2015.02.03 漢字の長所と短所
漢字物語 (6)

松野町夫 (翻訳家)

世界には3000~5000の言語が存在し、それぞれ独自の音声、語彙、文法を持つ。文字を持たない言語も多いが、国家単位でみると、ほぼすべての国が文字を使っている。文字は表音と表意に大別できる。現在地球上で使われる文字の大部分は表音文字で、なかでもアルファベット(ローマ字)が最有力だ。漢字は代表的な表意文字だが、1字が1語を表わすので表語文字とも呼ばれる。

表音文字: 
アルファベット(欧米、ロシア、トルコ、インド、インドネシア、マレーシア、ベトナム、ブラジル、アルゼンチン、メキシコなど)、アラビア文字(中東やアフリカのイスラム諸国)、ハングル(韓国、北朝鮮)、カタカナ・ひらがな(日本)、ナーガリ文字(インド)、タイ文字(タイ)

表意文字:
漢字(中国、日本)、アラビア数字(万国共通)、ローマ数字(万国共通)

アラビア数字(0,1,2,3,4,5,6,7,8,9)は、インドで生まれ、アラビアに伝わり、アラビアから西ヨーロッパに普及した。ローマ数字は7個の基本の文字(I, V, X, L, C, D, M)を組み合わせて表記する。それぞれの文字の値は(1, 5, 10, 50, 100, 500, 1000)。数字は万国共通で意味は明快だが、その読み方(音声)は各国で異なるので表意文字に分類した。

漢字は殷の時代に中国で発明され、古代に漢文化とともに周辺の朝鮮・琉球・日本・ベトナムなどに伝えられた。漢字は中国語を表記するための文字であったが、当時、朝鮮・日本・ベトナムは自国語を表記する文字を持たなかったので、漢字音を利用してそれぞれの言語を漢字で表記した。日本の万葉仮名、朝鮮の吏読(りとう)はその一例である。北朝鮮とベトナムは現在、漢字使用を公式にやめており、また、韓国では現在、漢字はほとんど用いられなくなっている。

漢字は現在、主に中国・日本・台湾・シンガポールで使用されている。台湾やシンガポールは主要言語が中国語なので漢字使用は当然のことだが、なぜ日本は漢字を廃止しないのだろうか。理由は、漢字は日本語の中にしっかりと根付き、日本の文化や伝統の根幹を形成しており、除去することは容易なことではなく、漢字廃止は文化や伝統の破壊・断絶を招き、むしろ弊害の方が大きいと多くの人が考えているからだろうと思う。

漢字の長所
1. 意味が分かりやすい。
2. ことばを短く簡潔に表現できる。
3. 造語力があり、日本語の語彙を豊かなものにできる。

漢字の短所
1. 字数が多く、字形が複雑である。→ かな漢字変換システムで簡単に漢字に変換できる。
2. 音の表記には適さない。→ 外来語の音訳には漢字ではなくカタカナを使用すればよい。
3. やまとことばの自然な発達をさまたげる。→ やまとことばの語源は「ひらがな」で考える。

日本語では学術用語は伝統的に漢字訳を使用しているが、英語ではギリシア・ラテン語訳を使用する。漢字訳は漢字の表意性がいかんなく発揮され、日本人なら誰でも理解できるが、ギリシア・ラテン語訳は難解なため、英米人でも教養のある人しか理解できない。たとえば、
「高所恐怖症」 → acrophobia [æ̀krǝfóubiǝ]
「閉所恐怖症」 → claustrophobia [klɔ̀ːstrǝfóubiǝ]

Comment
漢字の最大のデメリットは、人々を学びから遠ざけることだと思っています。
ヤンキーや50代の主婦に本を読んで教養を高めることが可能でしょうか。私はそうは思いません。
漢字は不親切な文字で、これによって無数の人々が学びから遠ざかっているように思います。
廃止は極論なので、数を減らして教育を整えればいいのでしょうが。
(URL) 2018/04/13 Fri 20:06 [ Edit ]
>>漢字の最大のデメリットは、人々を学びから遠ざけることだと思っています。

