2008.04.19
「五輪後」始まる?――曲がり角の中国経済
管見中国(7)
中国の国家統計局は16日、今年の第一・四半期(1~3月)の経済実績を発表した。速報値で成長率は10.6%(前年同期比1.1ポイントの下落)、消費者物価(前年同期比)は8%上昇、貿易黒字(同)は49億ドルの減少である。
この結果について、同日開かれた国務院の常務会議(日本の閣議にあたる)では、「国際経済環境におけるまれに見るほどの変化と低温雨雪氷凍災害という極めて困難な状況の下、中央の時を移さぬ力強い対応措置によって、国民経済は安定したスピードの発展を保ち、当面の全体的な形勢は予想よりよい」と自画自賛した。(『新華社』)
成長率、貿易黒字は昨年を下回るとはいえ、多少スピードが落ちたという程度だから「安定したスピードの発展」と言ってもいいだろう。問題は物価である。3月の全人代で打ち出した今年の物価上昇の目標値4.8%を大きく上回っている。
国務院常務会議でも「物価の構造的上昇が明らかなインフレに転化するのを防ぐことがマクロ調節の第一の任務であり、物価上昇を抑え、通貨の膨張を抑えることをこれまで以上に優先する」とした。
中国の消費者物価上昇率は去年の5月までは3%台だったのが、6月4%台、7月5%台、8月から12月まで6%台と階段を上るように上昇し、今年に入ると1月7.1%、2月8.7%、3月8.3%と騰勢が続いている。 この上昇の主たる要因は食品、とくに肉類、乳製品などの値上がりである。とくに豚肉などは、昨秋は毎月30%ほども値上がりした。
そこでこのインフレと言ってもいいような状況をどう見るかである。
田畑光永 (ジャーナリスト)
中国の国家統計局は16日、今年の第一・四半期(1~3月)の経済実績を発表した。速報値で成長率は10.6%(前年同期比1.1ポイントの下落)、消費者物価(前年同期比)は8%上昇、貿易黒字(同)は49億ドルの減少である。
この結果について、同日開かれた国務院の常務会議(日本の閣議にあたる)では、「国際経済環境におけるまれに見るほどの変化と低温雨雪氷凍災害という極めて困難な状況の下、中央の時を移さぬ力強い対応措置によって、国民経済は安定したスピードの発展を保ち、当面の全体的な形勢は予想よりよい」と自画自賛した。(『新華社』)
成長率、貿易黒字は昨年を下回るとはいえ、多少スピードが落ちたという程度だから「安定したスピードの発展」と言ってもいいだろう。問題は物価である。3月の全人代で打ち出した今年の物価上昇の目標値4.8%を大きく上回っている。
国務院常務会議でも「物価の構造的上昇が明らかなインフレに転化するのを防ぐことがマクロ調節の第一の任務であり、物価上昇を抑え、通貨の膨張を抑えることをこれまで以上に優先する」とした。
中国の消費者物価上昇率は去年の5月までは3%台だったのが、6月4%台、7月5%台、8月から12月まで6%台と階段を上るように上昇し、今年に入ると1月7.1%、2月8.7%、3月8.3%と騰勢が続いている。 この上昇の主たる要因は食品、とくに肉類、乳製品などの値上がりである。とくに豚肉などは、昨秋は毎月30%ほども値上がりした。
そこでこのインフレと言ってもいいような状況をどう見るかである。
日本やアメリカなどでは、食料品や原油などは変動が激しいという理由で、わざわざ物価指数から外し、それ以外の品目の指数をコア指数などと称して、それをもって物価の動きを判断するということが行われている。そして中国でもこれにならって、現在の物価高は一時的な要因によるもので心配ないとする論もあるやに聞いている。
果たしてそうか。確かに日本やアメリカなど、生活水準が一応安定しているところでは、需給要因、季節要因などで価格が変化する品目を物価指数から外して考えるというのも一理あるが、中国のような成長過程にあって国民の生活が変化のさなかにある国では食品の価格の変化は国の経済そのものの変化の鏡と見るべきではないのだろうか。
