2015.11.26  BPO意見書が「クローズアップ現代」の放送倫理違反認定
          あわせて政府自民党の介入に警告

隅井孝雄(ジャーナリスト)


11月7日、放送倫理番組向上機構(BPO) の放送倫理検証委員会が、かねてから問題になっていた「クローズアップ現代」の「出家詐欺」の過剰演出について、6日意見書を発表した。「重大な放送倫理違反があった」ことを認定したのだ。
しかし、「クローズアップ現代」問題を総務省が警告文書を送付、自民情報通信調査会が事情聴取で呼び出したのは重大な政治介入であると批判、政府は反発している。

番組の隠し撮りなどの手法は放送倫理違反
「意見書」は28ページにわたる厖大なものだ。制作過程を事細かに調査し、事前取材が不十分、しかも裏付け取材をせずに情報提供者の話を鵜呑みにし、隠し撮り風の演出を加えた、と批判「重大な放送倫理違反があった」と結論づけた。番組は多重債務者が出家して戸籍を変え、債務記録の紹介を困難にする「出家詐欺」という闇の世界の実態を描き出そうというものであった。しかし番組の中で「出家詐欺ブローカー」とされた男性の職業や、詐欺の舞台となった事務所は実際と異なり、この場所に相談に訪れたとされる多重債務者は担当記者と知り合いだった。また相談を隠し撮りしたように放送されたが、その席に記者も同席していた、ということが検証委員会の克明な調査で明らかにされた。

唯一の調査報道番組へ温かい眼差
「クローズアップ現代」は1993年4月以来(当初は21時30分、2000年4月から19:35分の放送)、発足当時NHKニュース9の特集を切り離して独立した番組にするという構想だったため、いわゆる調査報道の手法をとる唯一の番組として、現在まで22年以上放送が続いてきた。過去オウム事件報道など何回も20%以上の視聴率を記録、現在でも10%を下がることがないNHKの看板番組である。
BPOの報告書の最後の部分は次のように述べた。「不祥事が起きると制作現場の管理が必要以上に強化され、事件の真相に迫る取材活動が萎縮する、そうしたことのないような(NHKの)配慮を期待する」。また、4月28日の「クローズアップ現代」で番組自体が行った検証放送を引用し、「自律的な検証の姿勢と真摯さは十分評価されるべきだ。番組の活力がそがれることなく、キャスター(国谷裕子)の言葉どおり、社会の真実に迫る意欲的な番組が今後も生み出されていくことを強く期待する」と締めくくった。異例のことであるが、放送倫理の検証にあたった川端和治委員長ら12人の委員の温かい眼差しを感じる。

政府、自民党との確執
この番組に対しかねてから政府自民党が快からず思っていたといわれている。7月3日、「クローズアップ現代」は菅義偉官房長官をゲストに集団的自衛権を取り上げた。国谷キャスターは「憲法の解釈を変えて良いのか」、「密接な関係を持った国のために第三国を攻撃することにならないか」、「解釈変更への違和感、不安をどのように払拭するのか」などの質問をしたことで、官邸がNHKを叱責した、との記事が週刊誌「フライデー」(7/19)に掲載された。官邸は否定しているが、記事には「NHK(担当者)を土下座させた」という表現もある。
またこの番組が打ち切りになるか、15分~20分に短縮されると"憶測"するメディア報道もある(11月10日現代ビジネス)。この番組が政府、自民党の標的になっているという認識がひろがっているといえよう。私は「クローズアップ現代」が今日の不祥事を乗り越え調査報道の真価を発揮し続けることを心から望んでいる。

政府自民党の介入行為こそ「放送法」違反
こうした状況の下で、今回のBPO意見書は総務大臣が4月28日にNHKに対し文書で「厳重注意」したことは権力介入であり、また自民党情報通信戦略調査会が事情調査のためNHK幹部を呼び出したことを批判した。
意見書はその根拠を次のように述べた。
――「高市早苗総務大臣は厳重注意の理由は『事実に基づかない報道や自らの番組基準に抵触する放送が行われたことである』という。しかし、放送による表現の自由は憲法で保障されている。また放送法の『放送法の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による自由を確保すること』(第1条第2号) という原則を定めている。ここにいう『放送の不偏不党』、『真実』や『自律』は放送事業者、制作者に課せられたものではなく、この原則を守るよう求められているのは政府などの公権力である」。
つまり放送局を呼び出し、あるいは厳重注意の文書を送りつけた政府、与党こそが憲法、放送法に違反する行為なのだ。今回のBPO倫理検証委員会の「意見書」は、政権に対して警告を発したものといえよう。

BPOの存在意義は?
BPO「放送倫理番組向上機構」は2003年、それまであった放送番組向上委員会、放送と人権委員会機構(BRO)の二つの機能を引き継ぎ発展させた自主規制機関としてNHKと民放連が設立した。「放送倫理検証委員会」「放送人権委員会」「青少年委員会」の3委員会によって構成される。
放送は電波の割り当てを政府が行うという必要性があるため、ややもすれば行政当局が内容に対する統制を行うのが当然という誤解が生じた。そこで放送の自由、自律を保障するための第三者機構を国の介入に対する歯止めとして誕生させようという構想が生まれたのだ。以来BPOは番組が放送倫理を守っているかどうか、人権を侵害していないか、青少年に不適切な番組はないか、常時見守り、必要があれば委員会で検証することを任務としてきた。
BPOの意見書に対し高市総務相は「放送法に抵触する内容であったことから、放送法を所管する立場から必要な対応をした。番組準則に違反したかどうかの最終判断は総務大臣であることから単なる倫理規定ではなく、法規範性を有する」(11/6)と反論した。
政府とBPOの見解は真っ向から対立している。安倍政権のこれまでの性格から見るとBPOの改組をNHKと民放に要求する可能性がある。しかし放送の自由、自立を守るため、BPOを擁護する必要がある、と私は思う。

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