2015.12.09  行き詰まり迫るアベノミクス
    「一億総活躍」も成果は期待薄

早房長治(地球市民ジャーナリスト工房代表)

10月初旬に発足した第3次・改造・安倍内閣は「一億総活躍社会の実現」と名付けた経済政策を掲げて、安保法制の強行採決で落ちた内閣支持率の挽回を図っている。支持率は野党の不人気もあって、ある程度回復しているが、政策の主目標であるGDP600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロは、どれも実現しそうにない。日本経済が構造的欠陥を抱えており、高い経済成長は不可能だからである。

11月下旬の一億総活躍社会国民会議でまとまった「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策」は楽観的な言葉で埋まっている。「これまでのアベノミクスの取り組みにより、日本経済はデフレ脱却までもう一歩のところまできている」「新たな第1の矢である強い経済の実現に向けた取り組みを通じて得られる成長の果実によって、第2・第3の矢である子育て支援、社会保障の基礎を強化する」「50年後に人口1億人を維持することにつながり…」

アベノミクスは2012年末、自民党が民主党から政権を奪還して、第2次安倍内閣を発足させた時から始まった。20年以上続いたデフレから抜け出すための手法として大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3つの矢」を掲げたが、実質的に効果を発揮したのは「異次元の金融緩和政策」だけであった。大規模な財政政策は膨大な財政赤字で不可能、成長戦略は既得権者と官僚の抵抗で実らなかったからである。金融緩和政策もいつまでも続けられないのは明らかであるので、安倍政権はアベノミクスの目先を変えざるをえなかった。それが「アベノミクスの第2段階」であり、「一億総活躍社会」政策であった。

2020年のGDPを600兆円にするためには今後、年率3%以上の経済成長を果たさなくてはならない。しかし、日本経済の潜在成長力は国際通貨基金(IMF)によると年0.4%に過ぎない。もし、「3%成長の奇跡」が起こるとすれば、生産性が急上昇した場合であるが、それは過去3年間で失敗したのである。その結果、経済はほとんど成長しないばかりか、今年4月以降は半年間、マイナス成長が続いている。

それにしても、安倍政権下の3年間、日本経済は円安株高、大胆な金融緩和、原油安の好条件があったにもかかわらず、なぜ、アップダウンを繰り返すばかりで、ほとんど成長しなかったのであろうか。設備投資と輸出の低水準が原因になっていることは確かだが、それ以上に大きな要因はGDPの60%超を占める民間消費の弱さである。名目賃金は企業業績の回復や人手不足などで最近、徐々に上昇しているが、まだ98年以降の最低水準であり、消費税の引き上げなどで実質賃金や可処分所得はさらに下落している。

企業業績や雇用情勢の改善が実質賃金の増加につながらないのは、正規労働者の減少と非正規労働者の増加に原因がある。2002年以降、雇用者数は376万人増加しているが、正規労働者は172万人も減っており、非正規労働者が548万人増えている。この結果、非正規労働者の割合は全体の約40%、女性だけでは約60%にも達している。非正規労働者の賃金は正規労働者のせいぜい70%であるから、非正規労働者が増えても実質賃金や家計支出は増加しない。

安倍政権は前国会で労働者派遣法改正案を強引に成立させるなど、経済界の要求に沿って非正規労働者を増やす政策を推し進めてきた。この政策を改めない限り、消費は伸びず、経済が勢いよく成長することはありえない。アベノミクスを現状のまま進めれば、遠からず、日本経済は破綻を免れないだろう。
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