前世紀90年代、アメリカの生態学者、レスター・ブラウンは「だれが中国を養うか」という論文を書いて、経済発展によって中国人の食生活における動物蛋白の比重が高まると食料不足が起きるという警告を発した。これに対して、当時、中国の政府や学者はいたずらに不安をかきたてる議論として、懸命にしりぞけたものであった。
あれから十年余、ブラウンの警告が現実のものとなって来たのではないだろうか。改革・開放の30年は農地を減らし、農民を農地から引き離す歴史でもあった。13億もの膨大な人口を抱える大国で、国民の生活水準が上がれば、それはただちに農業生産への負荷の増大となる。ブラウンの言うように「世界中のだれも中国を養うことは出来ない」のだから。
物価が上がる一方で、最近、不動産の値下がりが伝えられている。不動産ブームを抑えるために、政府は昨年来、マクロ調節という名の金融引き締め政策を強めてきた。具体的には銀行の窓口規制で融資を抑えたのである。日本でも90年代、住宅ローンに対する規制強化をきっかけにバブルがはじけて長い不況が始まったが、それを思わせる動きである。
中国の大中都市ではこの2~30年来、農民を追い払った土地の上に「こんなに建ててどうするの」と言いたいくらいビル建設ラッシュが続いてきた。とくにここ数年は「オリンピックがあるのだから、なんとかなる」とそれに拍車がかかっていた。しかし、何事にも天井はある。最近の報道では、深圳のマンション価格が3月は2月に比べて17%下落、北京や広州の大型ビルの空室率は16%から25%にも達するという。(『日経』4月15日)
さらにここへ来て、株の値下がりが激しい。上海市場の総合指数は昨年10月に6000台に達し、最高値を更新したが、それ以来、値下がりに転じたことは前にこの欄でも書いた。その後、アメリカのサブプライム問題が波及して、下げ足を速めた。問題はその下げ幅である。当のアメリカのNY市場のダウ平均が14000ドル台から12000ドル台への下げに止まっているのに対して、上海はこのところ3000台の下の方、つまり5割近い下落なのである。
勿論、市場のことだから、下げの内容をつまびらかにすることは不可能だが、この下げ方はサブプライムの影響だけではあるまい。不動産の値下がりと金融引き締めが株式市場へ向かう資金の流れを細くしていることは十分考えられるし、市場はすでにポスト五輪を織り込み始めたのかもしれない。
3月のチベット騒乱以来、聖火リレーが世界各地でデモに会うなどして、オリンピックとチベットがリンクしてしまったが、もともと北京での開催が決まって以来、オリンピックは中国経済にとってさまざまな矛盾を溶かし込んでくれる溶鉱炉のようなものであった。そのクライマックスまであと4ヶ月足らずというところまで来ると、その炎はいっそう燃え盛るというより、それが消えた後の姿が現実のものとして人々の目に見えてきたのではないか。ともあれ天安門広場の秒読み時計は8月8日午後8時を目指して時を刻んでいる。
果たしてそうか。確かに日本やアメリカなど、生活水準が一応安定しているところでは、需給要因、季節要因などで価格が変化する品目を物価指数から外して考えるというのも一理あるが、中国のような成長過程にあって国民の生活が変化のさなかにある国では食品の価格の変化は国の経済そのものの変化の鏡と見るべきではないのだろうか。
前世紀90年代、アメリカの生態学者、レスター・ブラウンは「だれが中国を養うか」という論文を書いて、経済発展によって中国人の食生活における動物蛋白の比重が高まると食料不足が起きるという警告を発した。これに対して、当時、中国の政府や学者はいたずらに不安をかきたてる議論として、懸命にしりぞけたものであった。
あれから十年余、ブラウンの警告が現実のものとなって来たのではないだろうか。改革・開放の30年は農地を減らし、農民を農地から引き離す歴史でもあった。13億もの膨大な人口を抱える大国で、国民の生活水準が上がれば、それはただちに農業生産への負荷の増大となる。ブラウンの言うように「世界中のだれも中国を養うことは出来ない」のだから。