>>漢字は不親切な文字で


なぜそう言い切れるんでしょうか。っていうか寧ろ逆だと思います。


初心者にとっては確かに「やや不親切」かもしれません。日本語においては常用漢字だけ約2000字もありますから。

しかし、一度漢字をしっかり覚えておけば、その知識を存分活用して比較的に高度な水準の語彙も比較的たやすく理解することができるのです。

むしろ人々を学びから「近づける」ことこそ漢字の「最大のメリット」じゃありませんか!
(URL) 2018/05/27 Sun 00:32 [ Edit ]
>>ヤンキーや50代の主婦に本を読んで教養を高めることが可能でしょうか。

大事なのは「真に学びに志がある」人にとって漢字がどれくらい効率的であるのか、というのであって、
そもそもヤンキーのように「最初から教養とは縁がない」人の例を挙げて「人々を学びから遠ざける」云々するのは全く筋違いだと思います。

そういう人にとっては漢字だろうが、ローマ字だろうが、ヘブライ文字とか、ハングルとか、ルーン文字など、どんな文字体系でも全く関係ないんじゃないでしょうかね。
(URL) 2018/05/27 Sun 00:40 [ Edit ]
それに「漢字2000字」とパッと聞いて「難しすぎる」と思えるかも知れませんが、良く考えてみると他の言語・文字と比べてそれほど難しくないのが解るでしょう。よ~く考えてみれば。

そもそも端から表意文字など殆ど使われずにアルファベット52字だけで事足りるはずの英語でさえも、結局うまく使いこなすには「数千数万通りのスペリング」を覚えなければなりません。


一方、日本語の場合は、最頻出の漢字を150字覚えるだけで漢語語彙の50%、次の高頻出の350字(合わせて500字)を覚えるだけで80%をカバーできます。
それは英語においても同じで、最頻出の基礎語彙の綴りを1000通り覚えておくと、語彙の85%くらいはカバーできます。


どの言語・文字体系であれ、ある程度使いこなすには覚えておくべきことが1000前後、
完璧に使えるようになるには数千数万に及ぶのは同じであります。

日本、中国の漢字だけが特別に難しく不親切なわけではありませんぞ!!
(URL) 2018/05/27 Sun 00:59 [ Edit ]
中国の漢字は半ば表音文字化しているのではありませんでしたっけ。

漢字は識字障害や視覚障害の人だけでなく、外国人や健常者にも不親切だと思いますが、その点はどう思われますか。
(URL) 2018/10/15 Mon 16:35 [ Edit ]
松野さん
中国の漢字は半ば表音文字化しているのではありませんでしたっけ。

漢字は識字障害や視覚障害の人だけでなく、外国人や健常者にも不親切だと思いますが、その点はどう思われますか。
(URL) 2018/10/18 Thu 21:23 [ Edit ]
2018/10/18 の commenter さん:

漢字は表意文字なので意味をとるのには便利ですが、字音は地域差があります。たとえば、「学校」は日本では「がっこう」ですが、中国や韓国では読み方が異なります。
漢字の本家、中国でも、北京語、上海語、広東語、福建語では読み方がそれぞれ異なります。関西弁と関東弁の違いどころではありません。中国では現在、「共通語」が中国全土で使われ、漢字の読み方もピンイン(ローマ字)で書き表しています。中国の漢字は一字一音ですから、「共通語」に限定すれば「半ば表音文字化」と言えるかもしれません。

日本で働いている外国人、たとえばインドネシアから来日して看護師見習いとして働いている人が日本の看護師の国家試験を受けるのに、漢字でつまづいているという話を聞いたことがあります。日本語はしゃべれるのに漢字が書けないために筆記試験で落ちる、これで泣いている外国人はほかに大勢いると思います。漢字にはルビをふるとか、ひらがなの解答も認めるとか、そういう配慮も必要かと思います。(松野町夫)
松野町夫 (URL) 2018/10/20 Sat 15:15 [ Edit ]
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