2008.04.26
オバマ氏指名への流れ変わらず
ヒラリー氏ペンシルベニアで辛勝したが
アメリカ民主党大統領候補の指名争いの重要関門であるペンシルベニア州予備選でヒラリー・クリントン上院議員(ニューヨーク州)が辛勝、バラク・オバマ上院議員(イリノイ州)との争いがなお続くことになった。ペンシルベニア州の開票率99%でヒラリー氏の得票率54・3%、オバマ氏45・7%となり、その差は8・6ポイントである。ペンシルベニア州はもともとヒラリー氏の地盤であり、3月段階の世論調査では20ポイントの差をつけていたことからすると「辛勝」という以外にない。
AP通信の集計によると、ペンシルベニアで獲得した代議員数を加えたオバマ氏支持の代議員数は累積で1,714人、ヒラリー氏支持代議員は同1,589人となった。その差は125人である。ペンシルベニア州予備選前の差は140人だったから、ヒラリー氏はここで15人分差を詰めたわけだ。しかしまだ残っている7州と2自治領の予備選・党員集会で125人のギャップを埋めることは、専門家は至難とみている。2008年大統領選の民主党候補を指名する党大会は8月末コロラド州デンバーで開かれる。代議員総数は4,049人でその過半数2,025人の支持を得たほうが勝つ。
この4,049人のうち795人はスーパー代議員と呼ばれる。スーパー代議員は連邦議員、州知事ら選挙で選ばれた公職者、それに大統領、副大統領経験者とさらに全国および州レベルの党役員などの人々だ。各州の予備選・党員集会で選ばれる一般代議員は、選ばれた段階で党大会でどちらに投票するか決まっているが、スーパー代議員は個々に自分の判断で投票することができる。APの集計によると、スーパー代議員で4月22日までにヒラリー氏支持を明らかにした人が258人、オバマ氏支持が233人である。一般代議員ではリードされてヒラリー氏だが、党のキャリアが長いだけあってスーパー代議員では逆にリードしているわけだ。
伊藤力司 (ジャーナリスト)
アメリカ民主党大統領候補の指名争いの重要関門であるペンシルベニア州予備選でヒラリー・クリントン上院議員(ニューヨーク州)が辛勝、バラク・オバマ上院議員(イリノイ州)との争いがなお続くことになった。ペンシルベニア州の開票率99%でヒラリー氏の得票率54・3%、オバマ氏45・7%となり、その差は8・6ポイントである。ペンシルベニア州はもともとヒラリー氏の地盤であり、3月段階の世論調査では20ポイントの差をつけていたことからすると「辛勝」という以外にない。
AP通信の集計によると、ペンシルベニアで獲得した代議員数を加えたオバマ氏支持の代議員数は累積で1,714人、ヒラリー氏支持代議員は同1,589人となった。その差は125人である。ペンシルベニア州予備選前の差は140人だったから、ヒラリー氏はここで15人分差を詰めたわけだ。しかしまだ残っている7州と2自治領の予備選・党員集会で125人のギャップを埋めることは、専門家は至難とみている。2008年大統領選の民主党候補を指名する党大会は8月末コロラド州デンバーで開かれる。代議員総数は4,049人でその過半数2,025人の支持を得たほうが勝つ。
この4,049人のうち795人はスーパー代議員と呼ばれる。スーパー代議員は連邦議員、州知事ら選挙で選ばれた公職者、それに大統領、副大統領経験者とさらに全国および州レベルの党役員などの人々だ。各州の予備選・党員集会で選ばれる一般代議員は、選ばれた段階で党大会でどちらに投票するか決まっているが、スーパー代議員は個々に自分の判断で投票することができる。APの集計によると、スーパー代議員で4月22日までにヒラリー氏支持を明らかにした人が258人、オバマ氏支持が233人である。一般代議員ではリードされてヒラリー氏だが、党のキャリアが長いだけあってスーパー代議員では逆にリードしているわけだ。
まだどちらとも支持を明らかにしていないスーパー代議員が300人ほど残っている。仮にこの人たちが全員ヒラリー氏を支持するとすれば、彼女が逆転できる計算だが、スーパー代議員は自分の意志で投票できるとはいっても、実際には予備選で示された民意を無視することはできない。専門家たちの計算では、ヒラリー氏が今後の予備選・党員集会で大差を付けて全勝するというような奇跡でも起きない限り、逆転はあり得ないだろうという。