物価が上がる一方で、最近、不動産の値下がりが伝えられている。不動産ブームを抑えるために、政府は昨年来、マクロ調節という名の金融引き締め政策を強めてきた。具体的には銀行の窓口規制で融資を抑えたのである。日本でも90年代、住宅ローンに対する規制強化をきっかけにバブルがはじけて長い不況が始まったが、それを思わせる動きである。
中国の大中都市ではこの2~30年来、農民を追い払った土地の上に「こんなに建ててどうするの」と言いたいくらいビル建設ラッシュが続いてきた。とくにここ数年は「オリンピックがあるのだから、なんとかなる」とそれに拍車がかかっていた。しかし、何事にも天井はある。最近の報道では、深圳のマンション価格が3月は2月に比べて17%下落、北京や広州の大型ビルの空室率は16%から25%にも達するという。(『日経』4月15日)
さらにここへ来て、株の値下がりが激しい。上海市場の総合指数は昨年10月に6000台に達し、最高値を更新したが、それ以来、値下がりに転じたことは前にこの欄でも書いた。その後、アメリカのサブプライム問題が波及して、下げ足を速めた。問題はその下げ幅である。当のアメリカのNY市場のダウ平均が14000ドル台から12000ドル台への下げに止まっているのに対して、上海はこのところ3000台の下の方、つまり5割近い下落なのである。
勿論、市場のことだから、下げの内容をつまびらかにすることは不可能だが、この下げ方はサブプライムの影響だけではあるまい。不動産の値下がりと金融引き締めが株式市場へ向かう資金の流れを細くしていることは十分考えられるし、市場はすでにポスト五輪を織り込み始めたのかもしれない。
3月のチベット騒乱以来、聖火リレーが世界各地でデモに会うなどして、オリンピックとチベットがリンクしてしまったが、もともと北京での開催が決まって以来、オリンピックは中国経済にとってさまざまな矛盾を溶かし込んでくれる溶鉱炉のようなものであった。そのクライマックスまであと4ヶ月足らずというところまで来ると、その炎はいっそう燃え盛るというより、それが消えた後の姿が現実のものとして人々の目に見えてきたのではないか。ともあれ天安門広場の秒読み時計は8月8日午後8時を目指して時を刻んでいる。
Comment
激動する中国。高度経済成長のまっただ中にありながらも、物価上昇、株価下落、公害、貧富の拡大、人種問題など多くの矛盾や不安要因を抱えこんでいます。オリンピックは中国経済にとってさまざまな矛盾を溶かし込んでくれる溶鉱炉のようなもの、ですか。だとしたら、その溶鉱炉の火が消えた後が大いに気になります。今や中国は世界の大国、世界に与えるインパクトも相当なものでしょうから。今後とも、中国からますます目が離せません。(松野)
松野町夫 (URL)
2008/04/18 Fri 20:36 [ Edit ]
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2008/04/19 Sat 03:53 [ Edit ]
中国は3つの矛盾を解決することなく、突き進んでいるように見える。市場主義一辺倒に見える競争社会でありながら、社会主義を標榜する矛盾。
民意を反映するシステムを持たない、共産党のほぼ一党独裁体制。
漢族による、中華思想を押し付ける民族問題の抹殺である。
中国は、オリンピック以後多くの矛盾を露呈することになり、なんらかに変化が起きると思われる。
民意を反映するシステムを持たない、共産党のほぼ一党独裁体制。
漢族による、中華思想を押し付ける民族問題の抹殺である。
中国は、オリンピック以後多くの矛盾を露呈することになり、なんらかに変化が起きると思われる。
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