2015.09.26  安倍首相は10年越しの宿願を達成したのだろうか、憲法破壊と言う「パンドラの箱」を開けただけだ、60年安保後のような高度成長時代は二度とやってこない
     ~関西から(173)~

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

安保法案が成立した翌日の読売新聞は祝賀ムード一色だった。1面から3面までぶっ通しで安保法案関連の記事が大々的に掲載され、「日本の安保新時代」「抑止力高める画期的基盤」「自衛隊広がる国際貢献」「首相10年越しの宿願、支持低下でも譲らず」などなど、時代掛かった大見出しがズラリと並んでいる。見るも恥ずかしいほどの安保法賛歌、安倍賛歌のオンパレードだ。読売紙がこの日を待ちかねていた様子がよくわかる。

「積極的平和主義」を具体化するための提案も社説で懇切丁寧に列挙されている。「自衛官の適切な武器使用のあり方を含め、新たな部隊行動基準(RОE)を早急に作成しなければならない」、「米軍など他国軍との共同訓練や、共同の警戒・監視活動を拡充すべきだ」、「機密情報の共有も拡大したい」、「新たに必要となる装備の調達や部隊編成の見直しなども、着実に進めることが重要である」等々、まるで自衛隊を「日本軍隊」と言い換えてもよいようなはしゃぎぶりだ。自民党日本国憲法改正草案の「第9条の2(国防軍)」すなわち、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」の憲法改正があたかも実現したような書きぶりになっている。

記事の中にも「強行採決」の言葉は一切なく、野党が長時間の演説で「議事を妨げた」とあるだけだ。「目的のためには手段を選ばない」という言葉があるが、「安保法案成立のためには手段を選ばない」安倍政権をここまで賞賛するのでは、同紙は議会制民主主義を放棄(否定)したと言われても仕方があるまい。また自ら行った世論調査(安保法案反対意見が多数)を完全に無視した点でも、このメディアは国民世論や民意など一切眼中になく、社主や編集幹部の意向で紙面が決まるように見える。それでも読売読者から抗議の声が上がらず、不買運動が起こらないのは不思議きわまる話ではないか。

 それにしても「支持率低下でも譲らず」という見出しは、国民の反対意見を踏みにじっても「やるときはやる」「決めるときは決める」という安倍首相の強権姿勢を支持する読売紙の体質(同質性)がよく表れている。安倍首相は、祖父・岸信介首相(当時)が60年安保条約の強行改定に際して、そのときは反対意見が多くても時が経てば理解されると言った趣旨の言葉を座右の銘にしていると聞くが、その裏には多少支持率が下がってもそのうちに回復するという自信があるらしい。そのことを意味するのが同誌の次の記事だ。
「首相は失った支持率を取り戻すため、改めて『経済最優先』の姿勢を掲げる考えだ。(略)首相に近い議員は『アベノミクスは政権の生命線。経済でもう一度、政権浮揚を図ったうえで、次は憲法改正に道筋を付けてほしい』と語っている」

 また、安倍首相に近いイデオローグの中にはこんな楽観論もあるという。話は少し遡るが、安保法案が衆院で強行採決された7月16日、池田信夫氏(NHKОB、経済評論家)は「挫折した反安保法案デモの『アカシアの雨』」というブログの中で次のようなことを言ってのけた(「ニューズウイーク」日本版オフィシャルサイト、一部抜粋)。
 「安保法案が衆議院本会議を通過した。あとは参議院でも『60日ルール』で成立は確実だ。野党はプラカードを掲げたり国会デモをかけたりして騒いだが、その規模は延べ100万人以上が国会を包囲した60年安保とは比較にならない。(略)今回の法案が成立しても日本の安全保障に実質的な変化はない。それぐらい『腰の引けた』法案だったが、野党やマスコミが過剰に騒いだのは他に争点がないからだろう。それに踊らされてデモをやった人々はこれで60年安保のあとのように『挫折』し、大人になってゆくのだろう。あのときはやった歌が西田佐知子の『アカシアの雨がやむとき』だった」