こういう計算はペンシルベニア予備選の前から既になされていた。そこで党内各方面からヒラリー氏に、指名争い撤退を働き掛ける圧力が強まっていた。共和党は他の候補者がみな撤退したのでジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州)が正式に指名されることが固まっている。マケイン氏は既に事実上の共和党候補者として選挙戦を始めている。ヒラリー氏が指名レースを断念すれば、民主党もオバマ氏が事実上の大統領候補として選挙運動を展開できる。しかしヒラリー氏が降りない限りは中傷合戦が続き、ヒラリー氏とオバマ氏、さらに民主党のイメージまで傷つくことになる。
そうしたプレッシャーの下でペンシルベニア州予備選を闘い、勝利を得たヒラリー氏は選挙戦の「流れが変わった」と晴れやかに叫んで、これからも闘い続けることを宣言した。オバマ氏が勝ったミシシッピ州予備選(3月11日)から6週間の長丁場になったペンシルベニア州の闘いの過程で、ヒラリー氏は負け続けながら闘い続けた映画「ロッキー」のボクサーを引き合いに、最後まで闘い続けると繰り返した。それだけにペンシルベニア州の勝利はよほど嬉しかっただろう。
またオバマ氏が非公開の場で「田舎の町の労働者は生活が苦しいあまり、銃に執着したり、宗教にすがったりしている」と失言したことが暴露されると、ヒラリー氏はここぞとばかりに「労働者を見下したエリートぶった発言だ」と、オバマ氏への個人攻撃を繰り返した。この失言についてオバマ氏は「言うべき言葉ではなかった」と釈明に追われた。ヒラリー氏の個人攻撃があまりにもしつこかったことに、いつも冷静なオバマ氏がついに立腹して「恥を知れ」と叫んだことも逐一報道された。こうしたネガティブ合戦は、ふたりのイメージを悪くし、共和党マケイン陣営を喜ばせている。
聴衆を巻き込むスタイルの演説がうまいだけでなく、人の話をよく聴く「聴き上手」として定評のあるオバマ氏は、ブッシュ政権下で分裂したアメリカ国民を統合しよう、皆さんが信じられる変革をともに実行しようと訴えて、人気を集めてきた。オバマ氏は怜悧な頭脳の持ち主でありながら人好きが良く、好感度ナンバーワンといわれる人柄だ。45歳以下の年齢層ではヒラリー氏を寄せ付けず、30歳以下の若者には熱狂的支持者が多い。黒人の支持率が高いことは言うまでもないが、ブッシュ政権のイラク政策を嫌う高学歴・高所得の白人層の支持も厚い。
「みんなでアメリカを変えよう」という呼びかけは、ブッシュ政権の反テロ戦争にうんざりした米国民に新鮮で、「黒人のケネディ」とまで言われたほどだ。しかしヒラリー氏との中傷合戦で、こうした新鮮なイメージは薄れてきた。
今から1年前、大統領選に名乗りを上げたばかりの「新人」オバマ氏が、ベテランのヒラリー氏をリードするとの予想を立てた人はいなかった。しかし今や230年の合衆国史上初めて、黒人大統領が出現する可能性が見えてきているのだ。
しかしケニア人の父と白人の母の間に生まれた混血児だから、奴隷の子孫というアメリカ黒人の暗い歴史を引きずってはいない。その後離婚した母がインドネシア人と再婚したことから、幼年時代をジャカルタのイスラム社会で過ごしたという珍しい経験もある。しかしアメリカ人としては普通のクリスチャンで、居住地シカゴの大きな黒人教会の信徒だ。
この教会の著名な黒人牧師ジェレミア・ライト師が過去に行った説教の中で、人種差別を受けてきたアメリカ黒人の苦難を語り、差別主義の傲慢な白人を厳しく糾弾する姿を映したビデオが3月に出回った時、オバマ陣営に緊張が走った。一部動画サイトやテレビで繰り返し流されたこの映像を見た白人の間には、オバマ氏はこのライト牧師と絶縁すべきだとの主張も聞かれた。
かくてオバマ氏登場後初めて本格的に、人種問題が争点になりかけた。オバマ氏はこの機会を捉えて、人種の融和を訴えるテレビ演説を行った。オバマ氏はライト牧師をなぜ長年慕ってきたのか、ライト師に自分たちの結婚式や娘たちの洗礼に立ち会ってもらったことを率直に語った。しかしオバマ氏はビデオに収録されたライト師の過激な発言は「人種対立を煽るものだ」とはっきり否定した。
