2015.12.08  安保理決議を背後に、有志連合とロシアがIS攻撃を拡大
―シリア紛争解決への転機に⑥

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

シリアを本拠地にテロ攻撃を各地で実行する「イスラム国(IS)」に対する米国主導の有志国連合に、パリの連続テロ事件後、フランス、英国、ドイツが参加し、ロシアもそれより早く独自にIS爆撃を開始した。中国を除く国連安保理常任理事国の大国すべてが、IS壊滅作戦に参加した構図は、かってない事態だ。大国の軍事力による世界支配を嫌い、それに抵抗してきた平和勢力の人々からの批判も根強いが、英国、ドイツの議会では、シリアへの軍事行動参加の政府提案に反対した議員は、少数派だった。国連安保理はすでに11月20日、「ISによるテロ行為を阻止し」「ISがイラクとシリアの重要な部分で築いている支配地域を壊滅するために」、「加盟国に対し、国際法とくに国連憲章と、国際的人権、難民、人道法を順守して、すべての必要で可能な行動をするよう呼び掛ける」と決議している。
この安保理決議は、ISによるテロとして、多数の犠牲者を出したチュニジア・スース(2015.6.26)、トルコ・アンカラ(10.10)、エジプト・シナイ半島上空(10.31)、レバノン・ベイルート(11.12)、パリ(11.13)の事件を列記し、その他のISによるテロ事件を含め「最も厳しい言葉で」非難している。
各国の捜査当局によれば、これらISのテロ事件の首謀者や実行犯の多くが、ISの本拠地、シリア北部のラッカで指導・訓練を受け、資金を与えられ、事件発生地に戻って、仲間と打ち合わせ、実行している。ISがシリアやイラクの支配地で行っている住民や外国人への数多くの斬首はじめ残虐行為は、自らのメディアで宣伝しているが、国連安保理が明記した上記の事件でも、ISは自ら実行をPRしている。ISは国連の敵であり、ISへの軍事作戦は、国際法を順守する限り、安保理決議が加盟国に求めている「すべての必要な行動」に含まれていると見なすことが出来よう。
米、仏、英とサウジアラビアなど一部アラブ諸国の有志国連合とロシアは、ISを壊滅する作戦目的では同じだが、シリアのアサド政権に対しては、有志国連合がアサド大統領の辞任をあくまで要求してきたのに対して、ロシアはアサド大統領とその政権を支援するため、軍事援助を続けるとともに、空爆の対象をISだけでなく、政府軍と戦い続ける反政府勢力とその支配地域に広げ、一般住民に多数の犠牲者を出してきた。しかし、パリのテロ事件後、フランスのオランド大統領がプーチン大統領を説得し、有志国連合と協調してIS攻撃を強化するため、反政府勢力への攻撃を止めるよう説得。一方、有志国側もアサド政権の辞任要求を棚上げして、ロシアとの作戦協調を進める方向になった。しかし、ロシア軍爆撃機がNATOに所属するトルコ空軍のミサイルに撃墜される事件も発生。有志国連合とロシア軍のスムーズな情報交換、作戦調整の実行が遅れている。
有志国連合とロシアのIS攻撃の目標は、ラッカ市内と周辺はじめIS支配地域の軍事、政治、行政施設、部隊と弾薬や車両などとその集積施設のほか、石油の油井と製油施設、石油密輸のタンカー車両など広範囲だ。ISの最大の資金源は主にトルコ経由の石油密輸だが、これまで政府軍の爆撃も有志国軍の爆撃も、製油施設とタンカーに限られ、油井そのものを破壊する爆撃は、IS支配から取り戻した後の利用を考慮して避けていたと思われるが、パリの事件後、有志国側は油井まで破壊する作戦に拡大したようだ。
IS壊滅作戦での爆撃強化で最大の困難は、ラッカ市内をはじめIS支配地域で、ISの施設、油田や製油施設の周囲には住民が住み生活していることだ。このため、住民の死傷はじめ被害を増やさずに爆撃を強化するには、目標が限定される。ISは住民の移住を厳しく制限し、住民を人質状態にしている。この点では、本拠地ラッカも、ISが占領したイラク第2の都市モスルも同じ。人質の住民の犠牲を出来るだけ避ける爆撃だけでは、ISを壊滅させることはできない。
最終的には、イラク軍のテクリート奪還作戦のように、地上軍で包囲し、ISを追い出すか、住民の被害を覚悟のうえで地上軍を突入させなければならない。
 これまでのところ、有志国連合側からは、米国などが反政府反IS勢力の訓練などのため、ごく限られた兵力をシリア領内に派遣しただけで、ISと戦う戦闘部隊を派遣するのはそれぞれの国内世論からも困難だ。結局のところ、空爆による支援のもとに、地上でISと戦い、支配地域を取り戻す地上兵力は政府軍しかいないのではないか。かってイスラエルと3度の戦争をしたこともある公称17万人のシリア軍は、内戦の中で半数ほどが脱走,死傷し、今では、首都とその周辺からラタキア中心の沿岸、北部のアレッポに至る地域の維持に精一杯のようだ。
 ISを最終的に壊滅する決め手となる地上軍をどうするか。米国やフランス軍がシリアに相当数の地上軍を派遣することは困難だろう。アサド政権と反政府反IS勢力が、国連の仲介で停戦を取り決め、有志国軍の空爆支援を受けながら、IS壊滅への地上作戦を進めることができないだろうか。そのうえで、国連と有志国連合、ロシアによる調停によって、シリア内戦の政治的解決を実現すべきだ。25万人以上の生命が失われ,1千百万人以上が難民となり、うち4百万人以上が近隣諸国と欧州などへ避難しているシリア難民は、いま厳寒の中にいる。一日も早く、ISを壊滅し、シリアで停戦を実現しなければならないのだが。
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