2008.05.01
「改憲反対」が多数派に- 9条を守る運動の成果か
岩垂 弘 (ジャーナリスト)
日本国憲法は5月3日で施行61年を迎える。それを前にして、読売新聞社が実施した憲法に関する全国世論調査の結果が、憲法に関心をもつ人たちの関心を集めている。憲法改正反対派が改正賛成派を上回ったからである。この世論調査で「改憲反対」が「改憲賛成」を上回ったのは15年ぶりのことだそうで、ここには憲法に関する国民意識の変化が明確に読みとれる。ここ数年、各分野で進められてきた「9条守れ」「9条実現」を目指す運動がようやく具体的な成果を生みつつあるとみていいだろう。
読売新聞社の憲法に関する全国世論調査(面接方式)は1981年から実施している。今年は3月15、16両日に行われた。対象者は全国の有権者3000人。うち1786人が回答した。回収率は59・5%。
4月8日付の同紙によると、「あなたは、今の憲法を、改正する方がよいと思いますか、改正しない方がよいと思いますか」との問いに「改正する方がよい」と答えた人が42・5%、「改正しない方がよい」と答えた人が43・1%、答えないが14・4%だった。
これについて、同紙は「1981年から実施している『憲法』世論調査では93年以降、一貫して改正派が非改正派を上回っていた。しかし、今回は改正派が昨年より3・7ポイント減る一方、非改正派が4・0ポイント増え、これが逆転した」「改正派は4年連続の減少だ」と述べていた。
これは、憲法をめぐる論議での画期的な変化と言っていいだろう。
なぜ、こうした変化がもたらされたのか。同日付読売新聞社説は「最大の要因は、国会や各政党の憲法論議の沈滞にあるだろう」として次のように述べていた。
「昨年5月、憲法改正手続きを定めた国民投票法が成立した。だが、それに基づき設置された憲法審査会が、いまだに始動していない。憲法改正に積極姿勢をみせていた安倍前首相が、昨夏の参院選での自民党惨敗のあと、突然辞任した。後継の福田首相は、打つて変わって、憲法改正問題には、ほとんど触れなくなった。今回、自民党支持層のうち改正派は47%と、98年以降で初めて、5割を切った。衆参ねじれ国会の下、憲法改正論議の進展は困難、という判断と、憲法改正への首相のメッセージの乏しさが、影響しているのではないか」
「民主党は、参院選を前に、与党との対決色を出す思惑から、国民投票法に反対した。党内にある憲法改正慎重論や、『護憲』を掲げる社民党との選挙協力などへの配慮もあった。民主党支持層の改正派は、2005年には67%に達し、自民党支持層の64%を上回っていた。それが今回は41%に減った。憲法改正問題に正面から取り組もうとしない民主党の姿勢が、支持層の改正派減少をもたらす一因になっていないか」
読売新聞社は、1994年に憲法改正試案を発表するなど、報道機関としては異例の積極的な改憲派として知られる。それだけに、自らの世論調査で明らかになった憲法に関する国民意識の変化に対するいらだちが社説の論調からうかがえる。
果たして国民意識の変化をもたらした要因は社説が述べている通りだろうか。そういう面も確かにあるだろ。が、私には、ここ数年間にわたる護憲派の地道な運動がようやく国民各層に浸透してきたことの表れではないかと思える。
例えば、「9条の会」の広がりだ。これは、井上ひさし(作家)、梅原猛(哲学者)、大江健三郎(作家)、奥平康弘(憲法研究者)、小田実(作家)、加藤周一(評論家)、澤地久枝(作家)、鶴見俊輔(哲学者)、三木睦子(国連婦人会)の9氏が、2004年6月10日に「日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、『改憲』のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めることを訴えます」とのアピールを出したことから、各地、各分野にこのアピールを支持する会が次々と生まれ、講演会、学習会、映画会などの活動を通じて9条を守るための運動を続けられてきた。
地域、分野で結成された「9条の会」は4月25日現在で7039となった。「9条の会」関係者は「小学校区(2万2000)の全てに9条の会をつくりたい」と話す。
「憲法行脚の会」の活動にも注目したい。これは、「憲法9条を中心として、憲法の価値をあらためて問い直し、憲法の意義を伝え広めるために全国各地を講演行脚しよう」との狙いから、2004年6月に発足したキャンペーン。呼びかけ人には内橋克人、落合恵子、香山リカ、姜尚中、斎藤貴男、佐高信、辛淑玉、高橋哲哉、高良鉄美、土井たか子、三木睦子、森永卓郎の各氏らが名を連ねる。組織化を目指しているわけではないので、依頼があれば、呼びかけ人が講演に出かけてゆく。
「憲法9条−世界へ未来へ 連絡会」(9条連)という団体による活動も1995年から続けられている。「憲法九条の精神を国内外に広めることを一致点に、平和を求めるすべての個人・団体に参加を呼びかける」としており、代表は浅井基文・広島市立大学広島平和研究所所長、伊藤成彦・中央大学名誉教授、常石敬一・神奈川大学教授、樋口陽一・早稲田大学特任教授ら。各地で9条連の結成を進めており、2007年9月現在、全国88カ所にあるという。
毎年、憲法記念日に、市民にからのカンパで新聞の全国紙と地方紙に「9条実現」を訴える意見広告を掲載する活動を続けている市民活動もある。市民意見広告運動だ。今年もそのための募金が行われ、目標額を突破した。
こうした護憲派の活動の広がりに、改憲を目指す勢力も危機感を抱いているようだ。3月4日に開かれた新憲法制定議員同盟の総会は、「9条の会」に対抗して地方組織をつくる方針を打ち出した。中曽根元首相も、4月10日に開かれた同連盟の役員会で「(読売新聞の)世論調査を見ると、(改正支持は)非常に安定していない。これは政府、国会で憲法に対する態度が漂流している感があるからだ。漂流状態を安定させるために、国民に根を張ることが我々の当面の活動ではないか」と述べたとされる(4月11日付読売新聞)。
5月3日の憲法記念日を中心に、今年も改憲、護憲両勢力による集会が多々開かれる。新しい情勢を踏まえてどんな議論が交わされるか注目される。
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