その一方でオバマ氏は、ライト発言の背景には潜在する差別や根深い怒りが今も現存することを主張した。さらに人種差別是正策のために、かえって差別されていると感じている白人もいること、人種偏見をぬぐい去れなかった白人の祖母を愛したように、黒人のライト牧師を身内のように思う気持ちは変わらないことを、率直に語った。支持者は人種問題を逃げずに真摯に語ったオバマ氏に感動した。
「白人のアメリカでも黒人のアメリカでもない、合衆国のアメリカを皆さんとともに融合しようではありませんか」と説くオバマ氏は、危機を乗り越えた。
次の予備選は5月6日、南部ノースカロライナ州(代議員数69人)と中西部インィアナ州(57人)で行われる。世論調査ではノースカロライナでオバマ氏が大きくリード、インディアナでは互角だという。この両州ともヒラリー氏が勝つ可能性はゼロ。ノースカロライナはオバマ氏、インディアナはヒラリー氏が勝った場合、ヒラリー氏がオバマ氏に追い付くことは難しいというのが専門家の計算である。
一般代議員数で追い付くのは不可能になったヒラリー陣営は、予備選がすべて終了した時点での得票総数がオバマ氏を超えればスーパー代議員にアピールできると、ここに挽回のチャンスを賭けている。ペンシルベニアでは得票総数で約20万票差を縮めたが、依然50万票の開きがある。今後この差を逆転するには、ケンタッキーやウエストバージアなどヒラリー氏の強い州で得票率20ポイントほどの差をつけて大勝した上、その他州で互角の勝負をしなければならない計算だという。つまりヒラリー氏はペンシルベニアでは勝利したが、次のノースカロライナとインディアナの結果如何で、とうとう撤退を余儀なくされるかもしれないのである。
2005年9月の郵政民営化総選挙で自民党が大勝した後、国民のあずかり知らぬところで小泉、安倍、福田と首相が交代する不可解さを、われわれ日本人は味わってきた。これに比べると、4年ごとに投票で大統領を取り替えることのできるアメリカ政治のライブショーは、われわれ外国人観客をも興奮させるスリリングなドラマである。この点ではアメリカ人がうらやましい。
こういう計算はペンシルベニア予備選の前から既になされていた。そこで党内各方面からヒラリー氏に、指名争い撤退を働き掛ける圧力が強まっていた。共和党は他の候補者がみな撤退したのでジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州)が正式に指名されることが固まっている。マケイン氏は既に事実上の共和党候補者として選挙戦を始めている。ヒラリー氏が指名レースを断念すれば、民主党もオバマ氏が事実上の大統領候補として選挙運動を展開できる。しかしヒラリー氏が降りない限りは中傷合戦が続き、ヒラリー氏とオバマ氏、さらに民主党のイメージまで傷つくことになる。
そうしたプレッシャーの下でペンシルベニア州予備選を闘い、勝利を得たヒラリー氏は選挙戦の「流れが変わった」と晴れやかに叫んで、これからも闘い続けることを宣言した。オバマ氏が勝ったミシシッピ州予備選(3月11日)から6週間の長丁場になったペンシルベニア州の闘いの過程で、ヒラリー氏は負け続けながら闘い続けた映画「ロッキー」のボクサーを引き合いに、最後まで闘い続けると繰り返した。それだけにペンシルベニア州の勝利はよほど嬉しかっただろう。
またオバマ氏が非公開の場で「田舎の町の労働者は生活が苦しいあまり、銃に執着したり、宗教にすがったりしている」と失言したことが暴露されると、ヒラリー氏はここぞとばかりに「労働者を見下したエリートぶった発言だ」と、オバマ氏への個人攻撃を繰り返した。この失言についてオバマ氏は「言うべき言葉ではなかった」と釈明に追われた。ヒラリー氏の個人攻撃があまりにもしつこかったことに、いつも冷静なオバマ氏がついに立腹して「恥を知れ」と叫んだことも逐一報道された。こうしたネガティブ合戦は、ふたりのイメージを悪くし、共和党マケイン陣営を喜ばせている。
聴衆を巻き込むスタイルの演説がうまいだけでなく、人の話をよく聴く「聴き上手」として定評のあるオバマ氏は、ブッシュ政権下で分裂したアメリカ国民を統合しよう、皆さんが信じられる変革をともに実行しようと訴えて、人気を集めてきた。オバマ氏は怜悧な頭脳の持ち主でありながら人好きが良く、好感度ナンバーワンといわれる人柄だ。45歳以下の年齢層ではヒラリー氏を寄せ付けず、30歳以下の若者には熱狂的支持者が多い。黒人の支持率が高いことは言うまでもないが、ブッシュ政権のイラク政策を嫌う高学歴・高所得の白人層の支持も厚い。
