2015.11.12  「難民・移民」の大移動を後押しするソロス
盛田常夫 (在ブダペスト、経済学者)

(上) 難民流入の現状
 欧州への「難民・移民」の大量流入が止む気配はない。10月だけでも、20万人を超える人々が、セルビアからクロアチア、スロヴェニア、ハンガリーを経由してドイツへ向かった。毎日何千人もの人々が押し寄せれば、通過させるだけでもたいへんな仕事である。人々が移動した後には、大量のゴミが散らばっている。毎日掃除しても、次から次へと人々が押し寄せるから、清掃作業も並大抵ではない。

「難民・移民」の大移動を後押しするソロス

 ドイツの受け入れ口となっているバイエルン州は連邦政府の政策転換を求めて、ゼーホフ州首相がメルケル連邦首相と厳しい交渉を進めているが、今となっては「難民・移民」の奔流を押しとどめる有効な方策が見つからない。その無為無策が続き、メルケル首相の支持率も下がり続けている。ハンガリーの国境フェンス構築を非難していた各国首脳も、部分的にせよ、国境閉鎖やフェンスの構築を模索することを余儀なくされている。

 この間、関係国の政治家たちは解決策を打ち出すことより、他国の政策を批判したり、一定のポーズを作ったりして当面の体裁をとっている。
 11月4日、ギリシアが30名の「難民」をルクセンブルグへ空路移送したニュースが配信された。タラップ下でチプラス首相らが見送る光景がテレビで放映された。何十万人の「難民・移民」を通過させておきながら、この程度のことをテレビ放映することに何の意味があろうか。EUの難民クォータ実施の第一陣と銘打ったものだが、その移送数の少なさが逆に難民クォータ実施の難しさを知らせてくれる。この程度のセレモニィしか見せられないEUの難民政策は、完全に崩壊している。

「難民・移民」の大移動を後押しするソロス
チプラス首相は写真中央        BBCニュースより

 オーストリア首相などは、「ハンガリーからオーストリアへ入国した難民は、顔が明るくなる」と公言し、ハンガリー政府への敵意をむき出しにしている。しかし、先のウィーン市選挙で与党の社会民主党が支持率を落とし、その分、難民問題に厳しい対応を迫る政党の得票率が3割を超えた。上オーストリア州の選挙でも同じ状況が生まれている。
 権力に安住し、古い「西欧左翼」の常識だけで行動する政治家は、状況の深刻さを受け止めることができず、民意との乖離が広がっている。とくにドイツを含め、社会民主党の政治家の現実を直視しない建前論は民意を説得できず、支持を失っている。

 ハンガリーが南部国境を閉鎖したことで、ハンガリーを経由する「難民・移民」はほぼゼロになった。クロアチアとスロヴェニアが、ハンガリーを全面的に肩代わりした形になっている。人口200万人の小国スロヴェニアが、連日数千人の「難民・移民」に対処しなければならない状況は非常に厳しい。
 他方、ハンガリーの政治家はオルバン首相の政策判断を暗黙のうちに支持している。社会党の有力政治家ですら、「国境閉鎖が良いとは思わないが、それ以外に妙案が見つからない」と率直な意見を述べている。チェコやスロヴァキア、ポーランドの政府もハンガリー政府を支持し、国境警備隊を派遣することで連帯を表明している。スロヴァキアの首相は社会民主党系の政党に属しているが、クロアチアやオーストリアの社会民主党の与党政治家とは違い、国益優先の現実路線をとり、難民クォータに反対し、ハンガリー政府と手を組んでいる。

(下)ソロス登場
 10月30日、ハンガリーのオルバン首相は、ニューヨークから世界を舞台に投資ファンドを運用し、世界各国に慈善団体Open Society Foundationを設立しているユダヤ系ハンガリー人ジョージ・ソロスを名指しで、「ヨーロッパ社会を変容させるために、自らのネットワークを使って難民移動を鼓舞している」と批判した。これにたいして、ソロスはその批判事実を否定することなく、「私は難民救済を目的としており、その目的実現に国境は障害物だと考えている。オルバン首相は国境維持を主目的にし、難民を邪魔者にしている」と反論した。

