2015.10.23 奥山に紅葉
猿丸大夫は秋の奥山を散策していたのか

松野町夫 (翻訳家)

百人一首は、百人の歌人の和歌を一首ずつを撰集したもの。なかでも『小倉百人一首』が有名で、これは鎌倉時代前期の公卿・歌人の藤原定家(ふじわらのさだいえ, 1162-1241)が撰集したとされる。

小倉百人一首の歌番号 5は、猿丸大夫の「奥山に紅葉」である。ちなみに猿丸大夫(さるまるだゆう)は、三十六歌仙の一人で、奈良時代または平安時代初期に実在したとされる歌人。

奥山に
紅葉(もみぢ)踏み分け
鳴く鹿の
声きくときぞ
秋は悲しき

この歌の意味やその英訳について、以下のウェブページから引用する。

小倉百人一首殿堂 「時雨殿」(しぐれでん)
https://www.shigureden.or.jp/about/database_03.html?id=5

歌意:
遠く人里離れた奥山で、一面散り積もった紅葉の枯れ葉を踏み分けながら、恋の相手を求めて鳴く雄鹿の声を聞くときこそ、秋の悲しさはひとしお身にしみて感じられるものだ。

In the depths of the faraway mountains, I step on beds of fallen leaves. I hear a deer calling for his mate, and a feeling of sadness pierces my heart.

(引用、終わり)

なるほど、鹿は恋の相手を求めて鳴く牡鹿でしたか。たしかにその方がより叙情的で秋にふさわしい。翻訳家として、ちょっと英訳の解釈が気になる。この解釈では、猿丸大夫も山奥で紅葉を踏み分けながら散策していたことになる。もちろんその可能性もあるが、そうとはかぎらない。実際にネットで検索すると、hou_manaさんは、「これは、猿丸大夫が是貞親王の屋敷で行なわれる歌合わせの前日、発表する歌に迷っていたところ、どこからか雄鹿の鳴き声が聞こえて、思いついた歌だと言われています」と述べている。

この歌を字義通りに解釈すれば、山奥で紅葉を踏み分けながら鳴く鹿の声をきくときこそ秋のもの悲しさを感ずる、というような意味であり、猿丸大夫の所在については言及されていない。

そこで、5・7・5・7・7の5句31拍という日本の伝統的な短歌の形式に合わせて、この歌を字義通りに解釈して英訳してみた。ただし日本語の「拍」は、英語の ”syllable”(音節)とみなした。

奥山に Deep in the mountains
紅葉踏み分け treading on scarlet maple leaves
鳴く鹿の deer cry for their mates
声きくときぞ whenever I hear the cry
秋は悲しき I feel an autumn sadness

なお deer(鹿)は単複同形。本当のところ、鹿は一頭として a deer cries for its mate としたかったのだが、それだと字余り(6音節)となるので、ここでは形式を優先させた。

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