「みんなでアメリカを変えよう」という呼びかけは、ブッシュ政権の反テロ戦争にうんざりした米国民に新鮮で、「黒人のケネディ」とまで言われたほどだ。しかしヒラリー氏との中傷合戦で、こうした新鮮なイメージは薄れてきた。
今から1年前、大統領選に名乗りを上げたばかりの「新人」オバマ氏が、ベテランのヒラリー氏をリードするとの予想を立てた人はいなかった。しかし今や230年の合衆国史上初めて、黒人大統領が出現する可能性が見えてきているのだ。
しかしケニア人の父と白人の母の間に生まれた混血児だから、奴隷の子孫というアメリカ黒人の暗い歴史を引きずってはいない。その後離婚した母がインドネシア人と再婚したことから、幼年時代をジャカルタのイスラム社会で過ごしたという珍しい経験もある。しかしアメリカ人としては普通のクリスチャンで、居住地シカゴの大きな黒人教会の信徒だ。
この教会の著名な黒人牧師ジェレミア・ライト師が過去に行った説教の中で、人種差別を受けてきたアメリカ黒人の苦難を語り、差別主義の傲慢な白人を厳しく糾弾する姿を映したビデオが3月に出回った時、オバマ陣営に緊張が走った。一部動画サイトやテレビで繰り返し流されたこの映像を見た白人の間には、オバマ氏はこのライト牧師と絶縁すべきだとの主張も聞かれた。
かくてオバマ氏登場後初めて本格的に、人種問題が争点になりかけた。オバマ氏はこの機会を捉えて、人種の融和を訴えるテレビ演説を行った。オバマ氏はライト牧師をなぜ長年慕ってきたのか、ライト師に自分たちの結婚式や娘たちの洗礼に立ち会ってもらったことを率直に語った。しかしオバマ氏はビデオに収録されたライト師の過激な発言は「人種対立を煽るものだ」とはっきり否定した。
その一方でオバマ氏は、ライト発言の背景には潜在する差別や根深い怒りが今も現存することを主張した。さらに人種差別是正策のために、かえって差別されていると感じている白人もいること、人種偏見をぬぐい去れなかった白人の祖母を愛したように、黒人のライト牧師を身内のように思う気持ちは変わらないことを、率直に語った。支持者は人種問題を逃げずに真摯に語ったオバマ氏に感動した。
「白人のアメリカでも黒人のアメリカでもない、合衆国のアメリカを皆さんとともに融合しようではありませんか」と説くオバマ氏は、危機を乗り越えた。
次の予備選は5月6日、南部ノースカロライナ州(代議員数69人)と中西部インィアナ州(57人)で行われる。世論調査ではノースカロライナでオバマ氏が大きくリード、インディアナでは互角だという。この両州ともヒラリー氏が勝つ可能性はゼロ。ノースカロライナはオバマ氏、インディアナはヒラリー氏が勝った場合、ヒラリー氏がオバマ氏に追い付くことは難しいというのが専門家の計算である。
一般代議員数で追い付くのは不可能になったヒラリー陣営は、予備選がすべて終了した時点での得票総数がオバマ氏を超えればスーパー代議員にアピールできると、ここに挽回のチャンスを賭けている。ペンシルベニアでは得票総数で約20万票差を縮めたが、依然50万票の開きがある。今後この差を逆転するには、ケンタッキーやウエストバージアなどヒラリー氏の強い州で得票率20ポイントほどの差をつけて大勝した上、その他州で互角の勝負をしなければならない計算だという。つまりヒラリー氏はペンシルベニアでは勝利したが、次のノースカロライナとインディアナの結果如何で、とうとう撤退を余儀なくされるかもしれないのである。
2005年9月の郵政民営化総選挙で自民党が大勝した後、国民のあずかり知らぬところで小泉、安倍、福田と首相が交代する不可解さを、われわれ日本人は味わってきた。これに比べると、4年ごとに投票で大統領を取り替えることのできるアメリカ政治のライブショーは、われわれ外国人観客をも興奮させるスリリングなドラマである。この点ではアメリカ人がうらやましい。
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