「難民・移民」の大移動を後押しするソロス

 ソロスは豊富な資金を使って、旧中・東欧諸国や旧ソ連諸国の政界や社会に影響力を及ぼしている。他方で、彼を批判する個人や組織、慈善寄付を受け付けない組織や政府にたいして、報復措置を行うこともある。ソロス財団が設立した中欧大学は当初プラハに設立されたが、チェコ政府からの約束されたはずの援助が得られなかったために、ブダペストへ移設された。1997年、過大評価されていたチェコ通貨コルナを狙った売り浴びせから通貨危機が生じ、チェコ政府はコルナを30%切り下げざるを得なかった。この売り浴びせを主導したのはソロスファンドだと考えて間違いない。

 イギリスのTV局Sky Newsはギリシアの難民取材で、船上で難民に配布されたとするアラビア語の小冊子を入手した。同じ小冊子は、ハンガリー国境に残された難民のゴミからも見つかっている。この小冊子は、ヨーロッパに上陸した後、各国の入国管理や難民収容所でどのような受け答えをするか、注意を要する諸点、各国の支援団体の連絡先などが記されたものだ。ハンガリーのメディアは、ソロス財団にこの小冊子への関与を尋ねたが、無関係という回答があったようだ。

「難民・移民」の大移動を後押しするソロス
Jonathan Samuels, Sky News Correspondent, Lesbos, Greece

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 他方、インターネット上には、http://w2eu.infoと命名されたサイトに、難民・移民に関連する情報が網羅されており、35ヵ国の国ごとに難民・移民の法規制情報が掲載され、各国ごとに対応に注意すべき事項が事細かく記されている。たとえば、ハンガリーのHungaryのDublin IIをクリックすると、「ギリシアからハンガリーに入った場合、ギリシアへの送還の可能性がある」こと、「ハンガリーで指紋採取が行われた場合には、後々ハンガリーへ移送される可能性がある」こと、したがって「ハンガリーで指紋採取を受けた後に、別の国へ入国した場合、すぐに支援組織に連絡しなければならない」などの詳しい情報が記載されている。
 
「難民・移民」の大移動を後押しするソロス


 このインターネットサイトが誰によって運営されているか分からないが、ソロス財団が深く関与していることは明白である。

 9月下旬、オルバン首相提案に対抗する形で、ソロスも6点に渡る提案を行った。その中で、「EUは年間100万人の難民を受け入れるべきであり、少なくとも最初の2年は難民1人当たり、15000ユーロの予算をつけて、社会に受け入れるべきである」と主張している。もちろん、ソロスの提案はこれに留まるものではないが、要点はここにある。

The EU should provide €15,000 ($16,800) per asylum-seeker for each of the first two years to help cover housing, health care, and education costs – and to make accepting refugees more appealing to member states. It can raise these funds by issuing long-term bonds using its largely untapped AAA borrowing capacity, which will have the added benefit of providing a justified fiscal stimulus to the European economy. (Read more at https://www.project-syndicate.org/commentary/rebuilding-refugee-asylum-system-by-george-soros-2015-09#Qldl18XkCdrA8DTZ.99)
「難民・移民」の大移動を後押しするソロス

 しかし、なにゆえにソロスは欧州への大量な難民受入を支援するのだろうか。アメリカが中東政策の失敗の責任をとって、年間100万人を10年にわたって受け入れるべきというのなら話は分かるが、アメリカ政府に提案するのではなく、なにゆえに欧州への密航を支援しているのだろうか。

 虚偽の「美談」で難民問題の本質を隠蔽するCNNと同様に、難民救済を旗印に、アメリカの中東政策失敗の責任を欧州に転嫁させようとする試みなのか。それとも、長期停滞の欧州を活性化させるために、異質な文化を持つ民族を大量流入させることによって、社会に流動性や機動性を与えようとする試みなのか。欧州社会の価値をひっくり返してリセットし、再び経済成長の土台を造ろうという提案なのか。確かに金融の小手先政策で好況感を作るだけのアベノミクスより、はるかにインパクトのある提言だが、欧州外の人間が欧州の価値転換を試みようとすれば、陰謀とみられることはあっても、理解され支持されることはないだろう。
 欧州の将来を決めるのはアメリカではなく、欧州の人々である。欧州へ提言する前に、まずアメリカ政府に対して、中東政策の結末の責任を受け入れることを提言するのが順序だろう。

 日本のメディアも含め、国際メディアは難民対応の現場から情緒的な記事を造るのが常だが、大量の「難民・移民」移動の背後にある大規模な密航組織や支援グループの実情を記事にすべきではないか。そうすれば、また別の現実が明らかになるはずである。
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