 だが、これらの見通しは悉く崩れるだろう。まず第1に「アベノミクスでもう一度」といった手垢に汚れた歌はもはや通用しない。安倍首相は、60年安保闘争後に登場した池田内閣のように安保反対運動のエネルギーをアベノミクスで吸収したいと考えているのだろうが、彼には60年安保後と現在の経済情勢の違いがよく分かっていないようだ。実質賃金が10年間で3倍以上に上がったあの時代に比べて、現在は非正規労働者が全労働者の3分の1に達し、実質賃金が連続して低下し続けているのである。アベノミクスの唯一の看板だった株価上昇も中国経済の不振で低迷し、もうこれ以上明るい見通しは描けない。いまさら「経済最優先」と叫んでもいったい誰が安倍首相に期待するというのか。「アベノミクス」で国民に期待を持たせた(騙した)瞬間はもうとっくに終わっているのである。

 第2に、今度の安保法案反対運動が「60年安保のあとのように『挫折』し、大人になってゆく」との池田氏の人を食った見通しは、すでに8月30日の国会大包囲デモや参院審議中の「切れ目のない」抗議運動によって完全に破綻している。「シールズ関西」の活動に参加した若者らは、「安保法案が可決されたとしても、廃案に向けて運動は続け、大きな節目になる来夏の参院選に向けて動いていく。今回多くの人が立ち上がり、憲法や安全保障に対する理解が深まった。さらに大きな動きにしていきたい」とごく自然に話しており(毎日新聞、9月11日)、東京の若者たちは外国特派員協会の記者会見で、「シールズは日本に革命を起こそうという動きではなく、法案が通って終わる運動でもない。運動は選挙にも影響を与えると思っている。『賛成議員を落選させよう』が合言葉のように使われている。これまでの運動とは違う形になりつつある」と語っている(毎日新聞電子版、9月16日)。

 米紙ウォールストリート・ジャーナル、米CNN、英紙ガーディアン、南ドイツ新聞、台湾聨合報など海外メディアも挙って若者の抗議運動を取り上げ、「平和憲法を様変わりさせ、第2次大戦以来初めて海外派兵を認める法案に反対して、学生たちが声を上げた」、「安倍首相は安保法案の導入により、それまで政治に無関心だった日本の学生たちを自分の反対勢力として動かしてしまった」などと写真入で大きく伝えている(朝日新聞、9月18日)。

 来年夏の参院選から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられる。日本の憲政史上初めて「未成年」といわれた若者たちが選挙権者として政治に参画するのである。私はこの歴史的瞬間に安保法案反対運動が起こったことを単なる偶然とは思わない。時代が若者たちの出番を安保法案反対運動を通して用意し、彼・彼女らを次の次の民主政治を担う主役として育てていると思うのである。京都では9月19日、来年18歳を迎える高校生たちがグループになって安保法廃案デモを始めた。

 安倍首相は読売紙がいうように長年の宿願を達成したのかもしれない。そして、彼が開けた憲法破壊という「パンドラの箱」は数知れない災厄を撒き散らすかもしれない。だが、その中には未来の日本を担う若者らの行動が含まれている。「歌を忘れたカナリア」(大人)の時代はすでに遠のきつつある。日本の未来を切り開く地殻変動がいま起こっている。私は「大人にならない若者」に日本の未来を託したい。
Comment
稲田朋美政調会長の入閣が固まったそうです。
この人の発言をいろいろ聞いていると、結局、「日本の戦争は正しかった」という所に持っていきたいようです。
 東京裁判を見直すとか、国益を損ねるような発言が目立ちます。
 安倍首相の秘蔵っ子であり、後継者という噂もあるようですが、万が一そんな事になれば、日本の未来は非常に暗いものなる事でしょう。
鳴門舟 (URL) 2015/09/26 Sat 12:02 [ Edit ]
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