」34%を大きく上回った。地域的に見ても「賛成」が「反対」を上回っているのは北陸地方だけで(賛成49%、反対45%)、残りの北海道地方から九州地方にいたる全国各地域は全て「反対」が「賛成」を大きく上回った(福島民報、10月5日)。

 また10月25、26日に行われた朝日新聞世論調査(RDD方式)でも「原発再稼動反対」55%、「賛成」29%となり、2013年6月以来の過去9回の傾向と変わらなかった(朝日新聞、10月27日)。同じく10月24~26日実施の日本経済新聞とテレビ東京による世論調査でも、「原発再稼動は進めるべきでない」が前月に比べて3ポイント増加して56%になり、「進めるべきだ」は5ポイント低下して29%になった(日経新聞、10月27日)。

 福島知事選で圧勝した内堀氏は、今後その「圧勝」にふさわしい成果を求められることになるだろう。そして「県内原発全基廃炉」の公約が実現せず、中間貯蔵施設の建設が難航して除染が進まず、県内外の避難者生活が更なる窮乏に陥るようなことがあれば、その反動は4年後の知事選で仮借ない結果となって返ってくるであろう。原発再稼動を推進する安倍政権も「県内原発全基廃炉」の公約を掲げた内堀氏もともに重い十字架を背負ったのである。

Comment
>原発事故の地元県で「脱原発」を訴えた両候補の得票率が僅か2割強という結果に、予想していたとはいえ少なからず衝撃を受けたのはひとり私だけではないだろう。

ペシミズムを嫌う当方も、さすがに落胆しました。
反原発候補の総票数が被災者住宅居住経験者ほどしか無かったという点と、もう一点は、その予想外の低投票率。
今回の選挙では「身内側の失点」もほとんど無かったハズなので、あの投票率45%にはさすがに参りました。「オール・フクシマ」は掛け声だけで終わってしまったということです。

やはり、日本社会では、「主体形成」の問題は外せませんね。あらためて痛感です。
党派的運動的な主体ではなく、主権者という真の根本的主体の(未)形成問題が。
内堀の限界や正体も見抜けず、また、大量棄権もしてしまうような、主権者の主体としての政治的(無)能力の問題が日本社会ではあまりにもあまりにも深刻です。

ただ、「オール・フクシマ」的な、リージョナリズムやナショナリズムがもつ視野狭窄が現代的な方向にあまり沿えないことも今後の人類世界ではますます明らかになって行くでしょうから、左派・リベラル陣営には資本主義による人格陶冶=主体形成運動をどう意識的に抉り出し増幅して行くかがいっそう重要になりますね。物神崇拝は完結せず、必ず破綻局面をももたらすのですからね。
統一戦線政策・運動の発展の課題ですら「自然発生性への拝跪」が支配的な現状ですから、困難は多々あるでしょうが、生活点やネット活用での模索なども強めたいものですね。
そういう意味でも、このブログの役割は、今後ますます重要化するでしょう。
知らせ、考えさせ、立ち上がらせるために、一層のご尽力を!
バッジ@ネオ・トロツキスト (URL) 2014/10/28 Tue 11:09 [ Edit ]
沖縄の共産党や政治は、本土の実態より一歩も二歩も先?を行っているんですかね???
今日知りました。沖縄での新たな統一戦線戦術の実験の事です。

16日投票が行われる沖縄県知事選では県議補選(名護市区・定数1)も同時に行われるそうですが、この補選に共産党前名護市議の具志堅トオル氏が無所属候補として(!)昨日出馬したそうです。稲嶺進市政の与党市議14人が担ぐ「ひやみかち・うまんちゅ名護の会」推薦候補になったんだそうなw

どういうことなんでしょうかね???
市長選でもないのに、前共産市議が無所属候補になったり、14人もの稲嶺与党市議がそういう議員候補を支持したりするなんて、こりゃ、共産党にとっても地方政界にとっても、前代未聞の事態じゃないでしょうか?????

だって、この伝で行けば、共産の側も、他党の議員だった人物を本来は党派選挙であるはずの議員選挙の候補者として推さざるを得なくなる、というのが論理でしょうからね。
本来は党派選挙であるはずの議員選挙の他党候補者を党派を超えて推すという(たとえば民主や社民が共産議員を、共産が社民や民主の議員を推すというような)パターンは、日本の選挙史上かつて無かったハズですよ。

良くも悪くも沖縄は解らないことが多いなぁ・・・
でも、これを県議選挙だけではなく、国政選挙にも適用しては悪いという理屈も無いハズだから、こりゃ「沖縄の実験」は、是非成功してもらいたいなぁ。

ひょっとして、これを契機に、統一戦線選挙戦術の革命が共産の側にも起こるかもしれませんよっ!!!
事実は小説より奇なり!
「理論は灰色、実践は緑色!」(レーニン)ということなのか????????

(実は、オレが以前から提案していた方向に、一歩ずつ近づいてきているwwww)
バッジ@ネオ・トロツキスト (URL) 2014/11/06 Thu 12:01 [ Edit ]
上記の最終行の説明。

反自民の左派、リベラル、無党派は、大まかな統一政綱・公約を相互確認・協定して、まず非拘束名簿式が採用されている参議院選挙比例選挙で、たとえば仮称「協同21」のような統一会派名簿から立候補する。
ここでは各党の候補者は個人名で投票されることが可能なのだから、問題は小選挙区選挙候補の決定方法だけである。
しかし、小選挙区選挙の候補者決定問題も、当該選挙での各党派所属個人候補の合計票に比例した候補者数按分、選挙区指定などを次回の選挙で行うことにすれば、十分クリア出来るハズである。

そして衆議院選挙の方も、この参議院選挙での方法に倣うのである。
衆議院選挙比例での名簿順位も小選挙区選挙の候補者決定も、直前の参議院選挙での公正な事実データが存在するのだから、統一会派に所属する各党派が紳士的に話し合えば紛糾はしまい。

以前から「土佐高知の雑記帳」ブログなどで提案・主張している方法の概略が上記だが、どうであろうか?
問題は、統一戦線結成意欲と本気の「やる気」だけのように思う。
上記方法を採れば、比例選挙はもちろんのこと、小選挙区選挙でさえ左派・リベラルに勝機がかなり広がるのではないか???
有望な無党派個人も比例から出せるのだから、上記方法は一石二鳥三鳥ではないか???

志位クン、沖縄のような実験がアリだと認めるのならば、上記方向を一度ぐらいまじめに考えてクレヨンw
バッジ@ネオ・トロツキスト (URL) 2014/11/06 Thu 12:39 [ Edit ]
補足

二つ上の書き込みの以下の部分、やや舌足らずだったので補足します。

>本来は党派選挙であるはずの議員選挙の他党候補者を党派を超えて推すという(たとえば民主や社民が共産議員を、共産が社民や民主の議員を推すというような)パターンは、日本の選挙史上かつて無かったハズですよ。

従来も、社民と民主の間などで、双方が他方の公認候補を推薦する、というような、選挙区バーター、選挙協定は確かに存在しました。
しかしそれは、しょせんは党派公認候補の相互推薦であって、そういう候補者も当選後はそれぞれの党派・会派に所属するのですから、今回の沖縄県議補選名護市区選挙のケースとは異なります。
件の具志堅氏は、党派離脱して無所属候補になったのですから、民主・社民の選挙バーターなどとは根本的に違うでしょう。具志堅氏は、もし当選しても、共産党の方針や上部決定に一義的に拘束されるのではなく、自分を無所属県議候補として推薦してくれた「ひやみかち・うまんちゅ名護の会 」と14人の稲嶺与党市議団(との政策協定)に優先的に拘束されることになるからです。

つまりここには、上の投稿で書いた、「協同21」の統一名簿から左派・リベラル・無党派の候補者を立候補させる場合のような、政策の統一・共同化に基づく候補者の超党籍化(=議員在職中の党籍離脱)が存在しているのです。
これは、従来もあった、社民と民主との間の「政策無き野合」的な選挙バーターとは根本的に異質でしょう。そしてこういう方向こそが、有権者に公約責任を負うことが出来る、本来あるべき方向です。

シマグニ的視野狭窄に深く冒されている我々日本人は、こういう問題でも欧米や南米で既に行われている先進例に学ぶべきでしょう。
ソ連・東欧崩壊以降の人類世界は、レーニン・コミンテルン型の純血的党派主義でも社会主義インターナショナル的な社民組織論でもなく、統一戦線型改革政党の時代に再突入しているのです。少なくとも選挙闘争においてだけは。
バッジ@ネオ・トロツキスト (URL) 2014/11/07 Fri 15:52 [ Edit ]
再補足

失礼しました!
「沖縄の実験」は、名護市選挙区だけで行われているのではなかったのですね。8日付け「しんぶん赤旗」が一面で報道しました。

今回の沖縄県議補選(いづれも定数1)では、既述の具志堅候補の他にも那覇市選挙区で比嘉候補が、沖縄市選挙区でしまぶく候補が、「ひやみかちうまんちゅの会」推薦の「無所属候補」(=「赤旗」の形容詞)として立候補していたのですね!
このうち、沖縄市選挙区のしまぶく恵祐候補は、非共産系の無党派人士らしいので、沖縄では共産の側も自党員以外の人物を議員候補として推しているということです。
つまり、当方が既稿で提案した、「協同21」統一名簿からの多党・無党派立候補方式という戦術方向を、地方選レベルとはいえ今回の沖縄選挙で既に実施し始めた、ということです。

これは、日本の政治においても、日本共産党にとっても、画期的・革命的なことですよ!
共産にとっても、70年代に試みた「革新共同」方式の選挙戦術さえ超え出るものですから、正に選挙の「革命」です。「統一戦線選挙戦術の革命」だ!

あとは、この経験を普遍化して国政選挙においても実施することです!
その努力を始めることです!
志位クン、早く決断せい!
自ら先頭に立って、汗を流してみろやい!
左派リベラルや無党派の数百数千万有権者たちは、そういう方向こそ待ちわびているのだぞ!
社民系の上原公子・保坂展人クラス、無党派の菅原文太・山本太郎クラスどころか、緑派から翁長・野中水準の「良心的保守」人士まで、この右傾化した日本にも、まだまだ人材はいるんだぞ!
バッジ@ネオ・トロツキスト (URL) 2014/11/09 Sun 11:15 [ Edit ]
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